説明

レーザ加工装置およびレーザ加工方法

【課題】並行して使用するレーザ光のスポットの形状や大きさを簡単に個別に調整する。
【解決手段】レーザ光λaは、レンズ120aにより結像位置P1aにおいて結像した後、レンズ121aによりコリメートされ、2波長性ミラー123に入射する。レーザ光λbは、レンズ120bにより結像位置P1bにおいて結像した後、レンズ121bによりコリメートされ、全反射ミラー122により反射され、2波長性ミラー123に入射する。そして、レーザ光λaおよびレーザ光λbは、2波長性ミラー123により光路が結合され、2波長性レンズ124により結像位置P2において結像する。本発明は、例えば、薄膜太陽電池パネルを加工するレーザ加工装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置およびレーザ加工方法に関し、特に、複数のレーザ光を並行して使用するレーザ加工装置およびレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長等が異なる2種類のレーザ光を所定の時間差で加工対象物に照射し、加工精度を向上させるようにしたレーザ加工装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−313858号公報
【特許文献2】特開2010−142829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような複数のレーザ光を並行して使用するレーザ加工装置においては、各レーザ光のスポットの形状や大きさを簡単に個別に調整できるようにすることが望まれている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載の発明では、各レーザ光のスポットの形状や大きさを個別に調整できるようにすることは考慮されていない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、並行して使用するレーザ光のスポットの形状や大きさを簡単に個別に調整できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面のレーザ加工装置は、第1のレーザ光および第2のレーザ光を少なくとも用いて加工対象物の加工を行うレーザ加工装置であって、第1のレーザ光が通過する第1の光路上の第1の結像位置において、第1のレーザ光を結像する第1のレンズと、第1の光路上の第1の結像位置より後で第1のレーザ光をコリメートする第2のレンズと、第2のレーザ光が通過する第2の光路上の第2の結像位置において、第2のレーザ光を結像する第3のレンズと、第2の光路上の第2の結像位置より後で第2のレーザ光をコリメートする第4のレンズと、第2のレンズおよび第4のレンズの後段において、第1のレーザ光と第2のレーザ光の光路を結合する結合手段と、結合手段と加工対象物の間に設けられ、第1のレーザ光および第2のレーザ光を結像する第5のレンズとを備える。
【0008】
本発明の第1の側面のレーザ加工装置においては、第1のレーザ光が第1の光路上の第1の結像位置において結像した後、コリメートされ、第2のレーザ光が第2の光路上の第2の結像位置において結像した後、コリメートされ、その後、第1のレーザ光と第2のレーザ光の光路が結合された後、第1のレーザ光および第2のレーザ光が結像する。
【0009】
従って、並行して使用するレーザ光のスポットの形状や大きさを簡単に個別に調整することができる。
【0010】
この結合手段は、例えば、2波長性ミラーにより構成される。
【0011】
このレーザ加工装置には、第1の結像位置付近に設けられる第1のスリットと、第2の結像位置付近に設けられる第2のスリットとをさらに設けることとができる。
【0012】
これにより、レーザ光のスポットのエッジが鮮明になり、その結果、加工品質が向上する。
【0013】
このレーザ加工装置には、第1のスリットおよび第2のスリットのうち少なくとも一方の光軸方向の位置を調整する調整手段をさらに設けることができる。
【0014】
これにより、並行して使用するレーザ光の光軸方向の結像位置を異なる位置に設定することができ、例えば、多層構造の加工対象物の加工品質が向上する。
【0015】
この調整手段は、例えば、アクチュエータ等を用いたシフト機構により構成される。
【0016】
第1のスリットおよび第2のスリットのうち少なくとも一方の開口部の形状を調整可能にすることができる。
【0017】
これにより、並行して使用するレーザ光による各スポットの形状を異なる形状に設定することができる。
【0018】
第1のレーザ光および第2のレーザ光の出射タイミングを個別に調整できるようにすることができる。
【0019】
これにより、多層構造の加工対象物に対して、各層に対する加工を並行して行いながら、簡単に各層の加工領域の幅や形状を個別に調整することができる。
【0020】
このレーザ加工装置には、第1のレーザ光および第2のレーザ光を伝送する光ファイバと、光ファイバから出射された第1のレーザ光および第2のレーザ光をコリメートする第6のレンズと、第6のレンズの後段において、第1のレーザ光と第2のレーザ光の光路を第1の光路と第2の光路に分離する分離手段とをさらに設けることができる。
【0021】
これにより、レーザ光の断面の強度を均一化することができ、その結果、加工品質が向上する。
【0022】
この分離手段は、例えば、2波長性ミラーにより構成される。
【0023】
光ファイバの出射端面の形状を角形にすることができる。
【0024】
これにより、例えば、スリットによるレーザ光の損失を軽減することができる。
【0025】
本発明の第2の側面のレーザ加工方法は、少なくとも第1のレーザ光および第2のレーザ光を用いて加工対象物の加工を行うレーザ加工方法において、前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光を時間差をつけて発生させ、前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光をそれぞれ異なる形状で加工対象物の表面に結像させ、前記結像させた場所と次に結合させる場所が一部重なるように、結像位置を移動させ、もしくは加工対象物の相対的な位置を移動させ、連続的に対象物の表面を加工する。
【0026】
本発明の第2の側面においては、第1のレーザ光と前記第2のレーザ光が時間差をつけて発生され、前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光がそれぞれ異なる形状で加工対象物の表面に結像され、前記結像させた場所と次に結合させる場所が一部重なるように、結像位置が移動され、もしくは加工対象物の相対的な位置が移動され、連続的に対象物の表面が加工される。
【0027】
従って、簡単に異なる形状の加工を並行して行なうことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1の側面によれば、並行して使用するレーザ光のスポットの形状や大きさを簡単に個別に調整することができる。
【0029】
また、本発明の第2の側面によれば、簡単に異なる形状の加工を並行して行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用したレーザ加工装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明を適用したレーザ加工装置の第2の実施の形態を示す図である。
【図3】本発明を適用したレーザ加工装置の第3の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明を適用したレーザ加工装置の第4の実施の形態を示す図である。
【図5】薄膜太陽電池パネルのパターニング工程における膜面加工について説明するための図である。
【図6】出射信号の入力タイミングとレーザスポットの照射タイミングの例を示すグラフである。
【図7】本発明を適用したレーザ加工装置の第5の実施の形態を示す図である。
【図8】3種類の波長のレーザ光を用いて薄膜太陽電池パネルを加工する例を説明するための図である。
【図9】3種類の波長のレーザ光を用いて薄膜太陽電池パネルを加工する例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(基本形)
2.第2の実施の形態(XYスリット機構を用いた例)
3.第3の実施の形態(XYスリット機構の開口部の形状の変形例)
4.第4の実施の形態(各レーザ光の出射タイミングに時間差を設ける例)
5.第5の実施の形態(レーザ光の光軸方向の結像位置を調整可能にする例)
6.変形例
【0032】
<1.第1の実施の形態>
[レーザ加工装置の構成例]
図1は、本発明を適用したレーザ加工装置の第1の実施の形態を示す図である。
【0033】
なお、以下、レーザ光の進行方向をz軸方向とし、z軸方向に垂直で、かつ互いに直交する所定の方向を、それぞれx軸方向およびy軸方向とする。
【0034】
レーザ加工装置101は、レーザ発振器111a,111b、ビームエキスパンダ112a,112b、全反射ミラー113、ビームスプリッタ114、2波長性(Dichroic)ファイバ結合レンズ115、光ファイバ116、2波長性(Dichroic)結像加工光学系レンズ117、2波長性(Dichroic)ミラー118、全反射ミラー119、結像加工光学系レンズ120a,120b,121a,121b、全反射ミラー122、2波長性(Dichroic)ミラー123、および、2波長性(Dichroic)結合加工光学系レンズ124を含むように構成される。
【0035】
なお、2波長性結像加工光学系レンズ117,124は、それぞれ1枚の凸レンズとして図示されているが、複数の凸レンズや凹レンズの組み合わせにより構成される場合がある。同様に、結像加工光学系レンズ120a,120b,121a,121bも、それぞれ1枚の凸レンズとして図示されているが、複数の凸レンズや凹レンズの組み合わせにより構成される場合がある。
【0036】
なお、以下、2波長性結像加工光学系レンズ117,124を、単に2波長性レンズ117,124と称し、結像加工光学系レンズ120a,120b,121a,121bを、単にレンズ120a,120b,121a,121bと称する。
【0037】
レーザ発振器111aは、例えば、Nd:YAGレーザにより構成され、図示せぬ制御装置から入力されるパルス状の出射信号Sに同期して、所定の波長λaのパルス状のレーザ光(以下、レーザ光λaと称する)を発振し、出射する。レーザ発振器111aから出射されたレーザ光λaは、ビームエキスパンダ112aによりビーム径が拡大されて、ビームスプリッタ114に入射する。
【0038】
レーザ発振器111bは、例えば、Nd:YAGレーザにより構成され、図示せぬ制御装置から入力される出射信号Sに同期して、所定の波長λbのパルス状のレーザ光(以下、レーザ光λbと称する)を発振し、出射する。レーザ発振器111bから出射されたレーザ光λbは、ビームエキスパンダ112bによりビーム径が拡大された後、全反射ミラー113により反射され、ビームスプリッタ114に入射する。
【0039】
なお、以下、波長λaが、Nd:YAGレーザの基本波の波長である1064nmに設定され、波長λbが、Nd:YAGレーザの第2高調波(SHG)の波長である532nmに設定されている場合について説明する。
【0040】
ビームスプリッタ114は、波長λaの光を透過し、波長λbの光を反射する特性を有している。従って、レーザ光λaがビームスプリッタ114を透過し、レーザ光λbがビームスプリッタ114により反射されることにより、レーザ光λaとレーザ光λbの光路が結合する。そして、レーザ光λaおよびレーザ光λbは、2波長性ファイバ結合レンズ115により集光されて、光ファイバ116に入射し、伝送される。
【0041】
光ファイバ116の出射端面116Aの断面は正方形になっており、光ファイバ116から出射されるレーザ光λa,λbの断面B1は、幅(一辺の長さ)d1の正方形となる。また、レーザ光λa,λbの断面B1の強度がほぼ均一化される。そして、光ファイバ116から出射されたレーザ光λa,λbは、2波長性レンズ117によりコリメートされ、2波長性ミラー118に入射する。
【0042】
2波長性ミラー118は、波長λaの光を透過し、波長λbの光を反射する特性を有している。従って、レーザ光λaが2波長性ミラー118を透過し、レーザ光λbが2波長性ミラー118により反射されることにより、レーザ光λaとレーザ光λbの光路が分離される。
【0043】
2波長性ミラー118を透過したレーザ光λaは、レンズ120aにより結像位置P1aにおいて結像する。結像位置P1aにおけるレーザ光λaの像B2a(レンズ120aにより形成される光ファイバ116の出射端面116Aの像B2a)の幅d2aは、次式(1)により求められる。
【0044】
d2a=d1×(f2a/f1) ・・・(1)
【0045】
なお、f1は2波長性レンズ117の焦点距離を表し、f2aはレンズ120aの焦点距離を表している。
【0046】
その後、レーザ光λaは、結像位置P1aより後で、レンズ121aによりコリメートされ、2波長性ミラー123に入射する。
【0047】
一方、2波長性ミラー118により反射されたレーザ光λbは、さらに全反射ミラー119により反射された後、レンズ120bにより結像位置P1bにおいて結像する。結像位置P1bにおけるレーザ光λbの像B2b(レンズ120bにより形成される光ファイバ116の出射端面116Aの像B2b)の幅d2bは、次式(2)により求められる。
【0048】
d2b=d1×(f2b/f1) ・・・(2)
【0049】
なお、f2bは、レンズ120bの焦点距離を表している。
【0050】
その後、レーザ光λbは、結像位置P1bより後で、レンズ121bによりコリメートされ、全反射ミラー122により反射され、2波長性ミラー123に入射する。
【0051】
2波長性ミラー123は、波長λaの光を透過し、波長λbの光を反射する特性を有している。従って、レーザ光λaが2波長性ミラー123を透過し、レーザ光λbが2波長性ミラー123により反射されることにより、レーザ光λaとレーザ光λbの光路が結合する。
【0052】
その後、レーザ光λaおよびレーザ光λbは、2波長性レンズ124により結像位置P2において結像する。そして、加工対象物の加工面が結像位置P2付近に設置されることにより、結像位置P2付近におけるレーザ光λaの像B3a(以下、レーザスポットB3aと称する)、および、レーザ光λbの像B3b(以下、レーザスポットB3bと称する)により加工対象物の加工が行われる。
【0053】
なお、結像位置P2におけるレーザスポットB3aの幅d3a、および、レーザスポットB3bの幅d3bは、それぞれ次式(3)および(4)により求められる。
【0054】
d3a=d2a×(f4/f3a)
=d1×(f2a・f4/f1・f3a) ・・・(3)
d3b=d2b×(f4/f3b)
=d1×(f2b・f4/f1・f3b) ・・・(4)
【0055】
なお、f3aはレンズ121aの焦点距離を表し、f3bはレンズ121bの焦点距離を表し、f4は2波長性レンズ124の焦点距離を表している。
【0056】
式(3)および式(4)より、レーザスポットB3aの幅d3aは、レンズ120aの焦点距離f2aに比例し、レーザスポットB3aの幅d3bは、レンズ120bの焦点距離f2bに比例する。従って、レーザ加工装置101では、レンズ120aやレンズ120bを交換することにより、レーザスポットB3aおよびレーザスポットB3bの大きさを、それぞれ個別に簡単に調整することができる。
【0057】
<2.第2の実施の形態>
[レーザ加工装置の構成例]
図2は、本発明を適用したレーザ加工装置の第2の実施の形態を示す図である。なお、図中、図1と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0058】
図2のレーザ加工装置201は、図1のレーザ加工装置101に、XYスリット機構211a,211bを追加したものである。
【0059】
XYスリット機構211aは、開口部Oaがレーザ光λaの結像位置P1aとほぼ一致するように設置される。また、XYスリット機構211aは、矩形の開口部Oaの縦横の幅を個別に調整することができ、レンズ120aにより結像されたレーザ光λaの断面を開口部Oaの形状に整形して、レンズ121aに入射させる。
【0060】
XYスリット機構211bは、開口部Obがレーザ光λbの結像位置P1bとほぼ一致するように設置される。また、XYスリット機構211bは、矩形の開口部Obの縦横の幅を個別に調整することができ、レンズ120bにより結像されたレーザ光λbの断面を開口部Obの形状に整形して、レンズ121bに入射させる。
【0061】
これにより、レーザスポットB3aおよびレーザスポットB3bのエッジが鮮明になり、加工エッジがシャープになる。その結果、加工精度を向上させることができる。
【0062】
また、XYスリット機構211aの開口部Oaの形状を調整することにより、レンズ120aを交換することなく、レーザスポットB3aの形状および大きさを簡単に調整することができる。同様に、XYスリット機構211bの開口部Obの形状を調整することにより、レンズ120bを交換することなく、レーザスポットB3bの形状および大きさを簡単に調整することができる。
【0063】
<3.第3の実施の形態>
[レーザ加工装置の構成例]
図3は、本発明を適用したレーザ加工装置の第3の実施の形態を示す図である。なお、図中、図2と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0064】
図3のレーザ加工装置301は、図2のレーザ加工装置201のXYスリット機構211bをXYスリット機構211b’に置き換えたものである。
【0065】
XYスリット機構211b’は、円形の開口部Ob’を有しており、レンズ120aにより結像されたレーザ光λaの断面を開口部Ob’の形状に整形して、レンズ121aに入射させる。その結果、加工結像位置P2におけるレーザ光λbによるレーザスポットB3bは半径d3b’の円形となる。また、XYスリット機構211b’は、開口部Ob’の半径を調整することができ、これによりレーザスポットB3b’の半径d3b’を調整することが可能である。
【0066】
このように、レーザスポットB3aとレーザスポットB3bを簡単に異なる形状に設定することができる。従って、加工用途や加工形状に応じて、異なる形状のレーザスポットを使い分けることにより、所望の加工をより迅速かつ正確に行うことが可能になる。
【0067】
<4.第4の実施の形態>
[レーザ加工装置の構成例]
図4は、本発明を適用したレーザ加工装置の第4の実施の形態を示す図である。なお、図中、図2と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0068】
図4のレーザ加工装置401は、図2のレーザ加工装置201において、レーザ発振器111a,111bに個別に出射信号を入力するようにしたものである。すなわち、レーザ発振器111aは、図示せぬ制御装置から入力されるパルス状の出射信号Saに同期して、パルス状のレーザ光λaを出射し、レーザ発振器111bは、図示せぬ制御装置から入力されるパルス状の出射信号Sbに同期して、パルス状のレーザ光λaを出射する。これにより、レーザ光λaおよびレーザ光λbの出射タイミングを個別に調整し、レーザスポットB3aおよびレーザスポットB3bが加工対象物に照射されるタイミングを個別に調整することができる。
【0069】
[レーザ加工の具体例]
ここで、図5および図6を参照して、レーザ加工装置401を用いたレーザ加工の具体例として、図5の薄膜太陽電池パネル451に対して、パターニング工程における膜面加工を行う場合について説明する。
【0070】
この場合、XYスリット機構211aの開口部Oaは、いずれか一方の辺が幅d2aより短くなるように設定される。従って、レーザスポットB3aの形状は、長辺と短辺を有する矩形となる。なお、以下、このときのレーザスポットB3aの短辺の長さをd3a’とする。
【0071】
なお、図5の左側の図は、薄膜太陽電池パネル451の加工面にレーザスポットB3a,B3bが照射される位置を模式的に示している。具体的には、点線の矩形で示される領域がレーザスポットB3aの照射位置を示し、実線の正方形で示される領域がレーザスポットB3bの照射位置を示している。また、矢印A1は、レーザスポットB3a,B3bの走査方向を示している。
【0072】
図5の右側の図は、薄膜太陽電池パネル451の層構造の断面を模式的に示している。薄膜太陽電池パネル451は、a−Si膜451A、TCO膜451B、ガラス基板451Cの3層により構成されている。なお、レーザ光λaおよびレーザ光λbは、例えば、ガラス基板451Cの方向から照射されるものとする。
【0073】
また、図6の上のグラフは、出射信号Saおよび出射信号Sbがレーザ発振器111aおよびレーザ発振器111bにそれぞれ入力されるタイミングを示している。図6の下のグラフは、レーザスポットB3aおよびレーザスポットB3bが加工結像位置P2に照射されるタイミングを示している。
【0074】
図6の上のグラフに示されるように、出射信号Sbがレーザ発振器111bに入力されてから所定の時間ΔTの経過後、出射信号Saがレーザ発振器111aに入力される。これに伴い、図6の下のグラフに示されるように、レーザスポットB3bが加工結像位置P2に照射されてから時間ΔTの経過後、レーザスポットB3aが加工結像位置P2に照射される。
【0075】
さらに、図5の左側の図に示されるように、レーザスポットB3b同士、レーザスポットB3a同士の一部が重なるように、レーザスポットB3aおよびレーザスポットB3bが矢印A1の方向に走査される。
【0076】
そして、レーザスポットB3bが照射された領域からレーザ光λbに対する吸収係数が高いa−Si膜451Aが除去される。次に、レーザスポットB3aが照射された領域からレーザ光λaに対する吸収係数が高いTCO膜451Bが除去される。
【0077】
これにより、図5の右側の図に示されるように、a−Si膜451Aから幅d3bの領域が除去され、TCO膜451Bから幅d3a’の領域が除去される。
【0078】
このように、レーザ加工装置401では、多層構造の加工対象物に対して、各層に対する加工を並行して行いながら、簡単に各層の加工領域の幅や形状を個別に調整することができる。
【0079】
<5.第5の実施の形態>
[レーザ加工装置の構成例]
図7は、本発明を適用したレーザ加工装置の第5の実施の形態を示す図である。なお、図中、図4と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0080】
図7のレーザ加工装置501は、図4のレーザ加工装置401に、リニアステージ機構511を追加したものである。
【0081】
リニアステージ機構511は、電動または手動で、XYスリット機構211bを矢印A11の方向にレーザ光λbの光路に沿って移動させ、XYスリット機構211bの光軸方向の位置を調整するものである。そして、XYスリット機構211bを矢印A11の方向に移動させることにより、レーザスポットB3bの結像位置P2’をレーザ光λbの光路の方向に移動させることができる。
【0082】
これにより、例えば、上述した図5の薄膜太陽電池パネル451のような多層構造の加工対象物を加工する場合、各層の加工に用いるレーザスポットの結像位置を各層の表面に正確に合わせることができる。その結果、例えば、上層の膜厚が厚い場合や下層の材質が加工波長に対して加工性が悪い場合などに、各層に対してエッジがシャープで品質の高い加工を行うことが可能になる。
【0083】
<6.変形例>
以下、本発明の実施の形態の変形例について説明する。
【0084】
[変形例1]
本発明の実施の形態では、例えば、レーザ発振器111aから出射されたレーザ光λaおよびレーザ発振器111bから出射されたレーザ光λbを、光路を結合せずに、それぞれ直接レンズ120aまたはレンズ120bに入射するようにすることも可能である。この場合、レーザ発振器111aとレンズ120aの間において、レーザ光λaのビーム径を拡大したり、レーザ光λaをコリメートしたり、レーザ光λaの断面の強度を均一化するようにすることが望ましい。強度の均一化には、例えば、ホモジナイザ、カライドスコープを用いることができる。レーザ発振器111bとレンズ120bの間についても同様である。
【0085】
[変形例2]
また、図3のレーザ加工装置301において、XYスリット機構211b’の開口部Ob’の形状を円形にする例を示したが、XYスリット機構211aの開口部Oaの形状を円形にするようにしてもよい。また、上述した各XYスリット機構の開口部の形状は、その一例であり、別の形状に設定することも可能である。
【0086】
[変形例3]
さらに、図7のレーザ加工装置501において、XYスリット機構211bにのみリニアステージ機構511を設ける例を示したが、例えば、XYスリット機構211aに設けるようにしてもよいし、両方に設けるようにしてもよい。
【0087】
[変形例4]
また、本発明は、3種類以上の波長のレーザ光を用いる場合にも適用することが可能である。3種類以上の波長のレーザ光を用いる場合、例えば、光ファイバ116からレーザ光が出射された後、各レーザ光の光路を分岐し、光路毎に、図1、図2、図3、図4または図7を参照して上述したレーザ光λaまたはレーザ光λbの光路上の構成と同様の構成を設けるようにすればよい。その後、各レーザ光の光路を合成した後、2波長性レンズ124に入射するようにすればよい。なお、3波長以上の波長を用いる場合、2波長レンズ124には、その波長に対応した多波長レンズが用いられる。
【0088】
なお、必ずしも全てのレーザ光の光路を個々に分岐する必要はなく、複数のレーザ光の光路を共通にするようにしてもよい。例えば、レーザ光λa,λb,λcの3種類のレーザ光を使用する場合、レーザ光λbだけ分岐し、レーザ光λaとレーザ光λcの光路を共通にするようにしてもよい。
【0089】
なお、3種類以上の波長のレーザ光を用いる場合として、以下のような例が考えられる。
【0090】
レーザ発振器にNd:YAGレーザを用いる場合、基本波(波長1064nm)、SHG(波長532nm)、THG(波長355nm)、FHG(波長266nm)のうち3種類の波長(例えば、近赤外光である基本波および可視光であるSHGと、紫外光であるTHGまたはFHGのいずれか)を選択して使用することにより、薄膜加工において残渣のない加工や、スパッタの少ない加工を実現することができる。
【0091】
例えば、図8に示される薄膜太陽電池パネル601のように、薄膜が3層構造になっている場合などに、各層に対する吸収係数が高い波長のレーザ光を選択して加工する場合について説明する。
【0092】
薄膜太陽電池パネル601は、ガラス基板601A上に、TCO(透明導電膜)601B、a−Si発電層601C、および、Ag(またはAl)電極601Dの3層が積層されている。
【0093】
例えば、ガラス基板601A側から加工ができず、Ag(Al)電極601D側から加工する場合、最初に、図9のいちばん上の図に示されるように、Ag(Al)電極601Dおよびa−Si発電層601Cに対する吸収係数が比較的大きいSHG(波長532nm)のレーザ光L1を用いて、これらの2層が除去される。なお、図9の左の図は、右に示す波長により加工された後の状態を示している。次に、TCO601Bは可視光では加工できないため、図9の中央の図に示されるように、基本波(波長1064nm)のレーザ光L2を用いて、TCO601Bが除去される。このとき、レーザ光L2で除去しきれなかったTCO601Bの残渣601B’が残る。この残渣601B’はリーク電流を引き起こし、太陽電池の発電効率を悪化させるため、最後に、図9のいちばん下の図に示されるように、TCO601Bに対する吸収係数が高いFHG(波長266nm)のレーザ光L3を用いて、残渣601B’が完全に除去される。
【0094】
[変形例5]
また、以上の説明では、それぞれ異なるレーザ発振器から異なる波長のレーザ光を出射する例を示したが、1台のレーザ発振器から異なる波長のレーザ光を出射するようにしてもよい。この場合、例えば、1台のレーザ発振器から、異なる波長のパルス状のレーザ光が、所定の時間間隔で所定の順番で出射される。
【0095】
[変形例6]
さらに、以上の説明では、波長がそれぞれ異なる複数のレーザ光を並行して使用する例を示したが、本発明は、波長が同じで、他の要素(例えば、エネルギー等)がそれぞれ異なる複数のレーザ光を並行して使用する場合にも適用することができる。もちろん、本発明は、波長を含む複数の要素がそれぞれ異なる複数のレーザ光を並行して使用する場合にも適用することができる。
【0096】
[変形例7]
また、レーザ光の光路を分離または結合したり、レーザ光の光路の方向を変更したりする手段は、上述した例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上述した例以外に、プリズムやハーフミラー等を用いることも可能である。
【0097】
[変形例8]
さらに、レーザスポットB3a,B3bの走査は、例えば、ガルバノミラー等による結像位置P2a,P2bの走査、加工対象物の移動、レーザ加工装置の移動、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。
【0098】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
101 レーザ加工装置
111a,111b レーザ発振器
112a,112b ビームエキスパンダ
113 全反射ミラー
114 ビームスプリッタ
115 2波長性ファイバ結合レンズ
116 光ファイバ
117 2波長性結像加工光学系レンズ
118 2波長性ミラー
119 全反射ミラー
120a乃至121b 結像加工光学系レンズ
122 全反射ミラー
123 2波長性ミラー
124 2波長性結合加工光学系レンズ
201 レーザ加工装置
211a,211b,211b’ XYスリット機構
301,401,501 レーザ加工装置
511 リニアステージ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のレーザ光および第2のレーザ光を用いて加工対象物の加工を行うレーザ加工装置において、
前記第1のレーザ光が通過する第1の光路上の第1の結像位置において、前記第1のレーザ光を結像する第1のレンズと、
前記第1の光路上の前記第1の結像位置より後で前記第1のレーザ光をコリメートする第2のレンズと、
前記第2のレーザ光が通過する第2の光路上の第2の結像位置において、前記第2のレーザ光を結像する第3のレンズと、
前記第2の光路上の前記第2の結像位置より後で前記第2のレーザ光をコリメートする第4のレンズと、
前記第2のレンズおよび前記第4のレンズの後段において、前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光の光路を結合する結合手段と、
前記結合手段と前記加工対象物の間に設けられ、前記第1のレーザ光および前記第2のレーザ光を結像する第5のレンズと
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1の結像位置付近に設けられる第1のスリットと、
前記第2の結像位置付近に設けられる第2のスリットと
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第1のスリットおよび前記第2のスリットのうち少なくとも一方の光軸方向の位置を調整する調整手段を
さらに備えることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第1のスリットおよび前記第2のスリットのうち少なくとも一方の開口部の形状が調整可能である
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第1のレーザ光および前記第2のレーザ光の出射タイミングを個別に調整することが可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第1のレーザ光および前記第2のレーザ光を伝送する光ファイバと、
前記光ファイバから出射された前記第1のレーザ光および前記第2のレーザ光をコリメートする第6のレンズと、
前記第6のレンズの後段において、前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光の光路を前記第1の光路と前記第2の光路に分離する分離手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記光ファイバの出射端面の形状が角形である
ことを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
少なくとも第1のレーザ光および第2のレーザ光を用いて加工対象物の加工を行うレーザ加工方法において、
前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光を時間差をつけて発生させ、
前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光をそれぞれ異なる形状で加工対象物の表面に結像させ、
前記結像させた場所と次に結合させる場所が一部重なるように、結像位置を移動させ、もしくは加工対象物の相対的な位置を移動させ、
連続的に対象物の表面を加工することを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135807(P2012−135807A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291336(P2010−291336)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】