説明

レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物

【課題】 レーザーを照射した際のレーザーマーキング性、母材に対する変色度合い、視認性、色の均一性等に優れるレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂と有機繊維とからなる。前記有機繊維として、セルロース繊維、再生セルロース繊維、動物繊維、半合成繊維及び合成繊維から選択された少なくとも1種の繊維を使用できる。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリオレフィン系重合体、アクリル系重合体、ポリスチレン系重合体等が用いられる。前記有機繊維の含有量は、例えば0.1〜80重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線の照射によりマーキングを形成できるレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物、該レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物からなるレーザーマーキング可能な製品(成形体、シート、フィルム、それらを構成の一部に含む製品)、該レーザーマーキング可能な製品にレーザー光線を照射してレーザーマーキングを施すレーザーマーキング方法、及びこのレーザーマーキング方法により得られるマーキングが施された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
インキによる印刷・塗装に替わる技術としてレーザー光照射による印刷(「レーザーマーキング」と称する)が普及している。この方法は、照射されたレーザー光線が樹脂中のエネルギー吸収物質に吸収されて発熱し、その熱で樹脂が炭化、発泡或いは蒸散することによって視覚化される。そのため、レーザーエネルギーを吸収する物質の選択が重要となる。一般的なレーザーマーキングの場合、安価であることからレーザーエネルギー吸収物質としてはカーボンブラックや黒鉛が選択されることが多い(特許文献1等)。しかし、これらの物質は着色力が大きく、少量添加であっても色目に大きく影響するので、目標とする背景色によっては添加量に制限を受ける。とりわけ目標値が原色のような高彩度色、高明度色、或いは着色顔料濃度の低い色の場合には、発色に必要な量を添加することは不可能である。
【0003】
一方、カーボンブラック以外の物質のエネルギー吸収物質としての提案もされている(特許文献2、3、4等)。例えば、マイカにコーティングした真珠光沢顔料などの使用が提案されているが、真珠光沢が残るため使用できる背景色が限定されてしまう問題点がある。また、その他には、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット化合物等の使用が提案されてはいるが、使用できる背景色が限定されるとともに、これらの化合物の安全性に疑問が残るという問題がある。また、金属や金属酸化物を含むマーキング用樹脂組成物では、不要となった後、焼却する際に残渣が残るという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−44736号公報
【特許文献2】特開平7−286074号公報
【特許文献3】特開平9−12776号公報
【特許文献4】特開平2−204888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、レーザーを照射した際のレーザーマーキング性、母材に対する変色度合い、視認性、色の均一性等に優れるレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。特に、カーボンブラック、金属、金属酸化物を配合しなくても鮮明な印字が可能なレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の他の目的は、上記のような優れた特性を有するレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物からなる成形体、シート、フィルム又はそれらを構成の一部に含む製品、該成形体等にレーザーマーキングを照射してレーザーマーキングを施すマーキング方法、及びこの方法により得られるマーキングが施された製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂組成物中に有機繊維を添加すると、カーボンブラックや金属酸化物等を配合しなくても鮮明な印字が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂と有機繊維とからなるレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記有機繊維として、セルロース繊維、再生セルロース繊維、動物繊維、半合成繊維及び合成繊維から選択された少なくとも1種の繊維を使用できる。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、アクリル系重合体等が用いられる。前記有機繊維の含有量は、例えば0.1〜80重量%である。
【0010】
本発明は、また、上記のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物からなる成形体、シート、フィルム又はそれらを構成の一部に含む製品を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、上記の成形体、シート、フィルム又はそれらを構成の一部に含む製品にレーザーを照射してレーザーマーキングを施すマーキング方法を提供する。
【0012】
レーザーとして、例えば赤外線レーザーを使用できる。
【0013】
本発明は、さらにまた、上記のマーキング方法により得られるマーキングが施された製品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、レーザーを照射した際のレーザーマーキング性、母材に対する変色度合い、視認性、色の均一性等に優れ、カーボンブラック、金属、金属酸化物を配合しなくても鮮明な印字が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等;ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等の何れであってもよい)、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド12等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール(ポリオキシメチレン等)、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルエステルケトン、ポリアリレート、塩素系重合体、フッ素系重合体、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、セルロース系重合体、ポリカーボネート、スチレン系単量体を構成単量体として含むスチレン系重合体、アクリル系単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
前記スチレン系重合体の構成単量体であるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのビニルトルエン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば、o−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン等)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等)などが挙げられる。これらの中でも、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが特に好ましい。
【0017】
前記スチレン系重合体は、スチレン系単量体以外の単量体の構造単位を含んでいてもよい。このような単量体としてはスチレン系単量体と共重合可能な単量体であればよく、例えば、シアン化ビニル系単量体、無水マレイン酸、イミド系単量体などが挙げられる。また、スチレン系重合体は構成成分としてゴム成分を含んでいてもよい。
【0018】
前記シアン化ビニル系単量体には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが含まれる。前記イミド系単量体には、例えば、N−アルキルマレイミド(例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミド等)、N−アリールマレイミド[例えば、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド等]などが含まれる。前記ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。ゴム成分は、ブレンド法、共重合(グラフト共重合、ブロック共重合)などにより前記スチレン系重合体中に含有させることができる。なお、本明細書では、ゴム成分をブレンド法により重合体中に含有させたものも便宜上「共重合体」と称する。
【0019】
スチレン系重合体の代表的な例として、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(AES)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS;ポリスチレンと合成ゴムとのブレンド、又は合成ゴムにスチレンをグラフト重合したポリマー)などが例示される。
【0020】
前記アクリル系重合体の構成単量体であるアクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどが含まれる。(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシルなどの(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸アラルキルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1−10アルキルエステル[特に、(メタ)アクリル酸C1−4アルキルエステル]が好ましい。アクリル系単量体は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
前記アクリル系重合体は、アクリル系単量体以外の単量体の構造単位を含んでいてもよい。このような単量体としてはアクリル系単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、シアン化ビニル系単量体、スチレン系単量体、無水マレイン酸、イミド系単量体などが挙げられる。これらの単量体(特に、スチレン系単量体)を構成単量体として用いることにより、より低エネルギーのレーザー光線で白色マーキングを可能にするという顕著なマーキング促進効果や、耐衝撃性、成形性の向上効果が得られる。シアン化ビニル系単量体、スチレン系単量体、イミド系単量体としては前記のものが例示される。
【0022】
アクリル系重合体は構成成分としてゴム成分を含んでいてもよい。ゴム成分を重合体中に含有させることにより、成形品の耐衝撃性を向上できる。ゴム成分としては前記のものを使用できる。ゴム成分は、ブレンド法、共重合(グラフト共重合、ブロック共重合)などにより前記アクリル系重合体中に含有させることができる。
【0023】
アクリル系重合体としては、透明性、発色性、色の鮮明性、成形性等の点から、少なくともメタクリル酸メチルを構成単量体として含む重合体が好ましい。
【0024】
好ましいアクリル系重合体には、(i)(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)、アクリロニトリル、スチレン及びゴム成分(例えば、ブタジエン)からなる共重合体、(ii)エチレン、(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)、及び一酸化炭素からなる共重合体、(iii)ポリメタクリル酸メチル、(iv)メタクリル酸−スチレン共重合体などが含まれる。
【0025】
前記アクリル系重合体は他の重合体と組み合わせて使用できる。このような他の重合体として、例えば、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(AES)などが例示される。これらの中でもスチレン−アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。樹脂中にスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)を含有させることにより、耐熱性、耐光性、耐油性、機械的強度、成形加工性などが向上する。
【0026】
熱可塑性樹脂の融点は特に限定されないが、(1)融点230℃以下(例えば、120〜210℃、好ましくは130〜200℃)の結晶性樹脂、及び(2)温度200℃、せん断速度100sec−1、キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が10〜10Pa・s(10〜10ポイズ)(好ましくは50〜5×10Pa・s、さらに好ましくは10〜3×10Pa・s)の非結晶性樹脂から選択された少なくとも1種の樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、上記のなかでも、ポリプロピレン等のポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、アクリル系重合体(アクリル系重合体と他の重合体とのブレンドを含む)などが好ましく、特に、加工温度を低くでき、耐熱性の低い有機繊維でも使用できる点、有機繊維を多く配合しても外観が良好である点等からポリオレフィン系重合体が好ましい。
【0028】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は有機繊維を含んでいる。有機繊維には、セルロース繊維、再生セルロース繊維、動物繊維、半合成繊維、合成繊維が含まれる。セルロース繊維としては、例えば、溶解パルプ、麻繊維、綿繊維(コットンフロック、コットンポリエステルを含む)、竹繊維、バガス、中国アシなどが挙げられる。再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、銅アンモニアレーヨンなどが挙げられる。動物繊維としては、例えば、羊毛、カシミア、モヘア、絹などが挙げられる。半合成繊維としては、例えば、アセテート繊維などが挙げられる。合成繊維としては、例えば、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリフルオロエチレン繊維、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリ乳酸繊維などが挙げられる。これらの中でも、マーキングの際に母材に対する変色度合いの大きい点で、セルロース繊維(特に、溶解パルプ、綿繊維など)、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維などが好ましい。また、セルロース繊維は非石油資源の利用という観点からも好ましい。セルロース繊維のなかでも、α−セルロース含有量が80重量%以上であるセルロース(例えば、溶解パルプ、綿繊維など)は素地がきれいで、マーキングされた文字等の視認性に優れるため好ましい。また、アラミド繊維は耐熱性に優れるため、融点の高い熱可塑性樹脂を母材として使用できる。有機繊維は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物中の有機繊維の大きさは特に限定されないが、平均繊維径は、好ましくは0.1〜1000μm、より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは5〜200μm、特に好ましくは10〜50μm程度である。平均繊維長は、好ましくは0.01〜100mm、より好ましくは0.01〜50mm、さらに好ましくは0.1〜10mm、特に好ましくは0.1〜5mm程度である。有機繊維の平均アスペクト比は、強度等の観点から、好ましくは2〜1000、より好ましくは3〜500、さらに好ましくは5〜500、特に好ましくは10〜500程度である。
【0030】
レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物中の有機繊維の含有量は、例えば0.1〜80重量%、好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは5〜65重量%程度である。有機繊維の含有量が少なすぎると、レーザー光線の熱への変換効率が低下してマーキングが薄くなりやすく、逆に多すぎると成形品の表面が斑模様になったり、マーキングされた文字等の視認性が低下しやすくなる。
【0031】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、カーボンブラックを含んでいてもよい。カーボンブラックを配合することで、レーザー光線の熱への変換効率をより高めることができる。カーボンブラックとしては特に限定されず、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどの何れであってもよい。カーボンブラックの平均粒子径は、例えば10〜90nm、好ましくは14〜90nm、さらに好ましくは17〜50nm程度である。カーボンブラックの粒子径が小さすぎると、マーキングに要するエネルギーを多く必要とし、逆に大きすぎると機械的強度等の物性低下を引き起こしやすい。
【0032】
カーボンブラックを配合する場合、その使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.00001〜5重量部、好ましくは0.0001〜1重量部、さらに好ましくは0.0002〜0.1重量部程度である。なお、目標色が有彩色で淡い色の場合、その使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.00001〜0.1重量部程度が好ましく、より好ましくは0.0001〜0.05重量部程度、さらに好ましくは0.0005〜0.004重量部程度である。一方、顔料濃度の高い色などカーボンブラックの影響を受けにくいベース色である場合には、カーボンブラックの使用量は増やすことができ、例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.0001〜3重量部程度が好ましく、より好ましくは0.0002〜0.5重量部程度、さらに好ましくは0.0005〜0.3重量部程度である。カーボンブラックの使用量が多い場合にはベース色がくすみやすく、マーキング発色が過剰に進み図柄が暗くなることがある。
【0033】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、樹脂を着色するため、他の色材(カーボンブラック以外の色材)を含んでいてもよい。このような色材としては無機又は有機の染顔料の中から適宜選択でき、例えば、白色顔料(例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポンなど)、黄色顔料(例えば、カドミイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄など)、赤色顔料(例えば、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッド、鉛丹など)、青色顔料(例えば、紺青、群青、コバルトブルーなど)、緑色顔料(例えば、クロムグリーンなど)、カーボンブラック以外の暗色系染顔料(例えば、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄など)などが挙げられる。これらの色材は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
酸化チタン等の白色顔料は、レーザー光線を散乱させ、レーザー光線の吸収効率及び熱への変換効率を高めるため、白色度の非常に高い白色マーキングを得ることができる。また、白色染顔料を含有させることにより、レーザー光線の照射エネルギーを低減することができる。
【0035】
上記色材の使用量は、所望の色彩を得るのに必要な量を適宜選択できるが、通常、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば5重量部以下(例えば、0.0001〜5重量部)、好ましくは2重量部以下(例えば、0.001〜2重量部)である。これらの色材の使用量が多すぎると、マーキング色が染顔料の色相を帯びるようになり好ましくない。
【0036】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、相溶化剤、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、前記各成分を、例えば、押出機、ニーダー、ミキサー、ロールなどを用いた慣用の混合方法で混合する(例えば、溶融混合する)ことにより調製できる。
【0038】
本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形などの慣用の成形法に付したり、物品その他にコーティング等することにより、成形体(三次元構造体)、シート、フィルム、これらを構成の一部に含む製品が得られる。好ましい成形体等として、カーボンブラックのみの配合では色がくすんで外観が低下しやすい透明樹脂からなる成形体、シート、フィルム、スケルトンなどが挙げられる。
【0039】
そして、これらの成形体、シート、フィルム、これらを構成の一部に含む製品にレーザー光線を照射すると、樹脂と有機繊維の界面での反射によって照射エネルギーが増幅されるためか、樹脂が効率よく炭化及び/又は発泡(もしくは蒸散)して、レーザー照射部とそれと隣接する成形品の素地とのコントラスト及び色相の差で表面にレーザーマーキングが施された成形品が得られる。マーキングの色は成形体を構成する熱可塑性樹脂の種類や添加する有機繊維、色材の種類等によって異なる。
【0040】
マーキングに用いるレーザーの種類は特に限定されず、炭酸ガスレーザー等の遠赤外線レーザー、YAGレーザー等の近赤外線レーザー、半導体レーザー、エキシマレーザーなどの何れであってもよいが、赤外線レーザーが好適に使用される。マーキングの種類は特に限定されず、文字、記号、図柄、絵、写真等の何れであってもよい。
【0041】
こうして得られるマーク形成製品は、例えば、日用雑貨、自動車部品(ボタン部品等)、家電製品、便座、意匠部品、コンピュータのキーボード等のOA機器、家庭用品、建築材料などに利用できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
実施例1〜21、比較例1〜6
表1〜4に記載されている各成分(表中の数値は重量部)をブレンドし、押出加工によりペレットを作製した後、このペレットから射出成形により厚さ3mmのプレートを作製し、下記の評価試験に付した。
【0044】
評価試験
下記の評価試験を行った。結果を表1〜4に示す。
【0045】
(1)マーキング可否
上記で得られたプレート(厚さ3mm)の表面に、レーザーマーカー(日本電気社製、商品名「マーカーエンジンSL475H」)を用い、レーザー出力2.5W、ピッチ50μm、バイト120μm、走査速度400mm/secの条件下で10mm×10mmの大きさのマーキングを行い、目視観察によりマーキングの可否を評価した。評価基準は下記の通りである。
○:鮮明にマーキングされる
△:マーキングを目視で確認できる
×:マーキングを確認できない
【0046】
(2)変色度
上記で得られたプレート(厚さ3mm)の表面に、レーザーマーカー(日本電気社製、商品名「マーカーエンジンSL475H」)を用い、レーザー出力2.5W、ピッチ50μm、バイト120μm、走査速度400mm/secの条件下で10mm×10mmの大きさのマーキングを行った。色差計(コニカミノルタ社製、商品名「CM3600d」)によりΔEを測定し、プレート母材に対するマーキング部の変色度合いを下記の基準で評価した。
○:ΔEが10以上である
△:ΔEが5以上10未満である
×:ΔEが5未満である
【0047】
(3)視認性
上記で得られたプレート(厚さ3mm)の表面に、レーザーマーカー(日本電気社製、商品名「マーカーエンジンSL475H」)を用い、レーザー出力2.5W、周波数3.0kHz、印字高さ1.0mm、走査速度100mm/secの条件下で印字を行い、目視観察により印字された文字の視認性を評価した。評価基準は下記の通りである。
○:マーキングされた全ての文字を識別できる
△:マーキングされたいくつかの文字を識別できる
×:マーキングされたほとんどの文字を識別できない
【0048】
(4)色ムラ
上記で得られたプレート(厚さ3mm)の表面に、レーザーマーカー(日本電気社製、商品名「マーカーエンジンSL475H」)を用い、レーザー出力2.5W、ピッチ50μm、バイト120μm、走査速度400mm/secの条件下で10mm×10mmの大きさのマーキングを行い、目視観察によりマーキング部の色の均一性を評価した。評価基準は下記の通りである。
○:均等にマーキングされる
△:一部に斑点がある
×:斑模様にマーキングされる
【0049】
[実施例等で使用した成分]
・樹脂成分
ポリプロピレン:商品名「サンアロマーPMB60A」、サンアロマー社製
酸変性ポリプロピレン:商品名「ユーメックス1010」、三洋化成工業社製
ABS:商品名「AT05」、日本エイアンドエル社製
AS:商品名「030SF」、ダイセルポリマー社製
HIPS:商品名「H53C」、東洋スチレン社製
・有機繊維
溶解パルプ:商品名「NDP−T」、日本製紙社製
麻繊維:商品名「310Sisal」、International Fiber Corporation 製
コットンフロック:商品名「W260」、International Fiber Corporation 製
コットンポリエステル:商品名「50CWCP」、International Fiber Corporation 製
竹繊維:商品名「タケパルプ」、Phoenix Pulp & Paper Public Company Limited 製
竹繊維(ECF):商品名「NWBP」、Phoenix Pulp & Paper Public Company Limited 製
バガス:商品名「バガスパルプ」、Environment Pulp and Paper Company Limited 製
中国アシ:商品名「アシパルプ」、ゴールドリバー社製
ポリエステル繊維:商品名「125WPF」、International Fiber Corporation 製
ナイロン繊維:商品名「125WNF」、International Fiber Corporation 製
アラミド繊維:商品名「SA−300」、双伸ライニング社製
テトロン繊維(ポリエステル繊維の一種):商品名「テトロンカットファイバー C324」、東レ社製
・その他
ガラス繊維:商品名「ECS−03−T−480」、日本電気硝子社製
タルク:商品名「PSタルク」、竹原化学工業社製
【0050】

【表1】

















































【0051】

【表2】























【0052】

【表3】













【0053】

【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と有機繊維とからなるレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
有機繊維がセルロース繊維、再生セルロース繊維、動物繊維、半合成繊維及び合成繊維から選択された少なくとも1種である請求項1記載のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体又はアクリル系重合体である請求項1又は2記載のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
有機繊維の含有量が0.1〜80重量%である請求項1〜3の何れかの項に記載のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの項に記載のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物からなる成形体、シート、フィルム又はそれらを構成の一部に含む製品。
【請求項6】
請求項5記載の成形体、シート、フィルム又はそれらを構成の一部に含む製品にレーザーを照射してレーザーマーキングを施すマーキング方法。
【請求項7】
レーザーが赤外線レーザーである請求項6記載のマーキング方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載のマーキング方法により得られるマーキングが施された製品。

【公開番号】特開2008−13599(P2008−13599A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183351(P2006−183351)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】