説明

ロボット駆動方法及びロボット

【課題】回生エネルギーの発生自体を抑制しつつ、外力やロボットの状態変化に対して強い動作を行なわせることができる駆動方法を提供する。
【解決手段】目標位置に向かって可動部を移動させる際に、駆動力を動力発生部に発生させることにより、可動部を目標位置に向けて加速を行なわせる加速工程のステップS104と、一定速にするよりも動力発生部における発生力の小さい制御を行なう予備減速工程のステップS105と、目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を発生させて可動部を減速させ目標位置に停止させる減速停止工程のステップS106を行なわせる。この際に予備減速工程のステップS105の一部において予備減速推移演算工程S102で演算した指令速度を基にした速度制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット駆動方法及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のロボット技術の進歩により、工業製品の製造現場では、多くのロボットが導入されている。例えば、工業製品の組み立てラインでは、ラインに沿って複数台のロボットが設置され、ライン上を流れる製造中の製品に対して、ロボットが自動で各種の部品を組み付けることで、生産効率を向上させることが広く行われている。あるいは、このようなロボットが組み付ける部品をラインサイドまで搬送する際にも、ロボットを用いて部品を搬送することで、工場全体としての生産効率を向上させることも広く行われている。
【0003】
ロボットを導入すれば、操作者を危険な作業から開放することが可能となり、あるいは、ロボットは全く同じ動作を繰り返すことができるので作業精度が向上する等、多くの利点が得られるが、時間あたりの作業量の増加に伴って生産性の向上が可能となることも大きな利点として挙げられる。もっとも、ロボットの導入時には多額の初期費用が必要となる。そこで、この初期費用を回収するためにも、ロボットにはできるだけ高い生産性が望まれる。そして、生産性を向上させるためには、ロボットの動作速度をできるだけ高くする必要がある。このため、ロボットアーム等の可動部分を目標位置まで移動させる際には、可動部分をできるだけ短時間で最高速度まで加速した後に最高速度で定速移動させ、目標位置の手前に達したら最高速度から急減速して目標位置に停止させる制御が行われることが通常である(たとえば、特許文献1)。
【0004】
ここで、ロボットの可動部分(たとえばロボットアーム等)はかなりの重量を有することが通常であるため、最高速度で移動している状態から停止させる際には、大きな運動エネルギーが放出される。そして、放出される運動エネルギーの大きさは、ロボットの生産性を向上させるために可動部分の移動速度を高くすればするほど大きくなる。従って、この運動エネルギーを熱として捨ててしまったのでは、生産性を向上させるためにロボットの動作速度を高くしても、それに伴ってロボットを動作させるためのエネルギーが増加することになって、十分に生産性を向上させることが困難となる。尚、ロボットアーム等の可動部分を停止させる際に放出されるエネルギーは、回生エネルギーと呼ばれることがある。そこで、ロボットアーム等の可動部分を停止させる際に発生する回生エネルギーを電気エネルギーとして回収するようにした技術も提案されている(特許文献2、特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−311713号公報
【特許文献2】特許第3655056号公報
【特許文献3】特開2007−159213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案されている従来の技術では、回生エネルギーを電気エネルギーとして回収することで、ロボットを動作させるためのエネルギーが増加することは抑制可能であるものの、回生エネルギーを回収するための特別な回路や制御が必要となるため、ロボットが高価となる。このため、ロボットの初期費用が増加し、増加した初期費用を回収するために、更なる生産性の向上が必要になるという問題がある。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、発生した回生エネルギーを回収するのではなく、回生エネルギーの発生自体を抑制することによって、ロボットを動作させるためのエネルギーも含めたロボット全体としての生産性を向上させることが可能な技術が求められている。
【0008】
この要求を実現する方法として、動作中にモーターにトルクを与えない制御が考えられる。このとき、制御を行なえないため外力等の外乱に弱くなる。そこで回生エネルギーの発生自体を抑制しつつ、外力やロボットの状態変化に対して強い動作を行なわせることができる駆動方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]本適用例にかかるロボット駆動方法は、本体部と、前記本体部に対して移動可能に構成されたな可動部と、前記可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、前記動力発生部を制御する制御部とを備えるロボット駆動方法であって、所定の目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を目標位置に向けて加速させる加速工程と、前記目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を減速させて、前記可動部を前記目標位置に停止させる減速停止工程と、前記減速停止工程の前に行われ、前記可動部を一定の速度に維持するよりも小さい前記動力にて移動する予備減速の制御を行う予備減速工程と、前記予備減速工程における位置及び速度の推移を基に前記予備減速工程の予備減速指令速度を演算する予備減速推移演算工程と、を有し、前記予備減速工程の少なくとも一部では、前記予備減速指令速度を基に速度制御を行なうことを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、ロボットは本体部と、前記本体部に対して移動可能に構成されたな可動部と、前記可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、前記動力発生部を制御する制御部とを備えている。そして、予備減速推移演算工程では予備減速工程における位置及び速度の推移を基に予備減速工程の予備減速指令速度を演算する。
【0012】
次に、加速工程で所定の目標位置に向かう方向の駆動力を動力発生部に発生させることにより、可動部を目標位置に向けて加速を行なわせる。続いて、予備減速工程では可動部を一定の速度に維持するよりも小さい動力にて可動部を移動する予備減速の制御を行う。次に、減速停止工程で目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を動力発生部に発生させて可動部を減速させることにより、可動部を目標位置に停止させる。
【0013】
予備減速工程では、予備減速推移演算工程で演算した指令速度を基に速度制御を行なう。このため、予備減速工程においても予備減速指令速度と一致する速度移動の制御が行なわれる。このとき、可動部に外力が加わるときにも予備減速指令速度で移動するように制御する。従って、動力発生部に発生させるエネルギーを減らしつつ可動部への外力やロボットの状態変化に対して強い動作を行なわせることができる。
【0014】
[適用例2]上記適用例に記載のロボット駆動方法は、前記加速工程から前記減速停止工程の各工程において速度制御を行なっていない際には位置制御を行なうことが好ましい。
【0015】
本適用例によれば、加速工程、減速停止工程及び予備減速工程において速度制御を行なっていないときには位置制御を行なっている。これにより、加速工程から減速停止工程の各工程において速度制御を行なっていないときに位置の指令どおりに動作することになる。従って、目標位置に対して正確な位置決めが可能となる。
【0016】
[適用例3]上記適用例に記載のロボット駆動方法は、前記予備減速指令速度と前記可動部の速度とが等しくなる時から、前記予備減速指令速度を基に速度制御を行なうことが好ましい。
【0017】
本適用例によれば、予備減速推移演算工程において演算した予備減速指令速度と可動部の速度が一致した時点から、予備減速指令速度を基に速度制御を行なう。これにより位置制御から速度制御の切り替えを滑らかに行うことができる。
【0018】
[適用例4]上記適用例に記載のロボット駆動方法は、前記予備減速推移演算工程では前記予備減速工程から前記減速停止工程に移行する仮の切替時刻を算出し、前記予備減速工程から前記減速停止工程に移行する際には前記切替時刻に所定の遅延時間を加えた時刻に移行することが好ましい。
【0019】
本適用例によれば、予備減速推移演算工程では予備減速工程から減速停止工程に移行する仮の切替時刻を算出している。そして、予備減速工程から減速停止工程に移行する際には仮の切替時刻に所定の遅延時間を加えた時刻にて移行している。従って、仮の切替時刻より可動部の移動が遅延するときにも、遅延した時間に対応した時刻にて予備減速工程から減速停止工程に移行することができる。従って、可動部の移動が遅延するときにも、滑らかに切り替えることができる。
【0020】
[適用例5]上記適用例に記載のロボット駆動方法は、前記目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を前記目標位置に向けて一定速で動作させる定速工程と、前記定速工程における位置及び速度の推移を基に前記定速工程の定速指令速度を演算する定速推移演算工程とをさらに備えてもよい。
【0021】
本適用例によれば、所定の目標位置に向かう方向の駆動力を動力発生部に発生させることにより、可動部を目標位置に向けて一定速で動作させる定速工程をさらに備えている。これにより高速を維持して動作する時間が長くなる。従って、目標位置に到達するまでの時間を短縮することができる。
【0022】
[適用例6]本適用例にかかるロボットは、本体部と、前記本体部に対して移動可能に構成された可動部と、前記可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、前記動力発生部を制御する制御部とを備えるロボットであって、前記制御部は、所定の目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を目標位置に向けて加速を行う際に、位置及び速度の推移を基に加速指令速度を演算する加速推移演算部と、
前記目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を減速させて、前記可動部を前記目標位置に停止させる際の、位置及び速度の推移を基に減速停止の指令速度を演算する減速推移演算部と、前記可動部を一定の速度に維持するよりも小さい前記動力にて前記可動部を移動する予備減速の制御を行う際の指令速度である予備減速指令速度を位置及び速度の推移を基に演算する予備減速推移演算部と、を有し、予備減速をする際の少なくとも一部で前記予備減速指令速度を用いて速度制御を行なう速度制御演算部を備えることを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、ロボットは、本体部と、本体部に対して移動可能に構成されたな可動部と、可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、動力発生部を制御する制御部とを備えている。制御部は、加速推移演算部と予備減速推移演算部と減速推移演算部とを備えている。
【0024】
加速推移演算部は、所定の目標位置に向かう方向の駆動力を動力発生部に発生させて、可動部を目標位置に向けて加速を行う際に、位置及び速度の推移を基に加速指令速度を演算する。減速推移演算部は、目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を動力発生部に発生させて、可動部を減速させて、可動部を目標位置に停止させる際の、位置及び速度の推移を基に減速停止の指令速度を演算する。予備減速推移演算部は、可動部を一定の速度に維持するよりも小さい動力にて可動部を移動する予備減速の制御を行う際の指令速度である予備減速指令速度を位置及び速度の推移を基に演算する。
【0025】
予備減速をする際の少なくとも一部で、制御部は予備減速指令速度を基に速度制御を行なうことができる。これにより、予備減速の制御を行うとき予備減速指令速度と一致する速度移動の制御が行なわれる。このとき、可動部に外力が加わるときにも予備減速指令速度で移動するように制御する。従って、動力発生部に発生させるエネルギーを減らしつつ可動部への外力やロボットの状態変化に対して強い動作を行なわせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態1にかかりロボットの構成を示す概略構成図。
【図2】ロボットの動作範囲を示す模式上面図。
【図3】可動部の動作工程を示すフローチャート。
【図4】予備減速工程の速度制御を示すブロック図。
【図5】加速工程及び減速停止工程で行なっている位置制御を示すブロック図。
【図6】従来の制御方法における可動部の角速度の推移を示す図。
【図7】加速工程、予備減速工程、減速停止工程を行う方法における可動部の角速度の推移を示す図。
【図8】可動部を駆動するトルクの推移を示す図。
【図9】実施形態2にかかり可動部の動作工程を示すフローチャート。
【図10】制御の切り替えタイミングを説明するための図。
【図11】可動部を駆動するトルクの推移を示す図。
【図12】変形例1にかかり可動部の動作工程を示すフローチャート。
【図13】加速工程、定速工程、予備減速工程、減速停止工程を行う方法における可動部の角速度の推移を示す図。
【図14】可動部を駆動するトルクの推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の各図においては、各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0028】
(実施形態1)
図1は、ロボットの構成を示す概略構成図である。図1に示すようにロボット10は、本体部11と可動部12とを備えている。可動部12は、本体部11に対して回転移動が可能な態様で設けられており、本体部11には可動部12を回転させるための動力を発生させる動力発生部としてのモーター20aや制御部20b等を備える駆動部20が内蔵されている。他にも、減速ギアやモーター20aの回転角度や回転速度を検出するセンサーが設置されている。
【0029】
制御部20bは、演算を行うCPUやデータを記憶するROM、RAM、HDD等の記憶部を備えている。そして、記憶部に記憶されたプログラムに従って動作することにより各種の機能を実現している。制御部20bは機能を実現する演算部として、加速推移演算部、減速推移演算部、予備減速推移演算部、速度制御演算部を備えている。
【0030】
加速推移演算部は、所定の目標位置に向かう方向の駆動力をモーター20aに発生させて、可動部12を目標位置に向けて加速を行う際に、位置及び速度の推移を基に加速指令速度を演算する機能を備えている。減速推移演算部は、目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力をモーター20aに発生させて、可動部12を減速させて、可動部12を目標位置に停止させる際の、位置及び速度の推移を基に減速停止の指令速度を演算する機能を備えている。
【0031】
予備減速推移演算部は、可動部12を一定の速度に維持するよりも小さい動力にて可動部12を移動する予備減速の制御を行う際の指令速度である予備減速指令速度を位置及び速度の推移を基に演算する機能を備えている。速度制御演算部は、加速指令速度、減速停止の指令速度、予備減速指令速度を用いて可動部12の速度制御を行う機能を備えている。
【0032】
図2は、ロボットの動作範囲を示す模式上面図である。図2に示すように可動部12は同心円を描くように動作する。可動部12が動作開始する場所を位置(A)12aとし動作を終了する場所を位置(B)12bとする。そして、本実施形態では可動部12が位置(A)12aから位置(B)12bまで移動する例を用いて説明する。
【0033】
図3は、可動部の動作工程を示すフローチャートである。図3において、ロボットの動作開始を行うステップS100では、可動部12は位置(A)12aに位置している。加速推移演算工程のステップS101では、可動部12を所定の目標位置12bに向かうように加速を行なわせるための加速工程のステップS104における速度の推移である加速指令速度及び位置を演算する。予備減速推移演算工程のステップS102では、加速工程のステップS104で加速された可動部12の速度を一定の速度に維持するよりも動力発生部であるモーターが発生する動力が小さくなるように、予備減速工程のステップS105における速度の推移である予備減速指令速度及び移動位置を演算する。減速推移演算工程のステップS103では、可動部12を所定の目標位置12bに止めるように減速を行なわせるための減速停止工程のステップS106における速度の推移である減速指令速度及び位置を演算する。
【0034】
加速工程のステップS104では、加速推移演算工程のステップS101で演算された加速指令速度を基に制御部20bは可動部12を目標位置12bに向けて加速を行なわせる。この際に加速工程のステップS104では制御部20bは位置指令をもとにした位置制御を行う。予備減速工程のステップS105では、予備減速推移演算工程のステップS102で演算された予備減速指令速度を基に制御部20bは可動部12に予備減速を行なわせる。この際に、予備減速推移演算工程のステップS102で演算した予備減速指令速度を基に制御部20bは速度制御を行なう。減速停止工程のステップS106では、減速推移演算工程のステップS103で演算された減速停止指令速度を基に可動部12が目標位置12bで停止するように制御部20bは駆動部20に減速移動を行なわせる。この際に減速停止工程のステップS106では制御部20bは位置指令を基にした位置制御を行う。ロボットの動作終了のステップS107では可動部12が位置(B)12bに停止し、可動部12の動作が終了する。
【0035】
尚、加速工程のステップS104から減速停止工程のステップS106の各工程において速度制御を行なっていない際には位置制御を行なう。これにより、加速工程のステップS104から減速停止工程のステップS106の各工程において速度制御を行なっていないときに位置の指令どおりに動作することになる。従って、目標位置に対して正確な位置決めが可能となる。
【0036】
図4は、予備減速工程の速度制御を示すブロック図である。図4に示すように、速度制御は指令角速度37と現在のモーター20aの角速度35の差を速度制御部31に入力として与える。速度制御部31では比例制御や積分制御等をおこないモーター20aのトルクを決定する。そこで決定されたトルクでモーター20aを駆動する、という制御を連続的に繰り返すことで指令角速度37とモーター20aの角速度35が一致するように制御を行なう。
【0037】
図5は、加速工程及び減速停止工程で行なっている位置制御を示すブロック図である。図5に示すように、位置制御は指令角度38と現在のモーター20aの角度36の差を位置制御部33に与える。位置制御部33は比例制御や積分制御等を行い、指令角速度37を算出し出力する。次に、指令角速度37と現在のモーター20aの角速度35の差を速度制御部31に入力する。速度制御部31では比例制御や積分制御等をおこないモーター20aのトルクを決定する。そこで決定されたトルクでモーター20aを駆動する、という制御を連続的に繰り返すことで指令角度38とモーター20aの回転角度が一致するように制御を行なう。
【0038】
予備減速の速度推移の指令v(t)は、可動部12の慣性モーメントJ及び粘性摩擦係数Dにより式(1)で表わされる時定数τを用いると、式(2)で表される速度を用いることができる。粘性摩擦係数Dは本体部11と可動部12との間で生じる粘性摩擦の係数である。ただし、v0は予備減速工程のステップS105開始時の可動部12の速度、tは予備減速工程のステップS105開始からの経過時間を示す。
【0039】
【数1】

【0040】
【数2】

【0041】
図6は、従来の制御方法における可動部の角速度の推移を示す図である。図6に示すように、従来の方法では、予備減速工程のステップS105を行なっていない。そして、加速工程のステップS104の後に可動部12を一定速度で動作させる定速工程のステップS108を行い、その後で減速停止工程のステップS106を行なっている。
【0042】
図7は、加速工程、予備減速工程、減速停止工程を行う方法における可動部の角速度の推移を示す図である。図7に示すように、加速工程のステップS104では可動部12の角速度が上昇している。そして、予備減速工程のステップS105では可動部12の角速度が除々に減速している。次の、減速停止工程のステップS106では可動部12が停止するまで減速している。
【0043】
図8は、可動部を駆動するトルクの推移を示す図である。図8において、第1トルク推移線41は、予備減速工程のステップS105を行なわず定速工程のステップS108を行ない、総ての工程で位置制御を行った場合のトルクの推移を示している。第2トルク推移線42は、予備減速工程のステップS105を行い予備減速工程のステップS105では速度制御を行い、加速工程のステップS104と減速停止工程のステップS106では位置制御を行った際のトルクの推移を示している。
【0044】
予備減速工程を行なった場合は制御の切り替え時に予備減速工程を行なわなかった場合よりもトルクが大きくなる場合があるが、総ての工程のトルクの絶対値の積算平均を見ると15%ほど小さくなっている。また予備減速工程のステップS105を行なうことで、定速工程のステップS108で動作させた場合よりも動作時間は長くなる。しかしこのときの動作時間の遅れは全動作における2.3%と小さい。
【0045】
以上のように、従来の制御の定速工程のS108では、一定速度を維持するために粘性摩擦に逆らうための駆動力を動力発生部で発生させ続ける必要があった。それに対して予備減速工程のS105では、粘性摩擦に逆らうための駆動力を少なくするように指令を予備減速推移演算工程のステップS102で生成してその指令を基に制御を行うことで、余分な駆動力の発生を抑えた低エネルギーでロボットを駆動できるため、ロボットを動作させるためのエネルギーも考慮した全体としての生産性を向上させることが可能となる。
【0046】
また、変形例の1つとして、予備減速工程のステップS105の間で制御を一切行わずにモーター20aのトルクを0にしてしまい、可動部12の慣性のみで動作させる方法が考えられる。しかし、本実施例では図示しなかったがロボットの可動部12には、別の可動部が直列に配置されていることが多く、別の可動部が動いた際にその反力や慣性力を外力として受ける。このような外力を受けた場合には、トルクを0にする方法を用いた場合は可動部12の角度が指令角度から動作が大きくずれてしまいロボットが予期せぬ動きをするという問題がある。本実施形態では予備減速工程のステップS105で速度制御を行うことで動作中の動きを指令角度に追従させている。従って、このような外力に対してもロバストな制御が行える。
【0047】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、予備減速工程のステップS105では、予備減速推移演算工程のステップS102で演算した予備減速指令速度を基に速度制御を行なっている。このため、予備減速工程のステップS105においても予備減速指令速度と一致する速度移動の制御が行なわれる。このとき、可動部12に外力が加わるときにも予備減速指令速度で移動するように制御している。従って、駆動部20に発生させるエネルギーを減らしつつ可動部12への外力やロボット10の状態変化に対して強い動作を行なわせることができる。つまり、回生エネルギーの発生自体を抑制しつつ、外力やロボット10の状態変化に対して強い動作を行なわせることができる。
【0048】
(2)本実施形態によれば、加速工程のステップS104、減速停止工程のステップS106及び予備減速工程のステップS105において速度制御を行なっていないときには位置制御を行なっている。これにより、加速工程のステップS104から減速停止工程のステップS106の各工程において速度制御を行なっていないときに位置の指令どおりに動作することになる。従って、目標位置に対して正確な位置決めが可能となる。
【0049】
(実施形態2)
次に、本発明を具体化したロボット駆動方法の一実施形態について図9及び図10を用いて説明する。本実施形態が実施形態1と異なるところは、移動速度を配慮して工程を切り替える点にある。尚、実施形態1と同じ点については説明を省略する。
【0050】
図9は可動部の動作工程を示すフローチャートである。図10は制御の切り替えタイミングを説明するための図である。本実施形態にかかるロボット駆動方法についてこれらの図を参照して説明をする。
【0051】
図9において、ロボット動作開始のステップS100では、可動部12は位置(A)12aに位置している。加速推移演算工程のステップS101では、可動部12を所定の目標位置12bに向かうように加速を行なわせるための加速工程のステップS104における位置及び速度の推移である加速指令を演算する。予備減速推移演算工程のステップS102では、加速工程のステップS104で加速された可動部12の速度を一定の速度に維持するよりも動力発生部であるモーター20aにおける動力が小さくなるように、予備減速工程のステップS105における速度の推移である予備減速指令速度及び移動位置を演算する。減速推移演算工程のステップS103では、可動部12を所定の目標位置12bに止めるように減速を行なわせるための減速停止工程のステップS106に速度の推移である減速指令速度及び移動位置を演算する。
【0052】
加速工程のステップS104では、加速推移演算工程のステップS101で演算された指令を基に可動部12を目標位置12bに向けて加速を行なわせる。この際に加速工程のステップS104では位置指令をもとにした位置制御のステップS110を行う。予備減速工程への切り替え判定のステップS112では加速推移演算工程のステップS101で演算された時系列に基づいた指令が総て位置制御のステップS110にて実施されたかを判定する。指令が総て実施された場合は予備減速工程のステップS105に移行し、指令が総て実施されていない場合は位置制御のステップS110を行う。
【0053】
予備減速工程のステップS105では、予備減速推移演算工程のステップS102で演算された予備減速指令速度及び指令位置を基に可動部12の予備減速を行なわせる。この際に、まずは予備減速推移演算工程のステップS102で演算した指令位置を基に位置制御のステップS110を行なう。
【0054】
図10において、指令速度推移線50は加速推移演算工程のステップS101から減速推移演算工程のステップS103にて算出した指令速度の推移を示す。そして、速度推移線51は可動部12が移動する速度の推移を示す。速度制御への切り替え判定のステップS113では実際の速度推移線51の速度と指令速度推移線50の速度が一致するかを判定する。そして、図9に示すように、速度が一致する場合には(Yのとき)速度制御のステップS111を行い、一致しない場合には(Nのとき)位置制御のステップS110へ移行する。そして、速度推移線51の速度と指令速度推移線50の速度が一致するまでステップS110とステップS113とを行う。ステップS113から位置制御のステップS110に移行するときには、位置制御を継続して行う。このときには速度を急激に変化させることなく可動部12の動作を制御する。
【0055】
次に速度制御のステップS111を行っているときに減速停止工程への切り替えの判定のステップS114を行う。図10に示すように、減速停止工程への切り替え判定のステップS114では、一度、予備減速推移演算工程のステップS102で演算した予備減速工程のステップS105の指令が終わる時刻を仮の切り替え時刻52に設定する。そこから所定の遅延時間53を加えた時刻を減速停止工程のステップS106への切り替え時刻に再設定する。そして、再設定した時刻になった時、切り替え時刻であると判断する。このときの遅延時間53はステップS105における位置制御のステップS110の際の指令が実行されてから実速度がその指令と同じ速度になるまでの応答遅延時間54と同じであることが望ましい。ステップS114において減速停止工程のステップS106へ切り替えると判断した場合は減速停止工程のステップS106へ移行し、切り替えないと判断した場合は速度制御のステップS111を継続する。
【0056】
減速停止工程のステップS106では、減速推移演算工程のステップS103で演算された指令位置を基に可動部12が目標位置12bで停止するように減速を行なわせる。この際に減速停止工程のステップS106では位置指令を基にした位置制御を行う。動作終了判定のステップS115で動作が終了したと見なしたときは動作終了のステップS107に移行し、終了していない場合は位置制御のステップS110を続ける。ロボット駆動の動作終了のステップS107では可動部12が位置(B)12bに停止し、可動部12の移動動作が終了する。
【0057】
図11は、可動部を駆動するトルクの推移を示す図である。図11において、第1トルク推移線41は予備減速工程のステップS105を行なわず定速工程のステップS108を行ない、総ての工程で位置制御を行った場合のトルクの推移を示す。第3トルク推移線43は、加速工程のステップS104、予備減速工程のステップS105、減速停止工程のステップS106を行った場合のトルクの推移を示す。
【0058】
第3トルク推移線43では、予備減速推移演算工程のステップS102において演算した速度の指令値と可動部の速度が一致した時点から、予備減速推移演算工程で演算した指令速度を基に速度制御を行なっている。そして、予備減速工程から減速停止工程に移行する仮の切替時刻を算出し、予備減速工程から減速停止工程に移行する際には前記切替時刻に所定の遅延時間を加えた時刻に減速停止工程に移行する予備減速工程のステップS105を行っている。速度制御のステップS111を行なっていないときは位置制御のステップS110を行なう制御を行っている。
【0059】
第1トルク推移線41と第3トルク推移線43との全工程のトルクの絶対値の積算平均を比べると第3トルク推移線43の方が15%ほど小さくなっている。また予備減速工程のステップS105を行なうとき定速工程のステップS108の方法で動作させた場合よりも動作時間は長くなる。しかし、第3トルク推移線43における動作時間の遅れは全動作における2.3%と小さい。
【0060】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、従来の制御の定速工程のステップS108では、一定速度を維持するために粘性摩擦に逆らうための駆動力をモーター20aで発生させ続ける必要があった。それに対して予備減速工程のステップS105では、粘性摩擦に逆らうための駆動力を少なくするように予備減速指令速度を予備減速推移演算工程のステップS102で生成してその指令を基に制御を行っている。従って、余分な駆動力の発生を抑えた低エネルギーでロボット10を駆動できるため、ロボット10を動作させるためのエネルギーも考慮した全体としての生産性を向上させることが可能となる。
【0061】
(2)本実施形態によれば、予備減速工程のステップS105においても可動部12の動作を制御している。変形例の1つとして、予備減速工程のステップS105の間に制御を一切行わずにモーター20aのトルクを0にしてしまい、可動部12の慣性のみで動作させる方法が考えられる。しかし、本実施形態では図示しなかったがロボット10の可動部12には、別の可動部が直列に配置されていることが多く、別の可動部が動いた際にその反力や慣性力を外力として受ける。このような外力を受けた場合には、トルクを0にする方法を用いた場合は指令から動作が大きくずれてしまいロボットが予期せぬ動きをするという問題がある。本実施形態では予備減速工程のステップS105で速度制御を行うことで動作中の可動部12の動きを指令に追従させている。従って、このような外力に対してもロバストな制御が行うことができる。
【0062】
(3)本実施形態によれば、予備減速推移演算工程のステップS102において演算した予備減速指令速度と可動部の速度が一致した時点から、予備減速指令速度を基に速度制御を行っている。また、予備減速工程から減速停止工程に移行する仮の切替時刻を算出し、予備減速工程から減速停止工程に移行する際には切替時刻に所定の遅延時間を加えた時刻を切替時刻に再設定している。そして、再設定した切替時刻にて減速停止工程に移行する予備減速工程のステップS105を行っている。これにより、位置精度良く可動部12を停止させることができる。
【0063】
速度制御への切り替え判定のステップS113から速度制御のS111に移行するときには、実際の速度推移線51の速度と指令速度推移線50の速度が一致するかを判定している。そして、速度が一致する場合には速度制御のステップS111に移行している。ステップS113からステップS111に移行するときには、速度を急激に変化させることなく可動部12の動作を制御している。このステップでは速度を急激に変化させない為、制御切替時のロボットの振動を抑制できるため精度良く動作させることができる。さらにトルクの急激な変化がなくなったことによりモーター20a等の駆動要素の損耗が少なくなる為、部品の長寿命化ができる。
【0064】
以上述べたように、本実施形態にかかるロボット駆動方法によればそこで回生エネルギーの発生自体を抑制しつつ、外力やロボットの状態変化に対して強く、精度よく停止する動作を行なわせることができる。
【0065】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良等を加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0066】
(変形例1)
上記実施形態1及び実施形態2では、加速工程のステップS104と予備減速工程のステップS105と減速停止工程のステップS106を順に行なうものとして説明したが、この構成に限定するものではなく、途中に別の工程を設けても良い。以下、変形例1にかかるロボット駆動方法について説明する。尚、実施形態1及び実施形態2と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0067】
図12は、可動部の動作工程を示すフローチャートである。図13は、加速工程、定速工程、予備減速工程、減速停止工程を行う方法における可動部の角速度の推移を示す図である。変形例1では、可動部12を一定の速度で移動させる定速工程のステップS108を加速工程のステップS104と予備減速工程のステップS105との間で行っている。そして、定速工程のステップS108における位置及び速度の推移である定速指令速度を演算する定速推移演算工程のステップS109を加速推移演算工程のステップS101と予備減速推移演算工程のステップS102の間で行っている。
【0068】
図14は、可動部を駆動するトルクの推移を示す図である。図14において、第1トルク推移線41は、加速工程のステップS104と定速工程のステップS108と減速停止工程のステップS106を行ない、総ての工程で位置制御を行った場合のトルクの推移を示す。第4トルク推移線44は、加速工程のステップS104と定速工程のステップS108と予備減速工程のステップS105と減速停止工程のステップS106を行い、予備減速工程のステップS105の一部で速度制御を行ないそれ以外の部分で位置制御を行なった場合のトルクの推移を示す。
【0069】
第1トルク推移線41と第4トルク推移線44との全工程のトルクの絶対値の積算平均を比べると予備減速工程のステップS105を行なった第4トルク推移線44の方が9%ほど小さくなっている。また予備減速工程のステップS105を行なうことで、定速工程ステップS108で動作させた場合よりも動作時間は長くなっている。しかしこのときの動作時間の遅れは全動作における0.6%と小さい。
【0070】
以上述べたように、本変形例にかかるロボット駆動方法によれば、可動部を目標位置に向けて一定速で動作させる定速工程をさらに備えている。これにより高速を維持して動作する時間が長くなる。従って、目標位置に到達するまでの時間を短縮することができる。その結果、動作時間の遅れを小さくすることができるため、回生エネルギーの発生を抑えつつ、動作時間への影響の少ない駆動を行なうことができる。
【符号の説明】
【0071】
10…ロボット、11…本体部、12…可動部、20a…動力発生部としてのモーター、20b…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、前記本体部に対して移動可能に構成されたな可動部と、前記可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、前記動力発生部を制御する制御部とを備えるロボット駆動方法であって、
所定の目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を目標位置に向けて加速させる加速工程と、
前記目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を減速させて、前記可動部を前記目標位置に停止させる減速停止工程と、
前記減速停止工程の前に行われ、前記可動部を一定の速度に維持するよりも小さい前記動力にて移動する予備減速の制御を行う予備減速工程と、
前記予備減速工程における位置及び速度の推移を基に前記予備減速工程の予備減速指令速度を演算する予備減速推移演算工程と、を有し、
前記予備減速工程の少なくとも一部では、前記予備減速指令速度を基に速度制御を行なうことを特徴とするロボット駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット駆動方法であって、
前記加速工程から前記減速停止工程の各工程において速度制御を行なっていない際には位置制御を行なうことを特徴とするロボット駆動方法。
【請求項3】
請求項2に記載のロボット駆動方法であって、
前記予備減速指令速度と前記可動部の速度とが等しくなる時から、前記予備減速指令速度を基に速度制御を行なうことを特徴とするロボット駆動方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のロボット駆動方法であって、
前記予備減速推移演算工程では前記予備減速工程から前記減速停止工程に移行する仮の切替時刻を算出し、前記予備減速工程から前記減速停止工程に移行する際には前記切替時刻に所定の遅延時間を加えた時刻に移行することを特徴とするロボット駆動方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のロボット駆動方法であって、
前記目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を前記目標位置に向けて一定速で動作させる定速工程と、前記定速工程における位置及び速度の推移を基に前記定速工程の定速指令速度を演算する定速推移演算工程とを、さらに備えたことを特徴とするロボット駆動方法。
【請求項6】
本体部と、前記本体部に対して移動可能に構成されたな可動部と、前記可動部を移動させるための動力を発生する動力発生部と、前記動力発生部を制御する制御部とを備えるロボットであって、
前記制御部は、所定の目標位置に向かう方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を目標位置に向けて加速を行う際に、位置及び速度の推移を基に加速指令速度を演算する加速推移演算部と、
前記目標位置に向かう方向とは逆方向の駆動力を前記動力発生部に発生させて、前記可動部を減速させて、前記可動部を前記目標位置に停止させる際の、位置及び速度の推移を基に減速停止の指令速度を演算する減速推移演算部と、
前記可動部を一定の速度に維持するよりも小さい前記動力にて前記可動部を移動する予備減速の制御を行う際の指令速度である予備減速指令速度を位置及び速度の推移を基に演算する予備減速推移演算部と、を有し、
予備減速をする際の少なくとも一部で前記予備減速指令速度を用いて速度制御を行なう速度制御演算部を備えることを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−185604(P2012−185604A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47278(P2011−47278)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】