説明

レーダシステム、及び移動体

【課題】 車体の傾きを検知する手段を特に設けなくても、レーダシステムにおけるレーダ装置の軸ずれを検出する。
【解決手段】 車両に搭載されるとともに地軸に対するアンテナの傾きを検出するセンサを有し、前記傾きが基準角度になるように調節される複数のレーダ装置と、前記レーダ装置相互で前記傾きの変化量が一致するか否かを判定し、前記変化量が一致しないときには警告出力を行う制御部とを有するので、移動体にその傾きを検知するセンサを設けなくても、レーダシステムに含まれるレーダ装置の軸ずれを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に搭載される複数のレーダ装置を有するレーダシステム等に関し、特に、個々のレーダ装置における地軸に対するアンテナの傾きが基準角度になるように調節されるレーダシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のレーダ装置は、車両周囲の空間にレーダ信号のビームを形成することで、レーダ装置の搭載車両と同じ路面(以下の説明では便宜上、路面は水平面とする)にある他の車両や設置物といった目標物体を検出する。このとき、目標物体を確度よく検出するためには、目標物体からの反射強度が最大となるような角度(ここでは上下方向の角度をいう)にビーム軸を向けることが望ましい。例えば車両の前方走査用のレーダ装置は路面上40〜50cmの高さにある車両前部バンパー部分に設けられるので、水平面より0.5度程度下向きが好適なビーム軸の角度となる。
【0003】
ここで、パッチアンテナやアレイアンテナといった平面アンテナのビーム軸は平面アンテナに対し略垂直方向に形成される。そして、平面アンテナ上のアンテナ素子における給電位相や受信位相を変化させて走査対象領域を走査する電子スキャン式のレーダ装置では、レーダ装置筐体に対する平面アンテナの取り付け角度は固定されているので、筐体が車体に取り付けられるときの地軸に対する傾きに応じてビーム軸の角度が変化する。よって、レーダ装置を車体に取り付けるときにビーム軸が所望の角度になるように筐体の傾きを調節する、いわゆるビーム軸調節という作業が行われる。特許文献1には、車載用レーダ装置におけるビーム軸調節について記載されている。
【0004】
ビーム軸調節は、レーダ装置の出荷前に、レーダ装置ごとに車両の予定される部位に搭載されたときに路面上の反射物から最大の反射強度が得られるような筐体の傾きを予め測定しておき、筐体を車体に取り付けられるときに予め測定した傾きになるように筐体の取り付け角度を調節する。具体的には、レーダ装置筺体の傾きがかかる傾きのときに水平を示す水準管を筺体天面に設けておき、車体へ取り付ける際に作業者は水準管を視認しながら水準管が水平を示すように筐体の傾きを手作業で調節する。
【0005】
このとき、レーダ装置は上述したように車体前部バンパー内部といった車両の意匠に影響を与えにくい部位に取り付けられるので、筺体の取り付け角度の調節は低位置で他の車載部品により制約された空間内で行われる。そのため作業者にとっては負担が大きい作業姿勢が強いられるとともに手作業の動作が制限されるので、作業効率が悪くなる。
【0006】
かかる問題に対処するため、本出願人は、筺体に対するアンテナの取り付け角度を可変にするとともにアンテナを駆動する機構とアンテナの傾きを検出するセンサをレーダ装置に設け、筺体を車体に取り付けた後、レーダ装置外部からの操作入力によりアンテナの傾きを検出しながらこれを変化させることで、ビーム軸が所望の角度になるようにアンテナの傾きを調節する技術を提案した(特願2008−266503)。
【特許文献1】特開2000−56009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の車載レーダ装置には、先行車両の追尾だけでなく他車両による後方からの追突や側面からの衝突に対応するために車両周囲の広範囲で目標物体を検出することが求められる。このため、車両の前部だけでなく側部あるいは後部に複数のレーダ装置を搭載して車両周囲を走査するレーダシステムが提案されている。
【0008】
かかるレーダシステムに上記技術を適用した場合、個々のレーダ装置ごとに上記のようなビーム軸調節がなされるが、走行中や停車中に他車両や設置物との接触による予期せぬ衝撃がレーダ装置の取り付け個所に加わると、レーダ装置筺体や筐体内におけるアンテナが変位してビーム軸が所望の角度からずれる、軸ずれが生じることがある。そして、車両周囲に複数のレーダ装置を搭載するレーダシステムでは、レーダ装置の個数に応じていずれかのレーダ装置でかかる軸ずれが生じる蓋然性が大きくなる。
【0009】
この点、レーダ装置ごとにアンテナの傾きを検出することでアンテナの傾きの変化を検出することは可能であるが、筺体やアンテナが変位しなくても車両自体が傾斜面などに位置しており傾いているときにはアンテナの傾きが所望の傾きからずれて検出される。ここで、車体の傾きを検出するセンサが車体に備えられていれば車体が傾いていることを判断できるが、かかる装備を別途設けるとコスト増加を招くので好ましくない。すると、かかる装備を有さない車両では、アンテナの傾きの変化からはレーダ装置筐体やアンテナが変位して軸ずれが生じているのか、車両が傾いているのかを判断できない。かといって、軸ずれが発生している場合にこれを放置すると、車両の安全な走行に支障を来すおそれがある。
【0010】
そこで、上記に鑑みてなされた本発明の目的は、車体の傾きを検知する手段を特に設けなくても、レーダ装置の軸ずれを検出することが可能なレーダシステム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面におけるレーダシステムは、移動体に搭載されるとともに地軸に対するアンテナの傾きを検出する検出手段を有し、前記傾きが基準角度になるように調節される複数のレーダ装置と、前記レーダ装置相互で前記傾きの変化量が一致するか否かを判定し、前記変化量が一致しないときには警告出力を行う制御部とを有する。
【発明の効果】
【0012】
上記側面によれば、移動体にその傾きを検知するセンサを設けなくても、レーダシステムに含まれるレーダ装置の軸ずれを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0014】
図1は、本実施形態におけるレーダシステムの使用状況を説明する図である。図1(A)は、レーダシステムを搭載する移動体としての車両の平面図であり、図面の横方向をX軸、縦方向をY軸、図面に対し垂直方向をZ軸とする。また、図1(B)は側面図であり、図面の横方向をX軸、縦方向をZ軸、図面に対し垂直方向をY軸とする。
【0015】
レーダシステムは、一例として車両1の前方、左右方向、及び後方の走査対象領域を走査する4つのレーダ装置10F、10R、10L、10Bと、各レーダ装置が検出した目標物体に関する情報の入力を受ける制御部100を有する。前方走査用のレーダ装置10Fは車両1の前部バンパー内に、右方向走査用のレーダ装置10R及び左方向走査用のレーダ装置10Lはドアミラー下部に、後方走査用のレーダ装置10Bは後部バンパー内にそれぞれ取り付けられる。各レーダ装置は、外装の化粧板を透過してそれそれの走査対象領域にミリ波長のレーダ信号(電磁波)を送信し、走査対象領域からの反射信号を受信する。そして、送受信信号を処理することで、走査対象領域内の目標物体の距離や速度、あるいは方位角といった情報を検出し、制御部100に出力する。
【0016】
制御部100は、たとえばCPU、ROM、RAMを備えた公知のマイクロコンピュータで構成され、目標物体に関する情報に応じて車両各部のアクチュエータを制御することで、車両1に先行車両の追尾や、他車両との衝突回避動作を実行させる。
【0017】
なお、ここに示すレーダ装置の数は一例であって、本実施形態におけるレーダシステムは2以上のレーダ装置を有する構成に適用される。また、各レーダ装置10F、10R、10L、10Bの取り付け位置も一例であって、このほかにも、たとえば前側方走査用のレーダ装置を車両1前部のフォグランプユニット内に取り付けたり、後側方走査用のレーダ装置を車両1の後部バンパー内の側面寄りやテールランプユニット内などに取り付けたりすることも可能である。
【0018】
各レーダ装置10F、10R、10L、10Bの検出対象となる目標物体は他の車両や路側の設置物といった車両1と同じ路面上(ここでは、路面は水平とする)に位置する目標物体である。しがたって確実にこれらを検出するためには、目標物体から得られる反射信号の強度が最大となるような角度、例えば水平面に対し0.5〜1.0度程度下向きにビーム軸を形成することが望ましい。なおここでは、レーダ装置10F、10Bのビーム軸の角度、筐体またはアンテナの傾きはX−Z座標におけるZ軸(地軸)に対する角度に対応する。また、レーダ装置10R、10Lのビーム軸の角度、筐体またはアンテナの傾きはX−Y座標におけるZ軸(地軸)に対する角度に対応する。
【0019】
ここで、後に詳述するように、各レーダ装置10F、10R、10L、10Bは2とおりの構成とすることが可能である。すなわち、第1にレーダ装置筺体に対しアンテナの取り付け角度が固定された構成とすることが可能であり、第2に、筺体に対するアンテナの取り付け角度を可変に構成することが可能である。
【0020】
よって、各レーダ装置のビーム軸は、レーダ装置の構成に応じた方法で、上記のような所望の角度になるように調節される。すなわち、レーダ装置筺体に対しアンテナの取り付け角度が固定されたレーダ装置の場合には、車体に対する筺体の取り付け角度を調節することでアンテナの傾きが調節され、ビーム軸調節が行われる。あるいは、筺体に対するアンテナの取り付け角度が可変のレーダ装置の場合には、筺体を取り付けた後にアンテナの傾きを変化させることでビーム軸調節が行われる。
【0021】
図2は、本実施形態におけるレーダシステムの概略構成を説明する図である。レーダシステムは、レーダ装置10F、10B、10R、10Lと制御部100とを有し、上述したように車両1に搭載される。なお、レーダ装置10F、10B、10R、10Lは同じ構成を有するので、図2ではレーダ装置10Fについて詳述し、他のレーダ装置内部の図示および説明は省略する。
【0022】
レーダ装置10Fは、アンテナ12と、レーダ信号の送受信回路14と、信号処理装置16(たとえば、マイクロコンピュータ)とを有する。送受信回路14は、たとえば周波数変調されたミリ波長のレーダ信号を生成してアンテナ12に供給し、アンテナ12が受信した反射信号と送信信号の周波数差を有するビート信号を生成する。そして、信号処理装置16は、ビート信号を処理して目標物体の相対速度、相対距離などを検出して制御部100に送信する。レーダ装置10Fと制御部100は、専用線で接続される構成としてもよいし、CAN(Control Area Network)などの車載LAN経由で接続される構成としてもよい。
【0023】
レーダ装置10Fには、チルトセンサ18が備えられる。チルトセンサ18は、一例として加速度センサで構成され、アンテナ12に設けられアンテナ12の地軸に対する傾きを検出する。あるいはチルトセンサ18は筐体に設けられ、筐体の地軸に対する傾きを検出する。そして検出された傾きを信号処理装置16に入力する。信号処理装置16は、チルトセンサ18からの入力に基づいて、後述するようにレーダ装置10Fの構成に対応した方法によりアンテナ12の傾きを検出する。そして、検出したアンテナ12の傾きを制御部100に送信する。ここにおいて、チルトセンサ18と信号処理装置16がアンテナ12の傾きを検出する「検出手段」に対応する。
【0024】
なお、レーダ装置10Fが筺体に対するアンテナの取り付け角度が可変に構成される場合、レーダ装置10Fには上記構成に加え、アンテナ12を駆動してその傾きを変化させる駆動機構20が備えられる。
【0025】
制御部100は、上述したようにマイクロコンピュータで構成され、目標物体の相対距離、相対速度に応じて車両各部のアクチュエータを制御する。これに加え、レーダ装置10F、10B、10R、10Lから送信される各レーダ装置におけるアンテナの傾きに基づき、後述する手順に従っていずれかのレーダ装置における軸ずれの発生を検出して警告出力を行う。
【0026】
出力手段200は、警告出力に応答してユーザに対し異常(具体的には軸ずれ)発生を通知する出力を行う。例えば、インストルメントパネル内に設けられた表示出力手段により警告灯を点滅させ、ユーザに整備を促す表示を行う。あるいは、軸ずれの発生を通知してユーザに整備を促すような音声を出力してもよい。本実施形態におけるレーダシステムは、かかる出力手段200をさらに含む構成であってもよい。
【0027】
なお、制御部100には、車両1の車速センサ202から車速データが入力され、車両1の挙動制御や車両状態の判断に用いられる。さらに、制御部100は、車内LANに接続される車外の情報処理装置204(たとえばパーソナルコンピュータ)と車内LAN経由で通信可能に構成される。
【0028】
そして、レーダ装置10F、10R、10L、10B、及び制御部100は、イグニションスイッチIGがオンされることで車載バッテリから電源を取得して動作する。
【0029】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の構造を説明する図である。図3では、レーダ装置10F、10R、10L、10Bを代表してレーダ装置10Fについて説明する。図3(A)は、レーダ装置10Fの斜視図を示す。図3(B)、(C)は、図3(A)の破線Lにおける断面図を示し、それぞれ異なる構成に対応する構造を示す。
【0030】
図3(A)に示すように、レーダ装置10Fは、筺体11の前面にアンテナ12を収容したレドーム11aを有する。アンテナ12からは、レーダ信号がレドーム11aを透過してレーダ装置前方に送信される。このとき、アンテナ12の前面に対し略垂直方向にビーム軸が形成される。そして、筺体11は固定具(ビスなど)11bにより、車両1の車体に固定される。
【0031】
図3(B)は、筺体11に対するアンテナ12の取り付け角度が固定された構成を示す。図3(B)では、各部を接続する信号線は図示を省略してある。アンテナ12と信号処理装置16は筐体11に固定され、アンテナ12の背面に送受信回路14とチルトセンサ18が備えられる。そして、チルトセンサ18は、アンテナ12の地軸に対する傾きを検出する。あるいは、点線で示すように、筺体11にチルトセンサ18を設けてもよい。この場合には、チルトセンサ18は筺体11の地軸に対する傾きを検出する。
【0032】
チルトセンサ18がアンテナ12の傾きを検出する場合には、信号処理装置16はアンテナ12の傾きを直接的に検出できる。また、チルトセンサ18が筐体11の傾きを検出する場合には、信号処理装置16は、筺体11に対するアンテナ12の取り付け角度は固定されており既知であることを利用し筺体11の傾きとアンテナ12の取り付け角度の和あるいは差から、アンテナ12の地軸に対する傾きを検出する。
【0033】
また、図3(C)は、筺体11に対しアンテナ12の取り付け角度が可変の構成を示す。この場合、アンテナ12の一端が筐体11に対し傾動軸20cにより取り付けられることで、アンテナ12が筺体11に対し傾動可能に構成される。あるいは、傾動軸20cを設ける代わりに、アンテナ12を湾曲可能な部材で構成することで、アンテナ12の筐体11に対する固定端付近で湾曲させ取り付け角度を可変にしてもよい。そして、アンテナ12の他端はモータ20bとこれにより駆動される摺動軸20aとで構成される駆動機構20に接続される。そして、駆動機構20により前後方向にアンテナ12の端部が駆動され、アンテナ12の取り付け角度が変化する。そして、アンテナ12の背面に設けられるチルトセンサ18により制御部100がアンテナ12の地軸に対する傾きを検出する。よって、信号処理装置16は、アンテナ12の傾きを直接的に検出できる。
【0034】
本実施形態におけるレーダシステムが車体に搭載される際、個々のレーダ装置の構成に応じてビーム軸調節が行われる。たとえば、図3(B)のように筺体11に対するアンテナ12の取り付け角度が固定された構成を有するレーダ装置10Fの場合には、まず筺体11を粗く位置決めして取り付けた後、アンテナ12の傾きをモニタリングしながら固定具11bを操作して筺体11と車体との距離を調節し、筺体11の傾き、つまりアンテナ12の傾きを調節する。このとき、信号処理装置16は制御部100にアンテナ12の傾きを出力し、制御部100から車内LANに接続された車外の情報処理装置204にアンテナ12の傾きが送信される。そして、作業者が情報処理装置202に例えば表示出力されるアンテナ12の傾きを確認しながら、アンテナ12の傾きが基準角度になるように筺体11の傾きを調節する。なお、基準角度は、レーダ装置ごとに車両の予定される部位に搭載されたときに路面上の反射物から最大の反射強度が得られるような地軸に対するアンテナの傾きであって、レーダ装置出荷時に予め測定される。
【0035】
また、図3(C)のように筺体11に対しアンテナ12の取り付け角度が可変の構成を有するレーダ装置10Fの場合には、まず筺体11を車体に固定した後、作業者は車内LANに接続される車外の情報処理装置202に対しアンテナ12の傾きの調節を指示入力する。すると、かかる指示入力が車内LAN経由で制御部100に送信され、制御部100からレーダ装置10Fの信号処理装置16に送信される。すると、信号処理装置16がこれに応答してアンテナ12の傾きが基準角度になるように駆動機構20にアンテナ12を傾動させる。この場合、基準角度は予め測定されて信号処理装置16のROMに格納され、アンテナ12の傾動角度に対応する駆動量を駆動機構20に指示する際に参照される。
【0036】
このようにビーム軸調節がなされた後、車両の走行時あるいは停車時に、他の車両や設置物との接触によりレーダ装置の取り付け箇所に衝撃が加わると、筺体11の取り付け角度や筺体11に対するアンテナ12の取り付け角度が変化し、軸ずれが生じる場合がある。するとアンテナ12の傾きが変化するので、その場合にはアンテナ12の傾きの経時変化が観測される。
【0037】
しかしながら一方で、筺体11やアンテナ12の取り付け角度が変化していなくても、車両が傾斜地で走行したり停止したりして車両の傾き(車両姿勢)が変化することによりアンテナ12の傾きが変化する場合がある。ここで、再び図1を参照すると、車両姿勢が前後方向に変化していれば、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナ12の傾きはY−Z軸方向で変化する。また、車両姿勢が左右方向に変化していれば、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナ12の傾きは図1(A)におけるX−Z軸方向で変化する。あるいは、車両姿勢が車体の平面図における対角線方向に傾斜していれば、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナ12の傾きはX−Y―Z軸方向で変化する。
【0038】
そこで、本実施形態のレーダシステムは、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナの傾きの変化量に基づいて、車両姿勢の変化による傾きの変化と、衝突などにより実際にアンテナの傾きが変化したことを判別する。そして、後者の場合、つまり軸ずれが生じた場合に、出力手段200によりユーザに警告を出力して整備を促すことで、レーダシステムの正常な動作を復帰させる。
【0039】
図4は、本実施形態におけるレーダシステムが軸ずれを検出するときの動作手順を説明するフローチャート図である。図4に示す手順は、制御部100のCPUがROMに予め格納される処理プログラムに従って動作する手順を示す。
【0040】
車両が走行を開始してから停車するまでの軸ずれを検出する場合にはまず手順S2、S4が実行される。すなわち、イグニションIGがオンされたときに、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナの傾きθ_F1、θ_R1、θ_L1、θ_B1(順に、レーダ装置10F、10R、10L、10Bに対応する)を取得する(S2)。このとき、制御部100は個々のレーダ装置の信号処理装置にアンテナ12の傾きを要求し、個々のレーダ装置は自らのアンテナ12の傾きを検出して制御部100に送信する手順としてもよいし、個々のレーダ装置の信号処理装置がイグニションIGオン時に初期動作としてアンテナの傾きを検出して制御部100に送信する手順としてもよい。次に、車速がゼロのとき、つまり停車時に、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bからアンテナ12の傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2(順に、レーダ装置10F、10R、10L、10Bに対応する)を取得する(S4)。このときも、制御部100は各レーダ装置の信号処理装置にアンテナの傾きを要求して取得してもよいし、制御部100から各レーダ装置の信号処理装置16に車速を送信しレーダ装置側で信号処理装置が車速ゼロを判断したときにアンテナ12の傾きを検出して制御部100に送信する手順としてもよい。
【0041】
一方、車両が停車しているときに生じた軸ずれを検出する場合には、まず手順S6、S8が実行される。すなわち、イグニションIGがオフされたときに、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bのアンテナの傾きθ_F1、θ_R1、θ_L1、θ_B1(順に、レーダ装置10F、10R、10L、10Bに対応する)を取得する(S6)。次に、再度イグニションIGがオンされたときに、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bからアンテナ12の傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2(順に、レーダ装置10F、10R、10L、10Bに対応する)を取得する(S8)。
【0042】
このようにしてレーダ装置10F、10R、10L、10Bそれぞれの2つの時点におけるアンテナの傾きを取得すると、手順S10で、制御部100は車両姿勢の変化量Δθを算出する。ここで、Δθは、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのいずれかにおけるアンテナの傾きの変化量として求められる(例えば、Δθ=θ_F2−θ_F1)。そして、算出したΔθと手順S4またはS8で検出したアンテナの傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2それぞれとの差分θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を算出する。
【0043】
次に、制御部100は、レーダ装置10F、10R、10L、10B相互のアンテナの変化量が一致しているかを判断するために手順S12を実行する。具体的には、手順S10で算出したθ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3が、手順S2またはS6で検出したアンテナの傾きθ_F1、θ_R1、θ_L1、θ_B1とすべて一致しているかを判断する。ここで、すべてのレーダ装置におけるアンテナの傾きの変化量が一致していれば、車両姿勢が変化したと判断する。一方、いずれが他と一致していないときには、そのレーダ装置の筐体またはアンテナが変位している、つまり軸ずれが発生していると判断する。なお、本実施形態における一致の判断は、軸ずれが生じていないと認められる程度の誤差範囲であって任意に設定可能な誤差範囲内での一致を含むものとする(以下、同様)。
【0044】
すなわち、手順S12における結果が「YES」の場合、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bでは軸ずれが発生していないと判断し(S18)、処理を終了する。一方、手順S12における結果が「NO」の場合、制御部100はレーダ装置10F、10R、10L、10Bのうちいずれかで軸ずれが発生していると判断し(S14)、警告を出力手段200に出力して(S16)、出力手段200に表示出力または音声出力を行わせる。
【0045】
このような手順によれば、レーダシステムは、車体にその傾きを検知するセンサを設けなくても車両姿勢が変化した場合とレーダ装置10F、10R、10L、10Bのうちいずれかで軸ずれが発生した場合とを判別できる。そして、後者の場合に警告を出力してユーザに整備を促し、レーダシステムの動作を正常復帰できる。
【0046】
なお、上記手順によれば、手順S2、S4またはS6、S8で示した2つの時点におけるアンテナの傾きを検出してその差を車両姿勢の変化量として用いるので、常時アンテナの傾きを監視する必要がない。よって、車載バッテリの消費電力を低減できる。また、アンテナの傾きを検出するタイミングは、イグニションIGのオン・オフ時、あるいは車速がゼロのときであるので、車両1の走行に伴う振動といった外乱の影響を受けることなくアンテナの傾きを検出することができる。
【0047】
次に、上記手順に加え、どのレーダ装置で軸ずれが発生したかを特定するための手順例を説明する。
【0048】
図5は、軸ずれが発生したレーダ装置を特定するためのレーダシステムの手順例を説明するフローチャート図である。図5に示す手順は、図4に示した手順S10〜S18の代わりに実行してもよいし、または手順S14の後の手順S16の代わりに実行してもよい。あるいは、手順S16の後に実行してもよい。
【0049】
制御部100は、まずレーダ装置10Fの軸ずれを判断するために、手順S19で、レーダ装置10R、10L、10Bのいずれかにおけるアンテナの傾きの変化量から車両姿勢の変化量Δθを求める(例えば、Δθ=θ_R2−θ_R1)。そして、算出したΔθと手順S4またはS8で検出したアンテナの傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2それぞれとの差分θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を算出する。
【0050】
ここで、レーダ装置10Fの軸ずれが発生していれば、レーダ装置10Fにおけるアンテナの傾きの変化量は、レーダ装置10R、10L、10Bにおけるアンテナの傾きの変化量(車両姿勢の変化量と一致する)と異なる。よって、手順S20では、θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を、手順S2またはS6で検出したアンテナの傾きθ_F1、θ_R1、θ_L1、θ_B1とそれぞれ比較して、θ_F3とθ_F1が異なり、その他は一致しているかを判断する。そして、結果が「YES」の場合、制御部100はレーダ装置10Fのアンテナが変位しており、軸ずれが発生していると判断する(S22)。そして、レーダ装置10Fを特定する警告を出力手段100に出力して(S36)、出力手段200にレーダ装置10Fを特定する警告の表示出力または音声出力を行わせる。
【0051】
手順S20での結果が「NO」の場合には、レーダ装置10Rの軸ずれが発生していることを確認するために、制御部100は手順S23を実行する。すなわち、レーダ装置10R以外のレーダ装置10F、10L、10Bのいずれかにおけるアンテナの傾きの変化量から車両姿勢の変化量Δθを求め(例えば、Δθ=θ_L2−θ_L1)、Δθとアンテナの傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2それぞれとの差分θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を算出する。そして、θ_R3とθ_R1が異なり、その他は一致している場合には(S24のYES)、レーダ装置10Rの軸ずれが発生していると判断し(S26)、レーダ装置10Rを特定する警告を出力手段100に出力する(S36)。
【0052】
また、手順S24での結果が「NO」の場合には、レーダ装置10Lの軸ずれが発生していることを確認するために、制御部100は手順S27を実行する。すなわち、レーダ装置10L以外のレーダ装置10F、10R、10Bのいずれかにおけるアンテナの傾きの変化量から車両姿勢の変化量Δθを求め(例えば、Δθ=θ_B2−θ_B1)、Δθとアンテナの傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2それぞれとの差分θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を算出する。そして、θ_R3とθ_R1が異なり、その他は一致している場合には(S28のYES)、レーダ装置10Lの軸ずれが発生していると判断し(S30)、レーダ装置10Rを特定する警告を出力手段100に出力する(S36)。
【0053】
さらに、手順S28での結果が「NO」の場合には、レーダ装置10Bの軸ずれが発生していることを確認するために、制御部100は手順S31を実行する。すなわち、レーダ装置10B以外のレーダ装置10F、10R、10Lのいずれかにおけるアンテナの傾きの変化量から車両姿勢の変化量Δθを求め(例えば、Δθ=θ_F2−θ_F1)、Δθとアンテナの傾きθ_F2、θ_R2、θ_L2、θ_B2それぞれとの差分θ_F3、θ_R3、θ_L3、θ_B3を算出する。そして、θ_R3とθ_R1が異なり、その他は一致している場合には(S32のYES)、レーダ装置10Bの軸ずれが発生していると判断し(S34)、レーダ装置10Rを特定する警告を出力手段100に出力する(S36)。
【0054】
このような手順によれば、レーダシステムは、レーダ装置10F、10R、10L、10Bのうちいずれかにおける軸ずれを特定してユーザに整備を促すことができる。よって、レーダ装置を特定して整備・修理が可能となるので、レーダシステムの動作を正常復帰するときの効率が向上する。
【0055】
なお、手順S36では、レーダ装置を特定せずに軸ずれの発生を示す警告を出力し、軸ずれが発生したレーダ装置の情報を制御部100内のROMに格納する手順としてもよい。そうすることで、ユーザが整備のために車両を入庫した際に、作業者が制御部100のROMに格納されたログを解析して軸ずれが発生したレーダ装置を特定することが可能になる。よって、作業効率が向上する。
【0056】
なお、本実施形態のレーダシステムは、自動車以外の車両や、船舶や航空機といった移動体にも適用可能である。いずれの場合においても、移動体の複数個所に複数のレーダ装置を搭載してビーム軸調節を行った後、アンテナの傾きが変化したときに移動体の姿勢の変化によるものかレーダ装置筐体やアンテナの変位によるものかを判別することが可能である。
【0057】
また、本実施形態におけるレーダシステムの構成は、車庫などの建築物壁面や標識その他の設置物との距離を測定する超音波探知機をレーダ装置の代わりに車両の複数個所に搭載するシステムにも適用できる。その場合にも、かかるシステムにおいて超音波探知機が送出する超音波の軸方向のずれが生じたことを検出することが可能となる。
【0058】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、移動体にその傾きを検知するセンサを設けなくても、レーダ装置の軸ずれを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態におけるレーダシステムの使用状況を説明する図である。
【図2】本実施形態におけるレーダシステムの概略構成を説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の構造を説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダシステムの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図5】軸ずれが発生したレーダ装置を特定するためのレーダシステムの手順例を説明するフローチャート図である。
【符号の説明】
【0060】
1:車両、10F、10R、10L、10B:レーダ装置、100:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されるとともに地軸に対するアンテナの傾きを検出する検出手段を有し、前記傾きが基準角度になるように調節される複数のレーダ装置と、
前記レーダ装置相互で前記傾きの変化量が一致するか否かを判定し、前記変化量が一致しないときには警告出力を行う制御部とを有するレーダシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記レーダ装置のうち前記傾きの変化量が他のレーダ装置の傾きと一致しないレーダ装置を特定することを特徴とするレーダシステム。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部は、前記特定したレーダ装置を示す警告を出力することを特徴とするレーダシステム。
【請求項4】
請求項1または3において、
前記警告出力に対応する表示出力または音声出力を行う出力手段をさらに有することを特徴とするレーダシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記レーダ装置は、筺体に対し取り付け角度が変更可能な前記アンテナを有するとともに前記取り付け角度を変化させる駆動機構をさらに有することを特徴とするレーダシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーダシステムを搭載した移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−127743(P2010−127743A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302204(P2008−302204)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】