説明

ループフィルタ

【課題】受信信号にのるノイズが多くなっても、受信品質を保つことができる、光デジタルコヒーレント受信器のループフィルタを提供する。
【解決手段】ループフィルタにおいて、位相回転量ベクタ格納部からフィードバックされる位相回転量ベクタの振幅を調整する振幅調整制御部を設ける。振幅調整制御部は、フィードバックされる位相回転量ベクタの振幅が一定範囲内にあるか否かを判断し、位相回転量ベクタに所定係数を乗算して得られるフィードバック信号に、判断結果に従った係数を乗算して、位相回転量ベクタの振幅を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の実施形態は、ループフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
クラウドコンピューティング、インターネットを利用した動画配信などの新たなサービスの普及による通信トラフィックの急激な増加が予想されている。増加を続ける通信トラフィックに対応するため、100Gbps級の信号を伝送可能な光送受信器の研究開発がおこなわれている。
【0003】
しかしながら、1波長あたりのビットレートを大きくすると、光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal to Noise Ratio)耐力の低下や、伝送路の波長分散、偏波モード分散もしくは非線形効果などによる波形歪みによる信号品質の劣化が大きくなる。そのため、近年、OSNR耐力および伝送路の波形歪み耐力があるデジタルコヒーレント受信方式が注目されている。
【0004】
光デジタルコヒーレント受信方式では、OSNR耐力の改善とデジタル信号処理回路による波形歪み補償や光伝送路の伝播特性の時間変動に対する適応等化が可能となる為、高ビットレートの伝送でも高い特性を得ることができる。
【0005】
また、従来の光強度のON/OFFを2値信号に割り当て直接検波する方式に対して、光デジタルコヒーレント受信方式は、光強度と位相情報をコヒーレント受信方式により抽出し、抽出された強度と位相情報をADC(Analog-Digital Converter)により量子化することによって、デジタル信号処理回路にて復調を行う方式である。
【0006】
光デジタルコヒーレント受信方式にて使用される位相変調方式の一つであるDP-QPSK(Dual Polarization-Quadrature Phase Shift Keying:4値位相偏移変調)は、P偏光とS偏光それぞれについて、変調された4つの光位相(0deg, 90deg, 180deg, 270deg)に2ビットのデータを割り当てることができる。DP-QPSKでは、シンボル速度を情報の転送速度に比べて1/4に低減できるため、システムの小型化/低コスト化が可能となる。
【0007】
図1は、光デジタルコヒーレント受信器のブロック構成図である。
光ファイバ10から入力された光信号は、偏光ビームスプリッタ(PBS)11において、直交するP偏光の光信号とS偏光の光信号に分離される。偏光ビームスプリッタ11において分離されたそれぞれの偏光の光信号は、90°光ハイブリッド13、14にそれぞれ入力される。また、光デジタルコヒーレント受信器は、ローカルに所定の周波数の光を発振する局発光源15を有している。局発光源15から発振された光は、偏光ビームスプリッタ12において、P偏光とS偏光に分離される。偏光ビームスプリッタ12において分離されたそれぞれの偏光の光は、それぞれ90°光ハイブリッド13、14に入力される。ここで、90°光ハイブリッド13、14にそれぞれ入力される光信号と局発光源の光とは、同じ偏光を有している。すなわち、90°光ハイブリッド13に入力される、偏光ビームスプリッタ11からの光信号がP偏光の場合には、偏光ビームスプリッタ12からの光の偏光は、P偏光となっている。また、同様に、90°光ハイブリッド14に入力される、偏光ビームスプリッタ11からの光信号は、この場合、S偏光であり、偏光ビームスプリッタ12からの光の偏光もS偏光となる。
【0008】
90°光ハイブリッド13、14では、光ファイバ10からの偏光分離された光信号と、局発光源15からの偏光分離された光とが混合される。光信号と局発光源の光とを混合することによって、光信号にのっている位相変調成分が、光信号の強度の変化に変換される。光電変換器16は、90°光ハイブリッド13、14からの光信号を電気信号に変換する。光電変換器16で電気信号に変換された受信信号は、ADC部17において、デジタル信号に変換される。ADC部17でデジタル信号に変換された後は、デジタル信号処理回路25によってデジタル的に信号処理が行われる。
【0009】
デジタル信号処理回路25では、最初に、波形歪み補償器18において、ADC部17からの信号の信号歪みを除去する処理をデジタル的に行う。波形歪み補償器18での信号歪みの除去は、光信号が光ファイバ10を伝搬する間に受けた、波長分散、偏波モード分散、非線形効果等による信号歪みのうち、光ファイバ10の特性に基づいた固定的な分の除去を行なう。
【0010】
波形歪み補償器18の出力は、位相調整器19に入力される。位相調整器19では、受信信号のサンプリングを行なうタイミングの調整を行なう。受信信号のサンプリングタイミングがシンボルの遷移タイミングになっていると信号値を正しく検出できなくなるので、そのようにならないようにサンプリングタイミングを調整するものである。位相調整器19は、サンプリングタイミングを検出するタイミング再生器20からのタイミング検出結果を受けてタイミング調整信号を生成する。タイミング調整信号は、ADC部17へのクロックを生成する周波数可変発振器21に送られる。周波数可変発振器21は、タイミング調整信号に基づいて、クロックの周波数や位相を調整して、ADC部17に入力する。ADC部17は、周波数可変発振器21からの、周波数や位相が調整されたクロックに基づいて受信信号のサンプリングを行なう。
【0011】
位相調整器19の出力は、適応等化器22に入力される。適応等化器22は、光ファイバ10の経年劣化等による信号歪みを除去する処理を行う。波形歪み補償器18での信号歪み除去は、固定的な補償処理であったが、これでは補償しきれない信号歪み分を適応等化器22が補償する。
【0012】
適応等化器22の出力は、光源周波数オフセット推定・補償部23に入力される。光源周波数オフセット推定・補償部23では、光ファイバ10からの受信信号の周波数と局発光源15からの光の周波数のずれによる信号点のI−Q平面上での回転を止めるための処理を行う。これは、適応等化器22の出力信号に含まれる複素信号の固定的位相偏差を取り除くものである。
【0013】
光源周波数オフセット推定・補償部23の出力は、搬送波位相オフセット推定・補償部24に入力される。光源周波数オフセット推定・補償部23では、受信信号の周波数と局発光の周波数の差分を除去する処理をした。これにより、信号点のI−Q平面上での回転が停止されるが、これのみでは、信号点がI−Q平面上で90°回転した位置にとどまってしまう可能性がある。したがって、搬送波位相オフセット推定・補償部24では、信号点のI−Q平面上での90°回転した位相オフセットを取り除く処理を行う。
【0014】
光源周波数オフセット推定・補償部23は、送信器の信号光源と受信器の局発光源の間で発生する光周波数ずれ(オフセット)の除去を行なうために必要となる、光源周波数オフセットの検出を行なう回路であり、ループフィルタ等を含む。
【0015】
光源周波数オフセット推定・補償部23のループフィルタに限らず、ループフィルタの一種である適応等化型フィルタにおいて、フィルタへの入力信号にノイズが多くのっていると、更新対象のフィルタ係数の収束値が0に近づいてしまったりして、フィルタの出力として、信号精度が得られない場合が発生する。
【0016】
図2は、従来の光源周波数オフセット推定回路を示す図である。
図2において、arg()部38の前段までの処理は、全て複素(I,Q)演算で行われ、arg()部38は、前段部の出力複素信号の位相(偏角)を演算する。
【0017】
周波数オフセット量を推定するために用いられるループフィルタは、係数(1-α)<<1.0の忘却平均型IIRフィルタである。
【0018】
光源周波数オフセット推定・補償部23は、図2の光源周波数オフセット推定回路29とこれから出力される周波数オフセット値を用いて、周波数オフセットを除去する部とからなる。光源周波数オフセット推定回路29への入力は、適応等化器22の出力複素信号である。複素信号は、I信号を実数成分、Q信号を虚数成分とする信号で、実際には、複素信号というときには、I信号とQ信号の組み合わせを言う。入力された複素信号は、2シンボル間位相差検出部32に入力される。また、入力された複素信号は、1シンボル遅延器31にも入力され、1シンボル分遅延された後、2シンボル間位相差検出部32に入力される。2シンボル間位相差検出部32では、入力された2つの複素信号の差を演算する。この差信号は複素減算によって得られ、その位相成分に、2シンボル間の位相差を有する複素信号となる。この2シンボル間位相差信号からループフィルタ30の出力を減算した信号が、2シンボル間位相差検出部32の出力となる。
【0019】
2シンボル間位相差検出部32の出力は、ループフィルタ30に入力される。ループフィルタ30内において、複素信号は、倍算器34により(1−α)倍され、加算器35に入力される。ここで、αは、予め決められた値であり、1>α>0を満たす実数値である。加算器35は複素加算を行なうもので、位相回転量ベクタ格納部36の出力を倍算器37においてα倍(このαは、上記の係数と同じものである。)したものと倍算器34の出力を加算する。
【0020】
位相回転量ベクタ格納部36はレジスタから構成されており、加算器35の出力を格納する。この加算器35は、(2シンボル間位相差検出部出力)×(1−α)+(位相回転量ベクタ格納部のデータ)×αを計算するもので、ループフィルタ30への入力信号の平均を演算するものである。すなわち、xとyの重み付き平均は通常、重みをa、bとして、(a×x+b×y)/(a+b)で得られるが、a+b=1とすれば、a=1−bとなり、上記平均の式が得られる。したがって、加算器35で得られる平均値は、重み付き平均値である。したがって、2シンボル間位相差検出部出力に倍算器34で(1−α)を乗算し、位相回転量ベクタ格納部のデータに倍算器37でαを乗算し、これらを加算することで、これらの重み付き平均値が得られる。位相回転量ベクタ格納部36の出力は、ループフィルタ30への入力信号を平均したもので、arg()部38において平均信号(位相回転量ベクタ)のI−Q平面上の角度成分(位相成分)が演算され、周波数オフセット値として出力される。この周波数オフセット値は、受信信号に含まれる周波数オフセットを除去するために使用される。
【0021】
ループフィルタ30の出力は、2シンボル間位相差検出部32にフィードバックされ、2シンボル間位相差検出部32において得られる2シンボル間位相差から減算するために使用される。これは、ループフィルタ30の出力を用いて、arg()部38の後段部において周波数オフセットの除去が行なわれるので、この動作に対応する位相差の減算を2シンボル間位相差からループフィルタ30の出力を減算することで行なうものである。
【0022】
従来技術においては、さまざまな周波数オフセット検出・推定回路が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2009−253971号公報
【特許文献2】特開2009−130925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、上記のような光源周波数オフセット推定回路において、ループフィルタへの入力にノイズが多くなると、2シンボル間位相差がランダムな値を取るようになってしまうので、それを平均した位相回転量ベクタの大きさ(絶対値)が0に近い値となり、その振幅自体が小さくなってしまう。一旦、振幅が小さい状態に陥ると、この状態からの回復が難しく、なかなか振幅が正常な状態に戻らない。そして、位相回転量ベクタの振幅が小さくなることで、arg()変換精度が失われ、出力特性にバタツキが生じてしまう。すなわち、arg()変換は、デジタル演算処理で行われるが、位相回転量ベクタは所定のビット数のデジタル信号で表されるため、振幅が小さくなると位相回転量ベクタを表現するビット数が少なくなる。ビット数が少ない位相回転量ベクタでarg()変換を行なうと、位相回転量ベクタの値の精度が悪いため、角度成分(偏角)の演算結果も精度が悪くなり、角度成分の演算結果にバタツキなどの現象が生じてしまう。したがって、周波数オフセットの除去が十分に出来ない状態になり、最終的に、受信信号を復号した際のビットエラーレート特性が悪くなるといった問題がある。
【0025】
以下の実施形態では、受信信号にのるノイズが多くなっても、受信品質を保つことができる、光デジタルコヒーレント受信器のループフィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
以下の実施形態の一側面におけるループフィルタは、複素信号の演算結果を格納し、格納した該複素信号を出力するレジスタと、該レジスタの出力複素信号に所定の係数を乗算する第1の倍算器と、該レジスタの出力複素信号の振幅が所定範囲内に収まるように制御するための乗算係数を出力する振幅判定部と、該第1の倍算器の出力に、該乗算係数を乗算する乗算器と、入力信号に、(1−該所定の係数)を乗算する第2の倍算器と、該乗算記の出力と該第2の倍算器の出力を加算し、加算結果を該レジスタに入力する加算器とを備える。
【発明の効果】
【0027】
以下の実施形態では、受信信号にのるノイズが多くなっても、受信品質を保つことができる、光デジタルコヒーレント受信器のループフィルタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】光デジタルコヒーレント受信器のブロック構成図である。
【図2】従来の光源周波数オフセット推定回路を示す図である。
【図3】本実施形態を説明するブロック図である。
【図4】図3の構成における位相回転量ベクタの振幅制御範囲について説明する図である。
【図5】従来例と本実施形態とでシミュレーションを行った結果であり、本実施形態の効果を示す図(その1)である。
【図6】従来例と本実施形態とでシミュレーションを行った結果であり、本実施形態の効果を示す図(その2)である。
【図7】従来例と本実施形態とでシミュレーションを行った結果であり、本実施形態の効果を示す図(その3)である。
【図8】従来例と本実施形態とでシミュレーションを行った結果であり、本実施形態の効果を示す図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図3は、本実施形態を説明するブロック図である。
図3においては、図2と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。
【0030】
図3の本実施形態のループフィルタ30aでは、ループフィルタ30a内の位相回転量ベクタの振幅を上限値・下限値内、すなわち、一定範囲の値に調整する振幅調整制御部43を設ける。また、振幅調整を行なうための乗算器42は、ビットシフト+加算で実現し、回路規模削減を図る。また、ループフィルタ係数値αを初期状態と定常状態で切り替える係数α切り替え制御部40を設ける。
【0031】
振幅調整制御部43には、I信号、Q信号の絶対値を閾値と比較・判定する(I,Q)値判定部41と、乗算係数を倍算器37の出力に乗算する乗算器42を備える。振幅調整制御部43は、位相回転量ベクタ格納部36の出力(位相回転量ベクタ)を受信し、その振幅を閾値と比較し判定する。振幅調整制御部43は、位相回転量ベクタに係数αが乗算されたフィードバック信号に、判定結果に従った係数を乗算器42において乗算し、加算器35に入力させる。乗算器42は、係数をフィードバック信号に乗算するのであるが、ビットシフト回路と加算器で実現する。(I,Q)値判定部41は、判定条件1と判定条件2をそれぞれ満たすか、それ以外かを判定し、それぞれの場合の乗算係数を出力する。(I,Q)値判定部41の判定ロジックは、論理回路で実現する。判定条件1は、I信号の絶対値が上限値以上か、あるいは、Q信号の絶対値が上限値以上かというものである。判定条件1が成り立つ場合には、(I、Q)値判定部41は、乗算係数a1を出力する。判定条件2は、I信号の絶対値が下限値以下、及び、Q信号の絶対値が下限値以下であるかというものである。判定条件2が成り立つ場合には、(I,Q)値判定部41は、乗算係数a2を出力する。その他の場合には、乗算係数として、1.0を出力する。
【0032】
上限値と下限値は、設計者が予め設定すべきものであり、実験やシミュレーションなどを行なって決定する。また、乗算係数a1、a2も実験やシミュレーションなどを行なって予め決定されるべきものであるが、a1<1.0<a2という関係を有するようする。すなわち、判定条件1が成り立つときは、位相回転量ベクタのI信号とQ信号のいずれか、又は両者の絶対値が大きくなりすぎていることになるので、位相回転量ベクタの大きさを小さくするように、乗算係数a1を乗算する。また、判定条件2が成り立つときは、位相回転量ベクタのI信号とQ信号の絶対値が小さくなりすぎているので、位相回転量ベクタの大きさを大きくするように、乗算係数a2を乗算する。その他の場合は、位相回転量ベクタのI信号とQ信号の絶対値が上限値と下限値で規定される所定範囲内に収まっているので、位相回転量ベクタの大きさをそのまま乗算器42を通過させればよい。したがって、乗算係数として、1.0を乗算する。
【0033】
係数α切り替え制御部40は、受信処理開始から時間を計数する。所定定数として一定時間t1を保持しており、受信処理開始からt1時間経過した後に、倍算器34、37に設定するαの値を変更する。αの値の変更時から、受信処理の終了までは同じα値を用いる。倍算器34、37も、信号に(1−α)、αという係数を乗算するものなので、ビットシフト回路と加算器で構成し、回路規模を削減するようにすることが出来る。α値は、ループフィルタ30aの平均動作をどのような速度の追従性で実行するかを決定する。αが大きければ、受信信号の変化に対し、平均値が追いつくのが遅くなり、αが小さければ、早くなる。αも実験やシミュレーションなどで、設計段階で設定すべきものである。なお、受信処理開始からt1時間経過する前は、初期状態係数として、α値を小さめに設定し、t1経過後から受信処理終了までは、定常状態係数として、初期状態係数であるα値より大きいα値を設定するようにする。α係数として、小さめの値を持つ初期状態係数を用いることにより、(入力信号)×(1−α)+(位相回転量ベクタ格納値)×αを演算するにおいて、(1−α)の値が大きくなるので、入力信号の値が上記演算結果に与える影響が大きくなり、ループフィルタ30aの出力が、早く入力信号の値に追従するようになる。一方、α係数として、大きめの値を持つ定常状態係数を用いることにより、位相回転量ベクタ格納値の方が、上記演算結果に与える影響が大きくなる。すなわち、以前の演算結果の方が、新しい入力信号よりも大きく演算結果に反映されるために、入力信号への追従は遅くなる。しかし、定常状態においては、ノイズによる入力信号の揺らぎに敏感に追従していては、ループフィルタ30aの出力がノイズにより大きく影響されることになり、好ましくない。したがって、定常状態では、α係数として、大きめの値を持つ定常状態係数を用いる。
【0034】
以上のように、位相回転量ベクタ格納部36から出力される位相回転量ベクタの振幅を一定の範囲内に調整することにより、位相回転量ベクタの振幅が0に近くなることによる、arg()部の出力のバタツキを抑制することが出来る。
【0035】
図4は、図3の構成における位相回転量ベクタの振幅制御範囲について説明する図である。
【0036】
判定条件1は、(I成分の絶対値≧上限値)あるいは(Q成分の絶対値≧上限値)であり、I−Q平面上で、位相回転量ベクタの振幅が、大きくなりすぎていないかについて判定するものである。図4においては、位相回転量ベクタが斜め線の領域に入っている(大きくなりすぎている)場合に、乗算係数a1が(I,Q)値判定部から出力される。判定条件2は、(I成分の絶対値≦下限値)かつ(Q成分の絶対値≦下限値)であり、I−Q平面上で、位相回転量ベクタの振幅が小さくなりすぎていないかについて判定するものである。図4においては、位相回転量ベクタが灰色の領域に入っている(小さくなり過ぎている)場合に、乗算係数a2が(I,Q)値判定部から出力される。すなわち、位相回転量ベクタの実数成分と虚数成分がそれぞれの上限値と下限値で規定される所定範囲内になるように、乗算係数を乗算器42に入力する。
【0037】
位相回転量ベクタの振幅がノイズの影響で小さくなりすぎた場合には、その振幅を大きくすることでarg()部の演算のバタツキを抑える。一方、位相回転量ベクタの振幅がノイズの影響で大きくなりすぎた場合にも、振幅を表現するビット数に限りがあることから、振幅が大きくなりすぎると十分な精度で振幅を表現できなくなってしまうので、その振幅を小さくする。これは、本来ノイズが無い場合には、一定の振幅を位相回転量ベクタが有しているはずのものが、ノイズの影響により大きくなりすぎたり、小さくなりすぎた場合に、本来のノイズが無い場合の振幅に調整しようとするものである。すなわち、arg()部の動作には、精度上位相回転量ベクタが持つべき最適な振幅というものがあるが、振幅をこの最適な範囲に限定しようとするものである。
【0038】
図5〜図8は、従来例と本実施形態とでシミュレーションを行った結果であり、本実施形態の効果を示す図である。
【0039】
図5、6は、収束特性を示す図である。また、横軸をシミュレーション時間とし、縦軸を位相回転量ベクタの持つ位相値としており、中心の横線が目標収束点を示す。図5は、従来技術におけるシミュレーション結果であり、図6は、本実施形態のシミュレーション結果である。それぞれの図において、ループフィルタ係数αが1/1024、1/8192、1/16384の3つの場合について示している。
【0040】
図5の従来例の場合には、αが大きいと、出力される位相回転量ベクタの位相値が目標収束点からずれた値に局所収束してしまい、なかなか元に戻らない様子が示されている。これは、位相回転量ベクタの位相値が正しい値を示さなくなってしまうことを意味し、光源周波数オフセット推定回路として動作する場合にも好ましくない動作となる。
【0041】
一方、図6では、いずれのαの値でも、ほぼ目標収束点周辺に位相回転量ベクタの位相値が収束しており、目標収束点から大きくはなれた値に局所収束しない状態となっている。これは、ループフィルタの動作が正しいものとなっており、光源周波数オフセット推定回路として動作する場合にも好ましい動作が得られるといえる。
【0042】
図7、8は、周波数変動追従特性を示す図である。これらの図において、横軸はシミュレーション時間であり、縦軸は、周波数変動の振幅を示す。図7は従来例のシミュレーション結果であり、図8は本実施形態のシミュレーション結果である。入力信号の周波数を、10Hz,50Hz、100Hz、200Hzの周波数で変動させた場合のそれぞれについて示している。
【0043】
図7の従来例の場合には、ほぼ正しく周波数変動に追従しているように見えても、丸で囲んだ部分のように、検出周波数の値が急激に変化する部分が発生している。このような現象(バタツキ)があると、復号された受信信号にエラーが発生する。
【0044】
一方、図8の本実施形態の場合には、従来例のようなバタツキは発生しておらず、滑らかに周波数変動を追従していることが分かる。このように、バタツキが発生しないことによって、復号された受信信号におけるエラーの発生を抑えることが出来る。
【符号の説明】
【0045】
10 光ファイバ
11、12 偏光ビームスプリッタ
13、14 90°光ハイブリッド
15 局発光源
16 光電変換器
17 ADC部
18 波形歪み補償器
19 位相調整器
20 タイミング再生器
21 周波数可変発振器
22 適応等化器
23 光源周波数オフセット推定・補償部
24 搬送波位相オフセット推定・補償部
29 光源周波数オフセット推定回路
30 ループフィルタ
31 1シンボル遅延器
32 2シンボル間位相差検出部
34、37 倍算器
35 加算器
36 位相回転量ベクタ格納部
38 arg()部
40 係数α切り替え制御部
41 (I,Q)値判定部
42 乗算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素信号の演算結果を格納し、格納した該複素信号を出力するレジスタと、
該レジスタの出力複素信号に所定の係数を乗算する第1の倍算器と、
該レジスタの出力複素信号の振幅が所定範囲内に収まるように制御するための乗算係数を出力する絶対値判定部と、
該第1の倍算器の出力に、該乗算係数を乗算する乗算器と、
入力信号に、(1−該所定の係数)を乗算する第2の倍算器と、
該乗算器の出力と該第2の倍算器の出力を加算し、加算結果を該レジスタに入力する加算器と、
を備えることを特徴とするループフィルタ。
【請求項2】
前記絶対値判定部は、前記乗算係数として、該レジスタの出力複素信号の実数成分の絶対値が上限値以上か、あるいは、虚数成分の絶対値が上限値以上の場合、第1の乗算係数を出力し、該実数成分の絶対値が下限値以下であり、かつ、該虚数成分の絶対値が下限値以下の場合、第2の乗算係数を出力し、他の場合には第3の乗算係数として、1.0を出力し、
前記乗算器は、該第1の倍算器の出力に、第1の乗算係数、第2の乗算係数、あるいは、第3の乗算係数のいずれか1つを乗算することを特徴とする請求項1に記載のループフィルタ。
【請求項3】
前記絶対値判定部が出力する乗算係数の大きさは、第1の乗算係数<第3の乗算係数<第2の乗算係数、を満たすことを特徴とする請求項2に記載のループフィルタ。
【請求項4】
前記絶対値判定部の判定ロジックは、論理回路で実装されることを特徴とする請求項2に記載のループフィルタ。
【請求項5】
前記第1の倍算器と、前記第2の倍算器と、前記乗算器とは、ビットシフト回路と、加算器で構成されることを特徴とする請求項1に記載のループフィルタ。
【請求項6】
前記所定の係数は、0より大きく、1より小さい値であることを特徴とする請求項1に記載のループフィルタ。
【請求項7】
前記複素信号は、光通信におけるI信号とQ信号からなる受信信号の、2シンボル間位相差検出信号であることを特徴とする請求項1に記載のループフィルタ。
【請求項8】
前記所定の係数は、受信処理開始から所定時間の間は、第1の係数を用い、該所定時間経過後は、第2の係数を用いることを特徴とする請求項7に記載のループフィルタ。
【請求項9】
請求項1のループフィルタと、
I信号とQ信号からなる受信信号の2シンボル間位相差を検出し、検出結果と該ループフィルタの出力との差を複素信号として出力する2シンボル間位相差検出部と、
該ループフィルタの出力を該2シンボル間位相差検出部に入力するフィードバック経路と、
該ループフィルタの出力の複素信号の偏角成分を演算する演算部と、
を備えることを特徴とする光源周波数オフセット推定回路。
【請求項10】
請求項9の光源周波数オフセット推定回路を備える光デジタルコヒーレント受信器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−119811(P2012−119811A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265994(P2010−265994)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】