リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異に関連するCNS障害の治療
リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異を伴う神経障害を有する個体を治療する方法が記載されている。具体的には、リソソーム酵素の特異的薬理学的シャペロンであって、神経細胞におけるERからリソソームへの当該タンパク質の輸送を増加させる(場合により、同時に、神経細胞における酵素活性を増加させる)シャペロンが、個体に投与される。輸送の回復は、変異タンパク質の蓄積に関連する細胞ストレス及び他の毒性を緩和する。酵素活性の回復は、基質蓄積と、脂質蓄積に関連する病状と、を緩和する。特定の実施形態では、神経障害は、グルコセレブロシダーゼの変異と関連するパーキンソン病又はパーキンソニズムである。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、参照されることによりその開示内容の全体が本明細書に組み込まれる、2005年6月8日に出願された米国仮特許出願第60/689120号に対する優先権を主張するものである。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、酸性β−グルコシダーゼ等のリソソーム酵素の1つ又は複数の変異に関連する神経の危険因子、状態又は疾患を有する個体を治療する方法に関する。具体的には、リソソーム酵素に特異的な薬理学的シャペロンであって、神経細胞におけるERからリソソームへの当該タンパク質の輸送を増加させ、且つ/又は神経細胞における酵素活性を同時に増加させるシャペロンを個体に投与する。
【発明の背景】
【0003】
リソソーム蓄積障害(Lysosomal Storage Disorder)は、加水分解酵素の欠陥の為に細胞のスフィンゴ糖脂質、グリコーゲン又はムコ多糖体の蓄積を原因とする一群の常染色体劣性疾患である。LSDとしては、これらに限られないが、ゴーシェ病(Beutler et al.,The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,8th ed.2001 Scriver,et al.,ed.pp.3635−3668,McGraw−Hill,New York)、GM1−ガングリオシドーシス(同書pp.3775−3810)、フコシドーシス(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,1995.Scriver,C.R.,Beaudet,A.L.,Sly,W.S.and Valle,D.,ed.pp.2529−2561,McGraw−Hill,New York)、ムコ多糖症(同書pp.3421−3452)、ポンペ病(同書pp.3389−3420)、ハーラー・シャイエ(Hurler−Scheie)病(Weismann et al.,Science.1970;169,72−74)、A型及びB型ニーマン・ピック病(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,8th ed.2001.Scriver,et al.,ed.pp.3589−3610,McGraw−Hill,New York)、及びファブリー病(同書pp.3733−3774)が挙げられる。他の例としては、異染性白質萎縮症、クッフス病(成人神経リポイドリポフスチノーシス)及び副腎脳白質ジストロフィーが挙げられる。各LSDは、1つ又は複数の変異により生じる特異的加水分解酵素の欠陥に関連しており、その変異によって、当該酵素は、合成後にER内で構造が不安定化し、その結果、ゴルジ体を通ってリソソーム中の本来の部位へ輸送される代わりに分解の標的となる。
【0004】
幾つかのLSDには、重要な神経障害がある。例えば、ゴーシェ病は、罹患した個体の細胞、特に単球及びマクロファージにおけるスフィンゴ糖脂質(GSL)の蓄積に関連する最も一般的なLSDである。GSLのこの異常蓄積は、GSLグルコシルセラミド(GluCer)を分解するリソソーム加水分解酵素であるリソソーム酵素、酸性β−グルコシダーゼ(Gba、グルコセレブロシダーゼ)の遺伝子欠損(変異)から生じる。この疾患は、神経障害及び疾患の重度に応じて3つの臨床型に分類されている(Cox et al.,Q J Med.2001;94:399−402)。2型ゴーシェ病は、最も稀で最も重症の形態であり、急性神経疾患の早期発症と関係している。神経障害性ゴーシェ病の特性は、水平注視の異常である。罹患した患者は、進行性脳障害、及び硬直、パーキンソン病様運動(パーキンソニズム)等の錐体外路症候群を発現する。大部分の2型ゴーシェ病患者は、神経機能の低下による無呼吸又は吸引のために幼児期に死亡する。
【0005】
3型ゴーシェ病にも、2型程ではないが神経障害がある。3型患者は、運動の協調不良(運動失調)、発作、眼筋麻痺、てんかん、認知症等の中枢神経系症状を示す。3型の下位分類である3c型は、肝脾腫大症、角膜混濁、進行性運動失調及び認知症、並びに心弁及び大動脈起始部の石灰化を付随する。
【0006】
神経障害のある他のLSDとしては、変異β−ガラクトシダーゼと関連し、神経リピドーシスを生じるGM1−ガングリオシドーシス、ヘキソサミニダーゼ Aと関連し、神経リピドーシスを生じるGM2−ガングリオシドーシス(テイ・サックス病)、変異スフィンゴミエリナーゼと関連し、やはり神経リピドーシスを生じるニーマン・ピック病、(クラッベ病)ガラクトセレブロシダーゼ白質萎縮症、及び変異リソソームプロテアーゼと関連し、神経リピドーシスを生じるニューロンセロイド脂褐素症が挙げられる。異染性白質萎縮症は、酵素アリールスルファターゼAの欠損症であり、患者の症状としては、胃腸障害以外に、進行性運動障害、発作、認知障害、更に統合失調症、精神医学的問題等が挙げられる。クッフス病(成人神経リポイドリポフスチノーシス)は、精神医学的症状及び発作として発現することがある。副腎脳白質萎縮症は、中枢神経系の進行性白質脱髄及び副腎皮質不全を特徴とする障害である。
【0007】
〔特異的薬理学的シャペロン〕
最近になって、特異的薬理学的シャペロンの戦略が、恐らく小胞体(ER)又は他の細胞タンパク質分解/処理系における分解から、不安定な変異タンパク質を救出するために開発された。特定の実施形態では、このパラダイムシフト戦略は、特定のリソソーム障害に関連する欠陥リソソーム酵素に特異的に結合し、ER中の変異酵素を安定化し、変異酵素がERを出るためにその変異酵素に「付き添う」可逆的な小分子阻害剤を採用する。この阻害剤はERにおける合成及び折り畳み中の酵素に特異的に結合できるが、酵素の本来の位置で当該酵素から解離することによって、当該酵素は活性を回復できることが、意外にも判明した。シャペロンが存在しない場合には、変異酵素タンパク質は、ERにおいて不適切に折り畳まれ(Ishii et al.,Biochem.Biophys.Res.Comm.1996;220:812−815)、最終産物への成熟化が遅れ、その後ER内で分解される。こうした特異的シャペロンは、特異的薬理学的シャペロン(又は、ある酵素の競合阻害剤である活性部位特異的シャペロン)と称される。
【0008】
「活性部位特異的シャペロン」という用語は、野生型及び変異リソソーム酵素を用いた初期の研究から生まれたものである。酵素の触媒部分、すなわち酵素が基質に結合し、それと相互作用する部分は、「活性部位」の名で一般に知られている。一部の競合阻害剤が、生合成中の活性中心に結合し、酵素を安定化できることから、ある酵素の可逆的な競合阻害剤(すなわち、触媒中心との結合を求めて基質と競合する酵素阻害剤)を使用して、折り畳み方の誤ったリソソーム酵素が安定な分子構造を取るように誘導するという反直観的戦略が先ず仮定された。したがって、発生期の酵素、特に折り畳み欠陥を有する変異酵素の折り畳み中に、ERにおいてin vivoで実現され得る安定化は、折り畳み方の誤ったポリペプチドに結合し、それを分解の標的とする内因性ER「シャペロン」の結合を防止する点で有益である。更に、競合阻害剤は、当該酵素がリソソームに達し、そこで阻害剤が天然基質との競合に敗北すると、当該酵素から解離したので、「可逆的」であった。
【0009】
特異的シャペロン戦略は、参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる、Fan他の米国特許第6,274,597号、第6,583,158号、第6,589,964号及び第6,599,919号に記載され、LSDに関与する酵素約15種について例示されている。例えば、変異ファブリー酵素α−ガラクトシダーゼA(α−Gal A)の強力な競合阻害剤である小分子のガラクトース誘導体、1−デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)は、中性pHでヒト変異体α−Gal A(R301Q)のin vitro安定性を効果的に増大させ、R301Q 又はQ279E変異のあるファブリー患者から確立したリンパ芽球における変異酵素活性を増強する。更に、変異体(R301Q)α−Gal A を過剰発現するトランスジェニックマウスにDGJを経口投与すると、主要な臓器中でその酵素活性が実質的に増加する(Fan et al.,Nature Med.1999;5:112−115)。ゴーシェ患者細胞由来のGbaの同様な救出は、Fan他の米国特許第6,916,829号に記載の他のイミノ糖、イソファゴミン(IFG)及びその誘導体を用いて、また、Gbaに特異的な他の化合物(共に2004年11月12日に出願された係属中の米国特許出願第10/988,428号及び第10/988,427号に記載)を用いて記載されている。
【0010】
〔LSDの酵素変異及び神経障害〕
Gba及びパーキンソン病:
リソソーム酵素の変異とLSD以外の神経障害との間には関連性があることが、最近になって発見された。一例として、Gba 遺伝子の変異とパーキンソン病との間には良く確立された関連性がある。一研究では、稀で早期発症型の難治療性パーキンソン病の一群の患者17名は、1型非神経障害性疾患に通常関連する変異であるN370Sに関してホモ接合体、ヘテロ接合体双方の個体を含め、Gbaミスセンス変異の対立遺伝子を少なくとも1つ有することが判明した(Tayebi et al.,Mol.Genet.Metab.2003;79;104−109)。他の研究では、特発性パーキンソン病のアシュケナージユダヤ人99名の集団に対して、6種のGba変異(N370S、L444P、84GG、V394L及びR496H)を評価した。パーキンソン病患者31名が1つ又は2つの変異Gba対立遺伝子を有し、その内23名がN370Sに関してヘテロ接合体であり、3名がN370Sに関してホモ接合体であり、4名が84GGに関してヘテロ接合体であり、1名がR496Hに関してヘテロ接合体であった(Aharon−Peretz et al.,New Eng.J.Med.2004;351:1972−77)。変異N370S対立遺伝子の頻度は、健常対象1573名中の頻度の5倍であり、84GGの頻度は健常対象の頻度の21倍であった。パーキンソン病患者の内、Gba変異も保持する患者は非保持患者より若かった。この研究は、アシュケナージユダヤ人が、Gba変異に関するヘテロ接合性のために、パーキンソン病に罹患しやすいことを示唆している。
【0011】
パーキンソン病及びゴーシュ病は、ニューロン欠損、星状細胞症、海馬神経における細胞毒性レヴィー小体様α−シヌクレイン封入体(CA2−4領域)の存在、等の幾つかの病理学的特徴を共有する。最近の刊行資料では、ゴーシュ病全3形態の神経病理の程度が記載された(Wong et al.,Mol.Genet.Metabol.2004;38:192−207)。大脳皮質層3及び5、海馬CA2−4、並びに層4bにおける異常が、3つの型全てのゴーシュ病患者に見出された。ニューロン欠損は、2型及び3型の患者のみに明らかであったが、1型患者は星状細胞症を示した(Wong等、上記)。1型ゴーシュ病及びパーキンソニズム/認知症を有する患者2名は、海馬CA2−4ニューロン中にα−シヌクレイン陽性封入体を示し、患者1名は脳幹型及び皮質型レヴィー小体を有し、1名は黒質ニューロンの著明なニューロン欠損を示した(Wong等、上記)。要約すると、パーキンソニズム及び認知症を有する患者全4名は、海馬CA2−4グリオーシスと、黒質におけるニューロン欠乏、グリオーシス及び脳幹型レヴィー小体を示した。
【0012】
数種のマウスモデルでもGbaとパーキンソン病とのこの関連性が実証されている。Gbaの最適なin vitro加水分解酵素活性には、前駆体のプロサポシンに由来するアクチベータータンパク質、サポシンCが必要である。プロサポシン及びサポシン(PS−NA)を少量(野生型の4〜45%)発現し、Gbaの特定の点変異(V394L/V394L又はD409H/D409H)を有するマウスに戻し交配されたトランスジェニックマウスは、歩行運動失調、振戦、転倒地点までの震え、及び神経因性膀胱を始めとする、PD表現型に類似の幾つかのCNS表現型を有する(Sun et al.,J Lipid Res.2005.46(10):2102−13)。
【0013】
特異的薬理学的シャペロンに関する前記研究により、LSDにおける有毒量の脂質基質の蓄積を減少又は消失さえさせるのに十分な機能を、変異酵素(構造変異)に回復させることが可能であることが確立された。しかし、この手法が、ヘテロ接合体の個体、又はホモ接合体の変異を有し、現行の規準に従ってLSDの診断を受けていないが、その変異の作用により神経性の状態若しくは障害を発現する危険性のある個体、又はリソソーム蓄積障害を有すると診断されているが、当該タンパク質の機能を奪う構造変異に加えて、若しくはそれとは異なる変異を有する個体に作用し得ることは、明らかでなかった。これらの集団は全て、機能の毒性獲得、機能の病変喪失又はその組合せのいずれかのために神経障害を発現する危険性がある。したがって、当技術分野ではなお、これらの患者集団において病原因子を特定し、そのような変異の結果に対処できる必要性が存在する。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異に関連する、個体における神経障害を治療する方法であって、神経障害を治療するために特異的薬理学的シャペロンの有効量を前記個体に投与することを含む方法を提供する。
【0015】
一実施形態では、個体は変異に関してホモ接合体である。他の実施形態では、個体は変異に関してヘミ接合体、ヘテロ接合体又は複合ヘテロ接合体である。
【0016】
一実施形態では、変異は、構造変異体である酵素を生じる。
【0017】
特定の実施形態では、シャペロンは、小胞体からの変異酵素の輸送を増加するものである。同時に酵素活性を回復するものであってもなくてもよい。
【0018】
他の実施形態では、変異は、脂質等の他の細胞物質、又はα−シヌクレイン等の他のタンパク質若しくはタンパク質断片の量的増加又は凝集を引き起こす。
【0019】
本発明の特定の実施形態では、リソソーム酵素はグルコセレブロシダーゼであり、神経障害はパーキンソン病又はパーキンソニズムである。
【0020】
他の特定の実施形態では、パーキンソン病は早期発症型パーキンソン病である。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態では、特異的薬理学的シャペロンはリソソーム酵素の阻害剤であり、当該阻害剤は、可逆的阻害剤若しくは競合阻害剤、又はその双方である。
【0022】
特定の実施形態では、グルコセレブロシダーゼに対する薬理学的シャペロンは、イソファゴミン又は(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン6,7,8−トリオールである。
【0023】
本発明は、変異リソソーム酵素に関連する神経障害を診断する方法であって、1種又は複数のリソソーム酵素の変異に関する神経症状を示す個体をスクリーニングすることによって神経障害を診断する方法も提供する。
【0024】
一実施形態では、変異は、構造変異体である酵素を生じる。
【0025】
他の実施形態では、スクリーニングは、個体からの生体試料の酵素活性が、健常個体からの生体試料と比較して低下していることを判定することによりなされる。
【0026】
特定の実施形態では、診断される神経障害はパーキンソニズム又はパーキンソン病である。
【発明の詳細な説明】
【0027】
本発明は、リソソーム蓄積障害と診断されていない個体における神経障害の発現が、リソソーム酵素の変異と関連付け得るとの発見に基づいている。本発明によれば、ASSC等の特異的薬理学的シャペロンは、機能の獲得も、神経学的な危険因子、状態又は障害と関連付けられるリソソーム酵素の変異に関連する機能喪失の病態も改善することができる。当該シャペロンは、誤って折り畳まれた変異タンパク質の蓄積に付随する毒性蓄積を予防する程度まで阻害する(すなわち、機能を獲得する)のに十分な程度に、変異タンパク質の適切な輸送を誘発し、次いで神経機能を生じさせることができる。その変異が当該タンパク質の折り畳み、及びその本来の細胞部位への輸送を損なうだけであり、例えば、当該タンパク質の触媒活性又は他の活性を損なう変異体ではない、或いはナンセンス変異体である幾つかのケースでは、シャペロンは、変異タンパク質の活性を回復させ、それにより、当該タンパク質の機能喪失に関連する病態(例えば、基質蓄積、又は基質蓄積から生じる他の有毒タンパク質若しくは断片の凝集)に対処することができる。
【0028】
〔定義〕
本明細書で使用する用語は、本発明の文脈内及び各用語が使用される特定の文脈においては、一般に、当技術分野における通常の意味を有する。一定の用語については、下記に、又は本明細書の他所で論じることにより、本発明の組成物及び方法、並びにそれらの製法及び使用法を説明する際に、実践者に追加の指針を提供する。
【0029】
用語「ゴーシェ病」には、1型、2型及び3型が含まれ、表現型の発現に基づいてそれらの中間型及びサブグループも含まれる。
【0030】
「神経障害」とは、ニューロン又はグリア細胞の欠陥と関連する任意の中枢神経系(CNS)又は末梢神経系(PNS)の疾患を指し、その欠陥としては、ニューロン欠損、ニューロン変性、ニューロン脱髄、グリオーシス(例えば、星状細胞症)、又は異常なタンパク質若しくは毒素(例えば、β−アミロイド若しくはα−シヌクレイン)のニューロン若しくはニューロン外蓄積が挙げられるが、これらに限られない。神経障害は、慢性、急性いずれもあり得る。神経障害としては、ゴーシェ病及びファブリー病、テイ・サックス病、ポンペ病、ムコ多糖症等の他のLSD、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、フレドリック(Fredrich)運動失調、軽度認識障害、並びに運動障害(運動失調、脳性麻痺、舞踏病アテトーゼ、ジストニア、トゥレット症候群、核黄疸を含む)、振戦障害、白質萎縮症(副腎脳白質萎縮症、異染性白質萎縮症、カナバン病、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病を含む)、ニューロンセロイド脂褐素症、毛細血管拡張性運動失調、及びレット症候群が挙げられるが、これらに限られない。この用語には、脳卒中、虚血性発作等の脳血管事象も含まれる。
【0031】
本明細書において、用語「神経障害」は、神経学的な障害、疾患又は状態であると既に診断された人だけでなく、神経学的な障害、疾患又は状態を発現する危険性のある人も包含する。
【0032】
用語「リソソーム酵素の変異と関連する神経障害」とは、神経障害を有していない、又は発現する危険性のない個体(すなわち、健常個体)と比較して、神経障害を有する個体において評価した場合に、当該酵素をコードする遺伝子の1つ又は複数の変異が存在する任意の神経障害を指す。特定の実施形態では、Gba(ゴーシェ)変異に関連する神経障害は、パーキンソン病又はパーキンソニズムである。
【0033】
用語「ヒトGba遺伝子」とは、グルコセレブロシダーゼ又はGbaとも称する酸性β−グルコシダーゼをコードする遺伝子を指す。Gba遺伝子は、染色体1q21上にあり、エキソン11個を含む(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号1)。Gba遺伝子の約16kb下流に位置するGbaの相同偽遺伝子もある(GenBankアクセッション番号:M16328;配列番号3)。
【0034】
「ヒトGba」タンパク質とは、野生型ヒトGbaタンパク質を指す。このGbaタンパク質はアミノ酸536個からなり、GenBankアクセッション番号:J03059(配列番号2)にある。前記偽遺伝子がコードするポリペプチドは、配列番号4に表示されている。
【0035】
本明細書において、「薬理学的シャペロン」又は時には「特異的薬理学的シャペロン」(「SPC」)という用語は、リソソーム酵素(例えばGba)等のタンパク質に特異的に結合し、次の作用の1つ又は複数を有する分子を指す。(i)当該タンパク質の安定な分子構造の形成を促進する、(ii)当該タンパク質のERから他の細胞部位、好ましくは本来の細胞部位への輸送を誘導する、すなわち当該タンパク質のER関連分解を防止する、(iii)折り畳み方の誤ったタンパク質の凝集を防止する、(iv)当該タンパク質に対して少なくとも部分的な野生型の機能、安定性及び/又は活性を回復又は強化する、更に/或いは当該タンパク質を保持する細胞の表現型又は機能を改善する。したがって、タンパク質のための薬理学的シャペロンは、タンパク質に結合し、そのタンパク質の適切な折り畳み、輸送、非凝集及び活性を生じさせる分子である。本明細書において、この用語は、BiP等の内因性シャペロンを指すものではなく、多様なタンパク質に対する非特異的シャペロン活性を示すものである。グリセロール、DMSO、重水等の、時には「化学シャペロン」とも呼ばれる非特異的作用物質を指すものでもない(Sato et al.,Biochem Biophys Acta.1988;126(2):756−62;Welch et al.,Cell Stress and Chaperons 1996;1(2):109−115;Welch et al.,Journal of Bioenergetics and Biomembranes 1997;29(5):491−502;米国特許第5,900,360号、第6,270,954号、及び第6,541,195号を参照されたい)。
【0036】
本明細書において、用語「特異的に結合する」とは、薬理学的シャペロンの特異的タンパク質との相互作用、具体的には、薬理学的シャペロンとの接触に直接関与するタンパク質のアミノ酸残基との相互作用を指す。標的タンパク質、例えばGbaに特異的に結合する化合物とは、その化合物が、包括的な一群の関連又は非関連タンパク質に対してではなく、Gbaに対して結合し、薬理学的シャペロン効果を及ぼすことを意味する。任意の所与の薬理学的シャペロンと相互作用するタンパク質のアミノ酸残基は、当該タンパク質の「活性部位」内にあってもなくてもよい。特異的結合は、常套的結合アッセイ又は構造研究、例えば共晶化、NMR等により評価することができる。
【0037】
用語「野生型タンパク質」とは、機能性タンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び前記ヌクレオチド配列がコードするポリペプチド配列、並びにER中で機能的構造を実現し、細胞内で適切な局在化を実現し、野生型活性(例えば、GluCer加水分解)を示す能力を有する、健常個体における対立遺伝子多型等の機能性ポリペプチド(前記ポリペプチド配列と同じ機能的性質及び結合親和性を有する。)をコードする、他の任意のヌクレオチド配列を指示する。
【0038】
本明細書において、用語「変異タンパク質」とは、アミノ酸配列の変化を生じる遺伝子変異を含んだ遺伝子から翻訳されたポリペプチドを指す。一実施形態では、変異は、野生型タンパク質と比較した際、ER中に通常存在する条件下で本来の構造を実現しないか、又は野生型タンパク質と比較した際、安定性若しくは活性の低下を示すタンパク質を生じる。この種の変異は、本明細書では「構造変異(conformational mutation)」と称し、このような変異を保持するタンパク質は、「構造変異体(conformational mutant)」と称する。この構造を実現できない結果、当該タンパク質は、タンパク質輸送系にある通常の経路を通って細胞内の本来の部位又は細胞外環境中に輸送されるのではなく、分解又は凝集する。
【0039】
他の実施形態では、タンパク質は、構造変異に加えて、又はそれ以外に、当該タンパク質の全部又は一部の翻訳を可能とし、その結果ER蓄積を可能とする変異を有する(当該タンパク質は、野生型活性を保持していても保持していなくてもよい)。
【0040】
幾つかの実施形態では、変異は、当該タンパク質をコードする遺伝子の非コード部に生じ、その結果、当該タンパク質の発現効率を低下させる可能性がある。すなわち、転写効率、スプライシング効率、mRNA安定性等に影響する変異である。当該タンパク質の野生型及び構造変異体の発現量を高めることによって、薬理学的シャペロンの投与は、このような非効率的なタンパク質発現から生じる欠陥を改善することができる。
【0041】
酵素活性を減少させ、又は代謝回転速度を増加させることが可能な変異も存在する。
【0042】
神経障害性疾患と関連するGba変異体の特定の実施形態としては、これらに限られないが、N370S、L444P、K198T、D409H、R496H、V394L、84GG及びR329Cが挙げられる。
【0043】
Gbaのヘテロ接合体変異とは、1個の野生型対立遺伝子及び1個の変異体対立遺伝子、例えばN370S/wtが存在する遺伝子型を指す。Gbaのヘテロ接合体変異は、各々が異なる変異を有する2個の変異対立遺伝子、例えばN370S/L444Pが存在する遺伝子型も指す。この用語は、変異体/ヌル遺伝子型、すなわちN370S/ヌルも包含する。この定義は、他のリソソーム酵素におけるヘテロ接合体変異に言及する場合にも適用可能である。
【0044】
ホモ接合体Gba変異とは、変異が同じ2個の変異体Gba対立遺伝子、例えばN370S/N370Sが存在する遺伝子型を指す。この定義は、他のリソソーム酵素におけるホモ接合体変異に言及する場合にも適用可能である。
【0045】
用語「適切な構造を安定化する」とは、対応する野生型の構造と機能的に同一である、変異タンパク質の構造を誘導又は安定化する薬理学的シャペロンの能力を指す。用語「機能的に同一な」とは、構造の小さな変化はあり得る(ほぼ全てのタンパク質は、ある程度、生理状態で構造の柔軟性を示す。)が、構造の柔軟性が、野生型タンパク質より大きい程度又は小さい程度に、(1)タンパク質凝集、(2)小胞体関連の分解経路を介した消失、(3)タンパク質機能、例えばGba活性の傷害、及び/又は(4)細胞内の不適当な輸送、例えばリソソームへの局在化、を生じないことを意味する。
【0046】
用語「安定な分子構造」とは、特異的な薬理学的シャペロンにより誘導され、細胞内で少なくとも部分的な野生型の機能をもたらす、タンパク質(例えばGba)の構造を指す。例えば、変異タンパク質の安定な分子構造は、当該タンパク質が、誤った折り畳みや分解を受ける代わりに、野生型Gbaと同様にERから脱出し、本来の細胞部位(例えば、リソソーム)に輸送されることを可能にする分子構造であろう。更に、変異タンパク質の安定な分子構造は、完全又は部分的な活性、例えばGluCer加水分解性を保有していてもよい。しかし、安定な分子構造が、野生型タンパク質の機能的属性の全てを有する必要はない。
【0047】
用語「野生型活性」とは、タンパク質、例えばGbaの細胞内における正常な生理機能を指す。例えば、Gba活性には、GluCerや4−メチルウンベリフェリル(4−MU)等の基質を加水分解する能力を同時に有し、又は有しない、折り畳み及びERからリソソームへの輸送が含まれる。このような機能性は、このようなタンパク質の機能性を確立することが知られている任意の手段により、試験することができる。
【0048】
ある種の試験は、タンパク質機能の総合的代理属性であるタンパク質の属性(実際のin vivo機能に対応していても、対応していなくてもよい。)を評価することができ、このような試験における野生型挙動は、本発明のタンパク質折り畳みに関する救出法又は強化法の許容可能な帰結である。本発明によるこのような一活性は、変異タンパク質、例えばGbaの小胞体から本来の細胞部位、例えばリソソームへ、又は細胞外環境中への適切な輸送である。
【0049】
用語「内因性発現」とは、核酸、ポリペプチド配列等における、その発現、活性又は安定性を阻害するタンパク質の欠損、過剰発現又は他の欠陥に関連するCNS疾患又は障害を有していない、又は有すると疑われていない個体における、細胞内タンパク質の正常な生理的発現を指す。この用語はまた、タンパク質の発現が正常である細胞型における当該タンパク質の発現を指すが、健常個体ではタンパク質が発現しない細胞又は細胞型(例えば腫瘍)における発現は包含しない。
【0050】
本明細書において、用語「発現を強化する」又は「発現を増加させる」とは、あるタンパク質に特異的な薬理学的シャペロンと接触していない細胞(好ましくは、例えばより早い時期の同じ細胞型又は同じ細胞)中での発現に比して、当該タンパク質に特異的な当該薬理学的シャペロンと接触している細胞中で、機能的構造をとる当該ポリペプチドの量を増加させることを指す。或いは、前記用語は、あるタンパク質に特異的な薬理学的シャペロンと接触していない細胞(好ましくは、例えばより早い時期の同じ細胞、又は同じ細胞型)における対応する野生型の輸送効率に比して、当該タンパク質に特異的な当該薬理学的シャペロンと接触している細胞における、当該ポリペプチドのERからの輸送効率を増加させることを意味する。
【0051】
本明細書において、用語「輸送効率」とは、小胞体から、細胞内の本来の部位、細胞内の他の部位、細胞膜、又は細胞外環境中に輸送される、変異タンパク質の能力を指す。
【0052】
酵素の「競合阻害剤」とは、酵素基質の化学構造及び分子外形と構造的に類似しているため、当該基質とほぼ同じ部位で酵素に結合する化合物を指す。したがって、当該阻害剤は、基質分子と同じ活性部位を求めて競合し、そのためKmを増加させる。競合阻害は、阻害剤を置換するのに十分な基質分子が利用できる場合、普通可逆的であり、すなわち、競合阻害剤は可逆的に結合することができる。したがって、酵素の阻害量は、阻害剤濃度、基質濃度、及び活性部位に対する阻害剤と基質との相対的親和性に依存する。
【0053】
阻害剤が活性部位から遠隔位で結合し、酵素の構造変化を創出するために基質がもはや活性部位に結合できない場合、非古典的競合阻害が生じる。非古典的競合阻害では、基質の活性部位における結合のため、阻害剤の他の部位における結合が妨害される、及びその逆のことが生じる。これにはアロステリック阻害が含まれる。
【0054】
酵素の「線形混合型阻害剤」は、基質の結合は可能とするが、その親和性を低下させるタイプの競合阻害であり、そのためKmが増加し、Vmaxは減少する。
【0055】
「非競合阻害剤(non−competitive inhibitor)」とは、酵素と強力な結合を形成し、過剰の基質の添加によっても置換され得ない化合物を指す、すなわち、非競合阻害剤は非可逆的となり得る。非競合阻害剤は、酵素又はタンパク質の活性部位に、若しくはその近くに、又はそれから離れて結合する場合があり、酵素に関しては、Kmには作用しないが、Vmaxを減少させる。不競合阻害(uncompetitive inhibition)とは、阻害剤が酵素−基質(ES)複合体のみに結合する状況を指す。酵素は、阻害剤が結合すると不活性になる。これは、基質の非存在下で酵素に結合できる非古典的競合阻害剤とは異なる。
【0056】
用語「Vmax」とは、酵素触媒反応の最大初速度、すなわち基質濃度を飽和させた際の速度を指す。用語「Km」は、1/2 Vmaxの実現に必要な基質濃度である。
【0057】
「応答者」とは、リソソーム酵素の変異に関連する神経障害と診断され、本発明の方法に従って治療された個体であって、1つ又は複数の臨床症状の向上、改善又は予防、或いは1つ又は複数の代理臨床マーカーの改善又は逆転を示す個体である。一例として、パーキンソン病の個体(Gbaの同時変異を有する)に対する「応答者」は、1つ又は複数の臨床症状の向上、改善又は予防、或いは1つ又は複数の代理臨床マーカーの改善又は逆転を示す応答者である。マーカーとしては、これらに限られないが、ニューロン喪失、星状細胞症、及びCA2−3ニューロンにおけるニューロン内レヴィー小体様α−シヌクレイン封入体が挙げられる。
【0058】
用語「治療有効用量」及び「有効量」とは、治療応答を生じるのに十分な特異的薬理学的シャペロンの量を指す。治療応答は、症状の評価、代理臨床マーカー等の、治療に対する有効な応答として、使用者(例えば、臨床医)が認めることになる任意の応答でもよい。したがって、治療応答は、一般に、疾患又は障害、例えば神経障害の1つ又は複数の改善となろう。
【0059】
「薬学的に許容可能な」という句は、人に投与した際、生理的に許容でき、通常は不都合な反応を起こさない分子体及び組成物を指す。本明細書において、好ましくは、用語「薬学的に許容可能な」は、動物、より特定すれば人間における使用に対して、連邦又は州政府の規制機関により認可されていること、或いは米国薬局方又は他の一般に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。用語「担体」とは、化合物と一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又は媒体を指す。このような医薬担体は、水、油等の滅菌液でよい。水、又は水溶液、塩水溶液、並びに含水デキストロース及びグリセロールの水溶液は、好ましくは担体、特に注射液用の担体として使用される。適切な医薬担体は、E.W.Martinによる”Remington’s Pharmaceutical Sciences”第18版又は他の版に記載されている。
【0060】
用語「約(about)」及び「およそ(approximately)」は、測定の性質又は精度が示されていれば、測定した量に対する許容可能な程度の誤差を一般に意味するものとする。通常では、例示的な誤差の程度は、所与の数値又は数値範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。或いは、特に生物系では、用語「約」及び「およそ」は、所与の数値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内の数値を意味し得る。本明細書に示す数量は、別途記載のない限り近似値であり、明確な記載のない場合は用語「約」又は「およそ」を暗示できることを意味している。
【0061】
〔分子生物学の定義〕
本発明に従えば、当分野の技術に入る従来からの分子生物学、微生物学及び組換えDNA技術を使用し得る。このような技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Sabrook,Fritsch&Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(本明細書では「Sambrook等、1989年」);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization[B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985)];Transcription And Translation[B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1984)];Animal Cell Culture[R.I.Freshney,ed.(1986)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL Press,(1986)];B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,Inc.(1994)を参照されたい。
【0062】
本明細書において、用語「単離された」とは、当該物質が本来見出される環境から取り出されることを意味する。したがって、単離された生体物質は、細胞成分、すなわちその物質が見出される、又は産生される細胞の成分を含まない状態となることができる。核酸分子の場合、単離された核酸分子は、PCR産物、単離mRNA、cDNA又は制限断片を含む。他の実施形態では、単離された核酸分子は、好ましくは、それを見出し得る染色体から切り取られたものであり、より好ましくは、染色体中に見出された際に、単離された当該核酸分子に含有される遺伝子の上流又は下流に存在した非調節、非コード領域、又は他の遺伝子ともはや結合していないものである。更に別の実施形態では、単離された核酸分子は1個又は複数のイントロンが欠如している。単離された核酸分子は、プラスミド、コスミド、人工染色体等に挿入された配列を包含する。したがって、特定の実施形態では、単離された核酸は組換え核酸である。単離されたタンパク質は、細胞内では結合している他のタンパク質若しくは核酸又はその両者と、或いは膜結合タンパク質の場合には細胞膜と結合していてもよい。単離された細胞小器官、細胞又は組織は、それを見出した生物体中の解剖学的部位から取り出される。単離された物質は、精製してもよいが、する必要はない。
【0063】
本明細書において、用語「精製された」とは、無関係の物質、すなわち夾雑物が減少又は消失する条件下で単離された、Gba核酸、ポリペプチド等の物質を指す。例えば、精製されたタンパク質は、細胞内では結合している他のタンパク質又は核酸を実質的に含んでいないのが好ましい。本明細書において、用語「実質的に含んでいない」は、その物質の分析試験に関して適宜使用される。夾雑物を実質的に含んでいない精製物質は、好ましくは少なくとも純度50%であり、より好ましくは少なくとも純度90%であり、更により好ましくは少なくとも純度99%である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、免疫アッセイ、組成分析、生物アッセイ、及び当技術分野で公知の他の方法により評価することができる。
【0064】
用語「宿主細胞」とは、細胞による物質の産生、例えば、細胞による遺伝子、DNA若しくはRNA配列、タンパク質又は酵素の発現のために、任意の方法で選択、改変、形質転換、増殖、又は使用若しくは操作される任意の生物体の任意の細胞を意味する。本発明によれば、宿主細胞は、変異体又は野生型のリソソーム性酵素、核酸及びポリペプチドを発現するように改変される。宿主細胞は、スクリーニング又は他のアッセイのために更に使用することができる。「組換えDNA分子」は、分子の生物学的操作を受けたDNA分子である。本発明で使用する例示的な宿主細胞は、HEK293細胞、COS細胞及びCHO細胞である。
【0065】
本明細書におけるポリヌクレオチドは、場合により、自然の調節(発現制御)配列に隣接し、又は、プロモーター、リボソーム内部進入部位(internal ribosome entry site、IRES)及び他のリボソーム結合部位配列、エンハンサー、応答配列、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5’−及び3’−非コード領域等の非相同配列と結合する。核酸は、当技術分野で公知の多くの手段により改変されてもよい。このような改変の非限定的な例としては、メチル化、「キャップ」、類縁体による天然ヌクレオチドの1種又は複数の置換、並びに、例えば非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメート等)及び荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を有するもののヌクレオチド間改変が挙げられる。ポリヌクレオチドは、1個又は複数の追加の共有結合部、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジン等)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラーレン等)、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、鉄、酸化性金属等)、及びアルキル化剤を含有し得る。ポリヌクレオチドは、メチル若しくはエチルホスホトリエステル、又はアルキルホスホルアミデート結合の形成により誘導されることもある。更に、本明細書におけるポリヌクレオチドは、場合により、検出可能なシグナルを直接的又は間接的に示すことができる標識で改変される。標識としては、放射性同位体、蛍光分子、ビオチン等が挙げられる。
【0066】
「コード配列」、又はRNA、ポリペプチド等の発現産物を「コードする」配列とは、発現するとそのRNA又はポリペプチドを産生するヌクレオチド配列であり、例えば、Gbaヌクレオチド配列は、Gbaポリペプチド(タンパク質)に対するアミノ酸配列をコードする。タンパク質に対するコード配列は、開始コドン(普通はATG)及び終止コドンを含んでもよい。
【0067】
「構造遺伝子」とも呼ばれる用語「遺伝子」は、1種又は複数のリソソームタンパク質の全部又は一部を含む特定のアミノ酸配列をコードする、又はその配列に対応するDNA配列を意味し、例えば、その遺伝子が発現する条件を決定する調節DNA配列(プロモーター配列等)を含んでも含まなくてもよい。
【0068】
核酸配列からのアミノ酸配列の産生に関して使用される用語「発現する」及び「発現」とは、遺伝子又はDNA配列中の情報を顕在化させること、例えば、対応するGba遺伝子又はDNA配列の転写及び翻訳に関与する細胞機能の活性化によるGbaタンパク質の産生を意味する。DNA配列が細胞内又は細胞により発現されることによって、Gbaタンパク質等の「発現産物」が形成される。発現産物自体、例えば生成タンパク質も、細胞により「発現される」と言ってもよい。発現産物は、細胞内、細胞外又は分泌産物として特徴付けられる。本発明によれば、タンパク質はニューロン中、細胞内で発現される。
【0069】
用語「細胞内」とは、細胞の内部にあるものを意味する。用語「細胞外」とは、細胞の外部にあるものを意味する。ある物質が、細胞上又は細胞内部のある箇所から細胞外部に相当な量で出現する場合、それは細胞によって「分泌」される。
【0070】
用語「異種の」とは、自然には組合せとして出現しない要素の組合せを指す。例えば、異種DNAは、細胞中、又は細胞の染色体部位中に自然には位置していないDNAを指す。好ましくは、異種DNAは細胞にとって異質な遺伝子を含む。異種発現調節要素は、自然で作動的に結合している遺伝子とは異なる遺伝子に、作動的に結合している要素である。本発明において、対象とするタンパク質をコードする遺伝子は、クローニング又は発現のためにその遺伝子を挿入するベクターDNAに対して異種であり、更に、当該遺伝子は、そのようなベクターを含有し、それを発現する宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)細胞に対して異種である。
【0071】
用語「形質転換」とは、リソソーム酵素のポリペプチドをコードするDNA、すなわち核酸が、周囲媒体から宿主細胞中に導入される過程を指す。
【0072】
用語「形質導入(transduction)」とは、原核宿主細胞中に、例えば、細菌ウィルス又はバクテリオファージを介して原核宿主細胞中に、DNA、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸を導入することを指す。導入DNA又はRNAを受容し、発現する原核又は真核宿主細胞は、「形質転換」又は「形質導入」をされており、「形質転換体」又は「クローン」である。宿主細胞中に導入されるDNA又はRNAは、宿主細胞と同じ属若しくは種の細胞、又は異なる属若しくは種の細胞、或いは合成配列を含めて任意源に由来することができる。
【0073】
用語「組換え作製細胞」とは、対象とする核酸、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸を発現又は過剰発現するように、トランスフェクション、形質転換又は形質導入を始めとする任意の適切な方法により操作された、任意の原核又は真核細胞を指す。この用語は、通常はその遺伝子産物を発現しない、又は非最適レベルでその遺伝子産物を発現する、細胞中の核酸を内因的に活性化することも包含する。
【0074】
用語「トランスフェクション」とは、「異質な」(すなわち、外因性又は細胞外の)核酸の細胞中への導入を意味する。「異質な」核酸は、宿主細胞が、そのDNAを複製し、導入された遺伝子又は配列を発現して、所望の物質、通常は当該導入遺伝子又は配列がコードするタンパク質又は酵素を産生するように、宿主細胞に導入される遺伝子、DNA又はRNA配列を含む。当該導入遺伝子、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸又は配列は、「クローン化」遺伝子又は配列と称してもよく、細胞の遺伝的機構が使用する開始、終止、プロモーター、シグナル、分泌配列等の調節又は制御配列を含み得る。当該遺伝子又は配列は、非機能的配列又は機能未知の配列を含んでもよい。DNAは、染色体外要素として、若しくは染色体への組み込みによって、又は導入DNA若しくはRNAを受容し、発現する宿主細胞によって導入されていてもよい。
【0075】
使用する宿主細胞に応じて、形質転換/トランスフェクションは、そのような細胞に適当な標準的方法を用いてなされる。上記のSambrook等、1989年の1.82節に記載されるような、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理は、実質的な細胞壁障壁を含有する細菌細胞に対して一般に使用される。他の形質転換法では、Chung及びMiller(Nucleic Acids Res.1988,16:3580)に記載されるようなポリエチレングリコール/DMSOが使用される。更に別の方法は、電気穿孔と称する技術の使用である。或いは、ウィルスベクターを用いる場合は、対象とする遺伝子を含有するウィルスで宿主細胞を感染させることができる。
【0076】
用語「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」とは、DNA又はRNA配列(例えば、Gba遺伝子)を宿主細胞中に導入することにより、宿主を形質転換し、導入配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進できるようにする媒体を意味する。ベクターには、プラスミド、ファージ、ウィルス等が含まれ、それについては以下でより詳細に論じる。
【0077】
ベクターは、外来DNAを挿入した伝染性因子のDNAを通常含む。DNAの1セグメントをDNAの他のセグメント中に挿入する一般法では、制限酵素部位と呼ばれる特定部位(特定のヌクレオチド群)でDNAを切断する、制限酵素と呼ばれる酵素の使用が必要である。「カセット」とは、発現産物をコードし、ベクター中に所定の制限酵素部位で挿入できるコードDNA配列又はDNAセグメントを指す。カセットの制限酵素部位は、カセットの適切なリーディングフレーム中への挿入を保証するように、設計される。一般に、外来DNAは、ベクターDNAの1個又は複数の制限酵素部位で挿入された後、伝染性ベクターDNAと共に宿主細胞中にベクターにより搬送される。DNAが挿入又は付加された、発現ベクター等のDNAのセグメント又は配列は、「DNAコンストラクト」と呼ぶこともできる。通常型ベクターは、一般的には、普通は細菌起源の自己充足的2本鎖DNA分子であって、追加の(外来)DNAを容易に受け容れることができ、適当な宿主細胞中に容易に導入できる「プラスミド」である。プラスミドベクターは、コードDNA及びプロモーターDNAを含有することが多く、外来DNAの挿入に適した1個又は複数の制限酵素部位を有する。コードDNAは、特定のタンパク質又は酵素に対する特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列である。プロモーターDNAは、コードDNAの発現を開始、調節、媒介又は制御するDNA配列である。プロモーターDNA及びコードDNAは、同一の遺伝子又は異なる遺伝子に由来していてもよく、同種又は異種の生物体に由来していてもよい。
【0078】
プラスミド及び真菌性ベクターを始めとする多数のベクターが、多様な真核及び原核宿主における複製及び/又は発現について記載されている。非限定的な例として、本明細書に開示又は引用され、或いは関連分野の技術者に知られている方法を用いた、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド(Novagen,Inc.,Madison,WI)、pRSET若しくはpREPプラスミド(Invitrogen,San Diego,CA)、又はpMALプラスミド(New England Biolabs,Beverly,MA)、pCXN、及び多くの適当な宿主細胞が挙げられる。組換えクローニングベクターには、多くの場合、クローニング又は発現用の1種又は複数の複製系、宿主中での選択用の1種又は複数のマーカー、例えば抗生物質耐性、及び1種又は複数の発現カセットが含まれる。
【0079】
非常に多様な宿主/発現ベクターの組合せ(すなわち、発現系)が、対象とするタンパク質の発現に使用し得る。有用な発現ベクターは、例えば、染色体、非染色体及び合成のDNA配列のセグメントからなってもよい。適切なベクターとしては、既知の細菌プラスミド、例えばE.coliプラスミドのcol E1、pCR1、pBR322、pMal−C2、pET、pGEX(Smith et al.,Gene 67:31−40,1988)、pMB9及びそれらの誘導体、RP4等のプラスミド;ファージDNAS、例えば、ファージ1の多数の誘導体、例えばNM989、並びに他のファージDNA、例えばM13及び糸状1本鎖ファージDNA;2mプラスミド又はその誘導体等の酵母プラスミド;ファージDNA又は他の発現制御配列を用いるために改変されたプラスミド等の、プラスミド及びファージDNAの組合せから誘導されるベクターが挙げられる。他の一般的発現系では、昆虫宿主細胞及びバキュロウィルスベクターが使用される。
【0080】
哺乳動物細胞に使用するために市販されている例示的発現ベクターとしては、pMEP4、pCEP4、pLXSN、PXT1、pcDNA3シリーズ、pcDNA4シリーズ、pCMV−Script、pCMV−Tag及び他のCMV系ベクター、pVP22、pVAX1、pUB6が挙げられる。哺乳動物細胞のトランスフェクションの場合、ウィルスベクターとしては、アデノ随伴ウィルスベクター、ポックスウィルス及びレトロウィルスが挙げられる。哺乳動物発現ベクターは、ごく一般的であり、当技術分野において周知である。
【0081】
宿主細胞は、対象とするポリペプチド、例えばGbaも本来保持することができる。Gba等の異種ポリペプチドに対しては、その異種核酸(例えばcDNA)が、適当なプロモーターの制御下に培地中で発現するために、複製可能なベクター中に適切に挿入される。上記の通り、多数のベクターがこの目的のために利用可能であり、適当なベクターの選択は、ベクター中に挿入する核酸のサイズ、及びベクターで形質転換される特定の宿主細胞に主として依存することになろう。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)、及び適合する特定の宿主細胞に応じて多様な成分を含有している。細菌の形質転換用のベクター成分には、これらに限られないが、シグナル配列、複製起点、1種若しくは複数のマーカー遺伝子、及びプロモーター、のうちの1種又は複数が含まれる。
【0082】
GbaポリペプチドをコードするDNAは、直接発現してもよいだけでなく、他のポリペプチドと、好ましくはシグナル配列と、又は成熟ポリペプチドのN末端に特定の切断部位を有する他のポリペプチドとの融合体として発現してもよい。一般に、シグナル配列は、場合により、ベクターの一成分であり、或いはベクター中に挿入されるポリペプチドDNAの一部である。選択される異種シグナル配列は、宿主細胞により認識され、プロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼで切断される)配列である。本来のポリペプチドシグナル配列を認識せず、プロセシングすることのない細菌宿主細胞の場合、シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、又は耐熱性エンテロトキシンIIのリーダー配列からなる群より選択される細菌シグナル配列で置換される。
【0083】
発現ベクター、クローニングベクターの双方共、選択された1種又は複数の宿主細胞中でそのベクターが複製できるようにする核酸配列を含有している。一般に、クローニングベクターにおいてこの配列は、宿主染色体DNAとは関係なくそのベクターが複製できるようにする配列であり、複製起点又は自己複製配列を含む。このような配列は、多様な細菌に対して良く知られている。プラスミドpBR322の複製起点は、大部分のグラム陰性細菌に適切である。
【0084】
発現ベクター及びクローニングベクターは、選択マーカーとも称する選択遺伝子も一般に含有する。この遺伝子は、選択培地中で増殖する形質転換宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含んだベクターで形質転換されていない宿主細胞は、その培地中で生き残ることはなかろう。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メソトレキセート又はテトラサイクリンに対する耐性を付与し、(b)栄養要求性欠損を補完し、或いは(c)天然培地からは利用できない必須栄養素を供給するタンパク質をコードする。選択方式の一例では、宿主細胞の増殖を停止させるために薬物が利用される。異種遺伝子で首尾よく形質転換される細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、そのためその選択法から生き残る。
【0085】
異種ポリペプチドを産生するための発現ベクターは、宿主生物体により認識され、対象とするポリペプチドをコードする核酸に作動的に連結している誘導可能プロモーターも含有する。
【0086】
「プロモーター配列」は、細胞中のRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を規定するために、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位により結合され、背景レベルより高い検出可能なレベルでの転写開始に必要な最小限数の塩基又は要素を含むように、上流(5’方向)へ延在している。プロモーター配列内には、転写開始部位、並びにRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が見出されよう。
【0087】
コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写する際、細胞中の転写及び翻訳制御配列の「制御下」にあるか、又はそうした配列「と作動的に結合」しており、次いでmRNAはRNA全体に亘って(trans−RNA)スプライシング(イントロンが含まれる場合)され、更にコード配列がコードするタンパク質に翻訳される。
【0088】
前述した成分の1種又は複数を含有する適切なベクターの構築には、標準的な連結技術が使用される。単離したプラスミド又はDNA断片は、切断され、調整され、必要とするプラスミドを生成するのに望ましい形態に再連結される。
【0089】
構築されたプラスミド中の適正な配列を確認する分析のために、連結混合物を使用して細菌株を形質転換させ、適切な場合にはアンピシリン又はテトラサイクリン耐性により、成功した形質転換体を選択する。形質転換体からのプラスミドを調製し、制限エンドヌクレアーゼでの消化により分析し、並びに/或いはSanger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1977,74:5463−5467若しくはMessing et al.,Nucleic Acids Res.1981,9:309の方法、又はMaxam等(Methods in Enzymology 1980,65:499)の方法によって、その配列を決定する。宿主細胞は、前述の発現ベクターで形質転換され、利用するプロモーターにとって適切に改変された従来の栄養培地中で培養される。
【0090】
〔化学的定義〕
用語「アルキル」とは、炭素及び水素原子のみからなり、不飽和を含有しておらず、分子の残部に単結合で結合している直鎖又は分岐のC1〜C20炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル)を指す。本明細書で使用するアルキルは、好ましくはC1〜C8アルキルである。
【0091】
用語「アルケニル」とは、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含有し、直鎖、分岐鎖のいずれでもよいC2〜C20脂肪族炭化水素基、例えばエテニル、1−プロペニル、2−プロペニル(アリル)、イソプロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニルを指す。
【0092】
用語「シクロアルキル」とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の不飽和な非芳香族の単環又は多環炭化水素環系を示す。多環シクロアルキル基の例としては、ペルヒドロナフチチル(perhydronapththyl)基、アダマンチル基及びノルボルニル基、橋掛け環状基、又はスピロ二環状基、例えばスピロ(4,4)ノン−2−イルが挙げられる。
【0093】
用語「シクロアルカルキル」とは、前記定義のアルキル基に直接結合した、前記定義のシクロアルキルを指し、シクロプロピルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルエチル等の安定構造を創出する。
【0094】
用語「アルキルエーテル」とは、アルキル鎖中に少なくとも1個の酸素が組み込まれた、前記定義のアルキル基又はシクロアルキル基、例えばメチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを指す。
【0095】
用語「アルキルアミン」とは、少なくとも1個の窒素原子を有する、前記定義のアルキル基又はシクロアルキル基、例えばn−ブチルアミン及びテトラヒドロオキサジンを指す。
【0096】
用語「アリール」とは、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、ビフェニル等の炭素原子数が約6個から約14個の範囲にある芳香族ラジカルを指す。
【0097】
用語「アリールアルキル」とは、前記定義のアルキル基に直接結合した、前記定義のアリール基、例えば、−CH2C6H5及び−C2H4C6H5を指す。
【0098】
用語「ヘテロ環の」とは、炭素原子と、窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群より選択される1〜5個のヘテロ原子とからなる、安定な3〜15員環ラジカルを指す。本発明の目的のために、ヘテロ環ラジカルは、単環、二環又は三環系でもよく、融合環、架橋環又はスピロ環系を含んでもよく、ヘテロ環ラジカル中の窒素、リン、炭素、酸素又は硫黄原子は、様々な酸化状態に場合により酸化されていてもよい。更に、窒素原子は場合により四級化されていてもよく、この環ラジカルは、部分的又は完全に飽和していてもよい(すなわち、ヘテロ芳香族又はヘテロアリール芳香族)。このようなヘテロ環ラジカルの例としては、これらに限られないが、アゼチジニル、アクリジニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキサニル、ベンゾフルニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジオキソラニル、インドリジニル、ナフチリジニル、ペルヒドロアゼピニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノオキサジニル、フタラジニル、ピリジル、プテリジニル、プリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラゾイル、イミダゾリル、テトラヒドロイソキノリル(tetrahydroisouinolyl)、ピペリジニル、ピペラジニル、2−オキソピペラジニル、2−オキソピペリジニル、2−オキソピロリジニル、2−オキソアゼピニル、アゼピニル、ピロリル、4−ピペリドニル、ピロリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、オキサゾリル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、トリアゾリル、インダニル、イソオキサゾリル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリル、チアゾリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、キヌクリジニル、イソチアゾリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、キノリル、イソキノリル、デカヒドロイソキノリル、ベンズイミダゾリル、チアジアゾリル、ベンゾピラニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、フリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チエニル、ベンゾチエニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシドチアモルホリニルスルホン、ジオキサホスホラニル、オキサジアゾリル、クロマニル及びイソクロマニルが挙げられる。
【0099】
ヘテロ環ラジカルは、安定構造を創出する任意のヘテロ原子又は炭素原子で主構造に結合し得る。
【0100】
用語「ヘテロアリール」とは、環が芳香族であるヘテロ環を指す。
【0101】
用語「ヘテロアリールアルキル」とは、アルキル基に直接結合した、前記定義のヘテロアリール環ラジカルを指す。ヘテロアリールアルキルラジカルは、安定構造を創出する、アルキル基の任意の炭素原子で主構造に結合し得る。
【0102】
用語「ヘテロシクリル」とは、前記定義のヘテロ環ラジカルを指す。ヘテロシクリル環ラジカルは、安定構造を創出する任意のヘテロ原子又は炭素原子で主構造に結合し得る。
【0103】
用語「ヘテロシクリルアルキル」とは、アルキル基に直接結合した、前記定義のヘテロ環ラジカルを指す。ヘテロシクリルアルキルラジカルは、安定構造を創出する、アルキル基中の炭素原子で主構造に結合し得る。
【0104】
「置換アルキル」、「置換アルケニル」、「置換アルキニル」、「置換シクロアルキル」、「置換シクロアルカルキル」、「置換シクロアルケニル」、「置換アリールアルキル」、「置換アリール」、「置換ヘテロ環」、「置換ヘテロアリール環」、「置換ヘテロアリールアルキル」、又は「置換ヘテロシクリルアルキル環」における置換基は、同じでも異なってもよく、1個又は複数個であり、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、オキソ(=O)、チオ(=S)の各基、又はアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、ヘテロ環、−COORx、−C(O)Rx、−C(S)Rx、−C(O)NRxRy、−C(O)ONRxRy、−NRxCONRyRz、−N(Rx)SORy、−N(Rx)SO2Ry、−(=N−N(Rx)Ry)、NRxC(O)ORy、−NRxRy、−NRxC(O)Ry、−NRxC(S)Ry、−NRxC(S)NRyRz、−SONRxRy、−SO2NRxRy、−ORx、−ORxC(O)NRyRz、−ORxC(O)ORy、−OC(O)Rx、−OC(O)NRxRy、−RxNRyRz、−RxRyRz、−RxCF3、−RxNRyC(O)Rz、−RxORy、−RxC(O)ORy、−RxC(O)NRyRz、−RxC(O)Rx、−RxOC(O)Ry、−SRx、−SORx、−SO2Rx、−ONO2から選択される置換されていてもよい各基から選択され、前記各基中のRx、Ry及びRzは、水素原子、置換又は非置換アルキル、ハロアルキル、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルカルキル、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクリルアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、或いは置換又は非置換ヘテロアリールアルキルになり得る。
【0105】
用語「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素の基を指す。
【0106】
〔機能の毒性獲得〕
特定の一実施形態では、本発明は、適当なタンパク質輸送の量を増加させ、変異酵素の蓄積量を減少させることを目的とした、リソソーム酵素に対する特異的薬理学的シャペロンの使用に関する。これを使用して次に、酵素における1つ又は複数の変異と関連する神経状態を治療できるが、当該神経状態には、一方又は両方の対立遺伝子上の変異が、構造変異であるが、機能ドメイン中にも変異を有し、酵素活性を無効にする酵素を産生する形態のリソソーム蓄積障害が含まれる。この実施形態は、機能的Gbaが存在しなかった神経性のゴーシェ病に見出される変異Gbaに対する特異的薬理学的シャペロンの効果によって、本明細書に例示されている。このシャペロンは、ERからのGbaタンパク質の輸送量を増加させ、変異タンパク質の適切なユビキチン化を回復させた。この効果は、タンパク質機能のASSC救出に関する以前の研究からは予見できなかったものである。
【0107】
CNSにおける変異Gba蓄積等のタンパク質凝集は、毒性蓄積に付随するニューロンストレスから生じる神経変性又はアポトーシスの後では、ニューロンが再生できないので特に悲惨である。このように、ホモ接合体又はヘテロ接合体変異の存在は、ニューロンにおける変異タンパク質の凝集又は蓄積、及び細胞ストレスを生じさせるのに十分であり、最終的には細胞死を引き起こす。CNSにおけるタンパク質凝集を病変と関連付ける多数の報告が、公表されている。
【0108】
したがって、一実施形態では、本発明は、リソソーム蓄積障害におけるCNS病変、及びリソソーム酵素の変異に関連する他の神経障害が、ニューロンにおける折り畳み方の誤った変異酵素の毒性蓄積により部分的に説明でき、しかも、特異的薬理学的シャペロンによる手法がこの作用を逆転できるという概念に基づいている。この毒作用は、タンパク質の機能、タンパク質の機能及び安定性に対する変異の効果、並びにタンパク質機能の喪失又は減少が、タンパク質の蓄積及び/又は凝集の毒作用より有害であるか、又はそれほど有害でないかにも依存している。したがって、特異的薬理学的シャペロンを用いてERからタンパク質輸送量を増加させると、必ずしもタンパク質機能を回復させずとも、タンパク質の蓄積/凝集の毒性作用を減少させることにより、疾患病変を緩和することができる。
【0109】
その結果、特異的薬理学的シャペロンは、疾患病変に寄与する重要な要因がタンパク質の毒性蓄積及び/又はタンパク質凝集(例えば、神経変性疾患(特に、ゴーシェ病のような、神経障害を伴うリソソーム蓄積障害)、及びリソソーム酵素の変異に関連する他の神経性の危険因子、疾患又は状態(パーキンソン病等)に関係する毒性蓄積及び/又はタンパク質凝集)である疾患を治療するために使用することができることになる。前述のように、機能不全のリソソーム酵素に関連し、それ故薬理学的シャペロンで治療可能な他種の神経疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、カナバン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ハンチントン病、多発性硬化症、ピック病、及び脊髄小脳萎縮症である。
【0110】
したがって、ERからの変異酵素輸送量を増加させ、及び/又は酵素活性を増加させる治療法は、リソソーム蓄積障害、又はリソソーム酵素の変異に関連付けられる他の関連神経疾患と関係する神経細胞障害作用の緩和に有益である。酵素活性の増加(すなわち、機能喪失の回復)及び基質蓄積の低下がない場合でも、変異酵素の適切な輸送は、例えば、(i)正常タンパク質のためのユビキチン/プロテアソーム分解経路に対する細胞ストレスを緩和する、又は(ii)ERストレスが引き起こす非折り畳みタンパク質の応答を低下させ、それにより、例えば、Gbaに変異があるパーキンソン病患者におけるα−シヌクレイン凝集等の病変を改善する、というニューロンに対する有益な効果を有する。このような効果の根拠を以下に示す。
【0111】
細胞ストレス:
細胞における折り畳み方の誤った多数のタンパク質の蓄積又は凝集が、細胞ストレスを生じさせることは十分に確立されている。このストレスは、細胞「ストレス」タンパク質であるポリユビキチン量の増加と時々相関している。ユビキチン−タンパク質複合体は、ユビキチンが神経変性疾患に特徴的な線維状封入体の多くにおける一成分であることを明瞭に示したものであり、この種の疾患過程における活性化又は一般的ニューロン応答であることを示唆している(Lowe et al.,Neuropathol Appl Neurobiol.1990;281−91)。例えば、家族性パーキンソン病と関連する遺伝子の変異(α−シヌクレインを含む)の同定、及びパーキンソン病の散発例において免れたドーパミン黒質ニューロン中のタンパク質性細胞質封入体の存在を含む遺伝学研究により、ユビキチン−プロテアソーム系及び異常タンパク質分解の重要な役割が示唆されている(Betarbet et al.,Exp Neurol.2005;191 Suppl 1:S17−27)。
【0112】
更に、in vivo及びin vitroの研究により、α−シヌクレインの凝集及び酸化的ストレスと、ユビキチン−プロテアソーム系の障害及びパーキンソン病の病因とが関連付けられている。更に、潜在的に細胞毒性の異常タンパク質の蓄積及び凝集を伴う、26/20Sプロテアソームの構造的及び機能的欠陥が、散発性パーキンソン病の患者の黒質緻密部において特定されている(McKnaught et al.,Ann Neurol.2003;53 Suppl 3:S73−84)。具体的には、α−シヌクレインの変異がタンパク質の誤った折り畳み及びプロテアソームによる分解に対する抵抗性を生じさせ、その結果家族性パーキンソン病を引き起こす。したがって、タンパク質操作の欠陥が、PDの散発性及び様々な家族性形態における共通要因であるらしい。この同じ結論が、プロテアソーム阻害剤とタンパク質の不適正折り畳みの誘発剤との組合せをドーパミンニューロンの培養物に添加した実験から導かれている(Mytilineou et al.,J Neural Transm.2004;111(10−11);1237−51)。この2剤が組み合わさると、ドーパミンニューロンの選択的喪失及び細胞死が顕著に増加する。
【0113】
更に、ユビキチン化タンパク質の凝集体が、ゴーシェ病を始めとする幾つかのリソソーム蓄積障害の患者細胞で見出されたことが報告されている(Asmarina et al.,Eur.J.Biochem.2003;Supplement 1;abstract no.P3.7−08)。これらの細胞は、ユビキチン/プロテアソーム経路に関する遺伝子についても遺伝子発現パターンの変化を示した。
【0114】
CNS障害を伴うLSDにおけるニューロン恒常性の崩壊に対する代替理論は、蓄積酵素によるユビキチン/プロテアソーム経路の抑制によるものである(Rocca et al.,Molecular Biology of the Cell.2001;12:1293−1301)。例えば、α−シヌクレイン凝集に付随する毒性の一機構は、多くの神経変性過程で生じるプロテアソームの抑制であることが判明している。具体的には、凝集したα−シヌクレインは、プロテアソームのサブユニットであるS6’との相互作用によって、プロテアソーム機能を阻害することが示されている(Snyder et al.,J Mol Neurosci.2004;24(3):425−42)。プロテアソーム機能は、パーキンソン病患者の脳内、並びにE3ユビキチンリガーゼであり、ユビキチンプロテアソーム系の一部をなすパーキンを欠いた個体及び動物の脳内でも減少している。タンパク質凝集及び関連するプロテアソーム阻害は、炎症とも関連付けられている(Li et al.,Int.J.Biochem.Cell Biol.2003;35:547−552)。分子シャペロンと損傷/変性/折り畳み不適正タンパク質との間にある、後者の蓄積を引き起こす不均衡は、その不均衡の重度に応じて老化、プロテアソームの阻害(アポトーシスを引き起こす)、又は壊死を生じさせる恐れがあると提案されている(Soti et al.,Aging Cell.2003;2:39−45)。この仮説を「毒性タンパク質蓄積仮説」と称する。α−シヌクレイン単量体はプロテアソームにより分解されると考えられており、オリゴマーの形成は濃度依存性であるので、α−シヌクレインの蓄積及びオリゴマー形成が生じる可能性がある。変異Gba及びα−シヌクレインの双方が蓄積(後者はGba活性の喪失による。)すれば、プロテアソームに対するこの作用は悪化するであろうし、不足したGbaも、プロテアソーム分解経路の欠損を補償するために生じる、リソソームによる自食反応の増加を損なう恐れがある。
【0115】
ERストレス:
ERの管腔中での折り畳み不適正なタンパク質の継続的蓄積はERストレス反応を生み出し、次いで、それが「折り畳み解除反応」(UPR)を誘発する。このUPRは、酸化的ストレス等によるタンパク質合成の阻害、又は折り畳むことができない変異タンパク質のER中での保持から生じる品質管理的細胞ストレス反応である。この反応がないと、ERは折り畳み不適正で不安定なタンパク質で充満し、その結果アポトーシスを介して細胞死が引き起こされる恐れがある(Gow et al.,NeuroMolecular Med.2003;4:73−94)。
【0116】
また、Gbaは、ER中のリアノジン(Rhyanodine)受容体と相互作用して、Ca2+恒常性を妨害し、サイトゾルCa2+の増加による、タンパク質折り畳みの障害、UPR、ERストレス誘発性のアポトーシス、及びミトコンドリア選択的細胞死を引き起こすことも示されている(Korkotian et al.,J Biol Chem.1999.274(31):21673−8;Lloyd−Evans et al.,J Biol Chem.2003.278(26):23594−9;Pelled et al.,Neurobiol Dis.2005.18(1):83−8)。
【0117】
自食作用:
脂質の分解以外に、リソソームは凝集タンパク質(下記で更に考察する)の分解を担っている。自食作用と呼ばれるこの過程は、細胞質の一部が、リソソーム酵素による分解を受けるために、リソソームに引き渡される細胞内バルク分解過程である。このような酵素としては、ペプチド結合を切断するプロテアーゼ(カテプシン)、共有結合したリン酸塩を除くホスファターゼ、DNA/RNAを切断するヌクレアーゼ、脂質分子を切断するリパーゼ、及び炭化水素切断酵素が挙げられる。変異リソソーム酵素等の凝集タンパク質は、顕著な自食反応の活性化を引き起こし、ニューロンの持続的な変性的変化を引き起こす可能性がある。筋萎縮性側索硬化症(ALS)等のCNS障害における多くのニューロンは、不規則な小胞輸送及び自食反応を示す。
【0118】
自食性リソソームによる過度の空胞形成は、ニューロン死を引き起こす可能性がある。蓄積変異タンパク質による、特に、補償機構としてのプロテアソーム経路の阻害と相俟った、自食反応の過剰活性化は、蓄積変異リソソーム酵素と神経変性、特にアルツハイマー病の神経変性との連関を示す一仮説である。
【0119】
〔機能の病変喪失〕
リソソーム酵素の適当な輸送の回復に加えて、特異的薬理学的シャペロンによる変異酵素活性の回復は、非効率的な折り畳み及び輸送のために本来の部位(例えばリソソーム)における機能性酵素(例えばGba)の量を減少させる、一方又は両方の対立遺伝子の不安定化変異(複数も)を保持する患者において有益であろう。小さな機能喪失でさえ、基質の蓄積、凝集等の病変を引き起こす恐れがあり、それが他の病変性凝集体の発端となり得る。
【0120】
したがって、一実施形態では、本発明は、変異リソソーム酵素タンパク質に関連する神経障害を改善する方法であって、当該酵素の減少した活性を増加させ、それにより、(i)基質、凝集したタンパク質又は断片のリソソーム分解を増加させ、(ii)ニューロンのアポトーシス又は壊死を減少させ、(iii)細胞膜中のリン脂質の「均衡」変化を防止することによって、神経障害を改善する方法を提供する(以下で考察する)。
【0121】
ゴーシェ病におけるニューロン喪失又はニュロパシーを説明すると仮定される可能な説明は、変異に関連するGba活性の喪失により説明することができる。活性の喪失で、Gba欠損細胞においてGluCer等のセラミドの蓄積が生じる。これが、細胞内カルシウムの増加及びカルシウム媒介細胞死に対する感受性増加のために、培養したCA2−4海馬神経細胞のアポトーシスを引き起こすことが示されている。ドーパミンニューロンが、セラミド誘発損傷後にアポトーシスを受けることも示されている。
【0122】
第2に、やはりGbaの基質である毒性化合物、グルコシルスフィンゴシンが、致死ヌル対立遺伝子のゴーシェ病マウスの臓器に高濃度で認められている。グルコシルスフィンゴシンも、ゴーシェ病の3つの型全ての患者の組織中で増加する。脳内濃度は、現行の検出法(Sidransky,Mol.Gen.Metabol.2004;83:6−15)を用いると神経障害のある患者のみに増加しているが、現行法を用いて検出できない少量の蓄積でも、タンパク質の折り畳みに影響し、脂質ラフト(lipid raft)の組成(以下に考察する)に影響することにより、タンパク質輸送を損なう恐れもある。
【0123】
第3に、膜リン脂質の含量は細胞中のGba活性に影響する。すなわち、負荷電のリン脂質はGba活性を高めるが、ホスファチジルコリン(PC)等の正荷電のリン脂質はそれを高めない。したがって、ゴーシェ病のGba減少がPC合成に関与する酵素を活性化させ、それによりPCを増加させる機構は、Gbaを更に減少させる恐れがある(上記のWong等)。更に、セラミドの増加は、α−シヌクレインの軸索輸送を阻害し、凝集及びレヴィー小体の形成を促進し得る。ニューロンは、推察するところ機能のためにα−シヌクレインを必要とする。α−シヌクレインのPCとの結合は弱いので、主にPCからなる軸索輸送小胞は、酸性リン脂質からなる小胞ほど効率的でない恐れがある(上記のWong等)。
【0124】
更に、前述したように、リソソームは、多数のCNS障害に関与する凝集体の自食作用による除去に関わっている。自食作用の喪失は、疾患関連変異タンパク質が存在しない場合でも神経変性を引き起こす(Hara et al.,Nature.online publication April 19,2006)ので、自食作用はニューロン中で特に関係している。変化した細胞内成分を除去しようとする防御活動におけるリソソーム自食系の誘導は、酸化ストレス中に生じる(Kiffin et al.,Antioxid Redox Signal.2006;8(1−2):152−62)。
【0125】
一例としてのα−シヌクレインオリゴマー: 1グループは、ヒト脳ホモジェネート中のリソソームにおける、ガングリオシドを含有するグルコシルセラミドとα−シヌクレインとの相互作用を報告している(Schlossmacher et al.,New Eng J Med.2005;352:730)。パーキンソン病を有するゴーシェ病患者では、Gbaがレヴィー小体中にα−シヌクレインと同所局在化(colocalized)を引き起こした(Wong et al.,Mol.Genet.Metabol.2004;38:192−207)。こうした結果は、α−シヌクレインのプロセシングがリソソーム内で生じ、パーキンソン病におけるGba活性の低下とシヌクレイン症との生化学的関連性を与えることを支持している。
【0126】
更に、自食作用は、細胞質区画から変異ハンチンチン(huntingtin)及びアタキシン−1の凝集形を除去するのに必須である(Iwata et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2005;102(37):13135−40)。自食作用は、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び他のポリグルタミン増殖障害においてタンパク質凝集体から細胞を除去する際に主要な役割も演じる(Meriin et al.,Int J Hyperthermia.2005;21(5):403−19)。したがって、リソソーム加水分解酵素が欠損すると、タンパク質の毒性蓄積(蓄積リソソームタンパク質自体を含む。)に対する自食反応に悪影響が出るであろう。
【0127】
基質蓄積及びエンドサイトーシス輸送欠陥:
リソソーム病、特にCNSの関与するリソソーム病におけるスフィンゴ脂質、コレステロール等の細胞基質の蓄積は、タンパク質及び脂質のエンドサイトーシス輸送の混乱と関連していた。これは、個々の細胞内区画に局在し、タンパク質輸送に関連している膜結合タンパク質であるrab(脳内ras)タンパク質の破壊によって引き起こされる場合がある。このrab破壊は、膜結合タンパク質の「脂質ラフト」への隔離を引き起こす。脂質ラフトは、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン)及びコレステロールに富む膜ミクロドメインである。それは、シグナル伝達及び膜輸送を始めとする様々な細胞事象のプラットフォームとして機能すると示唆されている。特に、脂質ラフトは、ER膜内でGPIアンカー型タンパク質の結合を安定化させ、タンパク質構造に直接関与し、細胞に入る脂質又は脂質結合タンパク質を、エンドソームを介して適当な区画へ誘導する。したがって、脂質加水分解酵素活性の低下に起因する、例えばリソソーム蓄積症におけるエンドソーム及びリソソームの膜内への脂質ラフトの蓄積は、スフィンゴ糖脂質(既に蓄積されている。)及び細胞に入る脂質結合タンパク質の細胞内選別を変化させる恐れがある(Pagano et al.,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.2003;358:885−91)。
【0128】
この誤選別仮説は、ムコ多糖症(MPS)における最近の知見により支持されているが、その知見では、異なる2種の蓄積基質、GM2及びGM3ガングリオシドは、同じニューロン中に蓄積するが、細胞質小胞の別々の集団中に一貫して位置することが示されている(McGlynn et al.,Comp Neurol.2004;480:415−26)。この著者等は、個々のニューロン中の同時隔離は、脂質ラフト成分の組成、輸送及び/又はリサイクルにおける欠陥の存在を示唆するものであり、MPS障害における神経機能不全を説明する新たな機構を導くものと仮定している。
【0129】
ゴーシェ病に対するマウスモデルの研究によれば、Gba活性の低下は、より一般的にはスフィンゴ糖脂質の異化を混乱させ、より複雑な種(ガングリオシド)の蓄積を引き起こすことも示唆される。ガングリオシドの蓄積は、人間において失調症及びパーキンソニズムを生じる恐れがある(Roze et al.,Movement Disorders.2005;20(10):1366−1369)。GM2ガングリオシドを蓄積するマウスモデルは、α−シヌクレインも蓄積した(Suzuki et al.,Neuroreport.2003;14(4):551−4)。このようなガングリオシドの蓄積は、α−シヌクレインの蓄積、並びにUPR経路を介した神経死を引き起こす可能性もある(Lee et al.,J Biol Chem.2002.277(1):671−8)。更に前述のように、スフィンゴ脂質は、α−シヌクレイン凝集体の形成に対するきっかけとして機能し得ることが示されている。
【0130】
Gba活性とゴーシェ病の重度との間には緩やかな相関関係があるので、脂質蓄積の結果としての神経毒性に関するこうした機構により、ゴーシェ病の神経病理を部分的に説明することができる。この相関関係は、3つの主要な疾患型(I〜III)を識別するように作用するが、そこには重複があり、しかも個々の型内での相関関係は弱い。Gbaに関してヘテロ接合的正常である患者は、正常な対立遺伝子により産生されるある程度の量の活性Gbaがあるため、脂質の目立った蓄積を引き起こすことはない。しかし、少量のGluCerの蓄積でも、ERのカルシウム恒常性を乱し、タンパク質の折り畳みを損ない(前記)、又は何らかの機構によってα−シヌクレイン凝集のきっかけとさえなる恐れがある。
【0131】
前述のことを考慮すると、本発明による特異的薬理学的シャペロンの使用は、酵素置換療法(ERT)及び基質削減療法(SRT)より有利であるが、その理由は、前者は、カテーテルを介して脳内に直接投与しなければならず、また両者共、変異リソソーム酵素自体、すなわち変異Gbaの毒性蓄積の問題に対処していないからである。したがって、これらの治療は、変異タンパク質蓄積の削減、或いはタンパク質機能の強化及び/又は回復(その結果、基質蓄積の削減)、或いはその双方を実現できる治療ほど有効ではない。
【0132】
〔変異リソソーム酵素及び特異的薬理学的シャペロン〕
次の表は、リソソーム酵素と、リソソーム酵素に対する特異的薬理学的シャペロンであって、その酵素に変異を有し、その結果神経性の状態又は障害を有する、或いは神経性の状態又は障害を発現する危険性がある個体の治療に使用できるシャペロンとを列挙した表である。
【0133】
【表1−1】
【0134】
【表1−2】
【0135】
特定の一実施形態では、Gbaが変異する神経性の危険因子、状態又は障害の治療に使用可能な、本発明で想定される特異的薬理学的シャペロンの一部は、以下の通りである。シャペロンにより「救出」されると想定されるGba変異も例示されている。
【0136】
Gba変異:
少なくとも1つの対立遺伝子(ヘテロ接合体)上でのGba点変異N370Sの存在は、1型ゴーシェ病とほぼ普遍的に関連している(Cox、前記)。N370Sホモ接合体は、ホモ接合体に残存Gba活性が恐らくあるため、Gbaヌル/N370Sヘテロ接合体(N370S/ヌル)ほど重度の表現型を付随しない。事実、一部のN370S/N370S患者は、生涯の大部分に亘って無症状であるが、パーキンソン病等の神経障害を発現する危険性の恐れはある。この場合、Gba変異はパーキンソン病に対する危険因子となろう。1型ゴーシェ病に関連するそれ以外の点変異としては、84GG、R496H、Q350X及びH162Pが挙げられる(Orvisky et al.,Human Mutation,2002;495,19(4):458−9)。更に、スプライス部位変異のIVS10+2T→G及びIVS10+2T→Aも、1型ゴーシェ病と関連していた(Orvisky、前記)。
【0137】
神経障害性2型ゴーシェ病は、主に2個のアミノ酸置換、L444P及びA456Pを生じさせる変異と関連する。L444Pホモ接合体は、3型ゴーシェ病とも一般に関連しているが、この変異は3種全ての疾患型の患者において同定された。神経障害性2型及び3型ゴーシェ病に関連する他の点変異としては、例えば、D409H(ホモ接合体)、V349L及びD409V(ヘテロ接合体)が挙げられる。D409Hに関してホモ接合体の患者は、神経障害の他に水頭、並びに心弁及び大動脈石灰化を始めとする特異な表現型を示す。後者2種の点変異V349L及びD409Vは、触媒的に欠陥を示すGbaを生じる。2型及び3型病で同定された他の変異は、K198E、K198T、Y205C、F251L、1402F、及びスプライス部位変異のIVS10+2T→Aである(Orvisky等、前記、及びLewin et al.,Mol Genet Metab.2004;81(1):70−3)。Gba活性を全く欠いている患者及びノックアウトマウスは、セラミドが皮膚の完全性にとって必須であるため、脱水により生後間もなく失命する(Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1998;95:2503−08)。
【0138】
Gbaのシャペロン:
イソファゴミン(IFG:(3R,4R,5R)−5−(ヒドロキシメチル)−3,4−ピペリジンジオール)は、次式の構造を有する化合物を指す。
【化1】
【0139】
IFGは、C6H13NO3の分子式及び147.17の分子量を有する。この化合物は、Sierks他の米国特許第5,844,102号及びLundgren他の同第5,863,903号に更に記載されている。
【0140】
C−ベンジル−IFGは、次式の構造を有する化合物を指す。
【化2】
【0141】
Gbaの他のシャペロンとしては、グルコイミダゾール、ポリシクロヘキサニル、及びいずれも2004年11月12日に出願され、参照されることにより本明細書に組み込まれる、係属中の米国特許出願公開第2005/0130972号及び第2005/0137223号、並びに対応するPCT国際公開第2005/046611号及び第2005/046612号パンフレットに記載されているヒドロキシピペリジン誘導体が挙げられる。グルコイミダゾール及び誘導体は、次式の化学構造により表わされる。
【0142】
【化3】
【0143】
式中、Bは、水素、ヒドロキシ、アセタミノ及びハロゲンからなる群より選択される。
【0144】
場合により存在するR1及びR2は、直線長が約6Å〜約12Å、好ましくは約9Åの、短く柔軟なリンカーである。R1及びR2は独立に、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルケニル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキニル、並びに薬学的に許容可能なそれらの塩及びプロドラッグからなる群より選択することもできる。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される。
【0145】
また、R1−L1又はR2−L2は、R2−L2及びR1−L1のいずれかが水素以外であれば、水素であってもよい。
【0146】
R5は、水素、ヒドロキシ又はヒドロキシメチルを表わす。
【0147】
L1及びL2は、C3〜C12の置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される脂質親和性基である。
【0148】
特定の実施形態では、GIZ化合物には、(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオール及び(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−(3,3−ジメチルブチル)−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオールが含まれる。
【0149】
本発明での使用が想定されるポリヒドロキシシクロアルキル(PHCA)誘導体には、次式の化学構造により表わされる化合物が含まれる。
【化4】
【0150】
式中、Bは、水素、ヒドロキシ、N−アセタミノ及びハロゲンからなる群より選択される。
【0151】
R1は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、−C(O)R3及び−S(O)mR3からなる群より選択される。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、及びC1〜C6置換又は非置換アルキルに結合した−C(O)からなる群より選択される。
【0152】
場合により存在するR2は、直線長が約6Å〜約12Å、好ましくは約9Åの、短く柔軟なリンカーである。R2は、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルケニル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキニル、並びに薬学的に許容可能なそれらの塩及びプロドラッグからなる群より選択することもできる。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、及びC1〜C6置換又は非置換アルキルに結合した−C(O)からなる群より選択される。
【0153】
Lは、C3〜C12の置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される脂質親和性基である。
【0154】
Gbaが変異している場合の本発明での使用が想定されるヒドロキシピペリジン誘導体は、次式の化学構造により表わされる。
【化5】
【0155】
式中、Aは、炭素又は窒素を表し、
Bは、水素、ヒドロキシ、N−アセタミド又はハロゲンであり、
R1は、水素;置換又は非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル、若しくはヘテロアリールアルキル;−C(O)R3又は−S(O)mR3である。好ましくは、R1は、H又は1〜12個の炭素原子を有する有機部分からなる。
【0156】
場合により存在するR2は、直線長が約6Å〜約12Åの、短く柔軟なリンカーである。或いは、R2は、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C1〜C6置換又は非置換のアルキル、アルケニル又はアルキニルである。
【0157】
R3は、水素、又は置換若しくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル、若しくはヘテロアリールアルキルである。好ましくは、R3は、H又は1〜12個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有する有機部分からなる。
【0158】
mは1又は2であり、
R5は、水素、ヒドロキシ又はヒドロキシメチルである。
【0159】
Lは、置換又は非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル又はヘテロアリールアルキルを含む、1〜12個の炭素原子を有する脂質親和性基である。
【0160】
特定の実施形態では、本発明での使用が想定されるヒドロキシピペリジン化合物としては、これらに限られないが、以下のもの、すなわち(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ブチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ヘキシル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ヘプチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−オクチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ノニル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、及び(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−ベンジル−3,4−ジヒドロキシピペリジンが挙げられる。
【0161】
Gbaの更に別のシャペロンは、Fan他の米国特許第6,599,919号に記載されているが、例えば、カリステギンA3、カリステギンA5、カリステギンB1、カリステギンB2、カリステギンB3、カリステギンB4、カリステギンC1、N−メチル−カリステギンB2、DMDP、DAB、カスタノスペルミン、1−デオキシノジリマイシン、N−ブチル−デオキシノジリマイシン、1−デオキシノジリマイシン重亜硫酸塩、N−ブチル−イソファゴミン、N−(3−シクロヘキシルプロピル)−イソファゴミン、N−(3−フェニルプロピル)−イソファゴミン、及びN−[(2E,6Z,10Z)−3,7,11−トリメチルドデカトリエニル]−イソファゴミンKが挙げられる。
【0162】
他の特定の実施形態では、1−デオキシノジリマイシン(DNJ:1,5−イミノ−1,5−ジデオキシ−D−グルシトール、CAS番号:19130−96−2)及び誘導体を包含し、リソソーム酵素α−グルコシダーゼ(Gaa)が変異している神経性の危険因子、状態又は障害の治療に使用できる特異的薬理学的シャペロンは、以下の通りである。
【0163】
Gaaの変異としては、例えば、D645E(Lin et al.,Zhonghua Min Guo Xiao Er Ke Yi Xue Hui Za Zhi.1996;37(2):115−21);D645H(Lin et al.,Biochem Biophys Res Commun.1995 17;208(2):886−93);R224W、S169R及びR660H(New et al.,Pediatr Neurol.2003;29(4):284−7);T1064C及びC2104T(Montalvo et al.,Mol Genet Metab.2004;81(3):203−8);D645N及びL901Q(Kroos et al.,Neuromuscul Disord.2004;14(6):371−4);G219R、E262K、M408V(Fernandez−Hojas et al.,Neuromuscul Disord.2002;12(2):159−66);G309R(Kroos et al.,Clin Genet.1998;53(5):379−82);D645N、G448S、R672W及びR672Q(Huie et al.,Biochem Biophys Res Commun.1998;27;244(3):921−7);P545L(Hermans et al.,Hum Mol Genet.1994;3(12):2213−8);C647W(Huie et al.,Huie et al.,Hum Mol Genet.1994;3(7):1081−7);G643R(Hermans et al.,Hum Mutat.1993;2(4):268−73);M318T(Zhong et al.,Am J Hum Genet.1991;49(3):635−45);E521K(Hermans et al.,Biochem Biophys Res Commun.1991;179(2):919−26);W481R(Raben et al.,Hum Mutat.1999;13(1):83−4);並びにL552P及びG549R(未発表データ)が挙げられる。
【0164】
スプライシング変異体には、IVS1AS、T>G、−13及びIVS8+1G>A)が含まれる。
【0165】
α−グルコシダーゼシャペロンは、例えば、次式の化学構造により表されるもの、又はその薬学的に許容可能な塩である。
【化6】
【0166】
式中、R1は、H、又は、炭素原子1〜12個を含有する、直鎖若しくは分枝アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキルエーテル、若しくはアルキルアミン、環原子5〜12個を含有する、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、若しくはヘテロアリールアルキルであり、R1は、1個又は複数の−OH、−COOH、−Cl、−F、−CF3、−OCF3、−O−C(=O)N−(アルキル)2で置換されていてもよく、
R2は、H;炭素原子1〜9個を含有する、直鎖若しくは分枝アルキル、シクロアルキル、アルケニル、若しくはアルキルエーテル、又は環原子5〜12個を含有するアリールであり、R2は、−OH、−COOH、−CF3、−OCF3、又はヘテロ環で置換されていてもよい。
但し、R1及びR2の少なくとも一方はHではない。
【0167】
特に、酸性α−グルコシダーゼ用シャペロンとしては、これらに限られないが、N−メチル−DNJ、N−エチル−DNJ、N−プロピル−DNJ、N−ブチル−DNJ、N−ペンチル−DNJ、N−ヘキシル−DNJ、N−ヘプチル−DNJ、N−オクチル−DNJ、N−ノニル−DNJ、N−メチルシクロプロピル−DNJ、及びN−メチルシクロペンチル−DNJが挙げられる。
【0168】
窒素置換DNJ誘導体に加えて、Gaa用シャペロンとして有用な他のDNJ誘導体は、N−ベンジル置換DNJ誘導体を包含し、環窒素に隣接するC−1炭素に置換基が付いた誘導体も、本発明の好ましい化合物である。このような化合物は、2006年5月17日に出願された共有同時係属出願第11/...,...号に記載されている。
【0169】
更に別の実施形態では、他のリソソーム酵素α−ガラクトシダーゼ(α−Gal A)のヘテロ接合体変異に関連する、神経障害の治療用の好ましいシャペロンは、次式の化学構造により表される。
【化7】
【0170】
式中、R1及びR1’は、H、OH、又は炭素1〜12個のアルキル、ヒドロキシアルキル若しくはアルコキシル基を表し、
R2及びR2’は、独立してH、LH、若しくはN−アセタミド基、又は炭素1〜12個のアルキル基を表し、
R4及びR4’は、独立してH、OHを表し、
R6及びR6’は、独立してH、CH2OH、CH3、又はCOOHを表し、
R7は、独立してH又はOHを表し、
R0は、H、メチル、又は炭素原子9〜12個を含有し、フェニル、ヒドロキシ若しくはシクロヘキシル基で置換されていてもよい、直鎖若しくは分枝、飽和若しくは不飽和の炭素鎖を表す。
【0171】
特定の実施形態では、シャペロンは1−デオキシノジリマイシンである。
【0172】
ファブリー病に関連するα−Gal A変異としては、R301Q、L166V、A156V、G272S及びM296Iが挙げられる。
【0173】
〔アッセイ〕
蓄積タンパク質の検出及び輸送:
ERにおけるタンパク質の蓄積は、検出及び/又は可視化することができ、BiP等のER常在タンパク質と同所局在する、細管小胞形状の核周囲局在として現れる。こうしたタンパク質も、細胞表面又はリソソーム等の他の細胞区画のような、細胞内の本来の部位で減少又は欠如している。細胞質におけるタンパク質の蓄積は、同様な同所局在法を用いてサイトゾルタンパク質と共に検出することができる。
【0174】
リソソーム酵素の輸送阻害を検出する方法は、当技術分野で周知である。例えば、ゴルジ装置でN及びO−グリコシル化されるタンパク質に対しては、放射標識タンパク質を用いるパルス追跡用代謝標識を、グリコシダーゼ処理及び免疫沈降と併用することにより、当該タンパク質がゴルジで十分なグリコシル化を受けているか否か、又は当該タンパク質が、更にグリコシル化されるためにゴルジへ輸送される代わりに、ER中に保持されているか否かを検出することができる。
【0175】
タンパク質の細胞内局在を視覚的に検出する感度良好な方法としてはまた、蛍光タンパク質又は蛍光抗体を用いる蛍光顕微鏡法が挙げられる。細胞試料の評価のために、蛍光抗体を用いてタンパク質を検出することができる。操作又は工学処理した細胞における検出に関しては、対象とするタンパク質に対して、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質(YFP)、及び赤色蛍光タンパク質で、トランスフェクションの前にタグを付け、その後、多色で経時的な顕微鏡及び電子顕微鏡観察を行なうことにより、固定細胞及び生細胞における当該タンパク質の運命を調べることができる。タンパク質輸送における蛍光画像法の使用に関する総説については、Watson et al.,Adv Drug Deliv Rev.2005;57(1):43−61を参照されたい。タンパク質の細胞内同所局在に対する共焦点顕微鏡法の使用に関する記述については、Miyashita et al.,Methods Mol Biol.2004;261:399−410を参照されたい。
【0176】
その他に、リソソーム用のLAMP−1又はLysoTracker(登録商標)に対する抗体(赤色)(又は、リソソームに特異的な蛍光量子ドット、Cascadeブルーデキストラン等の他の染色剤若しくはマーカー)及びリソソーム酵素に対する抗体(緑色)を用いる二重標識実験では、緑色/赤色重複比(同所局在)を用いて、リソソーム酵素の変化、例えばリソソームへの酵素輸送を測定することができる(緑色/赤色比の増加は、リソソームへ輸送される酵素が増加することを意味する)。正常なエンドサイトーシス経路を有する正常な健常細胞は、より多い蛍光を生成するはずである。下記の実施例2も参照されたい。
【0177】
蛍光相関分光法(FCS)は、単分子をリアルタイムで分解できる超高感度・非侵襲性検出法である(Vukojevic et al.,Cell Mol Life Sci.2005;62(5):535−50)。SPFI(単一粒子蛍光画像法)は、蛍光微粒子で選択的に標識した個別分子を可視化するために、蛍光の高い感度を使用する(Cherry et al.,Biochem Soc Trans.2003;31(Pt 5):1028−31)。脂質ラフト内のタンパク質の局在性決定については、Latif et al.,Endocrinology.2003;144(11):4725−8を参照されたい。生細胞画像形成に関する総説については、Hariguchi,Cell Struct Funct.2002;27(5):333−4を参照されたい。
【0178】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)顕微鏡法も、生理的条件下にあるタンパク質の構造及び局在性を調べるために使用される(Periasamy,J Biomed Opt.2001;6(3):287−91)。
【0179】
特定の実施形態では、Gba変異を保持する個体におけるα−シヌクレインの検出は、ELISA又はウェスタンブロット分析を用いて行なうことができる。LCMS/MS法及び/又はTLCは、GluCer量(基質蓄積)をモニターするために使用することができる。
【0180】
阻害剤及び/又はシャペロンによる動物の治療に応答した際のα−シヌクレイン量及びオリゴマー/単量体比の体外(ex vivo)モニターは、脳薄片アッセイを用いて評価することができる。
【0181】
ユビキチン化アッセイ:
その他に、ユビキチン−リソソーム酵素複合体の存在及び局在性を決定するアッセイを用いて、変異の機能的作用の毒性獲得、及びシャペロン治療に対する応答を評価することができる。免疫組織化学又は免疫蛍光を用いる、これらの複合体の局在性を決定する形態学的調査は、感度良好な一検出法である。下記の実施例3を参照されたい。上記に示したように、非ストレス細胞と比較して少量のユビキチン化タンパク質の存在は、プロテアソーム機能の阻害を指示することができる。
【0182】
他の例として、AlphaScreen(商標)(Perkin−Elmer)と称するプロセスを用いて、ユビキチン化タンパク質を検出することができる。このモデルでは、GST−UbcH5a融合タンパク質のGST部分が、ビオチン−ユビキチン(bio−Ub)を用いてユビキチン化される。ATP存在下でのE1によるユビキチン活性化の後、bio−UbはUbcH5aに転移される。この反応では、UbcH5aは、タグ付きGST部分にbio−Ubを転移させる担体として作用する。ビオチニル化及びユビキチン化されるこのタンパク質は、次いで抗GSTアクセプター及びストレプトアビジンにより捕捉される。ドナービーズはシグナル生成を引き起こす。ユビキチン化がなければ、シグナルは生成しないはずである。
【0183】
更に、多様なE3ユビキチンリガーゼ及びE2複合化酵素の活性を測定するハイスループットアッセイを用いて、タンパク質のユビキチン化の増減を決定することができる(Meso Scale Discovery,Gaitherburg,MD)。
【0184】
UPR応答:
ERストレスは、UPRに関与する遺伝子及びそれらの遺伝子がコードするタンパク質の発現量の決定により、評価することができる。このような遺伝子及びタンパク質としては、上記のもの、Grp78/BiP、GrP94及びorp150が挙げられ、そのようなものはUPRの早期段階で上方調節される。ERストレス反応に関与する他のタンパク質としては、IRE1、PERK、ATF6及びXBP1が挙げられ、そのようなものは継続的なERストレスを受ける細胞において上方調節される。更に、細胞ストレスの持続はアポトーシスを引き起こし、それにより、junキナーゼ(JNK)並びにカスパーゼ3、9及び12の上方調節を引き起こす。
【0185】
本発明は、タンパク質又は基質の毒性蓄積又は凝集を示す患者と、健常な個体との間における、前記の指標遺伝子及び/又はタンパク質の発現量の比較を想定している。
【0186】
他の実施形態では、本発明は、機能凝集体の毒性獲得を原因とする細胞ストレスを緩和する化合物を同定するために、ストレス細胞に対する特異的薬理学的シャペロンの効果の評価も想定している。陽性対照として、チュニカマイシン、ジチオスレイトール(DTT)、ラカットシスチン(lacatcystin)、過酸化物等のERストレス誘発剤を用いて、ER中の非折り畳みタンパク質の蓄積を引き起こすことができる。チュニカマイシンはN結合グリコシル化を阻害し、DTTはジスルフィド結合の形成を妨げる。ラカットシスチンはプロテアソーム阻害剤である。タンパク質合成阻害剤のシクロヘキサミド等のストレス緩和剤は、ストレス細胞に対してシャペロン化合物を評価する際に、陽性対照として使用することができる。
【0187】
発現量のアッセイには、マイクロアレイ分析を介した遺伝子発現が含まれる。これは、例えば、当該遺伝子(ヒトゲノム)を含有するAffymetrix U133遺伝子チップセット(Affymetrix,Santa Clara,CA)を用いて、実現することができる。この技術は従来から使用されている。例えば、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)処理後の多数時点から集めたRNAのマイクロアレイ分析を、データのマイニング及び集団化技術と併用することにより、細胞ストレス遺伝子の個別の機能性サブグループが同定されている(Holtz et al.,Antioxidants&Redox Signaling.2005;7:639−648)。パーキンソン病模倣物質である6−OHDAは、細胞ストレス及びUPRに関連する転写変化を引き起こすことが示されている。
【0188】
アポトーシス:
更に、前述のように、UPRによって消失しない長期の持続的ERストレスは、神経細胞のプログラム細胞死、例えばアポトーシスを引き起こす恐れもある。in vitroでの評価のために、hNT2(ATCCアクセッション番号:CRL−10742)、Hs68(番号CRL−1636)、HCN−1A(番号CRL−10442)、SK−N−FI(番号CRL−2142)、SK−N−DZ(番号CRL−2149)、SK−N−SH(番号HTB−11)、NT2/D1(番号CRL−1973)等の神経細胞系、又はin vitroでニューロンに分化した胚性幹細胞若しくは神経幹細胞(例えば、Laeng他のUS2003/0013192、及びYan et al.,Stem Cells.2005;23:781−90を参照されたい)に、変異Gbaをトランスフェクトし、アポトーシスについて評価することができる。
【0189】
したがって、アポトーシス細胞数は、例えば、アポトーシスの早期指標であるカスパーゼ3に対する蛍光性の基質類縁体を用いて測定することができる。アポトーシスは、蛍光標示式細胞分取(FACS)及び/又は蛍光プレートリーダー(例えば、ハイスループット用96ウェル)を含め、当技術分野における多様な方法を用いて検出することができる。後者については、アポトーシス又は細胞死に陽性な細胞の比率(%)を決定することができ、又はタンパク質濃度に比した蛍光強度を測定することができる。
【0190】
細胞/細胞小器官の形態:
ニューロンにおける形態異常は、変異タンパク質の蓄積から生じることができ、形態分析を用いて評価することができる。例えば、タウ−GFPをトランスフェクトしたニューロンにおけるニューロン形態の変化には、非対称性、前後方向投影における軸索数の減少、異常な軸索の束状化、軸索の水泡化、及び末端樹枝状分岐の減少が含まれる。細胞形態の他の変化には、凝集、細胞サイズ(細胞面積又は細胞密度)、多形性(polymegathism:平均細胞面積の変動係数等の細胞サイズの変化)、多形性(pleomorphism:六角細胞比率(%)や細胞形状の変動係数等の細胞形状の変化)、細胞周囲長、平均細胞側辺長、細胞形状等が含まれる。形態は、Ventimiglia et al.,J Neurosci Methods.1995;57:63−6及びWu et al.,Cerebral Cortex.2004;14:543−54(high−throughput analysis)に記載の方法による定量的形態分析を用い、並びにImage Pro−Plusソフトウェア等の画像解析ソフトウェアを用いて評価することができる。
【0191】
細胞/ERストレスは、細胞小器官の形態の評価によっても検出することができる。例えば、CY028発現性S.セレビシエ(cerevisiae)細胞におけるUPRは、野生型CY000産生S.セレビシエ細胞のER形態及び膜増殖と比較した場合、小胞体(ER)の異常形態及び広範な膜増殖として現れる(Sagt et al.,Applied and Environmental Microbiology.2002;68:2155−2160)。
【0192】
更に、特定の形態指標を個々の凝集疾患と関連させることができる。例えばゴーシェ病においては、脂質がマクロファージのリソソーム中に蓄積し、活性化マクロファージを示す特徴的形態を生じる。
【0193】
ERのカルシウム貯蔵:
ERストレスは、ER内腔及びサイトゾル中のカルシウム濃度の測定によっても、細胞内のカルシウム貯蔵を調節する普遍的なカルシウム−ATPaseであるSERCA2b等のカルシウム調節タンパク質の濃度の決定によっても検出することができる。対照として、ERストレスは、例えばタプシガルギン(thapsigargin)を用いたカルシウム枯渇により誘導できる。
【0194】
プロテアソーム機能:
タンパク質又は基質の蓄積に対する細胞の一ストレス反応であるプロテアソーム機能は、Glas等(Nature.1998;392:618−622)の方法に従って測定することができる。生体動物中の26Sプロテアソーム機能の画像形成による評価は、生物発光画像形成のためのユビキチン−ルシフェラーゼレポーターを用いて実現されている(Luker et al.,Nature Medicine.2003.9,969−973)。プロテアソームの単離及びアッセイは、Craiu等、JBCに記載されている。プロテアソームの単離用キットは、例えばCalbiochem(カタログ番号539176)から市販されている。このキットを用いて細胞抽出物からプロテアソームサブユニットを単離することにより、その機能及び他のタンパク質との相互作用を調べることができる。プロテアソームサブユニットは、そのビーズを直接SDS−PAGEゲル上に添加し、サブユニット特異抗体で免疫ブロットをすることにより、同定することができる。或いは、ビーズに結合したプロテアソームを、プロテアソーム基質を用いるタンパク質分解アッセイに使用することができる。
【0195】
細胞の増殖及び輸送pHアッセイ:
細胞中でのタンパク質の輸送は、pH勾配(すなわち、ERのpH:約7.0、ゴルジ体のpH:約6.2〜7.0、トランスゴルジ網のpH:約6.0、初期及び後期エンドソームのpH:約6.5、リソソームのpH:約4.5)に沿って生じる。一部のリソソーム蓄積症では、輸送、リソソーム/エンドソーム形態、及び内腔pHも混乱し(Ivleva et al.,Biomed Sci.1991;2:398−402;Futerman and van Meer,Nat Rev Mol Cell Biol.2004;5:554−65)、エンドソーム中のpH上昇は、エンドソームからゴルジ体への小胞輸送の逆転を促進することが示されている(van Wert他、1995年、上記)。
【0196】
ある範囲のpHに曝した細胞(例えば、野生型、未処理患者細胞、及びシャペロン処理患者細胞)の増殖速度は、蛍光プレートリーダーを用いて測定し、比較することができる。アポトーシス及び細胞死アッセイ(前記)を用いて、細胞生存性に関するpH感受性を決定することもできる。
【0197】
或いは、リソソームpH及び輸送に対するpH効果は、共焦点顕微鏡を用いて評価することができる。細胞によるエンドサイトーシスを受けるpH感受性蛍光プローブを用いて、リソソーム及びエンドソーム中のpH範囲を測定することができる(すなわち、フルオレッセインはpH5.0で赤色、pH5.5〜6.5で青色から緑色である)。リソソームの形態及びpHは、野生型、並びにシャペロン処理及び未処理患者細胞において比較することができる。このアッセイは、pH感受性を決定するために、プレートリーダーアッセイと同時に行なうことができる。更に、酵素のリソソームへの輸送は、前記の二重標識実験を用いて異なるpHの細胞中で評価することができる。
【0198】
様々なpHに曝された細胞(野生型、シャペロン処理及び未処理患者細胞)のエンドサイトーシスの速度は、Quantumドット又はDextran Blueを用いて測定することができる。更に、蛍光脂質類縁体(BODIPY−LacCer、同−GM1ガングリオシド等)の使用について述べたアッセイが、Pagano,Phil Trans R Soc Lond B.2003;358−885−91に記載されている。
【0199】
酵素活性:
前記のタンパク質局在性アッセイを用いるシャペロンの凝集及び/又は輸送に対する効果の評価に加えて、生化学アッセイを用いて、タンパク質が機能的か否かを判定し、タンパク質がERから、例えばリソソームへとシャペロン介助を受けた際の、機能回復の効果を評価することもできる。活性アッセイは、試験作用物質の存在又は非存在下での標的タンパク質の活性を測定するために、一般に設計される。このようなアッセイは、その特定のタンパク質に依存することになろう。例えば、当該タンパク質が酵素の場合、当分野で常套的な基質を用いる細胞内酵素活性アッセイを用いて、酵素活性を評価することができる。
【0200】
酵素活性のex vivo及びin vivoでの評価は、健常動物及び以下に述べるような疾患状態の動物モデルを用いて行なうことができる。
【0201】
〔診断の方法〕
本発明は、リソソーム酵素の変異に関連する危険因子、状態又は神経障害を診断する方法を提供する。LSDの患者に生じる神経性作用は、他の神経障害にも存在し得るので、リソソーム酵素の変異を有しながら、LSDと診断されていない人々は、有効な治療を受けていない恐れがある。一例は、Gba遺伝子にヘテロ接合体変異を有し、パーキンソニズム又はパーキンソン病を発現する危険性があるか、又は既に発現した個体である。変異リソソーム酵素に関連し得る他の例示的な神経症状としては、神経変性、神経退行、発作、盲目、眼球運動障害、痙攣(spacisticity)、認識障害;発育遅延;神経筋症状、末梢神経障害(神経因性疼痛)、肢端感覚異常、長期記憶障害、脳血管事象等の脳血管事象(卒中、一過性脳虚血発作)、嚥下障害等が挙げられる。
【0202】
リソソーム酵素の1つ又は複数の変異を同定する方法は当技術分野で周知であり、神経症状を示す個体、又は神経症状を発現する危険性のある個体(例えば、LSDのキャリヤー若しくはLSDを有する個体の親類)から得た生体試料のリソソーム酵素の酵素活性を比較することを包含する。分子レベルの変異、すなわちヌクレオチド又はアミノ酸の変化を同定する方法も当業者には周知であり、PCR増幅とそれに続く配列決定、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)、又は大量試料に対するDNAマイクロアレイの使用、等が挙げられる(Tennis et al.,Cancer Epidemiology Biomarkers&Preventio.2006;15:80−85)。
【0203】
〔特異的薬理学的シャペロンの製剤、投与量及び投与〕
本発明は、当該化合物が、神経細胞に作用するために血液脳関門を越える必要があることから、特異的薬理学的シャペロンを全身投与可能な剤形で投与することを包含する。一実施形態では、特異的薬理学的シャペロンは、単剤療法として、好ましくは経口剤形(下記で更に説明する)で投与されるが、他の剤形も想定される。一実施形態では、投薬計画は、治療される個体の血漿中で化合物の周期的な最高濃度が得られるものであることが想定されている。他の実施形態では、血漿中で化合物濃度が一定で、定常状態にあることが必要となり得る。これは、分割用量若しくは制御放出製剤の毎日投与、又は持続放出剤形の低頻度投与により得ることができる。特異的薬理学的シャペロンの製剤、投与量及び投与経路については以下に詳述する。
【0204】
(製剤)
特異的薬理学的シャペロンは、任意の投与経路に適当な形態、例えば、経口では錠剤若しくはカプセル若しくは液体の形態、又は注射では滅菌水溶液等の形態で投与することができる。特異的薬理学的シャペロンを経口投与のために製剤化する場合、錠剤又はカプセルは、従来の手段によって、結合剤(例えば、予備ゼラチン化トウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム)、滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉又は澱粉グリコール酸ナトリウム)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の薬学的に許容可能な賦形剤を用いて調剤することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法によりコートされてもよい。経口投与のための液体製剤は、例えば溶液、シロップ又は懸濁液の形態をしてもよく、或いは使用前に水又は他の適当な媒体で構成させるための乾燥製品として提供してもよい。このような液体製剤は、従来の手段によって、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は硬化食用脂肪)、乳化剤(例えば、レシチン又はアラビアゴム)、非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分別植物油)、及び防腐剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはp−ヒドロキシ安息香酸プロピル、又はソルビン酸)等の薬学的に許容可能な添加剤を用いて調剤し得る。製剤は、必要に応じて、緩衝剤塩、香味剤、着色剤及び甘味剤も含有してもよい。経口投与用製剤は、特異的薬理学的シャペロンの制御又は持続放出が可能なように適切に処方することもできる。
【0205】
非経口/注射用に適当な特異的薬理学的シャペロンの医薬製剤は、一般に、滅菌水溶液(水溶性の場合)、又は滅菌注射溶液若しくは分散液の即時調合用の分散液及び滅菌粉末を包含する。全ての場合に、その形態は滅菌されていなければならず、容易に注射針を通過する程度に流動性でなければならない。それは製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌、真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。その担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、並びに植物油を含有する溶媒又は分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えばレシチン等の被膜の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物作用の防止は、多様な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸等により行なうことができる。多くの場合に、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含めることは妥当であろう。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの当該組成物中での使用によって実現することができる。
【0206】
滅菌注射溶液は、必要量の特異的薬理学的シャペロンを、必要に応じて前述した様々な他の成分と共に適当な溶媒中に導入し、次いでろ過又は最終的な滅菌をすることによって調製される。一般に分散液は、様々な滅菌活性成分を、基礎分散媒体及び前述した中から必要な他の成分を含有する滅菌媒体中に導入することによって調製される。滅菌注射溶液の調製用滅菌粉末の場合には、好ましい調製法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術によるものであり、予備的に滅菌ろ過した溶液から、活性成分に所望の成分が添加された粉末が得られる。
【0207】
製剤は賦形剤を含有することができる。製剤中に含み得る薬学的に許容可能な賦形剤は、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、重炭酸緩衝剤等の緩衝剤、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質;血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;EDTA、EGTA等の塩、及び塩化ナトリウム;リポソーム;ポリビニルピロリドン;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール等の糖類;プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000);グリセロール;グリシン又は他のアミノ酸;及び脂質である。製剤に使用される緩衝系は、クエン酸塩、酢酸塩、重炭酸塩及びリン酸塩緩衝剤を包含する。リン酸緩衝剤は好ましい実施形態である。
【0208】
製剤は非イオン性洗浄剤も含有することができる。好ましい非イオン性洗浄剤としては、Polysorbate 20、Polysorbate 80、Triton X−100、Triton X−114、Nonidet P−40、オクチルα−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、Brij 35、Pluronic及びTween 20が挙げられる。
【0209】
(投与)
特異的薬理学的シャペロンの投与経路は、経口(好ましくは)又は非経口でもよく、非経口には、静脈内、皮下、動脈内、腹腔内、点眼、筋肉内、口腔内、直腸、膣、眼窩内、脳内、皮内、頭蓋内、髄腔内、心室内、くも膜下、槽内(intracisternal)、嚢内(intracapsular)、肺内、鼻腔内、経粘膜、経皮、又は吸入が含まれる。
【0210】
特異的薬理学的シャペロンの前記非経口製剤の投与は、製剤の周期的ボーラス注入によってもよく、或いは外部(例えば、静注バッグ)又は内部(例えば、生体内分解性インプラント)の貯液槽からの静脈内又は腹腔内投与によって投与してもよい。例えば、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第4,407,957号及び第5,798,113号を参照されたい。肺内への送達法及び器具は、例えば、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,654,007号、第5,780,014号及び第5,814,607号に記載されている。他の有用な非経口送達システムとしては、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋込式注入システム、ポンプ送達、封入セル送達、リポソーム送達、針送達注射、針なし注入、噴霧器、エアゾール発生器、電気穿刺及び経皮パッチが挙げられる。針なし注入具は、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,879,327号、第5,520,639号、第5,846,233号及び第5,704,911号に記載されている。前記の製剤は、いずれもこれらの方法を用いて投与することができる。
【0211】
皮下注射は、静脈内投与に比べて血漿半減期を延長もしながら、自己投与ができる利点を有する。更に、患者に便利に設計した多様な用具(詰替式注入ペン、針なし注入具等)を、本明細書で考察したような本発明の製剤と共に使用してもよい。
【0212】
(投与量)
内因性変異Gbaの救出に有効な特異的薬理学的シャペロンの量は、当業者により症例毎に決定することができる。半減期(t1/2)、最高血漿濃度(Cmax)、最高血漿濃度時間(tmax)、曲線下面積(AUC)で測定される曝露量、及び代替タンパク質、特異的薬理学的シャペロン双方の組織分布、並びに特異的薬理学的シャペロン/Gba結合のデータ(親和性定数、結合及び解離定数、結合価)、等の薬物動態及び薬力学データを、当技術分野で公知の通常の方法を用いて得ることにより、代替タンパク質をその活性を阻害せずに安定化し、その結果治療効果を得るのに必要な適合量を決定することができる。
【0213】
細胞培養アッセイ又は動物試験から得たデータは、人間及び人以外の動物に使用する治療投与量範囲を処方するために使用し得る。本発明の治療法で使用する化合物の投与量は、ED50濃度(試験集団の50%に対して有効な濃度)を包含するが、毒性は殆ど又は全く示さない範囲の循環濃度内にするのが好ましい。任意の治療で使用する特定の投与量は、この範囲内で、使用する特定の剤形、利用する投与経路、個体の状態(例えば、患者)等の要素に応じて変動し得る。
【0214】
治療有効用量は、当初に細胞培養アッセイから推定し、動物モデルにおいて処方することにより、IC50を包含する循環濃度範囲を実現し得る。化合物のIC50濃度は、症状の半値阻害(half−maximal inhibition)を実現する濃度(例えば、細胞培養アッセイから決定したような濃度)である。次いで、特定の個体、例えばヒト患者で使用する適当な投与量は、このような情報を用いてより正確に決定し得る。
【0215】
血漿中の化合物の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー等の方法によって、患者等の個体において常套的に測定し得る。
【0216】
当該組成物の毒性及び治療効力は、標準的な薬学的な手法によって(例えば、細胞培養アッセイにおいて、或いは実験動物を用いてLD50及びED50を決定することによって)判定することができる。LD50及びED50というパラメーターは、当技術分野で周知であり、それぞれ、集団の50%に致死的である化合物の用量、及び集団の50%に治療効果的である化合物の用量を指す。毒性効果と治療効果との用量比は、治療指数と称し、比率LD50/ED50で表現し得る。大きな治療指数を示す特異的薬理学的シャペロンが好ましい。
【0217】
特異的薬理学的シャペロンの最適濃度は、in vivoの組織又は循環血中の組換えタンパク質、例えばGbaの適切な構造を安定化させ、誘導する一方、その活性、組織又は循環血中の特異的薬理学的シャペロンの生体利用性、及び組織又は循環血中の特異的薬理学的シャペロンの代謝を持続的に妨げないのに必要な量に従って決定される。例えば、特異的薬理学的シャペロンが酵素阻害剤の場合、当該阻害剤の濃度は、酵素に対するその特異的シャペロンのIC50値を計算することによって決定することができる。次いで、その化合物の生体利用性及び代謝を考慮して、IC50値近辺又はIC50値よりやや高い濃度を、酵素活性に対する効果、例えば、投与した酵素の酵素活性量の増加又は酵素活性の持続に必要な阻害剤の量に基づいて見積もることができる。例えば、化合物イソファゴミンのGba酵素に対するIC50値は0.04μMであり、これは、それが効果的な阻害剤であることを示している。
【0218】
〔併用薬物療法〕
特異的薬理学的シャペロンは、リソソーム酵素の変異に関連するCNS障害の患者を治療するために、CNS障害の治療にやはり使用される他の薬物と併用することができる。
【0219】
例えば、パーキンソン病患者に対しては、ドーパミン受容体アゴニスト、抗コリン剤、COMT阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤等である。薬剤としては、これらに限られないが、レボドーパ(Sinemet(登録商標)、Merck)、Parlodel(登録商標)(ブロモクリプチンメシレート、Novartis)、Permax(登録商標)(ペルゴリドメシレート、Eli Lilly)、Requip(登録商標)(ロピニロールHCl)、Mirapex(登録商標)(プラミペキソール二塩酸塩)、Cogetin(登録商標)(ベンズトロピンメシレート)、Artane(登録商標)(トリヘキシフェニジルHCl、American Cyanamid)、Symmetrel(登録商標)(アマンタジン塩酸塩、Du Pont Merck)、及びEldepryl(登録商標)(Somerset Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0220】
〔遺伝子治療との併用療法〕
米国では治療処置が未だ認可されていないが、多数の遺伝障害に対する遺伝子治療(ex vivo、直接導入の双方)が研究途上にある。本発明は、神経疾患において欠陥性Gba遺伝子を代替するために、特異的薬理学的シャペロンの遺伝子治療との併用も想定している。このような併用は、変異酵素の折り畳み及びプロセシングの強化に加えて、特異的薬理学的シャペロンが、野生型及び安定な構造の対応酵素の折り畳み及びプロセシングを強化することが示されているので、治療性Gbaの発現量をin vivoで増加させることにより、遺伝子治療の効果を強化することになろう(例えば、Fan他の米国特許第6,274,597号、実施例3を参照されたい)。
【0221】
Bankiewiczの米国特許第6,309,634号は、パーキンソン病を治療するための遺伝子治療手法について記載している。この方法によれば、組換えアデノ随伴ウィルス(rAAV)のビリオンがin vitroで産生され、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)をコードする核酸配列を含む。他のグループは、最近、パーキンソン病のサルモデルにおいて、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)に対する遺伝子をやはり組換えアデノ随伴ウィルスベクターを介して挿入した(Eslamboli et al.,J Neurosci.2005;25(4):769−77)。
【0222】
当技術分野で利用可能な遺伝子治療法のいずれも、治療性遺伝子を送達するために使用することができる。例示的方法を以下に説明する。遺伝子治療法に関する全般的総説については、Goldspiel et al.,Clinical Pharmacy 1993,12:488−505;Wu and Wu,Biotherapy 1991,3:87−95;Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.1993,32:573−596;Mulligan,Science.1993,260:926−932及びMorgan and Anderson,Ann.Rev.Biochem.1993,62:191−217;May,TIBTECH 1993,11:155−215を参照されたい。使用できる組換えDNA技術の分野で一般に知られている方法は、Ausebel et al.,(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY;Kriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY及びDracopoli et al.,(eds.),1994,Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NYの12章、13章、並びにColosimo et al.,Biotechniques 2000;29(2):314−8,320−2,324に記載されている。
【0223】
本発明の方法のために投与すべき遺伝子は、当分野の技術に入る通常の分子生物学、微生物学及び組換えDNAの技術を用いて単離し、精製することができる。例えば、標的タンパク質をコードする核酸は、文献に記載されるような組換えDNAの発現を用いて単離することができる。例えば、Sambrook,Fritsch&Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York;DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization[B.D.Hames&S.J.E Higgins eds.(1985)];Transcription And Translation[B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984)];Animal Cell Culture[R.J.Freshney,ed.(1986)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL Press,(1986)];B.E Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984)を参照されたい。タンパク質をコードする核酸は、その遺伝子が生物活性なタンパク質をコードする限り、全長又は切断型でもよい。
【0224】
同定され、単離されたGba遺伝子は、次いで適当なクローニングベクター中に挿入することができる。遺伝子治療に適切なベクターには、ウィルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、並びに当技術分野で通常使用され、多様な真核及び原核宿主中に発現することがこれまで記載されており、タンパク質の単純発現だけでなく遺伝子治療にも使用し得る他の組換え媒体が含まれる。
【0225】
特定の実施形態では、ベクターはウィルスベクターである。ウィルスベクター、特にアデノウィルスベクターは、標的細胞のウィルス感染効率を増大させる、陽イオン脂質、ポリL−リジン(PLL)、ジエチルアミノエチルデキストラン(DELAEデキストラン)等の陽イオン両親媒性物質と複合することができる(例えば、1997年11月20日に出願され、参照されることにより本明細書に組み込まれるPCT/US97/21496を参照されたい)。本発明で使用するウィルスベクターには、ワクシニア、ヘルペスウィルス、AAV及びレトロウィルスに由来するベクターが含まれる。特に、ヘルペスウィルス、中でも、参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,672,344号に開示されているような単純疱疹ウィルス(HSV)は、導入遺伝子の神経細胞への送達に特に有用である。その開示内容が本明細書に組み込まれる米国特許第5,139,941号、第5,252,479号及び第5,753,500号、並びにPCT公開第WO97/09441号パンフレットに開示されているようなAAVベクターも、宿主染色体中に組み込む際、ベクター投与の反復が最小限で済むので有用である。遺伝子治療におけるウィルスベクターの総説については、McConnell et al.,Hum Gene Ther.2004;15(11):1022−33;Mccarty et al.,Annu Rev Genet.2004;38:819−45;Mah et al.,Clin.Pharmacokinet.2002;41(12):901−11;Scott et al.,Neuromuscul.Disord.2002;12 Suppl 1:S23−9を参照されたい。更に、米国特許第5,670,488号を参照されたい。
【0226】
送達すべき遺伝子のコード配列は、発現制御配列、例えば、遺伝子の発現を指示するプロモーターに作動的に連結されている。本明細書において、語句「作動的に連結されている」とは、ポリヌクレオチド/遺伝子が有する調節及びエフェクターヌクレオチド配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写及び翻訳終止部位、並びに他のシグナル配列)との機能的関係を指す。例えば、核酸のプロモーターとの作動的連結とは、DNAの転写が、プロモーターを特異的に認識し、それに結合するRNAポリメラーゼによりプロモーターから開始され、プロモーターがポリヌクレオチドからのRNAの転写を指示するような、ポリヌクレオチドとプロモーターとの物理的で機能的な関係を指す。
【0227】
特定の一実施形態では、その中のコード配列及び他の任意の所望配列が、ゲノム中の所望部位で相同的組換えを促進する領域に隣接し、その結果、ゲノム中に組み込まれた核酸分子からコンストラクトを発現させるベクターが使用される(Koller and Smithies,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1989,86:8932−8935;Zijlstra et al.,Nature.1989,342:435−438;Zarling他の米国特許第6,244,113号及びPati他の米国特許第6,200,812号)。
【0228】
〔遺伝子送達〕
ベクターの患者中への送達は、患者をベクター又は送達複合体に直接曝露する直接法、或いは先ず細胞をin vitroでベクターで形質転換し、次いで患者中に移植する間接法であってもよい。こうした2種の手法は、各々in vivo及びex vivo遺伝子治療として知られている。
【0229】
直接移入:
特定の実施形態では、ベクターをin vivoで直接投与し、それが生物体の細胞に入り、遺伝子の発現を媒介する。これは、当技術分野で公知であり、前に考察した多様な方法のいずれか、例えば、その遺伝子を適当な発現ベクターの一部として構築し、細胞内に入るように投与することにより実現できるが、その投与法としては、例えば、欠陥若しくは弱毒化レトロウィルス又は他のウィルスベクターを用いる感染(米国特許第4,980,286号を参照されたい)、或いは裸出DNAの直接注入、或いは微粒子衝突(例えば、遺伝子銃、Biolistic、Dupont);或いは、脂質若しくは細胞表面受容体又はトランスフェクション剤による被覆、生体高分子中への封入(例えば、ポリ−β−1−64−N−アセチルグルコサミン多糖、米国特許第5,635,493号を参照されたい)、リポソーム、微粒子又はマイクロカプセル中への封入;核内に入ることが知られているペプチド又は他のリガンドに連結した状態での投与;或いは受容体媒介エンドサイトーシスを受けるリガンドに連結した状態での投与(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.1987,62:4429−4432)等が挙げられる。他の実施形態では、リガンドが、エンドソームを破壊するための融合誘発性ウィルスペプチドを含むため、核酸のリソソーム分解を回避できるようにする、核酸−リガンド複合体を形成することができ、又は治療性DNAを細胞内に導入するために使用できる、例えばアンテナペディア由来の陽イオン12量体ペプチドを形成することができる(Mi et al.,Mol.Therapy.2000,2:339−47)。更に別の実施形態では、特異的受容体を標的とすることにより、核酸をin vivoで細胞特異的な取込み及び発現の標的とすることができる(例えば、PCT公開第WO92/06180号、第WO92/22635号、第WO92/20316号及び第WO93/14188号パンフレットを参照されたい)。最近になって、マグネトフェクションと称する技術が、ベクターを哺乳類に送達するために使用された。この技術は、磁場の影響下で送達するためにベクターと超常磁性ナノ粒子とを結合したものである。これを適用すると、送達時間が減少し、ベクター効力が高まる(Scherer et al.,Gene Therapy.2002;9:102−9)。追加の標的及び送達手法は、下記のベクターに関する説明で想定されている。
【0230】
特定の実施形態では、核酸は脂質担体を用いて投与することができる。脂質担体は、裸出核酸(例えば、プラスミドDNA)と結合することにより、細胞膜の通過を促進することができる。陽イオン性、陰イオン性又は中性の脂質をこの目的のために使用することができる。しかし、一般に陰電荷を有するDNAとより良好に結合することが示されていることから、陽イオン性脂質が好ましい。陽イオン性脂質も、プラスミドDNAの細胞内送達を媒介することが示されている(Felgner and Ringold,Nature.1989;337:387)。陽イオン性脂質−プラスミド複合体をマウスに静脈注射すると、肺内にそのDNAが発現することが示されている(Brigham et al.,Am.J.Med.Sci.1989;298:278)。Osaka et al.,J.Pharm.Sci.1996;85(6):612−618;San et al.,Human Gene Therapy.1993;4:781−788;Senior et al.,Biochemica et Biophysica Acta.1991;1070:173−179;Kabanov and Kabanov,Bioconjugate Chem.1995;6:7−20;Liu et al.,Pharmaceut.Res.1996;13;Remy et al.,Bioconjugate Chem.1994;5:647−654;Behr,J−P.,Bioconjugate Chem.1994;5:382−389;Wyman et al.,Biochem.1997;36:3008−3017;Marshall他の米国特許第5,939,401号、及びScheule他の米国特許第6,331,524号も参照されたい。
【0231】
代表的な陽イオン性脂質としては、例えば、参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,283,185号及び第5,767,099号に開示されているものが挙げられる。好ましい実施形態では、陽イオン性脂質は、米国特許第5,767,099号に開示されているN4−スペルミンコレステリルカルバメート(GL−67)である。他の好ましい脂質としては、N4−スペルミジンコレステリルカルバメート(GL−53)及び1−(N4−スペルミン)−2,3−ジラウリルグリセロールカルバメート(GL−89)が挙げられる。
【0232】
ウィルスベクターのin vivo投与では、好ましくは、適当な免疫抑制処置をウィルスベクター、例えばアデノウィルスベクターと共に採用することにより、ウィルスベクター及びトランスフェクトされた細胞の免疫不活性化を回避する。例えば、インターロイキン12(IL−12)、インターフェロンγ(IFN−γ)、抗CD−4抗体等の免疫抑制サイトカインを投与することにより、ウィルスベクターに対する体液性又は細胞性免疫反応を阻止することができる。それに関しては、最小数の抗原を発現するように操作されたウィルスベクターを用いることが好ましい。
【0233】
間接移入:
体細胞は、前記方法のいずれかを用いて、野生型タンパク質をコードするコンストラクトでex vivoで操作した後、個体中に植え付けて戻し得る。この方法は、Selden他の国際公開第93/09222号パンフレットに全般的に記載されている。更に、この技術は、Payumo et al.,Clin.Orthopaed.and Related Res.2002;403S:S228−S242に記載の細胞準拠送達の独自開発ImPACT技術(Cell Based Delivery’s proprietary ImPACT technology)において使用されている。このような遺伝子治療系では、体細胞(例えば、線維芽細胞、肝細胞又は上皮細胞)を患者から取り出し、in vitroで培養し、治療対象の遺伝子(複数も)でトランスフェクトし、その特性を決定し、患者中に再導入する。一次細胞(個体又は組織に由来し、継代前に操作された)、二次細胞(in vivoに導入する前にin vitroで継代された)のいずれも、当技術分野で公知の不死化細胞系と同様に使用することができる。本発明の方法に有用な体細胞には、これらに限られないが、繊維芽細胞、角化細胞、上皮細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、血液の有形成分、筋肉細胞、培養できる他の体細胞、体細胞前駆体等が含まれる。好ましい実施形態では、細胞は繊維芽細胞又は間葉幹細胞である。
【0234】
外因性遺伝子を含む核酸コンストラクト、及び場合により、選択マーカーをコードする核酸は、一次又は二次受容細胞中での外因性遺伝子の発現に必要な追加の配列と共に、コードされた産物を産生するはずの一次又は二次細胞をトランスフェクトするために使用される。このようなコンストラクトとしては、これらに限られないが、レトロウィルス、ヘルペス、アデノウィルス、随伴アデノウィルス、ムンプス及びポリオウィルスの各ベクターのような感染性ベクターが挙げられ、この目的のために使用することができる。
【0235】
間葉幹細胞(MSC)は、骨髄中で産生される非血液産生幹細胞である。MSCは、特殊化した非血液組織に分化させ、増殖させることができる。レトロウィルスをトランスフェクトした幹細胞は、その自己再生能のために治療にとって良好な候補である。この能力のために遺伝子治療薬の反復投与をせずに済む。他の利点は、注入した幹細胞が標的器官に達し、次いで分化する場合、その器官における損傷又は奇形細胞の代替となることができることである。
【0236】
一例として、ゴーシェ病について、個体からの体性幹細胞にGba遺伝子をコードするレトロウィルスを導入した後、矯正した幹細胞を患者に戻すことにより、当該細胞が骨髄中に定着し、マクロファージ等のGba発現細胞を産生するようにする臨床試験が進行中である。
【0237】
シャペロン送達:
治療性遺伝子をコードする遺伝子治療薬と組み合わせて投与する際、特異的薬理学的シャペロンは、前記の方法及び剤形に従って投与することができる。
【0238】
〔基質阻害剤との併用〕
更に、本発明の小分子シャペロンと、本発明の背景で説明したような他の小分子基質阻害剤との併用も、想定されている。リソソーム酵素活性がわずかに低下しただけでも、脂質の蓄積増加を引き起こす恐れがあり、それが、次に、細胞のリン脂質平衡を変えるか、又はアポトーシスを生じるシグナル伝達事象を開始する恐れがある。基質阻害剤としては、例えば、セラミド特異的グルコシルトランスフェラーゼの阻害(糖脂質基質の減少)用のNB−DNJ(Miglustat)が挙げられる(Kasperzyk et al.,Journal of Neurochemistry 2004.89:645−653)。
【実施例】
【0239】
本発明を以下の実施例によって更に説明する。このような実施例の使用は、例示的なものに過ぎず、決して本発明又は任意の例示用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態に何ら制限されない。実際に、当業者であれば、本発明の多くの改変及び変更は、この明細書を読んだ際に明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の文言、及び特許請求の範囲と同等な範囲により限定される。
【0240】
〔実施例1:特異的薬理学的シャペロンで処理したL444Pトランスジェニックマウスの脳内Gba活性の増加量の決定〕
L444Pはゴーシェ病2型及び3型と関連する変異である。L444Pトランスジェニックマウス(グルコシルセラミドシンターゼヌルのバックグラウンドでヒトL444P変異Gbaに関してホモ接合体)は、脳内Gba活性の不足を示す。しかし、グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子が破壊されているため、これらのマウスは、例えばマクロファージ中にGluCerの蓄積を示さない。以前に作製したL444Pトランスジェニックマウスは、表皮の透過性障壁機能の傷害のために生後3日以内に死亡したので、グルコシルセラミドシンターゼの同時破壊が必要である。
【0241】
この実験では、L444Pトランスジェニックマウスをイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンで処理し、代替マーカーを1、3、6及び12ヶ月に測定してシャペロンの効力を決定した。4週間の処理後に非シャペロン処理を2週間行なう「投薬中断」期間中のマウスに対して、未処理対象に見られる水準まで代替マーカーが逆戻りしていないか否かも評価した。
【0242】
(方法)
特異的薬理学的シャペロン処理:
飲料水中のイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンをマウスに自由に投与した。水の消費体積に基づいて推定した1日用量は、約10mg/kg/日である。
【0243】
脳内のGba活性アッセイ:
1、3、6及び12ヶ月の終わりに、マウスを堵殺し、脳内Gba酵素活性の増加を評価した。脳組織は、新たに採集する(血液をPBSで洗い落とす)か、又は凍結保存物から融解する。組織はミンチ組織であり、氷上、McIlvaine(MI)緩衝液(0.1Mクエン酸及び0.2Mリン酸緩衝液、pH5.2中に0.25%タウロコール酸ナトリウム、0.1%Triton x−100)200〜500μl中で均質化し、10,000xgで遠心分離した。上清を回収し、この段階で凍結することもある。
【0244】
脳組織ホモジェネートから得た上清約1〜10μlをMicro BCA Protein Assay(Pierce、カタログ番号23235)用の96ウェル透明プレートに添加し、メーカーの指示書に従って全タンパク質量を定量する。陰性対照として、別の10μlを黒色プレートに添加し、Gba活性の阻害剤である2.5mM CBE(緩衝液6.7ml中にConduritol B Epoxide 2.7mg)10μlと混合し、室温(RT)で30分放置する。次いで、Gba基質である3mM 4−メタルウンベリフェラールβ−D−グルコシド(調製直後の4−MU−β−D−グルコシド粉末をDMSO0.2ml中に溶解後、MI緩衝液で適量に希釈)50μlを添加し、黒色プレートを37℃、1時間更にインキュベートする。インキュベーション後、上清10μlを第2の黒色プレートに添加し、MI緩衝液10μl及びGba基質の6mM 4−MU−β−D−グルコシド50μlと混合し、37℃、1時間インキュベートする。次いで、0.2Mグリシン、pH10.8を70μl添加して反応を停止させる。プレートは、プレートリーダー(Victor2 1420 multilabel counter、Wallac)中F460で読み取る。
【0245】
β−グルコース相対活性は、式:(CBE無しでのF460−CBE有りでのF460)/(試料A550−緩衝液A550)により決定される。
【0246】
F460の読取値は、4−MU標準曲線に基づいてナノモル4−MUに変換され、A550は、タンパク質標準曲線に基づいてタンパク質のmgに変換される。Gba活性1単位は、1時間に放出される4−MUのナノモルと定義される。
【0247】
投薬中断試験:
飲料水投与AT2101のL444Pマウスに対する効果が、その処理の停止後に消退するか否か、及びどの時間枠に消退するかを決定するために、投薬中断試験を行った。3月齢の雄性L444Pマウス9匹に約10mg/kg/日で4週間投薬し、同数のマウスは対照として未処理のままとした。処理マウス4匹及び未処理マウス4匹を4週後に堵殺し、残りの動物は、イソファゴミンでそれ以上処理しなかった。すなわち、更に2週間通常の飲料水を与えた後、堵殺し、脳内Gba活性を評価した。
【0248】
(結果)
脳内Gba活性:
イソファゴミンでわずか2週間処理した後でも、Gba活性の有意な増加が脳内で認められ(図1A)、それが4〜12週間持続した。顕著なことには、脳内で、イソファゴミン処理により、2週間及び4週間処理した後に未処理マウスの約1U/mgから約4.5U/mgに増加し、12週間の後では約6U/mgに更に増加した(p<0.001)。Gba活性の増加は、3、6及び12ヶ月間、シャペロンを投与する期間の間持続すると予想される。
【0249】
同様に、2週間後、C−ベンジル−イソファゴミン処理マウスも、脾臓等の器官でGba活性の有意な増加、並びに肺及び脳での活性の増加傾向を示した(データは示していない)。AT2206で2週間処理した後、脳内で増加傾向があったので(データは示していない)、更に処理すれば、脳を始めとする他の器官においてGba活性の増加が認められると予想される。
【0250】
投薬中断:
上記と同様に、10mg/kg/日で4週間処理した後、L444Pトランスジェニックマウスの脳内でGba活性が有意に増加した(図1B)。
【0251】
(考察)
以上の結果は、生理濃度のシャペロンが、血液脳関門を通過し、脳及び末梢器官(例えば、脾臓及び肝臓)におけるGba活性を高めるのに十分であることを初めて示している。末梢投与剤を脳内で有効とするためには、投与量を上げねばならないことが多いので、このことは驚くべきことである。阻害量未満のGba阻害剤をシャペロンとして使用する場合、末梢における阻害剤用量を増加すれば、変異Gbaに対して阻害作用を示し、そのため酵素活性を高めるという目的を以前に示したように無にするであろう。同様な結果は、IFGで処理したサルでも得られ、その場合IFGは処理後のCSF中に検出された。
【0252】
〔実施例2:ゴーシェ病線維芽細胞において混乱したリソソーム輸送の回復〕
N370Sゴーシェ病線維芽細胞(ヒト患者由来)は、細胞質中に基質(すなわち、GluCer)の蓄積を示さないが、こうした線維芽細胞は、野生型線維芽細胞と比べて異常なリソソームタンパク質及びGba染色を示す。N370S線維芽細胞を薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理した結果、リソソーム中に見られるGba量が増加し、正常なリソソーム染色パターンが細胞に回復した。
【0253】
(方法)
細胞培養:
N370S線維芽細胞(DMN89.15)を10%FBS及び1%penn/strep含有DMEM中、37℃、5%CO2で培養した。健常個体からの野生型線維芽細胞系CRL−2097を対照として用いた。細胞を10cmプレートからカバーグラス付き12ウェルプレートに継代培養した。コンフルエントの10cmプレート1枚から得た細胞を培地38ml中に希釈した。イソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンを10mM保存溶液(5%DMSO)から12ウェルプレートの各ウェルに下記濃度で添加した。細胞は、合計約6日間培養した。
C−ベンジル−イソファゴミン:対照(二次抗体のみ)、未処理、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10.0μM
イソファゴミン:対照(二次抗体のみ)、未処理、10μM、30μM、100μM、1nM、3nM、10nM
【0254】
固定及び染色:
細胞は、PBS中で5分間洗浄し、3.7%パラホルムアルデヒド(PBS中)中で15分間固定し、PBS中で5分間再洗浄し、0.5%サポニンで5分間透過させた。次いで、細胞は、0.1%サポニンを含むPBSで洗浄し、新しい0.1%水素化ホウ素ナトリウム/0.01%サポニンで5分間処理し、0.1%サポニン/1%BSAを含むPBSで3回各5分間洗浄した。
【0255】
細胞を、1%BSAを含むPBS中、抗Gba(1:200)又は抗LAMP−1(1:200;BD Pharmingen、カタログ番号555798)一次抗体溶液500μlと1時間インキュベートした。LysoTracker(登録商標)赤色(Cambrex,East Rutherford,NJ)を用いるリソソーム染色は、メーカーの使用説明書に従って行なった。インキュベーション後、細胞は、PBS中0.1%サポニンを含む1%BSA中で3回洗浄した後、二次抗体溶液(1:500、抗Gbaに対しては抗ウサギAlexaFluor588、及び抗LAMP−1に対しては抗マウスIgG AlexaFluor594)とのインキュベーションをした。細胞をカバーグラス上に載せ、密封し、直ちに観察した。
【0256】
共焦点顕微鏡法:
共焦点顕微鏡を用いて細胞を可視化した。赤色及び緑色のチャネルゲインは6に設定し、レーザー出力は強度ウィンドウを用いて最適化し、その他の実験に対しては調節しなかった。全てのスライドグラスを、同じ設定位置(sitting)で分析し、全ての画像は、20倍及び60倍のレンズ、小さなピンホール、最適な画素サイズ、平均掃引数2回を用い、ズームは全く用いずに集め、赤色及び緑色チャネルは、以前の全実験同様に同時に取得した。
【0257】
全ての画像は、同じ強度で表示し、最大数の細胞上にカーソルを配置することにより、赤色+緑色チャネル強度グラフを各画像に対して生成した。
【0258】
後の測定は、重複する赤色(LAMP−1)及び緑色(GBA)画素の比率を計算することによって行なうことができる。
【0259】
(結果)
5日間余りコンフルエントであったゴーシェ病N370S線維芽細胞は、LysoTracker(登録商標)赤色を用いて顆粒状のリソソーム染色パターン(図2A)を示すが、それに対し、正常線維芽細胞は途切れた染色パターン(図2B)を示す。同様な結果は、L444P線維芽細胞についても示された(データは示していない)。リソソームLAMP−1の染色は、N370S、正常の両線維芽細胞において示されている(各々図2C〜D)。ゴーシェ病線維芽細胞に示されるLAMP−1の方が多い。
【0260】
30.0μMのイソファゴミン(AT2201)(図2G〜H)及び3.0μlのC−ベンジル−イソファゴミン(AT2206)(図2I〜J)で処理した結果、リソソーム中のGba量は増加し、二重染色で示した場合、未処理対照(図2E〜F)と比較して、Gba及びLAMP−1に対する正常な途切れ形のリソソーム染色パターンが回復した。
【0261】
図2K〜Nは、ゴーシェ病N370S線維芽細胞におけるGbaリソソーム染色の変化を以下の通り示す。すなわち(K)対照(二次抗体のみ)、(L)未処理N370S線維芽細胞、(M)30μMのイソファゴミン、及び(N)3μMのC−ベンジル−イソファゴミン。Gba染色は、未処理対照に対してシャペロン処理ではリソソームに局在していることが示されている。同様な結果は、L444Pゴーシェ病線維芽細胞についても得られた(データは示していない)。
【0262】
シャペロン処理による正常細胞形態のこの改善は、ER及び/又はサイトゾル中の恐らく凝集体の形態をした変異Gbaの量又は蓄積の減少による。したがって、この戦略は、ヘテロ接合体N370S変異のパーキンソン病患者、又はホモ接合体N370S変異及びパーキンソニズム/認知症を有するヘテロ接合体ゴーシェ病患者のCNS症状を緩和することができよう。
【0263】
〔実施例3:ゴーシェ病線維芽細胞におけるシャペロン処理によるポリユビキチン化タンパク質の増加;プロテアソーム分解経路の回復〕
【0264】
健常ヒト線維芽細胞の抗ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及び抗Gbaによる標識を、L444P Gba変異を有するゴーシェ病患者の線維芽細胞、及びN370S Gba変異を有するゴーシェ病患者の線維芽細胞の相当する標識と比較した。
【0265】
(方法)
細胞培養:
L444Pゴーシェ病線維芽細胞(細胞系GM10915)、N370Sゴーシェ病線維芽細胞(細胞系DMN89.15)、及び健常個体からの線維芽細胞(CRL−2097)を10%FBS及び1%PS含有DMEM中、37℃、5%CO2で培養した。細胞を10cmプレートから滅菌カバーグラス付き12ウェルプレートに継代培養する。コンフルエントなT−75フラスコ1個から得たN370S細胞を1:6に希釈し、更に4日間培養した。
【0266】
シャペロンのイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンを、10mM保存溶液(5%DMSO)から12ウェルプレートの各列に下記濃度で添加した。
C−ベンジル−イソファゴミン:未処理、対照(二次抗体のみ)、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10.0μM
イソファゴミン:未処理、対照(二次抗体のみ)、10μM、30μM、100μM、1nM、3nM、10nM
【0267】
固定及び染色:
細胞は、PBS中で5分間1回洗浄した後、新しい3.7%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。細胞は、次いでPBS中で5分間1回洗浄した後、0.2% Triton X−100中で5分間透過させた。次いで、細胞は、PBS中で5分間再洗浄し、新しい0.1%水素化ホウ素ナトリウムで5〜10分間処理した。細胞を1%BSAを含むPBS中で3回(各5分間)洗浄した後、染色した。
【0268】
細胞を、下記一次抗体500μl(1%BSAを含むPBS中、1:200に希釈)と1時間インキュベートした。
1.ユビキチン化タンパク質クローンFK1(AFFINITI Research Productsカタログ番号PW8805)に対するマウスモノクローナル抗体
2.ウサギ抗Gba抗体(例えば、8E4は市販されている。)
【0269】
次いで、細胞を、1%BSAを含むPBSで3回洗浄した後、下記二次抗体の1:500希釈液と1時間インキュベートした。
1.ヤギ抗マウスIgM(μ鎖)AlexaFluor568(Molecular Probesカタログ番号A21043)
2.ヤギ抗ウサギIgG(H+L)高度交差吸収AlexaFluor488(Molecular Probesカタログ番号A11034)
【0270】
細胞は、BSAを含むPBS中で3回洗浄し、載置し、4℃で保存した後、その可視化を行なった。
【0271】
(結果)
最初の実験によれば、ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の細胞内濃度は、染色がはるかに弱いゴーシェ病のN370S(図3D及び3F)並びにL444P線維芽細胞(図3G及び3I)より、健常細胞(図3A及び3C)において大きい(非常に強い)ことが示された。タンパク質凝集は、ユビキチン/プロテアソーム経路を阻害することが知られている。したがって、シャペロンを用いた凝集の減少は、プロテアソーム媒介分解経路に正の効果を及ぼす。
【0272】
(考察)
L444P変異のゴーシェ病患者は、広範なCNS障害を示す。これは、ヒトL444P変異酵素が、例えばN370S変異体よりはるかに不安定であるため、タンパク質凝集体を形成する可能性がはるかに高く、そのためユビキチン/プロテアソーム経路を阻害することが知られているという事実に起因し得る(Tsuji et al.,N.Eng.J.Med.1987;315:570)。他の多くの神経変性疾患は、ユビキチン化タンパク質の凝集をもたらす変異により引き起こされており、また更に、タンパク質凝集体はユビキチン/プロテアソーム経路を直接損ない、炎症メディエーターの発現を誘導する恐れがあると報告されている(Li et al.,The International Journal of Biochemistry&Cell Biology.2003;35:547−552)。
【0273】
マウスL444Pが特異的薬理学的シャペロンを用いて安定化されるなら、ユビキチン/プロテアソーム経路に対するストレスは、リソソームへのGba輸送の増加によって軽減され、その結果、リソソームに輸送されるはずの変異Gbaの半減期が、ER中で分解される代わりに、延長される。これにより、ゴーシェ病線維芽細胞と比べた、正常線維芽細胞におけるPUP染色の増加が説明される。
【0274】
目立ったCNS症状を臨床的に生じない他のGba変異(すなわち、N370S)も、ER及びサイトゾル中での変異タンパク質の蓄積を依然として生じる恐れがあるため、タンパク質をモノユビキチン化する細胞能力の低下により、ユビキチン/プロテアソーム経路に対して追加のストレスを生じさせ、又はニューロンにおける輸送を混乱させる恐れがある。
【0275】
本発明の範囲は、本明細書に記載の特定の実施形態によって限定されるべきものではない。実際に、当業者であれば、本明細書に記載の改変以外の本発明の多様な改変は、以上の説明及び添付の図面から明白であろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図されている。
【0276】
更に、全ての数値は近似的なものであり、説明のために示されているものと理解されるべきである。
【0277】
特許、特許出願、刊行資料、製品説明及び使用手順が、本願全体に亘って引用されているが、その開示内容の全体は、目的を問わず、参照されることにより本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1A】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したL444Pトランスジェニックマウスからの脳内のGba活性のレベルを示す図である。
【図1B】投薬中断及び再処理期間後の脳内Gba活性レベルを示している。
【図2A】ゴーシェ病線維芽細胞由来の細胞において、LysoTracker(登録商標)を用いたリソソームの蛍光染色を示す図である。
【図2B】正常線維芽細胞由来の細胞において、LysoTracker(登録商標)を用いたリソソームの蛍光染色を示す図である。
【図2C】正常線維芽細胞におけるリソソームタンパク質LAMP−1の染色を示す図である。
【図2D】ゴーシェ病線維芽細胞におけるリソソームタンパク質LAMP−1の染色を示す図である。
【図2E】ゴーシェ病線維芽細胞におけるGba及びLAMP−1染色の重ね合わせを示す図である。
【図2F】ゴーシェ病線維芽細胞におけるGba及びLAMP−1染色の重ね合わせを示す図である。
【図2G】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2H】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2I】特異的薬理学的シャペロンのC−ベンジルイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2J】特異的薬理学的シャペロンのC−ベンジルイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2K】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞は二次抗体のみで染色した。
【図2L】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞は処理しなかった。
【図2M】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞はイソファゴミンで処理した。
【図2N】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞はC−ベンジルイソファゴミンで処理した。
【図3A】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3B】Gbaの存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3C】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3D】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3E】Gbaの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3F】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3G】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3H】Gbaの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3I】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図4】ヒト酸性β−グルコシダーゼ、別名グルコセレブロシダーゼ又はGbaをコードする遺伝子を示す図である(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号1)。
【図5】野生型ヒトGbaタンパク質を示す図である。このGbaタンパク質はアミノ酸536個からなる(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号2)。
【図6】Gba遺伝子の約16kb下流に位置するGbaの相同偽遺伝子を示す図である(GenBankアクセッション番号:M16328;配列番号3)。
【図7】Gbaの相同偽遺伝子がコードするポリペプチドを示す図である(配列番号4)。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、参照されることによりその開示内容の全体が本明細書に組み込まれる、2005年6月8日に出願された米国仮特許出願第60/689120号に対する優先権を主張するものである。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、酸性β−グルコシダーゼ等のリソソーム酵素の1つ又は複数の変異に関連する神経の危険因子、状態又は疾患を有する個体を治療する方法に関する。具体的には、リソソーム酵素に特異的な薬理学的シャペロンであって、神経細胞におけるERからリソソームへの当該タンパク質の輸送を増加させ、且つ/又は神経細胞における酵素活性を同時に増加させるシャペロンを個体に投与する。
【発明の背景】
【0003】
リソソーム蓄積障害(Lysosomal Storage Disorder)は、加水分解酵素の欠陥の為に細胞のスフィンゴ糖脂質、グリコーゲン又はムコ多糖体の蓄積を原因とする一群の常染色体劣性疾患である。LSDとしては、これらに限られないが、ゴーシェ病(Beutler et al.,The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,8th ed.2001 Scriver,et al.,ed.pp.3635−3668,McGraw−Hill,New York)、GM1−ガングリオシドーシス(同書pp.3775−3810)、フコシドーシス(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,1995.Scriver,C.R.,Beaudet,A.L.,Sly,W.S.and Valle,D.,ed.pp.2529−2561,McGraw−Hill,New York)、ムコ多糖症(同書pp.3421−3452)、ポンペ病(同書pp.3389−3420)、ハーラー・シャイエ(Hurler−Scheie)病(Weismann et al.,Science.1970;169,72−74)、A型及びB型ニーマン・ピック病(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease,8th ed.2001.Scriver,et al.,ed.pp.3589−3610,McGraw−Hill,New York)、及びファブリー病(同書pp.3733−3774)が挙げられる。他の例としては、異染性白質萎縮症、クッフス病(成人神経リポイドリポフスチノーシス)及び副腎脳白質ジストロフィーが挙げられる。各LSDは、1つ又は複数の変異により生じる特異的加水分解酵素の欠陥に関連しており、その変異によって、当該酵素は、合成後にER内で構造が不安定化し、その結果、ゴルジ体を通ってリソソーム中の本来の部位へ輸送される代わりに分解の標的となる。
【0004】
幾つかのLSDには、重要な神経障害がある。例えば、ゴーシェ病は、罹患した個体の細胞、特に単球及びマクロファージにおけるスフィンゴ糖脂質(GSL)の蓄積に関連する最も一般的なLSDである。GSLのこの異常蓄積は、GSLグルコシルセラミド(GluCer)を分解するリソソーム加水分解酵素であるリソソーム酵素、酸性β−グルコシダーゼ(Gba、グルコセレブロシダーゼ)の遺伝子欠損(変異)から生じる。この疾患は、神経障害及び疾患の重度に応じて3つの臨床型に分類されている(Cox et al.,Q J Med.2001;94:399−402)。2型ゴーシェ病は、最も稀で最も重症の形態であり、急性神経疾患の早期発症と関係している。神経障害性ゴーシェ病の特性は、水平注視の異常である。罹患した患者は、進行性脳障害、及び硬直、パーキンソン病様運動(パーキンソニズム)等の錐体外路症候群を発現する。大部分の2型ゴーシェ病患者は、神経機能の低下による無呼吸又は吸引のために幼児期に死亡する。
【0005】
3型ゴーシェ病にも、2型程ではないが神経障害がある。3型患者は、運動の協調不良(運動失調)、発作、眼筋麻痺、てんかん、認知症等の中枢神経系症状を示す。3型の下位分類である3c型は、肝脾腫大症、角膜混濁、進行性運動失調及び認知症、並びに心弁及び大動脈起始部の石灰化を付随する。
【0006】
神経障害のある他のLSDとしては、変異β−ガラクトシダーゼと関連し、神経リピドーシスを生じるGM1−ガングリオシドーシス、ヘキソサミニダーゼ Aと関連し、神経リピドーシスを生じるGM2−ガングリオシドーシス(テイ・サックス病)、変異スフィンゴミエリナーゼと関連し、やはり神経リピドーシスを生じるニーマン・ピック病、(クラッベ病)ガラクトセレブロシダーゼ白質萎縮症、及び変異リソソームプロテアーゼと関連し、神経リピドーシスを生じるニューロンセロイド脂褐素症が挙げられる。異染性白質萎縮症は、酵素アリールスルファターゼAの欠損症であり、患者の症状としては、胃腸障害以外に、進行性運動障害、発作、認知障害、更に統合失調症、精神医学的問題等が挙げられる。クッフス病(成人神経リポイドリポフスチノーシス)は、精神医学的症状及び発作として発現することがある。副腎脳白質萎縮症は、中枢神経系の進行性白質脱髄及び副腎皮質不全を特徴とする障害である。
【0007】
〔特異的薬理学的シャペロン〕
最近になって、特異的薬理学的シャペロンの戦略が、恐らく小胞体(ER)又は他の細胞タンパク質分解/処理系における分解から、不安定な変異タンパク質を救出するために開発された。特定の実施形態では、このパラダイムシフト戦略は、特定のリソソーム障害に関連する欠陥リソソーム酵素に特異的に結合し、ER中の変異酵素を安定化し、変異酵素がERを出るためにその変異酵素に「付き添う」可逆的な小分子阻害剤を採用する。この阻害剤はERにおける合成及び折り畳み中の酵素に特異的に結合できるが、酵素の本来の位置で当該酵素から解離することによって、当該酵素は活性を回復できることが、意外にも判明した。シャペロンが存在しない場合には、変異酵素タンパク質は、ERにおいて不適切に折り畳まれ(Ishii et al.,Biochem.Biophys.Res.Comm.1996;220:812−815)、最終産物への成熟化が遅れ、その後ER内で分解される。こうした特異的シャペロンは、特異的薬理学的シャペロン(又は、ある酵素の競合阻害剤である活性部位特異的シャペロン)と称される。
【0008】
「活性部位特異的シャペロン」という用語は、野生型及び変異リソソーム酵素を用いた初期の研究から生まれたものである。酵素の触媒部分、すなわち酵素が基質に結合し、それと相互作用する部分は、「活性部位」の名で一般に知られている。一部の競合阻害剤が、生合成中の活性中心に結合し、酵素を安定化できることから、ある酵素の可逆的な競合阻害剤(すなわち、触媒中心との結合を求めて基質と競合する酵素阻害剤)を使用して、折り畳み方の誤ったリソソーム酵素が安定な分子構造を取るように誘導するという反直観的戦略が先ず仮定された。したがって、発生期の酵素、特に折り畳み欠陥を有する変異酵素の折り畳み中に、ERにおいてin vivoで実現され得る安定化は、折り畳み方の誤ったポリペプチドに結合し、それを分解の標的とする内因性ER「シャペロン」の結合を防止する点で有益である。更に、競合阻害剤は、当該酵素がリソソームに達し、そこで阻害剤が天然基質との競合に敗北すると、当該酵素から解離したので、「可逆的」であった。
【0009】
特異的シャペロン戦略は、参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる、Fan他の米国特許第6,274,597号、第6,583,158号、第6,589,964号及び第6,599,919号に記載され、LSDに関与する酵素約15種について例示されている。例えば、変異ファブリー酵素α−ガラクトシダーゼA(α−Gal A)の強力な競合阻害剤である小分子のガラクトース誘導体、1−デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)は、中性pHでヒト変異体α−Gal A(R301Q)のin vitro安定性を効果的に増大させ、R301Q 又はQ279E変異のあるファブリー患者から確立したリンパ芽球における変異酵素活性を増強する。更に、変異体(R301Q)α−Gal A を過剰発現するトランスジェニックマウスにDGJを経口投与すると、主要な臓器中でその酵素活性が実質的に増加する(Fan et al.,Nature Med.1999;5:112−115)。ゴーシェ患者細胞由来のGbaの同様な救出は、Fan他の米国特許第6,916,829号に記載の他のイミノ糖、イソファゴミン(IFG)及びその誘導体を用いて、また、Gbaに特異的な他の化合物(共に2004年11月12日に出願された係属中の米国特許出願第10/988,428号及び第10/988,427号に記載)を用いて記載されている。
【0010】
〔LSDの酵素変異及び神経障害〕
Gba及びパーキンソン病:
リソソーム酵素の変異とLSD以外の神経障害との間には関連性があることが、最近になって発見された。一例として、Gba 遺伝子の変異とパーキンソン病との間には良く確立された関連性がある。一研究では、稀で早期発症型の難治療性パーキンソン病の一群の患者17名は、1型非神経障害性疾患に通常関連する変異であるN370Sに関してホモ接合体、ヘテロ接合体双方の個体を含め、Gbaミスセンス変異の対立遺伝子を少なくとも1つ有することが判明した(Tayebi et al.,Mol.Genet.Metab.2003;79;104−109)。他の研究では、特発性パーキンソン病のアシュケナージユダヤ人99名の集団に対して、6種のGba変異(N370S、L444P、84GG、V394L及びR496H)を評価した。パーキンソン病患者31名が1つ又は2つの変異Gba対立遺伝子を有し、その内23名がN370Sに関してヘテロ接合体であり、3名がN370Sに関してホモ接合体であり、4名が84GGに関してヘテロ接合体であり、1名がR496Hに関してヘテロ接合体であった(Aharon−Peretz et al.,New Eng.J.Med.2004;351:1972−77)。変異N370S対立遺伝子の頻度は、健常対象1573名中の頻度の5倍であり、84GGの頻度は健常対象の頻度の21倍であった。パーキンソン病患者の内、Gba変異も保持する患者は非保持患者より若かった。この研究は、アシュケナージユダヤ人が、Gba変異に関するヘテロ接合性のために、パーキンソン病に罹患しやすいことを示唆している。
【0011】
パーキンソン病及びゴーシュ病は、ニューロン欠損、星状細胞症、海馬神経における細胞毒性レヴィー小体様α−シヌクレイン封入体(CA2−4領域)の存在、等の幾つかの病理学的特徴を共有する。最近の刊行資料では、ゴーシュ病全3形態の神経病理の程度が記載された(Wong et al.,Mol.Genet.Metabol.2004;38:192−207)。大脳皮質層3及び5、海馬CA2−4、並びに層4bにおける異常が、3つの型全てのゴーシュ病患者に見出された。ニューロン欠損は、2型及び3型の患者のみに明らかであったが、1型患者は星状細胞症を示した(Wong等、上記)。1型ゴーシュ病及びパーキンソニズム/認知症を有する患者2名は、海馬CA2−4ニューロン中にα−シヌクレイン陽性封入体を示し、患者1名は脳幹型及び皮質型レヴィー小体を有し、1名は黒質ニューロンの著明なニューロン欠損を示した(Wong等、上記)。要約すると、パーキンソニズム及び認知症を有する患者全4名は、海馬CA2−4グリオーシスと、黒質におけるニューロン欠乏、グリオーシス及び脳幹型レヴィー小体を示した。
【0012】
数種のマウスモデルでもGbaとパーキンソン病とのこの関連性が実証されている。Gbaの最適なin vitro加水分解酵素活性には、前駆体のプロサポシンに由来するアクチベータータンパク質、サポシンCが必要である。プロサポシン及びサポシン(PS−NA)を少量(野生型の4〜45%)発現し、Gbaの特定の点変異(V394L/V394L又はD409H/D409H)を有するマウスに戻し交配されたトランスジェニックマウスは、歩行運動失調、振戦、転倒地点までの震え、及び神経因性膀胱を始めとする、PD表現型に類似の幾つかのCNS表現型を有する(Sun et al.,J Lipid Res.2005.46(10):2102−13)。
【0013】
特異的薬理学的シャペロンに関する前記研究により、LSDにおける有毒量の脂質基質の蓄積を減少又は消失さえさせるのに十分な機能を、変異酵素(構造変異)に回復させることが可能であることが確立された。しかし、この手法が、ヘテロ接合体の個体、又はホモ接合体の変異を有し、現行の規準に従ってLSDの診断を受けていないが、その変異の作用により神経性の状態若しくは障害を発現する危険性のある個体、又はリソソーム蓄積障害を有すると診断されているが、当該タンパク質の機能を奪う構造変異に加えて、若しくはそれとは異なる変異を有する個体に作用し得ることは、明らかでなかった。これらの集団は全て、機能の毒性獲得、機能の病変喪失又はその組合せのいずれかのために神経障害を発現する危険性がある。したがって、当技術分野ではなお、これらの患者集団において病原因子を特定し、そのような変異の結果に対処できる必要性が存在する。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異に関連する、個体における神経障害を治療する方法であって、神経障害を治療するために特異的薬理学的シャペロンの有効量を前記個体に投与することを含む方法を提供する。
【0015】
一実施形態では、個体は変異に関してホモ接合体である。他の実施形態では、個体は変異に関してヘミ接合体、ヘテロ接合体又は複合ヘテロ接合体である。
【0016】
一実施形態では、変異は、構造変異体である酵素を生じる。
【0017】
特定の実施形態では、シャペロンは、小胞体からの変異酵素の輸送を増加するものである。同時に酵素活性を回復するものであってもなくてもよい。
【0018】
他の実施形態では、変異は、脂質等の他の細胞物質、又はα−シヌクレイン等の他のタンパク質若しくはタンパク質断片の量的増加又は凝集を引き起こす。
【0019】
本発明の特定の実施形態では、リソソーム酵素はグルコセレブロシダーゼであり、神経障害はパーキンソン病又はパーキンソニズムである。
【0020】
他の特定の実施形態では、パーキンソン病は早期発症型パーキンソン病である。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態では、特異的薬理学的シャペロンはリソソーム酵素の阻害剤であり、当該阻害剤は、可逆的阻害剤若しくは競合阻害剤、又はその双方である。
【0022】
特定の実施形態では、グルコセレブロシダーゼに対する薬理学的シャペロンは、イソファゴミン又は(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン6,7,8−トリオールである。
【0023】
本発明は、変異リソソーム酵素に関連する神経障害を診断する方法であって、1種又は複数のリソソーム酵素の変異に関する神経症状を示す個体をスクリーニングすることによって神経障害を診断する方法も提供する。
【0024】
一実施形態では、変異は、構造変異体である酵素を生じる。
【0025】
他の実施形態では、スクリーニングは、個体からの生体試料の酵素活性が、健常個体からの生体試料と比較して低下していることを判定することによりなされる。
【0026】
特定の実施形態では、診断される神経障害はパーキンソニズム又はパーキンソン病である。
【発明の詳細な説明】
【0027】
本発明は、リソソーム蓄積障害と診断されていない個体における神経障害の発現が、リソソーム酵素の変異と関連付け得るとの発見に基づいている。本発明によれば、ASSC等の特異的薬理学的シャペロンは、機能の獲得も、神経学的な危険因子、状態又は障害と関連付けられるリソソーム酵素の変異に関連する機能喪失の病態も改善することができる。当該シャペロンは、誤って折り畳まれた変異タンパク質の蓄積に付随する毒性蓄積を予防する程度まで阻害する(すなわち、機能を獲得する)のに十分な程度に、変異タンパク質の適切な輸送を誘発し、次いで神経機能を生じさせることができる。その変異が当該タンパク質の折り畳み、及びその本来の細胞部位への輸送を損なうだけであり、例えば、当該タンパク質の触媒活性又は他の活性を損なう変異体ではない、或いはナンセンス変異体である幾つかのケースでは、シャペロンは、変異タンパク質の活性を回復させ、それにより、当該タンパク質の機能喪失に関連する病態(例えば、基質蓄積、又は基質蓄積から生じる他の有毒タンパク質若しくは断片の凝集)に対処することができる。
【0028】
〔定義〕
本明細書で使用する用語は、本発明の文脈内及び各用語が使用される特定の文脈においては、一般に、当技術分野における通常の意味を有する。一定の用語については、下記に、又は本明細書の他所で論じることにより、本発明の組成物及び方法、並びにそれらの製法及び使用法を説明する際に、実践者に追加の指針を提供する。
【0029】
用語「ゴーシェ病」には、1型、2型及び3型が含まれ、表現型の発現に基づいてそれらの中間型及びサブグループも含まれる。
【0030】
「神経障害」とは、ニューロン又はグリア細胞の欠陥と関連する任意の中枢神経系(CNS)又は末梢神経系(PNS)の疾患を指し、その欠陥としては、ニューロン欠損、ニューロン変性、ニューロン脱髄、グリオーシス(例えば、星状細胞症)、又は異常なタンパク質若しくは毒素(例えば、β−アミロイド若しくはα−シヌクレイン)のニューロン若しくはニューロン外蓄積が挙げられるが、これらに限られない。神経障害は、慢性、急性いずれもあり得る。神経障害としては、ゴーシェ病及びファブリー病、テイ・サックス病、ポンペ病、ムコ多糖症等の他のLSD、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、フレドリック(Fredrich)運動失調、軽度認識障害、並びに運動障害(運動失調、脳性麻痺、舞踏病アテトーゼ、ジストニア、トゥレット症候群、核黄疸を含む)、振戦障害、白質萎縮症(副腎脳白質萎縮症、異染性白質萎縮症、カナバン病、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病を含む)、ニューロンセロイド脂褐素症、毛細血管拡張性運動失調、及びレット症候群が挙げられるが、これらに限られない。この用語には、脳卒中、虚血性発作等の脳血管事象も含まれる。
【0031】
本明細書において、用語「神経障害」は、神経学的な障害、疾患又は状態であると既に診断された人だけでなく、神経学的な障害、疾患又は状態を発現する危険性のある人も包含する。
【0032】
用語「リソソーム酵素の変異と関連する神経障害」とは、神経障害を有していない、又は発現する危険性のない個体(すなわち、健常個体)と比較して、神経障害を有する個体において評価した場合に、当該酵素をコードする遺伝子の1つ又は複数の変異が存在する任意の神経障害を指す。特定の実施形態では、Gba(ゴーシェ)変異に関連する神経障害は、パーキンソン病又はパーキンソニズムである。
【0033】
用語「ヒトGba遺伝子」とは、グルコセレブロシダーゼ又はGbaとも称する酸性β−グルコシダーゼをコードする遺伝子を指す。Gba遺伝子は、染色体1q21上にあり、エキソン11個を含む(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号1)。Gba遺伝子の約16kb下流に位置するGbaの相同偽遺伝子もある(GenBankアクセッション番号:M16328;配列番号3)。
【0034】
「ヒトGba」タンパク質とは、野生型ヒトGbaタンパク質を指す。このGbaタンパク質はアミノ酸536個からなり、GenBankアクセッション番号:J03059(配列番号2)にある。前記偽遺伝子がコードするポリペプチドは、配列番号4に表示されている。
【0035】
本明細書において、「薬理学的シャペロン」又は時には「特異的薬理学的シャペロン」(「SPC」)という用語は、リソソーム酵素(例えばGba)等のタンパク質に特異的に結合し、次の作用の1つ又は複数を有する分子を指す。(i)当該タンパク質の安定な分子構造の形成を促進する、(ii)当該タンパク質のERから他の細胞部位、好ましくは本来の細胞部位への輸送を誘導する、すなわち当該タンパク質のER関連分解を防止する、(iii)折り畳み方の誤ったタンパク質の凝集を防止する、(iv)当該タンパク質に対して少なくとも部分的な野生型の機能、安定性及び/又は活性を回復又は強化する、更に/或いは当該タンパク質を保持する細胞の表現型又は機能を改善する。したがって、タンパク質のための薬理学的シャペロンは、タンパク質に結合し、そのタンパク質の適切な折り畳み、輸送、非凝集及び活性を生じさせる分子である。本明細書において、この用語は、BiP等の内因性シャペロンを指すものではなく、多様なタンパク質に対する非特異的シャペロン活性を示すものである。グリセロール、DMSO、重水等の、時には「化学シャペロン」とも呼ばれる非特異的作用物質を指すものでもない(Sato et al.,Biochem Biophys Acta.1988;126(2):756−62;Welch et al.,Cell Stress and Chaperons 1996;1(2):109−115;Welch et al.,Journal of Bioenergetics and Biomembranes 1997;29(5):491−502;米国特許第5,900,360号、第6,270,954号、及び第6,541,195号を参照されたい)。
【0036】
本明細書において、用語「特異的に結合する」とは、薬理学的シャペロンの特異的タンパク質との相互作用、具体的には、薬理学的シャペロンとの接触に直接関与するタンパク質のアミノ酸残基との相互作用を指す。標的タンパク質、例えばGbaに特異的に結合する化合物とは、その化合物が、包括的な一群の関連又は非関連タンパク質に対してではなく、Gbaに対して結合し、薬理学的シャペロン効果を及ぼすことを意味する。任意の所与の薬理学的シャペロンと相互作用するタンパク質のアミノ酸残基は、当該タンパク質の「活性部位」内にあってもなくてもよい。特異的結合は、常套的結合アッセイ又は構造研究、例えば共晶化、NMR等により評価することができる。
【0037】
用語「野生型タンパク質」とは、機能性タンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び前記ヌクレオチド配列がコードするポリペプチド配列、並びにER中で機能的構造を実現し、細胞内で適切な局在化を実現し、野生型活性(例えば、GluCer加水分解)を示す能力を有する、健常個体における対立遺伝子多型等の機能性ポリペプチド(前記ポリペプチド配列と同じ機能的性質及び結合親和性を有する。)をコードする、他の任意のヌクレオチド配列を指示する。
【0038】
本明細書において、用語「変異タンパク質」とは、アミノ酸配列の変化を生じる遺伝子変異を含んだ遺伝子から翻訳されたポリペプチドを指す。一実施形態では、変異は、野生型タンパク質と比較した際、ER中に通常存在する条件下で本来の構造を実現しないか、又は野生型タンパク質と比較した際、安定性若しくは活性の低下を示すタンパク質を生じる。この種の変異は、本明細書では「構造変異(conformational mutation)」と称し、このような変異を保持するタンパク質は、「構造変異体(conformational mutant)」と称する。この構造を実現できない結果、当該タンパク質は、タンパク質輸送系にある通常の経路を通って細胞内の本来の部位又は細胞外環境中に輸送されるのではなく、分解又は凝集する。
【0039】
他の実施形態では、タンパク質は、構造変異に加えて、又はそれ以外に、当該タンパク質の全部又は一部の翻訳を可能とし、その結果ER蓄積を可能とする変異を有する(当該タンパク質は、野生型活性を保持していても保持していなくてもよい)。
【0040】
幾つかの実施形態では、変異は、当該タンパク質をコードする遺伝子の非コード部に生じ、その結果、当該タンパク質の発現効率を低下させる可能性がある。すなわち、転写効率、スプライシング効率、mRNA安定性等に影響する変異である。当該タンパク質の野生型及び構造変異体の発現量を高めることによって、薬理学的シャペロンの投与は、このような非効率的なタンパク質発現から生じる欠陥を改善することができる。
【0041】
酵素活性を減少させ、又は代謝回転速度を増加させることが可能な変異も存在する。
【0042】
神経障害性疾患と関連するGba変異体の特定の実施形態としては、これらに限られないが、N370S、L444P、K198T、D409H、R496H、V394L、84GG及びR329Cが挙げられる。
【0043】
Gbaのヘテロ接合体変異とは、1個の野生型対立遺伝子及び1個の変異体対立遺伝子、例えばN370S/wtが存在する遺伝子型を指す。Gbaのヘテロ接合体変異は、各々が異なる変異を有する2個の変異対立遺伝子、例えばN370S/L444Pが存在する遺伝子型も指す。この用語は、変異体/ヌル遺伝子型、すなわちN370S/ヌルも包含する。この定義は、他のリソソーム酵素におけるヘテロ接合体変異に言及する場合にも適用可能である。
【0044】
ホモ接合体Gba変異とは、変異が同じ2個の変異体Gba対立遺伝子、例えばN370S/N370Sが存在する遺伝子型を指す。この定義は、他のリソソーム酵素におけるホモ接合体変異に言及する場合にも適用可能である。
【0045】
用語「適切な構造を安定化する」とは、対応する野生型の構造と機能的に同一である、変異タンパク質の構造を誘導又は安定化する薬理学的シャペロンの能力を指す。用語「機能的に同一な」とは、構造の小さな変化はあり得る(ほぼ全てのタンパク質は、ある程度、生理状態で構造の柔軟性を示す。)が、構造の柔軟性が、野生型タンパク質より大きい程度又は小さい程度に、(1)タンパク質凝集、(2)小胞体関連の分解経路を介した消失、(3)タンパク質機能、例えばGba活性の傷害、及び/又は(4)細胞内の不適当な輸送、例えばリソソームへの局在化、を生じないことを意味する。
【0046】
用語「安定な分子構造」とは、特異的な薬理学的シャペロンにより誘導され、細胞内で少なくとも部分的な野生型の機能をもたらす、タンパク質(例えばGba)の構造を指す。例えば、変異タンパク質の安定な分子構造は、当該タンパク質が、誤った折り畳みや分解を受ける代わりに、野生型Gbaと同様にERから脱出し、本来の細胞部位(例えば、リソソーム)に輸送されることを可能にする分子構造であろう。更に、変異タンパク質の安定な分子構造は、完全又は部分的な活性、例えばGluCer加水分解性を保有していてもよい。しかし、安定な分子構造が、野生型タンパク質の機能的属性の全てを有する必要はない。
【0047】
用語「野生型活性」とは、タンパク質、例えばGbaの細胞内における正常な生理機能を指す。例えば、Gba活性には、GluCerや4−メチルウンベリフェリル(4−MU)等の基質を加水分解する能力を同時に有し、又は有しない、折り畳み及びERからリソソームへの輸送が含まれる。このような機能性は、このようなタンパク質の機能性を確立することが知られている任意の手段により、試験することができる。
【0048】
ある種の試験は、タンパク質機能の総合的代理属性であるタンパク質の属性(実際のin vivo機能に対応していても、対応していなくてもよい。)を評価することができ、このような試験における野生型挙動は、本発明のタンパク質折り畳みに関する救出法又は強化法の許容可能な帰結である。本発明によるこのような一活性は、変異タンパク質、例えばGbaの小胞体から本来の細胞部位、例えばリソソームへ、又は細胞外環境中への適切な輸送である。
【0049】
用語「内因性発現」とは、核酸、ポリペプチド配列等における、その発現、活性又は安定性を阻害するタンパク質の欠損、過剰発現又は他の欠陥に関連するCNS疾患又は障害を有していない、又は有すると疑われていない個体における、細胞内タンパク質の正常な生理的発現を指す。この用語はまた、タンパク質の発現が正常である細胞型における当該タンパク質の発現を指すが、健常個体ではタンパク質が発現しない細胞又は細胞型(例えば腫瘍)における発現は包含しない。
【0050】
本明細書において、用語「発現を強化する」又は「発現を増加させる」とは、あるタンパク質に特異的な薬理学的シャペロンと接触していない細胞(好ましくは、例えばより早い時期の同じ細胞型又は同じ細胞)中での発現に比して、当該タンパク質に特異的な当該薬理学的シャペロンと接触している細胞中で、機能的構造をとる当該ポリペプチドの量を増加させることを指す。或いは、前記用語は、あるタンパク質に特異的な薬理学的シャペロンと接触していない細胞(好ましくは、例えばより早い時期の同じ細胞、又は同じ細胞型)における対応する野生型の輸送効率に比して、当該タンパク質に特異的な当該薬理学的シャペロンと接触している細胞における、当該ポリペプチドのERからの輸送効率を増加させることを意味する。
【0051】
本明細書において、用語「輸送効率」とは、小胞体から、細胞内の本来の部位、細胞内の他の部位、細胞膜、又は細胞外環境中に輸送される、変異タンパク質の能力を指す。
【0052】
酵素の「競合阻害剤」とは、酵素基質の化学構造及び分子外形と構造的に類似しているため、当該基質とほぼ同じ部位で酵素に結合する化合物を指す。したがって、当該阻害剤は、基質分子と同じ活性部位を求めて競合し、そのためKmを増加させる。競合阻害は、阻害剤を置換するのに十分な基質分子が利用できる場合、普通可逆的であり、すなわち、競合阻害剤は可逆的に結合することができる。したがって、酵素の阻害量は、阻害剤濃度、基質濃度、及び活性部位に対する阻害剤と基質との相対的親和性に依存する。
【0053】
阻害剤が活性部位から遠隔位で結合し、酵素の構造変化を創出するために基質がもはや活性部位に結合できない場合、非古典的競合阻害が生じる。非古典的競合阻害では、基質の活性部位における結合のため、阻害剤の他の部位における結合が妨害される、及びその逆のことが生じる。これにはアロステリック阻害が含まれる。
【0054】
酵素の「線形混合型阻害剤」は、基質の結合は可能とするが、その親和性を低下させるタイプの競合阻害であり、そのためKmが増加し、Vmaxは減少する。
【0055】
「非競合阻害剤(non−competitive inhibitor)」とは、酵素と強力な結合を形成し、過剰の基質の添加によっても置換され得ない化合物を指す、すなわち、非競合阻害剤は非可逆的となり得る。非競合阻害剤は、酵素又はタンパク質の活性部位に、若しくはその近くに、又はそれから離れて結合する場合があり、酵素に関しては、Kmには作用しないが、Vmaxを減少させる。不競合阻害(uncompetitive inhibition)とは、阻害剤が酵素−基質(ES)複合体のみに結合する状況を指す。酵素は、阻害剤が結合すると不活性になる。これは、基質の非存在下で酵素に結合できる非古典的競合阻害剤とは異なる。
【0056】
用語「Vmax」とは、酵素触媒反応の最大初速度、すなわち基質濃度を飽和させた際の速度を指す。用語「Km」は、1/2 Vmaxの実現に必要な基質濃度である。
【0057】
「応答者」とは、リソソーム酵素の変異に関連する神経障害と診断され、本発明の方法に従って治療された個体であって、1つ又は複数の臨床症状の向上、改善又は予防、或いは1つ又は複数の代理臨床マーカーの改善又は逆転を示す個体である。一例として、パーキンソン病の個体(Gbaの同時変異を有する)に対する「応答者」は、1つ又は複数の臨床症状の向上、改善又は予防、或いは1つ又は複数の代理臨床マーカーの改善又は逆転を示す応答者である。マーカーとしては、これらに限られないが、ニューロン喪失、星状細胞症、及びCA2−3ニューロンにおけるニューロン内レヴィー小体様α−シヌクレイン封入体が挙げられる。
【0058】
用語「治療有効用量」及び「有効量」とは、治療応答を生じるのに十分な特異的薬理学的シャペロンの量を指す。治療応答は、症状の評価、代理臨床マーカー等の、治療に対する有効な応答として、使用者(例えば、臨床医)が認めることになる任意の応答でもよい。したがって、治療応答は、一般に、疾患又は障害、例えば神経障害の1つ又は複数の改善となろう。
【0059】
「薬学的に許容可能な」という句は、人に投与した際、生理的に許容でき、通常は不都合な反応を起こさない分子体及び組成物を指す。本明細書において、好ましくは、用語「薬学的に許容可能な」は、動物、より特定すれば人間における使用に対して、連邦又は州政府の規制機関により認可されていること、或いは米国薬局方又は他の一般に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。用語「担体」とは、化合物と一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又は媒体を指す。このような医薬担体は、水、油等の滅菌液でよい。水、又は水溶液、塩水溶液、並びに含水デキストロース及びグリセロールの水溶液は、好ましくは担体、特に注射液用の担体として使用される。適切な医薬担体は、E.W.Martinによる”Remington’s Pharmaceutical Sciences”第18版又は他の版に記載されている。
【0060】
用語「約(about)」及び「およそ(approximately)」は、測定の性質又は精度が示されていれば、測定した量に対する許容可能な程度の誤差を一般に意味するものとする。通常では、例示的な誤差の程度は、所与の数値又は数値範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。或いは、特に生物系では、用語「約」及び「およそ」は、所与の数値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内の数値を意味し得る。本明細書に示す数量は、別途記載のない限り近似値であり、明確な記載のない場合は用語「約」又は「およそ」を暗示できることを意味している。
【0061】
〔分子生物学の定義〕
本発明に従えば、当分野の技術に入る従来からの分子生物学、微生物学及び組換えDNA技術を使用し得る。このような技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Sabrook,Fritsch&Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(本明細書では「Sambrook等、1989年」);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization[B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985)];Transcription And Translation[B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1984)];Animal Cell Culture[R.I.Freshney,ed.(1986)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL Press,(1986)];B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,Inc.(1994)を参照されたい。
【0062】
本明細書において、用語「単離された」とは、当該物質が本来見出される環境から取り出されることを意味する。したがって、単離された生体物質は、細胞成分、すなわちその物質が見出される、又は産生される細胞の成分を含まない状態となることができる。核酸分子の場合、単離された核酸分子は、PCR産物、単離mRNA、cDNA又は制限断片を含む。他の実施形態では、単離された核酸分子は、好ましくは、それを見出し得る染色体から切り取られたものであり、より好ましくは、染色体中に見出された際に、単離された当該核酸分子に含有される遺伝子の上流又は下流に存在した非調節、非コード領域、又は他の遺伝子ともはや結合していないものである。更に別の実施形態では、単離された核酸分子は1個又は複数のイントロンが欠如している。単離された核酸分子は、プラスミド、コスミド、人工染色体等に挿入された配列を包含する。したがって、特定の実施形態では、単離された核酸は組換え核酸である。単離されたタンパク質は、細胞内では結合している他のタンパク質若しくは核酸又はその両者と、或いは膜結合タンパク質の場合には細胞膜と結合していてもよい。単離された細胞小器官、細胞又は組織は、それを見出した生物体中の解剖学的部位から取り出される。単離された物質は、精製してもよいが、する必要はない。
【0063】
本明細書において、用語「精製された」とは、無関係の物質、すなわち夾雑物が減少又は消失する条件下で単離された、Gba核酸、ポリペプチド等の物質を指す。例えば、精製されたタンパク質は、細胞内では結合している他のタンパク質又は核酸を実質的に含んでいないのが好ましい。本明細書において、用語「実質的に含んでいない」は、その物質の分析試験に関して適宜使用される。夾雑物を実質的に含んでいない精製物質は、好ましくは少なくとも純度50%であり、より好ましくは少なくとも純度90%であり、更により好ましくは少なくとも純度99%である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、免疫アッセイ、組成分析、生物アッセイ、及び当技術分野で公知の他の方法により評価することができる。
【0064】
用語「宿主細胞」とは、細胞による物質の産生、例えば、細胞による遺伝子、DNA若しくはRNA配列、タンパク質又は酵素の発現のために、任意の方法で選択、改変、形質転換、増殖、又は使用若しくは操作される任意の生物体の任意の細胞を意味する。本発明によれば、宿主細胞は、変異体又は野生型のリソソーム性酵素、核酸及びポリペプチドを発現するように改変される。宿主細胞は、スクリーニング又は他のアッセイのために更に使用することができる。「組換えDNA分子」は、分子の生物学的操作を受けたDNA分子である。本発明で使用する例示的な宿主細胞は、HEK293細胞、COS細胞及びCHO細胞である。
【0065】
本明細書におけるポリヌクレオチドは、場合により、自然の調節(発現制御)配列に隣接し、又は、プロモーター、リボソーム内部進入部位(internal ribosome entry site、IRES)及び他のリボソーム結合部位配列、エンハンサー、応答配列、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5’−及び3’−非コード領域等の非相同配列と結合する。核酸は、当技術分野で公知の多くの手段により改変されてもよい。このような改変の非限定的な例としては、メチル化、「キャップ」、類縁体による天然ヌクレオチドの1種又は複数の置換、並びに、例えば非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメート等)及び荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を有するもののヌクレオチド間改変が挙げられる。ポリヌクレオチドは、1個又は複数の追加の共有結合部、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジン等)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラーレン等)、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、鉄、酸化性金属等)、及びアルキル化剤を含有し得る。ポリヌクレオチドは、メチル若しくはエチルホスホトリエステル、又はアルキルホスホルアミデート結合の形成により誘導されることもある。更に、本明細書におけるポリヌクレオチドは、場合により、検出可能なシグナルを直接的又は間接的に示すことができる標識で改変される。標識としては、放射性同位体、蛍光分子、ビオチン等が挙げられる。
【0066】
「コード配列」、又はRNA、ポリペプチド等の発現産物を「コードする」配列とは、発現するとそのRNA又はポリペプチドを産生するヌクレオチド配列であり、例えば、Gbaヌクレオチド配列は、Gbaポリペプチド(タンパク質)に対するアミノ酸配列をコードする。タンパク質に対するコード配列は、開始コドン(普通はATG)及び終止コドンを含んでもよい。
【0067】
「構造遺伝子」とも呼ばれる用語「遺伝子」は、1種又は複数のリソソームタンパク質の全部又は一部を含む特定のアミノ酸配列をコードする、又はその配列に対応するDNA配列を意味し、例えば、その遺伝子が発現する条件を決定する調節DNA配列(プロモーター配列等)を含んでも含まなくてもよい。
【0068】
核酸配列からのアミノ酸配列の産生に関して使用される用語「発現する」及び「発現」とは、遺伝子又はDNA配列中の情報を顕在化させること、例えば、対応するGba遺伝子又はDNA配列の転写及び翻訳に関与する細胞機能の活性化によるGbaタンパク質の産生を意味する。DNA配列が細胞内又は細胞により発現されることによって、Gbaタンパク質等の「発現産物」が形成される。発現産物自体、例えば生成タンパク質も、細胞により「発現される」と言ってもよい。発現産物は、細胞内、細胞外又は分泌産物として特徴付けられる。本発明によれば、タンパク質はニューロン中、細胞内で発現される。
【0069】
用語「細胞内」とは、細胞の内部にあるものを意味する。用語「細胞外」とは、細胞の外部にあるものを意味する。ある物質が、細胞上又は細胞内部のある箇所から細胞外部に相当な量で出現する場合、それは細胞によって「分泌」される。
【0070】
用語「異種の」とは、自然には組合せとして出現しない要素の組合せを指す。例えば、異種DNAは、細胞中、又は細胞の染色体部位中に自然には位置していないDNAを指す。好ましくは、異種DNAは細胞にとって異質な遺伝子を含む。異種発現調節要素は、自然で作動的に結合している遺伝子とは異なる遺伝子に、作動的に結合している要素である。本発明において、対象とするタンパク質をコードする遺伝子は、クローニング又は発現のためにその遺伝子を挿入するベクターDNAに対して異種であり、更に、当該遺伝子は、そのようなベクターを含有し、それを発現する宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)細胞に対して異種である。
【0071】
用語「形質転換」とは、リソソーム酵素のポリペプチドをコードするDNA、すなわち核酸が、周囲媒体から宿主細胞中に導入される過程を指す。
【0072】
用語「形質導入(transduction)」とは、原核宿主細胞中に、例えば、細菌ウィルス又はバクテリオファージを介して原核宿主細胞中に、DNA、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸を導入することを指す。導入DNA又はRNAを受容し、発現する原核又は真核宿主細胞は、「形質転換」又は「形質導入」をされており、「形質転換体」又は「クローン」である。宿主細胞中に導入されるDNA又はRNAは、宿主細胞と同じ属若しくは種の細胞、又は異なる属若しくは種の細胞、或いは合成配列を含めて任意源に由来することができる。
【0073】
用語「組換え作製細胞」とは、対象とする核酸、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸を発現又は過剰発現するように、トランスフェクション、形質転換又は形質導入を始めとする任意の適切な方法により操作された、任意の原核又は真核細胞を指す。この用語は、通常はその遺伝子産物を発現しない、又は非最適レベルでその遺伝子産物を発現する、細胞中の核酸を内因的に活性化することも包含する。
【0074】
用語「トランスフェクション」とは、「異質な」(すなわち、外因性又は細胞外の)核酸の細胞中への導入を意味する。「異質な」核酸は、宿主細胞が、そのDNAを複製し、導入された遺伝子又は配列を発現して、所望の物質、通常は当該導入遺伝子又は配列がコードするタンパク質又は酵素を産生するように、宿主細胞に導入される遺伝子、DNA又はRNA配列を含む。当該導入遺伝子、すなわちGbaポリペプチドをコードする核酸又は配列は、「クローン化」遺伝子又は配列と称してもよく、細胞の遺伝的機構が使用する開始、終止、プロモーター、シグナル、分泌配列等の調節又は制御配列を含み得る。当該遺伝子又は配列は、非機能的配列又は機能未知の配列を含んでもよい。DNAは、染色体外要素として、若しくは染色体への組み込みによって、又は導入DNA若しくはRNAを受容し、発現する宿主細胞によって導入されていてもよい。
【0075】
使用する宿主細胞に応じて、形質転換/トランスフェクションは、そのような細胞に適当な標準的方法を用いてなされる。上記のSambrook等、1989年の1.82節に記載されるような、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理は、実質的な細胞壁障壁を含有する細菌細胞に対して一般に使用される。他の形質転換法では、Chung及びMiller(Nucleic Acids Res.1988,16:3580)に記載されるようなポリエチレングリコール/DMSOが使用される。更に別の方法は、電気穿孔と称する技術の使用である。或いは、ウィルスベクターを用いる場合は、対象とする遺伝子を含有するウィルスで宿主細胞を感染させることができる。
【0076】
用語「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」とは、DNA又はRNA配列(例えば、Gba遺伝子)を宿主細胞中に導入することにより、宿主を形質転換し、導入配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進できるようにする媒体を意味する。ベクターには、プラスミド、ファージ、ウィルス等が含まれ、それについては以下でより詳細に論じる。
【0077】
ベクターは、外来DNAを挿入した伝染性因子のDNAを通常含む。DNAの1セグメントをDNAの他のセグメント中に挿入する一般法では、制限酵素部位と呼ばれる特定部位(特定のヌクレオチド群)でDNAを切断する、制限酵素と呼ばれる酵素の使用が必要である。「カセット」とは、発現産物をコードし、ベクター中に所定の制限酵素部位で挿入できるコードDNA配列又はDNAセグメントを指す。カセットの制限酵素部位は、カセットの適切なリーディングフレーム中への挿入を保証するように、設計される。一般に、外来DNAは、ベクターDNAの1個又は複数の制限酵素部位で挿入された後、伝染性ベクターDNAと共に宿主細胞中にベクターにより搬送される。DNAが挿入又は付加された、発現ベクター等のDNAのセグメント又は配列は、「DNAコンストラクト」と呼ぶこともできる。通常型ベクターは、一般的には、普通は細菌起源の自己充足的2本鎖DNA分子であって、追加の(外来)DNAを容易に受け容れることができ、適当な宿主細胞中に容易に導入できる「プラスミド」である。プラスミドベクターは、コードDNA及びプロモーターDNAを含有することが多く、外来DNAの挿入に適した1個又は複数の制限酵素部位を有する。コードDNAは、特定のタンパク質又は酵素に対する特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列である。プロモーターDNAは、コードDNAの発現を開始、調節、媒介又は制御するDNA配列である。プロモーターDNA及びコードDNAは、同一の遺伝子又は異なる遺伝子に由来していてもよく、同種又は異種の生物体に由来していてもよい。
【0078】
プラスミド及び真菌性ベクターを始めとする多数のベクターが、多様な真核及び原核宿主における複製及び/又は発現について記載されている。非限定的な例として、本明細書に開示又は引用され、或いは関連分野の技術者に知られている方法を用いた、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド(Novagen,Inc.,Madison,WI)、pRSET若しくはpREPプラスミド(Invitrogen,San Diego,CA)、又はpMALプラスミド(New England Biolabs,Beverly,MA)、pCXN、及び多くの適当な宿主細胞が挙げられる。組換えクローニングベクターには、多くの場合、クローニング又は発現用の1種又は複数の複製系、宿主中での選択用の1種又は複数のマーカー、例えば抗生物質耐性、及び1種又は複数の発現カセットが含まれる。
【0079】
非常に多様な宿主/発現ベクターの組合せ(すなわち、発現系)が、対象とするタンパク質の発現に使用し得る。有用な発現ベクターは、例えば、染色体、非染色体及び合成のDNA配列のセグメントからなってもよい。適切なベクターとしては、既知の細菌プラスミド、例えばE.coliプラスミドのcol E1、pCR1、pBR322、pMal−C2、pET、pGEX(Smith et al.,Gene 67:31−40,1988)、pMB9及びそれらの誘導体、RP4等のプラスミド;ファージDNAS、例えば、ファージ1の多数の誘導体、例えばNM989、並びに他のファージDNA、例えばM13及び糸状1本鎖ファージDNA;2mプラスミド又はその誘導体等の酵母プラスミド;ファージDNA又は他の発現制御配列を用いるために改変されたプラスミド等の、プラスミド及びファージDNAの組合せから誘導されるベクターが挙げられる。他の一般的発現系では、昆虫宿主細胞及びバキュロウィルスベクターが使用される。
【0080】
哺乳動物細胞に使用するために市販されている例示的発現ベクターとしては、pMEP4、pCEP4、pLXSN、PXT1、pcDNA3シリーズ、pcDNA4シリーズ、pCMV−Script、pCMV−Tag及び他のCMV系ベクター、pVP22、pVAX1、pUB6が挙げられる。哺乳動物細胞のトランスフェクションの場合、ウィルスベクターとしては、アデノ随伴ウィルスベクター、ポックスウィルス及びレトロウィルスが挙げられる。哺乳動物発現ベクターは、ごく一般的であり、当技術分野において周知である。
【0081】
宿主細胞は、対象とするポリペプチド、例えばGbaも本来保持することができる。Gba等の異種ポリペプチドに対しては、その異種核酸(例えばcDNA)が、適当なプロモーターの制御下に培地中で発現するために、複製可能なベクター中に適切に挿入される。上記の通り、多数のベクターがこの目的のために利用可能であり、適当なベクターの選択は、ベクター中に挿入する核酸のサイズ、及びベクターで形質転換される特定の宿主細胞に主として依存することになろう。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)、及び適合する特定の宿主細胞に応じて多様な成分を含有している。細菌の形質転換用のベクター成分には、これらに限られないが、シグナル配列、複製起点、1種若しくは複数のマーカー遺伝子、及びプロモーター、のうちの1種又は複数が含まれる。
【0082】
GbaポリペプチドをコードするDNAは、直接発現してもよいだけでなく、他のポリペプチドと、好ましくはシグナル配列と、又は成熟ポリペプチドのN末端に特定の切断部位を有する他のポリペプチドとの融合体として発現してもよい。一般に、シグナル配列は、場合により、ベクターの一成分であり、或いはベクター中に挿入されるポリペプチドDNAの一部である。選択される異種シグナル配列は、宿主細胞により認識され、プロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼで切断される)配列である。本来のポリペプチドシグナル配列を認識せず、プロセシングすることのない細菌宿主細胞の場合、シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、又は耐熱性エンテロトキシンIIのリーダー配列からなる群より選択される細菌シグナル配列で置換される。
【0083】
発現ベクター、クローニングベクターの双方共、選択された1種又は複数の宿主細胞中でそのベクターが複製できるようにする核酸配列を含有している。一般に、クローニングベクターにおいてこの配列は、宿主染色体DNAとは関係なくそのベクターが複製できるようにする配列であり、複製起点又は自己複製配列を含む。このような配列は、多様な細菌に対して良く知られている。プラスミドpBR322の複製起点は、大部分のグラム陰性細菌に適切である。
【0084】
発現ベクター及びクローニングベクターは、選択マーカーとも称する選択遺伝子も一般に含有する。この遺伝子は、選択培地中で増殖する形質転換宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含んだベクターで形質転換されていない宿主細胞は、その培地中で生き残ることはなかろう。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メソトレキセート又はテトラサイクリンに対する耐性を付与し、(b)栄養要求性欠損を補完し、或いは(c)天然培地からは利用できない必須栄養素を供給するタンパク質をコードする。選択方式の一例では、宿主細胞の増殖を停止させるために薬物が利用される。異種遺伝子で首尾よく形質転換される細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、そのためその選択法から生き残る。
【0085】
異種ポリペプチドを産生するための発現ベクターは、宿主生物体により認識され、対象とするポリペプチドをコードする核酸に作動的に連結している誘導可能プロモーターも含有する。
【0086】
「プロモーター配列」は、細胞中のRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を規定するために、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位により結合され、背景レベルより高い検出可能なレベルでの転写開始に必要な最小限数の塩基又は要素を含むように、上流(5’方向)へ延在している。プロモーター配列内には、転写開始部位、並びにRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が見出されよう。
【0087】
コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写する際、細胞中の転写及び翻訳制御配列の「制御下」にあるか、又はそうした配列「と作動的に結合」しており、次いでmRNAはRNA全体に亘って(trans−RNA)スプライシング(イントロンが含まれる場合)され、更にコード配列がコードするタンパク質に翻訳される。
【0088】
前述した成分の1種又は複数を含有する適切なベクターの構築には、標準的な連結技術が使用される。単離したプラスミド又はDNA断片は、切断され、調整され、必要とするプラスミドを生成するのに望ましい形態に再連結される。
【0089】
構築されたプラスミド中の適正な配列を確認する分析のために、連結混合物を使用して細菌株を形質転換させ、適切な場合にはアンピシリン又はテトラサイクリン耐性により、成功した形質転換体を選択する。形質転換体からのプラスミドを調製し、制限エンドヌクレアーゼでの消化により分析し、並びに/或いはSanger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1977,74:5463−5467若しくはMessing et al.,Nucleic Acids Res.1981,9:309の方法、又はMaxam等(Methods in Enzymology 1980,65:499)の方法によって、その配列を決定する。宿主細胞は、前述の発現ベクターで形質転換され、利用するプロモーターにとって適切に改変された従来の栄養培地中で培養される。
【0090】
〔化学的定義〕
用語「アルキル」とは、炭素及び水素原子のみからなり、不飽和を含有しておらず、分子の残部に単結合で結合している直鎖又は分岐のC1〜C20炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル)を指す。本明細書で使用するアルキルは、好ましくはC1〜C8アルキルである。
【0091】
用語「アルケニル」とは、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含有し、直鎖、分岐鎖のいずれでもよいC2〜C20脂肪族炭化水素基、例えばエテニル、1−プロペニル、2−プロペニル(アリル)、イソプロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニルを指す。
【0092】
用語「シクロアルキル」とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の不飽和な非芳香族の単環又は多環炭化水素環系を示す。多環シクロアルキル基の例としては、ペルヒドロナフチチル(perhydronapththyl)基、アダマンチル基及びノルボルニル基、橋掛け環状基、又はスピロ二環状基、例えばスピロ(4,4)ノン−2−イルが挙げられる。
【0093】
用語「シクロアルカルキル」とは、前記定義のアルキル基に直接結合した、前記定義のシクロアルキルを指し、シクロプロピルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルエチル等の安定構造を創出する。
【0094】
用語「アルキルエーテル」とは、アルキル鎖中に少なくとも1個の酸素が組み込まれた、前記定義のアルキル基又はシクロアルキル基、例えばメチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを指す。
【0095】
用語「アルキルアミン」とは、少なくとも1個の窒素原子を有する、前記定義のアルキル基又はシクロアルキル基、例えばn−ブチルアミン及びテトラヒドロオキサジンを指す。
【0096】
用語「アリール」とは、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、ビフェニル等の炭素原子数が約6個から約14個の範囲にある芳香族ラジカルを指す。
【0097】
用語「アリールアルキル」とは、前記定義のアルキル基に直接結合した、前記定義のアリール基、例えば、−CH2C6H5及び−C2H4C6H5を指す。
【0098】
用語「ヘテロ環の」とは、炭素原子と、窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群より選択される1〜5個のヘテロ原子とからなる、安定な3〜15員環ラジカルを指す。本発明の目的のために、ヘテロ環ラジカルは、単環、二環又は三環系でもよく、融合環、架橋環又はスピロ環系を含んでもよく、ヘテロ環ラジカル中の窒素、リン、炭素、酸素又は硫黄原子は、様々な酸化状態に場合により酸化されていてもよい。更に、窒素原子は場合により四級化されていてもよく、この環ラジカルは、部分的又は完全に飽和していてもよい(すなわち、ヘテロ芳香族又はヘテロアリール芳香族)。このようなヘテロ環ラジカルの例としては、これらに限られないが、アゼチジニル、アクリジニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキサニル、ベンゾフルニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジオキソラニル、インドリジニル、ナフチリジニル、ペルヒドロアゼピニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノオキサジニル、フタラジニル、ピリジル、プテリジニル、プリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラゾイル、イミダゾリル、テトラヒドロイソキノリル(tetrahydroisouinolyl)、ピペリジニル、ピペラジニル、2−オキソピペラジニル、2−オキソピペリジニル、2−オキソピロリジニル、2−オキソアゼピニル、アゼピニル、ピロリル、4−ピペリドニル、ピロリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、オキサゾリル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、トリアゾリル、インダニル、イソオキサゾリル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリル、チアゾリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、キヌクリジニル、イソチアゾリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、キノリル、イソキノリル、デカヒドロイソキノリル、ベンズイミダゾリル、チアジアゾリル、ベンゾピラニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、フリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チエニル、ベンゾチエニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシドチアモルホリニルスルホン、ジオキサホスホラニル、オキサジアゾリル、クロマニル及びイソクロマニルが挙げられる。
【0099】
ヘテロ環ラジカルは、安定構造を創出する任意のヘテロ原子又は炭素原子で主構造に結合し得る。
【0100】
用語「ヘテロアリール」とは、環が芳香族であるヘテロ環を指す。
【0101】
用語「ヘテロアリールアルキル」とは、アルキル基に直接結合した、前記定義のヘテロアリール環ラジカルを指す。ヘテロアリールアルキルラジカルは、安定構造を創出する、アルキル基の任意の炭素原子で主構造に結合し得る。
【0102】
用語「ヘテロシクリル」とは、前記定義のヘテロ環ラジカルを指す。ヘテロシクリル環ラジカルは、安定構造を創出する任意のヘテロ原子又は炭素原子で主構造に結合し得る。
【0103】
用語「ヘテロシクリルアルキル」とは、アルキル基に直接結合した、前記定義のヘテロ環ラジカルを指す。ヘテロシクリルアルキルラジカルは、安定構造を創出する、アルキル基中の炭素原子で主構造に結合し得る。
【0104】
「置換アルキル」、「置換アルケニル」、「置換アルキニル」、「置換シクロアルキル」、「置換シクロアルカルキル」、「置換シクロアルケニル」、「置換アリールアルキル」、「置換アリール」、「置換ヘテロ環」、「置換ヘテロアリール環」、「置換ヘテロアリールアルキル」、又は「置換ヘテロシクリルアルキル環」における置換基は、同じでも異なってもよく、1個又は複数個であり、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、オキソ(=O)、チオ(=S)の各基、又はアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、ヘテロ環、−COORx、−C(O)Rx、−C(S)Rx、−C(O)NRxRy、−C(O)ONRxRy、−NRxCONRyRz、−N(Rx)SORy、−N(Rx)SO2Ry、−(=N−N(Rx)Ry)、NRxC(O)ORy、−NRxRy、−NRxC(O)Ry、−NRxC(S)Ry、−NRxC(S)NRyRz、−SONRxRy、−SO2NRxRy、−ORx、−ORxC(O)NRyRz、−ORxC(O)ORy、−OC(O)Rx、−OC(O)NRxRy、−RxNRyRz、−RxRyRz、−RxCF3、−RxNRyC(O)Rz、−RxORy、−RxC(O)ORy、−RxC(O)NRyRz、−RxC(O)Rx、−RxOC(O)Ry、−SRx、−SORx、−SO2Rx、−ONO2から選択される置換されていてもよい各基から選択され、前記各基中のRx、Ry及びRzは、水素原子、置換又は非置換アルキル、ハロアルキル、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルカルキル、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクリルアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、或いは置換又は非置換ヘテロアリールアルキルになり得る。
【0105】
用語「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素の基を指す。
【0106】
〔機能の毒性獲得〕
特定の一実施形態では、本発明は、適当なタンパク質輸送の量を増加させ、変異酵素の蓄積量を減少させることを目的とした、リソソーム酵素に対する特異的薬理学的シャペロンの使用に関する。これを使用して次に、酵素における1つ又は複数の変異と関連する神経状態を治療できるが、当該神経状態には、一方又は両方の対立遺伝子上の変異が、構造変異であるが、機能ドメイン中にも変異を有し、酵素活性を無効にする酵素を産生する形態のリソソーム蓄積障害が含まれる。この実施形態は、機能的Gbaが存在しなかった神経性のゴーシェ病に見出される変異Gbaに対する特異的薬理学的シャペロンの効果によって、本明細書に例示されている。このシャペロンは、ERからのGbaタンパク質の輸送量を増加させ、変異タンパク質の適切なユビキチン化を回復させた。この効果は、タンパク質機能のASSC救出に関する以前の研究からは予見できなかったものである。
【0107】
CNSにおける変異Gba蓄積等のタンパク質凝集は、毒性蓄積に付随するニューロンストレスから生じる神経変性又はアポトーシスの後では、ニューロンが再生できないので特に悲惨である。このように、ホモ接合体又はヘテロ接合体変異の存在は、ニューロンにおける変異タンパク質の凝集又は蓄積、及び細胞ストレスを生じさせるのに十分であり、最終的には細胞死を引き起こす。CNSにおけるタンパク質凝集を病変と関連付ける多数の報告が、公表されている。
【0108】
したがって、一実施形態では、本発明は、リソソーム蓄積障害におけるCNS病変、及びリソソーム酵素の変異に関連する他の神経障害が、ニューロンにおける折り畳み方の誤った変異酵素の毒性蓄積により部分的に説明でき、しかも、特異的薬理学的シャペロンによる手法がこの作用を逆転できるという概念に基づいている。この毒作用は、タンパク質の機能、タンパク質の機能及び安定性に対する変異の効果、並びにタンパク質機能の喪失又は減少が、タンパク質の蓄積及び/又は凝集の毒作用より有害であるか、又はそれほど有害でないかにも依存している。したがって、特異的薬理学的シャペロンを用いてERからタンパク質輸送量を増加させると、必ずしもタンパク質機能を回復させずとも、タンパク質の蓄積/凝集の毒性作用を減少させることにより、疾患病変を緩和することができる。
【0109】
その結果、特異的薬理学的シャペロンは、疾患病変に寄与する重要な要因がタンパク質の毒性蓄積及び/又はタンパク質凝集(例えば、神経変性疾患(特に、ゴーシェ病のような、神経障害を伴うリソソーム蓄積障害)、及びリソソーム酵素の変異に関連する他の神経性の危険因子、疾患又は状態(パーキンソン病等)に関係する毒性蓄積及び/又はタンパク質凝集)である疾患を治療するために使用することができることになる。前述のように、機能不全のリソソーム酵素に関連し、それ故薬理学的シャペロンで治療可能な他種の神経疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、カナバン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ハンチントン病、多発性硬化症、ピック病、及び脊髄小脳萎縮症である。
【0110】
したがって、ERからの変異酵素輸送量を増加させ、及び/又は酵素活性を増加させる治療法は、リソソーム蓄積障害、又はリソソーム酵素の変異に関連付けられる他の関連神経疾患と関係する神経細胞障害作用の緩和に有益である。酵素活性の増加(すなわち、機能喪失の回復)及び基質蓄積の低下がない場合でも、変異酵素の適切な輸送は、例えば、(i)正常タンパク質のためのユビキチン/プロテアソーム分解経路に対する細胞ストレスを緩和する、又は(ii)ERストレスが引き起こす非折り畳みタンパク質の応答を低下させ、それにより、例えば、Gbaに変異があるパーキンソン病患者におけるα−シヌクレイン凝集等の病変を改善する、というニューロンに対する有益な効果を有する。このような効果の根拠を以下に示す。
【0111】
細胞ストレス:
細胞における折り畳み方の誤った多数のタンパク質の蓄積又は凝集が、細胞ストレスを生じさせることは十分に確立されている。このストレスは、細胞「ストレス」タンパク質であるポリユビキチン量の増加と時々相関している。ユビキチン−タンパク質複合体は、ユビキチンが神経変性疾患に特徴的な線維状封入体の多くにおける一成分であることを明瞭に示したものであり、この種の疾患過程における活性化又は一般的ニューロン応答であることを示唆している(Lowe et al.,Neuropathol Appl Neurobiol.1990;281−91)。例えば、家族性パーキンソン病と関連する遺伝子の変異(α−シヌクレインを含む)の同定、及びパーキンソン病の散発例において免れたドーパミン黒質ニューロン中のタンパク質性細胞質封入体の存在を含む遺伝学研究により、ユビキチン−プロテアソーム系及び異常タンパク質分解の重要な役割が示唆されている(Betarbet et al.,Exp Neurol.2005;191 Suppl 1:S17−27)。
【0112】
更に、in vivo及びin vitroの研究により、α−シヌクレインの凝集及び酸化的ストレスと、ユビキチン−プロテアソーム系の障害及びパーキンソン病の病因とが関連付けられている。更に、潜在的に細胞毒性の異常タンパク質の蓄積及び凝集を伴う、26/20Sプロテアソームの構造的及び機能的欠陥が、散発性パーキンソン病の患者の黒質緻密部において特定されている(McKnaught et al.,Ann Neurol.2003;53 Suppl 3:S73−84)。具体的には、α−シヌクレインの変異がタンパク質の誤った折り畳み及びプロテアソームによる分解に対する抵抗性を生じさせ、その結果家族性パーキンソン病を引き起こす。したがって、タンパク質操作の欠陥が、PDの散発性及び様々な家族性形態における共通要因であるらしい。この同じ結論が、プロテアソーム阻害剤とタンパク質の不適正折り畳みの誘発剤との組合せをドーパミンニューロンの培養物に添加した実験から導かれている(Mytilineou et al.,J Neural Transm.2004;111(10−11);1237−51)。この2剤が組み合わさると、ドーパミンニューロンの選択的喪失及び細胞死が顕著に増加する。
【0113】
更に、ユビキチン化タンパク質の凝集体が、ゴーシェ病を始めとする幾つかのリソソーム蓄積障害の患者細胞で見出されたことが報告されている(Asmarina et al.,Eur.J.Biochem.2003;Supplement 1;abstract no.P3.7−08)。これらの細胞は、ユビキチン/プロテアソーム経路に関する遺伝子についても遺伝子発現パターンの変化を示した。
【0114】
CNS障害を伴うLSDにおけるニューロン恒常性の崩壊に対する代替理論は、蓄積酵素によるユビキチン/プロテアソーム経路の抑制によるものである(Rocca et al.,Molecular Biology of the Cell.2001;12:1293−1301)。例えば、α−シヌクレイン凝集に付随する毒性の一機構は、多くの神経変性過程で生じるプロテアソームの抑制であることが判明している。具体的には、凝集したα−シヌクレインは、プロテアソームのサブユニットであるS6’との相互作用によって、プロテアソーム機能を阻害することが示されている(Snyder et al.,J Mol Neurosci.2004;24(3):425−42)。プロテアソーム機能は、パーキンソン病患者の脳内、並びにE3ユビキチンリガーゼであり、ユビキチンプロテアソーム系の一部をなすパーキンを欠いた個体及び動物の脳内でも減少している。タンパク質凝集及び関連するプロテアソーム阻害は、炎症とも関連付けられている(Li et al.,Int.J.Biochem.Cell Biol.2003;35:547−552)。分子シャペロンと損傷/変性/折り畳み不適正タンパク質との間にある、後者の蓄積を引き起こす不均衡は、その不均衡の重度に応じて老化、プロテアソームの阻害(アポトーシスを引き起こす)、又は壊死を生じさせる恐れがあると提案されている(Soti et al.,Aging Cell.2003;2:39−45)。この仮説を「毒性タンパク質蓄積仮説」と称する。α−シヌクレイン単量体はプロテアソームにより分解されると考えられており、オリゴマーの形成は濃度依存性であるので、α−シヌクレインの蓄積及びオリゴマー形成が生じる可能性がある。変異Gba及びα−シヌクレインの双方が蓄積(後者はGba活性の喪失による。)すれば、プロテアソームに対するこの作用は悪化するであろうし、不足したGbaも、プロテアソーム分解経路の欠損を補償するために生じる、リソソームによる自食反応の増加を損なう恐れがある。
【0115】
ERストレス:
ERの管腔中での折り畳み不適正なタンパク質の継続的蓄積はERストレス反応を生み出し、次いで、それが「折り畳み解除反応」(UPR)を誘発する。このUPRは、酸化的ストレス等によるタンパク質合成の阻害、又は折り畳むことができない変異タンパク質のER中での保持から生じる品質管理的細胞ストレス反応である。この反応がないと、ERは折り畳み不適正で不安定なタンパク質で充満し、その結果アポトーシスを介して細胞死が引き起こされる恐れがある(Gow et al.,NeuroMolecular Med.2003;4:73−94)。
【0116】
また、Gbaは、ER中のリアノジン(Rhyanodine)受容体と相互作用して、Ca2+恒常性を妨害し、サイトゾルCa2+の増加による、タンパク質折り畳みの障害、UPR、ERストレス誘発性のアポトーシス、及びミトコンドリア選択的細胞死を引き起こすことも示されている(Korkotian et al.,J Biol Chem.1999.274(31):21673−8;Lloyd−Evans et al.,J Biol Chem.2003.278(26):23594−9;Pelled et al.,Neurobiol Dis.2005.18(1):83−8)。
【0117】
自食作用:
脂質の分解以外に、リソソームは凝集タンパク質(下記で更に考察する)の分解を担っている。自食作用と呼ばれるこの過程は、細胞質の一部が、リソソーム酵素による分解を受けるために、リソソームに引き渡される細胞内バルク分解過程である。このような酵素としては、ペプチド結合を切断するプロテアーゼ(カテプシン)、共有結合したリン酸塩を除くホスファターゼ、DNA/RNAを切断するヌクレアーゼ、脂質分子を切断するリパーゼ、及び炭化水素切断酵素が挙げられる。変異リソソーム酵素等の凝集タンパク質は、顕著な自食反応の活性化を引き起こし、ニューロンの持続的な変性的変化を引き起こす可能性がある。筋萎縮性側索硬化症(ALS)等のCNS障害における多くのニューロンは、不規則な小胞輸送及び自食反応を示す。
【0118】
自食性リソソームによる過度の空胞形成は、ニューロン死を引き起こす可能性がある。蓄積変異タンパク質による、特に、補償機構としてのプロテアソーム経路の阻害と相俟った、自食反応の過剰活性化は、蓄積変異リソソーム酵素と神経変性、特にアルツハイマー病の神経変性との連関を示す一仮説である。
【0119】
〔機能の病変喪失〕
リソソーム酵素の適当な輸送の回復に加えて、特異的薬理学的シャペロンによる変異酵素活性の回復は、非効率的な折り畳み及び輸送のために本来の部位(例えばリソソーム)における機能性酵素(例えばGba)の量を減少させる、一方又は両方の対立遺伝子の不安定化変異(複数も)を保持する患者において有益であろう。小さな機能喪失でさえ、基質の蓄積、凝集等の病変を引き起こす恐れがあり、それが他の病変性凝集体の発端となり得る。
【0120】
したがって、一実施形態では、本発明は、変異リソソーム酵素タンパク質に関連する神経障害を改善する方法であって、当該酵素の減少した活性を増加させ、それにより、(i)基質、凝集したタンパク質又は断片のリソソーム分解を増加させ、(ii)ニューロンのアポトーシス又は壊死を減少させ、(iii)細胞膜中のリン脂質の「均衡」変化を防止することによって、神経障害を改善する方法を提供する(以下で考察する)。
【0121】
ゴーシェ病におけるニューロン喪失又はニュロパシーを説明すると仮定される可能な説明は、変異に関連するGba活性の喪失により説明することができる。活性の喪失で、Gba欠損細胞においてGluCer等のセラミドの蓄積が生じる。これが、細胞内カルシウムの増加及びカルシウム媒介細胞死に対する感受性増加のために、培養したCA2−4海馬神経細胞のアポトーシスを引き起こすことが示されている。ドーパミンニューロンが、セラミド誘発損傷後にアポトーシスを受けることも示されている。
【0122】
第2に、やはりGbaの基質である毒性化合物、グルコシルスフィンゴシンが、致死ヌル対立遺伝子のゴーシェ病マウスの臓器に高濃度で認められている。グルコシルスフィンゴシンも、ゴーシェ病の3つの型全ての患者の組織中で増加する。脳内濃度は、現行の検出法(Sidransky,Mol.Gen.Metabol.2004;83:6−15)を用いると神経障害のある患者のみに増加しているが、現行法を用いて検出できない少量の蓄積でも、タンパク質の折り畳みに影響し、脂質ラフト(lipid raft)の組成(以下に考察する)に影響することにより、タンパク質輸送を損なう恐れもある。
【0123】
第3に、膜リン脂質の含量は細胞中のGba活性に影響する。すなわち、負荷電のリン脂質はGba活性を高めるが、ホスファチジルコリン(PC)等の正荷電のリン脂質はそれを高めない。したがって、ゴーシェ病のGba減少がPC合成に関与する酵素を活性化させ、それによりPCを増加させる機構は、Gbaを更に減少させる恐れがある(上記のWong等)。更に、セラミドの増加は、α−シヌクレインの軸索輸送を阻害し、凝集及びレヴィー小体の形成を促進し得る。ニューロンは、推察するところ機能のためにα−シヌクレインを必要とする。α−シヌクレインのPCとの結合は弱いので、主にPCからなる軸索輸送小胞は、酸性リン脂質からなる小胞ほど効率的でない恐れがある(上記のWong等)。
【0124】
更に、前述したように、リソソームは、多数のCNS障害に関与する凝集体の自食作用による除去に関わっている。自食作用の喪失は、疾患関連変異タンパク質が存在しない場合でも神経変性を引き起こす(Hara et al.,Nature.online publication April 19,2006)ので、自食作用はニューロン中で特に関係している。変化した細胞内成分を除去しようとする防御活動におけるリソソーム自食系の誘導は、酸化ストレス中に生じる(Kiffin et al.,Antioxid Redox Signal.2006;8(1−2):152−62)。
【0125】
一例としてのα−シヌクレインオリゴマー: 1グループは、ヒト脳ホモジェネート中のリソソームにおける、ガングリオシドを含有するグルコシルセラミドとα−シヌクレインとの相互作用を報告している(Schlossmacher et al.,New Eng J Med.2005;352:730)。パーキンソン病を有するゴーシェ病患者では、Gbaがレヴィー小体中にα−シヌクレインと同所局在化(colocalized)を引き起こした(Wong et al.,Mol.Genet.Metabol.2004;38:192−207)。こうした結果は、α−シヌクレインのプロセシングがリソソーム内で生じ、パーキンソン病におけるGba活性の低下とシヌクレイン症との生化学的関連性を与えることを支持している。
【0126】
更に、自食作用は、細胞質区画から変異ハンチンチン(huntingtin)及びアタキシン−1の凝集形を除去するのに必須である(Iwata et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2005;102(37):13135−40)。自食作用は、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び他のポリグルタミン増殖障害においてタンパク質凝集体から細胞を除去する際に主要な役割も演じる(Meriin et al.,Int J Hyperthermia.2005;21(5):403−19)。したがって、リソソーム加水分解酵素が欠損すると、タンパク質の毒性蓄積(蓄積リソソームタンパク質自体を含む。)に対する自食反応に悪影響が出るであろう。
【0127】
基質蓄積及びエンドサイトーシス輸送欠陥:
リソソーム病、特にCNSの関与するリソソーム病におけるスフィンゴ脂質、コレステロール等の細胞基質の蓄積は、タンパク質及び脂質のエンドサイトーシス輸送の混乱と関連していた。これは、個々の細胞内区画に局在し、タンパク質輸送に関連している膜結合タンパク質であるrab(脳内ras)タンパク質の破壊によって引き起こされる場合がある。このrab破壊は、膜結合タンパク質の「脂質ラフト」への隔離を引き起こす。脂質ラフトは、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン)及びコレステロールに富む膜ミクロドメインである。それは、シグナル伝達及び膜輸送を始めとする様々な細胞事象のプラットフォームとして機能すると示唆されている。特に、脂質ラフトは、ER膜内でGPIアンカー型タンパク質の結合を安定化させ、タンパク質構造に直接関与し、細胞に入る脂質又は脂質結合タンパク質を、エンドソームを介して適当な区画へ誘導する。したがって、脂質加水分解酵素活性の低下に起因する、例えばリソソーム蓄積症におけるエンドソーム及びリソソームの膜内への脂質ラフトの蓄積は、スフィンゴ糖脂質(既に蓄積されている。)及び細胞に入る脂質結合タンパク質の細胞内選別を変化させる恐れがある(Pagano et al.,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.2003;358:885−91)。
【0128】
この誤選別仮説は、ムコ多糖症(MPS)における最近の知見により支持されているが、その知見では、異なる2種の蓄積基質、GM2及びGM3ガングリオシドは、同じニューロン中に蓄積するが、細胞質小胞の別々の集団中に一貫して位置することが示されている(McGlynn et al.,Comp Neurol.2004;480:415−26)。この著者等は、個々のニューロン中の同時隔離は、脂質ラフト成分の組成、輸送及び/又はリサイクルにおける欠陥の存在を示唆するものであり、MPS障害における神経機能不全を説明する新たな機構を導くものと仮定している。
【0129】
ゴーシェ病に対するマウスモデルの研究によれば、Gba活性の低下は、より一般的にはスフィンゴ糖脂質の異化を混乱させ、より複雑な種(ガングリオシド)の蓄積を引き起こすことも示唆される。ガングリオシドの蓄積は、人間において失調症及びパーキンソニズムを生じる恐れがある(Roze et al.,Movement Disorders.2005;20(10):1366−1369)。GM2ガングリオシドを蓄積するマウスモデルは、α−シヌクレインも蓄積した(Suzuki et al.,Neuroreport.2003;14(4):551−4)。このようなガングリオシドの蓄積は、α−シヌクレインの蓄積、並びにUPR経路を介した神経死を引き起こす可能性もある(Lee et al.,J Biol Chem.2002.277(1):671−8)。更に前述のように、スフィンゴ脂質は、α−シヌクレイン凝集体の形成に対するきっかけとして機能し得ることが示されている。
【0130】
Gba活性とゴーシェ病の重度との間には緩やかな相関関係があるので、脂質蓄積の結果としての神経毒性に関するこうした機構により、ゴーシェ病の神経病理を部分的に説明することができる。この相関関係は、3つの主要な疾患型(I〜III)を識別するように作用するが、そこには重複があり、しかも個々の型内での相関関係は弱い。Gbaに関してヘテロ接合的正常である患者は、正常な対立遺伝子により産生されるある程度の量の活性Gbaがあるため、脂質の目立った蓄積を引き起こすことはない。しかし、少量のGluCerの蓄積でも、ERのカルシウム恒常性を乱し、タンパク質の折り畳みを損ない(前記)、又は何らかの機構によってα−シヌクレイン凝集のきっかけとさえなる恐れがある。
【0131】
前述のことを考慮すると、本発明による特異的薬理学的シャペロンの使用は、酵素置換療法(ERT)及び基質削減療法(SRT)より有利であるが、その理由は、前者は、カテーテルを介して脳内に直接投与しなければならず、また両者共、変異リソソーム酵素自体、すなわち変異Gbaの毒性蓄積の問題に対処していないからである。したがって、これらの治療は、変異タンパク質蓄積の削減、或いはタンパク質機能の強化及び/又は回復(その結果、基質蓄積の削減)、或いはその双方を実現できる治療ほど有効ではない。
【0132】
〔変異リソソーム酵素及び特異的薬理学的シャペロン〕
次の表は、リソソーム酵素と、リソソーム酵素に対する特異的薬理学的シャペロンであって、その酵素に変異を有し、その結果神経性の状態又は障害を有する、或いは神経性の状態又は障害を発現する危険性がある個体の治療に使用できるシャペロンとを列挙した表である。
【0133】
【表1−1】
【0134】
【表1−2】
【0135】
特定の一実施形態では、Gbaが変異する神経性の危険因子、状態又は障害の治療に使用可能な、本発明で想定される特異的薬理学的シャペロンの一部は、以下の通りである。シャペロンにより「救出」されると想定されるGba変異も例示されている。
【0136】
Gba変異:
少なくとも1つの対立遺伝子(ヘテロ接合体)上でのGba点変異N370Sの存在は、1型ゴーシェ病とほぼ普遍的に関連している(Cox、前記)。N370Sホモ接合体は、ホモ接合体に残存Gba活性が恐らくあるため、Gbaヌル/N370Sヘテロ接合体(N370S/ヌル)ほど重度の表現型を付随しない。事実、一部のN370S/N370S患者は、生涯の大部分に亘って無症状であるが、パーキンソン病等の神経障害を発現する危険性の恐れはある。この場合、Gba変異はパーキンソン病に対する危険因子となろう。1型ゴーシェ病に関連するそれ以外の点変異としては、84GG、R496H、Q350X及びH162Pが挙げられる(Orvisky et al.,Human Mutation,2002;495,19(4):458−9)。更に、スプライス部位変異のIVS10+2T→G及びIVS10+2T→Aも、1型ゴーシェ病と関連していた(Orvisky、前記)。
【0137】
神経障害性2型ゴーシェ病は、主に2個のアミノ酸置換、L444P及びA456Pを生じさせる変異と関連する。L444Pホモ接合体は、3型ゴーシェ病とも一般に関連しているが、この変異は3種全ての疾患型の患者において同定された。神経障害性2型及び3型ゴーシェ病に関連する他の点変異としては、例えば、D409H(ホモ接合体)、V349L及びD409V(ヘテロ接合体)が挙げられる。D409Hに関してホモ接合体の患者は、神経障害の他に水頭、並びに心弁及び大動脈石灰化を始めとする特異な表現型を示す。後者2種の点変異V349L及びD409Vは、触媒的に欠陥を示すGbaを生じる。2型及び3型病で同定された他の変異は、K198E、K198T、Y205C、F251L、1402F、及びスプライス部位変異のIVS10+2T→Aである(Orvisky等、前記、及びLewin et al.,Mol Genet Metab.2004;81(1):70−3)。Gba活性を全く欠いている患者及びノックアウトマウスは、セラミドが皮膚の完全性にとって必須であるため、脱水により生後間もなく失命する(Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1998;95:2503−08)。
【0138】
Gbaのシャペロン:
イソファゴミン(IFG:(3R,4R,5R)−5−(ヒドロキシメチル)−3,4−ピペリジンジオール)は、次式の構造を有する化合物を指す。
【化1】
【0139】
IFGは、C6H13NO3の分子式及び147.17の分子量を有する。この化合物は、Sierks他の米国特許第5,844,102号及びLundgren他の同第5,863,903号に更に記載されている。
【0140】
C−ベンジル−IFGは、次式の構造を有する化合物を指す。
【化2】
【0141】
Gbaの他のシャペロンとしては、グルコイミダゾール、ポリシクロヘキサニル、及びいずれも2004年11月12日に出願され、参照されることにより本明細書に組み込まれる、係属中の米国特許出願公開第2005/0130972号及び第2005/0137223号、並びに対応するPCT国際公開第2005/046611号及び第2005/046612号パンフレットに記載されているヒドロキシピペリジン誘導体が挙げられる。グルコイミダゾール及び誘導体は、次式の化学構造により表わされる。
【0142】
【化3】
【0143】
式中、Bは、水素、ヒドロキシ、アセタミノ及びハロゲンからなる群より選択される。
【0144】
場合により存在するR1及びR2は、直線長が約6Å〜約12Å、好ましくは約9Åの、短く柔軟なリンカーである。R1及びR2は独立に、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルケニル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキニル、並びに薬学的に許容可能なそれらの塩及びプロドラッグからなる群より選択することもできる。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される。
【0145】
また、R1−L1又はR2−L2は、R2−L2及びR1−L1のいずれかが水素以外であれば、水素であってもよい。
【0146】
R5は、水素、ヒドロキシ又はヒドロキシメチルを表わす。
【0147】
L1及びL2は、C3〜C12の置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される脂質親和性基である。
【0148】
特定の実施形態では、GIZ化合物には、(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオール及び(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−(3,3−ジメチルブチル)−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオールが含まれる。
【0149】
本発明での使用が想定されるポリヒドロキシシクロアルキル(PHCA)誘導体には、次式の化学構造により表わされる化合物が含まれる。
【化4】
【0150】
式中、Bは、水素、ヒドロキシ、N−アセタミノ及びハロゲンからなる群より選択される。
【0151】
R1は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、−C(O)R3及び−S(O)mR3からなる群より選択される。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、及びC1〜C6置換又は非置換アルキルに結合した−C(O)からなる群より選択される。
【0152】
場合により存在するR2は、直線長が約6Å〜約12Å、好ましくは約9Åの、短く柔軟なリンカーである。R2は、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルケニル;NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C2〜C6置換又は非置換アルキニル、並びに薬学的に許容可能なそれらの塩及びプロドラッグからなる群より選択することもできる。ここで、mは1又は2であり、R3は、水素、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキル、及びC1〜C6置換又は非置換アルキルに結合した−C(O)からなる群より選択される。
【0153】
Lは、C3〜C12の置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アルケニル、置換又は非置換アルキニル、置換又は非置換シクロアルキル、置換又は非置換シクロアルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換ヘテロアリール、置換又は非置換ヘテロ環、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換ヘテロアリールアルキルからなる群より選択される脂質親和性基である。
【0154】
Gbaが変異している場合の本発明での使用が想定されるヒドロキシピペリジン誘導体は、次式の化学構造により表わされる。
【化5】
【0155】
式中、Aは、炭素又は窒素を表し、
Bは、水素、ヒドロキシ、N−アセタミド又はハロゲンであり、
R1は、水素;置換又は非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル、若しくはヘテロアリールアルキル;−C(O)R3又は−S(O)mR3である。好ましくは、R1は、H又は1〜12個の炭素原子を有する有機部分からなる。
【0156】
場合により存在するR2は、直線長が約6Å〜約12Åの、短く柔軟なリンカーである。或いは、R2は、NH、NHCOO、NHCONH、NHCSO、NHCSNH、CONH、NHCO、NR3、O、S、S(O)m及び−S(O)mNR3からなる群より選択される1個又は複数の部分により中断されてもよい、C1〜C6置換又は非置換のアルキル、アルケニル又はアルキニルである。
【0157】
R3は、水素、又は置換若しくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル、若しくはヘテロアリールアルキルである。好ましくは、R3は、H又は1〜12個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有する有機部分からなる。
【0158】
mは1又は2であり、
R5は、水素、ヒドロキシ又はヒドロキシメチルである。
【0159】
Lは、置換又は非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル又はヘテロアリールアルキルを含む、1〜12個の炭素原子を有する脂質親和性基である。
【0160】
特定の実施形態では、本発明での使用が想定されるヒドロキシピペリジン化合物としては、これらに限られないが、以下のもの、すなわち(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ブチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ヘキシル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ヘプチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−オクチル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−n−ノニル−3,4−ジヒドロキシピペリジン、及び(3R,4R,5R,6S/6R)−5−(ヒドロキシメチル)−6−ベンジル−3,4−ジヒドロキシピペリジンが挙げられる。
【0161】
Gbaの更に別のシャペロンは、Fan他の米国特許第6,599,919号に記載されているが、例えば、カリステギンA3、カリステギンA5、カリステギンB1、カリステギンB2、カリステギンB3、カリステギンB4、カリステギンC1、N−メチル−カリステギンB2、DMDP、DAB、カスタノスペルミン、1−デオキシノジリマイシン、N−ブチル−デオキシノジリマイシン、1−デオキシノジリマイシン重亜硫酸塩、N−ブチル−イソファゴミン、N−(3−シクロヘキシルプロピル)−イソファゴミン、N−(3−フェニルプロピル)−イソファゴミン、及びN−[(2E,6Z,10Z)−3,7,11−トリメチルドデカトリエニル]−イソファゴミンKが挙げられる。
【0162】
他の特定の実施形態では、1−デオキシノジリマイシン(DNJ:1,5−イミノ−1,5−ジデオキシ−D−グルシトール、CAS番号:19130−96−2)及び誘導体を包含し、リソソーム酵素α−グルコシダーゼ(Gaa)が変異している神経性の危険因子、状態又は障害の治療に使用できる特異的薬理学的シャペロンは、以下の通りである。
【0163】
Gaaの変異としては、例えば、D645E(Lin et al.,Zhonghua Min Guo Xiao Er Ke Yi Xue Hui Za Zhi.1996;37(2):115−21);D645H(Lin et al.,Biochem Biophys Res Commun.1995 17;208(2):886−93);R224W、S169R及びR660H(New et al.,Pediatr Neurol.2003;29(4):284−7);T1064C及びC2104T(Montalvo et al.,Mol Genet Metab.2004;81(3):203−8);D645N及びL901Q(Kroos et al.,Neuromuscul Disord.2004;14(6):371−4);G219R、E262K、M408V(Fernandez−Hojas et al.,Neuromuscul Disord.2002;12(2):159−66);G309R(Kroos et al.,Clin Genet.1998;53(5):379−82);D645N、G448S、R672W及びR672Q(Huie et al.,Biochem Biophys Res Commun.1998;27;244(3):921−7);P545L(Hermans et al.,Hum Mol Genet.1994;3(12):2213−8);C647W(Huie et al.,Huie et al.,Hum Mol Genet.1994;3(7):1081−7);G643R(Hermans et al.,Hum Mutat.1993;2(4):268−73);M318T(Zhong et al.,Am J Hum Genet.1991;49(3):635−45);E521K(Hermans et al.,Biochem Biophys Res Commun.1991;179(2):919−26);W481R(Raben et al.,Hum Mutat.1999;13(1):83−4);並びにL552P及びG549R(未発表データ)が挙げられる。
【0164】
スプライシング変異体には、IVS1AS、T>G、−13及びIVS8+1G>A)が含まれる。
【0165】
α−グルコシダーゼシャペロンは、例えば、次式の化学構造により表されるもの、又はその薬学的に許容可能な塩である。
【化6】
【0166】
式中、R1は、H、又は、炭素原子1〜12個を含有する、直鎖若しくは分枝アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキルエーテル、若しくはアルキルアミン、環原子5〜12個を含有する、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、若しくはヘテロアリールアルキルであり、R1は、1個又は複数の−OH、−COOH、−Cl、−F、−CF3、−OCF3、−O−C(=O)N−(アルキル)2で置換されていてもよく、
R2は、H;炭素原子1〜9個を含有する、直鎖若しくは分枝アルキル、シクロアルキル、アルケニル、若しくはアルキルエーテル、又は環原子5〜12個を含有するアリールであり、R2は、−OH、−COOH、−CF3、−OCF3、又はヘテロ環で置換されていてもよい。
但し、R1及びR2の少なくとも一方はHではない。
【0167】
特に、酸性α−グルコシダーゼ用シャペロンとしては、これらに限られないが、N−メチル−DNJ、N−エチル−DNJ、N−プロピル−DNJ、N−ブチル−DNJ、N−ペンチル−DNJ、N−ヘキシル−DNJ、N−ヘプチル−DNJ、N−オクチル−DNJ、N−ノニル−DNJ、N−メチルシクロプロピル−DNJ、及びN−メチルシクロペンチル−DNJが挙げられる。
【0168】
窒素置換DNJ誘導体に加えて、Gaa用シャペロンとして有用な他のDNJ誘導体は、N−ベンジル置換DNJ誘導体を包含し、環窒素に隣接するC−1炭素に置換基が付いた誘導体も、本発明の好ましい化合物である。このような化合物は、2006年5月17日に出願された共有同時係属出願第11/...,...号に記載されている。
【0169】
更に別の実施形態では、他のリソソーム酵素α−ガラクトシダーゼ(α−Gal A)のヘテロ接合体変異に関連する、神経障害の治療用の好ましいシャペロンは、次式の化学構造により表される。
【化7】
【0170】
式中、R1及びR1’は、H、OH、又は炭素1〜12個のアルキル、ヒドロキシアルキル若しくはアルコキシル基を表し、
R2及びR2’は、独立してH、LH、若しくはN−アセタミド基、又は炭素1〜12個のアルキル基を表し、
R4及びR4’は、独立してH、OHを表し、
R6及びR6’は、独立してH、CH2OH、CH3、又はCOOHを表し、
R7は、独立してH又はOHを表し、
R0は、H、メチル、又は炭素原子9〜12個を含有し、フェニル、ヒドロキシ若しくはシクロヘキシル基で置換されていてもよい、直鎖若しくは分枝、飽和若しくは不飽和の炭素鎖を表す。
【0171】
特定の実施形態では、シャペロンは1−デオキシノジリマイシンである。
【0172】
ファブリー病に関連するα−Gal A変異としては、R301Q、L166V、A156V、G272S及びM296Iが挙げられる。
【0173】
〔アッセイ〕
蓄積タンパク質の検出及び輸送:
ERにおけるタンパク質の蓄積は、検出及び/又は可視化することができ、BiP等のER常在タンパク質と同所局在する、細管小胞形状の核周囲局在として現れる。こうしたタンパク質も、細胞表面又はリソソーム等の他の細胞区画のような、細胞内の本来の部位で減少又は欠如している。細胞質におけるタンパク質の蓄積は、同様な同所局在法を用いてサイトゾルタンパク質と共に検出することができる。
【0174】
リソソーム酵素の輸送阻害を検出する方法は、当技術分野で周知である。例えば、ゴルジ装置でN及びO−グリコシル化されるタンパク質に対しては、放射標識タンパク質を用いるパルス追跡用代謝標識を、グリコシダーゼ処理及び免疫沈降と併用することにより、当該タンパク質がゴルジで十分なグリコシル化を受けているか否か、又は当該タンパク質が、更にグリコシル化されるためにゴルジへ輸送される代わりに、ER中に保持されているか否かを検出することができる。
【0175】
タンパク質の細胞内局在を視覚的に検出する感度良好な方法としてはまた、蛍光タンパク質又は蛍光抗体を用いる蛍光顕微鏡法が挙げられる。細胞試料の評価のために、蛍光抗体を用いてタンパク質を検出することができる。操作又は工学処理した細胞における検出に関しては、対象とするタンパク質に対して、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質(YFP)、及び赤色蛍光タンパク質で、トランスフェクションの前にタグを付け、その後、多色で経時的な顕微鏡及び電子顕微鏡観察を行なうことにより、固定細胞及び生細胞における当該タンパク質の運命を調べることができる。タンパク質輸送における蛍光画像法の使用に関する総説については、Watson et al.,Adv Drug Deliv Rev.2005;57(1):43−61を参照されたい。タンパク質の細胞内同所局在に対する共焦点顕微鏡法の使用に関する記述については、Miyashita et al.,Methods Mol Biol.2004;261:399−410を参照されたい。
【0176】
その他に、リソソーム用のLAMP−1又はLysoTracker(登録商標)に対する抗体(赤色)(又は、リソソームに特異的な蛍光量子ドット、Cascadeブルーデキストラン等の他の染色剤若しくはマーカー)及びリソソーム酵素に対する抗体(緑色)を用いる二重標識実験では、緑色/赤色重複比(同所局在)を用いて、リソソーム酵素の変化、例えばリソソームへの酵素輸送を測定することができる(緑色/赤色比の増加は、リソソームへ輸送される酵素が増加することを意味する)。正常なエンドサイトーシス経路を有する正常な健常細胞は、より多い蛍光を生成するはずである。下記の実施例2も参照されたい。
【0177】
蛍光相関分光法(FCS)は、単分子をリアルタイムで分解できる超高感度・非侵襲性検出法である(Vukojevic et al.,Cell Mol Life Sci.2005;62(5):535−50)。SPFI(単一粒子蛍光画像法)は、蛍光微粒子で選択的に標識した個別分子を可視化するために、蛍光の高い感度を使用する(Cherry et al.,Biochem Soc Trans.2003;31(Pt 5):1028−31)。脂質ラフト内のタンパク質の局在性決定については、Latif et al.,Endocrinology.2003;144(11):4725−8を参照されたい。生細胞画像形成に関する総説については、Hariguchi,Cell Struct Funct.2002;27(5):333−4を参照されたい。
【0178】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)顕微鏡法も、生理的条件下にあるタンパク質の構造及び局在性を調べるために使用される(Periasamy,J Biomed Opt.2001;6(3):287−91)。
【0179】
特定の実施形態では、Gba変異を保持する個体におけるα−シヌクレインの検出は、ELISA又はウェスタンブロット分析を用いて行なうことができる。LCMS/MS法及び/又はTLCは、GluCer量(基質蓄積)をモニターするために使用することができる。
【0180】
阻害剤及び/又はシャペロンによる動物の治療に応答した際のα−シヌクレイン量及びオリゴマー/単量体比の体外(ex vivo)モニターは、脳薄片アッセイを用いて評価することができる。
【0181】
ユビキチン化アッセイ:
その他に、ユビキチン−リソソーム酵素複合体の存在及び局在性を決定するアッセイを用いて、変異の機能的作用の毒性獲得、及びシャペロン治療に対する応答を評価することができる。免疫組織化学又は免疫蛍光を用いる、これらの複合体の局在性を決定する形態学的調査は、感度良好な一検出法である。下記の実施例3を参照されたい。上記に示したように、非ストレス細胞と比較して少量のユビキチン化タンパク質の存在は、プロテアソーム機能の阻害を指示することができる。
【0182】
他の例として、AlphaScreen(商標)(Perkin−Elmer)と称するプロセスを用いて、ユビキチン化タンパク質を検出することができる。このモデルでは、GST−UbcH5a融合タンパク質のGST部分が、ビオチン−ユビキチン(bio−Ub)を用いてユビキチン化される。ATP存在下でのE1によるユビキチン活性化の後、bio−UbはUbcH5aに転移される。この反応では、UbcH5aは、タグ付きGST部分にbio−Ubを転移させる担体として作用する。ビオチニル化及びユビキチン化されるこのタンパク質は、次いで抗GSTアクセプター及びストレプトアビジンにより捕捉される。ドナービーズはシグナル生成を引き起こす。ユビキチン化がなければ、シグナルは生成しないはずである。
【0183】
更に、多様なE3ユビキチンリガーゼ及びE2複合化酵素の活性を測定するハイスループットアッセイを用いて、タンパク質のユビキチン化の増減を決定することができる(Meso Scale Discovery,Gaitherburg,MD)。
【0184】
UPR応答:
ERストレスは、UPRに関与する遺伝子及びそれらの遺伝子がコードするタンパク質の発現量の決定により、評価することができる。このような遺伝子及びタンパク質としては、上記のもの、Grp78/BiP、GrP94及びorp150が挙げられ、そのようなものはUPRの早期段階で上方調節される。ERストレス反応に関与する他のタンパク質としては、IRE1、PERK、ATF6及びXBP1が挙げられ、そのようなものは継続的なERストレスを受ける細胞において上方調節される。更に、細胞ストレスの持続はアポトーシスを引き起こし、それにより、junキナーゼ(JNK)並びにカスパーゼ3、9及び12の上方調節を引き起こす。
【0185】
本発明は、タンパク質又は基質の毒性蓄積又は凝集を示す患者と、健常な個体との間における、前記の指標遺伝子及び/又はタンパク質の発現量の比較を想定している。
【0186】
他の実施形態では、本発明は、機能凝集体の毒性獲得を原因とする細胞ストレスを緩和する化合物を同定するために、ストレス細胞に対する特異的薬理学的シャペロンの効果の評価も想定している。陽性対照として、チュニカマイシン、ジチオスレイトール(DTT)、ラカットシスチン(lacatcystin)、過酸化物等のERストレス誘発剤を用いて、ER中の非折り畳みタンパク質の蓄積を引き起こすことができる。チュニカマイシンはN結合グリコシル化を阻害し、DTTはジスルフィド結合の形成を妨げる。ラカットシスチンはプロテアソーム阻害剤である。タンパク質合成阻害剤のシクロヘキサミド等のストレス緩和剤は、ストレス細胞に対してシャペロン化合物を評価する際に、陽性対照として使用することができる。
【0187】
発現量のアッセイには、マイクロアレイ分析を介した遺伝子発現が含まれる。これは、例えば、当該遺伝子(ヒトゲノム)を含有するAffymetrix U133遺伝子チップセット(Affymetrix,Santa Clara,CA)を用いて、実現することができる。この技術は従来から使用されている。例えば、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)処理後の多数時点から集めたRNAのマイクロアレイ分析を、データのマイニング及び集団化技術と併用することにより、細胞ストレス遺伝子の個別の機能性サブグループが同定されている(Holtz et al.,Antioxidants&Redox Signaling.2005;7:639−648)。パーキンソン病模倣物質である6−OHDAは、細胞ストレス及びUPRに関連する転写変化を引き起こすことが示されている。
【0188】
アポトーシス:
更に、前述のように、UPRによって消失しない長期の持続的ERストレスは、神経細胞のプログラム細胞死、例えばアポトーシスを引き起こす恐れもある。in vitroでの評価のために、hNT2(ATCCアクセッション番号:CRL−10742)、Hs68(番号CRL−1636)、HCN−1A(番号CRL−10442)、SK−N−FI(番号CRL−2142)、SK−N−DZ(番号CRL−2149)、SK−N−SH(番号HTB−11)、NT2/D1(番号CRL−1973)等の神経細胞系、又はin vitroでニューロンに分化した胚性幹細胞若しくは神経幹細胞(例えば、Laeng他のUS2003/0013192、及びYan et al.,Stem Cells.2005;23:781−90を参照されたい)に、変異Gbaをトランスフェクトし、アポトーシスについて評価することができる。
【0189】
したがって、アポトーシス細胞数は、例えば、アポトーシスの早期指標であるカスパーゼ3に対する蛍光性の基質類縁体を用いて測定することができる。アポトーシスは、蛍光標示式細胞分取(FACS)及び/又は蛍光プレートリーダー(例えば、ハイスループット用96ウェル)を含め、当技術分野における多様な方法を用いて検出することができる。後者については、アポトーシス又は細胞死に陽性な細胞の比率(%)を決定することができ、又はタンパク質濃度に比した蛍光強度を測定することができる。
【0190】
細胞/細胞小器官の形態:
ニューロンにおける形態異常は、変異タンパク質の蓄積から生じることができ、形態分析を用いて評価することができる。例えば、タウ−GFPをトランスフェクトしたニューロンにおけるニューロン形態の変化には、非対称性、前後方向投影における軸索数の減少、異常な軸索の束状化、軸索の水泡化、及び末端樹枝状分岐の減少が含まれる。細胞形態の他の変化には、凝集、細胞サイズ(細胞面積又は細胞密度)、多形性(polymegathism:平均細胞面積の変動係数等の細胞サイズの変化)、多形性(pleomorphism:六角細胞比率(%)や細胞形状の変動係数等の細胞形状の変化)、細胞周囲長、平均細胞側辺長、細胞形状等が含まれる。形態は、Ventimiglia et al.,J Neurosci Methods.1995;57:63−6及びWu et al.,Cerebral Cortex.2004;14:543−54(high−throughput analysis)に記載の方法による定量的形態分析を用い、並びにImage Pro−Plusソフトウェア等の画像解析ソフトウェアを用いて評価することができる。
【0191】
細胞/ERストレスは、細胞小器官の形態の評価によっても検出することができる。例えば、CY028発現性S.セレビシエ(cerevisiae)細胞におけるUPRは、野生型CY000産生S.セレビシエ細胞のER形態及び膜増殖と比較した場合、小胞体(ER)の異常形態及び広範な膜増殖として現れる(Sagt et al.,Applied and Environmental Microbiology.2002;68:2155−2160)。
【0192】
更に、特定の形態指標を個々の凝集疾患と関連させることができる。例えばゴーシェ病においては、脂質がマクロファージのリソソーム中に蓄積し、活性化マクロファージを示す特徴的形態を生じる。
【0193】
ERのカルシウム貯蔵:
ERストレスは、ER内腔及びサイトゾル中のカルシウム濃度の測定によっても、細胞内のカルシウム貯蔵を調節する普遍的なカルシウム−ATPaseであるSERCA2b等のカルシウム調節タンパク質の濃度の決定によっても検出することができる。対照として、ERストレスは、例えばタプシガルギン(thapsigargin)を用いたカルシウム枯渇により誘導できる。
【0194】
プロテアソーム機能:
タンパク質又は基質の蓄積に対する細胞の一ストレス反応であるプロテアソーム機能は、Glas等(Nature.1998;392:618−622)の方法に従って測定することができる。生体動物中の26Sプロテアソーム機能の画像形成による評価は、生物発光画像形成のためのユビキチン−ルシフェラーゼレポーターを用いて実現されている(Luker et al.,Nature Medicine.2003.9,969−973)。プロテアソームの単離及びアッセイは、Craiu等、JBCに記載されている。プロテアソームの単離用キットは、例えばCalbiochem(カタログ番号539176)から市販されている。このキットを用いて細胞抽出物からプロテアソームサブユニットを単離することにより、その機能及び他のタンパク質との相互作用を調べることができる。プロテアソームサブユニットは、そのビーズを直接SDS−PAGEゲル上に添加し、サブユニット特異抗体で免疫ブロットをすることにより、同定することができる。或いは、ビーズに結合したプロテアソームを、プロテアソーム基質を用いるタンパク質分解アッセイに使用することができる。
【0195】
細胞の増殖及び輸送pHアッセイ:
細胞中でのタンパク質の輸送は、pH勾配(すなわち、ERのpH:約7.0、ゴルジ体のpH:約6.2〜7.0、トランスゴルジ網のpH:約6.0、初期及び後期エンドソームのpH:約6.5、リソソームのpH:約4.5)に沿って生じる。一部のリソソーム蓄積症では、輸送、リソソーム/エンドソーム形態、及び内腔pHも混乱し(Ivleva et al.,Biomed Sci.1991;2:398−402;Futerman and van Meer,Nat Rev Mol Cell Biol.2004;5:554−65)、エンドソーム中のpH上昇は、エンドソームからゴルジ体への小胞輸送の逆転を促進することが示されている(van Wert他、1995年、上記)。
【0196】
ある範囲のpHに曝した細胞(例えば、野生型、未処理患者細胞、及びシャペロン処理患者細胞)の増殖速度は、蛍光プレートリーダーを用いて測定し、比較することができる。アポトーシス及び細胞死アッセイ(前記)を用いて、細胞生存性に関するpH感受性を決定することもできる。
【0197】
或いは、リソソームpH及び輸送に対するpH効果は、共焦点顕微鏡を用いて評価することができる。細胞によるエンドサイトーシスを受けるpH感受性蛍光プローブを用いて、リソソーム及びエンドソーム中のpH範囲を測定することができる(すなわち、フルオレッセインはpH5.0で赤色、pH5.5〜6.5で青色から緑色である)。リソソームの形態及びpHは、野生型、並びにシャペロン処理及び未処理患者細胞において比較することができる。このアッセイは、pH感受性を決定するために、プレートリーダーアッセイと同時に行なうことができる。更に、酵素のリソソームへの輸送は、前記の二重標識実験を用いて異なるpHの細胞中で評価することができる。
【0198】
様々なpHに曝された細胞(野生型、シャペロン処理及び未処理患者細胞)のエンドサイトーシスの速度は、Quantumドット又はDextran Blueを用いて測定することができる。更に、蛍光脂質類縁体(BODIPY−LacCer、同−GM1ガングリオシド等)の使用について述べたアッセイが、Pagano,Phil Trans R Soc Lond B.2003;358−885−91に記載されている。
【0199】
酵素活性:
前記のタンパク質局在性アッセイを用いるシャペロンの凝集及び/又は輸送に対する効果の評価に加えて、生化学アッセイを用いて、タンパク質が機能的か否かを判定し、タンパク質がERから、例えばリソソームへとシャペロン介助を受けた際の、機能回復の効果を評価することもできる。活性アッセイは、試験作用物質の存在又は非存在下での標的タンパク質の活性を測定するために、一般に設計される。このようなアッセイは、その特定のタンパク質に依存することになろう。例えば、当該タンパク質が酵素の場合、当分野で常套的な基質を用いる細胞内酵素活性アッセイを用いて、酵素活性を評価することができる。
【0200】
酵素活性のex vivo及びin vivoでの評価は、健常動物及び以下に述べるような疾患状態の動物モデルを用いて行なうことができる。
【0201】
〔診断の方法〕
本発明は、リソソーム酵素の変異に関連する危険因子、状態又は神経障害を診断する方法を提供する。LSDの患者に生じる神経性作用は、他の神経障害にも存在し得るので、リソソーム酵素の変異を有しながら、LSDと診断されていない人々は、有効な治療を受けていない恐れがある。一例は、Gba遺伝子にヘテロ接合体変異を有し、パーキンソニズム又はパーキンソン病を発現する危険性があるか、又は既に発現した個体である。変異リソソーム酵素に関連し得る他の例示的な神経症状としては、神経変性、神経退行、発作、盲目、眼球運動障害、痙攣(spacisticity)、認識障害;発育遅延;神経筋症状、末梢神経障害(神経因性疼痛)、肢端感覚異常、長期記憶障害、脳血管事象等の脳血管事象(卒中、一過性脳虚血発作)、嚥下障害等が挙げられる。
【0202】
リソソーム酵素の1つ又は複数の変異を同定する方法は当技術分野で周知であり、神経症状を示す個体、又は神経症状を発現する危険性のある個体(例えば、LSDのキャリヤー若しくはLSDを有する個体の親類)から得た生体試料のリソソーム酵素の酵素活性を比較することを包含する。分子レベルの変異、すなわちヌクレオチド又はアミノ酸の変化を同定する方法も当業者には周知であり、PCR増幅とそれに続く配列決定、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)、又は大量試料に対するDNAマイクロアレイの使用、等が挙げられる(Tennis et al.,Cancer Epidemiology Biomarkers&Preventio.2006;15:80−85)。
【0203】
〔特異的薬理学的シャペロンの製剤、投与量及び投与〕
本発明は、当該化合物が、神経細胞に作用するために血液脳関門を越える必要があることから、特異的薬理学的シャペロンを全身投与可能な剤形で投与することを包含する。一実施形態では、特異的薬理学的シャペロンは、単剤療法として、好ましくは経口剤形(下記で更に説明する)で投与されるが、他の剤形も想定される。一実施形態では、投薬計画は、治療される個体の血漿中で化合物の周期的な最高濃度が得られるものであることが想定されている。他の実施形態では、血漿中で化合物濃度が一定で、定常状態にあることが必要となり得る。これは、分割用量若しくは制御放出製剤の毎日投与、又は持続放出剤形の低頻度投与により得ることができる。特異的薬理学的シャペロンの製剤、投与量及び投与経路については以下に詳述する。
【0204】
(製剤)
特異的薬理学的シャペロンは、任意の投与経路に適当な形態、例えば、経口では錠剤若しくはカプセル若しくは液体の形態、又は注射では滅菌水溶液等の形態で投与することができる。特異的薬理学的シャペロンを経口投与のために製剤化する場合、錠剤又はカプセルは、従来の手段によって、結合剤(例えば、予備ゼラチン化トウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム)、滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉又は澱粉グリコール酸ナトリウム)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の薬学的に許容可能な賦形剤を用いて調剤することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法によりコートされてもよい。経口投与のための液体製剤は、例えば溶液、シロップ又は懸濁液の形態をしてもよく、或いは使用前に水又は他の適当な媒体で構成させるための乾燥製品として提供してもよい。このような液体製剤は、従来の手段によって、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は硬化食用脂肪)、乳化剤(例えば、レシチン又はアラビアゴム)、非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分別植物油)、及び防腐剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはp−ヒドロキシ安息香酸プロピル、又はソルビン酸)等の薬学的に許容可能な添加剤を用いて調剤し得る。製剤は、必要に応じて、緩衝剤塩、香味剤、着色剤及び甘味剤も含有してもよい。経口投与用製剤は、特異的薬理学的シャペロンの制御又は持続放出が可能なように適切に処方することもできる。
【0205】
非経口/注射用に適当な特異的薬理学的シャペロンの医薬製剤は、一般に、滅菌水溶液(水溶性の場合)、又は滅菌注射溶液若しくは分散液の即時調合用の分散液及び滅菌粉末を包含する。全ての場合に、その形態は滅菌されていなければならず、容易に注射針を通過する程度に流動性でなければならない。それは製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌、真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。その担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、並びに植物油を含有する溶媒又は分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えばレシチン等の被膜の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物作用の防止は、多様な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸等により行なうことができる。多くの場合に、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含めることは妥当であろう。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの当該組成物中での使用によって実現することができる。
【0206】
滅菌注射溶液は、必要量の特異的薬理学的シャペロンを、必要に応じて前述した様々な他の成分と共に適当な溶媒中に導入し、次いでろ過又は最終的な滅菌をすることによって調製される。一般に分散液は、様々な滅菌活性成分を、基礎分散媒体及び前述した中から必要な他の成分を含有する滅菌媒体中に導入することによって調製される。滅菌注射溶液の調製用滅菌粉末の場合には、好ましい調製法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術によるものであり、予備的に滅菌ろ過した溶液から、活性成分に所望の成分が添加された粉末が得られる。
【0207】
製剤は賦形剤を含有することができる。製剤中に含み得る薬学的に許容可能な賦形剤は、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、重炭酸緩衝剤等の緩衝剤、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質;血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;EDTA、EGTA等の塩、及び塩化ナトリウム;リポソーム;ポリビニルピロリドン;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール等の糖類;プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000);グリセロール;グリシン又は他のアミノ酸;及び脂質である。製剤に使用される緩衝系は、クエン酸塩、酢酸塩、重炭酸塩及びリン酸塩緩衝剤を包含する。リン酸緩衝剤は好ましい実施形態である。
【0208】
製剤は非イオン性洗浄剤も含有することができる。好ましい非イオン性洗浄剤としては、Polysorbate 20、Polysorbate 80、Triton X−100、Triton X−114、Nonidet P−40、オクチルα−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、Brij 35、Pluronic及びTween 20が挙げられる。
【0209】
(投与)
特異的薬理学的シャペロンの投与経路は、経口(好ましくは)又は非経口でもよく、非経口には、静脈内、皮下、動脈内、腹腔内、点眼、筋肉内、口腔内、直腸、膣、眼窩内、脳内、皮内、頭蓋内、髄腔内、心室内、くも膜下、槽内(intracisternal)、嚢内(intracapsular)、肺内、鼻腔内、経粘膜、経皮、又は吸入が含まれる。
【0210】
特異的薬理学的シャペロンの前記非経口製剤の投与は、製剤の周期的ボーラス注入によってもよく、或いは外部(例えば、静注バッグ)又は内部(例えば、生体内分解性インプラント)の貯液槽からの静脈内又は腹腔内投与によって投与してもよい。例えば、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第4,407,957号及び第5,798,113号を参照されたい。肺内への送達法及び器具は、例えば、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,654,007号、第5,780,014号及び第5,814,607号に記載されている。他の有用な非経口送達システムとしては、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋込式注入システム、ポンプ送達、封入セル送達、リポソーム送達、針送達注射、針なし注入、噴霧器、エアゾール発生器、電気穿刺及び経皮パッチが挙げられる。針なし注入具は、各々参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,879,327号、第5,520,639号、第5,846,233号及び第5,704,911号に記載されている。前記の製剤は、いずれもこれらの方法を用いて投与することができる。
【0211】
皮下注射は、静脈内投与に比べて血漿半減期を延長もしながら、自己投与ができる利点を有する。更に、患者に便利に設計した多様な用具(詰替式注入ペン、針なし注入具等)を、本明細書で考察したような本発明の製剤と共に使用してもよい。
【0212】
(投与量)
内因性変異Gbaの救出に有効な特異的薬理学的シャペロンの量は、当業者により症例毎に決定することができる。半減期(t1/2)、最高血漿濃度(Cmax)、最高血漿濃度時間(tmax)、曲線下面積(AUC)で測定される曝露量、及び代替タンパク質、特異的薬理学的シャペロン双方の組織分布、並びに特異的薬理学的シャペロン/Gba結合のデータ(親和性定数、結合及び解離定数、結合価)、等の薬物動態及び薬力学データを、当技術分野で公知の通常の方法を用いて得ることにより、代替タンパク質をその活性を阻害せずに安定化し、その結果治療効果を得るのに必要な適合量を決定することができる。
【0213】
細胞培養アッセイ又は動物試験から得たデータは、人間及び人以外の動物に使用する治療投与量範囲を処方するために使用し得る。本発明の治療法で使用する化合物の投与量は、ED50濃度(試験集団の50%に対して有効な濃度)を包含するが、毒性は殆ど又は全く示さない範囲の循環濃度内にするのが好ましい。任意の治療で使用する特定の投与量は、この範囲内で、使用する特定の剤形、利用する投与経路、個体の状態(例えば、患者)等の要素に応じて変動し得る。
【0214】
治療有効用量は、当初に細胞培養アッセイから推定し、動物モデルにおいて処方することにより、IC50を包含する循環濃度範囲を実現し得る。化合物のIC50濃度は、症状の半値阻害(half−maximal inhibition)を実現する濃度(例えば、細胞培養アッセイから決定したような濃度)である。次いで、特定の個体、例えばヒト患者で使用する適当な投与量は、このような情報を用いてより正確に決定し得る。
【0215】
血漿中の化合物の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー等の方法によって、患者等の個体において常套的に測定し得る。
【0216】
当該組成物の毒性及び治療効力は、標準的な薬学的な手法によって(例えば、細胞培養アッセイにおいて、或いは実験動物を用いてLD50及びED50を決定することによって)判定することができる。LD50及びED50というパラメーターは、当技術分野で周知であり、それぞれ、集団の50%に致死的である化合物の用量、及び集団の50%に治療効果的である化合物の用量を指す。毒性効果と治療効果との用量比は、治療指数と称し、比率LD50/ED50で表現し得る。大きな治療指数を示す特異的薬理学的シャペロンが好ましい。
【0217】
特異的薬理学的シャペロンの最適濃度は、in vivoの組織又は循環血中の組換えタンパク質、例えばGbaの適切な構造を安定化させ、誘導する一方、その活性、組織又は循環血中の特異的薬理学的シャペロンの生体利用性、及び組織又は循環血中の特異的薬理学的シャペロンの代謝を持続的に妨げないのに必要な量に従って決定される。例えば、特異的薬理学的シャペロンが酵素阻害剤の場合、当該阻害剤の濃度は、酵素に対するその特異的シャペロンのIC50値を計算することによって決定することができる。次いで、その化合物の生体利用性及び代謝を考慮して、IC50値近辺又はIC50値よりやや高い濃度を、酵素活性に対する効果、例えば、投与した酵素の酵素活性量の増加又は酵素活性の持続に必要な阻害剤の量に基づいて見積もることができる。例えば、化合物イソファゴミンのGba酵素に対するIC50値は0.04μMであり、これは、それが効果的な阻害剤であることを示している。
【0218】
〔併用薬物療法〕
特異的薬理学的シャペロンは、リソソーム酵素の変異に関連するCNS障害の患者を治療するために、CNS障害の治療にやはり使用される他の薬物と併用することができる。
【0219】
例えば、パーキンソン病患者に対しては、ドーパミン受容体アゴニスト、抗コリン剤、COMT阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤等である。薬剤としては、これらに限られないが、レボドーパ(Sinemet(登録商標)、Merck)、Parlodel(登録商標)(ブロモクリプチンメシレート、Novartis)、Permax(登録商標)(ペルゴリドメシレート、Eli Lilly)、Requip(登録商標)(ロピニロールHCl)、Mirapex(登録商標)(プラミペキソール二塩酸塩)、Cogetin(登録商標)(ベンズトロピンメシレート)、Artane(登録商標)(トリヘキシフェニジルHCl、American Cyanamid)、Symmetrel(登録商標)(アマンタジン塩酸塩、Du Pont Merck)、及びEldepryl(登録商標)(Somerset Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0220】
〔遺伝子治療との併用療法〕
米国では治療処置が未だ認可されていないが、多数の遺伝障害に対する遺伝子治療(ex vivo、直接導入の双方)が研究途上にある。本発明は、神経疾患において欠陥性Gba遺伝子を代替するために、特異的薬理学的シャペロンの遺伝子治療との併用も想定している。このような併用は、変異酵素の折り畳み及びプロセシングの強化に加えて、特異的薬理学的シャペロンが、野生型及び安定な構造の対応酵素の折り畳み及びプロセシングを強化することが示されているので、治療性Gbaの発現量をin vivoで増加させることにより、遺伝子治療の効果を強化することになろう(例えば、Fan他の米国特許第6,274,597号、実施例3を参照されたい)。
【0221】
Bankiewiczの米国特許第6,309,634号は、パーキンソン病を治療するための遺伝子治療手法について記載している。この方法によれば、組換えアデノ随伴ウィルス(rAAV)のビリオンがin vitroで産生され、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)をコードする核酸配列を含む。他のグループは、最近、パーキンソン病のサルモデルにおいて、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)に対する遺伝子をやはり組換えアデノ随伴ウィルスベクターを介して挿入した(Eslamboli et al.,J Neurosci.2005;25(4):769−77)。
【0222】
当技術分野で利用可能な遺伝子治療法のいずれも、治療性遺伝子を送達するために使用することができる。例示的方法を以下に説明する。遺伝子治療法に関する全般的総説については、Goldspiel et al.,Clinical Pharmacy 1993,12:488−505;Wu and Wu,Biotherapy 1991,3:87−95;Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.1993,32:573−596;Mulligan,Science.1993,260:926−932及びMorgan and Anderson,Ann.Rev.Biochem.1993,62:191−217;May,TIBTECH 1993,11:155−215を参照されたい。使用できる組換えDNA技術の分野で一般に知られている方法は、Ausebel et al.,(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY;Kriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY及びDracopoli et al.,(eds.),1994,Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NYの12章、13章、並びにColosimo et al.,Biotechniques 2000;29(2):314−8,320−2,324に記載されている。
【0223】
本発明の方法のために投与すべき遺伝子は、当分野の技術に入る通常の分子生物学、微生物学及び組換えDNAの技術を用いて単離し、精製することができる。例えば、標的タンパク質をコードする核酸は、文献に記載されるような組換えDNAの発現を用いて単離することができる。例えば、Sambrook,Fritsch&Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York;DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization[B.D.Hames&S.J.E Higgins eds.(1985)];Transcription And Translation[B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984)];Animal Cell Culture[R.J.Freshney,ed.(1986)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL Press,(1986)];B.E Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984)を参照されたい。タンパク質をコードする核酸は、その遺伝子が生物活性なタンパク質をコードする限り、全長又は切断型でもよい。
【0224】
同定され、単離されたGba遺伝子は、次いで適当なクローニングベクター中に挿入することができる。遺伝子治療に適切なベクターには、ウィルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、並びに当技術分野で通常使用され、多様な真核及び原核宿主中に発現することがこれまで記載されており、タンパク質の単純発現だけでなく遺伝子治療にも使用し得る他の組換え媒体が含まれる。
【0225】
特定の実施形態では、ベクターはウィルスベクターである。ウィルスベクター、特にアデノウィルスベクターは、標的細胞のウィルス感染効率を増大させる、陽イオン脂質、ポリL−リジン(PLL)、ジエチルアミノエチルデキストラン(DELAEデキストラン)等の陽イオン両親媒性物質と複合することができる(例えば、1997年11月20日に出願され、参照されることにより本明細書に組み込まれるPCT/US97/21496を参照されたい)。本発明で使用するウィルスベクターには、ワクシニア、ヘルペスウィルス、AAV及びレトロウィルスに由来するベクターが含まれる。特に、ヘルペスウィルス、中でも、参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,672,344号に開示されているような単純疱疹ウィルス(HSV)は、導入遺伝子の神経細胞への送達に特に有用である。その開示内容が本明細書に組み込まれる米国特許第5,139,941号、第5,252,479号及び第5,753,500号、並びにPCT公開第WO97/09441号パンフレットに開示されているようなAAVベクターも、宿主染色体中に組み込む際、ベクター投与の反復が最小限で済むので有用である。遺伝子治療におけるウィルスベクターの総説については、McConnell et al.,Hum Gene Ther.2004;15(11):1022−33;Mccarty et al.,Annu Rev Genet.2004;38:819−45;Mah et al.,Clin.Pharmacokinet.2002;41(12):901−11;Scott et al.,Neuromuscul.Disord.2002;12 Suppl 1:S23−9を参照されたい。更に、米国特許第5,670,488号を参照されたい。
【0226】
送達すべき遺伝子のコード配列は、発現制御配列、例えば、遺伝子の発現を指示するプロモーターに作動的に連結されている。本明細書において、語句「作動的に連結されている」とは、ポリヌクレオチド/遺伝子が有する調節及びエフェクターヌクレオチド配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写及び翻訳終止部位、並びに他のシグナル配列)との機能的関係を指す。例えば、核酸のプロモーターとの作動的連結とは、DNAの転写が、プロモーターを特異的に認識し、それに結合するRNAポリメラーゼによりプロモーターから開始され、プロモーターがポリヌクレオチドからのRNAの転写を指示するような、ポリヌクレオチドとプロモーターとの物理的で機能的な関係を指す。
【0227】
特定の一実施形態では、その中のコード配列及び他の任意の所望配列が、ゲノム中の所望部位で相同的組換えを促進する領域に隣接し、その結果、ゲノム中に組み込まれた核酸分子からコンストラクトを発現させるベクターが使用される(Koller and Smithies,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1989,86:8932−8935;Zijlstra et al.,Nature.1989,342:435−438;Zarling他の米国特許第6,244,113号及びPati他の米国特許第6,200,812号)。
【0228】
〔遺伝子送達〕
ベクターの患者中への送達は、患者をベクター又は送達複合体に直接曝露する直接法、或いは先ず細胞をin vitroでベクターで形質転換し、次いで患者中に移植する間接法であってもよい。こうした2種の手法は、各々in vivo及びex vivo遺伝子治療として知られている。
【0229】
直接移入:
特定の実施形態では、ベクターをin vivoで直接投与し、それが生物体の細胞に入り、遺伝子の発現を媒介する。これは、当技術分野で公知であり、前に考察した多様な方法のいずれか、例えば、その遺伝子を適当な発現ベクターの一部として構築し、細胞内に入るように投与することにより実現できるが、その投与法としては、例えば、欠陥若しくは弱毒化レトロウィルス又は他のウィルスベクターを用いる感染(米国特許第4,980,286号を参照されたい)、或いは裸出DNAの直接注入、或いは微粒子衝突(例えば、遺伝子銃、Biolistic、Dupont);或いは、脂質若しくは細胞表面受容体又はトランスフェクション剤による被覆、生体高分子中への封入(例えば、ポリ−β−1−64−N−アセチルグルコサミン多糖、米国特許第5,635,493号を参照されたい)、リポソーム、微粒子又はマイクロカプセル中への封入;核内に入ることが知られているペプチド又は他のリガンドに連結した状態での投与;或いは受容体媒介エンドサイトーシスを受けるリガンドに連結した状態での投与(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.1987,62:4429−4432)等が挙げられる。他の実施形態では、リガンドが、エンドソームを破壊するための融合誘発性ウィルスペプチドを含むため、核酸のリソソーム分解を回避できるようにする、核酸−リガンド複合体を形成することができ、又は治療性DNAを細胞内に導入するために使用できる、例えばアンテナペディア由来の陽イオン12量体ペプチドを形成することができる(Mi et al.,Mol.Therapy.2000,2:339−47)。更に別の実施形態では、特異的受容体を標的とすることにより、核酸をin vivoで細胞特異的な取込み及び発現の標的とすることができる(例えば、PCT公開第WO92/06180号、第WO92/22635号、第WO92/20316号及び第WO93/14188号パンフレットを参照されたい)。最近になって、マグネトフェクションと称する技術が、ベクターを哺乳類に送達するために使用された。この技術は、磁場の影響下で送達するためにベクターと超常磁性ナノ粒子とを結合したものである。これを適用すると、送達時間が減少し、ベクター効力が高まる(Scherer et al.,Gene Therapy.2002;9:102−9)。追加の標的及び送達手法は、下記のベクターに関する説明で想定されている。
【0230】
特定の実施形態では、核酸は脂質担体を用いて投与することができる。脂質担体は、裸出核酸(例えば、プラスミドDNA)と結合することにより、細胞膜の通過を促進することができる。陽イオン性、陰イオン性又は中性の脂質をこの目的のために使用することができる。しかし、一般に陰電荷を有するDNAとより良好に結合することが示されていることから、陽イオン性脂質が好ましい。陽イオン性脂質も、プラスミドDNAの細胞内送達を媒介することが示されている(Felgner and Ringold,Nature.1989;337:387)。陽イオン性脂質−プラスミド複合体をマウスに静脈注射すると、肺内にそのDNAが発現することが示されている(Brigham et al.,Am.J.Med.Sci.1989;298:278)。Osaka et al.,J.Pharm.Sci.1996;85(6):612−618;San et al.,Human Gene Therapy.1993;4:781−788;Senior et al.,Biochemica et Biophysica Acta.1991;1070:173−179;Kabanov and Kabanov,Bioconjugate Chem.1995;6:7−20;Liu et al.,Pharmaceut.Res.1996;13;Remy et al.,Bioconjugate Chem.1994;5:647−654;Behr,J−P.,Bioconjugate Chem.1994;5:382−389;Wyman et al.,Biochem.1997;36:3008−3017;Marshall他の米国特許第5,939,401号、及びScheule他の米国特許第6,331,524号も参照されたい。
【0231】
代表的な陽イオン性脂質としては、例えば、参照されることにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,283,185号及び第5,767,099号に開示されているものが挙げられる。好ましい実施形態では、陽イオン性脂質は、米国特許第5,767,099号に開示されているN4−スペルミンコレステリルカルバメート(GL−67)である。他の好ましい脂質としては、N4−スペルミジンコレステリルカルバメート(GL−53)及び1−(N4−スペルミン)−2,3−ジラウリルグリセロールカルバメート(GL−89)が挙げられる。
【0232】
ウィルスベクターのin vivo投与では、好ましくは、適当な免疫抑制処置をウィルスベクター、例えばアデノウィルスベクターと共に採用することにより、ウィルスベクター及びトランスフェクトされた細胞の免疫不活性化を回避する。例えば、インターロイキン12(IL−12)、インターフェロンγ(IFN−γ)、抗CD−4抗体等の免疫抑制サイトカインを投与することにより、ウィルスベクターに対する体液性又は細胞性免疫反応を阻止することができる。それに関しては、最小数の抗原を発現するように操作されたウィルスベクターを用いることが好ましい。
【0233】
間接移入:
体細胞は、前記方法のいずれかを用いて、野生型タンパク質をコードするコンストラクトでex vivoで操作した後、個体中に植え付けて戻し得る。この方法は、Selden他の国際公開第93/09222号パンフレットに全般的に記載されている。更に、この技術は、Payumo et al.,Clin.Orthopaed.and Related Res.2002;403S:S228−S242に記載の細胞準拠送達の独自開発ImPACT技術(Cell Based Delivery’s proprietary ImPACT technology)において使用されている。このような遺伝子治療系では、体細胞(例えば、線維芽細胞、肝細胞又は上皮細胞)を患者から取り出し、in vitroで培養し、治療対象の遺伝子(複数も)でトランスフェクトし、その特性を決定し、患者中に再導入する。一次細胞(個体又は組織に由来し、継代前に操作された)、二次細胞(in vivoに導入する前にin vitroで継代された)のいずれも、当技術分野で公知の不死化細胞系と同様に使用することができる。本発明の方法に有用な体細胞には、これらに限られないが、繊維芽細胞、角化細胞、上皮細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、血液の有形成分、筋肉細胞、培養できる他の体細胞、体細胞前駆体等が含まれる。好ましい実施形態では、細胞は繊維芽細胞又は間葉幹細胞である。
【0234】
外因性遺伝子を含む核酸コンストラクト、及び場合により、選択マーカーをコードする核酸は、一次又は二次受容細胞中での外因性遺伝子の発現に必要な追加の配列と共に、コードされた産物を産生するはずの一次又は二次細胞をトランスフェクトするために使用される。このようなコンストラクトとしては、これらに限られないが、レトロウィルス、ヘルペス、アデノウィルス、随伴アデノウィルス、ムンプス及びポリオウィルスの各ベクターのような感染性ベクターが挙げられ、この目的のために使用することができる。
【0235】
間葉幹細胞(MSC)は、骨髄中で産生される非血液産生幹細胞である。MSCは、特殊化した非血液組織に分化させ、増殖させることができる。レトロウィルスをトランスフェクトした幹細胞は、その自己再生能のために治療にとって良好な候補である。この能力のために遺伝子治療薬の反復投与をせずに済む。他の利点は、注入した幹細胞が標的器官に達し、次いで分化する場合、その器官における損傷又は奇形細胞の代替となることができることである。
【0236】
一例として、ゴーシェ病について、個体からの体性幹細胞にGba遺伝子をコードするレトロウィルスを導入した後、矯正した幹細胞を患者に戻すことにより、当該細胞が骨髄中に定着し、マクロファージ等のGba発現細胞を産生するようにする臨床試験が進行中である。
【0237】
シャペロン送達:
治療性遺伝子をコードする遺伝子治療薬と組み合わせて投与する際、特異的薬理学的シャペロンは、前記の方法及び剤形に従って投与することができる。
【0238】
〔基質阻害剤との併用〕
更に、本発明の小分子シャペロンと、本発明の背景で説明したような他の小分子基質阻害剤との併用も、想定されている。リソソーム酵素活性がわずかに低下しただけでも、脂質の蓄積増加を引き起こす恐れがあり、それが、次に、細胞のリン脂質平衡を変えるか、又はアポトーシスを生じるシグナル伝達事象を開始する恐れがある。基質阻害剤としては、例えば、セラミド特異的グルコシルトランスフェラーゼの阻害(糖脂質基質の減少)用のNB−DNJ(Miglustat)が挙げられる(Kasperzyk et al.,Journal of Neurochemistry 2004.89:645−653)。
【実施例】
【0239】
本発明を以下の実施例によって更に説明する。このような実施例の使用は、例示的なものに過ぎず、決して本発明又は任意の例示用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態に何ら制限されない。実際に、当業者であれば、本発明の多くの改変及び変更は、この明細書を読んだ際に明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の文言、及び特許請求の範囲と同等な範囲により限定される。
【0240】
〔実施例1:特異的薬理学的シャペロンで処理したL444Pトランスジェニックマウスの脳内Gba活性の増加量の決定〕
L444Pはゴーシェ病2型及び3型と関連する変異である。L444Pトランスジェニックマウス(グルコシルセラミドシンターゼヌルのバックグラウンドでヒトL444P変異Gbaに関してホモ接合体)は、脳内Gba活性の不足を示す。しかし、グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子が破壊されているため、これらのマウスは、例えばマクロファージ中にGluCerの蓄積を示さない。以前に作製したL444Pトランスジェニックマウスは、表皮の透過性障壁機能の傷害のために生後3日以内に死亡したので、グルコシルセラミドシンターゼの同時破壊が必要である。
【0241】
この実験では、L444Pトランスジェニックマウスをイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンで処理し、代替マーカーを1、3、6及び12ヶ月に測定してシャペロンの効力を決定した。4週間の処理後に非シャペロン処理を2週間行なう「投薬中断」期間中のマウスに対して、未処理対象に見られる水準まで代替マーカーが逆戻りしていないか否かも評価した。
【0242】
(方法)
特異的薬理学的シャペロン処理:
飲料水中のイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンをマウスに自由に投与した。水の消費体積に基づいて推定した1日用量は、約10mg/kg/日である。
【0243】
脳内のGba活性アッセイ:
1、3、6及び12ヶ月の終わりに、マウスを堵殺し、脳内Gba酵素活性の増加を評価した。脳組織は、新たに採集する(血液をPBSで洗い落とす)か、又は凍結保存物から融解する。組織はミンチ組織であり、氷上、McIlvaine(MI)緩衝液(0.1Mクエン酸及び0.2Mリン酸緩衝液、pH5.2中に0.25%タウロコール酸ナトリウム、0.1%Triton x−100)200〜500μl中で均質化し、10,000xgで遠心分離した。上清を回収し、この段階で凍結することもある。
【0244】
脳組織ホモジェネートから得た上清約1〜10μlをMicro BCA Protein Assay(Pierce、カタログ番号23235)用の96ウェル透明プレートに添加し、メーカーの指示書に従って全タンパク質量を定量する。陰性対照として、別の10μlを黒色プレートに添加し、Gba活性の阻害剤である2.5mM CBE(緩衝液6.7ml中にConduritol B Epoxide 2.7mg)10μlと混合し、室温(RT)で30分放置する。次いで、Gba基質である3mM 4−メタルウンベリフェラールβ−D−グルコシド(調製直後の4−MU−β−D−グルコシド粉末をDMSO0.2ml中に溶解後、MI緩衝液で適量に希釈)50μlを添加し、黒色プレートを37℃、1時間更にインキュベートする。インキュベーション後、上清10μlを第2の黒色プレートに添加し、MI緩衝液10μl及びGba基質の6mM 4−MU−β−D−グルコシド50μlと混合し、37℃、1時間インキュベートする。次いで、0.2Mグリシン、pH10.8を70μl添加して反応を停止させる。プレートは、プレートリーダー(Victor2 1420 multilabel counter、Wallac)中F460で読み取る。
【0245】
β−グルコース相対活性は、式:(CBE無しでのF460−CBE有りでのF460)/(試料A550−緩衝液A550)により決定される。
【0246】
F460の読取値は、4−MU標準曲線に基づいてナノモル4−MUに変換され、A550は、タンパク質標準曲線に基づいてタンパク質のmgに変換される。Gba活性1単位は、1時間に放出される4−MUのナノモルと定義される。
【0247】
投薬中断試験:
飲料水投与AT2101のL444Pマウスに対する効果が、その処理の停止後に消退するか否か、及びどの時間枠に消退するかを決定するために、投薬中断試験を行った。3月齢の雄性L444Pマウス9匹に約10mg/kg/日で4週間投薬し、同数のマウスは対照として未処理のままとした。処理マウス4匹及び未処理マウス4匹を4週後に堵殺し、残りの動物は、イソファゴミンでそれ以上処理しなかった。すなわち、更に2週間通常の飲料水を与えた後、堵殺し、脳内Gba活性を評価した。
【0248】
(結果)
脳内Gba活性:
イソファゴミンでわずか2週間処理した後でも、Gba活性の有意な増加が脳内で認められ(図1A)、それが4〜12週間持続した。顕著なことには、脳内で、イソファゴミン処理により、2週間及び4週間処理した後に未処理マウスの約1U/mgから約4.5U/mgに増加し、12週間の後では約6U/mgに更に増加した(p<0.001)。Gba活性の増加は、3、6及び12ヶ月間、シャペロンを投与する期間の間持続すると予想される。
【0249】
同様に、2週間後、C−ベンジル−イソファゴミン処理マウスも、脾臓等の器官でGba活性の有意な増加、並びに肺及び脳での活性の増加傾向を示した(データは示していない)。AT2206で2週間処理した後、脳内で増加傾向があったので(データは示していない)、更に処理すれば、脳を始めとする他の器官においてGba活性の増加が認められると予想される。
【0250】
投薬中断:
上記と同様に、10mg/kg/日で4週間処理した後、L444Pトランスジェニックマウスの脳内でGba活性が有意に増加した(図1B)。
【0251】
(考察)
以上の結果は、生理濃度のシャペロンが、血液脳関門を通過し、脳及び末梢器官(例えば、脾臓及び肝臓)におけるGba活性を高めるのに十分であることを初めて示している。末梢投与剤を脳内で有効とするためには、投与量を上げねばならないことが多いので、このことは驚くべきことである。阻害量未満のGba阻害剤をシャペロンとして使用する場合、末梢における阻害剤用量を増加すれば、変異Gbaに対して阻害作用を示し、そのため酵素活性を高めるという目的を以前に示したように無にするであろう。同様な結果は、IFGで処理したサルでも得られ、その場合IFGは処理後のCSF中に検出された。
【0252】
〔実施例2:ゴーシェ病線維芽細胞において混乱したリソソーム輸送の回復〕
N370Sゴーシェ病線維芽細胞(ヒト患者由来)は、細胞質中に基質(すなわち、GluCer)の蓄積を示さないが、こうした線維芽細胞は、野生型線維芽細胞と比べて異常なリソソームタンパク質及びGba染色を示す。N370S線維芽細胞を薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理した結果、リソソーム中に見られるGba量が増加し、正常なリソソーム染色パターンが細胞に回復した。
【0253】
(方法)
細胞培養:
N370S線維芽細胞(DMN89.15)を10%FBS及び1%penn/strep含有DMEM中、37℃、5%CO2で培養した。健常個体からの野生型線維芽細胞系CRL−2097を対照として用いた。細胞を10cmプレートからカバーグラス付き12ウェルプレートに継代培養した。コンフルエントの10cmプレート1枚から得た細胞を培地38ml中に希釈した。イソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンを10mM保存溶液(5%DMSO)から12ウェルプレートの各ウェルに下記濃度で添加した。細胞は、合計約6日間培養した。
C−ベンジル−イソファゴミン:対照(二次抗体のみ)、未処理、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10.0μM
イソファゴミン:対照(二次抗体のみ)、未処理、10μM、30μM、100μM、1nM、3nM、10nM
【0254】
固定及び染色:
細胞は、PBS中で5分間洗浄し、3.7%パラホルムアルデヒド(PBS中)中で15分間固定し、PBS中で5分間再洗浄し、0.5%サポニンで5分間透過させた。次いで、細胞は、0.1%サポニンを含むPBSで洗浄し、新しい0.1%水素化ホウ素ナトリウム/0.01%サポニンで5分間処理し、0.1%サポニン/1%BSAを含むPBSで3回各5分間洗浄した。
【0255】
細胞を、1%BSAを含むPBS中、抗Gba(1:200)又は抗LAMP−1(1:200;BD Pharmingen、カタログ番号555798)一次抗体溶液500μlと1時間インキュベートした。LysoTracker(登録商標)赤色(Cambrex,East Rutherford,NJ)を用いるリソソーム染色は、メーカーの使用説明書に従って行なった。インキュベーション後、細胞は、PBS中0.1%サポニンを含む1%BSA中で3回洗浄した後、二次抗体溶液(1:500、抗Gbaに対しては抗ウサギAlexaFluor588、及び抗LAMP−1に対しては抗マウスIgG AlexaFluor594)とのインキュベーションをした。細胞をカバーグラス上に載せ、密封し、直ちに観察した。
【0256】
共焦点顕微鏡法:
共焦点顕微鏡を用いて細胞を可視化した。赤色及び緑色のチャネルゲインは6に設定し、レーザー出力は強度ウィンドウを用いて最適化し、その他の実験に対しては調節しなかった。全てのスライドグラスを、同じ設定位置(sitting)で分析し、全ての画像は、20倍及び60倍のレンズ、小さなピンホール、最適な画素サイズ、平均掃引数2回を用い、ズームは全く用いずに集め、赤色及び緑色チャネルは、以前の全実験同様に同時に取得した。
【0257】
全ての画像は、同じ強度で表示し、最大数の細胞上にカーソルを配置することにより、赤色+緑色チャネル強度グラフを各画像に対して生成した。
【0258】
後の測定は、重複する赤色(LAMP−1)及び緑色(GBA)画素の比率を計算することによって行なうことができる。
【0259】
(結果)
5日間余りコンフルエントであったゴーシェ病N370S線維芽細胞は、LysoTracker(登録商標)赤色を用いて顆粒状のリソソーム染色パターン(図2A)を示すが、それに対し、正常線維芽細胞は途切れた染色パターン(図2B)を示す。同様な結果は、L444P線維芽細胞についても示された(データは示していない)。リソソームLAMP−1の染色は、N370S、正常の両線維芽細胞において示されている(各々図2C〜D)。ゴーシェ病線維芽細胞に示されるLAMP−1の方が多い。
【0260】
30.0μMのイソファゴミン(AT2201)(図2G〜H)及び3.0μlのC−ベンジル−イソファゴミン(AT2206)(図2I〜J)で処理した結果、リソソーム中のGba量は増加し、二重染色で示した場合、未処理対照(図2E〜F)と比較して、Gba及びLAMP−1に対する正常な途切れ形のリソソーム染色パターンが回復した。
【0261】
図2K〜Nは、ゴーシェ病N370S線維芽細胞におけるGbaリソソーム染色の変化を以下の通り示す。すなわち(K)対照(二次抗体のみ)、(L)未処理N370S線維芽細胞、(M)30μMのイソファゴミン、及び(N)3μMのC−ベンジル−イソファゴミン。Gba染色は、未処理対照に対してシャペロン処理ではリソソームに局在していることが示されている。同様な結果は、L444Pゴーシェ病線維芽細胞についても得られた(データは示していない)。
【0262】
シャペロン処理による正常細胞形態のこの改善は、ER及び/又はサイトゾル中の恐らく凝集体の形態をした変異Gbaの量又は蓄積の減少による。したがって、この戦略は、ヘテロ接合体N370S変異のパーキンソン病患者、又はホモ接合体N370S変異及びパーキンソニズム/認知症を有するヘテロ接合体ゴーシェ病患者のCNS症状を緩和することができよう。
【0263】
〔実施例3:ゴーシェ病線維芽細胞におけるシャペロン処理によるポリユビキチン化タンパク質の増加;プロテアソーム分解経路の回復〕
【0264】
健常ヒト線維芽細胞の抗ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及び抗Gbaによる標識を、L444P Gba変異を有するゴーシェ病患者の線維芽細胞、及びN370S Gba変異を有するゴーシェ病患者の線維芽細胞の相当する標識と比較した。
【0265】
(方法)
細胞培養:
L444Pゴーシェ病線維芽細胞(細胞系GM10915)、N370Sゴーシェ病線維芽細胞(細胞系DMN89.15)、及び健常個体からの線維芽細胞(CRL−2097)を10%FBS及び1%PS含有DMEM中、37℃、5%CO2で培養した。細胞を10cmプレートから滅菌カバーグラス付き12ウェルプレートに継代培養する。コンフルエントなT−75フラスコ1個から得たN370S細胞を1:6に希釈し、更に4日間培養した。
【0266】
シャペロンのイソファゴミン又はC−ベンジル−イソファゴミンを、10mM保存溶液(5%DMSO)から12ウェルプレートの各列に下記濃度で添加した。
C−ベンジル−イソファゴミン:未処理、対照(二次抗体のみ)、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10.0μM
イソファゴミン:未処理、対照(二次抗体のみ)、10μM、30μM、100μM、1nM、3nM、10nM
【0267】
固定及び染色:
細胞は、PBS中で5分間1回洗浄した後、新しい3.7%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。細胞は、次いでPBS中で5分間1回洗浄した後、0.2% Triton X−100中で5分間透過させた。次いで、細胞は、PBS中で5分間再洗浄し、新しい0.1%水素化ホウ素ナトリウムで5〜10分間処理した。細胞を1%BSAを含むPBS中で3回(各5分間)洗浄した後、染色した。
【0268】
細胞を、下記一次抗体500μl(1%BSAを含むPBS中、1:200に希釈)と1時間インキュベートした。
1.ユビキチン化タンパク質クローンFK1(AFFINITI Research Productsカタログ番号PW8805)に対するマウスモノクローナル抗体
2.ウサギ抗Gba抗体(例えば、8E4は市販されている。)
【0269】
次いで、細胞を、1%BSAを含むPBSで3回洗浄した後、下記二次抗体の1:500希釈液と1時間インキュベートした。
1.ヤギ抗マウスIgM(μ鎖)AlexaFluor568(Molecular Probesカタログ番号A21043)
2.ヤギ抗ウサギIgG(H+L)高度交差吸収AlexaFluor488(Molecular Probesカタログ番号A11034)
【0270】
細胞は、BSAを含むPBS中で3回洗浄し、載置し、4℃で保存した後、その可視化を行なった。
【0271】
(結果)
最初の実験によれば、ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の細胞内濃度は、染色がはるかに弱いゴーシェ病のN370S(図3D及び3F)並びにL444P線維芽細胞(図3G及び3I)より、健常細胞(図3A及び3C)において大きい(非常に強い)ことが示された。タンパク質凝集は、ユビキチン/プロテアソーム経路を阻害することが知られている。したがって、シャペロンを用いた凝集の減少は、プロテアソーム媒介分解経路に正の効果を及ぼす。
【0272】
(考察)
L444P変異のゴーシェ病患者は、広範なCNS障害を示す。これは、ヒトL444P変異酵素が、例えばN370S変異体よりはるかに不安定であるため、タンパク質凝集体を形成する可能性がはるかに高く、そのためユビキチン/プロテアソーム経路を阻害することが知られているという事実に起因し得る(Tsuji et al.,N.Eng.J.Med.1987;315:570)。他の多くの神経変性疾患は、ユビキチン化タンパク質の凝集をもたらす変異により引き起こされており、また更に、タンパク質凝集体はユビキチン/プロテアソーム経路を直接損ない、炎症メディエーターの発現を誘導する恐れがあると報告されている(Li et al.,The International Journal of Biochemistry&Cell Biology.2003;35:547−552)。
【0273】
マウスL444Pが特異的薬理学的シャペロンを用いて安定化されるなら、ユビキチン/プロテアソーム経路に対するストレスは、リソソームへのGba輸送の増加によって軽減され、その結果、リソソームに輸送されるはずの変異Gbaの半減期が、ER中で分解される代わりに、延長される。これにより、ゴーシェ病線維芽細胞と比べた、正常線維芽細胞におけるPUP染色の増加が説明される。
【0274】
目立ったCNS症状を臨床的に生じない他のGba変異(すなわち、N370S)も、ER及びサイトゾル中での変異タンパク質の蓄積を依然として生じる恐れがあるため、タンパク質をモノユビキチン化する細胞能力の低下により、ユビキチン/プロテアソーム経路に対して追加のストレスを生じさせ、又はニューロンにおける輸送を混乱させる恐れがある。
【0275】
本発明の範囲は、本明細書に記載の特定の実施形態によって限定されるべきものではない。実際に、当業者であれば、本明細書に記載の改変以外の本発明の多様な改変は、以上の説明及び添付の図面から明白であろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図されている。
【0276】
更に、全ての数値は近似的なものであり、説明のために示されているものと理解されるべきである。
【0277】
特許、特許出願、刊行資料、製品説明及び使用手順が、本願全体に亘って引用されているが、その開示内容の全体は、目的を問わず、参照されることにより本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1A】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したL444Pトランスジェニックマウスからの脳内のGba活性のレベルを示す図である。
【図1B】投薬中断及び再処理期間後の脳内Gba活性レベルを示している。
【図2A】ゴーシェ病線維芽細胞由来の細胞において、LysoTracker(登録商標)を用いたリソソームの蛍光染色を示す図である。
【図2B】正常線維芽細胞由来の細胞において、LysoTracker(登録商標)を用いたリソソームの蛍光染色を示す図である。
【図2C】正常線維芽細胞におけるリソソームタンパク質LAMP−1の染色を示す図である。
【図2D】ゴーシェ病線維芽細胞におけるリソソームタンパク質LAMP−1の染色を示す図である。
【図2E】ゴーシェ病線維芽細胞におけるGba及びLAMP−1染色の重ね合わせを示す図である。
【図2F】ゴーシェ病線維芽細胞におけるGba及びLAMP−1染色の重ね合わせを示す図である。
【図2G】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2H】特異的薬理学的シャペロンのイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2I】特異的薬理学的シャペロンのC−ベンジルイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2J】特異的薬理学的シャペロンのC−ベンジルイソファゴミンで処理したゴーシェ病細胞の重ね合わせ(LAMP−1及びGba)を示す図である。
【図2K】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞は二次抗体のみで染色した。
【図2L】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞は処理しなかった。
【図2M】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞はイソファゴミンで処理した。
【図2N】Gbaのみに関するゴーシェ病細胞の染色を示す図である。対照ゴーシェ病細胞はC−ベンジルイソファゴミンで処理した。
【図3A】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3B】Gbaの存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3C】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、正常線維芽細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3D】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3E】Gbaの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3F】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3G】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)の存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3H】Gbaの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図3I】ポリユビキチン化タンパク質(PUP)及びGbaの両重ねの存在に関する、ゴーシェ病細胞の蛍光染色を示す図である。
【図4】ヒト酸性β−グルコシダーゼ、別名グルコセレブロシダーゼ又はGbaをコードする遺伝子を示す図である(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号1)。
【図5】野生型ヒトGbaタンパク質を示す図である。このGbaタンパク質はアミノ酸536個からなる(GenBankアクセッション番号:J03059;配列番号2)。
【図6】Gba遺伝子の約16kb下流に位置するGbaの相同偽遺伝子を示す図である(GenBankアクセッション番号:M16328;配列番号3)。
【図7】Gbaの相同偽遺伝子がコードするポリペプチドを示す図である(配列番号4)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異に関連する、個体における神経障害を治療する方法であって、前記リソソーム酵素に結合する特異的薬理学的シャペロンの有効量を前記個体に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記個体が前記変異に関してホモ接合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個体が、前記変異に関してヘミ接合体、ヘテロ接合体又は複合ヘテロ接合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変異が構造変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記シャペロンが、小胞体からの変異酵素の輸送を増加させ、且つ/又は酵素活性を回復させるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変異が、他の細胞物質の量的増加又は凝集を引き起こすものである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞物質が、脂質又は他のタンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リソソーム酵素がグルコセレブロシダーゼであり、前記神経障害がパーキンソン病又はパーキンソニズムである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記パーキンソン病が早期発症型パーキンソン病である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記特異的薬理学的シャペロンが前記リソソーム酵素の阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤が可逆的阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記阻害剤が競合阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記特異的薬理学的シャペロンが、イソファゴミン、又は(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオールである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記個体が、N370S変異に関してヘテロ接合体又はホモ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記個体が、84GG変異に関してヘテロ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記個体が、R496H変異に関してヘテロ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
変異リソソーム酵素に関連する神経障害を診断する方法であって、1種又は複数のリソソーム酵素の変異に関する神経症状を示す個体をスクリーニングすることを含む方法。
【請求項18】
前記変異が構造変異である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スクリーニングが、健常個体からの生体試料と比較して、前記個体からの生体試料の酵素活性が低下していることの判定である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記神経障害がパーキンソニズム又はパーキンソン病である、請求項17に記載の方法。
【請求項1】
リソソーム酵素をコードする遺伝子の変異に関連する、個体における神経障害を治療する方法であって、前記リソソーム酵素に結合する特異的薬理学的シャペロンの有効量を前記個体に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記個体が前記変異に関してホモ接合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個体が、前記変異に関してヘミ接合体、ヘテロ接合体又は複合ヘテロ接合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変異が構造変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記シャペロンが、小胞体からの変異酵素の輸送を増加させ、且つ/又は酵素活性を回復させるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変異が、他の細胞物質の量的増加又は凝集を引き起こすものである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞物質が、脂質又は他のタンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リソソーム酵素がグルコセレブロシダーゼであり、前記神経障害がパーキンソン病又はパーキンソニズムである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記パーキンソン病が早期発症型パーキンソン病である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記特異的薬理学的シャペロンが前記リソソーム酵素の阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤が可逆的阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記阻害剤が競合阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記特異的薬理学的シャペロンが、イソファゴミン、又は(5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−2−オクチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2−a]ピリジン−6,7,8−トリオールである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記個体が、N370S変異に関してヘテロ接合体又はホモ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記個体が、84GG変異に関してヘテロ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記個体が、R496H変異に関してヘテロ接合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
変異リソソーム酵素に関連する神経障害を診断する方法であって、1種又は複数のリソソーム酵素の変異に関する神経症状を示す個体をスクリーニングすることを含む方法。
【請求項18】
前記変異が構造変異である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スクリーニングが、健常個体からの生体試料と比較して、前記個体からの生体試料の酵素活性が低下していることの判定である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記神経障害がパーキンソニズム又はパーキンソン病である、請求項17に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図2K】
【図2L】
【図2M】
【図2N】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4】
【図4】
【図4】
【図4】
【図5】
【図6】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図2K】
【図2L】
【図2M】
【図2N】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4】
【図4】
【図4】
【図4】
【図5】
【図6】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2009−509913(P2009−509913A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516014(P2008−516014)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/022754
【国際公開番号】WO2006/133446
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(507170099)アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/022754
【国際公開番号】WO2006/133446
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(507170099)アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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