レーザー光を用いた発色方法及び発色装置
【課題】浸染あるいは捺染工程において、布地などの被染物を発熱させることなく、非接触で簡単、かつコンパクトな省エネルギーの乾式連続発色方法および発色装置を提供する。
【解決手段】昇華性染料あるいはこれを含むインクをインクジェットヘッド12などにより合成繊維を含む被染物10に塗布し、この被染物10を搬送装置11で移動させながら、レーザー装置14により可視光域の波長のレーザー光を照射する。レーザー光は連続レーザー光またはパルスレーザー光であり、その波長は400〜530nmの範囲とする。
【解決手段】昇華性染料あるいはこれを含むインクをインクジェットヘッド12などにより合成繊維を含む被染物10に塗布し、この被染物10を搬送装置11で移動させながら、レーザー装置14により可視光域の波長のレーザー光を照射する。レーザー光は連続レーザー光またはパルスレーザー光であり、その波長は400〜530nmの範囲とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸熱あるいは乾熱処理を行わないで織編物やフィルムを浸染または捺染するための発色方法及び発色装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛の染色を大きく分けると、被染物全体を同じ色に染め付ける浸染と模様染めにする捺染がある。このうち、捺染の場合、スクリーン捺染、ローラ捺染のほかにインクジェット捺染方法があるが、何れも着色剤である染料を被染物中に拡散させて布帛を染色する発色工程が取られている。中でもインクジェット捺染はスクリーンや彫刻ロール等を必要としない無製版のシステムであるため、多品種少量生産に適しているが、プリントした布帛の発色には一般的に専門工場で行われており、さらに専用の発色機を必要としているのが現状である。特に素材がポリエステルの場合、170〜180℃の蒸気中で約10〜15分間処理されており、水や熱エネルギーを大量に消費するとともに環境対策も必要となることから、より簡便で環境負荷の少ない発色技術が望まれてきた。
上記課題を解決する方法として、被染物(熱可塑性合成繊維)に、繊維の選択的吸収波長領域にあるレーザー光を照射して発熱させることで、浸染あるいは捺染を行う方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−106589号公報(第2頁右下欄第18行〜第3頁右上欄第20行および図1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1における浸染あるいは捺染方法は、分散染料液をバッティングした布地または印染糊組成物により模様を印染した布地に繊維の選択的吸収波長領域にあるレーザー光を照射して、その熱エネルギーを利用して布地を発熱させて発色させるサーモゾル法である。したがって、布地の発熱により布地を傷める可能性があるので、布地を傷めないようにレーザー光のエネルギーを精密に制御する必要がある。
【0004】
そこで本発明はこのような課題を解消し、浸染あるいは捺染工程において、レーザー光を布地ではなく染料に吸収させ、布地などの被染物を発熱させることなく、非接触で簡単、かつコンパクトな省エネルギーの乾式連続発色方法および発色装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明のレーザー光を用いた発色方法は、被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色方法であって、昇華性染料あるいはこれを含むインクを前記被染物に塗布し、前記被染物に可視光域(約400〜800nm)の波長のレーザー光を照射することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記レーザー光として連続レーザー光を用いたことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記被染物が合成繊維を含むことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した前記被染物を予備加熱して可視光域の波長の前記レーザー光を照射することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明のレーザー光を用いた発色装置は、被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色装置であって、前記被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、前記被染物を少なくとも一方向に移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、前記レーザー光を前記被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明は、請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記塗布手段がインクジェットヘッドであることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明は、請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記レーザー発生手段が連続レーザー光を発生することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明は、請求項7に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記インクジェットヘッドに光ファイバーの先端部が連結されており、前記光ファイバーに前記レーザー発生手段からのレーザー光が供給され、前記光ファイバーの前記先端部は前記インクジェットヘッドと連動して前記被染物の表面をスキャニングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被染物の浸染あるいは捺染工程において、レーザー光を布地ではなく昇華性染料に吸収させ、布地などの被染物を発熱させることなく被染物を浸染あるいは捺染することができるので、布地を痛めるおそれがない発色方法及び装置を提供することができる。
また、被染物に非接触で簡単でコンパクト、かつ省エネルギーの乾式連続発色方法および発色装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法は、被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを被染物に塗布して可視光域の波長のレーザー光を照射するもので、レーザー光を昇華性染料に吸収させて、被染物を発熱させることなく被染物を所定の色に発色させることができる。したがって、布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単かつ省エネルギーで乾式連続発色を行うことができる。
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたもので、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、レーザー光として連続レーザー光を用いたもので、小出力のレーザー装置により、被染物を傷めることなく、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、被染物が合成繊維を含むもので、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの合成繊維の布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単かつ省エネルギーで乾式連続発色を行うことができる。
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した被染物を予備加熱して可視光域の波長のレーザー光を照射するもので、発色濃度を一層大きくすることができる。
本発明の第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置は、被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、被染物を移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、レーザー光を被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有するもので、レーザー光を昇華性染料に吸収させて、被染物を発熱させることなく被染物を所定の色に発色させることができ、布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単、コンパクト、かつ省エネルギーで乾式連続発色を行う発色装置を提供することができる。
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、塗布手段をインクジェットヘッドとしたもので、スクリーンや彫刻ロール等を必要としない無製版のシステムであるため、多品種少量生産に適しており、デジタル化情報の記録をすることができる。
本発明の第8の実施の形態は、第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、レーザー発生手段を連続レーザー光としたもので、小出力のレーザー装置により、被染物を傷めることなく、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第9の実施の形態は、第7の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、インクジェットヘッドにレーザー照射のための光ファイバーの先端部を連結し、インクジェットヘッドと連動して被染物の表面をレーザー光でスキャニングするもので、被染物に図柄を記録した直後にレーザー光を照射することができるので、インクが被染物に滲む前にすばやく昇華性染料を昇華させて発色させることができる。したがって、装置が簡単になり、しかもインク滲み防止用の前処理剤加工も必要としない。
【実施例1】
【0008】
以下に、本発明のレーザー光を用いた発色方法及び発色装置の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の概念図である。被染物10としては、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの合成繊維による織編物、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドなどをコーティングしたフィルム、及び紙などが利用される。被染物10は搬送装置11により矢印A方向に搬送(主走査)される。被染物10の染色は、浸染の場合は被染物10に昇華性染料の分散液を塗布したり被染物10を分散液中に侵漬して行い、捺染の場合はインクジェットヘッド12から昇華性染料を主成分とするインクを吹き付けて所望の色模様の図柄を記録して行う。インクジェットヘッド12は軸13に沿って矢印B方向に往復運動(副走査)し、インクジェットヘッド12が一方向に移動している間はインクを噴射して記録し、被染物10の端部(副走査の終端)に達するとインクの噴射を中断して被染物10の他方の端部(副走査の始端)に戻る。なお、インクの噴射は、往復双方向で行うことが好ましい。
レーザー装置14はレーザードライバーユニット15により駆動され、可視光線を発生するレーザー、つまり、Arレーザーや半導体レーザーが使用される。レーザードライバーユニット15は出力コントローラ16によりその出力パワーが制御される。レーザー装置14で発生されたレーザー光はポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10を矢印Bと同一方向(副走査方向)に移動する。
【0009】
つぎに、図1の発色装置の動作を、捺染染色を行う実施例に基づいて図2とともに説明する。
被染物10としてポリエステル布を使用し、これにインク滲み防止用の前処理剤加工を施した後、インクジェットヘッド12により市販のシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクジェットプリント用昇華性染料分散インク(例えば、コニカミノルタ株式会社製の、分散染料、分散剤、水および水溶性有機溶媒としてエチレングリコールを全インク質量に対して10〜40質量%含有し、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有し、かつ尿素骨格を有する化合物を含まないインクジェット捺染用分散染料インク)により図柄を描画し、搬送装置11としてシグマ光機株式会社製のXY微動装置上に貼り付けた。
レーザー装置14としては、ILT社製Ar+レーザー発生装置を使用し、出力コントローラ16でパワー密度を4.0〜42.5W/cm2の範囲で制御しながら、レーザードライバーユニット15で駆動されるレーザー装置14から、レーザー光として染料の選択的吸収波長領域にある可視光域(約400〜800nm)の波長、本実施例においては、458nm、488nmおよび514nmの波長で、ビーム径0.35mmの連続レーザー光を発生させた。搬送装置11で被染物10をA方向(主走査方向)に1.53mm、B方向(副走査方向)に0.2mm移動させながら、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10のインク塗布面に矢印C方向(主走査方向)に移動しながら照射した。
なお、図2に示すように、レーザー光の照射時に被染物10を必要に応じて予備加熱工程21で予備加熱する。予備加熱については後述の実施例3において説明する。
図2に示すように、レーザー光を照射された被染物10のインク塗布面においては、被染物10上のインクに分散している昇華性染料22がレーザー光の照射工程23によりそのエネルギーを吸収して昇華24し、昇華性染料22が被染物10内に移行して発色する。照射されるレーザー光は可視光域の波長を有するレーザー光であるので、被染物10を加熱することはない。
なお、搬送装置11は少なくとも被染物10を副走査方向に連続して移動させる機能を有していればよく、レーザー光の主走査方向への移動はポリゴンミラー17およびfθレンズ18やガルバノミラーによるスキャニングにより行うようにすればよい。
【0010】
レーザー光を照射して発色させた被染物10を湯洗してインク滲み防止用の前処理剤を除去した後、分光側色計(マクベス社製MS−2020PL型)を使用して照射表面の反射率を測定した結果の一例を図3〜図10に示す。
図3〜図6は照射するレーザー光の波長を変化させたときのインクの色に対する分光反射率曲線図で、図3はシアン(C)、図4はマゼンタ(M)、図5はイエロー(Y)、図6はブラック(B)の各色に対する分光反射率曲線図である。また、図7〜図10は照射するレーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクの色に対する分光反射率曲線図で、図7はシアン(C)、図8はマゼンタ(M)、図9はイエロー(Y)、図10はブラック(B)の各色に対する分光反射率曲線図である。
一方、図11は従来の乾熱法により発色させた被染物の分光反射曲線図である。
図3〜図11において、反射率が低いほど被染物10からはね返ってくる反射光も少ないことを示しており、被染物10にそれぞれの光を吸収する染料が多く入っている、つまり被染物10が濃く染色されている(強く発色している)ことを表している。
【0011】
まず、図11から、縦軸が反射率なので、レーザー光を照射した時、この値が低いほど吸収率が大きいといえる。従って、4色が低い反射率で重なった時に、用いるレーザー光のパワー(パワー密度)も下がることになる。図11に示すように、波長が450nm付近でイエロー、マゼンダ、ブラックの3色が反射率の低い値で重なっている。なお、450nmの波長では、シアンはピークになり高くなっており、シアンの反射率が低い領域を用いる場合には、イエロー、マゼンダ、ブラックの3色の反射率を考慮すると、例えば488nmから514nmの領域の波長域が適している。波長が460nmを越えるとイエローの反射率は徐々に増加し、波長が560nmを越えるとマゼンダの反射率が徐々に増加する。例えば、700nmの波長では、シアンとブラックは最低の反射率になっているが、イエローとマゼンダは高反射率のため,発色しにくくなる。したがって、用いるインクによっては、単独のみならず、それぞれのインクの色に応じて、複数の波長を用いたレーザー発色がよい場合もある。
【0012】
図3から図10に示す分光反射率曲線図は、上記の発色特性を踏まえて、同時に良好な発色が行える波長域として、400nmから530nmの範囲の波長を用いて実験を行っている。
図3から図6によれば、レーザー光の波長が458nm、488nm、および514nmの場合にはすべて良好な発色特性を示していることがわかる。このように、レーザー光の波長は、400nmから530nmの範囲、更には450nmから530nmの範囲が適している。
一方、レーザー光の照射強度に対する発色特性は、図7〜図10に見られるように、各色ともレーザー光の照射強度が大きいほど濃く染色されて発色が良好であることがわかる。図7〜図10においては、照射するレーザー光の波長が488nmである場合であるが、その他の可視光波長においても同様に、レーザー光を照射しない場合より照射した場合の方が反射率が小さくなり、また、照射強度が大きいほど濃く染色されて発色が良好である。なお、レーザー光のパワー密度は、23.5W/cm2までを示しているが、少なくとも約80W/cm2程度までは良好な結果を得ることができた。
【実施例2】
【0013】
実施例1において、レーザー装置14としてContinuum社製のNd:YAGレーザー発生装置を使用して、波長532nm、ビーム径1.5〜3.0mmパルス状のレーザー光を出力コントローラ16で平均パワー密度を1.30〜1.71W/cm2の範囲で制御しながら、レーザードライバーユニット15で駆動されるレーザー装置14から発生させ、搬送装置11で被染物10をA方向(主走査方向)に0.56〜1.53mm、B方向(副走査方向)に0.75〜1.5mm移動させながら、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10のインク塗布面あるいは反対面に矢印C方向(主走査方向)に移動しながら照射した。照射面の表面色濃度であるK/S値を測定した結果、パルスレーザー光の未照射時に比べ高くなっており、被染物10の着色(発色)効果が大きくなっていることが確認された。
なお、パルスレーザー光の場合は、ピークエネルギーが大きいとパルス照射時に強い閃光が放たれるので、工程現場における労働環境上好ましくない。そこで、パルス発振周波数を高くし、ピークエネルギーを小さくすることにより平均パワー密度を稼ぐようにすることが好ましい。
【実施例3】
【0014】
実施例1または実施例2において、インクジェットヘッド12により昇華性染料分散インクで図柄を描画したポリエステル布の表面温度を、白色光源(キセノンランプ)を使用して予め40〜50℃に予備加熱し、これに実施例1と同一の連続レーザー光または実施例2のパルスレーザー光を照射して分光反射率を測定したところ、実施例1、実施例2の予備加熱をしない場合に比べて明らかに濃く発色することが確認された。
なお、予備加熱は白色光源による加熱以外に温風を吹き付けたり、ヒーターで加温するなどの方法でもよい。
【実施例4】
【0015】
図12は本発明の実施例4によるレーザー光を用いた発色装置の概念図である。図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。図1と異なる部分は、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18を省略し、インクジェットヘッド12に光ファイバー19の先端20を隣接して連結し、レーザー装置14からのレーザー光を光ファイバー19を通して先端20から被染物10の表面に照射するようにした点である。
本実施例においては、被染物10の表面にインクジェットヘッド12からインクを噴射して図柄を記録した直後に、レーザー装置14からのレーザー光を光ファイバー19の先端20から被染物10の表面に照射し、インク中の昇華性染料22を昇華させる。その他の動作は実施例1と同様である。
本実施例によれば、被染物10の表面にインクを噴射して図柄を記録した直後にレーザー光を照射することができるので、インクが被染物10に滲む前にすばやく昇華性染料22を昇華させて発色させることができる。したがって、装置が簡単になり、しかもインク滲み防止用の前処理剤加工も必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のレーザー光を用いた発色方法及び発色装置は、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの織編物や、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドをコーティングしたフィルムや紙などの被染物を同じ色に染め付ける浸染や模様染めにするに浸染、あるいは図柄などを記録するための染色、発色工程に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の概念図
【図2】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の動作原理を説明する概念図
【図3】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのシアン色に対する分光反射率曲線図
【図4】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのマゼンタ色に対する分光反射率曲線図
【図5】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのイエロー色に対する分光反射率曲線図
【図6】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのブラック色に対する分光反射率曲線図
【図7】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのシアン色に対する分光反射率曲線図
【図8】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのマゼンタ色に対する分光反射率曲線図
【図9】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのイエロー色に対する分光反射率曲線図
【図10】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのブラック色に対する分光反射率曲線図
【図11】従来の乾熱法により発色させた被染物の分光反射曲線図
【図12】本発明の実施例4によるレーザー光を用いた発色装置の概念図
【符号の説明】
【0018】
10 被染物
11 搬送装置
12 インクジェットヘッド
13 軸
14 レーザー装置
15 レーザードライバーユニット
16 出力コントローラ
17 ポリゴンミラー
18 fθレンズ
19 光ファイバー
20 先端
21 予備加熱工程
22 昇華性染料
23 レーザー光の照射工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸熱あるいは乾熱処理を行わないで織編物やフィルムを浸染または捺染するための発色方法及び発色装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛の染色を大きく分けると、被染物全体を同じ色に染め付ける浸染と模様染めにする捺染がある。このうち、捺染の場合、スクリーン捺染、ローラ捺染のほかにインクジェット捺染方法があるが、何れも着色剤である染料を被染物中に拡散させて布帛を染色する発色工程が取られている。中でもインクジェット捺染はスクリーンや彫刻ロール等を必要としない無製版のシステムであるため、多品種少量生産に適しているが、プリントした布帛の発色には一般的に専門工場で行われており、さらに専用の発色機を必要としているのが現状である。特に素材がポリエステルの場合、170〜180℃の蒸気中で約10〜15分間処理されており、水や熱エネルギーを大量に消費するとともに環境対策も必要となることから、より簡便で環境負荷の少ない発色技術が望まれてきた。
上記課題を解決する方法として、被染物(熱可塑性合成繊維)に、繊維の選択的吸収波長領域にあるレーザー光を照射して発熱させることで、浸染あるいは捺染を行う方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−106589号公報(第2頁右下欄第18行〜第3頁右上欄第20行および図1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1における浸染あるいは捺染方法は、分散染料液をバッティングした布地または印染糊組成物により模様を印染した布地に繊維の選択的吸収波長領域にあるレーザー光を照射して、その熱エネルギーを利用して布地を発熱させて発色させるサーモゾル法である。したがって、布地の発熱により布地を傷める可能性があるので、布地を傷めないようにレーザー光のエネルギーを精密に制御する必要がある。
【0004】
そこで本発明はこのような課題を解消し、浸染あるいは捺染工程において、レーザー光を布地ではなく染料に吸収させ、布地などの被染物を発熱させることなく、非接触で簡単、かつコンパクトな省エネルギーの乾式連続発色方法および発色装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明のレーザー光を用いた発色方法は、被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色方法であって、昇華性染料あるいはこれを含むインクを前記被染物に塗布し、前記被染物に可視光域(約400〜800nm)の波長のレーザー光を照射することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記レーザー光として連続レーザー光を用いたことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明は、請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記被染物が合成繊維を含むことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザー光を用いた発色方法において、前記昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した前記被染物を予備加熱して可視光域の波長の前記レーザー光を照射することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明のレーザー光を用いた発色装置は、被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色装置であって、前記被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、前記被染物を少なくとも一方向に移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、前記レーザー光を前記被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明は、請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記塗布手段がインクジェットヘッドであることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明は、請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記レーザー発生手段が連続レーザー光を発生することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明は、請求項7に記載のレーザー光を用いた発色装置において、前記インクジェットヘッドに光ファイバーの先端部が連結されており、前記光ファイバーに前記レーザー発生手段からのレーザー光が供給され、前記光ファイバーの前記先端部は前記インクジェットヘッドと連動して前記被染物の表面をスキャニングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被染物の浸染あるいは捺染工程において、レーザー光を布地ではなく昇華性染料に吸収させ、布地などの被染物を発熱させることなく被染物を浸染あるいは捺染することができるので、布地を痛めるおそれがない発色方法及び装置を提供することができる。
また、被染物に非接触で簡単でコンパクト、かつ省エネルギーの乾式連続発色方法および発色装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法は、被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを被染物に塗布して可視光域の波長のレーザー光を照射するもので、レーザー光を昇華性染料に吸収させて、被染物を発熱させることなく被染物を所定の色に発色させることができる。したがって、布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単かつ省エネルギーで乾式連続発色を行うことができる。
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたもので、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、レーザー光として連続レーザー光を用いたもので、小出力のレーザー装置により、被染物を傷めることなく、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、被染物が合成繊維を含むもので、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの合成繊維の布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単かつ省エネルギーで乾式連続発色を行うことができる。
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4の実施の形態によるレーザー光を用いた発色方法において、昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した被染物を予備加熱して可視光域の波長のレーザー光を照射するもので、発色濃度を一層大きくすることができる。
本発明の第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置は、被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、被染物を移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、レーザー光を被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有するもので、レーザー光を昇華性染料に吸収させて、被染物を発熱させることなく被染物を所定の色に発色させることができ、布地を痛めるおそれがなく、被染物に非接触で簡単、コンパクト、かつ省エネルギーで乾式連続発色を行う発色装置を提供することができる。
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、塗布手段をインクジェットヘッドとしたもので、スクリーンや彫刻ロール等を必要としない無製版のシステムであるため、多品種少量生産に適しており、デジタル化情報の記録をすることができる。
本発明の第8の実施の形態は、第6の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、レーザー発生手段を連続レーザー光としたもので、小出力のレーザー装置により、被染物を傷めることなく、発色濃度の高い良好な発色を行うことができる。
本発明の第9の実施の形態は、第7の実施の形態によるレーザー光を用いた発色装置において、インクジェットヘッドにレーザー照射のための光ファイバーの先端部を連結し、インクジェットヘッドと連動して被染物の表面をレーザー光でスキャニングするもので、被染物に図柄を記録した直後にレーザー光を照射することができるので、インクが被染物に滲む前にすばやく昇華性染料を昇華させて発色させることができる。したがって、装置が簡単になり、しかもインク滲み防止用の前処理剤加工も必要としない。
【実施例1】
【0008】
以下に、本発明のレーザー光を用いた発色方法及び発色装置の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の概念図である。被染物10としては、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの合成繊維による織編物、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドなどをコーティングしたフィルム、及び紙などが利用される。被染物10は搬送装置11により矢印A方向に搬送(主走査)される。被染物10の染色は、浸染の場合は被染物10に昇華性染料の分散液を塗布したり被染物10を分散液中に侵漬して行い、捺染の場合はインクジェットヘッド12から昇華性染料を主成分とするインクを吹き付けて所望の色模様の図柄を記録して行う。インクジェットヘッド12は軸13に沿って矢印B方向に往復運動(副走査)し、インクジェットヘッド12が一方向に移動している間はインクを噴射して記録し、被染物10の端部(副走査の終端)に達するとインクの噴射を中断して被染物10の他方の端部(副走査の始端)に戻る。なお、インクの噴射は、往復双方向で行うことが好ましい。
レーザー装置14はレーザードライバーユニット15により駆動され、可視光線を発生するレーザー、つまり、Arレーザーや半導体レーザーが使用される。レーザードライバーユニット15は出力コントローラ16によりその出力パワーが制御される。レーザー装置14で発生されたレーザー光はポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10を矢印Bと同一方向(副走査方向)に移動する。
【0009】
つぎに、図1の発色装置の動作を、捺染染色を行う実施例に基づいて図2とともに説明する。
被染物10としてポリエステル布を使用し、これにインク滲み防止用の前処理剤加工を施した後、インクジェットヘッド12により市販のシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクジェットプリント用昇華性染料分散インク(例えば、コニカミノルタ株式会社製の、分散染料、分散剤、水および水溶性有機溶媒としてエチレングリコールを全インク質量に対して10〜40質量%含有し、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有し、かつ尿素骨格を有する化合物を含まないインクジェット捺染用分散染料インク)により図柄を描画し、搬送装置11としてシグマ光機株式会社製のXY微動装置上に貼り付けた。
レーザー装置14としては、ILT社製Ar+レーザー発生装置を使用し、出力コントローラ16でパワー密度を4.0〜42.5W/cm2の範囲で制御しながら、レーザードライバーユニット15で駆動されるレーザー装置14から、レーザー光として染料の選択的吸収波長領域にある可視光域(約400〜800nm)の波長、本実施例においては、458nm、488nmおよび514nmの波長で、ビーム径0.35mmの連続レーザー光を発生させた。搬送装置11で被染物10をA方向(主走査方向)に1.53mm、B方向(副走査方向)に0.2mm移動させながら、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10のインク塗布面に矢印C方向(主走査方向)に移動しながら照射した。
なお、図2に示すように、レーザー光の照射時に被染物10を必要に応じて予備加熱工程21で予備加熱する。予備加熱については後述の実施例3において説明する。
図2に示すように、レーザー光を照射された被染物10のインク塗布面においては、被染物10上のインクに分散している昇華性染料22がレーザー光の照射工程23によりそのエネルギーを吸収して昇華24し、昇華性染料22が被染物10内に移行して発色する。照射されるレーザー光は可視光域の波長を有するレーザー光であるので、被染物10を加熱することはない。
なお、搬送装置11は少なくとも被染物10を副走査方向に連続して移動させる機能を有していればよく、レーザー光の主走査方向への移動はポリゴンミラー17およびfθレンズ18やガルバノミラーによるスキャニングにより行うようにすればよい。
【0010】
レーザー光を照射して発色させた被染物10を湯洗してインク滲み防止用の前処理剤を除去した後、分光側色計(マクベス社製MS−2020PL型)を使用して照射表面の反射率を測定した結果の一例を図3〜図10に示す。
図3〜図6は照射するレーザー光の波長を変化させたときのインクの色に対する分光反射率曲線図で、図3はシアン(C)、図4はマゼンタ(M)、図5はイエロー(Y)、図6はブラック(B)の各色に対する分光反射率曲線図である。また、図7〜図10は照射するレーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクの色に対する分光反射率曲線図で、図7はシアン(C)、図8はマゼンタ(M)、図9はイエロー(Y)、図10はブラック(B)の各色に対する分光反射率曲線図である。
一方、図11は従来の乾熱法により発色させた被染物の分光反射曲線図である。
図3〜図11において、反射率が低いほど被染物10からはね返ってくる反射光も少ないことを示しており、被染物10にそれぞれの光を吸収する染料が多く入っている、つまり被染物10が濃く染色されている(強く発色している)ことを表している。
【0011】
まず、図11から、縦軸が反射率なので、レーザー光を照射した時、この値が低いほど吸収率が大きいといえる。従って、4色が低い反射率で重なった時に、用いるレーザー光のパワー(パワー密度)も下がることになる。図11に示すように、波長が450nm付近でイエロー、マゼンダ、ブラックの3色が反射率の低い値で重なっている。なお、450nmの波長では、シアンはピークになり高くなっており、シアンの反射率が低い領域を用いる場合には、イエロー、マゼンダ、ブラックの3色の反射率を考慮すると、例えば488nmから514nmの領域の波長域が適している。波長が460nmを越えるとイエローの反射率は徐々に増加し、波長が560nmを越えるとマゼンダの反射率が徐々に増加する。例えば、700nmの波長では、シアンとブラックは最低の反射率になっているが、イエローとマゼンダは高反射率のため,発色しにくくなる。したがって、用いるインクによっては、単独のみならず、それぞれのインクの色に応じて、複数の波長を用いたレーザー発色がよい場合もある。
【0012】
図3から図10に示す分光反射率曲線図は、上記の発色特性を踏まえて、同時に良好な発色が行える波長域として、400nmから530nmの範囲の波長を用いて実験を行っている。
図3から図6によれば、レーザー光の波長が458nm、488nm、および514nmの場合にはすべて良好な発色特性を示していることがわかる。このように、レーザー光の波長は、400nmから530nmの範囲、更には450nmから530nmの範囲が適している。
一方、レーザー光の照射強度に対する発色特性は、図7〜図10に見られるように、各色ともレーザー光の照射強度が大きいほど濃く染色されて発色が良好であることがわかる。図7〜図10においては、照射するレーザー光の波長が488nmである場合であるが、その他の可視光波長においても同様に、レーザー光を照射しない場合より照射した場合の方が反射率が小さくなり、また、照射強度が大きいほど濃く染色されて発色が良好である。なお、レーザー光のパワー密度は、23.5W/cm2までを示しているが、少なくとも約80W/cm2程度までは良好な結果を得ることができた。
【実施例2】
【0013】
実施例1において、レーザー装置14としてContinuum社製のNd:YAGレーザー発生装置を使用して、波長532nm、ビーム径1.5〜3.0mmパルス状のレーザー光を出力コントローラ16で平均パワー密度を1.30〜1.71W/cm2の範囲で制御しながら、レーザードライバーユニット15で駆動されるレーザー装置14から発生させ、搬送装置11で被染物10をA方向(主走査方向)に0.56〜1.53mm、B方向(副走査方向)に0.75〜1.5mm移動させながら、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18により被染物10のインク塗布面あるいは反対面に矢印C方向(主走査方向)に移動しながら照射した。照射面の表面色濃度であるK/S値を測定した結果、パルスレーザー光の未照射時に比べ高くなっており、被染物10の着色(発色)効果が大きくなっていることが確認された。
なお、パルスレーザー光の場合は、ピークエネルギーが大きいとパルス照射時に強い閃光が放たれるので、工程現場における労働環境上好ましくない。そこで、パルス発振周波数を高くし、ピークエネルギーを小さくすることにより平均パワー密度を稼ぐようにすることが好ましい。
【実施例3】
【0014】
実施例1または実施例2において、インクジェットヘッド12により昇華性染料分散インクで図柄を描画したポリエステル布の表面温度を、白色光源(キセノンランプ)を使用して予め40〜50℃に予備加熱し、これに実施例1と同一の連続レーザー光または実施例2のパルスレーザー光を照射して分光反射率を測定したところ、実施例1、実施例2の予備加熱をしない場合に比べて明らかに濃く発色することが確認された。
なお、予備加熱は白色光源による加熱以外に温風を吹き付けたり、ヒーターで加温するなどの方法でもよい。
【実施例4】
【0015】
図12は本発明の実施例4によるレーザー光を用いた発色装置の概念図である。図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。図1と異なる部分は、ポリゴンミラー17およびfθレンズ18を省略し、インクジェットヘッド12に光ファイバー19の先端20を隣接して連結し、レーザー装置14からのレーザー光を光ファイバー19を通して先端20から被染物10の表面に照射するようにした点である。
本実施例においては、被染物10の表面にインクジェットヘッド12からインクを噴射して図柄を記録した直後に、レーザー装置14からのレーザー光を光ファイバー19の先端20から被染物10の表面に照射し、インク中の昇華性染料22を昇華させる。その他の動作は実施例1と同様である。
本実施例によれば、被染物10の表面にインクを噴射して図柄を記録した直後にレーザー光を照射することができるので、インクが被染物10に滲む前にすばやく昇華性染料22を昇華させて発色させることができる。したがって、装置が簡単になり、しかもインク滲み防止用の前処理剤加工も必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のレーザー光を用いた発色方法及び発色装置は、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドあるいはそれらの混紡などの織編物や、ポリエステル、アセテート、ナイロン、アラミドをコーティングしたフィルムや紙などの被染物を同じ色に染め付ける浸染や模様染めにするに浸染、あるいは図柄などを記録するための染色、発色工程に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の概念図
【図2】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色装置の動作原理を説明する概念図
【図3】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのシアン色に対する分光反射率曲線図
【図4】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのマゼンタ色に対する分光反射率曲線図
【図5】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのイエロー色に対する分光反射率曲線図
【図6】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長を変化させたときのインクのブラック色に対する分光反射率曲線図
【図7】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのシアン色に対する分光反射率曲線図
【図8】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのマゼンタ色に対する分光反射率曲線図
【図9】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのイエロー色に対する分光反射率曲線図
【図10】本発明の実施例によるレーザー光を用いた発色方法における照射レーザー光の波長が488nmである場合に、レーザー照射強度を変化させたときのインクのブラック色に対する分光反射率曲線図
【図11】従来の乾熱法により発色させた被染物の分光反射曲線図
【図12】本発明の実施例4によるレーザー光を用いた発色装置の概念図
【符号の説明】
【0018】
10 被染物
11 搬送装置
12 インクジェットヘッド
13 軸
14 レーザー装置
15 レーザードライバーユニット
16 出力コントローラ
17 ポリゴンミラー
18 fθレンズ
19 光ファイバー
20 先端
21 予備加熱工程
22 昇華性染料
23 レーザー光の照射工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色方法であって、昇華性染料あるいはこれを含むインクを前記被染物に塗布し、前記被染物に可視光域(約400〜800nm)の波長のレーザー光を照射することを特徴とするレーザー光を用いた発色方法。
【請求項2】
前記レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項3】
前記レーザー光として連続レーザー光を用いたことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項4】
前記被染物が合成繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項5】
前記昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した前記被染物を予備加熱して可視光域の波長の前記レーザー光を照射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項6】
被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色装置であって、前記被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、前記被染物を少なくとも一方向に移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、前記レーザー光を前記被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有することを特徴とするレーザー光を用いた発色装置。
【請求項7】
前記塗布手段がインクジェットヘッドであることを特徴とする請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【請求項8】
前記レーザー発生手段が連続レーザー光を発生することを特徴とする請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドに光ファイバーの先端部が連結されており、前記光ファイバーに前記レーザー発生手段からのレーザー光が供給され、前記光ファイバーの前記先端部は前記インクジェットヘッドと連動して前記被染物の表面をスキャニングすることを特徴とする請求項7に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【請求項1】
被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色方法であって、昇華性染料あるいはこれを含むインクを前記被染物に塗布し、前記被染物に可視光域(約400〜800nm)の波長のレーザー光を照射することを特徴とするレーザー光を用いた発色方法。
【請求項2】
前記レーザー光の波長を400〜530nmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項3】
前記レーザー光として連続レーザー光を用いたことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項4】
前記被染物が合成繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項5】
前記昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布した前記被染物を予備加熱して可視光域の波長の前記レーザー光を照射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザー光を用いた発色方法。
【請求項6】
被染物を浸染または捺染するためのレーザー光を用いた発色装置であって、前記被染物に昇華性染料あるいはこれを含むインクを塗布する塗布手段と、前記被染物を少なくとも一方向に移動させる搬送手段と、可視光域の波長のレーザー光を発生させるレーザー発生手段と、前記レーザー光を前記被染物の表面でスキャニングさせるスキャニング手段とを有することを特徴とするレーザー光を用いた発色装置。
【請求項7】
前記塗布手段がインクジェットヘッドであることを特徴とする請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【請求項8】
前記レーザー発生手段が連続レーザー光を発生することを特徴とする請求項6に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドに光ファイバーの先端部が連結されており、前記光ファイバーに前記レーザー発生手段からのレーザー光が供給され、前記光ファイバーの前記先端部は前記インクジェットヘッドと連動して前記被染物の表面をスキャニングすることを特徴とする請求項7に記載のレーザー光を用いた発色装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−249597(P2006−249597A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65818(P2005−65818)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】
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