説明

レーザの制御方法及びレーザ制御装置

【課題】外部温度の影響を受けても安定した出力のグリーンレーザを発振することのできる波長変換素子の温度制御方法を提供する。
【解決手段】波長変換素子の温度制御を行う際に、あらかじめ、外部温度毎にレーザ出力が最大となる目標温度を求め、外部温度と目標温度とを関連付けてテーブルに作成する。波長変換動作時に、あらかじめ作成したテーブルを用いて、波長変換動作時の外部温度に応じた目標温度で波長変換素子の温度制御を行う。更に位相整合温度の経時変化に追従して目標温度を変更することを特徴とする。このように、外部温度に応じた目標温度で波長変換動作を行い、位相整合温度の経時変化にも追従することにより、外部温度の影響を受けても、波長変換したレーザの出力を安定して発振させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子によって、レーザ光の波長を変換するレーザの制御方法及びレーザ制御装置に関するもので、特に波長変換素子の温度制御を含むものである。
【背景技術】
【0002】
従来、長波長と呼ばれる近赤外のレーザ光を波長変換素子(SHG素子、又はKTP素子等)に入射し、この波長変換素子にて波長変換して、例えばグリーン光である第2高調波、あるいは例えば紫外レーザ光である第4高調波を発振するレーザ光源装置が知られている。
【0003】
この波長変換素子を作成するためには、複屈折率を有する非線形光学結晶を使用する必要があり、LiNbO(ニオブ酸リチウム:PPLN)などの強誘電体非線形結晶を周期的に分極反転させ作成されている。分極反転を施したLiNbO,LiTaO等の電気光学効果を有する高非線形光学結晶を用いた波長変換素子においては、光損傷による屈折率変化により光励起の抵抗が上昇し、光励起電圧が上昇するため出力が低下する現象が報告されており、これまでの観測では、グリーン光などの高調波光を入射すると数秒から数分程度の短時間で出力の低下が発生することが知られている。そのため、従来は位相整合温度を120℃から180℃に上げて、光損傷を抑制し、出力の低下を防いでいた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、120℃から180℃に位相整合温度を上げると、波長変換素子を組み込んだ装置内の内部温度が高くなるため、高温となる部分の熱影響を周囲に及ぼさないようにする構成を追加する必要が生じ、波長変換素子の温度制御の構成が複雑になるなどの課題があった。そこで、光損傷を抑制しながら装置構成を単純化するため、位相整合温度を100℃以下に下げる試みがなされていた。この実現方法として、Mg,In,Sc,Znなど金属添加物を添加することで、光損傷の発生が抑圧され、100℃以下の位相整合温度でも光損傷の発生が抑圧される現象が報告され、波長変換素子を温度制御する構成を容易にしながら、光損傷の発生を抑制していた。その中でも特に、MgOドープLN結晶が、高い非線形光学定数と結晶性の良否の点からも、最も有望であり、5.0mol以上添加したコングルエント組成PPLN結晶では、光損傷を効果的に抑制することができる。そこで、近年、100℃以下の位相整合温度、例えば50℃程度で波長変換するために、MgOドープLN結晶を利用した波長変換素子が用いられていた(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−119272号公報
【特許文献2】特開平5−155694号公報
【特許文献3】特開平7−89798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記MgOドープLN結晶等の金属添加物を添加した波長変換素子は、アルミなどのプレートを介して温度制御を行っている。また、温度制御のための温度測定は、プレートの温度を測定することで行っている。したがって周囲の環境温度の変動によってプレートの温度が変化すると、波長変換素子内部の温度とプレートの温度との差が顕在化し、波長変換素子の内部温度を精度よく制御することが困難となり、従来の技術では出力が安定しないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであり、位相整合温度を低温に設定した場合であっても、波長変換したレーザの出力を安定して発振させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のレーザの制御方法は、入力レーザ光を波長変換する際の波長変換素子の温度を位相整合温度に保持する温度制御方法であって、前記温度制御の前に、あらかじめ、複数の環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定し、測定した前記目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力とを複数の前記環境温度毎に関連付けたテーブルを作成するテーブル作成工程を有し、前記テーブルに基づき、前記環境温度の変化に応じて前記目標温度を選択して前記温度制御を行うことを特徴とする。
【0009】
また、前記テーブルに替わり、前記環境温度と前記波長変換素子の出力が最大値となるような前記目標温度を関連付けたテーブルを作成しても良い。
また、前記環境温度毎に所定の間隔で前記目標温度を変化させることにより、前記波長変換素子の出力の最大値を探索しても良い。
【0010】
また、前記環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定する際に、初期の目標温度から一定の温度ずつ昇温させてレーザ出力値が増加している場合にはレーザ出力値が減少に転じるまで前記一定の温度毎の昇温を続け、前記初期の目標温度から降温させてレーザ出力値が増加している場合にはレーザ出力値が減少に転じるまで前記一定の温度毎の降温を続けることで、前記波長変換素子の出力の最大値を探索することが好ましい。
【0011】
また、前記目標温度を選択して前記温度制御する際に、所定のウエイト時間をおいてから、前記入力レーザ光の入射が開始しても良い。
また、前記温度制御の際に、任意の環境温度範囲に応じて前記入力レーザ光を任意のパワーで出力照射するように制御するAPC制御または前記テーブルを用いた温度制御あるいはその両方を用いた制御を行うことが好ましい。
【0012】
また、前記環境温度が所定の範囲を越えたときは、波長変換動作を中止して、警告表示あるいは停止動作を行うことが好ましい。
さらに、本発明のレーザ制御装置は、入力レーザ光を波長変換する際の波長変換素子の温度を位相整合温度に保持する温度制御を行うレーザ制御装置であって、複数の環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定する制御温度指示部と、測定した前記目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力とを複数の前記環境温度毎に関連付けたテーブルを記憶するメモリ部と、前記テーブルに基づき、前記環境温度の変化に応じて前記目標温度を選択して前記温度制御を行う温度制御部とを有することを特徴とする。
【0013】
また、前記目標温度を選択して前記温度制御する際に、所定のウエイト時間をおいてから、前記入力レーザ光の入射が開始しても良い。
また、レーザ光を所定のパワーで出力照射するように制御するAPC手段をさらに備え、前記温度制御の際に、任意の環境温度範囲に応じてAPC制御または前記テーブルを用いた温度制御あるいはその両方を用いた制御を行うことが好ましい。
【0014】
また、前記環境温度が所定の範囲を越えたときは、波長変換動作を中止して、警告表示あるいは停止動作を行うことが好ましい。
以上構成により、金属添加物を添加した波長変換素子を100℃以下の位相整合温度に温度制御して波長変換したときであっても、波長変換したレーザの出力を安定して発振させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、位相整合温度を低温に設定した波長変換素子を用いて波長変換する際、波長変換素子の周囲の環境温度と波長変換素子の目標温度とを検出してテーブルとして保存しておき、環境温度の変動に対応して参照するテーブルを変更して、波長変換素子の温度制御部の目標温度を追従させるので出力を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】波長変換レーザ装置の構成を示す図
【図2】本発明の波長変換モジュールにおけるグリーン光の出力と環境温度の関係を示す特性図
【図3】本発明における波長変換モジュールの構成の概念を示す断面図
【図4】波長変換レーザ装置の詳細な構成を示すブロック図
【図5】温度制御部の詳細構成を示すブロック図
【図6】温度テーブルの生成方法を示すフロー図
【図7】環境温度における波長変換モジュールの目標温度とグリーン光出力との関係を例示する特性図
【図8】本発明の波長変換素子の温度制御に用いるテーブルを例示する図
【図9】環境温度と目標温度の関係を例示する特性図
【図10】グリーン光の出力と環境温度の関係を例示する特性図
【図11】本発明の環境温度と波長変換素子の目標温度と制御動作を関連づけたテーブルを例示する図
【図12】本実施形態におけるテーブルによる制御方法を示すフロー図
【図13】グリーン光発振に要する時間を比較した図
【図14】APC制御部の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の波長変換素子の温度制御方法における実施の形態について、図1から図14を用いて詳細に説明する。
(本発明の概略構成)
図1において、波長変換レーザ装置は、波長変換素子4を温度保持部5上にセットし、温度制御ブロック30によって温度を一定に制御している。基本波光源1から基本波を照射し、集光レンズ3によって波長変換素子4に基本波を集光させる。
【0018】
ここで、波長変換素子4としては、例えば、Mgを5.0mol以上添加したコングルエント組成LiNbO結晶で、分極反転構造を形成したMgO:LiNbO結晶素子(MgLN素子)を使用する。
【0019】
本実施の形態の基本波光源1では、波長1064nmの入射光を生成し、波長変換素子4により波長変換された高調波(ここでは、1064nmの第二高調波成分である532nmの波長の光)を出力している。波長変換された高調波はコリメートレンズ6でコリメートされ、波長分離ミラー7で基本波と高調波に分離され、透過ミラー114で高調波の一部を分離する。分離した高調波は、APC制御ブロック23へ入力している。
【0020】
APC制御部23は、入力された高調波、すなわち532nmのグリーン光の出力が一定になるようにLD駆動部28で電流増幅し基本波光源1を駆動する。
波長分離ミラー7で分離された基本波は吸収ブロック119で吸収され、透過ミラー114を透過した高調波は、直進して波長変換モジュール12から出射される。
【0021】
本発明では、波長変換素子の位相整合温度を100℃以下で使用する。これは、位相整合温度に到達させるための加熱によって、波長変換レーザ装置を包む筐体内部温度を著しく上げないためである。そして、環境温度の影響により出力が不安定になることを抑制するために、あらかじめ作成した環境温度と目標温度との関係を記憶したテーブルを用いて、環境温度に応じた目標温度を用いて波長変換素子の温度制御を行うことが本発明の特徴である。また、以上の説明ではAPC制御を行いながら、テーブルを用いて環境温度に依存する温度制御を行う場合を示したが、APC制御を行わず、テーブルを用いた温度制御のみを行う構成としてもかまわない。
【0022】
このように、環境温度と目標温度との関係を記憶したテーブルを用いて温度制御を行うことにより、環境温度と波長変換素子内部温度とに差がある場合であっても最適な温度制御を行うことができるため、位相整合温度を低温に設定した場合であっても、波長変換したレーザの出力を安定して発振させることができる。
【0023】
また、テーブルを用いて温度制御した場合には、位相整合温度をいかなる温度に設定しても安定した出力を得ることができるので、装置構成が複雑になることを回避するために位相整合温度を低温にすることができるが、あまり低温にしすぎると、基本波光源1の駆動による内部の温度上昇の有効活用ができなくなる点と、環境温度が低温(例えば5℃)の場合における使用開始時に、ペルチェ素子やヒータなどで構成される温度保持部5を用いて、素子温度を位相整合温度に到達させるための時間が長く必要である点を考慮して、位相整合温度を50℃前後で用いることが好ましい。
【0024】
また、位相整合温度が120℃以上になると、環境温度が低温である場合には素子温度を位相整合温度まで到達させるまでの時間が長くなり、使いたいときにすぐに使用することができないので、利便性は著しく低下する。また、高温による光学素子の接着困難性や発ガスの問題、さらに消費電力も大きくなることから、レーザ装置としては好適ではない。この点に関しても、位相整合温度を低温、好ましくは50℃程度にすることにより解消することができる。
(環境温度によって位相整合温度が変わることの説明)
図2に図1の波長変換モジュール12を環境温度試験した場合の環境温度とグリーン光出力の変化を測定した結果の一例を示す。横軸は環境温度を示し、縦軸はグリーン光出力を示す。この試験においては、波長変換素子4は、位相整合温度は50℃ではなく、27℃に設計されており、波長変換素子の温度を27℃にしたとき最も変換効率が高くなる。なお、位相整合温度50℃で設計した場合にも、変換効率が最大となる50℃付近がピークとなるような同様の特性となる。
【0025】
基本波光源1から約7Wの基本波が出力され、波長変換素子4は温度制御ブロック30から、目標温度が27℃になるよう温度を一定に制御されている。
本環境温度試験は、波長変換モジュール12を恒温槽へ入れ、環境温度として恒温槽の温度を0℃から50℃まで変化させて、各環境温度における波長変換された高調波の出力を測定する。図2の結果では、環境温度が25℃の場合、グリーン光が2.11W出力している。ここから環境温度を0℃まで変化させた場合、出力が徐々に低下し環境温度が0℃になると出力が1.98Wまで低下した。また環境温度を25℃の状態から50℃へ変化させた場合でも、出力が徐々に低下しはじめ、環境温度が50℃になると出力が2.04Wまで低下した。環境温度を変化させた際も、温度制御ブロックの目標温度は27℃になるように制御をしている。しかし環境温度を0℃から50℃に変化させると、グリーン光の出力が、25℃の環境温度で測定した出力に対し、最大6%低下した。これはグリーン光発振中に環境温度が変化すると出力が変動することを示す。
【0026】
この出力変動は、周辺の環境温度の影響で位相整合温度と目標温度の関係がくずれているためである。すなわち、波長変換素子の位相整合温度を正確に測定するためには、波長変換素子内を透過するビームパス内の温度を測定する必要があるが、一般的なサーミスタや温度センサーなどでは、波長変換素子内部の温度を直接測定することはできない。そのため、波長変換素子を固定した金属製のプレートにサーミスタを取り付け、その検出温度を波長変換素子温度として代用している。そのため、プレートが環境温度の影響を受けたとしても、波長変換素子内部は環境温度の影響が少ないので、環境温度の影響でプレートの温度と波長変換素子内部の温度が異なっている場合には、プレートの温度を制御しても、波長変換素子内部の温度は目標温度に制御されないことになる。
【0027】
すなわち図1における温度保持部5は、波長変換素子4の素子台として金属製のプレート、ペルチェ素子8の順番に積層された構成となっている。位相整合温度の制御に必要な温度精度は0.1℃以下であるので、金属製のプレートと波長変換素子内部との温度差が目標温度に影響を与える。
【0028】
よって上記環境温度試験で問題となった理由は、例えば位相整合温度が100℃の場合は、環境温度が位相整合温度より低くなる場合が多いので温度差があったとしても高温側に温度制御されるのに対して、位相整合温度を100℃以下、例えば上記試験での27℃に設定すると、使用する環境によっては周辺の環境温度が位相整合温度に対して高くなり、実施の波長変換素子内部温度が位相整合温度に達していないにもかかわらず、環境温度の影響で測定温度が位相整合温度より高くなるために低温側に温度制御しようとする場合があることである。すなわち環境温度によっては、ビームパス内の温度が目標温度より高いにもかかわらずペルチェ素子8が冷却から加熱に反転したり、またその逆に動作が反転したりする場合が発生する。ペルチェ素子8の反転動作が生じると、その応答性により波長変換素子4とサーミスタ17の温度差が非常に大きくなり出力が不安定になる場合が生じていたのである。
(本実施形態の構成)
この問題を解決するための構成として、まずは環境温度を正確に測定する温度センサーの位置が重要になるので、これについて説明する。
【0029】
図3は、本発明における波長変換モジュールの構成の概念を示す断面図である。図1における全体構成のブロック図と同様の部分には同じ番号を付し、詳細な説明を省略している。
【0030】
図3において、FCコネクタ21は、筐体25の側面にネジを利用して固定されており、このFCコネクタ21に基本波光源1の出射端が固定される。集光レンズ3は、波長変換素子4にレーザを集光するために配置されている。またコリメートレンズ6は、波長変換素子4でグリーンに波長変換されたレーザをコリメートするために配置されている。各レンズは、レンズホルダー内に挿入された後、接着剤を利用してレンズホルダーに固定され、レンズホルダーが筐体25にビスで固定されている。波長分離ミラー7は基本波と高調波を分離し、透過ミラー114は高調波の一部を分離するもので、筐体25に接着されている。波長変換素子4は、集光レンズ3の直後に設置されており、温度保持部5に接着剤で接着されている。温度保持部5と波長変換素子4が一体になったものが、筐体25にネジを利用して固定されている。温度センサー16は、筐体25の波長変換素子4が固定されている箇所から最も近い内壁に溝が空けられており、その溝に接着剤を利用して固定されている。この温度センサー16で測定された波長変換素子4の周囲の環境温度は、温度制御ブロック30に送られる。
【0031】
次に本実施の形態である環境温度の影響を考慮した温度制御ブロック30による温度制御方法とその構成について説明する。
図4は図1に示した本実施の形態のレーザ制御装置のさらに詳細な構成を示すブロック図である。基本波光源1は、Ybドープファイバ103を用いたファイバレーザ光源を用いている。ファイバレーザ光源は、発振波長やスペクトル幅を任意に決定することができる。特にスペクトル幅を狭帯域化することにより基本波から高調波への変換効率を大幅に向上することができる。標準的なファイバレーザの構成としては、励起のための波長900nm〜980nm、815nm〜850nmの半導体レーザ102と、その出力偏波特性や温度依存性を鈍感にするFBG104、105(ファイバブラッググレーティング)と、クラッドとYbドープされたコアで形成されたマルチモードファイバであるYbドープファイバ103からなり、900nm〜980nm、815nm〜850nmで励起され、ファイバをクラッドで反射を繰り返しながら通過することで、1064nmの出力を効率よく得ることができる。
【0032】
ファイバレーザ光源より発生した基本波106は、全反射ミラー107、108で反射されて導光され、集光レンズ3により非線形光学結晶(波長変換結晶)である波長変換素子4へ集光されている。波長変換素子4は、上記した通り本実施の形態では分極反転構造を形成したMgO:LiNbO3結晶素子(MgLN素子)を使用している。このMgLN素子は温度保持部5上に設置されており、ある一定の温度で保持されるようになっている。波長変換素子4により波長変換された高調波111はコリメートレンズ6により平行光となる。
【0033】
その後波長分離ミラー7により波長変換されずに残った基本波106と高調波111とに分離される。基本波106は吸収ブロック119で吸収される。さらに透過ミラー114で数パーセントの高調波111を光検出器20で検出し、出力を検出する。光検出器20で検出した光は、APC制御部29に入力される。APC制御部29は、入力された値に応じてAPC駆動するために、LD駆動部28へLD駆動の指示を出す。LD駆動部28は、駆動の指示を受けて半導体レーザ102を駆動する。波長変換素子4は位相整合させるためにその温度を一定に保持せねばならず、その温度保持部5としてペルチェ素子8とアルミプレートを用いている。温度制御ブロック30は、サーミスタ17で波長変換素子4の温度を検出する。制御温度指示部22は、温度センサー16で環境温度を検出する。
【0034】
制御温度指示部22と温度制御ブロック30は、以下に述べる構成と制御方法によって、それぞれで検出した環境温度と波長変換素子4の温度を比較、制御して波長変換素子4の温度を一定に保持する。
【0035】
図5は温度制御ブロック30のより詳細な構成を示すブロック図、また図6は制御温度指示部22で得た環境温度と温度制御ブロックで検出した波長変換素子に隣接した温度保持部5の温度から環境温度に対する制御する温度目標のテーブルを生成処理する流れを示すフローチャートである。以下図5および図6において、本発明での温度制御について詳細に説明する。
【0036】
温度制御ブロック30は、1チップマイコン(CPU)あるいはDSPなどのプログラマブルなプロセッサの中の一部の機能ブロックで構成され、まず波長変換素子4の温度を、例えば装置の製造工程でEEPROM等のメモリ32を備えた制御温度支持部22に予め格納された位相整合温度の近傍温度である初期設定値Tになるまで温度制御する。温度制御中には、サーミスタ17は、波長変換素子4に隣接した温度保持部5の温度を波長変換素子4の温度として検出する。そしてその検出温度に対応する電圧出力を電圧変換回路9と温度制御ブロック内蔵のADコンバータ18を介して、所定のデジタル値に変換し、温度誤差検出部19へ入力する。
【0037】
温度誤差検出部19は、サーミスタ17で測定された温度と、温度制御ブロック30が設定する目標温度との比較を行い、目標温度の初期値Tと現在の温度の誤差に応じた制御信号を、位相補償や低域ゲインを補償するフィルタ13、DAコンバータ14を介して、電流増幅回路15へ出力する。電流増幅回路15はペルチェ素子8を駆動し、ペルチェ素子8の波長変換素子4が取り付けけられている側の温度保持部5の面で加熱または冷却して波長変換素子4の温度を所定の温度になるように制御している。
(テーブルの生成方法)
波長変換素子4の温度が目標温度の初期値Tに達すると、次に、光検出部20でグリーン光の出力Pを検出する(図6のステップ1)。検出したグリーン光の出力Pと目標温度の初期値Tを制御温度指示部22に一時的に保存する。同時に、温度センサー16で検出した波長変換素子の環境温度を、目標温度の初期値Tおよびグリーン光の出力Pと関連付けて制御温度指示部22に一時的に保存する。
【0038】
その後、その環境温度での目標温度を検出するために、波長変換素子4の温度を変化させて、その都度レーザ出力値を検出する。そのために、制御温度指示部22は、所定温度幅の温度ステップΔTを目標温度の初期値Tに加算して出力する。波長変換素子4の温度がΔT上昇した後、グリーン検出部20でグリーン光の出力Pを検出する(図6のステップ2)。検出したグリーン光の出力Pと制御温度指示部22に一時的に保存したΔT上昇前の出力Pとを比較する(図6のステップ3)。ΔT上昇前の出力Pより出力Pが増加した場合(図6のステップ3の「Yes」)、制御温度指示部22は、さらに温度ステップをΔTだけ増加させてグリーン検出部20でグリーン光の出力Pを検出する(図6のステップ4)。以上の流れを繰り返し、出力が低下するまでΔTを増加させる(図6のステップ5)。出力が低下する直前の出力が最大値であり、最大値を出力しうる目標温度が位相整合温度とずれている場合は、これが、環境温度による位相整合温度と目標温度の誤差である。
【0039】
この時に検出したグリーン光の出力とグリーン光の出力が最大になる目標温度を関連付けテーブルとして制御温度指示部22に保存する。
また最初にΔT上昇させた時に目標温度の初期値Tでのレーザ出力よりも出力Pが低下した場合(図6のステップ3の「No」)、レーザ出力が最大となる最適温度が目標温度の初期値Tよりも低い温度であると判断して、制御温度指示部22は、ΔT上昇させるのではなく、温度ステップをΔT降下させる。そして、検出したグリーン光の出力と波長変換素子4の環境温度と目標温度の初期値Tとを制御温度指示部22に一時的に保存する。ΔT降下前より出力が増加した場合、制御温度指示部22は、温度ステップをΔT降下させて光検出器20でグリーン光の出力Pを検出する(図6のステップ6)。以降は、出力が低下するまで(図6のステップ7)、出力が増加した場合と同様の要領で、検出したグリーン光の出力が最大になる波長変換素子の目標温度とグリーン光の出力を制御温度指示部22に保存する(図6のステップ8)。上記の流れを、レーザ光源装置の使用される範囲の複数の環境温度に対して実施し、環境温度と最大出力を出力する目標温度と、その温度でのレーザ出力値を検出し、これらを関連付けテーブルとして制御温度指示部22のテーブルに保存する(図6のステップ9)。この時、テーブルへの保存は、最大値が出力されるのを確認してから、その最大値が出力されたときの目標温度と出力値をテーブルとして保存しても良いし、測定温度を変化させて、前回の測定時より大きな出力値が出力されたときに、目標温度と出力値のテーブルを更新するようにしても良い。
【0040】
以上のように、あらかじめ選択した複数の環境温度において、出力値が最大になる目標温度を探索し、環境温度と目標温度とレーザ出力値との関係をテーブルに保存し、このテーブルを用いて温度制御することにより、環境温度に応じた最適な目標温度を設定することができ、安定した出力を得ることができる。よって従来環境温度の影響を受け不安定であった位相整合温度が例えば100℃以下での波長変換素子を用いる場合においても安定な出力を得ることができる。
【0041】
ここで、常にレーザ出力値が最大になるように温度制御する場合は、目標温度に対応するレーザ出力値を格納する必要はなく、テーブルには、少なくとも環境温度とそれに対する目標温度との関係が格納されていれば良い。
【0042】
逆に、環境温度毎に複数の目標温度と環境温度毎の目標温度を設定したときの期待される(するべき)レーザ出力値を関連付けて格納することもできる。このようなテーブルを格納することにより、最大レーザ出力ではなく任意のレーザ出力を出力したい場合には、環境温度に対応して、テーブルから所望のレーザ出力が出力される制御目標とする目標温度を選択し、その温度に制御することで、所望のレーザ出力を安定して出力することができる。この場合は、温度変化させてレーザ出力値を測定する際に、測定ごとに設定した目標温度とレーザ出力値との関係をテーブルとして制御温度指示部22に保存すればよい。
【0043】
さらなる具体的は例として、位相整合温度が48℃になるように作成された波長変換素子での実験例をもとに説明する。基本波光源1からは7Wの基本波が集光レンズ3で集光され波長変換素子4へ入射する。
【0044】
ここで目標温度の初期値を48.5℃とし、温度ステップΔTを0.1℃にして目標温度を検出する。ここでは、最大レーザ出力と目標温度のみを環境温度に関連づけてテーブルに保存する動作について説明する。
【0045】
図7は、環境温度が25℃、0℃、50℃の場合におけるグリーン光出力と目標温度の関係を示している。波長変換モジュール12は、環境温度を意図的に変化させるために恒温槽に入れられており、恒温槽内部の温度はそれぞれの温度25℃、0℃、50℃に保持されている。まず、環境温度が25℃の場合について探索する。恒温槽内部の温度を25℃に設定した状態で、制御温度指示部22は、目標温度の初期値である48.5℃に温度制御する。その場合のグリーン検出部20が検出するグリーン光出力は324mWである。このとき、グリーン光出力324mWを一時的に制御温度指示部22に設けられたメモリに保存する。次に制御温度指示部22は温度をΔTだけ増加させて波長変換素子4の目標温度を48.6℃にして追従させると、グリーン検出部20が検出するグリーン光出力が525mWに増加する。温度をΔT=0.1℃増加する前後で比較した結果、グリーン光出力が増加したため、メモリ32中のグリーン光出力324mWを524mWに更新する。さらに制御温度指示部22は目標温度をΔT=0.1℃増加させて追従させる。このように目標温度を順次0.1℃ずつ増加させて、目標温度が49.1℃となるまではグリーン光出力も増加を続け、それに対応してメモリ中のグリーン出力は1.9Wまで更新される。
【0046】
さらに目標温度をΔT=0.1℃増加させて、49.2℃にした場合、グリーン光出力が1.8Wとなり、目標温度をΔT=0.1℃増加する前と比較して、出力が低下する。よって環境温度25℃での目標温度は49.1℃でグリーン光出力は1.9Wになることが探索でき、この時グリーン光出力値1.9Wと目標温度49.1℃とを環境温度25℃に関連付けてメモリ上のテーブルに保存する。
【0047】
同様の方法で環境温度0℃、50℃におけるグリーン光出力と目標温度とを検出する。環境温度が0℃の場合、目標温度は49.3℃でグリーン光出力は1.89Wになることが検出でき、この時のグリーン光出力値1.89Wと目標温度49.3℃とを環境温度0℃に関連付けてテーブルに保存する。
【0048】
環境温度が50℃の場合、目標温度は48.9℃でグリーン光出力は1.9Wになることが検出でき、この時のグリーン光出力値1.88Wと目標温度48.9℃とを環境温度50℃に関連付けてテーブルとして保存する。
【0049】
以上の説明では、環境温度として0℃,25℃,50℃の3点について測定したが、測定温度は任意の数,任意の間隔で選択することができ、それぞれの環境温度について最適な出力と目標温度を関連付けたテーブルを作成することができる。また、測定した環境温度の間にある環境温度に関して、環境温度と目標温度あるいはレーザ出力が比例して変化すると仮定し、近似関数で補完して測定していない環境温度についてもテーブルを作成しても良い。
【0050】
図8は、上記テーブルの生成方法によって環境温度を0℃から50℃まで5℃おきに変化させた場合の目標温度とその時のレーザ出力を測定あるいは近似関数で補間し、環境温度毎に目標温度とレーザ出力との関係をテーブルに保存した場合のテーブルを例示しており、図8に示すように、制御温度指示部22のメモリ32に保存されたテーブルには図7で示した環境温度と目標温度とレーザ出力の関係がそれぞれを関連付けた形で保存されている。
(テーブルを用いた制御方法)
図9は、前述した検出方法で測定した環境温度を0℃から50℃まで変化させたときのグリーン光出力が最大になる目標温度の変化を示している。横軸が環境温度を示し、縦軸が目標温度を示す。環境温度が25℃の場合、目標温度は49.1℃だが、環境温度が高くなるほど目標温度が低下し、環境温度が40℃の場合の目標温度は0.1℃低下して49℃になり、環境温度が50℃になるとさらに0.1℃低下し48.9℃になる。逆に環境温度が高くなるほど目標温度が上昇し、環境温度が10℃の場合の目標温度は0.1℃上昇して49.2℃になり、環境温度0℃になるとさらに0.1℃上昇し49.3℃になる。環境温度が0℃から50℃の間では、目標温度を0.4℃調整する必要があることがわかる。
【0051】
例えば環境温度が25℃から35℃まで変化した場合のテーブルを引用して制御する方法について説明する。
初期の環境温度は25℃であるので、温度センサー16は、環境温度である25℃を検出する。検出した環境温度は、制御温度指示部22に保存しているテーブルを引用し、環境温度が25℃場合の目標温度である49.1℃を引用し、制御温度指示部22は目標温度としてそれを設定する。同時に温度誤差検出部19は、サーミスタ17及びADコンバータ18、電圧変換回路9に、波長変換素子4の固定されたプレートの温度を検出し、設定した目標温度との比較を行い、目標温度と現在の温度の誤差を出力し、フィルタ13、DAコンバータ14、電流増幅回路15を介して、ペルチェ素子8を駆動する。ペルチェ素子8は、波長変換素子4が貼り付けられている側の温度保持部5の面で温度を吸熱して波長変換素子4の温度を変化させる。
【0052】
波長変換素子4の温度が変化すると、サーミスタ17と温度センサー16が再びそれぞれの温度を検出する。温度センサー16の検出する環境温度に変化がなければ、目標温度は変化しない。そのため波長変換素子4の温度が目標温度に達するまで上記の流れが繰り返される。
【0053】
設定した目標温度に追従して、波長変換素子4の温度が位相整合温度近傍に達すると、基本波光源1から7Wの基本波を出力し、集光レンズ3で集光して波長変換素子4へ入射する。このときグリーン光の出力は1.91Wを得ることが可能である。グリーン光を発振中も上記の温度制御は繰り返され、波長変換素子4の温度を位相整合温度近傍になるよう設定された目標温度に追従制御する。
【0054】
ところがグリーン光発振中に環境温度が35℃まで上昇した場合は、これを温度センサー16で検出し、制御温度指示部22で保存しているテーブルを引用して、環境温度35℃のときの目標温度である49.05℃を制御温度指示部22は設定する。
【0055】
以降、同様の流れで波長変換素子4の温度制御を行う。このときグリーン光の出力は最大1.912W得ることができ、環境温度が変化しても出力を安定して得ることが可能となる。
【0056】
また図10は、図9で示した複数の環境温度において、検出した目標温度に制御した場合のレーザ出力を示している。横軸が環境温度を示し、縦軸はグリーン光出力を示す。環境温度が25℃において目標温度を49.1℃に温度制御した場合、グリーン光出力が1.91Wだったが、環境温度を0℃においても目標温度を49.3℃に変更することで、グリーン光出力を1.89W得ることができた。環境温度が50℃においても目標温度を48.9℃に変更することで、グリーン光出力を1.9W得ることができた。位相整合温度を低温に設定し、異なる環境温度で波長変換する場合でも、それに応じて目標温度を変更することにより、環境温度が0℃から50℃の範囲内では出力の変動は約1%になり、各環境温度でほぼ一定の出力を安定して得ることができる。またグリーン光発振中に環境温度が変化しても、環境温度に応じて図8で示したテーブルを利用して、随時目標温度を変更することで、出力一定の安定したグリーン光を得ることができる。
【0057】
また環境温度がテーブルにない中間値の場合は、近似関数で補完するか、その上位下位の目標温度の中間値を設定するか、より温度が近いほうの目標温度を引用すればよい。
(レーザの光量制御と組み合わせた本発明の応用)
以上の説明ではAPC制御を行わない場合を例示している。以下に、APC制御を行うと共に、環境温度に関連付けたテーブルを用いて温度制御する場合を説明する。
【0058】
従来の一般的なレーザ装置では、レーザ出力を切り換える場合は、その電源から供給される電流を直接大きくしたり、小さくしたりして、その電流値が常に一定となるように電源を直接制御していた。
【0059】
近年、光ディスクや医療、加工造形などにおいて発光パワーの出力精度を要求されるアプリケーションが増えてきており、その場合は図4の説明で述べたようにその発光出力の一部を検出して、発光パワーが設定された値に追従するようなAPC制御(出力一定制御)を行っている。
【0060】
図11は、本実施の形態におけるテーブルによる制御方法を示すものであり、この環境温度に対する制御方法の切り換え点を図10の出力特性上にも転記した。また図14は図4のAPC制御部29をさらに詳細に説明するためのブロック図である。
この図14に示すようなAPC制御部29を具備したレーザ装置で、環境温度の変化によって位相整合温度がずれて、素子の変換効率が下がって出力が低下しても、光検出器20によってその出力低下を検出して、目標パワーとの差分を比較器203で行い、その差動信号に対して所定のゲイン調整と低域補償をフィルタ204によって演算実行し、その出力をDAコンバータ206、LD駆動部28によってレーザの駆動電流を増やすことができる。
【0061】
また、テーブルを用いた温度制御において、テーブルによる制御目標温度の切り換えを行った後の目標温度に達するまでの応答の間は、発光による温度変化が影響するので所定時間出力レーザを使用するまでウエイトをする必要があり、また環境温度が位相整合温度と著しく乖離している場合はフェールセーフの観点から波長変換動作(レーザの出力)は停止する必要がある。
【0062】
よって、波長変換する際には、図12に示すように、まず、所望のレーザの出力値を設定し(ステップ121)、環境温度を検出し、その環境温度と必要なレーザ出力値によってレーザの制御動作を切り換える(S122、S123)。
【0063】
所定以上のレーザ出力が可能な環境温度の範囲では、テーブルによる目標温度の切換は行わず、APC制御の追従によって電流の増減を行って所定の出力を保持させたほうが実用的である(S125、S128、140)。すなわち図10ならびに図11で示す環境温度25℃〜40℃の範囲では、目標温度をそれぞれのテーブル値に切り換えなくとも最大出力に近い1.91W以上の出力を得ることが可能であるので、外部からの目標出力に対してAPCで追従させることで、安定な出力性能を確保することができる。
【0064】
ただし環境温度の変化が大きく、変換効率の変動幅が大きくなって設定した所望の出力が出ない場合は、APC制御をOFF状態にし、目標温度をテーブルによって切り換えた後(S126、S127、S129)、所望の出力になるようなLD駆動部28の電流を制御する。ここで設定した制御目標温度に安定追従し、出力が目標値に対して制御可能な十分近傍まで到達したらAPC制御をONしてもよい(S130、S140)。
【0065】
さらに環境温度変化が著しく大きい場合は、目標温度の切り換え時間が長くなるため、その旨の警告などの異常処理を行い、ユーザが使用環境の確認などを行ってから、スイッチOFF/ONやリセットなどを促すことが好ましい(S124)。
【0066】
図11の例とさらに図12のフローチャートを用いて具体的に説明する。
設定した所望出力が1.91Wであったとすると、他の熱源によって自然に加熱されるために、環境温度が25℃から40℃の間は目標温度の切り換えは行わず、APC制御でカバーする。
【0067】
環境温度が10℃から25℃及び40℃から55℃の場合は、1.91Wの出力が確保できないが、追従温度範囲は狭いので応答性もよい。よって5℃刻みで各環境温度に対応する目標温度を選択し、その後変換動作を行ってAPC制御をかけて出力を開始する。環境温度が顕著に高かったり、低かったりした場合は、図11で示す0℃から10℃の場合のように出力も1.9Wを下回り、かつ目標温度に切り換えた場合に温度差が大きいため、応答に時間がかかる。また図示はしていないが、55℃以上といった保証された使用温度以上に高い環境温度の場合は、他の部品含めて故障や寿命劣化の可能性もある。
【0068】
よってこの場合は警告を表示し、すぐに発光させず目標温度を切り換えた後にウエイト時間を設け、十分目標温度に追従した後、目標温度を確認して波長変換を行い、グリーン光を発光する。特に使用環境などに合致する使い方をしてない場合は、発光停止のままでユーザに解除を委ねるような仕様にしてもよい。
【0069】
なお図12は、この発光停止のままでユーザに解除を委ねる仕様の場合の処理の流れを示したものである。
また、このような制御手法の切り換えを行う場合に限らず、前述のように、全ての環境温度でテーブルを用いて目標温度を最適化する場合においても、発光パワーを設定値に追随するようにAPC制御を併用することも可能である。
【0070】
本発明の環境温度と目標温度と出力が関連付けられて保存されたテーブルを利用することでの顕著な効果として、レーザ光源装置の電源投入後、レーザ発振するまでの時間を短縮することもできる。図13にレーザ発振するまでに必要な時間の比較を示す。
【0071】
図13に示すように、波長変換素子を温度制御する場合、レーザ光源装置の電源投入後、レーザ発振前に波長変換素子の目標温度を検出し、波長変換素子の温度を検出した目標温度を維持するように制御することでグリーン光出力を得ていた。レーザ発振するまでに必要な時間は大きく3つに分けることができる。半導体レーザの温度制御に必要な時間と、波長変換素子の目標温度を検出する時間と、波長変換素子を温度制御するための時間である。半導体レーザの温度制御に必要な時間とは、半導体レーザの温度が一定になり出力が安定になるまでに必要な時間である。これは波長変換素子の目標温度を検出する際、半導体レーザの出力が安定である必要があるため、図13では、半導体レーザは目標温度が35℃になるように、ペルチェ素子により温度制御される場合を例示しており、約20秒の時間が必要である。
【0072】
次に従来の波長変換素子の目標温度を検出する時間について図7で示した波長変換素子を例として説明する。電源投入後、波長変換素子の温度を環境温度25℃から初期の目標温度である48.5℃まで上昇させる。この時、温度が安定するまでにかかる時間は約40秒である。その後、本発明で行った目標温度の検出方法と同様の方法で目標温度を検出する。波長変換素子の温度を48.5℃から0.1℃上昇させ、48.6℃に温度制御しグリーン出力を測定する。この時、温度が安定するまでに必要な時間は約10秒である。これ以降0.1℃上昇させる毎に温度が安定するまでに約10秒の時間が必要である。目標温度である49.1℃を検出するためには、波長変換素子の温度を49.2℃まで温度を上昇させる必要がある。このとき必要な時間の合計は、初期の約40秒と、48.5℃から49.2℃まで0.1℃ずつ温度上昇させグリーン出力を測定するのに必要な約70秒を合わせて約110秒の時間が必要になる。
【0073】
これによりレーザ光源装置の電源投入後にレーザを発振するまで、半導体レーザの温度制御に必要な時間20秒と波長変換素子の目標温度を検出する時間110秒と、波長変換素子の温度制御するための時間40秒を合わせて合計約170秒必要だった。
【0074】
本発明では、この目標温度の検出をあらかじめ実施し、検出した目標温度を制御温度指示部22のメモリにテーブルとして保存しているため、レーザ装置の電源投入後に目標温度の検出を実施する必要がない。そのためレーザ発振するまでの時間を約110秒短縮することができる。
【0075】
また電源投入時に目標温度の検出が不要になることで、半導体レーザの温度制御と、波長変換素子の温度制御を同時に実施することができる。この理由はこれまで目標温度の検出を実施するためには、半導体レーザが温度一定に制御され出力が安定した後、波長変換素子の目標温度を検出する必要があったからである。しかし目標温度の検出が不要になったため、半導体レーザの温度が一定になり出力が安定するまで待つ必要がない。そのため半導体レーザの温度制御と波長変換素子の温度制御を同時に実施することができる。これより本発明を利用することで、波長変換素子の目標温度を検出する時間である約110秒を不要とし、さらに、半導体レーザの温度制御と波長変換素子の温度制御を同時に実施することで、半導体レーザの温度制御時間20秒と、半導体レーザの温度制御電源投入後に波長変換素子の温度制御を実施する時間40秒は同時並行となるため、約40秒でレーザを発振することができる。
【0076】
以上のように、本発明においては、複数の環境温度における波長変換素子の目標温度を検出し、検出した目標温度とそのとき波長変換されたグリーン光出力を環境温度と関連付けて格納されたテーブルをメモリに保存する。そのため、レーザ発振時に環境温度を検出して、メモリに保存されたテーブルを利用して、環境温度に応じて波長変換素子の温度制御をすることにより、100℃以下の温度に波長変換素子を温度制御して波長変換をしたときでも、環境温度の変化によらず一定の安定した出力を得ることができる。また、あらかじめ検出したテーブルを利用することで、レーザ光源装置の電源投入からレーザ発振するまでに必要な時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、100℃以下の温度に波長変換素子を温度制御して波長変換する際であっても出力を安定させることができ、波長変換素子によって、レーザ光の波長を変換するレーザの制御方法及びレーザ制御装置等に有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 基本波光源
3 集光レンズ
4 波長変換素子
5 温度保持部
6 コリメートレンズ
7 波長分離ミラー
8 ペルチェ素子
9 電圧変換回路
12 波長変換モジュール
13 フィルタ
14 DAコンバータ
15 電流増幅回路
16 温度センサー
17 サーミスタ
18 ADコンバータ
19 温度誤差検出部
20 光検出部
21 FCコネクタ
22 制御温度指示部
23 APC制御ブロック
25 筐体
28 LD駆動部
29 APC制御部
30 温度制御ブロック
32 メモリ
102 半導体レーザ
103 Ybドープファイバ
104 FBG
105 FBG
106 基本波
107 全反射ミラー
108 全反射ミラー
111 高調波
114 透過ミラー
119 吸収ブロック
203 比較器
204 フィルタ
206 DAコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力レーザ光を波長変換する際の波長変換素子の温度を位相整合温度に保持する温度制御方法であって、
前記温度制御の前に、あらかじめ、複数の環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定し、測定した前記目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力とを複数の前記環境温度毎に関連付けたテーブルを作成するテーブル作成工程を有し、
前記テーブルに基づき、前記環境温度の変化に応じて前記目標温度を選択して前記温度制御を行うことを特徴とするレーザの制御方法。
【請求項2】
前記テーブルに替わり、前記環境温度と前記波長変換素子の出力が最大値となるような前記目標温度を関連付けたテーブルを作成することを特徴とする請求項1記載のレーザの制御方法。
【請求項3】
前記環境温度毎に所定の間隔で前記目標温度を変化させることにより、前記波長変換素子の出力の最大値を探索することを特徴とする請求項2記載のレーザの制御方法。
【請求項4】
前記環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定する際に、初期の目標温度から一定の温度ずつ昇温させてレーザ出力値が増加している場合にはレーザ出力値が減少に転じるまで前記一定の温度毎の昇温を続け、前記初期の目標温度から降温させてレーザ出力値が増加している場合にはレーザ出力値が減少に転じるまで前記一定の温度毎の降温を続けることで、前記波長変換素子の出力の最大値を探索することを特徴とする請求項3記載のレーザの制御方法。
【請求項5】
前記目標温度を選択して前記温度制御する際に、所定のウエイト時間をおいてから、前記入力レーザ光の入射が開始されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のレーザの制御方法。
【請求項6】
前記温度制御の際に、任意の環境温度範囲に応じて前記入力レーザ光を任意のパワーで出力照射するように制御するAPC制御または前記テーブルを用いた温度制御あるいはその両方を用いた制御を行うことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のレーザの制御方法。
【請求項7】
前記環境温度が所定の範囲を越えたときは、波長変換動作を中止して、警告表示あるいは停止動作を行うことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のレーザの制御方法。
【請求項8】
入力レーザ光を波長変換する際の波長変換素子の温度を位相整合温度に保持する温度制御を行うレーザ制御装置であって、
複数の環境温度毎に前記温度制御の目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力との関係を測定する制御温度指示部と、
測定した前記目標温度と前記波長変換素子の波長変換後の出力とを複数の前記環境温度毎に関連付けたテーブルを記憶するメモリ部と、
前記テーブルに基づき、前記環境温度の変化に応じて前記目標温度を選択して前記温度制御を行う温度制御部と
を有することを特徴とするレーザ制御装置。
【請求項9】
前記目標温度を選択して前記温度制御する際に、所定のウエイト時間をおいてから、前記入力レーザ光の入射が開始されることを特徴とする請求項8記載のレーザ制御装置。
【請求項10】
レーザ光を所定のパワーで出力照射するように制御するAPC手段をさらに備え、
前記温度制御の際に、任意の環境温度範囲に応じてAPC制御または前記テーブルを用いた温度制御あるいはその両方を用いた制御を行うことを特徴とする請求項8または請求項9のいずれかに記載のレーザ制御装置。
【請求項11】
前記環境温度が所定の範囲を越えたときは、波長変換動作を中止して、警告表示あるいは停止動作を行うことを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のレーザ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−137898(P2011−137898A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296573(P2009−296573)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】