説明

リチウムイオン二次電池、電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システム

【課題】高温特性を向上させることが可能なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、セパレータ23を介して対向された正極および負極と、電解液とを備えている。正極、負極およびセパレータのうちの少なくとも1つは、特定のPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を含んでいる。このPSQ骨格は、[R1SiO3/2 m または[R2SiO3/2 n [XSiO3/2 nー1(R1およびR2は炭素数=1〜12のアルキル基など、Xは水素基など、mおよびnは4〜12の整数である。)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、セパレータを介して対向された正極および負極を備えるリチウムイオン二次電池、ならびにそれを用いた電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器などに代表される電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、上記した電子機器に限らず、電動ドリルなどの電動工具、電気自動車などの電動車両、家庭用電力サーバなどの電力貯蔵システムに代表される多様な用途への適用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが広く提案されているが、中でも、リチウムイオンの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池が有望視されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その正極および負極は、それぞれリチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質および負極活物質を含んでいる。高い電池容量を得るために、正極活物質としてはLiCoO2 などのリチウム複合酸化物が用いられていると共に、負極活物質としては黒鉛などの炭素材料が用いられている。
【0005】
この二次電池は、一般的に、作動電圧を2.5V〜4.2Vとして用いられている。単電池でも作動電圧を4.2Vまで上げられる理由の1つは、正極と負極とがセパレータを介して分離されているため、二次電池が電気化学的に安定だからである。
【0006】
ところで、二次電池の性能に関して、電池容量のさらなる増加が求められている。その一方で、従来の二次電池では、正極活物質であるリチウム複合酸化物の理論容量のうちの6割程度しか活用されていない状況にあるため、いわゆる残存容量が存在している。そこで、残存容量を活用するために、充電電圧を4.2Vよりも高くして高エネルギー密度化を図ることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、充電電圧を4.2Vよりも高くすると、リチウム複合酸化物から大量のリチウムイオンが放出されるため、正極が熱的および電気的に不安定になる。これにより、電解液の分解反応などの副反応が生じやすくなると共に、その副反応に起因して電池内にガスが発生しやすくなるため、サイクル特性が低下すると共に、電池膨れに起因して安全性も低下してしまう。
【0008】
そこで、電解液に芳香族化合物を添加して、充電電圧を高くしても副反応の発生を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。この芳香族化合物としては、可逆性の酸化還元電位が満充電時の正極電位よりも貴な電位であるπ電子軌道を有するアニソール誘導体や、特定の化学的構造を有するエーテル誘導体などが用いられている。この芳香族化合物は、充電末期に正極の表面近傍の酸化雰囲気中で反応してガス発生を抑制する。
【0009】
この他、リチウムイオンのイオン伝導率を向上させるために、電解液または正極に、ポリシルセスキオキサン骨格を有する有機ケイ素化合物を添加させることが提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/019713号パンフレット
【特許文献2】特開平07−302614号公報
【特許文献3】特開2000−058117号公報
【特許文献4】特開2005−002159号公報
【特許文献5】特開2008−171813号公報
【特許文献6】特開2003−306549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電池容量を増加させるために充電電圧を高くした場合に生じる問題を改善するために、さまざまな検討がなされているが、未だ十分な対策がなされているとは言えない。特に、安全性を考慮して、副反応の発生を抑制するために電解液などに添加剤を加えると、その添加剤が電池内で反応して抵抗体を形成するため、結局のところ、サイクル特性が低下しやすくなる。このような傾向は、特に、副反応の発生が促進される高温環境中で顕著になる。そこで、高温特性、すなわち高温環境中でもサイクル特性および安全性を確保できる対策が強く望まれている。
【0012】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高温特性を向上させることが可能なリチウムイオン二次電池、電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本技術のリチウムイオン二次電池は、セパレータを介して対向された正極および負極と、電解液とを備えている。特に、正極、負極およびセパレータのうちの少なくとも1つは、下記の式(1)および式(2)で表されるポリシルセスキオキサン骨格を有する有機ケイ素化合物のうちの少なくとも一方を含んでいる。
【0014】
[R1SiO3/2 m ・・・(1)
(R1は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、mは4〜12の整数である。)
【0015】
[R2SiO3/2 n [XSiO3/2 nー1 ・・・(2)
(R2は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、Xは水素基、ハロゲン基、不飽和結合を含むアルキル基、エステル基、不飽和結合を含むエステル基、ハロゲン化シリル基、またはハロゲン化シリル基を含むアルキル基であり、nは4〜12の整数である。)
【0016】
本技術の電子機器、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムは、上記した本技術のリチウムイオン二次電池を用いたものである。
【発明の効果】
【0017】
本技術のリチウムイオン二次電池によれば、正極、負極およびセパレータのうちの少なくとも1つが上記したポリシルセスキオキサン骨格を有する有機ケイ素化合物を含んでいる。これにより、高温環境中でも、電池内の抵抗を増加させすぎないと共にリチウムイオンのイオン伝導性を確保しつつ、電解液の分解反応などの副反応が発生が抑制される。よって、高温特性を向上させることができる。また、上記したリチウムイオン二次電池を用いた本技術の電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムでも、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】正極および負極の構成を表す断面図である。
【図4】セパレータの構成を表す断面図である。
【図5】本技術の一実施形態の他のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
【図6】図5に示した巻回電極体のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】XPSによるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.リチウムイオン二次電池
1−1.円筒型
1−2.ラミネートフィルム型
2.リチウムイオン二次電池の用途
【0020】
<1.リチウムイオン二次電池/1−1.円筒型>
図1および図2は、本技術の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という。)の断面構成を表しており、図2では、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大している。
【0021】
[二次電池の全体構成]
ここで説明する二次電池は、いわゆる円筒型である。この二次電池では、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されている。巻回電極体20は、例えば、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回されたものである。
【0022】
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有していると共に、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などにより形成されている。なお、電池缶11の表面にNiなどが鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0023】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(positive temperature coefficient:PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられている。これにより、電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。この熱感抵抗素子16では、温度が上昇すると、それに応じて抵抗が増加するようになっている。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
【0024】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、例えば、Alなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、例えば、Niなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされ、電池蓋14と電気的に接続されていると共に、負極リード26は、電池缶11に溶接などされ、その電池缶11と電気的に接続されている。
【0025】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
【0026】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0027】
正極材料は、リチウム含有化合物であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、Liと遷移金属元素とを構成元素として含む複合酸化物や、Liと遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物などである。中でも、遷移金属元素は、Co、Ni、MnおよびFeのいずれか1種類あるいは2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0028】
Liと遷移金属元素とを含む複合酸化物は、例えば、Lix CoO2 、Lix NiO2 、また式(3)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などである。Liと遷移金属元素とを含むリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 またはLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。
【0029】
LiNi1-z z 2 …(3)
(MはCo、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Yb、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種であり、zは0.005<z<0.5である。)
【0030】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物あるいは導電性高分子などでもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどである。
【0031】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはポリイミドなどである。
【0032】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上である。炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0033】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0034】
負極集電体22Aは、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域で、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理で微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法で作製された銅箔は、一般に電解銅箔と呼ばれている。
【0035】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。この負極活物質層22Bでは、例えば、充放電時に意図せずにLi金属が析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0036】
負極材料は、例えば、炭素材料である。リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0037】
また、負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、金属元素または半金属元素の単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、合金には、2種類以上の金属元素からなる材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0038】
上記した金属元素または半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素であり、具体的には、以下の元素の1種類または2種類以上である。Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、PdまたはPtである。中でも、SiおよびSnのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0039】
SiおよびSnのうちの少なくとも一方を含む材料は、SiまたはSnの単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0040】
Siの合金は、例えば、Si以外の構成元素として以下の元素の1種類または2種類以上を含む材料である。Sn、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrである。Siの化合物としては、例えば、Si以外の構成元素としてCまたはOを含む材料が挙げられる。なお、Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、Siの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0041】
Siの合金または化合物は、例えば、以下の材料などである。SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 またはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)またはLiSiOである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0042】
Snの合金は、例えば、Sn以外の構成元素として以下の元素の1種類または2種類以上を含む材料などである。Si、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrである。Snの化合物としては、例えば、CまたはOを構成元素として含む材料などが挙げられる。なお、Snの化合物は、例えば、Sn以外の構成元素としてSnの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。Snの合金または化合物としては、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどが挙げられる。
【0043】
また、Snを含む材料としては、例えば、Snを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料が好ましい。第2構成元素は、例えば、以下の元素の1種類または2種類以上である。Co、Fe、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Ce、Hf、Ta、W、BiまたはSiである。第3構成元素は、例えば、B、C、AlおよびPの1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を含むと、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0044】
中でも、Sn、CoおよびCを含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、Cの含有量が9.9質量%〜29.7質量%であり、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。
【0045】
このSnCoC含有材料は、Sn、CoおよびCを含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、Liと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0046】
X線回折により得られた回折ピークがLiと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、Liとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、Liとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、Liと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、Cの存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0047】
SnCoC含有材料では、構成元素であるCの少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。Snなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光法(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。Cの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、Cの1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、Au原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中のCのピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0048】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。このような他の構成元素としては、Si、Fe、Ni、Cr、In、Nb、Ge、Ti、Mo、Al、P、GaおよびBiの1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
このSnCoC含有材料の他、Sn、Co、FeおよびCを含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、Feの含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は9.9質量%〜29.7質量%、Feの含有量は0.3質量%〜5.9質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、Feの含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は11.9質量%〜29.7質量%、Sn、CoおよびFeの含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%、CoおよびFeの含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0050】
また、他の負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などでもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0051】
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法または焼成法(焼結法)、あるいはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させて塗布する方法である。気相法としては、例えば、物理堆積法または化学堆積法などが挙げられる。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法としては、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などが挙げられる。溶射法とは、負極活物質を溶融状態または半溶融状態で吹き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0052】
このリチウムイオン二次電池では、上記したように、充電途中で負極22にLi金属が意図せずに析出することを防止するために、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料の電気化学当量が正極の電気化学当量よりも大きくなっている。また、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上であると、4.20Vである場合よりも、同じ正極活物質でも単位質量当たりのリチウムイオンの放出量が多くなるため、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されている。これにより、高いエネルギー密度が得られるようになっている。
【0053】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂あるいはセラミックからなる多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0054】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0055】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンまたは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンまたはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0056】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0057】
特に、溶媒は、1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル(不飽和炭素結合環状炭酸エステル)を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。なお、非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0058】
また、溶媒は、1または2以上のハロゲン基を有する鎖状炭酸エステル(ハロゲン化鎖状炭酸エステル)、および1または2以上のハロゲン基を有する環状炭酸エステル(ハロゲン化環状炭酸エステル)のうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン基の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素基、塩素基または臭素基が好ましく、フッ素基がより好ましい。高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲン基の数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。なお、非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0059】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。なお、非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0060】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、ジカルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。ジカルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。なお、非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0061】
[電解質塩]
電解質塩は、例えば、以下で説明するリチウム塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、リチウム塩以外の他の塩(例えばリチウム塩以外の軽金属塩)でもよい。
【0062】
リチウム塩は、例えば、以下の化合物などである。LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 5 4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、Li2 SiF6 、LiCl、またはLiBrである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0063】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のうちの少なくとも1種が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0064】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0065】
[ポリシルセスキオキサン骨格を有する有機ケイ素化合物]
ここで、正極21、負極22およびセパレータ23のうちの少なくとも1つは、下記の式(1)および式(2)で表されるポリシルセスキオキサン骨格(以下「PSQ骨格」という。)を有する有機ケイ素化合物(以下、単に「有機ケイ素化合物」ともいう。)のうちの少なくとも一方を含んでいる。この有機ケイ素化合物により、正極21または負極22などの表面に強固な被膜が形成されるからである。これにより、電池内の抵抗を増加させすぎないと共にリチウムイオンのイオン伝導性を確保しつつ、電解液の分解反応などの副反応の発生が抑制される。よって、特に、高温環境中で副反応の発生が著しく抑制される。なお、有機ケイ素化合物は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0066】
[R1SiO3/2 m ・・・(1)
(R1は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、mは4〜12の整数である。)
【0067】
[R2SiO3/2 n [XSiO3/2 nー1 ・・・(2)
(R2は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、Xは水素基、ハロゲン基、不飽和結合を含むアルキル基、エステル基、不飽和結合を含むエステル基、ハロゲン化シリル基、またはハロゲン化シリル基を含むアルキル基であり、nは4〜12の整数である。)
【0068】
式(1)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物は、[R1SiO3/2 ]を骨格(繰り返し単位)として有する高分子化合物であり、その両末端に結合される基(1価の基)の種類は、特に限定されない。この末端の基は、例えば、水素基(−H)または水酸基(−OH)などであり、両末端の基は、同じ基でも異なる基でもよい。
【0069】
R1の種類は、炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基や、シクロアルキル基や、アリール基であれば特に限定されず、上記したアルキル基などの誘導体でもよい。「誘導体」とは、例えば、アルキル基などのうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換された基(ハロゲン化物)であり、そのハロゲン基は、例えば、フッ素基(−F)、塩素基(−Cl)、臭素基(−Br)またはヨウ素基(−I)などである。
【0070】
R1の具体例は、以下の通りである。アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、アダマンチル基またはドデシル基などである。アルケニル基は、ビニル基またはアリル基などである。アルキニル基は、エチニル基などである。シクロアルキル基は、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基などである。上記したアルキル基等の誘導体は、それらのハロゲン化物などである。アリール基またはその誘導体は、フェニル基、クロロフェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基またはビニルフェニル基などである。中でも、各種溶媒への溶解性などを考慮すると、R1は、炭素数=2〜6のアルキル基、またはアリール基であることが好ましい。
【0071】
式(1)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物は、例えば、トリクロロシラン(HSiCl3 )またはトリクロロメチルシラン(CH3 SiCl3 )などの3官能の有機ケイ素化合物の加水分解反応により得られる。繰り返し単位の数であるmの値は、4〜12の整数であれば、特に限定されない。この有機ケイ素化合物としては、例えば、ランダム型、かご型またはラダー型などと呼ばれる化合物が知られており、mの値は、例えば、型の種類に応じて決定される。中でも、各種溶媒への溶解性および合成の容易性などを考慮すると、mの値は、かご型に対応するm=8,10,12であることが好ましい。より具体的には、下記の式(4−1)〜式(4−3)で表される化合物であり、式(4−1)ではm=8、式(4−2)ではm=10、式(4−3)ではm=12である。このmの値が異なるかご型の有機ケイ素化合物については、ヘキサンなどの溶媒を用いた抽出操作により単離できるが、mの値が異なる2種類以上の有機ケイ素化合物の混合物を用いてもよい。
【0072】
【化1】

【0073】
式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物は、式(1)に示した骨格(繰り返し単位)のうちの一部が[XSiO3/2 ]に置き換えられた高分子化合物である。両末端に結合される基(1価の基)の種類は、例えば、式(1)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物と同様であると共に、R2の種類は、例えば、R1の種類と同様である。この式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物では、Xとして水素基、ハロゲン基、または不飽和結合を含む基を有するため、それらの基を含んでいない場合よりも、より強固な被膜が形成される。
【0074】
Xの種類は、水素基、ハロゲン基、不飽和結合を含むアルキル基、エステル基、不飽和結合を含むエステル基、ハロゲン化シリル基、またはハロゲン化シリル基を含むアルキル基であれば、特に限定されない。
【0075】
Xの具体例は、以下の通りである。ハロゲン基は、例えば、フッ素基、塩素基、臭素基またはヨウ素などである。不飽和結合を含むアルキル基は、例えば、ビニル基、アリル基、ノルボネニルエチル基、シクロヘキシル基、エポキシプロピル基、イソシアナトエチル基またhシアノプロピル基などである。エステル基は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなどである。不飽和結合を含むエステル基は、例えば、アクリルメチル、メタクリルメチルなどである。ハロゲン化シリル基は、例えば、トリクロロシリル基またはクロロジメチルシロキシ基などである。ハロゲン化シリル基を含むアルキル基は、例えば、クロロジメチルシリルエチル基またはトリクロロシリルエチル基などである。
【0076】
式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物は、例えば、繰り返し単位である[R2SiO3/2 n のうちの一部を[XSiO3/2 ]に置換することを除き、式(1)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物と同様の手順により得られる。
【0077】
ここで、有機ケイ素化合物は、上記したように、正極21、負極22およびセパレータ23のうちの少なくとも1つに含まれている。このため、有機ケイ素化合物を含んでいるものは、正極21、負極22またはセパレータ23のいずれか1つでもよいし、任意の2つの組み合わせでもよいし、3つの全てでもよい。正極21、負極22およびセパレータ23のうちの少なくとも1つに有機ケイ素化合物が含まれていることで、その有機ケイ素化合物により上記した利点が得られるからである。
【0078】
正極21、負極22およびセパレータ23が有機ケイ素化合物を含む態様は、特に限定されないが、例えば、以下の通りである。ただし、以下で説明する態様は、任意の組み合わせとなるように組み合わされてもよい。
【0079】
図3はおよび図4は、有機ケイ素化合物の含有態様を説明するためのものであり、図2に対応する正極21、負極22およびセパレータ23の断面構成を示している。
【0080】
正極21が有機ケイ素化合物を含む場合には、例えば、有機ケイ素化合物が正極活物質などと一緒に正極活物質層21Bに含まれていてもよい。この場合には、正極活物質層21Bの形成工程で正極合剤スラリーを調製する際に、有機ケイ素化合物を正極活物質などと一緒に分散用の溶媒中に分散させる。同様に、負極22が有機ケイ素化合物を含む場合には、例えば、負極活物質層22Bの形成工程で負極合剤スラリーを調製する際に、有機ケイ素化合物を負極活物質などと一緒に分散用の溶媒中に分散させてもよい。これにより、有機ケイ素化合物が負極活物質層22Bに含まれる。
【0081】
または、正極21が有機ケイ素化合物を含む場合には、例えば、図3に示したように、正極活物質層21Bの表面に被覆層21Cが設けられ、その被覆層21Cが有機ケイ素化合物を含んでいてもよい。この被覆層21Cを形成する場合には、正極21の形成工程で有機ケイ素化合物が分散用の溶媒に分散された溶液を準備したのち、その溶液を正極活物質層21Bの表面に塗布してから乾燥させる。または、その溶液中に正極活物質層21Bを浸漬させてから取り出して乾燥させる。なお、被覆層21Cの形成範囲は、正極活物質層21Bの表面の少なくとも一部であればよい。
【0082】
同様に、負極22が有機ケイ素化合物を含む場合には、例えば、図3に示したように、負極22の形成工程で有機ケイ素化合物の分散溶液を準備したのち、その溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布したり、その溶液中に負極活物質層22Bを浸漬させる。これにより、負極活物質層22Bの表面に被覆層22Cが設けられ、その被覆層22Cが有機ケイ素化合物を含んでいてもよい。なお、被覆層22Cの形成範囲は、被覆層21Cと同様である。
【0083】
セパレータ23が有機ケイ素化合物を含む場合には、例えば、図4に示したように、母材である基材層23Aの表面に被覆層23Bが設けられ、その被覆層23Bが有機ケイ素化合物を含んでいてもよい。この基材層23Aは、例えば、上記した合成樹脂あるいはセラミックからなる多孔質膜である。この被覆層23Bを形成する場合には、有機ケイ素化合物の分散溶液を準備したのち、その溶液を基材層23Aの表面に塗布してから乾燥させたり、その溶液中に基材層23Aを浸漬させてから取り出して乾燥させる。なお、被覆層23Bの形成範囲は、基材層23Aの表面の少なくとも一部であればよい。
【0084】
[二次電池の動作]
この二次電池では、充電時に、例えば、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。この場合には、高い電池容量を得るために、充電電圧(完全充電状態における開回路電圧)を4.25V以上とすることが好ましい。一方、放電時には、例えば、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0085】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0086】
まず、正極21を作製する。正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤とする。続いて、有機溶剤などに正極合剤を分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。続いて、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などで正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。なお、正極21を作製する場合には、必要に応じて、正極合剤に有機ケイ素化合物を含有させたり、正極活物質層21Bの表面に有機ケイ素化合物を含む被覆層21Cを形成する。
【0087】
また、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合した負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、必要に応じて負極活物質層22Bを圧縮成型する。なお、負極22を作製する場合には、必要に応じて、負極合剤に有機ケイ素化合物を含有させたり、負極活物質層22Bの表面に有機ケイ素化合物を含む被覆層22Cを形成する。
【0088】
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、溶接法などで、正極集電体21Aに正極リード25を取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層してから巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。このセパレータ23を準備する場合には、必要に応じて、基材層23Aの表面に有機ケイ素化合物を含む被覆層23Bを形成する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。続いて、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。
【0089】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、正極21、負極22およびセパレータ23のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物のうちの少なくとも一方を含んでいる。これにより、上記したように、高温環境中でも、電池内の抵抗を増加させすぎないと共にリチウムイオンのイオン伝導性を確保しつつ、電解液の分解反応などの副反応が発生が抑制される。よって、高温特性を向上させることができるため、高温環境中でもサイクル特性および安全性を確保できる。特に、充電電圧を4.25V以上に高くしても、同様の効果を得ることができる。
【0090】
また、電解液の分解反応は正極21および負極22の表面で生じやすい傾向にある。このため、正極21および負極22のうちの少なくとも一方が有機ケイ素化合物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0091】
また、式(1)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いれば、高温環境中でサイクル特性をより向上させることができる。一方、式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いれば、高温環境中でサイクル特性を減少させすぎずに安全性をより向上させることができる。
【0092】
また、負極活物質として高反応性の金属系材料を用いた場合には、低反応性の炭素材料を用いた場合よりも、電解液の分解反応が生じやすい傾向にある。よって、金属系材料を用いた場合により高い効果を得ることができる。
【0093】
<1−2.ラミネートフィルム型>
図5は、本技術の一実施形態における他のリチウムイオン二次電池の分解斜視構成を表しており、図6は、図5に示した巻回電極体30のVI−VI線に沿った断面を拡大して示している。以下では、既に説明した円筒型のリチウムイオン二次電池の構成要素を随時引用する。
【0094】
[二次電池の全体構成]
ここで説明する二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型である。この二次電池では、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されており、その巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものである。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。この巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0095】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0096】
外装部材40は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0097】
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムでもよい。
【0098】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0099】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0100】
円筒型のリチウムイオン二次電池の場合と同様に、正極33、負極34およびセパレータ35のうちの少なくとも1つは、式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を含んでいる。この有機ケイ素化合物は、正極活物質層33Bおよび負極活物質層34Bに含まれていてもよいし、正極33、負極34およびセパレータ35に設けられた被覆層(ここでは図示せず)に含まれていてもよい。
【0101】
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層36は、いわゆるゲル状の電解質である。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。
【0102】
高分子化合物は、例えば、以下の高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンまたはポリフッ化ビニルである。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンまたはポリカーボネートである。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0103】
電解液の組成は、円筒型の場合と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0104】
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0105】
[二次電池の動作]
この二次電池では、充電時に、例えば、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。この場合には、円筒型の場合と同様に、高い電池容量を得るために充電時の電圧を4.25V以上とすることが好ましい。一方、放電時には、例えば、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極53に吸蔵される。
【0106】
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0107】
第1手順では、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。この場合には、必要に応じて、正極合剤および負極合剤に有機ケイ素化合物を含有させたり、正極活物質層33Bおよび負極活物質層34Bの表面に有機ケイ素化合物を含む被覆層を形成する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布してゲル状の電解質層36を形成する。続いて、溶接法などで、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層してから巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。このセパレータ35を準備する場合には、必要に応じて、基材層の表面に有機ケイ素化合物を含む被覆層を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、熱融着法などで外装部材40の外周縁部同士を接着させて巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
【0108】
第2手順では、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33および負極34を積層してから巻回させて巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などで一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材40を密封する。続いて、モノマーを熱重合させる。これにより、高分子化合物が形成されるため、ゲル状の電解質層36が形成される。
【0109】
第3手順では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種または2種以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材40の開口部を密封する。続いて、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成される。
【0110】
この第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間で十分な密着性が得られる。
【0111】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、正極33、負極34およびセパレータ35のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物のうちの少なくとも一方を含んでいる。よって、上記した円筒型の二次電池と同様の理由により、高温特性を向上させることができる。特に、ラミネートフィルム型では、電解液の分解反応などの副反応に起因して発生するガスの影響を受けて電池膨れが生じやすいため、より高い効果を得ることができる。これ以外の作用および効果は、円筒型と同様である。
【0112】
<2.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0113】
この二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。後者の場合、主電源は二次電池に限られない。
【0114】
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノートパソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末(PDA:personal digital assistant)などの電子機器である。なお、電子機器には、電気シェーバなどの生活用電気器具、バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置、ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器も含まれる。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。電気自動車などの電動車両(ハイブリッド自動車を含む)である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。
【0115】
中でも、二次電池は、電子機器、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムなどに適用されることが有効である。二次電池について優れた特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電子機器は、二次電池を作動用の電源として各種機能(音楽再生など)を実行するものである。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)を可動させるものである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として走行するものであり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その二次電池に貯蔵された電力が必要に応じて消費されることにより、家庭用電気製品などの各種機器が使用可能になる。
【実施例】
【0116】
本技術の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0117】
(実験例1−1〜1−49)
以下の手順により、図1および図2に示した円筒型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
正極21を作製する場合には、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置で正極集電体21A(帯状のAl箔:厚さ=12μm)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成した。最後に、ロールプレス機で正極活物質層21Bを圧縮成型した。
【0119】
負極22を作製する場合には、負極活物質(人造黒鉛)97質量部と、負極結着剤(PVDF)3質量部とを混合して、負極合剤とした。続いて、負極合剤をNMPに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置で負極集電体22A(帯状の電解Cu箔:厚さ=15μm)の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、負極活物質層22Bを形成した。最後に、ロールプレス機で負極活物質層22Bを圧縮成型した。
【0120】
液状の電解質である電解液を調製する場合には、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジメチル(DMC))に電解質塩(LiPF6 )を溶解させた。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DMC=3:7、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。この他、セパレータ23として、微多孔性ポリプロピレンフィルム(厚さ=25μm)を準備した。
【0121】
なお、正極21、負極22およびセパレータ23を準備する場合には、それらに必要に応じて有機ケイ素化合物を含有させた。この有機ケイ素化合物は、表1〜表3に示したPSQ骨格を有する化合物である。この場合には、有機ケイ素化合物が溶解された溶液を準備したのち、その溶液に正極活物質層21B、負極活物質層22Bおよび基材層23Aを浸漬させてから乾燥させて被覆層21C,22C,23Bを形成した。なお、有機ケイ素化合物を溶解させるための溶媒としてn−ヘキサンまたはトルエンを用いると共に、その有機ケイ素化合物の濃度を1重量%とした。
【0122】
二次電池を組み立てる場合には、正極集電体21AにAl製の正極リード25を溶接すると共に、負極集電体22AにNi製の負極リード26を溶接した。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回したのち、粘着テープで巻き終わり部分を固定して巻回電極体20を作製した。続いて、巻回電極体20の巻回中心にセンターピン24を挿入した。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、Ni鍍金された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を収納した。この場合には、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接した。続いて、減圧方式で電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させた。最後に、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめた。これにより、円筒型の二次電池が完成した。この二次電池を作製する場合には、正極活物質層21Bの厚さを調節して、満充電時に負極22にLi金属が析出しないようにした。
【0123】
二次電池の高温特性として、高温環境中でサイクル特性および連続充電特性を調べたところ、表1〜表3に示した結果が得られた。
【0124】
サイクル特性を調べる場合には、常温環境中(23℃)で二次電池を2サイクル充放電させて放電容量を測定したのち、さらに高温環境中(45℃)で二次電池を300サイクル充放電させて放電容量を測定した。この結果から、容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、0.2Cの電流で上限電圧まで定電流定電圧充電し、さらに定電圧(上限電圧)で電流が0.05Cに達するまで充電した。この上限電圧は、表1〜表3に示した充電電圧に該当する。放電時には、0.2Cの電流で終始電圧3.0Vに達するまで定電流放電した。なお、0.2Cおよび0.05Cとは、それぞれ理論容量を5時間および20時間で放電しきる電流値である。
【0125】
連続充電特性を調べる場合には、高温環境中(60℃)で二次電池を充電させたのち、同環境中に連続充電状態のまま放置して、安全弁機構15が作動するまでの時間(充電時間:h)を測定した。充電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様であり、連続充電時には、終始電流を0mAとした。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
負極活物質として炭素材料(人造黒鉛)を用いた場合に、式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いた。この場合には、有機ケイ素化合物を用いなかった場合および他のPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いた場合よりも、容量維持率および充電時間が大幅に増加した。
【0130】
詳細には、他のPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いると、その有機ケイ素化合物を用いなかった場合よりも容量維持率は減少するか、場合によっては3%程度しか増加せず、充電時間も12%程度しか増加しなかった。これに対して、式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いると、有機ケイ素化合物を用いなかった場合よりも、容量維持率が少なくとも3%程度以上増加しつつ、充電時間は250%強も増加した。
【0131】
特に、正極21および負極22が式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を含んでいると、容量維持率がより増加すると共に、セパレータ23が有機ケイ素化合物を含んでいると充電時間がより増加した。また、充電電圧が高くなると(4.25V)、充電電圧が低い場合(4.20V)よりも容量維持率および充電時間の増加率がより大きくなった。
【0132】
(実験例2−1〜2−20,3−1〜3−30)
負極活物質として炭素材料に代えて金属系材料(ケイ素またはSnCoC)を用いたことを除き、実験例1−1〜1−49と同様の手順で二次電池を作製した。この場合でも高温特性を調べたところ、表4〜表6に示した結果が得られた。
【0133】
ケイ素を用いる場合には、電子ビーム蒸着法で負極集電体22A(電解Cu箔:厚さ=15μm)の両面にSiを堆積させて負極活物質層22Bを形成した。この場合には、堆積工程を10回を繰り返して、負極活物質層22Bの片面側厚さを6μmとした。
【0134】
SnCoC含有材料であるSnCoCを用いる場合には、Co粉末とSn粉末とを合金化してCoSn合金粉末としたのち、C粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に混合物10gを直径9mmの鋼玉約400gと一緒にセットした。続いて、反応容器中をアルゴン雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が20時間になるまで繰り返した。続いて、反応容器を室温まで冷却して反応物(SnCoC)を取り出したのち、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
【0135】
得られたSnCoCの組成を分析したところ、Snの含有量は49.5質量%、Coの含有量は29.7質量%、Cの含有量は19.8質量%、SnおよびCoの割合(Co/(Sn+Co))は37.5質量%であった。この際、SnおよびCoの含有量については誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分析で測定し、Cの含有量については炭素・硫黄分析装置で測定した。また、X線回折法でSnCoC含有材料を分析したところ、2θ=20°〜50°の範囲に半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPSによりSnCoCを分析したところ、図7に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側(284.5eVよりも低い領域)にSnCoC中におけるC1sのピークP3とが得られた。この結果から、SnCoC中のCは他の元素と結合していることが確認された。
【0136】
SnCoCを得たのち、負極活物質(SnCoC)80質量部と、負極結着剤(PVDF)8質量部と、負極導電剤(黒鉛およびアセチレンブラック)12質量部(黒鉛=11質量部およびアセチレンブラック=1質量部)とを混合して、負極合剤とした。続いて、NMPに負極合剤を分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、コーティング装置で負極集電体22A(電解Cu箔:厚さ=15μm)の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、ロールプレス機で負極活物質層22Bを圧縮成型した。
【0137】
【表4】

【0138】
【表5】

【0139】
【表6】

【0140】
負極活物質として金属系材料(ケイ素またはSnCoC)を用いても、炭素材料を用いた場合(表1〜表3)と同様の結果が得られた。すなわち、式(1)および式(2)に示したPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いると、有機ケイ素化合物を用いなかった場合および他のPSQ骨格を有する有機ケイ素化合物を用いた場合よりも容量維持率および充電時間が大幅に増加した。特に、金属系材料を用いると、炭素材料を用いた場合よりも容量維持率の増加率が大きくなった。
【0141】
表1〜表6の結果から、正極、負極およびセパレータのうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したPSQを有する有機ケイ素化合物のうちの少なくとも一方を含んでいると、高温特性が向上した。
【0142】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術は、実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の正極活物質は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解に伴う容量とを含み、それらの容量の和により表されるリチウムイオン二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0143】
また、実施形態および実施例では、電池構造が円筒型またはラミネートフィルム型である場合、あるいは電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。本技術のリチウムイオン二次電池は、コイン型、角型またはボタン型などの他の電池構造を有する場合、あるいは電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても、同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0144】
11…電池缶、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、21C,22C,23C…被覆層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、23A…基材層、36…電解質層、40…外装部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して対向された正極および負極と、電解液とを備え、
前記正極、前記負極および前記セパレータのうちの少なくとも1つは、下記の式(1)および式(2)で表されるポリシルセスキオキサン骨格を有する有機ケイ素化合物のうちの少なくとも一方を含む、
リチウムイオン二次電池。
[R1SiO3/2 m ・・・(1)
(R1は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、mは4〜12の整数である。)
[R2SiO3/2 n [XSiO3/2 nー1 ・・・(2)
(R2は炭素数=1〜12のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、シクロアルキル基、あるいはアリール基であり、Xは水素基、ハロゲン基、不飽和結合を含むアルキル基、エステル基、不飽和結合を含むエステル基、ハロゲン化シリル基、またはハロゲン化シリル基を含むアルキル基であり、nは4〜12の整数である。)
【請求項2】
前記正極は正極集電体の上に正極活物質層を有すると共に、前記負極は負極集電体の上に負極活物質層を有し、前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくとも一方は前記有機ケイ素化合物を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極は正極集電体の上に正極活物質層を有すると共に、前記負極は負極集電体の上に負極活物質層を有し、前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくとも一方に前記有機ケイ素化合物を含む被覆層が設けられている、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記セパレータは、多孔質膜である基材層と、その基材層の少なくとも一方の面に設けられた被覆層とを有し、前記被覆層は前記有機ケイ素化合物を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
完全充電状態における開回路電圧は4.25V以上である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電子機器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電動工具。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電動車両。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電力貯蔵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−221824(P2012−221824A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88092(P2011−88092)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】