説明

リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子及びその製造法、並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池

【課題】 本発明は、従来のリチウムイオン二次電池と比較して、その容量および充放電効率が高く、サイクル特性および急速充放電特性にも優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が8m/g以下、炭酸ガス吸着による比表面積が1m/g以下、X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度が0.7at%以上であるリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子及びその製造法、並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することで課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子とその製造方法、並びに該黒鉛粒子を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。さらに詳しくは、高容量、高充放電効率で、かつ急速充放電特性、サイクル特性に優れ、ポータブル機器、電気自動車、電力貯蔵等に用いるのに好適なリチウムイオン二次電池、並びにそれを得るためのリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子とその製造方法、及び該黒鉛粒子を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極用材料には、例えば、天然黒鉛粒子、コークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子、有機系高分子材料、ピッチ等を黒鉛化した人造黒鉛粒子、これらを粉砕した黒鉛粒子、メソフェーズカーボンを黒鉛化した球状黒鉛などが用いられている。また、これらの黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池用負極は、一般的に、黒鉛粒子、有機系結着剤(バインダー)及び溶剤を混合して黒鉛ペーストとし、これを銅箔の表面に塗布し、溶剤を乾燥させた後、必要に応じてロール等で圧縮し密度を調整することで製造される。
【0003】
リチウムイオン二次電池の充放電電位、充放電容量、サイクル特性といった電気化学特性は、負極に用いられる黒鉛粒子の結晶性(結晶構造、結晶化度)、表面形態、内部構造、表面化学組成などに強く依存する。さらに、初回充電時に負極表面上に形成されるSEI(Solid Electrolyte Interface)による特性への影響も大きい。このSEIは、負極と電解液との反応によって形成され、いったん形成されるとそれ以上の反応が抑制されるため、黒鉛の層間へのリチウム挿入が可能となる。しかし、SEIは、不可逆容量を生む原因の一つである。また、電池の安全性のかかわる熱安定性は、SEIの安定性に左右される。さらに、SEIは、負極と電解液との反応により形成されるという機構上、カルボキシル基やカルボニル基などの酸素官能基の黒鉛粒子表面における量や、黒鉛粒子の表面結晶性、細孔構造といった黒鉛粒子の表面構造の影響を大きく受ける。
【0004】
これまで、良好な電池特性を得るために、黒鉛粒子の表面改質を行うことが提案されている。例えば、特許文献1〜3には、熱プラズマによって炭素材料を表面処理する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−92432号公報
【特許文献2】特開2000−223121号公報
【特許文献3】特開2004−265733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のリチウムイオン二次電池と比較して、その容量および充放電効率が高く、サイクル特性および急速充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びにそれを得るためのリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子とその製造方法、及び該黒鉛粒子を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(7)に記載の事項をその特徴とするものである。
【0008】
(1)平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が8m/g以下、炭酸ガス吸着による比表面積が1m/g以下、X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度が0.7at%以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【0009】
(2)黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施してなることを特徴とする上記(1)記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【0010】
(3)表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出していることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【0011】
(4)平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が10m/g以下の黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施すことを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の製造法。
【0012】
(5)平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上の黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施し、その表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面を露出させることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の製造法。
【0013】
(6)請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子及び/又は請求項4〜5に記載の製造法で作製したリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を用いてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【0014】
(7)請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のリチウムイオン二次電池と比較して、その容量および充放電効率が高く、サイクル特性および急速充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びにそれを得るためのリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子とその製造方法、及び該黒鉛粒子を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子は、平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が8m/g以下、炭酸ガス吸着による比表面積が1m/g以下、X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度が0.7at%以上であることをその特徴とする。このような黒鉛粒子は、該黒鉛粒子を用いた負極を備えるリチウムイオン二次電池の容量および充放電効率、サイクル特性を向上させることが可能である。これはリチウムイオン二次電池の充電時において、電解液の分解と、上記黒鉛粒子中に固定化され充放電に関与しないリチウムイオンとを共に低減することが可能であるためと考えられる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の平均粒径は、5〜50μmであることが必要とされ、5〜35μmであることが好ましく、5〜25μmであることがより好ましく、8〜20μmであることが特に好ましい。平均粒径が5μm未満であると、集電体との密着性が不十分となり易いため、リチウムイオン二次電池用負極を作製する際に用いるバインダーを通常より多め使用する必要が生じ、その結果、負極の抵抗が増加してしまうという問題が生じる。一方、平均粒径が50μmを超えると、作製するリチウムイオン二次電池負極の表面に凹凸が発生し易くなるため、充放電時の電流密度バラツキが大きくなり、その結果、充放電サイクル特性が低下するという問題が生じる。なお、本発明における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定することができ、粒子が球状でないときは投影面積を円に換算した相当径を平均粒径とする。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の真比重は、2.20以上であることが必要とされ、2.21以上であることが好ましく、2.22以上であることがより好ましく、2.23以上であることがさらに好ましく、2.24以上であることが特に好ましい。真比重が2.20未満であると、作製するリチウムイオン二次電池の放電容量が低下する傾向がある。上記真比重の測定は、例えばブタノール置換法など、既知の方法により行うことができる。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の比表面積は、窒素ガス(N)で測定した比表面積が8m/g以下、炭酸ガス(CO)で測定した比表面積が1m/g以下であることを同時に満たすことが必要とされる。これにより、充電時の電解液分解と黒鉛粒子中に固定化され充放電に関与しないリチウムイオンを同時に低減することができ、作製するリチウムイオン二次電池の充放電効率を向上させることができる。窒素ガス(N)で測定した比表面積は、0.5〜8m/gの範囲であることが好ましく、1〜8m/gの範囲であることがより好ましく、2〜5m/gの範囲であることが特に好ましい。窒素ガスで測定した比表面積が0.5m/g未満であると、入出力特性が低下する傾向があり、この比表面積が8m/gを超えると、作製するリチウムイオン二次電池の第一サイクル目の不可逆容量が大きくなり、その結果、作製するリチウムイオン二次電池の放電容量が小さくなる傾向があるばかりでなく、第一サイクル目充電時に負極表面に生成する電解液の分解皮膜が多くなり、その結果、抵抗が増大し入出力特性が低下する傾向もある。また、炭酸ガスで測定した比表面積は、0.8m/g以下であることが好ましく、0.5m/g以下であることがより好ましく、0.1m/g以下であることが特に好ましい。炭酸ガスで測定した比表面積が1.0m/gを超えると、作製するリチウムイオン二次電池の第一サイクル目の不可逆容量が大きくなり、その結果、作製するリチウムイオン二次電池の放電容量が小さくなる傾向がある。上記比表面積の測定は、窒素ガス吸着、炭酸ガス吸着によるBET法など、既知の方法により行うことができる。
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子のX線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度は、0.7at%以上であることが必要とされ、1.0at%以上であることが好ましく、1.5at%以上であることがより好ましく、2.0at%以上であることが特に好ましい。X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度を0.7at%以上とすることで、酸素官能基が導入され、黒鉛粒子表面の充電時に電解液の分解を生じさせる部位の不活性化と電解液との相互作用に変化が生じ、作製するリチウムイオン二次電池の充放電効率を向上させることができる。X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度が0.7at%未満であると、作製するリチウムイオン二次電池の充放電効率が低下する傾向がある。上記X線光電子分光スペクトルで測定される酸素元素濃度の測定は、照射X線強度45〜150WのX線光電子分光スペクトルで検出された元素から、O1sピークの強度より算出する。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間距離d(002)は、3.38オングストローム以下であることが好ましく、3.37オングストローム以下であることがより好ましく、3.36オングストローム以下であることが特に好ましい。黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38オングストロームを超えると、作製するリチウムイオン二次電池の放電容量が低下する傾向がある。また、黒鉛結晶のC軸方向の結晶子の大きさLc(002)は、作製するリチウムイオン二次電池の充放電容量向上の観点から、300オングストローム以上であることが好ましく、600オングストローム以上であることがより好ましく、900オングストローム以上であることがさらに好ましく、1000オングストローム以上であることが特に好ましい。上記黒鉛結晶の層間距離d(002)及びC軸方向の結晶子の大きさLc(002)は、CuKα線を使用した広角X線回折法により測定することができる。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子は、波長532nmのレーザー光で測定されるラマンスペクトルにおいて、1580cm−1付近に現れるピーク(Gピーク)と1350cm−1付近に現れるピーク(Dピーク)の高さ強度比(D/G)が0.05以上であることが好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、0.10〜0.40であることが特に好ましい。強度比(D/G)が0.05未満又は0.40を超えると作製するリチウムイオン二次電池の充放電効率が低下する傾向がある。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子は、水銀圧入法により測定した10〜10オングストロームの範囲の細孔の細孔体積が0.2〜2.5cc/gの範囲であることが好ましく、0.4〜2.0cc/gの範囲であることがより好ましく、0.4〜1.5cc/gの範囲であることがさらに好ましく、0.6〜1.2cc/gの範囲であることが特に好ましい。10〜10オングストロームの範囲の細孔の細孔体積が0.2cc/g未満ではサイクル特性が低下する傾向があり、2.5cc/gを超えるとリチウムイオン二次電池用負極材料と集電体との密着強度が低下する傾向がある。上記細孔体積は水銀圧入法による細孔径分布測定により求めることができる。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子のアスペクト比は、5以下であることが好ましく、1.1〜5であることがより好ましく、1.1〜3であることがさらに好ましく、1.2〜2.5であることが特に好ましい。アスペクト比が5を超えると、リチウムイオン二次電池用負極材料が集電体の面方向に配向しやすくなり、その結果、得られるリチウムイオン二次電池の急速充放電特性、出力特性及びサイクル特性が低下する傾向がある。アスペクト比が1.1未満では、粒子間の接触面積が減ることにより、作製する負極の導電性が低下する傾向にある。なお、アスペクト比は、黒鉛粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表される。本発明におけるアスペクト比は、電子顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、粒子を任意に10個選択し、電子顕微鏡の観察角度を変えながらA/Bを測定し、その平均値をとることで得られる。また、黒鉛粒子が、例えばリン片状、板状、ブロック状などのように厚さ方向を有する場合には、厚さを短軸方向の長さBとする。また、アスペクト比が5以下の黒鉛粒子は、複数の粒子を集合又は結合させたものでもよく、また、1つの粒子に機械的な力を加えアスペクト比が5以下となるように形状を変えたものでもよく、さらに、これらを組み合わせて作製したものでもよい。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子は、当該黒鉛粒子表面に結晶面が積層したC軸方向のエッジ面が露出していることが好ましい。黒鉛粒子表面に結晶面が積層したC軸方向のエッジ面が露出していることで、黒鉛結晶層間へのリチウムの充放電がし易くなり、急速充放電特性を向上させることができる。黒鉛粒子表面に結晶面が積層したC軸方向のエッジ面が露出状態は、黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡で黒鉛粒子の表面を3000倍以上に拡大することで観察することできる。
【0026】
上記のような特性を有する本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子は、特に限定されないが、例えば、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、黒鉛粒子原料にプラズマ処理等を施すことで製造することができる。
【0027】
上記黒鉛粒子原料としては、特に制限はないが、例えば、平均粒径が5〜50μmで、真比重が2.20以上の人造黒鉛粒子及び/又は天然黒鉛粒子、または平均粒径が5〜50μmで、真比重が2.20以上で、窒素ガス吸着による比表面積が10m/g以下である人造黒鉛粒子及び/又は天然黒鉛粒子であることが好ましい。黒鉛粒子原料の形状は、特に制限はないが、熱プラズマ処理を効果的なものとするために、例えば、球状、塊状等であることが好ましく、アスペクト比が5以下であることがより好ましく、アスペクト比が3以下であることがさらに好ましい。なお、上記した黒鉛粒子原料の各物性の定義や測定は、前述の、本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の場合と同様である。
【0028】
また、黒鉛粒子原料のかさ密度は、特に限定されないが、後述する熱プラズマ処理の均一性の観点から、0.2g/cm以上であることが好ましく、0.3g/cm以上であることがより好ましく、0.4g/cm以上であることがさらに好ましく、0.5g/cm以上であることが特に好ましい。上記かさ密度の測定は、100mlのメスシリンダに黒鉛粒子原料を上部から落下させて100ml入れ、5cmの高さからメスシリンダを50回タッピングさせた後の体積と重量から算出する。
【0029】
上記プラズマ処理としては、特に制限はないが、熱プラズマ処理であることが、作製するリチウムイオン二次電池の充放電容量、充放電効率、サイクル特性、急速充放電特性を向上させる観点から好ましい。熱プラズマは、中圧(10〜70kPa程度)から1気圧において発生するプラズマであり、通常の低圧プラズマと異なり熱平衡に近いプラズマが得られるため、単にプラズマ等で局所的な反応を行うだけでなく、系に存在する物質まで高温にすることができる。したがって、熱プラズマにより高温相の生成および表面改質の両方が可能になる。
【0030】
熱プラズマ処理は、例えば「石垣正隆,セラミックス,30(1995)No.11,1013〜1016」、特開平7−31873号公報、前記特許文献1〜3にしたがって行うことができる。より具体的には、例えば、図1に示すような高周波熱プラズマの発生装置(熱プラズマトーチ)を用いることができる。これは、プラズマトーチ中へ連続的に処理対象物を導入し、下部において処理物を回収するものである。図1の装置(トーチ)10は、水冷二重管11の外に高周波コイル12が巻まかれた構造であり、その内部において高周波電磁誘導により熱プラズマを発生させるものである。水冷二重管11の上部は蓋13が取り付けられており、蓋13には熱プラズマ処理に供する黒鉛粒子原料の粉末とキャリアガスとを供給する粉末供給用水冷プローブ14が設置されている。プラズマトーチの大きさは特に限定されないが、図1に示す構造とする場合には、管径10〜1000mm、特に50〜100mm程度、高さ50〜3000mm、特に200〜3000mm程度とすることが好ましい。また、装置(トーチ)10内部には、主としてプラズマ流を形成するためのセントラルガスGp、主としてプラズマ流の外側を包むためのシースガスGsが導入される。なお、以下では、セントラルガス、シースガスおよびキャリアガスをあわせてプラズマガスということがある。
【0031】
熱プラズマの発生条件(熱プラズマによる処理条件)としては、通常、周波数0.5〜30MHz、投入電力3〜200kW、トーチ内部の圧力1〜100kPaとすればよく、特に、周波数0.5〜6MHz、投入電力10〜100kW、トーチ内部の圧力10〜70kPaとすることが好ましい。
【0032】
また、プラズマガスは、その種類を適宜選択することにより、熱プラズマ処理による効果を制御できる。用いるプラズマガス、すなわち、セントラルガス、シースガスおよびキャリアガスとしては、特に限定されないが、それぞれに少なくともArを用いることが好ましく、Arと、N、H、COおよびCOの少なくとも1種とを併用することがより好ましい。特に、HまたはNとArとの併用や、これらにさらにCOを加えることが好ましい。プラズマガス中において、Ar以外のガスの体積比は1〜20%であることが好ましい。プラズマガスとして少なくともArを用いることで、本発明の効果、特に初回の充放電効率を向上させることができる。また、Nに比べHは熱伝導率が高いので、Hを使う場合には、通常、加熱効率がより高くなる。また、シースガスには、トーチ内壁を保護するため、H、Nのような二原子気体を混合することが好ましい。セントラルガスとシースガスとの合計流量は、通常、2〜200リットル/分、好ましくは30〜130リットル/分とすればよい。
【0033】
上記のような装置、条件により、3,000〜15,000℃の還元性、酸化性または反応性の雰囲気中での黒鉛粒子原料の熱プラズマ処理が可能になる。本発明では、3,000〜15,000℃の温度域における黒鉛粒子原料の滞留時間を、0.001〜10秒、特に0.02〜0.5秒程度とすることが好ましい。また、熱プラズマ処理に供される黒鉛粒子原料の量は、1分あたりの導入量で0.001〜0.5kgとすることが好ましい。したがって、キャリアガスの流量は1〜100リットル/分とすればよい。
【0034】
上記黒鉛粒子原料は、単独で熱プラズマ処理してもよいが、金属、金属化合物、樹脂等の有機系化合物など、黒鉛粒子原料以外の物質と混合して熱プラズマ処理してもよい。特に金属酸化物と共に熱プラズマ処理することが好ましい。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、およびこれらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO、X+Y+X=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)などが好ましい。なお、混合物中の黒鉛粒子原料以外の物質の混合比率は、5質量%以下とすることが好ましい。
【0035】
黒鉛粒子原料に対する処理として上記のような熱プラズマ処理を行うことは、本発明のリチウムイオン二次電池の各種特性を向上させることに大きく寄与するため、非常に有効であるが、もちろん上記熱プラズマ処理以外の処理により本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を製造しても良い。
【0036】
上記熱プラズマ処理以外の処理には、例えば、黒鉛粒子原料の表面に対し活性点を付加する処理(たとえば官能基で修飾する処理)が挙げられる。このような処理後に黒鉛粒子を空気にさらすと、水分の吸着や電極特性を害する官能基の吸着が生じ、程度の差こそあれ電極特性を低下させる恐れがあるが、この点については、後述するように、表面処理後に空気との接触を避けるように黒鉛粒子を扱えばよい。なお、本発明において黒鉛粒子原料に対して行う処理には、空気中等の酸化性雰囲気中に放置する処理は含まれない。
【0037】
また、別の処理としては、例えば、黒鉛粒子原料の粉砕またはミリングが含まれる。粉砕またはミリングにより黒鉛粒子原料表面の活性が向上し、電極材料としての特性が向上する。粉砕またはミリングに用いる手段および具体的条件は、電極材料としての特性が向上するように設定すればよく、特に限定はされないが、処理は希ガス中で行うことが好ましい。また、粉砕手段としては、たとえば、黒鉛粒子とアルミナボール等の粉砕媒体とを入れたポットを回転させることにより行うことができる。処理時間はたとえば1〜48時間程度とすればよい。
【0038】
さらに別の処理としては、例えば、黒鉛粒子原料を分散させた特定の有機溶媒に超音波を印加する処理が挙げられる。この処理では、進行波型超音波印加により有機溶媒が炭化して析出する。析出は、分散している黒鉛粒子原料の表面で生じるため、黒鉛粒子原料の表面に、不要な官能基等の吸着がない炭素被覆を形成することができる。上記特定の有機溶媒としては、例えば、o−ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子、バインダーおよび各種添加剤等を溶剤などとともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等の分散装置により混合分散し、負極層用塗料を調整し、これを集電体に塗布して負極層を形成する、または、ペースト状の負極層用塗料をシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで得ることができる。なお、負極層用塗料を塗布する場合における本発明のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の平均粒径は、15〜40μmであることが好ましい。
【0040】
プラズマ処理等の表面処理終了後の黒鉛粒子を用いてリチウムイオン二次電池用負極を製造する際には、出来る限り水分や空気に暴露させないことが、リチウムイオン二次電池の充放電効率向上の観点から好ましい。例えば、図1に示す熱プラズマ処理装置においては、水冷二重管11の下側にあるチャンバ15内に堆積した処理済みの黒鉛粒子を空気に触れさせることなくチャンバ15外に回収し、そのまま空気に触れさせることなくバインダで結合して電極を得ることが可能である。空気に触れさせないためには、例えば、チャンバ15の取り出し口をエアロック構造とすればよい。チャンバ15から取り出した後、電極作製完了までは、露点−5℃以下の乾燥空気内、またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で電極作製を行うことが好ましい。露点としては、−10℃がより好ましく、−30℃以下がさらに好ましく、−50℃以下が特に好ましく、−70℃が最も好ましい。
【0041】
上記バインダーとしては、特に制限はないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)などのビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系フッ素ゴム(TFE−P系フッ素ゴム)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴムおよび熱可塑性フッ素ゴム(例えば、ダイキン工業製ダイエルサーモプラスチック)等が好適である。もちろん、フッ素系以外のバインダ、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等も使用可能である。
【0042】
上記バインダーは、通常、粉末状として溶媒(溶剤)中に溶解あるいは分散した状態で使用されるが、溶媒を用いずに粉末のまま使用される場合もある。用いる溶媒は非水系のものであり、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン等の各種溶媒を適宜選択すればよい。
【0043】
また、上記負極層用塗料には、酸化物を加えてもよい。この場合の酸化物としては、上述した熱プラズマ処理の際に黒鉛粒子原料と混合され得るものとして挙げた金属酸化物であることが好ましい。酸化物の配合量は、(酸化物の質量/黒鉛粒子と酸化物の合計質量)が5質量%以下であることが好ましい。
【0044】
また、上記負極層用塗料には、導電助剤を混合することが好ましい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の黒鉛粒子の1〜15質量%程度とすればよい。
【0045】
上記バインダーの使用量は、上記負極層用塗料に含まれる固形分とバインダーの比が重量比で、80:20〜99:1の範囲であることが好ましく、85:15〜98:2の範囲であることがより好ましい。このような範囲でバインダーを使用することで結着性が良好になる。なお、上記固形分は、本発明の黒鉛粒子の他に、酸化物や導電助剤等の添加剤が含まれうる。
【0046】
上記集電体の材質および形状については、負極の場合は特に限定されず、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0047】
上記負極層用塗料を集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行う。また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極層用塗料と集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法によりで行うことができる。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、本発明の負極と正極とをセパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。なお、電池製造に際しては、負極製造に引き続いて負極を空気にさらさないことが望ましい。そのために、少なくとも負極が電池の外装体中に封入されるまでの工程を、たとえばグローブボックスなどを用いて希ガス中で実施することが望ましい。また、負極は、電池製造工程に供されるまで、乾燥した希ガス中に保管することが望ましい。
【0049】
上記正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0050】
上記正極層に用いる正極材料としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用ればよく、特に限定されないが、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、およびこれらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO、X+Y+X=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどが挙げられ、特公昭61−53828号公報、特公昭63−59507号公報等に記載のものが挙げられる。なお、正極材料に金属酸化物や金属硫化物等を用いる場合、導電剤として、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素質材料等を含有させることが好ましい。
【0051】
上記電解液は、リチウム含有電解質を非水溶媒に溶解して調製する。リチウム含有電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等から適宜選択すればよく、また、Li(CFSON、Li(CSONのようなリチウムイミド塩や、LiB(Cを使用することもできる。非水溶媒としては、例えば、エーテル類、ケトン類、カーボネート類等、特開昭63−121260号公報などに例示される有機溶媒から適宜選択することができるが、本発明では特にカーボネート類を用いることが好ましい。カーボネート類のうちでは、特にエチレンカーボネートを主成分とし、他の溶媒を1種類以上添加した混合溶媒を用いることが好ましい。混合比率は、通常、エチレンカーボネート:他の溶媒=5〜70:95〜30(体積比)とすることが好ましい。エチレンカーボネートは凝固点が36.4℃と高く、常温では固化しているため、エチレンカーボネート単独では電池の電解液としては使用できないが、凝固点の低い他の溶媒を1種類以上添加することにより、混合溶媒の凝固点が低くなり、使用可能となる。他の溶媒としては、エチレンカーボネートの凝固点を低くできるものであれば特に限定されず、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−パレロラクトン、γ−オクタノイックラクトン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,3−ジオキソラナン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン、ブチレンカーボネート、蟻酸メチルなどが挙げられる。電解液として上記のような混合溶媒を用い、なおかつ負極の活物質として本発明の黒鉛粒子を用いることにより、電池容量が著しく向上し、不可逆容量率を十分に低くすることができる。
【0052】
また、電解液を有機高分子によりゲル化した固体電解質もしくはリチウム塩を高分子中に溶解させた電解質、例えばポリエチレンオキサイドにリチウム塩を溶解させた、電解液を全く含まない電解質を使用することもできる。また、リチウムイオン導電性無機化合物(例えばヨウ化リチウム)と有機高分子化合物の複合化材料を使用することもできる。
【0053】
上記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群とし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。
【0055】
図2に、リチウムイオン二次電池の構成例を示す。この電池は、負極31、固体電解質からなるセパレータ4および正極51とを熱圧着して発電要素を作製し、これを袋状の外装体101内に封入したものである。なお、図2では、外装体101から引き出すリード線の図示は省略してある。外装体101には、金属(Al等)やガラス、セラミクスなどの無機材料から構成される無機箔からなるガスバリア層と、合成樹脂からなる補強層、接着層とを積層したラミネートフィルムを用いるのが一般的である。フィルムを用いて袋状の外装体を形成するには、フィルム同士を熱溶着したり、フィルム同士を接着剤や接合部材により接着したりすればよい。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池は、ぺーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池などとして使用される。
【0057】
上記では、本発明の黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用途として説明したが、電気化学素子一般にも適用可能である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
実施例1
(リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の製造と評価)
図1に示すプラズマトーチを用い、平均粒径21.4μm、真比重2.24、窒素ガス吸着による比表面積3.5m/gの塊状人造黒鉛粒子(日立化成工業(株)製 人造黒鉛粉末サンプル)を連続的に散布して熱プラズマ処理を施し、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を得た。熱プラズマ処理の際には、プラズマガスとしてAr+H混合ガスをガス流量比Ar:H=93:7で用い、トーチ内の圧力を53kPaとし、周波数を2MHzとし、投入電力を40kWとし、供給速度を4g/分とし、供給開始から処理終了までの時間を5分間とした。モデル計算によれば、プラズマ温度は10,000℃以上となる。
【0060】
上記のように熱プラズマ処理して得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(Philip社製XL30)で5000倍に拡大して観察した結果、黒鉛粒子表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出している様子が確認された。また、得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の各種物性値を表1に示す。各種物性値の測定方法は以下のとおりである。
【0061】
<平均粒径>
得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子試料を界面活性剤と共に精製水中に分散させた溶液を、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製SALD−3000J)の試料水槽に入れ、超音波をかけながらポンプで循環させながらレーザー回折式で測定した。得られた粒度分布の累積50%粒径を平均粒径とした。
【0062】
<窒素ガス吸着による比表面積>
得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子試料を200℃で1時間真空乾燥した後、Quantachrome社製AUTOSORB−1を用い、試料を液体窒素で冷却しながら液体窒素温度で窒素ガス吸着量を多点法で測定し、BET法に従って算出した。
【0063】
<炭酸ガス吸着による比表面積>
得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子試料を200℃で1時間真空乾燥した後、Quantachrome社製AUTOSORB−1を用い、試料を氷水で冷却しながら温度273Kで二酸化炭素ガス吸着量を多点法で測定し、BET法に従って算出した。
【0064】
<ラマン強度比D/G>
レーザーラマン分光装置(日本分光(株)製NRS−1000)を用い、得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子試料を20倍の対物レンズで拡大し、波長532nm、3.9mWのレーザー光を試料に照射し、CCD検出器でラマン散乱光を露光時間120秒、積算回数2回で測定した。得られたスペクトルの波数は、インデン(和光一級試薬)を前記同一条件で800〜2000cm−1の範囲を測定して得られるピークの波数とインデンの各ピークの波数理論値との差から求めた検量線を用いて補正した。
【0065】
<真比重>
比重瓶を用いたブタノール置換法(JIS R 7212)により測定した。
【0066】
<XPSによる酸素元素濃度>
得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子試料を露点−70℃のグローブボックス中で、両面導電テープが貼られたXPS試料台上に乗せ、トランスファーベッセルを用いて密封した後、これをXPS装置(島津製作所/Kratos製AXIS−165)に移動、設置し、真空にした後、トランスファーベッセルを開放し、測定に供した。測定は、測定面積0.3×0.7mm、照射X線強度45〜150WのX線光電子スペクトルで検出された元素から、O1sピークの強度より算出した。
【0067】
<層間距離d002>
広角X線回折装置(リガク社製 MultiFlex)を使用し、Cu−Kα線をモノクロメータで単色化し、高純度シリコンを標準物質として測定した(002)面回折ピークの角度から算出した。
【0068】
(リチウムイオン二次電池の作製と評価)
ついで、得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を、プラズマ処理装置内おいて密閉容器内に封入し、アルゴンガス雰囲気(露点−70℃以下、酸素濃度10ppm以下)のグローブボックス中で取り出して、試料電極及び電池を作製した。
【0069】
試料電極は、得られたリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子90重量%に、N−メチル−2ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて混練、調整して得た黒鉛ペーストを厚さが10μmの圧延銅箔に、メタルマスクを使用して、直径9.5mmφの円形状に塗布し、さらに、120℃で減圧乾燥してN−メチル−2ピロリドンを除去して製造した。
【0070】
また、電池は、上記で作製した試料電極(負極)を、セパレータを介して対極(正極)とともに積層し、電解液を注入してCR2016型コインセルとした。対極には表面を研磨して酸化皮膜を除去した金属リチウムを使用した。また、電解液にはLiPFをエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)(ECとDECは体積比で1:2)の混合溶媒に1.2モル/リットルの濃度になるように溶解した溶液を使用した。セパレータには厚み25μmのポリエチレン微孔膜を使用した。
【0071】
ついで、上記のようにして得られた電池について、電気化学的測定を行った。試料電極と対極の間に、電流密度0.25mA/cmの定電流で0V(Vvs.Li/Li)まで充電したのち、0Vの定電圧で電流が0.025mA/cmになるまで充電した。ついで、電流密度0.25mA/cmの定電流で電圧が1.5V(Vvs.Li/Li)になるまで放電し、充放電容量、初回充放電効率を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
さらに、第二サイクル目に、電流密度2mA/cmの定電流で0V(Vvs.Li/Li)まで充電したのち、電流密度2mA/cmの定電流で電圧が1.5V(Vvs.Li/Li)になるまで放電し、急速充放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
また、上記充放電容量測定と同様の条件で充放電を繰り返した回数と放電容量維持率の関係(サイクル特性)を図3に示す。
【0074】
実施例2
熱プラズマ処理のガスとして、Ar+H+CO混合ガスを、ガス流量比Ar:H:CO=87:7:6で用いた以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子、試料電極および電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1および図3に示す。また、実施例1と同様にして黒鉛粒子を観察したところ、表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出している様子が確認された。
【0075】
比較例1
実施例1で用いた塊状人造黒鉛粒子粉末を、熱プラズマ処理をしないでそのままリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子として使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験電極および電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1および図3に示す。また、実施例1と同様にして黒鉛粒子を観察したところ、表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出している様子は確認されなかった。
【0076】
比較例2
実施例1で用いた塊状人造黒鉛粒子粉末の代わりに、石炭ピッチを原料とし、2800℃で黒鉛化して作製した平均粒径10μm、真比重2.185、窒素ガス吸着による比表面積5.2m/gの黒鉛を用いた以外は、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子、試料電極および電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1および図3に示す。また、実施例1と同様にして黒鉛粒子を観察したところ、表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出している様子は確認されなかった。
【0077】
【表1】

【0078】
表1および図3に示されるように、実施例のリチウムイオン二次電池は、高容量、高充放電効率で、かつリサイクル特性および急速充放電特性に優れていることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】高周波熱プラズマの発生装置の概略図。
【図2】リチウムイオン二次電池の構成の一形態を示す断面図。
【図3】実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池のサイクル特性。
【符号の説明】
【0080】
10 トーチ
11 水冷二重管
12 高周波コイル
13 蓋
14 粉末供給用水冷プローブ
15 チャンバ
31 負極
4 セパレータ
51 正極
101 外装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が8m/g以下、炭酸ガス吸着による比表面積が1m/g以下、X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される酸素元素濃度が0.7at%以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【請求項2】
黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施してなることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【請求項3】
表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面が露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子。
【請求項4】
平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上、窒素ガス吸着による比表面積が10m/g以下の黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施すことを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の製造法。
【請求項5】
平均粒径が5〜50μm、真比重が2.20以上の黒鉛粒子原料に対し、還元性雰囲気中、酸化性雰囲気中または反応性雰囲気中において、熱プラズマ処理を施し、その表面に結晶面が積層したc軸方向のエッジ面を露出させることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子の製造法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子及び/又は請求項4〜5に記載の製造法で作製したリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粒子を用いてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−228505(P2006−228505A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38986(P2005−38986)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】