説明

レーザ加工方法

【課題】 レーザ光の照射により分割されたチップの抗折強度を向上させるレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】 レーザ光を照射してアブレーション反応により被加工物に切削溝92を形成するレーザ加工方法であって,被加工物の表面において,形成された切削溝92の両側に,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,深さが0.1μm以上20μm以下の補助溝93を形成する。これにより,熱応力が断絶されてチップの抗折強度が向上される。また,補助溝93を形成する代わりに,切削溝92の内部にエッチング液94を供給し,切削溝92に滞留したエッチング液94に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光101を照射して加熱する。これにより,切削溝92の縁部に堆積したデブリ91が除去され,チップの抗折強度が向上する。また,エッチング液94の代わりにアシストガス95を供給してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザ加工方法に関し,より詳細には,レーザ光を照射することにより被加工物を切削するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工は,高密度エネルギー熱源であるレーザ光を集中して照射し,被加工物を局部的かつ瞬時に溶融,溶断する加工方法である。レーザ加工では,被加工物を微細かつ高精度で加工できるという利点を有する。このため,近年では,半導体ウェハや電子材料などに対してもレーザ加工を行うことが検討されている。例えば,半導体ウェハをチップ状に分割するダイシング工程において,従来の切削ブレードを用いた切削加工に代えて,レーザ光照射による切削加工を行うことが検討されている。
【0003】
レーザ切削を行うレーザ加工方法として,レーザアブレーションと呼ばれるレーザ加工方法がある。ここで,アブレーションとは,例えばポリマー等の材料表面に対してYAGレーザ等のパルスレーザを高エネルギー密度で照射した際,材料が瞬時に切断され融解,蒸発し,材料表面が爆発的に除去される現象と,入射熱による溶融現象とのことである。このレーザアブレーションでは,ポリマーだけでなく,例えば,セラミックス,ガラス,金属または半導体等の各種材料を,加工点の周囲に熱によるダメージを最小限に留め,極めてシャープに切削加工することができる。
【0004】
このように,レーザアブレーションは,被加工物を局部的にガス化・蒸散させて除去する手法である。しかし,レーザアブレーションは,本質的に熱加工であるため,加工熱による溶融物が,残留物,飛散物(デブリ)として被加工物の表面に残存してしまう。かかるデブリが加工点の周囲に飛散して,被加工物である半導体ウェハの回路面等に付着すると,製品不良の原因となる。
【0005】
このため,レーザアブレーションでは,アブレーション反応を促進させるために,アシシトガスを加工点付近に供給しながら加工する場合もある。このアシストガスは,半導体ウェハ等の被加工物のガス化を促進させる作用を有する。しかし,このアシストガスを用いたとしても,上記デブリを完全になくすまでには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開平9−1368号公報
【特許文献2】特許2798223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,レーザアブレーションにより,例えば半導体ウェハをダイシングすると,分割されたチップの抗折強度が著しく低下することが知られている。例えば,切削ブレードによるダイシングと比較して,レーザ光の照射面側では,加工前のチップの抗折強度の1/3〜1/4という非常に低い抗折強度となってしまう。
【0008】
そこで,本願発明者らは,この原因を追究した結果,溶融したデブリがレーザ光照射面側の切削溝の縁部に固着してしまうこと,または切削溝の縁部がレーザプラズマにより高温の状態にさらされてしまい切削溝の縁部に熱応力が発生してしまうことが原因であることを突き止めた。
【0009】
したがって,本願発明者らは,レーザアブレーション加工後,照射面側の切削溝の縁部に発生した熱応力を緩和することで,チップの抗折強度を向上できると考えた。
【0010】
このような方法として,例えば,切削溝の縁部にレーザ光を照射させて縁部を加工することにより,切削溝の割れや欠けの発生を防止することが考えられる(例えば,特許文献1)。しかし,本願発明者らがこの方法について検証したところ,チップの抗折強度はわずかに向上するものの,本願発明者らが十分と考える程の抗折強度を得ることはできなかった。
【0011】
また,レーザビームにより切削とドロス除去とを行う方法もある(例えば,特許文献2)。しかし,ドロス除去が裏面に近い位置で行われるため,切削時のアブレーション反応による照射面側の切削溝の縁部に発生した熱応力を緩和することはできなかった。また,ドロス除去が表面に近い位置で行われたとしても,同時に行われる切削時のアブレーション反応によってアシストガスが消費されてしまうので,レーザビームによるドロス除去の作用が有効に働かないものと推測される。
【0012】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,レーザ光の照射により分割されたチップの抗折強度を向上させることの可能な,新規知見に基づく改良がされたレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,加工点でアブレーション反応を起こさせることによって被加工物を切削し,加工点を移動させて被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において,被加工物の表面において形成された切削溝の両側に,切削溝の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,深さが0.1μm以上20μm以下の補助溝を形成することを特徴とする,レーザ加工方法が提供される(第1のレーザ加工方法)。
【0014】
かかる方法によれば,被加工物である例えば半導体ウェハを,レーザアブレーションにより切削する。このとき,形成された切削溝の縁部にデブリが固着してしまうと,切削溝の縁部に熱応力が発生して,チップの抗折強度を低下させてしまう。そこで,低下したチップの抗折強度を向上させるため,半導体ウェハの表面において,形成された切削溝の両側に,切削溝の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,深さが0.1μm以上20μm以下の補助溝を形成する。この補助溝により,切削溝の縁部を起因とする表面付近の横方向に引っ張る熱応力を断絶することができ,チップの抗折強度を向上させることができる。
【0015】
また,上記課題を解決するために,本発明の他の観点によれば,被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,加工点でアブレーション反応を起こさせることによって被加工物を切削し,加工点を移動させて被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において,切削溝の内部にエッチング液を供給し,切削溝に滞留したエッチング液に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光を照射して加熱することを特徴とする,レーザ加工方法が提供される(第2のレーザ加工方法)。
【0016】
かかる方法によれば,形成された切削溝の内部に,例えば水酸化カリウムなどのエッチング液を供給する。その後,切削溝に滞留したエッチング液に対してレーザ光を照射して,エッチング液を加熱してエッチング液の化学反応を促進させる。これにより,切削溝の縁部に固着したデブリが除去されるとともに,切削溝内部の面もなめらかにすることができるので,チップの抗折強度が著しく向上する。このとき,レーザ光の出力が大きすぎるとアブレーション反応を起こしてしまい,切削溝の縁部に損傷を与えてしまう。したがって,エッチング液を加熱するときのレーザ光は,アブレーション反応を起こさない程度の出力にする。
【0017】
さらに,上記切削溝にエッチング液を供給する代わりに,例えば,六フッ化硫黄(SF)や四塩化炭素(CCl)等のアシストガスを供給してもよい(第3のレーザ加工方法)。そして,切削溝の内面に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光を照射して,切削溝の内面を加熱させることにより,アシストガスを加熱してアシストガスの化学反応を促進させる。これにより,切削溝の縁部に固着したデブリが除去されるとともに,切削溝内部の面もなめらかにすることができるので,チップの抗折強度が著しく向上する。
【0018】
また,第1のレーザ加工方法と第2のレーザ加工方法とは,併用して行うことができる。さらに,第1のレーザ加工方法と第3のレーザ加工方法とを,併用して行うこともできる。このように2つの方法を併用することにより,第1〜第3のレーザ加工方法を単独で行うよりも,各方法による効果が積み重なって働くため,チップの抗折強度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば,レーザ光の照射により分割されたチップの抗折強度を向上させることの可能なレーザ加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(第1の実施形態)
まず,図1に基づいて,本発明にかかる第1の実施形態について説明する。ここで,図1は,本実施形態にかかるレーザ加工装置1の全体構成を示す斜視図である。
【0022】
図1に示すように,レーザ加工装置1は,例えば,静止基台2と,この静止基台2に水平方向(矢印Xで示す方向。以下「X方向」という。)に移動可能に配設され,被加工物を保持するチャックテーブル機構3と,静止基台2に上記X方向と垂直な水平方向(矢印Yで示す方向。以下「Y方向」という。)に移動可能に配設されたレーザ光照射ユニット支持機構4と,レーザ光照射ユニット支持機構4に対して鉛直方向(矢印Zで示す方向。以下「Z方向」という。)に移動可能に配設されたレーザ光照射ユニット5と,撮像手段6と,から構成される。
【0023】
チャックテーブル機構3は,例えば,静止基台2上にX方向に沿って略平行に配設された一対の案内レール31,31と,この案内レール31,31上にX方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と,第1の滑動ブロック32上にY方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と,第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持された支持テーブル35と,被加工物を保持するチャックテーブル36と,を備える。
【0024】
チャックテーブル36は,例えば,多孔質材料から形成されて,被加工物を真空吸着して保持する吸着チャック(吸着用プレート)361と,吸着チャック361を支持するチャック基台部362とを備えている。チャックテーブル36は,円筒部材34内に配設されたパルスモータ(図示せず)によって,水平方向に回転可能である。
【0025】
このようなチャックテーブル36上には,被加工物の一例である半導体ウェハ90が載置される。この半導体ウェハ90としては,例えば,8,12または16インチの略円板状のシリコンウェハや,低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)を積層された半導体ウェハ,CSP(Chip Size Package)基板等のパッケージ基板など,各種の半導体基板を採用できる。
【0026】
かかる半導体ウェハ90は,一側の面に,粘着テープである例えばダイシングテープ14が貼り付けられている。このダイシングテープ14により,半導体ウェハ90の表面を保護するとともに,半導体ウェハ90を分割して形成された複数のチップがバラバラにならないようにすることができる。また,このダイシングテープ14の外周は,ウェハリング(フレーム)16に貼り付けられている。このように,半導体ウェハ90は,ダイシングテープ14を介してウェハリング16に支持された状態で,チャックテーブル36の吸着チャック361上に載置される。この際,半導体ウェハ90のダイシングテープ14が貼り付けられた側の面(回路面)90bを下向きにして載置される。
【0027】
第1の滑動ブロック32は,その下面に一対の案内レール31,31と嵌合する一対の被案内溝321,321が設けられているとともに,その上面にY方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322,322が設けられている。かかる構成の第1の滑動ブロック32は,被案内溝321,321が一対の案内レール31,31に嵌合することにより,一対の案内レール31,31に沿ってX方向に移動可能に構成される。
【0028】
さらに,チャックテーブル機構3は,第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31,31に沿ってX方向に移動されるための移動手段37を具備する。この移動手段37は,一対の案内レール31,31の間に平行に配設された雄ねじロッド371と,雄ねじロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を備えている。雄ねじロッド371は,その一端が静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており,その他端がパルスモータ372の出力軸に減速装置(図示せず。)を介して伝動連結されている。したがって,パルスモータ372によって雄ねじロッド371を正転および逆転駆動することにより,第1の滑動ブロック32を案内レール31,31に沿ってX方向に移動させることができる。
【0029】
第2の滑動ブロック33は,その下面に第1の滑動ブロック32を設けられた一対の案内レール322,322と嵌合する一対の被案内溝311,311が設けられている。この被案内溝311,311を一対の案内レール322,322に嵌合することにより,Y方向に移動可能に構成される。第2の滑動ブロック33をY方向に移動させるための移動手段38は,上述した移動手段37と同様に,雄ねじロッド381と,雄ねじロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を備えている。そして,パルスモータ382によって雄ねじロッド381を正転および逆転駆動することにより,第2の滑動ブロック33を案内レール322,322に沿ってY方向に移動させることができる。
【0030】
レーザ光照射ユニット支持機構4は,静止基台2上に割り出し送り方向(Y方向)に沿って平行に配設された一対の案内レール41,41と,案内レール41,41上にY方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は,案内レール41,41上に移動可能に配設された可動支持部421と,移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなる。装着部422は,一側面にZ方向に延びる一対の案内レール423,423が平行に設けられている。
【0031】
このレーザ光照射ユニット支持機構4は,可動支持基台42を一対の案内レール41,41に沿ってY方向に移動させるための移動手段43を具備している。移動手段43は,上述した移動手段37と同様に,一対の案内レール41,41の間に平行に配設された雄ねじロッド431と,雄ねじロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を備えている。そして,パルスモータ432によって雄ねじロッド431を正転および逆転駆動することにより,可動支持基台42を案内レール41,41に沿って,Y方向に移動させることができる。
【0032】
レーザ光照射ユニット5は,ユニットホルダ51と,ユニットホルダ51に取り付けられたレーザ光照射手段52と,移動手段53と,を有して構成される。
【0033】
ユニットホルダ51は,例えば,装着部422に設けられた一対の案内レール423,423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511,511が設けられている。この被案内溝511,511を案内レール423,423に嵌合することにより,Z方向に移動可能に支持される。
【0034】
レーザ光照射手段52は,例えば,ユニットホルダ51に固定され,略水平に延出する略円筒形状のケーシング521と,このケーシング521内に配設されたレーザ光発振装置522およびレーザ光変調装置523と,レーザ加工ヘッド100とを備える。レーザ光発振装置522は,例えば,YAGレーザ発振器などで構成されており,例えば,Nd:YAGレーザ光を発振することができる。レーザ光発振手段522が発振したレーザ光は,レーザ光変調装置523を介してレーザ加工ヘッド100に導かれる。また,レーザ光変調装置523は,例えば,繰り返し周波数設定部,レーザ光パルス幅設定部およびレーザ光波長設定部(いずれも図示せず。)などを備えており,レーザ光発振装置522が発振したレーザ光を変調することができる。そして,レーザ加工ヘッド100は,例えば,レーザ光発振装置522およびレーザ光変調装置523から発振されたパルスレーザ光(以下,‘レーザ光’という。)を集光し,被加工物に向けて出射することができる。
【0035】
移動手段53は,ユニットホルダ51を一対の案内レール423,423に沿ってZ方向に移動させることができる。この移動手段53は,上述した移動手段37と同様に,一対の案内レール423,423の間に配設された雄ねじロッド(図示せず。)と,雄ねじロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでいる。そして,パルスモータ532によって雄ねじロッド(図示せず。)を正転および逆転駆動することにより,ユニットホルダ51およびレーザビーム照射手段52を案内レール423,423に沿ってZ方向に移動させることができる。
【0036】
撮像手段6は,例えば,レーザ光照射手段52を構成するケーシング521の前端部に配設されている。この撮像手段6は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,この赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕える光学系と,この光学系によって捕えられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)と(いずれも図示せず。)を含んで構成される。この撮像手段6によって撮像された画像信号は,例えば,制御手段(図示せず。)に出力され,モニタ上に表示処理等される。
【0037】
以上,レーザ加工装置1の全体構成について説明した。かかるレーザ加工装置1を用いて,例えば半導体ウェハ90を切削すると,図2に示すように,切削溝92が形成され,切削溝92の縁部には,加工熱による溶融物であるデブリ91が堆積してしまう。このデブリ91の堆積によって,分割されたチップには,切削溝92側に引っ張られるような熱応力が発生してしまい,切削溝92付近でチップの抗折強度が低下する。さらに,切削溝92の縁部がレーザプラズマにより高温の状態にさらされることによって,チップの抗折強度をさらに低下させてしまう。
【0038】
そこで,図3に基づいて,半導体ウェハ90をレーザアブレーションによってチップ状に分割したときの,チップの抗折強度を改善する方法を以下に説明する。ここで,図3は,本実施形態にかかるレーザ加工方法を施した半導体ウェハ90の断面図である。
【0039】
本実施形態にかかるレーザ加工方法では,例えばレーザアブレーションにより,半導体ウェハ90の表面90aにおいて,切削溝92の両側に,極浅い溝である補助溝93を形成する。これにより,切削溝92の縁部を起因とする表面付近の横に引っ張る熱応力を断絶する。
【0040】
補助溝93は,例えば,レーザアブレーションにより半導体ウェハ90に切削溝92を形成した後,例えば切削に使用したレーザアブレーションを用いて,半導体ウェハ90の表面90aにおいて,切削溝92の両側に形成される。このとき,補助溝93は,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,0.1μm以上20μm以下の深さに形成される。
【0041】
これは,切削溝92の縁部からの距離tが5μm以下であると,縁部に近すぎて,熱応力を十分に断絶できないので,チップの抗折強度は十分な抗折強度があるといえる程向上しない。一方,切削溝92の縁部からの距離tが25μm以上になると,縁部から遠くなり過ぎて,熱応力を断絶できなくなるため,チップの抗折強度はあまり向上せず,さらに,半導体ウェハ90の切断予定ラインであるストリートからチップ領域に進入してしまう恐れがある。したがって,補助溝93は,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置である,Aの範囲内に形成するものとする。
【0042】
また,補助溝93は,熱応力を切断するために,少なくとも0.1μm以上の深さが必要である。一方,補助溝93の深さdが20μm以上になると,これ以上深く形成しても熱応力を断絶させる効果に変化はなく,その意味を失ってしまう。さらに,例えば,レーザアブレーションにより補助溝93を形成した場合には,補助溝93の縁部にデブリが堆積してしまい,熱応力を生じさせることになり,チップの抗折強度を低下させてしまう。しがたって,補助溝93の深さdは,0.1μm以上20μm以下であるとする。
【0043】
以上,第1の実施形態にかかるレーザ加工方法について説明した。かかるレーザ加工方法では,半導体ウェハ90に形成された切断溝92の両側に,補助溝93を形成する。このとき,補助溝93を,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,0.1μm以上20μm以下の深さに形成する。これにより,切削溝92の縁部を起因とする表面付近の横に引っ張る熱応力が断絶され,チップの抗折強度を向上させることができる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に,図4および図5に基づいて,第2の実施形態にかかるレーザ加工方法について説明する。ここで,図4は,本実施形態にかかるレーザ加工ヘッド100を示す側面図である。また,図5は,本実施形態にかかるレーザ加工方法を説明するための説明図であり,紙面手前方向をレーザ加工ヘッド100の進行方向とする。なお,本実施形態にかかるレーザ加工装置は,上記第1の実施形態にかかるレーザ加工装置1と比して,エッチング液供給手段103を有する点で相違するのみであり,その他の機能構成は,上記第1の実施形態の場合と略同一であるので,その説明は省略する。また,図5において,エッチング液供給手段103の記載は省略する。
【0045】
第2の実施形態にかかるレーザ加工方法は,レーザアブレーションによって半導体ウェハ90に形成された切削溝92の内部にエッチング液94を供給した後,切削溝92に滞留したエッチング液94に対してレーザ光を照射するものである。そのため,本実施形態にかかるレーザ加工装置は,切削溝92にエッチング液94を供給するためのエッチング液供給手段103を備える。
【0046】
エッチング液供給手段103は,例えば,エッチング液94を詰めたカートリッジ(図示せず。)を有して構成される。エッチング液供給手段103は,例えば,図4に示すように,半導体ウェハ90の切削に使用するレーザ加工ヘッド100の進行方向(図4の矢印方向)に対して前方に設けられ,エッチング液94を切削溝92の内部に点滴する。こうして,図5に示すように,エッチング液94を切削溝92に供給し,滞留させる。
【0047】
かかるレーザ加工方法では,まず,レーザ加工ヘッド100を,レーザ光を照射しながら半導体ウェハ90の切削ライン上を移動させて,切削溝92を形成する。次いで,チップの抗折強度を向上させるために,レーザ加工ヘッド100を,同じ切削ライン上を再度移動させる。このとき,エッチング液供給手段103によって切削溝92の内部にエッチング液94を供給しながら,レーザ加工ヘッド100によって切削溝92に滞留したエッチング液94に対してレーザ光101を照射する。これにより,エッチング液94が加熱されて化学反応が促進し,切削溝92の縁部に固着したデブリ91が除去されるとともに,切削溝92の内部の面もなめらかにされるため,チップの抗折強度を著しく向上させることができる。
【0048】
ここで,エッチング液94としては,例えば,水酸化カリウム(KOH),テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH),エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP),フッ酸(HF)等を使用することができる。
【0049】
また,切削溝92に滞留したエッチング液94に対して照射されるレーザ光101は,エッチング液94を加熱してエッチング液94の化学反応を促進するために照射するものであり,この出力は,アブレーション反応を起こさない程度とするのがよい。エッチング液94は液体であるので,通常使用するレーザの照射エネルギーではアブレーション反応は起きない。しかし,照射エネルギーを著しく大きくすると,レーザによる熱が半導体ウェハ90に伝達し,アブレーション反応を起こす可能性がある。この場合,切削溝92の縁部に損傷を与えてしまうため,逆効果となることもある。なお,エッチング液94の種類によってはガスが発生する場合があるので,この場合は排気装置が必要となる。
【0050】
以上,第2の実施形態について説明した。かかるレーザ加工方法では,半導体ウェハ90に形成された切削溝92の内部にエッチング液94を供給した後,切削溝92に滞留したエッチング液94に対してレーザ光を照射する。これにより,切削溝92の縁部に堆積したデブリ91が除去されるとともに,切削溝92の内部もなめらかにされるため,チップの抗折強度を著しく向上させることができる。
【0051】
(第3の実施形態)
次に,図6および図7に基づいて,第3の実施形態にかかるレーザ加工方法について説明する。ここで,図6は,本実施形態にかかるレーザ加工ヘッド100を示す側面図である。また,図7は,本実施形態にかかるレーザ加工方法を説明するための説明図であり,紙面手前方向をレーザ加工ヘッド100の進行方向とする。なお,本実施形態にかかるレーザ加工装置は,上記第1の実施形態にかかるレーザ加工装置1と比して,アシストガス供給手段を有する点で相違するのみであり,その他の機能構成は,上記第1の実施形態の場合と略同一であるので,その説明は省略する。また,図7において,アシストガス供給管105の記載は省略する。
【0052】
第3の実施形態にかかるレーザ加工方法は,レーザアブレーションによって半導体ウェハ90に形成された切削溝92の内部にアシストガス95を供給した後,切削溝92に滞留したアシストガス95に対してレーザ光を照射するものである。そのため,本実施形態にかかるレーザ加工装置は,切削溝92にアシストガス95を供給するためのアシストガス供給手段(図示せず。)を備える。
【0053】
アシストガス供給手段(図示せず。)は,例えば,アシストガスを収容するアシストガスボンベ装置(図示せず。)と,アシストガスボンベ装置内のガスを所定の供給圧力で送出する送出装置(図示せず。)とを備える。そして,アシストガス供給手段より供給されるアシストガス95を,アシストガス供給管105を介して切削溝92に供給する。アシストガス供給管105は,例えば,図6に示すように,半導体ウェハ90を切削する際に使用するレーザ加工ヘッド100の進行方向(図6の矢印方向)前方に設けられる。
【0054】
かかるレーザ加工方法では,第2の実施形態にかかるレーザ加工方法と同様に,まず,レーザ加工ヘッド100を,レーザ光を照射しながら半導体ウェハ90の切削ライン上を移動させて,切削溝92を形成する。次いで,レーザ加工ヘッド100を,同じ切削ライン上を再度移動させる。このとき,形成された切削溝92の内部にアシストガス供給管105を介してアシストガス95を供給しながら,切削溝92の内面に対してレーザ加工ヘッド100からレーザ光101を照射する。これにより,切削溝92の内面を加熱させることによって,アシストガス95が加熱されて化学反応が促進する。この結果,切削溝92の縁部に固着したデブリ91が除去されるとともに,切削溝92の内部の面もなめらかになるため,チップの抗折強度が著しく向上する。
【0055】
ここで,アシストガス95としては,例えば,六フッ化水素(SF),四塩化炭素(CCl),フッ素(F),アルゴン(Ar),ヘリウム(He)等を使用することができる。
【0056】
また,第2の実施形態と同様に,切削溝92の内面に対して照射されるレーザ光101は,アブレーション反応を起こさない程度の出力とするのがよい。照射エネルギーを著しく大きくしてしまうと,レーザによる熱が半導体ウェハ90に伝達し,アブレーション反応を起こす可能性がある。この場合,切削溝92の縁部に損傷を与えてしまうため,逆効果となることもある。
【0057】
以上,第3の実施形態について説明した。かかるレーザ加工方法では,半導体ウェハ90に形成された切削溝92の内部にアシストガス95を滞留させた後,切削溝92の内面に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力でレーザ光を照射させる。これにより,切削溝92の内面が加熱されることにより,滞留したアシストガス95が加熱されて化学反応が促進する。この結果,切削溝92の縁部に堆積したデブリ91が除去されるとともに,切削溝92の内部もなめらかにすることができるため,チップの抗折強度が著しく向上する。
【0058】
次に,上述した第1〜第3の実施形態にかかるレーザ加工方法による効果を検証するため,実施例1〜4に示す各レーザ加工方法により加工されたチップの抗折強度を調べた。以下に,実施例1〜4について説明する。
【0059】
(実施例1)
実施例1では,第1の実施形態にかかるレーザ加工方法による効果について検証した。本実施例では,まず,レーザアブレーションにより,厚さ50μmのシリコンウェハを切削した。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を3.5W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで,幅約10μm,深さ50μmの切削溝92を形成した。
【0060】
次いで,チップの抗折強度を向上させるため,形成した切削溝92の両側に補助溝93を形成した。ここで,補助溝93の深さとチップの抗折強度との関係,および補助溝93を形成する位置とチップの抗折強度との関係について,各々検証した。
【0061】
まず,補助溝93の深さとチップの抗折強度との関係について検証した。ここで,補助溝93は,レーザ光の波長を355nm(三倍波),繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面10aにおいてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで移動させて形成した。また,レーザ光の照射位置は,切削溝92の縁部から外側に15μm離隔した位置に固定した。そして,レーザ光の出力を0.67〜1.73Wと変化させることにより,補助溝93の深さを0〜30μmの範囲に変化させて,チップの抗折強度を測定した。この結果を,図8に示す。ここで,図8は,補助溝93の深さとチップの抗折強度との関係を示したグラフである。
【0062】
図8のグラフより,補助溝93を極浅く(例えば,約0.1μm)形成しただけでも,補助溝93を形成する前と比べて,チップの抗折強度は向上した。そして,補助溝93の深さdを約15μmとしたとき,チップの抗折強度は最大となった。さらに補助溝93を深く形成すると,チップの抗折強度は低下し始め,20μm以上の深さに形成した場合には,十分な抗折強度まで向上させるほどの効果は得られなかった。これは,通常のアブレーション反応による熱の影響と同様の熱応力が加工域に加わってしまったためと考える。
【0063】
本願発明者らは,切削溝92を形成したときのチップの抗折強度が約167MPaであったことを考慮して,チップの抗折強度は少なくとも190MPa以上であることが必要と考えた。したがって,上記結果より,補助溝93は,0.1μm以上20μm以下の深さに形成することによって,その抗折強度が得られることがわかる。
【0064】
次に,補助溝93を形成する位置とチップの抗折強度との関係について検証した。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を0.94W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで移動させた。また,補助溝93の深さを,15μmに固定した。そして,レーザ光の照射位置を,切削溝92の縁部から外側に0〜30μmで変化させたときの,チップの抗折強度を測定した。この結果を,図9に示す。ここで,図9は,補助溝93を形成する位置とチップの抗折強度との関係を示したグラフである。
【0065】
図9のグラフより,補助溝93を形成する位置を切削溝92の縁部から離隔させるにつれ,チップの抗折強度は向上した。そして,約15μm離れた位置に補助溝93を形成したときに,チップの抗折強度は最大となった。さらに,補助溝93を形成する位置を切削溝92の縁部から離隔させると,抗折強度は低下し始め,30μm以上離れたときには,十分な抗折強度まで向上させるほどの効果は得られなかった。
【0066】
本願発明者らは,上記と同様に,切削溝92を形成したときのチップの抗折強度が約167MPaであったことを考慮して,チップの抗折強度は少なくとも190MPa以上であることが必要と考えた。したがって,この結果より,補助溝93は,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に形成されることが必要であることがわかった。
【0067】
以上より,切削溝92の両側に,切削溝92の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,0.1μm以上20μm以下の深さに形成することにより,チップの抗折強度を,十分な効果があると考えられる190MPa以上にすることができる。なお,この補助溝93の深さの範囲は,切削溝92の幅や深さを変化させた場合でも,同様の結果となった。
【0068】
(実施例2)
次に,実施例2では,第2の実施形態にかかるレーザ加工方法による効果について検証した。本実施例では,まず,レーザアブレーションにより,厚さ50μmのシリコンウェハを切削した。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を3.5W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで,幅約10μm,深さ50μmの切削溝92を形成した。
【0069】
次いで,抗折強度を向上させるため,エッチング液供給手段103によって切削溝92に20plの水酸化カリウム溶液を供給しながら,レーザ光を照射し,レーザエッチング処理を行った。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を1W,繰り返し周波数を10kHz,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度を80mm/sとし,アブレーション反応を起こさないように加工を行った。
【0070】
表1に,切削溝92を形成した後に計測したチップの抗折強度(エッチング処理前)と,エッチング処理を行った後に計測したチップの抗折強度(エッチング処理後)とを示す。この値は,加工条件を同一として同じ実験を10回繰り返したときの値である。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように,エッチング処理後のチップの抗折強度は,エッチング処置前と比較して,最大値および平均値が約2倍の大きさに向上している。また,エッチング処理後のチップの抗折強度は,平均して約332MPaであり,最小でも約231MPaであることから,エッチング処理を行うことによって十分な抗折強度が得られたといえる。
【0073】
(実施例3)
さらに,実施例3では,第3の実施形態にかかるレーザ加工方法による効果について検証した。本実施例では,まず,レーザアブレーションにより,厚さ50μmのシリコンウェハを切削した。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を3.5W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで,幅約10μm,深さ50μmの切削溝92を形成した。
【0074】
次いで,抗折強度を向上させるため,アシストガス供給手段によって切削溝93に2リットル/minの六フッ化水素(SF)供給しながら,レーザ光を照射し,レーザエッチング処理を行った。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を1W,繰り返し周波数を10kHz,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度を80mm/sとし,アブレーション反応を起こさないように加工を行った。
【0075】
表2に,切削溝92を形成した後に計測したチップの抗折強度(エッチング処理前)と,エッチング処理を行った後に計測したチップの抗折強度(エッチング処理後)とを示す。この値は,加工条件を同一として同じ実験を10回繰り返したときの値である。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように,エッチング処理後のチップの抗折強度は,エッチング処置前と比較して,最大値および平均値が1.5倍以上となっており,チップの抗折強度を向上させることがわかる。ここで,エッチング処理後のチップの抗折強度の平均値は約156MPaであり,実施例2と比べて効果が小さい。これは,アシストガス95が気体であるため,液体と比べて化学的反応による効果が小さいために,エッチング液94を使用した場合よりも,効果が小さいものと考える。しかし,アシストガス95を使用する場合には,レーザ加工装置に大規模な装置を追加しなくてもよいという利点がある。
【0078】
(実施例4)
上述した第1〜第3の実施形態にかかるレーザ加工方法において,第1の実施形態にかかるレーザ加工方法と第2の実施形態にかかるレーザ加工方法とは併用することが可能である。一方,第1の実施形態にかかるレーザ加工方法と第3の実施形態にかかるレーザ加工方法とを併用することも可能である。また,実施例1〜3の結果より,実施例2に示したレーザ加工方法が最も高い効果が得られることから,第1の実施形態にかかるレーザ加工方法と第2の実施形態にかかるレーザ加工方法とを併用した場合に最も高い効果が得られると考え,実施例4では,この方法による効果について検証した。
【0079】
かかる方法では,まず,レーザアブレーションにより,厚さ50μmのシリコンウェハを切削した。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を3.5W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度80mm/sで,幅約10μm,深さ50μmの切削溝92を形成した。
【0080】
次いで,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を0.94W,繰り返し周波数を10kHzとして,シリコンウェハの表面においてアブレーション反応を起こしながら,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度を80mm/sとして,切削溝92の両側に,補助溝93を形成した。ここで,補助溝93は,切削溝92の縁部から外側に約15μm離隔した位置に,約15μmの深さに形成した。
【0081】
さらに,実施例2と同様に,エッチング液供給手段103によって切削溝92に20plの水酸化カリウム溶液を供給しながら,レーザ光を照射し,レーザエッチング処理を行った。このとき,レーザ光の波長を355nm(三倍波),出力を1W,繰り返し周波数を10kHz,レーザ加工ヘッド100とシリコンウェハとの相対速度を80mm/sとして,レーザエッチング処理を行った。
【0082】
ここで,図10に,切削溝92形成後(未処理)のチップの抗折強度,エッチング液94によるレーザエッチング処理のみを行ったチップの抗折強度,補助溝93が形成されたチップの抗折強度,そして,補助溝93の形成とエッチング液94によるレーザエッチング処理とを行ったチップの抗折強度を示す。なお,図10のグラフに示す各抗折強度の値は,加工条件を同一として同じ実験を10回繰り返したときの平均値である。
【0083】
図10に示すように,切削溝92を形成した後,未処理のチップの平均抗折強度は,約167MPaであった。また,エッチング液94によるレーザエッチング処理のみを行ったチップの平均抗折強度は,約332MPaであった。さらに,補助溝93を形成したときのチップの平均抗折強度は,約245MPaであった。また,補助溝93の形成とエッチング液94によるレーザエッチング処理とを行ったチップの平均抗折強度は,約431MPaであった。
【0084】
上記結果より,補助溝93の形成とエッチング液94によるレーザエッチング処理とを行ったチップの平均抗折強度は,未処理のチップの平均抗折強度と比較して,約2.6倍となっており,他の処理を施したものと比較して最も高くなっていた。このとき,補助溝93の形成とエッチング液94によるレーザエッチング処理とを併用することによる相乗効果はないものの,それぞれの効果が積み上げられた程度の結果を示しており,図10に示した4つの結果の中で最も効果が高いことがわかる。
【0085】
以上,実施例1〜4について説明した。これらの結果より,第1〜第3の実施形態にかかるレーザ加工方法により,切削溝92を形成した際に低下してしまったチップの抗折強度を,十分な大きさにまで向上できることが示された。また,各実施形態にかかるレーザ加工方法を単独で行う場合には,エッチング液94を利用したレーザエッチング処理方法により効果が最も高く,さらに,各方法を併用することにより,さらにチップの抗折強度を向上できることが示された。
【0086】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0087】
例えば,第1の実施形態において,補助溝93の形成は,レーザアブレーションによって行ったが,本発明はかかる例に限定されず,例えば,切削ブレードやエッチング処理によって行ってもよい。
【0088】
また,第2の実施形態において,エッチング液供給手段103は,エッチング液94を切削溝92内部に点滴するものであったが,例えば,溶液を霧状にしてノズルから供給するものであってもよい。
【0089】
さらに,上記実施形態において,レーザ加工装置1は,レーザ加工ヘッド100をひとつのみ備えていたが,例えば,2つのレーザ加工ヘッドを備え,第1のレーザ加工ヘッドを切削溝形成用,第2のレーザ加工ヘッドをチップの抗折強度を向上させるための加工用として使用することもできる。この場合,2つのレーザ加工ヘッドを,一定の間隔を置き,同期して移動できるように設置する。そして,進行方向前側に設置された第1のレーザ加工ヘッドにてストリートを切削した後,進行方向後側に設置された第2のレーザ加工ヘッドにより,切削溝92内部にレーザ光を照射する。第2のレーザ加工ヘッドには,例えばエッチング液供給手段103またはアシストガス供給手段などを備え,第2のレーザ加工ヘッドによるレーザ光照射前に,エッチング液94またはアシストガス95が切削溝92に供給することができるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は,レーザ加工方法に適用可能であり,特にレーザ光を照射することにより被加工物を切削するレーザ加工方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるレーザ加工装置を示す全体斜視図である。
【図2】切削溝形成後の半導体ウェハの断面図である。
【図3】同実施形態にかかるレーザ加工方法を施した半導体ウェハの断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態にかかるレーザ加工ヘッドを示す側面図である。
【図5】同実施形態にかかるレーザ加工方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態にかかるレーザ加工ヘッドを示す側面図である。
【図7】同実施形態にかかるレーザ加工方法を説明するための説明図である。
【図8】補助溝の深さとチップの抗折強度との関係を示したグラフである。
【図9】補助溝を形成する位置とチップの抗折強度との関係を示したグラフである。
【図10】レーザ加工方法の違いによるチップの平均抗折強度を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0092】
1 レーザ加工装置
90 半導体ウェハ
91 デブリ
92 切削溝
93 補助溝
94 エッチング液
95 アシストガス
103 エッチング液供給手段
105 アシストガス供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,前記加工点でアブレーション反応を起こさせることによって前記被加工物を切削し,前記加工点を移動させて前記被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において:
前記被加工物の表面において形成された前記切削溝の両側に,前記切削溝の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,深さが0.1μm以上20μm以下の補助溝を形成することを特徴とする,レーザ加工方法。
【請求項2】
被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,前記加工点でアブレーション反応を起こさせることによって前記被加工物を切削し,前記加工点を移動させて前記被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において:
前記切削溝の内部にエッチング液を供給し,前記切削溝に滞留した前記エッチング液に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光を照射して加熱することを特徴とする,レーザ加工方法。
【請求項3】
被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,前記加工点でアブレーション反応を起こさせることによって前記被加工物を切削し,前記加工点を移動させて前記被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において:
前記切削溝の内部にアシストガスを供給し,前記切削溝の内面に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光を照射して,前記切削溝の内面を加熱させることにより前記アシストガスを加熱することを特徴とする,レーザ加工方法。
【請求項4】
被加工物の加工点に向けてレーザ光を照射し,前記加工点でアブレーション反応を起こさせることによって前記被加工物を切削し,前記加工点を移動させて前記被加工物に切削溝を形成するレーザ加工方法において:
前記被加工物の表面において形成された前記切削溝の両側に,前記切削溝の縁部から外側に5μm以上25μm以下離隔した位置に,深さが0.1μm以上20μm以下の補助溝を形成し,
前記切削溝の内部にエッチング液を供給し,前記切削溝に滞留したエッチング液に対してアブレーション反応を起こさない程度の出力のレーザ光を照射して加熱することを特徴とする,レーザ加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−346716(P2006−346716A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177228(P2005−177228)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度,経済産業省,地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【出願人】(000173647)財団法人産業創造研究所 (17)
【Fターム(参考)】