説明

レーザ加工装置

【課題】 より高品質で高速な加工が可能なレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】 加工対象物Wにレーザ光を照射して加工する装置であって、基本波のレーザ光L1を出射するレーザ光源2と、基本波のレーザ光L1を第2高調波のレーザ光L2に波長変換して出射すると共に未変換の基本波のレーザ光L1を第2高調波のレーザ光L2と共に同軸で出射する波長変換素子3と、出射された第2高調波のレーザ光L2を加工対象物Wに焦点を合わせて集光すると共に、未変換の基本波のレーザ光L1を加工対象物Wに焦点を合わせず加工対象物Wが加工されないレーザ光強度に集光して加工対象物Wに照射する光学系4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば脆性材料や難加工材であるセラミックスの切断または研削などに好適なレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脆性材料や難加工材であるセラミックスの切断または研削などの加工を、力学的な手法で行った場合、工具の摩耗による交換を短い周期で必要としたり、クラックやチッピング等のリスクもあることから、工具交換のメンテナンスの煩雑さや加工品質の確保に有効なプロセスとしてレーザ光で加工を行う方法が知られている。このレーザプロセスは、単一の波長のレーザ光を用いる場合と、レーザ光の波長変換を行い、その際の変換光と未変換光との両方を使う場合とがある。
【0003】
従来、上記後者の例として、例えば特許文献1には、単一波長の光を発生するレーザ光発生部と、レーザ光発生部が発生するレーザ光と同一波長の光を入射光として波長変換を行う波長変換部と、を備え、波長変換部が、入射光及び該入射光の高調波のうちの第1の波長の光と第2の波長の光とを入射し、非臨界位相整合及び擬似位相整合の一方を使用した第2高調波生成により、第1の波長の1/2の波長である第3の波長の光を生成し、第2の波長の光と第3の波長の光とをほぼ同軸で射出する第1の非線形光学結晶を有する光学装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、第1の波長を有する超短パルスである第1のレーザを発生させるステップ、第1レーザのエネルギーの一部を第1の波長の高調波である第2の波長を有する超短パルスである第2のレーザに変換するステップ、第1のレーザを第2のレーザに対して時間遅延を与えるステップ、第1のレーザ及び第2のレーザを同軸上で集光するステップ、及び集光された第1及び第2のレーザを加工対象物に照射するステップからなるレーザによる加工方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2002/071143号
【特許文献2】特開2008−272794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記2波長のレーザ光による従来の加工技術では、同軸に出射された両波長のレーザ光が加工対象物の同一位置に集光されて照射されるため、長波長側のレーザ光の影響で溶融痕が残るなど加工品質が良好でない場合があるという不都合があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、より高品質で高速な加工が可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のレーザ加工装置は、加工対象物にレーザ光を照射して加工する装置であって、基本波のレーザ光を出射するレーザ光源と、前記基本波のレーザ光を1/2の波長にした第2高調波のレーザ光に波長変換して出射すると共に未変換の前記基本波のレーザ光を前記第2高調波のレーザ光と共に同軸で出射する波長変換素子と、出射された前記第2高調波のレーザ光を前記加工対象物に焦点を合わせて集光すると共に、未変換の前記基本波のレーザ光を前記加工対象物に焦点を合わせず前記加工対象物が加工されないレーザ光強度に集光して前記加工対象物に照射する光学系と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
このレーザ加工装置では、変換光である第2高調波のレーザ光(以下、第2高調波レーザ光とも称す)を加工対象物に焦点を合わせて集光すると共に、未変換の基本波のレーザ光(以下、基本波レーザ光とも称す)を加工対象物に焦点を合わせず加工対象物が加工されないレーザ光強度に集光して加工対象物に照射するので、緩やかに集光された基本波レーザ光は加工対象物を加工せずに励起させると共に、第2高調波レーザ光は加工対象物に最小ビーム径に集光されて加工を行う。したがって、長波長側の基本波レーザ光の影響による溶融痕が残らないと共に、緩やかに集光された基本波レーザ光によって加工対象物が励起されて加熱され、最小ビーム径に集光された第2高調波レーザ光での加工が効率良く行われる。
【0010】
また、本発明のレーザ加工装置は、前記波長変換素子が、非臨界位相整合または疑似位相整合により前記第2高調波を出射させる非線形光学結晶であることを特徴とする。
すなわち、このレーザ加工装置では、波長変換素子が、非臨界位相整合または疑似位相整合により基本波と第2高調波とのウォークオフが起こらずに両方の波長のレーザ光を同軸に伝播させて出射する非線形光学結晶であるので、位相整合のための光路調整用の光学部品等が不要となる。
【0011】
また、本発明のレーザ加工装置は、前記レーザ光源が、前記基本波のレーザ光をガウシアン形状の強度分布を有するビームで出射し、前記波長変換素子が、未変換の前記基本波のレーザ光をトップハット形状の強度分布を有するビームに調整して出射することを特徴とする。
すなわち、このレーザ加工装置では、波長変換素子が、未変換の基本波のレーザ光をトップハット形状の強度分布を有するビームに調整して出射するので、いわゆるトップハット型の中央部が平坦な強度分布とされた基本波レーザ光の集光がより緩やかになり、加工対象物の加工ポイント周囲を効果的に励起させることができる。
【0012】
また、本発明のレーザ加工装置は、前記光学系が、直線偏光の前記第2高調波のレーザ光のみを円偏光にする偏光板と、未変換の前記基本波のレーザ光と円偏光とされた前記第2高調波のレーザ光とを集光する集光レンズと、を備えていることを特徴とする。
すなわち、このレーザ加工装置では、偏光板で円偏光化された第2高調波のレーザ光を集光レンズで集光するので、偏光面の影響を無くして加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るレーザ加工装置によれば、出射された第2高調波のレーザ光を加工対象物に焦点を合わせて集光すると共に、未変換の基本波のレーザ光を加工対象物に焦点を合わせず加工対象物が加工されないレーザ光強度に集光して加工対象物に照射するので、長波長側の基本波レーザ光の影響による溶融痕が残らないと共に、緩やかに集光された基本波レーザ光によって加工対象物が励起され、第2高調波レーザ光での加工が効率良く行われる。これにより、脆性材料や難加工材であるセラミックスの切断または研削などにおいても、高品質かつ高速の加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るレーザ加工装置の一実施形態において、レーザ加工装置を示す簡易的な全体構成図である。
【図2】本実施形態において、基本波レーザ光のビーム断面におけるガウシアン形状の強度分布(a)およびトップハット形状の強度分布(b)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るレーザ加工装置の一実施形態を、図1および図2を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態のレーザ加工装置1は、図1に示すように、加工対象物Wにレーザ光を照射して加工する装置であって、基本波のレーザ光L1を出射するレーザ光源2と、基本波のレーザ光L1を第2高調波のレーザ光L2に波長変換して出射すると共に未変換の基本波のレーザ光L1を第2高調波のレーザ光L2と共に同軸で出射する波長変換素子3と、出射された第2高調波のレーザ光L2を加工対象物Wに焦点を合わせて集光すると共に、未変換の基本波のレーザ光L1を加工対象物Wに焦点を合わせず加工対象物Wが加工されないレーザ光強度に集光して加工対象物Wに照射する光学系4と、を備えている。
【0017】
また、このレーザ加工装置1は、加工対象物Wを支持すると共に移動可能なステージ5と、波長変換素子3の温度調整を行うペルチェ素子等の温度調整部6と、を備えている。
上記波長変換素子3は、非臨界位相整合または疑似位相整合(QPM)により第2高調波を出射させる非線形光学結晶である。
上記非臨界位相整合および疑似位相整合の場合、非線形光学結晶内で基本波と第2高調波とがウォークオフ現象を起こさずに同軸で伝播される。
【0018】
例えば、非臨界位相整合が可能な非線形光学結晶としては、非臨界位相整合する方位に切断されたLiB(LBO)や温度調整によって非臨界位相整合させるものなどが採用可能である。また、疑似位相整合は、コヒーレンス長の逓倍ごとに非線形光学定数の符号を周期的に反転させた結晶素子中にビームを伝播させることによって波長変換させるものであるが、この素子においてc軸(光軸)または一軸性の結晶の場合c軸と垂直な方向にビームを伝播させることで波長変換が起こるように素子を構成すると基本波と波長変換された第2高調波を同軸に伝播させることができる。この疑似位相整合が可能な非線形光学結晶としては、周期的ドメイン反転LN(LiNbO)結晶、周期的ドメイン反転LT(LiTaO)結晶、周期的ドメイン反転KTP(KTiOPO)結晶または水晶QPM素子等が採用可能である。
【0019】
上記レーザ光源2は、図2の(a)に示すように、基本波のレーザ光L1をガウシアン形状の強度分布を有するビームで出射可能とされている。
また、上記波長変換素子3は、図2の(b)に示すように、未変換の基本波のレーザ光L1をいわゆるトップハット形状の強度分布を有するビームにパワー密度を調整して出射可能とされている。このトップハット形状の強度分布は、ガウシアン形状の中央部が平坦な形状、すなわち強度が一定となった強度分布である。
【0020】
上記光学系4は、直線偏光の第2高調波のレーザ光L2のみを円偏光にする偏光板7と、未変換の基本波のレーザ光L1と円偏光とされた第2高調波のレーザ光L2とを集光する集光レンズ8と、を備えている。
上記偏光板7は、基本波と第2高調波との両波長に対する減反射コーティングが施されたλ/4板である。
【0021】
また、上記集光レンズ8は、基本波と第2高調波との両波長に対する減反射コーティングが施されていると共に、第2高調波の波長に対して焦点距離:f=80〜300mmとされたレンズである。なお、焦点距離を上記範囲に設定した理由は、焦点距離が80mm未満であると、基本波レーザ光L1と第2高調波レーザ光L2との焦点位置の差が近くなり過ぎて基本波レーザ光L1によって溶融痕が生じるおそれがあるためであり、焦点距離が300mmを超えると、第2高調波レーザ光L2が集光され難くなるためである。
【0022】
このように本実施形態のレーザ加工装置1では、出射された第2高調波のレーザ光L2を加工対象物に焦点を合わせて集光すると共に、未変換の基本波のレーザ光L1を加工対象物Wに焦点を合わせず加工対象物Wが加工されないレーザ光強度に集光して加工対象物Wに照射するので、緩やかに集光された未変換波である基本波レーザ光L1は加工対象物Wを加工せずに励起させると共に、変換波である第2高調波レーザ光L2は加工対象物Wに最小ビーム径に集光されて加工を行う。
【0023】
したがって、長波長側の基本波レーザ光L1の影響による溶融痕が残らないと共に、緩やかに集光された基本波レーザ光L1によって加工対象物Wが励起されて加熱され、最小ビーム径に集光された第2高調波レーザ光L2での加工が効率良く行われる。
また、波長変換素子3が、非臨界位相整合または疑似位相整合により基本波と第2高調波とのウォークオフが起こらずに両方の波長のレーザ光を同軸に伝播させて出射する非線形光学結晶であるので、位相整合のための光路調整用の光学部品等が不要となる。
【0024】
さらに、波長変換素子3が、未変換の基本波のレーザ光L1をトップハット形状の強度分布を有するビームに調整して出射するので、トップハット型の中央部が平坦な強度分布とされた基本波レーザ光L1の集光がより緩やかになり、加工対象物Wの加工ポイント周囲を効果的に励起させることができる。
また、偏光板7で円偏光化された第2高調波のレーザ光L2を集光レンズ8で集光するので、偏光面の影響を無くして加工を行うことができる。
【実施例1】
【0025】
上記実施形態のレーザ加工装置により実際に加工対象物を加工し、評価した結果を以下に示す。
レーザ光源からは、波長1064nmの基本波レーザ光を10kHzで出射すると共に、波長変換素子としては、非臨界位相整合する方位に切断されたLiBを使用し、変換効率50%で第2高調波である波長532nmの高調波レーザ光を発生させた。これら基本波レーザ光と第2高調波レーザ光とは同軸に伝播し、さらに波長変換素子に入射した基本波レーザ光のビーム断面の強度分布は、パワー密度を調整してトップハット形状となっている。なお、波長変換素子は、温度調整部により170℃に温度調整した。
【0026】
また、偏光板および集光レンズには、1064nmと532nmとの両波長に対する減反射コーティングが施されている。さらに、集光レンズの焦点距離は、波長532nmに対してf=80〜300mmとされ、波長532nmの第2高調波レーザ光の焦点を集光レンズから近い距離で集光して加工対象物の表面に位置するように設定したと共に、波長1064nmの基本波レーザ光の焦点を波長532nmの高調波レーザ光の焦点より遠く、加工対象物の下に設定した。したがって、基本波レーザ光は集光レンズで結像される最小ビーム径になっていない状態で、加工対象物に照射した。
【0027】
この状態で加工対象物としてタングステンカーバイド(WC)を、幅20μm、深さ500μmで加工した。なお、比較のため、単一の第2高調波レーザ光(波長532nm)のみでも、同様にタングステンカーバイドに加工を行った。
これらの結果、単一の第2高調波レーザ光で加工した場合、送り速度が40mm/minであったのに対し、本実施例のレーザ加工装置により基本波レーザ光で加工対象物を励起状態としつつ第2高調波レーザ光で加工した場合、55mm/minの送り速度で加工することができた。このように、本実施例では、より高速で加工することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のレーザ加工装置は、特に脆性材料、難加工材であるセラミックスの切断、研削などの加工において好適なものである。
【符号の説明】
【0029】
1…レーザ加工装置、2…レーザ光源、3…波長変換素子、4…光学系、7…偏光板、8…集光レンズ、L1…基本波のレーザ光、L2…第2高調波のレーザ光、W…加工対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物にレーザ光を照射して加工する装置であって、
基本波のレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記基本波のレーザ光を1/2の波長とした第2高調波のレーザ光に波長変換して出射すると共に未変換の前記基本波のレーザ光を前記第2高調波のレーザ光と共に同軸で出射する波長変換素子と、
出射された前記第2高調波のレーザ光を前記加工対象物に焦点を合わせて集光すると共に、未変換の前記基本波のレーザ光を前記加工対象物に焦点を合わせず前記加工対象物が加工されないレーザ光強度に集光して前記加工対象物に照射する光学系と、を備えていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記波長変換素子が、非臨界位相整合または疑似位相整合により前記第2高調波を出射させる非線形光学結晶であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ加工装置において、
前記レーザ光源が、前記基本波のレーザ光をガウシアン形状の強度分布を有するビームで出射し、
前記波長変換素子が、未変換の前記基本波のレーザ光をトップハット形状の強度分布を有するビームに調整して出射することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置において、
前記光学系が、直線偏光の前記第2高調波のレーザ光のみを円偏光にする偏光板と、
未変換の前記基本波のレーザ光と円偏光とされた前記第2高調波のレーザ光とを集光する集光レンズと、を備えていることを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−161483(P2011−161483A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27035(P2010−27035)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】