説明

レーダ装置、補償量算出方法

【課題】複数の送信チャンネル又は受信チャンネルを有するレーダ装置において、装置規模を増大させることなく、送信チャンネル又は受信チャンネル間の特性差を、長期間に渡って安定して補償できるようにする。
【解決手段】2チャンネル分の受信回路を集積した複数の受信用IC42,43を用いてレーダ装置1を構成する。同一チップ(受信用IC)に属する隣接した受信チャンネル間の位相差Δθ12,Δθ34が一致している場合に、単一物標からの反射波に基づく受信信号であるものと判断して、補償量算出用データΔθdの算出を行う。この時、受信チャンネル間の特性差の影響を受けないデータとして、上述の位相差Δθ12,Δθ34を用い、受信チャンネル間の特性差の影響を受けるデータとして、互いに異なるチップに属する隣接した受信チャンネル間の位相差Δθ23を用い、これらに基づいて補償量算出用データΔθd、ひいては補償量Δθhを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の送信チャンネル又は受信チャンネルを有するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、送信したレーダ波の反射波を、受信アンテナを介して受信する複数の受信チャンネルを有し、各受信チャンネルから供給される信号に基づいて、レーダ波を反射した物標に関する情報(距離,方位,速度等)を求めるレーダ装置が知られている。
【0003】
この種のレーダ装置では、受信信号を伝送する伝送路や受信信号を処理するアナログ回路の特性の温度変化や経年変化によって、各受信チャンネルの特性(利得や経路長)にばらつきが生じると、方位の検出精度が劣化し、特に、使用電波の周波数が高い場合には、その影響が顕著に現れる。
【0004】
これに対して、特性が既知の疑似受信信号を、受信アンテナからの受信信号に代えて各受信チャンネルに供給し、その信号処理結果から各受信チャンネルの特性を測定し、その測定結果に基づいて受信チャンネル間の特性差を補償するための補正値を算出し、その補正値を用いて、受信アンテナからの受信信号を各受信チャンネルに供給した時に、各受信チャンネルから出力される出力信号を補正することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、疑似受信信号を入力する代わりに、アンテナを保護するレドームからの反射波に基づく受信信号を利用して、補正値を算出することも行われている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−218617号公報
【特許文献2】特開2007−93480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の従来装置では、疑似受信信号を発生させるための回路や、受信アンテナからの受信信号と疑似受信信号とを切り替えて各受信チャンネルに供給するためのスイッチ等の新たな構成が必要となり、装置規模やコストが増大するという問題があった。
【0007】
また、ミリ波帯を使用する装置では、疑似受信信号を各受信チャンネルに供給するために用いる伝送路も温度変化等によって特性にばらつきが生じてしまい、各受信チャンネルに同一の疑似受信信号を精度良く供給し続けることが困難であり、精度の良い補正値(ひいてはレーダ波を反射した物標に関する情報)を、長期間に渡って安定して得ることができないという問題もあった。
【0008】
また、特許文献2に記載の従来装置では、補正値を求めるために新たな回路を設ける必要はないものの、温度変化等による構造物の変形により、送信アンテナ,レドーム,受信アンテナ間の経路長が変化したり、飛石による傷や雪・雨・泥等による汚れにより、レドームでの反射特性が変化したりすると、レドームからの反射波の特性が受信アンテナ(受信チャンネル)毎にばらつくことになるため、特許文献1に記載の従来装置と同様に、精度の良い補正値を長期間に渡って安定して得ることができないという問題があった。
【0009】
なお、このような問題は、上述したように受信チャンネルを複数有している場合に限らず、送信チャンネルを複数有している場合も同様に生じる。
本発明は、上記問題点を解決するために、複数の送信チャンネル又は受信チャンネルを有するレーダ装置において、装置規模を増大させることなく、送信チャンネル又は受信チャンネル間の特性差を、長期間に渡って安定して補償できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた発明である請求項1に記載のレーダ装置では、送信手段が送信アンテナを介してレーダ波を送信し、受信手段を構成する複数の受信チャンネルが、送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する。なお、受信手段は、複数の受信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成されている。
【0011】
そして、補正手段が、受信手段からの出力信号を、受信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正し、信号処理手段が、その補正された出力信号に基づいて、レーダ波を反射した物体に関する情報を求める。なお、受信チャンネル間の特性差とは、具体的には、利得差や経路差のことであり、また、受信チャンネル間の差分値とは、具体的には、振幅差や位相差のことである。
【0012】
また、補償量算出手段は、同一の集積回路に属する隣接した受信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した受信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、補正手段にて補償すべき補償量として求める。
【0013】
つまり、温度変化等に基づいて集積回路の特性が変化したとしても、同一集積回路に属する受信チャンネルの特性変化はいずれも同様なものとなるため、これらの間に特性差が生じることがない。その結果、回路内差分値は、受信チャンネル間の特性差の影響を受けていないものとなる。一方、異なる集積回路に属する受信チャンネルは、互いに異なった特性変化を生じるため、これらの間には特性差が生じることになる。その結果、回路間差分値は、受信チャンネル間の特性差の影響を受けたものとなる。従って、回路内差分値と回路間差分値との差が、補償すべき補償量となるのである。
【0014】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、回路内差分値や回路間差分値の算出のために特別な疑似受信信号等を必要とせず、通常の反射波を用いることができるため、装置規模を増大させることがなく、しかも、引用文献2に記載の従来装置とは異なり、受信チャンネル以外の構成部分の変化の影響を受けることもないため、受信チャンネル間の特性差を長期間に渡って安定して補償することができる。
【0015】
ところで、本発明のレーダ装置は、請求項2に記載のように、判定手段が、受信手段からの出力信号が単一物標からの反射波に基づくものであるか否かを判定し、補償量算出手段は、判定手段にて肯定判定された場合に補償量を求めることが望ましい。
【0016】
これは、複数物標からの反射波が混在している場合には、差分値を正確に求めることができない可能性があるためである。
そして、この場合、判定手段は、例えば、請求項3に記載のように、集積回路毎に回路内差分値を求め、該回路内差分値のばらつきが、予め設定された判定閾値以下である場合に単一物標であると判定するように構成されていてもよいし、請求項4に記載のように、集積回路のいずれか一つに属する各受信チャンネルから得られる出力信号を用いてデジタルビームフォーミングを行い、予め設定された電力閾値より大きいビームの数を物標の数として求めるように構成されていてもよいし、請求項5に記載のように、集積回路のいずれか一つに属する各受信チャンネルから得られる出力信号の自己相関行列を求め、該自己相関行列の固有値の大きさから物標の数を求めるように構成されていてもよい。
【0017】
次に、本発明のレーダ装置は、請求項6記載のように、受信チャンネル毎に、受信アンテナからの受信信号とローカル信号とを混合するミキサが設けられている場合、集積回路には、その集積回路に属する各受信チャンネルのミキサにローカル信号を分配する分配回路も集積されていることが望ましい。
【0018】
また、本発明のレーダ装置は、請求項7記載のように、同一の集積回路に属する各受信チャンネルは、共通のミキサを時分割で使用するように構成されている場合、集積回路には、その集積回路に属する受信チャンネルからの出力信号のいずれかを選択して出力する選択回路が集積されていることが望ましい。
【0019】
このように分配回路や選択回路も集積回路に集積することによって、同一の集積回路に属する受信チャンネルの特性を、より精度よく均一なものとすることができる。
なお、上述の説明は、受信手段が、複数の受信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成されている場合についてのものであるが、送信手段が、複数の送信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成されているものについても同様のことが言える。
【0020】
この場合、請求項8に記載のように、補償量算出手段は、同一の集積回路に属する隣接した送信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した送信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、補正手段にて補償すべき補償量として求める。
【0021】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、請求項1に記載のレーダ装置と同様に、装置規模を増大させることがなく、受信チャンネル間の特性差を長期間に渡って安定して補償することができる。
【0022】
そして、請求項9に記載のように、送信チャンネルが、いずれも同一の信号発生源から送信信号の供給を受けるように構成されている場合、集積回路には、その集積回路に属する各送信チャンネルに送信信号を分配する分配回路が集積されていることが望ましい。
【0023】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、同一の集積回路に属する送信チャンネルの特性を、より精度よく均一なものとすることができる。
次に、請求項10に記載の発明は、送信アンテナを介してレーダ波を送信する送信手段と、送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する複数の受信チャンネルを有し、且つ複数の受信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成された受信手段とを備えたレーダ装置において、受信手段からの出力信号を、受信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する際に用いる補償量を算出する補償量算出方法であって、同一の集積回路に属する隣接した受信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した受信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を補償量として求めることを特徴とする。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、送信アンテナを介してレーダ波を送信する複数の送信チャンネルを有し、且つ 複数の送信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成された送信手段と、送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する受信手段とを備えたレーダ装置において、出力手段からの出力信号を、送信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する際に用いる補償量を算出する補償量算出方法であって、同一の集積回路に属する隣接した送信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した送信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を補償量として求めることを特徴とする。
【0025】
これら本発明の補償量算出方法によれば、特別な疑似受信信号等を用いることなく、レーダ装置から送出されたレーダ波の反射波に基づく受信信号から補償量を求めることができる。しかも、本発明の補償量算出方法によれば、求められた補償量は、受信チャンネルや送信チャンネル以外の部分の特性変化の影響を受けることがないため、チャンネル間の特性差を精度よく補償することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用された車載用のレーダ装置1の全体構成を示すブロック図である。
<全体構成>
図1に示すように、レーダ装置1は、レーダ波を送信する単一の送信アンテナAS及びレーダ波の反射波を受信する受信アンテナAR1〜AR4からなるアンテナ部2と、送信アンテナASに送信信号を供給すると共に、各受信アンテナAR1〜AR4からの受信信号を処理する信号処理モジュール4と、アンテナ部2と信号処理モジュール4との間で送信信号や受信信号を伝送するための伝送路(導波管)を形成するIF部3とを備えている。
【0027】
なお、信号処理モジュール4では、受信アンテナARi(i=1〜4)からの受信信号をそれぞれ個別に処理するように構成されており、以下では、受信アンテナARiからの受信信号を処理する回路を総称して受信チャンネルCHiともいう。
【0028】
また、レーダ装置1は、信号処理モジュール4から受信チャンネルCH1〜CH4毎に出力される出力信号をデジタルデータに変換するA/D変換部5と、A/D変換部5で変換されたデジタルデータに基づいて各種処理を実行する演算処理部6とを備えている。
<信号処理モジュール>
信号処理モジュール4は、送信信号及びローカル信号を生成する送信回路を集積した送信用集積回路(以下、送信用ICという)41と、受信信号及びローカル信号に基づいてビート信号を生成する受信回路(受信チャンネル)を、2チャンネル分ずつ集積した受信用集積回路(以下、受信用ICという)42,43とによって構成されている。
【0029】
なお、送信用IC41は、演算処理部6からの指令に従って、ミリ波帯の高周波信号を発生させる発振器OSC、発振器OSCの出力を電力分配して送信信号及びローカル信号を生成する分配器DV、送信信号を増幅する増幅器A1、ローカル信号を増幅する増幅器A2を備えた周知の回路構成を有する。
【0030】
一方、受信用IC42(受信用IC43も全く同様)において、入力される受信信号のそれぞれに対応して設けられた受信回路は、受信信号を増幅する増幅器A3,増幅器A3の出力とローカル信号とを混合してビート信号を生成するミキサMIX,ミキサMIXの出力(ビート信号)を増幅する増幅器A4からなる周知の回路構成を有している。
【0031】
また、受信用IC42は、ローカル信号を入力端に設けた入力バッファBFと、入力バッファBFを介して取り込んだローカル信号を2分岐して各受信回路に供給する分岐回路BLとを備えている。
【0032】
なお、受信用IC42内において、2系統の受信回路(特にミキサMIX)は、分岐回路BLから受信回路に至るローカル信号の伝送路長が等しくなるように、分岐回路BLに対して対称な位置に配置されている。
【0033】
更に、信号処理モジュール4の各部(送信用IC41、受信用IC42,43、ローカル信号供給用の伝送路等)は、送信用IC41から各受信用IC42,43に至るローカル信号供給用の伝送路長が等しくなるようにレイアウトされている。
<A/D変換部>
A/D変換部5は、受信チャンネルCHiのそれぞれについて、信号処理モジュール4にて生成されたビート信号から不要なノイズ成分を除去するバンドパスフィルタBPFi、バンドパスフィルタBPFiの出力をA/D変換するA/D変換器ADiを備えている。
<演算処理部>
演算処理部6は、CPU,ROM,RAMからなるマイクロコンピュータを中心に構成され、送信用IC41に送信信号を発生させる指令を出力すると共に、A/D変換部5を介して取得したデジタルデータに基づいて、レーダ波を反射した物標に関する情報(相対速度、距離、方位等)を求める物標検出処理や、受信チャンネルCH1〜CH4間の特性差を補償するための補正を行う際に用いる補償量を求める補償量出処理を少なくとも実行する。
<<物標検出処理>>
ここで演算処理部6が実行する物標検出処理の詳細を、図2に示すフローチャートに沿って説明する。
【0034】
本処理は、レーダ装置1に電源供給が開始されると、電源供給が停止するまでの間、周期的に起動する。
本処理が起動すると、まずS110では、レーダ装置1がFMCWレーダとして動作するように、送信用IC41に対して、周波数が三角波状に変化するように変調された高周波信号を生成するように指令を出力し、A/D変換部5を介して、ビート信号をA/D変換したデータを、全ての受信チャンネルCH1〜CH4について取得する。
【0035】
以下では、送信信号の周波数が増加する区間を上り変調区間、周波数が減少する区間を下り変調区間とよぶ。
S120では、後述する補償量算出処理によって算出された補償量Δθhにより、受信チャンネル間の特性差が補償されるようにデジタルデータを補正するデータ補正処理を実行し、続くS130では、その補正されたデジタルデータを用いて、受信チャンネル毎かつ変調区間毎に高速フーリエ変換(FFT)処理を実行する。
【0036】
S140では、変調区間毎、且つFFT処理によってピークが検出された周波数(ピーク周波数)毎にデジタルビームフォーミング(DBF)を行うことで反射波の到来方向を求め、S150では、DBFによって検出された方位や過去の検出結果から、上り変調区間と下り変調区間とで、同じ物標からの反射波に基づくピーク周波数を組み合わせるペアマッチ処理を実行する。
【0037】
S160では、S150にて組み合わされたピーク周波数対に基づいて、ピーク周波数対を発生させた物標(検出物標)との距離,及び相対速度を算出し、これら距離,相対速度、及びピーク周波数対について先のS140で算出された方位を、検出物標の物標情報(距離,相対速度,方位)として出力して、本処理を終了する。
【0038】
なお、これらの処理はFMCWレーダやDBFレーダにおいて周知の処理である。
<<補償量算出処理>>
次に、演算処理部6が実行する補償量算出処理の詳細を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0039】
本処理は、予め設定された起動条件を満たす場合に実行される。具体的には、車両のエンジン始動時、又は、ドライバからの指令入力時、周期的(物標検出処理より十分に長い周期)に実行することが考えられる。
【0040】
本処理が起動すると、まずS210ではS110の場合と同様に、ビート信号をA/D変換したデータを、全ての受信チャンネルCH1〜CH4について取得する。
S220では、受信チャンネル毎かつ変調区間毎にFFT処理を実行し、続くS230では、FFT処理結果から、変調区間毎かつピーク周波数成分毎に受信信号ベクトルX=(X1,X2,X3,X4)を生成する。なお、Xi=Aijθi は、受信チャンネルCHiにおけるピーク周波数成分であり、Aiは振幅、θiは位相を表す。
【0041】
S240では、S230にて生成された受信信号ベクトルXの中から未処理のものを処理対象ベクトルとして抽出し、S250では、その抽出した処理対象ベクトルに基づいて、同一チップ内位相差(本発明における回路内差分値に相当)、即ち、受信チャンネルCH1,CH2間の位相差Δθ12((1)式参照)と、受信チャンネルCH3,4間の位相差Δθ34((2)式参照)を算出する。
【0042】
【数1】

【0043】
S260では、両位相差Δθ12,Δθ34の差分の絶対値が予め設定された閾値αより小さいか否かを判断する((3)式参照)。
【0044】
【数2】

【0045】
S260にて肯定判断された場合、即ち、両位相差Δθ12,Δθ34が一致している場合は、処理対象ベクトルに対応するピーク周波数成分が単一物標からの反射波に基づくものであるとして、S270に進む。
【0046】
S270では、処理対象ベクトルに基づいて異チップ間位相差(本発明における回路間差分値に相当)、即ち、受信チャンネルCH2,CH3間の位相差Δθ23を算出する((4)式参照)。
【0047】
【数3】

【0048】
S280では、(5)式に従って補償量算出用データΔθdを求め、これを蓄積して、S290に進む。
【0049】
【数4】

【0050】
一方、先のS260にて否定判断された場合、即ち、両位相差Δθ12,Δθ34が不一致している場合は、処理対象ベクトルに対応するピーク周波数成分が複数物標からの反射波に基づくものであるものとして、そのままS290に進む。
【0051】
S290では、未処理の受信信号ベクトルXがあるか否かを判断し、未処理の受信信号ベクトルXがあればS240に戻って、S240〜S280の処理を繰り返す。
S290にて、未処理の受信信号ベクトルXはないと判断された場合は、S300に進み、S280にて蓄積された補償量算出用データΔθdの蓄積数が、予め設定された必要蓄積数に達したか否かを判断し、必要蓄積数に達していなければ、S210に戻ってS210〜S290の処理を繰り返し、必要蓄積数に達していれば、S310に進む。
【0052】
S310では、蓄積された補償量算出用データΔθdに基づいて、補償量Δθhを算出して本処理を終了する。
なお、補償量Δθhとしては、例えば、補償量算出用データΔθdの平均値を用いることができる。
【0053】
なお、この補償量θhは、互いに異なる受信用IC42,43間の特性差を表すものであるため、S120での補正は、受信用IC42,43のうち、いずれか一方に属する二つの受信チャンネルで取得された全てのデジタルデータを、この補償量Δθhが補償されるように補正すればよい。
<効果>
以上説明したように、レーダ装置1においては、受信チャンネル間の特性差の影響を受けないデータとして、同一チップ(受信用IC)に属する隣接した受信チャンネル間の位相差Δθ12,Δθ34を用い、受信チャンネル間の特性差の影響を受けるデータとして、互いに異なるチップに属する隣接した受信チャンネル間の位相差Δθ23を用い、これらに基づいて補償量算出用データΔθd、ひいては補償量Δθhを求めている。
【0054】
従って、レーダ装置1によれば、補償量Δθhの算出のために特別な疑似受信信号を必要とせず、通常の反射波に基づく受信信号を用いることができるため、装置規模を増大させることがなく、しかも、補償量Δθhは、受信チャンネル以外の構成部分の変化の影響を受けることがないため、受信チャンネル間の特性差を長期間に渡って安定して補償することができる。
【0055】
また、レーダ装置1においては、単一物標からの反射波に基づく受信信号である場合にのみ補償量算出用データΔθdを求めると共に、単一物標からの反射波に基づく受信信号であるか否かを、補償量算出用データΔθdの算出に用いる位相差Δθ12,Δθ34に基づいて判断するようにされている。
【0056】
従って、レーダ装置1によれば、少ない処理量によって補償量Δθhの精度を向上させることができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
<全体構成>
図4は、第2実施形態のレーダ装置1aの全体構成を示すブロック図である。
【0057】
図4に示すように、レーダ装置1aは、レーダ波を送信する複数の送信アンテナAS1〜AS4及びレーダ波の反射波を受信する単一の受信アンテナARからなるアンテナ部2aと、各送信アンテナAS1〜ASに送信信号を供給すると共に、受信アンテナARからの受信信号を処理する信号処理モジュール4aと、アンテナ部2aと信号処理モジュール4aとの間で送信信号や受信信号を伝送するための伝送路(導波管)を形成するIF部3aとを備えている。
【0058】
なお、信号処理モジュール4aでは、送信アンテナASi(i=1〜4)に送信信号をそれぞれ個別に供給するように構成されており、以下では、送信アンテナASiに送信信号を供給する回路を送信チャンネルCHiともいう。
【0059】
また、レーダ装置1aは、信号処理モジュール4から出力される出力信号をデジタルデータに変換するA/D変換部5aと、A/D変換部5aで変換されたデジタルデータに基づいて各種処理を実行する演算処理部6aとを備えている。
<信号処理モジュール>
信号処理モジュール4aは、送信信号及びローカル信号を生成する送信回路を集積した送信用集積回路(以下、送信用ICという)45と、送信信号の出力先を切り替える1入力2出力のスイッチング用集積回路(以下、スイッチング用ICという)46,47,48と、受信アンテナARからの受信信号、送信用IC45からのローカル信号に基づいてビート信号を生成する受信用集積回路(以下、受信用ICという)49とによって構成されている。
【0060】
なお、送信用IC45は、演算処理部6からの指令に従って、ミリ波帯の高周波信号を発生させる発振器OSC、発振器OSCの出力を電力分配して送信信号及びローカル信号を生成する分配器DV、送信信号を増幅する増幅器A1、ローカル信号を増幅する増幅器A2を備えた周知の回路構成を有する。
【0061】
また、スイッチング用IC46の入力端は、送信用IC45の送信信号出力用の出力端に接続され、スイッチング用IC47,48の各入力端は、スイッチング用IC46の二つの出力端のいずれかにそれぞれ接続され、スイッチング用IC47,48の出力端は、それぞれ送信アンテナAS1〜AS4に至る伝送路に接続されている。
【0062】
更に、スイッチング用IC47,48には、各出力端に至るIC内の個別線路に、それぞれ増幅器A5が設けられている。但し、スイッチングのための具体的な構成については、周知技術でもあるため、図面を見やすくするために図示を省略している。また、スイッチング用IC46,47,48は、送信用IC45の送信信号用出力端からスイッチング用IC46,47の各入力端に至る伝送路長が等しくなるようにレイアウトされている。
【0063】
一方、受信用IC49は、受信信号を増幅する増幅器A3,増幅器A3の出力とローカル信号とを混合してビート信号を生成するミキサMIX,ミキサMIXの出力(ビート信号)を増幅する増幅器A4からなる周知の回路構成を有している。
<A/D変換部>
A/D変換部5aは、信号処理モジュール4にて生成されたビート信号から不要なノイズ成分を除去するバンドパスフィルタBPF、バンドパスフィルタBPFの出力をA/D変換するA/D変換器ADを備えている。
<演算処理部>
演算処理部6aでは、スイッチング用IC46,47,48を操作することによって、送信アンテナAS1〜AS4に順番にレーダ波を送信(時分割動作)させ、A/D変換によって得られたデジタルデータを、送信チャンネルCH1〜CH4毎に分離する以外は、レーダ装置1における演算処理部6と同様の処理を実行する。
<効果>
このように構成されたレーダ装置1aによれば、送信チャンネルと受信チャンネルとの違いがあるだけで、レーダ装置1と同様の効果を得ることができる。
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施可能である。
【0064】
上記実施形態では、A/D変換によって得られたデジタルデータを補正しているが、FFT処理の結果を補正してもよい。
上記実施形態では、補償量算出処理において、物標検出処理とは別にデータ収集を行っているが、物標検出処理で収集したデータを利用して、補償量Δθhを求めるようにしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、補償量算出用データΔθdが必要蓄積数だけ蓄積されてから補償量Δθhを算出しているが、補償量算出用データΔθdが算出される毎に、補償量Δθhを更新するように構成してもよい。この場合、具体的には、荷重平均や移動平均の手法を用いて補償量算出用データΔθdから補償量Δθhを求めればよい。
【0066】
上記実施形態では、受信チャンネル間の差分値として位相差を用いる場合について説明したが、位相差の代わりに、或いは位相差と共に、振幅差を用いてもよい。
上記実施形態では、受信用ICやスイッチング用ICに、2チャンネルを集積しているが、特性が均一なチャンネルを構成できるのであれば3チャンネル以上集積したものを用いてもよい。また、受信用ICやスイッチング用IC自体の数も、3個以上で構成してもよい。
【0067】
上記実施形態では、単一物標からの反射波に基づく受信信号であるか否かを、同一チップに属する隣接したチャンネル間の位相差Δθ12,Δθ34が一致しているか否かによって判断しているが、これに限らず、例えば、同一チップに属する各チャンネルについての受信信号を用いてデジタルビームフォーミングを行い、予め設定された電力閾値より大きいビームの数を物標の数として求めることで判断してもよい。
【0068】
また、例えば、同一チップに属する各チャンネルについての受信信号から、その受信信号の自己相関行列を求め、該自己相関行列の固有値の大きさから物標の数を求めることで判断してもよい。
【0069】
また、第1実施形態では、受信チャンネルCH1〜CH4がそれぞれミキサMIXを備えているが、同一チップに属する受信チャンネルについては、チップ外に設けられた共通のミキサを時分割で使用するように構成してもよい。但し、この場合、各チップ(受信用IC)には、両受信チャンネルからの出力信号のいずれかを選択してミキサに出力する選択回路まで集積されていることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態のレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】物標検出処理の内容を示すフローチャート。
【図3】補償量算出処理の内容を示すフローチャート。
【図4】第2実施形態のレーダ装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0071】
1,1a…レーダ装置 2,2a…アンテナ部 3,3a…IF部 4,4a…信号処理モジュール 5,5a…A/D変換部 6,6a…演算処理部 41,45…送信用集積回路 42,43,49…受信用集積回路 46〜48…スイッチング用集積回路 A1〜A5…増幅器 AD1〜AD5,AD…A/D変換器 AD1〜AD4,AD…A/D変換器 AR1〜AR4,AR…受信アンテナ AS,AS1〜AS4…送信アンテナ BF…入力バッファ BL…分岐回路 BPF1〜BPF4,BPF…バンドパスフィルタ DV…分配器 MIX…ミキサ OSC…発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナを介してレーダ波を送信する送信手段と、
前記送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する複数の受信チャンネルを有した受信手段と、
前記受信手段からの出力信号を、前記受信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する補正手段と、
前記補正手段によって補正された出力信号に基づいて、前記レーダ波を反射した物体に関する情報を求める信号処理手段と、
を備えたレーダ装置において、
前記受信手段を、複数の前記受信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成すると共に、
同一の集積回路に属する隣接した受信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した受信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、前記補正手段にて補償すべき補償量として求める補償量算出手段を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記受信手段からの出力信号が単一物標からの反射波に基づくものであるか否かを判定する判定手段を備え、
前記補償量算出手段は、前記判定手段にて肯定判定された場合に前記補償量を求めることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記集積回路毎に前記回路内差分値を求め、該回路内差分値のばらつきが、予め設定された判定閾値以下である場合に単一物標であると判定することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記集積回路のいずれか一つに属する各受信チャンネルから得られる前記出力信号を用いてデジタルビームフォーミングを行い、予め設定された電力閾値より大きいビームの数を物標の数として求めることを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記集積回路のいずれか一つに属する各受信チャンネルから得られる前記出力信号の自己相関行列を求め、該自己相関行列の固有値の大きさから物標の数を求めることを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記受信チャンネル毎に、前記受信アンテナからの受信信号とローカル信号とを混合するミキサを備え、
前記集積回路には、該集積回路に属する各受信チャンネルのミキサに前記ローカル信号を分配する分配回路が集積されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項7】
同一の前記集積回路に属する各受信チャンネルは、共通のミキサを時分割で使用するように構成されると共に、
前記集積回路には、該集積回路に属する受信チャンネルからの出力信号のいずれかを選択して出力する選択回路が集積されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項8】
送信アンテナを介してレーダ波を送信する複数の送信チャンネルを有する送信手段と、
前記送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する受信手段と、
前記受信手段からの出力信号を、前記送信チャンネル間の特性差によって生じる該送信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する補正手段と、
前記補正手段にて補正された出力信号に基づいて、前記レーダ波を反射した物体に関する情報を求める信号処理手段と、
を備えたレーダ装置において、
前記送信手段を、複数の前記送信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成すると共に、
同一の集積回路に属する隣接した送信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した送信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、前記補正手段にて補償すべき補償量として求める補償量算出手段を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
前記送信チャンネルは、いずれも同一の信号発生源から送信信号の供給を受けるように構成されると共に、
前記集積回路には、該集積回路に属する各送信チャンネルに前記送信信号を分配する分配回路が集積されていることを特徴とする請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
送信アンテナを介してレーダ波を送信する送信手段と、前記送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する複数の受信チャンネルを有し、且つ複数の前記受信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成された受信手段とを備えたレーダ装置において、前記受信手段からの出力信号を、前記受信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する際に用いる補償量を算出する補償量算出方法であって、
同一の集積回路に属する隣接した受信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した受信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、前記補償量として求めることを特徴とする補償量算出方法。
【請求項11】
送信アンテナを介してレーダ波を送信する複数の送信チャンネルを有し、且つ 複数の前記送信チャンネルを1チップに集積した集積回路を複数個用いて構成された送信手段と、前記送信手段から送信されたレーダ波の反射波を受信アンテナを介して受信する受信手段とを備えたレーダ装置において、前記出力手段からの出力信号を、前記送信チャンネル間の特性差によって生じる該受信チャンネル間の差分値が補償されるように補正する際に用いる補償量を算出する補償量算出方法であって、
同一の集積回路に属する隣接した送信チャンネル間の差分値である回路内差分値と、互いに異なる集積回路に属し且つ隣接した送信チャンネル間の差分値である回路間差分値との差を、前記補償量として求めることを特徴とする補償量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−281775(P2009−281775A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132017(P2008−132017)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】