説明

レーザー加工装置

【課題】ワークに対する往路加工と復路加工とを同じ加工品質で行うこと。
【解決手段】ある実施の形態におけるレーザー加工装置において、レーザー照射機構5は、レーザービームを発振するレーザービーム発振器と、レーザービームを保持機構2に保持されたワークWに向かって集光する集光レンズ541と、噴射口531からワークWに向けて気体を噴射する保護ブローノズル53とを有し、保護ブローノズル53は、集光レンズ541によって集光されたレーザービームが噴射口531を通過してワークWに照射されるように配設され、保持機構2とレーザー照射機構5とを加工送り方向に沿って相対的に往復移動させながらワークWにレーザービームを照射することで行う往路加工時と復路加工時とで加工屑のワークWへの付着が同程度となるように、ワークWに対するレーザービームの照射位置と噴射口531の中心位置とが調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等のワークをレーザー加工するレーザー加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状であるワークの表面に格子状に配列されたストリート(切断ライン)によって複数の領域が区画され、この区画された領域にICやLSI等の回路が形成される。そして、ストリートに沿ってワークを切断して回路が形成された領域を分割することにより、個々の半導体チップが製造される。ストリートに沿ったワークの切断は、例えば、ダイサーと呼ばれる切削装置によってを用いて行われている。また、近年では、ストリートに沿ってレーザービームを照射することでストリートに溝を形成し、その後外力を付与してワークを回路毎に分割する手法も試みられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、ワークを切断するために行うレーザー加工では、ワークとレーザービームの照射位置とを相対的に往復移動させることで、ストリートに沿って往路加工と復路加工とを行う場合がある。このような場合には、一般に、レーザー加工の安定性を目的として往路加工と復路加工とで同じ加工品質が求められる。そして、加工品質を同じにするためには、往路加工で発生した加工屑のワークへの付着と復路加工で発生した加工屑のワークへの付着とを一定にすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した加工屑のワークへの付着に影響を与える要因の1つとして、レーザービームを照射するレーザー照射機構とワークとの間の空気の流れが考えられる。しかしながら、加工屑は数μmオーダーであり、また、レーザー照射機構とワークとの間の空気の流れには様々な要因が影響を与えるため、この空気の流れを制御して往路加工時における加工屑のワークへの付着と復路加工時における加工屑のワークへの付着とを一定にするのは困難であった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みて為されたものであり、ワークに対する往路加工と復路加工とを同じ加工品質で行うことができるレーザー加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるレーザー加工装置は、ワークを保持する保持機構と、該保持機構に保持された前記ワークにレーザービームを照射するレーザー照射機構とを備えたレーザー加工装置であって、前記レーザー照射機構は、前記レーザービームを発振する発振器と、前記レーザービームを前記保持機構に保持された前記ワークに向かって集光する集光レンズと、開口部を有し、前記レーザービームを前記ワークに照射したことで発生した加工屑が前記集光レンズに付着するのを低減するために前記開口部から前記ワークに向けて気体を噴射する保護ブローノズルと、を有し、前記保護ブローノズルは、前記集光レンズによって集光された前記レーザービームが前記開口部を通過して前記ワークに照射されるように配設され、前記保持機構と前記レーザー照射機構とを加工送り方向に沿って相対的に往復移動させながら前記ワークにレーザービームを照射することで行う往路加工時と復路加工時とで前記加工屑の前記ワークへの付着が同程度となるように、前記ワークに対する前記レーザービームの照射位置と前記開口部の中心位置とが調整されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保持機構とレーザー照射機構とを加工送り方向に沿って相対的に往復移動させながらワークにレーザービームを照射することで行う往路加工時と復路加工時とでワークへの加工屑の付着が同程度となるように、ワークに対するレーザービームの照射位置と保護ブローノズルの開口部の中心位置とを調整することができる。例えば、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの開口部の中心位置とを同位置として往路加工と復路加工とを行った結果、往路加工で発生した加工屑のワークへの付着と復路加工で発生した加工屑のワークへの付着とで差がある場合は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの開口部の中心位置とをずらすことができる。したがって、保護ブローノズルの開口部から噴射される空気の流れにより、往路加工時と復路加工時とにおいてレーザービームの照射位置に対して一定の空気の流れを発生させることができる。この結果、往路加工時および復路加工時におけるレーザービームの照射位置の空気の流れは、前述のように発生させた一定の流れが支配的となるため、他の要因で発生する空気の流れを排除することができる。これによれば、往路加工時における加工屑のワークへの付着と復路加工時における加工屑のワークへの付着とを一定にすることが可能となり、ワークに対する往路加工と復路加工とを同じ加工品質で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施の形態のレーザー加工装置の主要部の構成を説明する概略斜視図である。
【図2】図2は、レーザー照射機構の正面図である。
【図3】図3は、レーザー照射機構の平面図である。
【図4−1】図4−1は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とをずらした場合の往路加工での加工位置を撮像した画像である。
【図4−2】図4−2は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とをずらした場合の復路加工での加工位置を撮像した画像である。
【図5−1】図5−1は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とを同位置とした場合の往路加工での加工位置を撮像した画像である。
【図5−2】図5−2は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とを同位置とした場合の復路加工での加工位置を撮像した画像である。
【図6】図6は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とをX軸方向にずらした場合の加工品質の評価結果を示す図である。
【図7】図7は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズルの噴射口の中心位置とをY軸方向にずらした場合の加工品質の評価結果を示す図である。
【図8】図8は、最大加工幅振幅の算出方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態であるレーザー加工装置について図面を参照して説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0011】
本実施の形態のレーザー加工装置が加工対象とするワークは、略円板形状を有し、その表面側が互いに直交するストリートによって格子状に区画されており、区画された領域内にデバイスが形成されたものである。レーザー加工装置は、このワーク表面の格子状のストリートのそれぞれに沿ってレーザービームを照射し、ワークにレーザー加工を施す。
【0012】
なお、ワークの具体例は、特に限定されるものではなく、例えばシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の半導体ウェーハ、チップ実装用としてウェーハの裏面に設けられるDAF(Die Attach Film)等の粘着部材、あるいは半導体製品のパッケージ、セラミック、ガラス、サファイア(Al23)系の無機材料基板、LCDドライバー等の各種電子部品、さらにはμmオーダーの加工位置精度が要求される各種加工材料が挙げられる。
【0013】
図1は、本実施の形態のレーザー加工装置1の主要部の構成を説明する概略斜視図である。図1に示すように、レーザー加工装置1は、ワークを保持するための保持機構2と、この保持機構2を加工送り方向であるX軸方向および割り出し送り方向であるY軸方向に移動させるためのXY駆動機構4と、保持機構2によって保持されたワークにレーザービームを照射するためのレーザー照射機構5と、レーザー加工装置1を構成する各部の動作を制御してレーザー加工装置1を統括的に制御する制御手段6とを備える。
【0014】
保持機構2は、ワークに応じた大きさのチャックテーブルを主体とするものであり、不図示の吸引手段によって上面である保持面21上に載置されたワークを吸引保持する。この保持機構2に対し、ワークは、不図示の搬送手段によって、例えば表面側を上にして搬入され、保持面21上で吸引保持される。このようにワークを保持面21上で保持する保持機構2は、円筒部材3の上端に設けられ、円筒部材3内に配設された不図示のパルスモータによって鉛直軸を軸中心として回転自在な構成となっている。
【0015】
XY駆動機構4は、2段の滑動ブロック41,42を備え、保持機構2は、円筒部材3を介してこれら2段の滑動ブロック41,42の上に搭載されている。また、XY駆動機構4は、ボールネジ431やパルスモータ432等で構成された加工送り機構43を備え、滑動ブロック41は、この加工送り機構43によってX軸方向への移動が自在である。そして、加工送り機構43が駆動して滑動ブロック41が移動し、後述するレーザー照射機構5に対して保持機構2がX軸方向に移動することで、滑動ブロック41に搭載された保持機構2とレーザー照射機構5とをX軸方向に沿って相対的に移動させる。なお、以下の説明において、加工送り方向であるX軸方向について、図1中で矢印が指し示す方向を正の方向、その逆方向を負の方向と呼ぶ。
【0016】
さらに、XY駆動機構4は、ボールネジ441やパルスモータ442等で構成された割り出し送り機構44を備え、滑動ブロック42は、この割り出し送り機構44によってY軸方向への移動が自在である。そして、割り出し送り機構44が駆動して滑動ブロック42が移動し、レーザー照射機構5に対して保持機構2がY軸方向に移動することで、滑動ブロック42に搭載された保持機構2とレーザー照射機構5とをY軸方向に沿って相対的に移動させる。
【0017】
なお、ここでは、保持機構2をX軸方向およびY軸方向に移動させることで保持機構2とレーザー照射機構5とを相対的に移動させる構成とした。これに対し、保持機構2を移動させずにレーザー照射機構5をX軸方向およびY軸方向に移動させる構成としてもよい。また、保持機構2およびレーザー照射機構5の双方をX軸方向に沿って逆方向に移動させ、保持機構2およびレーザー照射機構5の双方をY軸方向に沿って逆方向に移動させてこれらを相対移動させる構成としてもよい。
【0018】
また、加工送り機構43に対しては、保持機構2の加工送り量を検出するための加工送り量検出手段45が付設されている。加工送り量検出手段45は、X軸方向に沿って配設されたリニアスケールや、滑動ブロック41に配設されて滑動ブロック41とともに移動することでリニアスケールを読み取る読み取りヘッド等で構成される。同様に、割り出し送り機構44に対しては、保持機構2の割り出し送り量を検出するための割り出し送り量検出手段46が付設されている。この割り出し送り量検出手段46は、Y軸方向に沿って配設されたリニアスケールや、滑動ブロック42に配設されて滑動ブロック42とともに移動することでリニアスケールを読み取る読み取りヘッド等で構成される。
【0019】
レーザー照射機構5は、レーザー照射ユニット51と、撮像ユニット56と、ハイトセンサ57と、下面にこれらレーザー照射ユニット51、撮像ユニット56およびハイトセンサ57を取り付けて保持機構2の上方で支持する支持部材58とを備える。
【0020】
レーザー照射ユニット51は、保持面21上のワークにレーザービームを照射し、ワークの加工すべき位置(ストリート)に沿ってレーザー加工を施すためのものである。このレーザー照射ユニット51は、後述するように保持面21上のワークと対向するように配設された集光レンズ541(図2を参照)の他、発振器によって発振されたレーザービームを保持面21上のワークに向けて反射させるためのミラーといった光学系(不図示)が内部に配設された集光器54(図2を参照)を内蔵している。一方、支持部材58の内部には、発振器や伝送光学系等(不図示)が配設されており、レーザー照射ユニット51は、これら発振器や伝送光学系と協働し、集光レンズ541の鉛直下方に位置付けられるワークにレーザービームを照射する。発振器は、所定波長(例えば355nm)のレーザービームを発振するためのものであり、例えばYAGレーザー発振器やYVO4レーザー発振器等からなるレーザービーム発振器等で構成される。
【0021】
撮像ユニット56は、保持面21上のワークのストリート上の位置を集光レンズ541の鉛直下方に位置付けるアライメントを行うためのものであり、例えば、保持面21上のワークと対向するように配設された対物レンズ等を含む顕微鏡構造体と、この顕微鏡構造体によるワークの拡大観察像を撮像するカメラとからなる。ここで、アライメントは、保持面21上のワークをレーザー加工するのに先立ち実施される。具体的には、先ず、保持機構2をXY平面内で移動させて保持面21上のワークを撮像ユニット56の鉛直下方に位置付け、撮像ユニット56によって保持面21上のワークを撮像する。得られた画像データは制御手段6に出力される。続いてこの画像データにパターンマッチング等の画像処理を施すことでストリート上の位置(より詳細にはストリートの幅方向の中心位置)を検出し、この画像処理の結果をもとに検出したストリート上の位置を集光レンズ541の鉛直下方に位置付ける。
【0022】
ハイトセンサ57は、保持面21上のワークのストリート上の位置の高さ(Z位置)を検出する。
【0023】
なお、支持部材58は、レーザー照射ユニット51をZ軸方向に移動自在に支持しており、集光レンズ541を保持面21に対して垂直に移動させることができるようになっている。このように、レーザー照射機構5は、集光レンズ541によって集光されるレーザービームの集光点位置(Z位置)の調整が可能な構成とされている。
【0024】
制御手段6は、レーザー加工装置1の動作に必要な各種データを保持するメモリを内蔵したマイクロコンピュータ等で構成される。
【0025】
以上のように構成されるレーザー加工装置1が行うレーザー加工について簡単に説明すると、先ず、保持機構2にワークを搬入し、保持面21上でワークを吸引保持する。その後、円筒部材3内に配設された不図示のパルスモータを駆動し、保持面21上のワークの向きを、その表面の互いに直交するうちの一方のストリートがX軸方向に沿う向きに調整する。続いて、XY駆動機構4を駆動し、保持機構2をXY平面内で移動させて保持面21上のワークを撮像ユニット56の鉛直下方に位置付ける。そして、撮像ユニット56によって保持面21上のワークを撮像することでアライメントを実施し、直交するうちの一方のストリートの1つである加工対象のストリートの一端部を集光レンズ541の鉛直下方に位置付ける。
【0026】
そして、このようにして加工対象のストリートの一端部を集光レンズ541の鉛直下方に位置付けた後、保持機構2を加工送り方向であるX軸方向に往復移動させながらレーザー照射ユニット51によってレーザービームを照射し、一方のストリートのそれぞれに沿ってレーザー加工を施す。例えば、最初に加工対象とするストリートに沿ったレーザー加工では、保持機構2を正のX軸方向に加工送りしながら往路加工を行い、加工対象のストリートの一端部から他端部までレーザービームを照射する。このように他端部までレーザービームを照射したならば、保持機構2をY軸方向に移動させて隣接するストリートの他端部を集光レンズ541の鉛直下方に位置付け、加工対象を移す。そして、保持機構2を負のX軸方向に加工送りしながら復路加工を行い、加工対象のストリートの他端部から一端部までレーザービームを照射する。
【0027】
その後は、保持機構2をY軸方向に移動させて順次隣接するストリートを集光レンズ541の鉛直下方に位置付け、加工対象を移しながら往路加工と復路加工とを順番に行う。そして、直交する一方のストリートの全てに対して往路加工または復路加工を行ったならば、保持機構2を90度回転させることで直交する他方のストリートがX軸方向に沿うようにワークの姿勢を変更する。そして、一方のストリートに対する動作と同様にアライメントを行った後、順次他方のストリートを集光レンズ541の鉛直下方に位置付けて加工対象を移しながら往路加工と復路加工とを順番に行い、この他方のストリートのそれぞれに沿って往路加工または復路加工を行う。なお、ここでは、各ストリートに沿って往路加工または復路加工を行うことでレーザー加工を施すこととしたが、実際のレーザー加工では、各ストリートに沿って往路加工と復路加工とを行い、レーザービームを2回ずつ以上照射してレーザー加工を行う場合もある。
【0028】
次に、レーザー照射ユニット51の詳細な構成について説明する。図2は、レーザー照射ユニット51を含むレーザー照射機構5の正面図であり、レーザー照射ユニット51の外壁を一部切り欠いて内部の構成を示すとともに、レーザー照射機構5の下方で加工送り方向であるX軸方向に沿って往復移動する保持機構2およびその保持面21上に保持されたワークWの側面を示している。また、図3は、レーザー照射機構5の平面図であり、レーザー照射機構5下方の保持機構2およびその保持面21上に保持されたワークWを併せて示している。また、図3中では、レーザー照射ユニット51を構成する保護ブローノズル53の開口部である噴射口531の周辺を拡大し、集光レンズ541によって集光されて保持面21上のワークWに照射されるレーザービームの照射位置P31と、保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置P32との位置関係の一例を模式的に示すとともに、噴射口531から噴射される空気の流れを矢印によって示している。
【0029】
図2に示すように、レーザー照射ユニット51は、下面に吸引口521が形成された外形形状が略円筒形状を有するバキュームノズル52、このバキュームノズル52の内側において吸引口521よりも小径の噴射口531が吸引口521の略中心に位置するように配設された保護ブローノズル53、保護ブローノズル53の内側に配設された集光器54、レーザービームの照射位置と噴射口531の中心位置との位置関係を調整する調整手段55等を含み、バキュームノズル52の外壁がレーザー照射ユニット51の外壁を形成している。
【0030】
集光器54が備える集光レンズ541は、噴射口531の上方となる位置でワークWと対向するように集光器54の下端部に配設されており、図2中に一点鎖線で示すように上方から入射するレーザービームを集光する。この集光レンズ541によって集光されたレーザービームは、噴射口531を通過してワークWに照射される。
【0031】
ここで、ワークWにレーザービームを照射することで行うワークWのレーザー加工時には、加工屑が発生する。保護ブローノズル53は、この加工屑が飛散して集光レンズ541に付着するのを防止するためのものである。一方、バキュームノズル52は、発生した加工屑を回収して加工屑のワークWへの付着を低減するためのものであり、図3中の拡大部分に示すように、吸引口521は、噴射口531の外周位置に隣接配置された構成となっている。そして、保護ブローノズル53は、図2中に矢印A1で示すように、不図示の空気源からの空気を噴射口531から下方のワークWに向けて噴射する。一方、バキュームノズル52は、図2中に矢印A21,A22で示すように、吸引口521下方の空気を吸引して外部へと排出する。この構成により、噴射口531から噴射された空気は、レーザービームの照射位置で発生した加工屑を巻き込み、吸引口521から吸引されて外部へと排出される。
【0032】
調整手段55は、噴射口531の中心位置に対してレーザービームの照射位置の中心を偏心させるためのものであり、集光レンズ541によって集光されるレーザービームの光路が遮られずに噴射口531を通過可能な範囲内で集光器54を移動駆動する。
【0033】
上記したように、バキュームノズル52は、レーザー照射時に発生した加工屑のワークWへの付着を低減するためのものであるが、発生した加工屑のワークWへの付着の度合いが往路加工と復路加工とで異なると、往路加工と復路加工とでワークWの加工品質を同等にできないという別の問題がある。往路加工の加工品質と復路加工の加工品質とが同等でないと、最終的にストリートに沿ってワークWを分割して得たチップの切断面の状態が往路加工が施された切断面と復路加工が施された切断面とで違ってしまい、チップ毎の品質にばらつきが生じてしまう。この加工屑のワークWへの付着に影響を与える要因としては、レーザー照射機構5とワークWとの間の空気の流れ(すなわち、レーザービームの照射位置における空気の流れ)が考えられる。
【0034】
ところで、保護ブローノズル53の噴射口531から噴射された空気は、ワークWに吹き付けられ、その後図3中の拡大部分において矢印で示すように放射状に広がる。このとき、ワークWに照射されるレーザービームの照射位置と、保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とが重なっていると、レーザービームの照射位置付近では噴射口531から噴射された空気の流れが起こりにくくなるため、加工屑のワークWへの付着が外的要因による空気の流れの影響を受け易くなる。これに対し、レーザービームの照射位置と噴射口531の中心位置とをずらせば、往路加工時と復路加工時とでレーザービームの照射位置に一定の方向の空気の流れを発生させることができる。そこで、本実施の形態では、例えば、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とを同位置として往路加工と復路加工とを行った結果、往路加工で発生した加工屑のワークWへの付着と復路加工で発生した加工屑のワークWへの付着とで差がある場合に、調整手段55によってレーザービームの照射位置と噴射口531の中心位置とをずらす。
【0035】
具体的には、調整手段55は、例えば、加工送り方向であるX軸方向へと集光器54を移動駆動し、噴射口531の中心位置に対してレーザービームの照射位置をX軸方向に偏心させる。レーザービームの照射位置をX軸方向にずらすことで加工位置が蛇行する懸念を低減できる。例えば、図2では、レーザービームの照射位置を噴射口531の中心位置に対して正のX軸方向側である右側に偏心させた状態を示している。本実施の形態では、正のX軸方向側は、往路加工時の保持機構2の進行方向側に対応する。なお、図示しないが、レーザービームの照射位置を噴射口531の中心位置に対して負のX軸方向側である左側(復路加工時の保持機構2の進行方向側)に偏心させることも可能である。
【0036】
そして、このようにレーザービームの照射位置を噴射口531の中心位置P32に対して右側の正のX軸方向側に偏心させると、図3に示すように、レーザービームの照射位置P31には矢印A31で示す右向きの気流が発生する。この結果、往路加工時および復路加工時におけるレーザービームの照射位置P31の空気の流れは、矢印A31で示す右向きの流れが支配的となり、他の要因で発生する空気の流れを排除することができる。これによれば、往路加工時における加工屑のワークWへの付着と復路加工時における加工屑のワークWへの付着とを一定にすることが可能となり、ワークWに対する往路加工と復路加工とを同じ加工品質で行うことができる。そして、これによれば、最終的にワークWを分割して得られるチップの切断面の状態を往路加工が施された切断面と復路加工が施された切断面とで同じにし、チップ毎の品質を同じにすることができる。
【0037】
なお、このように調整手段55によってレーザービームの照射位置P31と噴射口531の中心位置P32とをずらした場合であっても、レーザービームの照射位置に空気を吹き付けることができるので、バキュームノズル52および保護ブローノズル53によって集光レンズ541に対する加工屑の飛散・付着を防止し、集光レンズ541を保護できる。
【0038】
また、本実施の形態では、加工位置の蛇行が生じないようにするため、レーザービームの照射位置を噴射口531の中心位置に対してX軸方向に偏心させることとしたが、このレーザービームの照射位置を偏心させる方向はX軸方向に限定されるものではない。例えば、図3中の拡大部分において破線で示す位置をレーザービームの照射位置P33としてY軸方向に偏心させた場合には、往路加工時および復路加工時においてレーザービームの照射位置P33に矢印A32で示す上向きの気流を発生させることができる。
【0039】
ここで、本発明の発明者等は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをX軸方向に125μmずらして往復加工と復路加工とを行い、加工屑の付着の度合いを比較する実験を行った。また、比較のため、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とを同位置として往路加工と復路加工とを行った。図4−1は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをずらした場合の往路加工での加工位置を撮像した画像であり、図4−2は、この場合の復路加工での加工位置を撮像した画像である。また、図5−1は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とを同位置とした場合の往路加工での加工位置を撮像した画像であり、図5−2は、この場合の復路加工での加工位置を撮像した画像である。
【0040】
図4−1および図4−2に示すように、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とを125μmずらした場合では、往路加工と復路加工とで加工屑のワークへの付着の程度が同程度であった。これに対し、図5−1および図5−2に示すように、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とを同位置とした場合、往路加工の方が復路加工よりも加工屑のワークへの付着が多く見られ、加工屑のワークへの付着の程度が異なった。
【0041】
また、本発明の発明者等は、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをX軸方向に125μmずらした状態で、デフォーカス量を−0.3mm〜0.3mmの範囲で変更して往路加工と復路加工とを行い、加工品質の評価を行った。図6は、この場合の評価結果を示す図である。また、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをY軸方向に500μmずらした状態で、同様にデフォーカス量を−0.3mm〜0.3mmの範囲で変更して往路加工と復路加工とを行い、加工品質の評価を行った。図7は、この場合の評価結果を示す図である。
【0042】
ここで、評価方法は特に限定されるものではなく、当業者が一般的に行う方法を用いればよいが、本例では、評価基準として例えば最大加工幅振幅Amaxを算出し、最大加工幅振幅Amaxが1μm以下の場合に、加工品質を良好(Good)と判定することとする。図8は、最大加工幅振幅Amaxの算出方法を説明する説明図であり、加工ラインLを模式的に示している。ここでは、例えば加工ラインLの一方のエッジ(図8では下側のエッジE)に着目し、高さ(加工ラインLの幅方向をy座標方向とした場合のy座標位置)の最大値と最小値との差を最大加工幅振幅Amaxと定義する。
【0043】
図6に示すように、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをX軸方向にずらした場合では、デフォーカス量を変化させた全ての場合で良好(Good)の判定結果を得た。これに対し、図7に示すように、レーザービームの照射位置と保護ブローノズル53の噴射口531の中心位置とをY軸方向にずらした場合では、デフォーカス量が0.30mmの場合と、−0.15mmの場合に最大加工幅振幅Amaxが1μm以下の条件を満足せずに判定結果が不良(No Good)となった。このように、レーザービームの照射位置をX軸方向にずらした場合の方が、Y軸方向にずらした場合と比べて高い評価が得られた。
【0044】
なお、本例では、最大加工幅振幅Amaxを評価基準として算出し、算出した値をもとに加工品質を評価することとしたが、最大加工幅振幅Amaxとは別の値を評価基準として用いることとしてもよい。例えば、図8に示す加工ラインLの幅Wを全てのx位置あるいはx位置をいくつかサンプリングして算出し、その平均値を加工幅平均Wavgとして算出することとしてもよい。そして、最大加工幅振幅Amaxを算出した加工幅平均Wavgで除して蛇行率を算出し(次式(1))、得られた蛇行率の値が予め設定される閾値以下(例えば7%以下)の場合に加工品質を良好と判定するようにしてもよい。
蛇行率=(Amax/Wavg)×100 ・・・(1)
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように、本発明のレーザー加工装置は、ワークに対する往路加工と復路加工とを同じ加工品質で行うのに適している。
【符号の説明】
【0046】
1 レーザー加工装置
2 保持機構
4 XY駆動機構
5 レーザー照射機構
51 レーザー照射ユニット
52 バキュームノズル
521 吸込口
53 保護ブローノズル
531 噴射口
54 集光器
541 集光レンズ
55 調整手段
56 撮像ユニット
57 ハイトセンサ
6 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持機構と、該保持機構に保持された前記ワークにレーザービームを照射するレーザー照射機構とを備えたレーザー加工装置であって、
前記レーザー照射機構は、
前記レーザービームを発振する発振器と、
前記レーザービームを前記保持機構に保持された前記ワークに向かって集光する集光レンズと、
開口部を有し、前記レーザービームを前記ワークに照射したことで発生した加工屑が前記集光レンズに付着するのを低減するために前記開口部から前記ワークに向けて気体を噴射する保護ブローノズルと、
を有し、
前記保護ブローノズルは、前記集光レンズによって集光された前記レーザービームが前記開口部を通過して前記ワークに照射されるように配設され、
前記保持機構と前記レーザー照射機構とを加工送り方向に沿って相対的に往復移動させながら前記ワークにレーザービームを照射することで行う往路加工時と復路加工時とで前記加工屑の前記ワークへの付着が同程度となるように、前記ワークに対する前記レーザービームの照射位置と前記開口部の中心位置とが調整されることを特徴とするレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2011−189400(P2011−189400A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60001(P2010−60001)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】