説明

レーザ加工方法および化合物半導体発光素子の製造方法

【課題】基板の厚み方向に深さを変えて複数回改質領域を形成するにあたり、形成される改質領域が切断予定線からずれるのを抑制することができるレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】基板10をチップに切断するレーザ加工方法であって、レーザ光が切断予定線21aに沿って基板10のX方向に走査する第1走査(a)と、切断予定線21bに沿ってY方向に走査する第2走査(b)とで、レーザ光が入射する面から基板10内の深い距離d1に改質領域を形成する。再び、レーザ光が切断予定線21aに沿って基板10をX方向に走査する第3走査(c)と、切断予定線21bに沿ってY方向に走査する第4走査(d)とで、レーザ光が入射する面から基板10内の浅い距離d2(d1>d2)に改質領域を形成する。なお、第3走査(c)は、外周のU端部から中央部に向かう走査と、外周のD端部から中央部に向かう走査とで行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子を多数形成した半導体ウエハ等の基板を薄片化(チップ化)するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や集積回路(LSI)などの電子素子を形成した半導体ウエハ等の基板を切断してチップ化する方法がある。この方法として、レーザ光を対物レンズ光学系で集光して基板内部に照射し、照射前に比べて強度が低い改質領域を基板に想定された切断予定線に沿って形成するステルスダイシング法と呼ばれる、レーザ加工方法がある。この方法では、この改質領域を起点として、基板を切断する。
【0003】
特許文献1には、加工対象物の全体領域を3つに区切った際に、手前側の領域、奥側の領域、中央の領域の順序で、かかる領域に延在する切断予定線に沿って改質領域を形成し、形成される改質領域が切断予定線からずれるのを抑制する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−87026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、単結晶サファイアなど硬度が高い(モース硬度9)基板においては、レーザ加工により基板内の一つの位置に改質領域を形成しても、基板を良好に切断できないという問題があった。そこで、基板の厚み方向に深さを変えて、改質領域を複数回にわたって形成することが試みられている。しかし、回数を重ねると、改質領域が想定された切断予定線からずれていき、チップの断面が基板の表面に対して斜めになって、チップ形状の不良が生じることが分かった。
【0006】
本発明の目的は、基板の厚み方向に深さを変えて複数回改質領域を形成するにあたり、形成される改質領域が切断予定線からずれるのを抑制することができるレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が適用されるレーザ加工方法は、板状の基板に想定された切断予定線に基づいて、基板の一方の表面からの複数の距離に対して、集光したレーザ光を照射し、基板の内部に距離毎に改質領域を複数回にわたって形成するレーザ加工方法であって、複数回のうち少なくとも1回は、基板の外周の一方の端部から、基板の中央部に向かって改質領域を形成する第1の加工方法と、基板の外周の他方の端部から、基板の中央部に向かって改質領域を形成する第2の加工方法とを用いることを特徴とする。
【0008】
ここで、切断予定線が基板の劈開面に沿う方向とは異なる方向に想定されている場合に、第1の加工方法と第2の加工方法とにより、改質領域を形成することを特徴とすることができる。
また、基板に想定された切断予定線に対して行う改質領域の複数回の形成のうち、最後の回に第1の加工方法と第2の加工方法とを用いることを特徴とすることができる。
さらに、基板の内部に基板の一方の表面からの複数の距離に対して、距離毎の複数回の改質領域の形成が、基板のレーザ光が入射する表面からの距離が大きい方から、小さい方へと行なわれることを特徴とすれば、レーザ光の散乱が軽減される点で好ましい。
【0009】
一方、基板の内部に基板の一方の表面からの複数の距離に、距離毎に複数回にわたる改質領域の形成において、基板のレーザ光が入射する表面からの距離が小さいほど、レーザ光の出力が大きいことを特徴とすれば、レーザ光が入射する面の裏面上に形成された電子素子へのダメージを軽減できる点で好ましい。
さらに、基板が、C軸配向のサファイアであって、切断予定線が結晶面(1100)に沿う方向とは異なる方向に想定されていることを特徴とすることができる。
【0010】
さらに、前述のレーザ加工方法を、電子素子を複数形成した半導体ウエハ等の基板に対して行い、基板を薄片化(チップ化)することができる。例えば、好ましくは、基板上にn型半導体層、発光層及びp型半導体層をこの順でエピタキシャル成長させる工程、エピタキシャル成長された基板上に複数の化合物半導体発光素子を形成する工程、化合物半導体発光素子を複数形成した後に、前述のレーザ加工方法を設けた工程を含む方法により化合物半導体発光素子を製造することができる。化合物半導体発光素子としては、III族窒化物半導体からなる発光素子が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、基板に形成される改質領域が切断予定線からずれるのを抑制することにより、チップ形状の不良の発生を低減できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態という)について詳細に説明する。なお、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。なお、添付図面では、基板やチップなどを模式的に表しており、縮尺は正確ではない。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態において用いられる基板10の一例を説明する図である。
図1(a)は、基板10を一方の面から見た図である。基板10は、例えば、直径4インチ(約100mm)、厚さ250〜50μmのC軸配向した板状の単結晶サファイア基板を用いることができる。
基板10の一端には、基板10の結晶方位を示すとともに、基板10上に電子素子を形成するプロセスにおいて基準となるオリエンテーションフラット(OF:Orientation Flat)11が設けられている。例えば、OF11はサファイア単結晶の[1120]方向に形成されている。
【0014】
基板10の一方の面には、III族窒化物半導体からなるn型半導体層、発光層及びp型半導体層がこの順でエピタキシャル成長され、複数のLED12が形成されている。また、基板10には、LED12に電流を供給するための電極13aおよび13bが設けられている。電極13aおよび13bは、それぞれ、例えば直径100μmの円形形状をなしている。LED12と電極13aおよび13bとは、それぞれが1組のLED12と電極13aおよび13bとを備えるチップ20に分割できるよう、基板10上に一定の間隔で配置されている。
ここでは、基版10のLED12が形成された面を基板表面10aと呼び、他方の面を基板裏面10bと呼ぶ。
【0015】
そして、図1(a)に示した基板表面10aにおいて、OF11の設けられた端をD端部、OF11と反対側の端をU端部、OF11を下側に見て右側の端をL端部、同様に左側の端をR端部とする。そして、中央部をC部とする。さらに、図1(a)に示した基板表面10aにおいて、D端部のある基板10の下側をD端部側、U端部のある基板10の上側をU端部側、L端部のある基板10の右側をL端部側、R端部のある基板10の左側をR端部側と呼ぶ。
さらに、OF11に沿った方向をx方向、OF11に垂直な方向をy方向とする。
なお、後述するように、レーザ光は基板裏面10bから照射されるため、基板裏面10bから見たときに、R部側が右側に、L部側が左側になるようにし、x方向の+の方向はL部側からR部側に向かう方向とした。
【0016】
チップ20は、矩形で、チップ20のx方向のサイズはph、y方向のサイズはpvである。例えば、phは600μm、pvは240μmである。基板10には、チップ20に分割するための、x方向およびy方向にそれぞれ切断予定線21aおよび21bが想定されている。切断予定線21aはy方向にpvのピッチ、切断予定線21bはx方向にphのピッチで想定されている。例えば、基板10のサイズが4インチで、チップ20のサイズが600μm(ph)、240μm(pv)であれば、切断予定線21aは400本、切断予定線21bは170本である。
【0017】
なお、切断予定線21aおよび21bは、想定されたラインであり、具体的に線が引かれていなくともよい。また、想定された切断予定線21aおよび21bに対応して基板表面10aまたは基板裏面10b上に、パタンまたは溝が形成されていてもよい。
第1の実施の形態では、基板10には、想定された切断予定線21aおよび21bに対応して、チップ20への切断の起点となるように、溝(割り溝)14が形成されている。割り溝14は、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ光の照射によって、基板表面10aに成長されたn型半導体層、発光層及びp型半導体層のエピタキシャル層および基板10のサファイアの一部が削られて形成されている。
【0018】
また、基板10は、金属リング16で保持された粘着シート15に貼り付けられている。
金属リング16は、基板10の直径より大きく設定されている。そして、基板10は、金属リング16の内側に、金属リング16に接触しないように貼り付けられている。なお、粘着シート15は、レーザ加工において、基板10を保持すると共に、切断されたチップ20が飛散するのを防止する。
【0019】
なお、基板10の内部に改質領域を形成するレーザ加工の後、想定された切断予定線21aおよび21bに対してブレードを押し当てるなどにより、基板10をチップ20に切断するブレーキング工程が行われる。ブレーキング工程において、基板10は、形成された改質領域を起点として、クラックが入って、チップ20に切断される。
その後、粘着シート15は、引き延ばされて、それぞれのチップ20の隙間が広がり、パッケージへのマウント作業を容易にする。
【0020】
図1(b)は、図1(a)に示すA−A’線での基板10、粘着シート15、金属リング16の断面図を示す。そして、図1(c)は、図1(b)のA−A’線での基板10および粘着シート15の部分の断面の拡大図である。
図1(c)に示すように、基板10は、LED12を形成した基板表面10aを粘着シート15に向けて貼り付けられている。つまり、図1(a)は、粘着シート15を通して基板表面10aを見た状態を示している。
また、図1(c)に示すように、基板10に想定された切断予定線21a(便宜的に基板裏面10b上にあるとした。)から基板表面10aに形成された割れ溝14に垂直に延びた面は、切断予定線21aに対応した切断予定面22aである。すなわち、第1の実施の形態では、チップ20の断面が垂直に形成されることが望ましい。
同様に、基板10に想定された切断予定線21bに対応して、基板裏面10bから基板表面10aに垂直に延びた面が切断予定面となる。
【0021】
ここでは、金属リング16と、金属リング16に保持された粘着シート15と、粘着シート15に貼り付けられた基板10とを、基板ユニット30と呼ぶ。
【0022】
図2は、第1の実施の形態において用いられるレーザ加工装置50を説明する図である。
レーザ加工装置50は、台等の上に設置されるための基体51、基体51上に設けられ、基体51上を左右方向(X方向と呼ぶ。)、前後方向(Y方向と呼ぶ。)、上下方向(Z方向と呼ぶ。)に移動可能で、さらに回転可能(回転方向をθ軸方向と呼ぶ。)な吸着ステージ52を備える。基体51は、吸着ステージ52をX方向、Y方向、Z方向に移動させるモータ、そしてθ軸方向に回転させるモータおよびこれらのモータを制御する電子回路を備える。
吸着ステージ52は、基板ユニット30を真空吸着により固定する。ここでは、基板ユニット30は、基板10のx方向を基体51のX方向に、基板10のy方向を基体51のY方向に合致するように設置されている。すなわち、基板10は、OF11が手前になるように吸着ステージ52に設置されている。
【0023】
また、レーザ加工装置50は、基体51上に設けられた支持体55を備える。この支持体55は、レーザ光発生部41を支持する。図2では、レーザ光発生部41は、内部構造が分かるように一部を破線として示されている。レーザ光発生部41は、エキシマ励起のパルスレーザ光を発生する。レーザ光発生部41は、レーザ光を90°折り曲げるためのダイクロイックミラー42を備える。さらに、レーザ光発生部41は、ダイクロイックミラー42で反射されたレーザ光を集光し、基板10の内部に集光点を結ばせるための光学系44を備える。
また、支持体55は、アーム56を支持する。そして、アーム56は、ダイクロイックミラー42を通して基板10を観察するための撮像部62を備える。
【0024】
さらに、レーザ加工装置50は、ロードカセットエレベータ57とアンロードカセットエレベータ58とを備える。ロードカセットエレベータ57は、レーザ加工を施す前の基板ユニット30を収容するロードカセット57aを収容する。そして、ロードカセット57aに収納された基板ユニット30は、ロボットアーム(図示せず。)により吸着ステージ52に移送され、セットされる。アンロードカセットエレベータ58は、レーザ加工が施された後の基板ユニット30を収納するアンロードカセット58aを収容する。レーザ加工が施された後の基板ユニット30は、ロボットアームにより吸着ステージ52からアンロードカセット58aに移送され、収納される。
【0025】
さらに、レーザ加工装置50は、ステージ52、レーザ光発生部41、ロードカセットエレベータ57およびアンロードカセットエレベータ58などの制御を行う制御部61を備える。そして、レーザ加工装置50は、撮像部62により撮像された基板10の画像や、制御部61からの制御情報を表示するための表示部63を備える。
【0026】
図3は、第1の実施の形態における、レーザ加工による基板10の内部へ改質領域を形成する方法を説明する図である。
ここでは、LED12、電極13aおよび13bは、よく知られた方法によって形成されるので、LED12、電極13aおよび13bの形成法の詳細については説明を省略する。そして、基板10が金属リング16に保持された粘着シート15に貼り付けられた基板ユニット30が、吸着ステージ52に設置されてからのレーザ加工について説明する。
【0027】
第1の実施の形態では、レーザ光発生部41は、基板裏面10bを“0”(基準面)として、基板裏面10bから深い距離の位置(距離d1)と、それに比べて浅い距離の位置(距離d2)とに集光したレーザ光45を照射する。すなわち、レーザ光発生部41は、基板裏面10bから複数の距離毎に改質領域を形成する。レーザ光発生部41は、始めに、基板裏面10bから深い距離に改質領域を形成し、次に、基板裏面10bから浅い距離に改質領域を形成する。
【0028】
図3(a1)および(a2)は、レーザ光45が入射する表面である基板裏面10bから深い距離の位置(距離d1)に改質領域を形成する工程を示す。図3(a1)は、吸着ステージ52に設置された基板ユニット30の図1(a)のA−A’線での断面図、図3(a2)は、同じく図1(a)のB−B’線での断面図である。図3(a1)には、吸着ステージ52上にセットされた、金属リング16、粘着シート15、基板10、基板表面10aに形成されたLED12および割り溝14、基板10に想定された切断予定線21aおよび切断予定面22aが示されている。なお、図3(a1)には、2つの切断予定面22aのみを示した。
一方、図3(a2)に示した、図1(a)のB−B’線での基板ユニット30の断面は、切断予定面22aでの断面である。このため、図3(a2)には、図3(a1)のLED12の代わりに、割り溝14が示されている。
【0029】
図3(a1)に示すように、レーザ光45は、基板裏面10bから入射され、光学系44により、基板裏面10bから距離d1の切断予定面22a内に集光されている。
そして、図3(a2)に示すように、レーザ光45は、吸着ステージ52のX方向への移動とともに、パルス発振に伴って、複数の改質領域23を繰り返して形成する。レーザ光45のパルス発振周波数は、例えば、15,000〜30,000Hz、吸着ステージ52の移動速度は100〜500mm/secで設定する。
【0030】
次に、図3(b1)および(b2)は、基板裏面10bから浅い距離の位置(距離d2)に改質領域を形成する工程を示す。図3(b1)は、吸着ステージ52に設置された基板ユニット30の図1(a)のA−A’線での断面図、図3(b2)は、同じく図1(a)のB−B’線での断面図である。そして、図3(b1)および(b2)に示されたそれぞれの断面は、図3(a1)および(a2)と同じ断面である。図3(b1)および(b2)に示すように、基板10内の基板裏面10bから距離d1の位置には、すでに、改質領域23が形成されている。
図3(b1)に示すように、レーザ光45は、基板裏面10bから距離d2(d2<d1)の位置に集光されている。そして、図3(b2)に示すように、レーザ光45は、吸着ステージ52のX方向への移動とともに、パルス発振に伴って、複数の改質領域24を繰り返して形成する。
【0031】
以上説明したように、第1の実施の形態では、基板10に想定された切断予定面22a内の、基板裏面10bから2つの距離の位置に、レーザ光45の集光点を結ぶようにして、改質領域23および24を形成している。すなわち、基板10内には改質領域23と改質領域24とが2段にわたって形成されている。
【0032】
そして、改質領域23および24は、集光された強いレーザ光45によりクラックが形成された領域または溶融した領域であって、レーザ光45を照射しない領域に比べて、強度が低い。それで、改質領域23および24は、ブレーキング工程においてブレードなどを押し当てると容易に破壊を開始する起点となる。
すなわち、第1の実施の形態では、基板10内に2段に改質領域を形成することで、基板10をチップ20に切断できるようにしている。
【0033】
なお、第1の実施の形態では、基板裏面10bから深い距離の位置(d1)に改質領域23を形成した後、浅い距離の位置(d2)に改質領域24が形成される。すなわち、改質領域の形成は、レーザ光45が入射する表面からの距離が大きい方から、小さい方へと行われている。これは次の理由による。もし逆に、浅い位置(d2)に改質領域24を形成した後、深い位置(d1)に改質領域23を形成すると、レーザ光45が浅い位置(d2)に形成された改質領域24を通過して、深い位置(d1)に集光される。すると、レーザ光45は、改質領域24によって散乱されるなどの影響を受けるため、改質領域23の形成がしづらくなる。
【0034】
図4は、第1の実施の形態におけるレーザ加工方法のフローチャートである。
なお、図4は、レーザ加工装置50のロードカセットエレベータ57に、レーザ加工する基板ユニット30が収納されたロードカセット57aがセットされ、さらにアンロードカセットエレベータ58に、空のアンロードカセット58aがセットされた後のフローを示している。
【0035】
図5は、第1の実施の形態におけるレーザ加工方法において、レーザ光45が基板10を走査する方向を示す図である。図5(a)はレーザ光45が基板10をX方向に走査する第1走査、(b)は同じくY方向に走査する第2走査、(c)はレーザ光45が基板10を再びX方向に走査する第3走査、(d)は同じく再びY方向に走査する第4走査を示す。
以下では、図5を参照しつつ、図4のフローチャートに基づいて、レーザ加工の方法を説明する。
【0036】
まず、レーザ加工装置50は、ロボットアームにより、1枚目の基板ユニット30をロードカセット57から吸着ステージ52に移送する(ステップ101)。そして、吸着ステージ52が基板ユニット30を真空吸着する。このとき、レーザ加工装置50の制御部61は、吸着ステージ52をX方向、Y方向に移動し、かつθ軸方向に回転して、基板10のx方向が、X方向に向くように位置合わせする。
【0037】
次に、制御部61は、基板10と粘着シート15の厚さを測定し、基板裏面10bを基準面(“0”)として設定する(ステップ102)。
なお、基板10と粘着シート15の厚さは、基板ユニット30の有無における、光学系44により測定した集光点までの距離の差から求めうる。
【0038】
X方向、Y方向およびθ軸方向について、基板10の精密な位置合わせ(アライメント)が行なわれる(ステップ103)。ここでは、切断予定線21a、21bとレーザ光45の照射位置を一致させ、レーザ光45が、基板10に想定された切断予定線21a、21bに沿って走査されるように、吸着ステージ52の位置が設定される。この設定は、レーザ加工装置50の運転者が目視で行ってもよく、制御部61が、撮像部62の撮像した基板10の画像に基づいて、自動的に行ってもよい。
この後、制御部61は、基板10のサイズおよび予め設定された走査の間隔に基づいて、自動的にX方向およびY方向に吸着ステージ52を移動させ、レーザ光45を基板10に照射する。
【0039】
始めに、基板10内の基板裏面10bから深い位置(d1)にレーザ光45を照射して、改質領域23を形成する工程を説明する。
制御部61は、レーザ光45の集光点の位置を、基板裏面10bを“0”として、d1の距離に設定する(ステップ104)。一例として、d1を−35μmとする。
なお、集光点の位置の設定は、光学系44の集光点の調整で行いうる。また、吸着ステージ52をZ方向に移動させることで行ってもよい。
【0040】
次に、X方向に改質領域を形成する第1走査を行う(ステップ105)。なお、後述するように、第1走査では、X方向および−X方向に向けて改質領域を形成するが、これらをまとめてX方向に改質領域を形成(X方向改質領域形成)すると呼ぶ。
レーザ光45の集光点の位置は、ステップ104で設定されたd1=−35μmである。
第1走査では、図5(a)に示すように、制御部61は、吸着ステージ52を、基板10のU端部側でかつR端部側で基板10の外に設けられたStart位置に移動し、レーザ光45が照射されるようにする。
次に、制御部61は、レーザ光45を照射しつつ、吸着ステージ52をX方向へ移動し、レーザ光45がR端部側からL端部側へと基板10を横切りつつ照射されるようにする。このようにして、切断予定線21aに沿って、基板10内に改質領域23を形成する。そして、レーザ光45の位置が、L端部側で基板10から外れると、吸着ステージ52をY方向へ移動する。
【0041】
その後、制御部61は、レーザ光45を照射しつつ、吸着ステージ52を−X方向へ移動し、レーザ光45がL端部側からR端部側へと基板10を横切りつつ照射されるようにする。このようにして、切断予定線21aに沿って、基板10内に改質領域23を形成する。そして、レーザ光45の位置が、R端部側で基板裏面10bから外れると、吸着ステージ52を再びY方向へ移動する。
【0042】
このように、第1走査では、制御部61は、吸着ステージ52にX(−X)方向へとY方向へとの移動を繰り返させることにより、Start位置から、基板10のD端部側でかつL端部側で基板10の外に設けられたEnd位置まで、レーザ光45を走査する。
すなわち、第1走査では、基板10を1つの領域として、矢印t1で示す一方向に、基板10の外周の一方の端部であるU端部側の切断予定線21aから基板10の外周の他方の端部であるD端部側の切断予定線21aへとレーザ加工が進んで、改質領域23を形成していく。
【0043】
なお、X方向への移動距離は、基板10のサイズよって定められる。例えば、X方向への移動距離が、基板10のサイズ(直径)より大きい値であると、基板10のR端部側からL端部側までレーザ加工がされる。
一方、Y方向への移動距離は、チップサイズで定められる。例えば、基板10のy方向のチップサイズを240μm(pv)とすると、直径4インチの基板10に対して切断予定線21aは400本となり、レーザ光45は、折り返しながら、基板10を400回走査することとなる。
また、一例として、第1走査におけるレーザ光45の出力は65mWである。
【0044】
なお、ここでは、レーザ光45は、基板10のL端部側またはR端部側で折り返して、一筆書きの要領で走査されている。しかし、例えば、レーザ光45を照射しながらR端部側からL端部側に走査した後、レーザ光45を照射せずにR端部側に戻って、再びレーザ光45を照射しながらL端部側へと走査してもよい。この逆であってもよい。
また、基板10の端部であるU端部側に設けられた切断予定線21aから同じく基板10の端部であるD端部側に設けられた切断予定線21aへと走査したが、D端部側に設けられた切断予定線21aからU端部側に設けられた切断予定線21aへと走査してもよい。
さらに、Start位置とEnd位置は、例であって、レーザ加工装置50および基板10のサイズ、チップ20のサイズによって変更しうる。
【0045】
Y方向に改質領域を形成する第2走査を行う(ステップ106)。なお、後述するように、第2走査では、Y方向および−Y方向に向けて改質領域を形成するが、これらをまとめてY方向に改質領域を形成(Y方向改質領域形成)すると呼ぶ。
レーザ光45の集光点の位置は、ステップ104で設定されたd1=−35μmである。
第2走査では、図5(b)に示すように、まず、制御部61は、吸着ステージ52を、基板10のU端部側でかつR端部側で基板10の外に設けられたStart位置に移動する。
次に、制御部61は、レーザ光45を照射しつつ、吸着ステージ52をY方向へ移動し、レーザ光45がU端部側からD端部側へと基板10を横切りつつ照射されるようにする。このようにして、切断予定線21bに沿って、基板10内に改質領域23を形成する。そして、レーザ光45の位置が、基板10のD端部側で、基板裏面10bから外れると、吸着ステージ52を−X方向へ移動する。
その後、制御部61は、レーザ光45を照射しつつ、吸着ステージ52を―Y方向へ移動し、レーザ光45がD端部側からU端部側へと基板10を横切りつつ照射されるようにする。このようにして、切断予定線21bに沿って、基板10内に改質領域23を形成する。そして、レーザ光45の位置が、基板10のU端部側で、基板裏面10bから外れると、吸着ステージ52を再びX方向へ移動する。
【0046】
このように、第2走査では、制御部61は、吸着ステージ52をY(−Y)方向へとX方向へとの移動を繰り返させることにより、Start位置から、基板10のD端部側でかつL端部側で基板10の外に設けられたEnd位置まで、レーザ光45を走査する。
すなわち、第2走査では、基板10を1つの領域として、矢印t2で示す一方向に、基板10の外周の一方の端部であるR端部の切断予定線21aから基板10の外周の他方の端部であるL端部の切断予定線21aへとレーザ加工が進んで、改質領域23を形成していく。
【0047】
なお、Y方向への移動距離は、基板10のサイズによって定められる。例えば、Y方向への移動距離が、基板10のサイズ(直径)より大きい値であると、基板10のU端部側からD端部側までレーザ加工がされる。
一方、X方向への移動距離は、チップサイズで定められる。例えば、基板10のx方向のチップサイズを600μm(ph)とすると、直径4インチの基板10に対して切断予定線21bは170本となり、レーザ光45は、折り返しながら、基板10を170回走査する。
また、一例として、第2走査におけるレーザ光45の出力は50mWである。この出力は、第1走査の場合(65mW)より小さい。レーザ光45の出力の違いについては後述する。
【0048】
ここでは、レーザ光45は、基板10のU端部側またはD端部側で折り返して、一筆書きの要領で走査されている。しかし、例えば、レーザ光45を照射しながらU端部側からD端部側に走査した後、レーザ光45を照射しないでU端部側に戻って、再びレーザ光45を照射しながらD端部側へと走査してもよい。
また、R端部側の切断予定線21aからL端部側の切断予定線21aへと、矢印t2の方向に走査したが、L端部側の切断予定線21aからR端部側の切断予定線21aへと、矢印t2と反対方向に走査してもよい。
さらに、Start位置とEnd位置は、例であって、レーザ加工装置50および基板10のサイズ、チップ20のサイズによって変更しうる。
【0049】
これで、基板裏面10bから基板10の深い距離の位置(d1)にレーザ光45を照射して、改質領域23を形成する工程が終了する。
なお、基板10内には、切断予定線21aと21bに沿って、改質領域23が形成されている。しかし、前述したように、第1の実施の形態では、2段に改質領域を形成することで、基板10を切断することとしているので、改質領域23のみでは基板10を切断するには不十分である。
【0050】
次に、基板裏面10bから基板10の浅い距離の位置(d2)にレーザ光45を照射して、改質領域24を形成する工程を説明する。なお、レーザ光45は、前述した基板裏面10bから基板10の深い位置(d1)に照射したのと同じ切断予定線21aおよび21bに沿って照射される。したがって、レーザ光45の照射によって形成される改質領域は、基板裏面10bから距離の異なる位置に2段に形成されることになる。
【0051】
制御部61は、レーザ光45の集光点の位置を、基板裏面10bを“0”として、d2の位置に設定する(ステップ107)。一例として、d2は−25μmである。したがって、基板10内のd2の位置は、d1(−35μm)の位置に比べ、基板裏面10bから浅い距離の位置となる。
【0052】
そして、X方向に改質領域を形成する第3走査を行う(ステップ108およびステップ109)。なお、第3走査は、ステップ108の第3−1走査とステップ109の第3−2走査の2つのステップに分けられている。
さて、第3走査では、図5(c)に示すように、基板10を2つの領域AUとADとに分けて、レーザ光45を照射している。領域AUは、基板10のU端部から基板10の中央部(C部)までの領域であり、領域ADは、基板10のD端部から基板10の中央部(C部)までの領域である。
そして、第3−1走査では、領域AUを、第3−2走査では、領域ADをレーザ加工する。
【0053】
まず、領域AUをレーザ加工する第3−1走査(ステップ108)を説明する。なお、レーザ光45の集光点の位置は、ステップ107で設定されたd2=−25μmである。
第3−1走査では、図5(c)に示すように、第1走査であるステップ105と同様に、制御部61は、基板10のU端部側でかつR端部側で基板10の外に設けられたStart1位置から、切断予定線21aに沿って、レーザ光45の照射が開始する。そして、矢印t31の方向に、レーザ光45の走査が進んでいく。そして、レーザ光45は、基板10の中央部でかつR端部側で基板10の外に設けられたEnd1位置で終了する。
【0054】
すなわち、第1の加工方法の一例としての第3−1走査では、領域AUにおいて、矢印t31で示すように、基板10の外周の一方の端部であるU端部の切断予定線21aから基板10の中央部(C部)の切断予定線21aへと進んで、改質領域24を形成していく。
このとき、第3−1走査における、切断予定線21aは、第1走査(400本)での半分(200本)となり、レーザ光45は、折り返しながら、基板裏面10b上を200回走査する。
また、一例として、第3−1走査におけるレーザ光45の出力は75mWである。この出力の値は、第1走査の場合(65mW)より大きい。このレーザ光45の出力の違いについては後述する。
【0055】
次に、領域ADに対する第3−2走査(ステップ109)を説明する。なお、レーザ光45の集光点の位置は、ステップ107で設定されたd2=−25μmである。
第3−2走査では、図5(c)に示すように、前述した第3−1走査と異なり、制御部61は、吸着ステージ52を、基板10のD端部側でかつL端部側で基板10の外に設けられたStart2位置に移動する。そして、制御部61は、レーザ光45を照射しつつ、吸着ステージ52を、切断予定線21aに沿って移動させる。そして、矢印t32の方向に、レーザ光45の走査が進んでいく。そして、レーザ光45は、基板10の中央部でかつR端部側の基板10の外に設けられたEnd2位置で終了する。
【0056】
すなわち、第2の加工方法の一例としての第3−2走査では、領域ADにおいて、矢印t32で示すように、基板10の外周の他方の端部であるD端部の切断予定線21aから基板10の中央部(C部)の切断予定線21aへと進んで、改質領域24を形成していく。
このとき、第3−2走査における、切断予定線21aは、第1走査(400本)での半分(200本)となり、レーザ光45は、折り返しながら、基板裏面10b上を200回走査する。
また、一例として、第3−2走査におけるレーザ光45の出力は75mWで第3−1走査と同じである。
【0057】
以上説明したように、第3−1走査と第3−2走査とは、矢印t31と矢印t32で示すように、レーザ加工は、基板10の外周の端部から中央部に進んでいく。
【0058】
次に、Y方向に改質領域を形成する第4走査を行う(ステップ110)。なお、レーザ光45の集光点の位置は、ステップ107で設定されたd2=−25μmである。
第4走査では、図5(d)に示すように、第2走査であるステップ106と同様に、基板10を1つの領域として、矢印t4で示す一方向に、基板10の外周の一方の端部であるR端部の切断予定線21bから基板10の外周の他方の端部であるL端部の切断予定線21bへとレーザ加工が進んで、改質領域24を形成していく。
このとき、第4走査における、切断予定線21bは、第2走査と同じ170本となる。このため、第4走査における、レーザ光45は、基板裏面10b上を折り返しながら170回走査することになる。
また、一例として、第4走査におけるレーザ光45の出力は55mWである。この出力の値は、第2走査の場合(50mW)より大きい。このレーザ光45の出力の違いについては後述する。
【0059】
これで、1枚目の基板ユニット30について、基板裏面10bから基板10の深い距離の位置(d1)と浅い距離の位置(d2)にレーザ光45を照射して、改質領域23と24を形成する工程が終了する。
すると、制御部61は、ロボットアームにより、基板ユニット30を吸着ステージ52からアンロードカセット58aに移送する(ステップ111)。
そして、制御部61は、ロードカセット57aに基板ユニット30が残っているか否かを判別する(ステップ112)。そして、制御部61は、ロードカセット57aが、基板ユニット30は残っていない(空)と判断した場合には、レーザ加工を終了する。制御部61は、ロードカセット57aが、基板ユニット30が残っていると判断した場合には、ステップ101に戻って、次の基板ユニット30についてレーザ加工を行う。以下同様に、制御部61は、ロードカセット57aに収納されたすべての基板ユニット30に対してレーザ加工を行なう。
【0060】
以上説明したように、第1の実施の形態では、第1走査および第3走査において、基板10の切断予定線21aに沿って、X方向に、基板裏面10bからの異なる距離で、レーザ光45を照射している。また、第2走査および第4走査において、基板10の切断予定線21bに沿って、Y方向に、基板裏面10bからの異なる距離で、レーザ光45を照射している。そして、第3走査を、第3−1走査と第3−2走査との2つに分け、基板裏面10bを2つに分けたそれぞれの領域に対して、それぞれ基板10の端部から中央部へとレーザ加工が進んでいくようにしている。
【0061】
図6は、前述した第1走査から第4走査における、走査方向、基板裏面10bからの距離、レーザ光45の出力の値、走査ピッチ、加工本数を示す。
前述したように、第1走査と第3走査とは、同じX方向の走査であるが、基板裏面10bからの距離が異なる。そして、レーザ光45の出力が第1走査(65mW)に比べて第3走査(75mW)が大きい。これは次の理由による。第1走査では、レーザ光45の集光点は、基板裏面10bからの深い位置に設定されているため、基板表面10aに形成されたLED12に近い。そこで、レーザ光45の照射による温度上昇やレーザ光45の照射によるダメージなどで、LED12の特性が劣化する恐れがある。そこで、第1走査では、レーザ光45の出力を小さくしている。また、レーザ加工後のブレーキング工程において、容易に基板10をチップ20に切断できるように、第3走査におけるレーザ光45の出力を大きな値に設定している。すなわち、レーザ光が入射する基板裏面10bからの距離が小さいほど、レーザ光45の出力が大きい。
また、レーザ光45の出力が第2走査(50mW)の場合に比べて第4走査(55mW)が大きいのも同じ理由による。
【0062】
一方、レーザ光45の出力は第1走査(65mW)の場合に比べ第2走査(50mW)の場合が小さい。これは次の理由による。第1走査のX方向の切断予定面22aは、単結晶サファイアのA面(1120)で、劈開面ではないため、割れにくい。これに対し、第2走査のY方向の切断予定面は、単結晶サファイアのM面(1100)で、劈開面にあたり、割れやすい。つまり、切断予定線21aは、劈開面に沿う方向とは異なる方向にあたり、切断予定線21bは、劈開面に沿う方向にあたる。
【0063】
このため、劈開面に沿う方向の切断予定線21bへのレーザ光45である第2走査のレーザ光45の出力を、劈開面に沿う方向とは異なる切断予定線21aへの第1走査の場合に比べ小さく設定している。このため、第2走査でのレーザ光45の出力は、第1走査での場合に比べ、小さく設定されている。
また、第4走査(55mW)の場合のレーザ光45の出力が、第3走査(75mW)の場合に比べ小さいのも同じ理由による。
【0064】
図7は、第1の実施の形態を用いない場合におけるレーザ光45が基板10を走査する方向を示す図である。
第1の実施の形態を用いない場合と第1の実施の形態とを比較すると、第3走査である図7(c)が、第1の実施の形態の図5(c)と異なっている。すなわち、第1の実施の形態を用いない場合では、第3走査において、レーザ加工は、基板10を1つの領域として、矢印t3で示す一方向に、基板10の外周の一方の端部であるU端部の切断予定線21aから外周の他方の端部であるD端部の切断予定線21aへと進んで、改質領域24を形成していく。
つまり、第1の実施の形態を用いない場合は、図4に示した第1の実施の形態のフローチャートにおいて、第3走査をステップ108とS109とに分けることなく、ステップ105の第1走査と同様に行っている。
なお、第1の実施の形態を用いない場合の第3走査において、レーザ光45の出力は、一例として、第1の実施の形態における第3−1走査と同じく、75mWである。
そして、他の走査(第1走査、第2走査、第4走査)は、第1の実施の形態と同じである。
【0065】
図8(a)は、第1の実施の形態におけるレーザ加工方法により加工されたチップ20の断面を説明する図である。図1(a)は、基板ユニット30のA−A’線での断面である。第1の実施の形態においては、改質領域23および24は、切断予定面22a内に形成されている。よって、ブレーキング工程において、改質領域23および24と割り溝14とを結んだ面である切断予定面22aにクラックが生じて、基板10はチップ20に切断される。よって、チップ20の断面は、基板表面10aおよび基板裏面10bに対して垂直に形成される。このように、チップ20は、予め定められた断面形状となり、形状不良が抑制できる。
【0066】
一方、図8(b)は、第1の実施の形態を用いない場合のレーザ加工方法により加工されたチップ20の断面を説明する図である。この断面は、図8(a)と同様に、図1(a)のA−A’線での断面である。第3走査において、レーザ加工が、基板10のD端に近づくと、レーザ光45の照射の途上において、矢印P1に示すように、基板10に部分的な切断が生じ、基板10の一部がD端部側にずれ(ずれg)ることがある。すると、レーザ光45は、矢印P2で示すように、もはや切断予定面22a内に照射されず、切断予定線21aからずれた位置(ずれg)に改質領域24を形成する。すると、改質領域23、24と割り溝14とを結んだ面は、切断予定面22aと一致しない。このため、チップ20の断面には、ずれgに起因して張り出し部分や欠けた部分が生じる。このため、チップ20は、予め定められた断面形状から外れて、形状不良となる。
【0067】
ずれは、第3走査において、レーザ加工が、基板10のU端部側からD端部側に向かって行われるとすると、走査が基板10の中央部(C部)を越えて、D端部側に進んで来たときに発生しやすい。
前述したように、第3走査では、後のブレーキング工程で確実に基板10がチップ20に切断されるよう、第1走査に比べてレーザ光45の出力を上げている。このため、第3走査において、レーザ光45が照射された基板10は、チップ20に分離する寸前の状態になっている。このため、第3走査において、レーザ光45が照射された基板10の部分は、切断予定線21aで動きやすくなっており、吸着ステージ52との密着性が増していると考えられる。
【0068】
一方、第3走査において、まだレーザ光45が照射されていない基板10の部分は、切断予定線21aにおいて動きづらい状態のままである。また、基板10は、LED12の作成などによる応力の発生により反りを有している。このため、基板10は、もともと吸着ステージ52との密着が弱いと考えられる。
このことから、第3走査において、レーザ光45が照射された部分が基板10の中央を越えて広くなり、この部分の吸着ステージ52への密着性が増しているところに、レーザ光45の照射により、たまたま基板10にクラック等が入ると、吸着ステージ52への密着性が弱い、レーザ光45が照射されていない基板10の残りの部分がずれる(動く)ことになると思われる。
これにより、ずれた基板10の部分の切断予定線21aは、レーザ光45の照射位置からずれることになる。
【0069】
これに対し、第1の実施の形態では、第3走査において、レーザ加工は、基板裏面10bを2つの領域に分け、それぞれの領域において、基板10の端部から中央部へと向かうように設定されている。
このようにすると、第3−1走査において、レーザ光45が照射された基板10のU端部側から、吸着ステージ52への密着性が向上する。一方、第3−1走査においてレーザ光45が照射されていない基板10の残りの部分は、レーザ光45が照射された基板10のU端部側より、面積が大きく、全体として吸着ステージ52に吸着されている。したがって、例え、レーザ光45の照射によって、部分的な切断が生じたとしても、横方向の力は、基板10のレーザ光45が照射された部分およびレーザ光45が照射されていない部分のいずれをも動かすことができず、ずれ(動か)が生じないと考えられる。
【0070】
一方、第3−2走査において、レーザ光45が照射された基板10のD端部側から、吸着ステージ52への密着性が向上する。そして、基板10のU端部側は、第3−2走査により、すでに吸着ステージ52への密着性が増している。したがって、例え、レーザ光45の照射によって、部分的な切断が生じたとしても、それによって生じた横方向の力は、基板10のレーザ光45が照射された基板10のD端部側の部分および第3−1走査でレーザ光45が照射された基板10のAU領域とも、動かすことができない。これにより、第3−2走査において、まだレーザ照射がされていない部分もずれを生じないと考えられる。
このようなことから、第1の実施の形態において、形成される改質領域23、24が想定された切断予定線21a、21bからずれるのを抑制することができる。
【0071】
なお、Y方向に改質領域23、24を形成する第4走査において、ずれが生じないのは、前述したように、Y方向の切断予定線21bは劈開面に沿う方向であって、基板10が割れやすいため、レーザ光45の出力を基板10がチップ20に分離する寸前の状態とするまで上げることを要しないからと思われる。
したがって、第1の実施例の第3−1走査および第3−2走査のように、基板裏面10bを複数の領域に分け、基板10の外周の一方の端部から中央部にかけて行うレーザ加工は、切断予定線21aのように、切断予定線が劈開面に沿う方向とは異なった方向に想定されている場合に適用するのが好ましい。
【0072】
よって、基板裏面10bを複数の領域に分け、基板10の外周の一方の端部から中央部にかけて行うレーザ加工は、その切断予定線21a、21bについてのレーザ光45が入射する基板10の表面から距離を変えて行う複数回のレーザ照射のうち、最終回であるのが好ましい。
なお、本実施の形態では、基板裏面10bを2つの領域に分けて行った第3走査は、X方向の切断予定線21aにおける最終回である。
【0073】
(第2の実施の形態)
図9は、第2の実施の形態におけるレーザ加工方法において、レーザ光45が基板10を走査する方向を示す図である。
第2の実施の形態においても、図1に示す基板ユニット30、図2に示すレーザ加工装置50、図3に示すレーザ加工による基板10の内部への改質領域23、24を形成する方法は、第1の実施の形態と同じである。
【0074】
第2の実施の形態と第1の実施の形態との違いは、図9(c)に示す第3走査において、基板10が3つの領域に分かれていることにある。すなわち、基板10は、U端部から中央部への領域BUと、D端部から中央部への領域BDと、中央部の領域BCである。そして、第3走査は、領域BUに対する第3−1走査、領域BDに対する第3−2走査、領域BCに対する第3−3走査に分かれ、これらが順に行われる。
【0075】
第3−1走査は、第1の実施の形態の第3−1走査と同様に、レーザ加工は領域BUに対して、U端部から中央部に向けて進む。第3−2走査は、第1の実施の形態の第3−2走査と同様に、レーザ加工は領域BDに対して、D端部から中央部に向けて進む。なお、レーザ加工の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0076】
最後に、第3−3走査において、レーザ加工は領域BCに対して、行われる。第3−1走査および第3−2走査の後であれば、前述したように、領域BUおよび領域BDはずれ(動か)ないように吸着ステージ52に吸着されている。よって、中央部(C部)の領域BCはこれらの領域に挟まれて動かない。そこで、第3−3走査は、領域BCの、領域BUまたは領域BDのいずれの側から始めてもよい。
【0077】
すなわち、第2の実施の形態において、基板10の端部の領域について、レーザ加工を端部から中央部に進むように行い、その後に、中央部の領域について、レーザ加工を行えばよい。
他の走査(第1走査、第2走査、第4走査)は、第1の実施の形態と同じである。
このようにすることで、第1の実施の形態と同様に、形成される改質領域23、24が想定された切断予定線21a、21bからずれることを抑制できる。
なお、第2の実施の形態では、基板10を、3つの領域に分けたが、3を超える領域に分けてもよい。
【0078】
第1および第2の実施の形態において、エキシマ励起のパルスレーザ光として、波長266nmのものを用いることができる。また、COレーザやYAGレーザ、YLF(リチウム・イットリウム・フロライド)レーザを用いてもよい。
【0079】
さらに、第1および第2の本実施の形態では、基板裏面10bからの距離を変えて、改質領域23、24を2回形成したが、基板裏面10bからの位置を3つとして、1つの切断予定線21aまたは21bに対して改質領域を3回形成してもよい。このときは、3回目の走査において、基板裏面10bを複数の領域に分けて、基板10の端部の領域について、レーザ加工を基板10の端部から中央部へ向けて行えばよい。また、3回以上としてもよい。さらに、基板裏面10bからの位置は、基板10の厚さなどを考慮して設定してよい。
そして、本実施の形態におけるX方向とY方向の走査の順を、X方向の次にY方向としたが、逆にY方向の次にX方向としてもよい。さらに、本実施の形態では、レーザ光45の走査をX方向とY方向で交互にしたが、一方の方向を重ねて行ってもよい。
本実施の形態では、レーザ光45の出力を基板裏面10bからの距離によって変更したが、同じでもよく、基板裏面10bからの距離が大きい場合のレーザ光45の出力を、距離が小さい場合より、大きく設定してもよい。
【0080】
本実施の形態では、割り溝14を形成した基板10を用いたが、割り溝14を設けない基板10であってもよい。
【0081】
本実施の形態では、基板10として、単結晶サファイアとしたが、Si、SiC、GaAs系の半導体やガラス、セラミクスなどであってもよい。
また、本発明のレーザ加工方法は、III族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法に限定されることなく、III族窒化物半導体以外の発光素子(LED)やLSI等の集積回路や、機構系を電気・電子回路とともに組み込んだMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の実施の形態において用いられる基板を説明する図である。
【図2】第1の実施の形態において用いられるレーザ加工装置を説明する図である。
【図3】第1の実施の形態における、レーザ加工による基板の内部へ改質領域を形成する方法を説明する図である。
【図4】第1の実施の形態におけるレーザ加工方法のフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態におけるレーザ加工方法において、レーザ光が基板を走査する方向を示す図である。
【図6】第1の実施の形態における走査方向、基板裏面からの距離、レーザ光の出力の値、走査ピッチ、加工本数を示す図である。
【図7】第1の実施の形態を用いない場合におけるレーザ光が基板を走査する方向を示す図である。
【図8】第1の実施の形態におけるチップの断面およびを第1の実施の形態を用いない場合のチップの断面を説明する図である。
【図9】第2の実施の形態におけるレーザ加工方法において、レーザ光が基板を走査する方向を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10…基板、11…オリエンテーションフラット(OF)、12…LED、13a、13b…電極、15…粘着シート、16…金属リング、20…チップ、21a、21b…切断予定線、22a…切断予定面、30…基板ユニット、41…レーザ光発生部、42…ダイクロイックミラー、44…光学系、45…レーザ光、50…レーザ加工装置、51…基体、52…吸着ステージ、55…支持体、56…アーム、57…ロードカセットエレベータ、57a…ロードカセット、58…アンロードカセットエレベータ、58a…アンロードカセット、61…制御部、62…撮像部、63…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基板に想定された切断予定線に基づいて、当該基板の一方の表面からの複数の距離に対して、集光したレーザ光を照射し、当該基板の内部に当該距離毎に改質領域を複数回にわたって形成するレーザ加工方法であって、
前記複数回のうち少なくとも1回は、
前記基板の外周の一方の端部から、当該基板の中央部に向かって前記改質領域を形成する第1の加工方法と、
前記基板の外周の他方の端部から、当該基板の中央部に向かって前記改質領域を形成する第2の加工方法と
を用いること
を特徴としたレーザ加工方法。
【請求項2】
前記切断予定線が前記基板の劈開面に沿う方向とは異なる方向に想定されている場合に、
前記第1の加工方法と前記第2の加工方法とにより、前記改質領域を形成すること
を特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記基板に想定された前記切断予定線に対して行う前記改質領域の複数回の形成のうち、
最後の回に前記第1の加工方法と前記第2の加工方法とを用いること
を特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記基板の内部に当該基板の一方の表面からの複数の距離に対して、当該距離毎の複数回の改質領域の形成が、
前記基板のレーザ光が入射する表面からの距離が大きい方から、小さい方へと行なわれること
を特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記基板の内部に当該基板の一方の表面からの複数の距離に、当該距離毎に複数回にわたる改質領域の形成において、
前記基板のレーザ光が入射する表面からの距離が小さいほど、レーザ光の出力が大きいこと
を特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記基板が、C軸配向のサファイアであって、前記切断予定線が結晶面(1100)に沿う方向とは異なる方向に想定されていること
を特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
基板上にn型半導体層、発光層及びp型半導体層をこの順でエピタキシャル成長させる工程と、
前記エピタキシャル成長された基板上に複数の化合物半導体発光素子を形成する工程と、
前記化合物半導体発光素子を複数形成した後に請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザ加工方法を設けた工程と
を含むことを特徴する化合物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−205900(P2010−205900A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49311(P2009−49311)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】