説明

リチウムイオン蓄電デバイスの製造方法

【課題】シリコン等の金属材料を負極活物質として用いた蓄電デバイスにおいて、高いサイクル特性を維持しつつ、短時間での初回充電完了を実現すること。
【解決手段】
正極と、合金系負極と、前記負極にリチウムイオンをプレドープするためのリチウムイオン供給源と、を備えるリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法であって、前記負極へのプレドープを低充電レートで行うプレドープ工程と、前記プレドープ工程後、初回充電を前記プレドープ時よりも高い充電レートで行う初回充電工程と、を有するリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法を提供する。プレドープ後の初回充電を高充電レートで行い、サイクル特性の向上を図りつつ、初回充電を高い充電レートで行うことで、初回充電完了時間の短縮化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金系負極を用いたリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車(EV)や携帯型情報通信関連機器等の多岐の分野にわたり、リチウムイオン二次電池等のリチウムイオン蓄電デバイスが使用されている。このようなリチウムイオン蓄電デバイスの一種として、シリコン等の金属材料を負極活物質として含む合金系負極を用いたリチウムイオン蓄電デバイスは、充放電によりシリコン等がリチウム金属と合金を形成するため膨張・収縮する。この膨張・収縮が原因で負極が劣化するために、サイクル特性が低いことが知られている。
【0003】
このような課題に対し、例えば特許文献1では、組み立てられた蓄電デバイスの初回充電を0.005〜0.03Cの低充電レートで行い、負極においてリチウムイオンを均一化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−243717
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の蓄電デバイスでは、サイクル特性の大きな低下はみられないものの、低充電レートでの初回充電が要求されるため、充電完了までに非常に長い時間を要していた。このような初回充電時間の長時間化は、生産設備で初回充電を行う場合おいては製造コスト増加につながり、一方で初回充電がユーザ側で行われる場合にはユーザにとっての利便性の低下につながることとなる。
【0006】
そこで、本発明は、シリコン等の金属材料を負極活物質として用いた蓄電デバイスにおいて、高いサイクル特性を維持しつつ、短時間での初回充電完了を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明にかかるリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法は、正極と、合金系負極と、負極にリチウムイオンをプレドープするためのリチウムイオン供給源と、を備えるリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法であって、負極へのプレドープを低充電レートで行うプレドープ工程と、前記プレドープ工程後、初回充電をプレドープ時よりも高い充電レートで行う初回充電工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
なお、本発明において「プレドープ」とは、初回充電の前に、リチウムイオン供給源から行われる充電を意味する。また、プレドープ時の「低充電レート」とは、初回充電時の充電レートと比較して低い充電レートであるということを意味する。一方、初回充電時の「高い充電レート」とは、プレドープ時の充電レートと比較して高い充電レートであるということを意味する。
【0009】
本発明者は、蓄電デバイスの製造過程において行われる負極へのプレドープの際にのみ、充電レートを相対的に低くすることで、その後、初回充電を高充電レートで行ってもサイクル特性を劣化させることなく維持可能であることを見出した。
【0010】
上記プレドープ工程におけるプレドープの際の充電レートは、好ましくは、0.01〜0.1C、特に、0.02〜0.1C、より好ましくは0.02〜0.05Cである。このような低充電レートでプレドープを行うことで、負極内のリチウム分布が均一となり、充放電によるリチウム析出の可能性が低下し、サイクル特性が良好となる。なお、プレドープの充電レートが0.01C未満の場合ではプレドープ時間が長くなり、0.1Cよりも大きいと、負極内のリチウム分布の均一性が損なわれ、サイクル特性が低下する可能性がある。
【0011】
また、プレドープは、40℃以下の環境下で行うことが好ましい。これにより、プレドープ時の電解液からのガス発生や、SEI被膜(固体電解質被膜)の形成が回避されるので、プレドープが負極において均一に行われる。
【0012】
更に、初回充電における充電レートは、1C以上であることが好ましい。このように高充電レートでプレドープを行うことで、初回充電の時間を短縮することができる。なお、本発明では、プレドープ工程において既にリチウムの分布が均一化されているため、比較的急速な充電を行っても、サイクル特性が低下することはない。
【0013】
更に、負極活物質の使用領域が、全容量の5%〜80%であることが好ましい。なお、負極活物質の使用領域とは、正負極が組み合わされたセルからエネルギーを取り出すために行う充電末端と放電末端の間のSOC(State Of Charge)領域のことであり、初回充電容量がこれにあたる。負極活物質の全容量とは、充放電可能な最大の容量のことであり、0%から100%のSOC領域のことである。負極活物質の使用領域が、全容量の5%〜80%とすることで負極のサイクル特性が安定する。
【0014】
また、リチウムイオン供給源は、正極に含まれるか、或いは正極及び負極とは異なるリチウム極が使用される。リチウムイオン供給源が正極に含まれていると正極から負極へ流す電流を制御することで、充電レートを制御することができる。一方で、リチウムイオン供給源が、正極及び負極とは異なるリチウム極に含まれる場合には、リチウム極から負極へ流す電流を制御することで、充電レートを制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プレドープにおける充電レートを低くしてサイクル特性の向上を図りつつ、初回充電における充電レートを高くすることで初回充電完了時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例におけるリチウムイオン蓄電デバイス内部を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかるリチウムイオン蓄電デバイス10の内部を模式的示した図である。本実施の形態にかかるリチウムイオン蓄電デバイス10は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な正極活物質を有する正極18と、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な負極活物質を有する負極12と、正極18と負極12間を満たす非水電解液(図示せず)とを備え、正極18と負極12との間におけるリチウムイオンの移動により充放電を行い、放電時に電流を取り出すことができるデバイスである。
【0018】
正極18と負極12とはフィルム状のセパレータ25を介して積層されており、セパレータ25には非水電解液が浸透している。正極と負極とが複数ある場合には、正極18と負極12とが交互に積層される。また、平板上に積層される積層型の電極ユニットや積層したものを捲回した捲回型の電極ユニットのいずれでも本実施の形態に適用できる。
【0019】
ここで、「ドープ」とは、吸蔵・挿入の他に吸着・担持等も含む概念であり、「脱ドープ」とはその逆の概念である。例えば、リチウムイオン蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等が含まれる。
【0020】
本実施形態において、負極12は、Cu箔等の金属基板からなり外部回路と接続のためのリード24が設けられる集電体14と、集電体14の片面または両面に設けられた負極活物質層16とから構成される。負極活物質層16は、負極活物質、バインダー、及び導電助剤をNMP等の溶媒を用いてスラリーにし、塗布・乾燥させて形成される。
【0021】
負極活物質は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な物質であって、金属材料、その他リチウムイオンを吸蔵可能な炭素材料や金属材料や合金材料や酸化物、又はこれらの混合物が用いられる。負極活物質の粒径は0.1〜30μmであることが好ましい。金属材料としては例えばシリコンやスズが挙げられる。合金材料としては例えばシリコン合金やスズ合金が挙げられる。酸化物としては例えば酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタンが挙げられる。炭素材料としては例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、ポリアセン系有機半導体等が挙げられる。これらの材料を混合して用いても良い。本実施の形態では、シリコン元素やスズ元素等を含む合金系負極を有する蓄電デバイスに対し特に効果的である。
【0022】
本実施形態において、正極18は、Al箔等の金属基板からなり外部回路と接続のためのリード26が設けられる集電体20と、集電体20の片面または両面に設けられた正極活物質層22とから構成される。正極活物質層22は、正極活物質、バインダー、及び導電助剤をNMP等の溶媒を用いてスラリーにし、塗布・乾燥させて形成される。
【0023】
正極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能なリチウム含有化合物であって、酸化物、リン酸塩、窒化物、有機物、硫化物(有機硫黄、無機硫黄を含む)、金属錯体、導電性高分子、金属等を用いることができる。特にリチウム放出量の大きい正極活物質が好ましく、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO等の遷移金属酸化物やリン酸塩、アルコキシド材料、フェノキシド材料、ポリピロール材料、アントラセン材料、ポリアニリン材料、チオエーテル材料、チオフェン材料、チオール材料、スルフラン材料、プルスルフラン材料、チオラート材料、ジチアゾール材料、ジスルフィド材料、ポリチオフェン材料等の有機化合物や硫化物や導電性高分子、またはリチウムを予め付与した無機硫黄などを使用することができる。正極活物質の粒径は0.1〜30μmであることが好ましい。
【0024】
本実施の形態に用いられる電解液は、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、非水電解液であり、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを溶媒に溶解した電解液を使用する。電解質や溶媒は特に制限されるものではないが、例えば、電解質としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、(CSONLi、(CFSONLi等やこれらの混合物を用いることができる。これらの電解質は単独使用しても、複数種類を併用してもよい。本実施の形態では、LiPFやLiBFが特に好ましく使用される。さらに、非水電解液の溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、アセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、プロピオニトリル(PN)等の比較的分子量の小さい溶媒、又はこれらの混合物を使用することができる。本実施の形態の電解液における溶媒は鎖状カーボネートと環状カーボネートの混合物であると好ましい。2種類以上の鎖状カーボネートや2種類以上の環状カーボネートを用い多混合物であってもよい。また、必要に応じて溶媒にはフルオロエチレンカーボネート(FEC)等が添加される。
【0025】
本実施の形態において、初回充電とは、蓄電デバイスとして充放電で使用するSOC領域分の最初の充電をいう。本実施の形態では、負極のSOC5%からSOC80%の範囲内で充電が行われる。
【0026】
本実施の形態において、プレドープとは、予めリチウムイオンをドープさせることを意味する。負極の不可逆容量分を負極外部からドープすることで補うことが目的の1つであるが、可逆容量分をドープしても構わない。負極外部とは後述するリチウムイオン供給源である。初回充電の前に、リチウムイオン供給源から行われる充電をプレドープという。
【0027】
本実施の形態では、負極のSOCが5%以上となるようにプレドープすることが好ましい。
【0028】
本実施の形態において、リチウムイオン供給源とは、例えば、正極18の正極活物質層22に、正極活物質の他に、負極12にリチウムイオンをプレドープ可能な酸化物、リン酸塩、窒化物、有機物、硫化物などのリチウム含有化合物を設けたものが用いられる。負極12にプレドープを行う場合には、正極18と負極12との間に外部回路を接続し、正極18から負極12へ電流を流すことにより、リチウムイオンを負極へドープ(充電)することができる。外部回路を用いて電流を制御することで、充電レートを制御することができる。
【0029】
また、リチウムイオン供給源として、例えば、Cu箔等の金属基板からなる集電体上にリチウム金属を設けたリチウム極(図示せず)を用いても良い。負極12にプレドープを行う場合には、リチウム極と負極12との間に外部回路を接続し、リチウム極から負極12へ電流を流す。これにより、リチウムイオンが負極12へドープ(充電)される。外部回路を用いて電流を制御することで、充電レートを制御することができる。このようにリチウム金属を用いてプレドープを行う場合には、正極集電体20と負極集電体14に貫通孔を設けておくことが好ましい。貫通孔を設けておくことにより、リチウム極からスムーズに負極12にリチウムイオンをプレドープすることが可能となる。
【0030】
本実施の形態におけるプレドープ工程は、低充電レートで行われる。低充電レートとは、初回充電時の充電レートよりも低い充電レートであるということを意味する。低充電レートとは例えば0.01C〜0.1Cであることが好ましい。
【0031】
低充電レートでプレドープを行うことで、負極12内のリチウム分布が均一となり、充放電によるリチウム析出の可能性が低下し、サイクル特性が良好となる。なお、0.01C未満ではプレドープに長時間を要する。0.1Cよりも大きいと、負極12内のリチウム分布の均一性が損なわれ、サイクル特性が低下する可能性がある。
【0032】
また、プレドープ工程は、40℃以下の環境下で行われることが好ましい。40℃以下という低温の環境下では、プレドープ時の電解液からのガス発生や、SEI被膜(固体電解質被膜)の形成が回避される。これにより、プレドープが均一に行われる。本実施の形態における初回充電工程は、高充電レートで行われる。高充電レートとは、プレドープ時の充電レートよりも高い充電レートであるということを意味する。高充電レートとは例えば1C以上であることが好ましい。
【0033】
初回充電を高充電レートで行うことで、初回充電時間を短縮できる。プレドープ工程ですでにリチウムの分布が均一化されているため、比較的急速な充電を行っても、サイクル特性が低下することはない。短時間で初回充電が完了するため生産性の面で優れた効果が得られる。また、短時間での充電処理により、電極の電解液による含浸も均一に行われ、負極12へのリチウム金属析出の可能性も低下する。すなわち、短時間の充電ではガス発生による電極内の気泡生成が抑制されるため、電解液の含浸が均一に行われる。電解液の均一な含浸により、電極内の抵抗のバラツキが解消し、部分的な金属リチウムの析出が抑制される。なお、初回充電を1C未満で行うと、短時間で初回充電が完了できず、生産性の面での効果が得られにくい。
【0034】
本実施の形態では、負極活物質の使用領域が、全容量の5〜80%であることが好ましい。負極活物質の使用領域とは、正負極が組み合わされたセルからエネルギーを取り出すために行う充電末端と放電末端の間のSOC領域のことであり、初回充電容量がこれにあたる。負極活物質の全容量とは、充放電可能な最大の容量のことであり、0%から100%のSOC領域のことである。負極活物質の使用領域は、プレドープ容量と正極18の可逆容量でコントロールすることができる。すなわち、プレドープ容量で負極活物質の使用領域の下限値を規定でき、それに加えて正極18の可逆容量で負極活物質の使用領域の上限値を規定することができる。負極活物質の使用領域が全容量の5〜80%であれば、負極12のサイクル特性が安定する。5%未満、80%超であるといずれもサイクル特性が劣化する。
【0035】
以上のように、本実施の形態によれば、プレドープを低充電レートで行った後、初回充電を高充電レートで行うことで、サイクル特性の向上を図りつつも、短時間での初回充電完了が可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(1)正極の作製
正極活物質としてLiCoOを90重量部、バインダーとしてPVdFを5重量部、導電助剤としてカーボンブラックを5重量部を秤量し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100重量部を用いて正極スラリーを調製した。Al箔集電体(塗工部分26×40mm、厚み10μm、リード接続用の凸状タブ部あり)上に、正極スラリーをドクターブレード法により塗布、乾燥後、プレスにより、厚み100μmの正極活物質層を形成した。正極活物質層の目付けは20mg/cmとした。
(2)負極の作製
負極活物質としてシリコン(アルドリッチ社製のシリコンパウダー)を粒径5μm以下に粉砕したものを70重量部、バインダーとしてポリイミドを15重量部、導電助剤としてカーボンブラックを5重量部を秤量し、NMP130重量部を用いて負極スラリーを調製した。Cu箔集電体(塗工部分24×38mm、厚み10μm、リード接続用の凸状タブ部あり)上に、負極スラリーをドクターブレード法により塗布、乾燥後、プレスにより、厚み30μmの負極活物質層を形成した。負極活物質層の目付けは10mg/cmとした。
(3)セルの作製
負極と正極とを、それぞれの活物質層が対向するようにポリエチレンセパレータ(厚み25μm)を介して積層させた。正極集電体のタブ部にアルミニウム製のリードを溶接し、負極集電体のタブ部にニッケル製のリードを溶接した。この正極、負極からなる積層体を、アルミニウムラミネートの外装材を用いて、各リードを外部に露出させつつ電解液注入口を残して密閉融着した。電解液注入口より、リチウム塩としてLiPFを1.2M溶解したEC/DMC/FECが70:25:5の混合溶媒を用いた電解液を注入し、その後アルミニウムラミネートの外装材を完全に封止した。
(4)プレドープ工程
上述のように作製したセルの正極と負極のそれぞれのリードを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続し、正極から負極へ0.02Cの充電レートで、SOC10%までプレドープを行った。すなわち、プレドープ(PD)容量10%まで負極に対してリチウムイオンをドープした。SOC10%に到達するまでに5時間かかった。なお、これらの操作は室温25℃の環境下で行った。
(5)初回充電工程
次に、1Cの充電レートでSOC60%分の急速充電を行った。すなわち、正極から負極のSOC60%分のリチウムイオンを、負極の全容量が70%となるまでドープした。つまり、負極の使用容量(ΔSOC)は60%である。SOCが10%から70%に到達するまでに0.6時間かかった。つまり、SOCが0%から70%に到達するまでには5.6時間かかった。比較的短時間で初回充電を完了することができた。
(6)サイクル試験
次に、負極のSOCが10%から70%、つまり充放電容量が負極の全容量の60%になるように、50サイクルまで正負極間の充放電を繰り返した。容量維持率は100%であり、非常に良好なサイクル特性を示した。
【0038】
(実施例2)
プレドープ工程において、0.05Cの充電レートにし、SOC5%までプレドープを行った以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0039】
プレドープ工程においてはSOC5%に到達するまでに要した時間は1時間であり、初回充電工程においてはSOC5%からSOC65%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から65%に到達するまでに要した時間は1.6時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができた。また、容量維持率は97%であり、非常に良好なサイクル特性を示した。
【0040】
(実施例3)
プレドープ工程において、0.05Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0041】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は2時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は2.6時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができた。また、容量維持率は97%であり、非常に良好なサイクル特性を示した。
【0042】
(実施例4)
プレドープ工程において、0.05Cの充電レートにし、SOC20%までプレドープを行った以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0043】
プレドープ工程においてはSOC20%に到達するまでに要した時間は4時間であり、初回充電工程においてはSOC20%からSOC80%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から80%に到達するまでに要した時間は4.6時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができた。また、容量維持率は100%であり、非常に良好なサイクル特性を示した。
【0044】
(実施例5)
プレドープ工程において、0.1Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0045】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は1時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は1.6時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができた。また、容量維持率は92%であり、良好なサイクル特性を示した。
【0046】
(実施例6)
プレドープ工程において0.05Cの充電レートにし、初回充電工程において2Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0047】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は2時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は0.3時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は2.3時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができた。また、容量維持率は95%であり、良好なサイクル特性を示した。
【0048】
(比較例1)
プレドープ工程において0.01Cの充電レートにし、初回充電工程において0.01Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0049】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は10時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は60時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は70時間であった。容量維持率は100%であり、非常に良好なサイクル特性を示したものの、初回充電を完了させるために非常に長時間を要した。
【0050】
(比較例2)
プレドープ工程において0.05Cの充電レートにし、初回充電工程において0.05Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0051】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は2時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は12時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は14時間であった。容量維持率は100%であり、非常に良好なサイクル特性を示したものの、初回充電を完了させるために長時間を要した。
【0052】
(比較例3)
プレドープ工程において0.1Cの充電レートにし、初回充電工程において0.1Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0053】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は1時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は6時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は7時間であった。容量維持率は88%であり大きなサイクル劣化はなかったが、初回充電を完了させるために長時間を要した。
【0054】
(比較例4)
プレドープ工程において0.5Cの充電レートにし、初回充電工程において0.5Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0055】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は0.2時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は1.2時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は1.4時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができたが、容量維持率は74%であり、サイクル劣化が大きかった。
【0056】
(比較例5)
プレドープ工程において1Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0057】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は0.1時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は0.7時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができたが、容量維持率は48%であり、サイクル劣化が大きかった。
【0058】
(比較例6)
プレドープ工程において2Cの充電レートにし、初回充電工程において2Cの充電レートにした以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0059】
プレドープ工程においてはSOC10%に到達するまでに要した時間は0.05時間であり、初回充電工程においてはSOC10%からSOC70%に到達するまでに要した時間は0.3時間であり、結果としてSOC0%から70%に到達するまでに要した時間は0.35時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができたが、容量維持率は45%であり、サイクル劣化が大きかった。
【0060】
(比較例7)
プレドープ工程を省略した以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0061】
初回充電工程においてはSOC0%からSOC60%に到達するまでに要した時間は0.6時間であった。非常に短時間で初回充電を完了することができたが、容量維持率は21%であり、サイクル劣化が甚だしかった。SOC0%から5%の領域で充放電サイクルが行われたことにより負極がサイクル劣化したものと推察される。
【0062】
(比較例8)
プレドープ工程において0.05Cの充電レートにし、初回充電工程において0.05Cの充電レートとしてSOC30%までプレドープを行った以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0063】
プレドープ工程においてはSOC30%に到達するまでに要した時間は6時間であり、初回充電工程においてはSOC30%からSOC90%に到達するまでに要した時間は0.6時間であり、結果としてSOC0%から90%に到達するまでに要した時間は6.6時間であった。初回充電を完了までには多くの時間を要することはなかったが、容量維持率は29%であり、サイクル劣化が甚だしかった。SOC80%を超える領域で充放電サイクルが行われたことにより負極がサイクル劣化したものと推察される。
【0064】
表1には、実施例1〜6における実験結果を示し、表2には、比較例1〜8における実験結果を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
上記各実験結果から理解されるように、本実施例1〜6では、プレドープにおける充電レートを低くしてサイクル特性の向上を図る一方で、初回充電における充電レートをプレドープにおける充電レートと比較して高くすることで、比較例1〜8と比べて初回充電完了時間が短縮化されている。
【0068】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、正極の材料、負極の材料、セパレータの材料、及び電解液の種類等は、上記列挙したものに限られず請求項に記載された構成を満たす範囲で適宜変更することが可能である。また、プレドープ時の充電レートと初回充電時の充電レートも、初回充電をプレドープ時よりも高い充電レートで行うようにすれば上記実施の形態及び実施例で開示した数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
10 リチウムイオン蓄電デバイス
12 負極
14 負極集電体
16 負極活物質層
18 正極
20 正極集電体
22 正極活物質層
24 リード
25 セパレータ
26 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、合金系負極と、該負極にリチウムイオンをプレドープするためのリチウムイオン供給源と、を備えるリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法であって、
前記負極へのプレドープを低充電レートで行うプレドープ工程と、
前記プレドープ工程後、初回充電を前記プレドープ時よりも高い充電レートで行う初回充電工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記プレドープ工程において、前記プレドープを0.01〜0.1Cの充電レートで行うことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記プレドープ工程において、前記プレドープを40℃以下の環境下で行うことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記初回充電を1C以上の充電レートで行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質の使用領域が、
全容量の5%〜80%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン供給源が、
前記正極に含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン供給源が、
前記正極と前記負極とは異なる電極からなるリチウム極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212629(P2012−212629A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78591(P2011−78591)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】