説明

リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物およびその製造方法

【課題】従来のキレート剤と比較して十分なキレート能を有し、金属およびガラスの腐食防止効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、下記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)を、mol比で30:70〜95:5の割合で含む組成物である。


上記一般式(1)において、−Rは、−H、−CH、−C、−CHCHCOOM、−CHCHCHCHNH、−CHOH、を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物およびその製造方法に関する。より具体的には、金属およびガラスの腐食防止効果を有するリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キレート剤は、2個以上の配位結合を形成することにより金属イオンを封鎖することができることから、金属イオンが存在することによる弊害等を除去するために、洗剤、繊維、紙パルプ、金属表面処理、写真等の様々な分野で用いられており、現在では化学工業や日常生活に欠くことができないものである。例えば、洗剤等の分野では、用いられる水の調製において硬水中のカルシウム、マグネシウム等の金属イオンを除去するために用いられ、繊維、紙パルプ等の分野では、漂白剤である過酸化水素等の金属イオンによる分解を抑制するために用いられている。
【0003】
例えば、硬質表面洗浄用の洗浄剤に用いる洗浄剤に含まれるキレート剤として、リンゴ酸イミノ酢酸が知られている(特許文献1)。
しかし、上記キレート剤は、金属製品、例えば金属食器の洗浄に使用する場合に、金属の腐食防止効果を改良する余地があった。
【0004】
一方、アルミニウムまたは着色金属およびその合金の表面の防食効果のある洗浄・腐食抑制組成物として、下記の化合物を含む組成物が開示されている(特許文献2)。
【0005】
【化1】

【0006】

[式中、Zは−O−Mまたは
【0007】
【化2】

【0008】

のいずれかであり、
ここで、
Mはアンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンであり、アルキルは、互いに独立に、直鎖状または分鎖状の飽和または不飽和の5〜22個、好ましくは8〜18個、さらに好ましくは12〜16個の炭素原子を有するアルキル基、あるいはアルキルが当該定義の通りであり、アリールが単環式または二環式芳香族基、好ましくはフェノール、ジフェノールまたはその他のヒドロキシ含有アリール基であるアルキルアリール基であり、
AOは、1個または複数のC1〜3アルキル基によって置換されていてもよい2〜4個、好ましくは2〜3個の炭素原子を有するアルキレンオキシドを表し、
、nおよびnは、互いに独立に、2〜10、好ましくは2〜8、さらに好ましくは3〜6の整数である]
を有する少なくとも1種のアルキレンオキシ−アルキルホスフェートジエステルまたはトリエステル。
しかし、例えば食器洗浄組成物は、需要者や洗浄剤製造業者の環境意識の向上から無リン化が進みつつあり、りんを含まない洗浄剤添加剤の要求が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−105900号公報
【特許文献2】特開2007−530785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来の化合物(組成物)と比較して十分なキレート能を有し、金属の腐食防止効果を有する組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、従来のキレート剤と比較して十分なキレート能を有し、金属の腐食防止効果を有する組成物を簡便に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、特定のリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸を特定割合で含有するリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物が、十分なキレート能と金属の腐食防止効果を発現することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、下記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)を、mol比で30:70〜95:5の割合で含む組成物である。
【0013】
【化3】

【0014】

上記一般式(1)において、−Rは、−H、−CH、−C、−CHCHCOOM、−CHCHCHCHNH、−CHOH、を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【0015】
本発明の別の局面によれば、リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物の製造方法が提供される。本発明の製造方法は、酒石酸を含むエポキシコハク酸(塩)と、アミノ酸を反応させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分なキレート能と金属の腐食防止効果に優れたリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物を提供することができる。
本発明によれば、リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物を簡便に製造することが可能となる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物(本発明の組成物)〕
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、下記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含むことを特徴とする。
【0018】
【化4】

【0019】

上記一般式(1)において、−Rは、−H、−CH、−C、−CHCHCOOM、−CHCHCHCHNH、−CHOH、を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【0020】
上記一般式(1)において、Rが、上記の構造を有することによって、本発明の組成物のキレート能が向上する。また、Rが、上記の構造を有することによって、生分解性が向上することが期待できる。より好ましくは、−Rは、−H、−CH、−CHCHCOOM、である。
【0021】
上記一般式(1)において、Mはそれぞれ独立に、アルカリ金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表し、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;アンモニウム塩;有機アミン塩が例示される。これらの中でも、ナトリウム塩である形態が特に好ましい。
本発明の組成物に含まれるリンゴ酸構造含有アミノ化合物は、コハク酸構造の近傍に、水酸基を有する為、例えば液体洗剤組成物に添加した場合、界面活性剤等との相溶性が向上するため、好ましい。
本発明の組成物の必須成分であるリンゴ酸構造含有アミノ化合物が、アミノ酸を原料として製造される場合、当該アミノ酸に由来する構造の立体配置は保持されることとなる。本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物の生分解性の向上が期待できることから、光学異性体をとりうるアミノ酸の場合、光学活性を有するアミノ酸を原料として使用することが好ましい。
【0022】
本発明の組成物が上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含むことにより、本発明の組成物が金属の腐食防止効果を有することとなる。
【0023】
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、酒石酸(塩)を含むことを特徴としている。酒石酸(塩)とは、酒石酸、酒石酸塩を表し、酒石酸(塩)は、MOOC−(CHOH)−COOMで表される一般式で表される構造を有するが、Mは独立に、上記一般式(1)におけるMと同じである。
【0024】
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)とをmol比で30:70〜95:5の割合で含むことを特徴にしている。上記範囲で含むことにより、十分なキレート力を有すると共に優れた金属の腐食防止効果が得られることとなる。さらに、貯蔵安定性に優れ、生分解性、界面活性剤との相溶性が良好なものとなる。
好ましくは上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)をmol比で35:65〜90:10、更に好ましくは50:50〜85:15の割合で含むことである。リンゴ酸構造含有アミノ化合物の割合が上記より多いと貯蔵安定性や色相や金属やガラスの腐食防止能が悪化する恐れがあり、酒石酸(塩)の割合が上記より多いと金属やガラスのの腐食防止効果や貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、必須成分である上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)の他に、任意成分として、残存原料(エポキシコハク酸(塩)やアミノ酸(塩)等)、副生成物、水、メタノールなどの溶媒を含み得る。
【0026】
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)を合計で、本発明の組成物の質量100質量%に対して、1〜100質量%含んでいても良いが、好ましくは1質量%以上、99.5質量%以下の割合で含む。より好ましくは、5質量%以上、97質量%以下である。本発明の組成物に含まれる上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)の合計が99.5質量%以下であれば、固形にした場合の溶解性等の取り扱いが容易になる。
【0027】
本発明の組成物に含まれる反応不純物の総量(上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)以外の反応副生成物や残存原料を言う)は、好ましくは本発明の組成物の質量100質量%に対して、0質量%以上、20質量%以下である。より好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
【0028】
本発明の組成物が水を含有する場合の好ましい含有量としては、本発明の組成物が固形の場合、0.5質量%以上、10質量%以下である。水の含有量が上記範囲に入れば、取り扱いが容易になるから好ましい。
また、本発明の組成物が液状の場合、本発明の組成物の水の含有量は任意であり例えば99質量%以下であっても良いが、好ましくは本発明の組成物100質量%に対して、30質量%以上、95質量%以下である。水の含有量が99質量%を上回れば、運搬時や保存時の効率が著しく低下する虞がある。一方、水の含有量が30を下回れば、粘性が増加して液体としての取り扱いが困難になったり、沈殿が生成するなど保存安定性が悪化する。より好ましくは40質量%以上であり、75質量%以下である。
【0029】
〔リンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物の製造方法〕
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は任意の方法により製造したもので構わないが、すなわち、上記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)を別々に製造し、混合したもので構わないが、酒石酸(塩)を含むエポキシコハク酸(塩)と、アミノ酸(塩)を反応することにより製造すること(本発明の製造方法とも言う)が好ましい。エポキシコハク酸(塩)とは、エポキシコハク酸、エポキシコハク酸塩(一塩、二塩)であり、アミノ酸(塩)とは、アミノ酸、アミノ酸塩である。エポキシコハク酸塩における塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩であり、アルカリ金属やアルカリ土類金属の例示は、一般式(1)と同様である。アミノ酸(塩)における塩としては、上記に加え、アミノ基が中和された塩が挙げられる。
【0030】
エポキシコハク酸(塩)と、アミノ酸(塩)を反応させる方法によれば、副生成物が少なくなる為、反応物の精製プロセスが簡素化でき、また、精製しない場合においても、キレート能等の物性が良好なものとなる。
【0031】
本発明の製造方法で使用するアミノ酸(塩)としては、例えば、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リシン、セリン、およびこれらの塩が例示される。好ましくは、リンゴ酸構造含有アミノ化合物の反応収率が高く、生分解性も期待できることから、グリシン、アラニン、グルタミン酸、およびこれらの塩である。
【0032】
本発明において使用するエポキシコハク酸(塩)は、公知の方法により製造することができる。しかし、以下の製造方法で製造される、シス−エポキシコハク酸を使用することが、得られるリンゴ酸構造含有アミノ化合物の液体洗剤への相溶性や貯蔵安定性が向上することから好ましい。すなわち、好ましい製造方法としては、原料として(1)マレイン酸および/または無水マレイン酸、および(2)過酸化水素とをmol比1:0.95〜1:1.05で使用し、触媒(タングステン酸もしくはモリブデン酸)を0.02−0.15mol%使用する。上記(1)マレイン酸および/または無水マレイン酸、および(2)過酸化水素との使用するmol比は、好ましくは1:1である。マレイン酸および/または無水マレイン酸を仕込んだ後、減圧条件において反応液中のpHを4.5−5.5に保つように過酸化水素と水酸化ナトリウムを滴下しながら、反応温度を60−80℃、次いで少なくとも5℃以上昇温して2段階反応を行って製造する方法である。
【0033】
本発明においては、酒石酸(塩)を含むエポキシコハク酸(塩)を使用する。酒石酸(塩)を含むエポキシコハク酸(塩)は、反応器に添加する前に調整しても構わないが、エポキシコハク酸(塩)製造時に所定の割合となるように製造しても構わない。酒石酸(塩)を含むエポキシコハク酸(塩)における、酒石酸(塩)とエポキシコハク酸(塩)の割合は、質量%比で3:1〜60:1であることが好ましく、30:8〜30:1がより好ましい。このような組成とすることにより、得られる本発明の組成物のキレート能等が向上する。また、エポキシコハク酸(塩)の取り扱いも容易になる。
【0034】
(反応条件)
本発明の製造方法において反応に使用するエポキシコハク酸(塩)と、アミノ酸(塩)の比率は、モル比で45:55〜55:45にすることが好ましく、より好ましくは47:53〜53:47であり、更に好ましくは49:51〜51:49である。上記範囲を超えれば、本発明の組成物の必須成分であるリンゴ酸構造含有アミノ化合物の収率が低下する傾向にある。
【0035】
(反応溶媒)
本発明の製造方法に使用する溶媒は、エポキシコハク酸(塩)および/または使用するアミノ酸(塩)を溶解できるものが好ましい。反応収率が向上することから水系溶媒であることが好ましく、水であることが特に好ましい。また、用途によっては、本発明の組成物への有機溶剤の混入は厳しく制限されるが、水であれば、溶剤除去の工程が不要なため生産効率が高くなるばかりか、溶剤の残存量を低減する段階の熱履歴による本発明の組成物の着色が抑制される為、好ましい。また、水を使用すれば、有機溶剤を使用する場合と比較して廃液等が著しく低減できる為、環境面において特に好ましい。
【0036】
(反応時の原料の中和度)
本発明の製造方法が、エポキシコハク酸(塩)とアミノ酸(塩)を反応させることによる製造方法の場合において、反応収率が向上することから、エポキシコハク酸(塩)、および/または原料のアミノ酸(塩)の有するカルボキシル基は反応時に中和して使用することが好ましい。「反応時に中和して」とは、予め中和してから反応器に添加しても良く、エポキシコハク酸、アミノ酸と中和剤を別々に反応器に添加して反応器中で中和反応と、エポキシコハク酸(塩)とアミノ酸(塩)との反応を同時に行なっても良いことを表す。反応前に予め中和するエポキシコハク酸(塩)およびアミノ酸の中和の度合いは、エポキシコハク酸(塩)とアミノ酸の有するカルボキシル基の全量100モル%に対して、50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、95モル%以上100モル%以下であることが更に好ましく、100モル%(全量)であることが特に好ましい。中和されたカルボキシル基を上記の範囲にすることにより、本発明の組成物の必須成分であるリンゴ酸構造含有アミノ化合物の収率が向上する。上記中和剤としては、塩基性の化合物であれば良いが、反応収率が向上することから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等が好ましい。
【0037】
(反応時の反応液のpH)
本発明の製造方法において、反応時のpHは、7.5以上が好ましく、9以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。反応時のpHが7.5未満であれば、収率が低下するため好ましくない。
【0038】
(反応原料等の添加方法)
本発明の製造方法が、エポキシコハク酸(塩)とアミノ酸(塩)を反応させることによる製造方法の場合において、エポキシコハク酸(塩)、アミノ酸(塩)、該当する場合には上記中和剤は、それぞれ予め反応器に仕込んでも、反応開始以後に徐々に反応器に添加しても構わない。反応時の原料濃度を増加させ、反応効率を向上できることから、エポキシコハク酸(塩)またはアミノ酸(塩)の少なくともいずれか一方を予め反応器に仕込むことが好ましい。アミノ酸(塩)は、予め反応器に仕込むことが特に好ましい。
アミノ酸(塩)を反応開始前に反応器に仕込む場合において、アミノ酸(塩)の全使用量の50質量%以上を反応開始前に反応器に仕込むことが好ましく、80質量%以上がより好ましく、全量が最も好ましい。
エポキシコハク酸(塩)は予め中和してから反応器に添加することが好ましい。エポキシコハク酸(塩)は反応開始前に全量を仕込んでも良く、反応開始後に徐々に反応器に仕込んでも良い。エポキシコハク酸(塩)を反応開始以後に徐々に反応器に添加する場合は、全使用量の80質量%以上を反応開始以後に徐々に反応器に添加することが好ましく、90質量%以上がより好ましく、全量が最も好ましい。
また、エポキシコハク酸(塩)は水などの溶媒と混合して滴下することが副反応の防止上好ましい。
なお、本発明において反応開始時とはエポキシコハク酸(塩)の少なくとも一部と上記アミノ酸の少なくとも一部の両方を反応器に添加した状態において、反応液が下記反応温度に到達した時点である。
【0039】
(反応温度、反応時間)
本発明の製造方法において、反応温度は50℃以上、120℃以下であることが好ましい。より好ましくは70℃以上、110℃以下である。
50℃未満の場合、反応速度が遅くなり、反応効率が悪くなる。また、反応収率も低下する傾向にある。120℃を超えると、副反応が進行し、反応物の着色が大きくなる。
本発明の製造方法において、反応時間は0.5時間以上、10時間以下が好ましい。より好ましくは、1時間以上、6時間以下である。
【0040】
(反応時の圧力、雰囲気)
本発明の製造方法において、反応は常圧下、減圧下、加圧下のいずれで行なっても構わない。反応収率が向上する傾向にあることから、常圧下で反応するか、または減圧下で溶媒を除去しながら反応を行なうことが好ましい。
本発明の製造方法において、反応は、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で行なっても良い。また、反応後に窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で保存しても良い。
本発明の製造方法において、反応触媒を添加しても構わない。
本発明の製造方法において、保存安定性の向上等を目的として反応後に更なる中和工程を設けても良い。
なお、本発明の製造方法において、エポキシコハク酸(塩)および/またはアミノ酸に代えてそれらのカルボキシル基を対応するエステルまたはアミドに変更した化合物を使用することも可能であるが、その場合、エステル基またはアミド基の加水分解工程を設けても良い。
【0041】
本発明の製造方法において、溶媒を用いて本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を製造した場合、所望に応じて乾燥工程、および/または濃縮工程または更なる希釈工程等の濃度調整工程を設けても良い。
【0042】
[酸型のリンゴ酸構造含有アミノ化合物の製造工程]
本発明の製造方法において、得られた組成物に含まれるリンゴ酸構造含有アミノ化合物の有するカルボキシル基が中和された形態で製造される場合、酸型のリンゴ酸構造含有アミノ化合物(アミノ基が中和されたリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む)を製造する工程を設けても構わない。
該酸型のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を製造する工程は、(i)リンゴ酸構造含有アミノ化合物水溶液等に酸を添加してpHを酸性にする工程を含んで製造される。なお、この際に生成する塩等の沈殿が生ずれば、濾過等により除去しても良い。
更に、該酸型のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を製造する工程は、(ii)酸型リンゴ酸構造含有アミノ化合物を単離するために、リンゴ酸構造含有アミノ化合物の水溶液等に有機溶剤を添加してリンゴ酸構造含有アミノ化合物を析出させ、析出したリンゴ酸構造含有アミノ化合物をろ別する工程を含んでいても良い。(ii)の工程は、好ましくは(i)の工程後に行なわれる。
なお、上記(i)、(ii)の工程は必要によりそれぞれ繰り返し行うことができる。
上記工程(i)において、酸とは、鉱酸、有機酸のいずれでも良く、例えば塩酸、硫酸、硝酸、亜硫酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、酢酸、クエン酸等が例示されるが、安価な面から塩酸を使用することが好ましい。また、上記工程(i)において、pHは2未満にすることが製造効率が高いことから好ましい。より好ましくはpHは1程度にすることである。
上記工程(i)における酸の添加量は、カルボキシル基に対して当モル以上、好ましくは1.3倍モル以上添加することが好ましい。
上記工程(i)、(ii)において、リンゴ酸構造含有アミノ化合物の水溶液等とは、リンゴ酸構造含有アミノ化合物の水溶液又は水性溶液を言い、好ましくはリンゴ酸構造含有アミノ化合物を水または、水と低級アルコール等の水と相溶する有機溶剤からなる混合溶媒に溶解した溶液である。
酸型のリンゴ酸構造含有アミノ化合物の水溶液等を製造した後、乾燥・固化させても良い。
【0043】
〔用途〕
本発明の組成物は、そのままで又は他の公知な化合物と共に、腐食防止剤、キレート剤として使用可能であるが、水処理剤、繊維処理剤、分散剤、洗剤組成物等の添加剤として用いられうる。洗剤添加剤としては、衣料用、食器用、住居用、毛髪用、身体用、歯磨き用、及び自動車用など、様々な用途の洗剤に添加されて使用されうる。
【0044】
<水処理剤>
本発明の組成物は、水処理剤に添加することができる。該水処理剤には、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸塩、ホスホン酸塩、他の防食剤、スライムコントロール剤、他のキレート剤を用いても良い。
【0045】
上記水処理剤は、冷却水循環系、ボイラー水循環系、海水淡水化装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜等でのスケール防止に有用である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでもよい。
【0046】
<繊維処理剤>
本発明の組成物は、繊維処理剤に添加することができる。該繊維処理剤は、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、本発明の組成物を含む。
【0047】
上記繊維処理剤における本発明の化合物の含有量は、繊維処理剤全体に対して、好ましくは1〜100質量%であり、より好ましくは5〜100質量%である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0048】
以下に、より実施形態に近い、繊維処理剤の配合例を示す。この繊維処理剤は、繊維処理における精錬、染色、漂白、ソーピングの工程で使用することができる。染色剤、過酸化物および界面活性剤としては繊維処理剤に通常使用されるものが挙げられる。
【0049】
本発明の化合物と、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つとの配合比率は、例えば、繊維の白色度、色むら、染色けんろう度の向上のためには、繊維処理剤純分換算で、本発明の組成物1質量部に対して、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを0.1〜100質量部の割合で配合された組成物を繊維処理剤として用いることが好ましい。
【0050】
上記繊維処理剤を使用できる繊維としては、任意の適切な繊維を採用し得る。例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維、ナイロン、ポリエステル等の化学繊維、羊毛、絹糸等の動物性繊維、人絹等の半合成繊維およびこれらの織物および混紡品が挙げられる。
【0051】
上記繊維処理剤を精錬工程に適用する場合は、本発明の組成物と、アルカリ剤および界面活性剤とを配合することが好ましい。漂白工程に適用する場合では、本発明の化合物または本発明の組成物と、過酸化物と、アルカリ性漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤とを配合することが好ましい。
【0052】
<無機顔料分散剤>
本発明の組成物は、無機顔料分散剤に添加することができる。該無機顔料分散剤には、必要に応じて、他の配合剤として、縮合リン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩、ポリビニルアルコールを用いても良い。
【0053】
上記無機顔料分散剤中における、本発明の組成物の含有量(固形分換算)は、無機顔料分散剤全体に対して、好ましくは5〜100質量%である。また性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0054】
上記無機顔料分散剤は、紙コーティングに用いられる重質ないしは軽質炭酸カルシウム、クレイの無機顔料の分散剤として良好な性能を発揮し得る。
【0055】
上記無機顔料分散剤を無機顔料の分散剤として用いる場合、該無機顔料分散剤の使用量は、無機顔料100質量部に対して、0.05〜2.0質量部が好ましい。該無機顔料分散剤の使用量が上記範囲内にあることによって、十分な分散効果を得ることが可能となり、添加量に見合った効果を得ることが可能となり、経済的にも有利となり得る。
【0056】
<洗剤組成物>
本発明の組成物は、洗剤組成物にも添加しうる。
洗剤組成物における本発明の化合物の含有量は特に制限されない。ただし、優れた腐食防止効果、鉄イオンキレート能を発揮しうるという観点からは、本発明の組成物の含有量(固形分換算)は、洗剤組成物の全量に対して、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.3〜10質量%であり、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
洗剤用途で用いられる洗剤組成物には、通常、洗剤に用いられる界面活性剤や添加剤が含まれる。これらの界面活性剤や添加剤の具体的な形態は特に制限されず、洗剤分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。また、上記洗剤組成物は、粉末洗剤組成物であってもよいし、液体洗剤組成物であってもよい。
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選択される1種または2種以上である。2種以上が併用される場合、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤との合計量は、界面活性剤の全量に対して50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上である。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステルまたはその塩、アルケニルリン酸エステルまたはその塩等が好適である。これらのアニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が好適である。これらのノニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩等が好適である。また、両性界面活性剤としては、カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等が好適である。これらのカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基は、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
上記界面活性剤の配合割合は、通常、洗剤組成物の全量に対して10〜60質量%であり、好ましくは15〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜45質量%であり、特に好ましくは25〜40質量%である。界面活性剤の配合割合が少なすぎると、十分な洗浄力を発揮できなくなる虞があり、界面活性剤の配合割合が多すぎると、経済性が低下する虞がある。
添加剤としては、アルカリビルダー、キレートビルダー、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の汚染物質の再沈着を防止するための再付着防止剤、ベンゾトリアゾールやエチレン−チオ尿素等の汚れ抑制剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟剤、pH調節のためのアルカリ性物質、香料、可溶化剤、蛍光剤、着色剤、起泡剤、泡安定剤、つや出し剤、殺菌剤、漂白剤、漂白助剤、酵素、染料、溶媒等が好適である。また、粉末洗剤組成物の場合にはゼオライトを配合することが好ましい。
上記洗剤組成物は、洗剤ビルダーを含んでもよい。他の洗剤ビルダーとしては、特に制限されないが、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、珪酸塩などのアルカリビルダーや、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、ボウ硝、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、クエン酸塩、(メタ)アクリル酸の共重合体塩、アクリル酸−マレイン酸共重合体、フマル酸塩、ゼオライト等のキレートビルダー、カルボキシメチルセルロース等の多糖類のカルボキシル誘導体等が挙げられる。上記ビルダーに用いられる対塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、アンモニウム、アミン等が挙げられる。
上記添加剤と他の洗剤用ビルダーの合計の配合割合は、通常、洗浄剤組成物100質量%に対して0.1〜50質量%が好ましい。より好ましくは0.2〜40質量%であり、さらに好ましくは0.3〜35質量%であり、特に好ましくは0.4〜30質量%であり、最も好ましくは0.5〜20質量%以下である。添加剤/他の洗剤ビルダーの配合割合が0.1質量%未満であると、十分な洗剤性能を発揮できなくなる虞があり、50質量%を超えると経済性が低下する虞がある。
なお、上記洗剤組成物の概念には、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤のほか、その成分の1つの働きを高めた漂白洗剤等の特定の用途にのみ用いられる洗剤も含まれる。
上記洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、液体洗剤組成物に含まれる水分量は、通常、液体洗剤組成物の全量に対して0.1〜75質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜70質量%であり、さらに好ましくは0.5〜65質量%であり、さらにより好ましくは0.7〜60質量%であり、特に好ましくは1〜55質量%であり、最も好ましくは1.5〜50質量%である。
上記洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、当該洗剤組成物は、カオリン濁度が200mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは150mg/L以下であり、さらに好ましくは120mg/L以下であり、特に好ましくは100mg/L以下であり、最も好ましくは50mg/L以下である。
また、本発明の組成物を液体洗剤組成物に添加する場合としない場合とでのカオリン濁度の変化(差)は、500mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは400mg/L以下であり、さらに好ましくは300mg/L以下であり、特に好ましくは200mg/L以下であり、最も好ましくは100mg/L以下である。カオリン濁度の値としては、以下の手法により測定される値を採用するものとする。
【0057】
<カオリン濁度の測定方法>
厚さ10mmの50mm角セルに均一に攪拌した試料(液体洗剤)を仕込み、気泡を除いた後、日本電色株式会社製NDH2000(商品名、濁度計)を用いて25℃でのTubidity(カオリン濁度:mg/L)を測定する。
上記洗浄剤組成物に配合することができる酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が好適である。中でも、アルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼ及びアルカリセルラーゼが好ましい。
上記酵素の添加量は、洗浄剤組成物100質量%に対して5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、洗浄力の向上が見られなくなり、経済性が低下するおそれがある。
上記洗剤組成物は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの濃度が高い硬水(例えば、100mg/L以上)の地域中で使用しても、塩の析出が少なく、優れた洗浄効果を有する。この効果は、洗剤組成物が、LASのようなアニオン界面活性剤を含む場合に特に顕著である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
エポキシコハク酸(塩)、アミノ酸(塩)の定量は、高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
【0059】
(高速液体クロマトグラフィーの測定条件)
分析条件:
カラム:ODS−80TM(東ソー株式会社製)
移動相:5mMりん酸二水素アンモニウム(pH=2.4)
移動相流速:0.5ml/min
検出波長:UV、210nm
カラム温度:20℃。
(固形分の測定方法)
窒素雰囲気下、170℃に加熱したオーブンに試験サンプル(組成物1.0g+水3.0g)を1時間放置して乾燥処理した。乾燥前後の重量変化から、固形分(%)を算出した。
【0060】
(腐食防止能の評価)
(1)アルミニウム腐食防止能
容量250mlのポリプロピレン製のふた付き容器に、本発明の組成物または比較化合物を固形分で1質量%、炭酸ナトリウムを5質量%含む水溶液を調整し、該水溶液に、20mm×70mm×0.8mmのアルミニウムの試験片(A1050P、日本テストパネル株式会社製)を入れて、80℃で1週間静置した。
1週間後に試験片を目視で観察し、以下の基準により腐食度合いを観察した。
◎:表面が灰色になる
○:表面が白色になる
△:表面が白色になり、片の角が脆くなって落ちる
×:穴があき、手で割れる
(2)鉄鋼腐食防止能
容量250mlのポリプロピレン製のふた付き容器に、本発明の組成物または比較化合物を固形分で1質量%、炭酸ナトリウムを5質量%含む水溶液を調整し、該水溶液に、あらかじめ重さを量った直径21mmφ×長さ40mm×肉厚2mmの亜鉛コーティング鉄鋼の試験片(SGP−Zn、株式会社エンジニアリングテストサービス製)を入れて、80℃で3日静置した。
3日後に試験片を取り出し、水洗したのち50℃の乾燥機で乾燥し、デシケータ中で室温まで放熱後、計量を行い、以下の計算式により腐食度を算出した。
【0061】
【数1】

【0062】

(3)ガラス腐食防止能
容量250mlのポリプロピレン製のふた付き容器に、本発明の組成物または比較化合物を固形分で1質量%、炭酸ナトリウムを5質量%含む水溶液を調整し、該水溶液に、あらかじめ重さを量った26mm×76mm×2mmのスライドガラス(マイクロスライドグラスリングマーク、松浪硝子工業株式会社製)を入れて、80℃で3日静置した。
3日後に試験片を取り出し、水洗したのち50℃の乾燥機で乾燥し、デシケータ中で室温まで放熱後、計量を行い、計算式(1)により腐食度を算出した。
【0063】
(カルシウムイオンキレート能の評価)
容量100ccのビーカーに1.0×10−3mol/Lの塩化カルシウム水溶液50gを採取し、本発明のアミノ化合物を固形分として10mgおよび4mol/Lの塩化カリウム水溶液1mlを添加した。次に、この水溶液のpHを希水酸化ナトリウムで9〜11に調整した。
イオンアナライザー(EA920型、オリオン社製)及びカルシウムイオン電極(93−20型、オリオン社製)を用いて遊離のカルシウムイオンを測定し、本発明のアミノ化合物の固形分1g当たり炭酸カルシウム換算で何mgのカルシウムイオンがキレートされたか(キレート能)を計算で求めた。キレート能の単位は「mgCaCO/g」である。
【0064】
(液体洗剤との相溶性)
試験サンプル(リンゴ酸構造含有アミノ化合物)を含む洗剤組成物を下記の配合で調製した。
SFT−70H(日本触媒(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル);40g
ネオペレックスF−65(花王(株)製、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム);7.7g(有効成分5g)
コータミン86W(花王(株)製、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド);17.9g(有効成分5g)
ジエタノールアミン;5g
エタノール;5g
プロピレングリコール;5g
試験サンプル(固形分換算);1.5g
イオン交換水;バランス(イオン交換水の量は、試験サンプルの量を実際の使用量として、上記全合計が100gとなるように適宜調整する。)
各成分が均一になる様に充分に攪拌し、25℃での濁度値を、濁度計(日本電色(株)製「NDH2000」)を用い、Turbidity(カオリン濁度mg/l)で測定した。
【0065】
(合成例1)
無水マレイン酸98.1g(1モル)を水323gに溶解し、これに48%水酸化ナトリウム水溶液116.7g(1.4モル)およびタングステン酸ナトリウム2水和物0.33g(0.001モル)を加えた後、撹拌しながら70℃に昇温した。内容物は70℃になった時に、ほぼ均一な溶液となり、そのpHは5.5であった。これに35%過酸化水素97.2g(1.0モル)を滴下し反応を開始させた。反応の進行に伴いpHが下がるので48%水酸化ナトリウム水溶液を加えることによりpHを4.5〜5.5にコントロ−ルしながら70℃で60分保った。次いで、反応液を80℃に昇温して反応を継続させ、反応開始から3時間経過したところで48%水酸化ナトリウム水溶液によって反応液中の有機酸を等量中和して反応を終了させた。
反応後の反応液は無色透明であった。液体クロマトグラフィーにより、反応液にはエポキシコハク酸2ナトリウムが24.2質量%、酒石酸2ナトリウムが5.2質量%含まれていた。
【0066】
(実施例1)
温度計、攪拌機を備えたガラス製反応器に水18.5質量部とグリシン15.0質量部を仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液16.7質量部をゆっくり滴下した。引き続き、合成例1で製造したエポキシコハク酸2ナトリウム塩水溶液145.5質量部を仕込んだ。その後、反応溶液を80℃に昇温し、同温度で5時間反応を行なうことにより本発明の組成物を得た。
高速液体クロマトグラフィーにより、反応液のエポキシコハク酸を分析したところ、エポキシコハク酸の転化率は98%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより酒石酸2ナトリウムが4.4質量%含まれていた。
H―NMRを測定したところ、1.7ppm付近のピーク(2H)、2.0ppm付近のピーク(2H)、2.9ppm付近のピーク(1H)、3.3ppm付近のピーク(1H)、4.0−4.2ppmのピーク(1H)が帰属された。
以上の結果から、上記一般式(1)において、Rが水素原子でMがNaである化合物(化合物A)が得られていることを確認した。
高速液体クロマトグラフィーにより、反応液中に化合物Aが27.2%、酒石酸2ナトリウム4.4%が含まれていた。
【0067】
(実施例2)
温度計、攪拌機を備えたガラス製反応器に水40.0質量部とグルタミン酸29.5質量部を仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液33.5質量部をゆっくり滴下した。引き続き、合成例1で取得したエポキシコハク酸2ナトリウム塩水溶液145.5質量部を仕込んだ。その後、反応溶液を80℃に昇温し、同温度で5時間反応を行なうことにより本発明の組成物を得た。
高速液体クロマトグラフィーにより、エポキシコハク酸を分析したところ、エポキシコハク酸の転化率は98%であった。
H―NMRを測定したところ、3.0ppm付近のピーク(2H)、3.3ppm付近のピーク(2H)、4.2ppm付近のピーク(1H)が帰属された。
以上の結果から、上記一般式(1)において、Rが−CHCHCOOMでMがNaである化合物(化合物B)が得られていることを確認した。
高速液体クロマトグラフィーにより、反応液中に化合物Bが28.8%、酒石酸2ナトリウム18.7%が含まれていた。
【0068】
(実施例3−5)
化合物A、Bおよび酒石酸2ナトリウム(酒石酸Naと略す。)を表1に記載の割合になるように実施例1、2で得られた組成物をそのままで、あるいは酒石酸Naとブレンドして表1に記載の濃度の水溶液(本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物)とした。得られたリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物のカルシウムイオンキレート能を測定した結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】

(実施例6、比較例7−9)
実施例1で得られた組成物、比較化合物としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸3ナトリウム、トリポリリン酸3ナトリウムのアルミニウム腐食防止能を評価した結果を表2に示す。なお、実施例1で得られた組成物中の化合物Aと酒石酸Naの質量比をモル比に換算すると81.5mol:18.5molとなる。
【0071】
【表2】

【0072】

(実施例7、比較例4)
実施例1で得られた組成物、比較化合物としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの亜鉛コーティングした鉄鋼の腐食防止能を評価した結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】

(実施例8、比較例5−7)
実施例1で得られた組成物、比較化合物としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸3ナトリウム、トリポリリン酸3ナトリウムのガラス腐食防止能を評価した結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】

表1〜4の結果から、本発明の組成物(本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物)は、りんを含まないにもかかわらず、良好なキレート能を有し、従来の化合物と比較して良好な金属およびガラスの腐食防止効果を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のリンゴ酸構造含有アミノ化合物を含む組成物は、腐食防止能、キレート能、生分解性、界面活性剤との相溶性を有し、また貯蔵安定性に優れる。したがって、水処理剤、洗剤用ビルダー、洗剤組成物、分散剤、洗浄剤、等の添加剤に用いた場合に特に優れた性能を発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるリンゴ酸構造含有アミノ化合物と酒石酸(塩)を、mol比で30:70〜95:5の割合で含む組成物。
【化1】


上記一般式(1)において、−Rは、−H、−CH、−C、−CHCHCOOM、−CHCHCHCHNH、−CHOH、を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【請求項2】
酒石酸(塩)を含むエポキシコハク酸(塩)と、アミノ酸(塩)を反応することを特徴とする、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を含むキレート剤。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物を含む腐食防止剤。

【公開番号】特開2012−171976(P2012−171976A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32163(P2011−32163)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】