説明

リチウム二次電池

【課題】ケイ素を含む活物質粒子を負極活物質として用いたリチウム二次電池において、充放電特性に優れ、負極の膨れが抑制されたリチウム二次電池を得る。
【解決手段】ケイ素を含む活物質粒子と、バインダーとからなる活物質層を導電性金属箔からなる集電体の表面上に配置した後、これを非酸化性雰囲気下に焼結して得られる負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、活物質粒子の平均粒径が7.5〜15μmの範囲内であり、平均粒径の±40%の範囲内に60体積%以上が存在する粒度分布を活物質粒子が有し、容量比(=負極比容量/正極比容量)が1.7以上であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素を含む活物質粒子を負極活物質として用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力及び高エネルギー密度の新型二次電池の1つとして、非水電解液を用い、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うリチウム二次電池が利用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度であることから、携帯電話やノート型パソコンなどの情報技術関連のエレクトロニクス携帯機器の電源として実用化され、広く普及している。今後、これらの携帯機器のさらなる小型化及び高機能化により、電源であるリチウム二次電池の高エネルギー密度化への要求は非常に高いものになってきている。
【0004】
電池の高エネルギー密度化には、活物質として、より大きなエネルギー密度を有する材料を用いることが有効な手段である。最近、リチウム二次電池において、より高いエネルギー密度を有する負極活物質として、現在実用化されている黒鉛に代わり、リチウムとの合金化反応によりリチウムを吸蔵するSi、Sn、Alなどの元素を含む材料を用いることが提案され、検討されている。
【0005】
しかしながら、リチウムと合金化する材料を活物質として用いた電極においては、リチウムの吸蔵・放出の際に活物質の体積が膨張・収縮するため、活物質の微粉化や、集電体からの剥離を生じる。このため、電極内の集電性が低下し、充放電サイクル特性が悪くなるという問題がある。
【0006】
上記問題を解決するため、リチウムと合金化する負極活物質としてケイ素を含む材料を用いた負極において、表面に凹凸を有する導電性金属箔の集電体の表面上に、活物質とバインダーとを含む合剤層を設け、これを非酸化性雰囲気下で焼結して配置した負極が、合剤層と集電体との高い密着性によって電極内に高い集電性が発現し、良好な充放電サイクル特性が得られるという提案がある(特許文献1)。また、負極活物質として用いるケイ素粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であり、かつその粒度分布が1μm以上10μm以下の範囲に60体積%以上が存在する粒度分布を持つことにより、電極内の集電性の低下を抑制することができ、充放電サイクル特性を向上させることができるという提案がある(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、これらの技術ではまだ不十分であり、さらに高い充放電サイクル特性が要望されている。
【特許文献1】特開2002−260637号公報
【特許文献2】特開2004−22433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ケイ素粒子を含む活物質粒子を負極活物質として用いたリチウム二次電池において、さらに充放電特性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケイ素を含む活物質粒子と、バインダーとからなる活物質層を導電性金属箔からなる集電体の表面上に配置した後、これを非酸化性雰囲気下に焼結して得られる負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、活物質粒子の平均粒径が7.5〜15μmの範囲内であり、平均粒径の±40%の範囲内に60体積%以上が存在する粒度分布を活物質粒子が有し、容量比(=負極比容量/正極比容量:負極比容量は負極とLiを対向させた3極式セルにおいて、電位を1mV(vs.Li/Li)から1000mV(vs.Li/Li)になるように電流を流したときの単位面積あたりの容量であり、正極比容量は正極とLiを対向させた3極式セルにおいて、電位を4.4V(vs.Li/Li)から3.0V(vs.Li/Li)になるように電流を流したときの単位面積あたりの容量である)が1.7以上であることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、活物質粒子の微粉化や電極内の集電性の低下を抑制することができ、充放電サイクル特性を向上させることができるとともに、負極の膨張を抑制することができる。
【0011】
本発明においては、活物質粒子の平均粒径を7.5〜15μmの範囲内としている。平均粒径を7.5μm以上とすることにより、活物質層の厚み方向に存在する体積あたりの粒子の数が少なくなるため、集電性を得るために接触させるべき粒子の数が少なくなるので、良好な集電性を得ることができる。図4は、これを説明するための模式図である。図4(b)に示すように活物質粒子11の平均粒径が小さいと、3つの活物質粒子11が接触した状態で集電体12に接触させなければならない。これに対し、図4(a)に示すように活物質粒子11の平均粒径が大きいと、1つの活物質粒子11が集電体12に接触すればよい。このように、活物質粒子の平均粒径を大きくすることにより、集電性を高めることができ、充放電に寄与する活物質粒子の量を多くすることができ、良好な充放電サイクル特性を得ることができる。
【0012】
活物質粒子の平均粒径が15μmを超えると、活物質層における空隙が大きくなり、活物質粒子の充填性が低下する。また、活物質粒子が充電により膨張した際に、活物質粒子の膨張が周囲の空隙によって吸収されにくくなり、活物質粒子の膨張が直接的に電極の膨張に反映され、電池特性が低下する。
【0013】
また、本発明においては、活物質粒子の平均粒径の±40%の範囲内に60体積%以上が存在する粒度分布を活物質粒子が有している。活物質粒子がこのようなシャープな粒度分布を有することにより、各活物質粒子における絶対的な膨張量がほぼ同程度となるため、電極における歪みの発生が生じにくくなり、電極強度を保つことができ、集電性を維持することができる。このため、充放電サイクル特性が向上する。
【0014】
また、本発明においては容量比(=負極比容量/正極比容量)を1.7以上としている。容量比が1.7未満であると、負極の利用率が高くなり、負極の膨張が大きくなるため、集電体との剥離が生じやすくなり、充放電サイクル特性が低下する。
【0015】
本発明におけるケイ素を含む活物質粒子としては、ケイ素粒子及びケイ素合金粒子が挙げられる。ケイ素合金としては、ケイ素と他の1種以上の元素との固溶体、ケイ素と他の1種以上の元素との金属間化合物、ケイ素と他の1種以上の元素との共晶合金などが挙げられる。合金の作製方法としては、アーク溶解法、液体急冷法、メカニカルアロイング法、スパッタリング法、化学気相成長法、焼成法などが挙げられる。特に、液体急冷法としては、単ロール急冷法、双ロール急冷法、及びガスアトマイズ法、水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法などの各種アトマイズ法が挙げられる。
【0016】
また、活物質粒子の表面は金属等で被覆されていてもよい。被覆方法としては、無電解めっき法、電解めっき法、化学還元法、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法などが挙げられる。
【0017】
本発明におけるケイ素を含む活物質粒子としては、特にケイ素単体の粒子すなわちケイ素粒子が好ましく用いられる。
【0018】
本発明における負極は、ケイ素を含む活物質粒子と負極バインダーとを含む負極合剤層を、負極集電体としての導電性金属箔の表面上で焼結して配置したものであることがさらに好ましい。合剤層が焼結により集電体表面上に配置されることにより、焼結の効果によって活物質粒子間の密着性及び合剤層と集電体間の密着性が大きく向上する。このため、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化が生じた場合でも、合剤層の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0019】
負極バインダーは、熱可塑性であることが特に好ましい。例えば、負極バインダーがガラス転移温度を有する場合、ガラス転移温度より高い温度で負極合剤層を負極集電体表面上に焼結して配置するための熱処理を行うことが好ましい。これにより、バインダーが活物質粒子や集電体と熱融着し、活物質粒子間や合剤層と集電体との密着性がさらに大きく向上し、電極内の集電性を大きく向上させることができ、さらに優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0020】
また、この場合、熱処理後も負極バインダーは完全に分解せずに残存していることが好ましい。熱処理後に、バインダーが完全に分解された場合、バインダーによる結着効果が失われてしまうため、電極への集電性が大きく低下し、充放電サイクル特性が悪くなる。
【0021】
負極合剤層を集電体表面上に配置するための焼結は、真空下または窒素雰囲気下またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、水素雰囲気などの還元性雰囲気で行ってもよい。焼結する際の熱処理の温度は、上記のように焼結のための熱処理後も負極バインダーが完全に分解せずに残存していることが好ましいため、バインダー樹脂の熱分解開始温度以下であることが好ましい。また、焼結の方法としては、放電プラズマ焼結法やホットプレス法を用いてもよい。
【0022】
本発明における負極は、負極バインダーの溶液中に負極活物質粒子を均一に混合し、分散させた負極合剤スラリーを、負極集電体としての導電性金属箔の表面上に塗布して、製造することが好ましい。このように、活物質粒子がバインダー溶液中に均一に混合し、分散されたスラリーを用いて形成された合剤層は、活物質粒子の周りにバインダーが均一に分布した構造となるため、バインダーの機械的特性が最大限に生かされ、高い電極強度が得られ、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0023】
本発明における負極集電体は、負極合剤層が配置される面の表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましい。このような表面粗さRaを有する導電性金属箔を負極集電体として用いることにより、集電体の表面の凹凸部分にバインダーが入り込み、バインダーと集電体間にアンカー効果が発現され、高い密着性が得られる。このため、リチウムの吸蔵・放出に伴う活物質粒子の体積の膨張・収縮による合剤層の集電体からの剥離が抑制される。集電体の両面に負極合剤層を配置する場合には、負極の両面の表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましい。
【0024】
表面粗さRaと局部山頂の平均間隔Sは、100Ra≧Sの関係を有することが好ましい。表面粗さRa及び局部山頂の平均間隔Sは、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められており、例えば表面粗さ計により測定することができる。
【0025】
集電体の表面粗さRaを.0.2μm以上とするために、導電性金属箔に粗面化処理を施してもよい。このような粗面化処理としては、めっき法、気相成長法、エッチング法、及び研磨法などが挙げられる。めっき法及び気相成長法は、金属箔の表面上に、凹凸を有する薄膜層を形成することにより、表面を粗面化する方法である。めっき法としては、電界めっき法及び無電界めっき法が挙げられる。また、気相成長法としては、スパッタリング法、化学気相成長法、蒸着法などが挙げられる。エッチング法としては、物理的エッチングや化学的エッチングによる方法が挙げられる。また、研磨法としては、サンドペーパーによる研磨やブラスト法による研磨などが挙げられる。
【0026】
本発明における集電体としては、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金の箔が挙げられる。
【0027】
また、本発明における負極集電体は、高い機械的強度を有していることが特に好ましい。集電体が高い機械的強度を有することにより、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化によって発生する応力を集電体に加えられた場合でも、集電体が破壊や塑性変形を生じることなく、これを緩和することができる。このため、合剤層の集電体からの剥離が抑制され、電極内の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0028】
本発明における負極集電体の厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
本発明における負極集電体の表面粗さRaの上限は、特に限定されるものではないが、上記のように導電性金属箔の厚みが10〜100μmの範囲内であることが好ましいので、実質的には表面粗さRaの上限は10μm以下である。
【0030】
本発明の負極において、負極合剤層の厚みXが、集電体の厚みY及び表面粗さRaと5Y≧X、250Ra≧Xの関係を有することが好ましい。合剤層の厚みXが5Yまたは250Ra以上の場合、充放電時の合剤層の体積の膨張収縮が大きいため、集電体表面の凹凸によって合剤層と集電体との密着性が保てなくなり、合剤層の集電体からの剥離が生じる。
【0031】
本発明における負極合剤層の厚みXは、特に限定されるものではないが、1000μm以下が好ましく、さらに好ましくは10μm〜100μmである。
【0032】
本発明における負極バインダーは、高い機械的強度を有し、さらには弾性に優れていることが好ましい。バインダーが優れた機械的特性を有していることにより、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化が生じた場合でもバインダーの破壊が生じず、活物質の体積変化に追随した合剤層の変形が可能となる。このため、電極内の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。このように機械的特性を有したバインダーとしては、ポリイミド樹脂を用いることができる。また、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂も好ましく用いることができる。
【0033】
本発明における負極バインダーの量は、負極合剤層の総重量の5重量%以上であることが好ましく、バインダーの占める体積は負極合剤層の総体積の5%以上であることが好ましい。ここで、負極合剤層の総体積とは、合剤層に含まれる活物質やバインダーなどの材料のそれぞれの体積を合計したものであり、合剤層内に空隙が存在する場合にはこの空隙が占める体積を含まないものとする。バインダー量が合剤層の総重量の5重量%未満であり、バインダーの占める体積が合剤層の総体積の5%未満である場合、負極活物質に対してバインダー量が少なすぎるため、バインダーにおける電極内の密着性が不十分となる。これに対し、バインダー量を増加させすぎた場合、電極内の抵抗が増加するため、初期の充電が困難になる。従って、負極バインダー量が負極合剤層の総重量の50重量%以下であり、バインダーの占める体積が負極合剤層の総体積の50%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の負極においては、合剤層内に導電性粉末を混合してもよい。導電性粉末を混合することにより、活物質粒子の周囲に導電性粉末による導電性ネットワークを形成することができ、電極内の集電性をさらに向上させることができる。導電性粉末としては、上記導電性金属箔と同様の材質のものを好ましく用いることができる。具体的には、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金または混合物である。特に、金属粉末としては、銅粉末が好ましく用いられる。また、導電性カーボン粉末も好ましく用いることができる。
【0035】
負極合剤層内での導電性粉末の混合量は、負極活物質との総重量の50重量%以下であることが好ましく、導電性粉末の占める体積が負極合剤層の総体積の20%以下であることが好ましい。導電性粉末の混合量が多すぎると、負極合剤層内の負極活物質の割合が相対的に少なくなるので、負極の充放電容量は小さくなる。また、この場合、合剤層内での活物質と導電剤との総量に比べたバインダーの量の割合が低下するため、合剤層の強度が低下し、充放電サイクル特性が低下する。
【0036】
導電性粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは10μm以下である。
【0037】
本発明における正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物を挙げることができる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム二次電池の正極活物質として用いることができるリチウム遷移金属複合酸化物であれば特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2、LiCo0.5Ni0.52、LiNi0.33Co0.33Mn0.342などが例示される。特に、LiCoO2、並びに層状構造を有し、遷移金属としてNi、Mn及びCoを含むリチウム遷移金属複合酸化物を好ましく用いることができる。
【0038】
また、リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒子径(二次粒子径の平均粒子径)は、20μm以下であることが好ましい。平均粒子径が20μmを超えると、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子内のリチウムの移動距離が大きくなるため、充放電サイクル特性が低下する傾向にある。
【0039】
本発明のリチウム二次電池における正極は、正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物と、正極導電剤と、正極バインダーとを含む正極合剤層が、導電性金属箔からなる正極集電体の上に配置されたものであることが好ましい。
【0040】
正極バインダーとしては、非水電解質の溶媒に溶解しないものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアクリロニトリルなどを好ましく用いることができる。
【0041】
正極導電剤としては、従来から公知の導電剤を用いることができ、例えば、導電性の炭素材料を用いることができる。アセチレンブラックやケッチェンブラックなどが特に好ましく用いられる。
【0042】
正極集電体として用いる導電性金属箔は、充放電時に正極に加わる電位において、電解液に溶解せず安定に存在するものであればよく、例えば、アルミニウム箔を好ましく用いることができる。
【0043】
本発明における非水電解質の溶媒は、特に限定されるものではないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類などを用いることができる。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を好ましく用いることができる。
【0044】
また、本発明における非水電解質の溶質としては、特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiAsF6などの化学式LiXFy(式中、XはP、As、Sb、B、Bi、Al、Ga、またはInであり、XがP、AsまたはSbのときyは6であり、XがB、Bi、Al、Ga、またはInのときyは4である)で表されるリチウム化合物や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C25SO2)2、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C25SO2)3、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12などのリチウム化合物を用いることができる。これらの中でも、LiPF6を特に好ましく用いることができる。
【0045】
さらに電解質として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、Li3Nなどの無機固体電解質が例示される。本発明のリチウム二次電池の電解質は、イオン導電性を発現させる溶質としてのリチウム化合物とこれを溶解・保持する溶媒が電池の充電時や放電時あるいは保存時の電圧で分解しない限り、制約なく用いることができる。
【0046】
本発明における非水電解質には、二酸化炭素が溶解されていることが好ましい。非水電解質に二酸化炭素が溶解されることにより、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。負極活物質の表面に二酸化炭素による被膜が形成されるため、負極活物質表面におけるリチウムの吸蔵・放出反応が円滑に生じるものと考えられる。
【0047】
二酸化炭素の溶解量としては、0.01重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.05重量%以上であり、さらに好ましくは0.1重量%以上である。上限値は特に設定されるものではなく、二酸化炭素の飽和溶解量が上限値となる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、ケイ素を含む活物質粒子を負極活物質として用いたリチウム二次電池において、充放電による電池の膨れを抑制し、かつ充放電特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0050】
(実験例1)
〔負極の作製〕
分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンに、負極活物質としての平均粒子径7.5μmのケイ素粉末(純度99.9%)と、負極バインダーとしてのガラス転移温度190℃、密度1.1g/cmの熱可塑性ポリイミドとを、活物質とバインダーとの重量比が90:10となるように混合し、負極合剤スラリーとした。
【0051】
この負極合剤スラリーを、負極集電体である表面粗さRaが1.0μmである電解銅箔(厚み35μm)の片面(粗面)に塗布し、乾燥した。得られたものを30×30mmの長方形状に切り抜き、圧延した後、アルゴン雰囲気下で400℃、1時間熱処理し、焼結して負極C1とした。
【0052】
負極活物質として平均粒径10μmのケイ素粉末を使用した以外は負極C1と同様の方法で負極C2を得た。
【0053】
負極活物質として平均粒径15μmのケイ素粉末を使用した以外は負極C1と同様の方法で負極C3を得た。
【0054】
負極活物質として平均粒径5.5μmのケイ素粉末を使用した以外は負極C1と同様の方法で負極C4を得た。
【0055】
負極活物質として平均粒径20μmのケイ素粉末を使用した以外は負極C1と同様の方法で負極C5を得た。
【0056】
〔粒度分布測定〕
平均粒径及び粒度分布の測定は、島津製作所製SALD−2000Jレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。
【0057】
〔正極の作製〕
出発原料として、LiCO及びCoCOを用いて、Li:Coの原子比が1:1になるように秤量して乳鉢で混合し、これを直径17mmの金属でプレスし、加工成形した後、空気中において、800℃、24時間焼成し、LiCoOの焼成体を得た。これを乳鉢で粉砕し、平均粒径20μmに調整した。
【0058】
得られたLiCoO粉末90重量部と、導電剤として人造黒鉛粉末5重量部を、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5重量部を含む5重量%のN−メチルピロリドン溶液の混合し、正極合剤スラリーとした。
【0059】
この正極合剤スラリーを、集電体であるアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥した後圧延した。得られたものを20×20mmの正方形状に切り抜き、正極とした。
【0060】
〔電解液の作製〕
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶媒に対し、LiPFを1モル/リットル溶解させたものに二酸化炭素を吹き込み、二酸化炭素を溶存させ、電解液とした。
【0061】
〔電池の作製〕
上記の電極C1、正極及び電解液をアルミニウムラミネートの外装体内に挿入して、図2及び図3に示すリチウム二次電池A1を作製した。
【0062】
負極C2、C3、C4,C5を使った以外は、電池A1と同様にしてリチウム二次電池A2、A3、B1、B2を作製した。
【0063】
図3は、図2のA−A線に沿う断面図である。図3に示すように、作製したリチウム二次電池においては、正極1及び負極2は、ポリエチレン多孔質体のセパレーター3を介して電池内で対向しており、正極1及び負極2はそれぞれ正極タブ4及び負極タブ5に接続され、二次電池としての充放電が可能な構造となっている。
【0064】
図2に示すように、アルミニウムラミネートの外装体6の周囲は、ヒートシールされ、閉口部7が形成されている。正極タブ4及び負極タブ5は、閉口部7から外部に取り出されている。
【0065】
〔充放電試験〕
上記のようにして作製した電池A1〜A3及びB1〜B2について、充放電サイクル特性を評価した。各電池を、25℃において、電流値14mAで4.2Vまで充電し、続けて4.2Vに保持したまま電流値0.7mAになるまで充電した後、電流値14mAで2.75Vまで放電し、これを1サイクルの充放電とした。初期劣化、容量維持率、及び負極膨張率を表1に示す。
【0066】
初期劣化は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル後の放電容量である。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する250サイクル後の放電容量である。負極膨張率は、2.75Vまで放電したときの負極の厚みに対する4.2Vまで充電したときの負極の厚みの比率である。
【0067】
表1に示す「粒度分布」は、各電池に用いた負極活物質の平均粒径の±40%の範囲内に存在する粒子の体積割合である。また、容量比は、負極比容量/正極比容量であり、負極及び正極をそれぞれ作用極として用いた3極式セルを別途作製し、負極比容量及び正極比容量を測定することによって求めた。3極式セルの作製に用いた電解液は、上記電解液と同じ電解液である。また、対極及び参照極としてはリチウム金属を用いた。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、電池A1〜A3は、本発明に従う実施例の電池である。電池B1は負極活物質粒子の平均粒径が本発明の範囲より小さくなっており、比較例の電池である。電池B2は負極活物質の平均粒径が本発明の範囲より大きくなっており、比較例の電池である。
【0070】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例の電池A1〜A3においては、初期劣化が小さく、容量維持率が高くなっている。比較例の電池B1においては、容量維持率が小さくなっており、充放電サイクル特性が劣っている。また、比較例の電池B2は、負極膨張率が本実施例の電池A1〜A3に比べ大きくなっていることがわかる。
【0071】
以上のことから、負極活物質粒子の平均粒径を本発明の範囲内とすることにより、良好な充放電サイクル特性が得られ、かつ負極の膨張を抑制できることがわかる。
【0072】
図1は、実施例の電池A3と比較例の電池B1の各サイクルにおける容量維持率を示す図である。図1に示すように、平均粒径が本発明の範囲よりも小さい負極活物質粒子を用いた電池B1においては、200サイクルまでの容量維持率が実施例の電池A3よりも高くなっているが、200サイクル以上になると、急激に容量維持率が低下することがわかる。
【0073】
(実験2)
〔比較負極の作製〕
負極活物質として、平均粒径7.5μm、平均粒径の±40%の範囲の体積割合が50体積%であるケイ素粉末を用いる以外は、負極C1と同様にして負極C6を作製した。
【0074】
〔比較電池の作製〕
上記の負極C6を用いる以外は、電池A1と同様にしてリチウム二次電池B3を作製した。
【0075】
〔充放電試験〕
上記の電池A1及びB3について、(実験1)と同様の条件で充放電試験を行い、初期劣化及び容量維持率を求めた。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、平均粒径の±40%の範囲内の体積%が60体積%未満である活物質粒子を用いた電池B3では、容量維持率が低下することがわかる。従って、本発明に従い、平均粒径の±40%の範囲内に粒子が60体積%以上存在する粒度分布を有する活物質粒子を用いることにより、充放電サイクル特性を高め得ることがわかる。
【0078】
(実験3)
〔負極の作製〕
活物質層の重量を負極C1の0.52倍とした以外は、負極C1と同様にして負極C7を作製した。活物質層の重量を負極C1の0.8倍とした以外は、負極C1と同様にして負極C8を作製した。
【0079】
〔電池の作製〕
負極C7を用いる以外は、電池A1と同様にして、リチウム二次電池B4を作製した。電池B4においては、活物質層の重量が0.52倍である負極C7を用いているので、容量比は1.3となっている。負極C8を用いる以外は電池A1と同様にして、電池A4を作製した。電池A4においては、活物質層の重量が0.8倍なので、容量比は1.9である。
【0080】
〔充放電試験〕
電池A1及びB4について、(実験1)と同様の条件で、充放電試験を行い、初期劣化及び容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示す結果から明らかなように、容量比を1.7未満にした比較電池B4においては、初期劣化が大きくなっており、容量維持率が小さくなっている。容量比を1.7未満にすると、負極の充電深度が約60%以上となり、負極の利用率が高くなるため、充放電反応による体積の膨張・収縮により活物質粒子が崩壊しやすくなると考えられる。従って、本発明に従い容量比を1.7以上に設定することにより、活物質の劣化を抑制することができ、良好な充放電サイクル特性が得られる。
【0083】
以上のように、本発明に従えば、長期間の充放電サイクル特性において優れ、かつ充放電サイクルによる負極の膨張を抑制することができ、高エネルギー密度でサイクル特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に従う電池A3のサイクル数と容量維持率の関係を示す図。
【図2】本発明における実施例において作製したリチウム二次電池を示す平面図。
【図3】図2に示すリチウム二次電池のA−A線に沿う断面図。
【図4】本発明における作用効果を説明するための活物質粒子と集電体との関係を示す模式図。
【符号の説明】
【0085】
1…正極
2…負極
3…セパレーター
4…正極タブ
5…負極タブ
6…外装体
7…閉口部
11…活物質粒子
12…集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む活物質粒子と、バインダーとからなる活物質層を導電性金属箔からなる集電体の表面上に配置した後、これを非酸化性雰囲気下に焼結して得られる負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、
前記活物質粒子の平均粒径が7.5〜15μmの範囲内であり、平均粒径の±40%の範囲内に60体積%以上が存在する粒度分布を前記活物質粒子が有し、
容量比(=負極比容量/正極比容量:負極比容量は負極とLiを対向させた3極式セルにおいて、電位を1mV(vs.Li/Li)から1000mV(vs.Li/Li)になるように電流を流したときの単位面積あたりの容量であり、正極比容量は正極とLiを対向させた3極式セルにおいて、電位を4.4V(vs.Li/Li)から3.0V(vs.Li/Li)になるように電流を流したときの単位面積あたりの容量である)が1.7以上であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記活物質粒子が、ケイ素粒子であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記バインダーが、ポリイミドであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−234336(P2007−234336A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53127(P2006−53127)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】