説明

リング状品組込機械部品の連続生産ライン

【課題】 焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品である転がり軸受等の機械部品を連続して生産でき、またリング状品の各部における焼入品質の均一化が図れ、かつ設備の大型化や設置面積の増大が回避できる連続生産ラインを提供する。
【解決手段】 この生産ラインは、順次並ぶ検査工程部11、鍛造工程部12、旋削工程部13、刻印工程部14、熱処理工程部15、研削工程部16、および組立工程部17を備える。熱処理工程部15は、リング状品W1を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱工程部15aと、焼入れ温度まで連続加熱炉21で加熱する均熱工程部15bと、焼入工程部15cと焼戻工程部15dを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受等のように、焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品であるリング状品組込機械部品を生産するリング状品組込機械部品の連続生産ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の量産品となる機械部品の生産において、工程間のワーク搬送の合理化による生産の効率化や、工場床面積の削減等のために、主要構成要素の生産から機械部品の組み立てまでを、ワークを一列で搬送しながら加工を進める連続生産ラインとすることが図られている。
しかし、転がり軸受等のように、焼入れ処理されたリング状品を有する機械部品では、熱処理をバッチ処理としており、連続生産ラインの実現が妨げられている。
【0003】
転がり軸受の内外輪等の軌道輪は、機械特性の向上のために、内部まで硬化させる焼入が施される。このような内部まで硬化させる焼入では、バッチ式の雰囲気炉で全体焼入をすることが一般的である。連続加熱炉の採用も可能ではあるが、軌道輪の深部まで、室温から焼入温度まで加熱するには、搬送経路が長くなって設備が大型化し、設置面積が大きくなる。そのためバッチ式炉が採用される。また、上記連続加熱炉およびバッチ式炉のいずれにおいても、周辺への熱の影響があり、軌道輪を旋削や研削するラインから離して設置することが必要となる。
なお、車輪用軸受等のように、軌道面のみに局部的に焼入を施す場合は、高周波焼入が採用されている。また、全体焼入する高周波焼入においても、加熱コイル内でコンベヤにより被加熱材を搬送し、連続的に焼入するものが提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−325864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり軸受の生産ラインを連続生産ラインとするために、軌道輪を高周波焼入することを考えた。高周波焼入であると、ワークを1個ずつ連続して加熱することが可能であり、周辺への熱的影響も少なく、軌道輪の生産から軸受の組立までの連続生産ライン化が可能である。高周波焼入は、エネルギ効率の面でも優れている。
しかし、高周波焼入では、ワーク形状によっては、全体を均一に加熱することが難しい場合がある。そのため、ワーク全体における焼入品質の均一化が難しい。
【0005】
この発明の目的は、焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品であるリング状品組込機械部品を連続して生産でき、またリング状品の各部における焼入品質の均一化が図れ、かつ設備の小型化や設置面積の縮小が図れるリング状品組込機械部品の連続生産ラインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のリング状品組込機械部品の連続生産ラインは、焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品であるリング状品組込機械部品を連続して生産する生産ラインであって、
リング状品に加工するための材料を検査する検査工程部と、前記材料をリング状品の完成品の概略形状に旋削する旋削工程部と、この旋削されたリング状品に刻印を施す刻印工程部と、この刻印の施されたリング状品を熱処理する熱処理工程部と、この熱処理されたリング状品に研削を施す研削工程部と、研削の完了したリング状品を他の部品と共にリング状品組込機械部品に組み立てる組立工程部とを備え、
前記熱処理工程部が、リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱工程部と、この予熱工程部で加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱工程部と、この均熱工程部で加熱されたリング状品を冷却する焼入工程部とを含むことを特徴とする。
【0007】
この構成の生産ラインによると、熱処理工程部が、誘導加熱により加熱する予熱工程部と、連続加熱炉で加熱する均熱工程部とを備えるため、誘導加熱によりリング状品の深部までエネルギ効率良く短時間で加熱することが可能である。また、連続加熱炉によりリング状品の全体の均熱化が図れる。そのため、焼入温度まで誘導加熱する場合に比べて焼入品質に優れたものとできる。連続加熱炉を用いるが、連続加熱炉は焼入温度近くまで予熱されたリング状品を焼入温度まで昇温させるだけであるため、室温から加熱するものと異なり、加熱時間が大幅に短縮されて、炉内でリング状品を移動させる経路が短くて済み、設備が小型化できる。また、連続加熱炉による加熱は僅かであるため、周辺への熱の影響が少なく、周辺環境が改善される。このため、連続加熱炉を、旋削工程部や刻印工程部,研削工程部等を含む連続生産ラインに組み込みながら、これら各工程部への連続加熱炉による熱的影響が回避でき、リング状品の検査工程部からリング状品組込機械部品の組立工程部までの連続生産ラインが実現できる。このように連続生産ライン化したことにより、生産の効率化や、工場床面積の削減、多品種少量生産への適応性向上にも貢献することができる。
【0008】
この発明において、前記予熱工程部は、リング状品を大気中から装入する装入室と、この装入室から移動させたリング状品を誘導加熱する予熱室と、この予熱室のリング状品を前記連続加熱炉に移送する移送室とを有し、前記リング状品をそれぞれ通過させる前記装填室の入口、前記装入室と予熱室との間の通路、前記予熱室と移送室との間の通路、および移送室と前記連続加熱炉との間の通路に開閉扉を有し、前記装入室、予熱室、および移送室を、真空、または無酸化雰囲気、または連続加熱炉の雰囲気と同等の雰囲気に変換する雰囲気変換手段を有し、かつ前記リング状品を前記装入室に装入する装入手段、前記装入室から予熱室に移動させる第1移動手段、前記加熱室から移送室に移動させる第2移動手段、および移送室から連続加熱炉に移送する移送手段を有するものであっても良い。 このように雰囲気変換手段を設け、リング状品を、真空、または無酸化雰囲気、または連続加熱炉の雰囲気と同等の雰囲気の中で連続装入、加熱、移送を行うようにした場合、リング状品の無酸化の連続処理が容易になる。また、加熱後に連続加熱炉の雰囲気に合わせて移送室から連続加熱炉に移送するようにした場合は、浸炭雰囲気の連続加熱炉にも対応することができる。
【0009】
この発明において、前記リング状品組込機械部品が転がり軸受であり、前記リング状品が転がり軸受の軌道輪であっても良い。
転がり軸受は生産性が要求され、その軌道輪は品質の良い焼入処理が要求されるため、この発明における熱処理工程部を、誘導加熱により加熱する予熱工程部と、連続加熱炉で加熱する均熱工程部とを有するものしたことによる生産性向上および焼入品質向上の利点が効果的に発揮される。
【0010】
リング状品組込機械部品が転がり軸受である場合に、前記検査工程部、旋削工程部、刻印工程部、熱処理工程部、および研削工程部によりそれぞれ構成される組立前生産ライン部分が2本設けられ、これら2本の組立前生産ライン部分は、前記リング状品として、転がり軸受における内輪および外輪をそれぞれ生産するものであり、前記組立工程部は、前記2本の組立前生産ライン部分でそれぞれ生産された内輪と外輪とを他の部品と共に転がり軸受に組み立てるものであっても良い。
このように内輪,外輪とも、その生産を行う組立前生産ライン部分を連続生産ラインとすることで、転がり軸受をより一層効率良く生産することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明のリング状品組込機械部品の連続生産ラインは、焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品であるリング状品組込機械部品を連続して生産する生産ラインであって、リング状品に加工するための材料を検査する検査工程部と、前記材料をリング状品の完成品の概略形状に旋削する旋削工程部と、この旋削されたリング状品に刻印を施す刻印工程部と、この刻印の施されたリング状品を熱処理する熱処理工程部と、この熱処理されたリング状品に研削を施す研削工程部と、研削の完了したリング状品を他の部品と共にリング状品組込機械部品に組み立てる組立工程部とを備え、前記熱処理工程部が、リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱工程部と、この予熱工程部で加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱工程部と、この均熱工程部で加熱されたリング状品を冷却する焼入工程部とを含むため、リング状品組込機械部品を連続して生産でき、またリング状品の各部における焼入品質の均一化が図れ、かつ設備の小型化や設置面積の縮小が図れるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。図1は、この連続生産ラインの概念構成を示す。この連続生産ラインは、リング状品組込機械部品である転がり軸受1を連続して生産するラインであり、軸受外輪となるリング状品W1の生産から、転がり軸受1の組立までを行うラインである。生産される転がり軸受1は、軸受外輪となるリング状品W1と、軸受内輪となるリング状品W2と、複数の転動体2と、保持器3とで構成される。図示の例では、転がり軸受1は深溝玉軸受からなるが、ころ軸受であっても良く、またスラスト型の軸受であっても良い。
【0013】
この生産ラインは、材料検査工程部11、鍛造工程部12、旋削工程部13、刻印工程部14、熱処理工程部15、研削工程部16、および組立工程部17を備える。各工程部11〜17間には、材料またはリング状品W1を搬送するコンベヤなど搬送手段20が設けられ、生産ラインの全体を通してリング状品W1は1列の縦列に搬送される。
【0014】
検査工程部11は、リング状品W1に加工するための材料(図示せず)を検査する工程部であり、ここでは、塊状、板状、またはパイプ状等の材料を購入先等から受入れ、材料ロット毎の検査を行う。この検査は、作業者による手作業により行うようにしても、自動的に行うようにしても良い。検査の完了した材料は、リング状品W1の1個分毎に分け、鍛造工程部12に送る。
【0015】
鍛造工程部12は、1個分の材料を、リング状品W1の完成品の粗形状に鍛造機で鍛造する工程部である。
旋削工程部13は、鍛造されたリング状品W1を、鍛造された形状よりも完成品により近い概略形状に、旋盤により旋削する工程部である。リング状品W1が軸受外輪等の軌道輪である場合、軌道溝の溝加工を旋削工程部13で行う。
なお、転がり軸受1の種類によっては、鍛造工程12を省き、旋削工程部13でパイプ材等の材料から概略形状のリング状品W1を得るようにしても良い。その場合、材料からリング状品W1の1個分ずつの切り出しも旋削工程部13で行うようにしても良い。
【0016】
刻印工程部14は、旋削されたリング状品W1に、社名や型番等のマークMを刻印機(図示せず)により刻印する工程部である。リング状品W1が軸受外輪または軸受内輪の場合、刻印はリング状品W1の幅面に行う。
【0017】
熱処理工程部15は、刻印の施されたリング状品W1に、焼入等の熱処理を施す工程部である。熱処理工程部15については、後に詳しく説明する。
【0018】
研削工程部16は、熱処理されたリング状品W1に研削を施し、リング状品W1の完成品とする工程部である。
研削工程部16は、リング状品W1が軸受外輪の場合、複数の工程部、例えば幅研削工程部16a、外径研削工程部16b、溝研削工程部16c、および溝超仕上げ工程部16dからなるものとされる。各研削構成部16a〜16dは、それぞれの研削を行う研削装置(図示せず)を備える。リング状品が軸受内輪である場合も、研削工程部16は、軸受外輪の場合と同様に、4つの工程部からなるものとされる。
【0019】
上記検査工程部11から研削工程部16までの工程部により、組立前生産ライン部分R1が構成される。
【0020】
組立工程部17は、研削の完了したリング状品W1を他の部品と共にリング状品組込機械部品に組み立てる工程部である。この実施形態では、リング状品組込機械部品は転がり軸受1であり、軸受外輪となるリング状品W1を、他の部品である軸受内輪となるリング状品W2と、転動体2と、保持器3と共に、転がり軸受1に組み立てる。この組立は、自動組立機(図示せず)により行われる。保持器3は、図示の例では、2つの保持器部品3aを組み合わせるものとされている。
【0021】
軸受内輪となるリング状品W2は、軸受外輪の組立前生産ライン部分R1とは別の組立前生産ライン部分R2により生産され、組立工程部17に搬入される。転動体2および保持器3は、それぞれ転動体保管部18および保持器保管部19から組立工程部17に搬入される。
転動体保管部18および保持器保管部19は、それぞれ、この連続生産ラインとは別の場所で生産された転動体2および保持器3を購入先等から受け入れ、検査等の処理を行って保管する工程部である。転動体保管部18および保持器保管部19は、この連続生産ラインと共に設けた生産ライン(図示せず)で生産するようにしても良い。
【0022】
図2は、このリング状品組込機械部品の連続生産ラインのレイアウト例を示す説明図である。この例では、軸受外輪となるリング状品W1を生産する組立前生産ライン部分R1と、軸受内輪となるリング状品W2を生産する組立前生産ライン部分R2とが並列に配置されている。
軸受内輪となるリング状品W2を生産する組立前生産ライン部分R2は、軸受外輪となるリング状品W1を生産する組立前生産ライン部分R1と同様に、検査工程部11、鍛造工程部12、旋削工程部13、刻印工程部14、熱処理工程部15、および研削工程部16を順に並べ、各工程部11〜16の間にコンベヤ等の搬送手段20を設けたものとされる。内輪側の組立前生産ライン部分R2においても、鍛造工程部12は省略されていても良い。
【0023】
図1に示すように、熱処理工程部15は、予熱工程部15a、均熱工程部15b、焼入工程部15cおよび焼戻工程部15dを備える。熱処理工程部15は、焼入工程部15cの後段側に、焼準工程部や焼鈍工程部(いずれも図示せず)を有するものであっても良い。その場合、これら焼準工程部や焼鈍工程部は、リング状品W1を一列の縦列で搬送しながら処理を行える形式の工程部とする。
【0024】
予熱工程部15aは、リング状品W1を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する工程部である。予熱温度は、A1変態点(725〜730°)よりも高く、またA2変態点(キュリー点)よりも高い温度であることが好ましく、例えば800℃程度とされる。
【0025】
均熱工程部15bは、予熱工程部15aで加熱されたリング状品W1を焼入れ温度まで連続加熱炉21で加熱する工程部である。焼入れ温度は、最高加熱温度(オーステナイト化温度)であり、例えば850℃程度とされる。
連続加熱炉21は、内部を高温雰囲気に保ち、コンベヤ等の搬送手段22にリング状品W1を縦一列に載せて搬送しながら加熱する炉である。
【0026】
焼入工程部15cは、均熱工程部15bで焼入温度に加熱されたリング状品W1を、冷却することで焼入する工程部であり、例えば冷却槽23内にリング状品W1を浸すことで冷却するものとされる。焼入工程部15cは、冷却液をリング状品W1に吹き付けるものであっても良い。
【0027】
図3は、予熱工程部15aの水平断面図と、雰囲気調整系のブロック図とを組み合わせた説明図である。予熱工程部15aは、リング状品W1を大気中から装入する装入室31と、この装入室31から移動させたリング状品W1を誘導加熱する予熱室32と、この予熱室32のリング状品W1を前記連続加熱炉21に移送する移送室33とを有する。
装入室31のリング状品W1を入れる入口34、および各室31〜33間のリング状品W1の通路35,36、および移送室33と連続加熱炉21間のリング状品W1の通路37には、それぞれ開閉扉38〜41が設けられている。これら開閉扉38〜41は、左右または上下にスライドして開閉するものとされ、開閉駆動手段(図示せず)が連結されている。
【0028】
予熱工程部15aには、前記装入室31、予熱室32、および移送室33を、真空、または無酸化雰囲気、または連続加熱炉21の雰囲気と同等の雰囲気に変換する雰囲気変換手段42を有している。雰囲気変換手段42は、例えば各室31〜33に配管43を介して窒素ガスを送り込み、排気して入れ換える手段とされる。また、雰囲気変換手段42は、各開閉扉38〜41の開閉駆動手段を制御する機能を備えている。雰囲気変換手段42は、各室31〜33と連続加熱炉21間の開閉扉39〜41の開閉を、必ず隣接する2室間でのみ連通して外部とは密閉状態を維持するように行わせる。例えば、装填室31と予熱室32を間の開閉扉39を開けるときは、装填室31の入口38の開閉扉38と予熱室32の出口側の開閉扉40を閉じた状態とする。
【0029】
また、予熱工程部15bには、リング状品W1を装入室31に装入する装入手段44、装入室44から予熱室32に移動させる第1移動手段45、予熱室32から移送室33に移動させる第2移動手段46、および移送室33から連続加熱炉21に移送する移送手段47を有している。これら装入手段44,第1移動手段45,第2移動手段46,および移送手段47は、それぞれプッシャーまたはコンベヤ等からなる。
【0030】
図4は、予熱室32内の誘導加熱装置50の構成を示す。この誘導加熱装置50は、リング状品W1を載せてリング中心Oの回りに回転させる回転台51と、加熱コイル52と、加熱コイル52に電流を流す交流電源53とを備える。交流電源53は例えば高周波電源とされる。
【0031】
加熱コイル52は、リング状品W1の内周側と外周側とに跨がるように配置される下向きU字状のものが用いれ、加熱コイル52の両側の対向片部52a,52bの先端が、交流電源53に接続されている。図6は、加熱コイル52の斜視図を示す。
図4において、加熱コイル52は、加熱コイル支持体54に対して、回転台51の半径方向に位置変更可能に設置される。加熱コイル支持体54は、例えば回転台51の半径方向に延びるガイド54aを有し、このガイド54aに沿って加熱コイル52が無段階で位置変更可能とされる。その任意の変更位置で、ボルト(図示せず)等により、加熱コイル52がガイド54aに位置固定される。
【0032】
回転台51には、リング状品W1との接触面積を小さくするための接触台51aが設けられる。接触台51aは、リング状品W1の径に応じたものに取り替え自在とされる。
回転台51は、回転台回転装置55により回転駆動され、かつ回転台昇降装置56により、回転台51上のリング状品W1が加熱コイル52の対向片52a,52b間に入る高さ位置と出る高さ位置との間に昇降させられる。
図示の例では、回転台51は、昇降枠57に軸受58を介して回転自在に設置されていて、昇降枠57が基台59に昇降ガイド60を介して昇降自在に設置されている。昇降枠57には、油圧シリンダ等の昇降駆動源61が連結されており、回転台51は昇降駆動源61により昇降枠57と共に昇降させられる。
回転台回転装置55は、モータ62と、その回転を回転台51の軸部51bに伝えるプーリまたはギヤ列等の回転伝達機構63とにより構成される。
【0033】
図7に実線で示すように、加熱コイル52は、リング状品W1の円周方向の1箇所に対応して設けられるものであっても良く、あるいは実線と一点鎖線とで示すように、リング状品W1の円周方向の複数箇所に対応して設けても良い。複数箇所に設ける場合、リング状品W1の直径方向に対向する2箇所であっても良く、また円周方向の3箇所以上に等配しても良い。
加熱コイル52の円周方向の複数箇所に設ける場合、個々の加熱コイル52を、図4の加熱コイル支持体54に対して、回転台51の半径方向に位置変更可能に設置する。
なお、図8に示すように、加熱コイル52はリング状品W1の外周に隙間を介して嵌まるリング状のものであっても良い。図示は省略するが、加熱コイル52は、リング状品W1の内周に隙間を介して嵌まるリング状のものであっても良い。加熱コイル52をリング状とする場合、リング状品W1の外周側および内周側のいずれに嵌まるものとする場合であっても、周方向に一つ割りのものとされる。
【0034】
上記構成の連続生産ラインによる転がり軸受1の生産過程を説明する。軸受外輪となるリング状品W1は、第1の組立前生産ライン部分R1で完成品まで生産される。この場合に、検査工程部11で検査された材料により、鍛造工程部12で粗形状のリング状品W1とされ、旋削工程部13で完成品の概略形状に旋削される。旋削されたリング状品W1は、刻印工程部14でマークMの刻印を施した後、熱処理工程部15で焼入などの熱処理が施される。熱処理の完了したリング状品W1は、研削工程部16の各段階の工程部16a〜16dで研削され、完成品とされる。
軸受内輪となるリング状品W2は、第2の組立前生産ライン部分R2で完成品まで生産される。
組立工程部17では、このように生産された内外輪であるリング状品W1,W2と、転動体2と保持器3とを、転がり軸受1に組立てる。
【0035】
軸受外輪となるリング状品W1および内輪となるリング状品W2は、次のように熱処理される。なお、両リング状品W1とも、互いに同様に熱処理されるため、以下は軸受外輪となるリング状品W1について説明する。
【0036】
刻印工程の終了したリング状品W1は、予熱工程部15aで焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱される。この加熱されたリング状品W1は、均熱工程部15bで連続加熱炉21内を縦列に1列で搬送され、この搬送の間に、焼入れ温度まで加熱される。焼入温度まで加熱されたリング状品W1は、焼入工程部15cで冷却されることにより、焼入される。
【0037】
この連続生産ラインによると、熱処理工程部15が、誘導加熱により加熱する予熱工程部15aと、連続加熱炉21で加熱する均熱工程部15bとを備えるため、誘導加熱によりリング状品W1の深部までエネルギ効率良く短時間で加熱することが可能であり、また連続加熱炉21によりリング状品W1の全体の均熱化が図れる。そのため、焼入温度まで誘導加熱する場合に比べて焼入品質に優れたものとできる。したがって、転がり軸受1の軌道輪となるリング状品W1であっても、要求される厳しい焼入品質に対応することができる。
【0038】
連続加熱炉21を用いるが、連続加熱炉21は焼入温度近くまで予熱されたリング状品W1を焼入温度まで昇温させるだけであるため、室温から加熱するものと異なり、加熱時間が大幅に短縮されて、炉内でリング状品W1を移動させる経路が短くて済み、設備が小型化できる。また、連続加熱炉21による加熱は僅かであるため、周辺への熱の影響が少なく、周辺環境が改善される。このため、連続加熱炉21を、旋削工程部13や刻印工程部14,研削工程部16等を含む連続生産ラインに組み込みながら、これら各工程部への連続加熱炉21による熱的影響が回避でき、リング状品W1の検査工程部11から転がり軸受1の組立工程部までの連続生産ラインが実現できる。
【0039】
このように連続生産ライン化したことにより、生産の効率化や、工場床面積の削減、多品種少量生産への適応性向上にも貢献することができる。特に、熱処理工程部15を誘導加熱工程部15aによる予熱の後に、連続加熱炉21で昇温させるものとして連続加熱炉21を短くて済むようにしたため、リング状品W1の品種切換に際して、連続加熱炉21内に残るリング状品W1の個数が少なくて済み、多品種少量生産への適用性がより一層優れたものとなる。
【0040】
予熱工程部15aにおける誘導加熱の加熱コイル52は、U字状のものとし、リング状品W1の半径方向に位置変更可能に設置するようにしたため、図5(A),(B)に示すように、各種の径寸法のリング状品W1に、加熱コイル52の固定位置の変更によって対応することができる。この場合に、段取り替えとして、図1の回転台51の接触台51aは、リング状品W1の径寸法に応じたものに交換する。
【0041】
また、図3のように、装入室31および移送室33を設け、雰囲気変換手段42を設けたため、リング状品W1を、真空、または無酸化雰囲気、または連続加熱炉21の雰囲気と同等の雰囲気の中で連続装入、加熱、移送を行うことができる。そのため、リング状品W1の無酸化の連続処理が容易になる。また、加熱後に連続加熱炉21の雰囲気に合わせて移送室33から連続加熱炉21に移送するようにした場合は、浸炭雰囲気の連続加熱炉21にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一実施形態にかかるリング状品組込機械部品の連続生産ラインの概念構成を示す説明図である。
【図2】同連続生産ラインのレイアウト例の説明図である。
【図3】同連続生産ラインにおける予熱工程部の水平断面図である。
【図4】同予熱工程部の誘導加熱装置の破断正面図である。
【図5】同誘導加熱装置の加熱コイルの位置調整例の説明図である。
【図6】同加熱コイルの斜視図である。
【図7】同加熱コイルの平面配置の説明図である。
【図8】加熱コイルの変形例の断面図および平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…転がり軸受(リング状品組込機械部品)
2…転動体
3…保持器
11…検査工程部
12…鍛造工程部
13…旋削工程部
14…刻印工程部
15…熱処理工程部
15a…予熱工程部
15b…均熱工程部
15c…焼入工程部
16…研削工程部
17…組立工程部
21…連続加熱炉
31…装入室
32…予熱室
33…移送室
34…入口
35〜37…通路
38〜41…開閉扉
51…回転台
52…加熱コイル
R1,R2…組立前生産ライン部分
W1,W2…リング状品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れされたリング状品と他の部品とを組み立てた機械部品であるリング状品組込機械部品を連続して生産する生産ラインであって、
リング状品に加工するための材料を検査する検査工程部と、前記材料をリング状品の完成品の概略形状に旋削する旋削工程部と、この旋削されたリング状品に刻印を施す刻印工程部と、この刻印の施されたリング状品を熱処理する熱処理工程部と、この熱処理されたリング状品に研削を施す研削工程部と、研削の完了したリング状品を他の部品と共にリング状品組込機械部品に組み立てる組立工程部とを備え、
前記熱処理工程部が、リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱工程部と、この予熱工程部で加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱工程部と、この均熱工程部で加熱されたリング状品を冷却する焼入工程部とを含むことを特徴とするリング状品組込機械部品の連続生産ライン。
【請求項2】
請求項1において、前記予熱工程部は、リング状品を大気中から装入する装入室と、この装入室から移動させたリング状品を誘導加熱する予熱室と、この予熱室のリング状品を前記連続加熱炉に移送する移送室とを有し、前記リング状品をそれぞれ通過させる前記装填室の入口、前記装入室と予熱室との間の通路、前記予熱室と移送室との間の通路、および移送室と前記連続加熱炉との間の通路に開閉扉を有し、前記装入室、予熱室、および移送室を、真空、または無酸化雰囲気、または連続加熱炉の雰囲気と同等の雰囲気に変換する雰囲気変換手段を有し、かつ前記リング状品を前記装入室に装入する装入手段、前記装入室から予熱室に移動させる第1移動手段、前記予熱室から移送室に移動させる第2移動手段、および移送室から連続加熱炉に移送する移送手段を有するものであるリング状品組込機械部品の連続生産ライン。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記リング状品組込機械部品が転がり軸受であり、前記リング状品が転がり軸受の軌道輪であるリング状品組込機械部品の連続生産ライン。
【請求項4】
請求項3において、前記検査工程部、旋削工程部、刻印工程部、熱処理工程部、および研削工程部によりそれぞれ構成される組立前生産ライン部分が2本設けられ、これら2本の組立前生産ライン部分は、前記リング状品として、転がり軸受における内輪および外輪をそれぞれ生産するものであり、前記組立工程部は、前記2本の組立前生産ライン部分でそれぞれ生産された内輪と外輪とを他の部品と共に転がり軸受に組み立てるものであるリング状品組込機械部品の連続生産ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−131901(P2007−131901A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325378(P2005−325378)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】