説明

リチウムイオン二次電池

【課題】本発明の目的は、50℃以上の高温保存特性を保ち、室温での出力特性を改善したリチウムイオン電池を提供することにある。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するリチウムイオン電池において、前記負極がリチウムイオン伝導性ポリマーで被覆されたリチウムイオン電池により、50℃以上の高温保存特性を保ち、室温での出力特性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護,省エネルギーの観点から、エンジンとモーターとを動カ源として併用したハイブリッド自動車が開発,製品化されている。また、将来的には、燃料電池をエンジンの替わりに用いる燃料電池ハイブリッド自動車の開発も盛んになっている。
【0003】
このハイブリッド自動車のエネルギー源として電気を繰返し充電放電可能な二次電池は必須の技術である。なかでも、リチウムイオン電池は、その動作電圧が高く、高い出力を得やすい高エネルギー密度の特徴を有する電池であり、今後、ハイブリッド自動車の電源として益々重要性が増している。
【0004】
ハイブリッド自動車用電源として、リチウムイオン電池は、充電状態が高く50℃以上の高温貯蔵時の抵抗上昇抑制が、一つの技術課題である。
【0005】
従来、高温貯蔵時の抵抗上昇抑制策として、ビニレンカーボネート等の化合物を電解液に添加する対策が提案されている。例えば、非特許文献1にはLiPF6,エチレンカーボネート、及びジメチルカーボネートから構成される電解液に、ビニレンカーボネートを2wt%添加することで、60℃貯蔵時の劣化を抑制できる電池が提案されている。ビニレンカーボネート添加により、リチウムイオン電池の負極に析出する被膜の成長等による性能劣化、特に抵抗上昇による出力低下、を抑制できる。
【0006】
また、特許文献1には、正極活物質または、負極活物質の少なくとも一方の粒子表面をポリエチレンオキシド(PEO)等のリチウムイオン伝導性ポリマーにより部分的に被覆する技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、活物質粒子の表面を、ポリエチレンオキシド等の固体電解質で被膜する技術が開示されている。
【0008】
また、固体電解質として、特許文献3,特許文献4のような技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−373643号公報
【特許文献2】特開2001−176498号公報
【特許文献3】特開2005−332699号公報
【特許文献4】特開2005−285416号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 151(10) A1659-A1669 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1に示されている従来のビニレンカーボネートの活用技術では、添加量を増加させると高充電高温貯蔵時の劣化は抑制可能であるものの不十分であり、かつ室温での出力低下を招く問題がある。
【0012】
また、特許文献1や、特許文献2に記載されている、ポリエチレンオキシド等のリチウムイオン伝導性ポリマーでは、リチウム輸率,イオン伝導度が低く、電池の高抵抗化,出力低下を招く。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、50℃以上の高温保存特性を保ち、室温での出力特性を改善したリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、電解液と、を有するリチウムイオン電池において、前記負極は、負極活物質と、ポリマーと、を有し、前記負極活物質の表面は、全体的、または、部分的に前記ポリマーによって被膜されており、前記ポリマーは、下(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート、または、下(式2)に示す重合性ホウ素化合物を重合して得られるポリエチレングリコールホウ酸エステル、を含むリチウムイオン電池。
【0015】
【化1】

1:炭素数2以上7以下の炭化水素基である。
n:10より大きく10000未満である。
【0016】
【化2】

1,Z2,Z3:アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基又は炭素数1以上10以下の炭化水素基で、Z1,Z2,Z3の1,2または3つが上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である。
AO:炭素数1以上6以下のオキシアルキレン基で、1種または2種以上からなる。
p,q,r:オキシアルキレン基の平均付加モル数で0より大きく4未満であり、かつp+q+rが3以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リチウムイオン電池の高温貯蔵時の劣化を抑制した状態で室温での出力特性を向上させたリチウムイオン電池を提供することができる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例に関わる捲回型電池の片側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
本発明の目的は、50℃以上の高温保存特性を損なうことなく、室温での出力特性を改善したリチウムイオン電池を提供することにある。
【0021】
リチウムイオン電池が放電する電位は非常に低いため、放電反応の中で、還元を受けない安定な電解液を得ることは非常に難しい。電解液中の成分が還元的に分解して生成する副反応物は、多くの場合抵抗増加の原因となる。このため、電極と電解液間には、抵抗増加の原因となる副反応が起こらないよう、安定な被膜を形成させる試みがこれまでためされてきた。
【0022】
非特許文献1には、ビニレンカーボネートにより電極周辺に安定な被膜を形成させ、副反応を抑制する技術が開示されている。また、特許文献1には、正極活物質または、負極活物質の少なくとも一方の粒子表面をポリエチレンオキシド等のリチウムイオン伝導性ポリマーにより部分的に被覆する技術が開示されている。
【0023】
しかしながら、リチウムイオン電池を、50℃以上の高温下で保存する場合、被覆膜の熱分解,熱溶解が起こり、副反応が促進してしまうという問題がある。このような問題に対して、被膜を厚くする対策が取られている。しかし、膜厚の増加により、抵抗が上昇し、室温での出力特性が損なわれるという課題が生じる。
【0024】
出力低下の主な原因は、形成した被膜のリチウム輸率,イオン伝導度が低いことにあり、この結果、電池の高抵抗化,出力低下を招く。本発明は、リチウム輸率,イオン伝導度が高いポリマーを用い、負極を適切な形態で被覆することにより、50℃以上の高温保存特性を損なうことなく、室温での出力特性を改善したリチウムイオン電池を提供するに至った。
【0025】
本発明の一の形態は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するリチウムイオン電池において、前記負極がリチウムイオン伝導性ポリマーで被覆されていることを特徴とする。負極活物質の表面がリチウムイオン伝導性ポリマーで部分的に被覆されていても良いし、負極活物質の表面全体がリチウムイオン伝導性ポリマーで被覆されていても良い。リチウムイオン伝導の観点からは、全体的に被覆されているよりも、ある程度の間隔をもって、部分的に被覆されていることがより好ましい。また、負極活物質の表面にリチウムイオン伝導性ポリマー以外のポリマーが含まれていても良いし、負極活物質の表面に存在するポリマーとしてリチウムイオン伝導性ポリマーのみでも良い。これら被膜は、経年劣化を起こす場合があるため、使用電池後の被膜は、製造時の被膜に比べ、膜厚,被覆率等において低下することが多い。このため、電池製造時の被覆率は、電池の使用年数,使用環境により変化することがある。
【0026】
また、前記リチウムイオン伝導性ポリマーを、分子内に重合性部位を含むカーボネートにより架橋することにより、膜の強度上げ、高温特性を向上させることもできる。
【0027】
リチウムイオン伝導性ポリマーは、少なくとも下(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート、または下(式2)に示すモノマーを出発物質とするポリエチレングリコールホウ酸エステルからなることを特徴とする。
【0028】
【化3】

1:炭素数2以上7以下の炭化水素基である。
n:10より大きく10000未満である。
【0029】
【化4】

1,Z2,Z3:アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基又は炭素数1以上10以下の炭化水素基で、Z1,Z2,Z3の1つ又は2つ又は3つが上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である。
AO:炭素数1以上6以下のオキシアルキレン基で、1種または2種以上からなる。
p,q,r:オキシアルキレン基の平均付加モル数で0より大きく4未満であり、かつp+q+rが3以上である。
【0030】
(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート、下(式2)に示すモノマーを出発物質とするポリエチレングリコールホウ酸エステルは、イオン伝導度が高い。このため、これらポリマーを用いた被膜は、膜厚を上げても抵抗上昇が少なく、高温特性を上げることができる。
【0031】
また、イオン伝導度が高いこれらポリマー中では、電荷が円滑に流れることができる。このため、電荷の電解液成分への流出が少ない。この結果、電解液成分の析出が抑えられ、電池の抵抗上昇を抑えることができる。
【0032】
1,Z2,Z3は、1つ又は2つ又は3つが上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である。イオン伝道度の観点からは、1つ又は2つが好ましい。3つのホウ素の測鎖のうち1つ、または2つを、重合に用いることなく、自由度を持たせることで、側鎖の運動により隣接する側鎖の同様の官能基へリチウムイオンが伝導する際の活性化エネルギーを低減することにより、イオン伝導の温度依存性に優れるポリマー電解質となることが期待される。
【0033】
本発明における脂肪族ポリカーボネートは、分子内に−O−(C=O)−O−の構造と炭素数2以上7以下の脂肪族炭化水素基を含む。脂肪族炭化水素基として、例えば、エチレン,プロピレン,ブチレン,ペンチレン,ジメチルトリメチレン,ジメチルテトラメチレン,ジメチルペンタメチレン等が挙げられる。ここで、炭素数が多くなると、一定重量に占めるカーボネート基の割合が低下するため、例えばリチウムイオンが配位できる領域が減少し、イオン伝導性が低下し電池抵抗が上昇するため好ましくない。一方、炭素数が少なくなると、ポリマーが結晶化しやすくなり、イオンの移動が妨げられる。このため、炭素数としては、2以上3以下が好ましい。また、(式1)のnは付加モル数であり、10より大きく10000未満、好ましくは100より大きく1000未満である。nが10以下である場合、ポリマーが電解液に溶出してしまうため、長期間の機能保持が不可能となる。分子量が10000以上の場合、分子量が高すぎ、取扱が難しくなる。特に電極作製時のスラリー粘度が高くなり電極塗布性が悪化する。
【0034】
本発明におけるポリエチレングリコールホウ酸エステルは、(式2)に示すホウ酸エステル化合物の重合体である。ホウ酸エステル化合物は1種または2種以上のオキシアルキレン基を有する。オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基,オキシプロピレン基,オキシブチレン基,オキシテトラメチレン基などが挙げられる。炭素数2以上4以下が好ましく、ホウ酸エステル化合物の製造しやすさの点からはオキシエチレン基がより好ましく、得られる電極の可堯性付与の点からはオキシプロピレン基がより好ましい。(式2)に示すホウ酸エステル化合物中のZ1,Z2,Z3はアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基または炭素数1以上10以下の炭化水素基である。Z1〜Z3の基がそれぞれ異なる2種以上の化合物を用いても良く、好ましくはZ1〜Z3のうち平均して1/10以上が上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基であり、より好ましくは1/5以上が上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基であり、好ましくは全てがアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である。Z1〜Z3のうち平均して1/10以上が上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である場合には、他の結着剤成分を用いずとも電極の製造が可能であり、さらに1/5以上の場合には、機械的強度を充分に発現することができる。アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基としては、末端にアクリロイル基,メタクリロイル基を持つ有機基であり、好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基が挙げられる。前記炭化水素基の炭素数は1以上10以下であり、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,ノニル基,デシル基等の脂肪族炭化水素基,フェニル基,トルイル基,ナフチル基等の芳香族炭化水素基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基,メチルシクロヘキシル基,ジメチルシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基などが挙げられる。炭素数4以下の炭化水素基が好ましく、炭素数1であるメチル基が特に好ましい。(式2)に示すホウ酸エステル化合物中のp,q,rはオキシアルキレン基の平均付加モル数である。p,q,rは0より大きく100未満であり、好ましくは1以上20以下である。イオン伝導性を高くできる点からは1以上3以下であることがより好ましく、得られる電極の可堯性発現できる点からは3以上20以下であることがより好ましい。p+q+rは3以上であり、好ましくは3以上60以下である。イオン伝導性を高くできる点からは3以上9以下であることがより好ましく、得られる電極の可堯性発現できる点からは5以上60以下であることがより好ましい。
【0035】
(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート及び、(式2)に示すモノマーを出発物質とするポリエチレングリコールホウ酸エステルは、固体電解質としても用いることができる。固体電解質として用いる場合、リチウムイオンは、電解液を介さず、固体を介して移動する。液体のイオン伝導度は、固体に比べて高いため、(式1),(式2)のポリマーを固体電解質として用いた場合、出力は一般的に液体電解質を用いる場合よりも低い。
【0036】
しかし、本願のように、ポリマーを活物質の被覆に用い、イオン伝導媒体には主に液体電解質を用いた場合、イオン伝導度は高い。
【0037】
(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート及び、(式2)に示すモノマーを出発物質とするポリエチレングリコールホウ酸エステルを、負極の被覆に用いる場合、これらポリマーは電解質に曝されるため、電解液への溶出を抑制する必要がある。nが10以下である場合、ポリマーが電解液に溶出してしまう可能性があるため、長期間の機能保持が困難となる。従ってnの範囲は100より大きく10000未満であることが好ましい。
【0038】
本発明におけるリチウムイオン伝導性ポリマーを負極活物質に被覆する手法には、例えば、負極活物質にリチウムイオン伝導性ポリマーを事前に、直接、被覆する方法がある。例えば、リチウムイオン伝導性ポリマーの有機溶媒溶液に負極活物質を分散させ、沈降物を高温雰囲気で乾燥させる手法である。有機溶媒としては、公知の溶媒として、例えばアセトン,アセトニトリル,酢酸エチル等のリチウムイオン伝導性ポリマーを溶解可能な有機溶媒を用いることができる。また、リチウムイオン伝導性ポリマーを機械的被覆処理手法として、ハイブリダイゼーション法,メカノフュージョン法、及びボールミルを用いたメカニカルミリング法を用いることもできる。
【0039】
リチウムイオン伝導性ポリマーを負極活物質に被覆する手法は、被膜を形成する成分の観点からも、事前被覆方法が好ましい。電池作動後、作動電位により被膜を形成させる場合、被覆成分以外に、LiPF6,LiBF4等の無機リチウム塩が被膜の成分として混入してしまう。このような無機リチウム塩は、抵抗増加の原因となる。一方、被覆成分を負極活物質に事前被覆する手法では、予め、イオン伝導度の高いポリマーにより負極活物質を被覆することができるので、無機リチウム塩の析出を抑制することができる。
【0040】
本発明における分子内に重合性部位を含むカーボネートは、少なくとも下(式3)に示す環状カーボネート、または下(式4)に示す鎖状カーボネートを含むことを特徴とする。
【0041】
【化5】

2,R3:水素,フッ素,塩素,炭素数1以上3以下のアルキル基,フッ素化されたアルキル基のいずれか一種以上である。
【0042】
【化6】

4,Z5:アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれか一種以上を含む重合性官能基である。
【0043】
(式3)で表される化合物としては、ビニレンカーボネート(VC),メチルビニレンカーボネート(MVC),ジメチルビニレンカーボネート(DMVC),エチルビニレンカーボネート(EVC),ジエチルビニレンカーボネート(DEVC)等を用いることができる。VCは、分子量が小さく、緻密な電極被膜を形成すると考えられる。VCにアルキル基を置換したMVC,DMVC,EVC,DEVC等は、アルキル鎖の大きさに従い、密度の低い電極被膜を形成すると考えられ、低温特性向上には有効に作用するものと考えられる。(式4)で表される化合物としては、例えば、ジメタリルカーボネート(DMAC)を挙げることができる。
【0044】
(式3)に示す環状カーボネート、(式4)に示す鎖状カーボネートなどの架橋剤によりリチウムイオン伝導性ポリマーを架橋することで、被膜の強度を向上させることができる。膜の強度を向上させることができるため、膜厚を上げることなく高温特性を向上させることができる。架橋剤として、(式3)または(式4)単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。架橋剤に(式3)および(式4)以外の材料が含まれていても良いし、(式3)または(式4)のみでもよい。
【0045】
(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート及び、(式2)に示すモノマーを出発物質とするポリエチレングリコールホウ酸エステルを、(式3)に示す環状カーボネート、(式4)に示す鎖状カーボネートにより架橋することで、より高強度且つ抵抗の低い被膜を作ることができる。架橋剤として(式3),(式4)に限られない。(式1)または(式2)を架橋する材料であれば良い。副反応の観点から、架橋剤として(式3)または(式4)を用いることが好ましい。
【0046】
正極は、正極活物質,電子導電性材料及びバインダから構成される正極合剤層が集電体であるアルミニウム箔上に塗布されることにより形成される。また、電子抵抗の低減のため、更に正極合剤層に導電剤を加えても良い。
【0047】
正極活物質は、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物が好ましい。また、その中でも、M1がNi又はCoであって、M2がCo又はNiであることがより好ましい。LiMn1/3Ni1/3Co1/32であればさらに好ましい。組成中、Niを多くすると容量が大きく取れ、Coを多くすると低温での出力が向上でき、Mnを多くすると材料コストを抑制できる。また、添加元素は、サイクル特性を安定させるのに効果がある。他に、一般式LiMxPO4(M:Fe又はMn、0.01≦X≦0.4)やLiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物でも良い。特に、LiMn1/3Ni1/3Co1/32は、低温特性とサイクル安定性とが高く、ハイブリット自動車(HEV)用リチウム電池材料として好適である。前記バインダは、正極を構成する材料と正極用集電体を密着させるものであればよく、例えば、フッ化ビニリデン,四フッ化エチレン,アクリロニトリル,エチレンオキシドなどの単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジである空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物でも良い。特に、LiMn1/3Ni1/3Co1/32は、低温特性とサイクル安定性とが高く、ハイブリット自動車(HEV)用リチウム電池材料として好適である。前記バインダは、正極を構成する材料と正極用集電体を密着させるものであればよく、例えば、フッ化ビニリデン,四フッ化エチレン,クリロニトリル,エチレンオキシドなどの単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどを挙げることができる。導電剤は、例えば、カーボンブラック,グラファイト,カーボンファイバー及び金属炭化物などのカーボン材料であり、それぞれ単独でも混合して用いても良い。
【0048】
本発明における負極は、負極活物質、及びバインダから構成される負極合剤層が集電体である銅箔上に塗布されることにより形成される。また、電子抵抗の低減のため更に負極合剤層に導電剤を加えても良い。前記負極活物質として用いる材料には、例えば、炭素質材料,IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛,天然黒鉛に乾式のCVD(Chemical Vapor Deposition)法や湿式のスプレイ法で形成される被膜を形成した複合炭素質材料、エポキシやフェノール等の樹脂原料若しくは石油や石炭から得られるピッチ系材料を原料として焼成して造られる人造黒鉛、非晶質炭素材料などが挙げられる。IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物としては、リチウムと化合物を形成し、結晶間隙に挿入されることでリチウムを吸蔵放出できる珪素,ゲルマニウム,錫などの酸化物、若しくは窒化物が挙げられる。なお、これらを一般的に負極活物質と称する場合がある。特に、炭素質材料は、導電性が高く、低温特性,サイクル安定性の面から優れた材料である。炭素質材料の中では、炭素網面層間(d002)の広い材料が急速充放電や低温特性に優れ、好適である。しかし、d002が広い材料は、充電の初期での容量低下や充放電効率が低いことがあるので、d002は0.390nm以下が好ましく、このような炭素質材料を、擬似異方性炭素と称する場合がある。更に、電極を構成するには黒鉛質,非晶質,活性炭などの導電性の高い炭素質材料を混合しても良い。または、黒鉛質材料として、以下(1)〜(3)に示す特徴を有する材料を用いても良い。
(1)ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピーク強度(ID)とラマン分光スペクトルで測定される1580〜1620cm-1の範囲にあるピーク強度(IG)との強度比であるR値(ID/IG)が、0.20以上0.40以下
(2)ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピークの半値幅Δ値が、40cm-1以上100cm-1以下
(3)X線回折における(110)面のピーク強度(I(110))と(004)面のピーク強度(I(004))との強度比X値(I(110)/I(004))が0.10以上0.45以下
【0049】
バインダとしては、負極を構成する材料と負極用集電体を密着させるものであればよく、例えば、フッ化ビニリデン,四フッ化エチレン,アクリロニトリル,エチレンオキシドなどの単独重合体又は共重合体,スチレン−ブタジエンゴムなどを挙げることができる。
【0050】
前記導電剤は、例えば、カーボンブラック,グラファイト,カーボンファイバー及び金属炭化物などのカーボン材料であり、それぞれ単独でも混合して用いても良い。
【0051】
また、リチウムイオン伝導性ポリマーの被覆効率を増加させるため、負極活物質のシラン処理,アルミ処理及びチタン処理が有用である。本発明におけるシラン処理,アルミ処理,チタン処理とは、下記(式5)で示される化合物や下記(式9)で示されるシリケート化合物などの処理剤によって活物質を処理することを指す。
【0052】
【化7】

式中、Mはケイ素,アルミニウム,チタンから選ばれる。Yとしては、CH2=CH−,CH2=C(CH3)COOC36−,
【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

NH236−,NH224NHC36−,NH2COCHC36−,CH3COOC24NHC24NHC36−,NH224NHC24NHC36−,SHC36−,ClC36−,CH3−,C25−,C25OCONHC36−,OCNC36−,C65−,C65CH2NHC36−,C65NHC36−,CH3O−,C25O−,C37O−,iso−C37O−,C49O−,sec−C49O−,tert−C49O−,C49CH(−C25)CH2O−などが挙げられる。また、Xとしては、−OCH3,−OC25,−OC37,−O−iso−C37,−OC49,−O−sec−C49,−O−tert−C49,−O−CH2CH(−C25)C49,−OCOCH3,−OC24OCH3,−N(CH32,−Clなどの基、
【0055】
【化10】

(式中Aは炭素数1以上3以下のアルキル基)が挙げられ、pはMがケイ素またはチタンの場合は3、アルミニウムの場合は2である。
【0056】
【化11】

式中、Rはメチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,t−ブチル基から選ばれる基であり、qは2以上30以下である。上記(式2)及び(式9)の化合物の具体例としては、ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリクロルシラン,ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン、γ−クロルプロピルトリエトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリメトキシシラン,フェニルトリエトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,アルミニウムエチレート,アルミニウムイソプロピレート,アルミニウムジイソプロピレートモノ−sec−ブチレート,アルミニウム−sec−ブチレート,アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート,アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート),アルミニウムトリス(アセチルアセトネート),アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート,テトラメトキシチタン,テトラエトキシチタン,テトライソプロポキシチタン,テトラ−n−ブトキシチタン,ジエトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン,ジエトキシビス(アセチルアセトアセテート)チタン,ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン,イソプロポキシ(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン,テトラアセチルアセテートチタンなどが挙げられる。これらの中でも好ましくは、ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,アルミニウムエチレート,アルミニウムイソプロピレート,アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート,アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート),アルミニウムトリス(アセチルアセトネート),アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート,テトラメトキシチタン,テトラエトキシチタン,テトライソプロポキシチタン,ジエトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン,ジエトキシビス(アセチルアセトアセテート)チタン,ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン,テトラアセチルアセテートチタンが挙げられる。さらに好ましくは、ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,アルミニウムエチレート,アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート),アルミニウムトリス(アセチルアセトネート),アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート,テトラメトキシチタン,テトラエトキシチタン,ジエトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン,ジエトキシビス(アセチルアセトアセテート)チタン,テトラアセチルアセテートチタンが挙げられる。シラン処理により優れた効果が得られる機構は明らかではないが、リチウムと化学反応してしまい電池の充放電反応に寄与しなくなると考えられる表面吸着水や表面官能基が、耐水性(親油性)の向上により減少するためではないかと考えられる。また、アルミ処理や有機チタン化合物を用いたチタン処理によっても同様の効果が得られ、有用である。原料の入手等の点からシラン処理が好ましい。本発明で用いる処理剤の量は特に制限されないが、使用する炭素粉末の比表面積Sを考慮して決めることが好ましい。すなわち、処理剤はその種類によって異なるが、1g当たり概ね100m2から600m2の面積を被覆できると見積もられる〔S=(m2/g)とする〕ため、使用する炭素粉末の比表面積をA(m2/g)とすると、炭素粉末1g当たり、A/S(g)の処理剤の量を一つの目安とすることが好ましい。ただし、炭素粉末の全表面積を処理剤で被覆できない使用量でも、不可逆容量を大幅に小さくすることができる。更に詳しく説明すると、処理剤の量は、使用する炭素粉末100重量部に対して、0.01重量部から20重量部が好ましく、さらに好ましくは、0.1重量部から10重量部であり、特に好ましくは、0.5重量部から5重量部である。また、活物質を処理剤で処理する方法については特に制限されないが、一例を示せば、(式5)で示される化合物を水と反応させてその一部または全部を加水分解させたものを活物質粉末に所要量添加混合後、加熱オーブン中で乾燥させる方法、あるいは(式9)で示されるシリケート化合物を低分子量のアルコールに溶解させた溶液を活物質粉末に所要量添加混合後、加熱オーブン中で反応及び乾燥させる方法が挙げられる。
【0057】
また、電解液は環状カーボネートと、鎖状カーボネートとリチウム塩を有している。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC),トリフロロプロピレンカーボネート(TFPC),クロロエチレンカーボネート(ClEC),フルオロエチレンカーボネート(FEC),トリフロロエチレンカーボネート(TFEC),ジフロロエチレンカーボネート(DFEC),ビニルエチレンカーボネート(VEC)等を用いることができる。特に、負極電極上の被膜形成の観点からECを用いることが好ましい。また、少量(2vol%以下)のClECやFECやTFECやVECの添加も、電極被膜形成に関与し、良好なサイクル特性を提供する。更には、TFPCやDFECは、正極電極上の被膜形成の観点から、少量(2vol%以下)添加して用いてもよい。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC),ジエチルカーボネート(DEC),メチルプロピルカーボネート(MPC),エチルプロピルカーボネート(EPC),トリフロロメチルエチルカーボネート(TFMEC)、1,1,1−トリフロロエチルメチルカーボネート(TFEMC)等を用いることができる。DMCは、相溶性の高い溶媒であり、EC等と混合して用いるのに好適である。DECは、DMCよりも融点が低く、低温(−30℃)特性には好適である。EMCは、分子構造が非対称であり、融点も低いので低温特性には好適である。EPC,TFMECは、プロピレン側鎖を有し、非対称な分子構造であるので、低温特性の調整溶媒として好適である。TFEMCは、分子の一部をフッ素化し、双極子モーメントが大きくなっており、低温でのリチウム塩の解離性を維持するに好適であり、低温特性に好適がある。
【0058】
次に、電解液に用いる前記リチウム塩としては、特に限定はないが、無機リチウム塩では、LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiI,LiCl,LiBr等、また、有機リチウム塩では、LiB[OCOCF3]4,LiB[OCOCF2CF3]4,LiPF4(CF3)2,LiN(SO2CF3)2,LiN(SO2CF2CF3)2等を用いることができる。特に、民生用電池で多く用いられているLiPF6は、品質の安定性から好適な材料である。また、LiB[OCOCF3]4は、解離性,溶解性が良好で、低い濃度で高い導電率を示すので有効な材料である。
【0059】
以上より、本発明の一実施態様であるリチウムイオン電池は、これまでリチウムイオン電池にくらべ、室温での出力特性を損なうことなく、50℃以上の高温貯蔵時の劣化を抑制したリチウムイオン電池を提供できるため、50℃以上の高温にさらされる可能性のあるハイブリッド自動車の電源,自動車の電動制御系の電源やバックアップ電源として広く利用可能であり、電動工具,フォークリフトなどの産業用機器の電源としても好適である。
【0060】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的な実施例によって説明する。
【0061】
(実施例1)
(被覆負極活物質の作製)
負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素10重量部を、ポリエチレンカーボネート(PEC)(数平均分子量50000)含有率1wt%のアセトニトリル溶液90重量部に分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を80℃雰囲気中で12時間乾燥し、ほぼ凝集の無い負極活物質を得た。負極活物質上に被覆したPECの存在については、拡散反射型赤外吸収スペクトルを測定することにより、PEC中に含まれる官能基の特徴的な伸縮振動が観測されることで確認できる。本実施例において、特に、PECはカルボニルの伸縮振動が観測され、ポリマーの存在を確認した。
【0062】
(捲回型電池の作製)
以下に示す方法で、本実施例の捲回型電池を作製した。図1に捲回型電池の片側断面図を示す。
【0063】
まず、正極活物質としてLiMn1/3Ni1/3Co1/32を用い、電子導電性材料としてカーボンブラック(CB1)と黒鉛(GF2)を用い、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて、乾燥時の固形分重量を、LiMn1/3Ni1/3Co1/32:CB1:GF2:PVDF=86:9:2:3の比となるように、溶剤としてNMP(N−メチルピロリドン)を用いて正極材ペーストを調製した。
【0064】
この正極材ペーストを、正極集電体1となるアルミ箔に塗布し、80℃で乾燥、加圧ローラでプレス、120℃で乾燥して正極合剤層2を正極集電体1に形成した。
【0065】
次に、被覆負極活物質を用い、導電材としてカーボンブラック(CB2)を用い、バインダとしてPVDFを用いて、乾燥時の固形分重量を、被覆負極活物質:CB2:PVDF=88:5:7の比となるように、溶剤としてNMPを用いて、負極材ペーストを調製した。
【0066】
この負極材ペーストを、負極集電体3となる銅箔に塗布し、80℃で乾燥、加圧ローラでプレス、120℃で乾燥して負極合剤層4を負極集電体3に形成した。
【0067】
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMC:EMC=20:40:40で混合したものを用い、リチウム塩としてLiPF6を1M溶解して電解液を作製した。
【0068】
作製した電極間にセパレータ7を挟み込み、捲回群を形成し、負極電池缶13に挿入した。そして、負極の集電をとるためにニッケル製の負極リード9の一端を負極集電体3に溶接し、他端を負極電池缶13に溶接した。また、正極の集電をとるためにアルミニウム製の正極リード10の一端を正極集電体1に溶接し、他端を電流遮断弁8に溶接し、さらにこの電流遮断弁8を介して正極電池蓋15と電気的に接続した。さらに電解液を注液し、かしめることで捲回型電池を作製した。
【0069】
なお、図1において、11は正極インシュレータ、12は負極インシュレータ、14はガスケット、15は正極電池蓋である。
【0070】
(電池評価)
図1に示す捲回型電池の70℃保存時の容量維持率及び直流抵抗(DCR)を、それぞれ下記の手順で評価した。70℃保存時の容量維持率は、高温における被膜の安定性を示し、主に膜の厚さ、膜を形成する分子構造、膜の成分に起因するものである。容量維持率が高いほど、高温保存特性が高いと言える。直流抵抗(DCR)としては、初期DCRと、初期DCRに対する保存後のDCR変動率を測定した。初期DCRは、電池の抵抗値を示し、主に被膜のイオン伝導度に起因するものである。初期DCR値が低いほど被膜のイオン伝導度が高く、被膜の抵抗が低く、電池の出力が高いと言える。
【0071】
(容量維持率測定方法)
電池を定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。この操作を5回繰返した。5回目の放電容量を初期容量とした。次に、70℃保存後の電池を、定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。この操作を2回繰返した。2回目の放電容量を保存後の容量とした。保存日数は14日、及び30日とした。測定時温度は25℃である。初期容量に対する保存後の容量を容量維持率と定義し、本結果を表1に示す。
【0072】
(DCR評価方法)
電池を定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。この操作を3回繰返した。
【0073】
次に、電池を3.8Vまで定電流0.7Aで充電し、10Aで10s放電し、再度3.8Vまで定電流で充電し、20Aで10s放電し、再度3.8Vまで充電し、30Aで10s放電した。この際のI−V特性から、電池のDCRを評価した。測定時温度は25℃である。初期DCRに対する保存後のDCRをDCR変動率と定義し、本結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
(被覆負極活物質の作製)
負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素10重量部を、ポリエチレンカーボネート(PEC)(数平均分子量50000)含有率1wt%のアセトニトリル溶液90重量部に分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を80℃雰囲気中で12時間乾燥し、ほぼ凝集の無いPEC被覆負極活物質を得た。さらに、ビニレンカーボネート(VC)含有率5wt%及びラジカル重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1wt%含有するジメチルカーボネート溶液に、PEC被覆負極活物質を分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして、残った沈降物を30℃雰囲気中で12時間乾燥し、次に80℃雰囲気中で12時間放置し、ほぼ凝集の無いVC架橋PEC被覆負極活物質を得た。以下、得られた負極活物質を用いた以外は実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0075】
(実施例3)
(被覆負極活物質の作製)
負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素100重量部に対して、ビニルトリエトキシシランを10重量%の濃度となるよう予め純水に分散したものを1重量部相当分添加して充分混合後、150℃で2時間真空乾燥して、シラン処理した負極活物質を得た。次に、シラン処理負極活物質10重量部を、ポリエチレンカーボネート(PEC)含有率1wt%のアセトニトリル溶液90重量部に分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を80℃雰囲気中で12時間乾燥し、ほぼ凝集の無いPEC被覆負極活物質を得た。さらに、ビニレンカーボネート(VC)含有率5wt%及びラジカル重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1wt%含有するジメチルカーボネート溶液に、PEC被覆負極活物質を分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を30℃雰囲気中で12時間乾燥し、次に80℃雰囲気中で12時間放置し、ほぼ凝集の無いVC架橋PEC被覆負極活物質を得た。以下、得られた負極活物質を用いた以外は実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0076】
(実施例4)
実施例2においてVCの替わりにジメタリルカーボネート(DMAC)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0077】
(実施例5)
実施例3においてVCの替わりにジメタリルカーボネート(DMAC)を用いた以外は、実施例3と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0078】
(実施例6)
実施例1において、ポリエチレンカーボネート(PEC)(数平均分子量50000)の替わりにポリエチレンカーボネート(PEC)(数平均分子量10000)を用いた以外は、実施例5と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0079】
(実施例7)
(被覆負極活物質の作製)
ジエチレングリコールモノメタクリレートのホウ酸エステル化物20重量部と、トリエチレングリコールモノメチルエーテルのホウ酸エステル化物108重量部と、を混合溶解させ、さらに重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.19重量部を混合溶解させてポリエチレングリコールホウ酸エステル(PEGBE)を得た。次に、負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素90重量部を、PEGBE10重量部と共にボールミル法により2時間混合させることでPEGBE被覆負極活物質を得た。負極活物質上に被覆したPEGBEの存在については、拡散反射型赤外吸収スペクトルを測定することにより、PEGBE中に含まれる官能基の特徴的な伸縮振動が観測されることで確認できる。本実施例において、特に、PEGBEはC−Oの伸縮振動が観測され、ポリマーの存在を確認した。以下、得られた負極活物質を用いた以外は実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0080】
(実施例8)
(被覆負極活物質の作製)
ジエチレングリコールモノメタクリレートのホウ酸エステル化物20重量部と、トリエチレングリコールモノメチルエーテルのホウ酸エステル化物108重量部と、を混合溶解させ、さらに重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.19重量部を混合溶解させてポリエチレングリコールホウ酸エステル(PEGBE)を得た。次に、負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素90重量部を、PEGBE10重量部と共にボールミル法により2時間混合させることでPEGBE被覆負極活物質を得た。さらに、ビニレンカーボネート(VC)含有率5wt%及びラジカル重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1wt%含有するジメチルカーボネート溶液に、PEGBE被覆負極活物質を分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を30℃雰囲気中で12時間乾燥し、次に80℃雰囲気中で12時間放置し、ほぼ凝集の無いVC架橋PEGBE被覆負極活物質を得た。以下、得られた負極活物質を用いた以外は実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0081】
(実施例9)
(被覆負極活物質の作製)
ジエチレングリコールモノメタクリレートのホウ酸エステル化物20重量部と、トリエチレングリコールモノメチルエーテルのホウ酸エステル化物108重量部と、を混合溶解させ、さらに重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.19重量部を混合溶解させてポリエチレングリコールホウ酸エステル(PEGBE)を得た。次に、負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素100重量部に対して、ビニルトリエトキシシランを10重量%の濃度となるよう予め純水に分散したものを1重量部相当分添加して充分混合後、150℃で2時間真空乾燥して、シラン処理した負極活物質を得た。シラン処理した負極活物質90重量部を、PEGBE10重量部と共にボールミル法により2時間混合させることでPEGBE被覆負極活物質を得た。さらに、ビニレンカーボネート(VC)含有率5wt%及びラジカル重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1wt%含有するジメチルカーボネート溶液に、PEGBE被覆負極活物質を分散させた。得られた分散液を有機ドラフト内で6時間放置した。その後、分散液内で負極活物質は沈降し、上澄み液70重量部を除去した。そして残った沈降物を30℃雰囲気中で12時間乾燥し、次に80℃雰囲気中で12時間放置し、ほぼ凝集の無いVC架橋PEGBE被覆負極活物質を得た。以下、得られた負極活物質を用いた以外は実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0082】
(実施例10)
実施例7においてVCの替わりにジメタリルカーボネート(DMAC)を用いた以外は、実施例7と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0083】
(実施例11)
実施例8においてVCの替わりにジメタリルカーボネート(DMAC)を用いた以外は、実施例8と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、PECによる被覆負極活物質の替わりに被覆未処理の負極活物質を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例1においてPECの替わりにポリエチレンオキシド(PEO)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
負極活物質にPECを被覆した実施例1〜6記載の電池、及びPEGBEを被覆した実施例7〜11記載の電池は、負極を被覆しない比較例1記載の電池に比べ、高温保存時の容量維持率が高く、初期DCRが低く、DCR変動率が小さく抑えられる。また、PEOを被覆した比較例2に記載の電池と比較して、高温保存時の容量維持率,初期DCR,DCR変動率の性能改善が確認できた。
【0088】
本発明によれば、保存日数30日の容量維持率は、75.6%より高く、初期DCRは、65mΩよりも低いリチウムイオン電池を提供することができる。
【0089】
比較例1は、被覆未処理の負極活物質を用いた結果である。負極活物質は、被覆がされていないため、電池作動時に、負極活物質表面では、電解液中の成分が還元的に分解して膜が生成される。この膜は、電子伝導性が高いため、被膜上で、電解液成分の分解,析出が起こり、被膜が成長し続ける。このため、比較例1では、被膜処理をした比較例2や、実施例1〜11と比較して、容量維持率が低く、DCR変動率が高い。
【0090】
比較例2は、負極活物質上にPEOが被覆された結果である。PEOによる被覆膜が形成されているため、比較例1に比べ、容量維持率が高く、DCR変動率が低く抑えられている。
【0091】
実施例1〜11では、PEOに比べてイオン伝導性が高い、(式1),(式2)に示す化合物を被覆膜として用いているため、初期DCR値は、比較例2よりも低く抑えることができている。また、実施例1〜11では、比較例2と比較して、容量維持率が高く、DCR変動率が低く抑えられている。イオン伝導度が高いポリマー中では、電荷が円滑に流れることができるため、電荷の電解液成分への流出が少ない。この結果、電解液成分の析出が抑えられ、電池の抵抗上昇を抑えることができる。
【0092】
負極活物質にPECを被覆した実施例1〜6記載の電池の初期DCRは、PEGBEを被覆した実施例7〜11記載の電池と比較して初期DCRが低い。これは、PECのイオン伝導度が、PEGBEに比べて高いためであることが考えられる。
【0093】
架橋剤としてVC及び、DMACを用いた実施例2〜5,実施例8〜11は、架橋剤を用いなかった実施例1,実施例7と比較して、容量維持率が高く、DCR変動率が低い。これは、架橋剤により、被膜の安定性が増したためと考えられる。また、DMACを架橋剤として用いた実施例4,5,10,11は、VCを用いた実施例2,3,8,9と比較して、容量維持率が高く、DCR変動率が低い。これは、VCの架橋構造が直鎖状であることに対して、DMACの架橋構造は、分岐状であり、より架橋構造が頑健であることが理由として考えられる。
【0094】
また、表面処理をした実施例3,5,9,11では、表面処理しなかった実施例2,4,8,10と比較して、容量維持率が高く、DCR変動率が低い。シラン処理により、優れた効果が得られる機構は明らかではないが、リチウムと化学反応してしまい電池の充放電反応に寄与しなくなると考えられる表面吸着水や表面官能基が、耐水性,親油性の向上により減少するためではないかと考えられる。
【0095】
以上、本発明によれば、25℃でのDCRを改善しつつ、50℃以上の高温貯蔵時の劣化を抑制した二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0096】
1 正極集電体
2 正極合剤層
3 負極集電体
4 負極合剤層
7 セパレータ
8 電流遮断弁
9 負極リード
10 正極リード
11 正極インシュレータ
12 負極インシュレータ
13 負極電池缶
14 ガスケット
15 正極電池蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
電解液と、を有するリチウムイオン電池において、
前記負極は、負極活物質と、ポリマーと、を有し、
前記負極活物質の表面は、全体的、または、部分的に前記ポリマーによって被膜されており、
前記ポリマーは、下(式1)に示す脂肪族ポリカーボネート、または、下(式2)に示す重合性ホウ素化合物を重合して得られるポリエチレングリコールホウ酸エステル、を含むリチウムイオン電池。
【化1】

1:炭素数2以上7以下の炭化水素基である。
n:10より大きく10000未満である。
【化2】

1,Z2,Z3:アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基又は炭素数1以上10以下の炭化水素基で、Z1,Z2,Z3の1,2または3つが上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する有機基である。
AO:炭素数1以上6以下のオキシアルキレン基で、1種または2種以上からなる。
p,q,r:オキシアルキレン基の平均付加モル数で0より大きく4未満であり、かつp+q+rが3以上である。
【請求項2】
請求項1において、
1は、炭素数2以上3以下の炭化水素基であり、
nは、100より大きく1000未満であるリチウムイオン電池。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ポリマーは、架橋剤により架橋されているリチウムイオン電池。
【請求項4】
請求項3において、
前記架橋剤は、下(式3)に示す環状カーボネートを含むリチウムイオン電池。
【化3】

2,R3:水素,フッ素,塩素,炭素数1以上3以下のアルキル基,フッ素化されたアルキル基のいずれかである。
【請求項5】
請求項3において、
前記架橋剤は、下(式4)に示す鎖状カーボネートを含むリチウムイオン電池。
【化4】

4,Z5:アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれか一種以上を含む重合性官能基である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記負極活物質は、シラン処理,アルミ処理、または、チタン処理をされているリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかにおいて、
保存日数30日の容量維持率は、75.6%より高いリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれかにおいて、
初期DCRは、65mΩよりも低いリチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかにおいて、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物を含むリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項9において、
前記負極活物質は、炭素質材料,IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物,の少なくとも1種を含むリチウムイオン電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−4215(P2013−4215A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131787(P2011−131787)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】