説明

リチウムイオン二次電池とその製造方法

【課題】負極の両端部分でのリチウムイオンの受け入れ性能を向上させて、金属リチウムの析出防止性能を高めた負極を備えるリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池は、正極集電体露出部から負極集電体82露出部に向かう方向における負極合材層88の両端部分86A,86Aと、該幅方向における負極合材層の中央部分86Bとの間で、黒鉛材料85の配向が相互に異なっており、上記両端部分における黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは、上記中央部分における(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大している。ここで、負極合材層の上記幅方向の長さをLaとし、同方向の上記両端部分の合計長さをLbとしたときのLb/Laの値が0.3よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、正極及び負極と、それら両電極間に介在された電解液とを備えており、リチウムイオンがリチウム塩等を含む電解液を介して正極と負極との間を行き来することにより充放電を行う。この種のリチウムイオン二次電池の典型的な負極は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る負極活物質を含んでいる。かかる負極活物質としては、主として種々の炭素材料が挙げられ、例えば、黒鉛材料が用いられる。黒鉛は、層状の結晶構造を有し、その層と層との間(層間)へのリチウムイオンの吸蔵および該層間からのリチウムイオンの放出により充放電が実現される。負極に関する従来技術として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−251249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、負極活物質としての黒鉛を含むペースト状に調製された組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。以下、ペースト状組成物を単に「組成物」という。)を集電体(導電性部材)に塗布して負極を形成する際、黒鉛は、該黒鉛の層面((002)面)が集電体の表面(幅広面)に対して平行に配置しやすい性質を有している。このため、黒鉛のエッジ部(複数の層の端部)が集電体に対して凡そ平行に配置し、充放電時に層間へのリチウムイオンの吸蔵および該層間からのリチウムイオンの放出が円滑に行われない虞がある。また、充電の際には、負極の幅方向(例えば一の長辺から他の一の長辺に向かう方向)の両端部分(即ち露出した負極集電体の近傍及び露出した正極集電体の近傍)にリチウムイオンが集中(局在)しやすい傾向にあり、該部分に含まれる黒鉛がリチウムイオンを吸蔵しきれずに金属リチウムが析出してしまう虞がある。金属リチウムが析出すると充放電時に使用されるリチウムイオンが減少し電池性能(例えばサイクル特性)が低下してしまい好ましくない。
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、負極の両端部分でのリチウムイオンの受け入れ性能を向上させて、金属リチウムの析出防止性能を高めた負極を備えるリチウムイオン二次電池を提供することであり、該二次電池を好適に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を実現すべく、本発明により、正極シート及び負極シートを含む積層若しくは捲回された電極体と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。即ちここで開示されるリチウムイオン二次電池において、上記正極シートは、正極集電体と、該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層と、を備えている。上記負極シートは、負極集電体と、該負極集電体の表面上に形成された少なくとも黒鉛材料を含む負極合材層と、を備えている。上記電極体において、所定方向の一の端部には上記正極合材層が形成されずに露出している上記正極集電体が配置されており、該方向の他の一の端部には上記負極合材層が形成されずに露出している上記負極集電体が配置されている。上記正極集電体露出部から上記負極集電体露出部に向かう方向として規定される幅方向における上記負極合材層の両端部分と、該幅方向における上記負極合材層の少なくとも中心を含む中央部分との間で、上記負極合材層中の上記黒鉛材料の配向が相互に異なっている。上記両端部分における上記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは、上記中央部分における上記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大している。即ち(A/B)>(C/D)の関係にある。ここで、上記負極合材層の上記幅方向の長さをLaとし、同方向の上記両端部分の合計長さをLbとしたときのLb/Laの値が0.3よりも大きいことを特徴とする。
【0006】
なお、本明細書において「X線回折法」は、負極合材層の表面(幅広面)を測定面として該測定面に対してX線を入射することにより、黒鉛材料の(110)面のピーク強度と(002)面のピーク強度を測定している。
また、本明細書において「黒鉛材料の(002)面」とは、層状構造の黒鉛材料(黒鉛結晶)の層面(黒鉛層と水平な面)であって該黒鉛材料を構成するグラフェンシートの炭素ネットワークと水平な面をいう。
また、本明細書において「黒鉛材料の(110)面」とは、層状構造の黒鉛材料(黒鉛結晶)の層の端面(黒鉛層と垂直な面)であって黒鉛材料の(002)面と垂直な面をいう。
【0007】
本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池は、正極集電体露出部から負極集電体露出部に向かう方向として規定される幅方向における負極合材層の両端部分に含まれる黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは、同方向の負極合材層の少なくとも中心を含む中央部分における黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大しており、負極合材層の上記幅方向の長さをLaとし、同方向の上記両端部分の合計長さをLbとしたときのLb/Laの値が0.3よりも大きい。
このように、負極合材層の幅方向の上記長さの両端部分に含まれる黒鉛材料のほうが中央部分に含まれる黒鉛材料よりも上記ピーク強度の比が高い、即ち、黒鉛材料の(002)面が負極集電体に対して立ち上がるように(例えば略垂直に)配向している黒鉛材料の割合が大きいことにより、上記両端部分におけるリチウムイオンの受け入れ性能が向上する。このため、リチウムイオン二次電池の充電時に負極合材層(負極)の両端部分に集中(局在)したリチウムイオンは該両端部分に含まれる黒鉛材料内に確実に吸蔵され得る。このため、充放電を繰り返し行った際に黒鉛材料(負極合材層)の表面に金属リチウムが析出する等の不具合を未然に防止することができる。
【0008】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記A/Bの値は0.01〜0.5であり、上記C/Dの値は0.001〜0.01であることを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層の両端部分に含まれる黒鉛材料の(002)面が負極集電体に対して略垂直に強く配向しているため、該両端部分において優れたリチウムイオンの受け入れ性能を示す。
【0009】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な他の一態様では、上記Lb/Laの値は0.3よりも大きく0.7よりも小さいことを特徴とする。
従来の負極合材層の上記範囲で示される両端部分では、黒鉛材料のリチウムイオンの受け入れ性能がまだ十分ではなかったが、本発明ではかかる範囲に磁場を印加して黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bが、同方向の負極合材層の中央部分における(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大しているため、負極合材層の両端部分のリチウムイオンの受け入れ性能が向上している。この結果、リチウムイオン二次電池の充電の際に負極合材層の両端部分に集中するリチウムイオンは、該両端部分に含まれる黒鉛材料に吸蔵され金属リチウムの析出を防止することができる。
【0010】
また、本発明によると、上記目的を実現する他の側面として、正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート及び負極集電体上に負極合材層が形成された負極シートを含む積層若しくは捲回された電極体と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池を製造する方法が提供される。即ち、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、少なくとも黒鉛材料と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の組成物を用意すること、上記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布すること、上記負極集電体のうち上記組成物が塗布された部位において、上記負極集電体の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向における上記組成物の中心を含む中央部分を除いた上記組成物の両端部分に対して上記負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加すること、上記磁場の印加後に、上記塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成すること、
を包含する。ここで、上記磁場を印加する際に、上記負極集電体の表面に塗布された組成物の前記幅方向の長さをLcとし、同方向の上記両端部分の合計長さをLdとしたときのLd/Lcの値が0.3よりも大きくなるように上記組成物に磁場を印加することを特徴とする。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法では、負極集電体のうち組成物が塗布された部位において、組成物の幅方向の中央部分(組成物の幅方向の中心を含む)を除く両端部分(組成物の幅方向の長さをLcとし、同方向の両端部分の合計長さをLdとしたときのLd/Lcの値が0.3よりも大きくなる範囲)の組成物に対して負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加している。
このように、組成物の幅方向の上記定められた範囲にある両端部分に磁場を印加することにより、該両端部分に含まれる黒鉛材料は、該黒鉛材料の(002)面が負極集電体から立ち上がるように配向する。そして、黒鉛材料が上記のように配向された状態で組成物を乾燥することによって、負極合材層の両端部分におけるリチウムイオンの受け入れ性能が向上された負極を製造することができる。かかる負極を備えるリチウムイオン二次電池は、充電時に負極合材層(負極)の両端部分にリチウムイオンが集中しても該両端部分に含まれる黒鉛材料に確実に吸蔵されるため、リチウムイオンを吸蔵しきれないことによる金属リチウムの析出を未然に防ぐことができる。
【0012】
ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記負極合材層の両端部分において、該負極合材層中の上記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度をAとし、(002)面のピーク強度をBとしたときのピーク強度比A/Bの値が0.01〜0.5となるように上記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層の両端部分に含まれる黒鉛材料の(002)面が負極集電体に対して略垂直に強く配向させることができるため、両端部分でのリチウムイオンの受け入れ性能を向上させることができる。
【0013】
ここで開示される製造方法の好適な他の一態様では、上記Ld/Lcの値が0.3よりも大きく0.7よりも小さくなるように上記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする。
従来の負極合材層のうち上記範囲で示される両端部分ではリチウムイオンの受け入れ性能がまだ十分ではないため、組成物の上記範囲で示される両端部分に含まれる黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bを、同方向の負極合材層の両端部分における(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大させて両端部分のリチウムイオンの受け入れ性能を高めるという本発明の構成を採用することによる効果が特に発揮され得る。
【0014】
上述のように、ここで開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池或いはいずれかの製造方法により得られたリチウムイオン二次電池は、特にハイレート(即ち高電流密度。高電流密度は、例えば、凡そ12mA/cm以上(通常は12mA/cm〜20mA/cm)である。)充放電時における金属リチウムの析出防止性能に優れており、結果、好適な電池性能を維持し得るリチウムイオン二次電池となり得るため、車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)の駆動電源として用いることができる。また、本発明の他の側面として、ここで開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池(複数個の電池が典型的には直列に接続された組電池の形態であり得る。)を駆動電源として備える車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1中のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る負極の製造装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図6A】本発明の一実施形態に係る負極の製造方法における磁場印加部分を示す平面図である。
【図6B】図5中の6B‐6B線に沿う断面図である。
【図7】容量維持率と電流密度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
まず、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法の好ましい一態様について説明する。
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、図4に示すように、組成物準備工程(ステップS10)と、組成物塗布工程(ステップS20)と、磁場印加工程(ステップS30)と、乾燥工程(ステップS40)とを包含する。図5は、かかるリチウムイオン二次電池に用いられる負極の製造方法を具現化した製造装置を示す図である。図5に示すように、本実施形態に係る負極製造装置200は、大まかにいって、供給ロール205と、組成物塗布部220と、磁場印加部230と、乾燥炉250と回収ロール210とを備えている。負極集電体82は、供給ロール205から供給され所定の経路に沿って走行し得るガイド240に案内されて上記各工程を経て回収ロール210で回収される。
【0018】
まず、組成物準備工程(S10)について説明する。組成物準備工程には、少なくとも黒鉛材料と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の負極合材層形成用組成物(以下、単に「組成物」という場合もある。)を用意することが含まれている。本工程において、例えば、黒鉛材料と、結着材(バインダ)とを所定の溶媒に分散させてなる組成物を調製する。
【0019】
上記黒鉛材料(負極活物質)としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な天然黒鉛(例えば鱗状黒鉛)、人造黒鉛(人工黒鉛)等が挙げられる。上記黒鉛材料のレーザー回折散乱法に基づいて測定される粒度分布におけるメジアン径(D50)は、5μm〜20μ程度であることが好ましい。メジアン径が20μmよりも大きすぎる場合には、黒鉛材料中心部へのリチウムイオンの拡散に時間がかかること等により、負極の実行容量が低下する虞がある。メジアン径が5μmよりも小さすぎる場合には、黒鉛材料表面での副反応速度が上昇し、リチウムイオン二次電池の不可逆容量が増加する虞がある。
【0020】
上記結着材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、水系の組成物を調製する場合には、上記結着材として水に溶解又は分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が例示される。また、水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類;が例示される。上記で例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、上記組成物の増粘材その他の添加材としての機能を発揮する目的で使用することができる。
ここで、「水系の組成物」とは、上記所定の溶媒(分散媒)として水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0021】
上記黒鉛材料及び結着材等を溶媒中で混ぜ合わせる(混練)操作は、例えば、適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記ペースト状の組成物を調製するにあたっては、先ず、黒鉛材料(例えば天然黒鉛)と結着材とを少量の溶媒で固練りし、その後、得られた混練物を適量の溶媒で希釈してもよい。
【0022】
上記ペースト状組成物の固形分率(不揮発性分、即ち負極合材層形成成分の割合)は、凡そ30質量%〜65質量%であり、凡そ40質量%〜55質量%であることが好ましい。また、該組成物の固形分全体に占める黒鉛材料の割合は、凡そ80質量%〜100質量%であり、凡そ95質量%〜100質量%であることが好ましい。また、上記組成物の固形分全体に占める結着材の割合は、例えば凡そ0.1質量%〜5質量%とすることができ、通常は凡そ0.1質量%〜3質量%とすることが好ましい。増粘材を使用する組成では、上記組成物の固形分全体に占める増粘材の割合を例えば凡そ0.1質量%〜5質量%とすることができ、通常は凡そ0.1質量%〜3質量%とすることが好ましい。
【0023】
次に、組成物塗布工程(S20)について説明する。組成物塗布工程には、上記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布することが含まれている。
図5に示すように、本実施形態に係る組成物塗布部220はダイコーターである。該組成物塗布部220のダイ222に上記用意した組成物86が供給されて、供給ロール205から送り出された長尺状の負極集電体82の表面に該組成物86を塗布する。このとき、図6A及び図6Bに示すように、負極集電体82の幅方向の端部(幅方向の一の端部或いは両端部)は組成物86が塗布されず負極集電体82が露出している。
【0024】
上記負極集電体82としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅材やニッケル材或いはそれらを主体とする長尺なシート形状の合金材を用いることができる。シート形状の負極集電体82の厚さは、凡そ10μm〜30μm程度である。
なお、本実施形態の負極製造装置200の組成物塗布部220はダイコーターであるが、これに限定されず、上記組成物86を負極集電体82に塗布することは、従来の一般的なリチウムイオン二次電池用の電極(負極)を作製する場合と同様にして行うことができる。例えば、従来公知の適当な塗布装置、例えば、スリットコーター、コンマコーター、グラビアコーターなどを代わりに用いることができる。
【0025】
次に、磁場印加工程(S30)について説明する。磁場印加工程には、上記負極集電体の表面に塗布された組成物(溶媒が残っており乾燥していない状態の組成物)に磁場を印加することが含まれている。ここで、磁場の印加は、図6A及び図6Bに示すように、負極集電体82のうち組成物86が塗布された部位において、負極集電体82の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向(図6A及び図6Bの矢印Yの方向)における組成物86の中央部分86B(組成物86の中心を含む)を除いた組成物86の両端部分86A,86A(典型的には、端部分86A,86Aの幅方向の長さは実質的に同じ長さである。)に対して負極集電体82の表面と直交する方向(図6Bの矢印Zの方向)の磁場を印加することにより行われる。
上記磁場を印加する領域は、図6Aに示すように、負極集電体82の表面に塗布された組成物86の上記幅方向の長さをLcとし、同方向の両端部分86A,86Aの合計長さをLd(Ld=Ld+Ld)としたときのLd/Lcの値が0.3よりも大きくなる領域(例えばLd/Lcの値が0.3〜0.7となる領域)である。
【0026】
なお、上記磁場を印加する両端部分86A,86Aは、例えば以下のようにして決定することができる。
先ず、製造対象とする電池と同形状の評価用リチウムイオン二次電池(評価用電池)を作製する。即ち、負極集電体の表面に塗布された組成物に対して磁場を印加することなく、該組成物を後述するように乾燥させることによって負極集電体上に負極合材層が形成された負極シート(負極)を作製する。該作製された負極シートを用いて後述するリチウムイオン二次電池の作製と同様にして評価用電池を作製する。
かかる評価用電池を所定の条件下で完全放電した後、負極シートを取り出して負極シートの表面を写真撮影する。該負極シートにおいて金属リチウムが析出している部分(典型的には負極合材層の幅方向の中央部分を除く両端部分)は白色に変色しているため、撮影した画像に対してコントラスト調整等の画像処理を行い、所定の閾値で二値化して金属リチウム析出部分を決定する。そして、磁場を印加する両端部分の幅方向の長さを該金属リチウム析出部分が完全に覆われるような長さに決定する。
なお、上記画像処理によっては、金属リチウム析出部分を明確に決定することができない場合には、負極シートに対して失活処理を施した後、金属リチウムの炎色反応を確認することによって金属リチウム析出部分を決定する。そして、磁場を印加する両端部分の幅方向の長さを該金属リチウム析出部分が完全に覆われるような長さに決定する。
このようにして決定された両端部分の領域が、実際に製造する負極における両端部分として規定される。
【0027】
図6Bに示すように、本実施形態に係る負極製造装置200における磁場印加部230は、図5の矢印Xの方向に移送される負極集電体82(及び組成物86)を挟むように対向して配置された一対の磁場発生体235,235を二組備えている。磁場発生体235としては、磁場を発生することができるものであれば特に限定されないが、例えば、永久磁石や電磁コイル等が挙げられる。
本実施形態に係る負極製造装置200の磁場印加部230では、図6Bに示すように、磁力線の向きが負極集電体82の表面と直交する方向(図6Bの矢印Zの方向)となるように、一対の磁場発生体235,235が二組配置されている。より具体的には、図6Bに示すように、一対の磁場発生体235,235は、負極集電体82の表面に塗布された組成物86の幅方向の両端部分86A,86Aと重なる位置であって、磁場発生体235の幅広面と上記両端部分86Aに対応する負極集電体82の幅広面とが平行となるように負極集電体82の長手方向に沿って配置されている。このように一対の磁場発生体235,235が二組配置されることで、負極集電体82の表面に塗布された組成物86のうち該組成物86の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛材料85に対して、長尺状の負極集電体82の表面と直交する方向に磁力線が発生する磁場を印加することができる。
【0028】
負極集電体82に塗布された組成物86中の黒鉛材料85は、該黒鉛材料85の(002)面85Aと負極集電体82の表面(幅広面)とが凡そ平行となるように配向される傾向にある。図5及び図6Bに示すように、かかる組成物86が塗布された負極集電体82は、磁場印加部230に移送されて、該負極集電体82の表面と直交する方向に磁力線が発生する磁場が組成物86の両端部分86A,86Aに印加される。この結果、図6Bに示すように、組成物86の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛材料85の(002)面85Aを負極集電体82に対して立ち上がるように配向させることができる。
【0029】
上記磁場印加工程において、負極集電体82の表面に塗布された組成物86の両端部分86Aに対して作用させる磁場の強さは、例えば、凡そ0.3T〜2.1T程度であり、通常は凡そ0.4T〜1.5T程度である。また、磁場印加部230において組成物86に対して磁場を印加する時間は、凡そ1秒〜60秒程度である。該磁場を印加する時間は、本実施形態のように負極集電体82が上流側から下流側(図5の矢印Xの方向)へと移動する場合には、磁場印加部230(磁場発生体235)を通過する時間となる。
【0030】
次に、乾燥工程(ステップS40)について説明する。乾燥工程では、上記磁場を印加した後に、負極集電体上に塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成することが含まれている。
図5に示すように、両端部分86A,86A(図6A参照)に磁場が印加された組成物86が乾燥炉250内を通過することによって、負極集電体82に塗布された組成物86を乾燥することができる。このときの乾燥温度は、例えば、100℃〜180℃程度(例えば150℃)であり、乾燥時間は、例えば、10秒〜120秒程度(例えば90秒)である。組成物86から溶媒(典型的には水)を除去することによって負極集電体82の表面に負極合材層88が形成される(図3参照)。なお、負極合材層88が形成された後に、必要に応じてプレス(圧縮)してもよい。圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。プレス後の負極合材層88の密度は、例えば、0.9g/cm〜1.4g/cm程度である。
【0031】
上記工程を経て作製された負極シート(負極)84は、図3に示すように、負極集電体82と、該負極集電体82の表面上に形成された負極合材層88とを備えており、負極合材層88の全体に亘って黒鉛材料85と結着材89とが分散している。負極合材層88の幅方向(即ち正極集電体62の露出部から前記負極集電体82の露出部に向かう方向として規定される幅方向。図2参照。)の両端部分86A,86A(典型的には、端部分86A,86Aの幅方向の長さは実質的に同じ長さである。)と、該幅方向における負極合材層88の少なくとも中心を含む中央部分86Bとの間で、負極合材層88中の黒鉛材料85の配向が相互に異なっている。即ち、負極合材層88の両端部分86A,86Aにおける黒鉛材料85のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは、負極合材層88の中央部分86Bにおける黒鉛材料85のX線回折法による(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大している。即ち(A/B)>(C/D)の関係にある。なお、図3において、負極合材層88は負極集電体82の一方の面(幅広面)に形成されているが、負極集電体82の両方の面(幅広面)に形成されていてもよい。
ここで、負極合材層88の上記幅方向の両端部分86A,86Aとは、図3に示すように、負極合材層88の上記幅方向の長さをLaとし、同方向の両端部分86A,86Aの合計長さをLb(Lb=Lb+Lb)としたときのLb/Laの値が0.3よりも大きくなる領域(例えばLb/Laの値が0.3〜0.7となる領域)である。
【0032】
負極合材層88の幅方向の両端部分86A,86Aにおける黒鉛材料85のX線回折法による(110)面のピーク強度Aは、例えば、10〜100程度である。また、負極合材層88の幅方向の両端部分86A,86Aにおける黒鉛材料85のX線回折法による(002)面のピーク強度をBとしたときのピーク強度の比A/Bの値は、例えば、0.01〜0.5程度である。
一方、負極合材層88の幅方向の中央部分86Bにおける黒鉛材料85のX線回折法による(110)面のピーク強度Cは、例えば、1〜10程度である。また、負極合材層88の幅方向の中央部分86Bにおける黒鉛材料85のX線回折法による(002)面のピーク強度をDとしたときのピーク強度の比C/Dの値は、例えば、0.001〜0.01程度である。
【0033】
かかる負極シート(負極)82では、負極合材層88の幅方向(例えば捲回軸方向)の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛材料85のほうが中央部分86Bに含まれる黒鉛材料85よりもX線回折法による(110)面のピーク強度及び(002)面のピーク強度の比((110)面ピーク強度/(002)面ピーク強度)が高い、即ち、黒鉛材料85の(002)面85Aが負極集電体82に対して立ち上がるように配向している黒鉛材料85の割合が大きいため、該両端部分86A,86Aにおけるリチウムイオンの受け入れ性が向上している。
従って、リチウムイオン二次電池の充電時の際に、負極合材層88の両端部分86A,86Aに集中(局在)したリチウムイオンは該両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛材料85の層内に確実に吸蔵され得るため、負極合材層88の両端部分86A,86A(に含まれる黒鉛材料85)の表面に金属リチウムの析出が生じることを防止することができる。
特にハイレート(即ち、高電流密度。高電流密度は、例えば、凡そ12mA/cm以上(通常は12mA/cm〜20mA/cm)である。)充放電時のときには、負極合材層88の両端部分86A,86Aにより多くのリチウムイオンが集中する傾向にあるため上述したような負極84を備えるリチウムイオン二次電池では効果的に金属リチウムの析出を防止することができる。
【0034】
次に、正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート(正極)を形成する工程について説明する。まず、正極活物質と、導電材と結着材等とを所定の溶媒に分散させてなるペースト状の正極合材層形成用組成物を調製する。
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移金属複合酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。
また、一般式がLiMPO或いはLiMVO或いはLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO、LiMnPO、LiFeVO、LiMnVO、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO)を上記正極活物質として用いてもよい。
【0035】
上記結着材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。水系の組成物を調製する場合には、上記負極に使用される結着材と同様の物を適宜採用することができる。また、溶剤系の組成物を調製する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。
ここで、「溶剤系の組成物」とは、正極活物質の分散媒が主として有機溶媒である組成物を指す概念である。有機溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0036】
また、上記導電材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0037】
そして、上記調製した正極合材層形成用組成物を正極集電体の表面に塗布し、乾燥させて正極合材層を形成した後、必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、正極集電体と、該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層を備える正極を作製することができる。
上記正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム材又はアルミニウム材を主体とする合金材を用いることができる。正極集電体の形状は、負極集電体の形状と同様であり得る。
【0038】
次に、上述した方法を適用して製造された負極シート(負極)及び上記作製された正極シート(正極)を電解質とともに電池ケースに収容してリチウムイオン二次電池を作製する工程について説明する。上記負極シート及び正極シートを計二枚のセパレータシートとともに積層して捲回して捲回電極体を作製する。次いで、電池ケース(例えば扁平な直方体状のケース)に該捲回電極体を収容すると共に、電解質(例えば電解液)を電池ケース内に収容する。そして、電池ケースの開口部を蓋体で封止することにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。ここで、上記電解質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF等のリチウム塩を用いることができる。さらに上記非水電解液に、ジフルオロリン酸塩(LiPO)やリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を溶解させてもよい。
また、上記セパレータシートとしては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。
【0039】
以下、上記製造方法により作製された負極シート及び正極シートを用いて作製されるリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、上記製造方法により作製された負極シート及び正極シートが採用される限りにおいて、作製されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では、捲回電極体および電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池を例にして説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0040】
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(二次電池)10を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の電池ケース15を備える。このケース(外容器)15は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体30と、その開口部20を塞ぐ蓋体25とを備える。溶接等により蓋体25は、ケース本体30の開口部20を封止している。ケース15の上面(すなわち蓋体25)には、捲回電極体50の正極シート(正極)64と電気的に接続する正極端子60および該電極体の負極シート84と電気的に接続する負極端子80が設けられている。また、蓋体25には、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁40が設けられている。ケース15の内部には、正極シート64および負極シート84を計二枚のセパレータシート90とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体50及び電解質(例えば非水電解液)が収容されている。
【0041】
上記積層の際には、図2に示すように、正極シート64の正極合材層非形成部分(即ち正極合材層66が形成されずに正極集電体62が露出した部分)と負極シート84の負極合材層非形成部分(即ち負極合材層88が形成されずに負極集電体82が露出した部分。図3参照。)とがセパレータシート90の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート64と負極シート84とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体50の捲回方向に対する横方向において、正極シート64および負極シート84の電極合材層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート64の正極合材層形成部分と負極シート84の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート90とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分に正極端子60を接合して、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート64と正極端子60とを電気的に接続する。同様に負極側はみ出し部分に負極端子80を接合して、負極シート84と負極端子80とを電気的に接続する。なお、正負極端子60,80と正負極集電体62,82とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0042】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
<実施例>
天然黒鉛(負極活物質)と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ10μm、幅100mmの長尺状の銅箔(負極集電体)上に片面当たり塗布量4mg/cmで塗布し、該塗布された組成物に対して磁場を印加した。磁場印加後に組成物を乾燥することで銅箔上に負極合材層を備える実施例に係る負極シートを作製した。ここで、組成物に対する磁場の印加は、負極集電体のうち組成物が塗布された部位において、該負極集電体の幅方向の中央部分を除く両端部分(それぞれの端部から凡そ30mm程度の幅領域)の組成物に対して負極集電体の表面と直交する方向に行った。このときの上記Lb/Laの値は0.7であった。また、磁場の強さは0.7Tであった。また、負極合材層の両端部分(磁場を印加した部分)における黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは0.05であり、中央部分(磁場を印加していない部分)における黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dは0.001であった。
【0044】
一方、正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのPVDFとの質量比が90:8:2となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に片面当たり塗布量6mg/cmで塗布し、乾燥することでアルミニウム箔上に正極合材層を備える実施例に係る正極シートを作製した。
そして、上記作製した実施例に係る負極シート及び正極シートをセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を挟んで対向配置させ(積層させ)、これを電解液と共にラミネート型のケース(ラミネートフィルム)に収容することにより実施例に係るリチウムイオン二次電池を5個作製した(実施例1〜実施例5)。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:1:1の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させたものを使用した。
【0045】
<比較例>
天然黒鉛(負極活物質)と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ10μm、幅100mmの長尺状の銅箔(負極集電体)上に片面当たり塗布量4mg/cmで塗布し、乾燥することで銅箔上に負極合材層を備える比較例に係る負極シートを作製した。比較例に係る負極シートを用いた他は実施例と同様にして、比較例に係るリチウムイオン二次電池を5個作製した(比較例1〜比較例5)。
【0046】
[容量維持率測定]
上記作製した実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例5に係る各二次電池に対して、適当なコンディショニング処理を行った。即ち、1Cの定電流で4.1Vまで充電を行った後、5分間休止した。次いで、定電圧で1.5時間充電して5分間休止した。
次いで、上記コンディショニング処理後の各二次電池について、250サイクル後の容量維持率[%]を測定した。即ち、0℃の温度環境において、3.0Vまで定電流放電した後、定電流定電圧で充電を行ってSOC60%に調整した。そして、所定の電流密度で充放電を250サイクル繰り返した。1サイクルの充放電条件は、0℃の温度条件下、所定の電流密度[mA/cm]で10秒間充電を行った後10分間休止して、次いで、同じ電流密度で10秒間放電を行った後10分間休止した。この際、50サイクル毎に、上記のようにしてSOC60%に調整した。1サイクル後に測定された容量(初期容量)と、250サイクル後に測定された容量(250サイクル後容量)との比{(250サイクル後容量)/(初期容量)×100}を容量維持率[%]とした。以上の結果を表1及び図7に示す。なお、上記所定の電流密度として、10.6mA/cm、11.8mA/cm、13mA/cm、14.2mA/cm、14.8mA/cmの5条件を設定した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図7に示すように、電流密度が10.6mA/cmの場合(実施例1及び比較例1)には、負極合材層の両端部分に磁場が印加されている(即ち両端部分のほうが中央部分よりも黒鉛材料の(110)面のピーク強度及び(002)面のピーク強度の比((110)面ピーク強度/(002)面ピーク強度)が増大している。)負極を備える実施例に係るリチウムイオン二次電池と、該部分に磁場が印加されていない負極を備える比較例に係るリチウムイオン二次電池とは同等の容量維持率を示していることが確認された。しかしながら、電流密度が10.6mA/cmよりも大きくなると、負極合材層の両端部分に磁場が印加されている負極を備える実施例に係るリチウムイオン二次電池は、該部分に磁場が印加されていない負極を備える比較例に係るリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が高いことが確認された。特に、電流密度が大きくなるにつれて実施例と比較例との容量維持率の差は大きくなり、電流密度が13mA/cm以上である高電流密度下において顕著な差が現れていることが確認された。
【0049】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、充電時(特にハイレート(高電流密度)での充電時)における金属リチウムの析出防止性能に優れており信頼性に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って本発明は、図8に模式的に示すように、かかるリチウムイオン二次電池10(典型的には当該電池10を複数個直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料自動車のような電動機を備える自動車)100を提供する。
【符号の説明】
【0051】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
40 安全弁
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体
64 正極シート(正極)
66 正極合材層
80 負極端子
82 負極集電体
84 負極シート(負極)
85 黒鉛材料
85A (002)面
86 組成物
86A 端部分
86B 中央部分
88 負極合材層
89 結着材
90 セパレータシート
100 車両(自動車)
200 負極製造装置
205 供給ロール
210 回収ロール
220 組成物塗布部
222 ダイ
230 磁場印加部
235 磁場発生体
240 ガイド
250 乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート及び負極シートを含む積層若しくは捲回された電極体と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極シートは、正極集電体と、該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層と、を備えており、
前記負極シートは、負極集電体と、該負極集電体の表面上に形成された少なくとも黒鉛材料を含む負極合材層と、を備えており、
前記電極体において、所定方向の一の端部には前記正極合材層が形成されずに露出している前記正極集電体が配置されており、該方向の他の一の端部には前記負極合材層が形成されずに露出している前記負極集電体が配置されており、
前記正極集電体露出部から前記負極集電体露出部に向かう方向として規定される幅方向における前記負極合材層の両端部分と、該幅方向における前記負極合材層の少なくとも中心を含む中央部分との間で、前記負極合材層中の前記黒鉛材料の配向が相互に異なっており、
前記両端部分における前記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度A及び(002)面のピーク強度Bの比であるA/Bは、前記中央部分における前記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度C及び(002)面のピーク強度Dの比であるC/Dよりも増大しており、
ここで、前記負極合材層の前記幅方向の長さをLaとし、同方向の前記両端部分の合計長さをLbとしたときのLb/Laの値が0.3よりも大きいことを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記A/Bの値は0.01〜0.5であり、前記C/Dの値は0.001〜0.01であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記Lb/Laの値は0.3よりも大きく0.7よりも小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート及び負極集電体上に負極合材層が形成された負極シートを含む積層若しくは捲回された電極体と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池を製造する方法であって、
少なくとも黒鉛材料と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の組成物を用意すること、
前記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布すること、
前記負極集電体のうち前記組成物が塗布された部位において、前記負極集電体の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向における前記組成物の中心を含む中央部分を除いた前記組成物の両端部分に対して前記負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加すること、
前記磁場の印加後に、前記塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成すること、
を包含し、
ここで、前記磁場を印加する際に、前記負極集電体の表面に塗布された組成物の前記幅方向の長さをLcとし、同方向の前記両端部分の合計長さをLdとしたときのLd/Lcの値が0.3よりも大きくなるように前記組成物に磁場を印加することを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極合材層の両端部分において、該負極合材層中の前記黒鉛材料のX線回折法による(110)面のピーク強度をAとし、(002)面のピーク強度をBとしたときのピーク強度比A/Bの値が0.01〜0.5となるように前記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記Ld/Lcの値が0.3よりも大きく0.7よりも小さくなるように前記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
車両の駆動電源として用いられることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池或いは請求項4から6のいずれか一項に記載の製造方法により得られたリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−69431(P2013−69431A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205349(P2011−205349)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】