説明

レーザ接合方法

【課題】
熱可塑性樹脂同士もしくは樹脂と金属との界面強度を向上させ、強固に接合可能とした上で、隙間の存在による接合不良を大幅に低減可能とするレーザ接合方法を提供する。
【解決手段】
接合前に、少なくとも第一の熱可塑性樹脂の接合界面側には、表面改質処理を施すことによりバルク熱可塑性樹脂に比べ酸素官能基を多く含有した酸化層を形成する工程を有し、第二の熱可塑性樹脂もしくは金属の間に液状の中間材を介在させた状態で、加圧し、レーザ照射して接合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性から成る樹脂同士もしくは樹脂と金属をレーザにより溶着もしくは接合することを特徴とするレーザ接合技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた加工性と形状の自由度が大きいため、自動車や電機機器や医療・バイオ機器など一般産業用途に広く用いられており、熱可塑性樹脂が使われていない分野はないと言えるほど普及し、身近な材料となっている。当初は、木材や紙などの天然素材の代替として利用されていたが、今やプラスチック材料でなければつくり得ないという特殊な製品も数多く開発されるようになった。そのため、最適な材料を最適な加工方法で設計開発に生かせれば、今までにない新しい製品を生み出す可能性が残されている。
【0003】
特に、近年の製品の構造の複雑化及び低コスト化の流れにより、熱可塑性樹脂のメリットを生かした設計がなされ、熱可塑性樹脂同士もしくは熱可塑性樹脂と金属に対応した2次加工技術が重要となってきている。その中でも、近年、レーザを用いる方法を検討されることが多くなってきた。異種材料の接合として、特許文献1には、第1の樹脂部材と相溶性の小さい第2の樹脂材の間に、互いのアロイ材料を介在させた状態で、レーザ光を照射することにより、接合可能なことが記載されている。特許文献2には、アクリル樹脂とサンドペーパーで荒らされた凹凸面を持つ他の樹脂材料もしくは金属材を密着させた状態で、レーザ照射することにより、アクリル樹脂が凹凸面に食い込むことで、強固な接合が形成されることが記載されている。特許文献3には、レーザ光に対して非透過性の第1部材と、第1部材と同一又は異なる材料からなる第2部材との間に、弾性率が1000MPa以下のレーザ接合用中間材を設けることで、中間部材を溶融させ、接合することが示されている。特許文献4には、レーザ溶着前の樹脂に表面改質処理を用いるが、強度向上には有効なことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−18961号公報
【特許文献2】特開2006−15405号公報
【特許文献3】特開2009−269401号公報
【特許文献4】特開2009−116966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1で開示されている技術では、互いのアロイ材料を介在させることが述べられているが、組み合わせによっては、アロイ材が作製できないなど、材質に大きな制限があった。また、固体であるアロイ材を介在させると、加圧時にずれが生じてしまう問題もあることがわかった。さらに、アロイ材自体が特殊であるため、コストも高くなるという課題もあった。
【0006】
上記特許文献2で開示されている技術では、レーザ透過側の樹脂に、アクリルのような酸素官能基を持つ熱可塑性樹脂を用いた場合では有効であるが、酸素官能基を持たない熱可塑性樹脂を用いた場合には、接合強度が低いことが判明した。
【0007】
上記特許文献3で開示されている技術では、中間部材としてエラストマーを用いるが、エラストマー自体の弾性率が小さいため、弾性率に依存するせん断強度が比較的小さいという課題があった。また、エラストマー自体が特殊であるため、コストも高くなるという課題があった。
【0008】
上記特許文献4で開示されている技術では、レーザ溶着前の樹脂に表面改質処理を用いることで異種樹脂の溶着は可能となるが、樹脂同士において隙間が大きく発生する場合は、溶着不良となることが多々あり、改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、レーザ照射前に少なくとも一方の熱可塑性樹脂にドライな表面改質処理を用いて熱可塑性樹脂の接合面側にバルク材に比べ酸素官能基を多く含んだ酸化層を形成し、もう一方の熱可塑性樹脂もしくは金属との間に粘度の低い中間材を含有した状態で加圧しながらレーザ照射することにより、強固に接合でき、その上隙間の発生に対してロバストな接合が可能なことを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接合部の界面の密着性を向上させるとともに、隙間の存在による溶着不良を低減でき、信頼性の高い接合を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂同士のレーザ接合方法の一実施例を示す図である。
【図2】透過樹脂にCOP、光吸収樹脂にPPSを用い、表面改質処理、中間材、加圧力をパラメータとし、溶着した時の強度の評価結果を示す図である。
【図3】透過樹脂にCOP、光吸収樹脂にPA6Tを用い、表面改質処理、中間材、加圧力をパラメータとし、溶着した時の強度の評価結果を示す図である。
【図4】本発明の熱可塑性樹脂同士のレーザ接合方法の他の実施例を示す図である。
【図5】本発明の熱可塑性樹脂同士のレーザ接合方法の他の実施例を示す図である。
【図6】本発明の熱可塑性樹脂と金属のレーザ接合方法の一実施例を示す図である。
【図7】本発明の熱可塑性樹脂と金属のレーザ接合方法の他の実施例を示す図である。
【図8】本発明の熱可塑性樹脂同士もしくは熱可塑性樹脂と金属のレーザ接合方法の他の実施例を示す図である。
【図9】本発明のレーザ接合方法の適用を想定したDNAシーケンサ用のフローセルの模式図である。
【図10】本発明のレーザ接合方法の適用を想定したDNAシーケンサ用のフローセルの模式図の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本発明で用いる熱可塑性樹脂は、非結晶性もしくは結晶性樹脂からなる。非結晶性樹脂としては、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリメチルメタアクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニルデン(PVDC)が挙げられる。結晶性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロプレン(PP)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン6T(PA6T)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。また、それらのアロイ材やフィラーを含んだ熱可塑性樹脂も対象となる。樹脂の形態としては、一般的な成形品のみならず、フィルム(多孔質膜を含む)も対象となる。一般的には、成形性や透明性は非結晶性樹脂が優れているのに対し、結晶性樹脂は耐熱性や耐薬品性に優れている。さらに、樹脂は熱可塑性のみならず熱硬化樹脂を用いても良い。
【0013】
金属としては、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、金、チタン、合金(ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム合金、リン青銅など)、ダイカストなど挙げることができる。また、本発明では、金属被膜(メッキ、蒸着膜など)も対象となる。なお、金属のみならずセラミクスも本手法の範囲である。
【0014】
レーザ溶着もしくは接合の条件は、材料のレーザ照射波長における透過・吸収率、熱伝導率を考慮した上で、レーザスポットサイズ、パワー、照射時間、加圧力を決定する。レーザ接合に用いる光源は、半導体レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザを含めた赤外領域のレーザが好ましい。レーザ光源の強度分布は、ガウシアン、トップハット、リング型など付属するレンズによって様々な強度分布にすることが可能であるが、溶着状態を均一にしやすいという点で、トップハット型もしくは中央部の強度が最大値の50%以上となるリング型の強度分布を用いた光源を使用することが望ましい。
【0015】
また、レーザ溶着もしくは接合では、加圧を行う必要があるため、加圧に用いる加圧材は、透明な材料を用いるのが良い。但し、レーザ照射側の材質の十分な放熱を考慮すると、特に熱伝導率が高いガラスを用いることが望ましい。さらに、加圧材の表面は鏡面仕上げにしておくことが望ましい。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の樹脂同士のレーザ接合方法の実施例を示す断面図である。本実施例では、光透過性の第一の熱可塑性樹脂1と、第一の熱可塑性樹脂1よりも光吸収性が大きい第二の熱可塑性樹脂2からなり、レーザ溶着前に、少なくとも第一の熱可塑性樹脂1の接合界面側に、表面改質処理を施し、バルクの第一の熱可塑性樹脂に比べ、接合界面に酸素を多く含んだ酸化層3を形成し、液状の中間材4を介した状態で、加圧し、レーザ溶着する。
【0017】
中間材4は、互いの熱可塑性樹脂間1、2の隙間を十分に埋められる液状(コロイド溶液(ゾル)も含む)の材料を用いるのが良い。そのためには、特に、粘度1000mPa・s以下の部材を用いるのが良く、純水、アルコールなど可燃性の低い溶剤、プライマー、接着剤は好適な材料である。その場合、中間材4として光を透過する材料の方が良い。
【0018】
レーザ接合前に、第一の熱可塑性樹脂に表面改質処理を行い、樹脂の表面に酸素を導入する。表面改質処理としては、環境性、部品へのダメージ、他の部品への影響を考慮すると、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、短パルス(パルス幅が数100ピコ秒以下)レーザ処理のいずれかのドライ処理を用いると良い。プラズマ処理としては、酸素官能基を導入することが最も重要なことを考慮すると、主に酸素プラズマ、窒素プラズマ処理が有効である。熱可塑性樹脂1、2の酸素が含有された酸化層は少なくとも数nm以上あることが望ましい。そのような処理を施すことで、第一の熱可塑性樹脂1の主鎖や側鎖のCC、CH結合を切り、CO、COO、C=Oなどの酸素官能基を生成・増加させ、表面エネルギーが増大する。また、例えば、熱可塑性樹脂1、2にPPSを用いた場合はSOHと極性の大きい極性基も新たに生成する。そのため、本構成では、樹脂に極性基を持っていない異種樹脂材の組み合わせの場合は特に有効である。なお、表面改質処理前には、第一の熱可塑性樹脂1もしくは第二の熱可塑性樹脂2には、一度アルコールなどで脱脂することが望ましい。
【0019】
接合界面へのレーザ照射は、光透過性の第一の熱可塑性樹脂を介して行う。レーザ溶着は、レーザ照射により、光吸収性が大きい第二の熱可塑性樹脂2が溶融もしくは軟化し、第一の熱可塑性樹脂1に濡れるもしくは密着することで起こる。そのため、表面改質処理は、光透過する第一の可塑性樹脂1に少なくとも実施し、第一の熱可塑性樹脂1の表面エネルギー≧光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2の表面エネルギーとする必要がある。光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2にも表面改質処理を実施した場合にも、上記表面エネルギーの関係とする必要がある。さらに、異種樹脂を溶着する場合、第二の熱可塑性樹脂2のガラス転移温度もしくは融点≧第一の熱可塑性樹脂1のガラス転移温度もしくは融点とした組み合わせとしておくことが望ましい。一般的に、非結晶性樹脂の場合にはガラス転移温度のみ存在し、明確な融点は示さないのに対して、結晶性樹脂の場合は、ガラス転移温度と融点が明確に存在する。レーザ溶着においては、非結晶性樹脂はガラス転移温度を、結晶性樹脂の場合は、融点を考慮して、上記関係を満たす必要がある。
【0020】
熱可塑性樹脂1や2に表面改質処理を実施後、中間材4として純水を含有した状態でレーザ溶着し、引張りせん断強度を測定した結果を図2及び3に示す。図2は、光透過性の第一の熱可塑性樹脂1にCOPを、光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2にPPSを用い、各樹脂へのプラズマ処理の実施有無、中間材有無、加圧力をパラメータとして評価した結果である。なお、スポットサイズ1.5mm、レーザパワー6Wのレーザ光を、10mm/sで1.0mm走査することで溶着した。その溶着したサンプルを、速度1.0mm/min.で引張り、その破壊強度を測定した。また、溶着後の面積と破壊強度から単位面積当たりの溶着強度を算出した。図3は、第二の熱可塑性樹脂2に、極性基も持つPA6Tを用い、レーザパワー7Wで溶着した。他の条件は、第二の熱可塑性樹脂2にPPSを用いた場合と同様である。第二の熱可塑性樹脂2のPPSとPA6Tはフィラーとしてセラミクスを含んだ高熱伝導グレードのものを用いており、また、カーボンブラックを含有し、黒色に着色している。COPに表面改質処理を施した場合は、表面改質処理を施したPPSとPA6よりも表面エネルギーが大きい状態としている。
【0021】
図2及び図3より、少なくとも極性基を含んでいない第一の熱可塑性樹脂1であるCOPにプラズマ処理を実施しない場合、接合できず(接合強度0)、表面改質処理をすることは有効であることがわかった。第一の熱可塑性樹脂に表面改質を行った場合には、いずれも接合ができている。中間材4として用いた純水の存在により、表面改質処理の効果がなくなることはなく、高い溶着強度が得られることを見出した。その上、加圧力を小さくした場合は、中間材4である純水が存在した方が強度の低下の割合が小さいことも見出した。
【0022】
中間材4を含有せず、成形時のひけなどにより隙間が発生してしまう場合、隙間部分は空気が存在する。空気の熱伝導率は例えば100℃で0.032W/mKと非常に小さいため、レーザ照射時に、光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2の熱膨張によって、第一の熱可塑性樹脂1への接触が起こらない場合、第一の熱可塑性樹脂1への十分な熱伝導が起こらず、光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2は、異常な発熱により熱分解し、溶着不良となる。また、密着した場合でも局所的にのみの場合は、不十分な溶着となる。一方で、水の熱伝導率は80℃で0.67W/mKと、空気に比べ20倍程度大きく、中間材4として使用することで、光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2の熱膨張時に、熱伝導を起こしやすくすることが可能となる。したがって、中間材4は、粘度が1000mPa・s以下であるとともに、熱伝導率が少なくとも0.2W/mK以上の液状の材質を用いることが望ましい。また、中間材4を介することで、第一の熱可塑性樹脂1の接合面の界面での反射の影響を減らすことが可能となり、より効果的に溶着することも可能となる。
【0023】
以上より、中間材4を含有することは、隙間が発生した場合でも、溶着強度の低減の割合を小さくできるロバストな方法である。また、事前に中間材4を併用することで、密着しているため、加圧時に位置ずれが起こらないこともメリットである。その場合、加圧前に事前に位置だしできるという点で工程によっては有利となる場合もある。なお、本実施例では、熱可塑性樹脂材の形態として。剛性の低いフィルムを用いた場合など、加圧による密着を確保することが困難な場合において特に有効な方法である。また、最近では多くの製品に例えば不織布のような多孔質膜が使われるようになっている。多孔質膜の場合は、レーザの散乱により溶着部までレーザ光が届かないという問題がある。そのため、中間材を含有することにより、屈折率差による光の反射を減らすことができ、効率の良い光透過も可能となる。そのため、本実施例による方法により、異種材でかつ多孔質膜を用いた場合でも信頼性の高い溶着が可能となる。
【0024】
第一の熱可塑性樹脂1に加え、第二の熱可塑性樹脂2にも表面改質処理を事前に実施し溶着した場合、極性基の割合が多くなるため、溶着する樹脂によっては、初期強度は増加する。しかし、高温高湿試験など水蒸気が多く含まれる雰囲気で一部が剥離する場合がある。そのような場合には、図4で示したように、第二の熱可塑性樹脂2の一部のみに表面改質処理を実施し、レーザ照射領域のうち、第二の熱可塑性樹脂2の酸化層6の有無の領域を設け、表面改質を行った領域と行わない領域の両方のまたがるようにレーザ照射すると良い。このような形態は特に封止構造で有効な手段である。
【0025】
また、熱可塑性樹脂の組み合わせによっては、図5のように、第一の熱可塑性樹脂1側に微細な凹凸7を形成し、第一の熱可塑性樹脂1の粗さ>光吸収性を持つ第二の熱可塑性樹脂2の粗さとしておくことも有効である。この微細な凹凸4は、シボ加工を用いると良い。その場合凹凸はRa3μm以下としておくと良い。凹凸を形成することにより、部材間の距離が大きくなるが、中間材4を用いることで、熱伝導の低下を抑えることができる。
【0026】
通常、熱可塑性樹脂材は、帯電により異物が吸着しやすく、また、成形時の離形材の残りが存在する場合があり、その場合、溶着しにくいという問題がある。そのため、本構成は、異種熱可塑性樹脂のみならず同種の熱可塑性樹脂同士の溶着にも有効な方法である。特に、同種樹脂でも表面エネルギーが小さく、中間材4が濡れにくい構成では特に有効である。また、熱可塑性樹脂のみならず、熱硬化樹脂も有効な範囲に含まれる。
【実施例2】
【0027】
図6は、本発明の樹脂と金属のレーザ接合方法の実施例を示す断面図である。接合前の第一の熱可塑性樹脂1の接合界面側に、表面改質処理を施し、第一の熱可塑性樹脂1と金属8の間に液状の中間材4を介した状態で、金属8側を加圧する。実施例1とは異なり、金属8側からレーザ光11を入射させてレーザ接合する。このような構成とすることで、レーザ溶着の課題の一つである熱可塑性樹脂材の透過率の問題は解決する。但し、この場合、金属8の厚みは4mm以下と薄い方が良い。さらに、レーザ光11を照射する金属8面は事前に黒色処理を行っておくと、レーザの吸収率が上がって必要なレーザパワーを下げられ、望ましい形態である。一方で、第一の熱可塑性樹脂1のレーザ光に対する透過率が50%以上と高い場合は、実施例1と同様に第一の熱可塑性樹脂1側からレーザ光11を照射しても良い。その場合は、金属8の厚みは問題とならない。
【0028】
なお、金属8の表面に異物などが付着している場合は、事前にアルコールなどで脱脂することが望ましい。さらに、金属8側にも表面改質処理を実施することも有効である。ただし、異物が強固に付着している場合や付着物が無機物である場合は、RIE(Reactive Ion Etching)方式のプラズマ処理やレーザ処理が最も好適な方法となる。
【0029】
樹脂と金属のレーザ接合では、熱可塑性樹脂1のガラス転移温度もしくは融点と金属8の融点に大きな差があるため、熱可塑性樹脂1側が溶融もしくは軟化し、金属8に濡れて接合する。そのため、図7のように、金属8側の界面に微細な凹凸12を設けることも強度向上において有効である。凹凸の形成により、部材間の距離は大きくなるが、中間材4を用いることで、熱伝導の低下を抑えることができる。微細な凹凸12は、ブラストもしくはレーザ処理などを実施しておくことがより好適である。金属の粗さとしては、Ra5μm以下としておくと良い。
【0030】
このように、金属8の界面に微細な凹凸12を形成することで、実表面積が大きくなるため、濡れる表面はより濡れる効果が促進される。また、濡れが強調され、界面強度が向上するだけでなく、アンカー効果も発現するため、接合強度はより向上する。したがって、界面強度向上とアンカー効果の複合化により、すべての方向の接合強度が向上するため、望ましい構成である。
【0031】
以上のような方法とすることで、樹脂同士の場合と同様に隙間が存在した場合でも、信頼性の高い樹脂1と金属8の接合を得ることが可能となる。
【実施例3】
【0032】
図8は、本発明の樹脂同士もしくは樹脂と金属のレーザ接合方法の他の実施例を示す断面図である。図8では、加圧材10により、第一の熱可塑性樹脂1を接合を行う方向(図面の下の方向)へ加圧している。第一の熱可塑性樹脂1のレーザ光11に対する透過率が20%程度と比較的低い場合、レーザ光11を照射すると、組み合わせによっては、必要なパワーが大きくなり、レーザ照射側の熱可塑性樹脂1の最表面が炭化してしまい、レーザ接合できないもしくは加圧材に密着してしまうなど問題となる場合がある。また、熱伝導率の高い加圧材10であるガラスで加圧した場合でも、ガラスと熱可塑性樹脂1の表面が界面レベルで接触することは不可能である。そのため、熱可塑性樹脂1のレーザ照射側の表面にも表面改質処理を施し、加圧材10であるガラスとの間に中間材14を含有させ、隙間を完全に埋めた状態とした上で、接合することが有効となる。このようにすることにより、熱可塑性樹脂1と中間材14との界面の反射の低減やガラスへの放熱性向上により、熱可塑性樹脂1の炭化を抑制することが可能となる。
【実施例4】
【0033】
図9は、本発明のレーザ接合方法を用いて、DNAシーケンサ用フローセル15の流路部16の周りを封止した時の一例を示す斜視図である。また、図10は、DNAシーケンサ用フローセル15の上面図である。試薬は、孔17から出入りし、封止溶着部18の内側の流路16を流れる。
【0034】
第二の熱可塑性樹脂2には、表面処理を実施した領域21と表面改質処理を実施しない領域20を設けて、その部分を追加で封止する構造とすると良い。19は追加封止部である。そのような構造とすることにより、流路部16の封止部18、19が外部から湿度の影響を受けにくい構成とすることが可能となる。なお、その場合も図4で示したように、流路内の試薬が接触する領域は、第二の熱可塑性樹脂2には表面処理を実施せず、溶着すると良い。
【0035】
中間材4は、特に、バイオ系や医療系部品の場合、接着剤は用いたくない場合が多く、その場合は純水やアルコールなど可燃性の低い溶剤など揮発する材質を用いると良い。一方で、電子部品が実装されたセンサやコネクタなどの場合には、中間材4として接着剤を用いることが有効となる。接着剤を用いる場合、溶着後に硬化過程は必要となるが、レーザによる直接接合に加え、接着による強度向上効果も寄与することから非常に大きい強度を得ることが可能となる。また、直接接合の部分が存在するため、接着剤単体で封止した場合に比べ、高い気密性と溶剤耐性を得ることも可能となる。
【0036】
以上で述べた製品例のみならず、構造上レーザ接合を適用できれば、本方法はそれら製品全般に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
近年の製品の構造の複雑化により、熱可塑性樹脂の金属のそれぞれのメリットを生かした設計がなされ、それらの2次加工技術が重要となってきている。レーザによる接合は、最近注目されている技術ではあるが、構造によっては隙間管理が非常に難しいという課題がある。以上述べた各実施例を用いれば、熱可塑性から成る樹脂同士もしくは樹脂と金属とを、レーザにより接合でき、かつ隙間の影響による信頼性の低減を大幅に抑制することが可能となる。そのため、製品の高信頼化や低コスト化にも寄与することが可能となる。また、レーザによる接合は、他の2次加工技術に比べ、クリーンな技術であるため、環境負荷が小さいというメリットもある。
【符号の説明】
【0038】
1…第一の熱可塑性樹脂、2…第二の熱可塑性樹脂、3…第一の熱可塑性樹脂の接合界面の酸化層、4…接合面に介在した中間材、5…溶着部(溶融プール)、6…第二の熱可塑性樹脂の接合界面の酸化層、7…第一の熱可塑性樹脂に形成した微細凹凸、8…金属、9…レーザ接合部、10…加圧材、11…レーザ光、12…金属に形成した微細凹凸、13…第一の熱可塑性樹脂の接合面と反対側の酸化層、14…加圧材と第一の熱可塑性樹脂に介在した中間材、15…DNAシーケンサ用フローセル、16…流路、17…孔、18…封止溶着部、19…追加封止溶着部、20…第二の熱可塑性樹脂の酸化層を形成しない領域、21…第二の熱可塑性樹脂の酸化層を形成する領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の被接合部材である第一の熱可塑性樹脂の接合界面側に、酸素官能基を導入して酸化層を形成する表面改質工程と、
前記第一の被接合部材と第二の被接合部材の間に中間材を介在させた状態で、加圧し、レーザ照射して前記第一の被接合部材と第二の被接合部材を接合界面で接合する接合工程と、
を含み、
前記中間材は、液状(コロイド溶液状を含む)であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ接合方法において、
前記中間材は、粘度1000mPa・s以下であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ接合方法において、
前記第二の被接合部材は、第二の熱可塑性樹脂であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂のガラス転移温度または融点に比べ、前記第二の熱可塑性樹脂のガラス転移温度または融点が大きい状態で、レーザ接合することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のレーザ接合方法において、
前記第二の熱可塑性樹脂の表面エネルギーに比べ、前記第一の熱可塑性樹脂の表面エネルギーを大きくした状態で、レーザ接合することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれかに記載のレーザ接合方法において、
前記第二の熱可塑性樹脂の表面粗さに比べ、前記第一の熱可塑性樹脂の表面粗さを大きくしたことを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のレーザ接合方法において、
前記第二の接合部材は、金属であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂の表面エネルギーに比べ、前記金属の表面エネルギーを大きくした状態で、レーザ接合することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂の表面粗さに比べ、前記金属の表面粗さを大きくした状態で、レーザ接合することを特徴とする樹脂と金属のレーザ接合方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかにおいて、
前記金属の前記接合界面とは反対側からレーザ照射することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂を介して前記接合界面にレーザ照射することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載のレーザ接合方法において、
前記第二の被接合部材の接合面の少なくとも一部にも表面改質処理を実施し、表面改質処理された部分にレーザ照射し、接合することを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項13】
請求項11に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂の接合界面と反対側の側に表面改質処理を施し、
当該表面改質を行った領域から前記第一の熱可塑性樹脂に前記レーザを導入して、前記接合界面にレーザ照射し、接合することを特徴とするのレーザ接合方法。
【請求項14】
請求項1乃至13に記載のレーザ接合方法において、
前記表面改質は、UVオゾン、プラズマ、コロナ処理、短パルスレーザ処理のいずれかのドライ処理であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項15】
請求項1乃至14に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂の主鎖には、極性基を含まない熱可塑性樹脂であることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項16】
請求項1乃至15に記載のレーザ接合方法において、
前記第一の熱可塑性樹脂は、フィルムであることを特徴とするレーザ接合方法。
【請求項17】
請求項1乃至16に記載のレーザ接合方法において、
レーザ光を照射し走査することにより、前記第一の被接合部材と前記第二の被接合部材を接合する封止部を複数形成することを特徴とするレーザ接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−223889(P2012−223889A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90631(P2011−90631)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】