説明

レバー装置、パーキングブレーキ装置

【課題】高荷重の回動範囲でも操作性が低下しないレバー装置及びパーキングブレーキ装置を提案すること。
【解決手段】車両に固定されたブラケット18と、ブラケット18に回動可能に支持され、回動により車輪のブレーキユニット22,23に接続されたワイヤ19に張力を作用させ車輪を制動するレバー12と、ブラケット18に形成された複数の歯15に歯合してレバー12の回動位置を維持する、レバー12に回動可能に支持されたポールレバー14と、ポールレバー14に接続されたリリースロッド13と、リリースロッド13を押動し、ポールレバー14と歯の歯合を解除するスイッチ11と、を有するレバー装置100において、ブラケット18に形成された複数の歯15の間隔は、レバー12の回動位置がAの際にポールレバー14が歯合する位置よりも、レバー12の回動位置がAよりも大きいBの際にポールレバー14が歯合する位置の方が小さい、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を制動するブレーキユニットを操作するレバー装置等に関し、特に、ラチェット機構によりブレーキユニットの作動状態を維持するレバー装置及びパーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駐停車中等に停車状態を維持するパーキングブレーキ装置に、運転者がレバーを操作してマニュアルで作動させるものがあり、この場合いわゆる制動力を維持するためラチェット機構が用いられることが多い。パーキングブレーキ装置は、レバー比が固定であることから、制動力を加え始める初期の回動範囲と、十分な制動力が得られる回動範囲とで同じ操作量が必要となる。この点について、初期の回動範囲ではレバー比を小さくしてレバーの回動ロスを小さくし、レバーの回動に大きな力が必要になる回動範囲ではレバー比を大きくして小さな力でレバーを回動させることが可能なパーキングブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図5は、ラチェット機構を備えた従来のパーキングブレーキ装置のレバー装置の一例を示す。車体側にはブラケット104と円弧状の固定部材105が固定され、固定部材105に多数設けられた歯と、レバー101に形成された歯106が歯合している。固定部材105の歯とレバー101に形成された歯106とが歯合しながらピン107に支持され、レバー101は固定部材105の円周上を回動可能となっている。かかる構成により、レバー12の初期の回動範囲では、レバー比が小さいためレバー12の少しのストロークでワイヤ108に張力を作用させることができる。一方、制動力が作用する回動範囲では固定部材105の歯とレバー101の歯106の歯合位置が下方へ移動するので、レバー比を大きくすることができ、小さな力でワイヤ108に張力を作用させることができる。
【特許文献1】特開昭58−50025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のパーキングブレーキ装置は、初期の回動範囲でストローク量が少なく、十分な制動力が得られる回動範囲で大きなストロークが必要となるため、レバー101が運転者の躰に接近してくる回動範囲で操作性が低下するおそれがある。すなわち、レバー101が運転者の躰に接近してくるほどストローク量が必要となるので、操作性が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、高荷重の回動範囲でも操作性が低下しないレバー装置及びパーキングブレーキ装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、車両に固定されたブラケットと、ブラケットに回動可能に支持され、回動により車輪のブレーキユニットに接続されたワイヤに張力を作用させ車輪を制動するレバーと、ブラケットに形成された複数の歯に歯合してレバーの回動位置を維持する、レバーに回動可能に支持されたポールレバーと、ポールレバーに接続されたリリースロッドと、リリースロッドを押動して、ポールレバーと歯の歯合を解除するスイッチと、を有するレバー装置において、ブラケットに形成された複数の歯の間隔は、レバーの回動位置がAの際にポールレバーが歯合する位置よりも、レバーの回動位置がAよりも大きいBの際にポールレバーが歯合する位置の方が小さい、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、レバーの回動位置が大きいとラチェット歯の間隔が小さくなるので、低荷重〜高荷重まで操作性を低下させることなくパーキングブレーキ装置を作動させることができる。
【発明の効果】
【0008】
高荷重の回動範囲でも操作性が低下しないレバー装置及びパーキングブレーキ装置を提案することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のパーキングブレーキ装置が備えるレバー装置100の概略構成図の一例を示す。レバー装置100の特徴的な構成は、ラチェット機構におけるラチェット歯15の歯車間隔が一定でなく、レバー12の回動位置が大きい場合にポールレバー14と歯合する領域のラチェット歯15のノッチ間隔(隣接した歯の間隔)は、回動位置が小さい場合にポールレバー14と歯合する領域のラチェット歯15のノッチ間隔よりも小さい点にある。
【0010】
すなわち、初期の回動範囲(以下、オフ点付近という)ではノッチ間隔が大きくなり、車輪を制動可能な回動範囲(以下、オン点付近という)ではノッチ間隔が小さいことになる。かかる構成により、オフ点付近における1ノッチ当たりのストローク量が大きくなり、オン点付近における1ノッチ当たりのストローク量を小さくすることができる。
【0011】
低荷重なオフ点付近ではノッチ数が少ないのでオフ点が明確になり、引きずり防止(運転者は解除したつもりが解除されていない)が容易になり、また、オフ点付近から1ノッチ目まで大きなストロークが必要なので、ノッチ数でオン点を判断する運転手にとってオン点を判断しやすくなる(坂道でパーキングブレーキをかけたつもりでずり下がることを防止できる)。
【0012】
また、高荷重なオン点付近では1ノッチ当たりのストローク量が小さいので、ノッチ数を稼ぎやすくなり、運転者の操作力に応じて所望の制動量が得られやすくなる。
【0013】
〔レバー装置100の構成〕
レバー装置100は、車体側に固定されたブラケット18と、ピン17に回動可能に支持されたレバー12と、レバー12に対し相対移動可能なリリースロッド13と、リリースロッド13に連結されたポールレバー14と、レバー12にナット16で固定されたワイヤ19とを有する。ワイヤ19の他端はブレーキユニットに連結されている。
【0014】
ブラケット18におけるポールレバー14の対向面にはラチェット歯15が形成されている。また、ポールレバー14はピン21に回転自在に支持されると共に、爪部14aがラチェット歯15に歯合するように付勢されている。したがって、ポールレバー14は常にラチェット歯15のいずれかの歯と歯合するようになっている。
【0015】
ラチェット歯15は、車体に対し上方ほど(又はレバー12の回動位置が大きいほど)歯の間隔が一様に(徐々に)小さくなっている。なお、実際には、ピン17を中心の円弧状の形状を備えている。
【0016】
運転者がレバー12を回動させると(引き起こすと)レバー12はピン17を中心に回動して、ワイヤ19が車両前方に引っ張られ、ワイヤ19の他端に接続されたブレーキユニットが車両を制動させる(以下、ブレーキユニットが作動するという)。ラチェット歯15は、谷を中心に車両後方にはなだらかな角度で形成され、車両前方には大きな角度で形成されているので、レバー12を引き起こす際には爪部14aがラチェット歯15を容易に乗り越えることができるが、運転者がレバー12から手を離しても爪部14aは逆方向にはラチェット歯15を乗り越えることができないので、ブレーキユニットの作動状態を保つことができる。
【0017】
ブレーキユニットの作動を解除する際は、運転者が解除ボタン11を押下するとポールレバー14が付勢力に打ち勝ってピン21を中心に回動する。これにより、爪部14aとラチェット歯15の歯合による系止が解除されるので、レバー12をオフ点まで戻すことができるようになる。
【0018】
〔パーキングブレーキ装置〕
レバー装置100を適用したパーキングブレーキ装置について簡単に説明する。図2は、パーキングブレーキ装置200の概略構成図の一例を示す。パーキングブレーキ装置200は、レバー装置100、及び、車両の右後輪RRと左後輪RLとにそれぞれ制動力を作用させるブレーキユニット22,23を有し、レバー装置100とブレーキユニット22、23はイコライザ30を介して接続されている。イコライザ30は、レバー装置100の張力を2つのケーブル25、26に等分に分配する。なお、図2では後輪にブレーキユニット22,23を装着したが前輪に装着してもよい。
【0019】
ブレーキユニット22,23にはドラムブレーキが採用されている。ブレーキユニット22、23は、ホイールに固定されホイールとともに回転する筒状のブレーキドラム31、ブレーキドラム31内部に配置される一対のブレーキシュー32、ブレーキシュー32に固定され、ブレーキドラム31に押接されることによりホイールに制動力を与えるライニング33等により構成される。
【0020】
一対のブレーキシュー32の一方には、ブレーキシューレバー35の一端が、ピンにより回転可能に取り付けられており、ブレーキシューレバー35の他端に、ケーブル25、26の一端が接続される。ブレーキシューレバー35はシューストラット34により、他方のブレーキシュー32と連結されている。したがって、ワイヤ19がレバー装置100により引っ張られると、ブレーキシューレバー35及びシューストラット34により一対のブレーキシュー32が拡開され、ライニング33がブレーキドラム31の内周面に押接されることによりホイールに制動力が加えられる。
【0021】
〔レバー装置100の作用〕
レバー装置100の作用について説明する。図3(a)はオン点付近のストローク量とオフ点付近のストローク量を模式的に説明する図の一例である。なお、比較のため、従来のレバー装置100におけるオン点付近のストローク量とオフ点付近のストローク量を模式的に示す図を図3(b)に示した。
【0022】
上記のように、本実施形態のレバー装置100のラチェット歯15は、オフ点付近とオン点付近でノッチが異なる。これに対し、従来のレバー装置100のラチェット歯15ではオフ点からオン点までほぼノッチの間隔は均一である。このため、従来のレバー装置100では、オン点付近の1ノッチ当たりのストローク量A‘とオフ点付近の1ノッチ当たりのストローク量B’は同程度である(ストローク量A‘≒ストローク量B’)。
【0023】
これに対し、図3(a)のレバー装置100では、オフ点付近では1ノッチの間隔が大きく、オン点付近は1ノッチの間隔が小さい。このため、オフ点付近では1つのノッチを超えるためのストローク量Aを大きくでき、オン点付近では1つのノッチを超えるためのストローク量Bを小さくすることができる(ストローク量A>ストローク量B)。
【0024】
なお、ストローク量の関係は例えば次のようになる。
ストローク量B<ストローク量A‘(orB’)<ストローク量A
ストローク量Aは例えばストローク量A‘(orB’)の1.5倍〜数倍程度であり、ストローク量Bは例えばストローク量A‘(orB’)の3/4〜1/5程度にすることができる。
【0025】
1)オフ点付近のストローク量が大きいということは、パーキングブレーキ装置200を作動させる際、1ノッチを超えるために必要な荷重が大きくなることを意味しており、ノッチ数でパーキングブレーキ装置200の作動を判断する運転者にとって、作動状態の判断が容易になり、車両が例えば坂道でずり下がることを防止しやすくなる。
【0026】
また、パーキングブレーキ装置200を解除する際、オフ点が明確になるので、パーキングブレーキ装置が作動した状態で車両が走行してしまう引きずりを容易に防止できる(ブレーキシューの摩耗防止、燃費向上が図れる。)。
【0027】
2)オン点付近のストローク量が小さいということは、1ノッチを超えるために必要な荷重が小さくてよいことを意味しており、高荷重側のオン点付近でノッチ数を稼ぎやすくすることができる。例えば、力の小さい運転者にとって、制動力が作用する回動位置でラチェット歯15とポールレバー14を係止しやすくすることができる。
【0028】
〔レバー装置100の変形例〕
図4はレバー装置100のいくつかの変形例を示す。図3(a)では、ラチェット歯15のノッチ間隔を徐々に小さくしているが、図4(a)に示すように、ノッチ間隔は段階的に小さくしてもよい。図4(a)では、ラチェット歯15のノッチ間隔を3段階に変えているが、例えば2段階や4段階としてもよく、段階的に小さくすることでコスト増を抑制しやすくできる。
【0029】
また、1ノッチのストロークを大きくしたいオフ点付近では、連続的にラチェット歯15を形成しなくてもよい。図4(b)では、オフ点付近でラチェット歯15の一部を欠損する態様とした。ラチェット歯15の一部を削除することで、作動状態の判断がより容易になりオフ点がより明確になる。また、オフ点付近では低荷重でレバー12をストローク可能なのでラチェット歯15の一部が欠損していても、1ノッチを超えられない等の支障が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】パーキングブレーキ装置のレバー装置の概略構成図の一例である。
【図2】パーキングブレーキ装置の概略構成図の一例である。
【図3】オン点付近のストローク量とオフ点付近のストローク量を模式的に説明する図の一例である。
【図4】レバー装置のいくつかの変形例を示す図である。
【図5】ラチェット機構を備えた従来のパーキングブレーキ装置のレバー装置の一例である。
【符号の説明】
【0031】
11 解除ボタン
12 レバー
13 リリースロッド
14 ポールレバー
15 ラチェット歯
19 ワイヤ
100 レバー装置
200 パーキングブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に固定されたブラケットと、
前記ブラケットに回動可能に支持され、回動により車輪のブレーキユニットに接続されたワイヤに張力を作用させ車輪を制動するレバーと、
前記ブラケットに形成された複数の歯に歯合して前記レバーの回動位置を維持する、前記レバーに回動可能に支持されたポールレバーと、
前記ポールレバーに接続されたリリースロッドと、
前記リリースロッドを押動して、前記ポールレバーと前記歯の歯合を解除するスイッチと、を有するレバー装置において、
前記ブラケットに形成された複数の歯の間隔は、前記レバーの回動位置がAの際に前記ポールレバーが歯合する位置よりも、前記レバーの回動位置がAよりも大きいBの際に前記ポールレバーが歯合する位置の方が小さい、
ことを特徴とするレバー装置。
【請求項2】
車輪の制動時に、前記ポールレバーが歯合する前記ブラケットに形成された複数の歯の間隔は、車輪の非制動時に、前記ポールレバーが歯合する前記ブラケットに形成された複数の歯の間隔、よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1記載のレバー装置。
【請求項3】
前記ブラケットに形成された複数の歯の間隔は、前記レバーの回動位置が大きくなるほど小さくなっている、
ことを特徴とする請求項2記載のレバー装置。
【請求項4】
車輪の非制動時に、前記ポールレバーが歯合する位置の前記ブラケットに形成された複数の歯は、一部が欠損している、
ことを特徴とする請求項2記載のレバー装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のレバー装置と、
前記ワイヤに接続されたイコライザと、イコライザと一対のケーブルにより接続され、前記ワイヤの張力により左右の車輪を制動するドラムブレーキと、
を有することを特徴とするパーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−36642(P2010−36642A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199464(P2008−199464)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】