説明

レーダー信号処理方法およびレーダー信号処理装置

以下のことを含む、対象物までの距離および対象物の速度を測定するためのレーダー装置および方法。複数のRF信号を送信し、各RF信号は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信される。複数の信号は同じ周波数を有する信号と異なる周波数を有する信号とを合わせて含む。対象物からの反射後、複数の信号を受信する。各信号および対応する反射信号との間の位相差を測定する。同じ周波数信号の位相差を処理し、対象物のためのドップラー周波数を含む位相回転周波数を測定する。異なる周波数信号の位相差を処理し、前記対象物のためのドップラー周波数および距離周波数とを含む第2の位相回転周波数を測定する。第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較して、対象物の距離周波数とドップラー周波数とを識別する。ドップラー周波数を速度に変換し、距離周波数を距離に変換する。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明はレーダー技術に関する。特に、本発明は連続波レーダー信号処理方法および装置に関し、レーダーシステムの性能を最大度にし、さらに/あるいは適応性を高める。
【発明の背景】
【0002】
レーダーには、現代生活において無数の応用例がある。デジタル信号処理チップがサイズや費用面において縮小し続けているため、レーダーは現在では消費者向け製品に組み込まれている。例えば、レーダー技術は乗用車その他の車両に搭載するに足るだけ十分に低価格になってきていて、駐車支援システム、衝突回避システムおよびエアバッグ展開システム(衝突前検知)を提供している。
【0003】
レーダーシステムのパラメータは、そのレーダーによって実行される所定のタスクに応じて最適化されることが望ましい。例えば駐車支援などの自動車搭載レーダーシステムでは、レーダーを用いて、自動車が対象物(ドライバがリアウインドもしくはミラーを通しても気づくことができないような小さな対象物が含まれる)にどの程度接近しているかをドライバに警告する。したがって駐車支援においては、例えば2メートル以内といった比較的自動車に接近した対象物のみを対象にしている。そのため、レーダーが機能しなければならない距離は、一般に0〜2メートルと非常に小さい。一方、パーキングメーターポール、消火栓、縁石といった比較的小さな対象物を検知することが重要である。このように、レーダーの距離範囲は小さくすることが可能である。しかし他方において、レーダーの距離分解能は(小さい対象物を検知し、複数の近接した対象物を互いに解像し、数センチメートル以内における対象物までの距離を測定する能力の面で)高水準でなければならない。例えば駐車の際、自動車のリアバンパーから対象物への距離が20センチメートルであるか50センチメートルであるかは大きな違いである。また、ドップラー分解能、すなわち自動車を基準とした対象物の速度分解能は、駐車支援にとってはそれほど重要ではない。なぜならば、一般に自動車は駐車する際には比較的ゆっくり動くからである。
【0004】
一方、自動車搭載レーダーシステムが衝突回避に用いられる場合、全く異なる問題が重要になる。例えば衝突回避システムにおいては、レーダーを用いて、自動車から30、60、もしくは100メートル程度のより長い距離内で動いている自動車および他の対象物を検知し、駐車支援に比べて対象物の相対速度は例えば100キロメートル/毎時もしくはそれ以上とさらに大きくなる。他方、駐車支援にとって望ましい数センチメートル程度の高い距離分解能は、衝突回避への応用例には要求されない。
【0005】
したがって、これら2つの典型的な自動車搭載レーダーシステムの応用例のうちの1つのためにそのレーダーシステムのパラメータを最適化することは、もう一方の応用例のための最適化にはならないとほぼ言ってよい。
【0006】
以下に続く説明では、対象物までの距離および対象物の相対速度を測定する事柄に焦点を当てる。しかし、実際には、あらゆる実務上のレーダーシステムもまた、追加の処理さらに/あるいはハードウェアを採用して対象物の方位を測定するが、そのことは本明細書では大きくは論じないことを理解されたい。
【0007】
レーダー信号を処理するための多くの様々な周知技術があり、対象物の距離を測定し、それぞれの対象物を互いに分け、対象物の相対速度を測定する。例えばパルスレーダーシステムでは、レーダーは送信パルスを発信し、反射が戻るのを待つ。反射信号はミキサーの1つの入力ポートに供給され、この送信信号は遅延線を通過した後にミキサーのもう一方の入力ポートに供給される。ミキサーの出力は、アナログ・デジタルコンバータによってデジタルに変換される。そのデジタル情報はデジタル信号プロセッサにおいて処理され、これによってパルス送信および受信した反射との間の遅延を測定する。この遅延は無論、光速の遅延を乗じることによって、レーダーアンテナおよび信号を反射した対象物との間の往復距離に直接変換可能である。パルスレーダーにおいてのデジタル信号処理量は比較的少ない。ハードウェアの出力(ミキサーの出力)は比較的に距離情報を導き出すための処理をほとんど必要としないからである。
【0008】
当初、パルスレーダーシステムは処理集約型とは対照的にハードウェア集約型であった。そのため、パルスレーダーシステムは消費者および他の低価格なレーダー応用例にとって好都合であった。言い換えれば、パルスレーダーシステムは作業の多くがスイッチ、発振器、遅延線、ミキサー等ハードウェアによって実行されるので、比較的に処理能力をほとんど必要としなかった。しかしながら、デジタル信号処理技術は速いペースで改良され続けていて、ハードウェアよりもデジタル信号処理に大きく依存するレーダー技術がますます魅力を集めている。ハードウェアの価格は比較的一定であるのに対し、デジタル信号処理の価格は速いペースで低下している。
【0009】
ある種のレーダー変調技術は、比較的ハードウェアを必要としないが著しい信号処理力を要していて、消費者タイプのレーダー応用例としてデジタル信号処理が安くなるにつれてポピュラーになっている。それが周波数変調連続波(FMCW)技術である。いくつかの異なるタイプのFMCWレーダー変調技術があるが、それらはすべて一般に、レーダー送信信号が徐々に周波数変調される。周知であるFMCWレーダー変調技術のいくつかは、周波数偏移変調(FSK)および段階的周波数変調である。
【0010】
典型的なFMCW変調技術では、レーダーの送信信号は、最小限の周波数から最大限の周波数まで、一定時間にわたって連続的に掃引される。これは一般にチャープと呼ばれる。チャープは複数回繰り返され、複数のチャープからの反射情報は、有用な結果を算出するための十分なデータを生成するために集められ、互いに関連づけられ、そして処理される。有用な結果とは、例えばレーダー視界における対象物の個数、その距離、方位、サイズ、さらに/あるいは速度などである。
【0011】
他のFMCW変調技術に、FSK(周波数偏移変調)がある。FSK変調技術を利用するレーダーシステムにおいて、レーダーは2つの異なる周波数の信号を順次送信する。レーダーの背後の対象物に反射した信号は、対応する送信信号に比べていくらかの位相差を有する。この位相差は、対象物までの距離に依存している(簡略にするため、対象物は静止していると仮定する。速度もまた位相差に影響を及ぼすからである)。このことは、レーダーによって送信された2つの送信周波数のそれぞれに当てはまる。第1の周波数信号における送信信号と受信信号との間の位相差は互いに異なっている。
【0012】
いずれの周波数における送信信号と反射信号との間の位相差も、対象物までの距離を測定する十分な情報を与えることができない。特に、送信信号と受信信号との位相差が得られても、どの程度の波長周期が送信信号と受信反射信号との間の往復遅延に存在するかは明らかにならない。言い換えれば、位相差データは、距離分解能に関して微調整を与える(例えば、180°の位相差は、対象物がX.5波長-往復-離れていることを表すが、整数Xの値は明らかにならない)。しかし、2もしくはそれ以上の異なる周波数における位相差情報を互いに関連づけて距離を測定することが可能である。
【0013】
わずか2つの送信周波数では、FSK変調技術は、レーダー視界内に、レーダーを基準として様々な速度で動く少なくとも2つの対象物がない限り、距離測定データを提供できない。しかし、送信される周波数の数が増すにつれて、分解能され得る対象物の数を増やすことができる。多くの測定サイクルごとの周波数ステップを利用するレーダー変調技術は、ステップ周波数変調技術として知られる。
【0014】
上述の説明は、対象物が動かないものと仮定していた。対象物が動いていても静止していてもよい現実の状況では、信号処理において別の複雑性が加わる。特に、よく知られるドップラー効果により、対象物がレーダーアンテナを基準として動く時、その対象物に反射された信号は、周波数において送信信号から偏移される。この周波数偏移もまた、送信信号および対応する受信反射信号との間の、感知された位相差を変更してしまう。
【0015】
したがって、位相差データの一部分を識別するための十分な情報を提供するためには、よりいっそう複雑な変調技術および信号処理が必要である。位相差データはドップラー効果の結果であって、検知された対象物までの距離の純粋な結果である位相差データの一部分である。
【0016】
距離効果からドップラー効果を識別するよく知られた技術として、一種の周波数チャーピング技術を採用することが挙げられる。周波数チャーピング技術とは、周波数ステップのセット(以下周波数ステップサイクル)が何度も連続的に繰り返され、各周波数ステップサイクルが、周波数において、前の周波数ステップサイクルから偏移されていくものである。第1の複数のこれら一連の周波数ステップサイクルは、互いを基準として、例えばアップなどの第1の一連の方向で、周波数において偏移される。これは、例えばダウンなどの反対方向で互いを基準として、周波数において偏移される第2の複数の周波数ステップサイクルに引き続いて起こる。アップチャープ周波数ステップサイクルのセットおよびダウンチャープ周波数ステップサイクルのセットは一括して、包括的測定データセットを構成する(このデータセットから対象物の距離および速度が算出され得る)。
【0017】
単なる例として、第1の周波数ステップサイクルは、各々20 MHzの10ステップで線形に、4.000GHzから4.200GHzまで、200MHzの距離にわたって送信信号の周波数の掃引を含んでよい。このように、第1の周波数ステップサイクルは、4.0000GHz、4.020GHz、4.040GHz、4.060GHz、...、4.160GHz、4.180GHz、および4.200GHzで送信信号を構成する。第2の周波数ステップサイクルは、同数の周波数ステップ、つまり10ステップから成る。各周波数ステップは、同様の20MHzごとに、前の周波数ステップから分離され、サイクルスパンは、同様の200MHzであるが、代わりに4.100GHzから始まる。これが、いくらかの、例えば5周波数ステップサイクル続く。例えば、第3のサイクルは、4.200GHzで始まり、第4のサイクルは、4.300GHzで始まり、最後のサイクルは、4.400GHzで始まる。
【0018】
次に、これに続いて、複数のダウンチャープ周波数ステップサイクルが行われる。例えば、次の周波数ステップサイクルは、再び4.0000GHzから始まり、4.0000GHz、4.020GHz、4.040GHz、4.060GHz、4.080GHz、...、4.160GHz、4.180GHz、および4.200GHzで送信信号を構成する。後続の周波数ステップサイクルは、同数の周波数ステップを構成し、各周波数ステップは、同様の20MHzごとに前の周波数ステップから分離され、スパンは、同様の200MHzであるが、代わりに3.9000 GHzから始まる。これに続いて、いくらかの周波数ステップサイクルが行われる。例えば、第3のサイクルは、3.800GHzで始まり、第4のサイクルは、3.700GHzで始まり、最後のサイクルは、3.600GHzで始まる。
【0019】
対象物がレーダーを基準として動く場合、対象物が静止している場合より、周波数ステップサイクルのアップチャープセットもしくは周波数ステップサイクルのダウンチャープセットのうちの1つにおける各々異なる周波数ステップサイクルのため、対象物に対して観測される位相回転が異なってくる。位相回転における変化が、アップチャープシーケンスにおいて現れるか、あるいはダウンチャープシーケンスにおいて現れるかどうかは、対象物がレーダーアンテナに向かって動くか、あるいはレーダーアンテナから離れて動くかによる。いずれにしても、その相違は、ドップラー効果のみの結果である。なぜならば、対象物までの距離機能であるすべての位相回転の一部分は、周波数ステップサイクルのアップチャープもしくはダウンチャープによる影響を受けないからである。したがって、ドップラー効果の結果である位相回転の一部分は、周波数ステップサイクルのアップチャープシーケンスからのデータと、周波数ステップサイクルのダウンチャープシーケンスからのデータとを比較することによって、分離可能である。
【0020】
したがって、レーダー視界における複数の対象物の距離および速度を測定することが可能である。
【0021】
アップチャープおよびダウンチャープ周波数は、速度と距離とを識別するために必要な情報を提供する一方で、チャープ信号および対象物の速度に関する所定のランプ・レートのためのすべての結果に関する、信号雑音比(SN比)を、およそ3〜6デシベル減少させる。なぜなら、データが統合され得る時間量が半分に短縮されるからである。特に、1つの包括的測定サイクルにおいて、時間の半分がアップチャープに費やされ、もう半分がダウンチャープに費やされる。アップチャープシーケンスからのデータは、ダウンチャープシーケンスからのデータから、多くは切り離して処理されなければならない。
【0022】
パルスレーダー技術をめぐるFMCW技術の多くの利点には、以下の事実が含まれる。つまり、送信信号は、パルスレーダー変調技術における送信信号より、一般に広い帯域幅を有するが、ミキサー後の信号の帯域幅は、一般に相当狭く、このことが信号処理回路に関して要求されるデータ獲得スピードを減少させる、という事実である。したがって、FMCWは、他のRFソースより妨害されにくい傾向がある。また、他のRF受信機における妨害を相当発生させにくい傾向にある。
【0023】
前述の説明が概念上のレベルであった一方で、レーダー信号処理の当業者であれば、要求される信号処理が実際には非常にプロセッサ集約型のものであることが理解できるであろう。例えば、距離および速度情報の測定において利用される情報の多くは、多数の時間および周波数間隔を受け継いだ位相データを含んでいる。このような、時間領域における位相情報を処理することは困難である。したがって、次のようなことは一般的に行われている。すなわち、多数のサンプルにわたって集められた位相情報を、ヒストグラムなどの異なる形式もしくは周波数領域(例えば、フーリエ変換を介して)に変換し、最終的に時間領域に変換し戻し、さらに/あるいは、距離および速度情報を発生させる前に周波数領域におけるデータを処理することである。
【0024】
上記により明らかなように、周波数ステップ変調技術において収集される最も関連性のある情報は、実質的に、反射信号および送信信号周波数の位相における経時変化(関連産業において、しばしば「位相回転」と呼ばれる)である。関連技術における当業者によれば、位相における経時変化(つまり、位相回転)が、本質的に「周波数」であることが理解されるであろう。したがって、高速フーリエ変換(FFT)などによって、データを周波数領域に変換することにより、レーダー視界における対象物の距離および速度情報が、直接得られる。
【0025】
位相における当該変化に相当する周波数のことを、以下、位相回転周波数と呼ぶ。上述したとおり、位相回転周波数を一括して述べる2つの現象、すなわち、対象物の距離および対象物の相対速度(もしくはドップラー・シフト)がある。説明を明確および簡単にする目的で、ドップラー・シフト(つまり、対象物の速度)の結果である周波数の部分を、ここではドップラー周波数と呼び、対象物の距離の結果である部分を、ここでは距離周波数と呼ぶ。
【発明の概要】
【0026】
本発明の第1の側面によれば、少なくとも1つの対象物までの距離および対象物の速度を測定するレーダー方法は、以下のことを含む。複数のRF信号を連続的に送信することであって、複数のRF信号の各々は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、複数の信号は同周波数を有する少なくとも1つの信号の第1サブセットおよび異なる周波数を有する少なくとも1つの信号の第2サブセットとを合わせて含み、対象物からの反射後の複数の信号を受信し、サンプルと呼ばれる各位相差であって、各信号および対応する反射信号との間の位相差を測定し、全サンプルが同周波数を有する1次元、および全サンプルが異なる周波数を有する2次元、という2つの次元においてサンプルを構成し、少なくとも1つの対象物のドップラー周波数を含む位相回転周波数であって、一次元のサンプルに対応する位相回転周波数を測定するために一次元のサンプルを処理し、少なくとも1つの対象部のドップラー周波数および距離周波数を含む位相回転周波数であって、二次元のサンプルに対応する位相回転周波数を測定するために2次元のサンプルを処理し、少なくとも1つの対象物のドップラー周波数から距離周波数を識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較し、ドップラー周波数を少なくも1つの対象物の速度に変換し、距離周波数を少なくとも1つの対象物の距離に変換する。
【0027】
本発明の第2の側面によれば、コンピュータ・プログラム製品は、レーダーシステムを制御するために実行可能なコンピュータ・コードを含み、レーダー信号を送信し、送信されたレーダー信号の反射に応じて受信信号を処理する。コンピュータ・プログラム製品は、以下のものを含む。複数の無線周波信号を連続的に送信するレーダーシステムを発生させるための実行可能なコンピュータ・コードであって、各複数の無線周波信号は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、複数の信号は同周波数を有する信号のサブセットおよび異なる周波数を有する信号のサブセットとを合わせて含む実行可能なコンピュータ・コードと、対象物からの反射後の複数の送信信号を受信するための実行可能なコンピュータ・コードと、サンプルと呼ばれる各位相差であって、各送信信号および対応する反射信号との間の位相差を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、全サンプルが同周波数を有する1次元、および全サンプルが異なる周波数を有する2次元、という2つの次元においてサンプルを構成するための実行可能なコンピュータ・コードと、レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報のみを含む第1の位相回転周波数であって、1次元においてサンプルを処理して1次元におけるサンプルに対応する第1の位相回転周波数情報を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報および距離周波数情報を含む第2の位相回転周波数であって、2次元においてサンプルを処理して2次元におけるサンプルに対応する第2の位相回転周波数情報を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、レーダーシステムの視界における対象物のための距離周波数とドップラー周波数とを識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較する実行可能なコンピュータ・コードと、ドップラー周波数情報をレーダーシステムの視界における対象物の速度に応じた情報に変換するため、および距離周波数情報をレーダーシステムの視界における対象物の距離に応じた情報に変換するための実行可能なコンピュータ・コード。
【0028】
本発明の第3の側面によれば、レーダーシステムは以下のものを含んで提供される。アンテナと、アンテナにより送信される無線周波信号を生成するためのアンテナに結合された送信機と、送信信号に反応を示す受信反射信号を受信するためのアンテナに結合された受信機と、複数の無線周波信号を連続的に送信する送信機アンテナを生成するための手段であって、各複数の無線周波信号は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、複数の信号は、同周波数を有する少なくとも1つの信号の第1サブセット、および異なる周波数を有する少なくとも1つの信号の第2サブセットと、を合わせて含む手段と、サンプルと呼ばれる各位相差であって、各送信信号および対応する反射信号との間の位相差を測定するための手段と、レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報のみを含む第1の位相回転周波数であって、同じ送信周波数に対応するサンプルを処理して第1の位相回転周波数を測定するための手段と、レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報および距離周波数情報を含む第2の位相回転周波数であって、定時間隔で互いに順次分離された送信信号に対応するサンプルを処理して第2の位相回転周波数を測定するための手段と、レーダーシステムの視界における対象物のための距離周波数とドップラー周波数とを識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較する手段。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従った、レーダーシステムの論理構成要素のブロック図である。
【図2】図2(a)および2(b)は、ドップラー分解能および距離スペクトルをそれぞれ最大限にするようにレーダー・サンプル・データを構成する、2つの典型的な方法を示すマトリックスである。
【図3】図3(a)および3(b)は、それぞれ図2(a)および2(b)のマトリックスに対応する、周波数対時間のグラフであり、レーダーシステムの送信信号シーケンスを示す。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に従った処理に関するフローチャートである。
【発明の詳細な説明】
【0030】
明瞭にするために、上述で利用された専門用語のいくつかを再検討する。「サンプル」とは、所定の周波数の送信信号を送信し、反射して戻った信号を受信するレーダーシステムの1つの例である。ステップ周波数掃引は、定められた周波数ステップにおける定められた周波数距離にわたって複数の異なる送信信号周波数を取り入れた複数のサンプルである。アップチャープシーケンスは複数のステップ周波数掃引であり、各ステップ周波数掃引は前述のステップ周波数掃引より高い周波数距離を有する。ダウンチャープシーケンスは複数のステップ周波数掃引であり、各ステップ周波数掃引は前述のステップ周波数掃引より低い周波数距離を有する。サンプルに含まれる情報は、送信信号および対応する受信信号との間の位相差である。「包括的測定セット」は、一括して処理される複数のサンプルのことを意味し、レーダーの視界における対象物の距離および速度情報に関する1つのデータ点を提供する。例えば、上述の発明の背景における典型的な説明において、包括的測定セットは、1つのアップチャープシーケンスおよび1つのダウンチャープシーケンスから成る。
【0031】
先行技術において、包括的測定セットを含むいくつかのサンプルにわたる位相回転周波数情報は、順次(すなわち、直線的にあるいは1次元データとして)処理される。
【0032】
レーダーシステムは、一般に、使用中に包括的データセットを継続的に集めることを理解されたい。特定の用途によって、各包括的データセットは互いのデータセットから分離して利用してよく、測定(レーダーシステムの視界)のもと、状況のスナップショットを分離して提供する。しかし、より複雑なシステムにおいては、複数の包括的データセット(スナップショット)は、さらに互いに関連づけてよく、状況の「映画」を提供する。例えば、自動車搭載のレーダーシステムにおいて、車正面の自動車の瞬時の位置を知るだけでなく、それらの自動車が将来どうするかを予測するためにそれら自動車が徐々にどうするかについても理解を及ぼすことは有益である。このことは、トラッキング・アルゴリズムもしくはレーダー用語におけるプレディクタとして知られる。スナップショットは、動いている対象物の経路について独自には情報を提供しない(例えば時速100kmでレーダーに対して45°の角度で動く自動車、および時速50kmでレーダーに向かって一直線に動く自動車は、単一のスナップショットにおいて、同一のレーダー・シグネチャを有する)。レーダーシステムの正面に時速100kmで移動する自動車があるという情報は、同じ経路で数秒間レーダーに向かって一直線に動いている自動車の情報よりも有効性において相当劣る。
【0033】
集められたサンプル・データを1次元データとして処理することは、信号処理を相当に確固としたものにする。特に、システムのハードウェアおよびソフトウェアに大きく依存するが、レーダーシステムで利用可能な一定量の処理能力がある。それゆえに、基本的に、システムが収集して処理可能なサンプルの時間ごとの一定の最大数がある。したがって、サンプルが収集されたシーケンスの測定において、距離分解能およびドップラー分解能との間には歩み寄りが必要である。例えば、1つの包括的測定セットにおいて同周波数で取り入れられるサンプル数が多いほど、ドップラー分解能は高精度である。他方、ステップ周波数スペクトルにおける一定の周波数誤差のステップ数が多いほど、距離分解能は高精度である。特に、ステップごとの周波数誤差を変えずに周波数ステップ数を増やすことによって、周波数スペクトル掃引が増える。その結果、距離分解能が増す。なぜならば、距離分解能は、測定セットの周波数スペクトル、例えば上記発明の背景で述べられた例における200MHzに対応する波長によって決定されるからである。特に、2つの対象物を分析するためには、それらが少なくとも1つの距離値域、したがって距離分解能がステップ・レーダー信号の周波数スペクトルに対応する波長の2倍である状態によって分離されなければならない。一例として、送信信号の周波数が4.000GHzから4.200GHzまで掃引されると、システムの距離分解能は、200MHz(およそ0.75 m)に相当する波長の半分になる。
【0034】
また他方、周波数ステップ数を増やす、つまり各ステップ間の周波数誤差を減らす一方で、代替のものが掃引スペクトルを維持した場合、このことは距離分解能に何の効果も有しないが、代わりにレーダーシステムの距離スペクトルを増加させることに注目されたい。
【0035】
したがって、先行技術に関する従来の直線的あるいは1次元的な考えにおいて、所定のレーダーシステムの変調技術および信号処理技術を変え、異なるドップラー分解能あるいは距離スペクトル分解能を設計後に適応させることは困難である。
【0036】
本発明は、変調技術および信号処理技術を提供する。この信号処理技術によれば、2次元分析を利用して、ドップラー分解能および距離スペクトル(他のパラメータも同様)との間のトレードオフを実行中に変更することが可能となる。本発明を利用すれば、自動車搭載のレーダーシステムを容易に最適化し、例えば、ドップラー分解能を最大限にすることが可能である。これは、1つの操作モードから、より長い距離の衝突回避に利用される時に距離スペクトルを最大限にする別のモードに切り替えて、駐車支援に利用される時に可能である。2つのモード間の切り替えは、自動車の速度機能もしくは自動車の変速機のあるギアとして実行される。なぜならば、自動車は、駐車する際には通常の運転中に比べて一般に非常に低い速度で移動するからである。
【0037】
いずれにしても、本発明の原理によれば、1つの包括的測定セットで取り入れられるサンプルは、互いを基準として2次元配列される。例えば、それらは、2次元のマトリックスにおいて配列可能である。マトリックスは、マトリックスの所定の列におけるすべてのサンプルが同じ送信周波数を有するように、および、マトリックスの所定の行におけるすべてのサンプルが異なる送信周波数を有するように構成される。
【0038】
このようにして、所定の行におけるすべてのサンプルが異なる送信信号周波数を有する。他方、所定の列におけるすべてのサンプルが同じ送信周波数を有する。マトリックスにおける各行および各列のデータを周波数領域に変換して、各個別の行の位相回転周波数、および各個別の列の位相回転周波数を算出することができる。
【0039】
いずれの1列をとっても、すべてのサンプルは同じ送信周波数で取り入れられるため、各個別の列の位相回転周波数はドップラー周波数の構成要素だけを含み、距離周波数の構成要素は含まない。他方、いずれの1行をとっても、すべてのサンプルは異なる周波数で取り入れられるため、各個別の行の位相回転周波数にはドップラー周波数の構成要素および距離周波数の構成要素の両方が含まれる。
【0040】
このように、マトリックスにおける行の位相回転周波数と、マトリックスにおける列の位相回転周波数とを比較すると、ドップラー効果の結果である位相回転周波数の部分と、対象物までの距離の結果である位相回転周波数の部分とを区別することができる。
【0041】
この2次元アプローチは、収集データを取りまとめる簡単な方法を提供し、距離周波数とドップラー周波数とを区別する。さらに、マトリックスを容易に調整し、所定の用途のために最適化することができる。仮にドップラー分解能(つまり、速度分解能)がレーダーの距離スペクトルの最大化より重要である場合、各ステップ掃引周波数における周波数値域数は増加され得る。また、包括的測定セットにおけるステップ周波数掃引数は減少され得る(つまり、マトリックスにおける列数が増加し、行数が減少し得る)。他の応用例において、マトリックスにおいて行数を増加させ、列数を減少させることにより速度分解能を犠牲にする一方で、距離スペクトルを増加させることが望ましい。
【0042】
図1は、本発明の典型的な一実施形態に従った、レーダーシステムの論理的構成要素のブロック図である。少なくもハードウェアのいくつかの部分において、少なくともいくつかのブロックを表す一方で、これはシステムの論理的構成要素を示す論理図であることに注目されたい。このように、例えば、デジタル信号プロセッサ(DSP)103に示される個々のブロックは、物理的に分離したハードウェアもしくはソフトウェア構成要素を必ずしも示す必要はない。これらのブロックは、実行されるタスクの論理的分離に、より対応する。
【0043】
いずれにしても、システム100はレーダーシステム101および自動車制御システム121を含む。自動車制御システム121は、技術的にレーダーシステムの一部分ではなく、レーダーシステムによって利用される自動車のソフトウェアおよびハードウェアを一般に示すことを意図する。これは、レーダーシステムに反応して作動する警報を含む。例えば、ドライバが駐車中何かにぶつかりそうになっている時、ドライバに警報するオーディオ近似インジケータ、あるいは、自動車のギアもしくは自動車の移動スピードを示すレーダーシステム101に対し信号を発する回路もしくはソフトウェアなどである。
【0044】
いずれにしても、レーダーは1もしくはそれ以上のアンテナ109を含む。一般に、自動車のレーダーシステムは、方位を正確に決定するために、互いに間隔をおいた少なくとも3つの送信アンテナがある。また、一般に複数の受信アンテナがある。各アンテナは、一般に、送信アンテナおよび受信アンテナの両方として利用される。このように、典型的なレーダーシステムにおいては、自動車のバンパーに、左右に間隔を置いて配置された4つの送信/受信アンテナがある。
【0045】
図1に示される特定の実施形態において、レーダーシステム101は、2つの別個のタスク、すなわち駐車支援および衝突回避に利用される。したがって、DSP103のモード決定回路111は、自動車制御システム121を介して、レーダーシステムがいずれのモードにあるべきかを示す信号を受信する。例えば、前述した通り、これは自動車のギアもしくは自動車の移動スピードを示す信号であってよい。なぜならば、もし自動車がバックギアもしくは第1ギアにある場合、さらに/あるいはゆっくり移動している場合、自動車のオペレータはおそらく衝突回避と反対に駐車支援を必要としている。しかし、もし自動車がより高いギアもしくはより高速スピードで前進している場合、ドライバが駐車しているとは考えにくいため、システムは衝突回避モードにあるべきである。いずれにしても、モード決定回路111は、送信シーケンスコントローラ113および位相回転およびマトリックス件数モジュール114の両方に信号を提供する。送信シーケンスコントローラ113は、モード決定回路111からのモード信号に反応して、送信モジュール105を制御し、特に被選択モードに適したアンテナ109に信号を送信する。例えば、もし被選択モードが衝突回避である場合、送信シーケンスはドップラー周波数分解能の強化および距離スペクトルの縮小を提供するよう適応させてよい。他方、もしモード決定回路が、被選択駐車支援モードを有する場合、送信シーケンスは距離分解能を強化し、また、包括的測定セットごとの掃引数での掃引においてステップ周波数掃引の周波数スペクトルを減らし、さらに/あるいは、ステップ周波数の数を増やすことによって速度分解能を縮小するよう適応させてよい。
【0046】
次に、アンテナ109は、反射信号を受信してそれらを受信モジュール107に供給する。受信モジュールは本質的に従来型であり、信号を受信し、一般に周波数ダウン変換することを含み、それらを調整する。調整され、周波数ダウン変換された情報は、次に、DSP103において位相回転およびマトリックス件数モジュール114に転送される。位相回転モジュールは、各サンプルのために位相差情報を取り出し、モード決定回路111によって決定される特定モード用の方式に従って、マトリックスにデータを読み込む。モード決定回路111は、送信シーケンスコントローラ113によって決定される送信シーケンスに対応する。
【0047】
マトリックスからのデータは、次に、信号処理モジュール117に転送される。ここで、データは、従来型の技術を用いて処理することができ、要求する情報の様々な部分のいずれか1つもしくはそれ以上を決定する。例えば、レーダーシステムの視界における対象物数およびその距離、速度などの情報である。
【0048】
図には示されていないが、DSP103もまた、視界内の対象物に対する方位などの他の情報を測定する。DSPは、次に、衝突が起こる可能性があるといった、ドライバが警告されるべき状態を検知すると、信号124を自動車制御システム121に送信する。しかし、より高性能なシステムにおいては、DSPは、単にドライバに警告するのとは対照的に、実際に処置を講じるために自動車制御システム121を制御してよいことを理解されたい。例えば、衝突回避において、もしシステム100が、自動車がその前方にある別の自動車に急接近していると測定すると、ブレーキを適用してよい。
【0049】
ドップラー分解能および距離スペクトルとの間のトレードオフは、マトリックスにおける行および列の相対数だけの作用ではない。ドップラー分解能および距離スペクトル分解能はまた、サンプルが取り入れられる指示によっても影響される。図2(a)および2(b)は、この概念を示すのに役立つ。図2(a)は、ドップラー分解能を十分に最大化するために適応される指示でデータに読み込まれるマトリックスを示す(以下、「ドップラー優位」マトリックスと呼ぶ)。図2(b)は、反対に、距離スペクトルを十分に最大化するために適応される指示でデータに読み込まれるマトリックスを示す(以下、「距離優位」マトリックスと呼ぶ)。図2(a)および2(b)において、各ボックスに書かれた数字は、そのボックスに配置されたサンプルに対応するシーケンスナンバーである。このように、サンプルナンバーは、サンプルが取り入れられた時間を示す。例えば、サンプルが0.001秒ごとに取り入れられると仮定すると、サンプルナンバー0を時間t=0、サンプル1を時間t=0.001秒、サンプル2を時間t=0.002秒、サンプル3を時間t=0.003秒、サンプル4を時間t=0.004秒、等とする。しかし、固定の間隔でサンプルが取り入れられる必要はないことを理解されたい。場合によっては、送信およびサンプルの取得タイミングをスタガリングする利点があってよい。これは、PRF(パルス繰り返し周波数)ジッターが距離のあいまいさを解消し、あるいは、分光分布を変える場合と同様である。
【0050】
図2(a)および2(b)においてマトリックスは、包括的測定セットごとに4×4で16サンプルあるということは明らかである。また、図2(b)において、例えば、これら16サンプルは、ステップ周波数掃引の4反復で構成され、各ステップ周波数掃引は4周波数値域から成るということは明らかである。特に、マトリックスに4列あるため(異なる周波数に対応する各列)、4周波数値域があることがわかる。同様に、マトリックスに4行あるため(行数は、同周波数で取り入れられる列ごとのサンプル数を示す)、周波数掃引が各包括的測定セットごとに4回実行されることがわかる。
【0051】
図2(a)のドップラー優位マトリックスにおいて、従来とは異なった方法でデータ収集されているのがわかる。つまり、所定の周波数での全サンプルが、1つの行に取り込まれ、追って次の周波数での全サンプル、などとマトリックスが満たされるまで続く。完全に明確にするために述べると、図3(a)は図2(a)のマトリックスに対応するグラフであり、包括的測定セットにおける16サンプルの時間作用としての各サンプルの送信周波数を示す。図3(a)における水平時間軸に沿って続く数字は、サンプル・シーケンス・ナンバーである。下記の表1は、表形式であるが図2(a)および3(a)と同様の情報を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
このように、図2(a)および3(a)において、所定の行(異なる周波数を有する各サンプル)における各サンプル間の時間差が、最大化、つまり0.04秒にされる一方で、所定の列(すなわち同周波数を有する各サンプル)における各サンプル間の時間差が、最小化、つまり0.01秒にされる。このように、ドップラー優位マトリックスは、最大化された速度分解能を有する(なぜならば、同周波数のサンプル間の時間差が最小化されるからである)。また、ドップラー優位マトリックスは、距離スペクトルを最小化する(なぜならば、異なる周波数でのサンプル間の時間差が最大化されるからである)。
【0054】
図2(b)の距離優位マトリックスにおいて、データが、より従来的な方法で収集されていることがわかる。つまり、周波数は、全周波数距離にわたり処理され、4つの連続したサンプルが4つの異なる周波数値域に取り込まれ、次に、ステップ周波数掃引が、4つの異なる周波数で取り込まれるもう4つの連続したサンプルとともに再度実行される。そして、包括的測定セットごとに(つまり、マトリックスごとに)、トータルで4つのステップ周波数掃引になるよう、これがもう2回繰り返される。明確にするために述べると、図3(b)は、図2(b)の距離優位マトリックスに対応するグラフであり、典型的な包括的測定セットにおける16サンプルの時間作用としての各サンプルの周波数を示す。下記の表2は、表形式であるが図2(b)および3(b)と同様の情報示す。
【0055】
【表2】

【0056】
このように、図2(b)および3(b)(および表2)の典型的なマトリックスにおいて、所定の列(すなわち同周波数を有する各サンプル)における各サンプル間の時間差が、最大化、つまり0.04秒にされる。一方、所定の行(異なる周波数を有する各サンプル)における各サンプル間の時間差が、最小化、つまり0.01秒にされる。このように、当該距離優位マトリックスは、距離スペクトルを最大化する。なぜならば、同周波数のサンプル間の時間差が最大化されるからである。また、距離優位マトリックスは、ドップラー/速度分解能を最小化する。なぜならば、異なる周波数におけるサンプル間の時間差が最小化されるからである。
【0057】
図4は、本発明の一実施形態に従った、操作を表すフロー・ダイヤグラムである。工程は、ステップ401から始まる。ステップ403において、システムがどのモードで操作するか(例えば、駐車支援モードもしくは衝突回避モード)についての決定がなされる。次に、ステップ405において、システムは、特に選択された操作モードに適応する送信変調方法を選択する。次に、ステップ407において、システムは、単一の送信信号を送信する。ステップ409において、システムは、送信信号に応じた反射信号を受信する。ステップ411において、システムは、送信信号および受信信号間の位相差を測定し、保存する。
【0058】
次に、決定ステップ413において、包括的測定セットにおける、すべての送信信号が送信されたかどうかが決定される。もし、送信されていない場合、フローは、次の送信信号が保存処理されるステップ407に戻る。ステップ407、409、411、413および415は、包括的測定セットのためのすべての送信信号が送信されるまで繰り返される。これが終わると、フローは、ステップ413からステップ415に進む。ステップ415において、選択された操作モードに対応する選択された方法に従い、マトリックスが構築される。
【0059】
次に、ステップ417において、行が選択される。次に、ステップ419において、選択された行のためのサンプル・データが処理され、その行のための位相回転周波数を測定する。これは、例えば、実際の高速フーリエ変換などの周波数領域にデータを変換したり、データにおいて優位な周波数を取り出したりすることを含んでよい。次に、決定ステップ421において、すべての行が処理されたかどうかが決定される。もし処理されていない場合、フローは、ステップ417に戻り、次の行を選択する。すべての行が処理されるまで、ステップ417、419および421を経由して、工程が流れる。すべての行が処理されると、フローは代わりに、ステップ421からステップ423に進む。ここでは、列が選択され処理されて列の周波数を得る。次に、決定ステップ425において、すべての列が処理されたかどうかが決定される。もし処理されていない場合、フローは、次の列が選択されるステップ423まで戻り、すべての列が処理されるまで、ステップ423、425および427が繰り返される。すべての列が処理されると、フローは、ステップ427からステップ429に進む。
【0060】
ステップ429において、各列および各行からのすべての位相回転データが処理され、レーダーの視界における対象物の距離および速度を算出する。本工程に関する少なくとも一部分は、すべての異なる行の位相回転を互いに関連づけ、最も考えられる位相回転を測定することを含むことに注目されたい。最もシンプルな実施形態において、このことは、単に、行におけるすべての位相回転データを平均するだけでよい。しかし、より実用的なシステムにおいては、方法は、さらにはるかに複雑であり、同様の工程が各列からの位相回転データとともに実行されることが要求される。そして、レーダー視界における対象物のドップラー周波数が、列データから測定され得る。また、距離周波数およびドップラー周波数が、行データから決定され得る。行データと列データとを比較することにより、距離データが取り出される。そして、レーダー視界における対象物数および、個々の距離と速度が算出され得る。ステップ431において、本データが自動車制御システムに送信され、データに基づいたあらゆる適切な操作が行われる。工程は、ステップ433で終了する。
【0061】
このように、本発明の2次元アプローチは、包括的データセットのカスタマイゼーションを容易にし、(1)サンプルが取り入れられる時間的シーケンスを変えること、および、(2)データの2次元配置の次元を調整すること(マトリックスにおける行および列を変えること)、のどちらかもしくは両方によって、レーダーシステムを様々な応用例に適応させる。
【0062】
これら調整に関するタイプの両方とも、レーダー送信周波数がサンプルからサンプルへと変えられる指示を変更することを含む。しかし、対象物に関する有効な距離および速度を生成させるための計算アルゴリズムは、本質的に変わらないままである。
【0063】
ここに述べられた本発明に関するいくつかの特定の実施形態を用いて、当業者は容易に、さまざまな変更、修正、改良を成し得る。本開示により明白であるこのような変更、修正、改良は、ここでは特には言及しないが、当該内容の一部分であり、本発明の範囲内である。したがって、前述の記載は、例にすぎず、これに限定されない。本発明は、以下の特許請求の範囲およびその同義の記載のみに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの対象物までの距離および対象物の速度を測定するレーダー方法において、
複数のRF信号を連続的に送信することであって、該複数のRF信号は各々は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、該複数の信号は同周波数を有する少なくとも1つの信号の第1サブセットおよび異なる周波数を有する少なくとも1つの信号の第2サブセットとを合わせて含み、
対象物からの反射後の複数の信号を受信し、
サンプルと呼ばれる各位相差であって、各信号および対応する反射信号との間の該位相差を測定し、
全サンプルが同周波数を有する1次元、および全サンプルが異なる周波数を有する2次元、という2つの次元においてサンプルを構成し、
少なくとも1つの対象物のドップラー周波数を含む位相回転周波数であって、一次元のサンプルに対応する位相回転周波数を測定するために一次元のサンプルを処理し、
少なくとも1つの対象部のドップラー周波数および距離周波数を含む位相回転周波数であって、二次元のサンプルに対応する位相回転周波数を測定するために2次元のサンプルを処理し、
少なくとも1つの対象物のドップラー周波数から距離周波数を識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較し、
ドップラー周波数を少なくも1つの対象物の速度に変換し、距離周波数を少なくとも1つの対象物の距離に変換することを特徴とするレーダー方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダー方法において、前記対象物は複数の対象物を含むことを特徴とするレーダー方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレーダー方法において、前記複数の送信RF信号は連続した信号間で定時間隔にて順次送信されることを特徴とするレーダー方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーダー方法において、前記送信信号は、最大化されたドップラー周波数分解能を有するデータセットを生成するよう複数の同一の周波数掃引として順次送信されることを特徴とするレーダー方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレーダー方法において、前記送信信号は、最大化された距離周波数分解能を有するデータセットを生成するよう連続して送信される同周波数を有する信号の各サブセットを構成し、順次送信されることを特徴とするレーダー方法。
【請求項6】
請求項1に記載のレーダー方法において、当該レーダー方法の応用例の機能として、複数の送信信号における信号および1次元と2次元とのサイズを調整することをさらに含むことを特徴とするレーダー方法。
【請求項7】
請求項1に記載のレーダー方法において、当該レーダー方法の応用例の機能として、1次元および2次元のサイズを調整することをさらに含むことを特徴とするレーダー方法。
【請求項8】
請求項1に記載のレーダー方法において、前記レーダー方法の応用例の機能として、送信信号のシーケンスを調整することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載のレーダー方法において、構成には2次元のマトリックスにおけるサンプルを調整することを含み、該マトリックスは複数行および複数列を含むことを特徴とするレーダー方法。
【請求項10】
請求項9に記載のレーダー方法において、各行は対応する位相回転周波数を有し、各列は対応する位相回転周波数を有することを特徴とするレーダー方法。
【請求項11】
請求項9に記載のレーダー方法において、処理には、前記マトリックスにおける各行のための位相回転周波数を算出すること、および前記マトリックスにおける各列のための位相回転周波数を算出することとを含むことを特徴とするレーダー方法。
【請求項12】
請求項11に記載のレーダー方法において、複数行の位相回転周波数を互いに関連づけて1つの行の予測位相回転周波数を生成すること、および複数列の位相回転周波数を互いに関連づけて1つの列の予測位相回転周波数を生成することを特徴とするレーダー方法。
【請求項13】
レーダーシステム制御用の実行可能なコンピュータ・コードであって、レーダー信号を送信し、送信されたレーダー信号の反射に関する受信データを処理するコンピュータ・コードを含むコンピュータ・プログラム製品において、
複数の無線周波信号を連続的に送信するレーダーシステムを発生させるための実行可能なコンピュータ・コードであって、各複数の無線周波信号は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、前記複数の信号は同周波数を有する信号のサブセットおよび異なる周波数を有する信号のサブセットとを合わせて含む実行可能なコンピュータ・コードと、
対象物からの反射後の複数の送信信号を受信するための実行可能なコンピュータ・コードと、
サンプルと呼ばれる各位相差であって、各送信信号および対応する反射信号との間の位相差を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、
全サンプルが同周波数を有する1次元、および全サンプルが異なる周波数を有する2次元、という2つの次元においてサンプルを構成するための実行可能なコンピュータ・コードと、
レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報のみを含む第1の位相回転周波数であって、1次元においてサンプルを処理して1次元におけるサンプルに対応する第1の位相回転周波数情報を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、
レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報および距離周波数情報を含む第2の位相回転周波数であって、2次元においてサンプルを処理して2次元におけるサンプルに対応する第2の位相回転周波数情報を測定するための実行可能なコンピュータ・コードと、
レーダーシステムの視界における対象物のための距離周波数とドップラー周波数とを識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較する実行可能なコンピュータ・コードと、
ドップラー周波数情報をレーダーシステムの視界における対象物の速度に応じた情報に変換するため、および距離周波数情報をレーダーシステムの視界における対象物の距離に応じた情報に変換するための実行可能なコンピュータ・コードとを含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項14】
請求項13に記載のコンピュータ・プログラム製品において、
連続して送信される信号間の前記時間間隔は一定であることを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項15】
請求項13に記載のコンピュータ・プログラム製品において、
前記コンピュータ・プログラム製品の応用例の機能として、1次元および2次元のサイズを調整するための実行可能なコンピュータ・コードをさらに含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項16】
請求項13に記載のコンピュータ・プログラム製品において、
前記コンピュータ・プログラム製品の応用例の機能として、送信信号の順序調整のための実行可能なコンピュータ・コードをさらに含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項17】
請求項1に記載のコンピュータ・プログラム製品において、
前記構成するための実行可能なコンピュータ・コードは2次元のマトリックスにおけるサンプルを調整するための実行可能なコンピュータ・コードを含み、前記マトリックスは複数行および複数列を含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項18】
請求項17に記載のコンピュータ・プログラム製品において、
各行は対応する位相回転周波数を有し、
各列は対応する位相回転周波数を有し、
1次元におけるサンプルを処理するための前記実行可能なコンピュータ・コードおよび2次元におけるサンプルを処理するための前記実行可能なコンピュータ・コードは、前記マトリックスにおける各行のための位相回転周波数を算出し、前記マトリックスにおける各列のための位相回転周波数をそれぞれ算出し、および複数行の位相回転周波数を互いに関連づけて1つの行の予測位相回転周波数を生成し、複数列の位相回転周波数を互いに関連づけて1つの列の予測位相回転周波数を生成することを含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。
【請求項19】
レーダーシステムにおいて、
アンテナと、
アンテナにより送信される無線周波信号を生成するためのアンテナに結合された送信機と、
送信信号に反応を示す受信反射信号を受信するためのアンテナに結合された受信機と、
複数の無線周波信号を連続的に送信する送信機アンテナを生成するための手段であって、各複数の無線周波信号は特定の周波数を含んで特定の有限期間送信され、前記複数の信号は、同周波数を有する少なくとも1つの信号の第1サブセット、および異なる周波数を有する少なくとも1つの信号の第2サブセットと、を合わせて含む手段と、
サンプルと呼ばれる各位相差であって、各送信信号および対応する反射信号との間の位相差を測定するための手段と、
レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報のみを含む第1の位相回転周波数であって、同じ送信周波数に対応するサンプルを処理して第1の位相回転周波数を測定するための手段と、
レーダーシステムの視界における対象物のためのドップラー周波数情報および距離周波数情報を含む第2の位相回転周波数であって、定時間隔で互いに順次分離された送信信号に対応するサンプルを処理して第2の位相回転周波数を測定するための手段と、
レーダーシステムの視界における対象物のための距離周波数とドップラー周波数とを識別するために第1の位相回転周波数と第2の位相回転周波数とを比較する手段、とを含むことを特徴とするレーダーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−510055(P2012−510055A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537593(P2011−537593)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065037
【国際公開番号】WO2010/059757
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(598122843)オートリブ エー・エス・ピー・インク (15)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】