説明

ルータ及び輻輳制御方法

【課題】パケット通信ネットワークにおける過度のトラヒックの集中を、容易かつ迅速に抑制し、パケットの廃棄を回避する。
【解決手段】通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットを転送するルータであって、受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部101と、スイッチ部101の稼働状態を監視し、スイッチ部101にて輻輳が発生した場合、スイッチ部101で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を対向ルータへ送信する輻輳検出機能部103と、対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、その対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う輻輳回避機能部104とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルータ及び輻輳制御方法に関し、特に、過度のトラヒックの集中を抑制するルータ及び輻輳制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パケット通信ネットワークにおいて、パケットの送達確認が行われるコネクション型であるTCP(Transmission Control Protocol)接続では、パケットの送信元の端末は、パケットの送達確認がとれず、パケットの廃棄を検出すると、パケットの送信先の端末へパケットを送信する送信レートを抑制し、パケット通信ネットワークの輻輳の回避を行っている。なお、送信レートとは、単位時間あたりのパケットの送信数のことである。
【0003】
パケットの廃棄の検出をきっかけとして輻輳回避を行う場合、パケットの廃棄がバースト的に発生すると、複数のパケットの送信元の端末が、パケットの廃棄を検出する度に、同時に輻輳回避のための送信レートの抑制を行い、その後、複数の端末が同時に送信レートの回復を行う。その結果、パケット通信ネットワーク上のトラヒックの流量が大きく変動し、パケット通信ネットワークの安定性を確保することができなくなる。
【0004】
また、上述したパケットの送信元の端末による輻輳回避のための送信レートの抑制自体が、パケットの送信効率の低下を招き、パケット通信ネットワークの安定性の確保に大きな影響を及ぼすこととなる。
【0005】
ここで、パケットが廃棄される原因としては、特定のルータへの過度のトラヒック集中によってそのルータのバッファメモリの許容量を超えてしまうことや、特定の通信ルートへの過度のトラヒック集中によって送達確認のパケットがタイムアウトなってしまうこと等がある。
【0006】
上記のような原因によりパケットの廃棄が発生した場合にパケット通信ネットワークの安定性を確保する方法は、既にルータに実装されている。その一例として、ルータは、過度のトラヒックの集中によってルータのバッファメモリの許容量を超えてからパケットを廃棄するのではなく、バッファメモリの使用量がある一定の閾値を超えた場合に、ランダムにまたは統計的手法など一定のアルゴリズムに従い、分散してパケットを廃棄するというものがある。
【0007】
しかし、この方法は、トラヒックの集中度合いや、TCP接続数などによっては、効果が薄い場合がある。また、パケットの廃棄は発生してしまうので、パケットの送信元の端末の送信効率の低下によるパケット通信ネットワークの安定性への影響を回避することができない。
【0008】
このように、パケットの廃棄が発生した場合の対策だけでは、パケット通信ネットワークの安定性を確保することができず、パケットの廃棄そのものをなくすための対策が必要となる。
【0009】
そこで、パケットの廃棄の原因である過度のトラヒック集中を抑制するための技術が求められ、それを可能にする技術が特許文献1に開示されている。
【0010】
特許文献1に開示されている技術では、ネットワーク上のルータは、自身が受信しているパケットを監視されており、あるルータが受信したパケットが予め設定した水準を超えた場合、つまりあるルータにトラヒックが集中していた場合、それ以降は、そのルータへのパケット送信が一時的に停止される。このとき、そのルータ宛てのパケットは、ネットワーク内で一時的に蓄積され、蓄積されたパケットが一定時間経過後にそのルータへ送信される。
【特許文献1】特開平10−200581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1に開示されている技術を利用すれば、過度のトラヒックの集中を抑制し、パケットの廃棄をなくすことが可能であるように思える。
【0012】
この技術では、あるルータがトラヒック集中の状態から回復しているかどうかの確認を行わず、一定時間経過後にそのルータへのパケット送信を再開する。トラヒックが集中している輻輳状態から回復した直後に、そのルータへのパケットの送信を再開すると、再度輻輳が発生する可能性が高い。従って、この技術は、過度のトラヒックの集中を抑制する対策としては十分とはいえない。
【0013】
ここで、既存のルーティングプロトコルを利用し、過度のトラヒックの集中を抑制する方法もある。
【0014】
既存のルーティングプロトコルを利用して過度のトラヒックの集中を抑制する方法としては、例えば、ルータ間で交換され、ルータにおいてパケットの転送先を決定するためのルーティングテーブルを作成するための基となる経路情報の中に、ルータ間の帯域情報やルータのリソース(例えば、バッファメモリやCPU)使用率情報等を組み込む方法が考えられる。この方法を利用すれば、ルータは、過度のトラヒックの集中が予想されるルータや通信ルートを避けるようにしてパケットを転送するようになる。
【0015】
上記の方法の具体的な実現方法としては、例えば、ルーティングプロトコルの1つであるディスタンスベクトルアルゴリズムでは、トラヒックの集中が予想されるルータを経由するルートのホップ数を増やすことが考えられる。これにより、トラヒックの集中が予想されるルータへ送信されるパケットを減らすことができる。
【0016】
なお、ホップ数とは、宛先ネットワークとの距離を、宛先ネットワークに到達するまでに経由するルータの数で示したものであり、ルータ間で交換される経路情報に記述されている。ルータは受信した経路情報に記述されているホップ数から自身のルーティングテーブルを作成し、そのルーティングテーブルの情報に基づいて受信したパケットを転送する。ルーティングテーブルに同じ宛先ネットワークへのルートが複数あった場合、ルータは、原則としてホップ数が小さなルートを選択する。つまり、ホップ数が大きなルートは選択されにくくなる。
【0017】
しかし、ディスタンスベクトルアルゴリズムでは、通常、帯域情報やリソース使用率情報等は考慮されない。そのため、ホップ数を増やすためには、ルータの運用者がこれらの情報を考慮したホップ数をルータに手動で設定する必要があるが、これは多大な人的及び時間的コストを要する。
【0018】
または、これらの情報を考慮したホップ数を算出する新たな仕組みをルーティングプロトコル組み込むという方法も考えられるが、標準化されているルーティングプロトコルを修正するためには、やはり、多大な人的及び時間的コストを要する。
【0019】
このように、ルータ間で交換される経路情報を利用して過度のトラヒックの集中を抑制するためには、多大な人的及び時間的コストを要するという問題点がある。
【0020】
本発明は、パケット通信ネットワークにおける過度のトラヒックの集中を、容易かつ迅速に抑制し、パケットの廃棄を回避することができるルータ及び輻輳制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために本発明は、
通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットを転送するルータであって、
受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する輻輳検出機能部と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う輻輳回避機能部とを有する。
【0022】
また、通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、前記受信したパケットの転送先の情報を示すルーティングテーブルと、前記対向ルータとの接続を終端する複数の回線終端部とを有するルータにおける輻輳制御方法であって、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する処理と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う処理とを有する。
【0023】
また、通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、前記受信したパケットの転送先の情報を示すルーティングテーブルと、前記対向ルータとの接続を終端する複数の回線終端部とを有するルータに、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する機能と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う機能とを実現させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は以上説明したように構成されているので、多大な人的及び時間的コストを要することなく、パケット通信ネットワークにおける過度のトラヒックの集中を抑制し、パケットの廃棄を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明のルータによって構成されたパケット通信ネットワークの実施の一形態を示す図である。
【0027】
図1に示すように本形態のネットワークは、通信回線1を介して接続された5つのルータ100a〜100eから構成され、ルータ100aは、他のルータ100b〜100eと対向している。
【0028】
図2は、図1に示したルータ100aの構成を示すブロック図である。
【0029】
図2に示すように、図1に示したルータ100aは、スイッチ部101と、複数の回線終端部102a〜102nと、輻輳検出機能部103と、輻輳回避機能部104と、ルーティングテーブル105とを備えている。なお、ルータ100b〜100eも同じ構成である。
【0030】
スイッチ部101は、他のルータ100b〜100eから送信された経路情報を回線終端部102a〜102nを介して受信する。そして、受信した経路情報に基づき、パケットの転送先の情報を作成し、ルーティングテーブル105に記憶させる。また、他のルータ100b〜100eから送信されたパケットを回線終端部102a〜102nを介して受信する。そして、ルーティングテーブル105が記憶している情報と受信したパケットの宛先アドレスとに基づき、受信したパケットの転送先を決定して回線終端部102a〜102nへ出力する。なお、ルーティングテーブル105が記憶している情報については、後述する動作フローにおいて説明する。
【0031】
回線終端部102a〜102nは、他のルータ100b〜100eから送信されたパケットを受信し、スイッチ部101へ出力する。また、スイッチ部101から出力されたパケットを他のルータ100b〜100eへ送信する。また、輻輳回避機能部104からの指示によってパケットを送信する送信レートの調整を行う。
【0032】
輻輳検出機能部103は、スイッチ部101の稼働状態を監視する。スイッチ部101の輻輳の発生を検出した場合、他のルータ100b〜100eに対し、ルータ100aで輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を送信する。また、スイッチ部101が輻輳状態から回復したことを検出した場合、輻輳通知を送信した他のルータ100b〜100eに対し、ルータ100aが輻輳状態から回復したことを通知するための輻輳回復通知を送信する。
【0033】
輻輳回避機能部104は、他のルータ100b〜100eから輻輳通知を受信すると、ルーティングテーブル105の設定変更、あるいは回線終端部102a〜102nの設定変更、あるいはそれらの両方を行う。以降、これらの設定変更の動作を輻輳回避動作という。
【0034】
ルーティングテーブル105は、パケットの転送先の情報を記憶している。
【0035】
以下に、上記のように構成されたルータ100a〜100eにおける輻輳制御方法について説明する。
【0036】
図3は、図1に示したネットワークにおいて輻輳制御を行う場合の動作を説明するためのタイムチャートである。
【0037】
ここでは、図1に示したルータ100aにトラヒックが集中し、輻輳が発生することする。また、ルータ100aに対向するルータ100b〜100eの動作は、基本的には同じなので、図3においては、ルータ100bのみを記載している。
【0038】
ルータ100aの輻輳検出機能部103は、スイッチ部101の稼働状態を定期的に監視している(ステップS1)。
【0039】
スイッチ部101で輻輳が発生すると、輻輳検出機能部103は、輻輳の発生を検出する(ステップS2)。なお、輻輳の発生を検出する方法としては、例えば、スイッチ部101のリソース(バッファメモリ、CPU等)使用率が予め決められた閾値以上となった場合に輻輳が発生したと判断する方法がある。
【0040】
次に、輻輳検出機能部103は、ルータ100aに対向しているルータ100b〜100eに対し、ルータ100aで輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を送信する(ステップS3)。なお、輻輳通知に含まれる情報としては、例えば、輻輳の程度を示す情報、ルータ100aへパケットを送信する際の送信レートの閾値を示す情報等がある。なお、送信レートの閾値としては、送信帯域の絶対値を指定したり、リンク速度の一定割合等を指定したりすることが可能である。
【0041】
また、輻輳通知の送信先としては、ルータ100aに対向している全てのルータに限られない。例えば、ルータ100aに対向するルータ100b〜100eのうち、予め決められた閾値以上の送信レートでルータ100aにパケットを送信しているルータだけに輻輳通知を送信するようにしてもよい。この場合、輻輳検出機能部103は、パケットの送信元のルータ毎に、送信してきているパケットの送信レートを管理する。そして、輻輳検出機能部103は、スイッチ部101に輻輳が発生していることを検出した際、予め決められた閾値以上の送信レートでパケットを送信してきているルータだけに輻輳通知を送信する。
【0042】
また、輻輳通知の送信を行わないルータを輻輳検出機能部103に予め指定しておくことにより、予め指定されているルータには輻輳通知を送信しないようにすることも可能である。
【0043】
次に、ルータ100aから送信された輻輳通知を受信したルータ100b〜100eの輻輳回避機能部104は、ルーティングテーブル105の設定変更(ステップS4)、あるいは回線終端部102aの設定変更(ステップS5)を行う。また、その両方を行うことも可能である。これらの設定変更により、輻輳状態となっているルータ100aへのパケットの送信が抑制される。なお、ここでは、複数の回線終端部102a〜102nのうち、回線終端部102aがルータ100aと接続されていることとしている。また、ステップS4及びステップS5の動作についての詳細は後述する。
【0044】
ルータ100aの輻輳検出機能部103は、スイッチ部101が輻輳状態となった後も監視を継続する(ステップS6)。この監視により、輻輳状態がさらに悪化、例えば、スイッチ部101のリソース使用率がさらに上昇したことを輻輳検出機能部103が検出した場合、再度、輻輳通知をルータ100b〜100eへ送信するようにしてもよい。この再度の輻輳通知に、最初に送信した輻輳通知に含めた情報よりもルータ100aへのパケット送信を制限するレベルを高くした情報を含めることにより、ルータ100aの輻輳状態の程度にあった輻輳通知をすることが可能となる。
【0045】
例えば、最初の輻輳通知にはルータ100aへパケットを送信する際の送信レートを通常値比50%とすることを示す情報を含めたが、スイッチ部101の輻輳状態が解消されず、リソース使用率がさらに上昇した場合、再度の輻輳通知に送信レートを通常値比10%とすることを示す情報を含めるようにする。
【0046】
ここまでが、ルータ100aに輻輳が発生している場合の動作である。以下に、ルータ100aが輻輳状態から回復した後の動作について説明する。
【0047】
輻輳検出機能部103は、スイッチ部101が輻輳状態から回復したことを検出する(ステップS7)。なお、輻輳状態からの回復を検出する方法としては、例えば、スイッチ部101のリソース(バッファメモリ、CPU等)使用率が、予め決められた閾値よりも低くなった場合や、予め決められた閾値の一定の割合以下になった場合に輻輳状態からの回復と判断する方法がある。
【0048】
スイッチ部101が輻輳状態から回復したことを検出した輻輳検出機能部103は、ステップS3において輻輳通知を送信したルータ100b〜100eに対し、ルータ100aが輻輳状態から回復したことを通知するための輻輳回復通知を送信する(ステップS8)。なお、スイッチ部101が輻輳状態から回復した直後に輻輳回復通知を送信すると、再度輻輳が発生し、ネットワークの挙動が不安定になる可能性がある。従って、輻輳回復通知の送信は、輻輳回復の程度(バッファメモリやCPU等のリソース使用率がある一定の閾値以下となる等)や、輻輳回復からの一定時間の経過後に行う。
【0049】
ルータ100aから送信された輻輳回復通知を受信したルータ100b〜100eの輻輳回避機能部104は、輻輳回避動作を停止し、ステップS4及びステップS5において設定変更したルーティングテーブル105及び回線終端部102a〜102nの設定を元に戻す(ステップS9〜S10)。
【0050】
以上が図1に示したネットワークにおいて輻輳制御を行う場合の動作である。
【0051】
以下に、上述した動作フローのステップS4及びステップS5においてルータ100b〜100eの輻輳回避機能部104が行う輻輳回避動作の詳細を説明する。ここでは、一例としてルータ100bが輻輳回避動作を行う場合について説明する。
【0052】
上述したように、輻輳回避動作には、ステップS4において輻輳回避機能部104が行うルーティングテーブル105の設定変更と、ステップS5において輻輳回避機能部104が行う回線終端部102aの設定変更との2つがある。
【0053】
まず、ステップS4において行われるルーティングテーブル105の設定変更について説明する。
【0054】
この動作においてルータ100bの輻輳回避機能部104は、ルーティングテーブル105の設定を変更することによってルータ100aへのパケット送信を抑制する。
【0055】
例えば、本形態のネットワークにおいて、ルーティングプロトコルとしてディスタンスベクトルアルゴリズムが採用されていた場合、輻輳通知を受信したルータ100bの輻輳回避機能部104は、ルーティングテーブル105において、ルータ100aを経由するルートのホップ数を増加させる。これにより、ルータ100aを経由するルートが選択される可能性が低くなり、ルータ100aへのパケット送信が抑制される。
【0056】
図4は、図2に示したルーティングテーブル105の一設定例を示す図であり、(a)は輻輳回避動作前の設定を示す図、(b)は輻輳回避動作後の設定を示す図である。なお、ここでは、ルータ100a〜100eのアドレスをそれぞれアドレスa〜eとする。
【0057】
図4に示すように、図2に示したルーティングテーブル105は、宛先ネットワークカラム105aと、ネクストホップカラム105bと、ホップ数カラム105cとを有しており、それらを対応づけて記憶している。そして、各行が宛先ネットワークカラム105aに書き込まれたネットワークへ到達するためのルートの情報となる。
【0058】
宛先ネットワークカラム105aには、パケットの最終的な宛先のネットワークアドレスが書き込まれている。
【0059】
ネクストホップカラム105bには、対応する宛先ネットワークカラム105aに書き込まれたネットワークへ到達するために、次にパケット転送すべきルータのアドレスが書き込まれている。
【0060】
ホップ数カラム105cには、対応する宛先ネットワークカラム105aに書き込まれたネットワークへ到達するまでに経由するルータの数が書き込まれている。宛先ネットワークカラム105aに複数の同じネットワークが書き込まれていた場合、原則としてホップ数が小さなルートが選択される。
【0061】
輻輳回避動作前のルーティングテーブル105を示す図4(a)では、ネットワークAが宛先ネットワークカラム105aに書き込まれたルートが2つある。この場合、宛先ネットワークがネットワークAであるパケットを受信すると、ルータ100bは、ホップ数が小さなルートを選択するため、受信したパケットをアドレスaを有するルータであるルータ100aに送信してしまう。
【0062】
一方、輻輳回避動作後のルーティングテーブル105を示す図4(b)では、ルータ100aのアドレスaがネクストホップカラム105bに書き込まれたルートのホップ数が増やされている。従って、宛先ネットワークがネットワークAであるパケットはアドレスaを有するルータ100aへは送信されず、アドレスcを有するルータ100cへ送信されることとなる。この結果、ルータ100aへの過度のトラヒック集中を抑制することができる。なお、ルータ100aから送信された輻輳通知に含まれる輻輳の程度を示す情報に応じて増加させるホップ数を可変とすることも可能である。
【0063】
また、本形態のネットワークにおいて、ルーティングプロトコルとしてリンクステートアルゴリズムが採用されていた場合、上述したディスタンスベクトルアルゴリズムにおけるホップ数に相当するコストと呼ばれる値を変更すればよい。つまり、ルータ100aを経由するルートのコストを増加させることにより、ルータ100aへのパケット送信を減らし、ルータ100aへの過度のトラヒックの集中を抑制することができる。なお、リンクステートアルゴリズムにおいても、ディスタンスベクトルアルゴリズムの場合と同様に、ルータ100aから送信された輻輳通知に含まれる輻輳の程度を示す情報に応じて増加させるコストを可変とすることも可能である。
【0064】
また、本形態のネットワークにおいて、ルーティングプロトコルとしてパスベクトルアルゴリズムが採用されていた場合でも、上述したディスタンスベクトルアルゴリズム及びリンクステートアルゴリズムと同様に、ルータ100aから送信された輻輳通知に対応させてパケットがルータ100aを経由しないような設定変更を行うことが可能である。但し、パスベクトルアルゴリズムは、大規模なネットワークで使用されているルーティングプロトコルであり、設定の変更は、広範囲のネットワークに大きな影響を与えるため、周辺のルータの接続形態等を考慮して行う必要がある。
【0065】
次に、ステップS5において行われる回線終端部102a〜102nの設定変更について説明する。
【0066】
この動作において輻輳回避機能部104は、ルータ100aの輻輳検出機能部103から通知される輻輳通知に含まれる送信レートを示す情報に基づき、回線終端部102a〜102nのうち、ルータ100aと接続されている回線終端部102aの送信レートを変更する。この変更によってルータ100bからルータ100aへ送信される単位時間当たりのパケット数が制限され、結果として、ルータ100aへのパケット送信を減らし、ルータ100aへの過度のトラヒックの集中を抑制することができる。
【0067】
このように本形態においては、輻輳が発生しているルータから対向するルータに対し、輻輳が発生していることを迅速に通知できるため、パケット通信ネットワークにおける過度のトラヒックの集中を容易に抑制し、パケットの廃棄を回避することができる
なお、輻輳回避動作を行っているルータ100bで輻輳が発生した場合、ルータ100bの輻輳検出機能部103が、ルータ100bに対向するルータ100a,100c〜100eの輻輳回避機能部104に輻輳通知を行うことで、輻輳回避動作がネットワーク全体に拡散していくことが考えられる。
【0068】
輻輳回避動作は、ルートの変更、送信レートの抑制などで一時的にネットワーク性能を落とすことになるので、1箇所の輻輳発生がネットワーク全体に普及することは好ましくない。従って、輻輳回避動作を行っているルータは、自身で輻輳を検出しても、輻輳通知を行わないような仕様が考えられる。また、輻輳回避動作をしているルータが輻輳を検出した場合には、輻輳回避動作を解除することも考えられる。
【0069】
また、上述した実施の形態では、ネットワークは5つのルータで構成されていたが、ルータの数は5つに限定されない。
【0070】
また、上述した実施の形態では、輻輳検出機能部103がスイッチ部101を監視することによってスイッチ部101に輻輳が発生していることを検出した。スイッチ部101に輻輳が発生していることを検出する方法は、これに限られず、スイッチ部101が自ら、自身に輻輳が発生したことを輻輳検出機能部103へ通知するようにしてもよい。この場合、輻輳検出機能部103は、より迅速に輻輳の発生を検出することができる。
【0071】
また、本発明においては、ルータ内の処理は上述の専用のハードウェアにより実現されるもの以外に、その機能を実現するためのプログラムをルータにて読取可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムをルータに読み込ませ、実行するものであっても良い。ルータにて読取可能な記録媒体とは、フロッピーディスク、光磁気ディスク、DVD、CDなどの移設可能な記録媒体の他、ルータに内蔵されたHDDなどを指す。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のルータによって構成されたパケット通信ネットワークの実施の一形態を示す図である。
【図2】図1に示したルータの構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示したネットワークにおいて輻輳制御を行う場合の輻輳状態となるルータと、それに対向するルータの動作を説明するためのタイムチャートである。
【図4】図2に示したルーティングテーブルの一設定例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 通信回線
100a〜100n ルータ
101 スイッチ部
102a〜102n 回線終端部
103 輻輳検出機能部
104 輻輳回避機能部
105 ルーティングテーブル
105a 宛先ネットワークカラム
105b ネクストホップカラム
105c ホップ数カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットを転送するルータであって、
受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する輻輳検出機能部と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う輻輳回避機能部とを有するルータ。
【請求項2】
請求項1に記載のルータにおいて、
前記輻輳検出機能部は、前記スイッチ部が輻輳状態から回復した場合、前記スイッチ部が輻輳状態から回復したことを通知するための輻輳回復通知を前記輻輳通知を送信した前記対向ルータへ送信し、
前記輻輳回避機能部は、前記対向ルータから送信された前記輻輳回復通知を受信すると、前記輻輳回避動作を停止するルータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のルータにおいて、
前記輻輳検出機能部は、前記スイッチ部のリソース使用率が予め決められた閾値以上である場合に前記スイッチ部に輻輳が発生していると判断するルータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のルータにおいて、
前記輻輳検出機能部は、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記輻輳通知を予め決められた対向ルータへ送信するルータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のルータにおいて、
前記輻輳検出機能部は、前記対向ルータ毎に、前記対向ルータから送信された単位時間当たりのパケット数である送信レートを管理し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、予め決められた閾値以上の送信レートでパケットを送信している対向ルータへ輻輳通知を送信するルータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のルータにおいて、
前記対向ルータから受信したパケットの転送先の情報を示すルーティングテーブルを有し、
前記輻輳回避機能部は、前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記ルーティングテーブルの設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行うルータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のルータにおいて、
前記対向ルータとの接続を終端する複数の回線終端部を有し、
前記輻輳回避機能部は、前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記複数の回線終端部のうち前記輻輳通知を受信した対向ルータと接続されている回線終端部の設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行うルータ。
【請求項8】
通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、前記受信したパケットの転送先の情報を示すルーティングテーブルと、前記対向ルータとの接続を終端する複数の回線終端部とを有するルータにおける輻輳制御方法であって、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する処理と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う処理とを有する輻輳制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の輻輳制御方法において、
前記スイッチ部が輻輳状態から回復した場合、前記スイッチ部が輻輳状態から回復したことを通知するための輻輳回復通知を前記輻輳通知を送信した前記対向ルータへ送信する処理と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳回復通知を受信すると、前記輻輳回避動作を停止する処理とを有する輻輳制御方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の輻輳制御方法において、
前記スイッチ部のリソース使用率が予め決められた閾値以上である場合に前記スイッチ部に輻輳が発生していると判断する処理を有する輻輳制御方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載の輻輳制御方法において、
前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記輻輳通知を予め決められた対向ルータへ送信する処理を有する輻輳制御方法。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項に記載の輻輳制御方法において、
前記対向ルータ毎に、前記対向ルータから送信された単位時間当たりのパケット数である送信レートを管理する処理と、
前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、予め決められた閾値以上の送信レートでパケットを送信している対向ルータへ輻輳通知を送信する処理とを有する輻輳制御方法。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載の輻輳制御方法において、
前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記ルーティングテーブルの設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行う処理を有する輻輳制御方法。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれか1項に記載の輻輳制御方法において、
前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記複数の回線終端部のうち前記輻輳通知を受信した対向ルータと接続されている回線終端部の設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行う処理を有する輻輳制御方法。
【請求項15】
通信回線を介して対向する対向ルータから受信したパケットの転送先を決定するスイッチ部と、前記受信したパケットの転送先の情報を示すルーティングテーブルと、前記対向ルータとの接続を終端する複数の回線終端部とを有するルータに、
前記スイッチ部の稼働状態を監視し、前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記スイッチ部で輻輳が発生していることを通知するための輻輳通知を前記対向ルータへ送信する機能と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳通知を受信すると、前記対向ルータへ送信するパケットを減らすための輻輳回避動作を行う機能とを実現させるためのプログラム。
【請求項16】
請求項15に記載のプログラムにおいて、
前記スイッチ部が輻輳状態から回復した場合、前記スイッチ部が輻輳状態から回復したことを通知するための輻輳回復通知を前記輻輳通知を送信した前記対向ルータへ送信する機能と、
前記対向ルータから送信された前記輻輳回復通知を受信すると、前記輻輳回避動作を停止する機能とを実現させるためのプログラム。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載のプログラムにおいて、
前記スイッチ部のリソース使用率が予め決められた閾値以上である場合に前記スイッチ部に輻輳が発生していると判断する機能を実現させるためのプログラム。
【請求項18】
請求項15乃至17のいずれか1項に記載のプログラムにおいて、
前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、前記輻輳通知を予め決められた対向ルータへ送信する機能を実現させるためのプログラム。
【請求項19】
請求項15乃至18のいずれか1項に記載のプログラムにおいて、
前記対向ルータ毎に、前記対向ルータから送信された単位時間当たりのパケット数である送信レートを管理する機能と、
前記スイッチ部にて輻輳が発生した場合、予め決められた閾値以上の送信レートでパケットを送信している対向ルータへ輻輳通知を送信する機能とを実現させるためのプログラム。
【請求項20】
請求項15乃至19のいずれか1項に記載のプログラムにおいて、
前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記ルーティングテーブルの設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行う機能を実現させるためのプログラム。
【請求項21】
請求項15乃至20のいずれか1項に記載のプログラムにおいて、
前記対向ルータから送信された輻輳通知を受信すると、前記複数の回線終端部のうち前記輻輳通知を受信した対向ルータと接続されている回線終端部の設定を変更することによって前記輻輳回避動作を行う機能を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−41385(P2010−41385A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201849(P2008−201849)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】