説明

レーダのアンテナ間位相差検出方法およびアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置

【課題】 複数本のアンテナが用いられるレーダのアンテナ間位相差を検出する。
【解決手段】 送信信号の変調を停止し、アンテナ10の近傍に反射物を置いたときのミキサ32の出力レベルを各アンテナについて測定して位相値に変換し、それらからアンテナ間の差分を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のアンテナが用いられるレーダのアンテナ間位相差検出方法およびアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FM−CWレーダは、三角波でFM変調された送信波を前方へ放射し、ターゲットによる反射波に送信信号の一部をミキサで混合してビート信号を生成し、三角波の上昇区間および下降区間それぞれにおけるビート信号の周波数からターゲットとの距離および相対速度を同時に算出するものであり、車載用レーダとして実用化されている。
【0003】
特開平11−160423号公報には、複数の受信アンテナを順次切り換え、同一ターゲットからの反射波の受信位相差からターゲットの方向を決定するDBF(Digital Beam Forming)方式のFM−CWレーダが開示されている。特開2000−155171号公報には、DBF方式において複数の送信アンテナを用いることにより、実際に用いられているよりも多くの受信アンテナを用いた時と等価の結果を得ることが開示されている。さらに、本願の出願時には出願公開されていないが、特願2003−164122号には、DBF方式において複数のアンテナを送信用にも受信用にも使用することで、一層小型化かつ軽量化することが開示されている。
【0004】
この種のレーダでは、アンテナからアンテナ切換スイッチまでの電気長がアンテナ間で等しいか、または等しくなくても設計値通りでなければ反射波の位相に誤差を生じ、ターゲットの方向を正しく決定することができない。
しかし現実には基板の誘電率のバラツキ等のために製造バラツキを生じるので、これを補正するため、製造後にアンテナ間の位相差を検出する必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−160423号公報
【特許文献2】特開2000−155171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、複数のアンテナを順次切り換えつつ受信して反射波の位相差からターゲットの方向を決定するレーダにおいて、各アンテナのための信号経路において生じる相互の位相差を検出する方法およびアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、N本のアンテナと、該N本のアンテナのいずれか1つを選択する1対Nスイッチと、送信信号の一部と受信信号とを混合するミキサとを具備するレーダにおける該N本のアンテナのためのそれぞれの信号経路において生じる相互の位相差を検出する方法であって、(a)送信信号の変調を停止し、(b)ステップ(a)の後において、前記N本のアンテナのそれぞれを順次選択したときに前記ミキサから出力される電圧レベルをそれぞれ測定し、(c)各アンテナについて測定された電圧レベルに基いて、前記信号経路において生じる相互の位相差を決定するステップを具備するレーダのアンテナ間位相差検出方法が提供される。
【0008】
本発明によれば、N本のアンテナと、該N本のアンテナのいずれか1つを選択する1対Nスイッチと、送信信号の一部と受信信号とを混合するミキサと、送信信号の変調を停止する手段と、送信信号の変調の停止後において、前記N本のアンテナのそれぞれを順次選択したときに前記ミキサから出力される電圧レベルをそれぞれ測定する手段と、各アンテナについて測定された電圧レベルに基いて、前記信号経路において生じる相互の位相差を決定する手段とを具備するアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置もまた提供される。
【0009】
送信信号の変調を停止すると、ミキサからはキャリアのみとなっている送信波と受信波の位相差に相当する電圧レベルが出力される。そこで、各アンテナについて、この電圧レベルから送信波と受信波の位相差を決定し、それら相互の差分をとれば、各信号経路において生じる相互の位相差を決定することができる。
この場合に、各アンテナの直近に反射物を置くことで精度の良い測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明が適用される、送受共用器とアンテナ切換スイッチが用いられたDBF(Digital Beam Forming)方式のFM−CWレーダの構成の一例を示す。
【0011】
図1において、信号処理部20からD/A変換器22を介して三角波の信号が電圧制御発振器(VCO)24へ周波数制御電圧として与えられる。VCO24から出力された、三角波でFM変調された送信信号は、ハイブリッド26を経て逓倍器28でミリ波帯に逓倍され、送信増幅器16で増幅されて、送受共用器としてのハイブリッド14を経て、スイッチ12により選択されたアンテナ10の1つから送出される。
【0012】
ターゲット30からの反射波はアンテナ10において受信され、スイッチ12により選択されたアンテナ10の1つにより受信された受信信号はハイブリッド14を経て受信増幅器18で増幅されてミキサ32の一方の入力へ供給される。ミキサ32の他方の入力へはハイブリッド26で分岐され逓倍器34で逓倍された送信信号の一部が供給され、受信信号との間でビート信号が形成される。
【0013】
ミキサ32から出力されるビート信号はデバイダ35を経て増幅器36で増幅され低域通過フィルタ38を経てA/D変換器40でディジタル信号に変換されて信号処理部20へ入力される。信号処理部20では、ビート信号に対してFFT(高速フーリエ変換)演算が行なわれ、同一ターゲットについての三角波の上昇区間および下降区間における周波数からそのターゲットとの距離および相対速度が算出される。また、同一ターゲットからの各アンテナで受信される信号の位相差からターゲットが存在する方向が決定される。
【0014】
増幅器16,18のバイアス電圧はドライバ42,44によりオン/オフすることが可能であり、ドライバ42,44は信号処理部20から移相器46,48を経て与えられる制御信号により制御される。移相器46,48における移相量は信号処理部20からD/A変換器50,52を介して与えられるアナログ信号に従って増減される。同様に、スイッチ12におけるアンテナの選択はドライバ54によって制御され、ドライバ54は信号処理部20から移相器56を経て与えられる制御信号で制御され、移相器56における移相量は信号処理部20からD/A変換器58を介して与えられるアナログ信号に従って増減される。
【0015】
本発明においては、信号処理部20からD/A変換器22を介してVCO24に与えられる三角波を停止することによって送信波を無変調とし、このときミキサから出力される、送信波と受信波の位相差に相当する直流電圧レベルを測定することによってアンテナ間位相差を検出する。デバイダ34から増幅器60、低域通過フィルタ62およびA/D変換器64を経て信号処理部20に至る信号ラインは、このときの直流電圧レベルの測定のために設けられている。
【0016】
ここで、無変調時の位相差と直流電圧レベルの関係を説明するため、図2の測定装置で得られた結果を図3に示す。図2において、発振器70からの9.5GHzの信号がアイソレータ72を経て3dBカプラ74で2分岐され、一方はミキサ76のR入力、他方は移相器78を経てミキサ76のL入力へ入力される。ミキサ76の出力は低域通過フィルタ78を経て直流電圧計によりその電圧が読み取られる。図3は3通りの入力電力について、移相器78により与えられる位相差とDC出力電圧の関係を示す。
【0017】
図3からわかるように、位相差とDC出力電圧の間には一定の関係があり、この関係に基づきミキサの出力電圧から位相差を決定することができる。また、両者の関係が直線的な最大傾斜となる領域で電圧が測定できるような位相差となる位置に標準ターゲットを置いて測定すれば、精度良く測定できることがわかる。異なる位置に複数の標準ターゲットを置き、その中から最大傾斜の領域の位相差を与えるものを選択してもよい。或いはまた、アンテナの直近に反射物、すなわち、電波を反射する蓋をかぶせたときの位相差が最大傾斜の領域となるように設計することでも良い。
【0018】
図4は、複数のアンテナ10のアンテナ間位相差の検出のために、信号処理部20において行なわれる処理の一例を示すフローチャートである。まず、D/A変換器22へ与えるディジタル値の変化を停止することにより送信波を無変調とし(ステップ1000)、例えば開閉可能に設けられた蓋を閉じることにより、アンテナの直近に反射物を置く(ステップ1002)。次に、パラメータnに1を代入し(ステップ1004)、スイッチ12にアンテナnを選択させて(ステップ1006)、このときの電圧値をA/D変換器64から読み込む(ステップ1008)。nをインクリメントし(ステップ1010)、nがアンテナ数Nを超えていなければステップ1006〜1008を繰り返す。ステップ1020においてnがNを超えていれば、各アンテナについて得られた電圧値から図3の関係より位相値を決定して各アンテナについて相対値を算出する(ステップ1022)。
【0019】
この位相差検出処理は、製品間の製造バラツキを吸収するため、製品の出荷前に行う必要があるが、使用中の素子の経年変化に対処するため、レーダを搭載している車が停止中に定期的に実行するようにしてもよい。また、温度変化に対処するため、レーダ装置内に装置の温度を測定するサーミスタ、熱電対等の温度測定手段を設け、複数の温度において位相補正値を得ることにより得られた温度特性をテーブルの形で格納し、この温度特性を用いて、運用中の装置の温度に応じて位相補正値を自動的に修正するようにしても良い。さらに、温度特性の経年変化に対処するため、車が停止中に得られた温度の値と位相補正値との関係を用いて温度特性を補正するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用されるレーダ装置の構成の一例を示す図である。
【図2】位相差と電圧値の関係を得るための測定装置の構成を示す図である。
【図3】図2の装置により得られたグラフである。
【図4】本発明の1実施例としてのタイミング調整処理のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N本のアンテナと、該N本のアンテナのいずれか1つを選択する1対Nスイッチと、送信信号の一部と受信信号とを混合するミキサとを具備するレーダにおける該N本のアンテナのためのそれぞれの信号経路において生じる相互の位相差を検出する方法であって、
(a)送信信号の変調を停止し、
(b)ステップ(a)の後において、前記N本のアンテナのそれぞれを順次選択したときに前記ミキサから出力される電圧レベルをそれぞれ測定し、
(c)各アンテナについて測定された電圧レベルに基いて、前記信号経路において生じる相互の位相差を決定するステップを具備するレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項2】
(d)ステップ(c)の前において、前記N本のアンテナの直近に送信波を反射させる反射物を置くステップをさらに具備する請求項1記載のレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項3】
前記DBFレーダは前記ミキサの出力をレーダとしての運用における信号処理用の第1の分岐と前記電圧レベル検出用の第2の分岐とに分岐させるデバイダをさらに具備する請求項1または2記載のレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項4】
前記DBFレーダは、車載用レーダであり、レーダを搭載する車が停止中にステップ(c)が自動的に実行される請求項1〜3のいずれか1項記載のレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項5】
前記レーダは、温度を測定する温度測定手段をさらに具備し、
(e)異なる温度において得られた複数組の前記位相差の値と温度との関係を予め記憶し、
(f)該位相差値と温度との関係および前記温度測定手段が測定した温度とに基いて位相差を修正するスラップをさらに具備する請求項1〜4のいずれか1項記載のレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項6】
前記DBFレーダは車載用レーダであり、レーダを搭載する車が停止中にステップ(c)が自動実行され、前記レーダは温度を測定する温度測定手段をさらに具備し、
(e)異なる温度において得られた複数組の前記位相差の値と温度との関係を予め記憶し、
(f)該位相差値と温度との関係および前記温度測定手段が測定した温度とに基いて位相差を修正し、
(g)ステップ(c)の前記自動実行により得られた位相差値により、該位相差値と温度との関係を補正するステップをさらに具備する請求項1〜3のいずれか1項記載のレーダのアンテナ間位相差検出方法。
【請求項7】
N本のアンテナと、
該N本のアンテナのいずれか1つを選択する1対Nスイッチと、
送信信号の一部と受信信号とを混合するミキサと、
送信信号の変調を停止する手段と、
送信信号の変調の停止後において、前記N本のアンテナのそれぞれを順次選択したときに前記ミキサから出力される電圧レベルをそれぞれ測定する手段と、
各アンテナについて測定された電圧レベルに基いて、前記信号経路において生じる相互の位相差を決定する手段とを具備するアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。
【請求項8】
前記位相差決定手段による位相差の決定の前において、前記N本のアンテナの直近に置かれて送信波を反射させる反射物をさらに具備する請求項7記載のアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。
【請求項9】
前記ミキサの出力をレーダとしての運用における信号処理用の第1の分岐と前記電圧レベル検出用の第2の分岐とに分岐させるデバイダをさらに具備する請求項7または8記載のアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。
【請求項10】
車載用レーダ装置であり、レーダ装置を搭載する車が停止中に前記位相差検出手段による位相差の決定が自動的に実行される請求項7〜9のいずれか1項記載のアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。
【請求項11】
温度を測定する温度測定手段と、
異なる温度において得られた複数組の前記位相差の値と温度との関係を予め記憶する手段と、
該位相差値と温度との関係および前記温度測定手段が測定した温度とに基いて位相差を修正する手段とをさらに具備する請求項7〜10のいずれか1項記載のアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。
【請求項12】
車載用レーダ装置であり、レーダ装置を搭載する車が停止中に前記位相差決定手段による位相差の決定が自動実行され、
温度を測定する温度測定手段と、
異なる温度において得られた複数組の前記位相差の値と温度との関係を予め記憶する手段と、
該位相差値と温度との関係および前記温度測定手段が測定した温度とに基いて位相差を修正する手段と、
位相差決定手段による位相差決定の前記自動実行により得られた位相差値により、該位相差値と温度との関係を補正する手段とをさらに具備する請求項7〜9のいずれか1項記載のアンテナ間位相差検出機能を有するレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−10404(P2006−10404A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185192(P2004−185192)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】