説明

リチウムイオン電池用正極材料としての炭素被覆シリコン粒子パワー及びその製造方法

被覆シリコン/炭素粒子の製造方法であって、残留炭素形成材料を与えること;シリコン粒子を与えること;前記シリコン粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆シリコン粒子を形成すること;炭素質材料の粒子を与えること;前記炭素質材料の粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆炭素質粒子を形成すること;前記被覆シリコン粒子を前記被覆炭素質粒子に埋め込んでシリコン/炭素複合粒子を形成すること;前記シリコン/炭素複合粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆シリコン/炭素複合粒子を形成すること;及び前記被覆複合粒子に酸化反応を受けさせることによって被覆複合粒子を安定化することを有する方法である。被覆複合粒子は実質的に滑らかな被覆を有する。粒子は多層の残留炭素形成材料によって被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、電池の電極活性材料として有用なシリコン/炭素複合材料に関する。より詳しくは、本発明は、特に電極材料として使用される炭素被覆シリコン粒子、及び前記炭素被覆シリコン粒子の製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
合成黒鉛は、リチウムイオン電池の標準的な負電極材料として広く使用されている。その他の炭素質材料もまた、その効率及び妥当な費用ゆえにかかる電池で広く使用されている。リチウムイオン電池は、主に携帯型電子装置の電源として使用される。ニッケル・カドミウム蓄電池及びニッケル・金属水素化物蓄電池のような、再充電可能電池のその他の分類と比べ、リチウムイオン電池は、比較的高い充電容量及び再充電能力ゆえに益々普及してきている。
【0003】
リチウムイオン電池は、同等に評価されるニッケル・カドミウム蓄電池及びニッケル・金属水素化物蓄電池に対して単位質量又は単位容積当たりの充電容量が大きいため、より小さな空間しか要求されず、具体的な充電及び取出し要求を満たす電池の生産が可能になる。したがって、リチウムイオン電池は、コンパクトなサイズが用途上特に望ましい、デジタルカメラ、デジタルビデオレコーダー、コンピュータ等のような、益々多くの装置において一般的に使用されている。
【0004】
しかし、再充電可能なリチウムイオン蓄電池には欠陥がないわけではない。こうした欠陥は、改善された構成材料を使用することで最小化される。合成黒鉛電極を使用する市販のリチウムイオン電池は、製造するのに高価であり、リチウムの容量が比較的低い。また、リチウムイオン電極で現在使用されている黒鉛製品は、その理論上の制限に近いエネルギー蓄積量(372mAh/g)となっている。このため、業界では、再充電可能なリチウム電池のコストを低下させ、より高いエネルギー密度、より大きな可逆容量及びより大きな初期充電効率のような改善された動作特性が得られる、改善された電極材料が求められている。かかる電極材料を製造するための改善された方法もまた求められている。
【0005】
シリコンは、比較的多量のリチウムと合金をなし、より大きな充電容量が得られるため、リチウムイオン電池用の正極材料として検討されている。実際、シリコンは黒鉛の10倍のリチウム容量を理論上有する。しかし、高純度のシリコンは、その単位セル容積がリチウム化時に300%以上に増加するため、不良な電極材料である。サイクル中のこの容積膨張は、電極の機械的な完全性を破壊し、電池サイクル中の急速な容量損失をもたらす。シリコンは炭素よりもリチウムを多く保持することができるが、リチウムがシリコンに導入されると、シリコンは分解して電気的な接触が少なくなり、究極的には蓄電池を再充電する能力が低下する結果となる。
【0006】
シリコンの容積膨張問題を解決するための継続的な研究努力からは、限られた結果しか得られていない。粉砕又はその他の機械的方法によって作られた炭素パウダーとシリコンパウダーとの機械的な混合物と比べて、シリコン/炭素複合粒子又はパウダーは、良好なサイクル寿命を有する。薄膜シリコン被覆炭素粒子又は炭素被覆シリコンパウダーは、次世代リチウムイオン電池用正極材料として、黒鉛パウダーを代替する可能性がある。しかし、シリコン被覆又は炭素被覆を適用するために典型的に用いられる化学的蒸着法は、遅い付着速度及び/又は高価な付着前駆物質を含む固有の欠点を有する。蒸着されたシリコン膜は、バルクのシリコンパウダーの費用と比べて極端に高価である。したがって、被覆シリコン粒子を製造する別の方法が必要とされている。
【特許文献1】米国特許第6,022,518号明細書
【特許文献2】米国特許第6,589,696号明細書
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、シリコン/炭素複合材料の製造方法を提供する。シリコン/炭素複合材料は、被覆炭素粒子と組み合わせられる被覆シリコン粒子を有し、結果的に得られるシリコン/炭素複合粒子は、酸化残留炭素形成材料の層によってさらに被覆される。こうした炭素被覆シリコン/炭素複合粒子は、蓄電池、特に再充電可能リチウムイオン蓄電池の電極の製造において有用である。
【0008】
本発明の複合体からは、多様な炭素供給源から誘導され得る高容量かつ高効率の炭素被覆シリコン/炭素複合粒子が得られる。本発明のさらなる側面では、シリコン/炭素複合粒子は、多層の残留炭素形成材料によって被覆される。本発明のまたさらなる側面では、オプションとして複合粒子の被覆層が炭化される。
【0009】
本発明の複合体からは、実質的に滑らかな被覆を備えた炭素被覆シリコン/炭素複合粒子が得られる。また、複合体は、良好なパウダー流動性を特徴とする。その特徴は、こうした材料から有用な電極や、本明細書では特に記載しないその他の物品を形成するのに必要な取り扱い又は製造のステップにおいて特に有益である。
【0010】
本発明のさらなる側面では、かかる炭素被覆シリコン/炭素複合粒子の製造方法が提供される。本発明に従って調製された炭素被覆パウダーは、充電効率を高めるだけではなく、電極形成の優れた加工性を与える。本発明のまたさらなる側面では、蓄電池、特に前記炭素被覆複合粒子を有する再充電可能電池の製造方法が提供される。本発明のまたさらなる側面は、蓄電池、特に再充電可能電池の前記炭素被覆複合粒子の使用に関する。
【0011】
これらの及びその他の本発明の側面及び特徴は、以下の本発明及びその好ましい実施例の説明から明らかになる。
【0012】
様々な図面の同じ参照記号は同じ要素を示す。
【0013】
詳細な説明
本発明は、シリコン/炭素複合粒子の製造プロセスを提供する。その粒子は、蓄電池、特に再充電可能蓄電池の電極として使用される際に、改善された特徴を示す。全体的には、プロセスは、被覆炭素質粒子を備える被覆微細シリコンパウダーを組み合わせてシリコン/炭素複合粒子を形成し、さらには、単層又は複層の残留炭素形成材料によって複合粒子を被覆することを意図している。
【0014】
より詳しくは、炭素質材料担体の粒子は、可溶性の残留炭素形成材料によって被覆される。微細シリコンパウダーの粒子は、可溶性の残留炭素形成材料によって被覆されており、被覆炭素質粒子に埋め込まれてシリコン及び炭素質材料の複合粒子を形成する。シリコン/炭素複合粒子は、可溶性の残留炭素形成材料の、さらに少なくとも1つの被覆が与えられる。その後、被覆シリコン/炭素複合粒子は、酸化剤を使用して前記被覆複合粒子に酸化反応を受けさせることによって安定化される。安定化された被覆複合粒子はその後、炭化される。
【0015】
被覆炭素質担体材料に非被覆シリコン粒子を埋め込むことが可能であるが、シリコン粒子は、シリコンを炭素質担体材料に埋め込む前に被覆されることが好ましい。それによって、非被覆シリコンパウダーを有する複合粒子よりもサイクル能力及び機械的強度を高めることができる。
【0016】
シリコン/黒鉛複合粒子は、安定化又はオプションとしての炭化に引き続き、残留炭素形成材料の付加的な層によってさらに被覆される。
【0017】
好ましくは、被覆は、シリコン粒子を適用する前に炭素質粒子に適用される。好ましくは、被覆シリコン粒子が被覆炭素質担体に埋め込まれる。または、非被覆シリコン粒子が被覆炭素質担体に埋め込まれてもよい。さらに、シリコン/炭素複合粒子を被覆して複合体の機械的強度を高め、結果的にシリコン複合電極を長持ちさせることが好ましい。好ましくは、本プロセスによって、実質的に滑らかな被覆を有する炭素被覆シリコン/炭素複合粒子が提供される。オプションとして、複合粒子は残留炭素形成材料によって繰り返し被覆されて、粒子の機械的強度がさらに高められる。
【0018】
好ましい実施例では、炭素質担体材料の粒子が、本発明を実施する上で必要となる。これは、様々な供給源から得られる。その例としては、石油及びコールタールのコークス、合成及び天然の黒鉛、又はピッチが含まれる。また、従来技術の電極の製造で知られているその他の炭素質材料の供給源も含まれるが、これらの供給源は本明細書では明示しない。炭素質材料の好ましい供給源としては、か焼又は非か焼の石油コークス及び合成黒鉛が含まれる。炭素質材料の好ましい供給源としては、また、か焼又は非か焼の高度に結晶化した「針状」コークスも含まれる。炭素質材料の特に好ましい供給源には、天然黒鉛及び片状コークス(flake coke)が含まれる。このため、好ましい炭素質材料は、黒鉛材料か、2200℃以上の黒鉛化温度まで加熱されて黒鉛を形成する材料のどちらかとなる。
【0019】
かかる炭素質担体材料の微細粒子は、電極形成の使用に適した形状の粒子を有する粉状(pulverant)炭素質担体材料を与えるのに使用可能な、粉砕、破砕、磨砕又はその他の手段によって与えると都合がよい。本発明の原理は、様々な大きさ及び粒径分布の炭素質担体粒子に適用可能と考えられるが、好ましい炭素質担体粒子は、約50μmまで、より好ましくは約1μmから約30μmまでの平均粒径を有する。
【0020】
本発明の実施にはシリコン粒子が必要であるが、かかる粒子は単独で又は炭素質担体材料と組み合わせて使用してよい。シリコンの純度は、通常の主力産業で用いられる純度、すなわち97〜98重量%でよい。本発明の原理は、様々な大きさ及び粒径分布のシリコン粒子に適用可能と考えられるが、好ましいシリコン粒子は、約50μmまで、より好ましくは約0.03μmから約20μmまでの平均粒径を有する。
【0021】
本発明のプロセスのステップによれば、シリコン粒子、炭素質担体粒子及びシリコン/炭素複合粒子には、可溶性の残留炭素形成材料が被覆材料として与えられる。被覆材料としての使用に好ましいのは、酸化剤と反応可能な残留炭素形成材料である。好ましい化合物には、高融点、及び熱分解後の高炭素収率を有する化合物が含まれる。有用な被覆材料の例には、石油、化学プロセスのピッチからの重質芳香族残留物;パルプ産業からのリグニン;フェノール樹脂;並びに糖質及びポリアクリロニトリルのような炭水化物材料が含まれる。被覆材料としての使用に特に好ましいのは、石油及びコールタールのピッチ並びにリグニンである。これらは容易に入手可能であり、可溶性の残留炭素形成材料として有効であることが認められている。
【0022】
なお、炭素質のシリコン又はシリコン/炭素複合粒子に対する被覆として与えられる残留炭素形成材料は、場合に応じてであるが、酸化された後に不活性雰囲気中で850℃又はそれよりもはるかに高い温度の炭化温度までで熱分解された際に、「実質的に炭素」である残留物を形成する任意の物質である。なお、「実質的に炭素」とは、残留物として少なくとも95重量%の炭素であることを示す。また、残留炭素形成材料は、炭化時に、炭素質担体、シリコン又はシリコン/炭素複合粒子のための残留炭素形成被覆の初期質量(original mass)に基づいて、少なくとも10%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも60%の残留炭素を形成することが好ましい。
【0023】
なお、1つの種類の粒子に対して使用される被覆は、別の種類の粒子に対して使用される被覆とは大きく異なっていてもよい。炭素質担体粒子に対する被覆として与えられる残留炭素形成材料は、シリコン粒子に対する被覆として与えられるそれか、又は複合粒子に対する被覆として与えられるそれとは、完全に異なる残留炭素形成材料からなっていてもよく、その例に限られるものではない。さらに、複合粒子に対してその後与えられる被覆は、炭素質若しくはシリコンの粒子に適用される被覆と異なる、又は複合粒子へのその前の被覆と異なる残留炭素形成材料からなっていてもよい。
【0024】
酸化された後に熱分解されて残留炭素を生じ得る任意の有機化合物は、被覆材料として使用可能である。しかし、有機化合物が溶剤に溶解される被覆プロセスにおいては、化合物が溶剤に相互溶解するため、様々な分子量を有する芳香族化合物が好ましい。好ましい化合物には、高融点、及び熱分解後の高炭素収率を有する化合物(例えば石油及びコールタールのピッチ)が含まれる。
【0025】
炭素質、シリコン又は複合粒子を被覆するために任意の有用な技術が使用されてよい。有用な技術には、所定の溶剤を有する溶液を溶解するか若しくは形成するといった手段によって残留炭素形成材料を液化し、液化した残留炭素形成材料を対象粒子に噴霧するといった被覆ステップと組み合わせたステップか、又は液化した残留炭素形成材料に粒子を浸漬した後に任意の溶媒を乾燥するステップが含まれ、その例に限られるものではない。
【0026】
炭素質、シリコン又はシリコン/炭素複合の粒子の表面に材料を析出させることによって残留炭素形成材料の均一の被覆を形成するのに特に有用な方法は、以下のプロセスによって与えられる。まず、所定溶剤中の残留炭素形成材料の濃縮溶液が形成される。残留炭素形成材料の溶液は、残留炭素形成材料を溶剤と又は溶剤の組み合わせと組み合わせることによって調製される。溶剤は残留炭素形成材料に適合している必要があり、溶剤には被覆材料の全て又は大部分が溶解される。溶剤には、高純度有機化合物又は異なる溶剤の混合物が含まれる。単数又は複数の溶剤の選択は、使用される具体的な被覆材料に依存する。
【0027】
残留炭素形成材料を溶解するための所定の溶剤には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、テトラヒドロフラン、ナフタレン、アセトン、シクロヘキサン、及びテトラヒドロナフタレン(Dupontによりテトラリン(Tetralin)の商標で販売されている)、エーテル、水及びメチルピロリジノン等が含まれる。石油又はコールタールのピッチが残留炭素形成材料又は被覆材料使用される場合は、例えば、トルエン、キシレン、キノリン、テトラヒドロフラン、テトラリン、又はナフタレンのような溶剤が好ましい。溶液中の、炭素質、シリコン又は複合粒子のための残留炭素形成材料に対する単数又は複数の溶剤の比率及び溶液の温度は、残留炭素形成材料が完全に又はほぼ完全に溶剤に溶解するように制御される。典型的には、残留炭素形成材料に対する溶剤の比率は2よりも小さく、好ましくは約1又はそれよりも小さく、残留炭素形成材料は、溶剤の沸点よりも低い温度で溶剤に溶解される。
【0028】
溶剤対溶液比率が2:1又はそれよりも小さい濃縮溶液は、フラックス溶液として一般に知られている。ピッチ型材料の多くは濃縮フラックス溶液の形態であり、この溶液では、0.5から2.0までの溶剤対ピッチ比率で混合されると、ピッチは高溶解性となる。こうしたフラックス混合液を同じ溶剤、又は残留炭素形成材料が低溶解性の溶剤で希釈すると、残留炭素形成被覆材料の部分的な析出が生じる。この希釈及び析出が、炭素質、シリコン又は複合粒子の懸濁液存在下で生じると、粒子は析出のための核生成部位として振る舞う。その結果、粒子が残留炭素材料で特に均一に被覆される。
【0029】
対象粒子の被覆層は、炭素質担体、シリコン、又はシリコン/炭素複合体であろうと、粒子を残留炭素形成材料の溶液に直接混合させることによって適用可能である。粒子が残留炭素形成材料の溶液に直接添加される場合、付加的な単数又は複数の溶剤が結果的に得られた混合物に添加されて、残留炭素形成材料の部分的析出が有効にされるのが普通である。付加的な単数又は複数の溶剤は、残留炭素形成材料の溶液を調製するために使用される単数又は複数の溶剤と同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
析出のための別の方法によれば、炭素質担体、シリコン又はシリコン/炭素複合粒子の懸濁液が、所望の温度、好ましくは溶剤の沸点よりも低い温度で、単数又は複数の溶剤との組み合わせの中で又は異なる溶剤の中で、その粒子を残留炭素形成材料の溶液を形成するために使用されたのと同じ溶液に均一に混合されることによって調製される必要がある。次に、対象粒子の懸濁液は、残留炭素形成材料の懸濁液と組み合わされて、残留炭素形成材料の所定部分が、粒子表面に実質的に均一に付着する。
【0031】
粒子表面に析出する残留炭素形成材料の全量及び形態は、溶液から析出する残留炭素形成材料の部分に依存し、次いで残留炭素形成材料の初期溶液中の及び最終溶液中の溶解度の差異に依存する。残留炭素形成材料がピッチである場合、典型的には、広範な分子量の種が存在する。当業者であれば、かかる材料の部分的析出が材料を分画し、初期のピッチと比べて析出材料が比較的高い分子量であり高融点である一方で、それ以外の溶解材料が比較的低い分子量であり低融点であることがわかるだろう。
【0032】
所定の溶剤又は溶剤混合物中の残留炭素形成材料の溶解度は、例えば、濃度、温度、及び圧力を含む、様々な要因に依存する。前述したように、濃縮フラックス溶液の希釈によって溶解度は低くなる。というのは、残留炭素形成材料の有機溶剤中の溶解度は温度とともに上昇し、高温でプロセスを始めて被覆プロセス中に温度を徐々に下げることによって被覆の析出がさらに高められるからである。残留炭素形成材料は、周囲圧力かそれよりも低い圧力のどちらかで及び約−5℃から約400℃までの温度で付着可能である。残留炭素形成材料に対する溶剤の総比率及び溶液温度を調整することによって、炭素質、シリコン又は複合粒子に析出した残留炭素形成材料の総量及び硬度を制御できる。
【0033】
最終的に希釈された残留炭素形成材料の溶液中の炭素質担体、シリコン又はシリコン/炭素複合粒子の懸濁液は、約2よりも大きな、好ましくは約4よりも大きな、残留炭素形成材料に対する溶剤の比率を有するのが普通である。当業者であれば理解できることであるが、被覆プロセス完了時の、残留炭素形成ピッチに対する具体的な溶剤の比率は、プロセスのために選択された残留炭素形成材料及び溶剤に依存する。一方では溶剤の費用ゆえに可能な限り少ない溶剤を使用することが望ましいが、他方では粒子が溶剤中で分散できるように十分な溶剤が必要である。
【0034】
析出プロセスの完了時に、例えば、遠心分離、又はろ過のような従来の方法を用いて、溶剤、粒子、及び残留炭素形成材料の混合物から被覆粒子が分離される。オプションとして、粒子は、従来の方法を用いて、残留ピッチ(又はその他の残留炭素形成材料)溶液を除去するために溶剤で洗浄されて乾燥される。
【0035】
本プロセスの進歩性によれば、非被覆微細シリコンパウダー粒子と被覆された比較的粗い炭素質粒子との混合物に同時にピッチを共析出させることによって、シリコン/炭素複合粒子が生成される。これにより、シリコン粒子が、比較的大きな炭素質担体粒子の被覆層に効果的に埋め込まれる。結果的に得られるシリコン/炭素複合粒子は、その後ピッチで被覆される。
【0036】
または、シリコン/炭素複合粒子は、シリコン粒子と炭素質担体粒子とを別々の容器内のピッチで別々に被覆することによって生成されてもよい。その後、被覆粒子は、ピッチ及び溶剤の溶液中で混合されて、被覆シリコン粒子が被覆炭素質担体粒子に埋め込まれる。
【0037】
本発明のプロセスのさらなるステップによれば、シリコン、炭素及びシリコン/炭素複合粒子の被覆層は、好ましくは酸化的安定化によって、部分的に又は完全に不溶性にされる。粒子の被覆は、前記粒子に、所定の反応条件下で酸化剤を使用した酸化反応を受けさせることによって安定化される。通常は、軽度から中程度の反応条件のみが必要となる。典型的には、軽度な条件で被覆粒子を酸化剤に接触させて高温の条件で酸化剤を活性化させることによって、酸化反応が十分に行われる。酸化剤との接触は、周囲温度(約20℃)か、又は中程度に高い温度(約400℃まで)で生じさせることができる。酸化剤の活性化は、典型的には、400℃までの中程度に高い温度で生じる。好ましくは、酸化反応の温度は、被覆材料の瞬間的融点よりも低く維持され、酸化反応中に被覆材料の融点を越えることが確実に防止される。
【0038】
本発明のプロセスのさらなるステップによれば、安定化された被覆シリコン、炭素質担体粒子又はシリコン/炭素複合粒子は、オプションとして炭化される。安定化によって被覆がどの程度まで不溶性にされるかは、使用されるピッチの種類、及び使用される溶剤又は溶剤の組み合わせに依存する。さらに、多数の被覆層が所望される場合は、安定化又は炭化の後に付加的な被覆層を適用することが好ましい。多数の被覆を備える複合粒子の最終的な被覆は、炭化されることが好ましい。
【0039】
本発明の安定化ステップが実行されて、被覆層の表面はその後の炭化に対して不溶性となる。酸化的安定化により、被覆プロセスで製造された滑らかな表面が本発明の被覆複合粒子に保持され、その酸化的安定化により、被覆の表面はその後のプロセスを行うステップに対して不溶性となる。
【0040】
安定化された被覆粒子の加熱処理は、粒子の溶融を最小化するために、制御された方法で行われることが望ましい。当業者であれば、高度に安定化された不溶性の被覆粒子は、炭化中に比較的激しくかつ急速に加熱可能であることがわかるだろう。それとは対照的に、比較的軽度に安定化された被覆粒子には、被覆の過剰な溶解及び粒子の溶融を防止するために、ゆっくりとした加熱が必要である。安定化及び加熱処理中に流動床を使用することは、被覆粒子が凝集及び溶融するのを防止する上で特に有益である。
【0041】
被覆粒子に対する炭化を確実にするために必要な温度に関しては、これが、制御された方法で、通常は周囲温度である開始温度から、最終炭化温度まで温度を上昇させることによって達成されることが望ましい。最終炭化温度とは、上記で定義された約400℃から約1500℃までの範囲内、好ましくは、約800℃から約1300℃までの範囲内、及びさらに好ましくは約900℃から1200℃までの範囲内である。
【0042】
安定化された被覆粒子に対する炭化プロセスのための雰囲気条件に関しては、雰囲気は約850℃までの周囲空気であってよいが、約400℃よりも高い温度では、不活性雰囲気が好ましい。周囲空気は、加熱中に又は真空下での加熱中に酸素がほとんど置換される場合に許容可能な雰囲気である。所定の不活性雰囲気には、窒素、アルゴン、ヘリウム等が含まれ、それらは加熱された被覆粒子とは反応しない。
【0043】
なお、被覆粒子の加熱中は、この加熱プロセス中に到達する温度も、加熱プロセスのどの部分における温度上昇速度も、粒子の被覆の瞬間的融点を上回らないように特に注意を払う必要がある。より簡単に述べると、被覆の熱劣化は、プロセス温度が被覆の瞬間的融点以下に維持されるような制御された温度上昇によってもたらされる。この場合、前記融点は、プロセス中の時間とともに上昇するのが普通である。この要求を考慮すると、加熱プロセスは、ゆっくりとした温度上昇速度を示すものが好ましい。
【0044】
本発明の最も好ましい側面は、シリコン/炭素複合粒子に滑らかな被覆を与える結果となる点である。好ましくは、シリコン/炭素複合粒子の被覆の安定化は、被覆された安定化シリコン/炭素複合粒子の制御された加熱の後に行われ、個々の粒子の凝集又は自己接着がほとんど又は全くないまま被覆粒子の炭化がもたらされる。所望の結果として、破片がほとんど又は全くない表面を備える被覆粒子が得られる。この種類の破片表面は、個別の粒子が溶融する際に特徴的に形成されるが、自由流動パウダーを与えるために、ばらばらに破砕又は破壊される必要がある。かかる破片表面は、最小化又はなくすことが望ましい。というのは、それが、再充電可能蓄電池、特に再充電可能リチウムイオン電池の正極材料として粒子が使用される際に、電気化学的効率を低下させることに寄与すると考えられているからである。
【0045】
本明細書で教示される本発明の方法の特に好ましい実施例によれば、残留炭素形成材料は、流体の形態で与えられる。本発明者による観察では、残留炭素形成材料が液体から析出する際に、個々の炭素質粒子とそのまわりの液体との界面に滑らかな被覆が形成される。滑らかな被覆は、その後炭化されても保持される。
【0046】
あまり有利ではないが、残留炭素形成被覆が固体として与えられる場合は、それが粒子表面で溶融されてそこに滑らかな被覆が形成されるのが望ましい。本発明の特に好ましい実施例では、炭化の後に被覆粒子の自由流動パウダーが製造される。その粒子は、粒子間でほとんど又は全く溶融を示さず、例えば攪拌棒の使用によるか又は親指と人差指とのこすり合わせによるといった単純な機械的揺動によって、通常は破壊されて自由流動パウダーになる。ある程度の溶融が粒子間に生じ、これらの粒子を分離するために機械的揺動が使用され、それが新しい破片表面の形成につながる場合があるが、本発明の好ましい実施例では、これらの破片表面は、粒子の総表面積の10%よりも多くはなく、好ましくは2%よりも多くはない。これは、実質的に滑らかな被覆であるとみなされる。
【0047】
本発明の好ましい側面は、ピッチ被覆プロセス、又は残留炭素形成材料被覆プロセスにある。この被覆プロセスにより、粒径にかかわらず、粒子に均一な残留炭素形成被覆が与えられる。被覆は多くの方法で達成されるが、シリコン、炭素質担体材料又はシリコン/炭素複合粒子であろうと、目標粒子の懸濁液存在下で被覆材料を析出させることが特に有利である。この被覆方法によって、制御された複合体の均一な被覆が得られ、遊離した粒子パウダーが製造される。その結果、ピッチ被覆粒子は凝集せず、その後のプロセスのステップで粉砕プロセスがさらに必要になることがない。
【0048】
本発明の別の好ましい側面は、被覆の炭化の前に被覆粒子に行われる酸化反応にある。酸化反応は、所定の技術的利益を与えるものと考えられる。第1に、反応した被覆粒子は、その後の酸化において比較的不溶性であると考えられている。これは、その後のプロセスのステップ、及びその後の粒子の扱いを考慮すると、特に望ましい。第2に、反応した被覆粒子には、電極として使用される際に、特に、反応した被覆粒子が、再充電可能蓄電池の、特に再充電可能リチウムイオン電池の正極材料で使用される際に、高効率が得られる表面が与えられる。
【0049】
本発明のさらなる側面では、蓄電池、特に再充電可能電池の電極、特に正極での被覆シリコン又は被覆シリコン/炭素複合粒子の使用が意図される。本発明のこの側面によれば、蓄電池の製造方法が意図され、その方法は、酸化残留炭素形成材料からなる被覆層を備えるシリコン/炭素複合粒子を有するシリコン材料を、蓄電池の正極に組み込むステップを有する。
【0050】
本発明のこの側面によれば、上述のプロセスから製造された被覆シリコン/炭素複合粒子が、従来技術を用いて電極、特に正極に形成される。本明細書では特に説明しないが、意図されているのは、かかる電極の組み立てのための公知技術の製造方法、及びかかる電極の形成を容易にする公知技術の装置が使用可能ということである。本明細書で教示された被覆粒子の使用によって得られる特に有利な点は、それの被覆ゆえにそれが融合することがほとんどなく、その結果、流動性を有するパウダーが得られるという事実にある。
【0051】
所定の好ましい実施例を含む本発明の側面は、以下の例で説明される。
【0052】
例1
材料の調製
この例で使用されたシリコンパウダーは平均粒径が5μmであった(Johnson Matthey Companyより入手)。被覆層に使用されたピッチはConoco,Inc.より入手した石油ピッチであり、その約27%がキシレン中に不溶性であった。ピッチをシリコンパウダーに被覆する手順は以下の通りである。まず、シリコン粒子がガラス製フラスコ中のキシレン中に均一に分散されるように、20グラムのシリコンパウダーが約100mlのキシレンに混合された。同時に、ピッチが完全にキシレン中に溶解するように、14グラムのピッチが、別のフラスコ中の同量のキシレンに混合された。両方の溶液は約110℃まで加熱されて、連続的に混合されたままピッチ溶液がシリコン溶液に添加された。次に、結果的に得られた溶液が140℃まで加熱され、約15分間連続的に攪拌された。溶液は、加熱器から取り外されて、周囲温度(〜25℃)まで徐々に冷却された。溶液が混合及び冷却されている間、不溶性のピッチが溶液から析出し、シリコン粒子に均一に被覆された。溶液中で結果的に得られた固体粒子はピッチ被覆シリコンパウダーである。次に、パウダーはろ過によって液体から分離され、50mlのキシレンで洗浄された。
【0053】
次に、ピッチ被覆シリコンパウダーは、真空下で〜100℃で乾燥された。乾燥されたパウダーの総量は約23.8gであり、結果的にシリコンには16重量%のピッチが被覆された。次に、パウダーは、管状炉内に移送され、1℃/分で300℃まで加熱され、低い空気圧力下(典型的には〜−22"Hg(−559mmHg))300℃で10時間さらに加熱された。かかる加熱処理(安定化)中に、シリコン粒子上のピッチの重量は約5%増加した。安定化に続いて、パウダーは、2時間窒素ガス中で5℃/分で1150℃よりも高い温度まで加熱された。典型的には、安定化されたピッチの重量は、炭化中に約25%減少した。安定化前の初期のピッチ量に基づくと、ピッチの総重量は、約20%減少した。すなわち、ピッチの約80%が炭化後に炭素被覆として残ったことになる。
【0054】
次に、結果的に得られたパウダーがリチウムイオン電池用正極材料として評価された。これは、以下の「電気的容量の評価」の欄で説明される。図2は、異なるカットオフ電位に対する、第1サイクルの充放電中の電位曲線の比較を示す。比較のため、通常のシリコンと黒鉛パウダーとの機械的混合物の電位曲線も図中に示された。この図では、y軸は、充放電中のシリコン電極対リチウム金属の電位であり、x軸は、複合材料の単位重量当たりの、電極に蓄積され及び電極から除去された電荷を表す。材料の電位は、リチウム合金化の飽和レベルの指標であり、電位が低ければ低いほど、材料は飽和に近づく。クーロン効率に比率は、複合炭素/シリコン粒子に対してはかなり高い(>90%)一方で、黒鉛と通常のシリコンとの機械的混合物に対しては非常に低い(<30%)。また、次欄で定義される容量は、炭素被覆シリコンパウダーに対しては非常に大きい。
【0055】
電気的容量の評価
例1〜3及び比較例に係るパウダー粒子の電気的可逆容量及びクーロン効率は、以下の方法により評価された。
【0056】
パウダー(5グラム)を、0.382グラムのポリフッ化ビニリデン(PVDF,例えばAldrich Chemical Co.,Inc.)、3.44グラムの1−メチルピロリジノン(NMP,例えばAldrich Chemical Co.,Inc.)、及び0.082グラムのアセチレンブラック(80m/gの有効表面積を有するもの。例えばAlfa Aesar)を含む溶液3.82グラムに十分に混合させることによって均一なスラリーを形成した。次に、スラリーはドクターブレードを利用して手動で鋳造され、電着銅箔(10μm,例えばFuduka Metal Foil&Powder Co.,Ltd.)の粗面上に約6mg/cmの塗布量を有する薄膜が形成された。次に、鋳造膜が約100℃のホットプレート上で乾燥され、ロールプレスによって所望の密度(約1.4g/cm)までプレスされた。次に、膜から1.6cmの面積を有する円板が打ち抜かれて重量測定され、銅箔上の正確な重量が決定された。その後、この円板はさらに約15分間80℃の温度の真空下で乾燥され、円板が周囲空気にさらされることのない密封箱内に移送された。密封箱は、1ppmよりも低いレベルの酸素及び水分を有する超高純度アルゴンガスで満たされた。
【0057】
その後、円板は、標準のコイン状電池(2025サイズ)の製造において正電極として鋳造され、その電池は引き続いてテスト電池として使用された。テスト電池の他方の電極は、高純度リチウム箔(100μm,例えばAlfa Aesar)であった。テスト電池では2層のセパレータが使用された。複合炭素/シリコンパウダー上の第1層としてはガラスマット(GF/B Glass Microfibre Filter, Whatman International Ltd.)が使用され、リチウム箔上の第2層としては多孔性ポリプロピレン膜(登録商標Celgard2300として入手可能,例えばCelgard Inc.)が使用された。テスト電池の電解質は、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶剤(40/30/30)(EM Industrialから購入)中の1MのLiPFであった。テスト電池は従来方法により上記構成要素を利用して製造されたが、少なくとも1つのサンプルのコイン状電池が、実証例のうちのいずれかによる、又は比較例の1つによるパウダー粒子のサンプルを組み込んで製造されることが確実となるように、パウダー粒子のサンプルが変えられた。こうしたパウダーは、室温(〜25℃)で炭素/セパレータ/リチウム金属というコイン状電池構成の正極材料としてテストされた。各サンプルに対して2つ又は3つの電池が作られ、充電容量及び充電効率は電池の平均値で示された。
【0058】
具体的なパウダー粒子のサンプルの容量及び充電効率は、以下の手順に従って決定された。標準的な電気化学テストステーション(Model BT−2043, Arbin Instrument Corp.)が利用されて、組み立てられたテスト電池がまずは0.5mA(約52mA/g)で、第1サイクルの所定電圧まで充電された(リチウムによる合金化に相当)。その後、組み立てられたテスト電池は0.5mAで1.5ボルトまで充電され(非合金化)、その間、充電中に流れた電荷が複合パウダーの具体的な容量を計算するために使用された一方、充電中に流れた総電荷の放電中に流れた総電荷に対する比率が充電効率を決定するために使用された。
【0059】
例2
20グラムの天然のフレーク状黒鉛パウダー(平均粒径5μm中国産)が、例1で述べられた手順に従い10重量%の石油ピッチによって被覆された。被覆黒鉛パウダーは、安定化され、炭化され、及びアルゴン中で3000℃にて黒鉛化された。同時に、シリコンパウダー(平均粒径2μm、Johnson Matthey companyから購入)が、例1で述べられたように、10重量%のピッチで被覆され、安定化され、及び1050℃にて炭化された。被覆天然黒鉛パウダーと被覆シリコンパウダーとの混合物が、被覆黒鉛6部及び被覆シリコンパウダー4部の割合で組み合わされ、前記方法を使用して前記ピッチの15重量%の溶液で被覆された。空気中での安定化の後、結果的に得られた複合パウダーは、窒素雰囲気中で1050℃にて炭化された。結果的に得られた黒鉛/シリコン/炭素複合粒子パウダーは図3に示される形態を有する。小さなシリコン粒子が、図1に示されているのと同様の構造で、大きな黒鉛粒子上の炭素被覆中に埋め込まれていることがわかる。
【0060】
次に、複合パウダーは、「電気的容量の評価」の欄で上述したように、リチウムイオン電池用の正極材料として評価された。サイクル電位の窓は0.09ボルトから1.5ボルトまでの間であった。結果は図4に示されている。なお、材料は約850mAh/gの容量を有しており、サイクルごとにほぼ完全に可逆的である。
【0061】
例3
20グラムの天然のフレーク状黒鉛パウダー(平均粒径5μm中国産)が、例1で述べられた手順に従い7重量%の石油ピッチによって被覆された。被覆黒鉛パウダーは、安定化され、1200℃にて炭化された。被覆黒鉛パウダーは、例2で述べたのと同じ割合で、被覆シリコンパウダーと混合された。次に、混合物は、例1で述べたように15重量%のピッチで被覆されて安定化された。引き続いて、結果的に得られた複合粒子パウダーは、再び10重量%のピッチで被覆され、安定化され、窒素雰囲気中で1050℃にて炭化された。材料は、既に述べたのと同じように、リチウムイオン電池用正極材料として評価された。この材料の容量及び効率は、最初の5サイクルに対して、図5に示されている。シリコンパウダーの再充電能力の顕著な増加が現れている。
【0062】
比較例
炭素被覆シリコンパウダーを、同じ炭素被覆レベルにある非被覆シリコンパウダーと比較するために、20%の黒鉛を非被覆シリコンに添加し、及び7%の同じ黒鉛を炭素被覆シリコンに添加することによって電極が作られた。使用された黒鉛は、天然黒鉛ベースの複合黒鉛パウダーであった。
【0063】
図2は、炭素被覆シリコン及び非被覆シリコンパウダーの充放電の電池電圧曲線を示す。なお、「充電」はリチウムが電極に電気化学的に挿入されることをいい、「放電」はリチウムが電極から除去されることをいう。充放電容量は、結合材料を除く全ての電極材料に基づいて計算された。図に示すように、電池電圧は、充電に際し低いカットオフ電圧まで急激に降下し、放電容量及び効率はシリコン/黒鉛混合電極に対しては非常に小さい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は本発明に係る複合炭素・シリコン粒子の概略図を示す。
【図2】図2は、シリコン/炭素複合粒子と非被覆シリコン粒子との異なった低いカットオフ電位に対する第1サイクルの充放電電位曲線の比較を示す。
【図3】図3は、例2で調製されたシリコン/炭素複合粒子の走査電子顕微鏡画像を示す。
【図4】図4は、例2で製造されたシリコン/炭素複合粒子に対する最初の5サイクル中の0.09ボルトから1.5ボルトの間の充電/放電電位窓内の放電容量及び充電効率を示す。
【図5】図5は、例3で調製された複合シリコン/炭素粒子に対する0.09ボルトから1.5ボルトの間の充電/放電サイクル中の容量及びクーロン効率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆シリコン/炭素粒子の製造方法であって、
残留炭素形成材料を与えることを有し;
シリコン粒子を与えることを有し;
前記シリコン粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆シリコン粒子を形成することを有し;
炭素質材料の粒子を与えることを有し;
前記炭素質材料の粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆炭素質粒子を形成することを有し;
前記被覆シリコン粒子を前記被覆炭素質粒子に埋め込んでシリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;
前記シリコン/炭素複合粒子を前記残留炭素形成材料によって被覆して被覆シリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;及び
前記被覆複合粒子に酸化反応を受けさせることによって被覆複合粒子を安定化することを有する方法。
【請求項2】
前記残留炭素形成材料は、1つ以上の溶剤と前記残量炭素形成材料とを有する溶液中に与えられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シリコン粒子は、残留炭素形成材料の前記溶液と混合する前の1つ以上の溶剤を有する溶液中の懸濁液として与えられる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
炭素質材料の粒子は、残留炭素形成材料の溶液と混合する前の1つ以上の溶剤を有する溶液中の懸濁液として与えられる請求項2に記載の方法。
【請求項5】
シリコン/炭素複合粒子は、残留炭素形成材料の前記溶液と混合する前の1つ以上の溶剤を有する溶液中の懸濁液として与えられる請求項2に記載の方法。
【請求項6】
残留炭素形成材料の溶液と粒子との混合物に1つ以上の溶剤を添加することをさらに有する請求項2に記載の方法。
【請求項7】
被覆後にシリコン粒子を安定化することをさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
被覆後に炭素質粒子を安定化することをさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
シリコン粒子を炭化することをさらに有する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
炭素質粒子を炭化することをさらに有する請求項8に記載の方法。
【請求項11】
粒子は、不活性雰囲気中で約400℃から約1500℃までの温度にて炭化される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
被覆粒子は、不活性雰囲気中で約400℃から約1500℃までの温度にて炭化され、粒子には1つ以上の溶剤及び残留炭素形成材料を有する溶液が添加されて被覆シリコン粒子が被覆炭素質粒子に埋め込まれる請求項10に記載の方法。
【請求項13】
溶剤は、トルエン、ベンゼン、キシレン、キノリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロナフタレン、ナフタレン、メタノール、アセトン、メチルピロリジノン、シクロヘキサン、エーテル及び水からなるグループから選択される請求項2に記載の方法。
【請求項14】
残留炭素形成材料の溶液は高温で混合されて、残留炭素形成材料が1つ以上の溶剤中に溶解される請求項2に記載の方法。
【請求項15】
粒子の懸濁液は高温で混合される請求項2に記載の方法。
【請求項16】
残留炭素形成材料溶液と粒子懸濁液との混合物における残留炭素形成材料に対する1つ以上の溶剤の比率は、2:1又はそれよりも大きい請求項2に記載の方法。
【請求項17】
残留炭素形成材料溶液と粒子懸濁液との混合物における残留炭素形成材料に対する1つ以上の溶剤の比率は、4:1又はそれよりも大きい請求項2に記載の方法。
【請求項18】
被覆シリコン粒子及び被覆炭素質は残留炭素形成材料の溶液に添加されて、被覆シリコン粒子が炭素質粒子に埋め込まれる請求項1に記載の方法。
【請求項19】
残留炭素形成材料の被覆は、周囲圧力又はそれよりも高い圧力で付着される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
残留炭素形成材料の被覆は、約−5℃から約400℃までの温度で付着される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
残留炭素形成材料の被覆は、均一及び実質的に滑らかである請求項1に記載の方法。
【請求項22】
安定化された被覆シリコン/炭素複合粒子は、残留炭素形成材料によってさらに被覆されて、残留炭素形成材料の付加的な被覆層が形成される請求項1に記載の方法。
【請求項23】
多数被覆シリコン/炭素複合粒子は、残留炭素形成材料によってまたさらに被覆されて、残留炭素形成材料の付加的な被覆層が形成される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
シリコン/炭素複合粒子の最終的な被覆層は炭化される請求項22に記載の方法。
【請求項25】
炭素質粒子は、石油ピッチ、か焼石油コークス、非か焼石油コークス、高度結晶化コークス、コールタールコークス、合成黒鉛、天然黒鉛、有機ポリマーから誘導された軟質炭素、及び天然ポリマーから誘導された軟質炭素からなるグループから選択された粉状炭素質材料を有する請求項1に記載の方法。
【請求項26】
炭素質粒子は、約50μmまでの平均粒径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項27】
炭素質粒子は、約1μmから約30μmまでの平均粒径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項28】
シリコン粒子は、約50μmまでの平均粒径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項29】
シリコン粒子は、約0.03μmから約20μmまでの平均粒径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項30】
残留炭素形成材料は、残留炭素形成材料が粒子上に選択的に析出されることによって粒子表面に付着される請求項2に記載の方法。
【請求項31】
残留炭素形成材料は、化学プロセスの石油及び石炭からの重質芳香族残留物、パルプ産業からのリグニン、フェノール樹脂、並びに炭水化物材料からなるグループから選択されたポリマー材料である請求項1に記載の方法。
【請求項32】
残留炭素形成材料は、石油ピッチ及びコールタールピッチ又は化学プロセスによって製造されたピッチからなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項33】
酸化反応は酸化剤の存在下で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項34】
酸化は高温で行われる請求項33に記載の方法。
【請求項35】
高温は温度勾配期間及び温度維持期間による制御された方法で与えられる請求項34に記載の方法。
【請求項36】
酸化は低圧で行われる請求項33に記載の方法。
【請求項37】
被覆シリコンのコアと、残留炭素形成材料の層によってさらに被覆されている被覆炭素質粒子と、を有する被覆シリコン/炭素複合粒子。
【請求項38】
複合粒子は、石油ピッチ、か焼石油コークス、非か焼石油コークス、高度結晶化コークス、コールタールコークス、合成黒鉛、天然黒鉛、有機ポリマーから誘導された軟質炭素、及び天然ポリマーから誘導された軟質炭素からなるグループから選択された粉状炭素質材料を有する請求項37に記載の被覆複合粒子。
【請求項39】
複合粒子は、か焼石油コークス、非か焼石油コークス、高度結晶化コークス、合成黒鉛、及び天然黒鉛からなるグループから選択された粉状炭素質材料である請求項37に記載の被覆複合粒子。
【請求項40】
被覆層は黒鉛状である請求項37に記載の被覆炭素質粒子。
【請求項41】
リチウムイオン電池の製造方法であって、請求項37の被覆炭素質粒子が正極材料として使用され、かかるリチウムイオン電池は、プロピレンカーボネート溶剤を含まない電解質によってテストされる際に、リチウムに対する1ボルトのカットオフ電位にて90%よりも大きな第1サイクル充電効率を示す製造方法。
【請求項42】
請求項37に記載の被覆炭素質粒子を有する蓄電池。
【請求項43】
蓄電池は再充電可能蓄電池である請求項42に記載の蓄電池。
【請求項44】
請求項37に記載の被覆複合粒子を蓄電池の正極に組み込むことを有する蓄電池の製造方法。
【請求項45】
酸化残留炭素形成材料から形成された実質的に滑らかな被覆を有する被覆シリコン/炭素複合粒子の製造方法であって、
石油ピッチ及びコールタールピッチからなるグループから選択された残留炭素形成材料の第1溶液を与えることを有し、前記第1溶液は、トルエン、キシレン、キノリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロナフタレン、及びナフタレンからなるグループから選択された1つ以上の溶剤を有し;
か焼又は非か焼石油コークス、天然黒鉛及び合成黒鉛からなるグループから選択された炭素質材料の粒子を与えることを有し、前記粒子は1つ以上の溶剤を有する第2の溶液中に与えられ;
第1溶液と第2溶液とを高温で混合することを有し;
残留炭素形成材料の被覆を炭素質粒子の表面上に付着させて被覆炭素質粒子を形成することを有し;
シリコン粒子を与えることを有し、前記シリコン粒子は1つ以上の溶剤を有する第3溶液中に与えられ;
第1溶液と第3溶液とを高温で混合することを有し;
残留炭素形成材料の被覆をシリコン粒子の表面上に付着させて被覆シリコン粒子を形成することを有し;
第1溶液を、被覆シリコン粒子及び被覆炭素質粒子と高温で混合してシリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;
残留炭素形成材料の被覆を複合粒子の表面に付着させて被覆シリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;
被覆複合粒子を、粒子に酸化反応を受けさせることによって安定化することを有し;及び
被覆複合粒子を炭化することを有する方法。
【請求項46】
被覆粒子は、不活性雰囲気中で約400℃よりも高い温度にて炭化される請求項45に記載の方法。
【請求項47】
被覆粒子は、不活性雰囲気中で約550℃から約1500℃までの温度にて炭化される請求項45に記載の方法。
【請求項48】
請求項45の方法によって製造された酸化残留炭素形成材料から形成された被覆層を有する被覆シリコン/炭素複合粒子。
【請求項49】
請求項46に記載の被覆粒子を有する蓄電池。
【請求項50】
蓄電池は再充電可能な蓄電池である請求項49に記載の蓄電池。
【請求項51】
請求項50に記載の被覆粒子を有する蓄電池の正極。
【請求項52】
蓄電池は再充電可能な蓄電池である請求項50に記載の蓄電池の正極。
【請求項53】
蓄電池の製造方法であって、酸化残留炭素形成材料から形成された被覆層を有する、被覆シリコン粒子及び被覆炭素質粒子を有する被覆シリコン/炭素複合材料を蓄電池の正極に組み込むことを有する方法。
【請求項54】
粒子の被覆は、粒子表面への残留炭素形成材料の部分的析出がもたらされることによって強化される請求項2に記載の方法。
【請求項55】
部分的析出は、残留炭素形成材料の濃縮溶液を、同じ溶剤又は1つ以上の異なる溶剤をさらに添加して希釈することによってもたらされる請求項54に記載の方法。
【請求項56】
濃縮溶液中の残留炭素形成材料に対する溶剤の比率は2:1又はそれよりも小さく、希釈溶液中の残留炭素形成材料に対する溶剤の比率は2:1よりも大きい請求項55に記載の方法。
【請求項57】
濃縮溶液中の残留炭素形成材料に対する溶剤の比率は2:1又はそれよりも小さく、希釈溶液中の残留炭素形成材料に対する溶剤の比率は5:1よりも大きい請求項55に記載の方法。
【請求項58】
残留炭素形成材料の部分的析出は、被覆ステップ中にシリコン粒子及び炭素質粒子並びに残留炭素形成材料の混合物を冷却することによってもたらされる請求項55に記載の方法。
【請求項59】
残留炭素形成材料の被覆は周囲圧力又はそれよりも高い圧力下で付着される請求項2に記載の方法。
【請求項60】
リチウムイオン電池中の正極材料として使用される際に、リチウム金属に対する0.5ボルトのカットオフ電位にて90%よりも大きな第1サイクル充電効率を示す請求項46に記載の被覆炭素質材料。
【請求項61】
酸化残留炭素形成材料から形成された実質的に滑らかな被覆を有する被覆シリコン/炭素複合粒子の製造方法であって、
石油ピッチ及びコールタールピッチからなるグループから選択された残留炭素形成材料の第1溶液を与えることを有し、前記第1溶液は、トルエン、キシレン、キノリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロナフタレン、及びナフタレンからなるグループから選択された1つ以上の溶剤を有し;
か焼又は非か焼石油コークス、天然黒鉛及び合成黒鉛からなるグループから選択された炭素質材料の粒子を与えることを有し、前記粒子は1つ以上の溶剤を有する第2の溶液中に与えられ;
第1溶液と第2溶液とを高温で混合することを有し;
残留炭素形成材料の被覆を炭素質粒子の表面上に付着させて被覆炭素質粒子を形成することを有し;
シリコン粒子を与えることを有し、前記シリコン粒子は1つ以上の溶剤を有する第3溶液中に与えられ;
第1溶液を、シリコン粒子及び被覆炭素質粒子と高温で混合してシリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;
残留炭素形成材料の被覆を複合粒子の表面に付着させて被覆シリコン/炭素複合粒子を形成することを有し;
被覆複合粒子を、粒子に酸化反応を受けさせることによって安定化することを有し;及び
被覆複合粒子を炭化することを有する方法。
【請求項62】
被覆粒子は、不活性雰囲気中で約400℃よりも高い温度にて炭化される請求項61に記載の方法。
【請求項63】
被覆粒子は、不活性雰囲気中で約550℃から約1500℃までの温度にて炭化される請求項61に記載の方法。
【請求項64】
請求項61の方法によって製造された酸化残留炭素形成材料から形成された被覆層を有する被覆シリコン/炭素複合粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−519182(P2007−519182A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545651(P2006−545651)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/038115
【国際公開番号】WO2005/065082
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503033758)コノコフィリップス・カンパニー (9)
【氏名又は名称原語表記】ConocoPhillips Company
【Fターム(参考)】