説明

リチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法、リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法及び硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置

【課題】短時間で高いイオン伝導性を有するLiイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスを製造できるLiイオン伝導性硫化物ガラスの製法、前記Liイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製法、及びLiイオン伝導性硫化物ガラスの製法に好適な硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置を提供する。
【解決手段】LiとPとSとを含むLiイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法であって、原料を60℃〜160℃でメカニカルミリング処理してガラス化させるLiイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法である。また、上記Liイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法により製造されたLiイオン伝導性硫化物ガラスを200℃以上360℃以下で加熱するLiイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法である。粉砕容器とボールと粉砕容器内の温度を60℃〜160℃にする温度調整手段を備える硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法、リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法及び該硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム電池は、携帯電話端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを電力源とする自動二輪車、ハイブリット電気自動車などの主電源として利用され、その需要は増大している。
現在、リチウム電池に用いられている液系電解質の多くは可燃性の有機物が含まれていることから電池に異常が生じた際には発火する等の恐れがあり、電池の安全性の確保が望まれている。
安全性の高い電池システムを構築するために、固体電解質を用いた全固体型リチウム二次電池の開発が望まれている。
【0003】
Li7PS6、Li426、Li3PS4などの結晶相を含有する固体電解質(例えば、特許文献1)及びLi7311の結晶相を含有する固体電解質(例えば、特許文献2)が高いリチウムイオン伝導性を示すことが開示されている。
上記結晶相を含有する固体電解質の製造方法としては、遊星ボールミルを用いて常温でガラス電解質とし、熱処理することにより結晶相を析出させている。
しかしながら、遊星ボールミルを用いる常温でのガラス電解質の製造には、長時間のメカニカルミリング処理を必要とし、生産性及び経済性において不十分である。
【0004】
また、150〜300℃に保った恒温槽内に回転ミルを設置して数時間反応させることにより、イオン伝導性が優れた固体電解質を製造できることが開示されている。150〜300℃の温度範囲内においては、より高温であることが好ましいことが開示されている(例えば、特許文献3)。
しかし、特許文献3に記載の方法により、硫化リチウムと五硫化リン等の硫化リンとをメカニカルミリング処理し、さらに加熱処理してリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスを得たとしても、得られたリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスのイオン伝導度が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−109955号公報
【特許文献2】特開2005−228570号公報
【特許文献3】特開平11−144523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、短時間で高いイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスを製造することができるリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法、及び当該製造方法に好適な硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、短時間で高いイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、160℃より高い温度で、硫化リチウムと五硫化リン等の硫化リンとをメカニカルミリング処理した場合、得られるリチウムイオン伝導性硫化物ガラスに種々の結晶相が析出してしまう。このリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを熱処理してリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスを製造したとしても、前記種々の結晶相の影響により目的以外の結晶構造が生成し、イオン伝導性が低くなることを発見した。
本発明者らは、この発見に基づき、硫化リチウムと硫化リンとを60℃以上、160℃以下でメカニカルミリング処理するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
[1] リチウムとリンと硫黄とを含むリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法であって、原料を60℃以上、160℃以下でメカニカルミリング処理することによりガラス化させることを特徴とするリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
[2] 前記メカニカルミリング処理時の温度を100℃以上、160℃以下とすることを特徴とする[1]に記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
[3] リチウムイオン伝導性硫化物ガラスにおけるリチウム、リン及び硫黄の組成比が、リチウム10.34〜59.38at%、リン3.13〜24.14at%、硫黄16.48〜86.53at%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法により製造されたリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを200℃以上360℃以下で加熱することを特徴とするリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法。
[5] 粉砕容器と、ボールと、前記粉砕容器内の温度を60℃以上、160℃以下にする温度調整手段と、を備えることを特徴とする硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間で高いイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスを製造することができる製造方法、及び当該製造方法に好適な硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置を提供することができる。
また、本発明によれば、短時間で高いイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1〜3、比較例1〜3のイオン伝導度の値の経時変化を示したものである。
【図2】実施例4、比較例4のイオン伝導度の値の経時変化を示したものである。
【図3】実施例1〜3、比較例1〜3のX線回折パターンを示したものである。
【図4】実施例4、比較例4のX線回折パターンを示したものである。
【図5】実施例1の熱処理品のX線回折パターンを示したものである。
【図6】実施例4の熱処理品のX線回折パターンを示したものである。
【図7】実施例4、比較例4の加熱型振動メカニカルミリング処理装置を示した模式図である。
【図8】実施例5、6、比較例5のイオン伝導度の値の経時変化を示したものである。
【図9】実施例5、6、比較例5のX線回折パターンを示したものである。
【図10】実施例5の熱処理品のX線回折パターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法は、メカニカルミリング処理によりガラス化させ、リチウムとリンと硫黄を含むリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを製造する製造方法であって、メカニカルミリング処理時の温度が60℃以上、160℃以下である。
【0012】
メカニカルミリング処理する原料としては特に限定されないが、例えば、硫化リチウムや硫化リンを使用することができる。
メカニカルミリング処理する原料は二種以上の物質からなり、この物質の混合物(原料)が、リチウムとリンと硫黄とを含んでいれば良い。
例えば、原料が硫化リチウムと硫化リンであれば、硫化リチウムが硫黄とリチウムからなり、硫化リンが硫黄とリンを含むので、この原料は、リチウムとリンと硫黄とを含む。
以下、これらの材料について説明する。
【0013】
(i)硫化リチウム(Li2S)
本実施形態に係る硫化リチウム(Li2S)は、例えば、特許第3528866号に記載された方法で製造することができる。
この製造方法は、非プロトン性有機溶媒中に硫化水素を吹き込みながら水酸化リチウムと硫化水素とを反応させて水硫化リチウムを製造し、次いで、反応液を脱硫化水素化して硫化リチウムとする方法である。
また、硫化リチウムとしては、純度が99%以上であるものが好ましい。
従って、上記のようにして製造した硫化リチウムは、国際公開番号WO2005/040039に記載された方法等で精製することができる。
この精製方法は、得られた硫化リチウムを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄して精製する方法である。
上記の精製方法は簡便な処理により、硫化リチウム中に含まれる不純物である硫黄酸化物やN−メチルアミノ酪酸リチウム(以下、LMABという)等を除去することができる。
硫化リチウムに含まれる硫黄酸化物の総量は、0.15質量%以下であることが好ましく、LMABは、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0014】
(ii)硫化リン
本実施形態に係る硫化リンは、特に制限しないが、三硫化リン(P43)、五硫化リン(P25)、七硫化リン(P47)が好ましい。より好ましくは、五硫化リンである。
五硫化リンは特に制限がなく、例えば、工業的に製造され、販売されているものを使用することができる。
【0015】
(iii)組成比
リチウムイオン伝導性硫化物ガラス及び/またはリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの好ましい組成比としては、原子百分率(at%)でリチウムが10.34〜59.38at%、リンが3.13〜24.14at%、硫黄が16.48〜86.53at%の範囲である。
硫化リチウムと五硫化二リンの仕込み量としては、硫化リチウムの仕込み量が出発原料全体の30〜95モル%、好ましくは50〜85モル%、より好ましくは55〜82モル%である。
従って、五硫化二リンの仕込み量は出発原料全体の70〜5モル%、好ましくは50〜15モル%、より好ましくは45〜18モル%である。
原料の仕込み量が上記範囲内であると、高いイオン伝導度を有する固体電解質を合成することができる。
【0016】
(iv)溶媒
本実施形態では、上記硫化リチウムと硫化リンとを溶媒中(スラリーとして)で反応させてもよく、また、溶媒を用いずに反応させても良い。
ここで、溶媒としては、炭化水素系溶媒であることが好ましい。
炭化水素系溶媒として、特に制限されないが、飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素が好ましい。飽和炭化水素としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン等が挙げられる。不飽和炭化水素しては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
これらのうち、特にトルエン、キシレンが好ましい。
【0017】
(iv)メカニカルミリング処理
メカニカルミリング処理を用いてリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを形成すると、ガラス生成域を拡大することができる。
メカニカルミリング処理によりリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを形成する際、窒素等の不活性ガスの雰囲気を用いるのが好ましい。
水蒸気や酸素等は、出発物質と反応し易いからである。
メカニカルミリング処理では、ボールミル機(遊星ミル機、振動ミル機、回転ミル機等)を使用するのが好ましい。これは、大きな機械的エネルギーが得られるからである。
【0018】
(v)メカニカルミリング処理温度
メカニカルミリング処理温度は60℃以上160℃以下とする。メカニカルミリング処理温度の下限は、100℃であることが好ましく、メカニカルミリング処理温度の上限は150℃であることが好ましく、より好ましくは150℃未満である。さらに好ましくは、140℃以下である。
例えば、60℃以上150℃以下、100℃以上160℃以下(好ましくは100℃以上150℃以下)、60℃以上150℃未満、100℃以上150℃未満が好ましい。
メカニカルミリング処理温度が60℃未満の場合、リチウムイオン伝導性硫化物ガラス製造に要する反応時間を短縮する効果が小さく、160℃より高い温度であると、リチウムイオン伝導性硫化物ガラスに一部結晶相の析出が起こり、このリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを加熱して得られるリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスはイオン伝導度が低い水準に留まる。
【0019】
(vi)その他のメカニカルミリング処理条件
その他のメカニカルミリング処理の条件としては、使用する機器等により適宜調整すればよいが、一般に、回転速度が速いほど、リチウムイオン伝導性硫化物ガラスの生成速度は速くなり、回転時間が長いほどリチウムイオン伝導性硫化物ガラスヘの原料の転化率は高くなる。
例えば、一般的な粉砕機である回転ミル機を使用する場合は、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜30日間処理すればよく、特に10時間以上処理(反応)することが好ましく、20時間以上処理することがより好ましい。
【0020】
(vii)リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法
上記のようにして得られたリチウムイオン伝導性硫化物ガラスは、更に200℃〜360℃、好ましくは220〜320℃、より好ましくは230〜300℃で焼成処理することにより、イオン伝導度が向上する。焼成処理温度が上記範囲外であると、イオン伝導度が低い結晶層が生成する恐れがある。
【0021】
(viii)硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置
本発明の硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置は、粉砕容器と、ボールと、粉砕容器内の温度を60℃以上160℃以下にする温度調整手段とを備え、本発明のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法に好適なメカニカルミリングを行うための粉砕機である。例えば、上記温度調整手段を備えた遊星ミル機、転動ミル機、振動ミル機、回転ミル機などが挙げられる。
【0022】
上記回転ミル機は、ミルの直径に応じて加わるエネルギーが大きくなり、大型機になるほど反応速度は速くなる傾向を示し、内容積数十m3の大型機も商業的に製作・販売されているため、量産化に適した装置である。
また、上記遊星ミル機、振動ミル機は回転ミル機と比較して、高いエネルギーを試料に加えることができ、短時間で反応を行うことができる利点がある。
粉砕容器内の温度を60℃以上160℃以下にする温度調整手段を備えた加熱装置は、粉砕容器内の温度を60℃以上160℃以下にすることができれば特に制限されないが、熱媒を循環可能なジャケット又は電気ヒーターを装着したものが好ましい。温度調整手段としては、公知の温度調節器を使用することができる。
【0023】
図8に、本発明の硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置の一態様を示す。当該メカニカルミリング処理装置は、メカニカルミリング処理容器1とO−リングパッキン2とメカニカルミリング処理容器1の外周に設けられた熱媒ジャケット3とを備えた振動ミルであり、熱媒供給管を介して熱媒ジャケット3が熱媒循環装置4と繋がっている。
メカニカルミリング処理容器1の内部には、複数のボール(粉砕体)と原料粉体とが装填され、熱媒ジャケット3により所定の温度(60℃以上160℃以下)に維持されながら、ボールの運動による衝撃と摩擦力で原料粉体が粉砕される。
【実施例】
【0024】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
本発明におけるイオン伝導度及びX線回折パターンは、下記測定方法によって測定した。
(イオン伝導度)
リチウムイオン伝導性硫化物ガラス又はその熱処理物を錠剤成形機に充填し、4〜6MPaの圧力を加え成形体とした。
次に、電極としてカーボンとリチウムイオン伝導性硫化物ガラス又はその熱処理物を質量比1:1で混合した合材を成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、伝導度測定用の成形体(直径約10mm、厚さ約1mm)を作製した。
この成形体について、交流インピーダンス測定によりイオン伝導度測定を実施した。
イオン伝導度の値は25℃における数値を採用した。
【0026】
(X解回折パターン)
リチウムイオン伝導性硫化物ガラス又はその熱処理物のX解回折測定は、リガク社製ultima−IIIのX線発生装置(CuKα:λ=1.5418Å)を用いて実施した。
【0027】
製造例
(硫化リチウムの製造)
硫化リチウムは、特許第3528866号の第1の発明(2工程法)に従って製造した。
すなわち、攪拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpmで、130℃に昇温した。
昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
続いて、この反応液を窒素気流下(200mL/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。
昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。
水を系外に留去するとともに反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。
水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)、硫化リチウムを得た。
【0028】
(硫化リチウムの精製)
上記製造法で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。この温度のまま、NMPをデカンテーションした。
更に、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、この温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。
デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを3時間乾燥した。
【0029】
得られた硫化リチウム中の不純物含有量をイオンクロマトグラフ法により測定した。
その結果、亜硫酸リチウム(Li2SO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、チオ硫酸リチウム(Li223)の各硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(NMAB)の含有量は0.07質量%であった。
このようにして精製した硫化リチウムを、以下の実施例及び比較例で使用した。
【0030】
実施例1(転動ミルを用いる製造)
上記製造例の硫化リチウム(Li2S)32.54g(70モル%)と五硫化リン(P25;アルドリッチ社製)67.46g(30モル%)を15mmφのジルコニアボール約3.6kgが入った直径114mmφ、容量1LのSUS製粉砕容器に入れ密閉した。
上記操作は全てグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機により事前に水分を除去したものを用いた。
この粉砕容器を140℃に保った恒温槽内に入れ、103rpmにて回転させメカニカルミリング処理を行った。
所定の日数毎に、粉末状生成物約1gを採取し、イオン伝導度測定を行った。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に示した。
図1において、縦軸はイオン伝導度(S/cm)、横軸は反応時間(日)を示す。
6日間の反応により、生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cm以上となっていた。
また、X線回折パターン(CuKα:λ=1.5418Å)において硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した(図3参照)。
図3において、縦軸はIntensity(cps)、横軸は2θ(°)を示す。
【0031】
次に、6日間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を密閉容器に入れ、300℃で2時間、熱処理を行った。
この熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された(図5参照)。
図5において、縦軸はIntensity(cps)、横軸は2θ(°)を示す。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.5×10-3S/cmであった。
【0032】
実施例2
粉砕容器を100℃に保った恒温槽内に入れメカニカルミリング処理した以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。
8日間の反応により生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cmに達した。
X線回折パターンでは、硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に、8日後の生成物のX線回折パターンを図3に示した。
【0033】
次に、8日間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を実施例1と同様に熱処理したところ、熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.3×10-3S/cmであった。
【0034】
実施例3
粉砕容器を70℃に保った恒温槽内に入れメカニカルミリング処理した以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。
10日間の反応により生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cm以上となっていた。
X線回折パターンでは、硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に、X線回折パターンを図3に示した。
【0035】
次に、10日間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を実施例1と同様に熱処理したところ、熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.6×10-3S/cmであった。
【0036】
比較例1
粉砕容器を30℃に保った恒温槽内に入れメカニカルミリング処理した以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。
16日間の反応により生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cmに達した。
X線回折パターンでは、硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に、X線回折パターンを図3に示した。
次に、16日間反応後の生成物を実施例1と同様に熱処理したところ、熱処理品のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.8×10-3S/cmであった。
【0037】
比較例2
粉砕容器を170℃に保った恒温槽内に入れメカニカルミリング処理した以外は、比較例1と同様に反応及び処理を行った。
3日間の反応により生成物のイオン伝導度は4.5×10-5S/cmに達したが、その後反応を継続した場合においてもイオン伝導度の向上は見られなかった。
3日間反応後の生成物のX線回折パターンは、Li3PS4に帰属されるピークが観測された。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に、X線回折パターンを図3に示した。
次に、3日間反応後の生成物を実施例1と同様に熱処理し、熱処理品のイオン伝導度測定を行なったところ、イオン伝導度は8.7×10-5S/cmであった。
【0038】
比較例3
粉砕容器を200℃に保った恒温槽内に入れメカニカルミリング処理した以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。
3日間の反応により生成物のイオン伝導度は7.0×10-6S/cm以上となっていたが、その後反応を継続した場合においてもイオン伝導度の向上は見られなかった。
3日間反応後の生成物のX線回折パターンは、Li3PS4に帰属されるピークが観測された。
イオン伝導度の値の経時変化を表1及び図1に、X線回折パターンを図3に示した。
次に、3日間反応後の生成物を実施例1と同様に熱処理したところ、熱処理品のX線回折パターンは、主結晶としてLi3PS4に帰属されるピークが観測された。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は9.2×10-6S/cmであった。
【0039】
実施例4(振動ミルを用いる製造)
本実施例では、図7に示す加熱型振動ミルを用いた。
すなわち、粉砕容器として容量6.7Lの円筒型ジャケット付SUS製容器を用いて、振動メカニカルミリング処理を行った。
6.7L容器に、20mmφのジルコニアボール18.2kg、上記製造例の硫化リチウム(Li2S)81.35g(70mol%)と五硫化リン(P25;アルドリッチ社製)168.65g(30mol%)を露点−40℃以下に保ったドライルーム内で仕込み密閉した。
振動ミルに密閉容器を固定し、ジャケットに120℃の熱媒を循環し、1分間当たり振動数1500回、振幅8mmでメカニカルミリング処理を行った。
所定の時間毎に、粉末状生成物約1g採取し、イオン伝導度測定を行った。
イオン伝導度の値の経時変化を表2及び図2に示した。
図2において、縦軸はイオン伝導度(S/cm)、横軸は反応時間(時間)を示す。
20時間の反応により、生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cmに達した。
また、X線回折パターン(CuKα:λ=1.5418Å)において硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した(図4参照)。
図4において、縦軸はIntensity(cps)、横軸は2θ(°)を示す。
【0040】
次に、20時間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を密閉容器に入れ、300℃で2時間、熱処理を行った。
この熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された(図6参照)。
図6において、縦軸はIntensity(cps)、横軸は2θ(°)を示す。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.8×10-3S/cmであった。
【0041】
比較例4
ジャケットに40℃の熱媒を循環した以外は、実施例4と同様に反応及び処理を行った。
40時間の反応により生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cm以上となっていた。
イオン伝導度の値の経時変化を表2及び図2に、X線回折パターンを図4に示した。
また、X線回折パターン(CuKα:λ=1.5418Å)において硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した(図4参照)。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
実施例5
和光純薬製キシレン(脱水グレード)100gを加えた以外は、実施例1と同様条件で反応を行った。取り出した反応物のキシレンスラリーは真空条件下にて140℃にて2時間乾燥し、粉末生成物とした。伝導度変化の結果を表3、図8に示す。4日間の反応により、生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cm以上となっていた。
また、X線回折パターン(CuKα:λ=1.5418Å)において硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した(図9参照)。
次に、4日間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を密閉容器に入れ、300℃で2時間、熱処理を行った。
この熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された(図10参照)。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.2×10-3S/cmであった。
【0045】
実施例6
和光純薬製トルエン(脱水グレード)100gを加えた以外は、実施例2と同様条件で反応を行った。取り出した反応物のトルエンスラリーは真空条件下にて140℃にて2時間乾燥し、粉末生成物とした。伝導度変化の結果を表3、図8に示す。6日間の反応により、生成物のイオン伝導度は1.0×10-4S/cm以上となっていた。
また、X線回折パターン(CuKα:λ=1.5418Å)において硫化リチウムのピークは殆ど消失し、生成物はガラスとなっていることを確認した(図9参照)。
次に、6日間反応後の生成物(リチウムイオン伝導性硫化物ガラス)を密閉容器に入れ、300℃で2時間、熱処理を行った。
この熱処理品(リチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックス)のX線回折パターンは、Li7311の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
また、イオン伝導度測定の結果、この熱処理品のイオン伝導度は1.4×10-3S/cmであった。
【0046】
比較例5
和光純薬製デカリンを3Aモレキュラーシーブスにより脱水したものを100gを加えた以外は、比較例2と同様条件で反応を行った。取り出した反応物のデカリンスラリーにトルエンを加え固液分離することで、デカリンをトルエンに置換した後に、真空条件下にて140℃にて2時間乾燥し、粉末生成物とした。伝導度変化の結果を表3、図8に示す。2日反応以降は伝導度は低い水準でとどまり、Li3PS4を含む結晶相の析出が見られた。
【0047】
【表3】

【0048】
本発明の製造方法により得られたガラスセラミックスは、25℃において10-3S/cm1台という、極めて高いリチウムイオン伝導性を示す。従って、リチウム電池の固体電解質用の材料として極めて適している。
また、上記セラミックスを固体電解質として使用した全固体電池は、エネルギー密度が高く、安全性及び充放電サイクル特性が優れている。
【符号の説明】
【0049】
1 メカニカルミリング処理容器
2 O−リングパッキン
3 熱媒ジャッケト
4 熱媒循環装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムとリンと硫黄とを含むリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法であって、
原料を60℃以上、160℃以下でメカニカルミリング処理することによりガラス化させることを特徴とするリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記メカニカルミリング処理時の温度を100℃以上、160℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
【請求項3】
リチウムイオン伝導性硫化物ガラスにおけるリチウム、リン及び硫黄の組成比が、リチウム10.34〜59.38at%、リン3.13〜24.14at%、硫黄16.48〜86.53at%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法により製造されたリチウムイオン伝導性硫化物ガラスを200℃以上360℃以下で加熱することを特徴とするリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項5】
粉砕容器と、
ボールと、
前記粉砕容器内の温度を60℃以上、160℃以下にする温度調整手段と、
を備えることを特徴とする硫化物ガラス製造用のメカニカルミリング処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−30889(P2010−30889A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157267(P2009−157267)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】