説明

ルート探索システム

【課題】動的に変化する道路状況についても十分に対応可能なルート探索方法を提供する。
【解決手段】センタ装置10は、車載端末21を含む複数の車載端末からそれぞれ送信された環境情報を通信回線5を介して受信する受信部11と、受信部11により受信された環境情報を車両ごとに分類して動的車両情報DB16に保存する収集部12と、動的車両情報DB16に保存された環境情報に基づいて、各車両の環境情報を集計した集計環境情報を求めて動的車両情報DB16に保存する処理部13と、動的車両情報DB16に保存された環境情報および集計環境情報に基づいて、車両2を含む複数の車両のうちいずれかを対象車両としたルート探索要求に応じて、当該対象車両のルートを探索する探索部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等のルートを探索するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両ルート探索方法として、走行距離、旅行時間、料金などの様々な条件に基づいて最適なルートを探索するものが知られている。また、様々な車両において検出された車両状態を各車両からセンタへ送信し、これをセンタにおいて統計処理した結果から道路の走りやすさを評価して各車両へ返信することで、各車両でのルート探索に反映する技術も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−149054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるルート探索方法では、各車両で検出された車両状態を統計処理して道路の走りやすさを評価しているため、時間帯や曜日ごとに一定の傾向を示す静的な道路状況については対応可能である。しかし、たとえば時間帯ごとの明るさや天候、路面状態、路上駐車等の動的に変化する道路状況については、十分に対応することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるルート探索システムは、複数の車両にそれぞれ搭載されており、各車両の走行環境に関する環境情報を取得して送信する複数の車載端末と、複数の車載端末と通信回線を介して接続されるセンタ装置とを有し、センタ装置は、複数の車載端末からそれぞれ送信された環境情報を通信回線を介して受信する受信部と、受信部により受信された環境情報を車両ごとに分類してデータベースに保存する収集部と、データベースに保存された環境情報に基づいて、各車両の環境情報を集計した集計環境情報を求めてデータベースに保存する処理部と、データベースに保存された環境情報および集計環境情報に基づいて、複数の車両のうちいずれかを対象車両としたルート探索要求に応じて当該対象車両のルートを探索する探索部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、動的に変化する道路状況についても十分に対応可能なルート探索方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例に係るルート探索システムの全体構成を示す図である。
【図2】センタ装置のデータベースに保存される環境情報および集計環境情報のデータフォーマット例を示す図である。
【図3】環境情報の収集から保存までのデータ処理フローを示す図である。
【図4】集計環境情報の算出から保存までのデータ処理フローを示す図である。
【図5】最も類似度の高い車両の選択方法を説明するための図である。
【図6】環境情報と集計環境情報に対して現在から通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを行う様子を説明する図である。
【図7】ルート探索結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に、本発明の一実施形態に係るルート探索システムの全体構成を示す。このルート探索システムは、快適運転支援センタ1に設置されているセンタ装置10と、車両2に搭載されている車載端末21と、外部情報センタ3と、ユーザの自宅に設置されているパソコン4とを含む。センタ装置10と車載端末21およびパソコン4とは、通信回線5を介して互いに接続されている。センタ装置10と外部情報センタ3は、通信回線6を介して互いに接続されている。なお、ここでは車両2に搭載されている車載端末21のみを図示しているが、実際には、様々な地点を走行している複数の車両が図1のルート探索システム内に存在しており、その複数の車両には車載端末21と同じものがそれぞれ搭載されている。また、パソコン4も実際には複数のものが存在している。
【0009】
車載端末21は、車両2に搭載されている速度センサ22、照度センサ23、操舵角センサ24、ブレーキ25、ワイパー26および3Gセンサ27から、車両2の車両情報として、速度情報、明るさ情報、操舵角情報、ブレーキ情報、ワイパー操作情報および加速度情報をそれぞれ取得する。これらの車両情報は、CAN(Controller Area Network)を介して車載端末21へ送信される。上記の各車両情報を取得すると、これに基づいて車載端末21は、車両2の走行速度、周囲の明るさ、車線変更回数、ブレーキ回数、ワイパーの動作回数および路面からの突き上げショックの回数を、車両2の走行環境に関する情報としてそれぞれ求める。これらの情報を、以下ではまとめて「環境情報」と称する。
【0010】
車載端末21は、GPSアンテナ30により受信されたGPS情報から車両2の位置を検出する。そして、通信端末29を用いて、上記の環境情報と車両2の位置情報とを、通信回線5を介して快適運転支援センタ1内のセンタ装置10へ、所定の送信周期ごとに送信する。
【0011】
センタ装置10は、受信部11、収集部12、処理部13、探索部14、送信部15、動的車両情報DB16、静的道路情報DB17および外部要素DB18を有する。
【0012】
受信部11は、車載端末21から送信された環境情報および位置情報を通信回線5を介して受信し、収集部12へ出力する。なお、前述のように本ルート探索システム内には、車載端末21と同じものを搭載した複数の車両が実際には存在している。これらの各車載端末からそれぞれ送信される環境情報および位置情報も、受信部11において同様に受信され、収集部12へ出力される。
【0013】
収集部12は、車載端末21を含む各車載端末から送信されて受信部11で受信された環境情報を動的車両情報DB16に保存する。このとき収集部12は、受信部11より環境情報と共に出力される位置情報から、その環境情報が各車両においてどの道路リンクに対して取得されたかを判別する。この判別結果を用いて、環境情報を各車両ごとに道路リンク単位で分類し、動的車両情報DB16に保存する。なお、収集部12ではなく車載端末21において道路リンクの判別を行い、その道路リンクに対応するリンクIDを車載端末21から環境情報と共に送信してもよい。
【0014】
処理部13は、収集部12により動的車両情報DB16に保存された環境情報に対して、その種類ごとに集計する処理を行う。こうして集計処理された環境情報を、以下では「集計環境情報」と称する。処理部13により求められた集計環境情報は、環境情報とは別に動的車両情報DB16に保存される。
【0015】
探索部14は、車両2からのルート探索要求に応じて、動的車両情報DB16に保存されている環境情報および集計環境情報と、静的道路情報DB17に保存されている地図情報とに基づいて、車両2に対するルート探索を行う。このとき、必要に応じて、外部要素DB18に保存されている外部情報を用いてもよい。車両2からのルート探索要求は、車載端末21において目的地が設定されると、その目的地の情報と車両2の位置情報(またはリンクID)が車載端末21から通信回線5を介してセンタ装置10へ送信することにより行われる。なお、他の車両からも同様にルート探索要求を行うことができる。探索部14によりルート探索が行われると、その探索結果が送信部15へ出力される。
【0016】
送信部15は、探索部14から出力されたルート探索結果を通信回線5を介して車両2へ送信する。このルート探索結果は、車両2において通信端末29により受信され、車載端末21へ出力される。車載端末21は、取得したルート探索結果を地図画面上に表示し、これに従って車両2のルート案内を行う。なお、パソコン4からの要求に応じて、探索部14によるルート探索結果を送信部15から通信回線5を介してパソコン4へ送信してもよい。このルート探索結果をパソコン4において表示することで、ユーザは車両2を運転する前に運転計画を立てたりルートを確認したりすることができる。
【0017】
動的車両情報DB16は、動的に変化する車両の情報として、前述の環境情報および集計環境情報を保存するためのデータベースである。静的道路情報DB17は、静的な道路の情報として、従来の道路リンク情報やリンクコスト情報などを保存するためのデータベースである。外部要素DB18は、外部情報センタ3から通信回線6を介して提供される外部の情報として、たとえば気象情報、渋滞情報、通行規制情報、イベント情報などを保存するためのデータベースである。なお、動的車両情報DB16における保存データのフォーマットについては、後で図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
動的車両情報DB16における保存データフォーマットの例を図2に示す。図2(a)は環境情報の保存データフォーマット例を示しており、図2(b)は集計環境情報の保存データフォーマット例を示している。
【0019】
車載端末21から環境情報がセンタ装置10へ送信されると、収集部12は、車載端末21が搭載されている車両2を識別するための車両IDと対応付けて、その環境情報を動的車両情報DB16に図2(a)のようなデータフォーマットで保存する。図2(a)において、日付と時刻は、当該環境情報が取得された日時を表している。リンクIDは、当該環境情報が取得された道路リンクを識別するための情報であり、道路リンクごとに異なる値が設定される。すなわち、動的車両情報DB16において、環境情報は道路リンクごとに分類して保存されている。このリンクIDの値は、収集部12または車載端末21が前述のようにして行う道路リンクの判別結果に基づいて設定される。
【0020】
速度、照度、車線変更、ブレーキ、ワイパーおよび車両ショックの各項目は、環境情報として取得された車両2の走行環境に関する前述の各情報の内容をそれぞれ表している。具体的には、速度は当該道路リンクにおける車両2の走行速度を表し、照度は当該道路リンクにおける車両2の周囲の明るさを表し、車線変更は当該道路リンクにおける車線変更回数を表し、ブレーキは当該道路リンクにおける車両2のブレーキ回数を表し、ワイパーは当該道路リンクにおける車両2のワイパーの動作回数を表し、車両ショックは当該道路リンクにおいて車両2が受けた路面からの突き上げショックの回数を表している。なお、速度および照度の各項目については、当該道路リンクにおける値が一定でない場合、その平均値や中央値を環境情報として動的車両情報DB16に保存することができる。一方、車線変更、ブレーキ、ワイパーおよび車両ショックの各項目については、当該道路リンクにおける回数の合計値を環境情報として動的車両情報DB16に保存すればよい。
【0021】
動的車両情報DB16では、各車両の車両IDごとに図2(a)に示すようなデータフォーマットのファイルがそれぞれ作成され、対応する車両の環境情報が各ファイル内にそれぞれ保存される。
【0022】
処理部13は、動的車両情報DB16において図2(a)に示すような環境情報が保存されている全ての車両について、その環境情報を項目ごとに道路リンク単位で集計する。このとき、各環境情報と共に保存されている日付や時刻に基づいて、所定の時間間隔、たとえば5分ごとに集計する。そして、各集計結果における平均値、最低値および最高値を算出すると共に、これらの算出結果に基づいて当該道路リンクの走りやすさの指標を表す正規化値を算出し、集計環境情報として動的車両情報DB16に図2(b)のようなデータフォーマットで保存する。
【0023】
図2(b)は、速度情報について保存された集計環境情報のデータフォーマット例を示している。図2(b)において、リンクIDは、当該集計環境情報が対応している道路リンクを識別するための情報であり、環境情報におけるリンクIDと同様の値が設定される。すなわち、動的車両情報DB16において、環境情報と同様に集計環境情報も道路リンクごとに分類して保存されている。日付と時間帯は、集計環境情報の集計単位を表している。図2(b)の例では、リンクIDが530の道路リンクに対して各車両で取得された環境情報が2010年11月4日の13時から5分ごとに集計環境情報として集計されていることを表している。なお、ここで例示しているリンクID、日付および時間帯はあくまで一例である。実際には、各道路リンクに対して、過去の各日付において所定の時間帯ごとに集計された環境情報が集計環境情報として動的車両情報DB16内にそれぞれ保存されている。
【0024】
平均値、最低値および最高値の各項目は、上記の日付と時間帯によって表される集計単位ごとに集計された全車両の環境情報(ここでは速度情報)における平均値、最低値および最高値をそれぞれ表している。正規化値は、当該集計環境情報が対応している道路リンクの走りやすさの指標を分類ごとに10段階でそれぞれ表した値であり、その数値が大きいほど走りやすい道路リンクであることを示している。なお、ここでは道路リンクの走りやすさを10段階の正規化値で表すこととしたが、正規化値の内容はこれに限らない。
【0025】
動的車両情報DB16では、各環境情報および各道路リンクごとに図2(b)に示すようなデータフォーマットのファイルがそれぞれ作成され、対応する環境情報および道路リンクの集計環境情報が各ファイル内にそれぞれ保存される。なお、図2(b)では速度情報に対する集計環境情報のデータフォーマット例を示しているが、他の環境情報についても同様のデータフォーマットで作成された集計環境情報が動的車両情報DB16に保存される。
【0026】
上記のような集計環境情報において、天候、暦、時間帯、イベントの有無等に応じた分類をさらに行ってもよい。たとえば、「平日昼」、「休日昼」、「早朝」、「夜間」、「悪天候」および「特殊日」の各分類項目を設定し、この分類項目ごとに集計環境情報を分類してもよい。なお、分類項目の内容はこれに限らず、環境情報の種類などに応じて様々な分類項目を設定することができる。
【0027】
次に、環境情報を収集して保存する際に車載端末21とセンタ装置10が行う処理について説明する。図3は、車載端末21とセンタ装置10が行う環境情報の収集から保存までのデータ処理フローを示している。
【0028】
ステップ31において、車載端末21は、速度センサ22、照度センサ23、操舵角センサ24、ブレーキ25、ワイパー26および3Gセンサ27から、車両2内のCANを介して、前述したような車両2についての各車両情報を入手する。ステップ32において、車載端末21は、ステップ31で得た各車両情報に基づいて、一定の期間における環境情報をそれぞれ求め、これを一時的に記録しておく。この期間は、車両2の走行距離に応じて定められてもよい。ステップ33において、車載端末21は、ステップ32で記録した一定期間での環境情報を、通信端末29および通信回線5を介してセンタ装置10へ送信する。このとき、GPSアンテナ30を介して受信したGPS情報に基づいて、車両2の位置および日時を求め、その情報を環境情報と共にセンタ装置10へ送信する。なお、このとき車両2の位置に対応する道路リンクのリンクIDを求め、そのリンクIDの情報を環境情報と共にセンタ装置10へ送信してもよい。
【0029】
ステップ36において、センタ装置10は、ステップ33で車載端末21から送信された環境情報を受信部11により受信する。ステップ37において、センタ装置10は、ステップ36で受信した環境情報を収集部12により車両ごとの車両IDと道路リンクごとのリンクIDに応じて分類し、動的車両情報DB16に保存する。
【0030】
次に、集計環境情報を算出して保存する際にセンタ装置10が行う処理について説明する。図4は、センタ装置10において処理部13が行う集計環境情報の算出から保存までのデータ処理フローを示している。
【0031】
ステップ41において、処理部13は、動的車両情報DB16に保存されている環境情報を読み出し、リンクIDごとにまとめる。ステップ42において、処理部13は、ステップ41でまとめたリンクIDごとの環境情報を前述のような集計単位ごとに集計する。ステップ43において、処理部13は、ステップ42で集計した環境情報に基づいて、その集計単位ごとに平均値、最低値および最高値を算出する。ステップ44において、処理部13は、ステップ43で算出した平均値、最低値および最高値に基づいて、正規化処理を行うことにより、各道路リンクの走りやすさの指標としての正規化値を求める。ステップ45において、処理部13は、ステップ43で算出した集計単位ごとの平均値、最低値および最高値と、ステップ44で求めた正規化値とを、リンクIDごとに分けて動的車両情報DB16に保存する。
【0032】
次に、探索部14が行うルート探索の詳細について説明する。探索部14では、車両2からのルート探索要求を受けると、車両2をルート探索の対象車両としてルート探索を行う。このとき探索部14は、先ず、車両2が通過する可能性がある道路リンクを特定する。たとえば、所定の距離ごとに地図上に予め設定された地図メッシュに基づいて、車両2の現在位置と目的地を少なくとも含む矩形上の探索領域を設定し、その探索領域内の全道路リンクを車両2が通過する可能性がある道路リンクとして特定する。
【0033】
次に、上記のようにして特定した車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて、車両2を除いた車両の中から、過去の所定期間内、たとえば現在から15分前までの期間内に当該道路リンクを通過した車両を環境情報の抽出対象として特定する。以下では、こうして特定される車両を「抽出車両」と称する。そして、当該道路リンクに対する抽出車両の環境情報を動的車両情報DB16から抽出する。
【0034】
続いて、車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて、その通過予測時刻を求める。そして、上記のように動的車両情報DB16から抽出した環境情報と、求めた通過予測時刻に対応する時間帯の集計環境情報に対して、現在から通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを行う。ここでは、現在から通過予測時刻までの時間が短いほど、リアルタイム情報としての環境情報に対する重み付けを高くし、統計的情報としての集計環境情報に対する重み付けを低くする。これにより、各道路リンクの走りやすさをそれぞれ求める。
【0035】
最後に、こうして求めた各道路リンクの走りやすさと、静的道路情報DB17に保存されている地図情報とに基づいて、各道路リンクのリンクコストを計算し、そのリンクコストに基づいてルート探索処理を実行する。このとき、環境情報および集計環境情報の種類に応じた重み付けを行うようにしてもよい。こうした処理を探索部14が行うことにより、本ルート探索システムによるルート探索が実現される。
【0036】
ここで、探索部14が行う上記処理のうち、抽出車両を特定する処理の詳細について以下に説明する。前述したように、探索部14は、車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて、その道路リンクを所定期間(たとえば現在から15分前までの期間)内に通過したことを条件として抽出車両を特定する。このとき、当該条件を満たす車両が一台のみであれば、その車両を抽出車両として特定する。一方、当該条件を満たす車両が複数台存在する場合は、その全てを抽出車両としてもよいし、いずれか一つを抽出車両として特定してもよい。
【0037】
前者のように条件を満たす全ての車両を抽出車両とする場合は、各抽出車両の環境情報を動的車両情報DB16からそれぞれ抽出した後、平均化等の処理を行うことで以降の処理に用いる環境情報の値を決定することができる。一方、後者の場合は、前述のような条件を満たす複数の車両を候補車両として、その中のいずれかをさらに別の条件に基づいて選択することで抽出車両を特定してもよい。たとえば、候補車両のうち当該道路リンクを現在から最も近い時刻に通過した車両、すなわち最後に当該道路リンクの環境情報を取得した車両を抽出車両として特定し、その環境情報を動的車両情報DB16から抽出することができる。
【0038】
あるいは、当該道路リンクに対して過去に取得された車両2および各候補車両の環境情報に基づいて、車両2に対して最も類似度の高い車両を候補車両の中から選択し、その車両を抽出車両としてもよい。その具体的な方法を、以下に図5を参照して説明する。
【0039】
図5において、X、X、・・・、Xに示す各グラフは、取得時刻を横軸、値の大きさを縦軸として、ある道路リンクに対して過去に取得された各車両の環境情報(たとえば速度情報)をそれぞれプロットした例を示している。なお、これらのグラフでは、ある車両において別々の日に取得された環境情報を全て同一のグラフ上にプロットしている。このとき、天候、暦、イベントの有無等に応じて取得日を分類し、その分類ごとに取得された環境情報を分けてプロットしてもよい。
【0040】
、P、P、・・・、Pに示す各グラフは、予め設定された環境情報の特徴パターンを示している。たとえば、晴天時の特徴を示すパターン、渋滞発生時の特徴を示すパターンなど、状況に応じた様々な特徴パターンが設定されている。こうした特徴パターンの設定は、たとえば動的車両情報DB16内に保存されている集計環境情報や外部要素DB18内に保存されている情報に基づいて行うことができる。
【0041】
動的車両情報DB16には、上記のような車両ごとの過去の環境情報のグラフと各種の特徴パターンが各道路リンクに対してそれぞれ保存されている。探索部14は、そのうち抽出車両の選択対象とする道路リンクについて、周知の主成分分析で代表される多変量解析手法を用いて、以下の式(1)の関係により、車両2および各候補車両に対してその環境情報に対応する各特徴パターンの重み付け係数W1、h、W2、h、・・・Wn、hをそれぞれ算出する。なお、式(1)において、hは車両2と各候補車両をそれぞれ表すために予め設定された値であり、1からmの間で車両ごとに別々の値をとる。
【0042】
【数1】

式(1)
【0043】
式(1)で算出される各車両の重み付け係数W1、h、W2、h、・・・Wn、hは、当該道路リンクにおける各車両の運転の特徴に対応している。すなわち、運転の特徴が似ている車両同士では、それぞれの重み付け係数の差が小さくなると考えられる。そこで、以下の式(2)により、車両Aと車両Bの間の類似度CA,Bを算出する。なお、式(2)において、車両Aはルート探索の対象車両である車両2を表し、車両Bは各候補車両を表している。また、ha、hbは、上記式(1)において車両A、車両Bに対応するhの値をそれぞれ表しており、Vは各特徴パターンに対して予め設定された類似度の重み付け係数を表している。
【0044】
【数2】

式(2)
【0045】
式(2)において、類似度の重み付け係数Vの値を変更することにより、各特徴パターンの影響度を調整することができる。前述の主成分分析では、第一主成分の特徴パターンが最も影響が大きいため、これに対応する重み付け係数Vを大きくとり、V以降の重み付け係数を徐々に減らしていくことが好ましい。
【0046】
以上説明したような方法により、各候補車両について類似度CA,Bを算出し、その値が最小となる車両を最も類似度の高い車両として選択することができる。
【0047】
次に、探索部14が行う処理のうち、環境情報と集計環境情報に対して重み付けを行う処理の詳細について以下に説明する。前述したように、探索部14は、車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて、現在からその通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを抽出した環境情報と集計環境情報に対してそれぞれ行う。その様子を以下に図6を参照して説明する。
【0048】
図6において、tsrとterは環境情報の引用の開始時刻と終了時刻をそれぞれ表しており、tssは集計環境情報の引用の開始時刻を表している。ある道路リンクの通過予測時刻tが以下の式(3)の条件を満たすときには、リアルタイム情報としての環境情報を引用して、その道路リンクの通過予測時刻tにおける環境情報を推定することができる。たとえば、現在時刻を時刻tsrとし、現在時刻から15分後を時刻terとすることができる。
【0049】
【数3】

式(3)
【0050】
すなわち、探索部14は、各道路リンクについて、その通過予測時刻tが時刻tsrから時刻terの間であれば、当該道路リンクについて前述のような方法により動的車両情報DB16から抽出した環境情報を引用し、これに基づいて当該道路リンクのリンクコストを算出する。この場合、抽出した環境情報に対する重み付け係数は1となり、集計環境情報に対する重み付け係数は0となる。
【0051】
また、ある道路リンクの通過予測時刻tが以下の式(4)の条件を満たすときには、統計的情報としての集計環境情報を引用して、その道路リンクの通過予測時刻tにおける環境情報を推定することができる。たとえば、現在時刻から1時間後を時刻tssとすることができる。
【0052】
【数4】

式(4)
【0053】
すなわち、探索部14は、各道路リンクについて、その通過予測時刻が時刻tss以降であれば、当該道路リンクについて動的車両情報DB16に保存されている集計環境情報を引用し、これに基づいて当該道路リンクのリンクコストを算出する。この場合、集計環境情報に対する重み付け係数は1となり、抽出した環境情報に対する重み付け係数は0となる。このとき、図2(b)に示したように時間帯ごとに集計されている集計環境情報のうち、通過予測時刻に対応する時間帯の集計環境情報を用いることが好ましい。さらに、当日の天候、渋滞状況、曜日、イベントの有無等を考慮して過去の日付を選択し、その日付に対応する集計環境情報を用いるようにしてもよい。
【0054】
一方、通過予測時刻が上記のいずれの期間内にも該当せず、時刻terから時刻tssの間にある場合、探索部14は、当該道路リンクについて動的車両情報DB16から抽出した環境情報と動的車両情報DB16に保存されている集計環境情報とを混在させた情報に基づいて、当該道路リンクのリンクコストを算出する。このとき、以下の式(5)を用いて、現在から通過予測時刻までの時間が短いほど環境情報に対する重み付けが高くなり、集計環境情報に対する重み付けが低くなるように、これらの重み付け平均値Xを算出する。式(5)において、Xrtは抽出した環境情報を表し、Xstは保存されている集計環境情報を表している。
【0055】
【数5】

式(5)
【0056】
なお、式(5)を用いて重み付け平均値Xを算出するときには、前述の通過予測時刻が時刻tss以降である場合と同様に、時間帯ごとに集計されている集計環境情報のうち、通過予測時刻に対応する時間帯の集計環境情報を用いることが好ましい。また、当日の天候、渋滞状況、曜日、イベントの有無等を考慮して過去の日付を選択し、その日付に対応する集計環境情報を用いるようにしてもよい。
【0057】
以上説明したような方法により、各道路リンクについて、現在からその通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを抽出した環境情報と集計環境情報に対してそれぞれ行い、その重み付け平均値を算出することができる。
【0058】
こうして求められた重み付け平均値から、探索部14は各道路リンクのリンクコストを求めることができる。たとえば、図2(b)で説明したのと同様の方法により、各道路リンクについて求められた重み付け平均値の大きさに対応する正規化値を求め、これに基づいてリンクコストの値を調節する。すなわち、正規化値が大きい道路リンクであるほどそのリンクコストが元の値よりも小さくなり、反対に正規化値が小さい道路リンクであるほどそのリンクコストが元の値よりも大きくなるように、各道路リンクのリンクコストを調節することができる。
【0059】
ここで、上記の重み付け平均値は、環境情報および集計環境情報の種類ごとに算出されるものである。すなわち、速度、照度、車線変更、ブレーキ、ワイパーおよび車両ショックの各項目について、重み付け平均値とその正規化値がそれぞれ算出される。したがって、以下の式(6)により、各重み付け平均値に対してその種類ごとに重み付け係数αをそれぞれ設定し、この重み付け係数αを各正規化値X’j,tに対してそれぞれ掛け合わせたものを合計することで、全種類に対応する正規化値Tを算出してもよい。なお、式(6)において、jは環境条件および集計環境情報の種類を表しており、1からその種類数に応じた上限値kまでの間でいずれかの値をとる。すなわち、本実施形態では、速度、照度、車線変更、ブレーキ、ワイパーおよび車両ショックの合計6種類の環境条件が取得されてそれぞれの集計環境情報が保存されるため、k=6である。
【0060】
【数6】

式(6)
【0061】
上記式(6)において、重み付け係数αの設定値の組み合わせを予め複数種類設定しておき、探索条件に応じていずれかの組み合わせを選択してもよい。たとえば、明るさ優先と天候優先の2種類の探索条件について、それぞれに応じた重み付け係数αの設定値の組み合わせを予め設定しておき、ルート探索要求時に指定された探索条件に応じていずれかの組み合わせを選択することができる。
【0062】
探索部14によるルート探索結果の例を図7に示す。図7(a)は、明るさ優先と天候優先の2種類の探索条件のうち、明るさ優先を選択した場合のルート探索結果の例を示している。この場合、出発地から目的地までの間に明るくて雨が降っている道路と暗くて曇りの道路が存在すると、図7(a)に示すように、明るくて雨が降っている道路を通るルートが探索される。
【0063】
図7(b)は、もう一方の探索条件である天候優先を選択した場合のルート探索結果の例を示している。この場合、出発地から目的地までの間に明るくて雨が降っている道路と暗くて曇りの道路が存在すると、図7(b)に示すように、暗くて曇りの道路を通るルートが探索される。
【0064】
なお、図7(a)、(b)の例において、明るくて雨が降っている道路を通るルートと暗くて曇りの道路を通るルートの両方をルート探索結果として車載端末21へ送信し、車載端末21において提示してもよい。この場合、ユーザが提示された2種類のルートからいずれか一つを選択すると、そのルートに従って車両2の案内が開始される。
【0065】
以上説明した実施の形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0066】
(1)ルート探索システムにおいて、センタ装置10は、車載端末21を含む複数の車載端末からそれぞれ送信された環境情報を通信回線5を介して受信する受信部11と、受信部11により受信された環境情報を車両ごとに分類して動的車両情報DB16に保存する収集部12と、動的車両情報DB16に保存された環境情報に基づいて、各車両の環境情報を集計した集計環境情報を求めて動的車両情報DB16に保存する処理部13と、動的車両情報DB16に保存された環境情報および集計環境情報に基づいて、車両2を含む複数の車両のうちいずれかを対象車両としたルート探索要求に応じて、当該対象車両のルートを探索する探索部14とを備える。このようにしたので、従来のルート探索において用いられる各道路の距離や渋滞等の状況だけでなく、たとえば天候や明るさなどの動的に変化する道路状況についても、これを考慮して十分に対応可能なルート探索方法を提供することができる。
【0067】
(2)探索部14は、ルート探索の対象車両である車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて、車両2を除いた複数の車両の中から、当該道路リンクを過去の所定期間内に通過した車両を抽出車両としてそれぞれ特定する。そして、動的車両情報DB16に保存された環境情報の中から、当該道路リンクに対する抽出車両の環境情報を抽出し、抽出した環境情報に基づいて車両2のルートを探索する。このようにしたので、動的車両情報DB16に保存されている様々な車両の環境情報の中から適切なものを抽出してルート探索に用いることができる。
【0068】
(3)上記の処理において抽出車両として複数の車両を特定した場合、探索部14は、当該道路リンクに対して過去に取得された車両2の環境情報と、当該道路リンクに対して過去に取得された複数の抽出車両の各環境情報とに基づいて、複数の抽出車両のいずれかを車両2にとって最も類似度の高い車両として特定する。そして、動的車両情報DB16に保存された環境情報の中から、当該道路リンクに対する最も類似度の高い車両の環境情報を抽出し、抽出した環境情報に基づいて車両2のルートを探索するようにした。これにより、複数の車両が抽出車両として特定された場合であっても、その中で最適な車両の環境情報を抽出してルート探索に用いることができる。
【0069】
(4)探索部14は、ルート探索の対象車両である車両2が通過する可能性がある各道路リンクについて動的車両情報DB16に保存された環境情報および集計環境情報に対して、現在から通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを行い、車両2のルートを探索する。このようにしたので、リアルタイム情報としての環境情報と統計的情報としての集計環境情報とを、現在から通過予測時刻までの時間に応じて適切な割合で混在させてルート探索に用いることができる。
【0070】
(5)上記の処理において、探索部14は、現在から通過予測時刻までの時間が短いほど、環境情報に対する重み付けを高くし、集計環境情報に対する重み付けを低くするようにした。これにより、現在から通過予測時刻までの時間が短いときにはリアルタイム情報としての環境情報をより重視する一方で、現在から通過予測時刻までの時間が長いときには統計的情報としての集計環境情報をより重視して、ルート探索を行うことができる。
【0071】
(6)探索部14は、環境情報および集計環境情報に基づいて、各道路リンクに対するリンクコストを計算し、計算したリンクコストに基づいてルート探索の対象車両である車両2のルートを探索するようにした。これにより、動的に変化する道路状況を容易かつ確実にルート探索結果に反映させることができる。
【0072】
(7)上記のリンクコストの計算において、探索部14は、環境情報および集計環境情報の種類に応じた重み付けを行うことができる。このようにすれば、ユーザの好みに応じて様々なルート探索結果を得ることができる。
【0073】
なお、以上説明した実施の形態では、車載端末を搭載した車両のルートを探索するシステムについて説明したが、本発明は車両以外のルートを探索するシステムにおいても適用可能である。たとえば、携帯電話やスマートフォンなどの携帯端末を所持する歩行者に対して徒歩ルートの探索サービスを提供するようなシステムにおいても、本発明は適用可能である。
【0074】
以上説明した実施の形態や各種の変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0075】
1 快適運転支援センタ
2 車両
3 外部情報センタ
4 パソコン
10 センタ装置
11 受信部
12 収集部
13 処理部
14 探索部
15 送信部
16 動的車両情報DB
17 静的道路情報DB
18 外部要素DB
21 車載端末
22 速度センサ
23 照度センサ
24 操舵角センサ
25 ブレーキ
26 ワイパー
27 3Gセンサ
29 通信端末
30 GPSアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両にそれぞれ搭載されており、各車両の走行環境に関する環境情報を取得して送信する複数の車載端末と、前記複数の車載端末と通信回線を介して接続されるセンタ装置とを有し、
前記センタ装置は、
前記複数の車載端末からそれぞれ送信された環境情報を前記通信回線を介して受信する受信部と、
前記受信部により受信された環境情報を車両ごとに分類してデータベースに保存する収集部と、
前記データベースに保存された環境情報に基づいて、各車両の環境情報を集計した集計環境情報を求めて前記データベースに保存する処理部と、
前記データベースに保存された環境情報および集計環境情報に基づいて、前記複数の車両のうちいずれかを対象車両としたルート探索要求に応じて当該対象車両のルートを探索する探索部とを備えることを特徴とするルート探索システム。
【請求項2】
請求項1に記載のルート探索システムにおいて、
前記データベースには、前記環境情報および前記集計環境情報がそれぞれ道路リンクごとに分類して保存されており、
前記探索部は、
前記対象車両が通過する可能性がある各道路リンクについて、前記対象車両を除いた前記複数の車両の中から、当該道路リンクを過去の所定期間内に通過した車両を抽出車両としてそれぞれ特定し、
前記データベースに保存された環境情報の中から、当該道路リンクに対する前記抽出車両の環境情報を抽出し、
前記抽出した環境情報に基づいて前記対象車両のルートを探索することを特徴とするルート探索システム。
【請求項3】
請求項2に記載のルート探索システムにおいて、
前記抽出車両として複数の車両を特定した場合、前記探索部は、当該道路リンクに対して過去に取得された前記対象車両の環境情報と、当該道路リンクに対して過去に取得された前記複数の抽出車両の各環境情報とに基づいて、前記複数の抽出車両のいずれかを前記対象車両にとって最も類似度の高い車両として特定し、
前記データベースに保存された環境情報の中から、当該道路リンクに対する前記最も類似度の高い車両の環境情報を抽出し、
前記抽出した環境情報に基づいて前記対象車両のルートを探索することを特徴とするルート探索システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のルート探索システムにおいて、
前記データベースには、前記環境情報および前記集計環境情報がそれぞれ道路リンクごとに分類して保存されており、
前記探索部は、前記対象車両が通過する可能性がある各道路リンクについて前記データベースに保存された環境情報および集計環境情報に対して、現在から通過予測時刻までの時間に応じた重み付けを行い、前記対象車両のルートを探索することを特徴とするルート探索システム。
【請求項5】
請求項4に記載のルート探索システムにおいて、
前記探索部は、現在から前記通過予測時刻までの時間が短いほど、前記環境情報に対する重み付けを高くし、前記集計環境情報に対する重み付けを低くすることを特徴とするルート探索システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のルート探索システムにおいて、
前記データベースには、前記環境情報および前記集計環境情報がそれぞれ道路リンクごとに分類して保存されており、
前記探索部は、前記環境情報および前記集計環境情報に基づいて、各道路リンクに対するリンクコストを計算し、計算したリンクコストに基づいて前記対象車両のルートを探索することを特徴とするルート探索システム。
【請求項7】
請求項6に記載のルート探索システムにおいて、
前記データベースには、前記環境情報および前記集計環境情報として複数種類の情報がそれぞれ保存されており、
前記探索部は、前記リンクコストの計算において、前記環境情報および前記集計環境情報の種類に応じた重み付けを行うことを特徴とするルート探索システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68521(P2013−68521A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207404(P2011−207404)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】