説明

レーザ加工装置及びレーザ加工方法

【課題】レーザ光を使用して被加工物を加工する際に、切断品位を向上させる。
【解決手段】同じ一定の繰り返し周波数を有する第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させて、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する。第1のパルスレーザ光のパルス列P1と第2のパルスレーザ光のパルス列P2とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる。2つのパルスレーザ光を同期させる態様として、ずれ時間Td=0の場合及びずれ時間Td≠0の場合が存在する。これにより、被加工物に応じて、ずれ時間TdとしてTd=0を選択し、又は、ずれ時間TdとしてTd≠0であって被加工物に対して最適な時間を選択して、被加工物を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に少なくとも2つ以上のパルスレーザ光を照射してその被加工物を加工するレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を使用した加工が広く行われている。レーザ光を使用した加工としては、レーザ光によって被加工物を照射してその被加工物を加熱溶融させることによって行われる熱加工が主体である。近年では、短いパルス幅を有するパルス発振レーザを使用することによって、熱影響を抑制した高精度の加工(非熱加工)も可能である。
【0003】
近年、電子部品を製造する際にレーザ光を使用した加工が行われている(例えば、特許文献1参照)。電子部品の例として、IC(Integrated Circuit)等の半導体パッケージ、LED(Light Emitting Diode)パッケージ等の光半導体パッケージ、ディスクリート電子部品(Discrete electronic component)等が挙げられる。これらの電子部品は、回路基板と封止樹脂とが積層した複合材料が個片化(Singulation)されることによって製造される。回路基板は、銅等の金属製のリードフレーム、ガラスエポキシ基板等の樹脂ベース基板、セラミックス基板等によって構成される。封止樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等からなり、流動性を有する樹脂材料(流動性樹脂)が硬化して形成された硬化樹脂によって構成される。硬化樹脂は、射出成形、トランスファ成形、圧縮成形等の成形技術によって成形される。したがって、個片化される対象となる複合材料は、回路基板と硬化樹脂とを含む樹脂成形体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−226475号公報(第6〜9頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子部品を製造する際に樹脂成形体を個片化する工程では、回転刃(回転ブレード)を使用したブレードダイシングが主流である。最近では、レーザ光を使用したレーザダイシングが採用され始めた。複合材料である樹脂成形体の個片化にレーザダイシングを使用した場合には、ブレードダイシングに比較して次の2つの態様で切断品位が低下する。第1に、レーザダイシングは熱加工であることから、切断された部分において熱影響が発生する。熱影響によって、切断された部分にスパッタやドロスが付着する。第2に、ブレードダイシングと比較して、レーザダイシングの場合には、切断された部分において、切断された面が滑らかではなくて凹凸が存在し、かつ、縁が丸みを帯びる。
【0006】
また、回路基板と硬化樹脂とから構成される樹脂成形体をレーザダイシングする場合には、それぞれの材料に適合した複数の波長を選択して、複数のレーザ光によって樹脂成形体を照射する(例えば、特許文献1参照)。切断能率を高めるために、複数のレーザ光の1つとして大きな発熱量を有する赤外領域の波長のレーザ光を使用した場合には、切断された部分において大きな熱影響が発生する。この熱影響によって切断品位が低下するおそれがある。
【0007】
一方、切断品位の低下を抑制するためには、熱加工ではなくアブレーション加工(非熱加工)を使用することが好ましい。「アブレーション加工」は、微少なエリアに極めて短時間にレーザエネルギーを集中させて照射することによって固体を昇華・蒸発させる加工方法を意味する。具体的には、短波長のレーザ発振器又は極短パルスレーザ発振器を使用することが好ましい。しかし、これらの場合には、レーザ発振器の出力不足に起因して切断能率が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工装置は、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する照射手段と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=繰り返し周波数f2であり、かつ、ずれ時間Td=0であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する照射手段と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=繰り返し周波数f2であり、かつ、ずれ時間Td≠0であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、上述のレーザ加工装置において、同期手段はずれ時間Tdを変更することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する照射手段と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=N*繰り返し周波数f2であり(Nは2以上の整数)、かつ、第1のパルスレーザ光のパルス列のN周期毎に第1のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスと第2のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスとが同時に存在することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、上述のレーザ加工装置において、被加工物は少なくとも2種類の異なる材料が重なる複合材料であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、上述のレーザ加工装置において、複合材料は、電子部品を製造する際に使用され回路基板と硬化樹脂とを有する樹脂成形体であるとともに、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とによって樹脂成形体が照射され、照射された樹脂成形体が個片化されることによって電子部品が製造されることを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工方法は、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する工程と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=繰り返し周波数f2であり、同期させる工程ではずれ時間Td=0にすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、上述のレーザ加工方法において、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する工程と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=繰り返し周波数f2であり、同期させる工程ではずれ時間Td≠0にすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、上述のレーザ加工方法において、同期させる工程ではずれ時間Tdを変更することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する工程と、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、繰り返し周波数f1=N*繰り返し周波数f2であり(Nは2以上の整数)、同期させる工程では、第1のパルスレーザ光のパルス列のN周期毎に第1のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスと第2のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスとを同時に存在させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、上述のレーザ加工方法において、被加工物は少なくとも2種類の異なる材料が重なる複合材料であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、上述のレーザ加工方法において、複合材料は、電子部品を製造する際に使用され回路基板と硬化樹脂とを有する樹脂成形体であり、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを使用して樹脂成形体を照射することによって樹脂成形体を個片化し、個片化された樹脂成形体からなる電子部品が製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用する。同じ一定の繰り返し周波数を有する第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させて、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する。この場合において、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる。2つのパルスレーザ光を同期させる態様として、ずれ時間Td=0の場合及びずれ時間Td≠0の場合が存在する。被加工物に応じて、ずれ時間TdとしてTd=0を選択し、又は、ずれ時間TdとしてTd≠0であって被加工物に対して最適な値を選択してずれ時間Tdを適宜変更して、被加工物を加工することができる。
【0021】
本発明によれば、被加工物が少なくとも2種類の異なる材料が重なる複合材料である場合において、それぞれの材料に適した少なくとも2つのパルスレーザ光を選択する。加えて、ずれ時間TdとしてTd=0を選択し、又は、ずれ時間TdとしてTd≠0であってそれぞれの材料に対して最適な値を選択してずれ時間Tdを適宜変更して、被加工物を加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(1)は2つのパルスレーザ光を重畳させて樹脂成形体を加工する状態を示す断面図であり、図1(2)は樹脂成形体における被照射部を示す平面図である。
【図2】図2は、本発明に係るレーザ加工装置の概略図である。
【図3】図3は、本発明に係るレーザ加工方法を説明する波形図である。
【図4】図4は、本発明に係るレーザ加工方法によって加工された被加工物における熱影響を評価する方法を説明する図である。
【図5】図5は、本発明に係るレーザ加工方法によって加工された被加工物の断面における熱影響層幅を説明する概略図である。
【図6】図6は、本発明に係るレーザ加工方法における被加工物の送り速度と加工された被加工物の切断溝幅との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によれば、少なくとも2つのパルスレーザ光を使用する。同じ一定の繰り返し周波数を有する第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを重畳させて、重畳された第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを被加工物に対して照射する。この場合において、第1のパルスレーザ光のパルス列と第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とを同期させる。2つのパルスレーザ光を同期させる態様として、ずれ時間Td=0の場合及びずれ時間Td≠0の場合が存在する。被加工物に応じて、ずれ時間TdとしてTd=0を選択し、又は、ずれ時間TdとしてTd≠0であって被加工物に対して最適な値を選択してずれ時間Tdを適宜変更して、被加工物を加工する。
【0024】
[実施例1]
図1〜図3を参照して、本発明に係るレーザ加工装置の概要及びレーザ加工方法を説明する。図1は、2つのパルスレーザ光を重畳させて樹脂成形体を加工する状態を示す断面図である。図2は、本発明に係るレーザ加工装置の概略図である。図3は、本発明に係るレーザ加工方法を説明する波形図である。なお、本出願書類におけるいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている。同一の構成要素には同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0025】
図1(1)に示されている樹脂成形体1は、重畳された2つのパルスレーザ光(後述)により照射されることによって切断される、被加工物である。樹脂成形体1は、基板本体(Substrate)2と、基板本体2の上に装着された複数の半導体チップ3と、硬化樹脂からなる封止樹脂4とを有する。本実施例では、基板本体2はガラスエポキシ基板からなるプリント基板(Printed wiring board)、封止樹脂4は黒色のエポキシ樹脂によってそれぞれ構成される。基板本体2は、仮想的な境界線5によって複数の領域6に区分けされている。各領域6のそれぞれにおいて、1個又は複数個の半導体チップ3が装着されている。吸着、粘着、クランプ等の周知の方法によって、樹脂成形体1は封止樹脂4を下にしてステージ7に固定されている。ステージ7は、図1に示されたX方向とY方向とZ方向とにそれぞれ移動することができる。
【0026】
第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とは、それぞれ別のレーザ光源(図示なし)によって発生され、重畳されて樹脂成形体1を照射する加工用の2つのパルスレーザ光である。第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とは、同一の一定の繰り返し周波数(Pulse repetition rate)を有する。第1のパルスレーザ光8は、例えば、1060nmの波長を有するファイバーレーザ光源によって発生されたパルスレーザ光である。第1のパルスレーザ光8は、赤外領域の波長を持ち高い切断能率を有する。一方、第2のパルスレーザ光9は、例えば、532nmの波長を有するSHG:YAGレーザ光源によって発生されたパルスレーザ光である。第2のパルスレーザ光9は、短い波長を持ち、熱加工ではなくアブレーション加工を行うことができる。
【0027】
樹脂成形体1が固定されたステージ7を、図1に示されたY方向に移動させる。この動作に並行して、重畳された第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを、樹脂成形体1の表面(必要に応じて樹脂成形体1の内部を含む。以下同じ。)に焦点を結ぶようにして樹脂成形体1に照射する。焦点のZ方向の位置は、光学的な手段又はステージ7の駆動によって適宜制御される。重畳された第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とによって照射されることによって、樹脂成形体1の被照射部10において、第2のパルスレーザ光9によって基板本体2に穴11が形成され、第1のパルスレーザ光8によって封止樹脂4に穴12が形成される。穴11と穴12とは、併せて貫通穴13を構成する。貫通穴13を形成することによって、各境界線5において樹脂成形体1を切断する(フルカットする)。
【0028】
図1(1)と図1(2)とに示されるように、被照射部10において、ファイバーレーザ光源によって発生された第1のパルスレーザ光8が照射する第1の照射領域14は、SHG:YAGレーザ光源によって発生された第2のパルスレーザ光9が照射する第2の照射領域15に完全に含まれる。
【0029】
以下、図2を参照して、本発明に係るレーザ加工装置16の詳細を説明する。図2に示されるように、レーザ加工装置16は、レーザ光発生手段17と、重畳手段18と、照射手段19と、同期手段20とを有する。同期手段20は、ディジタル遅延発生器(Digital delay generator)である。
【0030】
レーザ光発生手段17は、第1のパルスレーザ光8を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段21と、第2のパルスレーザ光9を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段22とを有する。第1のパルスレーザ光発生手段21は、例えば、1060nmの波長を有する第1のパルスレーザ光8を発生させるファイバーレーザ光源(例えば、Q−switch)である。第2のパルスレーザ光発生手段22は、例えば、532nmの波長を有する第2のパルスレーザ光9を発生させるSHG:YAGレーザ光源(例えば、Q−switch)である。重畳手段18は、ベンディングミラー23と、ダイクロイックミラー24と、光軸修正用ミラー25と、ベンディングミラー26とを有する。
【0031】
照射手段19は加工ヘッド27を有する。加工ヘッド27の内部には集光レンズ28と上部保護ガラス29とが設けられている。加工ヘッド27の下部には照射ノズル30が設けられている。加工ヘッド27の側部にはアシストガス配管31が設けられている。アシストガス配管31によって供給されたアシストガス(Assist Gas)32は、例えばN ガスからなり、照射ノズル30の開口33から樹脂成形体1に向かって噴射される。
【0032】
以下、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させる構成について説明する。本出願書類において、「同期」という用語は「二つ以上の波形又はパルス列を相互に時間的に同時又は一定関係にすること。」を意味する(JIS C 5620参照)。
【0033】
上述した「同期」という用語の意味に基づいて、本出願書類において「同期」には次の3つの場合が含まれる。第1の場合は、1つのパルス列が有する各パルスと他のパルス列が有する各パルスとが、時間的に同時に存在する、言い換えれば同じタイミングにおいて存在する場合である。第2の場合は、1つのパルス列が有する各パルスと他のパルス列が有する各パルスとが、一定の時間的な関係である一定のずれ時間(≠0)を伴って存在する場合である。第3の場合は、1つのパルス列(第1のパルス列)の繰り返し周波数f1と他のパルス列(第2のパルス列)の繰り返し周波数f2との間に、f1=N*f2(ただし、Nは2以上の整数)という関係がある場合である。第3の場合についてN=2を例に挙げて説明すると、第1のパルス列の2周期毎に、第1のパルス列が有するパルスと第2のパルス列が有するパルスとが同じタイミングにおいて存在する。
【0034】
第1のパルスレーザ光発生手段21によって発生され、ベンディングミラー23を透過した第1のパルスレーザ光8を検出する、第1の光ダイオード(Photodiode)34が設けられている。第2のパルスレーザ光発生手段22によって発生され、ベンディングミラー24によって反射してフィルタ35を透過した第2のパルスレーザ光9を検出する、第2の光ダイオード(Photodiode)36が設けられている。第1の光ダイオード34と第2の光ダイオード36とは、それぞれ電源(図示なし)に接続されている。第1の光ダイオード34の出力端子は、同期手段20とオシロスコープ37とに接続される。同期手段20の出力端子は、第2のパルスレーザ光発生手段22とオシロスコープ37とに接続される。第2の光ダイオード36の出力端子は、オシロスコープ37に接続される。
【0035】
以下、本実施例に係るレーザ加工装置16の動作とその動作によって行われるレーザ加工方法とについて説明する。まず、ステージ7を使用して、樹脂成形体1における切断したい箇所と照射ノズル30の開口33とを位置合わせし、かつ、樹脂成形体1の表面(図では基板本体2の表面)と照射ノズル30の先端(図では下端)とを適切な間隔に合わせて保つ。
【0036】
次に、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とが重畳されかつ同期した第3のパルスレーザ光38を、照射ノズル30の開口33から樹脂成形体1に向かって照射する。第3のパルスレーザ光38を照射するとともに、照射ノズル30の開口33から樹脂成形体1に向かってアシストガス32を噴射する。上述した動作に並行して、ステージ7を適当な方向(図では+Y方向)に移動させる。これらの動作によって、樹脂成形体1を切断することができる。アシストガス32は、樹脂成形体1が切断されることによって発生したドロス(溶融物)と気体とを吹き飛ばす。このことによって、樹脂成形体1における切断された部分である切断溝(Kerf)の切断品位を良好にすることができる。
【0037】
第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを同期させる動作は、次の通りである。第1の光ダイオード34によって検出された第1の信号(第1のパルスレーザ光8のパルスを検出したタイミングを示す信号)を、同期手段20とオシロスコープ37とに供給する。同期手段20は、受け取った第1の信号を基準として、予め設定したずれ時間を間にあけて、第2のパルスレーザ光9を発生するための同期信号を生成する。同期手段20は、生成した同期信号を、第2のパルスレーザ光発生手段22とオシロスコープ37とに供給する。第2のパルスレーザ光発生手段22は、受け取った同期信号に基づいて、第2のパルスレーザ光9を発生させる。第2の光ダイオード36によって検出された第2の信号(第2のパルスレーザ光9のパルスを検出したタイミングを示す信号)を、オシロスコープ37に供給する。
【0038】
これらのようにレーザ加工装置16が動作した結果、オシロスコープ37を使用して、次の3つの信号の時間的な関係を観察することができる。
(1)第1の光ダイオード34によって検出された第1のパルスレーザ光8のパルスのタイミングを示す、第1の信号
(2)第1の信号に基づいて同期手段20によって生成された同期信号
(3)同期信号に基づいて第2のパルスレーザ光発生手段22によって発生された第2のパルスレーザ光9のパルスのタイミングを示す、第2の信号
【0039】
以下、図2と図3とを参照して、第1のパルスレーザ光8のパルス列と第2のパルスレーザ光9のパルス列とを同期させる態様を説明する。図2に示されたように、ファイバーレーザ光源である第1のパルスレーザ光発生手段21が、第1のパルスレーザ光8を発生させる。SHG:YAGレーザ光源である第2のパルスレーザ光発生手段22(Q−switch)が、第2のパルスレーザ光9を発生させる。第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とは、同一の一定の繰り返し周波数(Pulse repetition rate)を有する。したがって、図3に示されたように、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとは、同一のパルス間隔Tiを有する。
【0040】
図2の同期手段20を使用して、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとの間における一定の時間的な関係、すなわち図3に示されたずれ時間(遅延時間;Time delay)Tdを設定することができる。具体的には、図2の同期手段20に適当な値を予め入力することによって、図3に示されたずれ時間Tdを変更することができる。
【0041】
図3(1)は、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとが時間的に同時に存在する、言い換えれば同じタイミングにおいて存在する場合を示す。この場合には、パルス列P1の各パルスとパルス列P2の各パルスとの間におけるずれ時間Tdについては、Td=0である。
【0042】
図3(2)は、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとが一定のずれ時間Tdを伴って存在する場合を示す。この場合には、パルス列P1の各パルスとパルス列P2の各パルスとの間におけるずれ時間Tdについては、Td≠0である。図3(2)は、パルス列P2の各パルスがパルス列P1の各パルスよりもずれ時間Tdだけ遅れている場合を示す。
【0043】
本実施例によれば、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを、次のような2つの時間的関係でもって重畳させかつ同期させて、被加工物である樹脂成形体1を切断することができる。第1の関係は、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとの間におけるずれ時間Tdについて、Td=0である関係である。第2の関係は、第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとの間におけるずれ時間Tdについて、Td≠0である関係である。
【0044】
加えて、第2の関係の場合には、同期手段20を使用して次の2つの要素を任意に設定することができる。第1の要素は、パルス列P2の各パルスとパルス列P1の各パルスとのどちらを遅らせるかということである。第2の要素は、ずれ時間Tdの値である。
【0045】
本実施例によれば、2つのパルスレーザ光の時間的関係、すなわち第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9との時間的関係である第1の関係(Td=0)と第2の関係(Td≠0)とを適宜選択して、樹脂成形体1の種類や特性等に応じて、最適な条件によって樹脂成形体1を切断することができる。加えて、ずれ時間TdについてTd≠0である関係の場合には、同期手段20を使用して、パルス列P1及びパルス列P2のうち遅らせるパルス列の種類とずれ時間Tdの値という2つの要素を任意に設定することができる。このことによって、樹脂成形体1の種類や特性等、加工の種類や特性等に応じて、上述した2つの時間的関係と2つの要素とに関して最適な条件によって、樹脂成形体1を切断することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、図2の同期手段20を使用して、1つのパルス列(第1のパルス列)の繰り返し周波数f1と他のパルス列(第2のパルス列)の繰り返し周波数f2との間に、f1=N*f2(ただし、Nは2以上の整数)という関係を設定することができる。加えて、第1のパルス列のN周期毎に、第1のパルス列が有するパルスと第2のパルス列が有するパルスとが同じタイミングにおいて存在するという関係を設定することができる。このことにより、樹脂成形体1の種類や特性等、加工の種類や特性等に応じて、繰り返し周波数f1と係数Nとに関して最適な条件を設定して、樹脂成形体1を切断することができる。
【0047】
[実施例2]
本実施例では、ファイバーレーザ光源が発生した第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと、SHG:YAGレーザ光源が発生した第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとの間におけるずれ時間Tdについて、Td=0である場合を説明する。実施例1で説明したように、同期手段20(図2参照)に適当な値を予め入力することによって、図3(1)に示されたようにずれ時間TdをTd=0に設定することができる。
【0048】
以下、図4と図5とを参照して、ずれ時間Td=0という条件で樹脂成形体を切断した場合の効果について説明する。図4は、本発明に係るレーザ加工方法によって加工された被加工物における熱影響を評価する方法を説明する図である。具体的に説明すれば、図4(1)は、本発明に係るレーザ加工方法によって1方向(Y方向)に沿って切断された樹脂成形体を他方向(X方向)に沿って1箇所において切断する工程を示す斜視図である。図4(2)は、切断された樹脂成形体を示す斜視図である。図4(3)は、切断された樹脂成形体の切断面における切断溝を示す部分断面図である。図5は、本発明に係るレーザ加工方法によって加工された被加工物の断面における熱影響層幅を説明する図である。図5に示されたレーザ加工は、図2に示されたアシストガス32の供給ガス圧Pc=600kPa、照射ノズル30の下端と樹脂成形体1の上面との間の距離Dg=1.0mmという条件の下で行われる。
【0049】
第1に、レーザ加工による熱影響を評価するための試料の作成について説明する。最初に、図4(1)に示されている切断溝付の加工済成形体39を準備する。加工済成形体39は、図2に示されたレーザ加工装置16を使用して樹脂成形体1がY方向に沿う各境界線5において切断された部材である。加工済成形体39は、図2に示された各境界線5においてレーザ加工によって形成された複数の切断溝(Kerf)40を有する。樹脂成形体1が切断された(フルカットされた)ことによって、各切断溝40は、加工済成形体39の上面から下面へと貫通するとともにほぼ一定の幅である切断溝幅(Kerf width)Wk(図4(3)を参照)を持つ貫通穴によって構成される。この貫通穴は、図1(1)に示された貫通穴13に相当する。樹脂成形体1は粘着シートに固定された状態で切断されるので、加工済成形体39もまた粘着シートに固定されている。
【0050】
次に、ステージ(図示なし)の上に加工済成形体39を固定して、回転刃(回転ブレード)41を使用して加工済成形体39をX方向に沿って切断する。これにより、レーザ加工による熱影響を評価するための試料42が得られる。試料42は、レーザ加工によって切断された部分の断面である切断面43を有する。
【0051】
次に、ステージ(図示なし)から試料42を取り外す。取り外した試料42の切断面43を、顕微鏡を使用して観察する。具体的には、切断面43において切断溝40が形成された部分である被評価部44を、顕微鏡を使用して観察する。
【0052】
次に、切断溝40の近傍に形成された部分であってレーザ加工による熱影響を受けた部分である熱影響層(Heat Affected Zone;HAZ)45の幅、すなわち熱影響層幅(Width of heat affected zone)Whを測定する。熱影響層45は切断溝40の両側に形成された変色した部分であって、図4(3)においては変色の度合いが大きい高影響部46と変色の度合いが小さい低影響部47との2つの部分として示されている。本実施例においては、14本の切断溝40においてそれぞれの片側における熱影響層幅Whを測定して、それらの平均値を算出した。
【0053】
本実施例では、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させた場合において、次の3つの条件をそれぞれ変えて設定して、重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断した(図2参照)。
(1)SHG:YAGレーザのエネルギー
(2)SHG:YAGレーザの繰り返し周波数
(3)ずれ時間Td
上述した3つの条件をそれぞれ変えて設定して、それぞれの条件の下で樹脂成形体1を切断して試料42を作成した。各試料42における14本の切断溝40の片側における熱影響層幅Whを測定顕微鏡を使用して測定して、それらの平均値を算出した。
【0054】
図5は、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とに関する条件と、それらの条件の下で切断した樹脂成形体1における熱影響層幅Whの平均値との関係を示す。図5には、比較のために、ファイバーレーザ光源によって発生された第1のパルスレーザ光(図1、図2に示された第1のパルスレーザ光8に相当)のみを使用して樹脂成形体1を切断した場合における熱影響層幅Whの平均値が示されている。
【0055】
図5から、2つの結論が導かれる。第1に、ファイバーレーザ光源によって発生された第1のパルスレーザ光8のみを使用して樹脂成形体1を切断した場合よりも、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳かつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断した場合のほうが、熱影響層幅Whが小さい。このことは、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳かつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して加工することが熱影響を低減する(切断品位を向上させる)ことを示す。
【0056】
第2に、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断する場合において、ずれ時間Td=0の場合のほうがずれ時間Td=25(μs)の場合よりも、熱影響層幅Whが小さい。このことは、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して加工する場合には、ずれ時間Td=0にすることが熱影響を低減する(切断品位を向上させる)ことを示す。
【0057】
本実施例によれば、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを使用して樹脂成形体1を切断する場合において、次の効果が得られる。第1に、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳かつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断することによって、熱影響を低減することができる。第2に、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳かつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断する場合において、ずれ時間Td=0に設定することによって熱影響を更に低減することができる。
【0058】
[実施例3]
本実施例では、ファイバーレーザ光源が発生した第1のパルスレーザ光8のパルス列P1が有する各パルスと、SHG:YAGレーザ光源が発生した第2のパルスレーザ光9のパルス列P2が有する各パルスとの間におけるずれ時間Tdについて、Td≠0である場合を説明する。実施例1で説明したように、同期手段20(図2参照)に適当な値を予め入力することによって、図3(2)に示されたようにずれ時間TdをTd≠0に設定することができる。
【0059】
以下、図4と図6とを参照して、ずれ時間Td≠0という条件で樹脂成形体1を切断した場合の効果について説明する。図6は、本発明に係るレーザ加工方法における被加工物の送り速度(Feed rate)Fと加工された被加工物の切断溝幅(Kerf width)Wkとの関係を説明する図である。図6のグラフにおいて示された符号Pcはアシストガス32の供給ガス圧であり、符号Dgは照射ノズル30の下端と樹脂成形体1の上面との間の距離である(いずれも図2を参照)。
【0060】
切断溝幅Wkの測定は、図4(2)の上方から、すなわち基板本体2の側から、測定顕微鏡を使用して切断溝40を観察することによって行う。図4(3)に示された切断面43において、測定顕微鏡を使用して切断溝幅Wkを測定してもよい。切断溝幅Wkが小さいほど切断品位が良好であると判断する。
【0061】
図6から、3つの結論が見出される。第1に、被加工物の送り速度Fが小さいほど、切断溝幅Wkが小さくなる(切断品位が向上する)。第2に、被加工物の送り速度Fとずれ時間Tdとの2条件がそれぞれ同じであれば、第1のパルスレーザ光8及び第2のパルスレーザ光9の繰り返し周波数が大きいほうが、切断溝幅Wkが小さくなる(切断品位が向上する)。第3に、被加工物の送り速度Fと第1のパルスレーザ光8及び第2のパルスレーザ光9の繰り返し周波数との2条件がそれぞれ同じであれば、ずれ時間TdについてTd=0の場合よりもTd=25(μs)の場合のほうが、切断溝幅Wkが小さくなる(切断品位が向上する)。
【0062】
本実施例によれば、第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させてその重畳された第3のパルスレーザ光38を使用して樹脂成形体1を切断する場合において、次の効果が得られる。第1に、被加工物の送り速度を小さくすることによって、切断溝幅Wkを小さくすることができる。第2に、被加工物の送り速度Fとずれ時間Tdとの2条件がそれぞれ同じであれば、第1のパルスレーザ光8及び第2のパルスレーザ光9の繰り返し周波数を大きくすることによって、切断溝幅Wkを小さくすることができる。第3に、被加工物の送り速度Fと第1のパルスレーザ光8及び第2のパルスレーザ光9の繰り返し周波数との2条件がそれぞれ同じであれば、ずれ時間TdについてTd≠0なる適当な値(例えば、Td=25(μs))に設定することによって、切断溝幅Wkを小さくすることができる。
【0063】
なお、各実施例においては、2つ(2種類)のパルスレーザ光、すなわち第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とを重畳させかつ同期させて被加工物の表面に向かって照射することについて説明した。これに限らず、3つ(3種類)以上のパルスレーザ光を重畳させかつ同期させて被加工物の表面に向かって照射することもできる。
【0064】
また、被加工物である樹脂封止体1を完全に切断する加工(フルカット)を行う場合について説明した。これに限らず、被加工物において厚さ方向の途中(厚さの半分程度)まで溝を形成する加工(ハーフカット)を行う場合においても本発明を適用することができる。また、被加工物に浅い溝を形成する加工、貫通穴を形成する加工、止り穴を形成する加工、長穴を形成する加工等にも、本発明を適用することができる。また、加工としては、被加工物の表面に対して表面処理又は表面改質を行う加工も含まれる。
【0065】
また、図2に示されたステージ7については、第3のパルスレーザ光38と樹脂成形体1とが相対的に移動することができるようになっていればよい。必要に応じて、ステージ7が図1と図2とに示されたθ方向に回転することができるようにしてもよい。被加工物の種類と加工の種類とによっては、第3のパルスレーザ光38と被加工物とを相対的に移動させないという構成を採用することもできる。
【0066】
また、図1(1)に示された被加工物である樹脂成形体1として、基板本体2がガラスエポキシ基板、封止樹脂4が黒色のエポキシ樹脂によってそれぞれ構成される樹脂成形体1について説明した。これに限らず、被加工物として、異種材料から構成される様々な複合部材が挙げられる。複合部材としては、例えば、セラミックス製の回路基板であるセラミックス基板の上に複数のLEDチップ、LD(Laser Diode)チップ等の光チップが実装され、シリコーン樹脂によってそれらの光チップが一括して樹脂封止された樹脂成形体が挙げられる。また、複合部材として、メモリカード用の樹脂封止体が挙げられる。更に、複合部材として、レンズ、導光板、光コネクタ等の光学系部材を製造する場合の中間体である樹脂成形体等が挙げられる。
【0067】
また、図1に示された第1のパルスレーザ光8と第2のパルスレーザ光9とが重畳される態様として、被照射部10において、第1のパルスレーザ光8が照射する第1の照射領域14が、第2のパルスレーザ光9が照射する第2の照射領域15に完全に含まれる場合を説明した。これに限らず、被照射部10において、第1の照射領域14と第2の照射領域15とが部分的に重なる構成、又は、第1の照射領域14と第2の照射領域15とが外接する構成を採用することもできる。
【0068】
また、ずれ時間Tdをずれ時間Td=0に設定すること、及び、ずれ時間Td≠0に設定することのいずれを採用するかということについては、被加工物を構成する各材料の特性、加工において要求される特性等に応じて、適宜決めればよい。加工において要求される特性には、例えば、加工速度(実施例では被加工物の送り速度)、被加工面の滑らかさ、被加工面の外観、切断溝幅、切断溝の縁(パルスレーザ光が入射する側及び出射する側の縁をいう。以下同じ。)が線分に近い度合、切断溝の縁が直角に近い度合、等が含まれる。
【0069】
また、ずれ時間Tdをずれ時間Td≠0に設定する場合において、ずれ時間Tdの値をどの程度にするかということについても、被加工物を構成する各材料の特性、加工において要求される特性等に応じて、適宜決めればよい。
【0070】
また、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意にかつ適宜に組み合わせ、変更し、又は選択して採用できるものである。
【符号の説明】
【0071】
1 樹脂成形体
2 基板本体
3 半導体チップ
4 封止樹脂
5 境界線
6 複数の領域
7 ステージ
8 第1のパルスレーザ光
9 第2のパルスレーザ光
10 被照射部
11、12 穴
13 貫通穴
14 第1の照射領域
15 第2の照射領域
16 レーザ加工装置
17 レーザ光発生手段
18 重畳手段
19 照射手段
20 同期手段
21 第1のパルスレーザ光発生手段
22 第2のパルスレーザ光発生手段
23、26 ベンディングミラー
24 ダイクロイックミラー
25 光軸修正用ミラー
27 加工ヘッド
28 集光レンズ
29 上部保護ガラス
30 照射ノズル
31 アシストガス配管
32 アシストガス
33 開口
34 第1の光ダイオード
35 フィルタ
36 第2の光ダイオード
37 オシロスコープ
38 第3のパルスレーザ光
39 加工済成形体
40 切断溝
41 回転刃
42 試料
43 切断面
44 被評価部
45 熱影響層
46 高影響部
47 低影響部
F 送り速度
P1、P2 パルス列
Td ずれ時間
Ti パルス間隔
Wh 熱影響層幅
Wk 切断溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する照射手段と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=前記繰り返し周波数f2であり、かつ、前記ずれ時間Td=0であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する照射手段と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=前記繰り返し周波数f2であり、かつ、前記ずれ時間Td≠0であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたレーザ加工装置において、
前記同期手段は前記ずれ時間Tdを変更することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工装置であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる第1のパルスレーザ光発生手段と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる第2のパルスレーザ光発生手段と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる重畳手段と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する照射手段と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる同期手段とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=N*前記繰り返し周波数f2であり(Nは2以上の整数)、かつ、前記第1のパルスレーザ光のパルス列のN周期毎に前記第1のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスと前記第2のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスとが同時に存在することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載されたレーザ加工装置において、
前記被加工物は少なくとも2種類の異なる材料が重なる複合材料であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたレーザ加工装置において、
前記複合材料は、電子部品を製造する際に使用され回路基板と硬化樹脂とを有する樹脂成形体であるとともに、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とによって前記樹脂成形体が照射され、照射された前記樹脂成形体が個片化されることによって前記電子部品が製造されることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する工程と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=前記繰り返し周波数f2であり、
前記同期させる工程では前記ずれ時間Td=0にすることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項8】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する工程と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=前記繰り返し周波数f2であり、
前記同期させる工程では前記ずれ時間Td≠0にすることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項9】
請求項8に記載されたレーザ加工方法において、
前記同期させる工程では前記ずれ時間Tdを変更することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項10】
少なくとも2つのパルスレーザ光を使用して被加工物に対して加工を行うレーザ加工方法であって、
一定の繰り返し周波数f1を有する第1のパルスレーザ光を発生させる工程と、
一定の繰り返し周波数f2を有する第2のパルスレーザ光を発生させる工程と、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを重畳させる工程と、
重畳された前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを前記被加工物に対して照射する工程と、
前記第1のパルスレーザ光のパルス列と前記第2のパルスレーザ光のパルス列とが一定の時間的な関係であるずれ時間Tdを有するように前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを同期させる工程とを備えるとともに、
前記繰り返し周波数f1=N*前記繰り返し周波数f2であり(Nは2以上の整数)、
前記同期させる工程では、前記第1のパルスレーザ光のパルス列のN周期毎に前記第1のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスと前記第2のパルスレーザ光のパルス列が有するパルスとを同時に存在させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載されたレーザ加工方法において、
前記被加工物は少なくとも2種類の異なる材料が重なる複合材料であることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項12】
請求項11に記載されたレーザ加工方法において、
前記複合材料は、電子部品を製造する際に使用され回路基板と硬化樹脂とを有する樹脂成形体であり、
前記第1のパルスレーザ光と前記第2のパルスレーザ光とを使用して前記樹脂成形体を照射することによって前記樹脂成形体を個片化し、個片化された前記樹脂成形体からなる前記電子部品が製造されることを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94845(P2013−94845A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242380(P2011−242380)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(390002473)TOWA株式会社 (192)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】