説明

ロボット装置及びロボット装置教示方法

【課題】教示動作のための専用のキャリブレーションツールが不要であり、また、マニピュレータの手先にキャリブレーションツールを取り付けることが不要であって、教示動作のたびに微小な位置及び傾きのずれが生ずることがなく、かつ、迅速な教示動作が可能となされたロボット装置を提供する。
【解決手段】マニピュレータ1と、このマニピュレータ1の動作を制御する制御手段とを備え、制御手段は、マニピュレータ1の所定箇所を作業台102上に設けられた位置基準部7に当接させ合致させることによって、位置合わせのための教示動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータを備えたロボット装置であって、位置合わせのための教示動作を容易化したロボット装置及びロボット装置教示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マニピュレータを備えたロボット装置が提案されている。このようなロボット装置においては、作業対象となるワークとの位置関係は、このロボット装置を移動し移設させるたびに変化してしまう。したがって、ロボット装置を移動し移設した後は、ワークとの位置合わせを毎回行わなければならず、煩雑である。特に、ロボット装置やロボット装置の周辺装置が可搬式であるような場合、ワークとロボット装置との位置関係が変化することが頻繁に起こる。
【0003】
ロボット装置においては、ワークとロボット装置との位置関係が変化する度に、位置合わせのための教示動作を行わなければならない。この教示動作は、従来のロボット装置において煩雑であった。そのため、このような教示動作を省力化することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、以下のような手順により教示動作を行うことにより省力化を図ったロボット装置が記載されている。すなわち、まず、ワークとの位置関係が既知であるキャリブレーション治具を、ワークのある環境側(作業台上など)に設置する。次に、マニピュレータの手先にキャリブレーションツールを取り付け、このキャリブレーションツールの先端形状と、環境側に設置したキャリブレーション治具の凹部形状とを、マニピュレータにかかる力に応じて位置を補正する機能(力制御機能など)を用いて合致させる。これらが合致したマニピュレータの位置を、動作プログラムに登録する。そして、ロボット装置は、環境側のキャリブレーション治具とワークとの位置関係に基づいて、ワークの位置及び傾きのデータを得て、このデータに応じてマニピュレータを動作させる。
【0005】
【特許文献1】特開2006‐297559公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されたロボット装置においては、教示動作のための専用のキャリブレーションツールが必要であり、また、マニピュレータの手先にキャリブレーションツールを取り付ける必要がある。このとき、キャリブレーションツールの取り付け精度の分だけ、教示動作のたびに微小な位置及び傾きのずれが生じる。また、キャリブレーションツールとキャリブレーション治具との合致動作を正確に行わなければならず、位置合わせのために複数回の合致動作を繰り返す必要があり、迅速な教示動作ができない。
【0007】
そこで、本発明は、前記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、教示動作のための専用のキャリブレーションツールが不要であり、また、マニピュレータの手先にキャリブレーションツールを取り付けることが不要であって、教示動作のたびに微小な位置及び傾きのずれが生ずることがなく、かつ、迅速な教示動作が可能となされたロボット装置及びロボット装置教示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係るロボット装置は、以下の構成を有するものである。
【0009】
〔構成1〕
マニピュレータの動作を制御する制御手段と、制御手段により制御されることによってマニピュレータにかかる力に倣って位置を補正する機能を有するマニピュレータとを備え、作業台上に設けられ作業対象となるワークとの相対位置が既知である位置基準部としてワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、第1の平面に交差する第2の平面と、第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、制御手段は、マニピュレータの所定箇所を位置基準部である各平面に当接させることによって位置合わせのための教示動作を行うことを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係るロボット装置教示方法は、以下の構成を有するものである。
【0011】
〔構成2〕
マニピュレータの動作を制御する制御手段と、この制御手段により制御されることによってマニピュレータにかかる力に倣って位置を補正する機能を有するマニピュレータとを備えたロボット装置の位置合わせのための教示動作を行うロボット装置教示方法であって、作業台上に設けられ作業対象となるワークとの相対位置が既知である位置基準部としてワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、第1の平面に交差する第2の平面と、第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、マニピュレータの所定箇所を位置基準部である各平面に当接させることによって位置合わせのための教示動作を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る複数ロボット装置においては、構成1を有することにより、作業対象となるワークとの相対位置が既知である位置基準部として、ワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、第1の平面に交差する第2の平面と、第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、制御手段は、マニピュレータの所定箇所を位置基準部である各平面に当接させることによって位置合わせのための教示動作を行うので、教示動作のために専用のキャリブレーションツールをマニピュレータに取り付ける必要が無く、マニピュレータの手先ツールを交換する必要もないので、位置合わせのための教示動作が容易となる。
【0013】
また、本発明に係る複数ロボット装置教示方法においては、構成2を有することにより、作業対象となるワークとの相対位置が既知である位置基準部として、ワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、第1の平面に交差する第2の平面と、第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、マニピュレータの所定箇所を位置基準部である各平面に当接させることによって位置合わせのための教示動作を行うので、教示動作のために専用のキャリブレーションツールをマニピュレータに取り付ける必要が無く、マニピュレータの手先ツールを交換する必要もないので、位置合わせのための教示動作が容易となる。
【0014】
すなわち、本発明は、教示動作のための専用のキャリブレーションツールが不要であり、また、マニピュレータの手先にキャリブレーションツールを取り付けることが不要であって、教示動作のたびに微小な位置及び傾きのずれが生ずることがなく、かつ、迅速な教示動作が可能となされ、また、教示作業のときと同じそのままの手先の構成で、ワークを把持するなどの作業ができるロボット装置及びロボット装置教示方法を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
〔ロボット装置の構成〕
図1は、本発明に係るロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【0017】
本発明に係るロボット装置は、図1に示すように、マニピュレータ1を有し、このマニピュレータ1により、作業対象となるワーク101の把持、運搬及び他の部材への組立が可能となされているものである。ワーク101は、作業台102上の所定の位置に載置されている。
【0018】
マニピュレータ1は、複数のアクチュエータ(駆動装置)とリンク(剛体の構造物)1a,1b,1c,1dとによって構成され、ロボットベース4上に設置されている。すなわち、ロボットベース4、各リンク1a,1b,1c,1dのそれぞれの間は、回動(屈曲)、または、旋回可能な関節2a,2b,2c,2dを介して接続されており、それぞれアクチュエータによって相対駆動されるようになっている。各アクチュエータは、図示しないコンピュータなどの制御手段によって制御される。
【0019】
最も先端側のリンク1dの先端側(以下、「手先」という。)には、最も先端側の関節2e及び力センサ3を介して、先端ツール機構となる把持機構5が接続されている。最も先端側の関節2eは、最も先端側のリンク1dの軸回りに把持機構5を旋回可能とする関節である。力センサ3は、力制御など、はめあいに倣って位置を補正する機能を実現するためのものである。
【0020】
把持機構5は、制御手段によって制御される。把持機構5は、複数の把持爪6を備えており、把持爪6を開閉可能としている。把持機構5は、これら把持爪6によってワーク101を把持、搬送、または、組立てる機能を有している。
【0021】
このマニピュレータ1においては、順次先端側のリンクの位置が制御されることにより、手先の位置が制御され、この手先において把持機構5によって、ワーク101を把持し、所定の位置に搬送し、または、組立てることができる。また、マニピュレータ1は、制御手段による制御により、マニピュレータ1にかかる力に倣って位置を補正する機能を発揮する。
【0022】
そして、このロボット装置においては、作業台102上には、マニピュレータの所定箇所、例えば、把持爪6の先端部分など、把持機構5の近傍の突起部が当接される位置基準部7が形成されている。この位置基準部7は、作業台102上におけるワーク101の載置位置の基準となるものである。すなわち、作業台102上におけるワーク101の載置位置は、位置基準部7に対して、所定の既知の方向及び距離となされている。
【0023】
図2は、本発明に係るロボット装置の要部の構成を示す斜視図である。
【0024】
この実施の形態においては、図2に示すように、位置決めのためのマニピュレータの所定箇所は、把持爪6の先端部分となっており、位置基準部7は、作業台102上に3つの平面によって形成された凹部となっている。この位置基準部7は、把持爪6の先端部分が嵌合されるように形成されている。すなわち、位置基準部7は、ワーク101が載置される作業台102の上面である第1の平面7aと、第1の平面7aに交差する第2の平面7bと、第1の平面及び第2の平面7a,7bに交差する第3の平面7cからなる。なお、第1の平面は、作業台102の上面そのものではなく、この上面に平行な平面であってもよい。この実施の形態においては、第1乃至第3の平面7a,7b,7cは、一点において交差し、三角錐状の凹部を形成している。この凹部は、把持爪6の先端部分の形状に対応した形状となっている。
【0025】
〔ロボット装置の動作〕
このロボット装置においては、制御手段は、マニピュレータ1の手先の把持爪6の先端部分を作業台101上の位置基準部7に当接させることにより、位置合わせのための教示動作を行う。すなわち、制御手段は、把持爪6の先端部分を、力制御を用いて、位置基準部7に当接させて合致させる。そして、制御手段は、このときのマニピュレータ1の位置及び傾きデータから、教示データを取得することができる。
【0026】
図3は、本発明に係るロボット装置の動作を示すフローチャートである。
【0027】
すなわち、図3に示すように、ステップst1で教示を開始すると、ステップst2に進み、位置基準部7をなす第1の平面7aに手先(把持爪6の先端部分の下面)を押付け、力制御により、手先の傾き(θx,θy)を第1の平面7aに倣わせ、ステップst3に進む。なお、ここで、第1の平面7aに対して、手先の傾き(θx,θy)及び高さ位置(z)を倣わせることとしてもよい。
【0028】
ステップst3では、手先を、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが交差するコーナ部の斜め上方(約45°上方)に移動させ、ステップst4に進む。
【0029】
ステップst4では、手先を、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが交差するコーナ部に向けて移動させ、ステップst5に進む。
【0030】
ステップst5では、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが交差するコーナ部に、手先(把持爪6の先端部分の三角錐状の角部)を押当て、手先の位置及び回転(x,y,z,θz)を第1乃至第3の平面7a,7b,7cに倣わせ、ステップst6に進む。なお、ステップst2で高さ位置(z)を倣わせていた場合には、ここでは、水平位置及び回転(x,y,θz)のみを倣わせる。
【0031】
ステップst6では、手先の座標、すなわち、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが交差するコーナ部の座標を記憶し、ステップst7に進む。
【0032】
ステップst7では、記憶されたコーナ部の座標から、ワーク101の位置を算定する。なお、前述したように、位置基準部7とワーク101との相対位置関係は既知となっている。
【0033】
ワーク101の位置を算定されたならば、ステップst8において、ワーク101の位置座標を記憶し、ステップst9に進み、教示を終了する。
【0034】
したがって、このロボット装置においては、複数の作業台において作業を行う場合においても、各作業台ごとに設けられた位置基準部7によって、各作業台ごとの教示データを取得し、各作業台ごとに教示動作を行って、ワーク101に対する作業を迅速に行うことができる。
【0035】
すなわち、このロボット装置においては、このロボット装置と各作業台との位置関係や、各作業台間の位置関係が正確に規定されていなくとも、各作業台ごとの教示動作を行うので、各作業台におけるワーク101に対する作業を正確に行うことができる。
【0036】
〔その他の実施の形態〕
本発明に係るロボット装置においては、位置基準部7に押当てる所定箇所は、把持爪6ではなく、把持機構5そのもの(把持機構5の側面部や把持爪6の近傍に設けた位置基準用の突起など)や、把持機構5を固定するブラケット等であってもよい。また、把持爪6の先端部分の形状は、方形状ではなく、台形状や三角形状、テーパ形状でもあってもよい。この場合には、位置基準部7として、これら把持爪6の先端部分の形状に対応した形状を有するものを用いる。
【0037】
さらに、本発明において、位置基準部7は、前述した実施の形態における如く3つの平面が一点において実際に交差している形状に限定されず、延長面上において互いに交差する3つの平面であれば、実際の交差点が形成されている必要はない。
【0038】
図4は、位置基準部7の第2の構成例を示す斜視図である。
【0039】
すなわち、位置基準部7は、図4に示すように、作業台102上において、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが離散して設置されたものであってもよい。この場合にも、第1の平面7aに対して手先の傾き(θx,θy)を倣わせ、第2、または、第3の平面7b,7cに対して手先の回転(θz)を倣わせ、第1乃至第3の平面7a,7b,7cの仮想交点に対して手先の位置(x,y,z)を倣わせることにより、教示動作を行うことができる。
【0040】
図5は、位置基準部7の第3の構成例を示す斜視図である。
【0041】
さらに、位置基準部7は、図5に示すように、作業台102上において、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが1つのブロックの面として設置されたものであってもよい。この場合にも、第1の平面7aに対して手先の傾き(θx,θy)を倣わせ、第2、または、第3の平面7b,7cに対して手先の回転(θz)を倣わせ、第1乃至第3の平面7a,7b,7cに対して手先の位置(x,y,z)を順次倣わせることにより、教示動作を行うことができる。
【0042】
図6は、位置基準部7の第4の構成例を示す斜視図である。
【0043】
さらに、位置基準部7は、図6に示すように、作業台102の上面よりも、下方に彫り込まれた凹部として形成され、第1乃至第3の平面7a,7b,7cを有して設置されたものであってもよい。この場合にも、第1の平面7aに対して手先の傾き(θx,θy)を倣わせ、第2、または、第3の平面7b,7cに対して手先の回転(θz)を倣わせ、第1乃至第3の平面7a,7b,7cの交点に対して手先の位置(x,y,z)を倣わせることにより、教示動作を行うことができる。
【0044】
図7は、位置基準部7の第5の構成例を示す斜視図である。
【0045】
また、位置基準部7は、図7に示すように、作業台102の上面よりも、下方に彫り込まれた凹部として形成された場合において、第1乃至第3の平面7a,7b,7cが離散して設置されたものであってもよい。この場合にも、第1の平面7aに対して手先の傾き(θx,θy)を倣わせ、第2、または、第3の平面7b,7cに対して手先の回転(θz)を倣わせ、第1乃至第3の平面7a,7b,7cの仮想交点に対して手先の位置(x,y,z)を倣わせることにより、教示動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明に係るロボット装置の要部の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るロボット装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】位置基準部の第2の構成例を示す斜視図である。
【図5】位置基準部の第3の構成例を示す斜視図である。
【図6】位置基準部の第4の構成例を示す斜視図である。
【図7】位置基準部の第5の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 マニピュレータ
1a,1b,1c,1d リンク
2a,2b,2c,2d,2e 関節
5 把持機構
4 ロボットベース
6 把持爪
7 位置基準部
7a 第1の平面
7b 第2の平面
7c 第3の平面
101 ワーク
102 作業台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータの動作を制御する制御手段と、
前記制御手段により制御されることによって、マニピュレータにかかる力に倣って位置を補正する機能を有するマニピュレータと
を備え、
作業台上に設けられ、作業対象となるワークとの相対位置が既知である位置基準部として、前記ワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、前記第1の平面に交差する第2の平面と、前記第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、
前記制御手段は、前記マニピュレータの所定箇所を、前記位置基準部である各平面に当接させることによって、位置合わせのための教示動作を行う
ことを特徴とするロボット装置。
【請求項2】
マニピュレータの動作を制御する制御手段と、この制御手段により制御されることによってマニピュレータにかかる力に倣って位置を補正する機能を有するマニピュレータとを備えたロボット装置の位置合わせのための教示動作を行うロボット装置教示方法であって、
作業台上に設けられ、作業対象となるワークとの相対位置が既知である前記位置基準部として、前記ワークが載置される作業台の上面、または、この上面に平行な平面である第1の平面と、前記第1の平面に交差する第2の平面と、前記第1の平面及び第2の平面に交差する第3の平面とを用いて、
前記マニピュレータの所定箇所を、前記位置基準部である各平面に当接させることによって、位置合わせのための教示動作を行う
ことを特徴とするロボット装置教示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−99745(P2010−99745A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270729(P2008−270729)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】