説明

レトルト用透明バリアフィルム

【課題】熱水収縮率をコントロールしたプラスチック基材1を選択し、また蒸着膜2の密着を強化することで、レトルト処理の殺菌処理時によっても性能が劣化しないレトルト溶透明バリアフィルムを提供する。
【解決手段】高温高圧水(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)での加熱処理(レトルト処理)時の収縮率が、プラスチック基材製膜時の製膜方向(MD)において2%未満であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1%未満であるプラスチック基材1上の、少なくとも一方の面に、厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層2を設けることにより、レトルト処理によっても、ガスバリア性を損ねることの無いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品等の高温高圧水での殺菌処理(レトルト処理)を必要とする分野に用いられる耐熱水性を有するレトルト用透明バリアフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品及び医薬品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制しそれらの機能や性質を保持するために、包装材料を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらを遮断するガスバリア性等を備えることが求められている。そのため従来から、温度・湿度などの影響が少ないアルミ等の金属箔をガスバリア層として用いた包装材料が一般的に用いられてきた。
【0003】
ところが、アルミ等の金属箔を用いた包装材料は、温度・湿度の影響がなく高度なガスバリア性に優れるが、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならないなどの欠点を有し問題があった。
【0004】
そこで、これらの欠点を克服した包装材料として、高分子フィルム上に、真空蒸着法やスパッタリング法等の形成手段によりアルミニウムなどの金属、酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を形成したフィルムが開発されている。これらの蒸着フィルムは、酸素、水蒸気等のガス遮断性を有していることが知られ、包装材料として好適とされている。
【0005】
また、食品及び医薬品等には、レトルト処理を始めとする殺菌処理の必要性が増しており、高温高圧下で性能を維持しうる包装材料が望まれている。また安全面、利便性などを考慮すると、透明な耐熱水バリア包装材料が強く要望されている。
【0006】
しかしながら、上記包装材料を従来の透明蒸着フィルムを用いて実現しようとすると、レトルト殺菌後の密着性、ガスバリア性を維持できない。この原因として、透明な無機酸化物蒸着膜と基材の密着性が乏しいこと、透明な無機酸化物蒸着膜の耐熱水性が低く、バリア性を維持しきれないことなどが考えられている。
【0007】
密着性の劣化は、基材最表面に偏在する表面弱結合層(Weak Boundary Layer (WBL))やPETであれば加水分解層などの上に、酸化アルミニウム蒸着がなされているため、この界面にて耐水性十分な化学的結合が得られていないことが考えられる。
ガスバリア性の劣化は、レトルト処理中による基材の熱水収縮が、酸化アルミニウム蒸着膜に圧縮クラックを導入することに由来するものと考えられる。
密着性問題を解決するために、従来からプラズマを用いることによって、インライン前処理によりプラスチック基材上の金属酸化物蒸着の密着性を改善するという試みはなされていたが、従来はインラインでプラズマ処理を行おうとすると、プラズマ発生のための電圧を印加する電極を基材のあるドラム側でなく、反対側に設置されている。この装置の場合、基材はアノード側に設置されることになるため、高い自己バイアスは得られず、結果として高い処理効果を発揮できなかった。
【0008】
高い自己バイアスを得るために、直流放電方式を用いることも出来るが、この方法で高いバイアスの電圧を得ようとすると、プラズマのモードがグローからアークへと変化するため、大面積に均一な処理を行うことは出来ない。
【0009】
以下に公知文献を示す。
【特許文献1】特願2002−339115号公報
【特許文献2】特願2004−154326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、熱水収縮率をコントロールしたプラスチック基材を選択し、また蒸着膜の密着を強化することで、レトルト処理の殺菌処理時によっても性能が劣化しないレトルト溶透明バリアフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1記載の発明は、高温高圧水(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)での加熱処理(レトルト処理)時の収縮率が、プラスチック基材製膜時の製膜方向(MD)において2%未満であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1%未満であるプラスチック基材上の、少なくとも一方の面に、厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層を設けることにより、レトルト処理によっても、ガスバリア性を損ねることの無いことを特徴とするレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0012】
請求項2記載の発明は、上記蒸着工程の前に、プラスチック基材面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)モードのプラズマを利用した前処理を施すことを特徴とする請求項1記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0013】
請求項3記載の発明は、該プラスチック材料がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、セルロース、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリウレタン類の少なくとも一種類以上を成分に持つ、あるいは共重合成分に持つ、あるいはそれらの化学修飾体を成分に持つことを特徴とする請求項1または2記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0014】
請求項4記載の発明は、RIEによる前処理が、アルゴン、窒素、酸素、水素のうちの1種類のガス、またはこれらの混合ガスを用いて行う、もしくは引き続きこれらのガスまたは混合ガスを連続して用いて行う処理であることを特徴とする請求項2または3記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0015】
請求項5記載の発明は、RIEによる前処理が、その自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、またEd=プラズマ密度×処理時間で定義されるEd値が100V・s/m2以上10000V・s/m2以下である低温プラズマによる処理であることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0016】
請求項6記載の発明は、RIEによる前処理と蒸着が、同一製膜機にて行われることを特徴とする請求項2〜5いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0017】
請求項7記載の発明は、無機酸化物蒸着層の上に水溶性高分子化合物、金属アルコキシドおよび/またはその加水分解物および/またはその重合物の少なくとも1種類以上を成分に持つ複合被膜を設けたことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0018】
請求項8記載の発明は、水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールまたはセルロース、デンプンの少なくとも1種類以上を成分に持つことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
【0019】
請求項9記載の発明は、該金属アルコキシドが、シランアルコキシドであることを特徴とする、請求項1〜8いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルムとしたものである。
<作用>
上記発明に依れば、熱水収縮率をコントロールしたプラスチック基材を選択し、また無機酸化物蒸着膜の密着を強化することで、レトルト処理などの殺菌処理時によっても性能が劣化しない透明ガスバリア性フィルムを提供することが出来る。
【0020】
密着性の劣化を抑える作用としては、RIEプラズマによる基材表面弱結合層(Weak Boundary Layer (WBL))やPETであれば加水分解層などの、耐水劣化を起こしやすい層の除去による効果と考えられる。これによりフレッシュな基材表面が提供され、無機酸化物蒸着膜との密着性が向上すると同時に、耐水劣化を起こさない界面を形成すると考えられる。
【0021】
ガスバリア性のレトルト処理による劣化を抑えるメカニズムとしては、熱水処理時による基材の収縮率を抑えることで、収縮による無機酸化物蒸着膜への圧縮クラック導入を阻止し、バリア性を維持することが考えられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレトルト用透明バリアフィルムは、プラスチック基材のレトルト処理時の収縮率を低く抑え、更にRIEによる前処理を行った基材上に無機酸化物蒸着層を形成することで、レトルト処理時の収縮による圧縮クラックを防止し、かつ基材/無機酸化物蒸着層の密着性を維持したレトルト用透明バリアフィルムとすることが出来る。
【0023】
またこの積層体は、食品及び医薬品等の包装に用いられる実用範囲の広い包装材料を提供する事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について、説明する。
図1は、本発明のレトルト用透明バリアフィルムの実施の形態例を、断面で示した説明図である。プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施したプラスチック基材1表面上に、無機酸化物蒸着層2、複合被膜層3が形成されている構造である。無機酸化物蒸着層2、複合被膜層3は基材の両面に形成してもよく、また多層にしてもよい。
【0025】
本発明によれば、上述した基材1はプラスチック材料であり、レトルト処理(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)中の収縮率を、プラスチック基材製膜時の製膜方向(MD)において2%未満であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1%未満である必要がある。
【0026】
また無機酸化物蒸着層の透明性を生かすために可能であれば透明なフィルム基材であることが好ましい。基材の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。さらに、ポリ塩化ビニル、セルロース、トリアセチルセルロース、ポリビニルア
ルコール、ポリウレタン類が挙げられる。以上の材料の少なくとも一種類以上を成分に持つ、あるいは共重合成分に持つ、あるいはそれらの化学修飾体を成分に持つ材料も挙げられる。基材は、延伸、未延伸のどちらでも良く、また機械的強度や寸法安定性を有するものが良い。この中で、二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムやポリアミドフィルムが好ましく用いられる。またこの基材の蒸着層が設けられる面と反対側の表面に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤などが使用されていても良い。
【0027】
基材の厚さはとくに制限を受けるものではなく、また包装材料としての適性を考慮して単体フィルム以外に異なる性質のフィルムを積層したフィルムを使用できる。尚プライマー層、無機酸化物からなる蒸着薄膜層、ガスバリア性被膜層を形成する場合の加工性を考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲が好ましく、特に6〜30μmとすることが好ましい。
【0028】
この基材1と金属または無機酸化物層との密着を強化するために、表面にプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施すことが有効である。このRIEによる処理を行うことで、発生したラジカルやイオンを利用してプラスチック基材の表面に官能基を持たせるなどの化学的効果と、表面をイオンエッチングして不純物等を飛ばしたり平滑化するといった物理的効果の2つの効果を同時に得ることが可能である。このような表面処理を行うことで、後に行う蒸着の際に無機酸化物の緻密な薄膜を形成させることができる。その結果、基材と金属または無機酸化物層との密着性を強化させることができ、ガスバリア性向上やクラック発生防止につながるだけでなく、デラミネーションが起こることがない。
【0029】
RIEによる前処理を行うためのガス種としては、アルゴン、酸素、窒素、水素を使用することが出来る。これらのガスは単独で用いても、2種類以上のガスを混合して用いてもよい。また、2基の処理器を用いて、連続して処理を行ってもよい。
【0030】
加工速度、エネルギーレベルなどで示される処理条件は、基材種類、用途、放電装置特性などに応じ、適宜設定するべきである。ただし、プラズマの自己バイアス値は200V以上2000V以下、Ed=プラズマ密度×処理時間で定義されるEd値が100V・s/m2以上10000V・s/m2以下にすることが必要であり、これより若干低い値でも、ある程度の密着性を発現するが、未処理品に比べて優位性が低い。また、高い値であると、強い処理がかかりすぎて基材表面が劣化し、密着性が下がる原因になる。プラズマ用の気体及びその混合比などに関してはポンプ性能や取り付け位置などによって、導入分と実効分とでは流量が異なるので、用途、基材、装置特性に応じて適宜設定するべきである。
【0031】
無機酸化物蒸着層の厚さは、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがあるので問題がある。より好ましくは、10〜150nmの範囲内にあることである。
【0032】
酸化アルミニウム等からなる無機酸化物蒸着層をプラスチック基材上に形成する方法としては種々在り、通常の真空蒸着法により形成することができる。また、その他の薄膜形成方法であるスパッタリング法やイオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることも可能である。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱
方式のいずれかの方式を用いることが好ましいが、蒸発材料の選択性の幅広さを考慮すると電子線加熱方式を用いることがより好ましい。また無機酸化物蒸着層と基材の密着性及び無機酸化物蒸着層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着することも可能である。
【0033】
RIEによる前処理と蒸着が、同一製膜機(インライン製膜機)にて行っても良い。インライン製膜により、工程を短縮し、安価なフィルムを提供することが出来る。
【0034】
次いで複合被膜層3を説明する。複合被膜層はガスバリア性を持った被膜層であり、水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合したものを溶液とする。この溶液を金属または無機化酸化物からなる無機酸化物蒸着層にコーティング後、加熱乾燥し形成される。コーティング剤に含まれる各成分について更に詳細に説明する。
【0035】
本発明でコーティング剤に用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れるので好ましい。ここでいうPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。PVAとしては例えば、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全PVA等用いることができ、これ以外のものを用いても一向に構わない。
【0036】
また金属アルコキシドは、一般式、M(OR)n(M:Si,Ti,Al,Zr等の金属、R:CH3,C25等のアルキル基)で表せる化合物である。具体的にはテトラエトキシシラン〔Si(OC254〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O−2’−C373〕などがあげられ、中でもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0037】
なお、金属アルコキシドと水溶性高分子の混合からなる複合被膜層は、水素結合からなるため水に膨潤し溶解する恐れがある。これを防ぐために、金属アルコキシドにシランカップリング剤を添加することが好ましい。
【0038】
またこの溶液中にガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、或いは分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0039】
コーティング剤の塗布方法としては、通常用いられるディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法、グラビア印刷法などの従来公知の方法を用いることが可能である。
【0040】
複合被膜層の厚さは、コーティング剤の種類や加工機や加工条件によって最適条件が異なり特に限定しない。但し乾燥後の厚さが、0.01μm未満の場合は、均一な塗膜が得られなく十分なガスバリア性を得られない場合があるので好ましくない。また厚さが50μmを超える場合は膜にクラックが生じ易くなるため問題となる場合がある。好ましくは0.01〜50μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜10μmの範囲にあることである。
【0041】
複合被膜層3の上に印刷層、介在フィルム、シーラント層等を積層させて、包装材料と
することが出来る。
【0042】
介在フィルムは、袋状包装材料時の破袋強度や突き刺し強度を高めるために設けられるもので、一般的に機械強度及び熱安定性の面から二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内から選ばれる一種である必要がある。厚さは、材質や要求品質に応じて決められるが、一般的には10〜30μmの範囲である。
【0043】
更にシーラント層は袋状包装体などを形成する際に接着層として設けられるものである。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びそれらの金属架橋物等の樹脂が用いられる。厚さは目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。
【0044】
基材1の反対面にも、必要に応じて印刷層、介在フィルム、シーラント層等を積層させることも可能である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明のレトルト用透明フィルムの実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
レトルト処理(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)中の収縮率を、基材製膜時の製膜方向(MD)において1%であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において0.5%である厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施した。この時、電極には周波数13.56MHzの高周波電源を用い、自己バイアス値は800V、ED値は450V・s/m2とした。処理ガスにはアルゴン/酸素混合ガスを用いた。この上に、電子線加熱方式を用いた反応蒸着により、酸化アルミニウムを20nmの厚みで成膜して、蒸着フィルムを作製した。
【0047】
<実施例2>
レトルト処理(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)中の収縮率を、基材製膜時の製膜方向(MD)において1.9%であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において0.5%である厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で蒸着フィルムを作製した。
【0048】
<比較例1>
レトルト処理(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)中の収縮率を、基材製膜時の製膜方向(MD)において4%であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1.5%である厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で蒸着フィルムを作製した。
【0049】
<比較例2>
レトルト処理(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)中の収縮率を、基材製膜時の製膜方向(MD)において4%であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1.5%である厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとし、前処理を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で蒸着フィルムを作製した。
【0050】
実施例1〜2、比較例1〜2の蒸着フィルム上に、下記に示す(1)液と(2)液を配合比(wt%)で6/4に混合した溶液を作成した。
(1)液:テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO2換算)の加水分解溶液
(2)液:ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10)
この溶液をグラビアコート法により塗布乾燥し、厚さ0.4μmの複合被膜層を形成した。
【0051】
更に2液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、ドライラミネートにより、上記蒸着フィルム/延伸ナイロン(15μm)/未延伸ポリプロピレン(70μm)の積層サンプルを作成した。
【0052】
<評価1>
・レトルト処理後の酸素透過率
上記積層サンプルを用いて4方パウチを作製し、内容物として水道水を充填したサンプルを、121℃30分のレトルト処理に掛けた。
この処理後、サンプルから水を抜き取り、風乾後、積層サンプルのレトルト処理後の酸素透過度を、モダンコントロール社製(MOCON OXTRAN 10/50A)を用いて、30℃−70%RH雰囲気下で蒸着工程後のフィルムを測定した。
この測定は、レトルト処理後、24時間以内に行った。
結果を表1に示す。
【0053】
<評価2>
・レトルト処理後のラミネート強度
上記レトルト処理後の積層サンプルの蒸着フィルム/延伸ナイロン間のラミネート強度を、オリエンテック社テンシロン万能試験機RTC−1250を用いて測定した(JIS Z1707準拠)。但し、測定の際に測定部位を水で湿潤させながら行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

この評価の結果、本願発明のレトルト用透明バリアフィルムは、酸素透過度が従来のものに比べ劣化せず、ラミネート強度も劣化せず、ラミネート処理によるガスバリア性や密着性の劣化が改善されたレトルト用透明バリアフィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のレトルト用透明バリアフィルムの実施の形態例を断面で示した説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1…プラスチック基材
2…無機酸化物蒸着層
3…複合被膜層
4…RIEによる前処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧水(121℃,2.45×105Pa(ゲージ圧)に30分間維持)での加熱処理(レトルト処理)時の収縮率が、プラスチック基材製膜時の製膜方向(MD)において2%未満であり、かつ製膜時の巾方向(TD)において1%未満であるプラスチック基材上の、少なくとも一方の面に、厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層を設けることにより、レトルト処理によっても、ガスバリア性を損ねることの無いことを特徴とするレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項2】
上記蒸着工程の前に、プラスチック基材面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)モードのプラズマを利用した前処理を施すことを特徴とする請求項1記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項3】
該プラスチック材料がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、セルロース、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリウレタン類の少なくとも一種類以上を成分に持つ、あるいは共重合成分に持つ、あるいはそれらの化学修飾体を成分に持つことを特徴とする請求項1または2記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項4】
RIEによる前処理が、アルゴン、窒素、酸素、水素のうちの1種類のガス、またはこれらの混合ガスを用いて行う、もしくは引き続きこれらのガスまたは混合ガスを連続して用いて行う処理であることを特徴とする請求項2または3記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項5】
RIEによる前処理が、その自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、またEd=プラズマ密度×処理時間で定義されるEd値が100V・s/m2以上10000V・s/m2以下である低温プラズマによる処理であることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項6】
RIEによる前処理と蒸着が、同一製膜機にて行われることを特徴とする請求項2〜5いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項7】
無機酸化物蒸着層の上に水溶性高分子化合物、金属アルコキシドおよび/またはその加水分解物および/またはその重合物の少なくとも1種類以上を成分に持つ複合被膜を設けたことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項8】
水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールまたはセルロース、デンプンの少なくとも1種類以上を成分に持つことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルム。
【請求項9】
該金属アルコキシドが、シランアルコキシドであることを特徴とする、請求項1〜8いずれか1項記載のレトルト用透明バリアフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−62115(P2006−62115A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244785(P2004−244785)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】