説明

レーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法

【課題】肉盛品質を向上することができるレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法を提供する。
【解決手段】第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する第1レーザ照射手段と、第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する第2レーザ照射手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法に関する。本発明は、特に、内燃機関のシリンダヘッドのバルブシート部を形成するレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、たとえば、内燃機関のシリンダヘッドの材料として、鉄に比べて軽量化を図れることから、アルミニウム系材料が用いられている。
【0003】
アルミニウム系材料の耐熱性および耐摩耗性などを高める技術として、切削加工により溝部が形成された母材上に、銅などの粉末を供給するとともにレーザ光を照射し、銅を溶融および凝固させて肉盛部を形成するレーザクラッド加工方法が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このようなレーザクラッド加工方法では、切削加工における工具磨耗および加工ばらつきなどにより溝部の幅がレーザ光のビーム幅よりも狭く形成される場合、肉盛材料に母材が希釈して肉盛部が脆くなり割れが発生するといったおそれがある。
【特許文献1】特開2002−129920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、肉盛品質を向上することができるレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
本発明のレーザ肉盛装置は、第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する第1レーザ照射手段と、前記第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を前記溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する第2レーザ照射手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のレーザ肉盛方法は、第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する段階と、前記第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を前記溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する段階と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法によれば、肉盛部を形成するために溝部に照射するレーザ光のビーム幅と溝部の幅とを同一にすることができる。したがって、溝部の幅がレーザ光のビーム幅よりも狭いことに起因する肉盛部の割れが抑制され、肉盛品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下の実施の形態では、本発明のレーザ肉盛装置を用いて、内燃機関のシリンダヘッドにおけるバルブシート部を形成する場合を例にとって説明する。以下の実施の形態において、シリンダヘッド自体はアルミニウム合金から形成されており、バルブシート部の耐熱性および耐摩耗性などを高めるために、銅合金からなる肉盛部(肉盛層)が形成されてバルブシート部をなす。なお、図中、同様の部材には同一の符号を用いた。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるレーザ肉盛装置の概略構成を示す図である。図1に示されるとおり、本実施の形態のレーザ肉盛装置100は、レーザ照射部10、肉盛材料供給部20、移動部30、および制御部40を備える。
【0012】
レーザ照射部10は、シリンダヘッド50に第1レーザ光を照射して溝部(前溝部)を形成するとともに、同じビーム幅の第2レーザ光を溝部に照射して肉盛部を形成するものである。レーザ照射部10は、肉盛材料供給部20から供給される肉盛材料に第2レーザ光を照射して肉盛材料を加熱溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する。本実施の形態のレーザ照射部10は1台のレーザ発振器から構成され、第1および第2レーザ光は同一のレーザ発振器から照射される。レーザ照射部10は、制御部40に電気的に接続されており、レーザ光の出力にかかわらず、一定のビーム幅のレーザ光を照射することができる。レーザ照射部10は、たとえば、複数の半導体レーザから構成されるダイレクトダイオードレーザ(以下、DDLと称する)発振器である。
【0013】
肉盛材料供給部20は、シリンダヘッド50の溝部に粉体状の肉盛材料を供給するものである。肉盛材料供給部20は、制御部40に電気的に接続されており、レーザ照射部10からのレーザ光の照射に合わせて、ノズル21から粉体状の肉盛材料(たとえば、粉体状の銅合金)を溝部に供給することができる。本実施の形態では、肉盛材料供給部20から供給される肉盛材料と第2レーザ光とが所定の位置で交わるように、レーザ照射部10に対して肉盛材料供給部20は配置される。なお、肉盛材料供給部20自体は、一般的なクラッド加工に用いられる肉盛材料供給装置であるため詳細な説明は省略する。
【0014】
移動部30は、レーザ照射部10および肉盛材料供給部20とシリンダヘッド50とを相対的に移動させるものである。本実施の形態における移動部30は、直交3軸の直動駆動部と回転駆動部とから構成される。より具体的には、駆動部30は、回転駆動部をX方向に移動させるXステージ31と、Xステージ31の上方でレーザ照射部10および肉盛材料供給部20をY方向に移動させる門型の直動機構32と、門型の直動機構32上でレーザ照射部10および肉盛材料供給部20をZ方向に移動させる直動機構33とを有する。回転駆動部は、たとえば、回転ステージ34であって、Xステージ31上に設けられる。シリンダヘッド50は、冶具60を介して回転ステージ34上に設置される。
【0015】
制御部40は、レーザ照射部10、肉盛材料供給部20、および駆動部30を制御するものである。本実施の形態において、制御部40は、駆動部30に設置されたシリンダヘッド50に第1レーザ光を照射して溝部を形成した後、引き続き溝部に第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するようにレーザ照射部10を制御する。
【0016】
以上のとおり、構成される本実施の形態のレーザ肉盛装置100によれば、第1レーザ光が照射されて溝部が形成された後、当該溝部に粉体状の肉盛材料が供給されるとともに第2レーザ光が照射され、当該溝部に肉盛部が形成される。以下、本実施の形態のレーザ肉盛装置100において、バルブシート部をなす肉盛部をシリンダヘッド50に形成する処理について述べる。
【0017】
図2は、本実施の形態におけるレーザ肉盛装置において肉盛部を形成する処理を示すフローチャートである。本実施の形態では、シリンダヘッド50が固定用冶具60を介して回転ステージ34に予め固定される。このとき、回転ステージ34の回転軸と溝部および肉盛部が形成されてなるバルブシート部の軸線(すなわち、バルブの軸線)とが一致するように、シリンダヘッド50は回転ステージ34に位置決めされる。
【0018】
図2に示されるとおり、本実施の形態のレーザ肉盛処理では、まず、シリンダヘッド50が回転される(ステップS101)。より具体的には、制御部40からの指示を受けて回転ステージ34が所定の回転速度で回転することにより、バルブシート部が形成される円形状の開口部の軸線に沿って、シリンダヘッド50が回転される。
【0019】
次に、回転されるシリンダヘッド50に対して第1レーザ光が照射される(ステップS102)。その結果、第1レーザ光が照射された状態でシリンダヘッド50が回転することにより、バルブシート部が形成される位置に沿ってシリンダヘッド50がレーザ加工され、溝部が形成される。
【0020】
そして、レーザ加工が終了したか否かが判断される(ステップS103)。本実施の形態では、たとえば、第1レーザ光が照射された状態で、回転ステージ34が一周したか否かを判断することによって、レーザ加工が終了したか否かが判断される。レーザ加工が終了していない場合(ステップS103:NO)、加工が終了するまで第1レーザ光の照射を維持する。一方、レーザ加工が終了した場合(ステップS103:YES)、第1レーザ光の照射を停止する(ステップS104)。
【0021】
以上のとおり、ステップS101〜S104に示す処理によれば、シリンダヘッド50においてバルブシート部が形成される位置にリング状の溝部が形成される。なお、第1レーザ光でのレーザ加工に要する時間を短縮するために、第1レーザ光により溝部が形成されるシリンダヘッド50上の位置には、第1レーザ光のビーム幅よりも狭くかつ溝部の深さよりも深いリング状の凹部がシリンダヘッド50の鋳造時に形成されていることが好ましい。
【0022】
次に、レーザ光の出力が変更される(ステップS105)。より具体的には、レーザ照射部10のレーザ出力が、レーザ加工可能な第1レーザ光のレーザ出力から肉盛材料を加熱溶融可能な第2レーザ光のレーザ出力に変更される。本実施の形態において、第1レーザ光のレーザ出力は、第2レーザ光のレーザ出力よりも大きい。
【0023】
次に、回転されるシリンダヘッド50の溝部に対して第2レーザ光が照射されるとともに、粉体状の肉盛材料が溝部に供給される(ステップS106,S107)。その結果、バルブシート部に対応する位置の溝部がクラッド加工されて肉盛部が形成される。上述したとおり、第2レーザ光のビーム幅は溝部を形成するために用いられた第1レーザ光のビーム幅と等しく、言い換えれば、本実施の形態では、溝部の幅と等しいビーム幅の第2レーザ光によってクラッド加工が実施される。
【0024】
次に、クラッド加工が終了したか否かが判断される(ステップS108)。本実施の形態では、たとえば、第2レーザ光が照射された状態で、回転ステージ34が一周したか否かを判断することによって、クラッド加工が終了したか否かが判断される。クラッド加工が終了していない場合(ステップS108:NO)、加工が終了するまで第2レーザ光の照射および肉盛材料の供給を維持する。一方、クラッド加工が終了した場合(ステップS108:YES)、第2レーザ光の照射および肉盛材料の供給を停止する(ステップS109,S110)。そして、回転ステージ34の回転が停止され(ステップS111)、処理が終了される。
【0025】
以上のとおり、ステップS105〜S111に示す処理によれば、リング状の溝部に沿って当該溝部を覆うようにリング状の肉盛部が形成される。リング状の肉盛部はシリンダヘッド50のバルブシート部をなす。そして、図2に示すフローチャートの処理によれば、溝部と肉盛部とを同一のレーザ発振器からのレーザ光を用いて加工することができるため、加工装置を取り替えたり、シリンダヘッド50を回転ステージ34から取り外したりする必要がなく、シリンダヘッド50の取り外しに起因する第2レーザ光と溝部との位置ずれを抑制することができる。
【0026】
以下、図3および図4を参照しつつ、上述したフローチャートに示すレーザ光の照射により溝部および肉盛部を形成する処理について、比較例とともに詳細に説明する。
【0027】
図3は、本実施の形態におけるシリンダヘッドのバルブシート部をなす肉盛部を形成するレーザ肉盛方法を説明するための図である。上述したとおり、本実施の形態のレーザ肉盛方法では、第1レーザ光による溝加工の時間を短縮するために、第1レーザ光12aのビーム幅Wよりも狭くかつ溝部51の深さLよりも深い凹部52がシリンダヘッド50とともに鋳造により形成されている(図3(A)参照)。凹部52は、バルブシート部が形成される位置にリング状に形成されている。ここで、第1レーザ光12aで母材が溶融されることにより広がる凹部52の幅方向の領域と、溶融された材料が流れ込んで浅くなる当該凹部52の深さ方向の領域とが同じ大きさを有するように、凹部52は形成されていることが好ましい。より具体的には、図3(B)に示されるとおり、溝部51の断面において、溶融された材料が流れ落ちる凹部52の角部および側面に対応する領域Sと、溶融した材料が流れ込んで溜まる凹部52と溝部51との深さの差に対応する領域Sとが同じ面積を有するように、凹部52が形成される。
【0028】
このような凹部52に第1レーザ光11が照射されることにより、溝部51が形成される(図3(B)参照)。
【0029】
そして、シリンダヘッド50を冶具60から取り外すことなく、引き続き第1レーザ光と同じビーム幅を有する第2レーザ光12bが同一のレーザ発振器から照射されるとともに、粉体状の肉盛材料が供給される(図3(C)参照)。その結果、溝部51を覆って上方に突出する肉盛部53が形成される(図3(D)参照)。
【0030】
このように、本実施の形態のレーザ肉盛方法によれば、シリンダヘッド50を冶具60から取り外すことなく、溝部51と肉盛部53とを連続的に形成することができる。したがって、シリンダヘッド50の取り外しによる位置決め動作を省略できるとともに、第1レーザ光と第2レーザ光との位置ずれ、すなわち、溝部と第2レーザ光との位置ずれを抑制することができる。また、切削加工を用いることなく溝部を形成することができるため、切削加工の加工精度に依存することなく、溝部を形成することができる。
【0031】
図4は、比較例として、切削加工を用いた一般的なレーザ肉盛方法により形成されるバルブシート部を説明するための図である。一般的なレーザ肉盛方法では、切削加工を用いて溝部が形成される。より具体的には、一般的なレーザ肉盛方法では、鋳造されたシリンダヘッド50に切削加工によって溝部51が形成され、洗浄および乾燥工程を経た後、当該溝部51にレーザ光が照射されるとともに肉盛材料が供給されて肉盛部53が形成される。なお、肉盛部53が仕上げ加工される点は、本実施の形態と同様である。
【0032】
このような一般的なレーザ肉盛方法では、溝部の幅は切削加工の加工精度により決定されるため、切削加工時の工具磨耗および加工ばらつきなどがある場合、溝部の幅とレーザ光のビーム幅とが異なることがある。したがって、溝部の幅よりもレーザ光のビームの幅が大きい場合、母材の希釈による割れ55が発生するおそれがある(図4(A)参照)。一方、溝部の幅よりもレーザ光のビーム幅が小さい場合、肉盛材料が未溶着となり未溶着部が発生するおそれがある。
【0033】
さらに、切削加工装置とレーザクラッド加工装置が個別に設けられる場合、切削加工済みのシリンダヘッド50を切削加工装置から取り外してレーザクラッド加工装置に取り付けなければならず、取り付けの際に位置決め誤差(位置ずれ)が発生するおそれがある。したがって、このような位置ずれが存在する場合、レーザ光が照射されない部分では肉盛材料が未溶着となり未溶着部56が発生するとともに、レーザ光が照射される母材部分では母材の希釈による割れ55が発生するおそれがある(図4(B)参照)。そのため、一般的なレーザ肉盛方法では、シリンダヘッドをレーザクラッド加工装置に取り付ける際に溝部の位置を計測して計測結果をレーザ位置にフィードバックする溝位置計測装置が必要となり設備費が増大する。また、計測時間が必要となり加工タクトが増加する。
【0034】
一方、本実施の形態では、肉盛部を形成するための第2レーザ光と同一のビーム幅を有する第1レーザ光によって溝部が形成されるため、溝部と当該溝部に照射される第2レーザ光との位置ずれを抑制することができ、母材希釈による割れおよび肉盛材料の未溶着を抑制することができる。さらに、第1レーザ光と第2レーザ光とが同一のレーザ発振器から照射されるため、シリンダヘッド50を回転ステージ34から取り外す必要がなく、シリンダヘッド50の取り外しおよび取り付けによる第2レーザ光と溝部51との位置ずれを抑制することができる。
【0035】
以上のとおり、説明された本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0036】
本実施の形態のレーザ肉盛装置は、第1レーザ光を照射してシリンダヘッドに溝部を形成するとともに、第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成するレーザ照射部を有する。したがって、溝部の幅がレーザ光のビーム幅よりも狭いことに起因する肉盛部の割れが抑制され、肉盛品質を向上することができる。また、切削加工により溝部を形成する工程を用いる必要がなく、工程数、ライン長、および設備投資を削減することができる。
【0037】
本実施の形態のレーザ肉盛装置は、第1および第2レーザ光とシリンダヘッドとを相対的に移動させる移動部と、移動部に設置されたシリンダヘッドに第1レーザ光を照射して溝部を形成した後、引き続き溝部に第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するようにレーザ照射部を制御する制御部と、をさらに有する。したがって、溝部を形成した後にシリンダヘッドを取り外す必要がなく、シリンダヘッドの取り付けばらつきおよび加工対象のバルブシート変更時の位置決めばらつきなどにより、溝部とレーザ光との位置ずれが発生することなく、健全なクラッド加工が実施されることができる。その結果、第2レーザ光が照射される位置と溝部との位置ずれに起因する母材希釈による割れの発生および肉盛材料の未溶着が抑制され、肉盛品質をさらに向上することができる。また、溝位置を計測する溝位置計測装置といった設備が必要なく、設備費が削減される。
【0038】
本実施の形態のレーザ肉盛装置は、溝部に粉体状の肉盛材料を供給する肉盛材料供給部をさらに有する。したがって、リング状の肉盛材料のみならず、粉体状の肉盛材料を用いてクラッド加工を実施することができる。
【0039】
シリンダヘッドは鋳造により形成されており、第1レーザ光により溝部が形成されるシリンダヘッド上の位置には、第1レーザ光のビーム幅よりも狭くかつ溝部の深さよりも深い凹部が鋳造により形成されている。したがって、レーザ加工により溝部を形成するための時間が短縮される。さらに、所望の幅および深さを備える溝部をレーザ加工により容易に形成することができる。
【0040】
溝部が形成される際に、第1レーザ光によってシリンダヘッドの材料が溶融されることにより広がる凹部の幅方向の領域と、当該溶融した材料が流れ込んで浅くなる当該凹部の深さ方向の領域とが同じ大きさを有するように、凹部は形成されている。したがって、凹部の側面(とりわけ、凹部の角部)の材料が溶融して凹部の底面に流れ込み、溝部の底面を構成するため、溶融した材料を除去することなく所望の形状の溝部を容易に形成することができる。
【0041】
本実施の形態のレーザ肉盛方法は、第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する段階と、第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する段階と、を有する。したがって、溝部の幅がレーザ光のビーム幅よりも狭いことに起因する肉盛部の割れが抑制され、肉盛品質を向上することができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、第1レーザ光と第2レーザ光とが同一のレーザ発振器から照射される場合について述べた。本実施の形態では、第1レーザ光と第2レーザ光とが異なるレーザ発振器から照射される(デュアルレーザ)場合について述べる。
【0043】
図5は、本発明の第2の実施の形態におけるレーザ肉盛装置の概略構成を示す図である。図5に示されるとおり、本実施の形態のレーザ肉盛装置100は、第1レーザ照射部10a、第2レーザ照射部10b、肉盛材料供給部20、移動部30、および制御部40を備える。
【0044】
第1レーザ照射部10aは、第1レーザ光を照射して溝部を形成するものであり、第2レーザ照射部10bは、第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を照射して溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成するものである。本実施の形態において、第1レーザ照射部10aと第2レーザ照射部10bとは、回転されるシリンダヘッド50において、第1レーザ光が照射された位置に第2レーザ光が連続的に照射されるように、第1レーザ光のスポット位置と第2レーザ光のスポット位置とが所定の間隔で配置されている。また、肉盛材料供給部20から供給される肉盛材料と第2レーザ光とが所定の位置で交わるように、第2レーザ照射部10bに対して肉盛材料供給部20は配置される。
【0045】
制御部40は、シリンダヘッド50に第1レーザ光を照射して溝部を形成しつつ、当該形成直後の溝部に第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するように第1および第2レーザ照射部10a,10bを制御する。なお、第1レーザ光が第1レーザ照射部10aから照射され、第2レーザ光が第2レーザ照射部10bから照射されることを除いては、第1の実施の形態と同様であるため、各部についての詳細な説明は省略する。
【0046】
以上のとおり構成される本実施の形態のレーザ肉盛装置100によれば、図6に示されるとおり、第1レーザ光12aにより溝部51が形成されつつ、当該形成直後の溝部51に第2レーザ光12bが照射されて肉盛部53が形成される。本実施の形態では、回転されるシリンダヘッド50の周方向に沿って第1レーザ光12aのスポット位置と第2レーザ光12bのスポット位置とが隣接して配置されることにより、第1レーザ光12aにより溝部51が形成されつつ、第2レーザ光12bにより形成直後の溝部51に肉盛部53が形成される。すなわち、本実施の形態のレーザ肉盛装置によれば、溝部51が形成されるのとほとんど同時に肉盛部53が形成され、シリンダヘッド50にバルブシート部を形成する時間が短縮される。
【0047】
以上のとおり、説明された本実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0048】
本実施の形態のレーザ肉盛装置は、第1レーザ光を照射してシリンダヘッドに溝部を形成する第1レーザ照射部と、第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する第2レーザ照射部と、シリンダヘッドに第1レーザ光を照射して溝部を形成しつつ、当該形成直後の溝部に第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するように第1および第2レーザ発振器を制御する制御部と、を有する。したがって、シリンダヘッドにバルブシート部を形成する時間を短縮することができる。さらに、第1レーザ光によりシリンダヘッドに予熱を与えることができるため、母材と肉盛材料の粉体との温度勾配により発生するひけを軽減することができ、肉盛品質をさらに向上することができる。
【0049】
以上のとおり、第1および第2の実施の形態において、本発明のレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、省略することができることはいうまでもない。
【0050】
たとえば、第1および第2の実施の形態では、シリンダヘッドにバルブシート部を形成する場合を例に挙げ、シリンダヘッドを回転しつつレーザ光を照射する場合について説明した。しかしながら、本発明のレーザ肉盛装置およびレーザ肉盛方法は、シリンダヘッドへのバルブシート部の形成に限定されることなく、肉盛部が形成される任意のワークに適用され、ワークおよび肉盛部の形状に応じて構成が変更される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるレーザ肉盛装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すレーザ肉盛装置において肉盛部を形成する処理を示すフローチャートである。
【図3】図1に示すレーザ肉盛装置におけるシリンダヘッドのバルブシート部をなす肉盛部を形成するレーザ肉盛方法を説明するための図である。
【図4】一般的なレーザ肉盛方法により形成されるバルブシート部を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態におけるレーザ肉盛装置の概略構成を示す図である。
【図6】図5に示すレーザ肉盛装置におけるシリンダヘッドのバルブシート部をなす肉盛部を形成するレーザ肉盛方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0052】
10 レーザ照射部、
20 肉盛材料供給部、
30 移動部、
40 制御部、
50 シリンダヘッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する第1レーザ照射手段と、
前記第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を前記溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する第2レーザ照射手段と、を有することを特徴とするレーザ肉盛装置。
【請求項2】
前記第1レーザ照射手段と前記第2レーザ照射手段とは、同一のレーザ発振器からなることを特徴とする請求項1に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項3】
前記第1および第2レーザ光と前記ワークとを相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段に設置された前記ワークに前記第1レーザ光を照射して溝部を形成した後、引き続き前記溝部に前記第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するように前記レーザ発振器を制御する制御手段と、をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項4】
前記第1レーザ照射手段と前記第2レーザ照射手段とは異なるレーザ発振器からなり、
前記レーザ肉盛装置は、前記ワークに前記第1レーザ光を照射して溝部を形成しつつ、当該形成直後の溝部に前記第2レーザ光を照射して肉盛部を形成するように前記第1および第2レーザ照射手段を制御する制御手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項5】
前記溝部に粉体状の肉盛材料を供給する肉盛材料供給手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項6】
前記ワークは鋳造により形成されており、
前記第1レーザ光により溝部が形成される前記ワーク上の位置には、当該第1レーザ光のビーム幅よりも狭くかつ前記溝部の深さよりも深い凹部が鋳造により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項7】
前記溝部が形成される際に、前記第1レーザ光によって前記ワークの材料が溶融されることにより広がる前記凹部の幅方向の領域と、当該溶融した材料が流れ込んで浅くなる当該凹部の深さ方向の領域とが同じ大きさを有するように、前記凹部は形成されていることを特徴とする請求項6に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項8】
前記ワークは内燃機関のシリンダヘッドであって、前記肉盛部はバルブシート部をなすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザ肉盛装置。
【請求項9】
第1レーザ光を照射してワークに溝部を形成する段階と、
前記第1レーザ光と同じビーム幅の第2レーザ光を前記溝部に照射して、当該溝部に供給される肉盛材料を溶融および凝固させることにより肉盛部を形成する段階と、を有することを特徴とするレーザ肉盛方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−142737(P2008−142737A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332316(P2006−332316)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】