説明

レンズおよびその製造方法

【課題】半導体撮像素子を搭載する小型撮像装置に好適な、レンズとしての光学的機能を有し、かつ色感度補正を可能にする近赤外光吸収性を有するレンズおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスを精密プレス成形してなるレンズ。特に、中心軸部分における厚みをt0[mm]、前記ガラス中のCu2+の含有量をMCu[カチオニック%]としたときに、MCu×t0が0.9〜1.6カチオニック%・mmの範囲にあるレンズ。Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスからなるガラスプリフォームを精密プレス成形することを含む、このレンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu含有フツリン酸塩ガラス製のレンズとその製造方法に関し、CCD、CMOSなどの半導体撮像素子の色補正に用いて好適な近赤外線吸収フィルタ機能を有する撮像用のレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にCCDやCMOSなどの半導体撮像素子は、分光感度が可視域から近赤外域まで伸びている。そのため、この近赤外域をフィルタによりカットし、分光感度を人間の視感度に近似させ、色再現を良好にする手段が用いられている。一方、フィルタの紫外域側の吸収が可視域まで及ぶと、今度は画像が暗くなってしまうことになる。したがってこの種のフィルタは、400〜520nmの光の透過率が可能な限り高く、近赤外線の吸収が大きいことが必要とされる。
【0003】
このようなフィルタ用の材料としては特許文献1に開示されている近赤外線吸収フィルタ用ガラスが知られている。
【特許文献1】特開平10−194777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、カメラ付き携帯電話に代表されるように、半導体撮像素子を搭載した撮像機能を有するモバイル機器の普及は増加の一途をたどっている。このような機器はできるだけコンパクトに撮像光学系を構成しなければならないという要求がある。従来の撮像光学系は、撮像素子の受光面に被写体像を結像するレンズ系と撮像素子の色感度補正用フィルタ、場合によっては、光ローパスフィルタを加えた部品群によって構成されていた。ここで、レンズ系のうちの一枚のレンズを近赤外光吸収ガラスで形成すれば、このレンズに色感度補正機能を付加することができ、レンズ系とは別に色感度補正用フィルタを用いなくても済むというメリットが得られる。その結果、部品点数を減らし、撮像光学系が占めるスペースを小さくすることができるので、モバイル機器などに搭載する撮像装置としては好都合である。
【0005】
そこで本発明は、半導体撮像素子を搭載する小型撮像装置に好適な、レンズとしての光学的機能を有し、かつ色感度補正を可能にする近赤外光吸収性を有するレンズおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は以下のとおりである。
[1] Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスを精密プレス成形してなるレンズ。
[2] 中心軸部分における厚みをt0[mm]、前記ガラス中のCu2+の含有量をMCu[カチオニック%]としたときに、MCu×t0が0.9〜1.6カチオニック%・mmの範囲にある[1]に記載のレンズ。
[3] 前記ガラスがガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスであり、厚みt0が0.6mm以上である[2]に記載のレンズ。
[4] メニスカス形状を有する[1]〜[3]のいずれかに記載のレンズ。
[5] 凸メニスカス形状を有する[4]に記載のレンズ。
[6] 前記ガラスが、カチオニック%表示で、
5+ 11〜43%、
Al3+ 1〜29%、
Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+およびZn2+を合計で14〜50%、
Li+、Na+およびK+を合計で0〜43%、
La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+およびTa5+を合計で0〜12%、
Cu2+ 0.5%以上、
Sb3+ 0〜0.1%、
を含み、さらにアニオニック%表示で、
- 10〜80%
を含有するフツリン酸塩ガラスである[1]〜[5]のいずれかに記載のレンズ。
[7] Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスからなるガラスプリフォームを精密プレス成形することを含む、[1]〜[6]のいずれかに記載のレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半導体撮像素子を搭載する小型撮像装置に好適で、かつ前記撮像素子の色感度補正を可能にするレンズおよびその製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、フツリン酸塩ガラスが低い転移温度を示すことを利用して、良好な結像性能および前記色感度補正機能を合わせ持った精密プレス成形してなるレンズを提供することができる。
【0008】
特に、上記[2]の態様の本発明によれば、Cu2+の含有量を小さくしてレンズの厚みを所定の厚み以上としているので、中心軸に沿ったレンズ内光路長と光軸から離れた部分におけるレンズ内光路長の差があるレンズであっても、各光路を通過する光線の光透過量差を小さくすることができ、色感度補正のムラの少ないレンズを提供することができる。
【0009】
また、上記[3]の態様の本発明によれば、極めて低温軟化性を有し、精密プレス成形時のガラス加熱温度幅が狭いガラスを用いても、レンズの厚みを所定値以上確保することにより、割れにくく、しかも半導体撮像素子の色感度補正を良好に行うことができるレンズを提供することができる。
【0010】
さらに、上記[6]の態様の本発明によれば、Cu2+の含有量、レンズの厚みを上記範囲にしても、優れた耐候性を有するガラス組成でレンズを形成するので、諸特性の優れたレンズを提供することができる。
【0011】
また、上記[7]の態様の本発明によれば、上記各レンズを精密プレス成形で量産可能にするレンズの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のレンズは、Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスを精密プレス成形してなるレンズである。Cu2+は近赤外光を吸収する性質があるので、CCD、CMOSなどの半導体撮像素子の色感度を補正することができる。また、Cu2+を含むベースとなる組成がフツリン酸系の組成なので、色感度補正に好適な透過率特性を実現しつつ、優れた耐候性を有するレンズを提供することができる。精密プレス成形については後述する。
【0013】
本発明の好ましい態様は、中心軸部分における厚みをt0[mm]、前記ガラス中のCu2+の含有量をMCu[カチオニック%]としたときに、MCu×t0が0.9カチオニック%・mm〜1.6カチオニック%・mmの範囲にあるレンズである。
【0014】
レンズの中心に入射する光線のレンズ内光路長はレンズに入射する光の方向によってまちまちであるが、レンズが中心軸に対して対称であるため、前記各光線の平均をとると、レンズ中心に入射する光線のレンズ内光路長はレンズ中心軸に沿って進む光線のレンズ内光路長によって代表される。したがって、この代表的な光路長に対して色感度補正機能に適した含有量MCuのCu2+を含むガラスを用いてレンズを成形すれば、より良好な色感度補正を行うことができる。このような観点から、MCu×t0の好ましい範囲は1.0〜1.6カチオニック%・mm、より好ましい範囲は1.0〜1.5カチオニック%・mm、さらに好ましい範囲は1.05〜1.4カチオニック%・mmである。
【0015】
本発明のさらに好ましい態様は、前記態様のレンズ[MCu×t0が0.9カチオニック%・mm〜1.6カチオニック%・mmの範囲にあるレンズ]であって、ガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスからなり、光軸部分における厚みt0が、0.6mm以上であるレンズである。
【0016】
ガラス転移温度(Tg)が400℃以下と低いガラスでは、ガラスが所定の粘度を示す温度も全体的に低くなり、ガラスの熔融温度も低くなることから、ガラスの透過率特性を悪化させるCu2+からCu+への価数変化を抑制することができる。しかし、上記のようにガラス転移温度が400℃以下と極めて低いと、精密プレス成形時における適正なガラスの加熱温度幅が狭くなってしまう。すなわち、前記加熱温度が高すぎるとガラスが発泡してしまい、均質なレンズを得られなくなり、一方、加熱温度が低すぎると高粘度のガラスを無理やりプレスすることになるので、ガラスが割れやすくなり、安定してレンズを得られない。精密プレス成形で肉薄のレンズを成形しようとすると、精密プレス成形用のガラス予備成形体、すなわちプリフォームを肉薄形状にプレスしなければならず、肉厚のレンズを成形する場合に比べてガラスが破損しやすくなる。そこで、本態様は、ガラスとしてガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスを用い、かつレンズの光軸部分(中心軸)における厚みt0を0.6mm以上として精密プレス成形時におけるレンズの破損を低減する。ガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスは、フツリン酸塩ガラスの組成を以下のように調整することで得ることができる。即ち、P5+、アルカリ土類金属イオンを必須カチオン成分とし、任意カチオン成分として、Al3+、Zn2+、アルカリ金属イオンなどを導入し、アニオン成分としてF-、O2-を含み、この組成に適量のCu2+を導入することで、ガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスを調製出来る。また、上記フツリン酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の下限に、特に制限はないが、300℃を目安とし、フツリン酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の好ましい範囲は300〜400℃の範囲である。
【0017】
また、t0を0.6mm以上にすることにより、適正なMCuを減少させることもできる。その結果、光軸部分におけるレンズ内光路長と光軸から離れた部分におけるレンズ内光路長の差があっても、前記厚みが薄いレンズに比べて、各光路を通過する光線の光透過量の差を小さくすることができるため、レンズ面全域においてより良好な色補正を行うことができる。また、適正なMCuを減少させることにより、次のような効果を得ることもできる。
【0018】
レンズを構成するガラスの透過率について着目すると、波長615nmにおいて透過率が50%になる厚みでの分光透過率特性が、色感度補正に直接影響する。MCuが多いと前記厚みにおける波長350nm〜400nmの透過率が減少し、近赤外光をカットできるものの、青色光の透過率が低下するので画像の色バランスが悪化するおそれが生じる。それに対し、t0を0.6mm以上にすることにより、MCuが比較的小さくても良好に赤外光をカットできるような赤外光吸収性を付与でき、かつ前記光軸における厚みでの波長350nm〜400nmの透過率を高く保つことができる。その結果、全体としてより良好な色感度補正の性能を有するレンズが得られる。このような観点からt0を0.7mm以上とすることがより好ましく、0.75mm以上とすることがさらに好ましく、0.8mm以上とすることがより一層好ましく、0.9mm以上とすることがなお一層好ましい。
【0019】
精密プレス成形に支障がなければ、前記厚みの上限には特に制限はないが、色感度補正フィルタ機能とレンズ機能を一つの光学素子に付与して撮像光学系をコンパクト化するという目的から、t0を5mm以下にすることが好ましい。
【0020】
本発明の好ましい態様は、メニスカス形状を有するレンズである。メニスカスレンズは、中心軸部分の肉厚と中心軸から離れた部分の肉厚の差が、両凸レンズや両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズよりも小さい。したがって、本発明のように一定組成のガラスからなるレンズでは、中心軸に近い部分を通過する光線のレンズ内光路長と中心軸から離れた部分を通過する光線のレンズ内光路長の差を小さくすることができ、前記2つの光線における光透過量の差を小さくすることができる。そして、中心軸部分における厚みを上記範囲にすることにより、レンズ面全域にわたり、半導体撮像素子の色感度補正に必要な色補正を良好に行うことができる。本態様のより好ましい態様は、凸メニスカスレンズ(正メニスカスレンズともいう。)である。さらに本発明のレンズは後述するように、2つのレンズ面に加えて2つの鍔状平坦部を有するものであることができる。
【0021】
本発明のレンズは、フツリン酸塩ガラスからなり、フツリン酸塩ガラスは、屈折率(nd)が概ね1.45〜1.58の範囲にある。前記範囲の屈折率(nd)のガラスからなるレンズは撮像光学系の撮像素子側に配置することが有利であり、そのため正のパワーを有する凸メニスカスレンズとするのが撮像光学系を構成する上で好ましい。
【0022】
次に本発明のレンズの材料として好適なガラスについて説明する。まず、含有量MCuのCu2+を含む場合、優れた耐候性、耐失透性を示すベースガラスであることが望まれる。さらには、熔融時にCu2+からCu+に価数変化して色感度補正機能が損なわれないようにするため、低温で熔融可能なガラスであることが望まれる。
【0023】
このような要望を満たすガラスとしては、例えば、カチオニック%表示で、
5+ 11〜43%、
Al3+ 1〜29%、
Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+およびZn2+を合計で14〜50%、
Li+、Na+およびK+を合計で0〜43%、
La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+およびTa5+を合計で0〜12%、
Cu2+ 0.5%以上、
Sb3+ 0〜0.1%、
を含み、さらにアニオニック%表示で、
- 10〜80%
を含有するフツリン酸塩ガラスを挙げることができる。
【0024】
Cuを含むガラスとしては、一般に、リン酸塩ガラスおよびフツリン酸塩ガラスがある。リン酸塩ガラスは耐候性が悪いのに対し、フツリン酸塩ガラスは耐候性に優れている。フツリン酸塩ガラスの中でも、アルミの含有量が多くなると耐候性が良化する。しかし、アルミの量が過剰になると、熔融性が低下する。しかし、熔融性が低下したガラスの場合、熔融温度を上昇して原料の熔け残りがないようにすると、Cuイオンが還元されて色感度補正機能が悪化してしまう。波長400nm付近の透過率が低下してしまい、透過させたい波長域の光の量が低下してしまうことになる。本発明で用いる上記ガラス組成は、ガラスの耐候性、熔融性および色感度補正機能のバランスに配慮した組成である。
【0025】
このCu2+含有フツリン酸塩ガラスは、ガラス骨格を形成する成分としてのP5+をベースとし、その上に、量産するに充分な耐失透性を維持し、かつ耐候性を向上させるAl3+および二価カチオン(Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+の少なくとも一種以上のカチオン)を必須成分とし含有する。さらにこのガラスは、熔融時にガラスの粘度を下げて低温での熔融を可能にするためのアルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+の少なくとも一種以上のカチオン)、透過率特性に影響を与えることなく耐磨耗性を改善するためのカチオン(La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+、Ta5+の少なくとも一種以上のカチオン)を任意成分として含有できる。加えてこのガラスは、この組成に、Sb3+をCuの価数調整のために任意に添加することができる。
【0026】
ガラスの耐候性および透過率特性は、フツリン酸塩ガラス中の2価カチオン成分の種類、含有量を変化させても大きく変化せず、2価カチオン成分の一部をアルカリ金属イオンやLa3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+、Ta5+に置換したり、F-の一部をO2-で置換しても上記特性が大幅に変化することはない。従って、一定の範囲内で、2価カチオン成分の種類、含有量を変化させたり、2価カチオン成分の一部の置換、F-の一部のO2-での置換は可能である。この点については後述する。
【0027】
以下、特記しない限り、カチオンの含有量をカチオニック%、アニオンの含有量をアニオニック%で表示する。
【0028】
5+は前記のようにガラス骨格を形成する成分である。但し、P5+が11%未満ではガラス化が困難となり、43%を越えると耐候性の低下を招くことになる。したがってP5+の量は11〜43%とすることが適当である。P5+の量は、好ましくは20〜40%、より好ましくは23〜35%の範囲である。
【0029】
Al3+は耐候性を向上させる有効な成分である。但し、Al3+が1%未満ではその効果が得られにくく、29%を越えると、ガラスの熔融性が低下する。したがってAl3+の量は1〜29%の範囲とすることが適当である。Al3+の量は、好ましくは5〜20%、より好ましくは8〜18%の範囲である。
【0030】
Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、およびZn2+は、ガラスの耐候性の向上に有効な成分である。但し、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、およびZn2+の合計量が14%未満だと、ガラス化しにくくなり、50%を越えると、失透しやすくなる。したがって前記の合計量は14〜50%の範囲とすることが適当である。前記の合計量は、好ましくは18〜40%、より好ましくは20〜35%の範囲である。
【0031】
Li+、Na+およびK+は任意成分である。Li+、Na+およびK+の合計量が43%を越えると、ガラスの耐候性が低下する傾向がある。したがってLi+、Na+およびK+の合計量は0〜43%の範囲とすることが適当である。この合計量は、好ましくは5〜38%、より好ましくは15〜35%の範囲である。
【0032】
La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+およびTa5+も任意成分である。これらの成分は、透過率特性を損なうことなく、耐磨耗性を改善する働きをするが、その合計量が12%を超えると、ガラスの安定性が低下する傾向がある。そこで、La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+およびTa5+の合計量は0〜12%とすることが適当である。この合計量は、好ましい範囲は0〜10%、より好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜2%である。
【0033】
Cu2+は近赤外域吸収のための必須のカチオンであり、0.5%未満ではその吸収が不充分となり、かつ均質にガラス中に導入することが難しくなる。したがって、その量は0.5%以上とすることが適当である。なお、Cu2+の含有量上限は、レンズの厚みt0の下限との関係により決まるが、厚みt0を考慮せず、ガラスとしての安定性が得られる上限量を上限とするならば、8%以下が適当であり、5%以下にすることが好ましく、4%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
Sb3+は任意成分である。Sb3+は0〜0.1%の範囲で含有させることで、波長400nm付近の透過率を向上させる働きをする。
【0035】
-はガラス転移温度を下げ、耐候性向上に寄与する必須成分である。F-の量が10%未満でと耐候性が低下する傾向があり、80%を超えるとCuイオンがCu+になりやすくなり、波長400nm付近の透過率が低下する傾向がある。したがってF-の量は10〜80%の範囲とすることが適当である。F-の量は、好ましくは17〜80%、より好ましくは25〜60%、さらに好ましくは25〜50%の範囲である。
【0036】
上記ガラスはフツリン酸塩ガラスであるから、アニオンの全残量をO2-とすることが、所望の透過率特性を得るために好ましい。
【0037】
次に上記組成におけるBa2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+の各量について説明する。
【0038】
耐失透性を向上させる上から前記組成範囲内で、Ba2+の含有量は0〜8%とすることが好ましく、1〜8%とすることがより好ましく、2〜8%とすることがさらに好ましい。
【0039】
Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+の組成範囲も耐失透性を向上させる上で、以下範囲とすることが好ましい。即ち、Sr2+の含有量は0〜15%とすることが好ましく、1〜15%とすることがより好ましく、2〜14%とすることがさらに好ましい。
【0040】
Ca2+の含有量については、0〜15%の範囲が好ましく、3〜15%の範囲がより好ましく、3〜13%の範囲がさらに好ましい。
【0041】
Mg2+の含有量については、0〜10%の範囲が好ましく、1〜10%の範囲がより好ましく、1〜6%の範囲がさらに好ましい。
【0042】
Zn2+の含有量については、0〜6%の範囲が好ましく、0〜5%の範囲がより好ましい。
【0043】
次に上記組成におけるLi+、Na+、K+の各量について説明する。
耐失透性を改善し、耐久性を悪化させない上から前記組成範囲内で、Li+の量を0〜40%とすることが好ましく、5〜40%の範囲がより好ましく、10〜35%の範囲がさらに好ましい。
【0044】
Na+、K+の下記組成範囲も、耐失透性を改善し、耐久性を悪化させない上で以下の範囲とすることが好ましい。即ち、Na+の含有量は0〜13%の範囲が好ましく、0〜10%の範囲がより好ましく、0〜9%の範囲はさらに好ましい。
【0045】
+の含有量は0〜5%の範囲が好ましく、0〜4%の範囲がより好ましく、0〜3%の範囲はさらに好ましい。
【0046】
上記組成の中でも、上記諸特性を良化しつつ量産性を高める上から、カチオンについては、P5+、Al3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Li+、Na+、Cu2+、Sb3+の合計量を99%以上にすることが好ましく、100%にすることがさらに好ましい。
【0047】
尚、上記ガラスは、SiO2を含有することもできる。特許文献1には、SiO2は、ガラスを安定化させる効果があると記載さている。しかし、SiO2を含有するガラスは、熔融性が低下し、熔融性が低下すると熔融温度を上げなければならず、その結果、Cuイオンが還元されて色感度補正機能が低下するおそれが生じる。従って、このような点を考慮すると、上記ガラスは、SiO2を含むことはできるが、含まない方が好ましく、上記のように、カチオンについては、P5+、Al3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Li+、Na+、Cu2+、Sb3+の合計量を100%にすることがさらに好ましい。
【0048】
次に、レンズの製造方法について説明する。
本発明のレンズは、ガラスプリフォームを精密プレス成形して得られるレンズであり、その製造方法である、ガラスプリフォームを精密プレス成形することを含むレンズの製造方法も本発明に包含される。
【0049】
まず、レンズの製造方法では、前述のレンズを構成するフツリン酸塩ガラスからなるガラスプリフォームが調製される。ガラスプリフォームを作るために、フッ化物、酸化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩などのガラス原料を調合し、十分混合して熔融容器内に導入し蓋をして加熱し、800〜900℃で熔融し、次いで清澄、均質化する。
【0050】
均質な熔融ガラスをパイプから流出して鋳型に鋳込み、厚板状のガラス成形体に成形する。この成形体をアニールして除歪し、切断、研削、研磨して滑らかな表面を有する球状のプリフォームを作製する。あるいは、均質な熔融ガラスをパイプから滴下して、得られたガラス滴を成形型で受け、成形型に設けられた底部にガスを上向きに噴出するガス噴出口を有するラッパ状の凹部でガラス滴をランダムな方向に回転して球状プリフォームに成形してもよい。このようにして作ったプリフォームを上型、下型、スリーブ型を含む型部品により構成されるプレス成形型でプレス成形してレンズを得る。
【0051】
プレス成形型の型材の加工および型材の材質、上型、下型の成形面に形成する離型膜、離型膜の形成法、精密プレス成形を行う雰囲気の種類などは公知の技術を適用すればよい。
【0052】
例えば、まず、球状プリフォームをスリーブ型の貫通孔内に挿入した凹面形状の下型成形面の中心に配置し、下型成形面に成形面が対向するように上型をスリーブ型の貫通孔内に挿入する。この状態でプリフォームとプレス成形型を一緒に加熱して、プリフォームを構成するガラスの温度が、例えば、106dPa・sの粘度を示す温度にまで上昇したときに、上型と下型でプリフォームを加圧する。加圧されたプリフォームは上型、下型、スリーブ型により囲まれた空間(キャビティという。)内に押し広げられる。このようにして、ガラス製プリフォームをプレスして、プレス成形型を型閉めした状態で形成される密閉空間内にガラスを充填する。
【0053】
型閉め状態での上型、下型、スリーブ型の各成形面の相対位置、面法線のなす角度を精密に形成しておく。このようなプレス成形型を使用して上記成形を行えば、光学機能面と位置決め基準面を互いに高精度の位置関係、角度で形成することができる。
【0054】
上型成形面の中央部をレンズの光学機能面であるレンズ面を転写成形する面とし、周辺部を鍔状平坦部を転写成形する輪帯状の平面とする。下型成形面についても同様に中央部をレンズ面を転写成形する面、周辺部を鍔状平坦部を転写成形する輪帯上の平面とする。プレス成形終了まで上下型の向きを互いに対向するように、かつ上下型の中心軸が一致するように正確に維持する。
【0055】
プレス成形型を型閉めした状態で形成される密閉空間内にガラスを充填することにより、スリーブ型貫通孔の内面がガラスに転写される。スリーブ型貫通孔の中心軸と前記貫通孔内面の角度を精密に形成しておき、プレス成形終了まで前記貫通孔の中心軸と上下型中心軸とが精密に一致するよう維持することにより、2つのレンズ面、2つの鍔状平坦部、スリーブ型の内面が転写成形されるレンズのエッジの相対位置、互いの面のなす角度を正確に形成することができる。そして、2つの鍔状平坦部のうちの一方とエッジを位置決め基準面として、鍔状平坦部のうちの一方をレンズ間の距離を正確に位置決めする基準面として使用し、エッジをレンズ間の光軸を正確に一致させるための基準面として使用することができる。
【0056】
なお、エッジと鍔状平坦部の交わる稜を自由表面で形成することが望ましい。エッジと鍔状平坦部が形成されていれば、位置決め機能に支障をきたすおそれはなく、しかも稜が鋭利になっているとホルダーにはめ込む際に稜が欠けたり、稜がホルダーを削ってしまい、発塵の原因になってしまう。塵が撮像素子の受光面に付着すると画質が大幅に低下してしまうため、このようなトラブルを防止する上から、自由表面からなる稜を有する精密プレス成形品を成形することが望ましい。
【0057】
このようにして作製したレンズには必要に応じて反射防止膜や近赤外光反射膜などの光学多層膜を形成してもよい。
【実施例】
【0058】
次に本発明の実施例を説明する。
表1は、本実施例のプリフォームおよびレンズを形成するガラスの組成と特性である。
まず、表1に示す組成のガラスが得られるように、各カチオン成分を含むリン酸塩、フッ化物、酸化物、水酸化物を秤量、調合し、十分混合する。このようにして得たガラス原料を熔融容器に導入し蓋をして800〜900℃で熔融し、撹拌して清澄、撹拌均質化を行った後、パイプから一定の流量で流出し、連続的に鋳型に鋳込んで厚板状のガラス成形体に成形した。成形と同時に成形体を水平方向に引き出し、連続式徐冷炉に入れてアニールする。アニールしたガラス成形体を切断、研削、研磨して表面が滑らかで均質な球状プリフォームを作製した。
【0059】
【表1】













【0060】
こうして得たプリフォームを上型、下型、スリーブ型を備えたプレス成形型を用いて精密プレス成形する。上型および下型の各成形面の中央部はレンズ面を転写する部分であり、これらレンズ面を転写する部分の周囲は鍔状平坦部を転写する平坦面になっている。
【0061】
上下型、プリフォームを挿入するスリーブ型の貫通孔は円筒状になっていて摺動を妨げない範囲で上下型とのクリアランスを極力小さくするようにしてある。
加熱、軟化してプリフォームを上下型でプレスすると、ガラスはプレス成形型内のキャビティに押し広げられ、キャビティ全域に充填される。
このようにして上下型成形面が転写されたレンズ面11および12、鍔状平坦部13a、13bと、スリーブ型貫通孔の内面が転写されたエッジ部14を備えたレンズが精密プレス成形される。
【0062】
得られたレンズの概観断面形状を図1に示すとともに、レンズの種類、t0、MCu×t0の値、エッジ厚を表1に示す。図1(a)は凸メニスカスレンズ、図1(b)は凹メニスカスレンズ、図1(c)は両凸レンズ、図1(d)は平凸レンズであり、いずれのレンズも鍔状平坦部を有する。
【0063】
このようにして、ガラス組成、形状、寸法の組合せから表1に示すように実施例1〜39に相当するレンズを精密プレス成形により成形する。
【0064】
上記で得られた各近赤外光吸収ガラスからなるレンズを1枚と、銅を含まないフィルタ機能のない光学ガラスからなるレンズとを組合わせて撮像光学系を構成し、CCDやCMOSの受光面に被写体の像を結像して画像を見たところ、いずれも画面全体に色感度補正された画像であった。
【0065】
なお、レンズ面には必要に応じて回折格子を前記精密プレス成形で形成し、光ローパスフィルタ機能付レンズにしてもよい。
また、レンズ表面に反射防止膜や赤外光反射膜などの光学多層膜をコートしてもよい。
このようにして非球面レンズ形状や球面レンズ形状の各種レンズを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例で調製したレンズの断面形状を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスを精密プレス成形してなるレンズ。
【請求項2】
中心軸部分における厚みをt0[mm]、前記ガラス中のCu2+の含有量をMCu[カチオニック%]としたときに、MCu×t0が0.9〜1.6カチオニック%・mmの範囲にある請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記ガラスがガラス転移温度(Tg)が400℃以下のフツリン酸塩ガラスであり、厚みt0が0.6mm以上である請求項2に記載のレンズ。
【請求項4】
メニスカス形状を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のレンズ。
【請求項5】
凸メニスカス形状を有する請求項4に記載のレンズ。
【請求項6】
前記ガラスが、カチオニック%表示で、
5+ 11〜43%、
Al3+ 1〜29%、
Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+およびZn2+を合計で14〜50%、
Li+、Na+およびK+を合計で0〜43%、
La3+、Y3+、Gd3+、Si4+、B3+、Zr4+およびTa5+を合計で0〜12%、
Cu2+ 0.5%以上、
Sb3+ 0〜0.1%、
を含み、さらにアニオニック%表示で、
- 10〜80%
を含有するフツリン酸塩ガラスである請求項1〜5のいずれか1項に記載のレンズ。
【請求項7】
Cu2+を含むフツリン酸塩ガラスからなるガラスプリフォームを精密プレス成形することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−101585(P2007−101585A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287428(P2005−287428)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】