説明

リフタ構造

【課題】厳密な寸法管理を必要としないリフタ構造を提供する。
【解決手段】リフタ構造は、リフタ10と、リフタ10をガイドするハウジング60とを備えている。ハウジング60は、リフタ10が往復移動可能に挿入されるボア61を有する。ハウジング60のボア61の内周面とリフタ10の外周面との間には、両周面間の距離が近接する近接領域65と、近接領域65を挟んだリフタ10の移動方向両側にあって両周面間の距離が近接領域65よりも離間する離間領域66とが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、燃料ポンプのリフタ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のリフタ構造は、燃料噴射弁に燃料を供給する燃料ポンプのリフタ構造であって、シリンダ、プランジャ、リフタ、及びリフタガイドを備えている。
【0003】
シリンダはリフタガイドの上方にスプリングシートを挟んで配置されている。シリンダにはガイド孔が形成され、ガイド孔にはプランジャが挿入されている。また、リフタガイドにはボアが形成され、ボアにはリフタが挿入されている。プランジャの下端部はボア内でリフタに当接し、プランジャの上端部とシリンダとの間にはポンプ室が区画されている。
【0004】
リフタにはローラが軸支され、ローラはカムと当接している。そして、リフタは、スプリングシートとの間に介挿されたコイルスプリングによってカム側に付勢されている。カムの駆動に伴ってローラが回転し、リフタが押し上げられると、それに伴いプランジャも押し上げられて、ポンプ室の容積が減少させられる(加圧工程)。一方、コイルスプリングの付勢力によってリフタ及びプランジャが下降すると、ポンプ室の容積が増加させられる(吸引工程)。こうしてリフタがボア内を往復移動することにより、ポンプ室の容積が増減させられ、これによって燃料の吸引・吐出が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−236041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、仮に、カムとローラとの間にミスアライメントが生じていると、ローラがカムにエッジ当りして異常摩耗が発生する懸念がある。これに鑑み、例えば、リフタガイドのボアの内周面とリフタの外周面との間のクリアランスを拡げてミスアライメントを吸収できるような構造にすると、実動時にリフタが暴れて(ぶれて)ボアの内周面を叩き、打音・異音を発生させる懸念がある。こうしたことから従来においては、各部品の寸法公差を厳密に管理しなければならず、コストが上昇する一因になっている。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、厳密な寸法管理を必要としないリフタ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、リフタと、前記リフタが往復移動可能に挿入されるボアを有し、前記ボアの内周面と前記リフタの外周面との間に、両周面間の距離が近接する近接領域とこの近接領域を挟んだ前記リフタの移動方向両側にあって両周面間の距離が前記近接領域よりも離間する離間領域とが形成されているリフタガイドとを備えているところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記リフタの外周面と前記ボアの内周面のいずれか一方の周面が前記近接領域において他方の周面に向けて突出する曲面状の形態とされているところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記ボアの内周面の断面形状が、互いに線対称の円弧状曲線を有する鼓形状とされているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
<請求項1の発明>
ボアの内周面とリフタの外周面との間には両周面間の距離が近接する近接領域とこの近接領域を挟んだリフタの移動方向両側にあって両周面間の距離が近接領域よりも離間する離間領域とが形成されているため、ミスアライメントによってボアの軸心がずれても、近接領域でボアの内周面とリフタの外周面との間に必要なクリアランスが最小限に設定され得る。その結果、ボア内でリフタが暴れるのが防止され、リフタの移動動作の安定性が確保される。
【0012】
この場合、ボアの内周面とリフタの外周面の両周面全体が互いに平行に配置される従来の場合と違って、両周面間の寸法管理を厳密に行う必要がない。したがって、厳密な寸法管理を要せずとも、ボアの内周面とリフタの外周面との間の必要なクリアランスを確保することができ、ミスアライメントの許容量を大きく確保することができる。
【0013】
<請求項2の発明>
リフタの外周面とボアの内周面のいずれか一方の周面が近接領域において他方の周面に向けて突出する曲面状の形態とされているため、一方の周面が他方の周面にエッジ当りするのが阻止される。
【0014】
<請求項3の発明>
ボアの内周面の断面形状が互いに線対称の円弧状曲線を有する鼓形状とされているため、ミスアライメントによってボアの軸心がずれても、リフタがボアの鼓形状に沿って変位することにより、ミスアライメントの許容量をより大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係るリフタ構造の要部拡大図である。
【図2】ミスアライメントが生じた場合のリフタ構造の要部拡大図である。
【図3】リフタ構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図3によって説明する。実施形態1に係るリフタ構造は、燃料ポンプの燃料を圧送するリフタ10と、リフタ10の往復動作をガイドするハウジング60(リフタガイド)とを備えている。また、リフタ構造は、上記に加え、シリンダ50、プランジャ40、コイルスプリング30、リテーナ70等を備えて構成されている。
【0017】
図1に示すように、シリンダ50は、軸方向(リフタ10及びプランジャ40の往復移動方向であって図示上下方向)に延びるガイド孔51を有している。シリンダ50のガイド孔51にはプランジャ40が往復移動可能に挿入されている。また、シリンダ50はポンプ室52を有し、このポンプ室52にガイド孔51の上端が連通している。ポンプ室52の容積は、プランジャ40の進退動作によって増減させられるようになっている。
【0018】
ハウジング60は、シリンダ50の下方に配置され、シリンダ50との間にはスプリングシート90が挟着されている。そして、ハウジング60は軸方向に延びるボア61を有し、ボア61にはリフタ10が往復移動可能に挿入されている。また、ボア61の上端開口部にはシリンダ50及びスプリングシート90の中心部が嵌合状態で挿入されている。なお、ボア61の内周面の形状については後に詳述する。
【0019】
リフタ10は、図1及び図3に示すように、有底筒状のリフタ本体11と、リフタ本体11の下面から下方に突出する一対の対向壁12と、両対向壁12間に挟まれるように収容されるローラ13と、両対向壁12を貫通してローラ13を回転可能に支持するピン14とを有している。リフタ本体11の外周面は、上下方向に沿ってほぼ垂直に配置され、ボア61の内周面に摺動可能とされている。ローラ13の下方にはカム80が配置され、ローラ13の外周面はカム80の外周面(カム面)に当接している。ローラ13はカムシャフト85に設けられている。
【0020】
図3に示すように、プランジャ40の下端部にはリテーナ70が装着され、プランジャ40の下端は、リテーナ70とともにリフタ本体11の内底面に当接している。リテーナ70とスプリングシート90との間にはコイルスプリング30が介挿され、リフタ10とプランジャ40はコイルスプリング30によってカム80側(図示下側)に付勢されている。
【0021】
ここで、エンジンによりカムシャフト85とカム80が回転すると、カム80の外周面をローラ13が転動し、それに伴ってリフタ10がボア61内を上下方向に往復動するとともに、コイルスプリング30が伸縮動作を繰り返す。そして、リフタ10に連動してプランジャ40がガイド孔51内を上下方向に往復動して、ポンプ室52の容積が増減させられ、もって燃料の吸引・吐出が行われる。
【0022】
さて、図1に示すように、ハウジング60のボア61内には、ボア61の内周面とリフタ10の外周面との間の距離を近接させる近接領域65と、ボア61の内周面とリフタ10の外周面との間の距離を近接領域65よりも離間させる離間領域66とが形成されている。離間領域66は、近接領域65を挟んだ上下方向両側に対をなして配置されている。
【0023】
また、ハウジング60のボア61の内周面には、近接領域65においてリフタ10の外周面との隙間を縮める方向に突出する一方、離間領域66においてリフタ10の外周面との隙間を拡げる方向に退避する曲面部67を有している。曲面部67は、ボア61の軸心を挟んだ両側で対をなす円弧状曲線によって区画されている。このため、ボア61の内周面の断面形状は、互いに線対称の円弧状曲線を有する鼓形状に構成されている。なお、リフタ10は、その動作範囲(上下死点間のストローク範囲)では常に近接・離間領域65、66内に配置されるように設定されている。
【0024】
図1に示すように、ハウジング60等が正しく組み付けられ、ボア61の軸心が正しい方向に向けられている場合には、ハウジング60に対するリフタ10の移動姿勢が正規姿勢に保たれる。この場合、近接領域65ではリフタ10の外周面とボア61の内周面との間のクリアランスが最小限になっていることにより、リフタ10が暴れるのが防止され、リフタ10の往復移動動作の安定性が確保される。
【0025】
一方、図2に示すように、ミスアライメントによってボア61の軸心が正規方向に対して傾斜する方向にずれている場合でも、上記同様、近接領域65ではリフタ10の外周面とボア61の内周面との間のクリアランスが最小限になっていることにより、リフタ10の往復移動動作の安定性が確保される。なお、ボア61の内周面には線対称の曲面部67が形成されているため、ボア61の軸心のずれが左右いずれの方向に傾斜していても、上記同様の効果を得ることができる。
【0026】
以上説明したように、実施形態1によれば、ハウジング60のボア61内に近接領域65と離間領域66とが形成されているため、ミスアライメントが生じても、近接領域65で必要クリアランスが最小限に確保されてリフタ10の移動動作の安定性が確保される。また、ハウジング60のボア61内に近接領域65と離間領域66が形成されているため、従来のように、ボア61の内周面とリフタ10の外周面の両周面間のクリアランスを全高に亘って一定にする必要がなく、ハウジング60とリフタ10との間のギャップ管理が容易になる。その結果、厳密な寸法管理を必要としないリフタ構造が提供される。
【0027】
また、ボア61の内周面には近接領域65においてリフタ10の外周面側に向けて突出する曲面部67が形成されているため、ボア61の内周面がリフタ10の外周面にエッジ当りするのが阻止される。さらに、ボア61の内周面の断面形状が互いに線対称の円弧状曲線を有する鼓形状とされているため、ミスアライメントによってボア61の軸心がずれても、リフタ10がボア61の鼓形状に沿って変位することにより、ミスアライメントの許容量をより大きく確保することができる。
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1とは逆に、リフタの外周面に曲面部が形成される構成であってもよい。
(2)ボアの内周面とリフタの外周面のいずれにも曲面部が形成される構成であってもよい。
(3)本発明は、燃料ポンプのリフタ構造に限定されず、一般的な動弁系の機構に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
10…リフタ
13…ローラ
60…ハウジング(リフタガイド)
61…ボア
65…近接領域
66…離間領域
67…曲面部
80…カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフタと、
前記リフタが往復移動可能に挿入されるボアを有し、前記ボアの内周面と前記リフタの外周面との間に、両周面間の距離が近接する近接領域とこの近接領域を挟んだ前記リフタの移動方向両側にあって両周面間の距離が前記近接領域よりも離間する離間領域とが形成されているリフタガイドとを備えていることを特徴とするリフタ構造。
【請求項2】
前記リフタの外周面と前記ボアの内周面のいずれか一方の周面が前記近接領域において他方の周面に向けて突出する曲面状の形態とされていることを特徴とする請求項1記載のリフタ構造。
【請求項3】
前記ボアの内周面の断面形状が、互いに線対称の円弧状曲線を有する鼓形状とされていることを特徴とする請求項2記載のリフタ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−87647(P2013−87647A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226684(P2011−226684)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000185488)株式会社オティックス (305)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】