説明

レンズ鏡筒及び撮像装置

【課題】ウォブリング動作における静寂性を向上させたレンズ鏡筒及び電子カメラを提供する。
【解決手段】レンズ鏡筒は、被写体の像を合焦させる合焦用レンズを駆動する振動アクチュエータと、前記振動アクチュエータに増幅した一対の駆動信号を印加する増幅部と、前記一対の駆動信号の位相差を変更する移相部と、前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる第1処理を実行する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にレンズ鏡筒及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動波モータ(振動アクチュエータ)は、特公平01−017354号公報などで公知のように、圧電体の伸縮を利用して弾性体の駆動面に進行性振動波(以下、振動波という)を発生させる。発生させた進行波によって駆動面には楕円運動が生じ、楕円運動の波頭に加圧接触する移動子が駆動される。このような振動波モータは、低回転においても高トルクを有するといった特徴があり、駆動装置に搭載した場合に、駆動装置のギアを省略することができるため、ギア騒音を削減して静寂化を可能にしたり、位置決め精度を向上させたりできるといった利点がある。
【0003】
一方、この振動波モータは、これまでスチールカメラの交換レンズ用として利用されてきたが、近年の電子カメラの進歩及び普及に伴い、電子カメラの交換レンズ用にその利用がシフトしている。
電子カメラでは、静止画の撮影以外にも、動画の撮影、動画の撮影と共に音声の録音が行えることが市場から要望されている。振動波モータを搭載した交換レンズを有した電子カメラにおいて、動画の撮影をすることは、特許文献1に開示されており、静寂性に対する利点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−080073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に振動波モータを搭載した交換レンズを用いるだけでは、電子カメラにより動画の撮影を行い際に要求される静寂性を満たせないことが、発明者による動画撮影可能な電子カメラを開発する過程において明らかになった。具体的には、動画撮影におけるオートフォーカス(Auto Focus;AF)動作において、合焦用レンズを光軸方向に対して前後に小刻みに移動させて、被写体の適正な合焦位置を検出するウォブリング動作の最中に振動波モータより生じるノイズがマイクにより検出され静寂性が損なわれていた。
【0006】
ここで、ウォブリング動作は、以下の動作を繰り返して振動波モータを駆動して行われる。振動波モータ駆動装置は、予め定めた電圧及び位相差を有する一対の駆動信号を振動波モータに印加し、正転させて合焦用レンズを前方向に移動させた後、一対の駆動信号の印加を止めて振動波モータを停止させる。続いて、予め定めた電圧及び位相差を有する一対の駆動信号を振動波モータに印加し、逆転させて合焦用レンズを後方向に移動させた後、一対の駆動信号の印加を止めて振動波モータを停止させる。
この上述の動作において、振動波モータに一対の駆動信号を印加するときに微少音が発生してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、ウォブリング動作における静寂性を向上させたレンズ鏡筒及び電子カメラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記問題を解決するために、本発明は、被写体の像を合焦させる合焦用レンズを駆動する振動アクチュエータと、前記振動アクチュエータに増幅した一対の駆動信号を印加する増幅部と、前記一対の駆動信号の位相差を変更する移相部と、前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる第1処理を実行する制御部とを備えることを特徴とするレンズ鏡筒である。
(2)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記一対の駆動信号の位相差の範囲は、前記被写体の移動速度に応じて決定されることを特徴とする。
(3)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記一対の駆動信号の周波数は、前記被写体の移動速度に応じて決定されることを特徴とする。
(4)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記制御部は、前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記第1の処理を実行する前に、前記一対の駆動信号の振幅を予め定められた第1振幅に変更して前記振動アクチュエータに印加させる第2処理と、該第2処理の後に該一対の駆動信号の振幅を該第1振幅より大きい予め定められた第2振幅まで増加させつつ前記振動アクチュエータに印加させる動作を前記増幅部に行わせる第3処理とを実行させ、前記第2処理に掛かる時間は、前記第1処理に掛かる時間より長いことを特徴とする。
(5)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記制御部は、前記振動アクチュエータを停止させる場合、前記一対の駆動信号の振幅を前記第2振幅から前記第1振幅まで減少させた後に該一対の駆動信号の印加を止める動作を前記増幅部に行わせることを特徴とする。
(6)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記合焦用レンズの位置を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記検出部が検出した前記合焦用レンズの位置が合焦位置近傍に位置するか否かを判定し、前記合焦用レンズが該合焦位置近傍に位置する場合、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせることを特徴とする。
(7)また、本発明は、上記に記載の発明において、前記合焦用レンズは、回転せずに該合焦用レンズの光軸方向に移動することを特徴とする。
(8)また、本発明は、被写体の像を合焦させる合焦用レンズを駆動する振動アクチュエータと、前記振動アクチュエータに増幅した一対の駆動信号を印加する増幅部と、前記一対の駆動信号の位相差を変更する移相部と、前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる第1処理を実行する制御部とを備えることを特徴とする撮像装置である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ウォブリング動作において、振動波アクチュエータから発生するノイズを抑制し、静粛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態における電子カメラ1の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】同実施形態におけるレンズ鏡筒10の構成を示す概略図である。
【図3】同実施形態における振動波モータ12の構成を示す概略図である。
【図4】同実施形態における振動波モータ駆動装置14の構成を示す概略ブロック図である。
【図5】振動波モータ12に印加される駆動信号の位相差と、振動波モータ12の回転速度の関係を示す図である。
【図6】同実施形態における被写体が静止している場合の駆動信号Sa、Sbの駆動周波数、振幅(駆動電圧)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【図7】同実施形態における被写体が一定速度で移動している場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【図8】同実施形態における停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【図9】同実施形態における停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【図10】第2実施形態におけるレンズ鏡筒10Aの構成を示す概略図である。
【図11】第3実施形態のレンズ鏡筒10Bの構成を示す概略図である。
【図12】同実施形態における振動波モータ12Bの構成を示す図である。
【図13】同実施形態における振動波モータ12Bの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の概略>
本発明の発明者は、動画撮影時のウォブリング動作において、合焦用レンズを前後に小刻みに移動させる際に、振動波モータ(振動波アクチュエータ)に一対の駆動信号を印加すると微小のノイズが動画撮影時に音声を検出するマイクに取り込まれてしまうという問題を見いだした。その原因は、振動波モータに印加する一対の駆動信号の振幅を0[V]から所定の電圧にステップ状に変化させたとき、振動波モータのステータから様々な周波数のノイズが発生し、その可聴音が録音されることを明らかにした。そのノイズは、ステップ状に変化させる振幅の電圧に依存しており、その振幅の電圧が小さい場合には振幅に応じて、ノイズの音圧が下がる傾向にあることを発見した。
そこで、一対の駆動信号を振動波モータに印加する際に発生するノイズを、マイクが検出する音圧より小さくなる振幅にステップ状に変化させ、その後、一対の駆動信号の振幅を予め定めた電圧、例えば、定格電圧まで徐々に変化させてから振動波モータを駆動することで、ノイズが検出されることを防ぐようにした。
【0012】
以下、本発明の実施形態による振動アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラを図面を参照して説明する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における電子カメラ1の構成を示す概略ブロック図である。図示するように、電子カメラ1は、レンズ鏡筒10と、撮像素子20と、AFE(Analog Front End)回路30と、画像処理部40と、バッファメモリ50と、録音処理部60と、内蔵マイク70と、記録IF(Interface)部80と、メモリ90と、上位制御部100と、操作部材110と、表示部120とを備えている。また、電子カメラ1は、外部機器であるPC(Personal Computer)220の接続が可能となっていると共に、外部マイク210を接続することが可能となっている。外部マイク210は、録音を行う場合、内蔵マイク70に替えて用いることができる。
【0014】
レンズ鏡筒10は、後述するように、撮像光学系として複数の光学レンズを有し、被写体像を撮像素子の受光面に結像させる。なお、図1においては、複数の光学レンズを簡略化して、1つのレンズを図示している。また、レンズ鏡筒10は、第3レンズ群(AFレンズ)L3を含む光学レンズ群と、振動アクチュエータとしての振動波モータ12と、振動アクチュエータ駆動装置としての振動波モータ駆動装置14とを備えている。
【0015】
撮像素子20は、受光面に受光素子が二次元的に配列されたCCD(Charge Coupled Device)或いはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などにより構成されている。また、撮像素子20は、レンズ鏡筒10が有する撮像光学系を介した被写体像を受光素子により光電変換してアナログ画像信号を生成して、AFE回路30に出力する。
AFE回路30は、撮像素子20が出力するアナログ画像信号に対するゲイン調整(ISO(International Organization for Standardization)感度に応じた信号増幅)を行う。また、AFE回路30は、上位制御部100から入力されるISO感度設定情報に応じて、アナログ画像信号に対して予め定められた範囲内で増幅を行い、内蔵するA/D(Analog Digital)変換回路により、増幅したアナログ画像信号をデジタル画像データに変換して画像処理部40に出力する。
【0016】
画像処理部40は、AFE回路30が出力するデジタル画像データに対して、ノイズ処理などの各種の画像処理を行う。バッファメモリ50は、画像処理部40によるデジタル画像データに対する画像処理の前工程や後工程においてデジタル画像データを一時的に記憶する。
録音処理部60は、電子カメラ1に内蔵されている内蔵マイク70、或いは電子カメラ1の外部に設けられた外部マイク210が検出する音声信号を増幅し、増幅した信号をデジタル音声データとして上位制御部100に出力する。また、録音処理部60は、外部マイク210が接続されていることを検出し、外部マイク210が接続されていることを示す信号を上位制御部100に出力する。
【0017】
記憶IF部80は、メモリカード81などの記録媒体が接続され、接続されたメモリカード81に対してデータの書き込み及び読み出しを行う。メモリ90は、撮像したデジタル画像データを記憶する。
操作部材110は、モードダイヤル、十字キー、決定ボタン、及び、レリーズボタンなどを有し、各操作に応じた操作信号を上位制御部100に出力する。ユーザによる操作部材110の操作により、静止画撮影と動画撮影とが切り替えられる。
表示部120は、液晶パネルなどにより構成され、上位制御部100から入力された画像、操作メニューなどのデータを表示する。
【0018】
上位制御部100は、マイクロプロセッサなどにより構成され、不図示のROM(Read Only Memory)或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などに記憶されているプログラムを実行することにより、電子カメラ1が行う処理を統括的に制御する。また、上位制御部100は、例えば、AF動作制御、AE(automatic exposure;自動露出)動作制御、オートホワイトバランス制御などを行う。また、上位制御部100は、AF動作制御において、レンズ鏡筒10が有する振動波モータ駆動装置14に振動波モータ12を駆動させる駆動指令信号と、撮影情報とを出力する。
【0019】
また、上位制御部100は、外部のPC220と接続される。PC220は、上位制御部100と接続することにより、上位制御部100を介してメモリ70に記憶されているデジタル画像データ、デジタル音声データの読み出しなどを行う。
ここで、駆動指令信号は、振動波モータ12の駆動の開始を指示する信号である。撮影情報には、撮像対象である被写体を撮像素子上に結像させるAFレンズL3の目標位置と、被写体の移動方向、移動速度及び加速度を示す情報が含まれている。なお、上位制御部100は、例えば、特開2001−243478号公報などに記載されている公知の被写体追尾機能により、被写体の移動方向、移動速度及び加速度を検出して撮影情報を生成する。また、被写体の移動方向とは、撮像光学系の光軸方向における方向である。
【0020】
図2は、同実施形態におけるレンズ鏡筒10の構成を示す概略図である。レンズ鏡筒10は、レンズ鏡筒10の外周部を覆う外側固定筒101と、外側固定筒101よりも内周側における被写体側に位置する第1内側固定筒102と、外側固定筒101よりも内周側における像側に位置する第2内側固定筒103とを備え、外側固定筒101と第1内側固定筒102との間には、振動波モータ12と、振動波モータ駆動装置14と、振動波モータ12の回転速度を減速して伝達するギアユニットモジュール104が配置され、第1内側固定筒102に固定されている。ギアユニットモジュール104は、振動波モータ12の出力を減速して伝達する減速ギア105を有している。
【0021】
また、第1内側固定筒102には、被写体側から第1レンズ群L1、第2レンズ群L2が固定され、第2内側固定筒103には、第4レンズ群L4が固定されている。第2レンズ群L2と第4レンズ群L4との間には、AF環107に保持された合焦用のAFレンズである第3レンズ群L3が配置されている。即ち、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、及び、第4レンズ群L4が、光軸方向において、被写体側から撮像素子側に向かって順に配置されている。
【0022】
AF環107と、第1内側固定筒102との間には、カム環106が光軸方向を中心軸として回転自在に設けられ、カム環106は、減速ギア105により伝達された振動波モータ12の出力により回転する。また、カム環106の内側には周方向に対して螺旋状にキー溝106aが切られている。また、AF環107の外周側には固定ピン107aが設けられ、固定ピン107aがカム環106のキー溝106aに挿入されている。
また、外側固定筒101の内周側から内側に張り出した保持部101aには振動波モータ駆動装置14が配置され、振動波モータ駆動装置14は、振動波モータ12に電気的に接続され、振動波モータ12を駆動させる。
【0023】
上述のレンズ鏡筒10の構成により、振動波モータ12の出力は、減速ギア105を介してカム環106を回転させることにより、固定ピン107aがキー溝106aに導かれて移動し、AF環107を光軸方向に移動させると共に、カム環106を停止させることにより、AF環107を停止させることができる。即ち、振動波モータ12を駆動することにより、AF環107を光軸方向に駆動して第3レンズ群L3を移動させることにより、撮像素子上に合焦した被写体像を結像させることができる。
【0024】
図3は、同実施形態における振動波モータ12の構成を示す概略図である。振動波モータ12は、振動子121と、移動子124と、固定部材125と、ベアリング126と、出力軸127と、加圧部材128と、ベアリング受部材129、ストッパ130、ゴム部材131、ギア部材132と、加圧力調整ワッシャ133とを備えている。
【0025】
振動子111は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子などの電気−機械変換素子(以下、圧電体123という)と、圧電体123と接続された弾性体122とからなる。振動子121には、電圧が印加されると、例えば、4波の進行波が発生する。弾性体122は、共振先鋭度が大きな金属材料により形成され、形状が円環形状である。また、弾性体122は、圧電体123が接合される反対の面には溝が切られた櫛型部122aが設けられ、突起部分(溝がない箇所)の先端面が駆動面となり、櫛型部122aが移動子124に加圧接触されている。ここで、弾性体122に溝を設けるのは、進行波の中立面をできる限り圧電体123側に近づけることにより、弾性体122の駆動面における進行波の振幅を増幅させるためである。電圧体123は、一般には通称PZTと呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛といった材料から構成されているが、近年では環境問題から鉛フリーの材料であるニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、カリウムチタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム等から構成されることもある。
【0026】
また、弾性体122において、溝が設けられていない部分をベース部112bという。ベース部122bが圧電体123に接合されると共に、弾性体122の駆動面には潤滑性の表面処理がなされている。圧電体123は、円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に分かれており、各相においては、1/2波長ごとに分極が交互に配置されていると共に、A相の分極とB相の分極との間には、1/4波長の間隔が空くように配置されている。
【0027】
移動子124は、アルミニウムなどの軽金属により形成され、櫛型部122aと加圧接触されている摺動面の表面には耐磨耗性向上のための表面処理が施されている。出力軸127は、ゴム部材131を介して移動子124と共に回転するように結合されている。ゴム部材131は、ゴムによる粘着性で移動子124と出力軸127とを結合する機能と、移動子124から出力軸127に振動を伝達しないための振動吸収する機能とを有するブチルゴムなどが好適である。
加圧部材128は、出力軸127に固定されたギア部材132と、ベアリング受部材129の間に配置されている。ベアリング受部材129は、ベアリング126の内側に挿入され、ベアリング126は、固定部材125の内側に挿入されている。ギア部材132は、出力軸127のDカットに嵌るように挿入され、Eクリップなどのストッパ130により固定され、出力軸127と共に回転する。加圧部材128とベアリング受部材との間に加圧力調整ワッシャ133が配置されている。
【0028】
上述のように振動波モータ12は構成により、移動子124が振動体駆動面に加圧接触すると共に、加圧部材128とベアリング受部材129との間に配置された加圧力調整ワッシャ133により移動子124と櫛型部122aとに加えられる圧力が適正加圧力となるようになっている。
【0029】
図4は、同実施形態における振動波モータ駆動装置14の構成を示す概略ブロック図である。振動波モータ駆動装置14は、制御部141と、発振部142と、移相部143と、増幅部144と、回転検出部147とを備えている。
また、振動波モータ駆動装置14は、電子カメラ1に備えられた上位制御部100から駆動指令信号が入力されると、上位制御部100から入力される撮像情報に基づいて、振動波モータ12に印加する一対の駆動信号Sa、Sbの周波数である駆動周波数と、一対の駆動信号Sa、Sbの位相差とを算出する。そして、振動波モータ駆動装置14は、算出した周波数及び位相差を有する一対の駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加して合焦用のAFレンズである第3レンズ群L3を駆動して被写体を撮像素子上に結像させる。
【0030】
発振部142は、制御部141から入力された周波数情報に応じた周波数を有する発振信号を移相部143に出力する。
移相部143は、制御部141から入力された位相差情報に基づいて、発振部142から入力される発振信号に対して位相差情報に示された位相差を有する信号を生成し、生成した信号と、入力された発振信号とを増幅部144に出力する。
【0031】
増幅部144は、第1増幅部145と第2増幅部146とを有する。第1増幅部145には、移相部143から発振信号と、制御部141から増幅率情報とが入力される。また、第1増幅部145は、入力された増幅率情報に応じて、入力された発振信号の振幅を増幅し、駆動信号Saである増幅された発振信号を振動波モータ12の圧電体123(図3)に印加する。
第2増幅部146には、発振信号に対して位相差情報に示された位相差を有する信号と、制御部141から増幅率情報とが入力される。また、第2増幅部146は、入力された増幅率情報に応じて、入力された位相差を有する信号を増幅し、駆動信号Sbである増幅された信号を振動波モータ12の圧電体123に印加する。
【0032】
また、第1増幅部145及び第2増幅部146は、振幅がV[V](第1振幅)の駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加した後に、制御部141から入力される増幅率情報に応じて、駆動信号Sa、Sbの振幅をV[V](第2振幅)まで増加させる。ここで、振幅(ピーク電圧)V[V]は、シミュレーション、実機による測定により求められた電圧値であり、駆動信号Sa、Sbの振幅を0からV[V]までに変化させても、内蔵マイク70にノイズが検出されない振幅(電圧)である。また、振幅(ピーク電圧)V[V]は、例えば、振動波モータ12の定格電圧である。また、第1増幅部145及び第2増幅部146それぞれが出力する一対の駆動信号Sa、Sbは、発振信号と同じ周波数を有する。
回転検出部147は、光学式エンコーダ、磁気エンコーダなどにより構成され、振動波モータ12の位置と移動速度を検出し、検出した値を示す検出情報を制御部141に出力する。
【0033】
制御部141は、変換テーブル141aを有している。変換テーブル141aは、電子カメラ1に備えられた上位制御部100から入力される撮影情報と、回転検出部147から入力される検出情報とに対応する、振動波モータに印加する駆動信号Sa、Sbの2つの位相差の情報を予め記憶している。変換テーブル141aに記憶されている位相差は、実測結果又はシミュレーションに基づいて求められた値であり、撮影情報に含まれる目標位置と、被写体の移動方向、移動速度及び加速度と、振動波モータの位置及び回転速度とそれぞれのパラメータの組み合わせに対応した値である。また、2つの位相差は、駆動信号Sa、Sbの位相差を周期的に変化させる際の最大値と最小値とである。
【0034】
制御部141は、駆動指令信号が上位制御部100から入力されると、予め定められた周波数を示す周波数情報を発振部142に出力し、振幅V[V]に対応する増幅率情報を増幅部144に出力する。また、制御部141は、駆動指令信号が上位制御部100から入力されると、回転検出部147から入力される検出情報と、撮影情報に含まれる目標位置とから振動波モータ12の回転方向を決定し、決定した回転方向に応じて+90度又は−90度のいずれかを示す位相差情報を移相部143に出力する。予め定められた周波数とは、駆動信号Sa、Sbにより振動波モータ12が駆動される周波数範囲より高い周波数である。
【0035】
その後に、制御部141は、増幅部144に出力する増幅率情報を変化させて、駆動信号Sa、Sbの振幅をV[V]からV[V]に増加させる。更に、制御部141は、振動波モータ12の駆動可能な周波数範囲まで駆動信号Sa、Sbの周波数を下げる挿引処理を行い、振動波モータ12を駆動させる。
また、制御部141は、振動波モータ12が動き出し、AFレンズL3が合焦点近傍のフォーカス適正範囲に位置すると、ウォブリング動作の制御を行う。具体的には、入力される撮像情報及び検出情報に対応する2つの位相差を変換テーブル141aから読み出し、読み出した2つの位相差をピーク(最大値及び最小値)として位相差情報を変化させて、移相部143に出力する駆動信号Sa、Sbの位相差を変化させる。
なお、AFレンズL3がフォーカス適正範囲に位置するか否かは、撮影情報に含まれる目標位置と、検出情報に含まれる振動波モータ12の位置とから判定する。振動波モータ12の位置と、AFレンズL3の位置とは相関関係があり、制御部141は、予め定めた係数を用いることにより振動波モータ12の位置からALレンズL3の位置を算出する。
【0036】
上述のように、制御部141は、撮像情報及び検出情報に基づいて、発振部142と、移相部143と、増幅部144とを制御して振動波モータ12を駆動する。なお、フォーカス適正範囲とは、被写体が撮像素子上に結像する合焦点を含む範囲であり、実機を使った計測、シミュレーションなどにより、予め定められた範囲である。また、フォーカス適正範囲にAFレンズL3が位置するとき、撮像素子上に結像した被写体の像に生じるボケがユーザに認識されない範囲内が予め定められている。制御部141は、動画撮影時に、フォーカス適正範囲内にAFレンズ位置が入るように振動波モータ12を駆動する。
【0037】
以下、振動波モータ駆動装置14が振動波モータ12を駆動する際の基本的な動作について説明する。
制御部141は、上位制御部100から駆動指令信号が入力されると、周波数情報を発振部142に出力し、位相差情報を移相部143に出力し、増幅率情報を増幅部144に出力する。
【0038】
発振部142は、制御部141から入力された周波数情報に示される周波数の発振信号を生成して移相部143に出力する。移相部143は、発振部142から発振信号が入力されると、当該発振信号を第1増幅部145に出力すると共に、制御部141から入力された位相差情報に示される位相差、例えば、90度の位相差を有する信号を生成し、生成した信号を第2増幅部146に出力する。第1増幅部145及び第2増幅部146それぞれは、移相部143から入力された発振信号を増幅して駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加する。圧電体123は、A相の電極に駆動信号Saが印加されると共にB相の電極に駆動信号Sbが印加されることにより励振され、弾性体122に4次の曲げ振動が発生する。
【0039】
圧電体123は、A相とB相とそれぞれに、駆動信号Sa、Sbが印加されると、A相から発生する4次曲げ振動と、B相から発生する4次曲げ振動を発生させる。この2つの曲げ振動は、1/4波長ずれると共に、合成されて4波の進行波を生じさせる。進行波の波頭に楕円運動が生じることにより、弾性体122の駆動面に加圧接触している移動子124が摩擦的に回転駆動され、振動波モータ12に生じた回転運動が出力軸127及びギア部材132(図3)、並びに、減速ギア105及びカム環106に伝達されてAF環107を光軸方向に移動させる。
【0040】
回転検出部147は、振動波モータ12の位置及び移動速度を検出し、検出した位置及び移動速度を示す検出情報を制御部141に出力する。制御部141は、AFレンズL3がフォーカス適正範囲内に位置すると、予め定められた周期であるウォブリング周期ごとに、位置検出部147から入力された検出情報と、上位制御部100から入力された撮影情報とにより、次の位相差情報を算出して振動波モータ12を駆動する制御を行う。
【0041】
図5は、振動波モータ12に印加される駆動信号の位相差と、振動波モータ12の回転速度の関係を示す図である。振動波モータ12の回転速度は、位相差が+90度のとき正転方向の最大速度となり、位相差が−90度のとき逆転方向の最大速度となる。また、振動波モータ12の回転速度は、位相差に応じて変化する。
本実施形態の振動波モータ駆動装置14は、駆動信号Sa、Sbの位相差により、振動波モータ12の回転速度を制御して、動画撮影におけるウォブリング動作を行う。
【0042】
以下、本実施形態において動画撮影を行う場合の動作を、駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係を時系列に示した図を参照して、以下の3つの場合について説明する。ここでは、振動波モータ12を正転方向に駆動する場合について説明する。
1.被写体が静止している場合
2.被写体が一定速度で移動している場合
3.停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合
【0043】
[1.被写体が静止している場合]
図6は、同実施形態における被写体が静止している場合の駆動信号Sa、Sbの駆動周波数、振幅(駆動電圧)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【0044】
まず、上位制御部110は、ユーザの操作により動画撮影の開始の指示が操作部材110を通じて入力されると、振動波モータ制御部14に駆動指令信号と撮影情報とを出力する。振動波モータ制御部14は、駆動指令信号が入力されると、予め定められた駆動周波数f0(最大周波数)及び駆動電圧V(最小電圧)を選択し、駆動周波数f0を示す周波数情報を発振部142に出力し、駆動電圧Vに応じた増幅率を示す増幅率情報を駆動部に出力する。また、振動波モータ制御部14は、入力された検出情報と、撮影情報に含まれる目標位置とから振動波モータ12の回転方向を決定し、回転方向に応じた位相差の予め定められた初期値を示す位相差情報を移相部143に出力する。位相差の初期値は、正転方向であれば+90度を選択し、逆転方向であれば−90度を選択する。
【0045】
発振部142は、入力された駆動周波数f0の発振信号を移相部143に出力する。移相部143は、入力された発振信号と、入力された発振信号に対して位相差情報に応じた位相差を有する信号とを増幅部144に出力する。増幅部144において、第1増幅部145は、入力された発振信号及び増幅率情報に基づいて駆動信号Saを振動波モータ12に印加する。第2増幅部146は、入力された位相差を有する信号及び増幅率情報に基づいて駆動信号Sbを振動波モータ12に印加する。これにより、振動波モータ制御部14は、振幅がVであり、駆動信号Sbが駆動信号Saに対して+90度の位相差を有する一対の駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加する。このとき、制御部141は、駆動信号Sa、Sbの駆動電圧を、0[V]からV[V]までステップ状に変化させる(時刻t0)。
【0046】
時刻t1から時刻t2において、制御部141は、駆動信号Sa、Sbの駆動電圧をV[V]からV[V]に徐々に増加させる。
次に、時刻t3から時刻t4において、制御部141は、挿引処理を行い、駆動信号Sa、Sbの駆動周波数をf1にまで低下させる。このとき、駆動信号Sa、Sbの周波数が駆動可能な周波数範囲に達すると、振動波モータ12は駆動を開始する。
また、時刻t4において、制御部141は、AFレンズ位置がフォーカス適正範囲内に検出されると、撮像情報及び検出情報に対応する2つの位相差(+90度、−90度)を読み出して、位相差情報を周期的に変化させ、ウォブリング動作の制御を開始する。
【0047】
図示するように、時刻t4から時刻t5において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度であり振動波モータ12を正転させる。時刻t5から時刻t6において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度から−90度に変更され、振動波モータ12の回転方向は、正回転から逆回転に変更される。
時刻t6から時刻t7において、駆動信号の位相差は、−90度であり、振動波モータ12は、逆回転をしている。時刻t7から時刻t8において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−90度から+90度に変更され、振動波モータ12の回転方向は、正回転から逆回転に変更される。
【0048】
時刻t8から時刻t9において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度であり、正回転している。以下、制御部141は、時刻t4から時刻t8までの動作を、周期的、例えば、30Hzの周期で繰り返して、位相差情報を変化させることにより振動波モータ12を制御して、AFレンズ位置が前後に移動するウォブリング動作を実行させる。
【0049】
[2.被写体が一定速度で移動している場合]
図7は、同実施形態における被写体が一定速度で移動している場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
時刻t0から時刻t3までにおける動作は、上述の被写体が静止している場合と同じであるので、その説明を省略する。
時刻t4において、制御部141は、AFレンズ位置がフォーカス適正範囲内に検出されると、撮像情報及び検出情報に対応する2つの位相差(+90度、α度)を読み出して、位相差情報を周期的に変化させ、ウォブリング動作の制御を開始する。
【0050】
図示するように、時刻t4から時刻t5において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度であり振動波モータ12を回転速度VS0で正転方向に駆動する。時刻t5から時刻t6において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度からα度に変更され、振動波モータ12の回転速度は減少する。但し、振動波モータ12の回転方向は、正転のままである。
時刻t6から時刻t7において、駆動信号の位相差は、α度であり振動波モータ12をVS0より遅い回転速度VS1で正転方向に駆動する。時刻t7から時刻t8において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、α度から+90度に変更され、振動波モータ12の回転速度は上昇して再びVS0になる。時刻t8から時刻t9において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90であり振動波モータ12を回転速度VS0で正転方向に駆動する。
【0051】
以降、制御部141は、時刻t4から時刻t8の動作を周期的に繰り返して、位相差情報を+90度とα度との間を周期的に変化させることにより、被写体を結像させつつ振動波モータ12を制御して、振動波モータ12の回転速度をVS0→VS1→VS0→…と繰り返し変化させてウォブリング動作を実行させる。
【0052】
制御部141は、撮像情報と検出情報に基づいて2つの位相差により、駆動信号Sa、Sbの位相差を周期的に変化させるという、前述の被写体が一定速度で移動している場合と同様の処理によりウォブリング動作を実行させることができる。撮像情報に基づいて処理を切り替えることが必要なくウォブリング動作を実行させることができるので、制御部141の処理量が増えることもなく、電子カメラに用いるには好適である。
【0053】
なお、振動波モータ12の回転方向が逆転方向の場合も、同じ処理によりウォブリング動作を実行することができる。このとき、制御部141が変換テーブル141aから読み出す2つの位相差は、例えば、−90度と−α度となる。そして、時刻t4から時刻t5において、位相差は、時刻t4から時刻t5において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−90度であり振動波モータ12を回転速度VS0で逆転方向に駆動する。時刻t5から時刻t6において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−90度から−α度に変更され、振動波モータ12の回転速度は減少する。但し、振動波モータ12の回転方向は、逆転のままである。
【0054】
時刻t6から時刻t7において、駆動信号の位相差は、−α度であり振動波モータ12をVS0より遅い回転速度VS1で逆転方向に駆動する。時刻t7から時刻t8において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−α度から−90度に変更され、振動波モータ12の回転速度は上昇して再びVS0になる。時刻t8から時刻t9において、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−90であり振動波モータ12を回転速度VS0で逆転方向に駆動する。
以降、制御部141は、時刻t4から時刻t8の動作を周期的に繰り返して、位相差情報を−90度と−α度との間を周期的に変化させて、ウォブリング動作を実行させる。
【0055】
[3.停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合]
図8は、同実施形態における停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
時刻t0から時刻t3までにおける動作は、上述の被写体が静止している場合と同じであるので、その説明を省略する。
時刻t4において、制御部141は、AFレンズ位置がフォーカス適正範囲内に検出されると、撮像情報及び検出情報に対応する2つの位相差(+90度、−β度)を読み出して、位相差情報を周期的に変化させ、ウォブリング動作の制御を開始する。
【0056】
図示するように、時刻t4から時刻t5までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度であり、振動波モータ12を回転速度VS1で正転方向に駆動する。時刻t5から時刻t6までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度から−β度に変更され、振動波モータ12の回線速度を減少させて、逆回転させる。
時刻t6から時刻t7までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−β度であり、振動波モータ12を回転速度VS2で逆転方向に駆動する。時刻t7から時刻t8までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、−β度から+90度に変更され、振動波モータ12の回転速度を上昇させて、正回転させる。
【0057】
時刻t8において、制御部141は、撮像情報及び検出情報に対応する2つの位相差(+90度、−γ度)を読み出す。時刻t8から時刻t9までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度であり、振動波モータ12を回転速度VS1で正転方向に駆動する。時刻t10から時刻t11までにおいて、駆動信号Sa、Sbの位相差は、+90度から−γ度に変更され、振動波モータ12の回転速度を減少させて、逆回転させる。
以降、時刻t4から時刻t8の動作を繰り返して行うことにより、ウォブリング動作を実行することができる。
【0058】
被写体が一定加速度で移動している場合、被写体の移動速度の中心値が時間の経過と共に大きくなるので、駆動信号Sa、Sbの位相差では、所望の回転速度を得られない場合、駆動周波数も併せて変更することで、振動波モータ12を所望の回転速度で回転させる。図9は、同実施形態における停止している被写体が一定加速度で移動し始める場合の駆動信号Sa、Sbの周波数、電圧(振幅)、及び位相差と、振動波モータ12の回転速度と、AFレンズ位置との関係の一例を時系列に示した図である。
【0059】
この場合、駆動信号Sa、Sbの位相差を変更するだけでなく、駆動信号Sa、Sbの周波数を、位相差の変更に併せて、変更することにより、所望の回転速度が得られるようになり、一定化速度で移動している被写体に対してもウォブリング動作をさせることができる。また、駆動信号Sa、Sbの駆動周波数は、2つの位相差と同様に、変換テーブル141aに予め記憶させるようにしてもよい。それにより、制御部141は、上述の3つの場合において、同様の処理によりウォブリング動作を実行することができる。
【0060】
上述のように、本実施形態の電子カメラ1は、動画撮影時において、振動波モータ12を駆動させるとき、まず、振動波モータ12に印加する駆動信号Sa、Sbの振幅を0[V]から予め定められた振幅V[V]にステップ状に変化させる。その後に、電子カメラ1は、駆動信号Sa、Sbの振幅を、振幅を0[V]からV[V]変化させた処理より長い時間をかけて徐々に上昇させてV[V]からV[V]に変化させる処理を実行する。振幅V[V]の駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加した際に発生するノイズは、内蔵マイク70にほとんど検出されないので、振動波モータ12を駆動する際に生じるノイズを低減することができる。また、駆動信号Sa、Sbの振幅をV[V]からV[V]に変更する際に、時間をかけて徐々に上昇させるので、振動波モータ12から発生するノイズを抑制することができ、静粛な駆動が可能となる。
【0061】
本実施形態の電子カメラ1は、振動波モータ12に印加する駆動信号Sa、Sbの位相差を周期的に変化させることにより、ウォブリング動作を実行するようにした。これにより、振動波モータを一旦停止して印加する一対の駆動信号の位相差を変化させて振動波モータの正転と逆転とを切り替えていた従来の方法に比べ、簡易な制御により振動波モータ12の正回転と逆回転とを切り替えることができる。また、振動波モータ12に駆動信号Sa、Sbを印加させる際にノイズが生じていたが、本実施形態の電子カメラ1では、ウォブリング動作をさせる際の駆動信号Sa、Sbの振幅(電圧)を一定にして、ノイズ発生の原因となる動作を行わないので、静寂な駆動を行うことができる。
【0062】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態におけるレンズ鏡筒10Aの構成を示す概略図である。レンズ鏡筒10Aは、レンズ鏡筒10Aの外周部を覆う外側固定筒101Aと、外側固定筒101Aよりも内側における被写体側に位置する第1内側固定筒102Aと、外側固定筒101Aよりも内側における像側に位置する第2内側固定筒103Aとを備えている。
また、レンズ鏡筒10Aは、外側固定筒101Aと第2内側固定筒103Aとの間に配置されると共に、固定部材151により第2内側固定筒103Aに固定された振動波モータ12Aを備えている。
【0063】
また、第1内側固定筒102Aには、被写体側から第1レンズ群L1、第2レンズ群L2が固定され、第2内側固定筒103Aには、第4レンズ群L4が固定されている。第2レンズ群L2と第4レンズ群L4との間には、AF環152に保持された合焦用のAFレンズである第3レンズ群L3が配置されている。即ち、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、及び、第4レンズ群L4が、光軸方向において、被写体側から撮像素子側に向かって順に配置されている。
【0064】
AF環152と、第2内側固定筒103Aとの間には、カム環153が光軸方向を中心軸として回転自在に設けられ、カム環153は、フォーク154を介して伝達された振動波モータ12Aの出力により回転する。また、カム環153の内側には周方向に対して螺旋状にキー溝153aが切られている。また、AF環152の外周側には固定ピン152aが設けられ、固定ピン152aがカム環153のキー溝153aに挿入されている。
また、外側固定筒101Aの内周側から内側に張り出した保持部101aには振動波モータ駆動装置14が配置され、振動波モータ駆動装置14は、振動波モータ12Aに電気的に接続され、振動波モータ12を駆動させる。
【0065】
振動波モータ12Aは、弾性体161aと、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子161bとを有する固定子161と、固定子161に加圧接触して出力を取り出す移動子162と、ステータ161の非駆動面(移動子162と接触する面の反対側の面)側に配置される不織布などによる緩衝支持部材163と、加圧板164a及び加圧部材164bからなり、固定子161を移動子162に加圧接触させる加圧接触手段164と、これらの部材を左右から支持する出力伝達部材155及び押さえ環165とから構成されている。押さえ環165は、固定部材151にネジなどにより固定されている。
【0066】
フォーク154は、出力伝達部材155に設けられた突起部155aと嵌合して、出力伝達部材155の回転運動をカム環153に伝達する。出力伝達部材155は、固定部材151に取り付けられたベアリング156により、光軸方向の動きと、径方向の動きとが規制されている。
移動子162には、移動子162の光軸方向の振動を吸収するゴムなどの振動吸収部材166が配置されている。振動吸収部材166は、加圧接触手段164により出力伝達部材155と加圧接触している。
【0067】
本実施形態では、円環状の振動波モータ12Aを備えた構成となっているが、駆動信号Sa、Sbの周波数、振幅、及び位相差により、回転速度及び回転方向を制御することができる。そして、振動波モータ制御装置14は、第1実施形態の振動波モータ12に対して行う制御と同様の制御を行うことができるので、第1実施形態と同様に、ウォブリング動作を実行することができる。
更に、円環形状の振動波モータ12Aを備えたことにより、ギアなどを用いずとも、振動波モータ12Aの出力をカム環153に伝達することができるので、ギアのバックラッシュ等のガタツキを生じさせることなく、スムースなウォブリング動作を実行させることができる。
【0068】
<第3実施形態>
図11は、第3実施形態のレンズ鏡筒10Bの構成を示す概略図である。レンズ鏡筒10Bは、レンズ鏡筒10Bの外周部を覆う外側固定筒101Bと、外側固定筒101Bよりも内側における被写体側に位置する第1内側固定筒102Bと、外側固定筒101Bよりも内側における像側に位置する第2内側固定筒103Aとを備えている。
また、レンズ鏡筒10Bは、外側固定筒101Bと第2内側固定筒103Bとの間に配置されると共に、固定部材181により第1内側固定筒102Bに固定された振動波モータ12Bと、外側固定筒101Bの内周側から内側に張り出した保持部101aに配置された振動波モータ駆動装置14とを備えている。振動波モータ制御装置14は、振動波モータ12Bに電気的に接続され、振動波モータ12Bを駆動させる。
【0069】
また、第1内側固定筒102Bには、被写体側から第1レンズ群L1、第2レンズ群L2が固定され、第2内側固定筒103Bには、第4レンズ群L4が固定されている。第2レンズ群L2と第4レンズ群L4との間には、AF環187に保持された合焦用のAFレンズである第3レンズ群L3が配置されている。即ち、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、及び、第4レンズ群L4が、光軸方向において、被写体側から撮像素子側に向かって順に配置されている。
【0070】
図12は、同実施形態における振動波モータ12Bの構成を示す図である。図示するように、振動波モータ12Bは、圧電素子171、及び圧電素子171と接触する金属製の弾性体172とからなる振動子170と、弾性体172における圧電素子171との接触面と反対側の面に設けられた出力取り出し用の突起部173a、173bと、移動子174とから構成される。
図13は、同実施形態における振動波モータ12Bの動作を示す図である。圧電素子171に一対の駆動信号Sa、Sbを印加し、且つ駆動信号Sa、Sbの位相差を90度にすると、図13に示すように、突起部173a、173bには、励起された縦振動と、曲げ振動との合成により、楕円運動が生じる。突起部173a、173bは、移動子174に加圧接触されているので、摩擦により駆動力が生じる。突起部173a、173bには、耐摩耗性材が用いられており、摩擦磨耗を防いでいる。
【0071】
図11に戻り、振動子170は、固定部材181に設けられた支持ピン182が、振動子170の切欠部175と勘合し支持されている。加圧部材183は、固定部材181と、振動子170との間に設けられ、振動子170を移動子174に加圧接触させている。 移動子174は、アルミニウムといった軽金属からなり、突起部173a、173bに加圧接触されている。また、移動子174は、リニアレール185に対して光軸方向に対して移動自在なリニアガイド184に固定されている。リニアレール185は、第1内側固定筒102Bの外周側に光軸方向に沿って固定されている。これにより、移動子174は、光軸方向に対して直線移動が可能となっている。
【0072】
移動子174には、フォーク186が取り付けられており、移動子174の直線運動がフォーク186を介してAF環187に伝達される。AF環187には、ガイド部188が設けられている。ガイド部188は、第1内側固定筒102Bの内周側に光軸方向に沿って設けられた直線レール189に沿って移動自在になっている。
これにより、移動子174の光軸方向の直線運動がAF環187に伝達され、AF環187を光軸方向に移動させることができる。
【0073】
本実施形態では、レンズ鏡筒10Bは、リニア型の振動波モータ12Bを備えた構成となっているが、駆動信号Sa、Sbの周波数、振幅、及び位相差により、振動波モータ12Bの移動速度及び移動方向を制御することができる。そして、振動波モータ制御装置14は、第1実施形態の振動波モータ12に対して行う制御と同様の制御を行うことができるので、第1実施形態と同様に、ウォブリング動作を実行することができる。
また、本実施形態では、第2実施形態と同様に、ギアを用いずに振動波モータ12Bの出力をカム環187に伝達することができるので、ギアのバックラッシュ等のガタツキを生じさせることなく、スムースなウォブリング動作を実行させることができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態で用いられていた回転運動を直線運動に変換する際に生じる摩擦などの損失がないので、エネルギーの使用効率を向上させることができる。また、AF環187の摺動面を削減したので、摺動により発生するノイズを低減させることができ、静粛な駆動が可能となる。
【0074】
なお、上述の第1実施形態から第3実施形態において、駆動信号Sa、Sbの電圧がVに達してから、挿引処理を行う動作を示したが、これに限らず、駆動信号Sa、Sbの電圧がVに達する前に挿引処理を開始する制御を行うようにしてもよい。それにより、振動波モータが駆動を開始するまでの時間を短縮することができ、オートフォーカス機能の応答性を改善することができる。
なお、上述の第1実施形態から第3実施形態において、変換テーブル141aには、撮影情報及び検出情報に対応する2つの位相差が記憶されている構成を示したが、これに限らず、変換テーブル141aに2つの位相差と共に、駆動信号Sa、Sbの周波数を撮影情報及び検出情報に対応させて記憶するようにしてもよい。これにより、振動波モータ12の回転速度を変更することができ、被写体の移動速度に応じてウォブリング動作の速度を決定して動画撮影時におけるオートフォーカス機能を向上させることができる。
【0075】
また、上述の第1実施形態から第3実施形態において、制御部141は、駆動指令信号が入力されると、移相部143が出力する駆動信号Sa、Sbの位相差を+90度にする制御を行う動作を示したが、これに限らず、予め定めた任意の位相差としてもよい。
また、上述の第1実施形態から第3実施形態において、駆動信号Sa、Sbの位相差を変化させてウォブリング動作を行う形態を示したが、これに限らず、位相差に加えて駆動信号Sa、Sbの振幅(電圧)を変化させてウォブリング動作を行ってもよい。
【0076】
また、電子カメラ1において静止画の撮像を行う場合、制御部141は、ウォブリング動作が不要となるので、公知の技術を用いて、駆動信号Sa、Sbの周波数による振動波モータ12の制御を行う。
また、上述の第1実施形態から第3実施形態において、振動波モータ12を停止させる際、上述した振動波モータ12を駆動させる際の処理を逆の順序で行うようにしてもよい。具体的には、制御部141は、位相差情報の周期的な変更を停止し、駆動周波数f0を示す周波数情報を発振部142に出力して、駆動信号Sa、Sbの周波数を、振動波モータ12の駆動可能な周波数範囲外にすることで振動波モータ12の駆動を停止させる。その後、制御部141は、駆動信号Sa、Sbの振幅をV[V]以下まで減少させ、増幅部144が駆動信号Sa、Sbを振動波モータ12に印加することを停止させる。これにより、振動波モータ12を駆動する際と同様に、振動波モータ12を停止させるときに発生するノイズを低減し、内蔵マイク70により検出されることを防ぐことができる。
【0077】
また、上述の第1実施形態から第3実施形態において、制御部141は、交換レンズ(レンズ鏡筒10)ごとに変換テーブル141aを設けて、複数の変換テーブルを設けるようにしてもよい。交換レンズごとに、レンズの特性や焦点距離などが異なるので、ウォブリング動作自体も交換レンズに応じて決定することにより、交換レンズに最適のウォブリング動作を行うことができ、動画撮影時におけるオートフォーカス機能を向上させることができる。
【0078】
上述の制御部141は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述したウォブリング動作を実行させる処理過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0079】
1…電子カメラ
10、10A、10B…レンズ鏡筒
12…振動波モータ
141…制御部
144…増幅部
143…移相部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の像を合焦させる合焦用レンズを駆動する振動アクチュエータと、
前記振動アクチュエータに増幅した一対の駆動信号を印加する増幅部と、
前記一対の駆動信号の位相差を変更する移相部と、
前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる第1処理を実行する制御部と
を備えることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ鏡筒であって、
前記一対の駆動信号の位相差の範囲は、前記被写体の移動速度に応じて決定される
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレンズ鏡筒であって、
前記一対の駆動信号の周波数は、前記被写体の移動速度に応じて決定される
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒であって、
前記制御部は、前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記第1の処理を実行する前に、前記一対の駆動信号の振幅を予め定められた第1振幅に変更して前記振動アクチュエータに印加させる第2処理と、該第2処理の後に該一対の駆動信号の振幅を該第1振幅より大きい予め定められた第2振幅まで増加させつつ前記振動アクチュエータに印加させる動作を前記増幅部に行わせる第3処理とを実行させ、
前記第2処理に掛かる時間は、前記第1処理に掛かる時間より長い
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒であって、
前記制御部は、
前記振動アクチュエータを停止させる場合、前記一対の駆動信号の振幅を前記第2振幅から前記第1振幅まで減少させた後に該一対の駆動信号の印加を止める動作を前記増幅部に行わせる
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒であって、
前記合焦用レンズの位置を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記検出部が検出した前記合焦用レンズの位置が合焦位置近傍に位置するか否かを判定し、前記合焦用レンズが該合焦位置近傍に位置する場合、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒であって、
前記合焦用レンズは、回転せずに該合焦用レンズの光軸方向に移動する
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項8】
被写体の像を合焦させる合焦用レンズを駆動する振動アクチュエータと、
前記振動アクチュエータに増幅した一対の駆動信号を印加する増幅部と、
前記一対の駆動信号の位相差を変更する移相部と、
前記振動アクチュエータの駆動を指示する信号が入力されると、前記一対の駆動信号の位相差を周期的に変化させる動作を前記移相部に行わせる第1処理を実行する制御部と
を備えることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−242743(P2012−242743A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114821(P2011−114821)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】