説明

レーザー加工装置

【課題】ウエーハ表面にダイシングテープを貼着することなくウエーハ内部にストリートに沿った変質層を形成可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】表面に形成された複数のストリートに沿ってレーザ光を照射し、ウエーハ10の内部に変質層を形成するレーザ加工装置であって、ダイシングテープ12を装着した環状フレーム11に貼着されたウエーハの保持面を有するチャックテーブル6と、ウエーハとダイシングテープに対して透過性を有する波長のレーザ光を照射するレーザ照射手段の集光器72と、チャックテーブルと集光器とを相対的に移動する移動手段とを具備し、ウエーハ保持部は透明部材によって形成され、チャックテーブルはウエーハ保持部の保持面を下側にしてダイシングテープに貼着されたウエーハをに保持し、レーザ光はチャックテーブルのウエーハ保持部の上側からウエーハ保持部およびダイシングテープを通してウエーハに照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に複数のストリートが格子状に形成されているとともに複数のストリートによって区画された複数の領域に微小電気機械システム(MEMS)等のデバイスが形成されたウエーハの内部に、ストリートに沿って変質層を形成するレーザー加工装置に関する。
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI、微小電気機械システム(MEMS)等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハをストリートに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。
【0003】
上述したウエーハのストリートに沿った切断は、通常、ダイサーと呼ばれている切削装置によって行われている。この切削装置は、ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削するための切削ブレードを備えた切削手段と、チャックテーブルと切削手段とを相対的に切削送りする切削送り手段とを具備し、切削ブレードを回転するとともに該切削ブレードによる切削部に切削水を供給しつつチャックテーブルを切削送りすることにより、ウエーハのストリートに沿って切断する。
【0004】
しかるに、切削ブレードは20〜30μm程度の厚さを有するため、デバイスを区画するストリートとしては幅が50μm程度必要となる。このため、ストリートの占める面積比率が高くなり、生産性が悪いという問題がある。
【0005】
一方、ウエーハをストリートに沿って分割する方法として、ウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を内部に集光点を合わせストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って破断の起点となる変質層を連続的に形成し、この破断起点となる変質層が形成され強度が低下せしめられたストリートに沿って外力を加えることにより、ウエーハをストリートに沿って分割する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3408805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ウエーハの内部にストリートに沿って破断の起点となる変質層を連続的に形成し、この破断起点となる変質層が形成され強度が低下せしめられたストリートに沿って外力を加えることにより、ウエーハを分割する方法としては、ストリートが形成されていないウエーハの裏面側からストリートと対応する領域の内部にレーザー光線の集光点を位置付けてレーザー光線を照射して変質層を形成し、その後ウエーハの裏面をダイシングテープに貼着し、ストリートに沿って内部に変質層が形成されたウエーハに外力を加えることによりウエーハを分割する方法が実施されている。しかるに、ストリートに沿って内部に変質層が形成されたウエーハをダイシングテープに貼着する際にウエーハがストリートに沿って割れるという問題がある。
一方、ウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着した状態で、ウエーハの表面側からストリートの内部にレーザー光線を集光させて変質層を形成する方法を実施することにより、上述した問題は回避されるが、レーザー光線の照射領域としてウエーハの厚みに対して20〜30%の幅が必要であり、例えば400μmの厚みを有する微小電気機械システム(MEMS)が形成されたウエーハにおいては、100μm前後のストリート幅が必要となり、ウエーハの設計上の制約が大きく生産性が悪いという問題がある。
なお、ウエーハの表面を環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着した状態で、ウエーハの裏面側からストリートの内部にレーザー光線を集光させて変質層を形成する方法を採用すれば、上記問題を解消することはできるが、マイクロホーン、加速度センサー、圧力センサー等の微小電気機械システム(MEMS)からなるデバイスが形成されたウエーハにおいては、デバイスの表面をダイシングテープに貼着すると粘着剤が微小電気機械システム(MEMS)に付着してデバイスが損傷するという問題がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、ストリート幅を大きくすること無く、またウエーハの表面にダイシングテープを貼着することなくウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成することができるレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、表面に複数のストリートが格子状に形成されているとともに該複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハの内部にストリートに沿ってレーザー光線を照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成するためのレーザー加工装置であって、
環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハを保持する保持面を有するウエーハ保持部を備えたチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハおよび該ダイシングテープに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射する集光器を備えたレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該集光器とを相対的に移動する移動手段とを具備し、
該チャックテーブルの該ウエーハ保持部は、透明部材によって形成され、
該チャックテーブルは、該ウエーハ保持部の該保持面を下側にしてダイシングテープに貼着されたウエーハを保持するように構成されており、
該レーザー光線照射手段の該集光器は、該チャックテーブルの該ウエーハ保持部の上側から該ウエーハ保持部および該ダイシングテープを通してウエーハにレーザー光線を照射するように構成されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0010】
上記チャックテーブルは、ウエーハ保持部の保持面が上側を向く状態と下側を向く状態に反転可能に構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるウエーハのレーザー加工方法は、環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハを保持する保持面を有するウエーハ保持部を備えたチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハおよびダイシングテープに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射する集光器を備えたレーザー光線照射手段と、チャックテーブルと該集光器とを相対的に移動する移動手段とを具備し、チャックテーブルのウエーハ保持部は透明部材によって形成され、チャックテーブルはウエーハ保持部の保持面を下側にしてダイシングテープに貼着されたウエーハを保持するように構成されており、レーザー光線照射手段の該集光器はチャックテーブルのウエーハ保持部の上側からウエーハ保持部およびダイシングテープを通してウエーハにレーザー光線を照射するように構成されているので、ウエーハをダイシングテープを介してチャックテーブルの保持部に保持し、レーザー光線照射手段の集光器からウエーハ保持部およびダイシングテープを通してウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの内部に集光点を位置付けてストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成することができるので、ウエーハの表面に形成されたデバイスにパルスレーザー光線が照射されることは無い。従って、ウエーハの厚みに対して20〜30%の幅のストリートを必要としないので、ウエーハの設計上のストリートの幅が制約されることは無い。また、ウエーハは最初から裏面側をダイシングテープに貼着するので、変質層を形成した後に表裏を反転して張り替える必要がないため、ウエーハの張り替えの際にウエーハがストリートに沿って割れるという問題が未然に回避される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】被加工物としてのウエーハの斜視図。
【図3】図2に示すウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着した状態を示す斜視図。
【図4】図1に示すレーザー加工装置によって実施するウエーハ支持行程の説明図。
【図5】図1に示すレーザー加工装置によって実施するアライメント行程の説明図。
【図6】図1に示すレーザー加工装置によって実施する変質層形成行程の説明図。
【図7】図1に示すレーザー加工装置によって実施する変質層形成行程の説明図。
【図8】図6および図7に示す変質層形成行程が実施されたウエーハを変質層が形成されたストリートに沿って破断するウエーハ破断工程を実施するためのテープ拡張装置の斜視図。
【図9】図8に示すテープ拡張装置によって実施するウエーハ破断工程の説明図。
【図10】図8に示すテープ拡張装置によって実施するピックアップ工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。
図1に示されたレーザー加工装置1は、静止基台2と、第1の可動基台3と、第2の可動基台4と、第3の可動基台5を具備している。この静止基台2の手前側の側面には、矢印Yで示す方向(Y軸方向)に沿って平行に延びる一対の案内レール21、21が設けられている。
【0015】
上記静止基台2には、第1の可動基台3が上記一対の案内レール21、21に沿って摺動可能に装着されている。即ち、図1に示すように第1の可動基台3における第1の可動基台3と対向する一方の面には静止基台2に設けられた一対の案内レール21、21に嵌合する一対の被案内溝31、31が設けられており、この一対の被案内溝31、31を上記一対の案内レール21、21に嵌合することにより、第1の可動基台3は静止基台2に一対の案内レール21、21に沿ってY軸方向に摺動可能に装着される。また、第1の可動基台3の他方の面には、矢印Zで示す方向(Z軸方向)に平行に延びる一対の案内レール32、32が設けられている。図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、第1の可動基台3を上記静止基台2に設けられた一対の案内レール21、21に沿ってY軸方向に移動させるための第1の移動手段30を具備している。第1の移動手段30は、一対の案内レール21と21との間に該案内レールと平行に配設された雄ネジロッド301と、該雄ネジロッド301を回転駆動するためのパルスモータ302とを含んでいる。雄ネジロッド301は、上記第1の可動基台3に設けられた雌ネジ33と螺合し、その一端が静止基台2に配設された軸受部材303に回転可能に支持されている。パルスモータ302は、その駆動軸が雄ネジロッド301の他端に連結されている。従って、パルスモータ302を正転または逆転駆動して雄ネジロッド301を正転または逆転駆動することにより、第1の可動基台3を静止基台2に設けられた一対の案内レール21、21に沿ってY軸方向に移動せしめる。
【0016】
上記第1の可動基台3には、第2の可動基台4が上記一対の案内レール32、32に沿って摺動可能に装着されている。即ち、第2の可動基台4における第1の可動基台3と対向する一方の側面には第1の可動基台3に設けられた一対の案内レール32、32に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝41、41が設けられており、この一対の被案内溝41、41を上記一対の案内レール32、32に嵌合することにより、第2の可動基台4は第1の可動基台3に一対の案内レール32、32に沿って矢印Zで示す方向(Z軸方向)に摺動可能に装着される。また、第2の可動基台4は、上記一方の側面に対して垂直な側面に設けられ矢印Xで示す方向(X軸方向)に平行に延びる一対の案内レール42、42を備えている。図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、第2の可動基台4を上記第1の可動基台3に設けられた一対の案内レール32、32に沿ってZ軸方向に移動させるための集光点位置調整手段40を具備している。集光点位置調整手段40は、一対の案内レール32と32との間に該案内レールと平行に配設された雄ネジロッド401と、該雄ネジロッド401を回転駆動するためのパルスモータ402とを含んでいる。雄ネジロッド401は、上記第2の可動基台4に設けられた雌ネジ43と螺合し、その一端が第1の可動基台3に配設された軸受部材403に回転可能に支持されている。パルスモータ402は、その駆動軸が雄ネジロッド401の他端に連結されている。従って、パルスモータ402を正転または逆転駆動して雄ネジロッド401を正転または逆転駆動することにより、第2の可動基台4を第1の可動基台3に設けられた一対の案内レール32、32に沿ってZ軸方向に移動せしめる。
【0017】
上記第2の可動基台4には、第3の可動基台5が上記一対の案内レール42、42に沿って摺動可能に装着されている。即ち、第3の可動基台5における第2の可動基台4と対向する一方の側面には上記第2の可動基台4に設けられた一対の案内レール42、42に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝51、51(図1においては上側の一方だけが示されている)が設けられており、この一対の被案内溝51、51を上記一対の案内レール42、42に嵌合することにより、第3の可動基台5は第2の可動基台4に一対の案内レール42、42に沿って矢印Xで示す方向(X軸方向)に摺動可能に装着される。図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、第3の可動基台5を上記第2の可動基台4に設けられた一対の案内レール42、42に沿ってX軸方向に移動させるための第2の移動手段50を具備している。第2の移動手段50は、一対の案内レール42と42との間に該案内レールと平行に配設された雄ネジロッド501と、該雄ネジロッド501を回転駆動するためのパルスモータ502とを含んでいる。雄ネジロッド501は、上記第3の可動基台5に設けられた雌ネジ(図示せず)と螺合し、その一端が第2の可動基台4に配設された軸受部材503に回転可能に支持されている。パルスモータ502は、その駆動軸が雄ネジロッド501の他端に連結されている。従って、パルスモータ502を正転または逆転駆動して雄ネジロッド501を正転または逆転駆動することにより、第3の可動基台5を第2の可動基台4に設けられた一対の案内レール42、42に沿ってX軸方向に移動せしめる。
【0018】
上記第3の可動基台5の他方の面には、後述する環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハを保持するチャックテーブル6が支持部材60を介して装着されている。チャックテーブル6は、後述する環状のフレームを保持する環状のフレーム保持部61と、後述する環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハをダイシングテープを介して保持する円形状のウエーハ保持部62とからなっている。フレーム保持部61は、金属材によって中空状に形成され一方の面であるフレーム保持面611に複数の吸引孔612が開口されている。このように形成されたフレーム保持部61は、複数の吸引孔612が中空部を介して図示しない吸引手段に連通されている。なお、フレーム保持部61のフレーム保持面611には、後述する環状のフレームを位置決めするための2本の位置決めピン613a、613bが立設されている。上記ウエーハ保持部62は、ガラス板等の透明部材によって形成されており、外周面が環状のフレーム保持部61の内周壁に適宜の接着剤によって取り付けられる。このように構成されたウエーハ保持部62は、一方の面であるウエーハ保持面621に後述する環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハを保持する。このように構成されたチャックテーブル6を支持する支持部材60は、図示の実施形態においては180度回動するように第3の可動基台5に取り付けられており、従ってチャックテーブル6のフレーム保持面611およびウエーハ保持面621が上側を向く状態と下側を向く状態に反転可能に構成されている。
【0019】
図1に示すレーザー加工装置1は、チャックテーブル6に保持された被加工物であるウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段7を具備している。レーザー光線照射手段7は、支持基台70に所定の間隔を設けて配設されたケーシング71と該ケーシング71内に配設されたYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器等のレーザー光線発振手段(図示せず)と、ケーシング71の一端部上面に配設されレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光して下方に向けて照射する集光器72を具備している。
【0020】
レーザー光線照射手段7の下側にはレーザー光線照射手段7によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段8が配設されている。この撮像手段8は支持基台70上に配設され、被加工物を照明する照明手段と、該照明手段によって照明された領域を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた像を撮像する撮像素子(CCD)等を備え、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。この撮像手段8は、図示の実施形態においては集光器72の直下に所定の間隔を置いて配置されている。
【0021】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
【0022】
図2には、本発明によるウエーハのレーザー加工方法によって加工されるウエーハの斜視図が示されている。図2に示すウエーハ10は、厚みが例えば400μmのシリコンウエーハからなっており、表面10aに格子状に形成された複数のストリート101によって複数の領域が区画されるとともに該区画された領域にデバイス102としての微小電気機械システム(MEMS)が形成されている。
【0023】
本発明によるウエーハのレーザー加工方法においては、先ず図3に示すようにウエーハ10の裏面10bを環状のフレーム11に装着されたダイシングテープ12の表面に貼着する(ウエーハ支持工程)。なお、ウエーハ支持工程は、ダイシングテープ12を環状のフレーム11に装着する際に、ウエーハ10の裏面10bを同時にダイシングテープ12の表面に貼着してもよい。上記環状のフレーム11の外周端面には上記レーザー加工装置のチャックテーブル6を構成するフレーム保持部61のフレーム保持面611に立設された2本の位置決めピン613a、613bと係合する2個の係合凹部111a、111bが設けられている。また、ダイシングテープ12は、上述したレーザー加工装置1のレーザー光線照射手段7によって照射されるレーザー光線が透過する例えばポリ塩化ビニル(PVC)やポリオレフィン(PO)シートが用いられている。
【0024】
上述したレーザー加工装置1を用いて図3に示すように環状のフレーム11に装着されたダイシングテープ12の表面に貼着されたウエーハ10の内部にストリート101に沿って変質層を形成する変質層形成工程について、図4乃至図6を参照して説明する。
変質層形成工程を実施するには、先ず図4に示すようにレーザー加工装置1のチャックテーブル6上に環状のフレーム11にダイシングテープ12を介して支持されたウエーハ10を載置する。このとき、ウエーハ10をダイシングテープ12を介してウエーハ保持部62のウエーハ保持面621上に載置するとともに、環状のフレーム11をチャックテーブル6を構成する環状のフレーム保持部61のフレーム保持面611上に載置し、環状のフレーム11に設けられた2個の係合凹部111a、111bをフレーム保持部61の上面611に立設された2本の位置決めピン613a、613bと係合せしめる。この結果、環状のフレーム11にダイシングテープ12を介して支持されたウエーハ10は、チャックテーブル6の所定の位置に位置付けられたことになる。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、チャックテーブル6上に環状のフレーム11およびウエーハ10がダイシングテープ12を介して吸引保持される(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル6上に保持されたウエーハ10は、表面10aが上側となる。
【0025】
上述したウエーハ保持工程を実施したならば、チャックテーブル6を支持する支持部材60を180度回動して、図5に示すようにチャックテーブル6の上下を反転し、チャックテーブル6に吸引保持された環状のフレーム11にダイシングテープ12を介して支持されたウエーハ10を下側に位置付ける。そして、ウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル6は第1の移動手段30を作動することにより図5に示すように撮像手段8の直上(集光器72の真下)に位置付けられる。
【0026】
チャックテーブル6が撮像手段8の直上に位置付けられると、撮像手段8および図示しない制御手段によってウエーハ10のストリート101に沿ってレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント工程を実行する。即ち、撮像手段8および図示しない制御手段は、ウエーハ10の所定方向に形成されているストリート101と、該ストリート101に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段7の集光器72との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、ウエーハ10に形成されている複数のストリート101と直交する方向に形成されている複数のストリート101に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0027】
以上のようにしてチャックテーブル6上に保持されたウエーハ10に形成されているストリート101を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図6の(a)で示すようにチャックテーブル6をレーザー光線照射手段7の集光器72が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定のストリート101の一端(図6の(a)において左端)をレーザー光線照射手段7の集光器72の直下に位置付ける。そして、パルスレーザー光線の集光点Pをウエーハ10の表面10a(下面)から例えば30μm程度上方位置に合わせる。次に、集光器72からシリコンウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル6を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の送り速度で移動せしめる。このとき、集光器72から照射されるパルスレーザー光線は、ガラス板等の透明部材によって形成されたウエーハ保持部62およびポリ塩化ビニル(PVC)やポリオレフィン(PO)シートからなるダイシングテープ12を透過してウエーハ10の裏面10b側から照射される。そして、図6の(b)で示すようにレーザー光線照射手段7の集光器72の照射位置にストリート101の他端(図6の(b)において右端)が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル6の移動を停止する。この結果、ウエーハ10の内部には、ストリート101に沿ってウエーハ10の表面10a(下面)付近に変質層110が形成される。この変質層110は、溶融再固化層として形成される。
【0028】
上記変質層形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
光源 :LD励起QスイッチNd:YVO4レーザー
波長 :1064nmのパルスレーザー
平均出力 :1.2W
繰り返し周波数 :80kHz
パルス幅 :120ns
集光スポット径 :φ2μm
送り速度 :100mm/秒
【0029】
なお、上述した加工条件においては1回のレーザー光線の照射によって形成される変質層110の厚さは50〜60μmである。従って、厚みが400μmのウエーハ10を容易に分割するには、厚さが50〜60μmの変質層を5層程度形成する必要がある。従って、レーザー光線照射手段7の集光器72から照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを順次上方に移動して上記変質層形成工程を実施することにより、図6の(c)に示すようにウエーハ10の内部にストリート101に沿って5層の変質層110を形成する。なお、変質層形成工程は、ガラス板等の透明部材によって形成されたウエーハ保持部62およびポリ塩化ビニル(PVC)やポリオレフィン(PO)シートからなるダイシングテープ12を透過してウエーハ10の裏面10b側からパルスレーザー光線を照射するので、デバイス102にパルスレーザー光線が照射されることは無い。従って、ウエーハ10の厚みに対して20〜30%の幅のストリートを必要としないので、ウエーハの設計上のストリートの幅が制約されることは無い。また、ウエーハ10は最初から裏面側をダイシングテープ12に貼着するので、変質層を形成した後に表裏を反転して張り替える必要がないため、ウエーハの張り替えの際にウエーハがストリートに沿って割れるという問題が未然に回避される。
【0030】
このようにして、ウエーハ10の所定方向に延在する全てのストリート101に沿って上記変質層形成工程を実行したならば、所定方向と直交する方向に形成されたストリート101に沿って上記変質層形成工程を実施する。即ち、図7の(a)で示すように上記所定方向と直交する方向に形成されたストリート101の一端(図7の(a)において右端)をレーザー光線照射手段7の集光器72の直下に位置付ける。そして、パルスレーザー光線の集光点Pをウエーハ10の表面10a(下面)から例えば30μm程度上方位置に合わせる。次に、集光器72からシリコンウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル6を図7の(a)において矢印Y1で示す方向に所定の送り速度で移動せしめる。このとき、集光器72から照射されるパルスレーザー光線は、ガラス板等の透明部材によって形成されたウエーハ保持部62およびポリ塩化ビニル(PVC)やポリオレフィン(PO)シートからなるダイシングテープ12を透過してウエーハ10の裏面10b側から照射される。このようにして、所定方向と直交する方向に形成された各ストリート101に沿って上記変質層形成工程を実施する。
【0031】
上述した変質層形成工程を実施したならば、ウエーハ10に外力を付与し、変質層110が形成されたストリート101に沿って破断する破断工程を実施する。この破断工程は、図8に示すテープ拡張装置9を用いて実施する。図8に示すテープ拡張装置9は、上記環状のフレーム11を保持するフレーム保持手段91と、該フレーム保持手段91に保持された環状のフレーム11に装着されたダイシングテープ12を拡張するテープ拡張手段92と、ピックアップコレット93を具備している。フレーム保持手段91は、環状のフレーム保持部材911と、該フレーム保持部材911の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ912とからなっている。フレーム保持部材911の上面は環状のフレーム11を載置する載置面911aを形成しており、この載置面911a上に環状のフレーム11が載置される。そして、載置面911a上に載置された環状のフレーム11は、クランプ912によってフレーム保持部材911に固定される。このように構成されたフレーム保持手段91は、テープ拡張手段92によって上下方向に進退可能に支持されている。
【0032】
テープ拡張手段92は、上記環状のフレーム保持部材911の内側に配設される拡張ドラム921を具備している。この拡張ドラム921は、環状のフレーム11の内径より小さく該環状のフレーム11に装着されたダイシングテープ12に貼着されるウエーハ10の外径より大きい内径および外径を有している。また、拡張ドラム921は、下端に支持フランジ922を備えている。図示の実施形態におけるテープ拡張手段92は、上記環状のフレーム保持部材911を上下方向に進退可能な支持手段923を具備している。この支持手段923は、上記支持フランジ922上に配設された複数のエアシリンダ923aからなっており、そのピストンロッド923bが上記環状のフレーム保持部材911の下面に連結される。このように複数のエアシリンダ923aからなる支持手段923は、図9の(a)に示すように環状のフレーム保持部材911を載置面911aが拡張ドラム921の上端と略同一高さとなる基準位置と、図9の(b)に示すように拡張ドラム921の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる。
【0033】
以上のように構成されたテープ拡張装置9を用いて実施するウエーハ破断工程について図9を参照して説明する。即ち、ウエーハ10が貼着されているダイシングテープ12が装着された環状のフレーム11を、図9の(a)に示すようにフレーム保持手段91を構成するフレーム保持部材911の載置面911a上に載置し、クランプ912によってフレーム保持部材911に固定する(フレーム保持工程)。このとき、フレーム保持部材911は図9の(a)に示す基準位置に位置付けられている。
【0034】
上述したフレーム保持工程を実施したならば、図9の(b)に示すようにテープ拡張手段92を構成する支持手段923としての複数のエアシリンダ923aを作動して、環状のフレーム保持部材911を拡張位置に下降せしめる。従って、フレーム保持部材911の載置面911a上に固定されている環状のフレーム11も下降するため、図9の(b)に示すように環状のフレーム11に装着されたダイシングテープ12は拡張ドラム921の上端縁に接して拡張せしめられる(テープ拡張工程)。この結果、ダイシングテープ12に貼着されているウエーハ10には放射状に引張力が作用する。このようにウエーハ10に放射状に引張力が作用すると、ストリート101に沿って形成された変質層110は強度が低下せしめられているので、ウエーハ10は強度が低下せしめられている変質層110が破断起点となってストリート101に沿って破断され個々のデバイス102に分割される。
【0035】
上述したウエーハ破断工程を実施することにより、ウエーハ10を変質層110が形成されたストリート101に沿って破断し個々のデバイス102に分割したならば、図10に示すようにピックアップコレット93を作動してデバイス102を吸着し、ダイシングテープ12から剥離してピックアップする(ピックアップ工程)。なお、ピックアップ工程においては、個々のデバイス102間の隙間Sが広げられているので、隣接するデバイス102と接触することなく容易にピックアップすることができる。
【0036】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。例えば、上述した実施形態においては微小電気機械システム(MEMS)からなるデバイスが形成されたウエーハを個々のデバイスに分割する例を示したが、本発明はIC、LSI等のデバイスが形成された半導体ウエーハや発光ダイオード、CCD等の光デバイスが形成された光デバイスウエーハに適用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:第1の可動基台
30:第1の移動手段
4:第2の可動基台
40:集光点位置調整手段
5:第3の可動基台
50:第2の移動手段
6:チャックテーブル
60:支持部材
61:環状のフレーム保持部
62:円形状のウエーハ保持部
7:レーザー光線照射手段
72:集光器
8:撮像手段
9:テープ拡張装置
91:フレーム保持手段
92:テープ拡張手段
93:ピックアップコレット
10:ウエーハ
11:環状のフレーム
12:ダイシングテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数のストリートが格子状に形成されているとともに該複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハの内部にストリートに沿ってレーザー光線を照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成するためのレーザー加工装置であって、
環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着されたウエーハを保持する保持面を有するウエーハ保持部を備えたチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハおよび該ダイシングテープに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射する集光器を備えたレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該集光器とを相対的に移動する移動手段とを具備し、
該チャックテーブルの該ウエーハ保持部は、透明部材によって形成され、
該チャックテーブルは、該ウエーハ保持部の該保持面を下側にしてダイシングテープに貼着されたウエーハを保持するように構成されており、
該レーザー光線照射手段の該集光器は、該チャックテーブルの該ウエーハ保持部の上側から該ウエーハ保持部および該ダイシングテープを通してウエーハにレーザー光線を照射するように構成されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該チャックテーブルは、該ウエーハ保持部の該保持面が上側を向く状態と下側を向く状態に反転可能に構成されている、請求項1記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−190977(P2012−190977A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52740(P2011−52740)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】