説明

レーダ信号処理装置

【課題】 2機の衛星によるインタフェロメトリSARでは、干渉が得られずに地表の標高抽出ができない、また所望の標高精度が得られないことがあった。
【解決手段】 データ入力部1に入力された複数衛星の軌道データよりベースライン長を算出し、ベースライン判定部2にて干渉が得られる限界(クリティカル・ベースライン長)以下であるベースラインを抽出する。抽出されたベースラインのうち、高度誤差が最も小さくなるベースラインを選択する。選択されたベースラインを形成する2つの衛星の軌道データと画像データを用いてインタフェロメトリ処理を行うことによって、測定点の高度測定が精度良く行うことができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の合成開口レーダ画像を干渉させて標高データを抽出するレーダ信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダSAR(Synthetic Aperture Radar)は、マイクロ波を地表に照射し、地表から反射したエコーを受信して、これを信号処理することによって振幅と位相をもつSAR画像を生成する。インタフェロメトリSARは、異なる位置から観測した2枚のSAR画像を干渉させて、地表の標高情報を抽出する技術である。
通常の信号処理装置にレジストレーションを行いやすいサイズに画像を分割する画像分割部、分割画像についてそれぞれ振幅の分散を演算する分散演算部、分散の小さな領域についてはレジストレーションを行わないと判定する処理領域判定部、処理すべき領域より画像を切り出す画像切り出し部を付加することにより構成されるものは既に開示されている。(例えば、非特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特開平9−281231号公報(第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衛星の軌道によってベースライン長とベースライン傾斜角が決まり、これによって、インタフェロメトリSARでは標高精度が決まってしまうため、従来の方式では、衛星の軌道によっては、ベースライン長がクリティカル・ベースライン長より長く設定されることがあり、この場合には干渉が得られずに地表の標高抽出ができないことがあった。
またベースライン長が短く、ベースライン傾斜角が小さく設定された場合には、所望の標高精度が得られないという課題があった。
【0005】
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ベースライン長を長く、またベースライン傾斜角を大きく設定することによって、衛星の軌道制御に関わらず干渉が得られるデータを取得することができる、インタフェロメトリSARを実現し、高精度の標高測定を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のレーダ信号処理装置は、複数の衛星の軌道データと各衛星に搭載された合成開口レーダの画像データを入力するデータ入力部と、各衛星の軌道データから求めたベースライン長が、干渉が得られる限界を満足するベースラインを判定するベースライン判定部と、上記ベースライン判定部で合格になったベースライン毎に、高度誤差を算出し、高度誤差が最も小さいベースラインを選択するベースライン選択部と、上記ベースライン選択部で選択された当該ベースラインを有する衛星に搭載された合成開口レーダから、上記データ入力部で入手した画像データをを処理して高度を検出するインタフェロメトリ処理部とを具備するものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、複数の衛星間で決まるベースラインの中で、最も高度誤差の小さくなるベースラインを選択し、そのベースラインを成立している衛星に搭載した合成開口レーダから転送された画像データを使用してインタフェロメトリ処理することによって、測定点の高度測定の精度向上が図れるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明におけるレーダ信号処理装置の構成を示す図であり、1はデータ入力部、2はベースライン判定部、3はベースライン選択部、4はインタフェロメトリ処理部、5はデータ選択部である。
【0009】
インタフェロメトリSARは、1機の衛星に搭載されたSARを用いて同一地点を繰り返し2回観測するリピートパス方式やSARを搭載した2機の衛星を用いて同一地点をそれぞれ観測するデュアルアンテナ方式等によって実現されているが、旧来のリピートパス方式では2回の観測間での時間が誤差要因となることから、現在デュアルアンテナ方式へと推移してきている。
【0010】
データ入力部1は複数衛星の軌道データと各衛星に搭載されたSAR画像データを入力する。データ選択部5は、各衛星の軌道データから求めたベースライン長がクリティカル・ベースライン長以下であることを判定するベースライン判定部2と、高度誤差が最小となるベースラインを選択するベースライン選択部3から構成されている。
インタフェロメトリ処理部4は選択されたベースラインを形成する衛星画像を用いてインタフェロメトリ処理を行う。
【0011】
図2はベースライン長を説明するための図であり、6は衛星1、7は衛星2、8はベースライン、9は測定点である。
衛星1(6)と衛星2(7)の中心を結ぶ直線をベースライン8と呼び、測定点9と衛星1(6)と衛星2(7)から成る平面内で、衛星1(6)の仰角をベースライン8のオフナディア角と呼ぶ。
【0012】
衛星1(6)と衛星2(7)に搭載された合成開口レーダによる画像データから、インタフェロメトリSARによって抽出される測定点9の標高精度は、インタフェロメトリSARに用いた2枚のSAR画像をそれぞれ観測した時の2機の衛星衛星1(6)と衛星2(7)の位置を直線で結んだベースライン長に依存する。すなわち、干渉が得られる限界のベースライン長(クリティカル・ベースライン長)以下であれば、ベースラインを長く、またベースライン傾斜角を大きくした場合に標高精度が良くなる。
【0013】
なお、リピートパス方式の場合は1基の衛星における回帰軌道を利用して同一ターゲットを2回観測する方式で、まず1周回目に衛星6の位置よりターゲットを観測し、次の周回で衛星7の位置より同一ターゲットを観測する。
衛星1(6)と衛星2(7)の双方の中心間を結ぶ直線をベースライン、その間の距離をベースライン長と呼ぶ。
【0014】
図2において、先ず、データ入力部1で入力された複数の衛星の各軌道データの位置座標データから複数の衛星から異なる2つの衛星を選んだ場合の衛星間の直線距離である各ベースライン長8を算出する。次に、ベースライン判定部2において、数式1によって与えられるクリティカル・ベースライン長Bc以下であるベースラインを抽出する。
【0015】
【数1】

次にベースライン選択部3において、ベースライン判定部2で抽出されたベースラインのうち、数式2によって決まる高度誤差が最も小さくなるベースラインを選択する。
このようにして選択されたベースラインを形成する2つの衛星を抽出し、抽出した2つの衛星の軌道データと画像データを用いてインタフェロメトリ処理を行う。
【0016】
【数2】

【0017】
図3はこの発明における複数衛星によるフォーメーションを示す図であり、10は衛星3、であり、6〜9は図2と同じものである。
【0018】
図3においては、複数機の衛星をフォーメーションフライトしている状態を示し、第1の衛星6、第2の衛星7、第3の衛星10から成る3機の衛星を例に示しているが、フォーメーションを構成する衛星の数は、これに限らない。
第1の衛星6と第2の衛星7のベースライン9aをB1、第2の衛星7と第3の衛星10のベースライン9bをB2、第3の衛星10のベースライン9cをB3とする。
【0019】
複数機の第1の衛星6、第2の衛星7、第3の衛星10を同時にフォーメーションフライトさせ、標高精度が最も良くなる軌道データと画像データを用いてインタフェロメトリ処理を行うことによって、測定点の高度測定が精度良く行うことができるようになる。
【0020】
図4はこの発明におけるベースラインの使用判定方法を説明するための図であり、11はクリティカルベースラインである。ベースラインが3個の場合について説明する。
である。ベースライン長の限界を示すための図
ベースラインB1の時のベースライン長b1、オフナディア角θ1、ベースラインB2の時のベースライン長b2、オフナディア角θ2、ベースラインB3の時のベースライン長b3、オフナディア角θ3とする。ここで、クリティカルベースライン11は式1で計算されるものである。
【0021】
ベースラインB1は、クリティカルベースライン11の下側にあるので、使用することは不適格であることになる。よって、ベースラインB2とベースラインB3のどちらかを選択することになる。このような方法で、ベースライン判定部2で「干渉が得られる範囲に存在する」か否かの判定が行われる。
【0022】
次に、ベースラインB2とベースラインB3の2者からの最適なベースラインの選択方法を説明する。
図5はベースライン毎の標高誤差の求め方を説明するための図であり、ベースラインB2の時の高度誤差h2、ベースラインB3の時の高度誤差h3として、ベースライン長はb2、b3で、オフナディア角はθ2、θ3で図4の説明と同じものとする。
【0023】
図5において、オフナディア角をパラメータとして、オフナディア角が大きくなると誤差が大きくなる曲線を表している。
ベースラインB2とベースラインB3をこの曲線状にプロットすると、図示したように、ベースラインB2の高度誤差h2がベースラインB3の高度誤差h3よりも小さいことに成り、ベースラインB2を選ぶことになる。
ここで、曲線は式2で計算されるものであり、ベースライン選択部3でこのように、最適なベースラインが選択される。
【0024】
なお、各ベースラインのオフナディア角は、説明の都合上、衛星の符号の若い番号を付けている方のオフナディア角を使用するかのように述べてきたが、ベースラインを形成する両端の衛星のどちらか一方を選択して使用することも可能である。
また、両端の衛星のオフナディア角を平均したものを使用することも良い。
【0025】
以上に述べたように、ベースラインの中で、最も高度誤差の小さくなるベースラインを選択し、そのベースラインを成立している衛星に搭載した合成開口レーダから転送された画像データを使用してインタフェロメトリ処理することによって、測定点の高度測定の精度向上が図れるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明におけるレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【図2】ベースライン長を説明するための図である。
【図3】この発明における複数衛星によるフォーメーションを示す図である。
【図4】この発明におけるベースラインの使用判定方法を説明するための図である。
【図5】ベースライン毎の標高誤差の求め方を説明するための図である。
【符号の説明】
【0027】
1 データ入力部、 2 ベースライン判定部、 3 ベースライン選択部、 4 インタフェロメトリ処理部、 5 データ選択部、 6 衛星1、 7 衛星2、 8 ベースライン、 9 測定点、 10 衛星3、 11 クリティカルベースライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3以上の複数の衛星の軌道データと各衛星に搭載された合成開口レーダの画像データを入力するデータ入力部と、
複数の衛星から任意に選択した2つの衛星間を結ぶベースラインにおいて、複数のベースラインに対応したベースライン長とオフナディア角に基づいて、SAR(Synthetic Aperture Radar)画像が干渉を得られるか否かを判定するベースライン判定部と、
上記ベースライン判定部でSAR画像の干渉が得られる範囲に存在すると判定されたベースライン毎に、ベースライン長とオフナディア角から、高度誤差を算出し、高度誤差が最も小さくなるベースラインを選択するベースライン選択部と、
上記ベースライン選択部で選択された当該ベースラインを構成する2つの衛星に搭載された合成開口レーダから、上記データ入力部で入手した画像データを処理して測定点の高度を検出するインタフェロメトリ処理部と、
を具備することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
当該ベースラインに対応したオフナディア角として、
ベースラインを形成する両端の衛星のいづれか一方のオフナディア角を使用することを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
当該ベースラインに対応したオフナディア角として、
両端の衛星のオフナディア角を平均したものを使用することを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−256134(P2007−256134A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82153(P2006−82153)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】