説明

リソストリップのコンディショニング

本発明は、ワークピースの、詳細にはストリップ又はシートの、更に詳細にはアルミニウム合金からなるリソストリップ又はリソシートの表面のコンディショニング方法に関する。ワークピースの表面をコンディショニングする方法と、電気化学グレーニングの製造速度を向上させること同時に、ワークピースの電気化学グレーニングされた表面の高品質を維持する、アルミニウム合金からなるワークピースとを提供する目的は、ワークピースの表面を脱脂媒質によって脱脂する工程と、そして、続いて、ワークピースの表面をピックリングにより洗浄する工程との少なくとも2つの工程を含むコンディショニング方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ストリップ又はシート、更に、特に、アルミニウム合金からなるリソストリップ(lithostrip)又はリソシート(lithosheet)のワークピース(work piece)表面のコンディショニング(conditioning)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークピース(例えば、アルミニウム合金からなるストリップ又はシート)は、次の製造工程用にそれらを準備するために、仕上げ圧延後に表面処理されることが多い。特に、リソグラフ印刷用のストリップ又はシートをコンディショニングして、次のグレーニング(graining)プロセスにおける所定の表面粗度を達成する。リソストリップ又はシートを、通常、仕上げ圧延後に脱脂(degreasing)する。米国特許第5,997,721号から公知であるように、酸性電解質浴中でアルミニウム合金シートをAC電流によって陽極酸化(anodizing)することによって、表面のそれぞれの脱脂洗浄を1つの工程で実施する。アルミニウム銀を脱脂又は洗浄するその他の方法は、独国特許第DE4317815C1号、すなわちアルカリ媒質の使用から公知である。
【0003】
しかしながらリソストリップの従来の電気化学グレーニングにおいて、通常、それらを前処理で水酸化ナトリウムにさらして、表面を再度脱脂及び洗浄する。前記工程は、原則として、リソグラフ印刷プレート(lithographic printing plates)の製造の脇で行われる。リソストリップの電気化学グレーニング中の製造速度の向上により、リソストリップ表面の前処理の時間、及び、電気化学グレーニング自体の時間が短縮する。製造速度の向上のために、水酸化ナトリウムによる前処理が、リソストリップ表面からすべての汚染物質を除去するのに十分でないことが分かった。結果として、電気化学グレーニングの結果は安定せず、そして、電気化学グレーニングされたリソストリップ又はシートに表面欠陥が発生する。しかしながら、製造速度の低下により、リソグラフ印刷プレート用の生産コストがより高くなる。
【0004】
従って、本発明の目的は、ワークピースの表面をコンディショニングする方法と、電気化学グレーニングでの製造速度を向上させることが可能であると同時に、ワークピースの電気化学グレーニングされた表面の高品質を維持する、アルミニウム合金からなるワークピースとを提供することである。
【0005】
本発明の第1の教示によると、前記目的は、アルミニウム合金からなるアルミニウムワークピースの表面をコンディショニングする方法であって、ワークピース表面を脱脂媒質によって脱脂する工程と、そして、次に、ピックリング(pickling)によってワークピースの表面を洗浄する工程との、少なくとも2つの工程を含む前記方法により達成される。
【0006】
驚くべきことに、本発明の2工程コンディショニング方法と、通常実施される、リソストリップの電気化学グレーニング前の水酸化ナトリウムでの前処理との組合せは、製造速度が上昇しても電気化学グレーニングの安定した結果をもたらすことが分かっている。本発明のコンディショニング方法は、従来技術から公知のように、アルミニウムワークピースの表面を陽極酸化せずに、圧延によって導入された表面下酸化物粒子(subsurface oxide particles)をほとんど含まないアルミニウムワークピースの表面を提供する。結果として、本発明の方法によってコンディショニングされるアルミニウム合金ワークピースの表面は、従来の洗浄後の電気化学グレーニングで必要とされるよりも明らかに低い電荷密度(900C/dm未満)で、電気化学グレーニング中に完全にグレーニングされる。
【0007】
本発明の第1の実施形態によると、アルカリ性又は酸性媒質、あるいは、有機溶媒を脱脂媒質として使用して、ワークピース表面を脱脂することが好ましい。有機溶媒(例えば、イソプロピルアルコール)は、アルミニウムワークピースの表面を効果的に脱脂するのに対して、アルカリ性又は酸性脱脂媒質は、アルミニウムワークピースの表面を次のピックリング工程に対して増感するという追加の利点を有する。
【0008】
本発明のコンディショニング方法の第2の実施形態によると、トリポリリン酸ナトリウム5〜40%と、グルコン酸ナトリウム3〜10%と、ソーダ30〜70%との混合物少なくとも1.5〜3重量%、並びに、非イオン性及びアニオン性界面活性剤の混合物3〜8%を脱脂媒質が含有する場合に、圧延油の除去に関する更なる改良を達成することができる。前記脱脂媒質は、コンディショニングしたアルミニウムワークピースの表面から圧延油及び他の汚染物質を高い有効性で除去する。好ましくは、脱脂媒質の温度を上昇させることによって、脱脂媒質の脱脂効果を向上することができる。
【0009】
水酸化ナトリウムを、ピックリングに利用することが好ましい。水酸化ナトリウムをピックリングで使用することにより、特に、高温(すなわち、70℃以上)で、アルミニウムワークピース表面上の島状の酸化物(oxide islands)を良好に除去することができる。しかしながら、より低い温度であっても、水酸化ナトリウムは安定した電気化学グレーニングプロセスを上昇した製造速度で指示する。更に、ピックリングにはフッ化水素酸も使用され得る。
【0010】
本発明の方法の更に有利な実施形態によると、ピックリングは、リン酸によるAC洗浄を含む。AC洗浄の間、交流はピックリングプロセスを補助(support)し、そして、リン酸は電解質として使用される。リン酸は特に、圧延中に導入されるアルミニウムワークピース表面上の島状酸化物を攻撃する。リソストリップ表面のアルミニウムは、非常に強力には攻撃されない。本発明の方法の脱脂工程後に、リン酸によるAC洗浄を使用することにより、アルミニウムワークピース表面から、島状酸化物及び汚染物質を良好に除去することができる。しかしながら、電解質として硫酸を使用するAC洗浄も可能である。
【0011】
本発明の更なる実施形態によると、ピックリングにリン酸を利用することが好ましい。リン酸は、AC電流の非存在下でも、アルミニウムワークピース表面の島状酸化物を主に攻撃して、ワークピース自体のアルミニウム除去をほとんど生じさせない、という利点を有する。結果として、ワークピース表面から多すぎるアルミニウムを除去することなく、ピックリングを極めて完全に達成することができる。驚くべきことに、リン酸のみを用いたピックリングによって達成された結果は、AC電流によって補助されたリン酸によるピックリングの結果と比較すると、優れているということが分かった。AC洗浄中に構築される任意の酸化膜が存在しないことにより、脱脂工程と組合されるリン酸の優れた結果の原因であるということが推定される。
【0012】
好ましくは、ワークピースはストリップ又はシート(特に、リソストリップ又はリソシート)である。この場合、リソストリップ又はリソシートの製造に必要な電気化学グレーニングプロセスを、より短時間内に完全に達成でき、そして、製造速度を上昇させることができる。更に、必要な電荷密度を低下させると同時に、十分にグレーニングされたストリップ又はシート表面を提供することができる。
【0013】
本発明のコンディショニング方法を、その後のストリップ(特に、リソストリップ)の製造で実施し、そして、コンディショニングされたストリップをコイルに巻き取る。この場合、リソグラフ印刷プレートを製造するために使用される更なる電気化学グレーニングプロセスでの最適性能を含む、コンディショニングされたリソストリップのコイルが提供され得る。
【0014】
本発明の第2の教示によると、前記目的は、本発明の方法によってコンディショニングされるアルミニウム合金からなるワークピースによって達成される。前述のように、本発明のワークピースは、次の電気化学グレーニングプロセスのための最適性能を備えた、洗浄された表面を提供する。
【0015】
更に好ましくは、ワークピースはストリップ又はシート(特に、リソストリップ又はリソシート)である。リソストリップ又はシートはリソグラフ印刷プレート用に生産され、それらが構成しているアルミニウム合金及びその特定の厚さ(通例1mm未満である)のために「通常の」シートとは異なる。更に、リソストリップ又はシートの表面を、粗面化(roughening)プロセス用に準備する必要がある。なぜなら、リソグラフ印刷プレートの製造は電気化学グレーニングを一般に含み、印刷プロセス用にリソグラフ印刷プレートの表面を準備するからである。本発明のシート又はストリップ(特に、本発明のリソシート又はリソストリップ)では、表面の必要な電気化学グレーニングを、低下した電荷担体密度でより短時間に達成することができる。
【0016】
本発明のワークピースの最適化表面以外では、ワークピースのアルミニウム合金が、アルミニウム合金AA1050、AA1l00、AA3103、又はAlMg0.5のうちの1つである場合に、電気化学グレーニング中の機械的特徴及び改良されたグレーニング構造を提供する。これらのアルミニウム合金は、リソグラフ印刷プレートに必要な機械的強度を提供すると同時に、合金成分の量が少ないために、表面の均質なグレーニングが可能となる。しかしながら、その他のアルミニウム合金からなるワークピースも同じ利点を提供することができる。
【0017】
本発明のワークピースの更に好ましい実施形態によると、アルミニウム合金は、以下の合金成分(重量%で表示):
Si<0.1%、
0.3%≦Fe≦0.4%、
Cu<0.01%、
Mn<1.1%、
Mg<0.2%、
Zn<0.01%、
Ti<0.01%、
と、単独でそれぞれ0.005%未満であって、合計で最大0.15%の不純物と、残余のAlとを、含有する。
【0018】
本発明のアルミニウム合金は、特に、前記アルミニウム合金からなるリソストリップを本発明の方法によってコンディショニングする場合に、最先端の機械的及びグレーニング特性を有する。
【0019】
アルミニウムワークピースの表面をコンディショニングする本発明の方法は、本発明のワークピースと同様に、多くの各種の方法で更に設計及び開発することができる。この点で、それは独立請求項1及び8の従属請求項はもちろんのこと、図面と関連した本発明の実施形態の説明にも言及される。図面は、図1a)〜1c)に、本発明の3つの異なる実施形態の方法によってコンディショニングされたアルミニウム合金ワークピース表面の透過型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。
【0020】
本発明の本実施形態において、ワークピースは、冷間圧延AlMg0.5アルミニウム合金からなる。しかしながら、AlMg0.5アルミニウム合金によって達成される結果は、特許請求の範囲で述べた他のアルミ合金も代表することが分かっている。図1a)〜1c)は左側にワークピースの脱脂表面のSEM写真を示し、それによって、トリポリリン酸ナトリウム5〜40%、グルコン酸ナトリウム3〜10%、及びソーダ30〜70%との混合物を少なくとも1.5〜3重量%と、非イオン性及びアニオン性界面活性剤の混合物3〜8%とを含有する媒質によって、脱脂が実施されている。暗色領域は、巻き込まれた(rolled in)表面下の島状酸化物として識別される。これらの島状酸化物は通常、脱脂中に除去されない。しかしながら、島状酸化物は各表面範囲がグレーニングされるのを防止するので、電気化学グレーニング前の前処理が表面下(subsurface)の島状酸化物を除去する能力は、電気化学グレーニングの結果を改善するために非常に重要である。図1a)では右側に、本発明のコンディショニング方法の第1の実施形態により、濃度50g/Lの水酸化ナトリウムによる10秒間、温度80℃での処理後の、図1a)の左側写真のワークピース表面が示されている。
【0021】
これに対して、水酸化ナトリウムによる高温でのピックリングは、島状酸化物をほぼ完全に除去する。このことは脱脂及びピックリングの2つのコンディショニング工程間の相互作用を示す。これに対して、点食構造(pitted structure)は、ピックリングがワークピース表面のバルク材料をすでに攻撃していることを示す。しかしながら、前記点食構造は、水酸化ナトリウムによるピックリングの温度を低下させること、又は時間を短縮することによって防ぐことができる。
【0022】
図1b)は右側に、リン酸電解質中のAC洗浄によってコンディショニングされる本発明のワークピースの表面のSEM写真を示す。本発明の本実施形態において、電流密度10A/dmによって、リン酸濃度20%で、80℃の温度にて10秒間、AC洗浄を実施した。脱脂後の左のSEM写真、並びに、リン酸中でのAC洗浄及び脱脂によるピックリング後の右SEM写真を比較すると、黒色の島状酸化物の小さい部分がワークピース表面に残されていることが導かれる。しかしながら、バルク材料が攻撃されたことを示す点食構造は、本発明の本実施形態におけるリン酸でのAC洗浄によって観察されていない。
【0023】
図1c)は、第2工程としてのリン酸でのコンディショニングされる本発明のアルミニウムワークピースの表面を示す。脱脂されたワークピース表面と比較して、リン酸でのピックリングは、島状酸化物を主に攻撃し、そして、水酸化ナトリウムでのコンディショニング後に示されるような点食構造を残すことなく、ワークピース表面から前記島状酸化物を除去することを示す。リン酸でのピックリングは、表面下に巻き込まれる島状酸化物の除去に関して最良な結果を示す。濃度、温度及び施用時間に関するパラメータは、可変性であり、相互に依存している。従って、異なるパラメータによって、同様の結果を達成することができる。
【0024】
いずれにしても、アルミニウムワークピース表面をコンディショニングする本発明の2つの工程方法は、巻き込まれる表面下の島状酸化物をほぼ完全に除去し、電気化学グレーニング中の電荷流入の低下を可能にして、完全にグレーニングされた表面を達成する。完全にグレーニングされた表面はリソシート及びリソストリップの製造で特に所望されるので、電気化学グレーニング前の有利な前処理が、本発明のコンディショニング方法によって提示される。
【0025】
大量生産に適用されるべきアルミニウムワークピースの本発明の2工程コンディショニングの能力を調査するために、異なる濃度、温度を用いた更なる試験を実施した。結果として、濃度20%〜50%のリン酸では、70℃以上の温度において、0.1秒〜10秒の施用時間がアルミニウムワークピースの表面下の島状酸化物の除去に関して良好な結果を示した。従って、アルミニウムワークピースの表面の本発明の2工程コンディショニング方法を、コンディショニングされたアルミニウムワークピースの大量生産でも適用することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなるアルミニウムワークピースの表面をコンディショニングする方法であって、前記ワークピースの表面を脱脂媒質によって脱脂する工程と、そして、続いて、ピックリングによってワークピースの表面を洗浄する工程と、
の少なくとも2つの工程を含む前記方法。
【請求項2】
脱脂媒質として、アルカリ性又は酸性媒質、あるいは、有機溶媒を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱脂媒質が、トリポリリン酸ナトリウム5〜40%と、グルコン酸ナトリウム3〜10%と、ソーダ30〜70%との混合物少なくとも1.5〜3重量%、並びに、非イオン性及びアニオン性界面活性剤の混合物3〜8%を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水酸化ナトリウムをピックリングに利用する、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
ピックリングがリン酸によるAC洗浄を含む、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項6】
リン酸をピックリングに利用する、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項7】
前記ワークピースが、ストリップ又はシート、特に、リソストリップ又はリソシートである、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
ストリップの製造に続いてコンディショニングを実施し、そして、コンディショニングされたストリップをコイルに巻き取る、請求項1〜7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の方法によってコンディショニングされたワークピース。
【請求項10】
ワークピースが、ストリップ又はシート、特に、リソストリップ又はリソシートである、請求項8に記載のワークピース。
【請求項11】
アルミニウム合金が、アルミニウム合金AA1050、AA1100、AA3103、又は、AlMg0.5のうちの1つである、請求項9又は10に記載のワークピース。
【請求項12】
アルミニウム合金が、以下の合金成分(重量%で表示):
Si<0.1%、
0.3%≦Fe≦0.4%、
Cu<0.01%、
Mn<1.1%、
Mg<0.2%、
Zn<0.01%、
Ti<0.01%、
と、単独でそれぞれ0.005%未満であって、合計で最大0.15%の不純物、及び、残余のAlを含有する、請求項9〜11に記載のワークピース。

【公表番号】特表2008−540847(P2008−540847A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511664(P2008−511664)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061358
【国際公開番号】WO2006/122852
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(505379308)ハイドロ アルミニウム ドイチュラント ゲー エム ベー ハー (16)
【氏名又は名称原語表記】HYDRO ALUMINIUM DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】