説明

リクライニング装置及びそのロック方法

本発明は、相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に複数のスライドポール(16)が収容された、リクライニング装置において、各スライドポール(16)がフリー位置からロック位置へ移動するとき、一つのスライドポール(16A)の移動開始が他のスライドポール(16B)の移動開始よりも早いタイミングに設定されている。
このような構成を採用することにより、複数のスライドポールをフリー位置からロック位置へ移動させるスプリング力が、これまでと同程度であっても、各スライドポールがラチェットに噛み合うときの、いわゆる“歯飛び”などを解消してリクライニング装置のロック性能を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、主として車両用シートのリクライニング装置及びそのロック方法に関する。
関連技術
従来、この種のリクライニング装置としては、例えば特開2000−79032号公報に開示された技術が既に知られている。この技術では、相対的に回転できるように組み付けられた固定側ハウジングと回転側ハウジングとで構成された内部空間に、一対のポールと一つの操作カムとがそれぞれ収容されている。両ポールは、固定側ハウジングに対して相対的な回転が規制された状態で径方向へ移動できるとともに、回転側ハウジングの内周に形成されている内歯に噛み合うことが可能な歯部をそれぞれ備えている。かかる回転側ハウジングの内歯を、以下「ラチェット」という。
操作カムは、操作軸の回転操作に連動して一方向へ作動し、この操作力を解除したときにスプリング力によって逆方向に作動する。このスプリング力に基づく操作カムの作動により、両ポールが径方向に沿って中心側のフリー位置から外方側のロック位置に移動し、個々の歯部がラチェットに噛み合う。これによって両ハウジングの相対的な回転が規制され、リクライニング装置はロック状態になる。
一対のポールがフリー位置からロック位置に向かって移動するとき、これらの両ポールに対してスプリング力は半々に分散して作用する。したがってラチェットに対する個々のポールの噛み合い(ロック)力が不充分となり、狙った噛み合い箇所から1〜2歯ずれた箇所で噛み合う、といった、いわゆる“歯飛び”が生じやすい。この現象を防止してリクライニング装置のロック性能を高めるためにスプリング力を強力にすることもできるが、そうするとリクライニング装置の大型化、重量やコストの増大を招く。
【発明の開示】
本発明の目的は、これまでと同程度のスプリング力であっても、各ポールがラチェットに噛み合うときの、いわゆる“歯飛び”などを解消してリクライニング装置のロック性能を高めることである。
請求項1の発明は、相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に複数のポールが収容され、これらの各ポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制され、かつ、前記両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能であり、また、前記各ポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置へスプリング力により移動させる構成のリクライニング装置であって、前記各ポールが、前記フリー位置から前記ロック位置へ移動するとき、少なくとも一つのポールが、他のポールに先行して移動するように設定されている。
このような構成を採用することにより、各ポールがスプリング力に基づいてフリー位置からロック位置へ移動するときの初期段階では、例えば移動開始のタイミングが早く設定された一つのポールにだけ、スプリング力を集中的に作用させることができる。したがって、スプリング力はこれまでと同程度であっても、ラチェットに対する一つのポールの噛み合い(ロック)力が大きくなり、いわゆる“歯飛び”などの発生を解消してリクライニング装置のロック性能を高めることができる。
請求項2の発明は、請求項1における各ポールの移動タイミングが、操作カムにおけるカム部の形状によって設定され、このカム部の形状を変更するたけで、リクライニング装置に対する大幅な設計変更を避けることができる。
請求項3〜5の発明は、操作カムの態様に関するもので、請求項3では、操作カムにおける前記各カム部の形状が、少なくとも一つのポールを、他のポールに先行して移動させるように設定されている。請求項4では、請求項3における前記操作カムの前記各カム部の形状が、前記各ポールをフリー位置からロック位置へ移動させるとき、一つのポールの歯部がラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するように設定されている。請求項5では、請求項3における前記操作カムの作動により、最初に一つのポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのポール側からの反力を受け止め、このポールの移動が完了する前に、他のポールの作動を開始し、他のポール側からの反力は、一つのポールによって受け止めるように設定されている。
請求項6〜10の発明は、スライドタイプのポールを用いた場合の態様に関するもので、請求項6では、操作カムにおける各カム部の形状が、少なくとも一つのスライドポールを、他のスライドポールに先行して移動させるように設定されている。請求項7では、請求項6における操作カムがスライドによって作動する形式であり、一つのスライドポールの移動は、このスライドポールの当接部に干渉する前記操作カムのカム部とは反対側面と、前記操作カムのスライドを案内しているハウジングの案内溝壁面との接触部を支持点として行われるように設定されている。請求項8では、請求項6における操作カムが回転によって作動する形式であり、一つのスライドポールの移動は、前記操作カムと、この操作カムが回転可能に支持されているハウジングの軸受孔内周との接触部を支持点として行われるように設定されている。請求項9では、請求項6における操作カムのカム部の形状が、各スライドポールをフリー位置からロック位置へスライドさせるとき、一つのスライドポールの歯部がラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するように設定されている。請求項10では、請求項6における操作カムの作動により、最初に一つのスライドポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのスライドポール側からの反力を受け止め、このスライドポールの移動が完了する前に、他のスライドポールの作動を開始し、他のスライドポール側からの反力は、一つのスライドポールによって受け止めるように設定されている。
請求項11の発明は、相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に、複数のポールと操作カムとがそれぞれ収容され、前記各ポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制されているとともに、両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能な歯部と、この歯部の反対側に位置する当接部とを備え、前記操作カムは、前記各ポールの前記当接部に対して個別に干渉することが可能なカム部をそれぞれ備え、この操作カムが所定のスプリング力を受けて作動することにより、前記各カム部が前記各ポールの前記当接部に個別に干渉し、これらのポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記歯部が前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置に移動させる構成のリクライニング装置であって、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、一つのポールの移動開始が他のポールの移動開始よりも早いタイミングとなるように設定されている。
これにより、各ポールがスプリング力に基づいてフリー位置からロック位置へ移動するときの初期段階では、移動開始が早い一つのスライドポールにだけ、スプリング力を集中的に作用させることができる。
請求項12の発明は、請求項11における操作カムの各カム部の形状が、前記各ポールをフリー位置からロック位置へ移動させるとき、一つのポールの前記歯部が前記ラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するタイミングとなるように設定されている。
請求項13の発明は、請求項11における操作カムの作動により、最初に一つのポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのポール側からの反力を受け止め、このポールの移動が完了する前に、他のポールの作動を開始し、他のポール側からの反力は、一つのポールによって受け止めるように設定されている。
請求項14の発明は、相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内において、所定のスプリング力による操作カムの作動により、一方のハウジングに設けられた複数のポールを径方向へ移動させ、他方のハウジングに形成されているラチェットに噛み合わせる方法であって、前記操作カムの作動によって前記各ポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置に移動させる際に、前記操作カムが、この操作カムの作動を案内している部材との接触部を支持点として一つのドポールを移動させる。そして、このポールの歯部が前記ラチェットに対する噛み合いを完了する前に、前記操作カムが、前記一つのポールとの接触部を支持点として他のポールをその歯部が前記ラチェットに対して噛み合うロック位置に移動を開始させる。
このように、操作カムの作動によって各ポールをそのフリー位置からラチェットに噛み合ったロック位置に移動させるとき、ポール側からの反力を受け止めるための操作カムの支持点を順次変化させることで、最終的には全てのポールをラチェットに適正に噛み合わせることができる。
本発明のさらなる特徴、利点および各種の態様は、図面に関連して以下の説明を読むことで、より十分に明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、車両用シートを一部省略して表した側面図。
図2は、実施の形態1におけるリクライニング装置を図1のII−II矢視方向からみた拡大断面図。
図3は、図2のリクライニング装置をIII−III矢視方向からみた平面図。
図4は、図3のリクライニング装置において一つのスライドポールが噛み合う直前の状態を表した平面図。
図5は、図3のリクライニング装置において一つのスライドポールがほぼ噛み合った状態を表した平面図。
図6は、図3のリクライニング装置において他のスライドポールが完全に噛み合った状態を表した平面図。
図7は、図3のリクライニング装置においてロック状態を表した平面図。
図8は、実施の形態2におけるリクライニング装置を図3と対応させて表した平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
つぎに、本発明の実施の形態を説明する。まず、実施の形態1を図1〜7によって説明する。
図1は、車両用シートを一部省略して表した側面図である。図2は、図1のII−II矢視方向からみた拡大断面図である。図3〜7は、図2のIII−III矢視方向からみた平面図である。図1で示すように、シートのシートクッションC後部には、シートバックB下部がリクライニング装置Rによって連結されている。操作レバー25の操作により、リクライニング装置Rのロックを解除することができ、それによってシートバックBを操作軸22の軸芯回りに前後方向へ傾倒させることができる。
図2、3で示すように、リクライニング装置Rは、個々に円盤形状をした固定側ハウジング10と回転側ハウジング12とによって外殻が構成されている。両ハウジング10,12は、互いに対向して嵌め合わされ、かつ相互の外周部に組み付けられたリング部材18をカシメ付けることにより、相対的な回転可能に結合されている(図2)。
固定側ハウジング10は、シートクッションCのクッションフレーム26に取り付けられ、回転側ハウジング12はシートバックBのバックフレーム28に取り付けられる。両ハウジング10,12の内部に構成された収容空間には、一つの操作カム14、一対のスライドポール16(16A,16B)、操作部材20およびスパイラル形状のスプリング24がそれぞれ収容されている。これらの各構成部材は、両ハウジング10,12の中心部を貫通する操作軸22に直接的、または他の構成部材を介して間接的に支持される。この操作軸22の両端部は、両ハウジング10,12の外に突き出ている。
固定側ハウジング10は、その中心部に貫通して形成された挿通孔10aを有する(図1)。また、図3で示すように、固定側ハウジング10の内側は円形の凹部になっており、この凹部内には、十字状に交差して縦横に延びる案内溝10b,10cが形成されている。案内溝10bに一つの操作カム14が位置し、案内溝10cに一対のスライドポール16(16A,16B)がそれぞれ位置する。
回転側ハウジング12は、その中心部において挿通孔10aと同軸線上で対向するように貫通して形成された挿通孔12aを有する(図2)。また、図3で示すように、回転側ハウジング12の内側は円形の凹部になっている。この凹部の外側周面には、歯が形成されてラチェット12bを構成している部分と、歯が形成されていない非歯部分12cとがある。非歯部分12cは、凹部の外側周面に対して180度の間隔をもって二箇所に位置し、これらの非歯部分12cによってラチェット12bが周方向に関して二分されている。なお、回転側ハウジング12の外径は、固定側ハウジング10に接合された際に、固定側ハウジング10の円形凹部に嵌まり合う大きさである。
図3で示すように、操作カム14は、ほぼ長方形をしたプレートで、その両長辺側の中央付近において径方向に突出した係合突部14a,14bをそれぞれ備えている。また、操作カム14の両長辺側には、カム部14c,14dがそれぞれ形成され、これらは係合突部14a,14bの両側に位置している。操作カム14は、その中心部において操作部材20が嵌まり合う孔14eを有する。
両スライドポール16(16A,16B)は、相互に同一の形状をしたプレート部材であるが、操作カム14の作動に伴う移動開始のタイミングが互いに異なる。そこで、個々の移動に関しては、スライドポール16A,16Bを区別して説明し、それ以外の場合においては、両スライドポール16A,16Bを総称してスライドポール16として説明する。
図3で示すように、スライドポール16は、ほぼアーチ形状をしている。スライドポール16において、ポール案内溝10cに組み付けられた状態で径の外方側に位置する頂部には、ラチェット12bに噛み合うことが可能な歯部16aが形成されている。スライドポール16の頂部と反対側、つまり、ポール案内溝10cに組み付けられた状態で径の内方側に位置する部分には、個々に左右一対の当接部16bが設けられている。両当接部16bの中間部は、係合凹部16cとなっている。
操作部材20は、筒状軸部20aと、その外周部から外方へ突出したアーム部20bとを備えている。アーム部20bは、操作カム14における孔14eの一部に嵌まり合う(図3)。筒状軸部20aの一部は、固定側ハウジング10の挿通孔10a内に位置している(図2)。この筒状軸部20aの内部に、操作軸22の小径部分22aが固定側ハウジング10の外側から挿入される。この筒状軸部20a内周と小径部分22a外周とは、相互間の回転伝達が可能な形状になっている。なお、操作軸22の大径部分22bは、固定側ハウジング10の外側に位置し、その端部に操作レバー25が取り付けられている。
図2で示すように、スプリング24は、既に述べたようにスパイラル状をしており、固定側ハウジング10と操作部材20との間でトーションバネとして機能する。つまり、スプリング24の内端部は、筒状軸部20aの外周に結合され、スプリング24の外端部は、固定側ハウジング10の内壁部に結合されている。
リクライニング装置Rの各構成部材が組み付けられた状態において、操作カム14は、固定側ハウジング10のカム案内溝10b内において、図3の左右方向へ摺動できるように位置している。一方、両スライドポール16は、固定側ハウジング10のポール案内溝10c内において、操作カム14を挟んた格好で位置し、周方向の移動を規制され、かつ径方向へは摺動できるようになっている。操作カム14の両係合突部14aは、両スライドポール16の係合凹部16c内にそれぞれ位置している。また、操作カム14のカム部14c,14dは、両スライドポール16の当接部16bに対し、接触または接触可能に位置している。
同じくリクライニング装置Rの各構成部材が組み付けられた状態において、操作部材20は、スプリング24の力により、図3の反時計回り方向へ付勢されている。このため、操作カム14は、操作部材20のアーム部20bを通じて図3の左方向への作動力を受けている。なお、操作軸22がその軸芯回りに回転操作されたときは、操作部材20がスプリング24の力に抗して図3の時計回り方向へ作動する。このときの操作カム14は、アーム部20bを通じて図3の右方向への作動力を受ける。
つづいて、リクライニング装置Rの作動について説明する。
図3ではリクライニング装置Rのロックが解除されたフリー状態、つまり、回転側ハウジング12が回転できる状態が示されている。この状態では、両スライドポール16は、個々の歯部16aが回転側ハウジング12の非歯部分12cと対向した位置にある。また、このフリー状態では、操作軸22に対する回転操作力が解除されており、操作カム14は、スプリング24の力により図2の左方向への作動力を受けている。このため、操作カム14のカム部14cが図2の上側に位置するスライドポール16Aの当接部16bに接触し、このスライドポール16Aを径の外方向へ押している。
これにより、スライドポール16Aは、その歯部16aが回転側ハウジング12の非歯部分12cに接触した状態で、径方向の位置が規制されている。したがって、この状態における操作カム14は、スライドポール16Aからの反力を受けてカム案内溝10bの片側(図3の下側)壁面Aにより受け止められている。言い換えれば、操作カム14は、カム案内溝10bの壁面Aを支持点として一つのスライドポール16Aを径の外方向へ押している。なお、この状態において、カム案内溝10bの反対側(図3の上側)壁面と操作カム14との間には僅かな隙間がある。また、操作カム14のカム部14dについては、図2の下側に位置するスライドポール16Bの当接部16bに接触していない。
図1で示すシートバックBを、例えば前傾状態から後ろ側へ起こすときのクッションフレーム26に対するバックフレーム28の回動により、回転側ハウジング12が図3の状態において時計回り方向へ回転する。この回転により、図4で示すようにラチェット12bが、両スライドポール16の歯部16aと対向した位置にくる。これと同時に、操作カム14がスプリング24の力によって左方向へ作動し、そのカム部14cでスライドポール16Aの当接部16bを押す。したがって、操作カム14は、カム案内溝10bの壁面Aを支持点としてスライドポール16Aを径の外方向へ移動させる。図4はスライドポール16Aの歯部16aがラチェット12bに噛み合う直前の状態が示されている。そして、この状態での操作カム14のカム部14dについては、スライドポール16Bの当接部16bに未だ接触しておらず、スライドポール16Bは移動していない。
操作カム14が、スプリング24の力を受けて、さらに左方向へ作動することにより、図5で示すように操作カム14は、壁面Aを支持点としてスライドポール16Aを引き続き径の外方向へ移動させる。図5は、スライドポール16Aの歯部16aがラチェット12bに対し、相互の歯丈の半分ほど噛み合った状態が示されている。この状態では、操作カム14のカム部14dが、他方のスライドポール16Bの当接部16bに接触し初めている。
操作カム14が、さらに左方向へ作動することにより、スライドポール16Aに追従した格好でスライドポール16Bも径の外方向へ移動し始める。そして、カム部14c,14dの形状の違いにより、図6で示すようにスライドポール16Aの歯部16aがラチェット12bに完全に噛み合う寸前に、スライドポール16Bの歯部16aがラチェット12bに対して完全に噛み合う。
操作カム14が、さらに左方向へ作動すると、図7で示すようにカム部14dがスライドポール16Bの当接部16bに乗り上げた状態になる。つまり、この状態以降は、操作カム14の支持点が、カム案内溝10bの壁面Aからスライドポール16Bの当接部16bに移る。したがって、その後の操作カム14は、当接部16bを支持点としてスライドポール16Aを径の外方向へ移動させ、その歯部16aがラチェット12bに対して完全に噛み合う。これによってリクライニング装置Rは、両ハウジング10,12の相対的な回転が阻止されたロック状態となり、スプリング24の力によってロック状態が保持される。
このようにスライドポール16を、そのフリー位置からラチェット12bに噛み合ったロック位置に移動させるとき、仮に図5の時点でスライドポール16Aをラチェット12bに完全に噛み合わせると、その時点から操作カム14は左方向への移動が不能になる。その結果、他のスライドポール16Bをラチェット12bに噛み合わせることができなくなる。そこで、ロック位置への移動開始タイミングが早いスライドポール16Aを、ラチェット12bに対して完全に噛み合わせる前に、他のスライドポール16Bをラチェット12bに対して完全に噛み合わせる。そして、最終的にスライドポール16Aをラチェット12bに完全に噛み合わせることで、両スライドポール16A,16Bをラチェット12bに適正に噛み合わせることができる。
リクライニング装置Rのロック状態を解除するには、操作レバー25の操作により、操作軸22および操作部材20をスプリング24の力に抗して時計回り方向へ回転させる。これに連動して操作カム14が、図面の右方向に作動し、両係合突部14a,14bが両スライドポール16の係合凹部16cにそれぞれ進入する。これによって、スライドポール16が径の内方向へ引き込まれるように移動し、個々の歯部16aとラチェット12bとの噛み合いが解除され、両ハウジング10,12の相対的な回転が可能となる。
つづいて、本発明の実施の形態2を図8によって説明する。
図8は、実施の形態2におけるリクライニング装置を図3と対応させて表した平面図である。この図面で明らかなように、実施の形態3では、回転タイプの操作カムと三個のスライドポールとを備えた構成のリクライニング装置Rに本発明を適用したものである。
図8において、円形プレート状の操作カム114は、固定側ハウジング10内で操作軸122の軸心回りに回転できるように位置している。また三個のスライドポール116(116A,116B,116C)は、固定側ハウジング10の各ポール案内溝内において周方向の移動を規制され、かつ径方向へは摺動できるように位置している。操作カム114の外周に形成されている各カム部114c,114d,114eは、各スライドポール116の当接部116bに対し、接触または接触可能に位置している。操作カム114は、ハウジング10,12の軸受孔13に対して回転自在に支持されているとともに、スプリング(図示外)の力により図8の反時計回り方向へ付勢されている。
図8はリクライニング装置Rのロックが解除されたフリー状態、つまり両ハウジング10,12が相対的に回転できる状態が示されている。この状態では、操作カム114のカム部114cが一つのスライドポール116Aの当接部116bに接触し、このスライドポール116Aを径の外方向へ押している。これにより、実施の形態1の場合と同様にスライドポール116Aは、その歯部116aがラチェット12bの非歯部分に接触した状態で、径方向の位置が規制されている。したがって、操作カム114は、スライドポール116Aからの反力を受け、軸受孔13の内周面の一部で受け止められている。つまり、操作カム114は軸受孔13の内周面を支持点として一つのスライドポール116Aを径の外方向へ押している。なお、操作カム114のカム部114d,114eについては、他のスライドポール116B,116Cの当接部116bに接触していない。
回転側ハウジング12が図8の時計回り方向へ回転することにより、実施の形態1において説明したように、ラチェット12bが各スライドポール116の歯部116aと対向した位置にくる。これと同時に、操作カム114がスプリング力によって反時計回り方向へ回転し、そのカム部114cでスライドポール116Aの当接部116bを押す。したがって、操作カム14は、軸受孔13の内周面を支持点としてスライドポール116Aを径の外方向へ移動させる。そして、スライドポール116Aの歯部116aが、ラチェット12bに対し、相互の歯丈の半分ほど噛み合った時点で、他のスライドポール116B,116Cの当接部16bに操作カム114のカム部114d,114eがそれぞれ接触する。
操作カム114がさらに回転することにより、スライドポール116Aに追従して他のスライドポール116B,116Cも径の外方向へ移動し始める。そして、スライドポール116Aの歯部116aが、ラチェット12bに完全に噛み合う寸前に、スライドポール116B,116Cの歯部116aがラチェット12bに対して完全に噛み合う。この後、操作カム114の回転によってカム部114d,114eが、スライドポール116B,116Cの当接部116bに乗り上げた状態になる。ここから操作カム114の支持点が、軸受孔13の内周面からスライドポール116B,116Cの当接部116bに移る。したがって、その後の操作カム114は当接部116bを支持点としてスライドポール116Aを径の外方向へ移動させ、その歯部116aがラチェット12bに対して完全に噛み合う。これによってリクライニング装置Rは、両ハウジング10,12の相対的な回転が阻止されたロック状態となる。
実施の形態2におけるリクライニング装置Rのロックを解除する場合も、操作軸122と共に操作カム114をスプリング力に抗して時計回り方向へ回転させる。この操作カム114と一体的に回転するプレート部材(図示外)の機能により、各スライドポール116が径の内方向へ移動し、個々の歯部116aとラチェット12bとの噛み合いが解除される。なお、実施の形態2における形式のリクライニング装置Rでは、スライドポール116が4個以上使用される場合もある。
実施の形態1,2においては、スライド式のポール16,116を採用したリクライニング装置Rについて説明したが、ポールには、操作カムの作動により、フリー位置からロック位置へ回動する形式のポールを採用したリクライニング装置もある。また、実施の形態1,2では、少なくとも一つのポールの移動開始が他のポールの移動開始よりも早いタイミングに設定されている場合について説明したが、例えば移動開始のタイミングは各ポール共に同じでも、特定のポールの移動量が他のポールよりも先行するように設定することもできる。
以上説明したように、各スライドポールが、ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置へスプリング力により移動するときの初期段階では、このスプリング力を一つのスライドポールにだけ集中的に作用させることができる。この結果、スプリング力はこれまでと同程度であっても、ラチェットに対する一つのスライドポールの噛み合い(ロック)力が大きくなる。そして、すでに説明したように、例えば移動開始タイミングの早い方のスライドポールがラチェット12bに完全に噛み合う前に、他のスライドポールをラチェット12bに完全に噛み合わせている。この噛み合い順序により、操作カムの摺動あるいは回転が不能になるのを避け、全てのスライドポールをラチェット12bに噛み合わせることができる。
以上は、本発明をその好ましい実施の形態に関連して説明したが、この実施の形態については、添付の請求の範囲に記載された本発明の精神から逸脱しない範囲において、容易に変更及び変形を行うことができることを理解されたい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に複数のポールが収容され、これらの各ポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制され、かつ、前記両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能であり、また、前記各ポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置へスプリング力により移動させる構成であって、前記各ポールが、前記フリー位置から前記ロック位置へ移動するとき、少なくとも一つのポールが、他のポールに先行して移動するように設定されているリクライニング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ハウジング内に、前記スプリング力によって作動する操作カムが収容され、前記各ポールの移動タイミングが、前記操作カムにおけるカム部の形状によって設定されるリクライニング装置。
【請求項3】
相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に、複数のポールと操作カムとがそれぞれ収容され、前記各ポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制されているとともに、両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能な歯部と、この歯部の反対側に位置する当接部とを備え、前記操作カムは、前記各ポールの前記当接部に対して個別に干渉することが可能なカム部をそれぞれ備え、この操作カムが所定のスプリング力を受けて作動することにより、前記各カム部が前記各ポールの前記当接部に個別に干渉し、これらのポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記歯部が前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置に移動させる構成であって、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、少なくとも一つのポールを、他のポールに先行して移動させるように設定されているリクライニング装置。
【請求項4】
請求項3において、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、前記各ポールをフリー位置からロック位置へ移動させるとき、一つのポールの前記歯部が前記ラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するように設定されているリクライニング装置。
【請求項5】
請求項3において、前記操作カムの作動により、最初に一つのポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのポール側からの反力を受け止め、このポールの移動が完了する前に、他のポールの作動を開始し、他のポール側からの反力は、一つのポールによって受け止めるように設定されているリクライニング装置。
【請求項6】
相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に、複数のスライドポールと操作カムとがそれぞれ収容され、前記各スライドポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制された状態で径方向へスライド可能であり、かつ、両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能な歯部と、この歯部の反対側に位置する当接部とを備え、前記操作カムは、前記各スライドポールの前記当接部に対して個別に干渉することが可能なカム部をそれぞれ備え、この操作カムが所定のスプリング力を受けて作動することにより、前記各カム部が前記各スライドポールの前記当接部に個別に干渉し、これらのスライドポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記歯部が前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置にスライドさせる構成であって、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、少なくとも一つのスライドポールを、他のスライドポールに先行して移動させるように設定されているリクライニング装置。
【請求項7】
請求項6において、前記操作カムがスライドによって作動する形式であり、一つのスライドポールの移動は、このスライドポールの前記当接部に干渉する前記操作カムの前記カム部とは反対側面と、前記操作カムのスライドを案内している前記ハウジングの案内溝壁面との接触部を支持点として行われるように設定されているリクライニング装置。
【請求項8】
請求項6において、前記操作カムが回転によって作動する形式であり、一つのスライドポールの移動は、前記操作カムと、この操作カムが回転可能に支持されている前記ハウジングの軸受孔内周との接触部を支持点として行われるように設定されているリクライニング装置。
【請求項9】
請求項6において、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、前記各スライドポールをフリー位置からロック位置へスライドさせるとき、一つのスライドポールの前記歯部が前記ラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するように設定されているリクライニング装置。
【請求項10】
請求項6において、前記操作カムの作動により、最初に一つのスライドポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのスライドポール側からの反力を受け止め、このスライドポールの移動が完了する前に、他のスライドポールの作動を開始し、他のスライドポール側からの反力は、スライドポール相互によって受け止めるように設定されているリクライニング装置。
【請求項11】
相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内に、複数のポールと操作カムとがそれぞれ収容され、前記各ポールは、前記両ハウジングの一方に対して相対的な回転が規制されているとともに、両ハウジングの他方に形成されているラチェットに噛み合い可能な歯部と、この歯部の反対側に位置する当接部とを備え、前記操作カムは、前記各ポールの前記当接部に対して個別に干渉することが可能なカム部をそれぞれ備え、この操作カムが所定のスプリング力を受けて作動することにより、前記各カム部が前記各ポールの前記当接部に個別に干渉し、これらのポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記歯部が前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置に移動させる構成であって、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、一つのポールの移動開始が他のポールの移動開始よりも早いタイミングとなるように設定されているリクライニング装置。
【請求項12】
請求項11において、前記操作カムにおける前記各カム部の形状が、前記各ポールをフリー位置からロック位置へ移動させるとき、一つのポールの前記歯部が前記ラチェットに対して噛み合いを完了する前に、他のポールがその歯部を前記ラチェットに噛み合わせるための移動を開始するタイミングとなるように設定されているリクライニング装置。
【請求項13】
請求項11において、前記操作カムの作動により、最初に一つのポールの移動を開始したときは、前記操作カムの作動を案内している部材によって前記一つのポール側からの反力を受け止め、このポールの移動が完了する前に、他のポールの作動を開始し、他のポール側からの反力は、ポール相互によって受け止めるように設定されているリクライニング装置。
【請求項14】
相対的に回転できるように組み付けられた一対のハウジング内において、所定のスプリング力による操作カムの作動により、一方のハウジングに設けられた複数のポールを径方向へ移動させ、他方のハウジングに形成されているラチェットに噛み合わせる方法であって、前記操作カムの作動によって前記各ポールを、前記両ハウジングの相対的な回転を可能とするフリー位置から前記ラチェットに噛み合って前記両ハウジングの相対的な回転を規制するロック位置に移動させる際に、前記操作カムが、この操作カムの作動を案内している部材との接触部を支持点として一つのポールを移動させ、このポールの歯部が前記ラチェットに対する噛み合いを完了する前に、前記操作カムが、前記一つのポールとの接触部を支持点として他のポールをその歯部が前記ラチェットに対して噛み合うロック位置に移動を開始させるリクライニング装置のロック方法。

【国際公開番号】WO2004/012560
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525802(P2004−525802)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009700
【国際出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(000101639)アラコ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】