説明

リチウム電池用合金負極とその製造方法およびリチウム電池

【課題】容量密度が大きく、充放電サイクルに優れたリチウム電池用合金負極とその製造方法およびリチウム電池を提供する。
【解決手段】アルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されているリチウム電池用合金負極。アルミニウム多孔体の骨格が、アルミニウムによって形成されているリチウム電池用合金負極。アルミニウム多孔体の骨格が、銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる芯材の表面にアルミニウム層が形成されたアルミニウム被覆材によって形成されているリチウム電池用合金負極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム多孔体を用いたリチウム電池用合金負極とその製造方法およびリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、電動車両及び家庭用電力貯蔵装置に用いられるリチウムイオン電池等のリチウム二次電池が活発に研究されている。
【0003】
このリチウム二次電池の代表的な例の一つとして、Li−Al(負極)/MnO(正極)リチウム二次電池が非特許文献1に示されている。
【0004】
しかし、上記のリチウム二次電池は、負極であるLi−Al合金が脆弱であるため、工業的量産を図ることに困難性がある。
【0005】
また、放電深度を上げて充放電を行った場合、少ない数の充放電サイクルで大幅な放電容量の劣化を招いていた。例えば、100%の放電深度で充放電を行った場合、そのサイクル寿命は数十サイクル程度が限度であった。このため、通常は、10%程度での放電深度で充放電が行われていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高村 勉 監修「最新 電池ハンドブック」 株式会社朝倉書店、1996年12月26日発行、609〜610ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの問題点に鑑み、工業的量産に好適であると共に、放電深度を上げて大きな数の充放電サイクルで充放電を行った場合でも、放電容量の劣化を招く恐れがないリチウム電池用合金負極の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下に示す各発明により解決することができる。
【0009】
(1)本発明に係るリチウム電池用合金負極は、
非水電解液を用いるリチウム電池用合金負極であって、
アルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されていることを特徴とする。
【0010】
本発明者は、上記の課題の解決につき、鋭意検討を行った。その結果、従来の板状体のLi−Al合金に替えて、アルミニウム多孔体中にリチウム金属を充填して作製したLi−Al合金を負極として用いることが有効であることを見出した。
【0011】
即ち、アルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されたLi−Al合金負極は、芯となる骨格を有しているため、従来のLi−Al合金負極のような脆弱性がなく、工業的量産に好適である。
【0012】
また、高い放電深度であっても充分なサイクル寿命を確保することができる。
【0013】
即ち、本発明者が検討した結果、充放電サイクルに伴って、充電時はAlが膨張し、放電時はAlが収縮し、電極全体の膨張収縮が起こるため、電極界面に割れなどを生じ、微粉化を発生させ、活物質の脱離を招き、これが、放電深度を上げた場合の充放電サイクル特性に悪影響を与えていることが分かった。
【0014】
これに対して、本発明に係るアルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されたLi−Al合金負極では、Al濃度が多孔体の骨格から離れるに従い、即ち、多孔体の骨格の中央部ほど薄くなるという濃度勾配が形成されているため、充放電サイクルに伴う膨張収縮の応力が分散して緩和される。この結果、放電深度を上げた場合であっても、電極の割れなどが抑制され、微粉化の発生が抑制され、充分な充放電サイクルを確保することができる
【0015】
また、充放電サイクル寿命の低下は、Li金属負極に係わるLiデンドライト成長により、長時間使用した場合に短絡が発生することにも原因があることが分かった。この点、本発明に係るアルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されたLi−Al合金負極では、このLiデンドライト成長が多孔内に留まるため、短絡によるサイクル寿命の低下が抑制される。
【0016】
(2)また、前記のリチウム電池用合金負極は、
前記アルミニウム多孔体の骨格が、アルミニウムによって形成されていることを特徴とする。
【0017】
アルミニウム多孔体の骨格自体がアルミニウムによって形成されているため、骨格のみでLi−Al合金を形成することができる。このため、気孔率が高く、より容量密度の大きなリチウム電池用合金負極を提供することができる。
【0018】
(3)また、前記のリチウム電池用合金負極は、
前記アルミニウム多孔体の骨格が、銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる芯材の表面にアルミニウム層が形成されたアルミニウム被覆材によって形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明のリチウム電池用合金負極は、アルミニウム多孔体の骨格の芯材として、銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属が用いられている。これらの金属は、リチウムやアルミニウムと合金化しない一方、機械的強度が高いため、強度に優れた多孔体を形成することができる。このため、これらの金属からなる芯材の表面にアルミニウム層が形成された多孔体は、膨張収縮に対して強いリチウム電池用合金負極を提供することができる。
【0020】
(4)また、前記のリチウム電池用合金負極は、
前記アルミニウム多孔体の空孔に占める前記リチウム金属の体積の比率が、50%以上100%未満であることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、リチウム金属の体積比率が100%未満であり、Li充填後のアルミニウム多孔体に空孔が残されているため、デンドライトが生成した場合でも、デンドライトは主として空孔内に生成する。このため、デンドライトショートが効果的に抑制される。一方、リチウム金属の体積比率が50%未満になると、リチウム電池用合金負極としての実用的な作用が充分に発揮できない恐れがある。
【0022】
(5)また、前記のリチウム電池用合金負極は、
前記アルミニウム多孔体の骨格を形成するアルミニウム、または前記アルミニウム被覆材のアルミニウム層の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明のリチウム電池用合金負極のアルミニウム多孔体は、アルミニウム多孔体の骨格を形成するアルミニウム、あるいは前記アルミニウム被覆材のアルミニウム層の表面の酸素量が、3.1質量%以下であるため、これまでにない一層容量密度が大きい電池用合金負極を提供することができる。
【0024】
Alはもともと酸化され易いため、これまで表面の酸素量が充分に少ないアルミニウム多孔体が無かった。例えば特開平8−170126号公報に記載の発泡樹脂の表面に形成させたAlの共晶合金の皮膜の表面にAl粉末を塗着後、非酸化性の雰囲気中で熱処理して作製されたアルミニウム多孔体の場合は、表面に酸化皮膜が生成するため、表面の酸素量が多い。表面の酸素量が多い場合には、充填されたLiが酸素(O)によって酸化され活物質として機能しないLiOに変化してしまうため、大きな容量密度が得られない。また、生成したLiOは抵抗層となるため特性が低下する。
【0025】
このため、本発明者は、酸素量の少ないアルミニウム多孔体を研究し、酸素量3.1質量%以下のアルミニウム多孔体の開発に成功した。
【0026】
本発明は、このようなアルミニウム多孔体を用いることを特徴としており、表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体を用いるため、一層容量密度が大きいリチウム電池用合金負極が得られる。
【0027】
ここで、本発明のリチウム電池用合金負極の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。製造方法の第一段階では、連通孔を有するアルミニウム多孔体を製造し、第二段階では、そのアルミニウム多孔体にLi金属を充填する。
【0028】
図1は、その第一段階の概略を示す模式図である。図1(a)は、連通孔を有する樹脂1の断面の一部を示す拡大模式図であり、樹脂1を骨格として孔が形成されている様子を示している。図1(b)は、連通孔を有する樹脂1の表面にアルミニウム層2が形成された様子(アルミニウム層被膜樹脂3)を示している。図1(c)は、アルミニウム層被膜樹脂3から樹脂1を熱分解させて消失させた後の様子(アルミニウム多孔体4)を示している。
【0029】
図2は、アルミニウム層被膜樹脂3から、樹脂1を熱分解して消失させる工程を示す。アルミニウム層被膜樹脂3及び正極5を溶融塩6に浸漬し、アルミニウム層2をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保つ。溶融塩中に浸漬してアルミニウム層2をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保つことにより、アルミニウム層2の酸化が抑制される。なお、正極5には、溶融塩に不溶性を示せば適宜選択することができるが、たとえば、白金、チタンなどからなる電極が用いられる。
【0030】
この状態で、樹脂1の分解温度以上に溶融塩6を加熱すると、アルミニウム層被膜樹脂3のうち樹脂1のみが分解して消失する。その結果、アルミニウム多孔体4が得られる。この方法により製造されたアルミニウム多孔体4は、製造法の特質上、中空糸状である。この点において、特開2002−371327で開示するようなアルミニウム発泡体の構造とは異なっている。なお、樹脂1を分解させるに際しては、アルミニウムの溶融を防ぐため、加熱温度はアルミニウムの融点以下とする。具体的には、アルミニウムの融点である660℃以下で加熱することが好ましい。
【0031】
本発明における樹脂には、アルミニウムの融点以下の温度で熱分解するものであれば、任意の樹脂を選択できる。たとえば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等がある。なかでも、発泡ウレタンは、気孔率が高いし、熱分解しやすい素材であるので、発泡ウレタンが本発明の製造方法に用いる樹脂として好ましい。また、樹脂の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μm程度のものが好ましい。樹脂は、連通孔を有することが好ましい。これにより、閉気孔が無いアルミニウム多孔体が得られる。
【0032】
以上に説明したアルミニウム多孔体の表面のアルミニウムは、酸素量が極めて低く、EDX分析の析出限界である3.1質量%以下であった。また、連通孔は有するが閉気孔が無く、さらに共晶合金などを用いないため、アルミニウムのみから構成されている。
【0033】
次に、第二段階として、アルミニウム多孔体4に、Li金属を充填する。充填するための方法は特に限定されず、例えば、含入による方法や真空蒸着法、電気メッキ法などの公知の方法を用いることができる。
【0034】
(6)また、前記のリチウム電池用合金負極は、
前記アルミニウム多孔体が、連通孔を有し、閉気孔を有さず、
さらにアルミニウムのみからなることを特徴とする。
【0035】
従来のアルミニウム多孔体、例えば、特開2002−371327号公報に記載のAlを溶融させた状態で発泡剤を加えて発泡させたアルミニウム多孔体には閉気孔が多く存在する。また、前記した特開平8−170126号公報に記載のアルミニウム多孔体は、共晶金属であるためBi、Caその他のAl以外の金属を含有する。このように、閉気孔が多く存在する場合には、充分な量のLiを充填することができないため、大きな容量密度が得られない。また、Al以外の金属を含有するため、Li−Al合金の負極としての機能が低下する。
【0036】
一方、本発明のリチウム電池用合金負極においては充分な量のLi金属を充填できるため、一層容量密度が大きいリチウム電池用合金負極が得られる。また、アルミニウム多孔体がアルミニウムのみからなるため、負極としての機能を充分に発揮させることができる。
【0037】
(7)本発明に係るリチウム電池は、
前記(1)〜(6)に記載のリチウム電池用合金負極を備えることを特徴とする。
【0038】
本発明のリチウム電池は、前記の特徴を備えるリチウム電池用合金を負極としているため、容量密度が大きく、充放電サイクル特性が優れたリチウム電池を提供することができる。
【0039】
(8)本発明に係るリチウム電池用合金負極の製造方法は、
連通孔を有する樹脂の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂をアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、前記樹脂を加熱分解してアルミニウム多孔体を作製するアルミニウム多孔体作製工程と、
前記アルミニウム多孔体にリチウム金属を充填するリチウム金属充填工程と
を有することを特徴とする。
【0040】
本発明のリチウム電池用合金負極の製造方法によれば、前記したようにアルミニウム層の表面の酸素量が3.1質量%以下であり、連通孔を有し、閉気孔を有さず、さらにアルミニウムのみからなるアルミニウム多孔体を用いた容量密度が大きく、微粉化とデンドライトショートの抑制効果の高いリチウム電池用合金負極を提供することができる。
【0041】
(9)本発明に係るリチウム電池用合金負極の製造方法は、
連通孔を有する樹脂の表面に銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂をアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、前記樹脂を加熱分解してアルミニウム多孔体を作製するアルミニウム多孔体作製工程と、
前記アルミニウム多孔体にリチウム金属を充填するリチウム金属充填工程と
を有することを特徴とする。
【0042】
本発明のリチウム電池用合金負極の製造方法によれば、前記したようにアルミニウム層の表面の酸素量が3.1質量%以下であり、連通孔を有し、閉気孔を有さないアルミニウム多孔体を用いた容量密度が大きく、充放電サイクルに優れたリチウム電池用合金負極を提供することができ、さらに、アルミニウム多孔体に銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる金属を骨格としているため、強度に強いリチウム電池用合金負極を提供することができる。
【0043】
(10)また、前記のリチウム電池用合金負極の製造方法は、
前記アルミニウム層の形成方法が、真空蒸着法、スパッタリング法、レーザアブレーション法又はプラズマCVD法であることを特徴とする。
【0044】
真空蒸着法では、例えば、原料のアルミニウム金属に電子ビームを照射してアルミニウム金属を溶融・蒸発させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウム金属を付着させることにより、アルミニウム金属層を形成することができる。スパッタリング法では、例えば、アルミニウム金属のターゲットにプラズマ照射してアルミニウム金属を気化させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウム合金を付着させることにより、アルミニウム金属層を形成することができる。レーザアブレーション法では、例えば、レーザ照射によりアルミニウム金属を溶融・蒸発させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウム金属を付着させることにより、アルミニウム金属層を形成することができる。プラズマCVD法では、原料であるアルミニウム化合物に高周波を印加することによってプラズマ化させ、連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、アルミニウム金属層を形成することができる。
【0045】
(11)また、前記のリチウム電池用合金負極の製造方法は、
前記アルミニウム層の形成方法が、前記樹脂の表面を導電化処理した後、アルミニウムをめっきするめっき法であることを特徴とする。
【0046】
(12)また、本発明のリチウム電池用合金負極の製造方法は、
前記アルミニウム層の形成方法が、前記金属層の表面にアルミニウムをめっきするめっき法であることを特徴とする。
【0047】
水溶液中でアルミニウムをめっきすることは、実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきが行われる。この場合において、予め樹脂の表面を導電化処理した後に、溶融塩中でアルミニウムをめっきすることが好ましい。
【0048】
ここで用いる溶融塩は、樹脂を加熱分解する工程で用いられることになる溶融塩と同じであっても、異なっていてもよい。具体的には、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム等の溶融塩が使用される。また、2成分以上の塩を使用し、共晶溶融塩として使用してもよい。共晶溶融塩にした場合、溶融温度が低下するので好ましい。この溶融塩中には、少なくともアルミニウムイオンが含まれている必要がある。
【0049】
(13)また、前記のリチウム電池用合金負極の製造方法は、
前記アルミニウム層の形成方法が、前記樹脂の表面または前記金属層の表面にアルミニウムペーストを塗布する塗布法であることを特徴とする。
【0050】
樹脂の表面にアルミニウムペーストを塗布する場合において、そのアルミニウムペーストは、たとえば、アルミニウム粉末、結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤が混合されたものである。具体的には、アルミニウムペーストを樹脂の表面に塗布した後、加熱して有機溶剤及びバインダー樹脂を消失させるとともに、アルミニウムペーストを焼結させる。焼結時の加熱は、一段階でおこなっても複数回に分けておこなっても良い。例えば、アルミニウムペーストを塗布した後に低温で加熱して有機溶剤を消失させた後、溶融塩中に浸漬して加熱することにより、樹脂の分解と同時にアルミニウムペーストの焼結を行っても良い。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、容量密度が大きく、充放電サイクルに優れたリチウム電池用合金負極とその製造方法およびリチウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】アルミニウム多孔体の製造工程を示した模式図である。(a)は、連通孔を有する樹脂の図である。(b)は、樹脂の表面にアルミニウム層が形成された状態を示す図である。(c)は、樹脂が消失した後のアルミニウム多孔体を示す図である。
【図2】溶融塩の中での樹脂の分解工程を説明するための模式図である。
【図3】本発明のアルミニウム多孔体のSEM写真である。
【図4】本発明によるアルミニウム多孔体のEDX分析結果を示す図である。
【図5】本発明のリチウム電池を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明をその実施の形態に基づき図面を用いて説明する。
【0054】
(実施の形態1)
A.リチウム電池用合金負極
本実施の形態におけるリチウム電池用合金負極は、アルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されており、アルミニウム多孔体の骨格は、アルミニウムによって形成されている。そして、本実施の形態におけるリチウム電池用合金負極は、下記の製造方法により製造される(図1参照)。
【0055】
B.リチウム電池用合金負極の製造方法
多孔性の樹脂1には、連通孔を有する発泡樹脂や不織布が用いられ、特に気孔率が80%〜98%、気孔径が50μm〜500μm程度の樹脂が好ましく、発泡ウレタンが好ましく用いられる。
【0056】
以下、リチウム電池用合金負極の製造方法を、アルミニウム層形成工程、アルミニウム多孔体作製工程、およびリチウム金属含入(充填)工程の順に説明する。
(1)アルミニウム層形成工程
真空蒸着、スパッタリング法、レーザアブレーション法若しくはプラズマCVD等の気相法、めっき法、アルミニウムペースト塗布法等により、樹脂1の表面に、アルミニウム層2を、直に形成してアルミニウム層被覆樹脂3を作製する。
【0057】
電解めっきを行うためには、予め樹脂1の表面を導電化処理する。導電化処理には、ニッケル等の導電性金属の無電解めっき、アルミニウム等の蒸着若しくはスパッタリング、又はカーボン等の導電性粒子を含有した導電性塗料の塗布などの任意の方法が選択される。アルミニウムめっきするためのめっき浴には例えばAlCl−XCl(X:アルカリ金属)−MCl(MはCr、Mn、及び遷移金属元素から選択される添加元素)の多成分系の溶融塩が使用される。溶融塩の中に樹脂1を浸漬し、導電化処理をした樹脂を負極にして電解めっきを行う。
【0058】
アルミニウム層の形成は、前記の通り、アルミニウムペーストの塗布によっても行うことができる。アルミニウムペーストは、アルミニウム粉末と結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤を混合したものであり、樹脂1の表面に所定量のアルミニウムペーストを塗布後、非酸化性雰囲気下で焼結する。
【0059】
(2)アルミニウム多孔体作製工程
次に、樹脂1を熱分解させて除去する。図2は溶融塩6の中での多孔性樹脂の分解工程を説明するための模式図である。表面にアルミニウム層を形成した樹脂(すなわち、アルミニウム層被膜樹脂3)をLiCl、KCl、NaCl、AlClからなる群より選択される1種以上を含む塩の中で、アルミニウムの融点以下の、好ましくは500℃〜600℃の温度にて加熱して、白金またはチタン製の正極5との間に所定の電圧を印加してアルミニウム層被膜樹脂3のアルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位(Li、K、Naの還元電位より貴な電位)で保って多孔性樹脂1を熱分解させて除去し、図1(c)のアルミニウム多孔体4を作製する。
【0060】
(3)リチウム金属含入(充填)工程
次に、作製したアルミニウム多孔体に所定量のリチウム金属を含入し、リチウムとアルミニウムの合金(Li−Al合金)を生成させてリチウム電池用合金負極を作製する。具体的には、例えばアルミニウム多孔体と所定の厚さのリチウム箔を貼り合わせた後、180℃以上に加熱し、リチウム箔を溶融させてアルミニウム多孔体の空孔に浸透させる。また、180℃以上に加熱したリチウムの溶融浴にアルミニウム多孔体を浸漬させてもよい。なお、含入するリチウム量は、アルミニウム多孔体の空孔に占めるリチウム金属の体積の比率が50%以上100%未満となるように調整される。例えば気孔率が97%のアルミニウム多孔体と厚さがアルミニウム多孔体の1/2のリチウム箔を貼り合わせた場合、空孔に占めるリチウム金属の体積の比率は51.5%になる。
【0061】
C.リチウム電池
このようにして作製されたリチウム電池用合金負極においては、生成させたLi−Al合金にアルミニウムの濃度が骨格の近傍で高く、骨格から離れるに従って低い濃度勾配が生じる。このため、充放電を行った際にLi−Al合金が膨張収縮しても応力緩和がされ易く、微粉化が抑制される。
【0062】
また、アルミニウム多孔体の空孔に占めるリチウム金属の体積の比率が50%以上であるため、充分に高い容量密度が確保される一方、100%未満とすることによりLi充填後のアルミニウム多孔体中に空孔が残されているため、リチウムデンドライトが生成した場合でもデンドライトショートが抑制される。
【0063】
(実施の形態2)
実施の形態2では、アルミニウム多孔体の骨格は、芯材の表面にアルミニウム層が形成されたアルミニウム被覆材である。また、芯材は、銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなり、連通孔を有する樹脂の表面に炭素粉末を塗布して導電処理をした後、所定の厚さでめっきを施すことにより形成される。
【0064】
実施の形態2は、アルミニウム多孔体の骨格がアルミニウム被覆材である点を除いて、実施の形態1と同じ要領でリチウム電池用合金負極およびリチウム電池を製造する。
【0065】
(実施の形態3)
前記した各実施の形態において、リチウム金属の含入は、アルミニウム多孔体の空孔への浸透に限定されず、アルミニウム多孔体の表面に形成する形態であってもよい。
【0066】
また、リチウム金属は、単体である必要はなく、他の金属との合金であってもよく、特に、Li−Si(ケイ素)、Li−Sn(スズ)は合金負極として好適である。
【0067】
このようなLi−SiあるいはLi−Snの合金負極をアルミニウム多孔体に形成する場合、LiとSiまたはSnとの合金層をアルミニウム多孔体の表面に形成してもよく、あるいは、「アルミニウム骨格」や「銅などの芯材の表面に形成されたアルミニウム層」の上に、SiまたはSn金属層を設け、さらに、Li金属層を積層して形成してもよい。
【実施例】
【0068】
(実施例1、2)
実施例1は、骨格がアルミニウムにより形成されたアルミニウム多孔体に、リチウム金属を含入して形成される負極を有するリチウム二次電池である。
【0069】
実施例2は、骨格がCu製の芯材の表面にアルミニウム層が形成されアルミニウム被覆材であるアルミニウム多孔体に、リチウム金属を含入して形成される負極を有するリチウム二次電池である。
【0070】
(1)アルミニウム多孔体の作製
実施例1では、気孔率97%、気孔径約300μmのポリウレタンフォームを準備した。このポリウレタンフォームの表面に真空蒸着法により、厚さ約50μmのアルミニウム層を形成した後、温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位で30分間保持した。その後大気中で室温まで冷却し、水洗して溶融塩を除去してアルミニウム層を骨格とする厚さ0.5mm、気孔率97%のアルミニウム多孔体を作製した。
【0071】
実施例2では、気孔率97%、気孔径約300μmのポリウレタンフォームを準備した。このポリウレタンフォームの表面に炭素粉末を塗布して導電処理をした後、厚さ20μmの銅メッキを施し芯材を形成した。その上に真空蒸着法により、厚さ約50μmのアルミニウムの表層を形成した後、温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位で30分間保持した。その後大気中で室温まで冷却し、水洗して溶融塩を除去してCuの芯材の表面にアルミニウムの表層を形成したアルミニウム被覆材を骨格とする厚さ0.5mm、気孔率96%のアルミニウム多孔体を作製した。
【0072】
参考例では、孔径が200μm〜500μmであり、気孔率が97%で、厚みが1.0mmの発泡ウレタンフォームを準備した。この発泡ウレタンフォームを、真空蒸着装置内に配置した。アルミニウム金属を溶融・蒸発させる真空蒸着法により、発泡ウレタン樹脂の表面にアルミニウム膜を蒸着させた。その後、大気中で、550℃の熱処理をすることにより、発泡ウレタンフォームを除去した。これにより、参考例であるアルミニウム多孔体を得た。
【0073】
(2)アルミニウム多孔体の構造の確認と酸素量の測定
実施例1のアルミニウム多孔体のSEM写真を図3に示す。図3より、アルミニウム多孔体を構成する孔が連通していることが分かった。また、実施例1のアルミニウム多孔体は閉気孔を有しないことが分かった。
【0074】
実施例1のアルミニウム多孔体の表面について、15kVの加速電圧でEDX分析した。その結果を図4に示す。酸素のピークは観測されなかった。したがって、アルミニウム多孔体の酸素量は、EDXの検出限界以下であることが分かった。ここで、EDXによる検出限界は酸素量3.1質量%であるので、実施例1のアルミニウム多孔体の表面の酸素量は、3.1質量%以下であるといえる。
【0075】
実施例2についても、SEM写真の撮影とEDX分析を行ったが、実施例1と同様の結果であることを確認した。
【0076】
参考例のアルミニウム多孔体の表面についても、同様な条件でEDX分析した。その結果、酸素のピークが観測され、アルミニウム多孔体の酸素量は少なくとも3.1質量%を超えることが分かった。熱処理する際に、アルミニウム多孔体の表面が酸化したためである。
【0077】
なお、この分析で用いた装置は、EDAX社製の「EDAX Phonenix」であり、その型式はHIT22 136−2.5である。
【0078】
(3)負極の作製
アルミニウム多孔体に、厚さ350μmのリチウム箔を貼り合わせた後、250℃に加熱してLiを溶融させ、Liを空孔に浸透させた。なお、空孔に占めるリチウム金属の体積の比率は75%である。
【0079】
リチウム金属を空孔に浸透させたアルミニウム多孔体を直径15mmの円形に成形してリチウム電池用合金負極を作製した。
【0080】
(4)リチウム電池用正極の作製
MnO(活物質)、アセチレンブラック(導電助剤)、PVDF(バインダー)を所定の比率で混合し、直径が15mm、容量密度が10mAh/cmのリチウム電池用正極を作製した。
【0081】
(5)リチウム二次電池の作製
次に、負極および正極に用いてリチウム二次電池を作製した。図5は本実施例のリチウム電池の構成を説明するための図である。図5において11はリチウム二次電池、12はリチウム電池用正極、13はセパレーター、14はリチウム電池用合金負極である。
【0082】
具体的には、正極12と負極14との間にポリプロピレン製のセパレーター13を挟んで積層し、LiClOを1モル%溶解させた(1M)プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/ジメトキシエタンの混合液からなる電解液を用いて組立てた。
【0083】
(比較例)
比較例は、Al−Li合金箔の負極を有するリチウム二次電池である。
【0084】
アルミニウムの比率が50原子%、直径が15mmのAl−Li合金箔を作製してリチウム電池用合金負極とし、この負極と、実施例と同様にして作成されるリチウム電池用正極に用いて、実施例と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0085】
(実施例1、2および比較例のリチウム二次電池の特性評価)
(1)歩留り
実施例1、2の場合、電池の組立における歩留りが100%であるのに対して、比較例の歩留りは約50%と低かった。比較例の場合、このように歩留りが低いのはリチウム電池用合金負極が脆弱で、ハンドリング時に割れや欠けが生じるためである。
【0086】
(2)充放電サイクル特性
イ.試験方法
カットオフ電圧を2.0−3.3Vとし、6mA/hと18mA/hの2種類の放電深度で充放電サイクル試験を行い、放電容量が初期の50%以下となるサイクル数を調べた。
【0087】
ロ.試験結果
実施例1、2および比較例の試験結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1より実施例1、2はサイクル特性が優れていることが分かる。実施例のサイクル特性がこのように優れているのは、微粉化とデンドライトショートの抑制効果の高いリチウム電池用合金負極を用いているためである。
【0090】
また、前記したように、実施例は閉気孔がなく酸素量が少ないアルミニウム多孔体にLiを含入させているため、容量密度が高いリチウム電池用合金負極を有するリチウム二次電池である。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 樹脂
2 アルミニウム層
3 アルミニウム層被覆樹脂
4 アルミニウム多孔体
5 正極
6 溶融塩
11 リチウム二次電池
12 リチウム電池用正極
13 セパレーター
14 リチウム電池用合金負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液を用いるリチウム電池用合金負極であって、
アルミニウム多孔体中にリチウム金属が充填されていることを特徴とするリチウム電池用合金負極。
【請求項2】
前記アルミニウム多孔体の骨格が、アルミニウムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池用合金負極。
【請求項3】
前記アルミニウム多孔体の骨格が、銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる芯材の表面にアルミニウム層が形成されたアルミニウム被覆材によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池用合金負極。
【請求項4】
前記アルミニウム多孔体の空孔に占める前記リチウム金属の体積の比率が、50%以上100%未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のリチウム電池用合金負極。
【請求項5】
前記アルミニウム多孔体の骨格を形成するアルミニウム、または前記アルミニウム被覆材のアルミニウム層の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のリチウム電池用合金負極。
【請求項6】
前記アルミニウム多孔体が、連通孔を有し、閉気孔を有さず、
さらにアルミニウムのみからなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のリチウム電池用合金負極。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のリチウム電池用合金負極を備えることを特徴とするリチウム電池。
【請求項8】
連通孔を有する樹脂の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂をアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、前記樹脂を加熱分解してアルミニウム多孔体を作製するアルミニウム多孔体作製工程と、
前記アルミニウム多孔体にリチウム金属を充填するリチウム金属充填工程と
を有することを特徴とするリチウム電池用合金負極の製造方法。
【請求項9】
連通孔を有する樹脂の表面に銅、ニッケル、鉄のいずれかの金属からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂をアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、前記樹脂を加熱分解してアルミニウム多孔体を作製するアルミニウム多孔体作製工程と、
前記アルミニウム多孔体にリチウム金属を充填するリチウム金属充填工程と
を有することを特徴とするリチウム電池用合金負極の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム層の形成方法が、真空蒸着法、スパッタリング法、レーザアブレーション法又はプラズマCVD法であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のリチウム電池用合金負極の製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム層の形成方法が、前記樹脂の表面を導電化処理した後、アルミニウムをめっきするめっき法であることを特徴とする請求項8に記載のリチウム電池用合金負極の製造方法。
【請求項12】
前記アルミニウム層の形成方法が、前記金属層の表面にアルミニウムをめっきするめっき法であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム電池用合金負極の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム層の形成方法が、前記樹脂の表面または前記金属層の表面にアルミニウムペーストを塗布する塗布法であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のリチウム電池用合金負極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−249286(P2011−249286A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124343(P2010−124343)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】