説明

レーザ

共振器内偏光と熱的に誘起される複屈折に対する補償とを実現するための別の光学部品を無くし、それらに付随する損失を無くすことにより、従来技術のデザインに対して効率が向上して複雑さが減少したレーザ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置に関し、詳細には、可視レーザ・ビームを高効率で発生することが可能なレーザ装置に関する。本発明は、ダイオード・ポンピングされるレーザ装置に対して最適である。
【背景技術】
【0002】
可視波長範囲のレーザ・ビームを発生するために、ダイオード・レーザ・ポンピングされて周波数倍増された固体レーザが長年用いられており、種々の用途において有用である。ポンピング・レーザ・ビーム・エネルギーを所望の可視出力レーザ波長に変換する効率は、構成されるデバイスのコストおよびサイズの点で決定的に重要である。
【0003】
特許文献1(出願人ブライト・ソリューションズ)には、最少の光学部品を用いて可視レーザ・ビームを発生するためのレーザ装置が記載されている。ブライト・ソリューションズのデザインの効率は、直線偏光放射を伴うアクティブ利得材料を用いる必要があるため制限されている。その結果、利用可能な材料、ひいては波長および出力パワー・レベルの選択が限定されている。
【0004】
特許文献2(出願人メレス・グリオット社)にも、最少の光学部品を用いてレーザ・ビームを発生するためのレーザ装置が記載されている。しかしながら、このデザインの効率は、アクティブ利得材料内に熱的に誘起される複屈折が原因で生じる共振器内の偏光解消損失によって制限されており、加えて、効率的なタイプ1の周波数倍増を可能にする基本波長の最適な偏光を選択していない。
【0005】
非特許文献1に報告されているように、ハンブルク大学の研究者が、ダイオード・ポンピングされる固体レーザから青色連続波レーザ・パワーを発生することに対する記録的な効率を、ダイオード・レーザから得られる21Wの808nm放射を用いてポンピングした場合に出力2.8Wの473nm光を発生することによって実現した。研究者のデザインでは、レーザ・ロッドとバック・ミラーとの間に4分の1波長プレートを配置して、レーザ・ロッドの熱複屈折によって偏光解消された光がロッドを2回目に通過する際に逆になるようにすることによって、効率が向上される。加えて、周波数倍増に対する最適な直線偏光を選択すべく、ブルースター・プレートがミラー間に配置されている。これらの手段によって効率が向上する一方で、付加的な構成要素によって不必要な損失が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2004/095660号
【特許文献2】国際公開第WO2001/067562号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】オプティクス・レターズ(Optics Letters)、2003年3月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、可視レーザ・ビームを高効率で生成することが可能なレーザ装置を提供することである。
さらなる目的が、以下の説明から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
唯一の形態、或いは実際に最も広い形態である必要はないが、一形態において、本発明は、第1の端部のミラー、第2の端部のミラー、および出力カプラによって規定される曲がり共振器と、共振器内において第1の端部のミラーと出力カプラとの間に設けられた、基本波長において基本的な光放射を発生する光学的に等方なアクティブ利得媒体であって、熱的に誘起される複屈折が最小限になるように切断され、載置され、冷却される光学的に等方なアクティブ利得媒体と、共振器内において第2の端部のミラーと出力カプラとの間に設けられた、基本波長における光放射を出力波長に、タイプ1の位相整合を用いて変換する非線形結晶であって、出力波長の最も効率的な発生が得られるように切断されて配向される非線形結晶とを備え、第1の端部のミラーは、基本波長において高い反射率を有し、第2の端部のミラーは、基本波長において高い反射率を有し、出力波長において高い反射率を有し、出力カプラは、基本放射の特定の偏光において高い反射率を有し、基本放射の直交偏光において低い反射率を有し、出力波長において高い透過率を有するレーザ装置に関する。
【0010】
好ましくは、レーザ装置は、ポンプ波長においてレーザ放射を発生するレーザ・ダイオード・ポンプをさらに備える。第1の端部のミラーは好適には、ポンプ波長において高い透過率を有している。
【0011】
利得媒体は最も好適には、1123nmの基本波長において基本放射を発生するNd:YAGである。非線形結晶は最も好適には、タイプ1の位相整合によって561.5nmの出力波長を発生する周波数倍増結晶である。
【0012】
出力カプラが共振器内偏光子として働く結果、別個の偏光光学部品を必要としない。共振器内偏光と熱的に誘起される複屈折に対する補償とを実現するための別個の光学部品を無くし、それらに付随する損失を無くすことにより、従来技術のデザインに対して効率が向上し複雑さが減少する。
【0013】
明細書の全体にわたって、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、用語「備える」および「備えている」は、記載した整数または整数の群を含むことを意味するが、他の任意の整数または整数の群を排除することを意味するものではないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】レーザ共振器の第1の実施形態を示すブロック図。
【図2】温度制御装置とダイオード・レーザ源とを備えるレーザ共振器を示すブロック図。
【図3】好ましい実施形態のレーザ・デザインの測定された性能特性のグラフであり、入力パワーに対して得られる出力パワーを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の理解を助けるために、好ましい実施形態について添付の図を参照して説明する。
本発明の異なる実施形態を記載する際に、共通の参照数字を用いて同様の特徴を記載する。
【0016】
図1を参照して、第1の端部のミラー11、出力カプラ12、および第2の端部のミラー13によって規定される曲がりレーザ共振器10を示す。第1の端部のミラー11と出力カプラ12との間に、アクティブ利得媒体14が配置されている。典型的なアクティブ利得媒体はNd:YAGであり、同Nd:YAGは1123nmの基本波長において光放射を発生する。Nd:YAGは、共振器モードに対して熱収差が小さい光学的に等方な利得媒体である。同様の特性を伴う他の等方性の利得媒体、例えば、Er:YAG、Yb:YAG、Ho:YAG、およびTm:YAGも好適であろう。
【0017】
アクティブ利得媒体14は、第1の端部のミラー11と第2の端部のミラー13とによって規定される共振器内で循環するコヒーレントな基本ビーム16を生成する。アクティブ利得媒体14は、熱的に誘起される複屈折が最小限になるように切断され、載置され、および任意に冷却される。その結果、複屈折を補償するための付加的な光学部品を必要としない。例えば、アクティブ利得媒体14は、配向<100>の方向に切断されてもよい。拡散接合された不純物添加のないキャップをアクティブ利得媒体14の端部において、ヒートシンクとして作用するように用いることにより、冷却を向上させることができる。
【0018】
出力カプラ12と第2の端部のミラー13との間に、非線形結晶15が配置されている。非線形結晶15は通常、タイプ1の位相整合によって周波数変換を行なう周波数倍増結晶(第2高調波発生器)であり、例えばLBOである。タイプ1の位相整合を可能にする他の好適な材料(例えば、BIBO)を用いても良い。
【0019】
非線形結晶15は、基本波長からの基本ビーム16を周波数倍増して、第2高調波波長における変換されたビーム17を形成する。出力カプラ12は、変換されたビーム17がレーザ・ビーム18として共振器から出射することを許容とするが、出力カプラ12は基本ビーム16を反射する結果、曲がり共振器が形成される。共振器内で循環する偏光に対して基本波長が最も効率的に波長変換されるように、非線形結晶は、切断されて配向される。
【0020】
図2に示すように、レーザ装置10は、ダイオード・ポンピングされる固体レーザとして最も好適に構成される。ダイオード・ポンプ源20は、第1の端部のミラー11を通してアクティブ利得媒体14をポンピングする。第1の端部のミラー11は、ポンプ波長において高い透過率を有するが、基本波長において高い反射率を有する。好適なポンプ源は、800〜810nmにおいて発光するファイバ結合レーザ・ダイオード・アレイである。
【0021】
タイプ1の位相整合に対して熱安定性を提供するために、周波数倍増結晶15は、温度固定デバイス21によって熱的に安定化されても良い。好適なデバイスは、結晶台における熱電対によって駆動されるフィードバック・ループを伴うペルチエ効果冷却器である。
【0022】
レーザ装置10の安定的な性能を提供するために、熱安定性を確保する必要がある。図2に示すように、すべての光学素子の熱的等価性を維持すべく、冷却手段22が共振器に関連付けられても良い。好適な1つのアプローチは、構成要素を水冷式の銅ブロック上に載置することである。他のアプローチが当該技術分野で知られている。
【0023】
本発明の利点を実証するために、図3にレーザ効率のグラフを示す。そのグラフは、図2に示すように構成された周波数倍増固体レーザに対して、入力パワーの関数として出力パワーを示す。ポンプ源は、20Wのパワーまで送出するファイバ結合レーザ・ダイオード・アレイである。アクティブ利得媒体はNd:YAGであり、非線形結晶はLBOである。第1の端部のミラーは、808nmにおいて高い透過率を有し、1123nmにおいて高い反射率を有する。第2の端部のミラーは、1123nmにおいて高い反射率を有し、561.5nmにおいて高い反射率を有する。出力カプラは561.5nmにおいて高い透過率を有し、そのため周波数倍増放射がレーザ・ビームとして共振器を出る。出力カプラは、光放射の特定の直線偏光に対して1123nmにおいて高い反射率を有し、直交偏光の抑制を確実にするのに十分に低い反射率を直交面内に有する。反射率が偏光に依存することは、直線偏光を伴うレーザ光をアクティブ利得媒体が発生する非線形の損失メカニズムとして作用する。
【0024】
図3より、レーザ装置の効率が15%に近いことが分かる。
レーザ装置は最少の光学部品を有する。従って、共振器内損失が最小である。また、レーザは、熱的に安定させるべき要素が少ないため、従来技術において公知のものよりも安定している。簡素なデザインであるために、非常にコンパクトなデバイスを構成することができ、ミラー11とミラー13との間の40mmのビーム経路長が容易に実現可能である。
【0025】
明細書の全体にわたって、その目的は、本発明をいずれか1つの実施形態または特徴を特定的に集めたものに限定することなく、本発明の好ましい実施形態を説明することであった。本発明の幅広い範囲に含まれる種々の変更および変形が、当業者には明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部のミラー、第2の端部のミラー、および出力カプラによって規定される曲がり共振器と、
前記共振器内において前記第1の端部のミラーと前記出力カプラとの間に設けられた、基本波長において基本的な光放射を発生する光学的に等方なアクティブ利得媒体と、
前記共振器内において前記第2の端部のミラーと前記出力カプラとの間に設けられた、前記基本波長における光放射を出力波長に、タイプ1の位相整合を用いて変換する非線形結晶と、を備え、
前記第1の端部のミラーは、前記基本波長において高い反射率を有し、
前記第2の端部のミラーは、前記基本波長において高い反射率を有し、かつ、前記出力波長において高い反射率を有し、
前記出力カプラは、前記基本放射の特定の偏光において高い反射率を有し、前記基本放射の直交偏光において低い反射率を有し、かつ、前記出力波長において高い透過率を有するレーザ装置。
【請求項2】
ポンプ波長においてレーザ放射を発生するレーザ・ダイオード・ポンプをさらに備える請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記第1の端部のミラーが前記ポンプ波長において高い透過率を有する請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記レーザ・ダイオード・ポンプが、800nm〜810nmのポンプ波長範囲においてレーザ放射を発生するファイバ結合レーザ・ダイオード・アレイである請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記利得媒体が、1123nmの基本波長において基本放射を発生するNd:Agである請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記利得媒体が、Er:YAG、Yb:YAG、Ho:YAG、およびTm:YAGから選択される請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記非線形結晶は、タイプ1の位相整合によって561.5nmの出力波長を発生する周波数倍増結晶である請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記周波数倍増結晶が、温度固定デバイスによって熱的に安定化されている請求項7に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記温度固定デバイスが、前記周波数倍増結晶に隣接して配置される熱電対によって駆動されるフィードバック・ループを伴うペルチエ効果冷却器である請求項8に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記出力カプラが共振器内偏光子として機能することにより、別の偏光光学部品を必要としない請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項11】
前記光学的に等方なアクティブ利得媒体は、熱的に誘起される複屈折が最小限になるように切断され、載置され、かつ冷却される請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項12】
前記光学的に等方なアクティブ利得媒体が、配向<100>の方向に切断されている請求項11に記載のレーザ装置。
【請求項13】
前記光学的に等方なアクティブ利得媒体がヒートシンクによって冷却される請求項11に記載のレーザ装置。
【請求項14】
前記ヒートシンクは、前記光学的に等方なアクティブ利得媒体の端部に配置される拡散接合された不純物添加のないキャップを含む請求項13に記載のレーザ装置。
【請求項15】
前記非線形結晶は、前記出力波長の最も効率的な発生が得られるように切断されて配向される請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項16】
前記非線形結晶が周波数倍増LBO結晶である請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項17】
前記非線形結晶が周波数倍増BIBO結晶である請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項18】
前記共振器のすべての光学素子を同じ温度に維持するための冷却手段をさらに備える請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項19】
前記共振器が水冷式の銅ブロック上に載置される請求項18に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−512651(P2010−512651A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540545(P2009−540545)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001912
【国際公開番号】WO2008/070911
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(503375669)エレックス メディカル プロプライエタリー リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】ELLEX MEDICAL PTY LTD
【Fターム(参考)】