説明

レーザーダイシング・ダイボンド兼用シートおよびチップ複合体の製造方法

【課題】 レーザーダイシング工程を採用したダイレクトダイボンディングプロセスにおいて、レーザー光によるダイシング・ダイボンド兼用シートの切断、チャックテーブルの損傷およびダイシング・ダイボンド兼用シートのチャックテーブルへの融着を防止しうるレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートおよびそれを用いたダイレクトダイボンディングプロセスによるチップ複合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートは、少なくともポリウレタンアクリレート層を含む基材と、該基材の片面に形成された易剥離層と、易剥離層上に形成されたダイボンド用接着剤層とからなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシング・ダイボンド兼用シートに関し、さらに詳しくはレーザー光で被切断物(以下、「ワーク」と記載する)をダイシングしてチップ化すると同時に、チップ裏面にダイボンド用接着剤層を設け、接着剤層付のチップを、回路基板やリードフレームなどの被着体にダイボンドして、半導体装置等のチップ複合体を製造する連続工程(ダイレクトダイボンディングプロセス)において使用されるレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、このウエハは素子小片(ICチップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるダイボンド工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め粘着テープに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンド、ピックアップの各工程の後、次工程のダイボンド工程に移送される。
【0003】
このようなプロセスでは、通常はピックアップされたチップは、裏面に接着剤層を形成された後、次工程であるダイボンド工程に移送されている。しかしながら、チップの小型化にともない、適当量の接着剤をチップ裏面に塗布することが困難になっている。
【0004】
このため、ピックアップ工程とダイボンド工程のプロセスを簡略化するために、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンド兼用シートを用いたダイレクトダイボンディングプロセスが提案されている(たとえば、特許文献1〜6)。
【0005】
ダイシング・ダイボンド兼用シートは、ダイボンド用接着剤層と、基材とからなる。ダイシング工程においては、ダイボンド用接着剤層はウエハを固定する機能をも有する。ダイシング時には、ウエハとともにダイボンド用接着剤層も切断され、切断されたチップと同形状の接着剤層が形成される。ダイシング終了後、チップのピックアップを行うと、接着剤層は、チップとともに剥離する。接着剤層を伴ったチップを基板に載置し、加熱等を行い、チップと基板とを接着剤層を介して接着する。このようなダイレクトダイボンディングプロセスによれば、上述したようなチップ裏面への接着剤の塗布工程を省略できるばかりでなく、微小なチップであっても適正量の接着剤層をチップ裏面に簡便に形成できるようになる。
【0006】
ウエハのダイシングは、通常は回転丸刃(ブレード)を用いて行われているが、近年、レーザー光を用いたダイシング(レーザーダイシング)が提案されている。レーザーダイシングは、ブレードダイシングでは切断困難なワークも切断可能である場合があり、注目されている。そのようなレーザーダイシングに用いられるレーザーダイシングシートは種々提案されている(特許文献7〜9)。
【0007】
レーザーダイシングには、種々の利点があることから、ダイレクトダイボンディングプロセスにおいても、ダイシング工程をレーザー光により行うことが検討される。
【0008】
レーザーダイシングにおいては、ダイシングシート上に固定されたワークにレーザー光を走査してワークをダイシングしている。この際、レーザー光の焦点は、次のように移動している。すなわち、ワークが貼付されていないダイシングシート表面(ワークの外縁部)から加速し、ワーク表面を一定速度で走査し、ワークの他方の外縁部で減速、停止する。その後、進行方向を反転し、加速後、ワーク表面を走査し、再度減速、停止、反転する。
【0009】
したがって、レーザー光焦点の移動における加速・減速時には、ワークが貼付されていないダイシングシートの端部に直接レーザー光が照射されている。この際、レーザー光によりダイシングシートが切断されたり、レーザー光がダイシングシートを透過し、チャックテーブルを損傷するという問題が発生することがあった。さらに、レーザー光によって加熱されたチャックテーブルに接するダイシングシートの面が溶融し、チャックテーブルに融着するという問題が発生することもあった。
【0010】
このような問題は、ダイシング・ダイボンド兼用シートを用いたレーザーダイシング工程においても発生する。
【特許文献1】特開平2−32181号公報
【特許文献2】特開平8−239636号公報
【特許文献3】特開平10−8001号公報
【特許文献4】特開2002−256235号公報
【特許文献5】特開2000−17246号公報
【特許文献6】特開2005−303275号公報
【特許文献7】特開2002−343747号公報
【特許文献8】特開2005−236082号公報
【特許文献9】特開2005−252094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、レーザーダイシング工程を採用したダイレクトダイボンディングプロセスにおいて、レーザー光によるダイシング・ダイボンド兼用シートの切断、チャックテーブルの損傷およびダイシング・ダイボンド兼用シートのチャックテーブルへの融着を防止しうるレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートおよびそれを用いたダイレクトダイボンディングプロセスによるチップ複合体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)少なくともポリウレタンアクリレート層を含む基材と、該基材の片面に形成された易剥離層と、易剥離層上に形成されたダイボンド用接着剤層とからなるレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【0013】
(2)基材を構成するポリウレタンアクリレート層が、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる硬化物である(1)に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【0014】
(3)エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーがポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーであり、ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーのエーテル結合部がアルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-:ただしRはアルキレン基であり、nは2〜200の整数)であり、アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが炭素数1〜6のアルキレン基である(2)に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【0015】
(4)アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、エチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレンである(3)に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【0016】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートのダイボンド用接着剤層にワークを貼付し、
レーザー光によりワークおよびダイボンド用接着剤層を個片化してチップを作製し、
該チップ裏面にダイボンド用接着剤層を固着残存させて易剥離層から剥離し、
該チップを、ダイボンド用接着剤層を介して被着体に固着する工程を含むチップ複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、ダイシング・ダイボンド兼用シートにおける基材が、構成層として少なくともポリウレタンアクリレート層を含む。ポリウレタンアクリレート層はレーザー光が照射されても、損傷が小さく切断されない。このため、レーザーダイシングを行っても基材の受ける損傷は小さく切断されない。また基材は損傷を受けなくとも基材を透過してチャックテーブルにまで到達する光量は低減される。この結果、レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるダイシング・ダイボンド兼用シートの切断、チャックテーブルの損傷およびシートのチャックテーブルへの融着が防止され、レーザーダイシングによるチップ複合体の製造工程が円滑に行われるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。本発明に係るダイシング・ダイボンド兼用シートは、基材と、その片面に形成された易剥離層と、易剥離層上に形成されたダイボンド用接着剤層とからなる。
【0019】
基材は、構成層として、ポリウレタンアクリレートを主たる構成成分とする樹脂層(以下、「ポリウレタンアクリレート層」と呼ぶ)を含む。ポリウレタンアクリレート層は、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物を製膜後、これにエネルギー線を照射して得られる硬化物が好ましい。
【0020】
エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーは、たとえばポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られる。また、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリオール化合物と、イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることもできる。
【0021】
ポリオール化合物は、アルキレンジオール、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール、ポリカーボネート型ポリオールの何れであってもよいが、ポリエーテル型ポリオールを用いることで、より良好な効果が得られる。また、ポリオールであれば特に限定はされず、2官能のジオール、3官能のトリオールであってよいが、入手の容易性、汎用性、反応性などの観点から、ジオールを使用することが特に好ましい。したがって、ポリエーテル型ジオールが好ましく使用される。
【0022】
ポリエーテル型ジオールは、一般にHO-(-R-O-)n-Hで示される。ここで、Rは2価の炭化水素基、好ましくはアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基、特に好ましくは炭素数2または3のアルキレン基である。また、炭素数1〜6のアルキレン基の中でも好ましくはメチレン、エチレン、メチルメチレン、プロピレン、トリメチレン、エチルメチレン、ブチレン、メチルトリメチレン、ジメチルエチレン、プロピルメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、またはヘキサメチレンであり、特に好ましくはエチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレンであり、さらに特に好ましくはエチレンまたはプロピレンである。また、nは好ましくは2〜200,さらに好ましくは10〜100である。したがって、特に好ましいポリエーテル型ジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールがあげられ、さらに特に好ましいポリエーテル型ジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールがあげられる。
【0023】
ポリエーテル型ジオールは、多価イソシアナート化合物との反応により、エーテル結合部(-(-R-O-)n-)を誘導し、末端イソシアナートウレタンプレポリマーを生成する。このようなエーテル結合部は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環反応によって誘導される構造であってもよい。
【0024】
多価イソシアナート化合物としては、たとえば4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアナートなどが用いられ、特に好ましくは4,4’ −ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナートが好ましく用いられる。
【0025】
次いで、末端イソシアナートウレタンプレポリマーとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとを反応させて、ウレタンアクリレート系オリゴマーが得られる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、たとえば2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなどが用いられ、特に2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが用いられる。
【0026】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、一般式:Z−(Y−(X−Y)m)−Zで示される(ここで、Xはポリエーテル型ジオールにより誘導される構成単位であり、Yはジイソシアナートから誘導される構成単位であり、Zはヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートから誘導される構成単位である)。上記一般式においてmは、好ましくは1〜200、さらに好ましくは1〜50となるように選択される。
【0027】
また、上記したように、前記ポリオール化合物とイソシアナート基を有する(メタ)アクリレートを反応させて、ウレタンアクリレート系オリゴマーをえることもできる。ポリオール化合物は前記と同様であり、イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば2−アクリロイルオキシエチルイソシアナートまたは2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートなどが用いられ、特に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートが用いられる。
【0028】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、一般式:W−X−Wで示される(ここで、Xはポリエーテル型ジオールにより誘導される構成単位であり、Wはイソシアナート基含有(メタ)アクリレートから誘導される構成単位である)。
【0029】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、分子内に光重合性の二重結合を有し、エネルギー線照射により重合硬化し、皮膜を形成する性質を有する。
【0030】
本発明で好ましく用いられるウレタンアクリレート系オリゴマーの重量平均分子量は、1000〜50000、さらに好ましくは2000〜40000の範囲にある。上記のウレタンアクリレート系オリゴマーは一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記のようなウレタンアクリレート系オリゴマーのみでは、製膜が困難な場合が多いため、本発明では、エネルギー線硬化性のモノマーと混合して製膜した後、これを硬化してフィルムを得る。エネルギー線硬化性モノマーは、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有し、特に本発明では、比較的嵩高い基を有するアクリルエステル系化合物が好ましく用いられる。
【0031】
このようなウレタンアクリレート系オリゴマーと混合するために用いられるエネルギー線硬化性のモノマーの具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレートなどの脂環式化合物、フェニルヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノールエチレンオキシド変性アクリレートなどの芳香族化合物、もしくはテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリンアクリレート、N−ビニルピロリドンまたはN−ビニルカプロラクタムなどの複素環式化合物が挙げられる。また必要に応じて多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。このようなエネルギー線硬化性モノマーは単独で、あるいは複数を組合せて用いても良い。
【0032】
上記エネルギー線硬化性モノマーは、ウレタンアクリレート系オリゴマー100重量部に対して、好ましくは5〜900重量部、さらに好ましくは10〜500重量部、特に好ましくは30〜200重量部の割合で用いられる。
【0033】
基材の構成層であるポリウレタンアクリレートフィルムは、ウレタンアクリレート系オリゴマーおよびエネルギー線硬化性モノマーを含む配合物を製膜、硬化して得られる。この際、該配合物に光重合開始剤を混入することにより、エネルギー線照射による重合硬化時間ならびにエネルギー線照射量を少なくすることができる。このような光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光重合開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアントラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0034】
光重合開始剤の使用量は、ウレタンアクリレート系オリゴマーおよびエネルギー線硬化性モノマーの合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.3〜5重量部である。
【0035】
また、上述の配合物中には、炭酸カルシウム、シリカ、雲母などの無機フィラー、鉄、鉛等の金属フィラーを添加してもよい。さらに、上記成分の他にも、ポリウレタンアクリレートフィルムには顔料や染料等の着色剤、帯電防止剤等の添加物が含有されていてもよい。
【0036】
製膜方法としては、流延製膜(キャスト製膜)と呼ばれる手法が好ましく採用できる。具体的には、液状の配合物(硬化前の樹脂、樹脂の溶液等)を、たとえば工程シート上に薄膜状にキャストした後に、塗膜に紫外線、電子線などのエネルギー線を照射して重合硬化させてフィルム化することで基材を製造できる。このような製法によれば、製膜時に樹脂にかかる応力が少なく、フィッシュアイの形成が少ない。また、膜厚の均一性も高く、厚み精度は、通常2%以内になる。
【0037】
上記のようなポリウレタンアクリレートフィルムからなる樹脂層(ポリウレタンアクリレート層)はレーザー光が照射されても、損傷が小さく切断されない。このため、レーザーダイシングを行っても、基材の受ける損傷は小さく切断されない。また基材は損傷を受けなくとも基材を透過してチャックテーブルにまで到達する光量は低減される。
【0038】
基材は、上述したポリウレタンアクリレート層の単層が形成されていてもよく、複数のポリウレタンアクリレート層を有していてもよい。また基材は、レーザー光に対する耐性などの点から、ポリウレタンアクリレート層のみからなることが好ましいが、ハンドリング性などを考慮して、ポリウレタンアクリレート以外の他の樹脂からなる構成層を有していてもよい。ポリウレタンアクリレート以外の他の樹脂からなる構成層は、従来よりダイシングシートの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが特に制限されることなく用いられる。また、基材には帯電防止処理が施されていてもよい。
【0039】
本発明のダイシング・ダイボンド兼用シートにおいて、基材の厚みは、特に制限はないが、作業性、エキスパンド性、本発明の効果などの面から、ポリウレタンアクリレート層の厚みが好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは30〜300μm、特に好ましくは50〜200μmである。
【0040】
本発明に係るダイシング・ダイボンド兼用シートは、上記のような基材上に、易剥離層を介して、ダイボンド用接着剤層が剥離可能に形成されてなる。なお、ダイボンド用接着剤層をエネルギー線硬化性のものにより構成する場合には、基材および易剥離層はエネルギー線に対して透過性を有する必要がある。特に、ダイボンド用接着剤層が、後述する粘接着剤により形成される場合には、基材上に直接粘接着剤層を形成すると、基材から粘接着剤層を剥離できないことがある。一方、基材表面に易剥離層を形成し、その上に粘接着剤層を設けることで、粘接着剤層を剥離可能に形成することができる。
【0041】
基材がポリウレタンアクリレート層のみからなる場合、ダイボンド用接着剤層は、易剥離層を介してポリウレタンアクリレートフィルムの片面に形成される。また、基材がポリウレタンアクリレート層と他の樹脂層との積層体である場合、ダイボンド用接着剤層は、易剥離層を介して設けられる限り、ポリウレタンアクリレート層上に設けられてもよく、また他の樹脂層上に設けられてもよい。
【0042】
易剥離層は、基材表面に剥離不能に設けられ、該易剥離層上にダイボンド用接着剤層が剥離可能に形成される。易剥離層は常態では適度な粘着力を示し、ダイボンド用接着剤層を保持するが、所定の操作により粘着力を消失ないし低減することができ、ダイボンド用接着剤層を易剥離層から剥離しうる機能を有する。
【0043】
易剥離層の粘着力を低減した後の、易剥離層の表面張力は特に限定はされないが、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは36mN/m以下である。
【0044】
易剥離層は、たとえばエネルギー線硬化型や、エネルギー線発泡型、加熱発泡型、水膨潤型などの粘着剤から形成されうる。エネルギー線硬化型粘着剤は、エネルギー線の照射を受ける前には適度な粘着力を有し、ダイボンド用接着剤層を保持するが、エネルギー照射により重合硬化し、粘着力を消失ないし低減することができ、ダイボンド用接着剤層を剥離しうる機能を有する。
【0045】
エネルギー線発泡型粘着剤は、エネルギー線の照射を受ける前には適度な粘着力を有するが、エネルギー線照射により発泡し粘着剤とダイボンド用接着剤層との接触面積が低減し、粘着力が低下する。加熱発泡型粘着剤は、加熱前には適度な粘着力を有するが、加熱により発泡し粘着剤とダイボンド用接着剤層との接触面積が低減し、粘着力が低下する。水膨潤型粘着剤は、水との接触前には適度な粘着力を有するが、水との接触により膨潤し粘着剤とダイボンド用接着剤層との接触面積が低減し、粘着力が低下する。
【0046】
エネルギー線硬化型や、エネルギー線発泡型、加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤は、各種公知のものが使用される。
【0047】
易剥離層の形成を行う際には、易剥離層と基材との密着性を向上させる目的で、予め基材表面にサンドブラストや溶剤処理などによる凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理などの酸化処理などを施してもよく、エチレン酢酸ビニル共重合体等によりプライマー層を設けてもよい。
【0048】
基材表面上に易剥離層を介して剥離可能に形成されるダイボンド用接着剤層は、ダイシング工程においては、ワークを固定する機能を果たし、ダイシング時にはワークとともにダイボンド用接着剤層も切断され、得られるチップと同形状の接着剤層が形成される。この際、易剥離層も同時に切断されても構わない。
【0049】
ダイボンド用接着剤層の厚みは、特に限定はされないが、通常は1〜500μm、好ましくは3〜300μm、特に好ましくは5〜200μm程度である。ダイボンド用接着剤層としては、従来より半導体チップのダイボンドに使用されている各種の粘接着剤やフィルム状ダイボンド剤が特に制限されることなく使用できる。
【0050】
粘接着剤とは、初期状態において常温または30〜60℃程度の加温で粘着性を示し、さらに高温に加熱すると、硬化し強固な接着性を示す接着剤をいう。
【0051】
粘接着剤としては、従来公知の粘接着剤が特に制限されることなく用いられる。しかしながら、易剥離層からの剥離を容易にするために、粘接着剤からなる接着剤層(粘接着剤層)は、エネルギー線硬化性成分を有することが好ましい。エネルギー線硬化性成分を硬化させることで、粘着力が減少するため、易剥離層表面からの剥離を容易に行えるようになる。また、ダイボンド時にチップ搭載用基板との固着を強固にするために、熱硬化性成分を有することが好ましい。チップ搭載用基板への載置後、加熱することで熱硬化性成分が活性化し、チップ搭載用基板に対し強固に接着できるようになる。
【0052】
好ましい粘接着剤としては、たとえば常温で粘着性を有する粘着性成分と熱硬化性樹脂との混合物が挙げられる。常温で粘着性を有する粘着性成分としては、たとえばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルエーテル、ウレタン樹脂、ポリアミド等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、一般的にはエポキシ、フェノキシ、フェノール、レゾルシノール、ユリア、メラミン、フラン、不飽和ポリエステル、シリコーン等であり、適当な硬化促進剤と組み合わせて用いられる。このような熱硬化性樹脂は種々知られており、本発明においては特に制限されることなく公知の様々な熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0053】
上記のような各成分からなる粘接着剤は、感圧接着性と加熱硬化性とを有し、易剥離層に密着してワークの固定に寄与し、マウントの際にはチップとチップ搭載用基板とを接着する接着剤として使用することができる。そして熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、しかも剪断強度と剥離強度とのバランスにも優れ、厳しい熱湿条件下においても充分な接着物性を保持しうる。
【0054】
また粘接着剤には易剥離層との剥離性を制御するため、エネルギー線硬化性成分を配合することが好ましい。エネルギー線硬化性成分を配合すると、エネルギー線照射前は粘接着剤が易剥離層とよく密着し、エネルギー線照射後は粘接着剤層が硬化し、粘着力が低下するため、易剥離層から剥離しやすくなる。エネルギー線硬化性成分としては、たとえばトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が用いられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、重量平均分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。
【0055】
また、ダイボンド用接着剤層としては、フィルム状ダイボンド剤も使用することができる。フィルム状ダイボンド剤は、ダイアタッチフィルムとも呼ばれ、主に熱可塑性接着剤からなる。フィルム状ダイボンド剤は、常温ではほとんど接着力を示さないが、ガラス転移点以上で流動性を示し被着体に密着し、その後常温に戻しても密着性を持続することで、接着剤としての機能を示す。このような熱可塑性接着剤としては種々知られており、本発明においては特に制限されることなく公知の様々な熱硬化性樹脂を用いることができる。たとえばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体に代表されるような熱可塑性ゴム、熱可塑性ポリイミド、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンポリビニルエーテル等があげられる。
【0056】
ダイボンド用接着剤層を易剥離層上に形成する手段は特に限定はされない。ダイボンド用接着剤層を上記粘接着剤により形成する場合には、剥離シート上に所定の膜厚になるように粘接着剤組成物を塗布、乾燥して形成した粘接着剤層を、基材表面に形成された易剥離層上に転写しても構わないし、易剥離層表面に直接粘接着剤組成物を塗布して粘接着剤層を形成しても構わない。また、フィルム状ダイボンド剤の場合には、上記易剥離層上に直接圧着してもよい。
【0057】
ダイボンド用接着剤層には、その使用前にダイボンド用接着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。
【0058】
次に、本発明のダイシング・ダイボンド兼用シートを使用したチップ複合体の製造方法について説明する。
【0059】
本発明のチップ複合体の製法では、上記ダイシング・ダイボンド兼用シートのダイボンド用接着剤層にワークを固定する。ダイボンド用接着剤層を粘接着剤で構成した場合には、感圧接着性を有するため、ワークを粘接着剤層に軽く押圧することで、ワークを固定できる。エネルギー線硬化性の粘接着剤層を用いた場合には、ワークを固定後、基材側からエネルギー線を照射し、粘接着剤層の凝集力を上げ、粘接着剤層と易剥離層との間の接着力を低下させておく。ただし、この場合、易剥離層はエネルギー線硬化型、エネルギー線発泡型でないことが好ましい。言い換えると、易剥離層がエネルギー線硬化型あるいはエネルギー線発泡型の場合には、粘接着剤にはエネルギー線硬化性成分を配合しないことが好ましい。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)等が用いられ、好ましくは紫外線が用いられる。また、フィルム状ダイボンド剤を使用した場合には、常温での接着力が低いため、ワークを熱圧着することが好ましい。次いで、ワークがダイシング・ダイボンド兼用シートに固定された状態で、ワーク表面をレーザー光で走査し、ワークを切断してチップ体を得る。この際、同時にウエハとともにダイボンド用接着剤層も切断され、切断されたチップと同形状の接着剤層が形成される。また、この際、易剥離層も同時に切断されても構わない。
【0060】
このようなレーザー光を用いたダイシング方法自体は公知である。レーザーダイシングにおいては、レーザー光の焦点は、次のように移動している。すなわち、ワークが貼付されていないダイシングシートの露出表面(ワークの外縁部)から加速し、ワーク表面を一定速度で走査し、ワークの他方の外縁部で減速、停止する。その後、進行方向を反転し、加速後、再度ワーク表面を走査し、再度減速、停止、反転する。通常は、ひとつのダイシングラインあたり、1〜複数回程度のレーザー光走査を行う。
【0061】
レーザー光焦点の移動における加速・減速時には、ワークが貼付されていないダイシング・ダイボンド兼用シートの端部に直接レーザー光が照射されている。この際、レーザー光がダイシング・ダイボンド兼用シートを切断することがあった。また、レーザー光がダイシング・ダイボンド兼用シートを透過し、チャックテーブルを損傷するという問題が発生することがあった。さらに、レーザー光によって加熱されたチャックテーブルに接するダイシング・ダイボンド兼用シートの面が溶融し、チャックテーブルに融着するという問題が発生することもあった。
【0062】
しかし、本発明においては、ダイシング・ダイボンド兼用シートの基材の構成層として、上述したポリウレタンアクリレートフィルムを使用することで、上記の課題を解決している。すなわち、本発明のダイシング・ダイボンド兼用シートを使用した場合、たとえレーザー光がダイシング・ダイボンド兼用シートに直接照射されても、基材は、レーザー光による損傷を受けにくいことが確認された。具体的には、基材を構成するポリウレタンアクリレート層表面の一部分がレーザー光により切り込まれるのみであり、ポリウレタンアクリレート全体が切断されることがない。また、高いエネルギーをもったレーザー光が基材を透過してチャックテーブルに至ることもなく、チャックテーブルの損傷やダイシング・ダイボンド兼用シートのチャックテーブルへの融着も確認されなかった。
【0063】
次いで、所定の手段により、易剥離層の粘着力を消失ないし低減する。易剥離層がエネルギー線硬化型の場合には、紫外線等のエネルギー線を照射することで、易剥離層の粘着力は消失ないし低減される。また、エネルギー線発泡型、加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤から易剥離層が形成されている場合には、エネルギー線を照射したり、加熱や水に浸漬することで、易剥離層の接着力を低減することができる。また、必要に応じ、ダイシング・ダイボンド兼用シートのエキスパンドを行うと、チップ間隔が拡張し、チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。エキスパンド工程は、易剥離層の粘着力低減を行った後が一般的であるが、先に行ってもよい。
【0064】
その後、定法によりチップのピックアップを行うと、易剥離層は基材表面に残留し、切断されたダイボンド用接着剤層をチップ裏面に固着残存させて易剥離層から剥離することができる。
【0065】
次いでダイボンド用接着剤層を介してチップをダイパッド部など所定の搭載部位に載置することで半導体装置に代表されるチップ複合体が得られる。ダイボンド用接着剤層が熱硬化性を有する場合には、搭載部位はチップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、使用される熱硬化性樹脂の硬化温度に依存し、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、チップマウント圧力は、通常1kPa〜100MPaである。また、熱可塑性接着剤からなるフィルム状ダイボンド剤を用いた場合には、フィルムのガラス転移点以上に加熱し、フィルムを軟化してチップを被着体に密着し、その後常温に戻して接着を完了する。
【0066】
本発明において適用可能なワークとしては、レーザー光によって切断処理を実施することができる限り、その素材に限定はなく、たとえば半導体ウエハ、ガラス基板、セラミック基板、FPC等の有機材料基板、又は精密部品等の金属材料など種々の物品を挙げることができる。
【0067】
レーザーは、波長及び位相が揃った光を発生させる装置であり、YAG(基本波長=1064nm)、もしくはルビー(基本波長=694nm)などの固体レーザー、又はアルゴンイオンレーザー(基本波長=1930nm)などの気体レーザーおよびこれらの高調波などが知られており、本発明ではそれらの種々のレーザーを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明においては、基材の構成層としてポリウレタンアクリレート層を含むため、基材にレーザー光が照射されても、基材の受ける損傷は小さく、また基材を透過してチャックテーブルにまで到達する光量は低減される。この結果、レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるチャックテーブルの損傷およびダイシングシートのチャックテーブルへの融着が防止され、レーザーダイシングによるチップ体の製造工程が円滑に行われるようになる。
【0069】
(実施例)
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
なお、以下の実施例および比較例において、ダイボンド用接着剤層を形成する粘接着剤およびフィルム状ダイボンド剤として下記を用いた。
【0071】
[粘接着剤組成物]
下記成分を、固形の場合はメチルエチルケトンを用いて溶解した後に混合して、粘接着剤組成物(固形分濃度50%)を得た。
粘着性成分として、アクリル系共重合体(日本合成化学工業(株)製コーポニールN2359-6(固形分濃度34%))を100重量部、多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン(株)製コロネートL(固形分濃度75%))を1重量部、
熱硬化性樹脂として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製EOCNTM104S、エポキシ当量:200)を15重量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製jERTM055、エポキシ当量:800〜900)を70重量部、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製jERTMPA-828、エポキシ当量:200)を50重量部、
熱活性型潜在性硬化剤として、ジシアンジアミドを2重量部、
硬化促進剤として、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製キュアゾール2PHZ)を2重量部。
【0072】
[フィルム状ダイボンド剤]
熱可塑性ポリイミド(宇部興産(株)製ユピタイトUPA-N221)のテトラヒドロフラン/モノグライム混合溶液(固形分濃度20%)を、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製SP-PET3811S、以下「PET(3)」)上に所定の膜厚になるように塗布・乾燥し、PET(3)を剥離したフィルム状物。
【0073】
また、レーザーダイシング条件およびダイシングおよびピックアップ工程の評価法を以下に示す。
【0074】
[レーザーダイシング条件]
・ 装置 :Nd−YAGレーザー
・ チャックテーブル材質:石英
・ 波長 :355nm(第3高調波)
・ 出力 :8W
・ 繰り返し周波数 :10kHz
・ パルス幅 :35nsec
・ 照射回数 :2回/1ライン
・ カット速度 :100mm/sec
・ デフォーカス量 :シート表面上から+100μm(ウエハの表面上から+50μmに焦点)
・ ウエハ材質 :シリコン
・ ウエハ厚 :50μm
・ ウエハサイズ :8インチ
・ カットチップサイズ :5mm×5mm
・ ウエハの外にレーザーが走査する距離:5mm
【0075】
[切込深さ評価]
レーザーダイシングが終了した後にカットラインを断面観察し、実施例においては基材のポリウレタンアクリレート層、比較例においてはポリウレタンアクリレート層の代わりに用いた樹脂層の表面からの切込深さを計測した(観察部位はウエハが貼られていない、レーザーが直射される部分)。基材が完全に切断されてしまったものは「切断」と表記した。
【0076】
[チャックテーブルの損傷]
レーザーダイシングが終了した後にテーブル表面を目視で観察し、損傷がないか確認した。テーブルに損傷がなかったものを「なし」とし、損傷があったものを「あり」とした。
【0077】
[チャックテーブルへの融着]
レーザーダイシング後にレーザーダイシング装置内臓の搬送機構でダイシングテーブルからウエハが固定されたダイシング・ダイボンド兼用シートを取り出す際、搬送に問題がなかったものを融着「なし」とし、ダイシング・ダイボンド兼用シートがテーブルに熱融着してスムーズな搬送が困難だったものを融着「あり」とした。
【0078】
[表面張力]
JIS K6768:1999(プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法)に準じて、易剥離層表面の表面張力を測定した。なお、易剥離層の表面張力は、紫外線照射等を行い、易剥離層表面の粘着力を低下した後に易剥離層表面の表面張力を測定した。すなわち、剥離すべき接着剤層が接している面の表面張力を測定した。
【0079】
[ピックアップ性]
レーザーダイシング後に、下記装置を用いてダイシング・ダイボンド兼用シート側からニードルにてチップを突き上げ、チップのピックアップを行った。なお、チップのピックアップに先立ち、基材側から易剥離層に紫外線照射等を行い、易剥離層表面の粘着力を低下した後にチップのピックアップを行った。
ピックアップ装置名:キヤノンマシナリー(株)製BESTEM-D02、チップサイズ:5mm×5mm、1段目突上量(5ピン)200μm→2段目突上量(中央1ピン)500μm、突上速度:10mm/s。1段目では5本とも200μm突き上げ、2段目で中央の1本だけをさらに300μm突き上げ、合計で500μm突き上げる。
紫外線照射装置名:リンテック(株)社製 Adwill RAD2000、照度230mW/cm2, 光量190mJ/cm2
【0080】
ダイボンド用接着剤層がチップに転写され、易剥離層上に接着剤の残着が無い場合には「剥離可能」と評価した。基材がチャックテーブルに融着したり、あるいはダイシング時に基材の切断などが起こり、ピックアップ操作が行えない場合には「剥離不可能」と評価した。
【0081】
(実施例1)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)およびポリプロピレングリコール(PPG: 重量平均分子量2,000)を、2HEA:IPDI:PPG=2:5:4 のモル比で用意した。始めにIPDI とPPG とを反応させ、得られた反応生成物に、2HEA を付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0082】
次いで、ウレタンアクリレート系オリゴマー50重量部と、エネルギー線硬化性モノマー(イソボルニルアクリレート)50重量部と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュア1173)0.5重量部とを混合し、塗膜形成用のコーティング液を得た。
【0083】
上記コーティング液をファウンテンダイ方式により、シリコーン剥離処理を行ったポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製SP-PET3801、以下「PET(1)」)上に厚みが100μmとなるように塗布して樹脂組成物層を形成した。塗布直後に、樹脂組成物層の上に、同じシリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(以下「PET(2)」)をラミネートし、その後、高圧水銀ランプを用いて、照度250mW/cm2、光量600mJ/cm2の条件で紫外線照射を行うことにより樹脂組成物層を架橋・硬化させて、PET(1)および PET(2)に挟持された厚さ100μmのポリウレタンアクリレートフィルム(以下、「基材」)を得た。
【0084】
別に、粘接着剤組成物を、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製SP-PET381031C、以下「PET(3)」)上に乾燥膜厚が20μmとなるように塗布し、90℃のオーブン中で2分間乾燥させて粘接着剤層を形成した。
【0085】
また、別に、ブチルアクリレート85重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15重量部からなるアクリル共重合体(重量平均分子量50万)100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート16重量部を反応させて得られた紫外線硬化型アクリル系共重合体100重量部に対し、多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン工業(株)製コロネートL)1重量部と光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ(株)製イルガキュア184)0.3重量部を混合して、紫外線硬化型粘着剤組成物を調製した。紫外線硬化型粘着剤組成物を、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製SP-PET381031C、以下「PET(4)」)上に乾燥膜厚が10μmとなるように塗布し、90℃のオーブン中で1分間乾燥させて紫外線硬化型粘着剤からなる易剥離層を形成した。
【0086】
基材からPET(2)を剥離し、基材の露出面にPET(4)上の易剥離層を貼付し、PET(4)を剥離して、表面に易剥離層が形成された基材を得た。
【0087】
基材上の易剥離層に、上記粘接着剤層を転写し、基材からPET(1)を剥離して、ダイシング・ダイボンド兼用シートを得た。紫外線硬化型粘着剤層は、基材上に形成された易剥離層に該当する。粘接着剤層上のPET(3)を剥離し、50μm厚のシリコンウエハを粘接着剤層上に貼付し、上記条件でレーザーダイシングを行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
実施例1と同様にして、表面に易剥離層が形成された基材を得た。また、基材片面の易剥離層上に、ダイボンド用接着剤層としてフィルム状ダイボンド剤(厚さ10μm)を転写し、基材からPET(1)を剥離して、ダイシング・ダイボンド兼用シートを得た。50μm厚のシリコンウエハを100℃貼付し、上記条件でレーザーダイシングを行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
基材として、ポリウレタンアクリレートに代えて、低密度ポリエチレンフィルム(厚さ100μm)を用い、易剥離層を設けず基材上にダイボンド用接着剤層(粘接着剤層)を転写した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
基材として、ポリウレタンアクリレートに代えて、ポリ塩化ビニルフィルム(厚さ100μm)を用い、易剥離層を設けず基材上にダイボンド用接着剤層(粘接着剤層)を転写した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
基材として、ポリウレタンアクリレートに代えて、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(厚さ100μm)を用い、易剥離層を設けず基材上にダイボンド用接着剤層(粘接着剤層)を転写した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0092】
実施例1および2のダイシング・ダイボンド兼用シートは、レーザーダイシング時に粘接着剤層および易剥離層が切断されたが、基材は切断されることもなく、チャックテーブルの損傷およびチャックテーブルへの融着もみられなかった。比較例1のように、低密度ポリエチレンフィルムを基材とした場合には、チャックテーブルの損傷およびチャックテーブルへの融着がみられた。比較例2では、基材としてポリ塩化ビニルフィルム用いたところ、ダイシング時に粘接着剤および基材が切断された。比較例3では、基材としてエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムを用いたところ、ダイシング時に粘接着剤および基材が切断され、また基材表面の表面張力が高く、ダイボンド用接着剤層の剥離ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリウレタンアクリレート層を含む基材と、該基材の片面に形成された易剥離層と、易剥離層上に形成されたダイボンド用接着剤層とからなるレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【請求項2】
基材を構成するポリウレタンアクリレート層が、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる硬化物である請求項1に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【請求項3】
エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーがポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーであり、ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーのエーテル結合部がアルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-:ただしRはアルキレン基であり、nは2〜200の整数)であり、アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが炭素数1〜6のアルキレン基である請求項2に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【請求項4】
アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、エチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレンである請求項3に記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザーダイシング・ダイボンド兼用シートのダイボンド用接着剤層にワークを貼付し、
レーザー光によりワークおよびダイボンド用接着剤層を個片化してチップを作製し、
該チップ裏面にダイボンド用接着剤層を固着残存させて易剥離層から剥離し、
該チップを、ダイボンド用接着剤層を介して被着体に固着する工程を含むチップ複合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−231776(P2009−231776A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78702(P2008−78702)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】