説明

レーザ・アーク溶接方法及びレーザ・アーク複合溶接装置

【課題】レーザ溶接とアーク溶接とを併合して溶接を行うレーザ・アーク溶接方法及び装置を提供する。
【解決手段】X,Y,Z軸方向へ移動自在な加工ヘッド11に備えたレーザ溶接ヘッド13及びアーク溶接トーチ15を備えたレーザ・アーク複合溶接装置によってワークWの接合部である溶接線31に沿って溶接を行うとき、前記加工ヘッド11に備えたギャップセンサ37によってワークの溶接線31におけるギャップ量を検出し、検出したギャップ量が予め設定してある設定値より小さい場合には前記レーザ溶接ヘッド13を用いてレーザ溶接を行い、検出したギャップ量が前記設定値より大きい場合には前記アーク溶接トーチ15を用いてアーク溶接を併用して行い、前記溶接線に沿ってワークの溶接を行うとき、前記ギャップセンサによって前記溶接線の全範囲に亘ってギャップ量を検出し、検出したギャップ量が前記設定値より小さな範囲のレーザ溶接を行った後に、前記設定値より前記ギャップ量が大きな範囲のアーク溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの接合部である溶接線のギャップ量を検出し、この検出したギャップ量の大きさに対応してレーザ溶接とアーク溶接とを選択して行うことのできるレーザ・アーク溶接方法及びその溶接方法に使用するレーザ・アーク複合溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板状のワークの接合部である溶接線に沿って溶接する場合、従来、レーザ溶接やTIGやMIGのアーク溶接が使用されている。レーザ溶接は、深い溶け込みで熱歪みの少ない高品質の溶接を行い得るものの、溶接線のギャップ量が大きくなると溶接不可能になることがある。アーク溶接の場合には、レーザ溶接のように深い溶け込みは得られないものの、溶接線のギャップ量が比較的大きい場合であっても容易に溶接することができるものである。
【0003】
そこで、レーザ溶接とアーク溶接とを併用したレーザ・アーク溶接方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2006−224130号公報
【特許文献2】特開2005−238282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1,2に記載の溶接方法は、アーク溶接によって形成された溶融池にレーザ光を照射することによって、溶接線のギャップ量が小さい場合に対応し、かつ深い溶け込みの溶接を行っているものである。したがって、溶接線のギャップ量が小さくレーザ溶接で充分な場合にもアーク溶接を併用することとなり、熱歪みの少ない高品質の溶接を行うこと及び省エネの向上を図る上において問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、X,Y,Z軸方向へ移動自在な加工ヘッドに備えたレーザ溶接ヘッド及びアーク溶接トーチを備えたレーザ・アーク複合溶接装置によってワークの接合部である溶接線に沿って溶接を行うとき、前記加工ヘッドに備えたギャップセンサによってワークの溶接線におけるギャップ量を検出し、検出したギャップ量が予め設定してある設定値より小さい場合には前記レーザ溶接ヘッドを用いてレーザ溶接を行い、検出したギャップ量が前記設定値より大きい場合には前記アーク溶接トーチを用いてアーク溶接を行うことを特徴とするものである。
【0006】
また、前記レーザ・アーク溶接方法において、前記溶接線に沿ってワークの溶接を行うとき、前記ギャップセンサによって前記溶接線の全範囲に亘ってギャップ量を予め検出し、検出したギャップ量が前記設定値より小さな範囲のレーザ溶接を行った後に、前記設定値より前記ギャップ量が大きな範囲のアーク溶接を行うことを特徴とするものである。
【0007】
また、前記レーザ・アーク溶接方法において、前記レーザ溶接時に、当該レーザ溶接位置付近の温度を温度検出センサにより検出し、この検出した温度が予め設定された設定温度以上の場合には溶接動作を停止して冷却を行い、検出温度が予め設定された規定温度以下に低下した場合、又は停止してから予め設定された設定時間を経過した後にレーザ溶接を再開することを特徴とするものである。
【0008】
また、X,Y,Z軸方向へ移動自在な加工ヘッドに、レーザ溶接を行うためのレーザ溶接ヘッドとアーク溶接を行うためのアーク溶接ヘッドを備えたレーザ・アーク複合溶接装置であって、当該レーザ・アーク複合溶接装置の制御を行うための制御装置を備え、この制御装置に、ワークの接合部である溶接線に沿ってギャップセンサを移動して溶接線のギャップ量を検出したときに、基準位置からの前記ギャップセンサの移動位置と検出したギャップ量との関係を記憶したギャップ量記憶手段と、予め設定してあるギャップ量の設定値とレーザ溶接又はアーク溶接或いはレーザ溶接とアーク溶接を併用する溶接機能の関係を格納した機能選択テーブルと、溶接対象とするワークの板厚,材質,溶接線のギャップ量とレーザ溶接条件,アーク溶接条件との関係を格納した溶接条件テーブルと、前記ギャップセンサによって検出したギャップ量の検出値とギャップ量の前記設定値とを比較して前記機能選択テーブルから溶接機能を選択するギャップ量比較演算手段と、このギャップ量比較演算手段によって選択された溶接機能と入力手段から入力されたワークの材質,板厚及び前記ギャップセンサによって検出されたギャップの検出値とを基にして前記溶接条件テーブルから溶接条件を検索する溶接条件検索手段と、この溶接条件検索手段によって検索した溶接条件と前記溶接線に沿っての前記加工ヘッドの移動プログラムとによって前記ワークの溶接を行う位置制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
また、前記レーザ・アーク溶接装置において、前記ギャップ量比較演算手段によって選択した溶接機能にレーザ溶接とアーク溶接とが含まれる場合に、アーク溶接を行うアーク溶接領域よりもレーザ溶接を行うレーザ溶接領域を優先的に溶接を行うための優先順位決定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記レーザ・アーク複合溶接装置において、レーザ溶接時にレーザ溶接位置付近の温度を検出するための温度検出センサと、この温度検出センサによって検出した検出温度と予め設定された設定温度及び当該設定温度より低温の規定温度とを比較する温度比較手段と、この温度比較手段による比較結果が前記設定温度以上の場合に溶接動作を停止し、前記温度比較手段による比較結果が前記規定温度以下の場合、又は停止してから予め設定された設定時間を経過した後にレーザ溶接を再開する前記位置制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接線のギャップ量が設定値より小さい場合にはレーザ溶接のみを行い、上記ギャップ量が設定値より大きい場合にレーザ溶接とアーク溶接とを併用するものであるから、省エネを図ることができると共に、熱歪みを抑制することや溶接部に大きな凹部を生じることを抑制して良好な溶接面を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。図1に、概念的,概略的に示すように、本発明の実施形態に係るレーザ・アーク複合溶接装置1は、一般的なレーザ溶接システムと同様に溶接ロボット3を備えている。なお、この種の溶接ロボット3は周知であるから、溶接ロボット3の詳細な構成,動作についての説明は省略する。
【0013】
前記溶接ロボット3のロボットアーム5の先端部には、このロボットアーム5の長手方向に対して直交する軸7の軸心回りに回動自在かつ上記軸7に対して直交する軸9の軸心回りに回動自在な加工ヘッド11が備えられている。したがって、加工ヘッド11は溶接ロボット3の作動によってX,Y,Z軸方向へ移動自在であると共に前記軸7,9の軸心回りに回動自在である。
【0014】
前記加工ヘッド11にはレーザ溶接を行うためのレーザ溶接ヘッド13が備えられていると共にアーク溶接を行うためのアーク溶接ヘッド(アーク溶接トーチ)15が備えられている。上記レーザ溶接ヘッド13は、例えば光ファイバーなどのごとき導波路17を介してレーザ発振器19と接続してある。そして、前記アーク溶接ヘッド15にはアーク溶接電源21が適宜に接続してある。また、前記アーク溶接ヘッド15に対してフィラーFの供給を行うフィラー送り装置23が前記溶接ロボット3に備えられていると共に、溶接ロボット3に近接した位置には、フィラーFのリール25が備えられている。
【0015】
さらに、前記レーザ・アーク複合溶接装置1には、前記溶接ロボット3,レーザ発振器19,アーク溶接電源21などの制御、すなわちレーザ・アーク複合溶接装置1の制御を行うNC制御装置などのごとき制御装置27が備えられている。
【0016】
前記レーザ溶接ヘッド13及びアーク溶接ヘッド15は、作業台29上に載置位置決めされたワークW1,W2の接合部である溶接線31に沿って溶接を行うもので、レーザ溶接ヘッド13とアーク溶接ヘッド15との位置関係は、図2に示すように設定してある。すなわち、前記アーク溶接ヘッド15はフィラーFを案内するパイプ電極33を内部に備えた構成であって、上記パイプ電極33に案内されて送り出される前記フィラーFの先端部は、前記レーザ溶接ヘッド13からワーク上面へ照射されるレーザ光LBの照射位置35へ指向し、この照射位置35においてワーク上面にフィラーFの先端部が接触する位置関係にある。
【0017】
上記構成により、前記制御装置27の制御の下に、ワークW1,W2の接合部である溶接線31に、レーザ溶接ヘッド13を使用してのレーザ溶接又はアーク溶接ヘッド15を使用してのアーク溶接を行い得るものである。
【0018】
ところで、前記溶接線31のギャップ量Gが許容値以下の場合にはレーザ溶接が可能である。しかし前記ギャップ量Gが許容値以上になると、レーザ溶接が不可能であるので、この場合には、レーザ溶接とアーク溶接とを併用することになる。上述のごとくレーザ溶接とアーク溶接とを併用する場合にあっては、前記ギャップ量の大きさによって前記フィラーFの供給を行う場合と、前記パイプ電極33とワークWとの間においてアーク放電を行うのみの場合とがあるものである。
【0019】
したがって、前記溶接線31のギャップ量Gを検出するために、前記加工ヘッド11には、例えばCCDカメラなどのごときギャップセンサ37が備えられていると共に、例えば赤外線カメラなどのごとき温度検出センサ39が備えられている。この温度検出センサ39は、レーザ溶接ヘッド13を使用しての溶接時に溶接部(溶接位置付近)の温度を検出するものである。より詳細には、前記温度検出センサ39は、溶接時における前記レーザビームLBの照射位置35より溶接進行方向の前側へ予め設定された所定距離だけ離れた位置であって溶融池よりも僅かに前側の位置の温度を検出するものである。
【0020】
以上のごとき構成において、作業台29上に設置し、かつワークW1,W2の接合部(溶接線)のギャップ(間隙)を極力小さくするように、適宜の固定治具によって固定したワークWの溶接線に沿って溶接を行うには、例えばティーチングなどを行って前記溶接線31に沿って加工ヘッド11を移動するための移動プログラム41(図3参照)を作成する。なお、既に溶接を行ったことのあるワーク(製品)であって、移動プログラムが既に作成されている場合には、その移動プログラムを使用する。次に、この移動プログラム41に従って、前記制御装置27に備えた位置制御手段43の制御の下に前記溶接ロボット3を制御して、前記加工ヘッド11を溶接線31の基準位置(例えばワークの端部)から溶接線31に沿って移動する。
【0021】
上述のように、加工ヘッド11を溶接線31に沿って移動するときに、前記ギャップセンサ37の移動位置を移動位置検出センサ45によって検出すると共に前記ギャップセンサ37によって溶接線31のギャップ量Gを検出する。そして、前記移動位置検出センサ45によって検出した基準位置からの移動位置とギャップセンサ37によって検出したギャップ量Gとを関連付けて、前記制御装置27に備えたギャップ量記憶手段47に格納する。
【0022】
なお、前記移動位置検出センサ45は、溶接ロボット3における各関節部等に備えたサーボモータに備えられたロータリーエンコーダなどとすることや、前記移動プログラム41に含まれる位置指令値を検出する手段などとすることができる。
【0023】
前述のごとく、ギャップ量記憶手段47に溶接線31上の位置とギャップ量Gとの関係が記憶されると、次に、予め実験等によって求められ、設定値メモリ49に予め設定してある3種のギャップ量G1,G2,G3(なお、ギャップ量G1,G2,G3の関係は、0≦G1<G2<G3の関係にある)と検出したギャップ量Gとがギャップ量比較演算手段51において比較される。すなわち溶接線31が検出したギャップ量Gの大きさによって、0≦G<G1の区画I,G1≦G<G2の区画II,G2≦G<G3の区画IIIに区画され、各区画I〜IIIに区画された区画溶接線は、溶接区画テーブル53に格納される。
【0024】
前記制御装置27には、前記ギャップ量Gが0≦G<G1のときには溶接機能[1]としてレーザ溶接ヘッド13のみを使用したレーザ溶接,G1≦G<G2の場合には、溶接機能[2]としてレーザ溶接とアーク溶接ヘッド15を使用したアーク溶接の併用であってもフィラーFの供給を行わないアーク溶接,G2≦G<G3の場合には溶接機能[3]としてレーザ溶接とフィラーFの供給を行うアーク溶接とを併用しての溶接を行うように、溶接線31の検出したギャップ量Gに対応して各溶接機能[1]〜[3]を予め関連付けした機能選択テーブル55が備えられている。そして、前記ギャップ量比較演算手段51においては、前記溶接区画テーブル53の区画溶接線のデータと前記機能選択テーブル55の溶接機能[1]〜[3]とを対比して、各区画溶接線毎に溶接機能[1]又は溶接機能[2]或いは溶接機能[3]を割付けし、各区画溶接線と各溶接機能[1]〜[3]とを関連付けて機能割付けテーブル57に格納する。
【0025】
なお、各区画溶接線と各溶接機能[1]〜[3]との関連付けは、溶接線31の各区画溶接線の溶接を行うときにその都度行う場合には、前記機能割付けテーブル57を省略することができる。しかし、溶接を行うときにおけるギャップ量比較演算手段51の負荷の軽減を図る上においては、前記機能割付けテーブル57を備えることが望ましいものである。
【0026】
前述のごとく、溶接線31が検出したギャップ量Gの大きさに対応して区画されると、優先順位決定手段59において、各区画溶接線毎の溶接順位が決定される。この場合、ワークWの熱歪みを抑制するために、溶接時の入熱量の少ない溶接条件で接合可能な区画溶接線を優先的に溶接するものである。したがって、前記溶接区画テーブル53に格納されている区画溶接線においては、0≦G<G1(区画I)に区画されている区画溶接線が優先され、次に、G1≦G<G2(区画II)に区画される区画溶接線,その次は、G2≦G<G3(区画III)に区画されている区画溶接線の順となる。そして、各区画I〜IIIに区画された各区画溶接線においては、短い区画線が優先されることになる。
【0027】
前記優先順位決定手段59によって溶接線31における各区画溶接線の溶接順位が決定されると、次に、溶接条件検索手段61によって各区画溶接線に対応しての溶接条件が決定される。すなわち、入力手段63からワークWの板厚,材質などが入力されると、溶接条件検索手段61は、溶接条件テーブル65に予め登録されている溶接条件を検索して各区画溶接線に対して溶接条件を対応付けるものである。なお、前記溶接条件テーブル65には、一般的な溶接条件テーブルと同様に、溶接条件としての実験データや過去の一般的な溶接条件データが、ワークWの材質,板厚及び各溶接機能[1]〜[3]毎に格納されているものである。
【0028】
前述のごとく、各区画溶接線の溶接順位が決定されると共に各区画溶接線に対して溶接条件が決定されると、溶接プログラム作成手段67によって溶接プログラムが作成される。そして、この溶接プログラムに従って前記位置制御手段43の制御の下に加工ヘッド11を溶接線31に沿って溶接順に移動して溶接が実行される。
【0029】
ところで、ワークの形状によっては仮止溶接が必要な場合には、前記溶接プログラム作成手段67に備えた仮止溶接プログラム作成手段67Aによって前記区画Iに区画された区画溶接線が選択され、この選択された区画溶接線の中間位置及び/又は両端付近が仮止溶接位置として決定されて仮止溶接プログラムが作成される。そして、前記溶接プログラムに従っての溶接動作に先立って、上記仮止溶接プログラムに従って前記位置制御手段43の制御の下に加工ヘッド11の移動位置決めが行われて、仮止溶接が行われるものである。
【0030】
前記溶接プログラムに従って前記位置制御手段43の制御の下に前記加工ヘッド11を移動して溶接を行うとき、前記加工ヘッド11に備えた温度検出センサ39によって溶接部すなわち溶融池よりも進行方向に僅かに先行した位置(前記照射位置35から予め設定した所定寸法だけ進行方向の前側の位置)の温度が検出される。この温度検出センサ39によって検出された溶接部の検出温度Tは温度比較手段69へ入力される。この温度比較手段69においては、温度設定手段71に予め設定してある高温の設定温度T1及び低温の設定温度(規定温度)T2と前記検出温度Tとの比較を行い、検出温度T≧高温の設定温度T1になると、前記位置制御手段43に対して停止信号を出力して溶接動作が停止される。
【0031】
そして、溶接停止が所定時間継続されて溶接部の温度が低下し、検出温度T≦低温の設定温度T2になると、溶接再開の信号が前記位置制御手段43に対して出力されて、溶接動作が再開されるものである。
【0032】
ところで、溶接動作を再開する場合、温度検出センサ39によって検出した検出温度Tと低い設定温度(規定温度)T2とを比較する場合について説明した。しかし、溶接部の温度が設定温度T2以下に低下するには所定時間必要であるから、設定温度T2以下になるまでの必要停止時間を実験的に求め、この求めた停止時間を温度設定手段71に予め設定する。そして、溶接動作を停止したときからの停止継続時間を計時し、前記温度設定手段71に設定された設定時間経過後に溶接動作を再開する構成とすることも可能である。
【0033】
以上のごとき説明より理解されるように、本実施形態によれば、ワークWの溶接線31の溶接を、レーザ溶接ヘッド13及びアーク溶接ヘッド15を備えたレーザ・アーク複合溶接装置によって溶接を行うとき、前記溶接線31のギャップ量(間隙の幅)Gが小さい(0≦G<G1)ときにはレーザ溶接のみを行い、深い溶け込みが得られるものである。そして、ギャップ量Gが中(G1≦G<G2)の場合には、レーザ溶接とアーク溶接を併用するもののフィラーFの供給を行うことなくアーク溶接を行うものであるから、溶接線31における間隙(ギャップ)の両側部を溶融することができ、この溶融部分にレーザ光LBを照射するものであるから深い溶け込みが得られるものである。なお、アーク溶接時には、アーク溶接ヘッド15に備えたパイプ電極33からフィラーFを突出して先端部をワークWに接触させてアーク放電が生じた後に、上記フィラーFの先端部をパイプ電極33内に引き込むことにより、前記パイプ電極33とワークWとの間のアーク放電に容易に移行できるものである。
【0034】
さらに、ギャップ量Gが大(G2≦G<G3)の場合には、レーザ溶接とフィラーFの供給を行うアーク溶接とを併用するものであるから、大きなギャップ量G内にフィラーFを溶融充填できることとなると共に、レーザ溶接による深い溶け込みが得られるものである。したがって、溶接線の溶接後に溶接部に大きな凹部が形成されることを抑制することができるものである。
【0035】
すなわち、レーザ溶接のみの場合と、レーザ溶接とアーク溶接との併用の場合とを使い分けして溶接を行うことができるので、レーザ溶接とアーク溶接とを常に併用する場合に比較して省エネを図ることができると共に、高品質の溶接を行うことができ、かつ溶接部の強度向上を図ることができるものである。
【0036】
また、溶接線31の溶接は、溶接線31のギャップ量Gの小さい部分から順次行うものであるから、溶接時における入熱量の少ない溶接位置から順次溶接を行うこととなり、熱歪みを抑制しての溶接が可能なものである。
【0037】
さらに、溶接時には温度検出センサ39によって溶接部の進行方向の前側の位置の温度を検出し、検出温度Tが予め設定してある設定温度T1より高温になると、溶接動作を停止して溶接部を冷却(放冷)するものであるから、溶接時の熱歪みを抑制することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ・アーク複合溶接装置を概念的,概略的に示した説明図である。
【図2】レーザ溶接ヘッドとアーク溶接ヘッドとの位置的関係及びアーク溶接ヘッドの構成を示す説明図である。
【図3】レーザ・アーク複合溶接装置の制御を行うための機能ブロック図の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 レーザ・アーク複合溶接装置
3 溶接ロボット
11 加工ヘッド
13 レーザ溶接ヘッド
15 アーク溶接ヘッド
27 制御装置
31 溶接線(接合部)
37 ギャップセンサ
39 温度検出センサ
41 移動プログラム
43 位置制御手段
45 移動位置検出センサ
47 ギャップ量記憶手段
49 設定値メモリ
51 ギャップ量比較演算手段
53 溶接区画テーブル
55 機能選択テーブル
57 機能割付けテーブル
59 優先順位決定手段
61 溶接条件検出手段
63 入力手段
65 溶接条件テーブル
67 溶接プログラム作成手段
67A 仮止溶接プログラム作成手段
69 温度比較手段
71 温度設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X,Y,Z軸方向へ移動自在な加工ヘッドに備えたレーザ溶接ヘッド及びアーク溶接トーチを備えたレーザ・アーク複合溶接装置によってワークの接合部である溶接線に沿って溶接を行うとき、前記加工ヘッドに備えたギャップセンサによってワークの溶接線におけるギャップ量を検出し、検出したギャップ量が予め設定してある設定値より小さい場合には前記レーザ溶接ヘッドを用いてレーザ溶接を行い、検出したギャップ量が前記設定値より大きい場合には前記アーク溶接トーチを用いてアーク溶接を行うことを特徴とするレーザ・アーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ・アーク溶接方法において、前記溶接線に沿ってワークの溶接を行うとき、前記ギャップセンサによって前記溶接線の全範囲に亘ってギャップ量を予め検出し、検出したギャップ量が前記設定値より小さな範囲のレーザ溶接を行った後に、前記設定値より前記ギャップ量が大きな範囲のアーク溶接を行うことを特徴とするレーザ・アーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ・アーク溶接方法において、前記レーザ溶接時に、当該レーザ溶接位置付近の温度を温度検出センサにより検出し、この検出した温度が予め設定された設定温度以上の場合には溶接動作を停止して冷却を行い、検出温度が予め設定された規定温度以下に低下した場合、又は停止してから予め設定された設定時間を経過した後にレーザ溶接を再開することを特徴とするレーザ・アーク溶接方法。
【請求項4】
X,Y,Z軸方向へ移動自在な加工ヘッドに、レーザ溶接を行うためのレーザ溶接ヘッドとアーク溶接を行うためのアーク溶接ヘッドを備えたレーザ・アーク複合溶接装置であって、当該レーザ・アーク複合溶接装置の制御を行うための制御装置を備え、この制御装置に、ワークの接合部である溶接線に沿ってギャップセンサを移動して溶接線のギャップ量を検出したときに、基準位置からの前記ギャップセンサの移動位置と検出したギャップ量との関係を記憶したギャップ量記憶手段と、予め設定してあるギャップ量の設定値とレーザ溶接又はアーク溶接或いはレーザ溶接とアーク溶接を併用する溶接機能の関係を格納した機能選択テーブルと、溶接対象とするワークの板厚,材質,溶接線のギャップ量とレーザ溶接条件,アーク溶接条件との関係を格納した溶接条件テーブルと、前記ギャップセンサによって検出したギャップ量の検出値とギャップ量の前記設定値とを比較して前記機能選択テーブルから溶接機能を選択するギャップ量比較演算手段と、このギャップ量比較演算手段によって選択された溶接機能と入力手段から入力されたワークの材質,板厚及び前記ギャップセンサによって検出されたギャップの検出値とを基にして前記溶接条件テーブルから溶接条件を検索する溶接条件検索手段と、この溶接条件検索手段によって検索した溶接条件と前記溶接線に沿っての前記加工ヘッドの移動プログラムとによって前記ワークの溶接を行う位置制御手段と、を備えていることを特徴とするレーザ・アーク複合溶接装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ・アーク溶接装置において、前記ギャップ量比較演算手段によって選択した溶接機能にレーザ溶接とアーク溶接とが含まれる場合に、アーク溶接を行うアーク溶接領域よりもレーザ溶接を行うレーザ溶接領域を優先的に溶接を行うための優先順位決定手段を備えていることを特徴とするレーザ・アーク複合溶接装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のレーザ・アーク複合溶接装置において、レーザ溶接時にレーザ溶接位置付近の温度を検出するための温度検出センサと、この温度検出センサによって検出した検出温度と予め設定された設定温度及び当該設定温度より低温の規定温度とを比較する温度比較手段と、この温度比較手段による比較結果が前記設定温度以上の場合に溶接動作を停止し、前記温度比較手段による比較結果が前記規定温度以下の場合、又は停止してから予め設定された設定時間を経過した後にレーザ溶接を再開する前記位置制御手段と、を備えていることを特徴とするレーザ・アーク複合溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291826(P2009−291826A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149594(P2008−149594)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】