説明

レーダ装置

【課題】超分解能測角処理時に、不要な他の信号が混入して誤った方位角が得られることがある。
【解決手段】複数目標との相対距離や相対速度を算出し、超分解能測角処理を行う演算装置13を用いて方位角を測定するレーダ装置において、前記演算装置13は、検出したある目標について、2つの方位角が得られた場合、検出した他の目標の中から、方位角が前記2つの方位角のいずれかに等しく、かつ上昇または降いずれかの変調時にビート信号の周波数が等しい目標を探す他信号検出処理を行い、前記他信号検出処理により、条件を満たす他の目標が検出された場合には、前記検出したある目標の2つの方位角のうち、他信号検出処理により検出された他の目標の方位角と等しい側の方位角を削除するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超分解能測角処理を用いて、目標の正しい方位角を得ることのできるレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続波に周波数変調を施したFMCW方式を利用し、送信信号の周波数上昇時と周波数下降時における送信信号と目標からの反射信号とのビート周波数から、目標の距離と相対速度を算出した後、MUSIC(Multiple Signal Classification)等の超分解能測角処理を用い、目標の方位角を得る方法が例えば特許文献1に記載されている。またMUSICについては例えば非特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2008−39718号公報
【非特許文献1】R.O.Schmidt : ”Multiple Emitter Location and Signal Parameter Estimation”, IEEE Trans. AP-34, 3,pp.276-280 (1986)
【0003】
MUSIC等の超分解能測角処理は、複数の受信アンテナからの入力信号ベクトルが入力となる。前記特許文献1のFMCW方式を利用したレーダ装置では、入力信号ベクトルを得るため、高速フーリエ変換(FFT)による周波数分析手段がよく用いられる。FMCW方式では、周波数上昇時(以下UPチャープという)のビート信号の周波数と、周波数下降時(以下DOWNチャープという)のビート信号の周波数の和と差から目標の距離と相対速度を算出する。つぎに、方位角を得るため、目標の距離と相対速度に対応するUPチャープおよびDOWNチャープの各受信アンテナ毎のビート信号の複素周波数成分を入力信号ベクトルとすることで、超分解能測角処理により、1つもしくは複数の方位角を精度よく得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のレーダ装置では、複数の目標が存在した場合、図3に示すように、UPチャープもしくはDOWNチャープのビート周波数のうちいずれか一方の周波数が等しくなる場合がある。このとき、超分解能測角処理の入力信号ベクトルには、他の目標の受信信号が同時に入力されることになる。この入力信号ベクトルを元に超分解能処理を行うと、正しい方位角とともに、他の目標の方位角も得られることになる。よって、図4に示すように、前記目標の正しい距離、相対速度、方位角(図4ではθa)とともに、誤った距離、相対速度、方位角(図4ではθb)が得られることになる。なお、図3において、20はレーダ装置、21はレーダ装置20からの距離ra、相対速度va、方位角θaの検出目標A、22はレーダ装置20からの距離rb、相対速度vb=0、方位角θbの検出目標B、グラフの横軸はFFT処理後のビート信号周波数、縦軸は電力をそれぞれ示している。
【0005】
この発明は、上述の問題点を解決するためになされたもので、他の目標の受信信号が混入したビート周波数を入力ベクトルとして超分解能測角処理を行った場合にも、誤った他の目標の方位角を判別して削除し、正しい方位角を出力するレーダ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、時間的に周波数を上昇および下降変調した電波を送信用アンテナから送信し、目標からの反射電波を複数の受信用アンテナで受信し、送信波と受信波をミキサで各受信アンテナ毎にミキシングして生成したビート信号から、演算装置を用いて目標との相対距離や相対速度や目標の方位角を測定するレーダ装置において、前記演算装置は、検出したある目標について2つの方位角が得られた場合、検出した他の目標の中から、方位角が前記2つの方位角のいずれかに等しく、かつ上昇または下降いずれかの変調時にビート信号の周波数が等しい目標を探す他信号検出処理を行い、前記他信号検出処理により、条件を満たす他の目標が検出された場合には、前記検出したある目標の2つの方位角のうち、他信号検出処理により検出された他の目標の方位角と等しい側の方位角を削除するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、複数の目標が存在し、他の目標の受信信号が混入したビート周波数を入力ベクトルとして超分解能測角処理を行った場合にも、誤った他の目標の方位角を判別して除去し、正しい方位角得ることができるレーダ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について図面を用いて説明する。図1はこの発明の実施の形態1の構成を示すブロック図である。この発明に係るレーダ装置1は、特定の周波数の電磁波を発生する電圧制御発振器2と、電圧制御発振器2の電磁波の電力を送信用アンプ4と受信側ミキサ9に分配するための分配器3と、分配器3より供給された電磁波の電力を増幅する送信用アンプ4と、送信用アンプ4により増幅された電磁波を空間に電波として放射する送信用アンテナ5を備えている。また、送信用アンテナ5から放射された電波は、距離R離れた目標である物体6により反射され、この反射電波を受信する複数の受信用アンテナ7を備えている。この発明の実施の形態1では、受信用アンテナ7は、チャンネルCH1からCH16までの16個の受信用素子アンテナを持ち、これらの受信用素子アンテナは、説明の便宜上、等間隔dで一直線に配置されているが、必ずしも等間隔、一直線である必要はない。
【0009】
レーダ装置1は、また、受信用アンテナ7で受信した電波を増幅する受信用アンプ8と、分配器3からのローカル信号Loと、物体6の反射波とをミキシングし、物体6の距離、相対速度、方位角に応じたビート信号を出力するミキサ9と、アンプ10と、ローパスフィルタ11と、ビート信号をデジタル信号に変換するA/D変換器12とを備えている。
【0010】
レーダ装置1は、さらに、A/D変換器12の出力デジタル値から、物体6の距離、相対速度、方位角を計算したり、電圧制御発信器2を制御したりする演算装置13備えている。この演算装置13内には、物体6の距離と相対速度を算出する距離・相対速度算出部14、距離・相対速度算出部14で得られた検知目標(物体)の方位角を算出する方位角算出部15、および方位角算出部15で得られた方位角のうち、誤った方位角を判定し、削除する方位角削除部16が設けられている。
【0011】
次に、前記構成のレーダ装置における演算装置13の信号処理内容について、図2のフローチャートに沿って説明する。レーダ装置1のA/D変換器12から距離・相対速度算出部14にはデジタル信号が供給される。供給されたデジタル信号に基づいて、距離・相対速度算出部14は、UPチャープ、DOWNチャープ、およびCH1〜16の各々のビート信号の周波数変換、すなわちFFT処理を行う(ステップS1)。次に、各チャープ、各CHの周波数変換の結果からビート周波数を抽出するピーク検知処理を行う(ステップ2)。次に、各CH毎のUPチャープとDOWNチャープのビート周波数のペアリング処理を行う(ステップ3)。さらに、このペアリング処理結果の各ペアのビート周波数の和と差から距離、相対速度を算出する(ステップ4)。これらステップ1〜4の処理は、距離・相対速度算出部14がA/D変換器12からデジタル信号を受けて行う。なお、距離・相対速度の算出方法については前記特許文献1ほか、様々な文献で発表されているため、詳細は省略する。
【0012】
次に、方位角算出部15では、距離・相対速度算出部14のペアリング処理で得られたペア結果から、各ペアについて超分解能処理の1つであるMUSIC処理法により波数推定を行い、物体6からの反射波がどの方向から到来しているかを推定し、推定した各方向の方位角を算出する(ステップS5)。得られた距離、相対速度、方位角(1つまたは複数)、ペアリング元の周波数(UPチャープ、DOWNチャープ)を記憶し、これを検知目標とする。
【0013】
次に、方位角削除部16の処理内容をステップS6〜S16に従って説明する。得られたそれぞれの検知目標について、方位角別に、過去の検知目標との相関をとり、連続して検出されている目標かどうかを判定し、連続して検出している目標については、その回数を検出回数として記憶する(ステップS6)。次のステップS7〜S16では、各検知目標について、誤った方位角を算出していないかどうか判定し、誤った方位角と判定された場合はその方位角情報を削除する処理を行う。先ず、判定対象となる未処理の検知目標が残っているかを判定し(ステップS7)、残っていなければ処理を終了する。判定対象となる未処理の検知目標が残っていれば、残っている検知目標を1つ選択する(ステップS8)。次に、選択した検知目標の方位角が2つ存在するかを判定し(ステップ9)、1つだけであればステップS7に戻り、次の検知目標を調べる。方位角が2つ存在した場合、2つの方位角のうちいずれかが、他の検知目標の方位角のいずれかと等しい(=重なる)かどうかを調べる(ステップS10)。ステップS10で方位角が等しくなる検知目標が見つからなかった場合(ステップS11)には、ステップS7に戻り、次の検知目標を調べる。
【0014】
方位角が等しい他の検知目標が存在した場合(ステップ11)、ステップS12に進み、選択した検知目標と方位角が等しい検知目標のペアリング元のビート周波数(UPチャープ、DOWNチャープ)のいずれかが等しいかどうかを調べる(ステップ12)。いずれのビート周波数も等しくない場合はステップS7に戻り、次の検知目標を調べる。UPチャープ、DOWNチャープいずれかのビート周波数が等しくなる場合は、方位角が等しい他の検知目標の方位角が1つだけなのか、2つ存在しているかを判定する(ステップS13)。1つであればステップS14に進み、判定対象の検知目標の超分解能測角時に、方位角が等しい検知目標の反射波により、誤った方位角を算出したと判断し、判定対象の検知目標の方位角のうち、方位角が等しいほうの方位角を削除する(ステップS14)。
【0015】
また、ステップS13で方位角が等しい他の検知目標の方位角が2つ存在すると判定した場合には、ステップS15に進み、判定対象の検知目標の方位角2つと、方位角が等しい他の検知目標の方位角が2つとも等しいかどうかを判定する(ステップS15)。方位角が1つのみ等しい場合は、ステップS14に進み、前記と同様の処理を行う。方位角が2つとも等しい場合は、判定対象の検知目標と方位角が等しい他の検知目標のそれぞれが、もう一方の影響で誤った方位角を算出していると考えられ、過去の情報から、過去から連続して検知されている距離、相対速度、方位角を優先し、新しく現われた側の方位角を削除する(ステップS16)。
【0016】
ステップS16における、過去の情報から優先度を決める根拠について図5を用いて説明する。図5において、20はレーダ装置、21はレーダ装置20からの距離ra、相対速度va、方位角θaの検出目標A、22はレーダ装置20からの距離rb、相対速度vb=0、方位角θbの検出目標B、23は検出目標Aの測角時に誤った方位角が得られたことにより距離raの位置に現れる検出目標A'、24は検出目標Bの測角時に誤った方位角が得られたことにより距離rbの位置に現れる検出目標B'である。
【0017】
UPチャープまたはDOWNチャープで2つの検出目標A、Bのビート周波数が等しい場合、2つの検知目標の相対速度は必ず異なる。もし相対速度、ビート周波数が共に等しくなるときは、距離も等しくなり、ここでの検討対象にはならない。2つの検知目標の両方が相対速度=0にはならないため、少なくとも1つの検知目標の距離は時間的に変化することになる。すなわちビート周波数の少なくとも1つは時間的に周波数が変化し、ある瞬間(図5ではのt=Tのとき、ただしTは一定の時間)だけ、いずれか一方のビート周波数が等しくなる。その前後の時刻(図5ではのt=0、t=2Tのとき)にはビート周波数は等しくならないため、誤った方位角は算出されない。ビート周波数が等しくなったときのみ誤った方位角が現れる。ところで、正しい方位角は、過去から連続して現われるため、過去からの検知目標を参照することで、どちらの方位角が誤っているかを判定することができる。また同じ距離、例えばraに検出目標AとA'の2つが実際に存在した場合には、その前後の時刻にも検出目標AとA'は存在しているはずであるため、目標A'が誤った方位角であると判定されることはない。
【0018】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2の信号処理内容について図6のフローチャートで説明する。なお、装置の構成は図1と同じであり、信号処理内容についても、図2のステップS16の箇所を図6に置き換えただけであるため、図2と重複する部分についての説明は省略する。
【0019】
2つの検知目標A、Bが存在する場合、方位角削除部16では、まず2つの検知目標の各方位角2つ、計4つの方位角に対応する反射波の推定電力Pa1、Pa2、Pb1、Pb2の中から一番大きいものを選択する(ステップS101)。なお推定電力はMUSICによる方位角算出時に得られるものとする。次に、ステップS101で選択された推定電力の一番大きいものと、方位角、距離の両方が異なるものを選択する(ステップS102)。次に、ステップS101、S102の各ステップで選択された以外の残り2つを削除する(ステップS103)。
【0020】
図6のフローチャートで示した方法の根拠について、図7を用いて説明する。誤った方位角に対応する推定電力は、UPチャープもしくはDOWNチャープいずれかからの信号しか入力されず、正しい方位角に対応する推定電力は、UPチャープとDOWNチャープの両方から信号が入力されることになる。よって正しい方位角のほうが推定電力が大きくなり、正しい方位角の判定が可能となる。検知目標AとBの受信電力が異なっていたとしても、4つの推定電力のうち、一番大きい推定電力は必ず正しい方位角に対応することになる。図7の場合、
Pa1 > Pa2 (1)
Pb2 > Pb1 (2)
となる。
【0021】
もし、検出目標Aからの反射波が検出目標Bからの反射波よりはるかに大きい場合、検出目標Aの反射波の影響で検出目標Bの推定電力に誤差が生じ、式(2)が正しく成り立たない可能性がある。この場合でも式(1)は反射波のはるかに小さい検出目標Bの影響を受けることはない。よって、ステップS101でPa1、Pa2、Pb1、Pb2の4つの推定電力のうち一番大きいPa1を選択し、その次にステップS102では、Pa1と方位角、距離の異なるPb2を選択することで、正しい方位角を確実に得ることができる。
【0022】
この発明の実施の形態1、2では2つの検知目標のビート周波数が重なった場合について述べているが、3つ以上の検知目標のビート周波数が重なった場合にも、同様に処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1の信号処理を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1において、2つの目標のビート周波数が等しくなる場合の位置関係、ビート周波数を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1において、正しい方位角と誤った方位角が算出される理由を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態1において、目標の位置およびビート周波数の時間変化を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2の信号処理を説明するフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態2において、正しい方位角と誤った方位角の判定が可能となる根拠を説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 レーダ装置、
2 電圧制御発振器、
3 分配器、
4 送信用アンプ、
5 送信用アンテナ、
6 物体、
7 受信用アンテナ、
8 受信用アンプ、
9 ミキサ、
10 アンプ、
11 ローパスフィルタ、
12 A/D変換器、
13 演算装置、
14 距離・相対速度算出部、
15 方位角算出部、
16 方位角削除部、
20 レーダ装置、
21 目標A(検出目標A)、
22 目標B(検出目標B)、
23 検出目標A'、
24 検出目標B'。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間的に周波数を上昇および下降変調した電波を送信用アンテナから送信し、目標からの反射電波を複数の受信用アンテナで受信し、送信波と受信波をミキサで各受信アンテナ毎にミキシングして生成したビート信号から、演算装置を用いて目標との相対距離や相対速度や目標の方位角を測定するレーダ装置において、前記演算装置は、検出したある目標について2つの方位角が得られた場合、検出した他の目標の中から、方位角が前記2つの方位角のいずれかに等しく、かつ上昇または下降いずれかの変調時にビート信号の周波数が等しい目標を探す他信号検出処理を行い、前記他信号検出処理により、条件を満たす他の目標が検出された場合には、前記検出したある目標の2つの方位角のうち、他信号検出処理により検出された他の目標の方位角と等しい側の方位角を削除するようにしたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記演算装置は、過去の測定時の目標検出結果を記憶し、今回の目標検出結果との相関をとることで検出回数を算出し、前記他の目標においても、2つの方位角が得られ、前記ある目標と、前記他の目標の2つの方位角がそれぞれ等しい場合には、前記検出回数によって優先度を決定し、優先度に応じて前記方位角を削除するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記演算装置は、前記他の目標においても、2つの方位角が得られ、前記ある目標と、前記他の目標それぞれの2つの方位角が等しい場合には、各方位角からの受信電力もしくは受信電力に相当する値により優先度を決定し、優先度に応じて前記方位角を削除するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−91331(P2010−91331A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259858(P2008−259858)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】