説明

リンプホーム報知車両

【課題】リンプホームモードを周囲に報知するリンプホーム報知車両を提供する。
【解決手段】車両各部の故障診断結果に応じて故障時にエンジンを停止又は抑制制御するリンプホーム制御部2と、リンプホーム制御部2がエンジンを停止又は抑制制御するときに、ハザードランプ3を点滅させるハザードランプ制御部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンプホームモードを周囲に報知するリンプホーム報知車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンや変速機を電子制御するシステムでは、燃費向上、排気ガス性能向上のために複雑な制御を行う。システムの不具合により、燃費悪化、排気ガス性能悪化が生じると好ましくない。例えば、排気ガスに影響するセンサやアクチュエータが故障すると、エンジン制御装置(Engine Control Module;ECM)による演算が間違ったり、演算結果が実機に反映できなかったりするため、望ましくない濃度の排気ガスの値が排出されたり、エンジンの負荷が過剰になったり、排気系が過熱したりする可能性がある。したがって、ECMは、センサやアクチュエータの故障診断を適宜な時期に実行し、故障診断の結果に応じて、エンジン出力(燃料噴射量、回転速度など)をあらかじめ定めた制限値以下に制限したり、エンジンを停止させたりするのが望ましい。このような制御状態は、車両がのろのろ走るという意味で、リンプホームモード、ラクダモード、亀の子モードといった名称で呼ばれている。
【0003】
リンプホームモードでは、必ずしもエンジンを停止させない。例えば、排気ガスに影響するアクチュエータの一つであるインジェクタが故障したとする。インジェクタの故障によって、ECMが指示している燃料噴射量よりも多くの燃料が噴射されるのは好ましくない。しかし、このような場合でも、車両が自走によってサービスステーションまで到着することが求められる。よって、エンジンを停止させずに、燃料噴射量を制限値に抑えて走行できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−257071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、制御状態がリンプホームモードになると、車両の速度が低下したり、車両が停車したりすることになるが、このような車両の挙動が周囲を走行する他の車両の運転や歩行者の行動の障害となるのは好ましくない。具体例を挙げると、高速道路を車速100km/hで走行中にリンプホームモードになると、急に車速が落ちてくる。後続車に対しては、当該車両の運転状態がリンプホームモードであることを一刻も早く報知したいところである。このような場合には、当該車両の運転者がフラッシャランプ(以下、ハザードランプという)を点滅させる操作をするのが好ましい。
【0006】
リンプホームモードでは、エンジンチェックランプの点滅など、コンソールに警告表示がなされるので、職業的な運転者であれば直ちに警告に反応してハザードスイッチを操作できる。
【0007】
ところが、一般の運転者は、リンプホームモードになると、予期せぬ失速に精神的な余裕が無くなり、警告表示を見落としたり、ハザードスイッチの操作が困難であったり、遅れたり、その他の退避行動に移れないときがある。とりわけ、老人や初心者には、リンプホームモードへの対応がうまくできない傾向がある。したがって、リンプホームモードを搭載した車両を老人や初心者を含む一般の人に広く普及させるには、リンプホームモードの報知が容易であることが求められる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、リンプホームモードを周囲に報知するリンプホーム報知車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明のリンプホーム報知車両は、車両各部の故障診断結果に応じて故障時にエンジンを停止又は抑制制御するリンプホーム制御部と、前記リンプホーム制御部がエンジンを停止又は抑制制御するときに、ハザードランプを点滅させるハザードランプ制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0011】
(1)リンプホームモードを周囲に報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示すリンプホーム報知車両の構成図である。
【図2】図1のリンプホーム報知車両に搭載される制御系の構成図である。
【図3】図1のリンプホーム報知車両が実行する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1に示されるように、本発明に係るリンプホーム報知車両1は、車両各部の故障診断結果に応じて故障時にエンジン(図示せず)を停止又は抑制制御するリンプホーム制御部2と、リンプホーム制御部2がエンジンを停止又は抑制制御するときに、ハザードランプ3を点滅させるハザードランプ制御部4とを備える。
【0015】
リンプホーム制御部2は、図示しない故障診断部が実行するセンサやアクチュエータの故障診断結果を参照し、リンプホームモードとすることが必要な故障が生じていると判定したとき、エンジン出力を停止又は抑制するものである。故障診断部が実行する故障診断の具体的内容については、従来公知であるので、説明は省略する。
【0016】
ハザードランプ3は、車両1の前面と後面の左側と右側、左右側面の前後部など、他車両や歩行者から見えやすい場所に取り付けられた表示灯である。方向指示ランプ(ウインカランプ)と兼用であり、方向指示のときは、左右いずれかのみ点滅し、ハザードのときには全灯が点滅するよう制御される。
【0017】
ハザードランプ制御部4は、基本的には、リンプホーム制御部2がエンジンを停止又は抑制制御するときに作動するが、本実施形態では、エンジン抑制制御時のエンジン状態によってはハザードランプ3を点滅させない場合を含んでいる。
【0018】
リンプホーム制御部2とハザードランプ制御部4は、ECMに搭載される。
【0019】
図2に詳しく示されるように、リンプホーム報知車両1は、各種のセンサと、各種のアクチュエータと、ハザードランプ点灯系とを備える。
【0020】
温度センサ21としては、冷却水の温度を検出する水温センサ、潤滑オイルの温度を検出する油温センサ、燃料の温度を検出する燃温センサ、排気ガスの温度を検出する排気温度センサ、給気ガスの温度を検出する給気温度センサなどがある。
【0021】
圧力センサ22としては、油圧制御系統における動作油の圧力を検出する油圧センサ、燃料の噴射圧力を検出する燃料噴射圧センサ、大気の圧力を検出する大気圧センサ、ターボチャージャの吐出圧を検出する過給圧センサなどがある。
【0022】
位置センサ23としては、吸気スロットル弁の角度(開度)を検出するスロットルポジションセンサ、カム軸の回転角度を検出するカムシャフト回転センサ、クランク軸の回転角度を検出するクランクシャフト回転センサ、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサなどがある。
【0023】
これらの他に、速度、加速度、回転速度、回転角速度、液位、液質などのセンサがあってもよい。
【0024】
アクチュエータ24としては、燃料噴射を行うインジェクタ、吸気スロットル弁の開度を調整するスロットルモータ、ターボチャージャの過給量を弁の開度で調整する過給量調整弁などがある。
【0025】
リンプホーム報知車両1では、これらのセンサやアクチュエータに対する故障診断部の故障診断結果のうち、リンプホームモードとすることが必要な故障に該当する項目が、あらかじめリンプホーム制御部2に設定される。例えば、 排気ガスに影響するセンサやアクチュエータの故障は、リンプホームモードとする故障に該当する。また、車両の安全性に影響するセンサやアクチュエータの故障は、リンプホームモードとする故障に該当する。
【0026】
さらに、リンプホーム制御部2には、故障診断結果のうち、エンジン停止を実施する項目と、エンジン抑制を実施する項目が設定される。
【0027】
ハザードランプ点灯系は、ハザードランプ3と、ハザードスイッチ5と、ハザードスイッチ5に対して並列に接点が設けられECMからの指令でコイルが通電されるリンプホームリレー6と、ハザードランプ3に対して直列に接点が設けられた点滅用リレー7と、点滅用リレー7のコイルに対して直列に設けられた点滅タイマ(フラッシャユニット)8とを備える。これにより、ハザードスイッチ5とリンプホームリレー6の接点との並列回路に対して、点滅用リレー7のコイルと点滅タイマ8とが直列に繋がる。点滅タイマ8は、この直列回路に間欠的に通電するものである。点滅用リレー7の接点はハザードランプ3に接続される。
【0028】
ハザードスイッチ5が導通しているときは、ハザードスイッチ5を介して点滅用リレー7のコイルに電流が流れる。この電流は点滅タイマ8が間欠的に通電しているので、点滅用リレー7の接点は間欠的に導通と非導通の交番を繰り返す。これにより、ハザードランプ3が点滅する。ハザードスイッチ5が非導通のとき、ECMからの指令でリンプホームリレー6のコイルに通電されると、リンプホームリレー6の接点が導通するので、ハザードスイッチ5が導通のときと同様に、ハザードランプ3が点滅する。このように、ハザードランプ点灯系は、ハザードスイッチ5の操作とECMからの指令のいずれでもハザードランプ3が点滅するようになっている。
【0029】
以下、本発明に係るリンプホーム報知車両1の動作を説明する。
【0030】
図3に示されるように、ステップS1にて、リンプホーム報知車両1のリンプホーム制御部2は、故障診断部が実行する車両各部の故障診断結果を参照し、故障ありと診断されていれば、ステップS2に進む。故障ありと診断されていなければ、処理を終了する。
【0031】
ステップS2にて、リンプホーム制御部2は、リンプホームモードとすることが必要な故障が生じているかどうか、より具体的には、排気ガスや安全性に影響する故障かどうかを調べる。リンプホームモードとすることが必要な故障であれば、ステップS3に進む。リンプホームモードとすることが必要な故障でなければ、処理を終了する。
【0032】
ステップS3にて、リンプホーム制御部2は、車両の制御状態をリンプホームモードとすると共に、コンソールの警告ランプを点灯する。本実施形態では、リンプホームモードにおいて、故障診断結果に応じて、エンジン停止かエンジン抑制のいずれかが実行されることになる。
【0033】
ステップS4にて、リンプホーム制御部2は、故障診断結果を参照し、エンジン停止が実行されるかどうか判定する。エンジン停止が実行されない(=エンジン抑制が実行される)場合は、ステップS5に進む。エンジン停止が実行される場合は、ステップS6に進む。
【0034】
ステップS5にて、リンプホーム制御部2は、制御要求値と制御出力制限値との比較を行う。制御要求値とは、リンプホームモードに入る直前におけるエンジンへの出力要求値を意味しており、具体的には、運転者が要求しているアクセル開度指示値(=アクセルペダルから検出されるアクセル開度指示値)A、運転者が要求している車速(=現在の車速)V、ECMが公知である平常時のエンジン制御方法により算出した燃料噴射量指示値Fなどを言う。制御出力制限値は、これらの値に対してリンプホームモード用にあらかじめ設定された制限値Alim、Vlim、Flimである。
【0035】
ステップS5の判定において、制御要求値が制御出力制限値よりも大きいときは、リンプホーム制御部2が出力抑制を実行してステップS6に進む。
【0036】
ここで、アクセル開度が制限される場合、アクセル開度制限値Alimよりもアクセル開度指示値Aが大きいとき、アクセル開度指示値Aはアクセル開度制限値Alimに制限される。つまり、運転者がアクセルペダルをいくら大きく踏み込んでも、アクセル開度指示値Aはアクセル開度制限値Alimより大きくならない。
【0037】
車速が制限される場合、車速制限値Vlimよりも車速Vが大きいとき、車速Vは車速制限値Vlimに制限される。つまり、車速Vが車速制限値Vlim以下になるよう、車両の制動が行われる。
【0038】
燃料噴射量が制限される場合、燃料噴射量制限値Flimよりも燃料噴射量指示値Fが大きいとき、燃料噴射量指示値Fは燃料噴射量制限値Flimに制限される。つまり、ECMが算出した燃料噴射量指示値Fにかかわらず、インジェクタを駆動する燃料噴射量指示値Fが燃料噴射量制限値Flimに変更される。
【0039】
ステップS5の判定において、制御要求値が制御出力制限値以下であるときは、リンプホーム制御部2が出力抑制を実行せずに、ステップS5に戻る。よって、運転者によるアクセル開度指示値Aがそのまま採用される。あるいは、現在の車速Vが維持される。あるいは、ECMが平常時のエンジン制御方法により算出した燃料噴射量指示値Fがそのまま採用される。
【0040】
ステップS6にて、ハザードランプ制御部4は、図2のハザードランプ点灯系のリンプホームリレー6を駆動してハザードランプ3を点滅させる。
【0041】
以上説明したように、リンプホーム報知車両1は、故障診断結果に応じてリンプホームモードに入るとき、ハザードランプ3を点滅させることになる。したがって、一般の運転者が運転している場合でも、職業的な運転者が運転している場合と同様に、迅速、かつ的確にハザードランプ3が点滅されることになる。そして、一般の運転者は、ハザードランプ3の点滅操作から解放され、精神的な余裕が維持できると共に、退避行動に専念することが可能になる。
【0042】
ただし、本実施形態では、リンプホームモードにおける制御内容がエンジン抑制であるときには、制御要求値が制御出力制限値以下であればハザードランプ3は点滅させない。
【0043】
一般に、故障診断は、センサやアクチュエータの電気的状態を検出することで行われており、エンジン状態とは特に関係なく行われる。したがって、例えば、車速が30km/hのような低速走行時に、故障ありという故障診断結果が出て車両の制御状態がリンプホームモードに入ることがある。この場合、もともと車両が低速走行しているので、エンジンを現状以下に抑制制御する必要はなく、また、他車両や歩行者にリンプホームモードを報知する必要も特になく、また、一般の運転者も精神的な余裕を失うことなく対処できる。このような場合、リンプホームモードといえども自動的にハザードランプ3を点滅させる必要はない。
【0044】
本発明のリンプホーム報知車両1では、リンプホームモードであってもハザードランプ3を点滅させる必要がない場合には、ハザードランプ3を点滅させないので、電力消費を必要最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 リンプホーム報知車両
2 リンプホーム制御部
3 ハザードランプ
4 ハザードランプ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両各部の故障診断結果に応じて故障時にエンジンを停止又は抑制制御するリンプホーム制御部と、
前記リンプホーム制御部がエンジンを停止又は抑制制御するときに、ハザードランプを点滅させるハザードランプ制御部とを備えたことを特徴とするリンプホーム報知車両。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−1350(P2013−1350A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137507(P2011−137507)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】