レーダ装置
【課題】不要波環境下であっても目標検出能力を高めることができ、また、処理規模または回路規模を増大させずに目標に対する測距および測角ができるレーダ装置。
【解決手段】位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナ1と、複数のサブアレイからのサブアレイ信号に対してICAを行って目標信号と不要波信号を分離するICA処理部2と、分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部4と、サブアレイ信号から信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部5と、抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部6と、合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部7と、STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部8を備える。
【解決手段】位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナ1と、複数のサブアレイからのサブアレイ信号に対してICAを行って目標信号と不要波信号を分離するICA処理部2と、分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部4と、サブアレイ信号から信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部5と、抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部6と、合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部7と、STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部8を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインローブやサイドローブから入力される妨害波が存在する不要波環境下で、目標距離や目標方位を測定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。電波環境においては、図15(a)に示すように、目標の他に、クラッタのような連続妨害やパルス妨害といった不要波が混在している。このような不要波環境下において、レーダ装置のアンテナで受信される受信信号は、図15(b)に示すように、目標と不要波が混合された混合信号1〜混合信号3である。したがって、目標信号のみを分離して取り出すことができないので、目標に対する測距や測角を行うことができない。
【0003】
このような不要波環境下で目標信号を検出し、目標までの距離および目標の方位を検出するためには、クラッタによる連続妨害波とパルス妨害波を同時に抑圧する必要がある。このためには、例えば、STAP(Space Time Adaptive Processing)を適用することができる。なお、STAPの詳細は、非特許文献3に説明されている。
【非特許文献1】(ICA処理) 根本訳、詳解独立成分分析、東京電機大学出版局、pp.164-217,2005
【非特許文献2】(複素ICA) ELLA BINGHAM,AAPO HYVARINEN,“A FAST FIXED-POINT ALGOTITHM FOR INDEPENDENTCOMPONENT ANALYSIS OF COMPLEX VALUED SIGNALS”,International Journal of Neural Systems,Vol.10,No.1(Feb.2000)
【非特許文献3】(STAP処理) Richard Klemm,“SPACE-TIME ADAPTIVE PROCESSING”,IEE RADAR,SONAR,NAVIGATION AND AVIONICS 9,pp.110-118(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したSTAPを適用しても、メインローブクラッタやメインローブ妨害波に対しては、不要波抑圧性能が十分でなく、目標を検出できない場合がある。また、STAPを適用すると処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。また、目標を検出するためにICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を適用することも考えられるが、ICAによって得られる信号は、振幅そのものを保持していないため、モノパルスビームによる測角ができないという問題がある。なお、ICAについては、非特許文献1および非特許文献2に説明されている。
【0005】
本発明の課題は、不要波環境下であっても目標検出能力を高めることができ、また、処理規模または回路規模を増大させずに、目標に対する測距および測角を行うことができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナと、アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号に対してICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部で分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部と、アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号から、信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部と、Mセル抽出部で抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部と、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部と、STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームをモノパルスビーム合成部に生成させるビーム制御部を備え、STAP部は、モノパルスビーム合成部で生成された複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、測角部は、STAP部においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、ICAを行うことにより目標信号と不要波信号とを分離して目標を検出するので、目標検出能力を高めることができるとともに正確な測距を行うことができ、また、検出された目標までの距離の回りに存在するM個のセルに対してSTAPを適用してモノパルスビームによる測角を行うので、STAPの処理規模または回路規模を小さくして目標に対する測角を行うことができる。
【0009】
また、第2の発明によれば、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、このSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うので、STAPでは検出できないメインローブ内の目標が、メインローブから外れた場合であっても、処理規模または回路規模を増大させることなくSTAPにより目標を検出でき、また、モノパルスビームにより測角を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、ICA処理部2、信号抽出部3、信号検出/測距部4、Mセル抽出部5、モノパルスビーム合成部6、STAP部7および測角部8を備えている。
【0012】
アンテナ1は、図2に示すように、複数のサブアレイから成る円開口アンテナ10と小型アンテナ11とを備えている。円開口アンテナ10は、EL方向は1次元DBF(Digital Beam Forming)、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、モノパルスビームを作成するために、もともと開口2分割されており、EL方向をN(Nは正の整数)分割した単位で区分して合成されるので、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成前の信号)が得られる。この「N」は、サブアレイの数が、後述する独立成分の数以上になるように決定される。
【0013】
各サブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNとしてICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。
【0014】
小型アンテナ11はオプションであり、自由度が不足する場合に、円開口の一部として追加的に配置される。この小型アンテナ11が配置される位置および数は任意である。小型アンテナ11から出力されるサブアレイ信号S1〜SP(Pは正の整数)は、ICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。
【0015】
ICA処理部2は、アンテナ1からのサブアレイ信号に基づき、独立成分分析(ICA)により、目標と不要波とが混在する混合波から目標信号を分離する。ICAの詳細については、非特許文献1に説明されているが、ここでは、ICAの原理について、簡単に説明する。
【0016】
今、独立変数をSとすると、観測行列Xは、混合行列Aを用いて次式で表現できる。
【数1】
【0017】
ここで、観測変数を一般化して時空間(時間−空間)軸で表現すると、
【数2】
【0018】
A ;混合行列
x ;観測変数
N ;サブアレイ数(AZ軸/EL軸)
M ;PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し間隔)数
s ;独立変数
NM;観測変数の数
P ;独立変数の数
k ;サンプル数(レンジセル数)
T ;転置
である。空間軸のみの場合はM=1とし、時間軸のみの場合は、N=1とすることができる。図3は、ICA処理部2に入力信号として入力される観測変数を示す。観測変数は、2次元サブアレイによる空間におけるAZ軸およびEL軸上の2次元信号であり、時間軸上では、複数のPRI単位の各々に対するレンジセル毎の信号となる。図4は、観測変数を取得するための実際の構成を示す図である。
【0019】
ICAとは、独立成分および混合行列に関する情報を利用せずに、独立成分が統計的に独立であるという仮定のみを用いて、観測行列Xから、混合行列Aを推定する方法である。すなわち、復元データをYとすると、
【数3】
【0020】
となるようなYの各成分が互いに独立になるように復元行列Wを算出するものである。この場合、独立成分および混合行列に関する情報を利用しないため、復元データの成分の大きさおよび順序には曖昧性が残ることになる。
【0021】
このICAに先立ち、前処理として、無相関化が行われる。これにより、復元行列の算出が容易になる。
【数4】
【0022】
ここで、
Q ;無相関化のための変換行列
I ;単位行列
E{ };平均
この無相関化したXを用いて、復元行列を算出するアルゴリズムは、例えば複素数FAST ICAでは、次の通りである(詳細は、非特許文献2参照)。
【数5】
【0023】
ここで、
H ;共役転置
* ;複素共役
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g’ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数6】
【0024】
以上により、独立成分の1成分あたりの復元行列Wを算出できたことになる。これを複数の成分に拡張するために、グラムシュミットの直交化法に基づく方法により、次式の演算が行われる。
【数7】
【0025】
ここで、
p ;p番目の独立成分(p=1〜P)
以上説明したICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。
【0026】
このICA処理部2における処理により、例えば図5に示すような、目標、クラッタおよび妨害波が混在する電波環境においても、目標、クラッタおよび妨害波の各々の信号を分離することができる。
【0027】
すなわち、図6(a)に示すような、目標の他に、クラッタのような連続妨害やパルス妨害といった不要波が混在している不要波環境下において、アンテナ1からは、図6(b)に示すような、目標と不要波とが混合された混合信号1〜混合信号3が得られるが、ICA処理部2は、図6(c)に示すように、目標、パルス妨害および連続妨害の各波に分離し、それぞれ、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号として信号抽出部3に送る。
【0028】
信号抽出部3は、独立成分毎に、図7に示すように、所定のスレショルドを超える信号を抽出する。具体的には、信号抽出3は、図7(a)に示すように、ICA処理部2から送られてきた信号が、周期的にスレッショルドを超える場合はパルス妨害信号として抽出し、図7(b)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号の数個が、所定の幅でスレッショルドを超える場合はパルス状の目標信号として抽出し、図7(c)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、連続的にスレッショルドを超える場合は連続妨害信号またはクラッタ信号として抽出する。この信号抽出部3で抽出された信号は、信号検出/測距部4に送られる。
【0029】
信号検出/測距部4は、信号抽出部3で抽出された目標信号を所定のスレッショルドと比較し、目標信号が所定のスレッショルドより大きい場合に、目標である旨を検出する。そして、その検出した目標までの距離を測定し、目標距離として外部に出力するとともに、その目標距離に存在するセル(目標)を、検出セルとしてMセル抽出部5に送る。
【0030】
Mセル抽出部5は、STAPに使用するために、図8に示すように、アンテナ1から送られてくるPRI毎のサブアレイ信号の中から、信号検出/測距部4から送られてくる検出セルの周りのM個(Mは正の整数)のセル、つまり目標距離の周りに存在するM個のセルを抽出する。このMセル抽出部5で抽出されたM個のセルは、モノパルスビーム合成部6に送られる。
【0031】
モノパルスビーム合成部6は、Mセル抽出部5から送られてくるM個のセルのレンジセルの信号を用いて、モノパルスビーム(ΣおよびΔ、または、スクイント測角の場合は、ΣLおよびΣUビーム)を合成する。このモノパルスビーム合成部6で合成することにより得られたモノパルスビームは、STAP部7に送られる。
【0032】
STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。STAP処理においては、図4に示すICA処理部2をSTAP部7に置き換えた構成が使用され、入力信号としては、ICA処理部2に入力される信号と同じ信号が用いられる。このSTAPの最適ウェイトWoptは、直接解法(詳細は、非特許文献1参照、)の場合は、次式で表すことができる。
【数8】
【0033】
ここで、
Rxx:入力信号xの相関行列
S :スアリングベクトル
【数9】
【0034】
上記は、リニアアレイの場合である。
【0035】
θb :ビーム指向方向
p :周波数バンク番号(p=1〜P)
k :波数ベクトル
dn :サブアレイnの位相中心の位置ベクトル(n=1〜2N)
H :複素共役転置
j :虚数単位
なお、ウェイトの演算方法としては、直接解法に限らず、MSN(Maximum Signal to Noise Ratio)法やグラムシュミット法等といった他の方法を用いることもできる。MSN法については、『菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.67-86』に、グラムシュミット法については、特開平02−039705号公報にそれぞれ説明されている。上述したSTAP処理により、メインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧することができる。この様子を図9に示す。
【0036】
上述した処理を、ΣビームとΔビーム(スクイント測角の場合は、ΣLビームとΣUビーム)に対して適用し、測角部8でモノパルス測角を実施することにより、測角値が算出される。すなわち、測角部8は、図10(a)に示すような位相モノパルスデータΣおよびΔ(ΔAZ、ΔEL)ビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧Eを求める。誤差電圧Eは、下記(8)式により求められる。
【数10】
【0037】
ここで、
Re;複素数の実部
Σ ;和ビーム
Δ ;差ビーム
そして、この求めた誤差電圧Eと、あらかじめ取得したアンテナパターンから求めた図10(b)に示すような測角曲線のテーブルと比較することにより、測角値ψ(AZ、EL)を得る(非特許文献1参照)。この測角部8で算出された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【0038】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に、図11に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
まず、サブアレイ入力が行われる(ステップS11)。すなわち、アンテナ1のサブアレイから得られるサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNが、ICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。次いで、ICA処理が行われる(ステップS12)。すなわち、ICA処理部2は、アンテナ1から送られてくるサブアレイ信号を、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号に分離して信号抽出部3に送る。次いで、信号抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、信号抽出部3は、独立成分毎に、所定のスレショルドを超える信号を抽出し、パルス妨害信号、目標信号、あるいは、連続妨害信号またはクラッタ信号として信号検出/測距部4に送る。
【0040】
次いで、信号検出が行われる(ステップS14)。すなわち、信号検出/測距部4は、信号抽出部3から送られてきた信号が目標信号である場合に、所定のスレッショルドと比較し、目標信号が所定のスレッショルドより大きい場合に、目標である旨を検出する。次いで、測距が行われる(ステップS15)。すなわち、信号検出/測距部4は、ステップS14で検出された目標までの距離を測定し、目標距離として外部に出力するとともに、その目標距離に存在するセル(目標)を、検出セルとしてMセル抽出部5に送る。
【0041】
次いで、Mセル抽出が行われる(ステップS16)。すなわち、Mセル抽出部5は、アンテナ1から送られてくるPRI毎のサブアレイ信号の中から、信号検出/測距部4から送られてくる検出セルの周りのM個のセルを抽出し、モノパルスビーム合成部6に送る。モノパルスビーム合成部6は、Mセル抽出部5から送られてくるM個のセルに基づきモノパルスビームを合成し、STAP部7に送る。
【0042】
次いで、STAP処理が行われる(ステップS17)。すなわち、STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。
【0043】
次いで、測角が行われる(ステップS18)。すなわち、測角部8は、位相モノパルスデータΣ、Δ(ΔAZ、ΔEL)を用いて、誤差電圧Eを算出し、この算出した誤差電圧Eと、あらかじめ取得したアンテナパターンから求めた誤差電圧のテーブルと比較することにより測角値を算出し、目標方位として外部に出力する。その後、測距および測角処理は終了する。
【0044】
以上説明したように、本発明の実施例1に係るレーダ装置によれば、ICA処理部2によってICAを行うことにより目標信号と不要波信号とを分離して目標を検出するので、目標検出能力を高めることができるとともに正確な測距を行うことができる。また、信号検出/測距部4で検出された目標までの距離の回りに存在するM個のセルに対してSTAPを適用してモノパルスビームによる測角を行うので、STAPの処理規模または回路規模を小さくして目標に対する測角を行うことができる。
【0045】
なお、上述した実施例1に係るレーダ装置では、目標信号がパルス状であるものとして説明したが、不要波と識別できる形状であれば、目標信号の形状は、パルス状でなくてもよい。
【0046】
また、上述した実施例1では、本発明をレーダ装置に適用した場合について説明したが、本発明は、レーダ装置に限らず、不要波と区別できる目標信号が得られる場合は、例えば受信装置にも適用できる。
【0047】
また、妨害方位を測角する場合には、信号抽出部3で抽出した連続妨害やパルス妨害の方位を目標信号と同様の方法で検出することもできる。
【実施例2】
【0048】
本発明の実施例2に係るレーダ装置は、メインローブ妨害の場合のように、STAPでは目標を検出することができず、その結果、測角もできない場合に対処するために、ICAによって目標距離がわかっているので、目標または妨害が、メインローブ内から外へ出る場合を待ち受けるようにしたものである。目標または妨害のいずれかがICAで検出した初期メインローブから外れると、妨害がサイドローブ妨害に対応することになり、STAPによりクラッタと妨害を抑圧できるので、目標を検出できる。
【0049】
図12は、本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、図1に示した実施例1に係るレーダ装置に、ビーム制御部9が追加されて構成されている。
【0050】
ビーム制御部9は、初期メインロ−ブの回りにL本(Lは正の整数)の待ち受けビームを形成するために、順次に変化する指向方向をモノパルスビーム合成部6に指示する。
【0051】
モノパルスビーム合成部6は、ビーム制御部9から送られてくる指向方向の各々に対して、モノパルスビーム(ΣおよびΔ、または、スクイント測角の場合は、ΣLおよびΣUビーム)を合成し、STAP部7に送る。
【0052】
STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。
【0053】
測角部8は、STAP部7においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う。この様子を図13に示す。
【0054】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に、図14に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、上述した実施例1に係るレーダ装置の動作を示す図8のフローチャートにおける処理と同じ処理には、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0055】
まず、ステップS11〜ステップS17までの処理は図8に示すそれらと同じである。次いで、信号検出が行われる(ステップS21)。次いで、測角が行われる(ステップS18)。
【0056】
次いで、L本のビーム指向方向に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS22)。このステップS22において、L本のビーム指向方向に対する処理が終了していないことが判断されると、指向方向を次の指向方向に変化させる(ステップS23)。その後、ステップS16に戻って上述した処理が繰り返される。一方、ステップS22において、L本のビーム指向方向に対する処理が終了したことが判断されると、レーダ装置の測距および測角処理は終了する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、処理規模または回路規模を小さくすることが要求されるレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置で使用されるアンテナ(アブアレイ)の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置に入力信号として入力される観測変数を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの実際の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレーダ装置が適用される電波環境を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるICAを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1に係るレーダ装置においてICA処理部で分離された信号の抽出および識別を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1に係るレーダ装置において、STAP用のセルを抽出する様子を説明するための図である。
【図9】本発明の実施例1に係るレーダ装置において、STAPによりメインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧する様子を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるモノパルス測角処理を説明するための図である。
【図11】本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施例2に係るレーダ装置において、STAPによりメインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧する様子を示す図である。
【図14】本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図15】従来のレーダ装置で計測する不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0059】
1 アンテナ
2 ICA処理部
3 信号抽出部
4 信号検出/測距部
5 Mセル抽出部
6 モノパルスビーム合成部
7 STAP部
8 測角部
9 ビーム制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインローブやサイドローブから入力される妨害波が存在する不要波環境下で、目標距離や目標方位を測定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。電波環境においては、図15(a)に示すように、目標の他に、クラッタのような連続妨害やパルス妨害といった不要波が混在している。このような不要波環境下において、レーダ装置のアンテナで受信される受信信号は、図15(b)に示すように、目標と不要波が混合された混合信号1〜混合信号3である。したがって、目標信号のみを分離して取り出すことができないので、目標に対する測距や測角を行うことができない。
【0003】
このような不要波環境下で目標信号を検出し、目標までの距離および目標の方位を検出するためには、クラッタによる連続妨害波とパルス妨害波を同時に抑圧する必要がある。このためには、例えば、STAP(Space Time Adaptive Processing)を適用することができる。なお、STAPの詳細は、非特許文献3に説明されている。
【非特許文献1】(ICA処理) 根本訳、詳解独立成分分析、東京電機大学出版局、pp.164-217,2005
【非特許文献2】(複素ICA) ELLA BINGHAM,AAPO HYVARINEN,“A FAST FIXED-POINT ALGOTITHM FOR INDEPENDENTCOMPONENT ANALYSIS OF COMPLEX VALUED SIGNALS”,International Journal of Neural Systems,Vol.10,No.1(Feb.2000)
【非特許文献3】(STAP処理) Richard Klemm,“SPACE-TIME ADAPTIVE PROCESSING”,IEE RADAR,SONAR,NAVIGATION AND AVIONICS 9,pp.110-118(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したSTAPを適用しても、メインローブクラッタやメインローブ妨害波に対しては、不要波抑圧性能が十分でなく、目標を検出できない場合がある。また、STAPを適用すると処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。また、目標を検出するためにICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を適用することも考えられるが、ICAによって得られる信号は、振幅そのものを保持していないため、モノパルスビームによる測角ができないという問題がある。なお、ICAについては、非特許文献1および非特許文献2に説明されている。
【0005】
本発明の課題は、不要波環境下であっても目標検出能力を高めることができ、また、処理規模または回路規模を増大させずに、目標に対する測距および測角を行うことができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナと、アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号に対してICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部で分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部と、アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号から、信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部と、Mセル抽出部で抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部と、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部と、STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームをモノパルスビーム合成部に生成させるビーム制御部を備え、STAP部は、モノパルスビーム合成部で生成された複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、測角部は、STAP部においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、ICAを行うことにより目標信号と不要波信号とを分離して目標を検出するので、目標検出能力を高めることができるとともに正確な測距を行うことができ、また、検出された目標までの距離の回りに存在するM個のセルに対してSTAPを適用してモノパルスビームによる測角を行うので、STAPの処理規模または回路規模を小さくして目標に対する測角を行うことができる。
【0009】
また、第2の発明によれば、モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、このSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うので、STAPでは検出できないメインローブ内の目標が、メインローブから外れた場合であっても、処理規模または回路規模を増大させることなくSTAPにより目標を検出でき、また、モノパルスビームにより測角を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、ICA処理部2、信号抽出部3、信号検出/測距部4、Mセル抽出部5、モノパルスビーム合成部6、STAP部7および測角部8を備えている。
【0012】
アンテナ1は、図2に示すように、複数のサブアレイから成る円開口アンテナ10と小型アンテナ11とを備えている。円開口アンテナ10は、EL方向は1次元DBF(Digital Beam Forming)、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、モノパルスビームを作成するために、もともと開口2分割されており、EL方向をN(Nは正の整数)分割した単位で区分して合成されるので、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成前の信号)が得られる。この「N」は、サブアレイの数が、後述する独立成分の数以上になるように決定される。
【0013】
各サブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNとしてICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。
【0014】
小型アンテナ11はオプションであり、自由度が不足する場合に、円開口の一部として追加的に配置される。この小型アンテナ11が配置される位置および数は任意である。小型アンテナ11から出力されるサブアレイ信号S1〜SP(Pは正の整数)は、ICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。
【0015】
ICA処理部2は、アンテナ1からのサブアレイ信号に基づき、独立成分分析(ICA)により、目標と不要波とが混在する混合波から目標信号を分離する。ICAの詳細については、非特許文献1に説明されているが、ここでは、ICAの原理について、簡単に説明する。
【0016】
今、独立変数をSとすると、観測行列Xは、混合行列Aを用いて次式で表現できる。
【数1】
【0017】
ここで、観測変数を一般化して時空間(時間−空間)軸で表現すると、
【数2】
【0018】
A ;混合行列
x ;観測変数
N ;サブアレイ数(AZ軸/EL軸)
M ;PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し間隔)数
s ;独立変数
NM;観測変数の数
P ;独立変数の数
k ;サンプル数(レンジセル数)
T ;転置
である。空間軸のみの場合はM=1とし、時間軸のみの場合は、N=1とすることができる。図3は、ICA処理部2に入力信号として入力される観測変数を示す。観測変数は、2次元サブアレイによる空間におけるAZ軸およびEL軸上の2次元信号であり、時間軸上では、複数のPRI単位の各々に対するレンジセル毎の信号となる。図4は、観測変数を取得するための実際の構成を示す図である。
【0019】
ICAとは、独立成分および混合行列に関する情報を利用せずに、独立成分が統計的に独立であるという仮定のみを用いて、観測行列Xから、混合行列Aを推定する方法である。すなわち、復元データをYとすると、
【数3】
【0020】
となるようなYの各成分が互いに独立になるように復元行列Wを算出するものである。この場合、独立成分および混合行列に関する情報を利用しないため、復元データの成分の大きさおよび順序には曖昧性が残ることになる。
【0021】
このICAに先立ち、前処理として、無相関化が行われる。これにより、復元行列の算出が容易になる。
【数4】
【0022】
ここで、
Q ;無相関化のための変換行列
I ;単位行列
E{ };平均
この無相関化したXを用いて、復元行列を算出するアルゴリズムは、例えば複素数FAST ICAでは、次の通りである(詳細は、非特許文献2参照)。
【数5】
【0023】
ここで、
H ;共役転置
* ;複素共役
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g’ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数6】
【0024】
以上により、独立成分の1成分あたりの復元行列Wを算出できたことになる。これを複数の成分に拡張するために、グラムシュミットの直交化法に基づく方法により、次式の演算が行われる。
【数7】
【0025】
ここで、
p ;p番目の独立成分(p=1〜P)
以上説明したICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。
【0026】
このICA処理部2における処理により、例えば図5に示すような、目標、クラッタおよび妨害波が混在する電波環境においても、目標、クラッタおよび妨害波の各々の信号を分離することができる。
【0027】
すなわち、図6(a)に示すような、目標の他に、クラッタのような連続妨害やパルス妨害といった不要波が混在している不要波環境下において、アンテナ1からは、図6(b)に示すような、目標と不要波とが混合された混合信号1〜混合信号3が得られるが、ICA処理部2は、図6(c)に示すように、目標、パルス妨害および連続妨害の各波に分離し、それぞれ、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号として信号抽出部3に送る。
【0028】
信号抽出部3は、独立成分毎に、図7に示すように、所定のスレショルドを超える信号を抽出する。具体的には、信号抽出3は、図7(a)に示すように、ICA処理部2から送られてきた信号が、周期的にスレッショルドを超える場合はパルス妨害信号として抽出し、図7(b)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号の数個が、所定の幅でスレッショルドを超える場合はパルス状の目標信号として抽出し、図7(c)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、連続的にスレッショルドを超える場合は連続妨害信号またはクラッタ信号として抽出する。この信号抽出部3で抽出された信号は、信号検出/測距部4に送られる。
【0029】
信号検出/測距部4は、信号抽出部3で抽出された目標信号を所定のスレッショルドと比較し、目標信号が所定のスレッショルドより大きい場合に、目標である旨を検出する。そして、その検出した目標までの距離を測定し、目標距離として外部に出力するとともに、その目標距離に存在するセル(目標)を、検出セルとしてMセル抽出部5に送る。
【0030】
Mセル抽出部5は、STAPに使用するために、図8に示すように、アンテナ1から送られてくるPRI毎のサブアレイ信号の中から、信号検出/測距部4から送られてくる検出セルの周りのM個(Mは正の整数)のセル、つまり目標距離の周りに存在するM個のセルを抽出する。このMセル抽出部5で抽出されたM個のセルは、モノパルスビーム合成部6に送られる。
【0031】
モノパルスビーム合成部6は、Mセル抽出部5から送られてくるM個のセルのレンジセルの信号を用いて、モノパルスビーム(ΣおよびΔ、または、スクイント測角の場合は、ΣLおよびΣUビーム)を合成する。このモノパルスビーム合成部6で合成することにより得られたモノパルスビームは、STAP部7に送られる。
【0032】
STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。STAP処理においては、図4に示すICA処理部2をSTAP部7に置き換えた構成が使用され、入力信号としては、ICA処理部2に入力される信号と同じ信号が用いられる。このSTAPの最適ウェイトWoptは、直接解法(詳細は、非特許文献1参照、)の場合は、次式で表すことができる。
【数8】
【0033】
ここで、
Rxx:入力信号xの相関行列
S :スアリングベクトル
【数9】
【0034】
上記は、リニアアレイの場合である。
【0035】
θb :ビーム指向方向
p :周波数バンク番号(p=1〜P)
k :波数ベクトル
dn :サブアレイnの位相中心の位置ベクトル(n=1〜2N)
H :複素共役転置
j :虚数単位
なお、ウェイトの演算方法としては、直接解法に限らず、MSN(Maximum Signal to Noise Ratio)法やグラムシュミット法等といった他の方法を用いることもできる。MSN法については、『菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.67-86』に、グラムシュミット法については、特開平02−039705号公報にそれぞれ説明されている。上述したSTAP処理により、メインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧することができる。この様子を図9に示す。
【0036】
上述した処理を、ΣビームとΔビーム(スクイント測角の場合は、ΣLビームとΣUビーム)に対して適用し、測角部8でモノパルス測角を実施することにより、測角値が算出される。すなわち、測角部8は、図10(a)に示すような位相モノパルスデータΣおよびΔ(ΔAZ、ΔEL)ビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧Eを求める。誤差電圧Eは、下記(8)式により求められる。
【数10】
【0037】
ここで、
Re;複素数の実部
Σ ;和ビーム
Δ ;差ビーム
そして、この求めた誤差電圧Eと、あらかじめ取得したアンテナパターンから求めた図10(b)に示すような測角曲線のテーブルと比較することにより、測角値ψ(AZ、EL)を得る(非特許文献1参照)。この測角部8で算出された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【0038】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に、図11に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
まず、サブアレイ入力が行われる(ステップS11)。すなわち、アンテナ1のサブアレイから得られるサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNが、ICA処理部2およびMセル抽出部5に送られる。次いで、ICA処理が行われる(ステップS12)。すなわち、ICA処理部2は、アンテナ1から送られてくるサブアレイ信号を、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号に分離して信号抽出部3に送る。次いで、信号抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、信号抽出部3は、独立成分毎に、所定のスレショルドを超える信号を抽出し、パルス妨害信号、目標信号、あるいは、連続妨害信号またはクラッタ信号として信号検出/測距部4に送る。
【0040】
次いで、信号検出が行われる(ステップS14)。すなわち、信号検出/測距部4は、信号抽出部3から送られてきた信号が目標信号である場合に、所定のスレッショルドと比較し、目標信号が所定のスレッショルドより大きい場合に、目標である旨を検出する。次いで、測距が行われる(ステップS15)。すなわち、信号検出/測距部4は、ステップS14で検出された目標までの距離を測定し、目標距離として外部に出力するとともに、その目標距離に存在するセル(目標)を、検出セルとしてMセル抽出部5に送る。
【0041】
次いで、Mセル抽出が行われる(ステップS16)。すなわち、Mセル抽出部5は、アンテナ1から送られてくるPRI毎のサブアレイ信号の中から、信号検出/測距部4から送られてくる検出セルの周りのM個のセルを抽出し、モノパルスビーム合成部6に送る。モノパルスビーム合成部6は、Mセル抽出部5から送られてくるM個のセルに基づきモノパルスビームを合成し、STAP部7に送る。
【0042】
次いで、STAP処理が行われる(ステップS17)。すなわち、STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。
【0043】
次いで、測角が行われる(ステップS18)。すなわち、測角部8は、位相モノパルスデータΣ、Δ(ΔAZ、ΔEL)を用いて、誤差電圧Eを算出し、この算出した誤差電圧Eと、あらかじめ取得したアンテナパターンから求めた誤差電圧のテーブルと比較することにより測角値を算出し、目標方位として外部に出力する。その後、測距および測角処理は終了する。
【0044】
以上説明したように、本発明の実施例1に係るレーダ装置によれば、ICA処理部2によってICAを行うことにより目標信号と不要波信号とを分離して目標を検出するので、目標検出能力を高めることができるとともに正確な測距を行うことができる。また、信号検出/測距部4で検出された目標までの距離の回りに存在するM個のセルに対してSTAPを適用してモノパルスビームによる測角を行うので、STAPの処理規模または回路規模を小さくして目標に対する測角を行うことができる。
【0045】
なお、上述した実施例1に係るレーダ装置では、目標信号がパルス状であるものとして説明したが、不要波と識別できる形状であれば、目標信号の形状は、パルス状でなくてもよい。
【0046】
また、上述した実施例1では、本発明をレーダ装置に適用した場合について説明したが、本発明は、レーダ装置に限らず、不要波と区別できる目標信号が得られる場合は、例えば受信装置にも適用できる。
【0047】
また、妨害方位を測角する場合には、信号抽出部3で抽出した連続妨害やパルス妨害の方位を目標信号と同様の方法で検出することもできる。
【実施例2】
【0048】
本発明の実施例2に係るレーダ装置は、メインローブ妨害の場合のように、STAPでは目標を検出することができず、その結果、測角もできない場合に対処するために、ICAによって目標距離がわかっているので、目標または妨害が、メインローブ内から外へ出る場合を待ち受けるようにしたものである。目標または妨害のいずれかがICAで検出した初期メインローブから外れると、妨害がサイドローブ妨害に対応することになり、STAPによりクラッタと妨害を抑圧できるので、目標を検出できる。
【0049】
図12は、本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、図1に示した実施例1に係るレーダ装置に、ビーム制御部9が追加されて構成されている。
【0050】
ビーム制御部9は、初期メインロ−ブの回りにL本(Lは正の整数)の待ち受けビームを形成するために、順次に変化する指向方向をモノパルスビーム合成部6に指示する。
【0051】
モノパルスビーム合成部6は、ビーム制御部9から送られてくる指向方向の各々に対して、モノパルスビーム(ΣおよびΔ、または、スクイント測角の場合は、ΣLおよびΣUビーム)を合成し、STAP部7に送る。
【0052】
STAP部7は、モノパルスビーム合成部6から送られてくるモノパルスビーム、つまり目標距離の回りのM個のセルに対してSTAP処理を実施し、その結果を測角部8に送る。
【0053】
測角部8は、STAP部7においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う。この様子を図13に示す。
【0054】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に、図14に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、上述した実施例1に係るレーダ装置の動作を示す図8のフローチャートにおける処理と同じ処理には、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0055】
まず、ステップS11〜ステップS17までの処理は図8に示すそれらと同じである。次いで、信号検出が行われる(ステップS21)。次いで、測角が行われる(ステップS18)。
【0056】
次いで、L本のビーム指向方向に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS22)。このステップS22において、L本のビーム指向方向に対する処理が終了していないことが判断されると、指向方向を次の指向方向に変化させる(ステップS23)。その後、ステップS16に戻って上述した処理が繰り返される。一方、ステップS22において、L本のビーム指向方向に対する処理が終了したことが判断されると、レーダ装置の測距および測角処理は終了する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、処理規模または回路規模を小さくすることが要求されるレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置で使用されるアンテナ(アブアレイ)の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置に入力信号として入力される観測変数を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの実際の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレーダ装置が適用される電波環境を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるICAを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1に係るレーダ装置においてICA処理部で分離された信号の抽出および識別を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1に係るレーダ装置において、STAP用のセルを抽出する様子を説明するための図である。
【図9】本発明の実施例1に係るレーダ装置において、STAPによりメインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧する様子を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるモノパルス測角処理を説明するための図である。
【図11】本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施例2に係るレーダ装置において、STAPによりメインローブクラッタとサイドローブ妨害を同時に抑圧する様子を示す図である。
【図14】本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、測距および測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図15】従来のレーダ装置で計測する不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0059】
1 アンテナ
2 ICA処理部
3 信号抽出部
4 信号検出/測距部
5 Mセル抽出部
6 モノパルスビーム合成部
7 STAP部
8 測角部
9 ビーム制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナと、
前記アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号に対してICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部で分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部と、
前記アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号から、前記信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部と、
前記Mセル抽出部で抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部と、
前記モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部と、
前記STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームを前記モノパルスビーム合成部に生成させるビーム制御部を備え、
前記STAP部は、前記モノパルスビーム合成部で生成された複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、
前記測角部は、前記STAP部においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項1】
位相中心が異なる複数のサブアレイを含むアンテナと、
前記アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号に対してICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部で分離された信号から目標信号を検出して目標までの距離を計測する信号検出/測距部と、
前記アンテナの複数のサブアレイから送られてくるサブアレイ信号から、前記信号検出/測距部で計測された距離の周りに存在するM個(Mは正の整数)のセルを抽出するMセル抽出部と、
前記Mセル抽出部で抽出されたM個のセルの信号を用いてモノパルスビームを合成するモノパルスビーム合成部と、
前記モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームにSTAPを適用するSTAP部と、
前記STAP部においてSTAPが適用されたモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記モノパルスビーム合成部で合成されたモノパルスビームを対象ビームとし、該対象ビームの周りの複数のモノパルスビームを前記モノパルスビーム合成部に生成させるビーム制御部を備え、
前記STAP部は、前記モノパルスビーム合成部で生成された複数のモノパルスビームにSTAPを適用し、
前記測角部は、前記STAP部においてSTAPが適用された複数のモノパルスビームから目標を検出し、該検出した目標に対するモノパルスビームを用いてモノパルス測角を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−97862(P2009−97862A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266480(P2007−266480)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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