説明

レーダ装置

【課題】不要電波の送信を抑制するとともに、車両が停車時でも先行車両を検出する。
【解決手段】車両に搭載され所定の走査範囲をレーダ波で走査するレーダ装置は、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記走査範囲内で第1の単位角度ごとにレーダ波を送信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記走査範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに前記レーダ波を送信する送信制御手段と、前記送信されたレーダ波の目標物体による反射波に基づいて前記目標物体を検出する目標物体検出手段とを有するので、レーダ装置全体としては不要なレーダ波の送信を抑制できるとともに、近距離の目標物体に対してはこれを検出するために必要なレーダ波の反射点を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され所定の走査範囲内をレーダ波で走査するレーダ装置に関し、特に、送信電波の出力を制御するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車の走行の自動制御を支援する手段として、車載用のレーダ装置が用いられる。先行車両に対し所望の車間距離を維持しながら自動的に追従走行する制御(追従走行制御)を支援する場合には、特許文献1にその例が記載されているように、レーダ装置は自車両前方の走査範囲にレーダ波(電波)を送信することで走査を行い、追従対象となる先行車両を検出する。
【0003】
一方今日では、各種電波業務間の電波干渉を回避するために、種々の規制が設けられている。例えば、我が国における電波法によれば、商用の電波業務ごとに使用可能な電波の周波数帯域が制限されており、車載用のレーダ装置には76.0〜77.0GHz帯のミリ波帯が割当てられている。すると、車載用のレーダ装置の普及台数が増加するにつれ、同じ帯域の電波を用いるレーダ装置間で電波干渉が生じる可能性が大きくなる。よって、車載用レーダ装置には、不要な送信電波を極力抑えることが求められる。また、米国におけるFCC(連邦通信委員会)による規制では、車両の走行時と停車時とで車載用レーダ装置の送信電力に対し異なる規準が設けられており、停車時での規準は走行時での規準より低いので車両停車時には送信電力を抑制することが求められる。
【0004】
こうしたことから、不要な送信電波を抑制する方法の1つとして、車両の停車時には車載用レーダ装置からの電波送信を停止する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−325865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の追従走行には、一般に高速道路などでの巡航走行時における追従走行と、高速道路の出口付近や市街地などでの渋滞時における追従走行とがある。前者においては、先行車両は通常ある程度一定した走行速度で走行を継続しており、先行車両との相対速度や相対距離を常時監視することで所望の車間距離が維持されるように自車両の走行速度を調節する制御動作が要求される。一方、後者においては、先行車両は停車と低速走行とを間欠的に行うので、先行車両が停車するときに自車両を停車させ、先行車両が低速で走行を開始するときにはこれに追従して自車両も低速で走行を開始するというような制御動作が要求される。よって、渋滞時の追従走行制御では、自車両が停車中であってもレーダ装置は先行車両を検出しその挙動を監視し続ける必要がある。
【0006】
しかしながら、上記の従来技術におけるレーダ装置では、停車中には電波送信を停止するので、先行車両を検出できない。そのため、先行車両が走行を開始するときには運転者が自らの運転操作により自車両を発進させることでレーダ装置に電波送信を開始させ、追従走行制御を可能にしなくてはならない。このように、従来技術には、渋滞時の追従走行制御における利便性が悪いという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、不要な電波送信を抑制するとともに、車両が停車時でも先行車両を検出可能なレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、車両に搭載され所定の走査範囲をレーダ波で走査するレーダ装置であって、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記走査範囲内で第1の単位角度ごとにレーダ波を送信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記走査範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに前記レーダ波を送信する送信制御手段と、前記送信されたレーダ波の目標物体による反射波を受信して前記目標物体を検出する目標物体検出手段とを有するレーダ装置が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の側面によれば、車両に搭載されるとともに共通のアンテナにてレーダ波の送信と受信を所定の切替周期で交互に行うレーダ装置であって、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記切替周期における送信時間の比率を第1の比率とし、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記送信時間の比率を前記第1の比率より小さい第2の比率とする送受信制御手段と、前記送信されたレーダ波の目標物体による反射波に基づいて前記目標物体を検出する目標物体検出手段とを有することを特徴とするレーダ装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の側面によれば、前記送信制御手段は、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記走査範囲内で第1の単位角度ごとにレーダ波を送信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記走査範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに前記レーダ波を送信するので、レーダ装置全体としては不要な送信電波を抑制できるとともに、近距離の目標物体からはこれを検出するために必要な電波の反射点を得ることができる。よって、渋滞時における追従走行で近距離の先行車両を精度良く検出できる。
【0011】
また、上記第2の側面によれば、前記送信制御手段は、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記切替周期における送信時間の比率を第1の比率とし、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記送信時間の比率を前記第1の比率より小さい第2の比率とするので、レーダ装置全体としては不要な送信電波を抑制できるとともに、目標物体を検出するために必要な反射波を得ることができる。よって、渋滞時における追従走行で近距離の先行車両を精度良く検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0013】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前部、一例としてはフロントグリル内に搭載され、フロントグリル前面を透過してレーダ波(電波)を送受信し、車両1前方における走査範囲をレーダ波で走査する。ここで、走査範囲として、自車線幅を2〜3メートルとしたときに自車線内前方数メートル〜200メートル程度の距離範囲に位置する先行車両を検出可能な角度範囲、例えば正面0度を中心とする±5〜20度程度の角度範囲が用いられる。また、レーダ装置10は、動作することでその内部の回路素子が発熱すると、フロントグリルを介して受ける走行風により冷却される。なおレーダ装置10は、走行風により冷却される個所であれば上記以外の箇所、たとえばバンパー部分やフォグランプユニット近傍などに搭載可能である。
【0014】
レーダ装置10が先行車両を検出すると、その相対速度、相対距離、方位角といった情報は車両1の追従走行制御を実行する車両制御システム100に出力される。車両制御システム100は、こうした情報に基づき車両1が所望の車間距離で先行車両に追従走行するように車両1の各種アクチュエータを駆動し、車両1の走行速度を加減する。
【0015】
図2は、レーダ装置10の構成を説明する図である。図2(A)はレーダ装置10全体の構成を示す。レーダ装置10は、一例として周波数変調を施したミリ波長の連続波(電波)をレーダ波として送信して目標物体による反射波を受信し、送受信波の周波数差に基づき目標物体を検出するFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式のレーダ装置である。
【0016】
レーダ送受信機30は、三角波で周波数変調された送信波を車両前方の走査範囲に向け送信し、目標物体による反射波を受信すると、送受信波を混合して送受信波の周波数差に対応するビート周波数のビート信号を生成する。そして、ビート信号をA/D変換し、そのデジタルデータを信号処理装置14に出力する。
【0017】
ここで、送受信波の周波数変化の例を図3(A)に示すと、まず送信波の周波数は周波数fmの三角波の周波数変調信号に従って中心周波数f0、周波数変調幅ΔFで直線的な上昇と下降を反復する(実線で図示)。一方、目標物体で反射されて戻ってくる受信波は、目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラ周波数分の周波数偏移を受ける(破線で図示)。その結果、送受信波には送信波の周波数上昇期間(アップ期間)で周波数差α、周波数下降期間(ダウン期間)で周波数差βが生じる。そして、このとき生成されるビート信号の周波数(ビート周波数)変化を図3(B)に示すと、ビート周波数は、アップ期間で周波数α、ダウン期間で周波数βとなる。
【0018】
信号処理装置14は、デジタルデータ化された上記のようなビート信号に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置と、ビート信号の周波数スペクトルを処理して目標物体を検出するマイクロコンピュータとを有する。そして、マイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0019】
目標物体検出手段14bは、ビート信号をFFT処理するDSPと、FFT処理結果に基づいて目標物体を検出するCPU及びその動作を記述した処理プログラムとで構成される。また、送信制御指示手段14aは、後に詳述するように各種の制御信号によりレーダ送受信機30のレーダ波送信を制御するCPUとその動作を記述した処理プログラムとで構成される。また、送信制御手段14aは、車両1の車速センサから入力される車速信号から車両1の走行速度を検出して送信制御に用いる。
【0020】
ここで、レーダ装置10が走査範囲をレーダ波で走査する方式には、機械走査方式と電子走査方式とがある。レーダ送受信機30の詳細な構成は、レーダ装置10の走査方式により異なる。
【0021】
図2(B)は、機械走査方式のレーダ送受信機30の構成を示す。レーダ送受信機30では、周波数変調指示部16が信号処理装置14からの指示信号に応答して三角波状の周波数変調信号を生成すると、電圧制御発振器(VCO)18が、周波数変調指示部16が生成する信号に従って図3(A)に示したように三角波の上昇区間で周波数が直線的に上昇し、三角波の下降区間で周波数が直線的に下降する送信波を出力する。この送信波は分配器20により電力分配され、その一部がFETを能動素子とする多段アンプを備えた送信電力増幅器40に入力される。そして、送信電力増幅器40は、送信波を増幅してスイッチSW1を介してアンテナ11に出力する。
【0022】
アンテナ11は、送受信切替え可能に構成される送受兼用アンテナであり、信号処理装置14の送信制御指示手段14aから入力される送受切替指示信号(例えば、数百kHz〜2MHz程度のパルス信号)によりスイッチSW1がアンテナ11の接続先を切替える。すなわち、送受切替指示信号のデューティ比に応じた送信時間中に送信電力増幅器40からアンテナ11に送信波が供給されてアンテナ11は送信を行い、アンテナ11が受信した受信波は受信時間中にミキサ22に入力される。
【0023】
ミキサ22は、電力分配された送信波の一部と受信波とを混合し、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号を生成する。そして、ビート信号は、AD変換器24によりデジタルデータ化され、信号処理装置14に出力される。
【0024】
また、レーダ送受信機30は、アンテナ11を往復回動させる機構とアンテナ11の回動角度を検出するエンコーダとを備えた回動部26を有する。ここで、アンテナ11の回動動作と送信波の変調周期は、アンテナ11が所定の単位角度(例えば1度)回動するときに1対のアップ期間とダウン期間とが対応するように同期がとられる。そして、回動部26のエンコーダからはアンテナ11の回動角度を示す回動角度信号が信号処理装置14に出力される。
【0025】
機械走査方式の場合、信号処理装置14では、走査範囲に対応する角度範囲をアンテナ11が片側に1回動して走査範囲を1回走査する期間を1検出サイクルとして、検出サイクルごとに目標物体検出手段14bが目標物体の検出を行う。すなわち、目標物体検出手段14bは、検出サイクルごとにビート信号のレベルがピークを形成するときのアンテナ11の回動角度を回動角度信号に基づき検出し、その回動角度に基づき目標物体の方位角を検出する。
【0026】
なお、機械走査方式では、上記のようにアンテナ11を送受兼用に構成することで、送受別々のアンテナを設ける場合よりアンテナ11の面積を広くすることができ、急峻なアンテナパターンを形成できる。すなわち、ビーム幅を狭くでき、目標物体の方位角を検出するときの角度分解能を向上させることができる。
【0027】
また、目標物体検出手段14bは、ピークを形成するビート信号のアップ期間のビート周波数αとダウン期間のビート周波数βとを用いて、次の式(1)、(2)により目標物体の相対距離R、相対速度Vを算出する。なお、ここでΔFは送信波の周波数変調幅、f0は中心周波数、fmは三角波の周波数、そして、Cは光速である。
【0028】
R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) 式(1)
V=C・(β−α)/(4・f0) 式(2)
図2(C)は、電子走査方式のレーダ送受信機30の構成を示す。図2(B)と重複する構成には同じ符号が付してある。レーダ送受信機30は、送受信兼用のアンテナ11と、複数の受信用アンテナ11_1、11_2、・・・を所定間隔離間して備える。ここで、受信用アンテナの数は2以上の任意の数とすることが可能である。また、レーダ送受信機30は、信号処理装置14から入力される受信切替指示信号に応答して、アンテナ11、11_1、11_2、・・・による受信波を時分割でミキサ22に入力するスイッチ回路28を有する。そして、ミキサ22はアンテナ11、11_1、11_2、・・・による受信波それぞれを送信波と混合して、ビート信号を生成する。
【0029】
電子走査方式では、目標物体検出手段14bは、送信波のアップ期間とダウン期間を1検出サイクルとして目標物体の検出処理を行う。目標物体検出手段14bは、アンテナ間の受信波の位相差を制御することでアンテナ全体としての指向性を変化させる。そして、受信波のレベルが最大となるときの指向性を求めることにより、その指向性に対応する目標物体の方位角を検出する。あるいは、電子走査方式の一形態である位相モノパルス方式では、目標物体検出手段14bは、少なくとも1対のアンテナ間の受信位相差から受信波の到来方向である目標物体の方位角を直接的に検出する。
【0030】
なお、電子走査方式の場合も、上記のようにアンテナ11を送受兼用に構成することで、送受別々のアンテナを設ける場合より同じスペースに受信用アンテナを多く設けることができ、レーダ送受信機30全体として急峻なアンテナパターンを形成できる。よって、目標物体の方位角を検出するときの角度分解能を向上させることができる。ただし、スイッチSW1を用いずにアンテナ11を送信専用とする構成も本実施形態に含まれる。
【0031】
また、目標物体検出手段14bは、アンテナ11、11_1、11_2ごとのビート信号がピークを形成するアップ期間のビート周波数αとダウン期間のビート周波数βを用いて、上述の式(1)、(2)により目標物体の相対距離、相対速度を検出する。
【0032】
図4は、信号処理装置14による目標物体検出手順、つまり目標物体検出手段14bの動作手順を説明するフローチャート図である。図4に示す手順は、機械走査方式、電子走査方式いずれの場合も1検出サイクルごとに実行される。
【0033】
目標物体検出手段14bは、まずビート信号をFFT処理してその周波数スペクトルを検出する(S2)。そして、アップ期間、ダウン期間それぞれでレベルがピークを形成するビート信号同士を互いにペアリング(対応付け)して(S4)、それぞれのビート周波数を用いて目標物体の方位角、相対距離、相対速度を検出する(S6)。そして、目標物体検出手段14bは、検出した方位角やそのときのビート信号のレベルが過去複数回の検出サイクルにおいて連続性を有するかを判断し(S8)、一定程度(例えば3回)以上の連続性を有する目標物体について、その方位角、相対速度、相対距離を車両1の車両制御装置100に出力する(S10)。
【0034】
上記のように構成されるレーダ装置10は、車両1の走行時に車両1前方の走査範囲をレーダ波で走査して先行車両を検出し、その相対速度、相対距離、方位角等を車両制御装置100に出力する。そして、車両制御装置100はレーダ装置10から供給される情報に基づいて車両1の追従走行制御を行う。
【0035】
ここにおいて、渋滞時など車両1の速度が一定以下のときや停車しているときには、以下に述べる方法によりレーダ波の送信を制御して不要な電波送信を減少させる。そうすることで、他のレーダ装置との電波干渉を減少させることができるとともに、車両1の速度が一定以下のときや停車しているときであっても先行車両を検出できる。よって、以下の説明において、送信波の送信動作の制御を指示する信号処理装置14の送信制御指示手段14aと、その指示に応答して送信動作を制御するレーダ送受信機30とが、本発明における「送信制御手段」に対応する。
【0036】
また、米国においてはいわゆるFCC(連邦通信委員会)法規により車両停車時における送信電波の出力を走行時の送信電波の出力より下げることが義務付けられているが、ここに述べるような方法によればかかる規制に適合した制御を行うことが可能となる。
【0037】
また、不要な送信電波を抑制することでレーダ装置全体としての消費電力を減少できるので、レーダ装置の発熱を抑制することができる。上述したようにレーダ装置10はフロントグリル越しに受ける走行風により放熱するところ、低速走行時や停車時には走行風が弱まり放熱効率が低下する。そこで、発熱を抑制することで放熱効率低下による回路素子の損傷を軽減することができる。
【0038】
[第1の送信電波減少方法]
まず、第1の送信電波減少方法は、機械走査方式に適用される。第1の送信電波減少方法では、レーダ装置10は、車両1が一定の基準速度(例えば時速10〜20キロメートル)以上で走行する通常走行時には、図5(A)に示すように、アンテナ11が単位角度θ(例えば1度)回動するごとにアップ期間とダウン期間に対応するレーダ波を送信し、受信波を得たときのアンテナ11の回動角度に基づいて目標物体の方位角を、ビート周波数から相対距離、相対速度を検出する。これに対し、車両の速度が基準速度以下の低速走行時(車両停車時も含む)には、図5(B)に示すように、例えば単位角度θおきの単位角度2θごとに、アップ期間とダウン期間に対応するレーダ波を送信する。すなわち、レーダ波の送信を間引く。
【0039】
送信制御指示手段14aは、アンテナ11の回動角度を示す回動角度信号からアンテナ11の回動角度を検出し、送信を間引く単位角度のときに送信波増幅器40の出力を停止させることで、かかる動作を行う。
【0040】
ここで、図6に送信電力増幅器40の詳細な構成を示す。送信電力増幅器40は、FETを能動素子とする多段アンプ40aと、車載電源から電源供給を受けて定電圧を生成し、多段アンプ40aの各ドレインにドレイン電圧DVとして供給するドレイン電圧供給回路41と、多段アンプ40aの最終段のアンプへのドレイン電圧供給を接断可能なスイッチSW2と、多段アンプ40aのすべてのアンプへのドレイン電圧供給を切断可能なスイッチSW3とを有する。スイッチSW2、3は、信号処理装置14が生成する指示信号Con_1、2に応答して開閉される。また、多段アンプ40aの各ゲートには、信号処理装置14により生成されたゲート電圧GVが印加される。
【0041】
このような構成において、ある一定レベルのゲート電圧GVとドレイン電圧DVが多段アンプ40aに印加されると、多段アンプから出力される増幅された送信波が飽和状態となり一定レベルで安定する。
【0042】
よって、第1の送信電波減少方法では、送信制御指示手段14aは、車両1の通常走行時にはスイッチSW2、3を接続することで、送信波が飽和状態となるようなドレイン電圧DVを多段アンプ40aのすべてのアンプに対し印加する。そうすることで、送信波を所望のレベルに増幅して出力する。そして、車両1の低速走行時には、送信を間引く単位角度ごとにスイッチSW3を開放することで、多段アンプ40aのすべてのアンプに対するドレイン電圧DVの供給を停止する。すると、多段アンプ40aからの送信波の出力が停止される。
【0043】
このようにして送信制御指示手段14aがレーダ波を間引く動作を実行することで、時間平均したときの送信電波を減少させることができる。
【0044】
ここにおいて、渋滞時低速走行するときに検出すべき先行車両は通常走行時より近距離に位置するので、反射断面積あたりの反射点の数は先行車両が遠距離に位置する場合より多くなる。よって、レーダ波を送信する単位角度を間引いても、先行車両を検出するために十分な反射点からの反射波を得ることができる。また、近距離なので、反射波の減衰量も小さい。よって、検出精度を低下させることなく先行車両を検出できる。なお、間引く単位角度の間隔は2θ以上であってもよく、必要な反射点が得られるような角度に任意に設定できる。
【0045】
また、レーダ波を送信する単位角度を間引かずに、信号処理装置14でビート信号を処理する単位角度を間引く方法によれば、レーダ装置全体としての消費電力を減少させることができるので、レーダ装置の発熱を抑制する効果を得ることができる。
【0046】
[第2の送信電波減少方法]
第2の送信電波減少方法は、機械走査方式と、電子走査方式のうち送受信兼用アンテナを用いる構成のいずれにも適用できる。第2の送信電波減少方法では、レーダ装置10は、車両1の通常走行時には、図7(A)に示すように、50%のデューティ比を有する送受切替指示信号でアンテナ11の送受信を切替える。よって、レーダ装置10は、送受切替指示信号の周期、つまり送受切替の1周期において送受切替指示信号がHレベルとなる50%の送信時間TSでレーダ波を送信し、Lレベルとなる残り50%の受信時間TRで反射波を受信する。
【0047】
一方、車両1の低速走行時には、図7(B)に示すように、送受切替周期における送信時間TSの比率を例えば25%に低下させる(このとき受信時間TRの比率は75%となる)ように送受切替指示信号のデューティ比を変更する。そうすることで、時間平均したときの送信電波を減少できる。
【0048】
この場合、送信電波を減少させることで、レーダ装置全体としての受信電波が減少するが、検出すべき先行車両は近距離にあるので、電波の往復における減衰量は小さい。よって、先行車両を検出するのに十分なレベルの受信波を得ることができる。しかし、送受信兼用アンテナを用いる場合には、極めて近距離(至近距離)で受信波のレベルが低下する場合がある。ここで、かかる場合について図8を用いて説明する。
【0049】
図8は、横軸を時間として、送受切替指示信号に基づく送信時間(TS)・受信時間(TR)と、送信時間中に送信された送信波の反射波と、受信時間中に受信される受信波の対応関係を説明する図である。ここで、反射波は目標物体の相対距離に応じた遅延時間経過したときに戻ってくる。図8(A)は目標物体が近距離にあり反射波の遅延時間ΔT1の場合、図8(B)は目標物体が至近距離にあり反射波の遅延時間ΔT2(<ΔT1)の場合をそれぞれ示す。なお、図8(A)、(B)における送受切替指示信号のデューティ比は同じである。
【0050】
図8(A)、(B)に示すように、受信電波は、受信時間中にもどってきた反射波に対応する。すると、両図の比較において示されるように、遅延時間ΔT2(<ΔT1)のときの方が全体としての受信電波が少ない。すなわち、遅延時間が小さい場合、つまり目標物体の相対距離が小さいときの方が受信電波が少なくなる。このように、相対距離における電波の減衰量を考慮したとしても、送受兼用アンテナを用いた場合には至近距離で受信波のレベルが低下する場合がある。
【0051】
よって、第2の送信電波減少方法においては、送受兼用アンテナを用いることに起因して生じる至近距離での受信波レベルの低下を補うために、送受切替指示信号の周波数を高くする。すなわち、送信時間と受信時間の切替周期を短くする。
【0052】
ここで、図8(C)に、図8(B)の送受切替指示信号の周波数を2倍にした場合を示す。すると、図8(B)、(C)の比較において示されるように、反射波の遅延時間ΔT2の場合に送受切替信号の周波数を2倍にしたことにより、単位時間あたりの受信電波を多くすることができる。図8(B)、(C)の場合における受信波のレベルを図示すると、図9に示すようになる。
【0053】
図9は、横軸に目標物体の相対距離、つまり目標物体から戻ってくる反射波の遅延時間を示し、縦軸にその反射波を受信したときの受信波のレベルを示す。曲線Bは図8(B)の場合に対応し、曲線Cは図8(C)の場合に対応する。図示するように、送受切替信号の周波数を2倍にした図8(C)の場合に対応する曲線Cの方が、至近距離での受信波レベルが高くなる。このようにして、送受兼用アンテナを用いた場合であっても、至近距離における受信波レベル低下を補うことができる。
【0054】
ところで、反射波が戻ってくる遅延時間と受信時間との比較において、遅延時間が受信時間を上回ると、同一の送受信周期の受信時間が経過してから反射波がアンテナ11に到達する場合がある。すなわち、次の周期の送信時間中に反射波が戻ってくるので、これを受信することができない。よって、この場合には目標物体を検出できない。このときの遅延時間に対応する目標物体の相対距離をヌル点という。このヌル点は、送受切替指示信号の周波数が大きくなるほど(つまり送受切替の周期が短くなるほど)受信時間が短くなるので、近距離に表れる。
【0055】
図9では、曲線B、Cにおけるヌル点Nb、Ncが示される。すると、上述した理由により、送受切替指示信号の周波数が高い場合の曲線Cにおけるヌル点Ncの方が周波数が低い場合の曲線Bにおけるヌル点Nbより近距離となる。こうしたことから、第2の送信電波減少方法を実行する場合、その変形例としての送受切替指示信号の周波数を高くする処理は、目標物体の相対距離がヌル点より短い至近距離のときに好適に適用される。すなわち、送受切替指示信号の周波数を高くすることでヌル点が近くなるが、さらに目標物体の相対距離がそのヌル点より近い至近距離であれば、目標物体の検出を失敗することなく受信波のレベルを大きくすることができる。
【0056】
[第3の送信電波減少方法]
第3の送信電波減少方法は、機械走査方式と電子走査方式(送受兼用アンテナを用いる構成と送信専用アンテナを用いる構成の両方を含む)のいずれにも適用できる。第3の送信電波減少方法では、レーダ装置10は、送信電力増幅器40を制御することで、送信電力を減少させる。具体的には、図6で示した送信電力増幅器40の構成において、送信制御指示手段14aは車両1の通常走行時にはスイッチSW2、3を接続することで送信波を所望のレベルに増幅して出力し、車両1の低速走行時にはスイッチSW2を開放する。ここで、送信波が飽和レベルに達した状態でスイッチSW2が開放されると、最終段のアンプへのドレイン電圧がオフされる。しかし、送信波はミリ波長の高周波であるので、漏れ電力が最終段のアンプを通過して送信波として出力される。このことを利用して、最終段のアンプへのドレイン電圧をオフすることで、送信波を停止させることなく送信電力を減少させることができる。
【0057】
このように送信電力を低下させることで、不要電波の送信を抑制できる。
【0058】
また、機械走査方式と電子走査方式のうち送受兼用アンテナを用いる構成の場合には、送信電力増幅器40を制御して送信電力を低下させるとともに、変形例として送受切替指示信号の周波数を高くすることで、至近距離における目標物体の受信波のレベルを大きくすることができる。よって、受信波のレベル低下を補うことで至近距離における目標物体を精度良く検出できる。
【0059】
ここで、上記の第1〜第3の送信電波減少方法を実行するときの動作手順を説明する。
図10は、レーダ装置が送信波を制御するときの動作手順を説明するフローチャート図である。図10の手順は、図4に示した手順における目標物体検出処理(手順S6)の後に実行される。
【0060】
送信制御指示手段14aは、車速信号から走行速度を検出し(S22)、走行速度が基準値以上の通常走行時か基準値未満の低速走行時かを判断する(S24)。通常走行時には(S24のYES)、電波送信を制御することなく処理を終了する。一方、低速走行時(S24のNO)には、上述した第1〜第3の送信電波減少方法のうちレーダ装置の走査方式に応じて採用可能ないずれかの方法を実行することで、送信電波を減少させることができる。ここでは、さらに、停車中か否かによって、いずれの方法を採用するかを場合分けする手順を示す。
【0061】
まず、停車時には(S26のYES)、先行車両も停車しており、しかもその距離は2〜3メートル程度前方の至近距離である蓋然性が大きい。よって、上述した第1〜第3の送信電波減少方法のいずれかを実行することで、送信電力を減少させる(S28)。そして、特に、第2の送信電波減少方法(送受切替指示信号のデューティ比変更)を実行する場合には、至近距離での受信波のレベル低下を補うために送受切替指示信号の周波数を高くする処理を行う。
【0062】
一方、停車時でない場合(S26のNO)、つまり低速走行時には、先行車両も走行しており、その距離と方位角はある程度の範囲で変化する蓋然性が大きい。よって、目標物体検出処理(図4の手順S6)で検出した先行車両の距離に応じて、送信電波の減少方法を使い分ける。
【0063】
すなわち、距離が基準値(例えば2〜3メートル)未満のとき(S30のYES)、つまり至近距離のときには、第1の送信電波減少方法または第3の送信電波減少方法のいずれかにより送信電波を減少させる(S32)。これは、送受切替指示信号のデューティ比を変更して送信時間を減らす第2の送信電波減少方法よりは、送信時間を減らさない第1または第3の送信電波減少方法の方が、至近距離での受信波のレベル低下の可能性が小さいことによる。ただし、送受切替指示信号の周波数を高くする処理を併用することで、第2の送信電波減少方法を採用することも可能である。この場合、手順S30での距離判断における基準値を送受切替指示信号の周波数を高くした場合のヌル点より近距離にしておけば、ヌル点により反射波が受信できないという事態を防ぐことができ、第2の送信電波減少方法を好適に用いることができる。なお、送信電波を減少させる第3の方法を実行するときにも送受切替指示信号の周波数を高くする処理を併用することで、受信波のレベル低下を補ってもよい。
【0064】
一方、距離が基準値以上のとき(S30のNO)、つまり近距離のときには、第2または第3の方のいずれかにより送信電波を減少させる(S34)。これは、近距離では至近距離の場合より先行車両の方位角の誤差が大きくなるところ、送信波を間引く第1の送信電波減少方法よりは、送信電波を間引かない第2または第3の送信電波減少方法の方が、方位角の分解能が高いことによる。特に、送受切替指示信号のデューティ比を変更する第2の送信電波減少方法を実行する場合には、至近距離での受信波のレベル低下を補うために送受切替指示信号の周波数を高くする処理を行う。なお、送信電波を減少させる第3の方法を実行するときにも送受切替指示信号の周波数を高くする処理を併用することで、受信波のレベル低下を補ってもよい。
【0065】
上記の手順によれば、自車両の走行速度と先行車両の距離に基づき最適な方法を選択して送信電波を減少させることができる。
【0066】
なお、上記の手順S28において第1〜第3の送信電波減少方法のうち複数を併用する実施例は、本実施形態に含まれる。また、上記の手順S32において第1の送信電波減少方法と第3の送信電波減少方法を併用する実施例、あるいはさらに送受切替指示信号の周波数を高くする処理を併用する実施例も、本実施形態に含まれる。さらに、S34において、第2の送信電波減少方法と第3の送信電波減少方法を併用する実施例、あるいはさらに送受切替指示信号の周波数を高くする処理を併用する実施例も、本実施形態に含まれる。いずれの場合においても、先行車両を検出可能な送信出力の範囲において、単独の送信電波減少方法だけを用いる場合よりもさらに送信電波を抑制することができる。
【0067】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、不要な送信電波を抑制できるとともに、近距離の目標物体に対してはこれを検出するために必要な反射波を得ることができる。よって、渋滞時における追従走行で近距離の先行車両を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】レーダ装置10の構成を説明する図である。
【図3】送受信波の周波数変化の例を示す図である。
【図4】目標物体検出手段14bの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図5】アンテナ11の回動角度と送信動作との対応を示す図である。
【図6】送信電力増幅器40の詳細な構成を説明する図である。
【図7】送受切替指示信号による送信時間を説明する図である。
【図8】送受切替指示信号に基づく送信時間・受信時間と、送信時間中に送信された送信波の反射波と、受信時間中に受信される受信波の対応関係を説明する図である。
【図9】送受切替指示信号の周波数別に、目標物体の相対距離ごとの受信波のレベルを示す図である。
【図10】レーダ装置が送信波を制御するときの動作手順を説明するフローチャート図である。
【符号の説明】
【0069】
1:車両、10:レーダ装置、14:信号処理装置、14a:送信制御指示手段、14b:目標物体検出手段、30:レーダ送受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され所定の走査範囲をレーダ波で走査するレーダ装置において、
前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記走査範囲内で第1の単位角度ごとにレーダ波を送信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記走査範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに前記レーダ波を送信する送信制御手段と、
前記送信されたレーダ波の目標物体による反射波に基づいて前記目標物体を検出する目標物体検出手段とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記送信制御手段は、前記車両の走行速度が前記第2の速度であって、さらに検出された目標物体の距離が基準値未満の場合に、前記走査範囲内で前記第2の単位角度ごとに前記レーダ波を送信することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
車両に搭載されるとともに共通のアンテナにてレーダ波の送信と受信を所定の切替周期で交互に行うレーダ装置において、
前記車両の走行速度が第1の速度のときには、前記切替周期における送信時間の比率を第1の比率とし、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記送信時間の比率を前記第1の比率より小さい第2の比率とする送受信制御手段と、
前記送信されたレーダ波の目標物体による反射波に基づいて前記目標物体を検出する目標物体検出手段とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記送受信制御手段は、前記送信時間を前記第2の比率にして前記レーダ波の送信を行うときに、前記切替周期を短くすることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4において、
前記送受信制御手段は、前記車両の走行速度に応じて前記送信するレーダ波の出力を低下させることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−107217(P2010−107217A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276652(P2008−276652)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】