説明

リチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】リチウムと負極活物質との間の過度な発熱反応を防止して、電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、不可逆容量を補償しうる手段を提供する。
【解決手段】集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極活物質層の表面に、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着してなる二次粒子を有する、リチウムイオン二次電池用負極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。より詳細には、容量特性およびサイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダーを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素、特に黒鉛系材料が用いられてきた。また、最近では、高容量の負極活物質として、リチウムと合金化する材料などが研究されている。例えば、Si材料は、充放電において1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Siにおいては2000mAh/g程度もの理論容量を有する。このようにリチウムと合金化する材料は電極のエネルギー密度を増加させることができるため、車両用途における負極材料として期待されている。
【0006】
しかし、このような大容量を有する炭素材料やリチウムと合金化する材料の多くの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、初期充放電時の不可逆容量が大きいため、充填された正極の容量利用率が低下し、電池のエネルギー密度が低下するという問題がある。ここで、不可逆容量とは、リチウムイオン二次電池において、初期充電で負極中に吸蔵されたリチウムの全てを放電によって放出することはできず、放電後も負極中に残留するリチウム量のことを意味する。この不可逆容量の問題は、高容量が要求される車両用途への実用化において大きな開発課題となっており、不可逆容量を抑制する試みが盛んに行われている。
【0007】
このような不可逆容量に相当するリチウムを補填する技術として、予め所定量のリチウム粉末を電極上に付着させた炭素材料を負極活物質として用いる方法が提案されている(特許文献1を参照)。この開示によれば、負極に初回充放電容量差に相当する量のリチウムを予備吸蔵(プレドープ)させることにより、初充電時に充放電容量差を解消でき高容量で安全な電池が得られる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−234621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、リチウムを予備吸蔵させた負極では、リチウムのドープ時にリチウムと負極活物質との間で発熱反応が生じる。特に、特許文献1のように負極上にリチウムを付着させる場合には、リチウムと負極活物質との接触面積が大きいために発熱量も大きくなる。その結果、電極層に含まれるバインダーなどの電極構成材料が溶解して活物質間の抵抗が上昇し、これにより電極の内部抵抗が上昇するおそれがあるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、リチウムと負極活物質との間の過度な発熱反応を防止して、電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、不可逆容量を補償しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着した二次粒子を負極表面に配置することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極に関する。そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前記負極活物質層の表面に、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着してなる二次粒子を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁性粒子がリチウム粒子間、および負極活物質とリチウム粒子間に存在することにより、リチウムのドープ時においてリチウム粒子が負極活物質と直接電気的に接触するのを抑制できる。したがって、リチウムと負極活物質との間の過度な発熱反応が防止され、電池の内部抵抗を上昇させることなく不可逆容量を補償することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコア−シェル構造を有する二次粒子の模式断面図である。
【図3】中空構造を有する二次粒子の模式断面図である。
【図4】本発明の一実施形態である積層型のリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。
【図5】本発明の一実施形態である双極型のリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。
【図6】本発明の一実施形態である積層型電池を複数個接続して得られる組電池を示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態である組電池を搭載する自動車の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
[負極]
本発明の一実施形態は、集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極に関する。そして、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、前記負極活物質層の表面に、リチウム粒子の表面に絶縁物質を含む粒子が付着してなる二次粒子を有することを特徴とする。
【0017】
図1は、本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。以下、図1に示すリチウムイオン二次電池用負極を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0018】
図1に示す本実施形態の負極10は、集電体1と、負極活物質層2と、リチウムプレドープ層3とが順に積層された構造を有する。ここで、リチウムプレドープ層3はリチウム粒子の表面に絶縁物質を含む粒子が付着してなる二次粒子を含んで構成されている。なお、図1に示す実施形態においては、該二次粒子が負極活物質層上にリチウムプレドープ層3を形成している。このように二次粒子が負極活物質層上に層を形成していると、二次粒子に含まれるリチウムを均質に活物質層全体に供給することができるため好ましい。ただし、二次粒子は、負極活物質層の表面に存在していればよく、図示した層を形成した形態のみに限定されるわけではない。例えば、二次粒子が負極活物質層の表面の一部のみに付着した形態であってもよい。場合によっては、二次粒子と負極活物質層との間に他の物質が存在してもよいし、リチウムプレドープ層と負極活物質層との間に他の層が存在してもよい。また、二次粒子の付着は、物理的相互作用によるものであってもよいし、化学的相互作用によるものであってもよい。
【0019】
以下、本実施形態の負極10を構成する部材について説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0020】
[集電体]
集電体は導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0021】
[負極活物質層]
負極活物質層は負極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などをさらに含んで構成される。
【0022】
負極活物質層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、活物質層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0023】
(負極活物質)
負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、リチウムと合金化する元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化する元素を含む形態としては、リチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等が挙げられる。
【0024】
リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。また、リチウムと合金化する元素を含む材料はリチウムのドープ時に急激な発熱反応を起こし、炭素材料などの他の負極活物質に比べて発熱量を増加させる。本発明では、予備吸蔵されたリチウム粒子の表面に絶縁性物質などが付着していることによりリチウムと負極活物質との過剰な反応が抑制される点に特徴を有し、リチウムとの反応による発熱量が大きい活物質を用いた場合に本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0025】
上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、SiO(0<x<2)、二酸化スズ(SnO)、SnO(0<x<2)、SnSiOなどを用いることができる。また、炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)などを用いることができる。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
この他、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム金属等の金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0027】
ただし、容量を向上させるためには、上記リチウムと合金化する材料を多く活物質中に含むことが好ましい。具体的には、負極活物質中、リチウムと合金化する材料を50質量%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%を含む。
【0028】
(導電剤)
導電剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本発明に用いられうる導電剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上、電解液の保液性の向上による信頼性向上に寄与しうる。
【0029】
(第1のバインダー)
負極活物質層は第1のバインダーを含んでもよい。本発明において、「第1のバインダー」とは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で活物質層に加えられるバインダーを意味し、後述する「第2のバインダー」と区別して使用される。
【0030】
第1のバインダーとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0031】
(電解質)
電解質としては、後述する[電解質層]の項で説明する液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質を特に制限なく用いることができる。液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質の具体的な形態については、後述する[電解質層]の項で説明するため、詳細はここでは省略する。これらの電解質は1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、後述する電解質層に用いた電解質と異なる電解質を用いてもよいし、同一の電解質を用いてもよい。
【0032】
[リチウムプレドープ層]
リチウムプレドープ層は、初回充放電において生じる電極の不可逆容量を補償するためのリチウム(イオン)の予備吸蔵層として機能する。リチウムプレドープ層は、リチウム粒子および絶縁性粒子、ならびに必要に応じて導電性粒子および/または第2のバインダーを含む二次粒子から構成される。
【0033】
リチウムプレドープの厚さに特に制限はないが、高エネルギー密度化の観点から、電極の不可逆容量を補償するためのリチウムを吸蔵できる限り薄い方が好ましい。一例を挙げると、リチウムプレドープ層の厚さは1〜100μm程度である。
【0034】
以下、リチウムプレドープ層を構成する部材について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0035】
(二次粒子)
二次粒子はリチウム粒子および絶縁性粒子、ならびに必要に応じて導電性粒子および/または第2のバインダーから形成される複合粒子である。複合粒子化することにより、リチウムプレドープ層に含まれる絶縁性粒子や第2のバインダーなどの構成成分の含有量を低減することができる。その結果、電極の低抵抗化および高エネルギー密度化が可能となる。
【0036】
一実施形態において、二次粒子はリチウム粒子の表面に絶縁性粒子および導電性粒子が付着してなる。すなわち、本実施形態において、該二次粒子はリチウム粒子からなるコア部と絶縁性粒子および導電性粒子からなるシェル部とからなるコア−シェル構造を有する。以下、かようなコア−シェル構造を有する二次粒子を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されず、本発明の効果が損なわれない範囲で、他の様々な形態を採用することができる。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に係るコア−シェル構造を有する二次粒子の模式断面図である。図2に示すように、好適な実施形態において、二次粒子30はリチウム粒子31の表面に絶縁性粒子32および導電性粒子33が付着してなる。すなわち、リチウム粒子31の表面は絶縁性粒子32および導電性粒子33により被覆されている。かような形態によれば、絶縁性粒子および導電性粒子がリチウム粒子の表面に存在することにより、リチウムと負極活物質とが直接電気的に接触するのを抑制できる。これにより、リチウムと負極活物質との間の過度な反応が抑制されるため、この反応により生じる発熱量を低減できる。その結果、負極の内部抵抗を上昇させることなく不可逆容量を補償することが可能となる。
【0038】
絶縁性粒子などのシェル部がリチウム粒子(コア部)に付着する形態は特に制限されない。例えば、リチウム粒子の表面が完全にシェル部に被覆されている形態であってもよいし、リチウム粒子の表面が部分的に被覆されてその表面の一部が露出した形態であってもよい。好ましくは、完全に被覆された形態である。二次粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0039】
二次粒子の平均粒子径(r1)は、特に制限されない。ただし、リチウム粒子の取り扱いや電池のエネルギー密度の観点から、1〜100μmであることが好ましく、5〜80μmであることがより好ましい。なお、本発明において「粒子径」とは、粒子(またはその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。後述するリチウム粒子や絶縁性粒子などの粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
【0040】
(リチウム粒子)
リチウム粒子とは、金属リチウムの粉末を意味する。リチウム粒子は、初回充放電において生じる電極の不可逆容量を補償する機能を有する。リチウム粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0041】
リチウム粒子の平均粒子径(r2)は特に制限されない。ただし、上述した二次粒子の平均粒子径(r1)とリチウム粒子の平均粒子径(r2)との比(r1/r2)は、好ましくは1.01以上2.0以下の範囲であり、より好ましくは1.01〜1.7の範囲、さらに好ましくは1.1〜1.5の範囲である。r1/r2が1.01以上であれば、リチウム粒子(コア部)表面上が絶縁性微粒子などから構成されるシェル部により十分に被覆される。このため、リチウム粒子と活物質との間の直接の接触を低減でき、これにより過度の反応を抑制することが可能となる。一方、r1/r2が2.0以下であれば、リチウム粒子(コア部)表面を被覆する絶縁性粒子や導電性粒子などのシェル部構成材料の量を低減できるため、電極の高エネルギー密度化が図れる。また、粒子の総表面積の増大を防止できるため、バインダーを用いて二次粒子を構成する場合に、抵抗増大の原因となるバインダー量を低減することができる。より具体的には、リチウム粒子の平均粒子径は1〜100μmであることが好ましく、3〜70μmであることがより好ましく、10〜60μmであることがさらに好ましい。1μm以上であれば、取り扱いが容易であるため好ましい。100μm以下であれば、リチウムプレドープ層が厚くならずに、エネルギー密度が減少しないため好ましい。
【0042】
リチウムプレドープ層におけるリチウム粒子の含有量は、負極活物質の不可逆容量相当量であることが好ましい。不可逆容量相当量以上の場合は初回充電時に負極上のリチウムのデンドライドが発生する可能性が大きく、正極と負極との間で内部短絡を起こす可能性があるため好ましくない。製造上のバラツキを考慮した上でリチウム粒子の含有量を定めた方がよい。なお、電極の不可逆容量は、予め使用する負極を用いた電池を別途作製して充放電を行い、充電前と充電後の放電容量の差分から算出することができる。
【0043】
(絶縁性粒子)
絶縁性粒子とは、電気絶縁性を示す粒子を意味する。本発明では、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子を有するため、リチウムと負極活物質との間の過度の反応を抑制して反応熱を抑制し、抵抗上昇を防ぐことが可能となる。その結果、電池の信頼性を向上させることができる。
【0044】
絶縁性微粒子を構成する材料は、電気絶縁性を示す材料であれば特に制限されず、従来公知の無機絶縁物質および有機絶縁物質を使用することができる。無機絶縁物質としては、例えば、SiO、Al、TiO、ZrO、MgO、ZnO、SnO、WO、HfO、Ta、BaTiO、BaZrO、Al、Y、およびZrSiOなどの金属酸化物や、AlN、Siなどの窒化物が挙げられる。有機絶縁物質としては、例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂、フッ化イミドなどのポリイミド系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性(絶縁性)および機械的強度の面でSiO、Al、TiOからなる群より選択される少なくとも一種以上の酸化物が好適に用いられる。これらの材料は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、絶縁性粒子は、全てが無機絶縁物質からなる粒子(無機絶縁性粒子)であってもよいし、全てが有機絶縁物質からなる粒子(有機絶縁性粒子)であってもよいし、これらの粒子の混合物であってもよい。絶縁性粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0045】
絶縁性粒子の粒子径(r3)は特に制限されないが、リチウム粒子表面への良好な被覆性を確保するために前記リチウム粒子の粒子径(r2)よりも小さいことが好ましい。具体的には、絶縁性粒子の平均粒子径(r3)とリチウム粒子の平均粒子径(r2)との比(r3/r2)は0.001以上0.20以下であることが好ましく、0.03以上0.18以下であることが好ましい。かような範囲であれば、リチウム粒子と絶縁性粒子との接触点が十分に存在するため、リチウム粒子と活物質との間の過度の反応を抑制することが可能となる。より具体的には、絶縁性粒子の粒子径(r3)は0.1〜20μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましい。0.1μm以上であれば、取り扱いが容易であるとともにリチウム粒子と活物質との間の反応抑制の効果が十分に発揮される。20μm以下であれば、リチウム粒子(コア部)と絶縁性粒子との間の隙間(空隙)を小さくすることができるため、二次粒子の機械的強度を向上することができる。
【0046】
(導電性粒子)
二次粒子は導電性粒子を含んでもよい。導電性粒子とは、電気伝導性を示す粒子を意味する。導電性粒子を含む場合には、リチウムプレドープ層に良好な電子ネットワークが形成される。これにより、二次粒子のコア部に存在するリチウム粒子中のリチウムがイオン化する際に発生する電子の伝導性が向上し、電極層の内部抵抗を低減しうる。
【0047】
導電性粒子を構成する材料は、電気伝導性を示し、かつリチウムと合金化反応しない材料であれば特に制限されない。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、および炭素繊維などの炭素材料ならびにTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびMoなどのリチウムと合金化反応しない金属から選択される少なくとも一種以上が好適に用いられる。中でも、耐電位性を有し、電気伝導性に優れ、安価である点で、カーボンブラック、Cu、Niを用いることが好ましい。これらの材料は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。導電性粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0048】
導電性粒子の粒子径(r4)は特に制限されないが、リチウム粒子表面への良好な被覆性を確保するために前記リチウム粒子の粒子径(r2)よりも小さいことが好ましい。具体的には、導電性粒子の平均粒子径(r4)とリチウム粒子の平均粒子径(r2)との比(r4/r2)は0.001以上0.20以下であることが好ましく、0.03以上0.18以下であることがより好ましい。かような範囲にあれば、リチウム粒子と導電性粒子との接触点が十分に存在するため、良好な電子ネットワークが形成され、リチウム粒子間、リチウム粒子と活物質層との間の導電性を向上させうる。
【0049】
また、導電性粒子の平均粒子径(r4)は絶縁性粒子の平均粒子径(r3)よりも大きいことが好ましい。具体的には、導電性粒子の平均粒子径(r4)と絶縁性粒子の平均粒子径(r3)との比(r4/r3)は1.01以上100以下であることが好ましく、1.1以上10以下であることがさらに好ましい。かような範囲にあれば、電子ネットワークが形成できるため好ましい。かような形態によれば、リチウム粒子間の電子ネットワークをより強固なものとできる。具体的には、導電性粒子の粒子径(r4)は0.1〜20μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。0.1μm以上であれば、電子伝導性の向上効果が十分に得られる。5μm以下であれば、リチウム粒子(コア部)と導電性粒子との間の隙間(空隙)を小さくすることができるため、二次粒子の機械的強度を向上することができる。
【0050】
(第2のバインダー)
二次粒子は第2のバインダーを含んでもよい。本発明において、「第2のバインダー」とは、リチウム粒子、絶縁性粒子、および導電性粒子などの二次粒子の構成粒子(一次粒子)同士、ならびに二次粒子と電極層との間を結着させる目的で添加されるバインダーを意味する。二次粒子がバインダーを含む場合には、一次粒子同士および二次粒子と電極層との間がバインダーで結着され、強固な二次粒子を作製、維持することができる。
【0051】
本発明に用いられうる第2のバインダーとしては、特に制限されず、第1のバインダー材料として例示した材料が同様に用いられうる。中でも、耐溶剤性から、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が好ましく用いられる。なお、第2のバインダーは、活物質層に使用する第1のバインダーと同じであっても、異なってもよいが、良好な結着性が得られる点で同じである方が好ましい。
【0052】
二次粒子における第2のバインダーの含有量については、一次粒子同士の良好な結着性とリチウムプレドープ層の導電性、および電極層とリチウムプレドープ層の結着性が確保できる限り特に制限されない。第2のバインダーの含有量は上記結着性を確保できれば、極力少なくすることが、電池の抵抗増加抑制のために好ましい。
【0053】
(ドープ後)
本実施形態による負極においては、リチウム(イオン)がプレドープ(予備吸蔵)されている。そして、エージングおよび/または初充電の際に、二次粒子内のリチウム粒子に含まれるリチウムの全部または一部がイオン化して、負極活物質層および/または正極活物質層内にドープされる。
【0054】
その結果、二次粒子中のリチウム粒子が存在していたコア部の全部または一部は空隙(中空領域)となり、ドープ後の二次粒子は中空構造を有しうる。
【0055】
図3は、中空構造を有する二次粒子の模式断面図である。図3に示すように、ドープ後の二次粒子40では、通常、リチウム粒子に含まれるリチウムの全部が活物質層内にドープされる。そして、絶縁性粒子32、導電性粒子33からなる環状物(シェル部)が残り、この環状物の内側に中空領域34が存在する構造となる。
【0056】
中空領域の形状は特に限定されるものではなく、球状、略球状、楕円球状、角体状などの様々な形状であってよい。中空領域のサイズや分散形態も特に限定されないが、二次粒子の機械的強度を確保するために、微細なサイズで均一に分散されていることが好ましい。かようなプレドープ後の二次粒子の中空構造は、例えば、電極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて撮影することにより確認することができる。
【0057】
中空構造における中空領域(空隙)の割合、すなわち二次粒子の空孔率は特に制限されない。中空構造の空孔率はリチウム粒子の量および絶縁性粒子の量、ならびに導電性粒子および/または第2のバインダーを使用する場合には導電性粒子および/または第2のバインダーの量を調整することにより制御することができる。より具体的には、従来の電極層と同様に電極プレス工程により空孔率を制御することができる。中空領域(空隙)のサイズ(孔径)も特に制限されない。
【0058】
かような中空構造は電池の充放電過程において、電解液保持層として機能しうる。充放電時における膨張収縮が大きい活物質(例えば、合金系負極活物質)を用いた場合には、活物質層において電解液の不足が生じたり、電解液の保持が不均一となったりするおそれがある。このような中空構造が活物質層と電解液保持層との間に存在する場合には、二次粒子内部の中空領域に電解液が保持され、均一かつ円滑な電解液の吸収・供給が可能となるため好ましい。
【0059】
[負極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0060】
本発明の他の一形態によれば、集電体の表面に負極活物質層を形成する工程と(活物質形成工程)、リチウム粒子と絶縁性粒子と溶媒とを含む分散液を噴霧乾燥することにより二次粒子を調製する工程(二次粒子調製工程)と、前記二次粒子を集電体の表面に形成された負極活物質層上に塗布する工程(塗布工程)と、を含むリチウムイオン二次電池用負極の製造方法が提供される。かような方法を用いることにより、リチウムと負極活物質との間の過度の反応を抑制して反応熱を抑制し、抵抗上昇を防止しうるリチウムイオン二次電池用負極を容易に得ることができる。
【0061】
(1)活物質層形成工程
まず、負極活物質、導電剤および第1のバインダーなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して負極活物質スラリーを調製する。
【0062】
スラリー粘度調製溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。
【0063】
次いで、集電体の表面に上記スラリーを塗布する。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0064】
続いて、集電体の表面に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調製溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物はプレスすることによって電極の密度、空孔率や厚みが調整される。
【0065】
これにより、集電体の表面に負極活物質層が形成される。
【0066】
(2)二次粒子調整工程
本工程では、リチウム粒子と絶縁性粒子と溶媒とを含む分散液を噴霧乾燥することにより二次粒子を調製する。分散液の調製方法およびこれを噴霧乾燥する方法については、上述した二次粒子が得られる方法であれば特に制限されないが、以下のような方法を用いることが好ましい。
【0067】
まず、(a)リチウム粒子と絶縁性粒子とを、溶媒に分散させて分散液を調製する(分散液の調製段階)。次いで、(b)分散液を噴霧乾燥することにより二次粒子を調製する(噴霧乾燥段階)。以下、これらの各段階について説明する。
【0068】
(a)分散液の調製段階
本段階では、リチウム粒子と絶縁性粒子とを、溶媒に分散させて分散液を調製する。分散溶媒としては、リチウムと反応しない溶媒であれば特に制限されることはないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、イソパラフィン、ミネラルオイルなどの飽和炭化水素や芳香族炭化水素などが好ましく用いられる。分散液中の溶媒の量は良好な分散性が得られる限り特に制限されない。
【0069】
分散液は、ホモジナイザー等の一般的な攪拌装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。固形分は次工程の噴霧乾燥工程で最適な粘度調整をすると好ましい。
【0070】
(b)噴霧乾燥段階
本段階では、上記段階で得た分散液を噴霧乾燥することによりリチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着した二次粒子を得る。噴霧乾燥の方法は、特に制限されず、スプレードライ法などの従来公知の方法を用いることができる。スプレードライ法によれば、噴霧される液滴サイズが均一化されるため、均一な粒子径を有する二次粒子を簡便に得ることができる。
【0071】
噴霧乾燥はアルゴン、水分を含まないドライエアー等のリチウムと反応しない雰囲気下で行うことが好ましい。噴霧乾燥の温度としては、溶媒の種類にもよるが、60〜170℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。かような温度であれば、高温によりリチウムが融解されることなく、噴霧された液滴がすばやく乾燥され、凝集されることなく単分散された二次粒子が得られるため好ましい。二次粒子の粒子径の制御は、ノズル径、乾燥温度、噴霧ガス圧力などを調節することによって行うことができる。
【0072】
以上の手順により、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着した二次粒子が得られる。なお、導電性粒子や第2のバインダーを含む二次粒子を用いる場合には、上記分散液の調製の際に、リチウム粒子および絶縁性粒子に加えて導電性粒子および/または第2のバインダーを溶媒に分散(溶解)させ、この分散液を用いて噴霧乾燥を行えばよい。
【0073】
(3)塗布工程
集電体の表面に形成された活物質層上に上記工程で得た二次粒子を塗布する。これにより、負極活物質層の表面に二次粒子を含むリチウムプレドープ層が形成される。
【0074】
リチウム粒子や絶縁性粒子などは比重が軽い。このため、これらの一次粒子を複合化しないでリチウムプレドープ層を形成した場合には、分散性の制御が困難であり、リチウム粒子や絶縁性粒子などが不均一に分散した構造となってしまう。この場合、リチウム粒子と負極活物質とのドープ反応が不均一に生じるため、電極で電位の部分的なバラツキが生じ、信頼性が低下する。これに対し、本発明では、リチウム粒子や絶縁性粒子などの一次粒子を予め複合化してなる二次粒子を用いるため、分散性の制御が容易である。これにより、リチウム粒子や絶縁性粒子などのばらつきが小さく単位面積当たりのリチウムプレドープ量が均一化されたリチウムプレドープ層を得ることができる。その結果、信頼性の向上した電池が得られる。
【0075】
二次粒子の塗布方法は特に制限されない。例えば、二次粒子をスラリー粘度調製溶媒に分散して二次粒子スラリーを調製し、このスラリーを活物質層の表面に塗布すればよい。スラリー粘度調製溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、イソパラフィン、ミネラルオイルなどの飽和炭化水素や芳香族炭化水素などが挙げられ、分散させる装置としてはホモジナイザー等の一般的な攪拌装置などを使用できるが、これらに制限されるわけではない。
【0076】
塗布手段は特に制限されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。塗布を行う際の温度も特に制限されない。
【0077】
続いて、加熱処理などにより二次粒子の塗膜を乾燥させる。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、二次粒子スラリーの塗布量やスラリー調製溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。
【0078】
あるいは、二次粒子を活物質表面に転写付着させてもよい。転写手段は特に制限されないが、例えば、粒子転写法などの手段が採用されうる。転写を行う際の温度も特に制限されない。
【0079】
二次粒子の塗布量は、負極の不可逆容量の補償分量とする。目的に応じてセル設計を行い、単位面積あたりのリチウム粒子の質量[mg/cm]を適時適量となるように塗布することが好ましい。また、塗布する二次粒子の厚さは、固形分を調整し、乾燥後に所望の厚さとなるように塗布すればよい。また、得られた乾燥物をプレスすることによって密度や厚みを調整してもよい。
【0080】
[電池]
上記実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極はリチウムイオン二次電池に用いられうる。すなわち、本発明の一形態は上記の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極によって構成される、リチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池の構造および形態は、積層型電池、双極型電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。以下、本発明のリチウムイオン二次電池の構造について説明する。
【0081】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極によって構成される。
【0082】
[積層型電池]
本発明の一実施形態は、積層型のリチウムイオン二次電池(以下、「積層型電池」とも称する)である。
【0083】
積層型電池は、一の集電体の両面とそれぞれ電気的に結合した正極活物質層を有する正極と、他の集電体の両面とそれぞれ電気的に結合した負極活物質層を有する負極と、前記正極および前記負極の間に配置された電解質層とが交互に積層されてなる。
【0084】
図4は、本発明の一実施形態である、積層型のリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。以下、図4に示す積層型電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。例えば、本発明の電池は、双極型のリチウムイオン二次電池であってもよい。
【0085】
図4に示す本実施形態の積層型電池100は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素170が、外装体であるラミネートシート220の内部に封止された構造を有する。
【0086】
図4に示すように、本実施形態の積層型電池100の発電要素170は、単電池層(=電池単位ないし単セル)160を含む。単電池層160は、正極活物質層150が正極集電体140の表面に形成されてなる正極240と、電解質層130と、リチウムプレドープ層250および負極活物質層120が負極集電体110の表面に形成されてなる負極230とが順に積層された構成を有する。なお、単電池層160の積層構造において、電解質層130の一方の面はリチウムプレドープ層250と接触し、電解質層130の他方の面は正極活物質層150と接触している。
【0087】
さらに、図4に示すように、負極集電体110(110aを含む)および正極集電体140は、それぞれ負極リード200および正極リード210を経て、超音波溶接などの手法によってそれぞれ負極タブ180および正極タブ190に電気的に接続される。そして、発電要素170は、これらの負極タブ180および正極タブ190が外部に導出するように、外装体であるラミネートシート220により封止されている。
【0088】
なお、図4に示す積層型電池100においては、負極活物質層120が正極活物質層150よりも一回り大きいが、かような形態のみには制限されない。また、図4に示す積層型電池100においては、最外層集電体110aおよび110bの片面に活物質層が形成されているが、両面に活物質層が設けられた形態であってもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体110aおよび110bとするのではなく、両面に活物質層がある集電体110をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。
【0089】
本実施形態においては、全ての負極活物質層120上にリチウムプレドープ層が設けられているが、かような形態のみには制限されず、発電要素170に含まれる少なくとも1つの負極活物質層120の表面にリチウムプレドープ層300が設けられていればよい。負極活物質層120の表面にリチウムプレドープ層300が存在しない場合には、負極活物質層120の片面は電解質層130と接することとなる。さらに、リチウムプレドープ層300は正極、すなわち、正極活物質層150と電解質層130との間に設けられてもよい。リチウムプレドープ層は、電極の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0090】
以下、本実施形態の積層型電池100を構成する部材について簡単に説明する。ただし、負極を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0091】
[正極]
[正極活物質層]
正極活物質層は正極活物質を含み、必要に応じて導電剤、バインダー、電解質、電解質支持塩などをさらに含んで構成される。正極活物質層の構成要素のうち、正極活物質以外は、上記で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。正極活物質層中に含まれる成分の配合比および正極活物質層の厚さについても特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0092】
(正極活物質)
正極活物質は特にリチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質を利用することができる。具体的には、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物、LiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物、LiNi0.5Mn0.5などのLi−Ni−Mn系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0093】
[電解質層]
電解質層は、非水電解質を含む層である。電解質層に含まれる非水電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。非水電解質としてはかような機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0094】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の合剤層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0095】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0096】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、正極合剤層および負極合剤層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(電解質塩および可塑剤)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩およびカーボネート類などの可塑剤が用いられうる。
【0097】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0098】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0099】
これらの電解質層に含まれる非水電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい
なお、電解質層が液体電解質やゲルポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いる。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0100】
電解質層の厚さは、内部抵抗を低減させるには薄ければ薄いほどよいといえる。電解質層の厚さは、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、とするのがよい。
【0101】
[タブ]
積層型電池100では、電池外部に電流を取り出す目的で、それぞれの負極集電体110(110aを含む)および正極集電体140が発電要素170の端部において集められ、タブ(負極タブ180および正極タブ190)に電気的に接続される。さらに、これらのタブ(180、190)が外装体であるラミネートシート220の外部に取り出される。具体的には、それぞれの負極集電体110、110aに電気的に接続された負極タブ18と、それぞれの正極集電体140に電気的に接続された正極タブ190とが、外装体であるラミネートシート220の外部に取り出される。
【0102】
タブ(負極タブ180および正極タブ190)を構成する材料は特に制限されず、積層型電池用のタブとして従来用いられている公知の材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、負極タブ180と正極タブ190とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。接続方法としては、本実施形態のように、別途準備したタブ(180、190)を集電体(110、140)に接続してもよいし、集電体を延長することによりタブとしてもよい。また、集電体(110、140)とタブ(180、190)との間を負極端子リード200、正極端子リード210を介して電気的に接続してもよい。
【0103】
[外装体]
リチウムイオン二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電解質保持層の形成された発電要素全体を電池外装材ないし電池ケースに収容するのが望ましい。外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができるほか、アルミニウムを含むラミネートシートを用いた発電要素を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。ラミネートシートは形状の自由度が高いため、狭い空間に実装し易いことに加え、膨張収縮の大きな負極材料を用いた電池にも好適に適用することができる。
【0104】
金属缶ケースタイプの外装体は強度を有するため、缶内の発電要素が多少膨張収縮しても吸収でき、セルの厚み変化は生じない。また、缶の材質、板厚の設計および外装缶と発電要素のクリアランス等を検討することにより、所望の強度および大きさを有する缶ケースを得ることが可能である。
【0105】
高分子−金属複合ラミネートシートとしては、特に制限されず、高分子フィルム間に金属フィルムを配置し全体を積層一体化してなる従来公知のものを使用することができる。具体的には、高分子フィルムからなる外装保護層(ラミネート最外層)、金属フィルム層、高分子フィルムからなる熱融着層(ラミネート最内層)のように配置し全体を積層一体化してなるものが挙げられる。
【0106】
中でも特に、形状の自由度の高いアルミラミネートフィルムの外装体を用いることが好ましい。本発明において、「アルミラミネート」とはアルミニウムを含む積層物をいう。アルミラミネートフィルムの具体的な形態としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0107】
[双極型電池]
本発明の電池は、双極型のリチウムイオン二次電池(以下、「双極型電池」とも称する)でありうる。
【0108】
双極型電池は、集電体の一方の面と電気的に結合した正極活物質層を有する正極と、前記集電体のもう一方の面と電気的に結合した負極活物質層を有する負極と、正極および負極の間に配置された電解質層と、が交互に積層されてなる非水電解液二次電池である。
【0109】
双極型電池は、積層型電池に比して一層の高出力密度および高電圧を有しうる利点があるため好ましい。積層型電池は正極および負極のそれぞれからリード線をとり、当該リード線を介して隣の電池と接続される。このため、リード線の長さに相当して電子の伝導パスが長くなり、電池の出力が低くなる。これに対して双極型電池は、集電体を介して縦方向(電極の積層方向)に電流が流れるため、電子の伝導パスを短くでき、高出力になる。
【0110】
図5は本発明の他の一実施形態である、双極型のリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。図5に示す本実施形態の双極型電池300は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素370が、外装体であるラミネートシート420の内部に封止された構造を有する。
【0111】
図5に示すように、本実施形態の双極型電池300の発電要素370は、複数の双極型電極340を含む。双極型電極340は、集電体310の片面に正極活物質層350を設けた正極と、他方の面に負極活物質層320およびリチウムプレドープ層450を設けた負極を備えた構造を有している。すなわち、双極型電池300は、双極型電極340を、電解質層330を介して積層させてなる単電池層360を有する発電要素370を具備してなる。また、図5に示す形態において、電解質層330は、非水電解質を保持している。
【0112】
なお、最外層に位置する集電体は、最外層集電体310aおよび310bであり、これには片面にのみ、負極活物質層320または正極活物質層350のいずれか一方が形成されている。この最外層集電体310aおよび310bのさらに外側に集電板380a、390bが設けられている。また、集電板380a、390bは、集電体310より厚く形成することで、積層された複数の単電池層360からの電流を取り出しやすくなるようにしている。
【0113】
そして、これら各部材が、ラミネートシート420によって封止されている。集電板380a、390bは、それぞれラミネートシート420の外に延長されて負極タブ380および正極タブ390とされている。また、単電池層360の外周には、隣接する集電体310の間を絶縁するための絶縁層430が設けられている。
【0114】
なお、集電板に代えて、最外層集電体310aおよび310bを厚くして、そのままラミネートシート420の外に延長して負極タブおよび正極タブとしてもよい。また、最外層集電体310aおよび310bと集電板380a、390bの間に活物質層があってもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層集電体310aおよび310bとするのではなく、両面に活物質層がある集電体310をそのまま最外層の集電体として用いてもよいのである。
【0115】
以下、本実施形態の双極型電池300を構成する部材について簡単に説明するが、上記双極型電池の構成要素のうち、電極構成成分、タブおよび外装体については上記に記載した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0116】
[絶縁層]
双極型電池300においては、通常、各単電池層360の周囲に絶縁層(シール部)430が設けられる。この絶縁層(シール部)430は、電池内で隣り合う集電体31同士が接触したり、発電要素370における単電池層360の端部の僅かな不揃いなどによる短絡が起きたりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層430の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池300が提供されうる。
【0117】
絶縁層としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、またはゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂またはエポキシ樹脂が好ましい。
【0118】
[電池の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0119】
本発明の他の一形態によれば、上記方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極を用いて発電要素を製造する工程と、前記発電要素をエージングする工程と、を含むリチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。
【0120】
1.発電要素の作製工程
例えば、積層型電池の場合には、まず、正極および負極を作製する。負極としては、上述した方法を用いてリチウム粒子を予備吸蔵させたリチウムイオン二次電池用負極を作製すればよい。正極については、負極と同様に、活物質、導電剤およびバインダーなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して正極活物質スラリーを調製し、集電体の両面に上記スラリーを塗布した後、乾燥およびプレスすることにより作製すればよい。
【0121】
次に、正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、単電池を作製するとよい。そして、単電池の数が所望の数となるまでセパレータおよび電極の積層を繰り返す。かような製造方法によれば、より簡便な手法によってセパレータの形成が可能であり、かつ、セパレータと活物質層との密着性が高い発電要素が作製されうる。
【0122】
そして、各正極と負極を束ねてリードを溶接して、この積層体を正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバッグに収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールして電池とする。
【0123】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池およびここで挙げた電解質を用いた双極型電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0124】
2.エージング工程
こうして得た電池を所定の時間エージング(静置)する。これにより、リチウムプレドープ層に存在するリチウム粒子がイオン化して負極活物質層および/または正極活物質層にドープされる。エージング工程を有することにより、活物質層における単位面積当たりのリチウムドープ量を均一化することができ、信頼性の向上した電池が得られる。
【0125】
エージングの温度は、プレドープ時間を短縮する点で好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜60℃である。また、エージング時間は、活物質量とプレドープ量により異なるが、通常24〜120時間程度である。
【0126】
エージング工程後の電池の電圧は、セル設計、すなわちプレドープ量による異なる。好ましくは、1.0V以上3.2V以下であることが好ましく、1.2〜3.0Vであることがより好ましい。かような範囲の電圧を有する場合には、リチウムが活物質層に十分にドープされている。
【0127】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池およびここで挙げた電解質を用いた双極電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0128】
[組電池]
本発明の電池の複数個を、並列および/または直列に接続して、組電池としてもよい。
【0129】
図6は、本実施形態の組電池を示す斜視図である。
【0130】
図6に示すように、組電池500は、上記の実施形態に記載の積層型電池100が複数個接続されることにより構成される。各積層型電池100の正極タブ180および負極タブ190がバスバーを用いて接続されることにより、各積層型電池100が接続されている。組電池500の一の側面には、組電池500全体の電極として、電極ターミナル(520、530)が設けられている。
【0131】
組電池500を構成する複数個の積層型電池100を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池500の長期信頼性が向上しうる。
【0132】
本発明の組電池500によれば、組電池500を構成する個々の積層型電池100が容量特性およびサイクル特性に優れることから、容量特性およびサイクル特性に優れる組電池が提供されうる。
【0133】
なお、組電池500を構成する積層型電池100の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。これにより、容量および電圧を自由に調節することが可能となる。
【0134】
[車両]
本発明の電池は、上述した積層型電池100、双極型電池300、または組電池500をモータ駆動用電源として車両に搭載されうる。積層型電池100、双極型電池300、または組電池500をモータ用電源として用いる車両としては車輪をモータによって駆動する自動車、および他の車両(例えば電車)が挙げられる。上記の自動車としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などがある。これにより、従来に比して高寿命で信頼性の高い車両を製造することが可能となる。
【0135】
参考までに、図7に、組電池を搭載する自動車の概略図を示す。自動車600に搭載される組電池500は、上記で説明したような特性を有する。このため、組電池500を搭載する自動車600は容量特性およびサイクル特性に優れた車両となる。
【0136】
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0137】
以下、本発明による負極およびこれを用いた二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0138】
[積層型電池]
[実施例1]
1.負極の作製
(1)活物質層形成工程
負極活物質としてSiO(45質量%)およびグラファイト(SFG−6)(40質量%)、導電剤としてアセチレンブラック(5質量%)、及び第1のバインダーとしてポリイミド(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極活物質スラリーを調製した。
【0139】
集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、集電体の両面に上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、60℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の活物質層の厚みが30μmの負極層を作製した。
【0140】
(2)二次粒子調製工程
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:3.0μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.1μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.2μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これらを溶媒であるキシレンに分散させることにより、分散液を得た。
【0141】
次いで、この分散液をスプレードライ法により噴霧乾燥することにより、リチウム粒子の表面にAlおよび銅粉が付着した二次粒子(形状:粉末状、平均粒子径r1:5.8μm)を得た。
【0142】
(3)塗布工程
上記で得た二次粒子とヘキサンからスラリーを作製し、ドクターブレードを用いて負極活物質層上に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで、負極活物質層上に二次粒子からなるリチウムプレドープ層(厚さ5μm)を形成させた。
【0143】
これらの工程により、負極活物質層上にリチウムプレドープ層を有する負極を得た。
【0144】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0145】
2.正極の作製
正極活物質としてLiNiO(86質量%)、導電剤としてアセチレンブラック(6質量%)、およびバインダーとしてPVDF(8質量%)を、スラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、正極活物質スラリーを調製した。
【0146】
集電体として、厚さ20μmのアルミニウム箔を準備し、集電体の両面に上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、60℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の活物質層厚みが130μmの正極を作製した。
【0147】
得られた正極を、電極部サイズが34mm×24mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の正極を作製した。
【0148】
3.発電要素の作製
上記で調整した積層用の正極5枚、積層用の負極6枚、セパレータ10枚を位置ズレが生じないように治具を用いて、下記のように正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、発電要素を完成させた。なお、セパレータとしては、ポリエチレン微多孔質膜(材質:PE、厚さ:25μm、空孔率:40%)を準備した。
【0149】
【表1】

【0150】
(積層構造)
4.評価用セルの作製
上記で作製した発電要素の正極にアルミニウム製タブリードを、負極にニッケル製タブリードを、超音波溶接にて接続させた。次いで、当該発電要素を、発電要素のサイズに成形されたアルミラミネートフィルムの外装の内部に入れ、電解液を注液する1辺を残し、残り3辺を熱融着して袋状にした。その内部に、所定量の電解液を注入して含浸させた後、残りの1辺を真空封止して評価用セルを作製した。
【0151】
なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との等体積混合液(EC:DMC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。
【0152】
[実施例2]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:18.0μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0153】
[実施例3]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:40.0μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:1.2μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:1.5μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:48.0μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0154】
[実施例4]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:23.2μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0155】
[実施例5]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:29.3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0156】
[実施例6]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:35.6μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0157】
[実施例7]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:1.6μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:1.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:20.3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0158】
[実施例8]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:2.4μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:2.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:21.6μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0159】
[実施例9]
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:3.9μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:4.5μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:25.4μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0160】
[比較例1]
実施例1と同様にして集電体の表面に負極活物質層を形成させた。そして、リチウム粒子を含む二次粒子を塗布することなく、これをそのまま負極として用いて積層用の負極を作製した。この積層用の負極を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0161】
[比較例2]
実施例1と同様にして集電体の表面に負極活物質層を形成させた。
【0162】
続いて、絶縁性粒子および導電性粒子を使用せず、リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm)をそのままキシレン中に分散し、負極活物質層上に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで、負極活物質層上にリチウム粒子からなるリチウムプレドープ層(厚さ5μm)を形成させた。これを負極として使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0163】
[比較例3]
実施例1と同様にして集電体の表面に負極活物質層を形成させた。
【0164】
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。
【0165】
これらをキシレン中に分散させることにより、スラリーを作製し、負極活物質層上に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで、負極活物質層上にリチウム粒子、絶縁性粒子、および導電性粒子の混合物からなるリチウムプレドープ層(厚さ5μm)を形成させた。これを負極として使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0166】
(評価)
(充放電サイクル試験)
上記の方法で作製した各評価用セルについて、50℃雰囲気で72時間の条件でエージングした。エージング後の電池の電圧は3.0Vであった。これにより、リチウムプレドープ層内のリチウムが負極活物質層にドープされる。
【0167】
続いて、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、セル電圧:4.2V)で3時間充電して、充電容量(mAh)を算出した。Cは時間率を示す。ここで、時間率1Cとは、電池の全容量を1時間で充電/放電させるだけの電流量をいう。例えば、0.5Cの電流とは、2時間(=1/0.5時間)で電池の全容量が充電/放電される電流量をいう。
【0168】
その後、定電流(CC、電流:0.5C)でセル電圧2.5Vまで放電させ、放電容量(mAh)を算出した。結果を下記の表2に示す。なお、表2において、充放電効率(百分率)は(放電容量÷充電容量)として算出した。また、抵抗値は下記の方法により測定した。
【0169】
(抵抗測定方法)
定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、セル電圧:4.2V)で3時間充電後、定電流(CC、電流:3.0C)で20秒間放電し、セル電圧変化ΔVと電流値から抵抗値を計算した。
【0170】
【表2】

【0171】
表2より、リチウム粒子、絶縁性粒子および導電性粒子を複合化してなる二次粒子からなるリチウムプレドープ層を有する負極を用いた実施例1〜9のセルは、比較例1〜3のセルに比べて、放電容量および充放電効率が大きいことが確認された。
【0172】
比較例1のセルは、リチウムプレドープ層を有さないため、負極の不可逆容量を補償することができないためであると考えられる。また、リチウムプレドープ層においてリチウム粒子をそのまま用いた比較例2のセルは、実施例1〜9のセルに比べて放電容量および充放電効率が小さく、抵抗の増加も大きかった。このことから、リチウム粒子をそのまま吸蔵させた場合には、電極の抵抗が大きく上昇する上、負極の不可逆容量の補償も不十分であることがわかる。さらに、リチウム粒子、絶縁性粒子および導電性粒子を複合化することなく単純に混合させたリチウムプレドープ層を用いた比較例3のセルでは、充放電効率が多少向上するものの、抵抗は依然として高かった。
【0173】
また、二次粒子の粒子径(r1)とリチウム粒子の粒子径(r2)との比(r1/r2)が1.01以上2.0以下である実施例2、4、5は、r1/r2が2.0を超える実施例6に比べて、充放電効率がより大きく、抵抗も小さかった。
【0174】
絶縁性粒子とリチウム粒子との粒子径の比(r3/r2)および導電性粒子とリチウム粒子との粒子径の比(r4/r2)が0.2以下である実施例2、7、8は、r3/r2およびr4/r2が0.2を超える実施例9に比べて充放電効率がより大きく、抵抗も小さかった。
【0175】
これらのことから、二次粒子や二次粒子を構成する一次粒子(リチウム粒子、絶縁性粒子、導電性粒子)の粒子径を制御することにより、充放電効率をより一層向上させ、電極の抵抗をより一層低減させることができることがわかった。
【0176】
[双極型電池]
[実施例10]
1.二次粒子の調製
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これを用いて調製した二次粒子(平均粒子径r1:18.8μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして二次粒子を調製した。
【0177】
2.双極型電極の作製
実施例1と同様にして、正極活物質スラリーおよび負極活物質スラリーを調製した。集電体として、厚さ20μmのSUS箔を用意し、集電体の一方の面に上記負極スラリーを塗布した後に乾燥させて、厚さ30μmの正極活物質層を形成させた。次いで、集電体の他方の面に、上記正極スラリーを塗布した後に乾燥させて、厚さ20μmの負極活物質層を形成させた。
【0178】
次に、上記で得た二次粒子を実施例1と同様にして、負極活物質層上に塗布した後、乾燥、プレスすることで、負極活物質上にリチウムプレドープ層を形成させた。上記の手順により、集電体であるSUS箔の一方の面に正極が、他方の面に負極が形成された双極型電極を得た。
【0179】
次いで、得られた双極型電極を160mm×130mmのサイズに切断し、切断された電極(正極および負極)の外周部(10mm)を剥がしとることにより、集電体であるSUS表面を露出させた。すなわち、電極面が140mm×110mmであり、電極の外周部10mmに集電体であるSUS箔が露出した積層用の双極型電極を得た。
【0180】
3.電解質層の形成
電解液として、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)との等体積混合液(PC:EC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。また、ホストポリマーとして、HFPコポリマーを10質量%含有するPVDF−HFPを用いた。上記の電解液とホストポリマーとの混合液(90質量%:10質量%)に、粘度調製溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)を塗布工程に最適な粘度になるまで添加することで、プレゲル電解質を作製した。
【0181】
得られたプレゲル電解質を双極型電極の両面(正極および負極電極部)に塗布した後に、DMCを乾燥させることで、双極型電極にゲル電解質を含浸させた。
【0182】
4.発電要素の作製
ディスペンサを用い、双極型電極の正極側外周部のSUS箔露出部分(電極未塗布部分)にシール前駆体を塗布した。次いで、上記シール前駆体が塗布されたSUS箔が全て覆われるように、170mm×140mmサイズに切断したセパレータを正極側に配置した。その後、セパレータの上から、上記シール前駆体の塗布部(電極未塗布部分)に対応する部分にディスペンサを用いて、シール前駆体を塗布した。なお、セパレータとしては、ポリエチレン微多孔質膜(材質:PE、厚さ:12μm、空孔率:40%)を用い、シール前駆体としては、一液性未硬化エポキシ樹脂を用いた。
【0183】
以上で作製した双極型電極を13枚重ねることで単電池が12積層された双極型電池構造体を作製した。
【0184】
【表3】

【0185】
作製した双極型電池構造体を熱プレス機を用いて、面圧1kg/cm、80℃の条件下で1時間熱プレスすることにより、未硬化のシール部(一液性エポキシ樹脂)を硬化させた。この工程によりシール部を所定の厚みまでプレスするとともに硬化することが可能となる。以上により、12層積層された双極型発電要素を得た。
【0186】
4.評価用セルの作製
作製した双極型電池要素4つを直列に積層し、電流取り出し用のアルミニウムタブをはさみ、外装材としてアルミラミネートフィルムを用いて真空密封することで、48直列の双極型電池を作製した。
【0187】
[比較例4]
実施例10と同様にして集電体の一方の面に正極活物質層を、他方の面に負極活物質層を形成させた。そして、リチウム粒子を含む二次粒子を塗布することなく、これをそのまま双極型電極として使用したこと以外は、実施例10と同様にして評価用セルを作製した。
【0188】
[比較例5]
実施例10と同様にして集電体の一方の面に正極活物質層を、他方の面に負極活物質層を形成させた。
【0189】
リチウム粒子としてリチウム粉末(平均粒子径r2:15.2μm、40質量%)を、絶縁性粒子としてAl(平均粒子径r3:0.7μm、20質量%)を、導電性粒子として銅(Cu)粉(平均粒子径r4:0.9μm、30質量%)、第2のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)(10質量%)を用いた。これらをキシレン中に分散し、負極活物質層上に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで、負極活物質層上にリチウム粒子、絶縁性粒子、および導電性粒子の混合物からなるリチウムプレドープ層(厚さ5μm)を形成させた。
【0190】
これを双極型電極として使用したこと以外は、実施例10と同様にして評価用セルを作製した。
【0191】
(評価)
(充放電サイクル)
上記の方法で作製した各電池について、50℃雰囲気で72時間の条件でエージングした。エージング後の電池の電圧は144V(単電池電圧は、144V/12層/4直列=3.0V)であった。このエージング工程により、リチウムプレドープ層内のリチウムが負極活物質層にドープされる。
【0192】
続いて、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:200V)で3時間充電して、充電容量を算出した。その後、定電流(CC、電流:0.5C)でセル電圧120Vまで放電させ、放電容量(mAh)を算出した。結果を下記の表4に示す。なお、表4において、充放電効率(百分率)は(放電容量÷充電容量)として算出した。また、抵抗値は下記の方法により測定した。
【0193】
(抵抗測定方法)
定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、セル電圧:200V)で3時間充電した後、定電流(CC、電流:3.0C)で20秒間放電し、セル電圧変化ΔVと電流値から抵抗値を計算した。
【0194】
【表4】

【0195】
表4より、リチウム粒子、絶縁性粒子および導電性粒子を複合化してなる二次粒子からなるリチウムプレドープ層を有する負極を用いた実施例10のセルは、比較例4および5のセルに比べて、放電容量および充放電効率が大きいことが確認された。
【0196】
比較例4のセルは、リチウムプレドープ層を有さないため、負極の不可逆容量を補償することができないためであると考えられる。また、リチウム粒子、絶縁性粒子および導電性粒子を複合化することなく単純に混合させたリチウムプレドープ層を用いた比較例5のセルでは、充放電効率が多少向上するものの、抵抗は依然として高かった。
【符号の説明】
【0197】
1、310 集電体、
2、120、320 負極活物質層、
3、250、450 リチウムプレドープ層、
10、230 負極、
30 二次粒子、
31 リチウム粒子、
32 絶縁性粒子、
33 導電性粒子、
34 中空領域、
40 ドープ後の二次粒子、
100 積層型電池、
110 負極集電体、
110a 最外層負極集電体、
130、330 電解質層、
140 正極集電体、
150、350 正極活物質層、
160、360 単電池層、
170、370 発電要素、
180、380 負極タブ(端子)、
190、390 正極タブ(端子)、
200 負極端子リード、
210 正極端子リード、
220、420 ラミネートシート、
240 正極、
300 双極型電池、
310a 負極側の最外層集電体、
310b 正極側の最外層集電体、
340 双極型電極、
380a、390b 集電板、
430 絶縁層、
500 組電池、
520、530 電極ターミナル、
600 自動車、
r1 二次粒子の平均粒子径、
r2 リチウム粒子の平均粒子径、
r3 絶縁性粒子の平均粒子径、
r4 導電性粒子の平均粒子径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記負極活物質層の表面に、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着してなる二次粒子を有する、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記二次粒子が前記負極活物質層上に層を形成している、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記絶縁性粒子の平均粒子径(r3)は前記リチウム粒子の平均粒子径(r2)よりも小さい、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記絶縁性粒子の平均粒子径(r3)と前記リチウム粒子の平均粒子径(r2)との比(r3/r2)0.001以上0.20以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記二次粒子は、前記リチウム粒子の表面にさらに導電性粒子が付着してなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記導電性粒子の平均粒子径r4と前記リチウム粒子の平均粒子径r2との比(r4/r2)が0.001以上0.20以下である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記二次粒子の平均粒子径(r1)と前記リチウム粒子の平均粒子径(r2)の比(r1/r2)が、1.01以上2.0以下の範囲にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
集電体の表面に負極活物質層を形成する工程と、
リチウム粒子と絶縁性粒子と溶媒とを含む分散液を噴霧乾燥することにより二次粒子を調製する工程と、
前記二次粒子を前記負極活物質層上に塗布する工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極または請求項9に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極によって構成される、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
双極型二次電池である、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極または請求項9に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極を用いて発電要素を製造する工程と、
前記発電要素をエージングする工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記エージングする工程の後のリチウムイオン二次電池の電圧が1.0V以上3.2V以下である、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項14】
請求項10もしくは11に記載のリチウムイオン二次電池または請求項12もしくは13に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池を用いたことを特徴とする組電池。
【請求項15】
請求項10もしくは11に記載のリチウムイオン二次電池または請求項12もしくは13に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池、または請求項15に記載の組電池を駆動用電源として搭載した、車両。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−160985(P2010−160985A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2949(P2009−2949)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】