説明

リアルタイムでの精製所水素ガス供給、分配及び消費の最適化

本発明は、広範囲にわたる水素ガス及び関連する軽質ガスの供給、分配及び使用をモデル化することができるように基本制約を取り込み、動的過程を処理し、及び構造を制御する革新的な独自の数理モデルに関する。本発明はまた、精製所における水素及び関連する軽質ガスの供給及び分配、及びそれにより消費を効率的に最適化するための、前記モデルを用いて目的関数の解を求めるリアルタイム最適化(RTO)コンピュータアプリケーション、並びにそれを使用した方法及び精製所にも関する。目的関数は、水素供給及び分配コストの最小化、又は水素システム内の水素消費部によって作られる製品の評価額から対応する水素供給及び分配コストを差し引いたものに基づく収益の最大化などの、経済的目的関数であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的関数を実現するための精製所(製油所又は石油精製)における水素ガス供給(例えば、調達)及び使用の最適化に関する。より詳細には、本発明は、広範囲にわたる水素ガス及び関連する軽質ガスの使用をモデリングすることができるように基本の(又は重要な)制約を取り込み、動的過程(化学反応速度又は動力学)を処理し、及び構造を制御する数理モデル、並びに前記モデルを用いたリアルタイム最適化(RTO)、前記RTOを用いた精製所における水素ガスの供給及び配分の最適化方法、及び前記RTOを含む精製オペレーション(操作又は運転)に関する。
【背景技術】
【0002】
精製所、特に石油精製所は、多くの場合に、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する水素処理反応器を数多く含む。これらの水素処理反応器を稼動させる水素は各種ソースから得られ、それらのソースの各々が、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する。水素ガスは複雑に並ぶ配管によって各種供給ソース(又は供給源)から各種消費サイトに分配される。この複雑に並ぶ配管には、水素の、とりわけ流量、純度及び/又は圧力を変化させる制御部が組み込まれている。
【0003】
現代の統合型の石油精製所は、一層厳格化されつつある製造上の制約事項及び規格に準拠することを迫られている。例えば、ディーゼル燃料についての許容硫黄含量は、500ppmから10ppmに引き下げられている。加えて、高品質の原油の価格高騰及び供給力低下により、石油精製所は低品質の原料を選択する結果となっている。これらの要因から、水素を消費するオペレーションの役割の重要性が高まり、且つそれらのオペレーションに対する水素のコスト及び供給力が事業上重大な意味をもつ環境が生じている。業界では、個々の精製所単位のパフォーマンス及び収益性を最適化する数理モデルベースのコンピュータアプリケーションの開発が成功している。しかしながら、全体的な水素供給及び分配を制御し、それにより消費を制御するための、精製所全体にわたる複雑な水素系統網を最適化することのできる数理モデルベースのコンピュータアプリケーションの開発については、これまでのところ業界において成功はみられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素ガスの調達コスト、又は燃料ガスへの過剰な消費若しくは消失による「無駄」の削減が少しでも改善されると、精製所の収益に多大な影響が及び得る。本発明は、かかる改善を達成することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、石油精製所などの精製所における水素供給、分配及び消費システム(水素システム)を特徴付けるためのシステムワイドなモデル(Hシステムモデル)である。水素システムは、オペレーションのある特定のウィンドウのみについてのものであってもよいが、好ましくは水素システムが精製所全体についてのものであり、精製所内の全ての水素ガス生産部及び水素ガス消費部、並びに水素及び関連する軽質ガスを生産部から消費部に移送するために用いられるヘッダ及び制御部を含む。水素システムは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。Hシステムモデルは、水素の移動及び消費に影響を与える個々の水素システム内構成要素の非線形動的モデルの集合である。ある場合には、水素の供給に影響を与える水素システム内構成要素についての非線形動的モデルもまた含まれる(例えば、Hプラントが精製所内に存在する場合)。Hシステムモデルは水素ガスを追跡し、また好ましくは、所与の運転条件下で、C〜C炭化水素、H、HO、CO、CO、HS、及びNHを含む関連する軽質ガスも追跡する。Hシステムモデルは、軽質ガスストリーム中の各分子タイプを個別の構成要素として表現する。好ましくは、Hシステムモデルはまた、精製所に動力を供給するために用いられる燃料ガスシステム(すなわち、火炉)への未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入も追跡する。
【0006】
本発明の別の実施形態は、精製所、好ましくは石油精製所内の水素システムについてのRTOコンピュータアプリケーション(HシステムRTO)を含む装置である。RTOアプリケーションは、コンピュータにより読み取り可能なプログラム記憶装置に格納される。HシステムRTOは、水素システムにおける水素ガスの供給(例えば、調達)及び配分を、及びそれにより消費をモニタし、最適化する。好ましくは、水素システムは先述のとおりであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。HシステムRTOはHシステムモデルを含む。好ましくは、Hシステムモデルは先述のとおりであり、従って水素システムにおける水素ガスの移動及び消費(及び場合によって、例えばHプラントが存在する場合には、供給)を特徴付ける連関した非線形動的モデルを含む。HシステムRTOは現在の運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行う。HシステムRTOはまた、水素システムについての運転制約もロードする。次にHシステムRTOは、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定する。最後に、HシステムRTOは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付け得る運転目標の推奨解を出力する。好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。HシステムRTOは、従来のWindows/Unix/VMSベースのサーバ又はデスクトップコンピュータ上でロード及び実行される。
【0007】
本発明のさらに別の実施形態は、精製所、好ましくは石油精製所の水素システムにおける水素ガスの供給(例えば、調達)及び配分を、及びそれにより消費を制御する方法である。好ましくは、水素システムは先述のとおりであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。この方法は、コンピュータにより実施される少なくとも5つのステップを含む。第1のステップは、HシステムRTOアプリケーションを起動することである。好ましくは、HシステムRTOアプリケーションは先述のとおりであり、従って、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費(及び場合によって、例えばHプラントが存在する場合には、供給)を特徴付ける連関した非線形動的モデルを含む。第2のステップは、現在の精製所運転データをアプリケーションにロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行うことである。第3のステップは、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定することである。第4のステップは、水素システムをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を決定することである。第5のステップは、少なくとも1つのプロセス制御システムを使用して運転目標の推奨解を実施することである。好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。しかしながら、推奨解はまた、最適近傍解であってもよい。
【0008】
最後に、本発明の別の実施形態は、精製所、好ましくは石油精製所である。精製所は少なくとも3つの構成要素を含む。第1の構成要素は水素システムである。好ましくは、水素システムは先述のとおりであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。第2の構成要素は、水素システムを制御する少なくとも1つのプロセス制御システムである。第3の構成要素は、水素システムにおける水素ガスの供給及び配分、及びそれにより消費を最適化するためのHシステムRTOアプリケーションである。好ましくは、HシステムRTOアプリケーションは先述のとおりであり、従って、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費(及び場合によって、例えばHプラントが存在する場合には、供給)を特徴付ける連関した非線形動的モデルを含む。HシステムRTOは現在の運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行う。HシステムRTOはまた、水素システムについての運転制約もロードする。次にHシステムRTOは反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定する。次にHシステムRTOは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。最後に、HシステムRTOは、運転目標の推奨解をプロセス制御システムに通信する。好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。
【0009】
あくまでも例示を目的として図面を提供する。これらの図面は、いかなる方法によっても本教示の範囲を限定することは意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】例示的な精製所を通じた軽質ガスの動きを示すフロー図である。
【図2】例示的な水素化処理ユニットを通じた軽質ガス及び石油製品の動きを示すフロー図である。
【図3】例示的なHプラントにおける反応器及び反応の順序を示す。
【図4】例示的なHガスマニホルドを通じたHガスの動きを示す。
【図5】例示的なH分離膜へのフィードの流れ及びそこからの透過物及び未透過物の流れを示す。
【図6】可変ペナルティ関数の例示的なグラフを示す。
【図7】本発明の方法の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の以上の、及び他の特徴を、以下にさらに詳細に記載する。
【0012】
定義
特に明示的に定義しない限り、本明細書において用いられるあらゆる科学技術用語は、当業者により一般的に理解される意味を有する。以下の単語及び語句は、以下の意味を有する:
【0013】
「軽質ガス」は、ペンタン以下(すなわち約75以下)の分子量を有する任意のガス状又は半ガス状分子を意味する。精製所における典型的な軽質ガスとしては、メタン(C)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)及びペンタン(C12)などのC〜C炭化水素、並びに水素(H)、窒素(N)、水(HO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)及びアンモニア(NH)が挙げられる。
【0014】
「モデル」は、単一のモデル又は複数のコンポーネントモデルの構築物を包含する。
【0015】
「運転目標」は、制御変数(例えば、温度、圧力、流量、ガス純度、バルブ位置又は圧縮機速度)の設定値を意味する。
【0016】
「リアルタイム」は、本明細書で使用されるとき、水素供給、分配及び消費システムにおけるプロセス(処理又は方法)の遷移速度に関するものである。リアルタイムとは、その運転変数の1つ又は複数が変化したときに水素システムが定常状態に達するまでに必要な応答時間と等しいか、又はそれより速い速度を意味する。従ってリアルタイムは、典型的には、数秒ではないにしろ、数分である。
【0017】
「リアルタイム最適化」すなわち「RTO」は、従来のWindows/Unix/VMSベースサーバ又はデスクトップコンピュータ上で全最適化サイクル(データ収集、リコンシレーション及び最適化)をリアルタイムで行う、モデルに基づくコンピュータプログラムを意味する。
【0018】
精製所に対する水素供給に関連して「供給」とは、精製所以外のソース(無料にしろ、又は購入するにしろ)から精製所に至る水素及び精製所によって製造される水素の流れを包含するが、限定するものではない。
【0019】
「オンライン」は、プロセス制御システムと通信している状態にあることを意味する。例えば、オンラインでチューニングされる精製所モデル変数は、典型的には精製所プロセス制御システムから引き出された精製所データにより自動的にチューニングされる。対照的に、オフラインでチューニングされる精製所モデル変数は、典型的には他のソース(例えば、プラントデータヒストリアン及び/又は検査データ)からの手動による入力データによりチューニングされる。
【0020】
モデル化されるオペレーション
本発明の一実施形態は、石油精製所などの精製所の水素供給、分配及び消費システム(水素システム)における個々の構成要素のついての非線形動的モデルであって、ロジックフローシートにより連関することで総合的なモデル(Hシステムモデル)を形成し、水素ガスの分配及び消費、及びある場合には供給を追跡する非線形動的モデルの集合である。好ましくは、Hシステムモデルはまた、関連する軽質ガス分子(例えば、C〜C炭化水素、H、HO、CO、CO、HS、及びNH)の移動及び供給も追跡する。Hシステムモデルは、軽質ガスストリーム中の各分子タイプを個別の構成要素として表現する。理想的には、Hシステムモデルは、精製所に動力を供給するために用いられる燃料ガスシステム(すなわち、火炉)への未使用又は使用済みの水素及び関連する軽質ガスの投入を追跡する。
【0021】
石油精製所では、モデル化される精製所オペレーションのウィンドウは、典型的には1つ又は複数の水素化処理ユニットを含むことができ、これは、炭化水素ストリームから硫黄(すなわち、水素化脱硫)及び窒素(すなわち、水素化脱窒素)などの不純物を除去し、及び/又は水素の存在下で行われる触媒過程により炭化水素ストリームを飽和させる(すなわち、水素化)ものである。各水素化処理ユニットは、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費することにより、規格要件が定められた各種製品を生産し、及び程度は様々ながら、使用されなかった水素を再利用する。従って、各水素化処理ユニットは独立してモデル化されなければならない。
【0022】
石油精製所では、モデル化される精製所オペレーションのウィンドウはまた、典型的には1つ又は複数の水素化分解ユニットも含むことができ、これは、水素の存在下で行われる触媒過程により重質の複合的な有機分子を比較的軽質の飽和炭化水素に転化するものである。各水素化分解ユニットは、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費することにより、規格要件が定められた各種製品を生産し、及び程度は様々ながら、使用されなかった水素を再利用する。従って、各水素化分解ユニットは独立してモデル化されなければならない。
【0023】
好ましくは、水素処理反応器(すなわち、水素化処理器及び水素化分解器)によって使用される水素は各種供給ソースから送られ、それらのソースの各々が、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する。石油精製所において一般的な水素ソースの一つは、接触改質器である。接触改質器ユニットでは、炭化水素分子が化学的に再構成されてオクタン価の高いリフォーメートが生成され、及びその過程で、軽質ガスの副産物が発生する。接触改質器からの軽質ガスは、典型的には軽質炭化水素に対して高い比率のHを含む。次にこの軽質の末端のストリームが脱エタン処理/脱プロパン処理されると、高濃度Hストリームが得られる。しかしながら、多くの場合、改質器は精製所のH必要量の全てを賄うことはできない。これは、例えば、1つ又は複数の水素化分解器が稼動している場合に多く当てはまる。その場合、一般市場で追加的なHを購入するか、又は関連する石油化学プラント若しくは他の何らかのソースから送り込むことができる。追加の水素ガスはまた、炭化水素フィード(典型的にはC〜C炭化水素)をH及びCOに転化するHプラントで生産することもできる。
【0024】
モデリングプロセスにおいて重要な決定因子は、所与の水素供給部を最適化しなければならないかどうかである。水素供給部の最適化が可能でないか、又は求められない場合、生産部からの水素生成物は一定の流量及び組成の固定的なソースとして取り扱うことができ、水素供給部のモデルは必要ない。例えば、一般市場で購入されたか、又は精製所外のソースから送り込まれた水素ガスは、典型的には精製所の直接的な制御下にはなく、しかし既知の速度、純度及びコストで一定して(又は限定的なオペレーションウィンドウの範囲内においてオンデマンドで)利用可能である。詳細に最適化又は制御する可能性がないため、かかる供給ソースをモデル化する必要はない。さらに、水素供給部ユニットの全体的な事業目的が重要で、且つユニットのオペレーションを変えて水素レベルを調整することがその事業目的に反する場合、そのユニットの最適化は望ましくなく、モデルは不要である。これは、典型的には接触改質器に該当する。なぜなら、自動車用ガソリンの製造は著しく収益性が高く、従って改質器のオペレーションを変更すると、水素利用は向上するものの、自動車用ガソリンが減少して望ましくないためである。以上のいずれの場合にも、ソースの各々から利用されるべき、又は(例えば、契約条件に基づき)利用可能な最小量及び最大量のH、並びにそのコスト及び組成を、直接的なデータ入力による運転制約としてHシステムモデルにおいて特徴付けることができる。
【0025】
しかしながら、多くの場合、プロセスシミュレーションの範囲内に何らかの供給部最適化を含むことが望ましい。例えば、典型的にはHプラントのオペレーションはモデル化されなければならず、これは、Hプラントの唯一の目的が、ネットワークで使用される水素ガスの供給であり、Hプラントのオペレーションが、典型的には完全に精製所の制御下にあるためである。
【0026】
水素ガスは、複雑に並んだ配管及び制御部によって各種水素供給ソースから各種水素消費サイトに分配される。この並んだ配管に、水素ガスの流量、速度、純度及び/又は圧力を変化させる制御部が組み込まれる。これらの制御部としては、とりわけ、バルブ、圧縮機、分離膜、スクラバ(これは典型的にはCO及び他の不純物を溶液中に引き込む)及び圧力スイング吸着器(「PSA」)装置(これは典型的には触媒を用いてCO、CO、及び他の不純物を吸着する)を挙げることができる。水素ガスマニホルド及びこれらの制御ポイントの各々がモデル化されなければならない。
【0027】
加えて、Hシステムモデルの一部として精製所燃料ガスシステムの何らかのモデリングを含むことが好ましく、これは、ほとんどの場合にそこが使用済み軽質ガスの最終的な行き先であるためである。これらのモデルは、それに対する放出バルブのオペレーション及び種々の火炉要件を表すものであり得る。
【0028】
従って、典型的なHシステムモデルは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを特徴付けるものであってもよい。好ましくは、石油精製所について供給ソースは、購入した水素、オンサイトの水素製造プラント、水素消費サイトから再循環される水素リッチ排ガス、接触改質器により生成される水素リッチ排ガス及び関連する石油化学プラントから送られる水素から選択される複数のソースを含む。好ましくは、消費サイトは、水素化処理器及び水素化分解器から選択される複数の水素処理ユニットを含む。好ましくは、相互接続された水素分配ネットワークは、水素の流量、速度、純度及び/又は圧力を変化させるための複数の制御構成要素であって、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器及び圧縮機からなる群から選択される制御構成要素を含む。好ましくは、Hシステムモデルはまた、精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素及び関連する軽質ガスの投入も包含する。特に好ましい一実施形態において、Hシステムモデルは、以下の各々についての連関したモデルの集合を含む:(1)接触水素処理ユニット(例えば、水素化処理器、水素化分解器等);(2)水素製造プラントにおける反応器オペレーション(例えば、水蒸気改質器、水性シフトユニット及びメタン化器におけるオペレーション);(3)Hガス分配用マニホルドヘッダ;(4)分離/精製オペレーション(例えば、PSA装置、膜、COスクラバ等);(5)分配システム、反応器ユニットにおけるバルブ及び燃料ガスシステムへの放出バルブ(バルブ開放制約を含む);(6)分配システム及び反応器ユニットにおける圧縮機(圧縮機性能曲線を含む);及び(7)燃料ガス炉要件。
【0029】
典型的には、初めに最も重大な/最も厳密性の高い1つ又は複数の水素処理ユニットに最高純度の水素ガスが送給され、そこで全てではないが、一部の水素が消費される。これらのユニットから得られる排ガスは、水素純度が下がっている。次にこの排ガスは捕集され(概して部分量の分離、洗浄集塵等)、ユニットで再利用されるか、又は他の1つ若しくは複数の水素処理ユニットに対するフィードに用いられる。様々なポイントにおいて、これらのストリーム中の水素純度は極めて低くなり、次にそのストリームは、燃料ガス、水素プラントフィードとして利用されるか、又は精製プロセスに送られる。各種ユニット及び他のプロセスを通じた水素のカスケード反応には、精製所のほとんどの部分が関与することが多い。
【0030】
例示として、図1は、代表的な精製所を通じた軽質ガスの動きを示すフロー図である。簡単にするため、このフロー図は水素及び関連する軽質ガスの動きのみを示す。より重質のストリーム(例えば、主要なユニットのフィード及び製品)の動きは図示しない。図1には、各種の石油から誘導される製品を処理するための水素化処理器(HDT)ユニットが多数ある。これらの製品としては、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、ディーゼル及び蒸留塔からの他の製品のストリームを挙げることができる。また、典型的には常圧蒸留塔からの軽油及び真空蒸留ユニットからの残留物を含め、各種ソースからの重質のストリームを処理するための水素化分解ユニット(HDC)もある。これらは水素消費部である。また、図1には接触改質器(Reformer)ユニット及びHプラント(H2 Plant)も示される。これらは水素ソースである。購入した水素は、別の水素ソースである。また、図1には、複雑な配管網による水素消費部と水素ソースとの接続、並びに軽質ガスストリームの流量及び組成を制御するための膜、PSA及びバルブのオペレーションも示される。図1に示されるとおり、この分配システムの圧力、温度、及び流量情報は、プロセスにおいて複数の箇所でオンライン分析器から直ちに入手することができる。この分析器情報は、概してプロセス制御システムに送られる。最後に、図1は、水素及び他の軽質ガスが燃料ガスシステムに投入され、且つ精製所に動力を供給する火炉において燃焼される複数のサイトを示す。
【0031】
図2は、水素化処理ユニットを通じた石油派生物(「Oil」)及び水素ガスを含む軽質ガスの動きを示すフロー図である。図2のフロー図は、図1に示される水素化処理ユニットの例示である。
【0032】
図1及び図2から明らかなとおり、水素及び関連する軽質ガスを供給ユニットと消費ユニットとの間で、並びに供給ユニット内及び消費ユニット内で移動させるための配管及び制御部は、非常に複雑である。効率的なHシステムモデルは、主要な水素ソース、シンク、及び分配の各々のオペレーション、並びに選択された精製所オペレーションの範囲内における操作オペレーションを特徴付けなければならない。
【0033】
モデル構築
精製所オペレーションの所与のウィンドウについて、好ましくは精製所全体について、水素供給、分配及び消費システムにおける個々の構成要素がモデル化される。これらの構成要素モデル、又はサブモデルは、次にフローシートにおいて接続され、それにより精製所のほとんど、好ましくは全てを通じた水素及び軽質ガスのフロー分配を表す全体的なHシステムモデルが形成される。
【0034】
好ましくは、複数の目的関数を伴う複数解モードの使用(例えば、実プラントデータ及び経済最適化モードに基づき変数を調整するデータリコンシレーション)をサポートする、オープン型の非線形方程式ベースのモデリングソフトウェア及び方法を使用して、全てのサブモデルが構築される。市販のソフトウェア及び方法の好適な例としては、Aspen Technology,Inc.から入手可能なモデリングプラットフォームであるDMO及びInvensys SimSci−Esscorから入手可能なモデリングプラットフォームであるROMeo(登録商標)(igorous n−line odeling with quation−based ptimization(方程式に基づく最適化による厳密なオンラインモデリング))が挙げられる。好ましくは、システムモデルはROMeoモデル及び方法を用いて構築される。これらのシステムは、水素システム構成要素の多く(例えば、バルブ、圧縮機、スクラバ等)をモデル化するのに好適であるか、又はそれに好適となるように当業者が容易に構成し得る基本的な方程式に基づくコードを既に有している。しかしながら、より複雑性の高い水素システム構成要素については(例えば、水素処理反応器、水素プラント反応器、Hプラント、ガスマニホルド及び膜ユニット)、構成要素ユニットを通じた水素及び関連する軽質ガスの動きを追跡するのに好適なコード及び基本となる方程式が既に存在するわけではないため、モデルをカスタムビルドしなければならない。
【0035】
典型的には、ユニットを通じるフィードストリーム、製品ストリーム及び副産物分子種の各々の組成を追跡する代わりに、操作的な(creative)一括化を用いてより複雑性の高いユニットのカスタムサブモデルが単純化される。これにより計算速度が大幅に上昇する。そうしなければ、Hシステムモデルが非常に複雑となるため、計算上処理できなくなる。
【0036】
より詳細には、より複雑性の高いユニットのサブモデルは、軽質ガスの挙動を捕捉することにのみ焦点を合わせてカスタマイズされる。換言すれば、軽質ガスは個別の構成要素として表現され、軽質ガスに対するプロセス変更の影響を正確に記述することに焦点を合わせる形で動的モデルが作成される。例えば、炭素数が6より小さいほとんどの種は、モデルにおいて個々の構成要素として表現される。対照的に、それより高い炭素数の構成要素は、計算上の困難を抑えるため、蒸留範囲に基づく群ごとにまとめて一括して扱われる。
【0037】
水素システムにおける種々の構成要素についてのモデルを設計するための好ましい方法を、以下にさらに詳細に記載する:
【0038】
水素化処理反応器のモデル化
水素化処理反応は、水素の存在下で生じる転化反応である。水素化処理反応機構は主に4つある:(1)脱硫、ここでは炭化水素が主であるフィード中の有機硫黄化合物が反応器内の水素と反応して二硫化水素及びパラフィンを生成する;(2)脱窒素、ここでは炭化水素が主であるフィード中の有機窒素化合物が反応器内の水素と反応してアンモニア及びパラフィンを生成する;(3)オレフィン、ジオレフィン及び他の不飽和非芳香族化合物(まとめて「オレフィン化合物」)の飽和/水素化、ここでは炭化水素が主であるフィード中のオレフィン化合物が反応器内の水素と付加反応を起こしてパラフィンを生成する;及び(4)芳香族化合物の飽和/水素化、ここでは炭化水素が主であるフィード中の芳香族化合物が反応器内の水素と付加反応を起こしてパラフィンを生成する。これらの反応機構の4つ全てが各水素化処理反応器内で同時に起こり、モデル内で表現されなければならない。
【0039】
水素化処理反応器モデルは、アレニウス型の方程式を利用して、表現された各水素化処理ユニットの水素消費要求を計算する厳密なカスタムモデルである。水素化処理動的モデルは、軽質ガスに対するプロセス変更のみを正確に記述することに焦点を合わせる形でカスタマイズされる。各水素化処理ユニットについて、上記の反応機構を実施するのに必要な水素消費率は、反応器の基本特性及び反応器に対するフィードの関数である。反応器基本特性としては、反応器運転温度、圧力及び滞留時間が挙げられる。フィード基本特性としては軽質ガス相の種(すなわち、H、HS及びNH)が挙げられ、これは抑制効果を取り込むために重要である。
【0040】
所与の反応機構に起因する所与の水素化処理反応器による実水素消費率を決定するための式は、概して以下のとおり表すことができる:
νHT,i={K1*Pres*e(−Ea/Temp)/LHSV*[H]/(K2*[HS]+K3*[NH]+1.0)}*[X
式中「νHT,i」は、所与の水素化処理反応機構「i」に起因する所与の反応器内での実水素消費率であり、式中「K1」は、プラントオペレーションの毎時変化に対応してオンラインでチューニングされる反応器内の水素化処理反応「i」の全体的な活性を表す任意の速度定数であり、式中「Pres」は反応器内の圧力であり、式中「Ea」は、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされる(すなわち、ラボの分析から追加的なデータが利用可能になったときに手動でチューニングされる)水素化処理反応「i」の活性化エネルギーであり、式中「Temp」は反応器の温度であり、式中「LHSV」は、反応器内のフィードの液体毎時空間速度又は滞留時間であり、式中「[H]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水素ガスのモル分率であり、式中「K2」は、反応器内のHSの存在に起因する水素化処理反応「i」に対する抑制因子であり、これは活性化エネルギーと同様に、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされ(K2が高いほど抑制が大きいことを意味する)、式中「[HS]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内のHSのモル分率であり、式中「K3」は、NHの存在に起因する反応器内での水素化処理反応「i」に対する抑制因子であり、これは活性化エネルギーと同様に、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされ(K3が高いほど抑制が大きいことを意味する)、式中「[NH]」は、反応器からの生成物を分析することにより裏付けられるとおりの反応器内のアンモニアのモル分率であり、及び式中「[X]」は、反応器からの生成物を分析することにより裏付けられるとおりの反応器内に存在する水素化処理反応「i」についての反応物のモル分率である。明らかなとおり、これは、反応器からの生成物の組成が反応器内の組成を代表することを前提とする連続式撹拌槽型反応器(CSTR)モデルである。
【0041】
上記の一般方程式は、4つの水素化処理反応機構「i」の各々について個別に解かれる。換言すれば、この方程式は、脱硫、脱窒素、オレフィン水素化及び芳香族水素化について個別に解かれる。各反応機構の反応物「X」は、以下のとおりである:脱硫については有機硫黄化合物;脱窒素については有機窒素化合物;オレフィン水素化についてはオレフィン化合物;及び芳香族水素化については芳香族化合物。「K1」及び「Ea」の値は、所与のフィードに対する各水素化処理反応「i」によって異なり得る。「K2」及び「K3」の値は、所与のフィードに対する水素化処理反応「i」によって異なり得る。活性化エネルギー(Ea)については公開されている文献に記載が見られ、プラントデータがベストマッチとなるように調整されることが多い。全ての速度定数(すなわち、「K1」、「K2」、及び「K3」)は経験的なものであって、プラントデータに対してチューニングされ、多くの場合に、ユニットに急激な変化を導入してユニットの反応をモニタするプラントのステップテスト(すなわち、感度分析)が必要となる。
【0042】
個々の反応機構の各々についての水素消費率が分かると、以下のようにして所与の水素化処理反応器による全水素消費率を計算することができる:
νHTU=ΣνHT,i=νOlSat+νArSat+νDS+νDN
式中、「νHTU」は水素化処理ユニットによる全水素消費率であり、「νOlSat」は、オレフィン化合物の飽和に対するそのユニットの水素消費率であり、「νArSat」は、芳香族化合物の飽和に対するそのユニットの水素消費率であり、「νDS」は、有機硫黄の脱硫に対する水素消費率であり、及び「νDN」は、有機窒素の脱窒素に対する水素消費率である。換言すれば、水素化処理反応器の全水素消費率は、4つの水素化処理反応機構の各々についての水素消費率の合計である。
【0043】
水素化分解反応器のモデリング
水素化分解器は水素化処理器が行うことの全てと、それに加えて水素化分解反応とを行う。追加される水素化分解反応は、水素の存在下で生じる置換反応である。より詳細には、水素イオンにより炭化水素が主であるフィード(概してC6+)中の炭素結合が不安定となってより小さい分子(C〜C)に分解し、次にそれらが飽和する。従って、これらの水素化分解反応は、バルク油中の炭化水素官能基の水素による置換によって特徴付けることができる。C、C、C、C及びC炭化水素生成物の生成は各水素化分解反応器内で同時に起こり、モデル内で表現しなければならない。
【0044】
水素化分解反応器モデルは、アレニウス型の方程式を利用して、表現された各水素化分解ユニットの水素消費要求を計算する厳密なカスタムモデルである。従って、反応器モデルは、先に考察した水素化処理方程式と、並びに軽質ガスに対するプロセス変更の影響のみを正確に記述することに焦点を合わせる形でカスタマイズされた水素化分解反応についての動的モデルとの双方を含む。各水素化分解ユニットについて、水素化処理反応の各々を実施し、且つC〜C生成物の各々を生成するのに必要な水素消費率は、反応器の基本特性及び反応器に対するフィードの関数である。反応器基本特性としては、反応器運転温度、圧力及び滞留時間が挙げられる。フィード基本特性としては、軽質ガス相の種(すなわち、H、HS及びNH)が挙げられ、これは抑制効果を取り込むために重要である。
【0045】
、C、C、C及びC炭化水素生成物を生成するための所与の水素化分解反応器における実水素消費率を決定するための式は、概して以下のとおり表すことができる:
νHC,i={K4*Pres*e(−Ea/Temp)/LHSV*[H]/(K5*[HS]+K6*[NH]+1.0)}*[Y]
式中「νHC,i」は、反応器に流入する所与のフィードに対する水素化分解生成物「i」の生成に対する水素消費率であり、式中「K4」は、プラントオペレーションの毎時変化に対応してオンラインでチューニングされる水素化分解反応の全体的な活性を表す任意の速度定数であり、式中「Pres」は反応器の圧力であり、式中「Ea」は、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされる(すなわち、ラボの分析から追加的なデータが利用可能になったときに手動でチューニングされる)水素化分解反応の活性化エネルギーであり、式中「Temp」は反応器の温度であり、式中「LHSV」は、反応器内の液体毎時空間速度又は滞留時間であり、式中「[H]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水素ガスのモル分率であり、式中「K5」は、反応器内のHSの存在に起因する水素化分解反応に対する抑制因子であり、これは活性化エネルギーと同様に、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされ(K5が高いほど抑制が大きいことを意味する)、式中「[HS]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の硫化水素のモル分率であり、式中「K6」は、反応器内のNHの存在に起因する水素化分解反応に対する抑制因子であり、これは活性化エネルギーと同様に、プラント検査データに対応してオフラインでチューニングされ(K6が高いほど抑制が大きいことを意味する)、式中「[NH]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内のアンモニアのモル分率であり、及び式中「[Y]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内のC+生成物のモル分率である。明らかなとおり、これは、反応器からの生成物組成が反応器内の組成を代表することを前提とするCSTRモデルである。
【0046】
上記の一般方程式は、各水素化分解生成物「i」について個別に解かれる。換言すれば、この方程式は、C、C、C、C及びC炭化水素の生成について個別に解かれる。方程式間で「K4」の値のみが異なる。残りの変数の値は同じままである。活性化エネルギー「Ea」については公開されている文献に記載が見られ、プラントデータがベストマッチとなるように調整されることが多い。全ての速度定数(すなわち、「K4」、「K5」、及び「K6」)は経験的なものであって、プラントデータに対してチューニングされ、多くの場合に、ユニットに急激な変化を導入してユニットの反応をモニタするプラントのステップテスト(すなわち、感度分析)が必要となる。
【0047】
種々の水素化分解生成物の各々の生成についての水素消費が分かると、以下のようにして水素化分解器における水素化分解反応についての全水素消費率を計算することができる:
νHC=ΣνHC,i=νC1+νC2+νC3+νC4+νC5
式中、「νHC」は、水素化分解ユニットでの水素化分解反応に対する全水素消費率であり、「νC1」は、C炭化水素の生成に対する水素消費率であり、「νC2」は、C炭化水素の生成に対する水素消費率であり;「νC3」は、C炭化水素の生成に対する水素消費率であり、「νC4」は、C炭化水素の生成に対する水素消費率であり;及び「νC5」は、C炭化水素の生成に対する水素消費率である。換言すれば、水素化分解ユニットにおける水素化分解反応についての実水素消費率は、水素化分解生成物の各々の生成に対する水素消費率の合計である。
【0048】
水素化分解ユニットにおける水素化分解反応についての全水素消費率が分かると、以下のようにして水素化分解ユニットにおける全水素消費率を計算することができる:
νHCU=νHC+νHT
式中「νHCU」は、水素化分解ユニットの全水素消費率であり、「νHC」は、水素化分解ユニットでの水素化分解反応に対する全水素消費率であり、「νHT」は、水素化分解ユニットでの水素化処理反応に対する全水素消費率である(上記の「νHTU」と同じ方法で計算される)。
【0049】
H2プラント反応器のモデル化
H2反応器は、典型的な水素製造施設に存在する反応器の各々を表すように設計されたカスタム第一原理モデルである。このモデルは、動的過程(可逆反応及び不可逆反応の双方)、熱作用及び触媒活性をシミュレートする。このモデルは、様々な入熱及び/又はフィード組成に基づき生成物の収率/組成を予測することが可能である。
【0050】
H2プラントでは、炭化水素フィード(典型的にはC〜C)がCO、H、CO、CH及びHOに転化される。水素処理反応器モデルとは異なり、あらゆる分子種並びにエネルギー収支を厳密にモデル化することが重要である。モデル化される反応器としては、水蒸気分解器、水性ガスシフト転化器及びメタン化器が挙げられる
【0051】
図3は、例示的なHプラントの配置を示す。図3を参照すると、このプロセスは水蒸気分解器(別名、改質器)から始まり、ここでは炭化水素フィード(例えば、CH)及び水蒸気(HO)が高温(例えば、1500°F)の触媒を通過し、一酸化炭素(CO)及び水素ガス(H)を形成する。この生成物の水素ガス濃度は比較的低く、及び精製所では、一酸化炭素についてはそれほど多くの用途を見出すことはできない。従って、次のステップにおいて、典型的には1つ又は複数の水性ガスシフト転化器を用いて、一酸化炭素を二酸化炭素(CO)に転化し、プロセス中により多くの水素ガスを作ることにより、水素ガス収率を増加させる。これは、概して、より多くの水蒸気の存在下で水蒸気分解器の生成物を高温(例えば、650°F)の別の触媒に通過させることにより行われる。この時点で、生成物のストリームは、微量の一酸化炭素を含む比較的高い純度の水素ガスから構成される。一酸化炭素は多くの精製所用途において下流触媒を失活させ得るため、次にガス生成物はメタン化器に送られ、これが触媒及び高温(例えば、800°F)を用いてガス生成物中の残りの一酸化炭素をメタン(CH)に転化する。
【0052】
このシステムにおける反応の全体は、以下のとおり記述することができる:
+xHO ←→ xCO+[x+(y/2)]H (水蒸気改質)
CO+HO ←→ CO+H (水/ガスシフト)
CO+3H ←→ CH4+HO (メタン化)
【0053】
プロセスから得られるストリームは、主にH、CO、CH及び水蒸気からなる。典型的には、次にガス生成物は、1つ又は複数のスクラバを用いて精製され、二酸化炭素が除去される。この場合スクラバは、それほど多くの最適化機会はないため、厳密にモデル化される必要はない−その代わり、CO除去最小量及び最大量などの基本制約が取り込まれる。次にフラッシュタンクによってストリームが取り出される。最終的には、結果として少量の(<5%)メタンを含む比較的純粋なHストリームとなる。
【0054】
この技術用に開発されたH反応器モデルは、これらの反応機構の全てを厳密にモデル化する。水蒸気改質は極めて吸熱性が高く、そのエネルギーを提供するユーティリティコストが高いことに留意されたい。従ってこれらの反応器モデルはエネルギー収支を厳密にモデル化する。H反応器モデル構成要素の各々については、以下で個別により詳細に説明する:
【0055】
水蒸気改質
第1のモデル化される反応は水蒸気改質である。炭化水素が一酸化炭素と水素ガスとに分解されるときの全体的な速度は、以下のとおり表すことができる:
νreform,i=K*[C]*exp[Ea/(Rgas Temp)
式中、「νreform,i」は、反応器内での各炭化水素種「i」(例えば、C、C、C、C、C又はC)の分解速度であり、「K」は一般的な反応速度定数であり、「[C]」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の各炭化水素種の濃度であり、「Ea」は反応の活性化エネルギーであり、「Rgas」は一般気体定数であり、及び「Temp」は反応の温度である。この方程式は、反応器内の各炭化水素種「i」(例えば、C〜Cの各々)について解かれる。
【0056】
水/ガスシフト
第2のモデル化される反応は水/ガスシフトである。これは、反応物(すなわち、一酸化炭素及び水蒸気)と生成物(すなわち、二酸化炭素及び水素ガス)との平衡混合物をもたらす可逆反応である。水/ガスシフト正反応速度は、以下の式により表すことができる:
νwgs forward=Krate*PCO*PH2O
式中、「νwgs forward」は正反応速度であり、「Krate」は、以下に定義される方法で計算された正速度乗数であり、「PCO」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の一酸化炭素の分圧であり、及び「PH2O」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水蒸気の分圧である。
【0057】
水/ガスシフト逆反応速度は、以下の式により表すことができる:
νwgs reverse=Krate/ Keq*PCO2*PH2
式中、「νwgs reverse」は逆反応速度であり、「Krate」は、以下に定義される方法で計算された逆速度乗数であり、「Keq」は平衡定数であって、以下に定義される方法で計算され、「PCO2」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の二酸化炭素の分圧であり、及び「PH2」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水素ガスの分圧である。
【0058】
水/ガスシフト正反応速度及び逆反応速度について、変数「Krate」は以下のとおり計算することができる:
rate=Wcat*K*exp[Ea/(Rgas Temp)]
式中、「Wcat」は水/ガスシフト触媒の重量であり、「K」は、プラントデータに対してオフラインでチューニングされる一般速度定数であり、「Ea」は反応の活性化エネルギーであり、「Rgas」は一般気体定数であり、及び「Temp」は反応器の実温度である。
【0059】
水/ガスシフト逆反応速度について、平衡定数「Keq」は以下のとおり計算することができる:
eq=Keq ref*exp[H*(1/Temp−1/Tempref)/Rgas
式中、「Keq ref」は、テキストから、又はラボで決定されるとおりの所与の温度の反応平衡定数であり、「H」は反応熱であり、「Temp」は反応器の実温度である。「Tempref」は、反応熱が測定されたときの基準温度であり、及び「Rgas」は一般気体定数である。
【0060】
メタン化
第3のモデル化される反応はメタン化である。これは、反応物(すなわち、一酸化炭素及び水素ガス)と生成物(すなわち、メタン及び水蒸気)との平衡混合物をもたらす可逆反応である。
【0061】
メタン化正反応速度は、以下の式により表すことができる:
νmeth forward=Krate*PCH4*PH2O
式中、「Krate」は以下に記載される方法で計算された正速度乗数であり、「PCH4」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内のメタンの分圧であり、及び「PH2O」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水蒸気の分圧である。
【0062】
メタン化逆反応速度は、以下の式により表すことができる:
reverse=Krate/Keq*PH2*PCO
式中、「Krate」は、以下に記載される方法で計算された逆速度乗数であり、「Keq」は平衡定数であって、以下に記載される方法で計算され、「PH2」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の水素ガスの分圧であり、及び「PCO」は、反応器からの生成物を分析することにより計測したときの反応器内の一酸化炭素の分圧である。
【0063】
メタン化正反応速度及び逆反応速度について、変数「Krate」は以下のとおり計算することができる:
rate=Wcat*K*exp[Ea/(Rgas Temp)]
式中、「Wcat」はメタン化触媒の重量であり、「K」は、プラントデータに対してオフラインでチューニングされる一般速度定数であり、「Ea」は反応の活性化エネルギーであり、「Rgas」は一般気体定数であり、及び「Temp」は反応器の実温度である。
【0064】
メタン化逆反応速度について、平衡定数「Keq」は以下のとおり計算することができる:
eq=K*exp[H*(1/Temp−1/Tempref)/Rgas
式中、「Keq ref」は、テキストから、又はラボで決定されるとおりの所与の温度の反応平衡定数であり、「H」は反応熱であり、「Temp」は反応器の実温度であり、「Tempref」は、反応熱を測定したときの基準温度であり、及び「Rgas」は一般気体定数である。
【0065】
全物質収支方程式
種の正味生成速度又は消費速度は、適切な化学量論で上記の改質、水/ガスシフト及びメタン化の速度を合計することにより決定することができる。例えば、水素の場合、正味生成速度(「νH2 prod」)は、以下の方法で計算され得る:
νH2 prod=3*νmeth,forward−νmeth,reverse+νwgs,forward−νwgs,reverse+Σ[(x+y/2)*νreform,i
【0066】
O、CO、CO、CH及び他の炭化水素種の正味生成速度又は消費速度についても、同様の方程式を構築することができる。次にこれらの速度を使用して、全物質収支の解が求められる。ここでもまた、例として水素を用いて以下のとおり計算される:
水素出量=水素入量+νH2 production
【0067】
水素分配ヘッダのモデル化
精製所内の多くの供給部及び消費部間での水素ガス分配は、分配ヘッダ又はパイプラインによって処理される。いくつかの水素ガス供給部が種々の地点で共通ヘッダへの送給を行う。あるソースは比較的純粋な水素ガスストリームを提供し、他のソースは、異なる組み合わせの他の軽質ガスと混合された水素ガスを提供するため、水素ガスフィードごとに組成及び流量は異なり得るとともに、時間の経過に伴い変化し得る。各消費部は異なる地点でそのヘッダから抜き出し、各消費部からの要求は、時間の経過に伴い(例えば、ユニットRTOが作動したり、ユニットフィード組成が変更されたりする結果として)変化し得る。水素ガスは異なる位置でヘッダを離れるため、それが完全に混合されることは決してない。従って、各水素ガス消費部は、概して消費部が水素を引き込む場所に応じた異なる純度レベルの水素を受け取る。
【0068】
カスタム水素ヘッダモデルは、ヘッダにおける各種フィード及び生成物ストリーム間のフロー分配を計算する比較的単純な代数モデルである。所与の消費部によって引き込まれる水素ガスの組成は、消費部が水素ガスを引き込む地点に最も近い地点でヘッダに入る水素ガスにより最も影響を受け得る。要求は、ユニット周りの圧力バランスに基づき満たされる。これにより、生成物ストリームの優先順位が確立される。
【0069】
図4は例示である。図4は、水素ヘッダ構成400を示す。この構成は、ヘッダ410に流入する5つの水素ガス供給部401、402、403、404及び405と、ヘッダ410から引き出される2つの水素ガス消費部426及び427とを有する。図4では、ストリーム426上の水素消費部が主消費部であり得る。その場合、モデルは、ストリーム426上の水素消費部についてその流量要求を、最初にストリーム401上の水素供給部からの流れにより満たし、次に402から等、以下同様に満たし、最終的にストリーム426上の水素消費部の流量要求を満足する。ストリーム401、402及び部分的な403が、ストリーム426上の水素消費部の流量要求を満足するのに十分である場合、残りの流れはいずれも−すなわち、ストリーム403(ストリーム406の要求を満たした後に残っているものは何でも)、ストリーム404、及びストリーム405は−、ストリーム427上の水素消費部に送給される。従って、ストリーム426上の水素消費部に対する流量要求が変化すると、水素消費部426及び427の双方の組成が、さらにはストリーム427上の流量も、変化し得る。
【0070】
膜のモデル化
高純度の水素ストリームが用いられると、その純度が下がっても、ストリームはなお多量の水素を含む。従って水素システムは、不純物を除去し、且つ水素ストリームの純度を高めるための膜分離ユニットを含むことが多い。
【0071】
図5は、典型的な膜分離ユニット500を示す。膜分離ユニット500は、複数の膜管(この場合520a、520b、520c、及び520dの符号が付された4つ)の1つ又は複数のバンドル(この場合510の符号が付された1つのバンドル)を含む。水素を含むフィードストリーム501は、バンドル510を通って流れる。未透過物530がある方向に出て、透過物540が別の方向に出る。典型的には、透過物はより高純度の水素ストリームである。
【0072】
膜分離モデルは、分離プロセスのフィード及び動的過程を厳密に特徴付けるカスタム第一原理ベースのモデルである。このモデルは、供給速度、供給混合物、及び各種運転制約を受けるプロセス条件(露点など)を最適化することが可能である。膜を通過する各軽質ガス種の速度の表式は、以下のとおり計算される:
νpermeate,i=#Tubes*K7*P*e(Ea/Temp)*(1/FlowRate)0.5*(X*Pres−Y*Pres
式中、「νpermeate,i」は、種「i」が透過物に入る速度であり、「#Tubes」は、膜を含む管の総数であり、「K7」は、管表面積を考慮してオフラインでチューニングされる速度定数であり、「P」は、膜を通じた種「i」の透過率であり、「Ea」は、膜を通過する各種の活性化エネルギーであり、「Temp」は膜ユニットの温度であり、「Flowrate」は膜を通じた流量であり、「X」は、膜の供給側における種「i」のモル分率であり、「Pres」は、膜の供給側における圧力であり、Yは、膜の透過生成物側における種「i」のモル分率であり、及び「Pres」は、膜の透過生成物側における圧力である。
【0073】
形成される透過生成物の速度及び組成を決定するため、膜を通過する軽質ガス種の各々(すなわち、C〜C、NH、HS、H、HO、CO、及びCO)について前述の式が個別に解かれる。好ましくは、膜はピストン流れとしてモデル化される。換言すれば、分子は半径方向に均一で、且つ一直線に、同軸方向に後戻りすることなく動くものとして表現される。好ましくは、各軽質ガス分子の濃度は、膜ユニットの長さに沿った複数の箇所で複数回計算される。換言すれば、膜のモデルは、好ましくは膜に沿った複数の箇所における複数の分離動作モデルの集成である。この組成の厳密な追跡により、モデルは、実行可能解が膜の任意の制約、例えば露点(すなわち、液体の水)制約に違反するかどうかを予測することが可能となる。
【0074】
PSA及びCOスクラバのモデル化
PSA又はCOスクラバなどの水素精製モデルは、ほとんどのRTOソフトウェア設計パッケージ(例えば、ROMeo又はDMO)で利用可能な標準的なライブラリモデルを用いて表現することができる。一定効率、又は1つ若しくは複数のプロセス条件(例えば、温度、滞留時間等)の関数としての効率のいずれを取り込むにも、単純なモデルしか必要ではない。こうした場合に、典型的には「コンポーネントスプリッタ(component splitter)」モデルが用いられ、ここでは、例えば、CO除去効率が特定される。この方程式の形はアプリケーションに固有であり、様々であるが、しかし典型的な例は以下のとおりであり得る:
CO除去効率=1/(K8*Temp+K9*FlowRate)
式中、「K8」及び「K9」は任意の(チューニングされる)定数であり、「Temp」は反応器運転温度であり、及び「FlowRate」はフィード流量である。
【0075】
バルブ及び圧縮機のモデル化
流量の変化に関する制約をモデル化することは重要である。典型的には、流量制約はバルブ及び圧縮機に関連する。ここでも、バルブ及び圧縮機は、ほとんどのRTOソフトウェアパッケージ(例えば、ROMeo又はDMO)で利用可能な標準的なライブラリモデルを用いて表現することができる。
【0076】
流量、圧力降下、及びバルブ位置の間の関係は、数多くの広く利用可能な市販モデルのいずれか一つで表現することができる。例えばROMeoは、好適な「バルブ」モデルを提供している。このモデルでは、数多くの等しく好適な選択肢から流動方程式を選ぶ必要がある(例えば、「Honeywell方程式」)。
【0077】
圧縮機について基本となる基準は、圧力対流動曲線、RPM限界値、スピルバックバルブの限界値等である。ここでも、これは典型的なRTOソフトウェアパッケージにある市販のモデルを使用して容易に行うことができる。例えばROMeoは、好適な「圧縮機」モデルを提供している。
【0078】
燃料ガス炉のモデル化
モデルには、燃料ガスシステムの何らかの表現を含むことが好ましく、これは、そこが使用済み軽質ガスの最終的な行き先であるためである。火炉は、ほとんどのRTOソフトウェアパッケージ(例えば、ROMeo又はDMO)で利用可能な標準的なライブラリモデルを使用して表現される。基本的には、各火炉モデルは、所与の空気量並びに所与の燃料ガス組成及び量から導かれる熱を予測する燃焼計算である。加えて、各火炉モデルは、バルブ及びそれに対するノズルのモデル並びに関連する制約(例えば、ノズルによって要件とされる燃料ガスの分子量範囲)を含み、又はそれを組み込まれなければならない。
【0079】
モデルを使用したRTOアプリケーション
本発明の別の実施形態は、精製所、好ましくは石油精製所における水素システム用のRTOコンピュータアプリケーション(HシステムRTO)を含む装置である。RTOアプリケーションは、コンピュータにより読み取り可能なプログラム記憶装置に格納される。HシステムRTOは、精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分をモニタし、最適化する。好ましくは、水素システムは、先述した水素システム実施形態のいずれか一つであるか、又はその組み合わせであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。
【0080】
システムRTOはHシステムモデルを含む。好ましくは、Hシステムモデルは、上記の節に示したHシステムモデル実施形態のいずれか一つであるか、又はそれらの組み合わせである。従って、このモデルは好ましくは、水素システム内の水素ガスの移動及び消費を追跡する連関した非線形動的モデルを含む。さらに、例えば、Hプラント又は他の水素ソースが精製所の制御下にある精製所オペレーションでは、Hシステムモデルは、水素ガスの供給(例えば、製造)を追跡する水素ガス生産プラント又は他の水素供給ソースについての1つ又は複数の連関した非線形動的モデルを含む。
【0081】
加えて、このモデルは好ましくは、水素ガス及び関連する軽質ガスの双方の移動及び消費を追跡する。より詳細には、水素消費ユニットのモデルは、好ましくは軽質ガスを個別の構成要素として表現するとともに、より重質の材料を、オレフィン化合物、芳香族化合物、有機窒素及び有機硫黄を含め、運転上変更が加えられたときにモデルが軽質ガスの正しいシフトを予測し得るように選択される基本パフォーマンス特性として一括して扱う。典型的には、Hシステムモデルはまた、精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入も追跡する。
【0082】
システムRTOは、現在の運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行う。HシステムRTOはまた、水素システムについての運転制約(例えば、水素消費部の消費必要量)もロードする。次に、HシステムRTOは反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定する。換言すれば、HシステムRTOは、精製所内の基本運転変数に対応するモデル内の基本自由度を操作することによって各種「what if」テストを実行し、所与の運転制約での実行可能解を求める。最後に、HシステムRTOは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。
【0083】
従って、一実施形態において、本発明は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム記憶装置に格納されたリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションを含む装置であり、ここでこのアプリケーションは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化し、このアプリケーションは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含み、及びこのアプリケーションは、(a)現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、(b)水素システムについての運転制約をロードし、(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、及び(d)水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。
【0084】
好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。しかしながら、推奨解はまた、最適近傍解又はより最適な解であってもよい。
【0085】
目的関数は、水素システムについての任意のパフォーマンスパラメータに関連し得る。例えば、目的関数は、燃料ガスへの水素ガス抽気の最小化、又は逆に、高価値消費ユニットに送給される水素ガスの最大化であり得る。
【0086】
目的関数はまた、経済的目的関数であってもよい。好適な経済的目的関数は、水素ガス供給及び分配コストの最小化又は収益の最大化である。
【0087】
例えば、目的関数は水素供給及び分配コストの最小化であってもよい。この実施形態において、アプリケーションは、典型的には水素供給及び分配コストを計算するための経済データをロードし、各実行可能解について、前記経済データを使用して前記コストを計算する。例えば、目的関数は、各実行可能解について、ネットワークへの全フィードコスト(すなわち、Hプラントへの軽質ガスフィード並びにより重質の液体炭化水素フィード)、ユーティリティコスト(すなわち、水蒸気、電気)及び全ての軽質ガス製品の価値を考慮して計算することができる。次にHシステムRTOは、典型的にはプラントオペレーションにおける各実行可能なシフトについて総コストを決定し、次に、水素消費部の消費必要量及び他の運転制約を満たしながらコストを最小化する、より最適なシフトを決定する。
【0088】
或いは、目的関数は収益の最大化であってもよく、ここで収益は、水素消費部によって作られる製品の評価額から対応する水素供給及び分配コストを差し引いたものに基づく。この実施形態において、アプリケーションは、水素消費サイトによって作られる製品の価値を計算し、且つ水素供給及び分配コストを計算するための経済データをロードし、各実行可能解について、前記経済データを使用して、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算する。この実施形態は、典型的には、各水素消費部によって製品規格に基づき作られる精製所製品(例えば、ディーゼル、ガソリン等)の価値を決めるため、プラントオペレータからの経済データを必要とする。より具体的には、精製所オペレータは、各製品の基準値と、水素供給の変化に起因して生じ得る製品品質の変化の関数としての基準値に対する変化を定義する相関関係とを入力する。例えば、各水素化処理器について、精製所オペレータは、窒素含有量、硫黄含有量、オレフィン含有量及び芳香族含有量などの基本製品品質の変化に対する価値(例えば、$/Δppm)を入力し得る。同様に、各水素化処理器について、精製所オペレータは、C〜C含有量などの基本製品品質の変化に対する価値(例えば、$/Δppm)を入力し得る。HシステムRTOは、プラントオペレーションにおける各実行可能シフトについて、生産される製品の価値とコストとの合成差分を決定することができ、次に、消費必要量及び運転制約を満たしながらこの差分を最大化する、より最適なシフトを決定する。
【0089】
システムRTOは、従来のWindows/Unix/VMSベースのサーバ又はデスクトップコンピュータ上で実行される。好ましくは、HシステムRTOは、少なくとも1つの精製所プロセス制御システムと統合されるか、又はそれと通信し、定周期(又は規則的周期)で自動的に実行される。好ましくは、運転目標の推奨解は、プロセス制御システムにより自動的に通信され、及び実施される。しかしながら、運転目標の推奨解はまた、プラントオペレータによる確認及び承認のため、実施前に任意のプラントオペレータコンピュータ又はプロセス制御に通信されてもよい。プロセス制御システムは基本プロセス制御器であっても、又は動的行列制御(Dynamic Matrix Control:DMC)などのモデルに基づく多変数プロセス制御器であってもよい。
【0090】
システムRTOは、定周期で自動的に実行するように設定することができる。好ましくは、HシステムRTOは少なくとも1時間に1回、より好ましくは少なくとも15〜30分間に1回自動的に実行される。しかしながら、HシステムRTOは1〜10分毎の速さで実行されてもよい。
【0091】
より詳細には、HシステムRTOは以下の機能の各々を実施することができる:
【0092】
運転データ
システムRTOについてのHシステムモデルの基本的な構造及び連結性が構築された後、プラントオペレーションが定常状態にあるとき、HシステムRTOは、少なくとも1つ、可能性であれば2つ以上のプロセス制御システム(例えば、DMC)から外部データインタフェースを介して精製所内の現在の運転条件に関するデータを引き出す。換言すれば、アプリケーションは、精製所のオペレーションに関するリアルタイムデータを引き出す。次に、ライブのプラントデータにより、基本プラント計測値に対応するモデル変数が定義される。このためにダウンロードされる典型的なプラントデータとしては、反応器の状態に関するプロセス計測データ(温度、圧力、流量)、圧縮機速度、バルブ位置、ネットワーク全体を通じた流量、製品の品質要件(例えば、製品の硫黄、窒素、蒸留曲線及び比重)、並びにHプラントに対するフィードの調達性及び組成が挙げられる。典型的には、このデータはプロセス制御システム又は他のプラントデータヒストリアンから引き出され、その大部分が、最終的には精製所全体に配置されたオンライン分析器から得られる。好ましくは、この運転データは自動的にロードされる。
【0093】
現在の運転条件がHシステムモデルにロードされると、次にHシステムRTOはキャリブレーションステップを行い、そこで計測データの過失誤差が検出されるとともに、その計測データで「最良適合」をもたらすようにモデル内の基本変数が選択及び操作される。換言すれば、HシステムRTOは、モデル予測を実運転データと一致させる定数及び他の変数(例えば、調整定数)の値を選択することによってモデルをチューニングする。このステップは、当業者に公知のデータリコンシレーションを実施するための数多くの好適な数学的方法のいずれか一つを用いて実施することができる。このプラントデータ収集及びモデルチューニング手順は、ROMeoの「Real Time System(リアルタイムシステム)」(RTS)を用いて自動化することができる。次に、結果として得られるモデル予測とプラントデータとの偏差、及び関連するモデルチューニングパラメータが、トレンディング、分析及びモデルフィット向上のため、ヒストリアンに保存される。
【0094】
経済データ
目的関数が経済的目的関数である場合には、同時に、HシステムRTOは、潜在的な実行可能解を経済的に計測するための関連経済データをロードする。この経済データには、典型的には、種々の圧力下(例えば、段階的な価格設定)で購入された水素のコスト、水素プラントの稼動に関連するコスト(例えば、フィードコスト)、各圧縮機の稼動(例えば、水蒸気、電気コスト)、各膜の運転(例えば、圧縮機コスト)、及び火炉の燃料ガス負荷(フレアに過剰な燃料ガスが送られる場合の任意の環境ペナルティを含む)に関連するコストが含まれ得る。大型の圧縮機については、運転コストは流量の関数として含めなければならない。加えて、経済的目的関数が収益である場合、このデータにはまた、典型的には、水素消費部への水素供給の変化に起因して生じ得る精製所製品の変化に対する基準値及び評価額も含まれ得る。典型的には、このデータはプロセス制御システム又は他のプラントデータヒストリアンから引き出される−しかし、最終的にはプラントオペレータの入力から得られる。経済データはまた、ユーザインタフェースを用いて直接ロードされてもよい。好ましくは、この経済データは自動的にロードされる。
【0095】
制約
システムRTOモデルが現在の運転条件に対してキャリブレートされると、最適化問題の関連する制約がロードされる。制約は、最適化問題の解が満たすべき条件である。現在の運転条件と同じく、典型的には、精製所オペレータにより予め運転制約が入力され、プラントの許容運転ウィンドウを定義しているプロセス制御システム又は他のプラントデータヒストリアンから、運転制約がHシステムRTOにロードされる。制約はまた、ユーザインタフェースを用いて直接ロードされてもよい。好ましくは、制約は自動的にロードされる。
【0096】
水素要求に影響を及ぼす単純な水素化処理器又は水素化分解器の制約としては、以下が挙げられる:ガスフィードの流量;製品及び排出物;反応器入口、出口、熱間分離器及び冷間分離器の温度;反応器、熱間分離器及び冷間分離器の圧力;制御要素のバルブ位置(水素化処理ユニット内のいずれのバルブも、潜在的な制約である);及び処理−ガス比、反応器水素分圧、反応器の有効等温温度(EIT)、流速、装置負荷、並びにストリームの品質及び純度(例えば、硫黄含有量、窒素含有量、蒸留曲線、比重)などの運転条件実測値及び計算値。
【0097】
水素供給に影響を及ぼす単純なHプラントの制約としては、以下が挙げられる:反応器運転温度、フィード水素対炭素(H/C)比、水蒸気率、水素製品純度、CO/CO純度、及び火炉/燃料ガス限界値。
【0098】
精製所水素システムの一般的な配管ネットワークに見られる制約は、主としてシステムの制御維持及び在庫管理に関する。より具体的には、制御に関連して受ける制約としては、温度、圧力及び他の計測値についての高値範囲及び低値範囲、制御装置範囲の限界値(例えば、バルブ位置)が挙げられる。システムの在庫管理に関連して受ける制約としては、ライン速度限界値、許容圧力範囲、容器中の液体レベル範囲及び流れ方向に関連する任意の考慮事項を挙げることができる。圧縮機制約(スピルバックループ等)もまた、このタイプのシステムに関する重要な制約であることが多く、適宜モデル化されなければならない。
【0099】
火炉制約としては、火炉につながるバルブ及びノズルの制約が挙げられる。それらとしては、バルブ位置、圧力降下、燃料分子量及び金属学的限界値(例えば、温度限界値)が挙げられる。
【0100】
最適化
この時点で、水素システムについての改良された、及び好ましくは最適な運転点の新しいセットを計算することができる。処理プラント内の基本運転変数に対応するモデル内の基本自由度が、異なる実行可能解(すなわち、制約を満たす異なる解)をもたらすように操作され、次にそれらの解が、課された制約に従う目的関数を実現するよう比較される。換言すれば、HシステムRTOは、上記のモデルを使用して異なる「what if」シナリオを反復的に連続実行し、それにより異なる運転目標下にある水素システムを特徴付け、次にそれを目的関数と比べて評価する。例示的な運転目標としては、ネットワークを通じてHを消費部に分配するための流量制御器設定、Hネットワーク内の特定のラインを通じてH分配を動かす圧力制御器設定、第三者(例えば、Air Products等)からの高圧及び低圧H購入についての流量計設定、温度制御器設定、バルブ位置設定、圧縮機速度、ストリーム純度などが挙げられる。
【0101】
例えば、目的関数がコストの最小化である場合、各実行可能解について、HシステムRTOは解の全体的なコストを計算する。或いは、目的関数が収益の最大化である場合、各実行可能解について、HシステムRTOは解の全体的な収益を計算する。毎回、HシステムRTOは最新の実行可能解の経済を最後の最良実行可能解と比較し、新しい実行可能解が目的関数の実現に向けた改良であるかどうかを判断する。このプロセスは、プロセスが手動で終了されるか、又は全ての実行可能解が評価され、最適解が特定されるまで続けられる。
【0102】
システムRTOは、第三者からの水素購買並びに水素製品プラント(存在する場合)及びそれに対するフィードのオペレーション上の重大度を最適化することによって水素供給を最適化する。HシステムRTOは、燃料ガスに対する水素収支、並びに精製プロセス(例えば、膜及びPSA)及び圧縮を、全体的なシステムコストを低減するように最適化することによって水素分配を最適化する。HシステムRTOは、ユニットにより求められる制約の範囲内で、消費ユニットに送給される水素の純度及び流量を減少又は増加させることにより水素消費を最適化する。最後に、HシステムRTOは、要求される負荷を維持し、且つフレアへの原料を低減しながら、火炉に対する軽質ガス供給の流量と発熱量との組み合わせを最適化することによって燃料ガスシステムを最適化する。
【0103】
多くの場合に、各種プロセスのエネルギー必要量及びフレアに送られるガスのエネルギー含有量は実現することができない−しかしながら、このアプリケーションは、当該のエネルギーを提供する各種分子を区別するとともに、所与の利用可能な自由度で、各分子タイプに最良の処理を選択することができる。例えば、Cの価値が特に高い場合、HシステムRTOは、それらを熱的な価値($/btu(英熱量))基準で等価な量のより価値の低い分子(CHなど)に代替させることにより、それらの分子が火炉に送られなくとも済むようにすることが可能であり得る。高価値分子のフレアへの流量の低減は、この技術を適用することの顕著な利益であり得る。
【0104】
出力
システムRTOの出力は、水素システムについての改良された、好ましくは最適な定常状態を表す一貫した運転設定/目標セットである。ここでも、例示的な運転目標としては、ネットワークを通じてHを消費部に分配するための流量制御器設定、Hネットワーク内の特定のラインを通じてH分配を動かす圧力制御器設定、第三者(例えば、Air Products等)からの高圧及び低圧H購入についての流量計設定、温度制御器設定、バルブ位置設定、圧縮機速度、ストリーム純度などが挙げられる。典型的には、HシステムRTOは、30〜50個の範囲の目標の最新値を提供し、次にそれらがプロセス制御システムによって実施及び施行される。HシステムRTOはこれらの運転目標を、自動又は手動で実施するためプロセス制御システム又は他の何らかのプラントオペレーションコンピュータに通信する。好ましくは、この通信はオンラインで自動的に行われる。
【0105】
実施
一実施形態において、HシステムRTOの解は、基本プロセス制御器又はモデルに基づく多変数プロセス制御器などのプロセス制御システムに通信され、それによりオンラインで自動的に実施される。このように、プロセス制御システムはベースレベルの制御器を新しい設定値に移行させる一方でプロセスの動的過程を考慮するため、制御された方式で解の運転目標を実現することができる。一時的に、又は定常状態で、制約違反を最小限として速やかに新しい最適状態に達することができる。
【0106】
或いは、又は加えて、HシステムRTOをアドバイザリーモードで使用することができる。この実施形態では、解の運転目標はプラントオペレータコンピュータ又はプロセス制御システムに送信され、表示される。次にプラントオペレータが、典型的にはプロセス制御システムを介して、それらの新しい最適条件を確認及び承認し、実施する。ここでも、プロセス制御システムは、基本プロセス制御器か、又はDMCなどのモデルに基づく多変数プロセス制御器であってよい。
【0107】
典型的には、HシステムRTOは、プロセス制御システムによって1分毎に実施及び施行される更新を提供する。典型的には、頻繁な改質器の再生量変動、並びにH圧縮機の故障及び他の供給の途絶に応えて、プロセス制御システムは一時的に購入H及び/又はパージを調整し、Hシステムの変動を回避して均す。HシステムRTOをガイダンスとして頼ることで、プロセス制御システムはまた、Hシステム内の圧力レベルも調整し、各消費部について確立された最適なHの量及び純度に一致する所望のフロー分配を維持する。
【0108】
プロセス制御
通常の状況下では、最適化問題を解くとき、プロセス制御は、何らかの形態の基本プロセス制御器又はモデルに基づく多変数プロセス制御器(例えば、DMC)を利用する何らかの形態の高度なプロセス制御によって処理される。換言すれば、プロセス制御器は制約を有し、通常、HシステムRTOは同じ制約を考慮して構築される。
【0109】
しかしながら、プラントオペレータによるプラントオペレーションのある側面を最大化するという意図的な決定を含めた様々な理由から、DMC制約が違反されることがまれではない。そのような場合、HシステムRTOはプラントデータから違反された制約を認識し、違反された制約を新しい限界値として用いる−しかし、HシステムRTOは問題を悪化させることはない。従って、オペレーション上実行不可能なことによる制約違反は、基礎にある調整プロセス制御器が独立してオペレーションを限界内に戻そうとしていると仮定して、緩和された限界としてモデル化され
る。
【0110】
残念ながら、ある場合にはこれは問題を引き起こし得る。HシステムRTOは常に最適を見つけようとしており、これはつまり、HシステムRTOが常に一部の制約の限界に近付こうとすることを意味する。時に、繰り返し緩和制約にヒットすることで悪影響が生じ得る。例えば、制約が10である場合に、HシステムRTOは9.999を推奨し得る。このときプロセス制御システムはその変更を不完全に10.001として実施し得る。次にHシステムRTOが実行されると、HシステムRTOは緩和制約が10.001であることを前提として10.0を推奨し、このときプロセス制御は10.002として不完全に実施する。このように反復的に、RTOとDMCとが協働してサイクル毎にさらに大きく違反されていく制約をもたらす。このため、標準的な緩和限界の原理は、水素システムオンライン最適化部内の特定の変数には不適当であり得る。
【0111】
従って、一実施形態において、HシステムRTOは何らかの独立したプロセス制御を有する。より詳細には、特定の変数限界値を満たさない実行可能解にペナルティが割り当てられる。各ペナルティの量は、違反される変数限界値の特性及び違反の程度に依存する。
【0112】
例えば、特定の変数について、限界違反を軽減する経済的インセンティブをRTOに提供するようにモデルを構築することができる。かかるモデルは、概してペナルティ関数と称することができる。このようにして、RTOは一体となって正しい限界違反に向かって動くことができ、多変数プロセス制御器の動作がエミュレートされる。最適化部が考慮するべき限界値(通常、限界値はプロセス制御システムから読み込まれる)は、関数値に対する限界としてペナルティ関数に読み込まれる:特定の限界の範囲外でのみ、関数は目的関数に寄与する。目的関数にペナルティをかけることにより、問題となっている変数を違反限界値に向かって動かす推進力が生じる。
【0113】
このように、ペナルティモデルは、ソフトな限界又は違反変数と同じように振舞う。計算されたペナルティは、目的関数(通常、最適化求解において用いられる経済的目的関数)に適用される。ペナルティの大きさは、適当なウェイトを用いて制御される。ウェイトが既知である場合、その違反に対する真の経済ペナルティを特定することができる。しかしながら、ウェイトは常に既知であるとは限らないため、及び解のロバスト性を高めるため、ペナルティ関数のウェイトは、違反を補正することが期待される動きの有効コストの数倍に任意に設定されることが多い。このようにウェイトを特定することで、可能であれば、違反を軽減する一貫した推進力が得られる。例として、最終的なムーブが供給業者から水素を購入することである場合、ペナルティ関数のウェイトは、購買コストの何らかの乗数として設定することが可能である。
【0114】
図6は、この概念を示す。図6は、x軸が変数値を表し、y軸が経済的ペナルティ値を表すグラフである。変数は2つの限界値、すなわち、下限値(LLIMIT)と上限値(ULIMIT)とを有する。実行可能解がこれらの限界値の範囲内の変数値を維持する限り、解に割り当てられるペナルティはゼロである。しかしながら、変数値が下限値(LLIMIT)を下回るか、又は上限値(ULIMIT)を上回ることを実行可能解が要求する場合、経済的ペナルティが割り当てられる。これらの限界値から離れるほど、ペナルティは大きくなる。違反度当たりのペナルティのウェイトとしての傾きが、下限値(Slope=LowSoft Weight)及び上限値(Slope−HighSoft Weight)に対して定義される。図6に異なる傾きによって示されるとおり、下側限界の違反に対する重み付けは、上側限界の違反に対するものとは異なり得る。さらに、割り当てられるウェイトは、典型的には変数ごとに異なる。
【0115】
外部予測
システムRTOは、予想されるであろうよりはるかに高い頻度で実行され得る。通常のRTOは数時間に1回実行され得るが、HシステムRTOは1〜10分毎に1回実行されてもよい。
【0116】
従来のRTOでは、RTOは定常状態問題を解く−過渡制御は基本となる制御システムに委ねる。しかしながら、本発明の場合には、実行が高頻度であるため、HシステムRTOがそれらの過渡状態を把握することが要求され得る。このような場合に、プロセスの動的要素を無視して、システムの「定常状態になるまでの時間」より早い速度で求解を行うと、結果として制御器に深刻な問題が発生し得る。従って、一実施形態において、HシステムRTOは、外部で計算された過渡応答のモデル予測を使用する。より詳細には、いくつかの変数の制約は、過渡応答の予測に基づき調整される。
【0117】
こうした予測は最適化ケースにおいて重要となり、ここでは最大許容ムーブにこの過渡応答が考慮されなければならない。このように、最適化ケースは、この外部計算によって予測されるとおりのさらなる変数値を考慮に入れる。従って、計算は以下のようになり得る:
最大許容ムーブ=(制約−計測)−予測過渡応答
【0118】
例えば、HシステムRTOが反応器運転温度(計測値が900°Fである)を、制約(上限値)が920°Fのなかで上昇させようとして、しかし外部的に計算された「予測」過渡応答が+5°Fであったならば、RTOが実行することのできる最大の上昇は15°Fとなる。
【0119】
システムRTOにおけるこの機能の構成には、問題となる変数についての2つの計測値の使用が関わる:一つはモデルキャリブレーション中に使用される現在値を表すものであり、もう一つは最適化中に使用される予測値を読み込むものである。モデルキャリブレーション目的関数において重み付けされるのは、現在値を表す計測値のみでなければならない−予測値と現在値との間のオフセットはゼロでないことが期待されるため、モデルキャリブレーションケースはそれを最小化しようとしてはならない。従って、モデルに対してオフセットした予測値のウェイトは、ゼロに設定されなければならない。次にモデルキャリブレーションケースは、必要に応じて現在の運転条件に対してモデルをキャリブレートし、及びそのオフセットの計算を除き、予測値の存在によっては影響されない。
【0120】
RTOがロードされたコンピュータ
本発明のさらに別の実施形態は、RTOコンピュータアプリケーションがロードされたコンピュータを含む装置である。例えば、HシステムRTOは、従来のWindows/Unix/VMSベースのサーバ又はデスクトップコンピュータにロードして、そこで実行することができる。
【0121】
RTOコンピュータアプリケーションは、上記のRTOコンピュータアプリケーションの任意の実施形態であるか、又はそれらの任意の組み合わせである。RTOアプリケーションは、精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化する。好ましくは、水素システムは、先述した水素システム実施形態のいずれか一つであるか、又はそれらの組み合わせであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。
【0122】
既述のとおり、RTOアプリケーションは、好ましくは水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含み、このアプリケーションは、(a)現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、(b)水素システムについての運転制約をロードし、(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、(d)水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。
【0123】
方法
本発明のさらに別の実施形態は、精製所、好ましくは石油精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分、及びそれにより消費を制御する方法である。好ましくは、水素システムは、先述した水素システム実施形態のいずれか一つであるか、又はそれらの組み合わせであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。
【0124】
この方法は、コンピュータにより実施される少なくとも5つのステップを含む。第1のステップは、HシステムRTOアプリケーションを起動することである。第2のステップは、現在の精製所運転データをアプリケーションにロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行うことである。第3のステップは、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定することである。第4のステップは、水素システムをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を決定することである。第5のステップは、少なくとも1つのプロセス制御システムを使用して運転目標の推奨解を実施し、それにより1つ又は複数の制御構成要素(例えば、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器、圧縮機など)の設定を変更することである。好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。
【0125】
好ましくは、H2システムRTOアプリケーションは、上記のRTOアプリケーション実施形態のいずれか一つであるか、又はそれらの組み合わせである。従って、HシステムRTOアプリケーションは、好ましくは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費(及び場合によって、例えばHプラントが存在する場合には、供給)を特徴付ける連関した非線形動的モデルを含む。好ましくは、アプリケーション中のモデルはまた、関連する軽質ガスの移動及び消費も追跡する。より詳細には、水素消費ユニットについてのモデルは、軽質ガスを個別の構成要素として表現するとともに、より重質の原料を、オレフィン化合物、芳香族化合物、有機窒素及び有機硫黄を含め、運転上変更が加えられたときにモデルが軽質ガスの正しいシフトを予測するように選択される基本パフォーマンス特性として一括して扱う。典型的には、モデルはまた、精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入も追跡し得る。
【0126】
目的関数は、水素システムについての任意のパフォーマンスパラメータに関連し得る。例えば、目的関数は、燃料ガスへの水素ガス抽気の最小化であってもよく、又は逆に、高価値消費ユニットに送給される水素ガスの最大化であってもよい。特に有益な目的関数は、Hの供給及び分配コストの最小化又は収益の最大化であり、ここで収益は、H消費ユニットにより生産される製品の価値と、Hの供給及び分配コストとの価値の差として計算される。
【0127】
より詳細には、一実施形態において目的関数は経済的目的関数である。例えば、目的関数はコストの最小化であってもよい。その場合、本方法は、水素供給及び分配コスト(先述のとおり)を計算するための経済データを、水素供給及び分配のアプリケーションにロードするステップと、各実行可能解について前記コストを計算するステップとをさらに含み得る。或いは、目的関数は収益の最大化であってもよい。その場合、本方法は、消費サイトによって作られる製品の価値(先述のとおり)並びに水素供給及び分配コスト(先述のとおり)を計算するための経済データをロードするステップと、各実行可能解について、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算するステップとをさらに含み得る。
【0128】
従って、好ましい実施形態において、本方法は、石油精製所におけるオペレーション方法であり、ここで石油精製所は、(i)精製所製品を生産するためにHを消費する複数のH消費ユニットであって、各々が1つ又は複数の制御構成要素を有するH消費ユニットと、(ii)HをH消費ユニットに分配するH分配ネットワークであって、同様に複数の制御構成要素を有するH分配ネットワークとを含む。この方法は、目的関数と1つ又は複数の制約とを含む非線形計画モデルを定式化する第1のステップを含み、ここで目的関数は経済的パラメータについてのものであり、各H消費ユニットにより生産される精製所製品の分量が、H分配ネットワークにより供給されるときのH消費ユニットによって消費されるHの分量の関数として表現され、及びH分配ネットワークにより供給されるHの分量が、H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び圧力のうちの1つ又は複数を含む関数として表現される。この方法は、H消費ユニットで生産される精製所製品の金銭的な価値を含む経済データを受け取る第2のステップを含む。この方法は、非線形計画モデルに経済データをポピュレートする第3のステップを含む。この方法は、H消費ユニットについての反応器の状態を決定する少なくとも1つの反応器パラメータと、H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び/又は圧力を決定する少なくとも1つの運転パラメータとを含む精製所運転データを受け取る第4のステップを含む。この方法は、非線形計画モデルに精製所運転データをポピュレートする第5のステップを含む。この方法は、非線形計画モデルに対する解を得る第6のステップを含む。この方法は、得られた解に従いH分配ネットワーク及び/又はH消費ユニットの1つ又は複数の制御構成要素を調整する第7のステップを含む。この方法は、ステップ1〜7を周期的に繰り返す第8のステップを含む。
【0129】
いずれの場合にも、方法ステップのサイクルは、定周期で自動的に実行され得る。より好ましくは、これらの方法ステップは、1時間毎に、さらにより好ましくは15〜30分毎に繰り返される。しかしながら、HシステムRTOは1〜10分毎の速さで実行されてもよい。
【0130】
或いは、いずれの場合にも、運転目標の推奨解がプラントオペレータコンピュータに通信され、確認及び承認後、プロセス制御システムを用いてプラントオペレータの命令で実施されてもよい。或いは、好ましくは、推奨運転目標はプロセス制御システムにより自動的に実施される。好ましくは、プロセス制御システムは、DMCなどのモデルに基づく多変数プロセス制御システムである。
【0131】
図7は、この方法をさらに詳細に示す。図7では、各四角形は、本明細書に記載されるとおりのHシステムRTOを用いるプロセスにおける別の動作を示す。
【0132】
第1番目は、「開始」ステップである。HシステムRTOが起動され、その関連するモデルデータベースが開かれて、実行準備ができた状態とされる。HシステムRTOは、プロセス制御システムにより定周期で自動的に(例えば、30分毎に)起動されてもよく、又は精製所オペレータによりオンデマンドで起動されてもよい。
【0133】
第2番目は、「データ記録セットアップ」ステップである。ここでは、HシステムRTOがデータリコンシレーションのためにセットアップされる。プロセス運転データ及びステータスフラグがフローシートにインポートされ、HシステムRTOはモデルを正しく構成するために必要な任意のロジックを処理する。運転データは先述のとおりである。典型的には、この運転データはプロセス制御システムから自動的にダウンロードされ、精製所内部からの実際の分析器情報に基づく。
【0134】
同時に、この時点で、最適化目的関数の求解に関連する任意の経済データがダウンロードされる。この経済データは先述のとおりである。典型的には、このデータは、プロセス制御システム又はプラントデータヒストリアンから引き出され、精製所オペレータにより周期的に作成及び更新されるデータに基づく。経済データはまた、ユーザインタフェースを用いて直接ロードすることもできる。
【0135】
第3番目は、「データ記録の実行」ステップである。このモデルは、ここでデータリコンシレーションのために適切に構成されており、データリコンシレーションモードで実行される。結果は、「成功」、「無効」、又は「失敗」のいずれかである。
【0136】
第4番目は、「データ記録の確認」ステップである。データリコンシレーション目的関数の最終値又は「最良適合」が確認される。最終値が閾値を超えている場合、その実行は、適合度を改善するため再度求解されるか、又はシーケンスが放棄される。フローシート値も、新しい解を反映して更新される。
【0137】
第5番目は、「最適化セットアップ」ステップである。ここでは、プロセス制御システムの制約限界値及びステータスが読み込まれる。さらに、最適化を実行できるようフローシートを構成するために必要な任意のロジックが処理される。これらの制約は先述のとおりである。典型的には、精製所オペレータによって予め制約が入力され、プラントの許容運転ウィンドウが定義されているプロセス制御システム又はプラントデータヒストリアンから、制約が引き出される。しかしながら、一部の制約は、プラントオペレータがアプリケーションインタフェースを使用してロードしてもよい。
【0138】
第6番目は、「最適化の実行」ステップである。モデルが実行され、所与の運転制約下で、消費必要量を満たしながら、水素システムについての目的関数の解が求められる。結果は、「成功」、「無効」、又は「失敗」のいずれかである。「成功」の場合、その出力が、最適又は最適近傍の定常状態運転目標からなる解である。
【0139】
第7番目は、「最適化の確認」ステップである。ここでは、最適化解が確認される。これは、その解が実際に目的関数を改良することを確かめるカスタムチェックを含み得る。これらの確認の最後には、レポートを作成するマクロも実行されなければならない。
【0140】
第8番目は、「実施の確認」ステップである。プロセス制御システム限界値及びステータスが再び読み込まれ、その中のいかなる変更も最適化解に影響しないことが確実とされる。
【0141】
第9番目は、「目標の実施」ステップである。この時点に至るまで全てが成功している場合、最適化解の最適目標がプロセス制御システム又はプラントオペレータコンピュータに送られる。運転目標の解は、プロセス制御システムに自動的に通信され、それによって実施されてもよい。或いは、運転目標の解は、プラントオペレータコンピュータに自動的に送られ、運転目標の確認及び承認後に、プロセス制御システムを用いてプラントオペレータの命令で実施されてもよい。
【0142】
第10番目は、「実施後」ステップである。完了が成功した結果として必要となる任意のクリーンアップ又はステータスフラグ設定が、この時点で行われる。例えば、実施が成功した旨のフラグがプラントオペレータに送られてもよい。
【0143】
第11番目、及び最後は、「終了」ステップである。シーケンスが終了され、モデルデータベースが閉じられる。
【0144】
本方法の一実施形態において、上記のステップは全て、少なくとも1つのプロセス制御システム、好ましくはDMCなどのモデルに基づく多変数プロセス制御システムと通信及び協働して、オンラインで自動的に行われる。この実施形態では、求解される問題についての運転データ、任意の経済データ及び運転制約は、プロセス制御システム及び/又は他のプラントデータヒストリアンから自動的にダウンロードされる。次にアプリケーションが自動的に実行され、その結果がプロセス制御システムに自動的に送られ、それにより実施される。
【0145】
本方法の別の実施形態において、実施を除く上記のステップは全て、プロセス制御システム、好ましくはDMCなどのモデルに基づく多変数制御システムと通信及び協働して、オンラインで自動的に行われる。この実施形態では、求解される最適化問題についての運転データ、任意の経済データ及び運転制約は、少なくとも1つのプロセス制御システム及び/又は他のプラントデータヒストリアンから自動的にダウンロードされる。次にアプリケーションが自動的に実行され、その結果がプラントオペレータコンピュータに自動的に送られる。次に精製所オペレータは結果を確認及び承認し、プロセス制御システムを使用してその結果を実施する。
【0146】
本方法の別の実施形態において、実施ステップに加えて少なくとも1つのステップが、オフラインで手動により行われる。この実施形態では、求解される最適化問題についての運転データ、任意の経済データ及び運転制約は、プロセス制御システム及び/又は他のプラントデータヒストリアンから自動的にダウンロードされる。或いは、データの一部又は全てが、検査データ又は仮説的な「what if」シナリオに基づき、ユーザにより実行時にアプリケーションユーザインタフェースを使用して直接入力されてもよい。次にアプリケーションが実行され、その結果が、プロセス制御システムを使用して、精製所オペレータの確認及び承認後に手動で実施されてもよく、又は自動的に実施されてもよい。
【0147】
精製所
最後に、本発明の別の実施形態は精製所、好ましくは石油精製所である。この精製所は少なくとも3つの構成要素を含む。
【0148】
第1の構成要素は水素システムである。好ましくは、水素システムは、先述した水素システム実施形態のいずれか一つであるか、又はそれらの組み合わせであり、従って、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ以上の、好ましくは複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。
【0149】
第2の構成要素は、水素システムを制御する少なくとも1つのプロセス制御システムである。好ましくは、DMCなどのモデルに基づく多変数プロセス制御器が用いられる。
【0150】
第3の構成要素は、水素システムにおける水素ガスの供給及び配分、及びそれにより消費を最適化するためのHシステムRTOアプリケーションである。好ましくは、RTOコンピュータアプリケーションは、上記のRTOコンピュータアプリケーションのいずれかの実施形態であるか、又はそれらの任意の組み合わせである。従って、アプリケーションは好ましくは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費(及び場合によって、例えばHプラントが存在する場合には、供給)を特徴付ける連関した非線形動的モデルを含む。好ましくは、アプリケーション中のモデルは、関連する軽質ガスの移動及び消費も追跡する。より詳細には、水素消費ユニットについてのモデルは、軽質ガスを個別の構成要素として表現するとともに、より重質の原料を、オレフィン化合物、芳香族化合物、有機窒素及び有機硫黄を含め、運転上変更が加えられたときにモデルが軽質ガスの正しいシフトを予測し得るように選択される基本パフォーマンス特性として一括して扱う。典型的には、このモデルはまた、精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入も追跡し得る。
【0151】
システムRTOは現在の運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行う。HシステムRTOはまた、水素システムについての運転制約もロードする。次にHシステムRTOは反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定する。次にHシステムRTOは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。最後に、HシステムRTOは運転目標の推奨解をプロセス制御システムに通信する。好ましくは、推奨解は、目的関数に対する最適解である。
【0152】
ここでも、目的関数は、水素システムについての任意のパフォーマンスパラメータに関連し得る。例えば、目的関数は燃料ガスへの水素ガス抽気の最小化であってもよく、又は逆に、高価値消費ユニットに送給される水素ガスの最大化であってもよい。
【0153】
一実施形態において、目的関数は経済的目的関数である。例えば、目的関数はコストの最小化であってもよい。その場合、本方法は、水素供給及び分配コスト(先述のとおり)を計算するための経済データを、水素供給及び分配のアプリケーションにロードするステップと、各実行可能解について前記コストを計算するステップとをさらに含み得る。或いは、目的関数は収益の最大化であってもよい。その場合、本方法は、消費サイトによって作られる製品の価値(先述のとおり)並びに水素供給及び分配コスト(先述のとおり)を計算するための経済データをロードするステップと、各実行可能解について、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算するステップとをさらに含み得る。
【0154】
従って、好ましい実施形態において、精製所は少なくとも3つの構成要素を含む。第1の構成要素は、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む水素システムである。第2の構成要素は、水素システムを制御する少なくとも1つのプロセス制御システムである。第3の構成要素は、リアルタイム最適化コンピュータアプリケーションがロードされたコンピュータを含む最適化部である。このアプリケーションは、水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化し、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含む。このアプリケーションは、(a)現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、(b)水素システムについての運転制約をロードし、(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、(d)水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力し、及び(e)運転目標の推奨解をプロセス制御システムに通信する。
【0155】
いずれの場合にも、アプリケーションは定期的に自動で実行する。より好ましくは、HシステムRTOは少なくとも1時間に1回、理想的には15〜30分毎に実行される。しかしながら、HシステムRTOは1〜10分毎の速さで実行されてもよい。
【0156】
いずれの場合にも、一実施形態において、コンピュータは、プロセス制御システムとオンライン通信しており、コンピュータによって出力される1つ又は複数の制御構成要素調整値を含む運転目標の推奨解は、プロセス制御器に自動的に通信され、それによって実施される。或いは、運転目標の推奨解は、目標の確認及び承認後に、プロセス制御システムを使用してプラントオペレータの命令で実行されてもよい。
【0157】
精製所は、好ましくは完全オンラインオペレーションであり、つまり最適化及び実施がプロセス制御システムと通信して自動的に行われる。従って、好ましい実施形態において、HシステムRTOは以下の機能の各々を自動的に行う:(i)プロセス制御システムから自動的に引き出された精製所実データをモデルにポピュレートし、プロセス制御システム及び/又は他のプラントデータヒストリアンから引き出された目的関数の求解に関連する任意の経済データをロードする;(ii)プラントデータに対してモデルをキャリブレートする;(iii)プロセス制御システム及び/又は他のプラントデータヒストリアンから引き出されたプロセス制約をロードする、(iv)消費要求及び運転制約を満たしながら目的関数を実現する水素システムについての最適目標の解を求める;及び(iv)プロセス制御システムを使用して解を実施する。
【0158】
結論
まとめとして、以下に本発明のいくつかの実施形態を繰り返す。
【0159】
第1の実施形態は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム記憶装置に格納されたリアルタイム最適化コンピュータアプリケーション(又はアプリケーションプログラム)を含む装置である。このアプリケーションは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソース(又は供給源)と、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む精製所の水素システム(又は水素系)における水素ガスの供給及び配分を最適化する。このアプリケーションは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含む。このアプリケーションは、現在の精製所運転データをロードし(又は読み込み)、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション(populate)及びキャリブレーション(calibrate)を行い、水素システムについての運転制約をロードし、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、及び水素システムのオペレーション(運転又は操作)を、パフォーマンス(性能又は動作)に関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。
【0160】
この第1の装置の実施形態の変形例が多く存在する。第1の変形例では、運転目標の推奨解は、目的関数に対する最適解である。第2の変形例では、目的関数は経済的目的関数である。第3の変形例では、目的関数はコストの最小化であり、アプリケーションは、水素供給及び分配コストを計算するための経済データをロードし、各実行可能解について、前記経済データを使用して前記コストを計算する。第4の変形例では、目的関数は収益の最大化であり、アプリケーションは、水素消費サイトによって作られる製品の価値と、水素供給及び分配コストとを計算するための経済データをロードし、各実行可能解について、前記経済データを使用して、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算する。第5の変形例では、アプリケーション中のモデルは、水素ガス生産プラント(施設又は設備)又は他の水素供給ソースについての1つ又は複数の連関した非線形動的モデルをさらに含む。第6の変形例では、アプリケーション中のモデルは、水素ガス及び関連する軽質ガスの移動及び消費を追跡する。第7の変形例では、アプリケーション中の水素消費ユニット(又は装置)についてのモデルは、軽質ガスを個別の構成要素として表現するとともに、より重質の原料を、オレフィン化合物、芳香族化合物、有機窒素及び有機硫黄を含め、運転上変更が加えられたときにモデルが軽質ガスの正しいシフトを予測し得るように選択される基本パフォーマンス特性として一括して扱う。第8の変形例では、アプリケーション中のモデルは、精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入を追跡する。第9の変形例では、アプリケーションは少なくとも1つのプロセス制御システムと統合され、又はそれと通信し、定周期で自動的に実行される。第10の変形例では、運転目標の推奨解はプロセス制御システムに自動的に通信され、それにより実施される。第11の変形例では、特定の変数限界値を満たさない実行可能解にペナルティが割り当てられ、各ペナルティの大きさは、違反される変数限界値及び違反の程度に依存する。第12の変形例では、一部の変数についての制約が、過渡応答の予測に基づき調整される。第13の変形例では、精製所は石油精製所であり、供給ソースは、購入した水素、オンサイトの水素製造プラント、水素消費サイトから再循環される水素リッチ(又は水素に富む)排ガス、接触改質器により生成される水素リッチ排ガス及び関連する石油化学プラントから送られる水素からなる群から選択される複数のソースを含む。第14の変形例では、精製所は石油精製所であり、消費サイトは、水素化処理器及び水素化分解器からなる群から選択される複数の水素処理ユニットを含む。第15の変形例では、相互接続された水素分配ネットワークは、水素の流量、速度、純度及び/又は圧力を変化させるための複数の制御構成要素であって、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器及び圧縮機からなる群から選択される制御構成要素を含む。第16の変形例では、運転目標は、ネットワークを通じてHを消費部に分配するための流量制御器設定、Hネットワーク内の特定のラインを通じてH分配を動かす圧力制御器設定、第三者からの高圧及び低圧Hの購買についての流量計設定、温度制御器設定、バルブ位置設定、圧縮機速度及びストリーム純度を含む。第17の変形例では、精製所は、複数の供給ソースを含む石油精製所であり、アプリケーションは、現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、水素供給及び分配コストを計算するための経済データをロードし、水素システムについての運転制約をロードし、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、各実行可能解について水素供給及び分配コストを計算し、及びコストを最小化する運転目標の最適解を出力する。第18の変形例では、精製所は、複数の供給ソースを含む石油精製所であり、アプリケーションは、現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、水素システムの水素消費部によって作られる製品の価値と、水素システムにおける水素供給及び分配コストとを計算するための経済データをロードし;水素システムについての運転制約をロードし、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、各実行可能解について、前記経済データを使用して、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算し、及び収益を最大化する運転目標の最適解の組を出力する。これらの変形例の各々は、第1の実施形態において単独で、又は任意に組み合わせて利用され得る。
【0161】
第2の実施形態は、リアルタイム最適化コンピュータアプリケーションがロードされたコンピュータを含む装置である。このアプリケーションは、第1の実施形態の装置に関して記載されるアプリケーションと同じであり、それに対する記載される変形例のいずれか又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0162】
第3の実施形態は、精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を制御する方法である。この方法は、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む。この方法は、コンピュータにより実施される少なくとも6つのステップを含む。第1のステップは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含むリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションを起動することである。第2のステップは、現在の精製所運転データをアプリケーションにロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行うことである。第3のステップは、アプリケーションに運転制約をロードすることである。第4のステップは、反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定することである。第5のステップは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を決定することである。第6のステップは、少なくとも1つのプロセス制御システムにより運転目標の推奨解を実施することであって、それによりバルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器及び圧縮機から選択される1つ又は複数の制御構成要素の設定を変更することである。
【0163】
この第3の方法の実施形態の変形例が多く存在する。特に、コンピュータアプリケーションは第1の実施形態に記載されるアプリケーションであってもよく、それに対する記載される変形例のいずれか又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。一変形例では、方法ステップのサイクルは定周期で自動的に実行され、推奨運転目標はプラントオペレータコンピュータに自動的に通信され、確認及び承認後、プロセス制御システムを使用して実施される。或いは、別の変形例では、方法ステップのサイクルは定周期で自動的に実行され、推奨運転目標はプロセス制御システムに自動的に通信されて、それにより実施される。
【0164】
第4の実施形態は、石油精製所におけるオペレーション方法である。石油精製所は、(i)精製所製品を生産するためにHを消費する複数のH消費ユニットであって、各々が1つ又は複数の制御構成要素を有するH消費ユニットと、(ii)HをH消費ユニットに分配するH分配ネットワークであって、同様に複数の制御構成要素を有するH分配ネットワークとを含む。この方法は、少なくとも8つのステップを含む。第1のステップは、目的関数と1つ又は複数の制約とを含む非線形計画モデルを定式化することであり、ここで目的関数は経済的パラメータについてのものであり、各H消費ユニットにより生産される精製所製品の分量は、H分配ネットワークにより供給されるときのH消費ユニットによって消費されるHの分量の関数として表現され、及びH分配ネットワークにより供給されるHの分量は、H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び圧力のうちの1つ又は複数を含む関数として表現される。第2のステップは、H消費ユニットで生産される精製所製品の金銭的な価値を含む経済データを受け取ることである。第3のステップは、非線形計画モデルに経済データをポピュレートすることである。第4のステップは、H消費ユニットについての反応器の状態を決定する少なくとも1つの反応器パラメータと、H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び/又は圧力を決定する少なくとも1つの運転パラメータとを含む精製所運転データを受け取ることである。第5のステップは、非線形計画モデルに精製所運転データをポピュレートすることである。第6のステップは、非線形計画モデルの解を得ることである。第7のステップは、得られた解に従いH分配ネットワーク及び/又はH消費ユニットの1つ又は複数の制御構成要素を調整することである。第8のステップは、ステップ1〜7を周期的に繰り返すことである。
【0165】
この第4の方法の実施形態の変形例が多く存在する。第1の変形例では、目的関数は、Hを供給及び分配するコストの最小化又は収益の最大化のいずれかであり、ここで収益は、H消費ユニットによって生産される製品の価値とHを供給及び分配するコストとの価値の差として計算される。第2の変形例では、少なくとも1つのH消費ユニットは、複数の軽質ガスを生産する水素化分解ユニットであり、ここで水素化分解ユニットによって消費されるHの分量は、軽質ガスの各々の生成において消費されるHの分量を含む関数として表現される。第3の変形例では、少なくとも1つのH消費ユニットは水素化処理ユニットであり、ここで水素化処理ユニットによって消費されるHの分量は、以下のプロセスによって消費されるHの分量を含む関数として表現される:脱硫、脱窒素、不飽和非芳香族化合物の飽和又は水素化、及び芳香族化合物の飽和又は水素化。第3の変形例では、非線形計画モデルの1つ又は複数の制約は、各H消費ユニットについて以下の制約の1つ又は複数を含む:ガスフィードの流量;精製所製品及び排出物;反応器入口、反応器出口、熱間分離器、及び冷間分離器の温度;反応器、熱間分離器、及び冷間分離器の圧力;制御構成要素のバルブ位置;処理−ガス比;反応器H分圧;反応器有効等温温度;流速;装置負荷;ストリーム品質;及びストリーム純度。第4の変形例では、石油精製所は1つ又は複数のHプラントをさらに含み、各Hプラントで生産されるHの量は、水蒸気改質の動的過程、水性ガスシフト及びメタン化を含む関数として表現され、(ii)非線形計画モデルの1つ又は複数の制約は、反応器運転温度、フィードのH:炭素比、水蒸気率、H製品純度、及び各HプラントについてのCO/CO純度のうちの1つ又は複数を含み、(iii)経済データは1つ又は複数のHプラントの金銭的な運転コストをさらに含み、(iv)運転データは、Hプラントの反応器の状態を決定する少なくとも1つのパラメータをさらに含み、及び(v)調整するステップは、得られた解に従いHプラントの制御構成要素を調整することを含んでもよい。第5の変形例では、H分配ネットワークの制御構成要素は、以下の1つ又は複数を含む:バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器、及び圧縮機。第6の変形例では、本方法は、非線形計画モデルの制約が違反されたときにそれを認識し、それに応答して制約を緩和することをさらに含み、ここで目的関数は、制約違反のコスト値であるペナルティ関数をさらに含む。第7の変形例では、本方法は、調整ステップに対する過渡応答を予測し、予測された過渡応答に従い非線形計画モデルの制約を調整することをさらに含む。第8の変形例では、石油精製所は、1つ又は複数の制御構成要素を有する1つ又は複数の燃料ガス炉をさらに含み;ここで非線形計画モデルは、各燃料ガス炉の燃料ガス必要量についての制約をさらに含み;ここで経済データは、各燃料ガス炉により生成される熱の金銭的な価値をさらに含み;ここで精製所運転データは、燃料ガス炉に供給される軽質ガスの量、又は各燃料ガス炉により生成される熱の量、又はその双方をさらに含み;及びここで本方法は、得られた解に従い燃料ガス炉の制御構成要素を調整することをさらに含む。第9の変形例では、石油精製所における軽質ガスが個別の構成要素として表現されるとともに、より重質の原料は、蒸留範囲に基づく群ごとに共に一括して扱われる。これらの変形例の各々は、第4の実施形態において単独で、又は任意に組み合わせて利用され得る。
【0166】
第5の実施形態は、少なくとも3つの構成要素を含む精製所である。第1の構成要素は、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む水素システムである。第2の構成要素は、水素システムを制御する少なくとも1つのプロセス制御システムである。第3の構成要素は、水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化するためのリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションがロードされたコンピュータを含む最適化部である。このアプリケーションは、水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含む。アプリケーションは現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用してモデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行う。このアプリケーションはまた、水素システムについての運転制約もロードする。次にアプリケーションは反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす水素システムについての運転目標の実行可能解を決定する。次にアプリケーションは、水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力する。次に最後に、又は同時に、アプリケーションは運転目標の推奨解をプロセス制御システムに通信する。
【0167】
この第5の精製所の実施形態の変形例が多く存在する。特に、コンピュータアプリケーションは、第1の装置の実施形態に記載されるアプリケーションであってもよく、それに対する記載される変形例のいずれか又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0168】
第6の実施形態は石油精製所である。石油精製所は複数の構成要素を含む。第一に、精製所製品の生産においてHを消費する複数のH消費ユニットであって、各々が1つ又は複数の制御構成要素を有するH消費ユニットがある。次に、H消費ユニットにHを分配するH分配ネットワークであって、複数の制御構成要素を有するH分配ネットワークがある。また、H消費ユニット及びH分配ネットワークの1つ又は複数の制御構成要素を制御するプロセス制御システムもある。加えて、非線形モデリングアプリケーションがロードされたコンピュータがある。モデリングアプリケーションは、経済的パラメータについての目的関数と1つ又は複数の制約とを含み、ここで各H消費ユニットにより生産される精製所製品の分量は、H消費ユニットによって消費され、且つH分配ネットワークによって供給されるHの分量の関数として表現され、ここでH分配ネットワークによって供給されるHの分量は、H分配ネットワーク内のHストリームの分量、流量、純度、組成、及び圧力のうちの1つ又は複数の関数として表現される。モデリングアプリケーションは、以下の各ステップを実行する:(a)H消費ユニットで生産される精製所製品の金銭的な価値を含む経済データを受け取るステップ;(b)非線形計画モデルに経済データをポピュレートするステップ;(c)各H消費ユニットについての反応器の状態を決定する1つ又は複数の反応器パラメータと、H分配ネットワーク内のHストリームの分量、流量、純度、組成、及び/又は圧力を決定する1つ又は複数の運転パラメータとを含む精製所運転データを受け取るステップ;(d)非線形計画モデルに精製所運転データをポピュレートするステップ;(e)非線形計画モデルの解を得るステップ;及び(f)得られた解に従いH分配ネットワーク、H消費ユニット、又はその双方の1つ又は複数の制御構成要素に対する推奨調整値を出力するステップ。
【0169】
第6の実施形態の変形例が多く存在する。特に、コンピュータアプリケーションは、第1の実施形態に記載されるアプリケーションであってもよく、それに対する記載される変形例のいずれか又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。一変形例では、コンピュータはプロセス制御システムとオンラインで通信し、プロセス制御システムは、コンピュータにより出力された推奨調整値に従い制御構成要素の調整を自動的に実行する。
【0170】
しかしながら、本発明は、本明細書に記載されるこれらの具体的な実施形態又は任意の他の実施形態に範囲が限定されるものではない。さらなる実施形態及びそれに対する様々な改良が、前述の記載及び添付の図面から当業者には直ちに明らかであろう。さらに、本発明は、特定の目的に対する特定の状況下における特定の実施態様に関連して本明細書に記載されているが、当業者は、その有用性がそれらに限定されるものではなく、本発明はあらゆる目的のためあらゆる状況下で有益に実施され得ることを認識するであろう。従って、以下に記載される特許請求の範囲は、本明細書に開示されるとおりの本発明の最大限の広さ及び趣旨に鑑みて解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより読み取り可能なプログラム記憶装置に格納されたリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションを含む装置であって、
前記アプリケーションは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化し、
前記アプリケーションは、前記水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含み、及び
前記アプリケーションは、(a)現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用して前記モデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、(b)前記水素システムについての運転制約をロードし、(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約に合致する前記水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、及び(d)前記水素システムの運転を、パフォーマンスに関連する目的関数に近づけるために、運転目標の推奨解を出力する、装置。
【請求項2】
前記運転目標の推奨解が、前記目的関数に対する最適解である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記目的関数が経済的目的関数である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記アプリケーションが、水素供給及び分配コストを計算するための経済データをロードし、前記アプリケーションが、各実行可能解について、前記経済データを使用して前記コストを計算し、及び前記目的関数がコストの最小化である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記アプリケーションが、前記水素消費サイトによって作られる製品の価値と、水素供給及び分配コストとを計算するための経済データをロードし、前記アプリケーションが、各実行可能解について、前記経済データを使用して、前記製品価値の合計と前記水素供給及び分配コストの合計との差として収益を計算し、及び前記目的関数が収益の最大化である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
水素ガス生産プラント又は他の水素供給ソースについての1つ又は複数の連関した非線形動的モデルをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記モデルが、水素ガス及び関連する軽質ガスの移動及び消費を追跡する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
運転上変更が加えられた場合、前記水素消費ユニットに対するモデルは、軽質ガスを個別の構成要素として表現するとともに、オレフィン化合物、芳香族化合物、有機窒素及び有機硫黄を含むより重質の原料を、前記モデルが軽質ガスの正しいシフトを予測し得るように選択する主要指標特性に一括して扱う、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記モデルが、前記精製所に動力を供給する燃料ガスシステムへの未使用又は使用済みの水素ガス及び関連する軽質ガスの投入を追跡する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記アプリケーションが少なくとも1つのプロセス制御システムと統合されるか、又はそれと通信し、定周期で自動的に実行される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記運転目標の推奨解が前記プロセス制御システムに自動的に通信され、前記プロセス制御システムにより実施される、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記精製所が石油精製所であり、前記供給ソースが、購入した水素、オンサイトの水素製造プラント、前記水素消費サイトから再循環される水素リッチ排ガス、接触改質器により生成される水素リッチ排ガス及び関連する石油化学プラントから送られる水素からなる群から選択される複数のソースを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記精製所が石油精製所であり、前記消費サイトが、水素化処理器及び水素化分解器からなる群から選択される複数の水素化処理ユニットを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記相互接続された水素分配ネットワークが、水素の流量、速度、純度及び/又は圧力を変化させるための複数の制御構成要素であって、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器及び圧縮機からなる群から選択される制御構成要素を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記運転目標が、前記ネットワークを通じてHを消費部に分配するための流量制御器設定、前記Hネットワーク内の特定のラインを通じてH分配を動かす圧力制御器設定、第三者からの高圧及び低圧Hの購買についての流量計設定、温度制御器設定、バルブ位置設定、圧縮機速度及びストリーム純度を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
リアルタイム最適化コンピュータアプリケーションが読み込まれたコンピュータを含む装置であって、
前記アプリケーションは、個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化し、
前記アプリケーションは、前記水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含み、及び
前記アプリケーションは、
(a)現在の精製所運転データを読み込み、前記運転データを使用して前記モデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、
(b)前記水素システムについての運転制約を読み込み、
(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす前記水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、及び
(d)前記水素システムの運転を、パフォーマンスに関連する目的関数に近付けるために、運転目標の推奨解を出力する、装置。
【請求項17】
個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソース、
個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイト、
相互接続された水素分配ネットワーク
を含む精製所の水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を制御する方法であって、
以下のコンピュータにより実行されるステップ:
(i)前記水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含むリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションを起動するステップ、
(ii)現在の精製所運転データを前記アプリケーションにロードし、前記運転データを使用して前記モデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行うステップ、
(iii)前記アプリケーションに運転制約をロードするステップ、
(iv)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす前記水素システムについての運転目標の実行可能解を決定するステップ、
(v)前記水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連する目的関数に近付ける運転目標の推奨解を決定するステップ、
(vi)少なくとも1つのプロセス制御システムにより前記運転目標の推奨解を実施して、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器及び圧縮機から選択される1つ又は複数の制御構成要素の設定を変更するステップ
を含む、方法。
【請求項18】
前記方法ステップのサイクルが定周期で自動的に実行され、前記推奨運転目標がプラントオペレータコンピュータに自動的に通信され、確認及び承認後、前記プロセス制御システムを使用して実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法ステップのサイクルが定周期で自動的に実行され、前記推奨運転目標が前記プロセス制御システムに自動的に通信されて、それにより実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
(i)精製所製品を生産するためにHを消費する複数のH消費ユニットであって、各々が1つ又は複数の制御構成要素を有するH消費ユニット、及び
(ii)Hを前記H消費ユニットに分配するH分配ネットワークであって、同様に複数の制御構成要素を有するH分配ネットワーク
を含む石油精製所、におけるオペレーション方法であって、
(a)目的関数と1つ又は複数の制約とを含む非線形計画モデルを定式化するステップであって、前記目的関数が経済的パラメータについてのものであり、各H消費ユニットにより生産される精製所製品の分量が、前記H分配ネットワークにより供給されるときの前記H消費ユニットによって消費されるHの分量の関数として表現され、及び前記H分配ネットワークにより供給されるHの分量が、前記H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び圧力のうちの1つ又は複数を含む関数として表現される、ステップと、
(b)前記H消費ユニットで生産される前記精製所製品の金銭的な価値を含む経済データを受け取るステップと、
(c)前記非線形計画モデルに前記経済データをポピュレートするステップと、
(d)前記H消費ユニットについての反応器の状態を決定する少なくとも1つの反応器パラメータと、前記H分配ネットワーク内のHストリームの流量、純度、温度及び/又は圧力を決定する少なくとも1つの運転パラメータとを含む精製所運転データを受け取るステップと、
(e)前記非線形計画モデルに前記精製所運転データをポピュレートするステップと、
(f)前記非線形計画モデルに対する解を得るステップと、
(g)得られた前記解に基づいて前記H分配ネットワーク及び/又は前記H消費ユニットの1つ又は複数の制御構成要素を調整するステップと、
(h)ステップ(a)〜(g)を周期的に繰り返すステップと、
を含む、方法。
【請求項21】
前記非線形計画モデルの1つ又は複数の制約が、各H消費ユニットについて以下の制約:ガスフィードの流量;精製所製品及び排出物;反応器入口、反応器出口、熱間分離器、及び冷間分離器の温度;反応器、熱間分離器、及び冷間分離器の圧力;制御構成要素のバルブ位置;処理−ガス比;反応器H分圧;反応器有効等温温度;流速;装置負荷;ストリーム品質;及びストリーム純度のうちの1つ又は複数を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記H分配ネットワークの前記制御構成要素が、以下、すなわち、バルブ、分離膜、スクラバ、圧力スイング吸着器、及び圧縮機のうちの1つ又は複数を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
以下の構成要素:
(i)個々の速度、純度、圧力及びコストで水素を提供する1つ又は複数の供給ソースと、個々の速度、純度及び圧力で水素を消費する複数の消費サイトと、相互接続された水素分配ネットワークとを含む水素システムと、
(ii)前記水素システムを制御する少なくとも1つのプロセス制御システムと、
(iii)前記水素システムにおける水素ガスの供給及び配分を最適化するためのリアルタイム最適化コンピュータアプリケーションがロードされたコンピュータを含む最適化部であって、
前記アプリケーションが前記水素システムにおける水素ガスの移動及び消費についての連関した非線形動的モデルを含み、
前記アプリケーションが、
(a)現在の精製所運転データをロードし、前記運転データを使用して前記モデルのポピュレーション及びキャリブレーションを行い、
(b)前記水素システムについての運転制約をロードし、
(c)反復的にモデル変数を操作して、運転制約を満たす前記水素システムについての運転目標の実行可能解を決定し、
(d)前記水素システムのオペレーションをパフォーマンスに関連した目的関数に近付ける運転目標の推奨解を出力し、及び(e)前記運転目標の推奨解を前記プロセス制御システムに通信する、最適化部
とを含む精製所。
【請求項24】
(i)精製所製品の生産においてHを消費する複数のH消費ユニットであって、各々が1つ又は複数の制御構成要素を有するH消費ユニットと、
(ii)前記H消費ユニットにHを分配するH分配ネットワークであって、複数の制御構成要素を有するH分配ネットワークと、
(iii)前記H消費ユニット及び前記H分配ネットワークの前記1つ又は複数の制御構成要素を制御するプロセス制御システムと、
(iv)非線形モデリングアプリケーションがロードされたコンピュータであって、前記モデリングアプリケーションが、経済的パラメータについての目的関数と1つ又は複数の制約とを含み、各H消費ユニットにより生産される精製所製品の分量が、前記H消費ユニットによって消費され、且つ前記H分配ネットワークによって供給されるHの分量の関数として表現され、前記H分配ネットワークによって供給されるHの分量が、前記H分配ネットワーク内の前記Hストリームの流量、純度、温度及び圧力のうちの1つ又は複数の関数として表現され、前記モデリングアプリケーションが以下の各ステップ−
(a)前記H消費ユニットで生産される精製所製品の金銭的な価値を含む経済データを受け取るステップと、
(b)非線形計画モデルに前記経済データをポピュレートするステップと、
(c)各H消費ユニットの反応器の状態を決定する1つ又は複数の反応器パラメータと、前記H分配ネットワーク内のHストリームの分量、流量、純度、温度及び/又は圧力を決定する1つ又は複数の運転パラメータとを含む精製所運転データを受け取るステップと、
(d)前記非線形計画モデルに前記精製所運転データをポピュレートするステップと、
(e)前記非線形計画モデルに対する解を得るステップと、
(f)得られた前記解に従い前記H分配ネットワーク、前記H消費ユニット、又はその双方の1つ又は複数の制御構成要素に対する推奨調整値を出力するステップと、
を実行する、コンピュータと、
を含む石油精製所。
【請求項25】
前記コンピュータが前記プロセス制御システムとオンラインで通信し、前記プロセス制御システムが、前記コンピュータにより出力された前記推奨調整値に従い制御構成要素の調整を自動的に実行する、請求項24に記載の石油精製所。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−505289(P2012−505289A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531029(P2011−531029)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/005566
【国際公開番号】WO2010/042223
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
2.UNIX
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】